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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1328873
審判番号 不服2015-16892  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-14 
確定日 2017-06-07 
事件の表示 特願2013- 81293「ナイオベート誘電体組成物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月14日出願公開、特開2014-144904〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成25年4月9日(パリ条約による優先権主張 2013年1月29日 韓国(KR))の出願であって、平成26年9月25日付けの拒絶理由が通知され、平成26年12月25日に手続補正がされたが、平成27年5月7日に拒絶査定がされ、この査定に対して同年9月14日に不服審判が請求されると同時に手続補正がされたものである。

第2.本願発明の認定

本願の請求項1係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年9月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認められる。

「カリウム化合物、カルシウム化合物、ニオビウム酸化物及びストロンチウム化合物を混合及びか焼して、下記化学式1で表される誘電体組成物を製造するステップ;
KCa_(2(1-x))Sr_(2x)Nb_(3)O_(10) (化学式1)
(前記式中、xは、0<x≦0.8である)
前記化学式1で表される誘電体組成物を酸性溶液に攪拌してK+イオンをH+イオンでカチオン置換させて、下記化学式2で表される誘電体組成物を製造するステップ;及び
HCa_(2(1-x))Sr_(2x)Nb_(3)O_(10) (化学式2)
(前記式中、xは、0<x≦0.8である)
前記化学式2で表される誘電体組成物を水酸化物溶液で攪拌して、下記化学式3で表されるナノシート型誘電体組成物を製造するステップ;を含むナイオベート誘電体組成物の製造方法。
Ca_(2(1-x))Sr_(2x)Nb_(3)O_(10) (化学式3)
(前記式中、xは、0<x≦0.8である)」

第3.原査定の理由

原審でした拒絶査定の理由の一つは、
1:Osada.M,"New Dielectric Nanomaterials Fabricated from
NanosheetTechnique",ECS Transactions,2012年,
45(3, Dielectrics for Nanosystems 5),P.3-8
(以下、「引用例1」という。)、
2:国際公開第2012/050007号(以下、「引用例2」という。)
を引用し、
「本願発明は、その(優先権の基礎とされた先の)出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その(優先権の基礎とされた先の)出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものである。

第4.引用例の記載事項

引用例1

摘示1-1(3頁「要約」1?5行)
We present a novel procedure for fabricating high-k nanodielectrics by using of perovskite nanosheet (Ca_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10)) as a building block. We synthesized Ca_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10) nanosheets by delaminating layered perovskites (KCa_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10)), and fabricated multilayer nanofilms on atomically flat SrRuO_(3) and Pt substrates by Langmuir-Blodgett method.
当審訳:
ペロブスカイトナノシート(Ca_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10))を構成ブロックとして用いて高-kナノ誘電体を構築する新規手順を提供する。Ca_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10)ナノシートを層状ペロブスカイト(KCa_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10))を剥離することにより作製し、原子的に平坦なSrRuO_(3)及びPtの基板上に、ラングミュア-ブロッジェット法により、ナノフィルムの多層を構築した。

摘示1-2(4頁「実験」の欄1?10行)
Perovskite nanosheets (Ca_(2)Nb_(3)O_(10),Sr_(2)Nb_(3)O_(10)) with a lateral dimension of 5-10μ m were prepared by delaminating layered perovskites according to previously described procedures (11). The starting materials (KCa_(2)Nb_(3)O_(10),KSr_(2)Nb_(3)O_(10)), prepared by a solidstate reaction, were converted into their protonic forms (HCa_(2)Nb_(3)O_(10)・H_(2)O,HSr_(2)Nb_(3)O_(10)・H_(2)O) in HNO_(3) solution. Colloidal suspensions of perovskite nanosheets were synthesized by delaminating protonic forms with tetrabutylammonium hydroxide solution. This exfoliation process produced the colloidal suspension of monodispersed and unilamellar perovskite nanosheets.
We approached the preparation of multilayer films by the layer-by-layer assembly involving the Langmuir-Blodgett (LB) process (Fig. 2) (12). Atomically flat SrRuO_(3) or Pt substrates were used as a substrate.
当審訳:
5から10μmの側面サイズを有するペロブスカイトナノシート(Ca_(2)Nb_(3)O_(10),Sr_(2)Nb_(3)O_(10))は、既述の手順(11)にしたがって、層状ペロブスカイトの剥離により調製された。固相合成により調製された出発物質(KCa_(2)Nb_(3)O_(10),KSr_(2)Nb_(3)O_(10))は、HNO_(3)溶液中でプロトン型(HCa_(2)Nb_(3)O_(10)・H_(2)O,HSr_(2)Nb_(3)O_(10)・H_(2)O)に転換された。ペロブスカイトナノシートのコロイド懸濁液は、プロトン型をテトラブチルアンモニウム水酸化物溶液で剥離させて合成した。この剥離工程により単分散かつ単層のペロブスカイトナノシートのコロイド懸濁液が形成された。
多層フィルムはラングミュア-ブロッジェット法(図2)を含むレイヤーバイレイヤー手法により調製した。原子的に平坦なSrRuO_(3)及びPtが基板として用いられた。

摘示1-3(5頁「結果と考察」の欄10?14行)
Electron energy loss spectroscopy and HX-PES revealed no detectable interdiffusion and strains at the interface between the layers and substrate. We also note that such a superior interface property is not specific to (Ca_(2)Nb_(3)O_(10))_(n)/SrRuO_(3), but also achieved in the similarly fabricated (Ca_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10))_(10)/SrRuO_(3) and (Ca_(2)Nb_(3)O_(10))_(n)/Pt with different thicknesses.
当審訳:
電子エネルギー損失分光法及びHX-PESは、層と基板との間の界面で検出可能な相互拡散及び歪みを発見しなかった。このような優れた界面特性は、(Ca_(2)Nb_(3)O_(10))_(n)/SrRuO_(3)に限られるわけではなく、同様に構築された(Ca_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10))_(10)/SrRuO_(3)及び異なる厚さの(Ca_(2)Nb_(3)O_(10))_(n)/Ptについても同様に達成されたことが注目される。

摘示1-4(6頁7?9行)
Such high-k property is not specific to Ca_(2)Nb_(3)O_(10) and Sr_(2)Nb_(3)O_(10 )nanosheets; a simultaneous improvement of ε_(r )and size-effect-free characteristic are also achieved in similarly fabricated Ca_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10) nanosheets (x = 0.5, 1, 1.5, 2).
当審訳:
このような高-k特性はCa_(2)Nb_(3)O_(10)及びSr_(2)Nb_(3)O_(10)ナノシートに特異的なものではない;ε_(r)とサイズ効果のない特性を同時に改善することは、同様に構築されたCa_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10)ナノシート(x=0.5,1,1.5,2)においても達成された。

引用例2

摘示2-1([0086][0087])
本実施例においては、第1及び第2の層状ペロブスカイト酸化物KCa_(2)Nb_(3)O_(10)、KSr_(2)Nb_(3)O_(10)を出発原料に、第1及び第2のペロブスカイトナノシートCa_(2)Nb_(3)O_(10)、Sr_(2)Nb_(3)O_(10)を作製し、図1に示したように、下部電極基板である原子平坦性エピタキシャルSrRuO_(3)基板(1)上に、LB法によりペロブスカイトナノシート(2)、(2’)からなる超格子構造を以下のように作製した。
第1及び第2の層状ペロブスカイト酸化物KCa_(2)Nb_(3)O_(10) 、KSr_(2)Nb_(3)O_(10)は、炭酸カリウム、炭酸カルシウム(あるいは炭酸ストロンチウム)、および酸化ニオブをK:Ca(Sr):Nb比にして1.1:2:3の割合に混合し、1473Kで12時間焼成して得られたものである。これらの粉体夫々5gを室温にて5規定の硝酸溶液200cm^(3)中で酸処理を行ない、第1及び第2の水素交換型層状ペロブスカイト酸化物を得、次いで、これらの水素交換型層状ペロブスカイト酸化物夫々0.4gにテトラブチルアンモニウム水酸化物(以下、TBAOHと記載する)水溶液100cm^(3)を加えて室温にて7日間撹拌、反応させて、夫々組成式Ca_(2)Nb_(3)O_(10) 、Sr_(2)Nb_(3)O_(10)で表される厚さ1.5nm、横サイズ500nm?5μmの長方形状のナノシート(2)、(2’)が分散した乳白色状の第1及び第2のゾル溶液を作製した。

第5.引用発明の認定

引用例1には、高-kナノ誘電体ペロブスカイトナノシート(Ca_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10))を、層状ペロブスカイト(KCa_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10))を剥離することにより、SrRuO_(3)及びPtの基板上に構築したこと(摘示1-1)が記載されており、その具体的な手順について、x=0(Ca_(2)Nb_(3)O_(10))の場合を例に、固相反応により出発物質として層状ペロブスカイト(KCa_(2)Nb_(3)O_(10))を調整し、HNO_(3)溶液中でプロトン型(HCa_(2)Nb_(3)O_(10)・H_(2)O)に転換し、これをテトラブチルアンモニウム水酸化物溶液を用いて層間剥離することによってペロブスカイトナノシートの単分散単層コロイド懸濁液を形成し、これを剥離して基板上に構築したこと(摘示1-2)が記載されている。そして、同様の手順により、x=0.5,1,1.5,2のナノシートも構築されたこと(摘示1-4)が記載されている。
してみると、引用例1には、x=1の場合に相当する高-kナノ誘電体CaSrNb_(3)O_(10)ナノシートの製造方法として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる

「固相反応により層状ペロブスカイト(KCaSrNb_(3)O_(10))を調整する工程、
前記層状ペロブスカイトをHNO_(3)溶液中でプロトン型(HCaSrNb_(3)O_(10)・H_(2)O)に転換する工程、
前記プロトン型をテトラブチルアンモニウム水酸化物溶液を用いて層間剥離することによってペロブスカイトナノシート(CaSrNb_(3)O_(10))の単分散単層コロイド懸濁液を形成する工程を含む、
高-kナノ誘電体CaSrNb_(3)O_(10)の製造方法。」

第6.発明の対比

本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「層状ペロブスカイト(KCaSrNb_(3)O_(10))」「プロトン型(HCaSrNb_(3)O_(10)・H_(2)O)」「ペロブスカイトナノシート(CaSrNb_(3)O_(10))」は、それぞれ本願発明の「KCa_(2(1-x))Sr_(2x)Nb_(3)O_(10)(化学式1)で表される誘電体組成物」「HCa_(2(1-x))Sr_(2x)Nb_(3)O_(10)(化学式2)で表される誘電体組成物」「Ca_(2(1-x))Sr_(2x)Nb_(3)O_(10)(化学式3)で表されるナノシート型誘電体組成物」におけるx=0.5の場合に相当する。
また、引用発明の「HNO_(3)溶液」「プロトン型に転換」「テトラブチルアンモニウム水酸化物溶液」「高-kナノ誘電体CaSrNb_(3)O_(10)」は、それぞれ本願発明の「酸性溶液」「K+イオンをH+イオンでカチオン置換」「水酸化物溶液」「ナイオベート誘電体組成物」に相当し、引用発明において、出発物質をプロトン型に転換するために、HNO_(3)溶液で「撹拌」すること、プロトン型を層間剥離するためにテトラブチルアンモニウム水酸化物溶液で「撹拌」することは、当業者に自明のことと認められる。

してみると、本願発明のうち、
「下記化学式1で表される誘電体組成物を製造するステップ;
KCa_(2(1-x))Sr_(2x)Nb_(3)O_(10) (化学式1)
(前記式中、xは、0<x≦0.8である)
前記化学式1で表される誘電体組成物を酸性溶液に攪拌してK+イオンをH+イオンでカチオン置換させて、下記化学式2で表される誘電体組成物を製造するステップ;及び
HCa_(2(1-x))Sr_(2x)Nb_(3)O_(10) (化学式2)
(前記式中、xは、0<x≦0.8である)
前記化学式2で表される誘電体組成物を水酸化物溶液で攪拌して、下記化学式3で表されるナノシート型誘電体組成物を製造するステップ;を含むナイオベート誘電体組成物の製造方法。
Ca_(2(1-x))Sr_(2x)Nb_(3)O_(10) (化学式3)
(前記式中、xは、0<x≦0.8である)」
の点は引用発明と一致し、次の点で両者は相違する。

相違点:本願発明は、「カリウム化合物、カルシウム化合物、ニオビウム酸化物及びストロンチウム化合物を混合及びか焼して」、KCa_(2(1-x))Sr_(2x)Nb_(3)O_(10)(化学式1)で表される誘電体組成物を製造するのに対し、引用発明は、層状ペロブスカイト(KCaSrNb_(3)O_(10))を調整するための固相反応の詳細が不明な点。

第7.相違点の判断

引用例2には、CaとSrの一方のみを含む層状ペロブスカイト酸化物KCa_(2)Nb_(3)O_(10)(又はKSr_(2)Nb_(3)O_(10))が、炭酸カリウム、炭酸カルシウム(又は炭酸ストロンチウム)及び酸化ニオブを混合し1473Kで12時間焼成して得られること(摘示2-1)が記載されており、これは、引用例1に記載されたx=0(又はx=2)の層状ペロブスカイト(KCa_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10))が、カリウム化合物、カルシウム化合物(又はストロンチウム化合物)及びニオビウム酸化物を混合及びか焼することで固相反応により生成することを開示したものと認められる。
してみると、CaとSrの両方を含むx=1の層状ペロブスカイト(KCaSrNb_(3)O_(10))を調整するための固相反応を、カリウム化合物、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物及びニオビウム酸化物の混合及びか焼によりおこなうこと、すなわち、引用発明において上記相違点を解消することは、引用例2の上記記載から当業者が容易に想到し得た原料と処理条件の選択といえる。
したがって、本願発明は、引用例1,2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は審判請求書で、引用文献1,2には、一つの層にCa及びSrを含む誘電体組成物を製造する方法について記載されていないと主張しているが、引用例1には、層と基板との界面特性について、1つの層にCaのみが含まれる(Ca_(2)Nb_(3)O_(10))_(n)と同様の優れた界面特性が、1つの層にCa及びSrを含む(Ca_(2-x)Sr_(x)Nb_(3)O_(10))_(10)の場合にも得られたこと(摘示1-3)が記載されているから、上記主張は採用できない。

第8.むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-28 
結審通知日 2017-01-10 
審決日 2017-01-24 
出願番号 特願2013-81293(P2013-81293)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 瀧口 博史
大橋 賢一
発明の名称 ナイオベート誘電体組成物の製造方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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