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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1328882
審判番号 不服2015-22245  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-17 
確定日 2017-06-07 
事件の表示 特願2010-236421「有機発光ディスプレイ装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年6月23日出願公開,特開2011-124219〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2010-236421号(優先権主張 平成21年12月10日 大韓民国,以下「本件出願」という。)は,平成22年10月21日の特許出願であって,その手続の概要は,以下のとおりである。
平成26年 6月25日付け:拒絶理由通知書(同年7月1日発送)
平成26年 9月30日差出:意見書
平成26年 9月30日差出:手続補正書
平成26年11月12日付け:拒絶理由通知書(同年同月18日発送)
(以下,この拒絶理由通知書による拒絶の理由を,「原査定の拒絶の理由」という。)
平成27年 3月 5日差出:意見書
平成27年 3月 5日差出:手続補正書
平成27年 8月 7日付け:拒絶査定(同年同月18日送達)
(以下「原査定」という。)
平成27年12月17日差出:審判請求書
平成27年12月17日差出:手続補正書
(以下,この手続補正書による補正を「本件補正」という。)

第2 補正の却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を,「本願発明」という。)。
「 基板と,
前記基板上に配されるディスプレイ部と,
前記ディスプレイ部の上部に配される封止基板と,
前記基板と前記封止基板とを接合させるシーラントと,
パッシベーション膜,前記封止基板及び前記シーラントによって形成される空間の内側壁面全体に形成されるゲッターと,を備え,
前記ゲッターは,前記パッシベーション膜上に形成され,
前記空間は前記ディスプレイ部を含まない有機発光ディスプレイ装置。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を,「本件補正後発明」という。)。なお,下線は当合議体が付したものであり,補正箇所を示す。
「 基板と,
前記基板上に配されるディスプレイ部と,
前記ディスプレイ部の上部に配される封止基板と,
前記基板と前記封止基板とを接合させるシーラントと,
前記ディスプレイ部の全体を覆うように形成されるパッシベーション膜と,
前記パッシベーション膜,前記封止基板及び前記シーラントによって形成される空間の内側壁面全体に形成されるゲッターと,を備え,
前記ゲッターは,前記パッシベーション膜上に形成され,
前記空間は前記ディスプレイ部を含まず,
前記パッシベーション膜によって前記ゲッターと前記ディスプレイ部は接しない有機発光ディスプレイ装置。」

(3) 本件補正について
本件補正は,本願発明の「パッシベーション膜」,「ディスプレイ部」及び「ゲッター」の構成(位置関係)を,本件出願の願書に最初に添付した明細書の段落【0010】に記載された事項及び【図3】から看取される事項,並びに,技術常識に基づいて,「前記ディスプレイ部の全体を覆うように形成されるパッシベーション膜」及び「前記パッシベーション膜によって前記ゲッターと前記ディスプレイ部は接しない」に限定するものである。
また,本願発明と本件補正後発明の,産業上の利用分野及び解決しようとする課題は,「酸素または水分のような外部の不純物の浸透が防止された有機発光ディスプレイ装置…に関する。」(段落【0001】)及び「酸素または水分のような外部の不純物の浸透が防止された有機発光ディスプレイ装置…を提供することである。」(段落【0006】)という点において,同一である。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすとともに,同条5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで,本件補正後発明が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反しないか(特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 独立特許要件について
(1) 引用例の記載
本件出願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された刊行物である,特開2002-8852号公報(【公開日】平成14年1月11日,【発明の名称】有機エレクトロルミネッセント素子,【出願番号】特願2000-184009号,【出願日】平成12年6月20日,【出願人】大日本印刷株式会社,以下「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に利用した記載箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 基体と,この基体表面上に形成された第1電極層と,この第1電極層上に形成された有機エレクトロルミネッセント層と,この有機エレクトロルミネッセント層を前記第1電極層と挟むように上記有機エレクトロルミネッセント層上に形成された第2電極層と,前記有機エレクトロルミネッセント層を密封するように形成された密封部材とを少なくとも有し,前記密封部材により密封された空間内のいずれかの位置に,アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を有する脱酸素脱水部が形成されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
…(省略)…
【請求項4】 前記脱酸素脱水部が,前記有機エレクトロルミネッセント層を介して基体と反対側の位置に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載のエレクトロルミネッセント素子。
…(省略)…
【請求項9】 前記脱酸素脱水部が,前記第2電極層上および前記密封部材内面に形成されていることを特徴とする請求項4記載のエレクトロルミネッセント素子。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,各種情報産業機器のディスプレーや発光素子等に好適に用いられる有機エレクトロルミネッセント素子に関し,特に長期にわたって安定した発光特性を維持する有機エレクトロルミネッセント素子に関するものである。」

ウ 「【0002】
【従来の技術】近年,大きな占有面積と大きな重量を有するCRT(Cathode-Ray-Tube)ディスプレイに代わるディスプレイとして,フラットパネルディスプレイ(FPD)が実用化されている。そして,FPDとしては,例えば,液晶ディスプレイ(LCD)が各種携帯型電子機器やノート型パソコンや小型テレビのディスプレイとして一般に広く普及しているとともに,プラズマディスプレイパネル(PDP)等のLCD以外のFPDも実用化されている。
【0003】そのようなFPDの一つとして,エレクトロルミネッセント(以下,ELと省略する場合がある。)ディスプレイがあり,ELディスプレイは,比較的古くから開発が進められているが,フルカラー化や輝度や寿命などの点に課題があり,未だあまり普及していない。
…(省略)…
【0005】このような有機EL素子は,連続または不連続に一定期間駆動した場合,発光輝度,発光効率および発光の均一性等の発光特性が初期の場合に比べ著しく低下することが知られている。このような発光特性の劣化の原因としては,有機EL素子内に侵入した酸素による電極の酸化,駆動時の発熱による有機材料の酸化分解,また,有機EL素子内に侵入した空気中に水分による電極の酸化,有機物の変性等を挙げることができる。さらに酸素や水分の影響で構造体の界面が剥離したり,駆動時の発熱や駆動時の環境が高温であったこと等が引き金となって,各構成要素の熱膨張率の違いにより構造体の界面で応力が発生し,界面が剥離する等の構造体の機械的劣化等をその原因として挙げることができる。
…(省略)…
【0008】
【本発明が解決しようとする課題】本発明は,上記問題点に鑑みてなされたものであり,単一の部材により脱酸素および脱水を行うことが可能であり,薄膜化等に対しても十分に対応可能な有機EL素子を提供することを主目的とするものである。」

エ 「【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明は,請求項1に記載するように,基体と,この基体表面上に形成された第1電極層と,この第1電極層上に形成された有機EL層と,この有機EL層を上記第1電極層と挟むように上記有機EL層上に形成された第2電極層と,上記有機EL層を密封するように形成された密封部材とを少なくとも有し,上記密封部材により密封された空間内のいずれかの位置に,アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を有する脱酸素脱水部が形成されていることを特徴とする有機EL素子を提供する。
…(省略)…
【0014】上記請求項4に記載する場合において,脱酸素脱水部を形成する部位としては,請求項5に記載するように,上記第2電極層上,もしくは,請求項8に記載するように,上記密封部材内面であることが好ましい。上述したように有機EL層を介して基体と反対側の位置に脱酸素脱水部を形成する場合は,上記第2電極層上および密封部材内面が主たる形成部位となるからである。さらにこの場合は,請求項9に記載するように,上記脱酸素脱水部が,上記第2電極層上および上記密封部材内面に形成されていてもよい。両方に形成することにより,さらに脱酸素および脱水の効果を向上させることができるからである。」

オ 「【0019】(脱酸素脱水部)本発明の特徴は,上述したように,有機EL層を密封するように形成された空間内のいずれかの位置に脱酸素脱水部を形成したところにあり,この脱酸素脱水部は,アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を有するものである。このアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属は,酸素および水の両者と反応するものであるので,アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を有する脱酸素脱水部を形成することにより,酸素および水の両者を密封部材により密封された空間内から除去することが可能となる。
【0020】本発明に用いることができるアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属としては,これに属する金属,すなわち,Li,Na,K,Rb,Cs,Fr,Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra等を挙げることができるが,中でも反応性や取扱性等を考慮すると,Li,Na,K,Rb,Cs,Ca,Sr,およびBaからなる群から選択される少なくとも1種の金属が好ましい。
【0021】本発明に用いられる脱酸素脱水部は,上記アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を有するものであれば特に限定されるものでなく,アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属以外のもの,例えばアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属が表面に蒸着された多孔質体等が含まれたものであってもよいが,一般的には,アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のみで構成されたものが用いられる。
【0022】このような脱酸素脱水部の形成方法としては,例えば,アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の微粒子等を,酸素および水分子を通過させることができる程度の微細な孔を有するフィルム内に充填して取り付ける方法や,多孔質担体表面にアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を真空蒸着等により付着させ,これを接着させる方法等,密封部材により密封された空間内に上記脱酸素脱水部を配置することができる方法であれば特に限定されるものではない。しかしながら,近年の有機EL素子に対する薄型化,フィルム化等の要請に対応することが可能である点等を考慮すると,アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を密封部材により密封された空間内のいずれかの位置に真空蒸着させる方法により形成する方法が好ましい。このように真空蒸着させることにより,脱酸素脱水部の薄膜化が可能となり,有機EL素子を薄膜化もしくはフィルム化する場合においても,脱酸素脱水部の形成に際して問題が生じることがないからである。」

カ 「【0028】さらに,脱酸素脱水部を第2電極層上に形成する場合は,図3に示すように,第2電極層4上に絶縁層8を形成し,この絶縁層8上に脱酸素脱水部7を形成するようにしてもよい。このように絶縁層8を形成するようにすれば,ショート等の不具合が生じる可能性が低いことから,脱酸素脱水部7の形成位置が絶縁層上であれば特に限定する必要がなくなる。したがって,脱酸素脱水部の形成位置の自由度が大きくなることから,有機EL素子自体の設計の自由度が向上するといった利点がある。また絶縁層を広範囲に設けるようにすれば,脱酸素脱水部の表面積を広く形成することが可能となるので,脱酸素脱水部の脱酸素および脱水の能力を向上させることが可能となる。」
(当合議体注:図3は,以下の図である。)


キ 「【0029】上記絶縁層に用いることができる材料としては,絶縁性を有するものであれば特に限定されるものでなく,具体的には,例えば,SiO,SiO_(2),GeO,GeO_(2),Si_(3)N_(4),Al_(2)O_(3),Al_(2)O_(3)+SiO_(2),CeF_(3),CeO_(3),ZnS,Ta_(2)O_(5),Ta_(2)O_(3)+SiO,TiO_(2),HfO_(2),La_(2)O_(3),Nb_(2)O_(5),Y_(2)O_(3),ZrO_(2),PZT,BaTiO_(3),PbTiO_(3),LiF,NaF,KF,RbF,BeF_(2),MgF_(2),CaF_(2),SrF_(2),BaF_(2),パリレン,ポリカーボネート,ポリエステル,ポリアミド,ポリイミド,エポキシ樹脂,ウレタン樹脂,シリコン樹脂,ダイヤモンド,酸化ナトリウム(Na_(2)O),酸化カリウム(K_(2)O),酸化カルシウム(CaO),酸化バリウム(BaO),酸化マグネシウム(MgO),硫酸リチウム(Li_(2)SO_(4)),硫酸ナトリウム(Na_(2)SO_(4)),硫酸カルシウム(CaSO_(4)),硫酸マグネシウム(MgSO_(4)),硫酸コバルト(CoSO_(4)),硫酸ガリウム(Ga_(2)(SO_(4))_(3)),硫酸チタン(Ti(SO_(4))_(2)),硫酸ニッケル(NiSO_(4)),塩化カルシウム(CaCl_(2)),塩化マグネシウム(MgCl_(2)),塩化ストロンチウム(SrCl_(2)),塩化イットリウム(YCl_(3)),塩化銅(CuCl_(2)),ふっ化セシウム(CsF),ふっ化タンタル(TaF_(5)),ふっ化ニオブ(NbF_(5)),臭化カルシウム(CaBr_(2)),臭化セリウム(CeBr_(3)),臭化セレン(SeBr_(4)),臭化バナジウム(VBr_(2)),臭化マグネシウム(MgBr_(2)),よう化バリウム(BaI_(2)),よう化マグネシウム(MgI_(2)),過塩素酸バリウム(Ba(ClO_(4))_(2)),過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO_(4))_(2))等が挙げられる。これらは,単独あるいは複合膜として使用できる。
【0030】このような絶縁層の形成方法は,特に限定されるものではなく,用いる材質に応じて,湿式塗布法や蒸着法等種々の方法により形成することができる。」

(2) 引用発明
引用例1には,請求項9に係る発明として,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 基体と,この基体表面上に形成された第1電極層と,この第1電極層上に形成された有機エレクトロルミネッセント層と,この有機エレクトロルミネッセント層を前記第1電極層と挟むように上記有機エレクトロルミネッセント層上に形成された第2電極層と,前記有機エレクトロルミネッセント層を密封するように形成された密封部材とを少なくとも有し,前記密封部材により密封された空間内のいずれかの位置に,アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を有する脱酸素脱水部が形成され,
前記脱酸素脱水部が,前記有機エレクトロルミネッセント層を介して基体と反対側の位置に形成され,
前記脱酸素脱水部が,前記第2電極層上および前記密封部材内面に形成されている,
有機エレクトロルミネッセント素子。」

(3) 対比
ア 基板
引用発明の「有機エレクトロルミネッセント素子」は,「基体と,この基体表面上に形成された第1電極層と,この第1電極層上に形成された有機エレクトロルミネッセント層と,この有機エレクトロルミネッセント層を前記第1電極層と挟むように上記有機エレクトロルミネッセント層上に形成された第2電極層」を具備する。ここで,引用発明の「基体」は,「第1電極層」,「有機エレクトロルミネッセント層」及び「第2電極層」の基礎となるものであり,また,層の基礎となる形状であるから,板状のものである。
したがって,引用発明の「基体」は,本件補正後発明の「基板」に相当する。

イ ゲッター
引用発明の「有機エレクトロルミネッセント素子」は,「アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を有する脱酸素脱水部」を具備する。
また,本件補正後発明の「ゲッター」は,「ゲッターとは,真空装置内に残っているガスを吸収するか,またはそのガスとの化合物を作る物質を称す。」(段落【0036】)とされ,具体的には,アルカリ土類金属に属する物質であるBa等が例示されている(段落【0037】)。
したがって,引用発明の「脱酸素脱水部」と,本件補正後発明の「ゲッター」は,「ゲッター手段」の点で共通する。

ウ 有機発光ディスプレイ装置
引用発明全体の構成と本件補正後発明の全体の構成からみて,引用発明の「有機エレクトロルミネッセント素子」と本件補正後発明の「有機発光ディスプレイ装置」は,「有機発光装置」の点で共通する。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成において一致する。
「基板と,
ゲッター手段とを備える,
有機発光装置。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点で,(一応)相違する。
(相違点1)
本件補正後発明は,「基板上に配されるディスプレイ部」を具備するのに対して,引用発明は,基体上に形成されるものが,ディスプレイ部であるとは特定されていない点。

(相違点2)
本件補正後発明は,「前記ディスプレイ部の上部に配される封止基板と,前記基板と前記封止基板とを接合させるシーラント」を具備するのに対して,引用発明は,「前記ディスプレイ部の上部に配される封止基板と,前記基板と前記封止基板とを接合させるシーラント」を具備するとは特定されていない点。

(相違点3)
本件補正後発明は,「前記ディスプレイ部の全体を覆うように形成されるパッシベーション膜」を具備するのに対して,引用発明は,「前記ディスプレイ部の全体を覆うように形成されるパッシベーション膜」を具備するとは特定されていない点。

(相違点4)
本件補正後発明は,「前記パッシベーション膜,前記封止基板及び前記シーラントによって形成される空間の内側壁面全体に形成されるゲッター」を具備し,「前記ゲッターは,前記パッシベーション膜上に形成され,前記空間は前記ディスプレイ部を含まず,前記パッシベーション膜によって前記ゲッターと前記ディスプレイ部は接しない」のに対して,引用発明は,「前記パッシベーション膜,前記封止基板及び前記シーラントによって形成される空間の内側壁面全体に形成されるゲッター」を具備するとは特定されておらず,また,「前記ゲッターは,前記パッシベーション膜上に形成され,前記空間は前記ディスプレイ部を含まず,前記パッシベーション膜によって前記ゲッターと前記ディスプレイ部は接しない」とも特定されていない点。

(5) 判断
ア 相違点1について
引用例1の段落【0001】には,発明の属する技術分野として,「本発明は,各種情報産業機器のディスプレーや発光素子等に好適に用いられる有機エレクトロルミネッセント素子…に関するものである。」と記載されている。また,引用例1の段落【0002】及び【0003】には,従来の技術として,「近年,大きな占有面積と大きな重量を有するCRT(Cathode-Ray-Tube)ディスプレイに代わるディスプレイとして,フラットパネルディスプレイ(FPD)が実用化されている。…そのようなFPDの一つとして,エレクトロルミネッセント(以下,ELと省略する場合がある。)ディスプレイがあり,ELディスプレイは,比較的古くから開発が進められているが,フルカラー化や輝度や寿命などの点に課題があり,未だあまり普及していない。」と記載されている。
これら記載からみて,引用発明は,有機エレクトロルミネッセントディスプレイを前提とした発明といえるから,引用発明の「基体表面上に形成された第1電極層と,この第1電極層上に形成された有機エレクトロルミネッセント層と,この有機エレクトロルミネッセント層を前記第1電極層と挟むように上記有機エレクトロルミネッセント層上に形成された第2電極層」(以下「有機EL部」という。)は,当業者からみれば,ディスプレイ部を表すものといえる。あるいは,引用例1の記載に接した当業者において,引用発明の有機EL部をディスプレイ部として具体化することは,当然のことにすぎない。
相違点1は,相違点ではないか,あるいは,相違点1に係る構成は,当業者が当然採用する構成にすぎない。

イ 相違点2について
引用発明は「密封部材」の構成を具備するところ,引用例1の段落【0005】には,従来の技術として,「有機EL素子は,連続または不連続に一定期間駆動した場合,発光輝度,発光効率および発光の均一性等の発光特性が初期の場合に比べ著しく低下することが知られている。このような発光特性の劣化の原因としては,有機EL素子内に侵入した酸素による電極の酸化,駆動時の発熱による有機材料の酸化分解,また,有機EL素子内に侵入した空気中に水分による電極の酸化,有機物の変性等を挙げることができる。」と記載されている。また,引用例1の段落【0008】には,発明が解決しようとする課題として,「本発明は,上記問題点に鑑みてなされたものであり,単一の部材により脱酸素および脱水を行うことが可能であり,薄膜化等に対しても十分に対応可能な有機EL素子を提供することを主目的とするものである。」と記載されている。
これら記載からみて,引用発明の「密封部材」は酸素及び水分が外部から侵入しないようにするための気密封止手段と理解されるところ,高い気密封止性能が得られる手段として,封止基板又は有機EL素子基板に低融点ガラス等からなるシーラントを立設したものを,有機EL素子基板又は封止基板にレーザー等により接合することは,本件出願の優先日時点の当業者における周知慣用技術である(以下「周知慣用技術」という。必要ならば,特表2006-524419号公報の段落【0009】?【0013】等,特開2003-332061号公報の【請求項1】,特開2007-200858号公報の【請求項15】,特開2004-127607号公報の段落【0049】及び【0083】,特開2003-123966号公報の【請求項8】を参照。)。
また,「ディスプレイ部」に関しては,上記アで述べたとおりである。
したがって,引用発明の具体化にともない,周知慣用技術の構成を密封部材として採用することは,高い気密封止性能を得ようとする当業者が当然採用する構成にすぎない。
相違点2に係る構成は,引用発明の具体化にともない当業者が当然採用する構成にすぎない。

ウ 相違点3及び相違点4について
引用発明は,「前記第2電極層上および前記密封部材内面に形成されている」,「アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を有する脱酸素脱水部」の構成を具備するところ,引用例1の段落【0022】には,「近年の有機EL素子に対する薄型化,フィルム化等の要請に対応することが可能である点等を考慮すると,アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を密封部材により密封された空間内のいずれかの位置に真空蒸着させる方法により形成する方法が好ましい。」と記載されている。また,引用例1の段落【0014】及び段落【0028】には,それぞれ「請求項9に記載するように,上記脱酸素脱水部が,上記第2電極層上および上記密封部材内面に形成されていてもよい。両方に形成することにより,さらに脱酸素および脱水の効果を向上させることができるからである。」及び「脱酸素脱水部を第2電極層上に形成する場合は,図3に示すように,第2電極層4上に絶縁層8を形成し,この絶縁層8上に脱酸素脱水部7を形成するようにしてもよい。…また絶縁層を広範囲に設けるようにすれば,脱酸素脱水部の表面積を広く形成することが可能となるので,脱酸素脱水部の脱酸素および脱水の能力を向上させることが可能となる。」と記載されている。
これら記載からみて,引用発明において,有機EL部や基体上の配線等をくまなく覆うように絶縁層を形成した上で,絶縁層及び密封部材内面の全表面に脱酸素脱水部を形成することにより,脱酸素及び脱水の効果を最大限度まで向上させることは,引用例1の記載が示唆するところである。また,当合議体は上記イのとおり判断したところ,例えば,(A)特開2003-217834号公報(以下「周知例1」という。)の段落【0054】及び【0055】には,隔壁130及び第2電極66のそれぞれ端部を含む,アレイ基板100の表面全体を覆うように乾燥剤を配置する構成が記載され,(B)特開2003-217831号公報(以下「周知例2」という。)の段落【0014】には,封止キャップの内面全体に乾燥剤層12及び13を設ける構成が開示され,(C)特開2001-307872号公報(以下「周知例3」という。)の段落【0018】には,封止剤7と同じ高さで枠状に配置された除去剤8の構成が開示されている。
そうしてみると,周知例1?3を心得た当業者が,上記イの周知慣用技術の構成を採用するにともない,有機EL部や基体上の配線等をくまなく覆うように絶縁層を形成した上で,絶縁層,封止基板及びシーラントによって形成される空間の内側壁面全体に脱酸素脱水部を形成することは,引用例1の記載が示唆する範囲内の創意工夫にすぎない。また,このようにしてなるものは,脱酸素脱水部が,絶縁層上に形成され,空間は有機EL部を含まず,絶縁層によって脱酸素脱水部と有機EL部は接しないものとなる。
加えて,絶縁層に関して,引用例1の段落【0028】及び【0029】には,それぞれ「絶縁層8を形成するようにすれば,ショート等の不具合が生じる可能性が低い」及び「上記絶縁層に用いることができる材料としては,…SiO_(2),…Si_(3)N_(4),…ポリイミド,…等が挙げられる。」と記載されている。また,本件補正後発明の「パッシベーション膜」に関して,本件出願の発明の詳細な説明の段落【0032】には,「ディスプレイ部200の上部には,パッシベーション膜420が形成される。前記パッシベーション膜420は,アクリル,ポリイミド,BCB(Benzocyclobutene)のような有機物質で形成されることもあり,SiO_(2),SiN_(x)のような無機物質で形成されることもある。」と記載されている。
そうしてみると,材料の面からみて,引用例1に記載された絶縁層は,本件補正後発明の「パッシベーション層」に相当するものといえる。あるいは,機能的にみても,引用例1に記載された絶縁層は,有機EL部を保護する層といえるものであるから,「パッシベーション層」といえる。
以上のとおりであるから,引用発明において,相違点3及び相違点4に係る構成を採用することは,当業者における,引用例1の記載が示唆する範囲内の創意工夫にすぎない。

(6) 効果について
本件補正後発明の効果に関して,本件出願の発明の詳細な説明の段落【0019】には,「本発明の有機発光ディスプレイ装置及びその製造方法によれば,酸素または水分のような外部の不純物の浸透が防止されうる。」と記載されている。
本件補正後発明の効果は,引用発明が奏する効果にすぎないか,少なくとも,引用発明の記載が示唆する範囲内において,予測可能な効果にすぎない。

(7) 請求人の主張について
請求人は,審判請求書の「(3)拒絶査定に対する意見」において,以下のとおり主張する。
「指摘された引用文献のいずれにおいても,パッシベーション膜とディスプレイ部とゲッターとの関係,すなわちパッシベーション膜によってゲッターとディスプレイ部は接しない構成である,補正後の独立請求項である請求項1における「前記パッシベーション膜によって前記ゲッターと前記ディスプレイ部は接しない」点…については全く言及していません。」
しかしながら,引用例1の段落【0028】及び【0029】等には絶縁層が開示されている。そして,引用発明において上記(5)ウの如く創意工夫してなるものは,絶縁層(「パッシベーション層」に相当)によって脱酸素脱水部と有機EL部が接しない構成となる。
したがって,請求人の主張は採用できない。

(8) 小括
本件補正後発明は,引用例1に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

3 補正却下のまとめ
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものである。
したがって,本件補正は,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)は,前記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,本件出願の優先日前に日本国又は外国において頒布された引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて,本件出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用例1に記載の事項及び引用発明について
引用例1に記載の事項,並びに,引用発明については,前記「第2」2(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,本件補正後発明の「パッシベーション膜」,「ディスプレイ部」及び「ゲッター」の構成(位置関係)について,「前記ディスプレイ部の全体を覆うように形成されるパッシベーション膜」及び「前記パッシベーション膜によって前記ゲッターと前記ディスプレイ部は接しない」という限定を削除したものである。
そうしてみると,本願発明の構成に,さらに前記限定を付加した発明である本件補正後発明が,引用例1に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,本願発明も,同様に,引用例1に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものである。

第4 まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-21 
結審通知日 2017-01-10 
審決日 2017-01-24 
出願番号 特願2010-236421(P2010-236421)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井亀 諭  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 樋口 信宏
多田 達也
発明の名称 有機発光ディスプレイ装置及びその製造方法  
代理人 辻 徹二  
代理人 松永 宣行  
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