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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1328913
審判番号 不服2017-980  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-24 
確定日 2017-06-27 
事件の表示 特願2015-560886「半導体素子用のエピタキシャル基板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月 7日国際公開、WO2016/051935、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年7月22日(国内優先権主張 優先日:平成26年10月3日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年12月16日 審査請求
平成28年 2月22日 拒絶理由通知
平成28年 4月 5日 意見書・手続補正
平成28年 7月 5日 拒絶理由通知
平成28年 9月 7日 意見書
平成28年11月 4日 拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成29年 1月24日 審判請求

第2 原査定の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

●理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項 1,2,6,7
・引用文献等 1-3
出願人は意見書において、引用文献1ないし4のいずれにも、1300cm^(2)V^(-1)s^(-1)以上という大きな電子移動度の半導体素子(HEMT素子)用エピタキシャル基板の実現、および、600mA/mm以上という大きな最大ドレイン電流の半導体素子(HEMT素子)の実現という顕著な作用効果について開示も示唆もされていないから、当業者には引用文献1ないし4に記載された発明を組み合わせる動機付けがなく、本発明は引用文献1ないし4に記載された発明に基づき当業者が容易に発明することができたものではない旨主張している。
上記主張について検討する。引用文献2(0004段落及び0024段落参照)には、AlGaNからなるバリア層を有する高電子移動度トランジスタではAlGaNとGaNとの格子不整合によりAlGaN層厚範囲が狭くなり2次元電子ガスのシートキャリア濃度を高くできないという課題があり、当該課題を解決するため、In組成0.17のInAlNからなる層をバリア層として用いることが記載されており、引用文献1に記載された発明においても2次元電子ガスのシートキャリア濃度を高くすることは当然求められる課題であるから、引用文献1に記載された発明において、引用文献2の記載に基づき、バリア層をIn組成0.17のInAlN層とすることは、当業者が容易になし得たことである。また、引用文献3(0028段落参照)には、窒化物半導体層を成長させる異種基板としてSiCが記載され、さらに基板に0.1°?0.2°のオフアングルを持たせることにより窒化物半導体を結晶性よく成長させることができる旨記載されており、引用文献1に記載された発明においても窒化物半導体層を結晶性よく成長させることは当然求められる課題であるから、引用文献1に記載された発明において、引用文献3の記載に基づき、SiC基板に0.1°?0.2°のオフアングルを持たせることは、当業者が容易になし得たことである。してみると、引用文献1に記載された発明に引用文献2及び3に記載された発明を適用する動機付けがないとする上記出願人の主張を採用することはできない。
そして、その他の点については、上記拒絶理由通知書において検討したとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、上記拒絶理由通知書において引用した引用文献1ないし3に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

・請求項 3,8
・引用文献等 1,3,4
・備考
出願人は意見書において、引用文献1ないし4のいずれにも、1300cm^(2)V^(-1)s^(-1)以上という大きな電子移動度の半導体素子(HEMT素子)用エピタキシャル基板の実現、および、600mA/mm以上という大きな最大ドレイン電流の半導体素子(HEMT素子)の実現という顕著な作用効果について開示も示唆もされていないから、当業者には引用文献1ないし4に記載された発明を組み合わせる動機付けがなく、本発明は引用文献1ないし4に記載された発明に基づき当業者が容易に発明することができたものではない旨主張している。
上記主張について検討する。引用文献4(0025段落ないし0028段落参照)には、AlGaN電子供給層のAl組成比を20%にすることが記載されており、また、引用文献1には電子供給層としてAlGaN層が記載されている。引用文献1には電子供給層として形成されるAlGaN層の組成について記載がないが、当業者であれば、電子供給層について共通の構造及び機能を開示した引用文献4の記載に基づきAl組成比を20%にすることは容易になし得たことである。また、引用文献3(0028段落参照)には、窒化物半導体層を成長させる異種基板としてSiCが記載され、さらに基板に0.1°?0.2°のオフアングルを持たせることにより窒化物半導体を結晶性よく成長させることができる旨記載されており、引用文献1に記載された発明においても窒化物半導体層を結晶性よく成長させることは当然求められる課題であるから、引用文献1に記載された発明において、引用文献3の記載に基づき、SiC基板に0.1°?0.2°のオフアングルを持たせることは、当業者が容易になし得たことである。してみると、引用文献1に記載された発明に引用文献3及び4に記載された発明を適用する動機付けがないとする上記出願人の主張を採用することはできない。
そして、その他の点については、上記拒絶理由通知書において検討したとおりであるから、本願の請求項3及び8に係る発明は、上記拒絶理由通知書において引用した引用文献1、3及び4に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

・請求項 4,5,9,10
・引用文献 1-5
・備考
上記において請求項1ないし3、6ないし8について検討したとおり、意見書における出願人の上記主張を採用することはできない。そして、その他の点については、上記拒絶理由通知書において検討したとおりであるから、本願の請求項4、5、9及び10に係る発明は、上記拒絶理由通知書において引用した引用文献1ないし5に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

<引用文献等一覧>
1.特開2006-147663号公報
2.特開2007-165431号公報
3.特開2002-329665号公報
4.特開2012-33575号公報
5.特開2013-33877号公報(新たに引用された文献)

第3 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明10」という。)は、平成28年 4月 5日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりである。
「【請求項1】
半導体素子用のエピタキシャル基板であって、
SiCからなり主面が(0001)面配向してなる下地基板と、
前記下地基板の一方主面上に形成された、AlNからなる核形成層と、
前記核形成層の上に形成された、Al_(y)Ga_(1-y)N(0≦y<1)なる組成の13族窒化物からなる電子走行層と、
前記電子走行層の上に形成された、In_(z)Al_(1-z)N(0.13≦z≦0.23)なる組成の13族窒化物からなる障壁層と、
を備え、
前記下地基板の(0001)面が0.1度以上0.5度以下のオフ角を有してなり、
前記核形成層と前記電子走行層との間に、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.01≦x≦0.4)なる組成の13族窒化物からなる、1nm以上500nm以下の厚みの中間層をさらに備える、
ことを特徴とする半導体素子用のエピタキシャル基板。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体素子用のエピタキシャル基板であって、
前記中間層の厚みが10nm以上100nm以下である、
ことを特徴とする半導体素子用のエピタキシャル基板。
【請求項3】
半導体素子用のエピタキシャル基板であって、
SiCからなり主面が(0001)面配向してなる下地基板と、
前記下地基板の一方主面上に形成された、AlNからなる核形成層と、
前記核形成層の上に形成された、Al_(y)Ga_(1-y)N(0≦y<1)なる組成の13族窒化物からなる電子走行層と、
前記電子走行層の上に形成された、Al_(w)Ga_(1-w)N(0.15≦w≦0.35)なる組成の13族窒化物からなる障壁層と、
を備え、
前記下地基板の(0001)面が0.1度以上0.5度以下のオフ角を有してなり、
前記核形成層と前記電子走行層との間に、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.01≦x≦0.4)なる組成の13族窒化物からなる、1nm以上500nm以下の厚みの中間層をさらに備える、
ことを特徴とする半導体素子用のエピタキシャル基板。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の半導体素子用のエピタキシャル基板であって、
前記電子走行層と前記障壁層との間に、AlNからなるスペーサ層をさらに備える、
ことを特徴とする半導体素子用のエピタキシャル基板。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の半導体素子用のエピタキシャル基板であって、
前記電子走行層がGaNからなる、
ことを特徴とする半導体素子用のエピタキシャル基板。
【請求項6】
半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法であって、
SiCからなり主面が(0001)面配向してなる下地基板の一方主面上に、AlNからなる核形成層をエピタキシャル形成する核形成層形成工程と、
前記核形成層の上に、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.01≦x≦0.4)なる組成の13族窒化物からなる中間層を1nm以上500nm以下の厚みにエピタキシャル形成する中間層形成工程と、
前記中間層の上に、Al_(y)Ga_(1-y)N(0≦y<1)なる組成の13族窒化物からなる電子走行層をエピタキシャル形成する電子走行層形成工程と、
前記電子走行層の上に、In_(z)Al_(1-z)N(0.13≦z≦0.23)なる組成の13族窒化物からなる障壁層をエピタキシャル形成する障壁層形成工程と、
を備え、
前記下地基板として、(0001)面が0.1度以上0.5度以下のオフ角を有するものを用いる、
ことを特徴とする半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法であって、
前記中間層を10nm以上100nm以下の厚みに形成する、
ことを特徴とする半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法。
【請求項8】
半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法であって、
SiCからなり主面が(0001)面配向してなる下地基板の一方主面上に、AlNからなる核形成層をエピタキシャル形成する核形成層形成工程と、
前記核形成層の上に、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.01≦x≦0.4)なる組成の13族窒化物からなる中間層を1nm以上500nm以下の厚みにエピタキシャル形成する中間層形成工程と、
前記中間層の上に、Al_(y)Ga_(1-y)N(0≦y<1)なる組成の13族窒化物からなる電子走行層をエピタキシャル形成する電子走行層形成工程と、
前記電子走行層の上に、Al_(w)Ga_(1-w)N(0.15≦w≦0.35)なる組成の13族窒化物からなる障壁層をエピタキシャル形成する障壁層形成工程と、
を備え、
前記下地基板として、(0001)面が0.1度以上0.5度以下のオフ角を有するものを用いる、
ことを特徴とする半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法であって、
前記電子走行層の上にAlNからなるスペーサ層をエピタキシャル形成するスペーサ層形成工程、
さらに備え、
前記障壁層形成工程においては前記スペーサ層の上に前記障壁層を形成する、
ことを特徴とする半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9のいずれかに記載の半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法であって、
前記電子走行層形成工程においては前記電子走行層をGaNにて形成する、
ことを特徴とする半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-147663号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付加した。以下同じ。)
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、GaN-HEMTを高耐圧の電子デバイスとして用いる場合、その特性の変動が大きいという問題がある。例えば、従来のGaN-HEMTを継続して用いたときの時間と出力値との関係を図12に示す。
このように、GaN-HEMTの使用を重ねるにつれて、例えば15年程度の継続的使用により出力値は当初の70%程度まで減少する。このように、15年間で30%程度減少する状態では、十分実用に耐えるとは言い難く、従来のGaN-HEMTではこの点で大きな問題を抱えていると考えられる。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、特性変動が極めて小さく経時劣化の少ない信頼性の高い化合物半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とする。」
イ 「【0029】
-本発明を適用した具体的な実施形態-
(GaN-HEMTの構成)
上述した本発明の基本骨子を踏まえ、本実施形態によるGaN-HEMTの構成について説明する。
図6は、本実施形態によるGaN-HEMTの構成を示す概略断面図である。
【0030】
このGaN-HEMTは、先ず、サファイア、SiC、GaN或いはSi等、ここではSiC基板1上に、電子走行層を含むバッファ層11と、電子供給層となるAlGaN層13と、n型GaN層10とが積層されている。そして、GaN層10上にゲート電極6がパターン形成され、ゲート電極6の両側から離間するようにソース電極7及びドレイン電極8がパターン形成され、n型GaN層10上におけるソース電極7とドレイン電極8との間に保護絶縁膜としてSiN層9が積層されて、GaN-HEMTが構成される。
【0031】
バッファ層11は、AlN層2と、AlGaN層3と、GaN層4とが連続的に積層成長されて構成されている。
AlN層2は、膜厚が10nm?100nmの範囲内の値、ここでは20nm程度とされており、酸素濃度が1×10^(13)/cm^(3)?1×10^(19)/cm^(3)の範囲内の値に抑えられている。AlN層2においては、Gaを1%?80%の範囲内の値、例えば50%程度混入させるようにしても良い。これにより、酸素濃度が例えば1×10^(18)/cm^(3)程度まで減少し、電流ドリフトの回復時間が更に向上する。
【0032】
AlGaN層3は、GaN層4の成長時におけるSiの混入を抑制するために設けられており、膜厚が10nm?200nmの範囲内の値、ここでは30nm程度とされており、Si濃度が1×10^(16)/cm^(3)以下の値、ここでは(5×10^(14))/cm^(3)程度とされている。ここで、AlGaN層3は低Al組成とされており、Al_(x)Ga_((1-x))Nにおいて、0<x<0.3、例えばx=0.05である。上述したように、AlN層2とGaN層4との間に言わばGaN層4の初期層としてAlGaN層3を形成することにより、AlGaN中のAlがAlGaNの横方向成長時にSiの混入が抑制される。
【0033】
なお、Si混入を抑制する層として、AlGaN層3の代わりに、AlGaInN層を形成しても良い。Inを含むAlGaInN層を形成することにより、(Siの混入抑制 )という利点がある。この場合、Al_(x)[Ga_(y)In_((1-y))]_((1-x))Nにおいて、例えば0<x<0.3,0<y<0.1である。
【0034】
GaN層4は、電子走行層として機能するものであり、少なくともその一部において、フォト・ルミネッセンス測定により、500nm?600nm帯の発光ピーク強度(A)とGaNバンド端の発光強度(B)との比(A/B)が0.2以下の値、ここでは例えば0.16程度を示すように形成されている。なお、フォト・ルミネッセンス測定の励起条件は、弱励起条件で500nm台の発光が最大となるように調整した励起条件であり、レーザダイオード測定用に用いられるような強励起条件ではない。
【0035】
GaN層4の膜厚は、500nm?5000nmの範囲内の値、ここでは1000nm程度とされている。この構成により、電流ドリフトの回復時間が上記の信頼度規格を十分満たす値を示す。これは、Ga空孔量及び炭素濃度が低値に抑えられているからである。GaN層4においては、具体的には、Ga空孔量が1×10^(12)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)での範囲内の値、例えば1×10^(14)/cm3とされ、且つ炭素濃度が1×10^(13)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)の範囲内の値、例えば2×10^(14)/cm^(3)とされている。更にGaN層4は、そのSi濃度が例えば1×10^(14)/cm^(3)の低値に抑えられている。
【0036】
AlGaN層13は、電子供給層として機能するものであり、膜厚3nm程度のノンドープAlGaN層12と、膜厚20nm程度のn型AlGaN層5とが積層されて構成されている。n型AlGaN層5は、例えばSiが4×10^(18)/cm^(3)程度の濃度にドープされてなるものである。」
ウ 「【0040】
(GaN-HEMTの製造方法)
上述した本発明の基本骨子を踏まえ、本実施形態によるGaN-HEMTの製造方法について説明する。
図7は、本実施形態によるGaN-HEMTの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【0041】
先ず、図7(a)に示すように、SiC基板1を用意し、このSiC基板1上に、MOVPE法により、バッファ層11を構成するAlN層2、AlGaN層3及びGaN層4と、AlGaN層13を構成するノンドープAlGaN層12及びn型AlGaN層5と、n型GaN層10とを順次連続的に成長形成する。なお、これらの層の成長方法はMOVPE法に限定されず、例えばMBE法等でも良い。
【0042】
具体的には、AlN層2を膜厚20nm程度に、AlN層2上にAl組成5%程度のAlGaN層3を膜厚30nm程度に、AlGaN層3上にGaN層4を膜厚1000nm程度に、GaN層4上にノンドープAlGaN層12を膜厚3nm程度に、ノンドープAlGaN層12上にSiを4×10^(18)/cm^(3)程度の濃度にドープしてなるn型AlGaN層5を膜厚20nm程度に、n型AlGaN層5上にSiを4×10^(18)/cm^(3)程度の濃度にドープしてなるn型GaN層10を膜厚5nm程度に、順次成長形成する。」
エ そして、図7(a)には、SiC基板1、AlN層2、AlGaN層3、GaN層4、AlGaN層13の順に積層したGaN-HEMT素子用のエピタキシャル基板、が記載されていると認められる。

(2)引用発明1
したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「SiC基板1上に、AlN層2と、AlGaN層3と、電子走行層として機能するGaN層4とが連続的に積層成長され、さらに電子供給層となるAlGaN層13が積層され、AlGaN層3は膜厚が30nmでAlの組成比が0.05である、GaN-HEMT素子用のエピタキシャル基板。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-165431号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
ア「【0004】
しかし、AlGaNからなるバリア層を有する高電子移動度トランジスタでは、AlGaNとGaNとの格子不整合により、特にAl組成が高くなるにつれて形成できるAlGaN層厚範囲が狭くなり、2次元電子ガスのシートキャリア濃度について十分広範囲な設
計余裕を確保できない、という難点もあった。こうした難点を解決するために、バリア層の材料としてInAlNを用いた高電子移動度トランジスタが提案されている。
【0005】
InAlNはIn組成0.17においてGaNと格子整合するため、InAlNをバリア層に用いると、バリア層厚に対する制限がAlGaNをバリア層に用いた場合よりも格段に緩和される。また、In組成0.17におけるInAlNのエネルギー禁制帯幅はおよそ4.9eVで、AlGaNからなるバリア層を有する高電子移動度トランジスタで通常用いられるAl組成範囲(典型的には0.1?0.3)でのAlGaNのエネルギー禁制帯幅(3.7?4.2eV)より大きい。また、In組成0.17であるInAlNとGaNとのヘテロ接合界面に存在する伝導電子帯におけるエネルギー障壁△Ecは0.7eV程度あり、AlGaNからなるバリア層を有する高電子移動度トランジスタにおけるAlGaNとGaNとのヘテロ界面に存在するエネルギー障壁△Ec(0.1?0.3eV程度)よりも大きい。さらに、InAlNはAlGaNに比べて自発分極効果が大きい。これらの特徴から、InAlNをバリア層とする高電子移動度トランジスタではAlGaNをバリア層とする高電子移動度トランジスタよりも2次元電子ガスのシートキャリア濃度を高くすることができるという優れた特性を有する。」
イ「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、バリア層3をInAlNで構成することは、ゲートリーク電流の低減、ゲート耐圧の向上という観点では有利であるが、ソースおよびドレインのコンタクト抵抗の低減という観点からは不利となる。すなわち、図9に示した従来の電界効果型トランジスタにおいては、ソース電極5およびドレイン電極6もバリア層3上に形成しているから、ソース電極5とドレイン電極6との間に高いエネルギー障壁が存在することになり、ソースおよびドレインのコンタクト抵抗を増大させてしまう。
【0011】
本発明は上述の課題を解決するためになされたもので、良好なゲート耐圧特性を有し、かつソースおよびドレインのコンタクト抵抗が小さい電界効果型トランジスタ、その製造方法を提供することを目的とする。」

(2)引用発明2
したがって、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「GaN層に対して、In組成0.17であるInAlNをバリア層を形成する技術。」

3 引用文献3について
(1)引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-329665号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
ア 「【0009】そこで、本発明の目的は、上記問題に鑑み、異種基板上に窒化物半導体を成長させた窒化物半導体基板から異種基板を除去することにより窒化物半導体の単体基板を得る製造方法を提供することである。さらに、ここで得られる窒化物半導体の単体基板は、ホール移動度を大きくすることによる電気的特性の向上を目的とした低転位であり、厚膜の窒化物半導体である。」
イ 「【0028】本発明における異種基板1としてはC面、R面、及びA面のいずれかを主面とするサファイアやSiC(6H、4H、3C)、スピネル、ZnS、ZnO、GaAs、Si、又は窒化物半導体等が基板として挙げられる。好ましい異種基板1としては、サファイア、SiC、スピネルである。また、基板をオフアングルしていてもよく、この場合ステップ状にオフアングルした基板を用いると窒化物半導体からなる下地層2の成長が結晶性よく成長する傾向にあり好ましい。この時のオフ角としては、0°?0.5°、好ましくは0.1°?0.2°とする。これらの異種基板は表面が平坦なものを使用するが、窒化物半導体から成る核、又は層を成長させることができれば、例えばエッチング等により細かい荒れを有するものや、基板に凹凸、斜面、階段形状を有するものであってもよい。
【0029】次に下地層2を異種基板1上に気相成長法により成長させる。この下地層2はバッファー層としての効果があり、異種基板1と窒化物半導体との格子定数不整合を緩和させることができる。例えば、窒化ガリウムとサファイアとの格子不整合は約15%と非常に大きいため、表面モフォロジーの良好な結晶性を有する基板を得るのは困難であった。下地層2にはこの格子定数の違いを緩和させる効果があり、具体例としては、Al_(x)Ga_(1-x)N(0≦X≦1)、In_(x)Ga_(1-x)N(0≦X≦1)、及びIn_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)N(0≦X≦1、0≦Y≦1)が挙げられる。製造方法としてはキャリアガスに水素、原料ガスにはトリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウム等を用い、300℃以上900℃以下の温度、10オングストローム以上10μm以下の膜厚で成長させる。また、n型不純物やp型不純物をドープしてもよい。尚、この下地層2は複数層であってもよく、また省略することもできる。」

(2)引用発明3
したがって、引用文献3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「オフ角として0°?0.5°を有する気相成長用のSiC基板を用いた気相成長技術。」

4 引用文献4について
(1)引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された特開2012-33575号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0028】
GaN電子走行層14上に、AlGaN電子供給層16を成長させる。成長条件は以下である。
原料ガス :TMA、TMG、NH3
Al組成比:20%
膜厚 :25nm。」
(2)引用発明4
したがって、引用文献4には次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「GaN電子走行層上にAl組成比20%としたAlGaN電子供給層を形成する技術。」

5 引用文献5について
(1)引用文献5
原査定の拒絶の理由に引用された特開2013-33877号公報(以下、「引用文献5」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
ア 「【0042】
チャネル層3は、In_(x1)Al_(y1)Ga_(z1)N(x1+y1+z1=1)なる組成のIII族窒化物(第1のIII族窒化物)にて、数μm程度の厚みに形成される層である。好ましくは、チャネル層3はAl_(y1)Ga_(z1)N(y1+z1=1、z1>0)組成のIII族窒化物にて形成され、より好ましくは、GaNにて形成される。
【0043】
一方、障壁層5は、In_(x2)Al_(y2)N(x2+y2=1、x2>、y2>0)なる組成を有するIII族窒化物(第2のIII族窒化物)にて、数nm?数十nm程度の厚みに形成される層である。好ましくは0.14≦x2≦0.24である。x2の値がこの範囲の外にある場合は、障壁層5に作用する歪みが±0.5%を超えることとなり、ショットキー接合の信頼性に及ぼす結晶歪みの影響が大きくなり始めるため好ましくない。
【0044】
なお、チャネル層3と障壁層5とは、前者を構成する第1のIII族窒化物のバンドギャップよりも後者を構成する第2のIII族窒化物のバンドギャップの方が大きいという組成範囲をみたして形成される。」
イ 「【0046】
さらに、チャネル層3と障壁層5の間にはスペーサ層4が設けられる。スペーサ層4は、In_(x3)Al_(y3)Ga_(z3)N(x3+y3+z3=1)なる組成を有し、少なくともAlを含む(y3>0をみたす)III族窒化物(第3のIII族窒化物)にて、0.5nm?1.5nmの範囲の厚みで形成される層である。」
(2)引用発明5
したがって、引用文献5には次の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。
「In_(x1)Al_(y1)Ga_(z1)N(x1+y1+z1=1)なる組成のチャネル層3とIn_(x2)Al_(y2)N(x2+y2=1、x2>、y2>0)なる組成を有する障壁層5の間に少なくともAlを含むIn_(x3)Al_(y3)Ga_(z3)N(x3+y3+z3=1)なる組成(y3>0をみたす)III族窒化物(第3のIII族窒化物)のスペーサ層4を設ける技術。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1との対比
ア 引用発明1の「GaN-HEMT素子用のエピタキシャル基板」は、下記相違点1及び2を除いて、本願発明1の「半導体素子用のエピタキシャル基板」に相当する。
イ 引用発明1の「SiC基板1」は、下記相違点2を除いて、本願発明1の「SiCからなる下地基板」に相当する。
ウ 引用発明1の「AlN層2」は、「SiC基板1上に」成長されるから、前記イを考慮して、本願発明1の「前記下地基板の一方主面上に形成された、AlNからなる核形成層」に相当する。
エ 引用発明1の「電子走行層として機能するGaN層4」は、「AlN層2と、AlGaN層3と」連続的に積層成長されるものであり、前記ウを考慮した上で、そのAlの組成比は0であるから、本願発明1の「前記核形成層の上に形成された、Al_(y)Ga_(1-y)N(0≦y<1)なる組成の13族窒化物からなる電子走行層」を満たすと認められる。
オ 引用発明1の「電子供給層となるAlGaN層13」は、障壁により「電子走行層として機能するGaN層4」に電子を供給するものであるから、下記相違点1を除き、本願発明1の「前記電子走行層の上に形成された、13族窒化物からなる障壁層」に相当する。
カ 引用発明1の「AlGaN層3」は、「AlN層2」と、「電子走行層として機能するGaN層4」との間に積層成長され、「膜厚が30nmでAlの組成比が0.05である」から、本願発明1の「前記核形成層と前記電子走行層との間に、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.01≦x≦0.4)なる組成の13族窒化物からなる、1nm以上500nm以下の厚みの中間層をさらに備える」を満たすと認められる。
キ すると、本願発明1と引用発明1とは、下記クの点で一致し、下記ケの点で相違すると認められる。
ク 一致点
「半導体素子用のエピタキシャル基板であって、
SiCからなる下地基板と、
前記下地基板の一方主面上に形成された、AlNからなる核形成層と、
前記核形成層の上に形成された、Al_(y)Ga_(1-y)N(0≦y<1)なる組成の13族窒化物からなる電子走行層と、
前記電子走行層の上に形成された、13族窒化物からなる障壁層と、
を備え、
前記核形成層と前記電子走行層との間に、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.01≦x≦0.4)なる組成の13族窒化物からなる、1nm以上500nm以下の厚みの中間層をさらに備える、
ことを特徴とする半導体素子用のエピタキシャル基板。」
ケ 相違点
(ア)相違点1
本願発明1では、前記電子走行層の上に形成された、In_(z)Al_(1-z)N(0.13≦z≦0.23)なる組成の13族窒化物からなる障壁層を有するのに対して、引用発明1では、電子供給層となるAlGaN層13を有する点。
(イ)相違点2
本願発明1では、SiCからなり主面が(0001)面配向して、前記下地基板の(0001)面が0.1度以上0.5度以下のオフ角を有している基板であるのに対して、引用発明1では、SiC基板1について基板面方位やオフ角について記載されていない点。
(2)相違点についての判断
以下、前記相違点について検討するにあたり、引用発明1ないし3を全体として組み合わせる事の可否を検討するために、まとめて検討する。
前記相違点に関する構成は、相違点1について引用発明2、相違点2について引用発明3に各々記載されている。しかし、引用発明1ないし3における技術的課題の共通性の欠如及び効果の予測性の欠如を理由に、引用発明1に対して、引用発明2、引用発明3を組み合わせることはできない。
まず、技術的課題について検討すると、引用発明1は、特性変動の小さい経時劣化の少ない半導体装置に関する技術であり、当該装置の電気的特性の安定化に資する技術の提供を技術的課題としている(第4の1(1)アを参照)。これに対して、引用発明2は、バリア層3をInAlNで構成した際に、良好なゲート耐圧特性を有し、かつソースおよびドレインのコンタクト抵抗が小さい電界効果型トランジスタ、及びその製造方法を提供することを目的としており、電界効果型トランジスタという半導体装置の電気的特性の向上に資する技術の提供を技術的課題としている(第4の2(1)イを参照)。また、引用発明3は、異種基板上に窒化物半導体を成長させた窒化物半導体基板から異種基板を除去することにより、ホール移動度を大きくすることによる電気的特性の向上を図った低転位であり、厚膜の窒化物半導体の製造方法を提供する事を目的としており、窒化物半導体層の電気的特性の向上に資する技術の提供を技術的課題としている(第4の3(1)アを参照)。
とすると、引用発明1が半導体装置の電気的特性の「安定化」を指向するのに対して、引用発明2及び引用発明3は積極的に電気的特性の「向上」を指向しており、両者の技術的課題が単に相違するだけに留まらず、同時に取り組むべき課題として想定しにくいことから、引用発明1において、引用発明2、引用発明3を適用することは困難と認められる。
また、効果の予測性について検討すると、本願発明1における効果は、AlN核形成層とGaN電子走行層との間にAlGaNからなる中間層を設けるとともに、半絶縁性SiC基板のオフ角の設定を調整することで、電子移動度の優れた、HEMT素子用の13族窒化物エピタキシャル基板を得ることにあるが(本願明細書【0006】参照)、引用発明1において本願発明1に相当するAlGaN層3は、GaN層4の成長時におけるSiの混入を抑制するために設けられており、経時劣化の少ない半導体装置を得る効果しか想定していない(第4の1(1)イを参照)。同様に、引用発明2は、良好なゲート耐圧特性を有し、かつソースおよびドレインのコンタクト抵抗が小さい電界効果型トランジスタを得る事、引用発明3は、ホール移動度を大きくすることによる電気的特性の向上を目的とした低転位であり、厚膜の窒化物半導体の製造方法を提供する事、を各々効果として期待している発明であり、引用発明1ないし引用発明3には、いずれも電子移動度の改善に着目した効果を認識しておらず、本願発明1の効果を予測することは困難なものと認められる。
したがって、本願発明1は、引用発明1ないし引用発明3までを組み合わせて容易に想到することはできなかったものと認められる。
そして、本願発明1は、前記相違点に係る構成を備えることにより、エピタキシャル基板は、約1300cm^(2)V^(-1)s^(-1)以上という高い電子移動度を有するものとなっている。これは、オフ角のある下地基板を用いているものの中間層を備えていないエピタキシャル基板において実現される電子移動度の2倍以上の値、(0001)面サファイア基板を下地基板に用いてHEMT素子用の13族窒化物エピタキシャル基板を種々作製した場合に実現される電子移動度の上限に相当する極めて優れた電子移動度を有する半導体基板であり、当該特性の優れた半導体基板の提供が可能という効果を奏している。 また、係る優れた電子移動度を有するエピタキシャル基板を用いることで、優れた特性のHEMT素子を、例えば、最大ドレイン電流の高いHEMT素子を、作製することができる、という有利な効果(本願明細書段落【0037】?【0040】)を奏するものである。
なお、引用文献4、引用文献5は、他の本願発明の一要素を開示するにすぎず、当該判断に影響は与えない。
(3)まとめ
したがって、本願発明1は、引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の発明特定事項を全て含みさらに他の発明特定事項を付加したものに相当するから、前記1のとおり、本願発明1が引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上、本願発明2についても、引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 本願発明3について
(1)本願発明3と引用発明1との対比
本願発明3と引用発明1を対比すると、前記第5の1(1)アないしエ及びカは同様であり、オについては、
オ 引用発明1の「電子供給層となるAlGaN層13」において、電子供給層におけるAlの組成比として0.2前後の値を取る事は、引用文献4に記載されているように(前記第4の4)一般的な組成比であるから本願発明3の「前記電子走行層の上に形成された、Al_(w)Ga_(1-w)N(0.15≦w≦0.35)なる組成の13族窒化物からなる障壁層」に相当する。
と置き換えると、下記キの点で一致し、クの点で相違する。
キ 一致点
「半導体素子用のエピタキシャル基板であって、
SiCからなる下地基板と、
前記下地基板の一方主面上に形成された、AlNからなる核形成層と、
前記核形成層の上に形成された、Al_(y)Ga_(1-y)N(0≦y<1)なる組成の13族窒化物からなる電子走行層と、
前記電子走行層の上に形成された、Al_(w)Ga_(1-w)N(0.15≦w≦0.35)なる組成の13族窒化物からなる障壁層と、
を備え、
前記核形成層と前記電子走行層との間に、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.01≦x≦0.4)なる組成の13族窒化物からなる、1nm以上500nm以下の厚みの中間層をさらに備える、
ことを特徴とする半導体素子用のエピタキシャル基板。」
ク 相違点
本願発明3では、SiCからなり主面が(0001)面配向して、前記下地基板の(0001)面が0.1度以上0.5度以下のオフ角を有しているエピタキシャル基板であるのに対して、引用発明1では、SiCの基板面方位やオフ角について記載されていない点。
(2)相違点についての判断
前記第5の1(2)で検討したとおりである。
(3)まとめ
したがって、本願発明3は、引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

4 本願発明4,5について
本願発明4,5は、本願発明1又は3の発明特定事項を全て含みさらに他の発明特定事項を付加したものに相当するから、前記第5の1又は3のとおり、本願発明1又は3が引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上、本願発明4,5についても、引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

5 本願発明6について
(1)引用製造方法発明1について
前記第4の1(1)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用製造方法発明1」という。)が記載されていると認められる。
「SiC基板1上に、AlN層2と、AlGaN層3と、電子走行層として機能するGaN層4とを連続的に積層成長する工程と、さらに電子供給層となるAlGaN層13が積層される工程とを備え、AlGaN層3は膜厚が30nmでAlの組成比が0.05である、GaN-HEMT素子用のエピタキシャル基板の製造方法。」
(2) 本願発明6と引用製造方法発明1との対比
前記第5の1(1)アないしカにおいて「引用発明1」を「引用製造方法発明1」と読み替えて参照すると、本願発明6と引用製造方法発明1とは、下記キの点で一致し、下記クの点で相違すると認められる。
キ 一致点
「半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法であって、
SiCからなる下地基板の一方主面上に、AlNからなる核形成層をエピタキシャル形成する核形成層形成工程と、
前記核形成層の上に、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.01≦x≦0.4)なる組成の13族窒化物からなる中間層を1nm以上500nm以下の厚みにエピタキシャル形成する中間層形成工程と、
前記中間層の上に、Al_(y)Ga_(1-y)N(0≦y<1)なる組成の13族窒化物からなる電子走行層をエピタキシャル形成する電子走行層形成工程と、
前記電子走行層の上に、13族窒化物からなる障壁層をエピタキシャル形成する障壁層形成工程と、
を備えた半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法。」
ク 相違点
(ア)相違点1
本願発明6では、前記電子走行層の上にIn_(z)Al_(1-z)N(0.13≦z≦0.23)なる組成の13族窒化物からなる障壁層を形成するのに対して、引用製造方法発明1では、電子供給層となるAlGaN層13が積層される点。
(イ)相違点2
本願発明6では、SiCからなり主面が(0001)面配向して、前記下地基板の(0001)面が0.1度以上0.5度以下のオフ角を有している下地基板であるのに対して、引用製造方法発明1では、SiC基板1の基板面方位やオフ角について記載されていない点。
(3)相違点の判断
前記第5の1(2)で検討したとおりである。
(4)まとめ
したがって、本願発明6は、引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

6 本願発明7について
本願発明7は、本願発明6の発明特定事項を全て含みさらに他の発明特定事項を付加したものに相当するから、前記5のとおり、本願発明6が引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上、本願発明7についても、引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

7 本願発明8について
(1)本願発明8と引用製造方法1との対比
本願発明6と同様に、前記第5の1(1)アないしカについて「引用発明1」を「引用製造発明1」と読み替えて参照すると、本願発明8と引用製造方法発明1とは、下記アの点で一致し、下記イの点で相違すると認められる。
ア 一致点
「半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法であって、
SiCからなる下地基板の一方主面上に、AlNからなる核形成層をエピタキシャル形成する核形成層形成工程と、
前記核形成層の上に、Al_(x)Ga_(1-x)N(0.01≦x≦0.4)なる組成の13族窒化物からなる中間層を1nm以上500nm以下の厚みにエピタキシャル形成する中間層形成工程と、
前記中間層の上に、Al_(y)Ga_(1-y)N(0≦y<1)なる組成の13族窒化物からなる電子走行層をエピタキシャル形成する電子走行層形成工程と、
前記電子走行層の上に、Al_(w)Ga_(1-w)N(0.15≦w≦0.35)なる組成の13族窒化物からなる障壁層をエピタキシャル形成する障壁層形成工程と、
を備えた半導体素子用のエピタキシャル基板の製造方法。」
イ 相違点
本願発明8では、SiCからなり主面が(0001)面配向して、前記下地基板の(0001)面が0.1度以上0.5度以下のオフ角を有している下地基板であるのに対して、引用製造方法発明1では、SiC基板1の基板面方位やオフ角について記載されていない点。
(2)相違点についての判断
前記第5の1(2)で検討したとおりである。
(3)まとめ
したがって、本願発明8は、引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

8 本願発明9,10
本願発明9,10は、本願発明6又は8の発明特定事項を全て含みさらに他の発明特定事項を付加したものに相当するから、前記第5の5又は7のとおり、本願発明6又は8が引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上、本願発明9,10についても、引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび
前記第5の1ないし8のとおり、本願発明1ないし10は、引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-14 
出願番号 特願2015-560886(P2015-560886)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 棚田 一也  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 大嶋 洋一
加藤 浩一
発明の名称 半導体素子用のエピタキシャル基板およびその製造方法  
代理人 有田 貴弘  
代理人 吉竹 英俊  
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