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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1328990
審判番号 不服2016-3274  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-03 
確定日 2017-06-08 
事件の表示 特願2012- 39475「二次電池用正極活物質、活物質粒子、それらを用いた正極および二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 5日出願公開、特開2013-175374〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年 2月27日の出願であって、平成27年10月 1日付けの拒絶理由通知に対して、同年11月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年 2月 9日付けで拒絶査定がなされ、同年 3月 3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年 3月 3日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成28年 3月 3日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成27年11月10日に提出された手続補正書により補正された本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?5を補正して、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?3とするものであり、そのうち、本件補正前の請求項1及び本件補正後の請求項1については、以下のとおりである。

(本件補正前)
「【請求項1】
組成式Li_(w)Mn_(1-x)V_(x)PO_(4)(0<w≦1、0.01<x≦0.20)で表され、オリビン型構造を有するリン酸塩を主成分とする二次電池用正極活物質(但し、スピネル型マンガン酸リチウムが10?90質量%混合された正極活物質を除く)。」

(本件補正後)
「【請求項1】
組成式Li_(w)Mn_(1-x)V_(x)PO_(4)(0<w≦1、0.01<x≦0.20)で表され、オリビン型構造を有するリン酸塩からなる二次電池用正極活物質(但し、スピネル型マンガン酸リチウムが混合された正極活物質を除く)。」

2 補正事項の整理
本件補正後の請求項1に係る補正事項を整理すると、次のとおりである。

〈補正事項a〉
本件補正前の請求項1に記載された「オリビン型構造を有するリン酸塩を主成分とする二次電池用正極活物質」を、本件補正後の請求項1に記載された「オリビン型構造を有するリン酸塩からなる二次電池用正極活物質」とする。

〈補正事項b〉
本件補正前の請求項1に記載された「(但し、スピネル型マンガン酸リチウムが10?90質量%混合された正極活物質を除く)」を、本件補正後の請求項1に記載された「(但し、スピネル型マンガン酸リチウムが混合された正極活物質を除く)」とする。

3 新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否についての検討
3-1〈補正事項a〉について
ア 本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という)の段落【0030】?【0033】には、
「【実施例】
【0030】
(実施例1)
水酸化リチウム一水和物(LiOH・H_(2)O)(株式会社ナカライテスク)を6.74gおよびリン酸水素二アンモニウム((NH_(4))_(2)HPO_(4))(株式会社ナカライテスク)を10.60g量り取り、それぞれ80および20mLのイオン交換水中に溶解した後に、両溶液を攪拌しながら混合し、この混合溶液に対してN_(2)ガスのバブリングを約3分間行った。その後、バナジン酸アンモニウム(NH_(4)VO_(3))(株式会社ナカライテスク)を0.09g量り取り、上記混合溶液に加えて混合した。次に、アスコルビン酸(株式会社ナカライテスク)0.36gを溶解させた60mLのイオン交換水に、硫酸マンガン五水和物(MnSO_(4)・5H_(2)O)(株式会社ナカライテスク)19.09gを溶解させ、この溶液に対してN_(2)ガスのバブリングを約3分間行った。この溶液を上記LiOH・H_(2)Oと(NH_(4))_(2)HPO_(4)およびNH_(4)VO_(3)の混合溶液に加えることによって、前駆体水溶液を得た。なお、ここまでの全ての作業は、水溶液中のMn^(2+)のMn^(3+)への酸化を防止するために、十分に窒素置換を行った簡易グローブボックス内で実施した。
【0031】
上記前駆体水溶液をポリテトラフルオロエチレン製容器(内容積500cm^(3))に移し、これを水熱反応容器(耐圧硝子工業株式会社製、TVS-N2)に設置した。反応容器内を窒素ガスで充分に置換して密閉し、前駆体水溶液を170℃まで加熱し、その後、その温度を保持し続けることにより、合成反応を行った。合成反応時間(前駆体水溶液を170℃で保持し続ける時間)は6時間とした。昇温速度は100℃/h、降温は自然放冷とし、昇温開始時から降温が終わるまで、撹拌羽を200rpmで回転させることにより、前駆体水溶液の攪拌を行った。合成反応中の水熱反応容器内の圧力は約1.2気圧であった。合成反応終了後、ポリテトラフルオロエチレン製容器内の水溶液を濾過し、イオン交換水とアセトンによる洗浄を行った後、120℃で5時間の真空乾燥を行うことにより、バナジウムを1原子%含むリン酸マンガンリチウム(LiMn_(0.99)V_(0.01)PO_(4))を作製した。
【0032】
合成したバナジウム含有リン酸マンガンリチウムの粉末2.0gに、ポリビニルアルコール(和光純薬工業株式会社、重合度1500)2.29gを加えて、メノウ乳鉢を用いて混合し、さらに60℃に加温した水を少量加え、再度乳鉢で混合-混練してガム状のペーストとした。前記混合物をアルミナ製の匣鉢(外形寸法90×90×50mm)に入れ、雰囲気置換式焼成炉(株式会社デンケン社製卓上真空ガス置換炉KDF-75、内容積2400cm^(3))を用いて、窒素ガスの流通下(流速0.5L/min)で加熱を行った。加熱温度は700℃とし、加熱時間(前記加熱温度を維持する時間)は1時間とした。なお、昇温速度は10℃/min、降温は自然放冷とした。このようにして、粒子の表面にカーボンを備えたバナジウム含有リン酸マンガンリチウムを作製した。
【0033】
(実施例2?6および比較例)
原料として用いた硫酸マンガン五水和物およびバナジン酸アンモニウムの量が異なる以外は実施例1と同じ方法で、実施例2?6として粒子表面にカーボンを備えたバナジウム含有リン酸マンガンリチウム、および比較例として粒子表面にカーボンを備えたリン酸マンガンリチウムを作製した。すべての実施例および比較例の作製に用いた原料の量を表1に示す。表1において、V添加量(モル%)とは、MnとVの原子数の和に対するVの原子数の比率である。以後の図表においても同じ意味で用いる。」
と記載されている(なお、下線は当審が付与した。)。
摘記した上記記載によれば、実施例1?6のいずれにおいても、正極活物質として、粒子表面にカーボンを備えた「バナジウム含有リン酸マンガンリチウム」が単独で、つまり、副成分を伴うこと無く形成されている。
そして、段落【0021】の記載「本発明においては、二次電池用正極活物質の電子伝導性を補う目的で、粒子の表面および/または内部にカーボンを備えていてもよい。」によれば、粒子表面の「カーボン」は正極活物質に必須のものではなく、省略可能なものである。
したがって、実施例1?6の正極活物質は、粒子表面にカーボンを備えた「バナジウム含有リン酸マンガンリチウム」であるが、上記段落【0021】の記載を参照すれば、粒子表面にカーボンを備えない正極活物質、すなわち、「バナジウム含有リン酸マンガンリチウム」からなる正極活物質が示唆されているといえる。
また、実施例1?6の正極活物質が「オリビン型構造」の結晶構造を有することは、図1に記載のXRDプロファイルに示されており、「バナジウム含有リン酸マンガンリチウム」が「リン酸塩」であることは明らかである。
よって、当初明細書の段落【0021】、【0030】?【0033】には、「オリビン型構造を有するリン酸塩からなる二次電池用正極活物質」が記載または示唆されているから、補正事項aは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正事項aは、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

イ 補正事項aは、補正前の請求項1において、「オリビン型構造を有するリン酸塩を主成分とする二次電池用正極活物質」と記載することにより、「二次電池用正極活物質」が、主成分である「オリビン型構造を有するリン酸塩」と、当該主成分以外の副成分を含むことを許容するものであったものを、補正後の請求項1において「オリビン型構造を有するリン酸塩からなる二次電池用正極活物質」と記載することによって、「二次電池用正極活物質」が、「オリビン型構造を有するリン酸塩」のみからなり、副成分を含むことを排除することによって、「二次電池用正極活物質」を技術的に限定するものである。また、補正事項aについて、補正の前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
よって、補正事項aは、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項aは特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。

ウ 以上検討したとおり、補正事項aは、特許法第17条の2第3項及び第5項に規定する要件を満たしている。

3-2〈補正事項b〉について
ア 下記4(2)(2-1)1スで摘記しているように、引用文献1に、実施例24として、オリビン型燐酸マンガンリチウムであるLiMn_(0.9)V_(0.1)PO_(4) と、スピネル型マンガン酸リチウムであるLiMn_(2)O_(4) が混合された正極活物質が記載されているところ、当該記載によって本願請求項1に係る発明が新規性を喪失する恐れがある場合にあたるので、本願の請求項1に「(但し、スピネル型マンガン酸リチウムが混合された正極活物質を除く)」と記載し、いわゆる「除くクレーム」とすることによって、本願請求項1に係る発明の正極活物質から、スピネル型マンガン酸リチウムが混合された場合を除くものである。
よって、補正事項bは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。
したがって、補正事項bは、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

イ 補正事項bは、補正前の請求項1において、「(但し、スピネル型マンガン酸リチウムが10?90質量%混合された正極活物質を除く)」と記載することにより、正極活物質から、スピネル型マンガン酸リチウムが10?90質量%混合されたものを除くものであったが、スピネル型マンガン酸リチウムが10質量%未満または90質量%を超えて混合されたものについては除かれていなかったところ、補正後の請求項1について「(但し、スピネル型マンガン酸リチウムが混合された正極活物質を除く)」と記載することによって、スピネル型マンガン酸リチウムの混合割合によらず、スピネル型マンガン酸リチウムが混合された正極活物質は全て除くものとなった。
つまり、補正事項bは、請求項1に係る発明において、いわゆる「除くクレーム」によって除く範囲を拡大することによって、「二次電池用正極活物質」を技術的に限定するものであり、また、補正の前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項bは特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。

ウ 以上検討したとおり、補正事項bは、特許法第17条の2第3項及び第5項に規定する要件を満たしている。

3-3検討のむすび
以上のとおり、補正事項a及び補正事項bは、いずれも、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしており、また、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件を満たすか)否かを、更に検討する。

4 独立特許要件を満たすか否かの検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正により補正がなされた明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「1 本件補正の内容」において本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、再掲すると次のとおりである(以下「本願補正発明」という。)。

「【請求項1】
組成式Li_(w)Mn_(1-x)V_(x)PO_(4)(0<w≦1、0.01<x≦0.20)で表され、オリビン型構造を有するリン酸塩からなる二次電池用正極活物質(但し、スピネル型マンガン酸リチウムが混合された正極活物質を除く)。」

(2)引用例の記載及び引用例に記載された発明
(2-1)引用例1の記載
本願の出願日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった平成27年10月 1日付けの拒絶理由通知書において引用文献1として引用された刊行物である、特開2006-278256号公報(以下「引用例1」という。)には、「非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている(ここにおいて、下線は当審が付加したものである。また、「…」によって記載の省略を表す。以下同様。)。

1ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、高電位、高容量、安全性であると共に、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池に関する。」

1イ 「【0005】
一方、マンガン酸リチウムを用いた電池では、資源量が豊富で、安価で安全性に優れたスピネル型マンガン酸リチウムを主に用いるため、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムと比較して、大型の電池を安価に作製できるとともに、電池異常時の安全性も向上させることができる。
【0006】
しかしながら、マンガン酸リチウムを用いた電池では、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムを用いた電池と比較して充放電容量が低いため、十分な電池特性が得られないだけでなく、高温下における容量低下が著しいという問題があった。容量低下の原因の一つとして、電池系内において以下の現象の発生が想定される。即ち、電解液として例えばLIPF_(6)系電解液を用いて作製した非水電解質二次電池の場合、特に高温下においては系内でHFが発生し、これによりマンガン酸リチウムから一部のMnが溶出すると考えられ、正極活物質の劣化、並びに負極活物質への悪影響が引き起こるために、前述のような高温下における容量低下等の不具合が引き起こさせると想定される。
【0007】
以上の問題点を解決するため、Mnの一部を他の金属元素で置換する方法、マンガン酸リチウムの表面コートする方法が検討されており、近年では、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムをマンガン酸リチウムと混合して非水電解質二次電池の正極活物質とする方法が提案されている(特許文献1?3参照)。しかしながら、現段階では、必ずしも十分な効果が得られていないのが実状であった。
【0008】
また、最近では、LiFePO_(4)に代表されるようなオリビン型構造の燐酸塩化合物が非水電解質二次電池の正極活物質として用いる研究がされるようになり、次世代の非水電解質二次電池用の正極活物質として注目されている。燐酸塩化合物中のリン(P)と酸素(O)は非常に強固な共有結合を有しており、前述のニッケル酸リチウムのように、Liの離脱量が多くなった場合でもリン(P)と酸素(O)は容易に離れないため、酸素(O)が電解液と反応することはなく、熱的な安定性が非常に高い。前記燐酸塩化合物の中で、LiFePO_(4)が3V容量を有するのに対し、オリビン型燐酸マンガンリチウム(LiMnPO_(4))は4V容量を示し、スピネル型マンガン酸リチウムに対し、Mn当たり1.5倍近くの容量に相当する。しかしながら、燐酸塩化合物自体は電気伝導性が低いため、それを単独で正極活物質として用いて電池を作製した場合に、電池の内部抵抗が高くなり、レート特性が極めて低くなるという問題があった。」

1ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、4V領域の高電位を示し、高容量、安全性、サイクル特性に優れているとともに、高温特性にも優れた非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池を提供することにある。」

1エ 「【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明は、以下の非水電解質二次電池を提供するものである。
【0011】
[1] オリビン型燐酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウムとが混合された非水電解質二次電池用正極。
【0012】
[2] オリビン型燐酸マンガンリチウムの一般式が、LiM1_(x)Mn_(1-x)PO_(4)(M1:マンガン以外の1種以上の金属元素、0≦x(置換量)≦0.5)で表される[1]に記載の非水電解質二次電池用正極。
【0013】
[3] M1が、少なくともLi、Fe、Ni、Mg、Zn、Co、Cr、Al、B、V、Si、Sn、Nb、Ta、Cu、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種以上である[2]に記載の非水電解質二次電池用正極。
【0014】
[4] スピネル型マンガン酸リチウムの一般式が、LiM2_(x)Mn_(2-x)O_(4)(M2:マンガン以外の1種以上の金属元素、0≦x(置換量)≦0.5)で表される[1]?[3]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
【0015】
[5] M2が、Li、Fe、Ni、Mg、Zn、Co、Cr、Al、B、V、Si、Sn、Nb、Ta、Cu、Mo、Ti及びWから選ばれる少なくとも1種以上である[4]に記載の非水電解質二次電池用正極。
【0016】
[6] 置換量が、0≦x≦0.3の範囲内である[2]?[5]のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。」

1オ 「【0023】
本発明に係る非水電解質二次電池用正極の主な特徴は、非水電解質二次電池の正極活物質が、オリビン型燐酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウムとが混合されたものであることにある。
【0024】
ここで、本発明で用いる正極活物質を主に構成するオリビン型燐酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウムは、共にマンガンを中心金属とする正極であり、放電電圧も同じであるが、オリビン型燐酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウムを混合することにより、前者オリビン型燐酸マンガンリチウムの短所であるレート特性の低さを、後者スピネル型マンガン酸リチウムの高レート特性の良さで補完することができるとともに、また、後者スピネル型マンガン酸リチウムの短所である理論容量の低さ及び高温保存寿命の短さを、前者オリビン型燐酸マンガンリチウムの長所である理論容量の大きさ及び高温特性の良さで補完することができるため、それらの混合比を変えることで、非水電解質二次電池の正極の性能を大容量型にするか、高レート型にするかの選択を、充放電時の電圧カーブを変えることなく、自由にチューニングすることができる。」

1カ 「【0026】
本発明で用いるオリビン型燐酸マンガンリチウムの一般式は、LiM1_(x)Mn_(1-x)PO_(4)(M1:マンガン以外の1種以上の金属元素、0≦x(置換量)≦0.5(より好ましくは、0≦x≦0.3)で表されるものであることが好ましい。これは、置換量xが0.5より大きいと、正極活物質の合成において異相の生成が粉末X線回折法(XRD)により認められ、単相物質が得られ難いからである。このため、電池において、このような異相は正極活物質の重量を増すだけで電池反応に寄与しないことから、異相の生成を防止することが望ましい。
【0027】
このとき、上記M1は、少なくともLi、Fe、Ni、Mg、Zn、Co、Cr、Al、B、V、Si、Sn、Nb、Ta、Cu、Mo及びWから選ばれる1種以上であることが好ましい。これは、オリビン型燐酸マンガンリチウムの結晶構造をより安定化させることができるからである。」

1キ 「【0030】
本発明の非水電解質二次電池用正極は、オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合が、10?90質量%、より好ましくは、20?80質量%、更に好ましくは、30?70質量%であることが好ましい。
【0031】
これは、オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合が10質量%未満である場合、スピネル型マンガン酸リチウムの短所である理論容量の低さ及び高温保存寿命の短さを補完することができないからである。一方、オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合が90質量%を超過する場合、オリビン型燐酸マンガンリチウムの短所であるレート特性の低さを、後者スピネル型マンガン酸リチウムの高レート特性の良さで補完することができない。」

1ク 「【0035】
もう一方の正極活物質であるオリビン型燐酸マンガンリチウムは、アルゴン雰囲気のグローブボックス中で所定比に調整された各元素の塩及び/又は酸化物の混合物を、酸化雰囲気、400℃?900℃の範囲で、5?50時間かけて焼成し、その後、急冷することにより、単相の生成物として得ることができる。焼成温度が400℃未満と低い場合には、焼成物のXRDチャートに原料の残留を示すピーク、又は分解生成物の示すピークが観察され、単相生成物が得られ難い。一方、焼成温度が900℃よりも高い場合には、目的とする結晶系の化合物以外に、高温相が生成し易く、単相生成物が得られ難い。」

1ケ 「【0042】
(燐酸マンガンリチウムの合成)
出発原料として、Li_(2)CO_(3)、P_(2)O_(5)、Mn_(2)O_(3)粉末を用い、LiMnPO_(4)、Li_(1.1)Mn_(0.9)PO_(4)の組成となるように、それぞれをアルゴン雰囲気のグローブボックス中で秤量し、混合した。次いで酸化雰囲気中、500℃で15時間仮焼成し、その後800℃で48時間本焼成を行った後、急冷することで、オリビン構造を有する燐酸マンガンリチウムを合成した。得られた試料は、共に図1のX線回折図に示すようICDD33-0803のオリビン構造を有するPmnb斜方晶燐酸マンガンリチウムと同定された。
【0043】
また、LiM1_(x)Mn_(1-x)PO_(4)(M1:マンガン以外の1種以上の金属元素)については、以下に示す置換種M1を用いた。周期率表VIII族に属するNi、Fe、CoについてはNiを、周期率表VI_(B)族に属するCr、Mo、WについてはCrを代表種として、周期率表III_(A)族に属するAl、BについてはAlを代表種として、周期率表V_(B)族に属するV、Nb、TaについてはVを代表種として、周期率表IV_(A)族に属するSi、SnについてはSnを代表種として用い、それ以外の置換元素にはLi、Mg、Zn、Tiを用いた。これらにより、前述の出発原料以外に、NiO粉末を用いてLiMn_(0.9)Ni_(0.1)PO_(4)、MgO粉末を用いてLiMn_(0.9)Mg_(0.1)PO_(4)、ZnO粉末を用いてLiMn_(0.9)Zn_(0.1)PO_(4)、Cr_(3)O_(4)を用いてLiMn_(0.9)Cr_(0.1)PO_(4)、Al_(2)O_(3)を用いてLiMn_(0.9)Al_(0.1)PO_(4)、V_(2)O_(5)を用いてLiMn_(0.9)V_(0.1)PO_(4)、SnO_(2)を用いてLiMn_(0.9)Sn_(0.1)PO_(4)、TiO_(2)を用いてLiMn_(0.9)Ti_(0.1)PO_(4)を同様の条件でそれぞれ合成した。
【0044】
(マンガン酸リチウムの合成)
出発原料として、市販のLi_(2)CO_(3)、MnO_(2)粉末を用い、LiMn_(2)O_(4)、Li_(1.1)Mn_(1.9)O_(4)の組成となるようにそれぞれ秤量し、混合した。次いで酸化雰囲気中、800℃、24時間の焼成を行い、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムを合成した。得られた試料は、共に図2のX線回折図に示すようICDD35-0782のスピネル構造を有するFd3m立方晶マンガン酸リチウムと同定された。」

1コ 「【0046】
(正極活物質の調製1)
合成した燐酸マンガンリチウムとマンガン酸リチウムを表1に示す割合(質量%)となるように乾式混合して、正極活物質をそれぞれ調製した。
【0047】



1サ 「【0050】
(室温初期充電容量の評価)
作製したコインセル(実施例1?7、比較例1及び比較例2)を室温にて正極活物質の容量に応じて、0.02、0.1、0.5mA/cm^(2)レートの定電流で4.5Vまで充電後、同じレートの定電流で3Vまで放電した際の放電容量を求めた。その結果を表2に示す。
【0051】



1シ 「【0052】
(高温初期充電容量の評価)
次に、上記実施例と同じ要領で作製したコインセル(実施例1?7、比較例1及び比較例2)を内温60℃に設定した恒温槽内に設置し、前述と同じ試験条件で充放電試験した際の放電容量を求めた。その結果を表3に示す。
【0053】



1ス 「【0056】
(サイクル特性の評価2)
また、上記実施例と同じ要領で作製したコインセル(実施例8?31)を内温60℃に設定した恒温槽内に設置し、0.1mA/cm^(2)の充放電電流で3?4.5V間の電圧規制条件で充放電サイクルを100サイクルまで行い、100サイクル経過後の放電容量維持率(%)を測定した。結果を表5?7に示す。
【0057】

【0058】



(2-2)引用例1に記載された発明
上記(2-1)の摘記事項について検討する。
ア 上記1イ及び1ウによれば、スピネル型マンガン酸リチウムは、大型の電池を安価に作製できるとともに、電池異常時の安全性も向上させることができるが、充放電容量が低く、高温下における容量低下が著しいという問題があり、一方、オリビン型燐酸マンガンリチウム(LiMnPO_(4))は4V容量を示し、スピネル型マンガン酸リチウムに対し、Mn当たり1.5倍近くの容量を有するが、電気伝導性が低いため、電池の内部抵抗が高くなり、レート特性が極めて低くなるという問題があった。
そこで、上記の問題に鑑みて、引用例1において解決しようとする課題(以下単に「課題」という。)は、4V領域の高電位を示し、高容量、安全性、サイクル特性に優れているとともに、高温特性にも優れた非水電解質二次電池用正極を提供することである。

イ 引用例1において、上記課題を解決する手段は、上記1エによれば、オリビン型燐酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウムとを混合したものを非水電解質二次電池の正極活物質とすることであり、このような混合した正極活物質とすることにより、上記1オによれば、オリビン型燐酸マンガンリチウムの短所であるレート特性の低さを、スピネル型マンガン酸リチウムの高レート特性の良さで補完することができるとともに、スピネル型マンガン酸リチウムの短所である理論容量の低さ及び高温保存寿命の短さを、オリビン型燐酸マンガンリチウムの長所である理論容量の大きさ及び高温特性の良さで補完することができる。

ウ 上記1カによれば、引用例1において用いられる、オリビン型燐酸マンガンリチウムの一般式は、LiM1_(x)Mn_(1-x)PO_(4)(M1:マンガン以外の1種以上の金属元素、0≦x(置換量)≦0.5(より好ましくは、0≦x≦0.3))であり、好ましい金属元素M1としてV等が例示されている。

エ 上記1キによれば、オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合として、10?90質量%が好ましい。その理由は、オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合が10質量%未満である場合、スピネル型マンガン酸リチウムの短所である理論容量の低さ及び高温保存寿命の短さを補完することができないからであり、オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合が90質量%を超過する場合、オリビン型燐酸マンガンリチウムの短所であるレート特性の低さを、後者スピネル型マンガン酸リチウムの高レート特性の良さで補完することができないからである。

オ 上記イ?エの検討によれば、引用例1において、上記課題を解決する手段は、オリビン型燐酸マンガンリチウムと、スピネル型マンガン酸リチウムとを、オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合が10?90質量%となるように混合したものを非水電解質二次電池の正極活物質とすることであり、上記1スの表6には、そのような正極活物質の実施例として、正極活物質1であるLiMn_(0.9)V_(0.1)PO_(4)と、正極活物質2であるLiMn_(2)O_(4) とを50:50で混合した実施例24が記載されており、60℃において充放電を100サイクル行った後の容量維持率が81%と優れた値となることが示されている。なお、上記LiMn_(0.9)V_(0.1)PO_(4) がオリビン型燐酸マンガンリチウムであり、上記LiMn_(2)O_(4) がスピネル型マンガン酸リチウムであることは、上記1ケに説明されている。

カ 以上のとおり、オリビン型燐酸マンガンリチウムの混合割合が10?90質量%となるように、オリビン型燐酸マンガンリチウムとスピネル型マンガン酸リチウムとを混合したものを非水電解質二次電池の正極活物質とすることによって、引用例1の課題を解決することができるが、上記混合される2種類の正極活物質は、単独で使用する場合においても二次電池の正極活物質として機能するものであることが、引用例1に次のとおり示されている。
すなわち、上記1コの表1には、比較例2としてオリビン型燐酸マンガンリチウム100質量%の正極活物質が記載されており、当該比較例2は、室温での放電容量を示した上記1サの表2においては、0.02mA/cm^(2)、0.1mA/cm^(2)、0.5mA/cm^(2)のいずれの電流値においても、その放電容量はそれぞれ30mAh/g、20mAh/g、10mAh/gと、実施例1?7に比べて極端に低い値となっているが、高温(60℃)での放電容量を示した上記1シの表3においては、0.02mA/cm^(2)、0.1mA/cm^(2)、0.5mA/cm^(2)のいずれの電流値においても、放電容量はそれぞれ160mAh/g、140mAh/g、120mAh/gと、実施例1?7よりも優れた値となっていることから、高温(60℃)での容量特性を重視する場合には、100質量%のオリビン型燐酸マンガンリチウムは優れた正極活物質として機能するものであることが理解できる。

キ したがって、上記1シの表6に記載された、実施例24の正極活物質を構成する正極活物質1である、LiMn_(0.9)V_(0.1)PO_(4)は、LiMn_(2)O_(4) と混合すれば特性が改善されるものではあるが、単独で使用しても二次電池の正極活物質として機能するものであるといえる。

ク 以上、上記1ア?1スの記載事項を、上記ア?キの検討事項に基づいて、実施例24の正極活物質1に注目して、本願補正発明の記載ぶりに則して整理すると、引用例1には以下に示す発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「組成式LiMn_(0.9)V_(0.1)PO_(4)で表され、オリビン型構造を有する二次電池用正極活物質。」

(3)本願補正発明と引用発明の対比と判断
ア 引用発明の「組成式LiMn_(0.9)V_(0.1)PO_(4)」は、本願補正発明の「組成式Li_(w)Mn_(1-x)V_(x)PO_(4)」において、w=1、x=0.1に該当するものであるから、本願補正発明の「組成式Li_(w)Mn_(1-x)V_(x)PO_(4)(0<w≦1、0.01<x≦0.20)」に相当する。

イ 引用発明の「組成式LiMn_(0.9)V_(0.1)PO_(4)」が「リン酸塩」であることは明らかである。

ウ 引用発明の正極活物質は、引用例1にいうところの、オリビン型燐酸マンガンリチウムであるところ、上記(2-2)オで検討したように、引用発明の正極活物質は、スピネル型マンガン酸リチウムのLiMn_(2)O_(4) と混合することにより実施例24の正極活物質となるものであるが、引用発明の正極活物質自体は、上記1ケに記載された製造方法からもわかるように、上記スピネル型のLiMn_(2)O_(4) を含有するものではなく、不可避的に含まれる不純物を除いて、その他の成分を意図的に含有するものでもないから、本願補正発明の「スピネル型マンガン酸リチウムが混合された正極活物質を除く」との条件を満たすものであり、また、「組成式Li_(w)Mn_(1-x)V_(x)PO_(4)(0<w≦1、0.01<x≦0.20)で表され、オリビン型構造を有するリン酸塩からなる二次電池用正極活物質」に該当するものである。

エ そうすると、本願補正発明と引用発明に、発明特定事項についての差異を見出すことはできず、本願補正発明と引用発明との間に相違点は存在しない。

オ 以上のとおり、本願補正発明と引用発明との間に相違点は存在せず、本願補正発明は、引用例1に記載された発明であるので、本願補正発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(4)予備的な検討(進歩性について)
(4-1)相違点についての判断
上記(3)で検討したとおり、本願補正発明と引用発明との間に相違点は存在せず、本願補正発明は引用例1に記載された発明であるが、仮に、「Vの置換量(x)」が、引用発明においては「0.10」であるのに対して、本願補正発明においては「0.01<x≦0.20」である点で相違するものとした場合に(以下、この相違点を「相違点1」という。)、引用発明において、相違点1に係る本願補正発明の特定事項とすることが容易になし得ることであるかについて、以下、予備的に検討を行う。

ア 引用例1の上記1カの記載によれば、引用例1において課題を解決する手段である非水電解質二次電池の正極活物質を調整する際に使用されるオリビン型燐酸マンガンリチウムの一般式は、LiM1_(x)Mn_(1-x)PO_(4)であり、ここで、M1はV等の金属元素を表し、xは、0≦x(置換量)≦0.5、より好ましくは0≦x≦0.3である。そして、Vの置換量(x)を上記の範囲とする技術的意義は、電池反応に寄与しない異相の生成を防止し、単相物質を得ることができるということ、つまり、高容量の正極活物質が得られるということである。

イ してみると、引用発明を認定する基礎となった実施例24の正極活物質に含まれている、オリビン型燐酸マンガンリチウムのLiMn_(0.9)V_(0.1)PO_(4)は、上記アに記載したVの置換量(x)が0.1に該当するものであると認められるところ、上記アで検討したとおり、上記Vの置換量(x)は、0.1のみでなく、高容量の正極活物質を得ることができるので好ましいとされた、0?0.3の範囲の任意の値とすることが可能であるといえる。

ウ そして、正極活物質の容量が大きいものが好ましいとの観点から、上記Vの置換量(x)が取り得る0?0.3の範囲において、Vの置換量(x)が0.1である場合と同等以上の容量が得られる範囲に拡張することにより、Vの置換量(x)を0.1に隣接する値、すなわち、「0.01<x≦0.20」の範囲内の値とすることは、通常の創作能力を発揮することにより、当業者が容易になし得ることである。
つまり、引用発明において、相違点1に係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(4-2)本願補正発明の効果について
ア 本願補正発明の効果について、本願明細書には次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
「【0009】
本発明の二次電池用正極活物質は、リチウム、マンガン、リン、酸素およびバナジウムの各元素を含み、かつ、オリビン構造の化合物を含有し、マンガンとバナジウムの原子数の和に対するバナジウムの原子数の比率が20%以下であることを特徴とする。この構成により、バナジウムを含まない場合と比べて、電池の高率放電時の放電容量維持率を大きくすることができる。
【0010】
好ましくは、前記二次電池用正極活物質において、マンガンとバナジウムの原子数の和に対するバナジウムの原子数の比率が1%以上15%以下である。これにより、バナジウムを含まない場合と比べて、電池の高率放電時の放電容量および放電容量維持率を大きくすることができる。
【0011】
さらに好ましくは、前記二次電池用正極活物質において、マンガンとバナジウムの原子数の和に対するバナジウムの原子数の比率が5%以上10%以下である。これにより、バナジウムを含まない場合と比べて、電池の0.1CmA放電時の放電容量を同等以上に維持しながら、高率放電時の放電容量および放電容量維持率を大きくすることができる。」

イ 上記アで摘記した本願明細書の記載によれば、本願補正発明は、Vの置換量(x)を「0.01<x≦0.20」と特定することによって、バナジウムを含まない場合と比べて、電池の高率放電時の放電容量および放電容量維持率を大きくすることができるとの効果を奏するものである。
なお、本願明細書においては、「マンガンとバナジウムの原子数の和に対するバナジウムの原子数の比率」をモル%で表示したものを「V添加量」と記載しているが、本件補正後の請求項1に記載された「x」自体は原子数の比率で表示したものであるところ、この「x」についての呼称は記載されていないので、原子数の割合で表示した場合には、以下、引用例1に従って「Vの置換量」という。つまり、「V添加量」=「Vの置換量」×100の関係を有している。

ウ さらに、本願明細書には、放電電流0.1CmAと放電電流2CmAにおける放電試験を行うことによって、前者の試験で測定された放電容量に対する、後者の試験で測定された放電容量の比率から求めた「放電容量維持率(%)」が表2に記載されている。





エ 上記表2によれば、V添加量が10%のとき、2CmAの放電容量が最大値の「70.1mAh/g」となっており、0.1CmAの放電容量も「87.5mAh/g」という実施例1?6の中でも比較的高い値となっており、放電容量維持率も「80.1%」という実施例1?6の中でも比較的高い値となっている。つまり、V添加量が10%のときの、放電容量と放電容量維持率は、その他のV添加量の場合に比べて同等であるか優れたものとなっており、換言すれば、本願補正発明におけるV添加量の範囲「0.01<x≦0.20」のうち、V添加量が10%以外である場合の効果は、V添加量が10%のときの効果に比べて、格別顕著なものということはできない。

オ 一方、引用発明は、上記(3)アに記載したように、本願補正発明においてVの置換量(x)が0.1である場合に該当するものであるから、上記エの検討によれば、上記(4-1)で検討したように、Vの置換量(x)を「x=0.10」に代えて「0.01<x≦0.20」の範囲内の値とすることによって、格別顕著な効果が得られるものではない。

(4-3)予備的な検討のまとめ
以上から、本願補正発明においてVの置換量(x)が0.1である場合に該当する引用発明において、Vの置換量(x)を「0.01<x≦0.20」の範囲内の値とすること、すなわち、相違点1に係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。
また、本願補正発明の奏する効果も、引用発明の奏する効果と比べて、格別顕著なものということもできない。

なお、この予備的な検討は、本件補正後の請求項1に、仮に、「x=0.1の場合を除く」との特定事項を追加し、いわゆる「除くクレーム」の除く範囲をさらに追加する補正を行うことにより、引用発明と同一であるとの拒絶理由を解消することができるとしても、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとの拒絶理由までは解消することができないことを意味している。

(5)独立特許要件についてのまとめ
したがって、上記(3)に示したとおり、本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。

5 補正の却下の決定のむすび
以上の次第で、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正(平成28年 3月 3日に提出された手続補正書による手続補正)は却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成27年11月10日に提出された手続補正書によって補正がなされた特許請求の範囲の請求項1?5に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
組成式Li_(w)Mn_(1-x)V_(x)PO_(4)(0<w≦1、0.01<x≦0.20)で表され、オリビン型構造を有するリン酸塩を主成分とする二次電池用正極活物質(但し、スピネル型マンガン酸リチウムが10?90質量%混合された正極活物質を除く)。」

2 引用例1の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項と引用発明については、前記第2の4の(2)において、摘記及び認定したとおりである。

3 対比・判断
ア 前記第2の4の(3)ア、イにおいて検討したとおり、引用発明の「組成式LiMn_(0.9)V_(0.1)PO_(4)で表され、オリビン型構造を有する二次電池用正極活物質」は、本願発明の「組成式Li_(w)Mn_(1-x)V_(x)PO_(4)(0<w≦1、0.01<x≦0.20)で表され、オリビン型構造を有するリン酸塩」に相当する。

イ 本願発明の「主成分とする」点について、平成27年11月10日付けの意見書の記載を確認すると、
「この補正は、本願明細書の次の(1)?(4)の記載等を根拠としています。
(1)『本実施形態の二次電池用正極活物質は、主としてオリビン型構造を有するリン酸塩を含むものである。X線回折(XRD)測定のプロファイルによれば、バナジウムの大部分はLiMnPO_(4)のMnサイトに存在するものと考えられ、本実施形態の二次電池用活物質の主成分は平均組成がLi_(w)Mn_(1-x)V_(x)PO_(4)(0<w≦1、0<x≦0.20)で表されるものと考えられる。』(段落0019)
(2)『図1に実施例および比較例の活物質粒子のXRDプロファイルを示す。図1において、バナジウムを含まない比較例ではオリビン型結晶構造に帰属する回折ピークのみが観測された。これに対して、実施例1?6においてマンガンの一部をバナジウムで置換した場合でも、V添加量が20モル%に及ぶ実施例6に至るまで、オリビン型結晶構造に由来するXRDプロファイルが維持されている。このことから、実施例1?6においても、バナジウムのほとんどはLiMnPO_(4)のMnサイトに存在し、オリビン型結晶構造を有するLiMn_(1-x)V_(x)PO_(4)が主たる成分であったと考えられる。』(段落0036)
(3)『一方で、実施例1?6では、オリビン型結晶構造に帰属されないピークが、2θ=23.4°、34.2°、36.7°付近に観測された。このことからバナジウムの一部は上記オリビン型結晶構造を有する相とは異なる相を形成している可能性もある。しかし、詳細は不明である。』(段落0037)
(4)『表2』の比較例及び実施例の記載
一般に、特許請求の範囲に『主成分とする』なる語を用いた場合には、技術的範囲が不明確となる場合がありますが、本願においては、上記(1)?(3)の記載からもわかるように、本願発明に係る正極活物質は、Li_(w)Mn_(1-x)V_(x)PO_(4)で表されるオリビン型結晶構造を有するリン酸塩(主成分)の他に、上記オリビン型結晶構造を有する相とは異なる相が微量含まれる可能性があることを表現したものである。」(下線は当審が付与した。)
と記載していることから、本願発明において、「組成式Li_(w)Mn_(1-x)V_(x)PO_(4)(0<w≦1、0.01<x≦0.20)で表され、オリビン型構造を有するリン酸塩」を「主成分とする」との特定事項を有していることは、本願発明の正極活物質において、オリビン型結晶構造を有する相とは異なる相が微量含まれる可能性があることを意味しており、このことを別の観点から言えば、本願発明は、マンガンの一部をバナジウムで置換させることにより、そのXRDプロファイルに、オリビン型結晶構造に帰属されないピークが観測されることを意味している。
一方、引用例1には、図1にLiMnPO_(4)のX線プロファイルが示されているのみであって、引用発明のX線プロファイルは示されていないが、引用発明も、LiMnPO_(4)においてMnの一部をバナジウムで置き換えたものであることは、本願発明と同一であるから、引用発明のX線プロファイルを観測すれば、オリビン型結晶構造に帰属されないピークが観測されることは明らかである。
したがって、引用発明も、「組成式Li_(w)Mn_(1-x)V_(x)PO_(4)(0<w≦1、0.01<x≦0.20)で表され、オリビン型構造を有するリン酸塩」を「主成分とする」ものに相当している。

ウ 前記第2の4の(3)ウにおいて検討したとおり、引用発明の「組成式LiMn_(0.9)V_(0.1)PO_(4)で表され、オリビン型構造を有する二次電池用正極活物質」は、スピネル型のLiMn_(2)O_(4) を含有するものではないから、本願発明の「スピネル型マンガン酸リチウムが10?90質量%混合された正極活物質を除く」との条件を満たすものである。

エ そうすると、本願発明と引用発明に、発明特定事項についての差異を見出すことはできず、本願発明と引用発明との間に相違点は存在しない。
したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明である。

第4 結言
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-04 
結審通知日 2017-04-11 
審決日 2017-04-24 
出願番号 特願2012-39475(P2012-39475)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 結城 佐織  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 宮本 純
池渕 立
発明の名称 二次電池用正極活物質、活物質粒子、それらを用いた正極および二次電池  

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