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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 B60N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B60N
管理番号 1329034
審判番号 不服2016-9111  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-20 
確定日 2017-06-27 
事件の表示 特願2014-547806「シートレールのロック手段用の解放装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月27日国際公開、WO2013/092089、平成27年 1月 8日国内公表、特表2015-500767、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)11月21日(パリ条約による優先権主張 2011年12月20日、ドイツ国)を国際出願日とする特許出願であって、原審において、平成27年4月27日付けで拒絶理由が通知され、同年8月3日付けで誤訳訂正書を提出して手続補正がされて、平成28年2月18日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。原査定の謄本の送達(発送)日 同月23日。)がされ、これに対して、同年6月20日に拒絶査定不服審判が請求されて、その後、当審において平成29年1月13日付けで拒絶理由が通知され、指定期間内の同年4月4日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定に係る拒絶理由の概要は、次のとおりである
この出願の原査定時における請求項1、2、5ないし10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された、下記の引用文献A、Cに記載された発明、および、周知技術(下記引用文献D参照。)に基いて、同じく、請求項3、4に係る発明は、引用文献A、C、Dに記載された発明または周知技術に加えて、さらに他の周知技術(下記引用文献B参照。)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


<引用文献等一覧>
1.特開2002-154356号公報(引用文献A)
2.特開平07-257244号公報(引用文献B)
3.特開2008-184033号公報(引用文献C)
4.特開2006-315531号公報(引用文献D)

第3 当審で通知した拒絶理由の概要
当審において、平成29年1月13日付けで通知した拒絶理由の概要は次のとおりである。
[理由1] 本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
[理由2] 本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1、2号に規定する要件を満たしていない。
[理由3] 本願の審判請求時における下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


[理由1について]
特許請求の範囲の請求項1に「前記解放装置は、前記ハンドル(8)の不適切な負荷の場合に前記レバー(2)が損傷するのを防ぐ安全手段を有し、前記ばね手段(3)は前記安全手段の一部である、」という記載があるとおり、本願請求項1に係る発明は、解放装置が「前記ハンドル(8)の不適切な負荷の場合に前記レバー(2)が損傷するのを防ぐ安全手段」を有すること、及び、「前記ばね手段(3)は前記安全手段の一部である」との発明特定事項を技術的特徴点とする発明である。
上記の安全手段に関して、発明の詳細な説明の段落【0018】に、「好ましくは、締結手段12、特にラッチ締結手段が、ハンドル8とレバー2の間に設けられる。ハンドル8とレバー2の間の前記締結手段12は、ハンドル8が不適切に作動されたときに、すなわち、例えば反時計回りに回転されすぎたときに、図4cに示すように、ハンドルがレバーから解放されるように、好ましくは設計される。」と記載されており、この記載によれば、上記の「安全手段」は、「締結手段12、特にラッチ締結手段が、ハンドル8とレバー2の間に設けられる」ことにより構成されるものと解される。
しかし、締結手段12あるいはラッチ締結手段が具体的にどのようなものであるのかが不明であるし、また、請求項8に記載されているように、「前記レバーの端部は、形状嵌め、圧力嵌め及び/又は材料接続によってハンドルに接続される」というのであれば、レバーの端部とハンドルとの間に、締結手段が介在しうる余地(スペース)もないと考えられる。
更に、「前記ばね手段(3)は前記安全手段の一部である」というが、ばね手段(3)がその一部を構成する「安全手段」とは、具体的にどのようなものであるのかが全く不明である。なお、上記段落【0018】では、「不適切な負荷がもはやハンドル8に加えられなくなるとすぐに、ばね3がハンドル8及び/又は締結手段12をその元の位置(図4bを参照)に戻すように、ハンドル8とレバー2の間の接続、締結手段12及び/又はばね手段3を設計することができることも、当業者には理解される。」としているが、「不適切な負荷がもはやハンドル8に加えられなくなるとすぐに、ばね3がハンドル8及び/又は締結手段12をその元の位置に戻す」ことと、「前記ハンドル(8)の不適切な負荷の場合に前記レバー(2)が損傷するのを防ぐ」こととは、直接関係しないと解される。
そして、発明の詳細な説明のその他の段落の記載や図面の記載をみても、請求項1でいう「安全手段」とは、具体的にどのようなものであるのか、やはり不明である。
以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1の発明を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載したものとはいえない。

[理由2について]
上記「理由1について」で指摘したように、上記段落【0018】に記載されている、「不適切な負荷がもはやハンドル8に加えられなくなるとすぐに、ばね3がハンドル8及び/又は締結手段12をその元の位置に戻す」ことと、「前記ハンドル(8)の不適切な負荷の場合に前記レバー(2)が損傷するのを防ぐ」こととは直接関係しない。また、発明の詳細な説明のその他の段落の記載や図面の記載をみても、「ばね手段(3)は前記安全手段の一部である」発明が示されているとはいえない。
したがって、「前記ばね手段(3)は前記安全手段の一部である」ことを発明特定事項とする本願請求項1の発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
そして、上述のとおり、本願請求項1に係る「安全手段」がどのようなものであるのかが不明である以上、本願請求項1の発明が明確であるとはいえない。

[理由3について]
・請求項1ないし10
・引用文献 特開2004-51082号公報(当審において新たに引用した文献であって、以下「引用例」という。)
・備考
引用例(特に、段落【0001】?【0012】、【0019】?【0027】、【0031】、及び、図1?7、8?12を参照。)

・本願請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)について
引用例に記載されている発明(以下「引用発明」という。)では、「(ロックプレート4a後端側の)掛止め片44」が、「複数の突歯47と噛み合うことにより、アッパーレール2aがロアレール2bに係合施錠され」る。
そして、上記の「係合施錠」は「ロック」することと同義であるから、引用発明では、掛止め片44と複数の突歯47とで、「ロック手段」を形成しているといえる。
してみれば、引用発明の「ロックプレート4a」は、本願発明1の「他端がロック手段(6)と協働するレバー(2)」に相当し、同様に、「(ロックプレート4aの前寄り側部に連結される)操作レバー4b」は、「(レバー(2)の一端に設けられた)ハンドル(8)」に相当する。また、引用発明の「コイルスプリング43及び持上げスプリング12」は「ばね手段」といえるものであって、引用発明では、このばね手段によってロックプレート4a(レバー)を「上方にバネ付勢」する(受動位置へとプレテンションを与える)と共に、「荷物が操作レバー(ハンドル)に当ることによる荷物の傷付きや変形」を防ぐ安全装置を構成していると認められる。

したがって、本願発明1と引用発明とは次の点で相違する。
(相違点) 安全装置に関して、本願発明1は「ハンドル(8)の不適切な負荷の場合に前記レバー(2)が損傷する」のを防ぐのに対し、引用発明は「荷物が操作レバー(ハンドル)に当ることによる荷物の傷付きや変形」を防ぐ点。

上記の相違点について検討すると、引用発明においても、荷物が重いものであったり、硬いものである場合には、荷物が操作レバー(ハンドル)に当ることにより、操作レバー(ハンドル)やロックプレート(レバー)が損傷することは十分想定されるから、引用発明において、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到しうる程度の事項といえる。

よって、本願発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・本願請求項2ないし10に係る発明(以下「本願発明2ないし10」という。)について
本願発明2ないし10に係る発明特定事項は、実質上、引用発明と同様であるか、または、通常の設計的事項をいうものにすぎない。

よって、本願発明2ないし10も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 本願の発明
本願の請求項1ないし8に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、平成29年4月4日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
レバー(2)を有し、前記レバー(2)の一端にハンドル(8)が設けられ、前記レバー(2)の他端がロック手段(6)と協働する解放装置(1)であって、
前記レバー(2)は、前記ロック手段(6)とのロック位置へと前記レバー(2)を付勢するばね手段(3)を有し、
前記ばね手段(3)によって、前記レバー(2)は自動車シートのアッパーレール(5)に回転可能に取り付けられ、
前記ハンドル(8)は、前記レバー(2)の前記一端に、形状嵌め及び/又は圧力嵌めによって前記一端との整合位置から解放可能に嵌められるように構成され、
前記ばね手段(3)は、前記ハンドル(8)を前記一端との前記整合位置へと付勢するべく構成される、解放装置。
【請求項2】
前記ロック手段(6)は、前記アッパーレール(5)をロアレールに解放可能にロックする、請求項1に記載の解放装置(1)。
【請求項3】
前記ばね手段(3)は、ワイヤから製造される脚ばねである、請求項1又は2に記載の解放装置(1)。
【請求項4】
前記脚ばねのワイヤは、前記レバー(2)の凹部(2.1)と前記アッパーレール(5)の凹部(5.1)の両方を貫通し、結果として回転軸受として機能する、請求項3に記載の解放装置(1)。
【請求項5】
前記ばね手段(3)は、一方で前記レバー(2)に接続され、他方で前記アッパーレール(5)に接続される板ばねとして設計される、請求項1又は2に記載の解放装置(1)。
【請求項6】
前記レバー(2)は、一体的に製造された板金曲げ部品である、請求項1から5のいずれか1項に記載の解放装置(1)。
【請求項7】
前記アッパーレール(5)は少なくとも部分的に前記レバー(2)を受け入れる、請求項1から6のいずれか1項に記載の解放装置(1)。
【請求項8】
前記ハンドル(8)は、前記ハンドル(8)に不適切な負荷が加わる場合に前記一端との整合位置から解放される請求項1から7のいずれか1項に記載の解放装置(1)。」

第5 引用例の記載事項(以下の下線は、いずれも審決で付した。)
引用例には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、シート全体を車内の前後方向にスライドレールで位置移動可能に設置するスライド式自動車用シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車用シートとしては、図8で示すようなシートクッションフレーム1を備えるものがある。そのシートクッションフレーム1は、パン状の前部フレーム1aと、前部フレーム1aの両側にあてがい固定される左右の側部フレーム1b,1cと、側部フレーム1b,1cの後側間に掛渡し固定される後部フレーム1dとから組み立てられている。
【0003】
そのシートクッションフレーム1は、図9で示す(片側のみ図示)ように側部フレーム1bの下部側に取り付けられるアッパーレール2aと、アッパーレール2aをスライド可能に支持するロアレール2bとを備え、ロアレール2bをスタンド脚部3a,3bで車体のフロア面に取り付けることにより、シート全体を車内の前後方向に位置移動可能に設置されている。」
「【0006】
そのスライドレール2には、図9並びに図10で示すようにスライドロック4が備え付けられている。このスライドロック4は、各アッパーレール2aの側部に配置するロックプレート4aと、左右のロックプレート4aに掛け渡される操作レバー4b(図8参照)とを備えて組み立てられている。
【0007】
ロックプレート4aは、各アッパーレール2aの前後方向に沿って位置し、長手方向の略中腹辺をスライド基部20a,20bの板面に挿通固定された支軸40で軸承枢着することにより上下方向に揺動可能に取り付けられている。また、支軸40を中心とする半円弧状の長穴41を後端寄り板面に設け、アッパーレール2aの板面より突出するガイドピン42を長穴41に挿通させて揺動ガイド可能に取り付けられている。
【0008】
そのロックプレート4aは、支軸40を支点に、後端寄りをコイルスプリング43で常時上方にバネ付勢するよう取り付けられている。コイルスプリング43は、片バネ端を側部フレーム1bの板面より切り曲げた突片43aに掛け止めると共に、他バネ端をロックプレート4aの上端縁から折り曲げた突片43bの掛け止めることにより側部フレーム1bとの間に備え付けられている。
【0009】
そのロックプレート4aは、下端縁より側方に張り出す掛止め片44を有し、複数の受け穴45を掛止め片44の板面に設け、掛止め片44をスライド基部20a,20bの長手方向に形成したスリット46から内曲げフランジ22aの下側に張り出させて取り付けられている。このロックプレート4aに対し、掛止め片44の受け穴45と噛み合う複数の突歯47が内曲げフランジ22aの下端辺を長手方向に向かって凹凸状に切り欠くことによりロアレール2bに設けられている。」
「【0020】
【発明の実施の形態】
以下、図1?図7を参照して説明すると、図示実施の形態は、図8で示すと同様なシートクッションフレームをベースとし、図9並びに図10で示すと同様なスライドレール並びにスライドロックを備えて構成されている。この構成中、図8?図10のものと共通の構成部分は同じ符号で示し、異なる構成部分は別の符号で示す。」
「【0022】
操作レバー4bとしては、パイプ部材を平面略コ字状に軸曲げすると共に、両後端寄りを扁平に押潰し成形した軸曲げ部材が備えられている。この操作レバー4bは、図2で示す(片側のみ図示)ように後端寄りをロックプレート4aの前寄り側部に支軸10で連結することにより、各ロックプレート4aの前端寄り間に掛け渡されている。また、図3でも示すように操作レバー4bの支軸10で軸受けした軸部分より前側の軸部分を上側から受け止める張出し片11がロックプレート4aに設けられている。
【0023】
操作レバー4bとロックプレート4aとの間には、操作レバー4bを張出し片11に押付け付勢する持上げスプリング12が掛け渡されている。このスプリング12としては、中央のコイル部12aと、中央のコイル部12aより前後方向に伸びるバネアーム部12b,12cを有する捩りコイルバネが備え付けられている。」
「【0025】
このように構成するスライドロックを備える自動車用シートでは、通常時はロックプレート4aの後端側がコイルスプリング43で常時上方にバネ付勢されているため、掛止め片44が受け穴45で複数の突歯47と噛み合うことにより、アッパーレール2aがロアレール2bに係合施錠されている(図2参照)。
【0026】
操作レバー4bを引上げ操作すると、図5で示すようにロックプレート4aが張出し片11と共に支軸10を支点に、後端側が時計回りの下方に傾動することにより施錠解除される。このスライドロックを開錠すると、シート全体をアッパーレール2aでロアレール2bに沿って車内の前後方向いずれにも位置移動できる。また、操作レバー4bから手を離せば、ロックプレート4aの後端側をコイルスプリング43で上方に復帰動させてアッパーレール2aをロアレール2bに施錠復帰する。
【0027】
このスライドロックでは、荷物が操作レバー4bに当ることがあっても、図6で示すように操作レバー4bが支軸10を支点に捩りコイルバネ12でバネ変位することから、荷物が傷付いたり或いは変形したりするのを確実に防げる。」
「図1、2、5、6から、ロックプレート4aの一端には操作レバー4bが設けられ、ロックプレート4aの他端には掛止め片44が設けられていることが看取できる。」

上記の記載事項を総合すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認定できる。
「自動車用シートに取り付けられる各アッパーレール2aの側部に配置するロックプレート4aと、左右のロックプレート4aに掛け渡される操作レバー4bとを備えるスライドロック4であって、
ロックプレート4aの一端には操作レバー4bが設けられ、ロックプレート4aの他端には掛止め片44が設けられ、
ロックプレート4aは、各アッパーレール2aに支軸40で軸承枢着することにより上下方向に揺動可能に取り付けられる一方、後端寄りをコイルスプリング43で常時上方にバネ付勢するよう取り付けられており、
通常時はロックプレート4aの後端側がコイルスプリング43で常時上方にバネ付勢されているため、掛止め片44の受け穴45がロアレール2bに設けた複数の突歯47と噛み合うことにより、アッパーレール2aがロアレール2bに係合施錠されており、
操作レバー4bは、後端寄りをロックプレート4aに支軸10で連結することにより、各ロックプレート4aの前端寄り間に掛け渡され、ロックプレート4aには操作レバー4bの前側の軸部分を上側から受け止める張出し片11が設けられていて、操作レバー4bを引上げ操作すると、ロックプレート4a後端側が時計回りの下方に傾動することにより施錠解除され、
操作レバー4bとロックプレート4aとの間には、操作レバー4bを張出し片11に押付け付勢する持上げスプリング(コイルバネ)12が掛け渡されていて、荷物が操作レバー4bに当ることがあっても、操作レバー4bが支軸10を支点に捩りコイルバネ12でバネ変位することから、荷物が傷付いたり或いは変形したりするのを確実に防げるスライドロック。」

第6 当審で通知した拒絶理由についての判断
1.[理由1、2について]
(1)当審では、上記拒絶理由において、本願の発明における「安全手段」とは、具体的にどのようなものであるのかが不明である旨を指摘した。
これに対し、平成29年4月4日付けの手続補正によって、特許請求の範囲において「安全手段」という記載を削除し、「前記レバー(2)は、前記ロック手段(6)とのロック位置へと前記レバー(2)を付勢するばね手段(3)を有し」、「前記ばね手段(3)によって、前記レバー(2)は自動車シートのアッパーレール(5)に回転可能に取り付けられ」、「前記ハンドル(8)は、前記レバー(2)の前記一端に、形状嵌め及び/又は圧力嵌めによって前記一端との整合位置から解放可能に嵌められるように構成され」、及び「前記ばね手段(3)は、前記ハンドル(8)を前記一端との前記整合位置へと付勢するべく構成される」とする補正がされた。
上記の補正により、「レバー(2)」、「ばね手段(3)」、及び「ハンドル(8)」に係る具体的な構成及び機能、並びにそれぞれの構成相互間の関連性が明らかにされたので、発明の詳細な説明に記載されている「解放装置」という発明の態様は明確なものといえる。
また、同日付の意見書において、「「締結手段12」は、図4bと図4cとの対比から明らかなように、レバー2のなす図中左側の直線部分とハンドル8のなす図中右側の直線部分とが整合するときに両者を締結するための締結手段を示す。例えば、図4cにおいて「締結手段12」は下向き凸部を形成するように描かれ、当該凸部が、レバー2の下面に形成された凹部に嵌まり合うように構成される。」(5頁2?6行)との説明がなされた。
上記の説明は、図4b、4cと、段落【0018】の記載内容との関連を補足説明したものであり、発明の詳細な説明の記載が当業者にとって理解可能なものであることを明らかにしている。
以上のとおり、当審で指摘した特許法第36条第4項第1号に係る拒絶理由1は解消したといえる。
(2)上記の補正により、本願発明1において「安全手段」との記載が削除され、また、発明の詳細な説明の記載に基づいて本願発明1が明確なものとされた。
したがって、特許法第36条第6項第1号、2号に係る拒絶理由2も解消したといえる。

2.[理由3について]
<本願発明1について>
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
後者の「スライドロック4」は、その構造、及び態様や機能等からみて、前者の「解放装置(1)」に相当し、以下同様に、「ロックプレート4a」は「レバー(2)」に、「操作レバー4b」は「ハンドル(8)」に、「自動車用シート」は「自動車シート」に、「アッパーレール2a」は「アッパーレール(5)」に、「上下方向に揺動可能に取り付けられ」は「回転可能に取り付けられ」に、それぞれ相当する。そして、後者で「係合施錠」としているのは「ロック」と同義であるから、後者では、掛止め片44と複数の突歯47とで、「ロック手段」を形成しているといえ、後者は、ロックプレート4aの一端には操作レバー4bが設けられ、ロックプレート4aの他端には掛止め片44が設けられているから、前者と同様に、「ロックプレート4a(レバー)の一端に操作レバー4b(ハンドル)が設けられ、ロックプレート4a(レバー)の他端がロック手段と協働する」ものといえる。
また、後者の「コイルスプリング43」は、通常時はロックプレート4aの後端側がコイルスプリング43で常時上方にバネ付勢されているため、掛止め片44の受け穴45がロアレール2bに設けた複数の突歯47と噛み合うことにより、アッパーレール2aがロアレール2bに係合施錠されているから、「係合施錠(ロック)位置へと前記ロックプレート4a(レバー)を付勢するばね手段」といえる。
さらに、後者において、「(荷物が操作レバー4bに当ることがあっても、)操作レバー4bが支軸10を支点に捩りコイルバネ12でバネ変位する」としているのは、操作レバー4bは、後端寄りをロックプレート4aに支軸10で連結していることから、「操作レバー4bがロックプレート4aの一端との整合位置から解放可能とされる」こと、及び「コイルバネ(持上げスプリング)12は、前記操作レバー4bを前記一端との前記整合位置へと付勢するべく構成されている」ことを示しているといえる。

したがって、両者は、
「レバーを有し、前記レバーの一端にハンドルが設けられ、前記レバーの他端がロック手段と協働する解放装置であって、
前記レバーは、前記ロック手段とのロック位置へと前記レバーを付勢するばね手段を有し、
前記レバーは自動車シートのアッパーレールに回転可能に取り付けられ、
前記ハンドルは、前記レバーの前記一端に、前記一端との整合位置から解放可能に接続されるように構成され、
ばね手段は、前記ハンドルを前記一端との前記整合位置へと付勢するべく構成される、解放装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明1は、(ロック手段(6)とのロック位置へとレバー(2)を付勢する)「ばね手段(3)によって」、前記レバー(2)は自動車シートのアッパーレール(5)に回転可能に取り付けられ、「前記ばね手段(3)」は、前記ハンドル(8)を前記一端との前記整合位置へと付勢するべ
く構成されるのに対し、引用発明は、(ロックプレート4aの)後端寄りをコイルスプリング43で常時上方にバネ付勢するよう取り付けられており、操作レバー4bとロックプレート4aとの間には、持上げスプリング(コイルバネ)12が掛け渡されていて、荷物が操作レバー4bに当ることがあっても、操作レバー4bが支軸10を支点に捩りコイルバネ12でバネ変位する点。
[相違点2]
本願発明1は、ハンドル(8)は、レバー(2)の一端に、「形状嵌め及び/又は圧力嵌めによって」前記一端との整合位置から解放可能に嵌められるように構成されるのに対し、引用発明は、操作レバー4b(ハンドル)とロックプレート4a(レバー)との接続形態が明らかでない点。

(2)判断
上記の相違点1について検討する。
引用例には、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を開示あるいは示唆する事項はなく、また、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。
そして、本願発明1は、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を備えることにより、「部品ひいては重量が削減され、取り付けが簡素化される」(段落【0005】)との作用効果を奏するものである。
したがって、他の相違点を判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

<本願発明2ないし8について>
本願発明2ないし8は、本願発明1を引用する発明であり、本願発明1と同様の理由により、本願発明2ないし8も、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

以上のとおり、特許法第29条第2項に係る拒絶理由3も解消したので、当審で通知したいずれの拒絶理由も解消したといえる。

第7 原査定についての判断
1.本願の発明の特徴的な構成
平成29年4月4日付けの手続補正により、当該補正後の本願発明1は、「ロック手段とのロック位置へとレバーを付勢するばね手段(3)」が、レバーを付勢する機能のみにとどまらず、レバーを「アッパーレールに回転可能に取り付け」る機能、ハンドルをレバーの一端との「整合位置へと付勢する」機能という、3つの機能を1つの部材(ばね手段)で果たす構成(以下「特徴的発明特定事項」という。)を備えるものとなった。

2.原査定に係る拒絶理由で引用された引用文献について
一方、原査定に係る拒絶理由で引用された引用文献A、B、C、Dに記載されている発明または周知技術は次のとおりである。
(1)引用文献Aには、特に、段落【0001】、【0013】、【0015】、【0016】、【0017】、図1ないし9の記載事項からみて、次の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。
「ロックレバー21と、バネ部材22と、操作レバー23と、板状の弾性体24を備え、車両のシートに固定されたアッパレールを車両のフロアに固定されるロアレールに解除可能にロック(固定)するロック機構であって、
バネ部材22は、ロックレバー21をロック方向に付勢しており、
板状の弾性体24は、操作レバー23の後端部23cを上方に弾撥的に保持し、
操作レバー23の非操作時は、ロックレバー21がバネ部材22によってロック位置に付勢保持され、操作レバー23を持ち上げて操作すれば、ロックが解除されて、アッパレール12がロアレール11に対して移動可能とされる、ロック機構。」
(2)引用文献Bには、車両用シートスライド装置のロック機構において、線材からなる棒状ばねを用いる周知技術が記載されている。(段落【0001】、【0018】参照。)
(3)引用文献Cには、特に、段落【0001】、【0030】、【0047】?【0049】、図1ないし7の記載事項からみて、次の発明(以下「引用発明C」という。)が記載されていると認められる。
「ロックレバー15の一端に、ワンタッチ接続を可能にするための板バネ部材21を介して操作レバー6が接合される、車両用シートの前後位置を調整、固定するスライドレール装置であって、
操作レバー6が操作されない状態においては、ロックスプリング16によってロックレバー15の係止部15aが上方向に付勢されていて、アッパーレール部材11とロアレール部材12との相対位置が固定(スライド規制)され、
操作レバー6を操作すると、ロックレバー15が回転作動して、アッパーレール部材11とロアレール部材12との相対位置の調整が可能となるが、操作レバー6の操作が解除されると、ロックスプリング16の付勢力によってロックレバー15が反対方向に回転され、レールがロックされた初期の状態に復帰されることとなるスライドレール装置。」
(4)引用文献Dには、特に、段落【0001】、【0011】、【0019】?【0022】、【0027】、図1ないし7の記載事項からみて、次の発明(以下「引用発明D」という。)が記載されていると認められる。
「シート本体を車内の前後方向にスライドレールで位置移動可能に設置するスライド式自動車用シートであって、
中央軸部を前方に張り出す略U字状に軸曲げし、左右軸部を中央軸部の軸両端より外方の直線状に軸曲げし、支軸ピン1d,1eを左右軸部に設けた引上げ操作用のロッドレバー1を備え、
コイル部16aを支軸ピン1d,1eの軸線上に嵌装し、片バネ端16bをロッドレバー側の支軸ピンの割り溝14で係止し、他バネ端16cをロックプレート3と一体的に回動するレバーブラケット2の板面で係止するコイルバネ16をロッドレバー1の持上げ偏倚用として装着して、ロッドレバー1をレバーブラケット2より下方に変位可能で、且つ、戻しバネ7で施錠方向に偏倚するロックプレート3をロック解除するよう引上げ操作可能に取り付け、
ロッドレバー1全体がコイルバネ16でレバーブラケット2より下方に変位可能に備え付けられているため、荷物が当っても、荷物が傷付いたり或いは変形したりするのを確実に防止できる、スライド式自動車用シート。」

3.対比と判断
引用発明Aにおける「操作レバー23」と「ロックレバー21」は、それぞれ、本願発明1の「ハンドル」と「レバー」に相当するが、引用発明Aでは、操作レバー23(ハンドル)をロックレバー21(レバー)に対して「整合位置から解放可能」とし、「整合位置へと付勢する」ことが想定されていないし、ロックレバー21(レバー)をロック方向に付勢する「バネ部材22」と、操作レバー23(ハンドル)の後端部23cを上方に弾撥的に保持(付勢)する「板状の弾性体24」とは別体の部材である。
また、引用発明Cも、引用発明Aと同様に、操作レバー6(ハンドル)をロックレバー15(レバー)に対して「整合位置から解放可能」とし、「整合位置へと付勢する」ことが想定されておらず、操作レバー6とロックレバー15とが一体的に回動する構成とされている。(引用発明Cの「ワンタッチ接続を可能にするための板バネ部材21」を、「整合位置へと付勢する」部材とみることはできない。)
引用発明Dにおいて、「ロッドレバー1全体がコイルバネ16で(ロックプレート3と一体的に回動する)レバーブラケット2より下方に変位可能」とされているのは、ロッドレバー1(ハンドル)をロックプレート3(レバー)に対して「整合位置から解放可能」とすることを意味する。しかし、引用発明Dでは、ロックプレート3(レバー)をロック方向に付勢する「戻しバネ7」と、ロッドレバー1(ハンドル)を整合位置へと付勢する「コイルバネ16」とは別体の部材である。
してみれば、本願発明1が備える、1つの「ばね手段(3)」が3つの機能を果たすという上記の特徴的発明特定事項は、上記引用文献AないしDには記載されていないし、また、本願優先日前における周知技術でもない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても上記引用文献AないしDに記載された発明または周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明2ないし8は、いずれも本願発明1を引用する発明であり、本願発明1と同様の理由により、上記引用文献AないしDに記載された発明または周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-14 
出願番号 特願2014-547806(P2014-547806)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B60N)
P 1 8・ 121- WY (B60N)
P 1 8・ 536- WY (B60N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮下 浩次  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 黒瀬 雅一
畑井 順一
発明の名称 シートレールのロック手段用の解放装置  
代理人 原 裕子  
代理人 伊藤 正和  
代理人 三好 秀和  
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