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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60Q
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B60Q
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60Q
管理番号 1329041
異議申立番号 異議2016-700286  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-08 
確定日 2017-04-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5794351号発明「照明装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5794351号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第5794351号の請求項1?4、6、7に係る特許を維持する。 特許第5794351号の請求項5、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第5794351号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成23年3月30日に出願した特願2011-76185号(以下、「原出願」という。)の一部を平成26年5月16日に新たな特許出願としたものであって、平成27年8月21日に特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人藤井健一(以下、「特許異議申立人」という。)より請求項1?8に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、平成28年6月9日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月10日に意見書の提出及び訂正請求がされたものであり、同年11月15日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成29年1月20日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年3月15日付けで異議申立人から特許法第120条の5第5項に基づく通知書に対する意見書の提出があったものである。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
平成29年1月20日になされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、次のとおりである(下線部は訂正箇所を示すものである。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「発光素子と、」とあるのを、訂正後に「発光素子としてのLEDと、」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記発光素子の照射側に配置されるプリズムレンズとを備え、前記プリズムレンズは、」とあるのを、「前記発光素子の照射側に配置されるプリズムレンズであって、」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記第1反射面は、前記入射光を」とあるのを、「前記第1反射面は前方側に傾斜し、前記入射光を」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「前方側に入射された入射光を前記出射面に向けて反射し、」とあるのを、「前方側に入射された入射光を前記出射面に向けて反射し、更に、前記入射面と前記第1反射面とを接続する第3反射面を備え、該第3反射面は、前記発光素子の光軸と平行に配置形成されるプリズムレンズと、ハウジングと、前記ハウジングの開口部に被着され、細長形状のスリットが貫通形成されたキャップと、を備え、前記プリズムレンズは、前記ハウジングと前記キャップとで囲まれた収容部に収容され、前記プリズムレンズの出射面からの出射光は、前記キャップのスリットを通って外部へ放射される照明装置において、 」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「自動車室内の前方側へ傾斜している照明装置。」とあるのを、「自動車室内の前方側へ傾斜し、かつ交差する照明装置。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2に「前記プリズムレンズは、前記入射面と前記第1反射面とを接続し、前記発光素子の光軸と平行に配置形成され、前記入射面にて前記発光素子の光軸より後方側に入射された入射光を前記出射面に向けて反射する第3反射面を備える照明装置。」とあるのを、「前記第3反射面は、前記入射面にて前記発光素子の光軸より後方側に入射された入射光を前記出射面に向けて反射する照明装置。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか1項に」とあるのを、「請求項1?4のいずれか1項に」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の「発光素子」を、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0020】の記載内容を根拠として「発光素子としてのLED」に限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2は、訂正事項4との関係で表現の整合を図るための訂正であるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3は、訂正前の請求項1に係る発明の「第1反射面」に関し、明細書の段落【0025】の記載内容並びに【図2】及び【図5】を根拠として「前方側に傾斜し」との限定を付加する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4は、訂正前の請求項1に係る発明の「照明装置」において、訂正前の請求項8の記載内容を根拠として「更に、前記入射面と前記第1反射面とを接続する第3反射面を備え、該第3反射面は、前記発光素子の光軸と平行に配置形成されるプリズムレンズと、ハウジングと、前記ハウジングの開口部に被着され、細長形状のスリットが貫通形成されたキャップと、を備え、前記プリズムレンズは、前記ハウジングと前記キャップとで囲まれた収容部に収容され、前記プリズムレンズの出射面からの出射光は、前記キャップのスリットを通って外部へ放射される」との限定を付加する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5は、訂正前の請求項1に係る発明の「前記発光素子の光軸に対して自動車室内の前方側へ傾斜している」に「かつ交差する」との限定を付加する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(6)訂正事項6は、訂正前の請求項2の「前記入射面と前記第1反射面とを接続する第3反射面を備え、該第3反射面は、前記発光素子の光軸と平行に配置形成される」との特定事項が訂正事項4によって請求項1に含まれるようになったため、これと整合を図るための訂正であるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(7)訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(8)訂正事項8は、訂正事項7により請求項5が削除されたため、これと整合を図るための訂正であるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(9)訂正事項9は、特許請求の範囲の請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(10)本件訂正請求前の請求項1?8について、請求項2?8は直接又は間接的に請求項1を引用するものであり、本件訂正請求は特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 小括
したがって、本件訂正請求による訂正事項1?9は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?4、6、7に係る発明(以下、「本件発明1?4」、「本件発明6」、「本件発明7」という。また、「本件発明1?4」、「本件発明6」、「本件発明7」を総称して「本件発明」という場合もある。)は、次の事項により特定されるとおりのものである。なお、上記「第2」で述べたとおり、請求項5及び請求項8は削除された。
「【請求項1】
自動車室内の天井部に設けられる照明装置であって、
当該照明装置は、
発光素子としてのLEDと、
前記発光素子の照射側に配置されるプリズムレンズであって、
前記発光素子から照射された照射光が入射される平面状の入射面と、
前記入射面から入射された入射光を反射する平面状の第1反射面および第2反射面と、
前記第1反射面および前記第2反射面で反射された反射光を屈折し、出射光として出射する平面状の出射面と
を備え、
前記第1反射面は前方側に傾斜し、前記入射光を前記出射面に向けて反射し、
前記第2反射面は、前記第1反射面と対向し、前記入射面にて前記発光素子の光軸より前方側に入射された入射光を前記出射面に向けて反射し、
更に、前記入射面と前記第1反射面とを接続する第3反射面を備え、該第3反射面は、前記発光素子の光軸と平行に配置形成されるプリズムレンズと、
ハウジングと、
前記ハウジングの開口部に被着され、細長形状のスリットが貫通形成されたキャップと、を備え、
前記プリズムレンズは、前記ハウジングと前記キャップとで囲まれた収容部に収容され、
前記プリズムレンズの出射面からの出射光は、前記キャップのスリットを通って外部へ放射される照明装置において、
前記第1反射面で反射された後に前記出射面から出射される光線と、前記第2反射面で反射された後に前記出射面から出射される光線とは、前記発光素子の光軸に対して自動車室内の前方側へ傾斜し、かつ交差する
照明装置。
【請求項2】
請求項1に記載の照明装置において、
前記第3反射面は、前記入射面にて前記発光素子の光軸より後方側に入射された入射光を前記出射面に向けて反射する照明装置。
【請求項3】
請求項2に記載の照明装置において、
前記プリズムレンズの第3反射面は、前記発光素子の光軸に対して垂直な断面形状がアール状になったアール面状を成す照明装置。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の照明装置において、
前記プリズムレンズは、
対向して配置形成されて前記第1反射面および前記第2反射面と接続され、前記入射光を前記出射面に向けて反射する第4反射面および第5反射面を備え、
前記第4反射面と前記第5反射面との間隔が前記出射面に向かって広がるように傾斜される照明装置。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか1項に記載の照明装置において、
前記プリズムレンズは、
前記第2反射面における前記入射面の近傍にて、前記発光素子の光軸に対して直交方向に突出するリブを備える照明装置。
【請求項7】
請求項6に記載の照明装置において、
前記プリズムレンズは、
前記出射面の外周縁を囲むフランジ状のリブを備える照明装置。」

2 取消理由の概要
本件訂正請求による訂正前の請求項1?8に係る特許に対して平成28年6月9日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。

(1)取消理由1
本件発明1?8は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


引用文献:特開2012-212507号公報

上記引用文献は、特許異議申立人が提出した甲第2号証である。

本件出願は適法な分割出願とはいえないから、本件出願の出願日は、原出願の出願日に遡及せず、現実の出願日である平成26年5月16日である。 そうすると、上記引用文献は本件の出願前に頒布された刊行物である。

(2)取消理由2
本件発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


本件発明1は、「平面状の第1反射面」に関し、「発光素子の光軸と交差し」との特定事項を含んでいないから、課題を達成できなくなる場合をも含む上位概念化した発明であり、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題を認識できるように記載された範囲を超えるものである。
また、本件発明2?8においても「平面状の第1反射面」に関し、「発光素子の光軸と交差し」との特定事項を含んでいないから、本件発明2?8は、同様の理由により、発明の詳細な説明において発明の課題を認識できるように記載された範囲を超えるものである。

3 当審の判断
(1)取消理由1について
(1-1)分割要件について
ア 本件発明1は、「平面状の第1反射面」に関し、「発光素子の光軸と交差し」との構成を特定事項とはしていないものの、本件発明1が特定する全ての構成自体は、原出願である特願2011-76185号の願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、「原出願明細書等」という。甲第2号証を参照。)の記載内容及び図示内容から導き出せるものといえる。

イ 他方、原出願明細書の段落【0005】の「車室内の前方側へ光を照射するために、発光素子の光軸とプリズムの光軸とをずらして配置することが考えられるが、その場合には光の照射領域に照度や照明色のムラが生じて照明品位が低下するという問題がある。本発明は前記問題を解決するためになされたものであって、その目的は、車室内の前方側へ向けて細長い領域へ光を照射可能で照明品位が高く小型な照明装置を提供することにある。」との記載によれば、原出願の解決しようとする技術的課題は、次のとおりである。
(ア)車室内の前方側へ向けて細長い領域へ光を照射可能であること。
(イ)光の照射領域に照度や照明色のムラが生じることなく照明品位が高い こと。
(ウ)小型であること。

ウ そこで、本件発明1が、原出願の上記各技術的課題を解決し得る発明であるかを検討する。

ウ-1 上記(ア)と(ウ)の課題について
本件発明1の「前記プリズムレンズの出射面からの出射光は、前記キャップのスリットを通って外部へ放射される」との特定事項から、本件発明1は細長い領域へ光を照射可能といえ、また、本件発明1の「前記第1反射面で反射された後に前記出射面から出射される光線と、前記第2反射面で反射された後に前記出射面から出射される光線とは、前記発光素子の光軸に対して自動車室内の前方側へ傾斜し、かつ交差する」との特定事項から、本件発明1は車室内の前方側へ向けて照射可能といえるから、上記(ア)の技術的課題を解決し得る。さらに、本件発明1は、発光素子としてのLED及び原出願明細書等に開示されているプリズムレンズと同様のプリズムレンズを有する照明装置であり、小型であることも充足しているから、上記(ウ)の技術的課題を解決し得る。

ウ-2 上記(イ)の課題について
本件発明1は、「前記第1反射面は前方側に傾斜し、前記入射光を前記出射面に向けて反射し、前記第2反射面は、前記第1反射面と対向し、前記入射面にて前記発光素子の光軸より前方側に入射された入射光を前記出射面に向けて反射し、更に、前記入射面と前記第1反射面とを接続する第3反射面を備え、該第3反射面は、前記発光素子の光軸と平行に配置形成されるプリズムレンズ」であるところ、本件明細書の段落【0030】の記載内容及び【図2】の図示内容を参酌すると、「第1反射面」により反射して得られる光線L1、「第2反射面」により「前記入射面にて前記発光素子の光軸より前方側に入射された入射光を前記出射面に向けて反射」して得られる光線L3、「発光素子の光軸と平行に配置される」「第3反射面」により反射して得られる光線L2、及びLEDからの配光のうち入射面から入り直接出射面から出射される光線L4を出射し得るものであり、かつ、「前記第1反射面は前方側に傾斜し」ていることにより「LED」の配光のうち後方側に照射された光線を「第3反射面」により反射する光線より前方側に反射することが可能であることに加え、「前記第1反射面で反射された後に前記出射面から出射される」光線L1と、「前記第2反射面で反射された後に前記出射面から出射される」光線L3とは、「前記発光素子の光軸に対して自動車室内の前方側へ傾斜し、かつ交差する 」ものである。
そうすると、本件発明1は、上記ウ-1で述べた細長い領域へ光を照射する際に、各光線L1?L4が分散して照射することになるから、光の照射領域である細長い領域に照度や照明色のムラが生じないことに寄与しているといえる。

したがって、本件発明1は、全ての発明特定事項が原出願明細書等に開示され、かつ原出願明細書等に開示された技術的課題の解決にも寄与している発明といえる。

エ よって、本件発明1は原出願明細書等に記載された事項の範囲内のものであり、本件出願は適法な分割出願といえる。

(1-2)上記(1-1)で述べたとおり、本件特許に係る出願は適法な分割出願であり、本件出願の出願日は原出願の出願日である平成23年3月30日に遡及するから、平成24年11月1日に公開された引用文献(特開2012-212507号公報)は本件の原出願日(遡及日)前に頒布された刊行物ではない。
よって、本件発明1?4、本件発明6、及び本件発明7は、特許法第29条第1項第3号の規定する発明に該当しない。

(2)取消理由2について
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められるものであり、請求項1の記載は、上記「第3 1」のとおり訂正されている。
そして、本件発明1は、本件明細書の段落【0005】に記載されている「車室内の前方側へ向けて細長い領域へ光を照射可能で照明品位が高く小型な照明装置を提供する」との技術的課題に対して、上記(1-1)ウで述べたように寄与しているものである。
そうすると、本件発明1並びに本件発明1の特定事項を全て含む本件発明2?4、本件発明6、及び本件発明7は、発明の詳細な説明に記載したものといえるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由の概要
(特許法第29条第2項)
本件発明1?8は、甲第3号証及び甲第4号証に記載されている発明並びに甲第5号証?甲第7号証に記載されている事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

刊行物
甲第3号証:特開2010-182534号公報
甲第4号証:米国特許出願公開第2007/0024993号明細書
甲第5号証:特開昭63-60488号公報
甲第6号証:特開2009-262911号公報
甲第7号証:実公平7-14069号公報

2 甲第3号証?甲第7号証について
(1)甲第3号証
甲第3号証には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付与。)
ア「【0001】
本発明は、車両用照明器具に関し、特にダウンライトプリズムを備えた車両用照明器具に関する。」

イ「【0005】
〈本願発明の先行発明としての車両用照明器具〉
そこで本出願人は特許文献1記載の車両用照明器具の欠点(光源を基板に実装できない)を解決するために、プリズムを用いることで光源とレンズとの間隔を広くして、光源を基板に実装できるように考えた。
図3はそのようにして考えた先行発明の車両用照明器具を示す分解斜視図である。
図3において100が車両用照明器具で、この車両用照明器具100は、上から基板20、ダウンライトプリズム35、アウターハウジング45、3連スイッチノブ50から構成されている。アウターハウジング45には基板20とダウンライトプリズム35(以下、「プリズム35」という)と3連スイッチノブ50が実装され、基板20には発光部品(発光ダイオードLED)20Lが実装されている。
LED20Lを基板20に実装する場合、スイッチなどと同一の基板に実装するためLED20の位置が意匠面と遠くなってしまうので、LED照射の穴を小さくするためLED20Lから照射穴までをプリズム35で導光させるようにしている。」

ウ 記載事項イの記載内容並びに【図3】及び【図4】の図示内容から、ダウンライトプリズム35は、発光部品から照射された照射光が入射される平面状の入射面と、前記入射面から入射された入射光を反射する円筒周面状の反射面と、前記円筒周面状の反射面で反射された反射光を出射光として出射する平面状の出射面とを備え、前記円筒周面状の一方側の反射面(【図4】におけるダウンライトプリズム35の右側)は、前記入射光を前記出射面に他方側に向けて反射し、前記円筒周面状の他方側の反射面(【図4】におけるダウンライトプリズム35の左側)は、前記入射面にて前記発光部品の光軸より他方側に入射された入射光を前記出射面に一方側に向けて反射させることが理解できる。
また、アウターハウジング45にスリットが貫通形成され、前記ダウンライトプリズム35は、前記アウターハウジング45で囲まれた収容部に収容され、前記ダウンライトプリズム35の出射面からの出射光は、前記スリットを通って外部へ放射されることが理解できる。
以上の記載事項、認定事項、及び図示内容を総合すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。

「ダウンライトプリズム35を備えた車両用照明器具100であって、
当該車両用照明器具100は、
発光部品としての発光ダイオードLED20Lと、
前記発光部品の照射側に配置されるダウンライトプリズム35であって、
前記発光部品から照射された照射光が入射される平面状の入射面と、
前記入射面から入射された入射光を反射する円筒周面状の反射面と、
前記円筒周面状の反射面で反射された反射光を出射光として出射する平面状の出射面と
を備え、
前記円筒周面状の一方側の反射面は、前記入射光を前記出射面に他方側に向けて反射し、
前記円筒周面状の他方側の反射面は、前記入射面にて前記発光部品の光軸より他方側に入射された入射光を前記出射面に一方側に向けて反射させるダウンライトプリズム35と、
アウターハウジング45と、
前記アウターハウジング45にスリットが貫通形成され、
前記ダウンライトプリズム35は、前記アウターハウジング45で囲まれた収容部に収容され、
前記ダウンライトプリズム35の出射面からの出射光は、前記スリットを通って外部へ放射される車両用照明器具100。」

(2)甲第4号証
甲第4号証の段落[0020]?段落[0031]の記載内容及びFig.1?Fig.11の図示内容を参酌すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

「自動車室内の天井部に設けられ、光源30とレンズ20を備える照明装置において、前記レンズ20は上部セクション24、中間サポートセクション26及び下部セクション28を有し、光源30から車両前方側を向いた傾斜した光線は前記レンズ20に入射されずに中間サポートセクション26で吸収され、車両後方側を向いた傾斜した光線はレンズ20の上部セクション24における側部39で反射して車両の前方側を照射し、光源30から光軸方向を向いた光線はレンズ20で反射することなく直接通過することで、狭い照射領域を形成する照明装置。」

(3)甲第5号証
甲第5号証の3ページ右上欄15行?同左下欄4行及び同右下欄7行?10行の記載内容並びに第1図及び第2図の図示内容を参酌すると、甲第5号証には以下の事項(以下、「甲第5号証に記載されている事項」という。)が記載されていると認められる。

「車両用発光装飾品において、ランプユニット4の光線を導光板1内部およびハウジング内側面で幾重にも反射して出光面12から放射すること」

(4)甲第6号証
甲第6号証の段落【0012】?段落【0016】の記載内容並びに【図1】及び【図2】の図示内容を参酌すると、甲第6号証には以下の事項(以下、「甲第6号証に記載されている事項」という。)が記載されていると認められる。

「ドアに設けられた車両用照明装置おいて、光放出側が下方となるように固定されたLEDランプ2の光線を導光体3を通過させて第1光放出部から照射して乗降者の足元を照らすとともに、導光体3の反射部32で反射させて第2光放出部から照射して後方表示を行うこと」

(5)甲第7号証
甲第7号証の段落【0007】及び段落【0008】の記載内容及び【図1】?【図3】の図示内容を参酌すると、甲第7号証には以下の事項(以下、「甲第7号証に記載されている事項」という。)が記載されていると認められる。

「マップランプ等の車両用灯具において、光源バルブ50からの光線をレンズ3を介してスリット21から照射し、細長いスポット光を得ること」

3 対比・判断
(1)本件発明1について
(1-1)対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、
ア ダウンライトは通常、天井に設けられるものであるから、後者の「ダウンライトプリズム35を備えた車両用照明器具100」は前者の「自動車室内の天井部に設けられる照明装置」に相当する。

イ 後者の「発光部品としての発光ダイオードLED20L」は前者の「発光素子としてのLED」に相当し、後者の「ダウンライトプリズム35」は前者の「プリズムレンズ」に相当する。

ウ 後者の「前記入射面から入射された入射光を反射する円筒周面状の反射面」と前者の「前記入射面から入射された入射光を反射する平面状の第1反射面および第2反射面」とは、「前記入射面から入射された入射光を反射する反射面」という限度で共通し、後者の「前記円筒周面状の反射面で反射された反射光を出射光として出射する平面状の出射面」と前者の「前記第1反射面および前記第2反射面で反射された反射光を屈折し、出射光として出射する平面状の出射面」とは、「前記反射面で反射された反射光を出射光として出射する平面状の出射面」という限度で共通する。

エ 後者の「アウターハウジング45」は前者の「ハウジング」に相当し、後者の「前記アウターハウジング45にスリットが貫通形成され、前記ダウンライトプリズム35は、前記アウターハウジング45で囲まれた収容部に収容され、前記ダウンライトプリズム35の出射面からの出射光は、前記スリットを通って外部へ放射される」と前者の「前記ハウジングの開口部に被着され、細長形状のスリットが貫通形成されたキャップと、を備え、前記プリズムレンズは、前記ハウジングと前記キャップとで囲まれた収容部に収容され、前記プリズムレンズの出射面からの出射光は、前記キャップのスリットを通って外部へ放射される」とは、「前記ハウジングはスリットを備え、前記プリズムレンズは、前記ハウジングで囲まれた収容部に収容され、前記プリズムレンズの出射面からの出射光は、前記スリットを通って外部へ放射される」という限度で共通する。

そうすると、両者は、本件発明1の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
(一致点)
「自動車室内の天井部に設けられる照明装置であって、
当該照明装置は、
発光素子としてのLEDと、
前記発光素子の照射側に配置されるプリズムレンズであって、
前記発光素子から照射された照射光が入射される平面状の入射面と、
前記入射面から入射された入射光を反射する反射面と、
前記反射面で反射された反射光を出射光として出射する平面状の出射面と
を備えるプリズムレンズと、
ハウジングと、
前記ハウジングはスリットを備え、
前記プリズムレンズは、前記ハウジングで囲まれた収容部に収容され、
前記プリズムレンズの出射面からの出射光は、前記スリットを通って外部へ放射される照明装置。」

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点)
(相違点1)
「出射面」に関し、
本件発明1は、「前記第1反射面および前記第2反射面で反射された反射光を屈折」するのに対し、
甲3発明は、「円筒周面状の反射面で反射された反射光」を屈折するか明らかでない点。

(相違点2)
本件発明1は、「反射面」が、「平面状の第1反射面および第2反射面」を備えるとともに、「前記第1反射面は前方側に傾斜し、前記入射光を前記出射面に向けて反射し、前記第2反射面は、前記第1反射面と対向し、前記入射面にて前記発光素子の光軸より前方側に入射された入射光を前記出射面に向けて反射し、更に、前記入射面と前記第1反射面とを接続する第3反射面を備え、該第3反射面は、前記発光素子の光軸と平行に配置形成され」、「前記第1反射面で反射された後に前記出射面から出射される光線と、前記第2反射面で反射された後に前記出射面から出射される光線とは、前記発光素子の光軸に対して自動車室内の前方側へ傾斜し、かつ交差する」のに対し、
甲3発明は、「反射面」が、「円筒周面状の反射面」を備えるとともに、「前記円筒周面状の反射面で反射された反射光を出射光として出射する平面状の出射面とを備え、前記円筒周面状の一方側の反射面は、前記入射光を前記出射面に他方側に向けて反射し、前記円筒周面状の他方側の反射面は、前記入射面にて前記発光部品の光軸より他方側に入射された入射光を前記出射面に一方側に向けて反射させる」点。

(相違点3)
本件発明1は、「前記ハウジングの開口部に被着され、細長形状のスリットが貫通形成されたキャップと、を備え、前記プリズムレンズは、前記ハウジングと前記キャップとで囲まれた収容部に収容され、前記プリズムレンズの出射面からの出射光は、前記キャップのスリットを通って外部へ放射される」るのに対し、
甲3発明は、「前記アウターハウジング45にスリットが貫通形成され、前記ダウンライトプリズム35は、前記アウターハウジング45で囲まれた収容部に収容され、前記ダウンライトプリズム35の出射面からの出射光は、前記スリットを通って外部へ放射される」ものであり、細長形状のスリットであるか明らかでなく、かかるキャップを備えていない点。

(1-2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討する。
本件発明1の「照明装置」は、上記相違点2に係る構成により、本件明細書の段落【0005】に記載されているように、車両室内の前方側に向けて細長い領域へ光りを照射可能にするものである。
他方、甲3発明の「車両用照明器具100」は「前記ダウンライトプリズム35の出射面からの出射光は、前記スリットを通って外部へ放射される」ものであるが、甲第3号証の【図4】に示されたLED20Lとダウンライトプリズム35の配置関係からみて、LED20Lの光軸を中心とした領域に光を照射するものと考えられ、少なくとも甲第3号証全体を参酌しても車両室内の前方側に向けて細長い領域へ光りを照射可能にすることは記載されていない。
また、仮に、当業者が甲3発明の「車両用照明器具100」において、車両室内の前方側に向けて細長い領域へ光りを照射可能にすることを試みて、甲4発明及び甲第5号証?甲第7号証に記載されている事項を組み合わせたとしても、本件発明1の上記相違点2に係る「前方側に傾斜し」た「第1反射面」、「第1反射面と対向」する「第2反射面」、「第1反射面とを接続する」「発光素子の光軸と平行に配置形成される」「第3反射面」を備えるとともに「前記第1反射面で反射された後に前記出射面から出射される光線と、前記第2反射面で反射された後に前記出射面から出射される光線とは、前記発光素子の光軸に対して自動車室内の前方側へ傾斜し、かつ交差する」構成に至らないので、甲3発明に甲4発明及び甲第5号証?甲第7号証に記載されている事項を適用しても上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても甲3発明、甲4発明及び甲第5号証?甲第7号証に記載されている事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明2?4、本件発明6、本件発明7について
本件発明2?4、本件発明6、本件発明7は、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様に、当業者であっても甲3発明、甲4発明及び甲第5号証?甲第7号証に記載されている事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)以上のとおりであるから、特許異議申立人のかかる主張は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由1、2及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4、6、7に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件請求項1?4、6、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項5、8に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項5、8に対して、異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車室内の天井部に設けられる照明装置であって、
当該照明装置は、
発光素子としてのLEDと、
前記発光素子の照射側に配置されるプリズムレンズであって、
前記発光素子から照射された照射光が入射される平面状の入射面と、
前記入射面から入射された入射光を反射する平面状の第1反射面および第2反射面と、
前記第1反射面および前記第2反射面で反射された反射光を屈折し、出射光として出射する平面状の出射面と
を備え、
前記第1反射面は前方側に傾斜し、前記入射光を前記出射面に向けて反射し、
前記第2反射面は、前記第1反射面と対向し、前記入射面にて前記発光素子の光軸より前方側に入射された入射光を前記出射面に向けて反射し、
更に、前記入射面と前記第1反射面とを接続する第3反射面を備え、該第3反射面は、前記発光素子の光軸と平行に配置形成されるプリズムレンズと、
ハウジングと、
前記ハウジングの開口部に被着され、細長形状のスリットが貫通形成されたキャップと、を備え、
前記プリズムレンズは、前記ハウジングと前記キャップとで囲まれた収容部に収容され、
前記プリズムレンズの出射面からの出射光は、前記キャップのスリットを通って外部へ放射される照明装置において、
前記第1反射面で反射された後に前記出射面から出射される光線と、前記第2反射面で反射された後に前記出射面から出射される光線とは、前記発光素子の光軸に対して自動車室内の前方側へ傾斜し、かつ交差する
照明装置。
【請求項2】
請求項1に記載の照明装置において、
前記第3反射面は、前記入射面にて前記発光素子の光軸より後方側に入射された入射光を前記出射面に向けて反射する照明装置。
【請求項3】
請求項2に記載の照明装置において、
前記プリズムレンズの第3反射面は、前記発光素子の光軸に対して垂直な断面形状がアール状になったアール面状を成す照明装置。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の照明装置において、
前記プリズムレンズは、
対向して配置形成されて前記第1反射面および前記第2反射面と接続され、前記入射光を前記出射面に向けて反射する第4反射面および第5反射面を備え、
前記第4反射面と前記第5反射面との間隔が前記出射面に向かって広がるように傾斜される照明装置。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
請求項1?4のいずれか1項に記載の照明装置において、
前記プリズムレンズは、
前記第2反射面における前記入射面の近傍にて、前記発光素子の光軸に対して直交方向に突出するリブを備える照明装置。
【請求項7】
請求項6に記載の照明装置において、
前記プリズムレンズは、
前記出射面の外周縁を囲むフランジ状のリブを備える照明装置。
【請求項8】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-04-04 
出願番号 特願2014-102642(P2014-102642)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B60Q)
P 1 651・ 537- YAA (B60Q)
P 1 651・ 113- YAA (B60Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 竹中 辰利  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 島田 信一
森林 宏和
登録日 2015-08-21 
登録番号 特許第5794351号(P5794351)
権利者 豊田合成株式会社
発明の名称 照明装置  
代理人 小西 富雅  
代理人 中村 知公  
代理人 中村 知公  
代理人 小西 富雅  

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