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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
審判 一部申し立て 1項1号公知  C04B
審判 一部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
管理番号 1329049
異議申立番号 異議2016-700429  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-16 
確定日 2017-04-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5813258号発明「中性子線減速材用フッ化物焼結体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5813258号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3、4〕、2について訂正することを認める。 特許第5813258号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5813258号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成26年5月27日(優先権主張 平成25年7月8日)を国際出願日とする出願であって、平成27年10月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1、2に係る特許について、特許異議申立人齋藤慎二(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年9月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月31日付けで意見書が提出され、同年11月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年1月31日付けで意見書及び訂正請求書が提出され、同年2月10日付けで申立人に、上記両取消理由通知の写し、訂正請求書及びこれに添付された訂正した明細書、特許請求の範囲の副本、上記取消理由通知に対応する特許権者の上記両意見書の副本を送付し、その指定期間内である同年3月16日付けで申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
ア 特許請求の範囲について
(ア)訂正事項1
請求項1の「緻密な多結晶構造のMgF_(2)焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下であることを特徴とする中性子線減速材用フッ化物焼結体。」を「緻密な多結晶構造のMgF_(2)焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下で、曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有することを特徴とする中性子線減速材用フッ化物焼結体。」に訂正する。
請求項1の訂正に伴い、請求項3の「・・・請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法。」及び請求項4の「・・・請求項3記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法。」についても訂正することになる。

(イ)訂正事項2
請求項2の「緻密な多結晶構造のMgF_(2)焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下で、曲げ強度が10MPa以上、ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有することを特徴とする中性子線減速材用フッ化物焼結体。」を「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有することを特徴とする請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体。」に訂正する。

イ 明細書について
(ア)訂正事項3
【0061】の「上記目的を達成するために、本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体(1)は、緻密な多結晶構造のMgF_(2)焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下であることを特徴としている。」を「上記目的を達成するために、本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体(1)は、緻密な多結晶構造のMgF_(2)焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下で、曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有することを特徴としている。」に訂正する。

(イ)訂正事項4
【0063】の「また、本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体(2)は、緻密な多結晶構造のMgF_(2)からなり、嵩密度が嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下で、曲げ強度が10MPa以上、ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有するものであることを特徴としている。」を「また、本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体(2)は、上記中性子線減速材用フッ化物焼結体(1)において、ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有するものであることを特徴としている。」に訂正する。

(ウ)訂正事項5
【0144】の「[比較例1]上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で550℃、10時間の仮焼結を実施し、208mm×208mm×t73mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から750℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に9時間保持した。その後、920℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、195mm×195mm×t64mm、嵩密度2.90g/cm^(3)(相対密度92.1%)であり、焼結状態は良好であった。」を「[比較例1]上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で530℃、5時間の仮焼結を実施し、208mm×208mm×t73mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から750℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に9時間保持した。その後、920℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、195mm×195mm×t64mm、嵩密度2.88g/cm^(3)(相対密度91.4%)であり、焼結状態は良好であった。」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、「緻密な多結晶構造のMgF_(2)焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下である中性子線減速材用フッ化物焼結体」において、さらに「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」焼結体に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
同様に、請求項1を引用する請求項3、さらにその請求項3を引用する請求項4に対しても、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、「緻密な多結晶構造のMgF_(2)焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下で、曲げ強度が10MPa以上、ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有することを特徴とする中性子線減速材用フッ化物焼結体。」を「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有することを特徴とする請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体。」と訂正するものであるが、ここで引用する請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体は、上記訂正事項1のとおり「緻密な多結晶構造のMgF_(2)焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下で、曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有することを特徴とする中性子線減速材用フッ化物焼結体。」である。
してみれば、訂正事項2は、重複する記載を避けるために引用形式として請求項の記載を明瞭にしたものといえることから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

ウ 訂正事項3及び4について
これらの訂正事項は、特許請求の範囲についての訂正事項と整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

エ 訂正事項5について
訂正前の【0144】には、[比較例1]における仮焼結温度及びその時間として「550℃」及び「10時間」、そして嵩密度及び相対密度として「嵩密度2.90g/cm^(3)(相対密度92.1%)」と記載されているのに対し、本件特許の願書に添付されている図6の【表2】には、[比較例1]における仮焼結の加熱温度(℃)×保持時間(hr)として「530×5」、焼結体の密度である嵩密度(g/cm^(3))及び相対密度(%)として「2.88」、「91.4」が記載されており、比較例1について【0144】の記載と【表2】の記載は一致していなかった。ここで、前者の「嵩密度2.90g/cm^(3)(相対密度92.1%)」は、請求項1の「嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下」の範囲に入るのに対し、後者の嵩密度(g/cm^(3))「2.88」はその範囲に入らないことから、実施例ではない比較例としては、後者の値が正しい値であり、前者の値は誤記であると判断するのが適当である。
してみれば、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものといえる。

(3)新規事項の有無
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」焼結体に限定するものであるが、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)の請求項2、【0063】等に「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」焼結体が記載されており、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、重複する記載を避けるために引用形式として請求項の記載を明瞭にしたものであり、その発明は、特許明細書等の特許請求の範囲の請求項2に記載されていたものである。
したがって、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 訂正事項3及び4について
これらの訂正事項は、特許請求の範囲についての訂正事項と整合を図るものであり、上記ア及びイで説示したとおり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

エ 訂正事項5について
上記(2)のオで説示したとおり、訂正事項5は、【0144】の[比較例1]における誤記を、特許明細書等の図6の【表2】の記載に合わせて訂正したものであるが、この表は、願書に最初に添付した図6にも【表2】として記載されている、
したがって、訂正事項1は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(4)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
特許請求の範囲についての訂正事項1及び2並びに明細書についての訂正事項3?5は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(5)一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1、3及び4は、互いに引用、被引用の関係にあるから一群の請求項であり、これらの訂正は、特許法120条の5第4項に適合する。また、明細書についての訂正事項3?5は、当該一群の請求項の全てに対する訂正であって、特許法120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

(6)独立特許要件
上記(1)ア(ア)の訂正事項1で述べたように、請求項1について特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がされることにより、請求項1を引用する請求項3、さらにその請求項3を引用する請求項4に対しても、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正が行われたことになる。ここで、請求項3及び4は特許異議の申立がなされていない請求項であることから、請求項3及び4に係る発明が、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第7項で規定される特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否か検討する。
請求項3及び4に係る発明は
「【請求項3】
MgF_(2)焼結体からなる中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法であって、
高純度のMgF_(2)原料を微粉砕し、焼結助剤を0.1?1wt.%添加して混合する工程、
一軸プレス機を用いて成形圧5MPa以上で成形する工程、
冷間等方加圧成形(CIP)機を用いて成形圧5MPa以上で成形する工程、
大気雰囲気中、550?600℃の温度範囲、4?10時間の条件で仮焼結させる工程、
不活性ガス雰囲気中で、750?840℃の温度範囲で、5?12時間加熱する工程、
前工程と同じ雰囲気中で900?1100℃の温度範囲で、0.5?3時間加熱して緻密な構造のMgF_(2)焼結体を形成する本焼結工程、
を含むことを特徴とする請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記本焼結工程における不活性ガス雰囲気が、窒素、ヘリウム、アルゴン、及びネオンの中から選択される1種類のガス、または複数種類のガスを混合させたものからなることを特徴とする請求項3記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法。」
であるが、これらの発明は、請求項1に係る発明の中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法であり、後述するように、請求項1に係る発明が、新規性進歩性を有することから、同様に新規性進歩性を有する。また、記載不備等の不特許事由もない。
したがって、これらの発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第7項に適合するものである。

(7)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、3、4〕、2について訂正を認める。

第3 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1及び2」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
緻密な多結晶構造のMgF_(2)焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下で、曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有することを特徴とする中性子線減速材用フッ化物焼結体。
【請求項2】
ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有することを特徴とする請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体。」

第4 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として、以下の甲1号証?甲9号証(以下「甲1?甲9」という。)を提示し、訂正前の請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号及び第4号の規定に該当し取り消されるべきものであると主張している。
甲1:平成24年度課題解決型医療機器等開発事業「再発がん治療のための新素材ターゲット技術を用いた加速器型中性子捕捉療法システムの開発」研究成果報告書(要約版)、平成25年2月、1?23頁
甲2:「加速器を用いた熱外中性子源の最適中性子エネルギー特性とスペクトラムの再評価 -PHITSによる解析とモデレータの試作-」第15回国際中性子捕捉療法学会 2012年9月10日-14日 つくば国際会議場
甲3:欧州特許出願公開第1895819号明細書
甲4:M.Nofa, H.R.Madaah Hosseini, H.A.Shivaee「The dependency of optical properties on density for hot pressed MgF_(2)」Infraed Physics & Technology 51(2008), 546-549
甲5:原田保、白川洋一、宮田昇、塚本恵三「高密度MgF_(2)焼結体の作製と特性評価」粉末冶金協会講演概要集、粉体粉末冶金協会、1998年11月20日(当審注:会期を記載)、275頁
甲6:M.H. Moghim, M.H. Paydar「Hot-pressing of bimodally distributed magnesium fluoride powder」Infraed Physics & Technology 53(2010), 430-433
甲7:特許第5577287号公報
甲8:特開2000-302553号公報
甲9:原田保、指田則和、宮田昇「常温焼結とカプセルフリーHIPを用いたMgF_(2)焼結体の作製」太平洋セメント研究研究報告、第139号、太平洋セメント株式会社、2000年11月30日、66-71頁
申立理由をまとめれば、以下のとおりである。
(1)申立理由1
訂正前の請求項1及び2に係る特許について、訂正前の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。)は、甲2の内容により公然知られた発明であるから、特許法第29条第1項第1号に規定する発明に該当し、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(2)申立理由2
訂正前の請求項2に係る特許について、本件発明2は、甲5に記載された発明、あるいは、甲9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(3)申立理由3
訂正前の請求項2に係る特許について、本件発明2の「曲げ強度が10MPa以上、ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有する」との発明特定事項の点において、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願であり、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願であり、本件発明2は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。

第5 取消理由の概要について
1 平成28年9月1日付け取消理由
(1)特許法第29条第1項第3号について
本件発明1および2は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、同項の規定に違反して特許されたものである。
(2)特許法第29条第2項について
本件発明1および2は、甲3に記載された発明及び甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもある。

2 平成28年11月25日付け取消理由
本件発明1および2は、甲2の内容により公然知られた発明であるか、その公然知られた発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもある。

第6 甲号証の記載事項等
1 甲1について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は以下の甲1発明の認定に関連する箇所に付与した。
(甲1ア)
「サブテーマ3:減速体系の開発
・低エネルギー陽子線とリチウムターゲットを用いて得られた中性子をBNCTに最適な特性に導くための減速材(モデレータ)の開発を行った。
○1モデレータの素材はフッ化マグネシウムを用い、その焼結化に関する検討を行った。○2焼結化に最適な条件の洗い出しを行い、徐々に試作品を大きくしていった。
○3現在、実使用での直径の大きさ(300mm)までのフッ化マグネシウム焼結体の製作が可能となった(厚さ:30mm)。」(11頁左欄1?12行)
なお、「○数字」は、丸囲み数字を表す。
(甲1イ)
「2.フッ化マグネシウム焼結体生成に最適な条件設定の確立
フッ化マグネシウム焼結体を再現性のある条件設定を行いながら、目標とするΦ350mmまで徐々に焼結技術の確立を行った。」(19頁21?23行)
(甲1ウ)
「<φ350×30t焼結体>
【焼結体外観】全体的に白色、割れ等の損傷無し
【実寸値】厚さ:(任意4ヵ所)31.28,31.59,31.36,31.12
(平均31.34mm)
直径:348mm
質量:約10kg
【焼結条件】 加圧20Mpa
【計算密度】 3.053g/cm^3⇒約97%」(19頁24?31行)
ここで、「g/cm^3」は「g/cm^(3)」を意味するものである。

してみれば、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「フッ化マグネシウム焼結体からなり、計算密度が3.053g/cm^(3)⇒約97%である、中性子をBNCTに最適な特性に導くための減速材(モデレータ)として用いるフッ化マグネシウム焼結体。」(以下「甲1発明」という。)

2 甲2について
甲2の文書の内容は、本件特許に係る出願の優先日前の2012年9月10日-14日、つくば国際会議場において、不特定の者に秘密でないものとして、その内容が発表されたものといえることから、その内容に基づく発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内において公然知られた発明といえる。
甲2の文書(訳文)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は以下の甲2発明の認定に関連する箇所に付与した。
(甲2ア)
「イントロダクション
目的
1.加速器を用いたBNCT用熱外中性子源の減速材の評価
2.減速材の試作」(4頁)
(甲2イ)
「フッ化マグネシウムの焼結
SPS(Spark Plasma Sintering)
放電プラズマ焼結
SPSとは通電過熱と機械的加圧によって短時間で高品質な焼結体を作る新しく開発されたプロセスです。」(11頁)
(甲2ウ)
「フッ化マグネシウムの焼結
フッ化マグネシウム,99%
(試薬グレード)
焼結条件
・加圧:20MPa
・真空度:40Pa以下」(12頁)
(甲2エ)「フッ化マグネシウムの焼結
・No.1:焼結状態確認のための試作品
・No.2-4:No.1から得られたデータに基づき700℃で焼結
焼結体の密度
No.理論密度(g/cm^(3)) 密度(g/cm^(3)) 密度比(%)
1 3.150 3.117 99.0
2 3.150 3.168 100.6
3 3.150 3.169 100.6
4 3.150 3.167 100.5 」(13頁)
(甲2オ)
「フッ化マグネシウムの焼結
フッ化マグネシウム,99%
(工業用グレード)
No.理論密度(g/cm^(3)) 密度(g/cm^(3)) 密度比(%)
5 3.150 3.059 97.1
6 3.150 2.807 89.1 」(15頁)
(甲2カ)
「フッ化マグネシウムの焼結
・No.5と同じ原料で製作(工業用グレード)」
・直径:155mm(設計の半分のサイズ)/厚さ:21.5mm
・密度:2.96g/cm^(3)(94%)」(17頁)

してみれば、甲2を用いて、以下の発明が発表されたと認められる。
「フッ化マグネシウムの焼結体からなり、密度が2.96又は3.059g/cm^(3)であるBNCT用熱外中性子源の減速材用フッ化マグネシウムの焼結体。」(以下「甲2発明」という。)

3 甲3について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲3には、以下の事項が記載されている。なお、訳文において下線は以下の甲3発明の認定に関連する箇所に付与した。
(甲3ア)
「[0031]According to a more preferred embodiment of the invention, the device for generating neutrons further comprises a beam shaping assembly. The beam shaping assembly comprises a moderator. The moderator is preferably made of magnesium fluoride (MgF_(2)). Preferably, the length of the moderator is determined as the smallest length leading to a dose at skin level (D tissue (0 cm)) lower than or equal to 8 Gy-eq.」
「訳文:この発明のより好ましい態様によれば、中性子製造装置は、更に、ビーム成型部品を備えている。ビーム成型部品は、減速材を備えている。減速材は、好ましくは、フッ化マグネシウム(MgF_(2))でできている。好ましくは、減速材の長さは、表皮レベル(Dtissue(0cm))で8グレイエクィバレント以下の被爆となるような最小限の長さに決められる。」
(甲3イ)
「[0066]Results presented in figure 7 correspond to a MgF_(2) density of 2.54 g/cm^(3). This density is a critical parameter as demonstrated in figure 9. For a density of 3.1 g/cm^(3) (corresponding to the maximal density of a MgF_(2) crystal), the optimal length is reduced to 27 cm and the corresponding maximal thermal flux is increased to 3.2 10^(9) n/cm^(2).s.
[0067]Another critical parameter for the beam shaping assembly is the moderator radius. As shown in figure 10 for MgF_(2) (density of 3.1 g/cm^(3)), the moderator optimal length is significantly smaller when the moderator radius is increased from 15 cm to 20 cm. This length reduction is directly translated into a thermal flux increase of about 50%. The increase in thermal flux for radius values beyond 20 cm becomes minor.」
「訳文:第7図に示された結果は、密度2.54g/cm^(3)のMgF_(2)に相当する。この密度は、第9図で示されているように重要なパラメータである。密度3.1g/cm^(3)(MgF_(2)結晶の最高の密度に相当する)に対して、最適の長さは、27cmまでに短くでき、それに対応する最大の熱中性子フラックスは、3.2×10^(9)n/cm^(2)・sに増大する。
ビーム成型部品に対する他の重要なパラメータは、減速材の直径である。MgF_(2)(密度3.1g/cm^(3))のための第10図に示されているように、減速材の最適の長さは、減速材の直径が15cmから20cmに長くなる時に、著しく短くなる。この長さが短くなるということは、直接的には、熱中性子フラックスが約50%増加することに言い換えられる。20cmを超える直径の値に対して熱中性子フラックスが増加することは、少なくなる。」
(甲3ウ)
「[0072]The moderator is preferably made of MgF_(2), with a density of at least 2.54 g/cm^(3) . 」
「減速材は、少なくとも2.54g/cm^(3)の密度を有するMgF_(2)からなることが好ましい。」
(甲3エ)Fig.9として、以下の図面が記載されている。

ここで、「g/cc」は「g/cm^(3)」であり、2.54g/cm^(3)、3.10g/cm^(3)の密度を有するMgF_(2)が記載されている。

してみれば、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。
「MgF_(2)からなり、少なくとも2.54g/cm^(3)の密度である、中性子製造装置における減速材として用いるMgF_(2)。」(以下「甲3発明」という。)

4 甲4について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4ア)
「MgF_(2) powders with an average particle size of 10μm were produced by the Fast Mill method. The powders were hot pressed at 650, 750,and 800℃ under 200, 250,and 270MPa pressures for 20, 30,and 40 min.」(546頁右欄26?29行)
(訳文:平均粒径が10μmのMgF_(2)粉末を高速ミル法により生成した。この粉末を20、30、および40分間、200、250、および270MPaの圧力下で、650、750、および800℃にてホットプレスした。)
(甲4イ)
「Fig.4 shows transparency in IR region for three samples with relative density of 98.7%, 97.4%, and 93.8%. 」(548頁左欄45?46行)
「訳文:図4は、相対密度が98.7%、97.4%、および93.8%である3つの試料のIR領域の透過性を示す。」

5 甲5について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲5には、以下の事項が記載されている。なお、下線は以下の甲5発明の認定に関連する箇所に付与した。
(甲5ア)
「【はじめに】
MgF_(2)は赤外透過性の良さから赤外線機器の窓材や赤外線フィルターとして用いられている。しかし、緻密なMgF_(2)焼結体を得るためのにホットプレス焼結やカプセルHIP焼結法が行われており、これらの作製方法では焼結体の形状に制限が生じるために実用性に問題がある。そこで本研究では、作製できる形状に制限のない常圧焼結とHIP焼結法を組み合わせて緻密なMgF_(2)焼結体を作製し、その特性を評価することを目的とした。
【実験方法】
原料であるMgF_(2)粉末(試薬1級)に焼結助剤としてLiF(試薬1級)を添加し、エタノールによる湿式ボールミル混合をおこなった。その後、一軸加圧75MPa、CIP150MPaで成形体を作製し、常圧焼結した後に、HIP処理を行った。表1にLiF添加量、焼結温度等の作製条件を示す。得られた焼結体の嵩密度の測定および走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察を行った後、試料番号2のMgF_(2)に関して、機械的、熱的特性としてビッカース硬度、ヤング率、破壊靭性、曲げ強度、熱膨張係数を、電気的特性として誘電率、誘電損失、体積抵抗率を測定した。
【実験結果および考察】
表2に各試料の常圧焼結後、HIP処理後の相対密度を、表3に材料特性を示す。なお、相対密度はLiF添加を考慮したMgF_(2)の理論密度からそれぞれ求めた。これより、今回作製したMgF_(2)の常圧焼結後の相対密度は96%?100%となった。」(275頁1?18行)
(甲5イ)
Tab1e2には、試料番号1の常圧焼結体相対密度が96%、試料番号2の常圧焼結体相対密度が100%、HIP焼結体相対密度が100%、試料番号3の常圧焼結体相対密度が97%であることが記載されている。
(甲5ウ)
Tab1e3には、試料番号2のビッカース硬度が325、曲げ強度が室温で98MPa、200℃で93MPa、400℃で63MPa、500℃で82MPa、600℃で71MPaであることが記載されている。
なお、原文では試料番号は○数字で記載されている。

してみれば、甲5には、以下の発明が記載されていると認められる。
「赤外線機器の窓材や赤外線フィルターとして用いられる常圧焼結とHIP焼結法を組み合わせた緻密なMgF_(2)焼結体であって、
HIP焼結体相対密度が100%、ビッカース硬度が325、曲げ強度が室温で98MPaであるMgF_(2)焼結体。」(以下「甲5発明」という。)

6 甲6について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲6には、以下の事項が記載されている。
(甲6ア)
「Fig.2 shows the relative density of the consolidated samples as a function of weight percent of the ultrafine powder used. As it can be seen, the samples including partially ultrafine powder were densified to near theoretical density, 3.17-3.18g/cm^(3). 」(431頁左欄20?23行)
(訳文:図2は、使用した超微粒子の質量分率に応じた固化試料の相対密度を示す。図に示されているとおり、超微粒子を一部に含む試料は、3.17-3.18g/cm^(3)の理論密度付近まで高密度化された。」
(甲6イ)
「Fig.5 shows relation between the hardness and percentage of the ultrafine component used in the initial MgF_(2) powder mixtures.」(431頁右欄39?40行)
(訳文:図5は、硬さと、MgF_(2)粉末の混合物について初めに使用された超微粒子の分率との関係を示す。)
(甲6ウ)Fig.2及びFig.5として、以下の図面が記載されている。


7 甲7について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲7には、以下の事項が記載されている。
(甲7ア)
「【0001】
本発明は、フッ化マグネシウム焼結体、その製法及び半導体製造装置用部材に関する。」
(甲7イ)
「【0034】
[2-6]曲げ強度
JIS R 1601に準拠した曲げ強度試験によって測定した値である。」
(甲7ウ)
「【0037】
[3]実施例及び比較例
実施例1?24,比較例1?7につき、上記[1]の作製方法に準じて、表2に示す調合条件、焼成条件にしたがって焼結体を作製した。得られた焼結体につき、開気孔率、フッ化マグネシウムの平均粒径(焼結粒径)、分散粒子の平均粒径、曲げ強度及びエッチングレート(対イットリア焼結体比)を上記[2-3]?[2-7]に準じて測定し、その結果を表2に示した。」(当審注:甲7には「表2」がないことから、「表1」の誤記といえる。)
(甲7エ)【表1】として、以下の表(一部抜粋)が記載されている。


8 甲8について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲8には、以下の事項が記載されている。
(甲8ア)
「【請求項1】フッ化物70?85重量%と、アルミナ30?15重量%とから実質的になることを特徴とする耐蝕性フッ化物基複合セラミックス焼結体。」
(甲8イ)
「【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらフッ化物セラミックス焼結体の最も大きな欠点は、機械的強度が低いことである。MgF_(2)、CaF_(2)、YF_(3)等のフッ化物セラミックス焼結体の曲げ強度は100MPa前後であり、従来から耐蝕部材用として利用されている石英ガラスの約150MPa、現在利用が広がりつつあるAl_(2)O_(3)セラミックスの約400MPaに比べて低い。以上のような現状で、半導体製造装置内の部品としてのフッ化物セラミックスの用途を拡大するために機械的強度を向上させることが大きな課題である。」

9 甲9について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲9には、以下の事項が記載されている。なお、下線は以下の甲9発明の認定に関連する箇所に付与した。
(甲9ア)
「1.まえがき
MgF_(2)は、赤外領域での光透過性が優れることから赤外線透過窓等の光学材料として、またプラズマ耐蝕性に優れることからプラズマプロセス中の構造部材として利用されている。代表的な製造方法としては、MgO表面を直接弗化してMgF_(2)化したり金属やセラミックスの表面に真空蒸着法によりMgF_(2)膜を付けるといった薄膜によるコーティング法、MgF_(2)を溶融固化して所望の形状品に仕上げる方法や、MgF_(2)粉末に適当な焼結助剤を添加した粉末を放電プラズマ焼結、ホットプレス焼結やカプセルHIP焼結法により焼結体を作製する方法が用いられている。」(67頁左欄1?11行)
(甲9イ)
「3.結果と考察
3.1 常圧焼結によるMgF_(2)の緻密化
・・・
3.2 MgF_(2)の緻密化に及ぼすHIP処理の効果
・・・
次に、HIP処理体の緻密化に及ぼす常圧焼結温度の影響を調べた。LiFを0.2mass%以上添加した常圧焼結体を、823K、180MPa、アルゴン雰囲気中、2時間の条件でカプセルフリーHIP処理した場合について、常圧焼結温度とHIP処理体の嵩密度との関係をFig.5に示す。常圧焼結温度が798?923Kの焼結体について、HIP処理することで嵩密度が3.17?3.18g/cm^(3)とほぼ理論密度まで緻密化した。常圧焼結温度が923?1023Kと高くなると、HIP処理体の密度は低下する傾向を示した。常圧焼結温度が923K以上の焼結体については、HIP処理温度を873Kにしてもこの傾向は変わらなかった。したがって、HIP処理により理論密度のMgF_(2)焼結体を得るためには、常圧焼結体の嵩密度は、相対密度で97%以上必要であることが明らかになった。
3.3 MgF_(2)機械的性質等
得られたMgF_(2)焼結体のうち、873Kで常圧焼結した後にHIP処理したものについて、4点曲げ強度、ビッカース硬度、破壊靭性値、ヤング率、熱膨張率を測定した結果をTable1に示す。直径80mm、厚さ1mmの焼結体は、高い透光性を示した(Fig.6)。」
(甲9ウ)
Table1には、ビッカース硬度が3.19GPa、4点曲げ強度が98MPaであることが記載されている。

してみれば、甲9には、以下の発明が記載されていると認められる。
「赤外線透過窓等の光学材料又はプラズマプロセス中の構造部材として利用されるMgF_(2)焼結体あって、
LiFを0.2mass%以上添加し873Kで常圧焼結した後にHIP処理し、
HIP処理することで嵩密度が3.17?3.18g/cm^(3)とほぼ理論密度まで緻密化した、ビッカース硬度が3.19GPa、4点曲げ強度が98MPaであるMgF_(2)焼結体。」(以下「甲9発明」という。)

第7 取消理由についての判断
1 本件訂正発明1
(1)甲1を主引用例とする場合について
ア 対比
(ア)甲1発明の「フッ化マグネシウム焼結体」は、 本件訂正発明1の「MgF_(2)焼結体からな」る「フッ化物焼結体」に相当する。
(イ)甲1発明の「中性子をBNCTに最適な特性に導くための減速材(モデレータ)として用いる」ことは、 本件訂正発明1の「中性子線減速材用」に相当する。

してみれば、本件訂正発明1と甲1発明とは、
(一致点)
「MgF_(2)焼結体からなり、中性子線減速材用フッ化物焼結体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件訂正発明1は、「緻密な多結晶構造」のMgF_(2)焼結体であるのに対し、甲1発明のフッ化マグネシウム焼結体は、そのように特定されていない点。
(相違点2)
本件訂正発明1は、「嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下」であるフッ化物焼結体であるのに対し、甲1発明のフッ化マグネシウム焼結体は、「計算密度が3.053g/cm^(3)⇒約97%」である点。
(相違点3)
本件訂正発明1は、「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」ものであるのに対し、甲1発明の曲げ強度について不明である点。

イ 判断
まず、相違点2について検討する。
甲1発明の「計算密度が3.053g/cm^(3)⇒約97%」について、摘記(甲1ウ)に「【計算密度】3.053g/cm^3⇒約97%」との記載がある一方で、「【実寸値】厚さ:(任意4ヵ所)31.28,31.59,31.36,31.12(平均31.34mm)直径:348mm 質量:約10kg」との記載があり、これらの寸法から体積を求め嵩密度を計算すると約3.355g/cm^(3)となり、MgF_(2)の真密度である3.15g/cm^(3)を超えており、さらに、「【計算密度】3.053g/cm^3⇒約97%」とも異なる。
してみれば、「【計算密度】3.053g/cm^3⇒約97%」はどのように計算された値であるのか不明であり、これが、本件訂正発明1の嵩密度に相当するとはいえない。
よって、相違点2は、実質的な相違点である。

ウ 小括
したがって、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。

(2)甲2を主引用例とする場合について
ア 対比
(ア)甲2発明の「フッ化マグネシウムの焼結体」は、 本件訂正発明1の「MgF_(2)焼結体からな」る「フッ化物焼結体」に相当する。
(イ)甲2発明の「BNCT用熱外中性子源の減速材用」は、 本件訂正発明1の「中性子線減速材用」に相当する。

してみれば、本件訂正発明1と甲2発明とは、
(一致点)
「MgF_(2)焼結体からなり、中性子線減速材用フッ化物焼結体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件訂正発明1は、「緻密な多結晶構造」のMgF_(2)焼結体であるのに対し、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体は、そのように特定されていない点。
(相違点2)
本件訂正発明1は、「嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下」であるフッ化物焼結体であるのに対し、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体は、「密度が2.96又は3.059g/cm^(3)」である点。
(相違点3)
本件訂正発明1が「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」ものであるのに対し、甲2発明の曲げ強度について不明である点。

イ 判断
まず、相違点3について検討する。
甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体は「BNCT用熱外中性子源の減速材用」であり、BNCT用熱外中性子源の減速材として用いる焼結体の大きさは摘記(甲2カ)に「直径:155mm(設計の半分のサイズ)/厚さ:21.5mm」と記載されており、設計の半分のサイズとしてもその直径は155mm(設計とおりなら310mm)にも及ぶ大形部材といえる。そして、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体は、摘記(甲2イ)に「フッ化マグネシウムの焼結 SPS(Spark Plasma Sintering)放電プラズマ焼結」と記載されているように、SPS法で製造されたものである。
ところで、例えば、特許権者が提出した乙第7号証である鴇田正雄「特集 焼成 放電プラズマ焼結(SPS)法によるセラミックス焼結の現状と将来性」セラミックス第49巻第2号、平成26年2月1日発行の95頁右欄16?25行に「3.7 大形セラミックス材料の均質SPS焼結技術 SPS法では急速加熱・迅速焼結を特徴とするため『大形化・均質焼結』は加工技術・ノウハウ開発の代表的課題である。φ15?50mm以下程度の小片試料作製では比較的容易に均熱化が得られるためこの種の問題は顕在化しない。しかしながらφ100?350mmの大形材料ではバラツキが生じる。材料の熱伝導率、粒子の再配列、均等プレス加圧力負荷、接触面積周長などに起因し偏荷重と偏熱現象が発生しやすく迅速・均質焼結に困難さが伴う。」と記載されているように、大形部材をSPS法で均質に焼結することは困難であるとされている。なお、上記刊行物は本件特許に係る出願の優先日の後に頒布されたものであるから、本件特許に係る出願の優先日前にもそのような状況下にあったことは明らかである。
してみると、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体の大きさは、上記のとおり大形部材といえることから、それをSPS法で製造した焼結体が均質なものとはいえない。すなわち、結晶粒径等の微細組織や表面性状等が均一とはいえず、焼結体の曲げ強度が、嵩密度より結晶粒径等の微細組織や表面性状等に影響を受けるものであることを考慮すると、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体が、本件訂正発明1のフッ化物焼結体と同等に「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」ものとはいえない。
よって、相違点3は、実質的な相違点である。そして、上記SPS法による焼結の課題に鑑みるに、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体の曲げ強度を10MPa以上とすることが当業者において容易になし得たことともいえない。

ウ 小括
したがって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2発明である公然知られた発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第1号に規定する発明に該当せず、さらに、その公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないことから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもない。

(3)甲3を主引用例とする場合
ア 対比
(ア)甲3発明の「MgF_(2)」は、 本件訂正発明1の「MgF_(2)からな」る「フッ化物」に相当する。
(イ)甲3発明の「中性子をBNCTに最適な特性に導くための減速材(モデレータ)として用いる」ことは、 本件訂正発明1の「中性子線減速材用」に相当する。

してみれば、本件訂正発明1と甲3発明とは、
(一致点)
「MgF_(2)からなり、中性子線減速材用フッ化物。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件訂正発明1は、「緻密な多結晶構造の」MgF_(2)「焼結体」からなるフッ化物「焼結体」であるのに対し、甲3発明は焼結体であるか不明な点。
(相違点2)
本件訂正発明1は、「嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下」であるのに対し、甲3発明は、「少なくとも2.54g/cm^(3)の密度」である点。
(相違点3)
本件訂正発明1が「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」ものであるのに対し、甲3発明の曲げ強度について不明である点。

イ 判断
まず、相違点2について検討する。
甲3には、2.54g/cm^(3)を超えるMgF_(2)として、3.1g/cm^(3)密度を有するものが記載されているが、これは、摘記(甲3イ)に「MgF_(2) crystal」(MgF_(2)結晶)と記載されていることから、単結晶と認められる。
してみると、甲3発明の2.54g/cm^(3)という密度が、 MgF_(2)の真密度である3.15g/cm^(3)より大幅に小さいことから、単結晶ではなく焼結体であるとしても、甲3には、「嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下」の焼結体について記載も示唆もない。

ウ 小括
したがって、相違点1、3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明に基づいて、あるいは、甲3発明及び甲1発明、さらには上記第6の「甲号証の記載事項等」で摘記した他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

2 本件訂正発明2
本件訂正発明2は、上記第3で記載したように、本件訂正発明1を「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有すること」でさらに限定した発明であるから、本件訂正発明2についても、甲1に記載された発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当せず、甲2発明である公然知られた発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第1号に規定する発明に該当せず、さらに、その公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないことから特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもなく、甲3発明に基づいて、あるいは、甲3発明及び甲1発明、さらには上記第6の「甲号証の記載事項等」で摘記した他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

3 取消理由についてのまとめ
以上のことより、取消理由によっては、本件訂正発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。

第8 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった申立理由としては、上記第4の「特許異議申立理由の概要」で述べた申立理由2及び申立理由3があるので、以下これらについて検討する。
1 申立理由2について
(1)本件訂正発明1
ア 甲5を主引用例とする場合について
本件訂正発明1と甲5発明(第6の5「甲5について」参照。)とを対比すると、少なくとも、本件訂正発明1が「中性子線減速材用」フッ化物焼結体であるのに対し、甲5発明は「赤外線機器の窓材や赤外線フィルターとして用いられる」MgF_(2)焼結体である点で相違する。
当該相違点について検討するに、「赤外線機器の窓材や赤外線フィルター」と「中性子線減速材」とでは用途として全く異なるものであり、「赤外線機器の窓材や赤外線フィルター」を構成する材料を「中性子線減速材」を構成する材料に転用することは甲1?9に記載されておらず、その転用が本件特許に係る出願の優先日前に周知であるともいえない。
してみれば、本件訂正発明1は、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

イ 甲9を主引用例とする場合について
本件訂正発明1と甲9発明(第6の9「甲9について」参照。)とを対比すると、少なくとも、本件訂正発明1が「中性子線減速材用」フッ化物焼結体であるのに対し、甲9発明は「赤外線透過窓等の光学材料又はプラズマプロセス中の構造部材として利用される」MgF_(2)焼結体である点で相違する。
当該相違点について検討するに、「赤外線透過窓等の光学材料又はプラズマプロセス中の構造部材」と「中性子線減速材」とでは用途として全く異なるものであり、「赤外線透過窓等の光学材料又はプラズマプロセス中の構造部材」を構成する材料を「中性子線減速材」を構成する材料に転用できることは甲1?9に記載されておらず、その転用が本件特許に係る出願の優先日前に周知であるともいえない。
してみれば、本件訂正発明1は、甲9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

(2)本件訂正発明2
本件訂正発明2は、上記第3で記載したように、本件訂正発明1を「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有すること」でさらに限定した発明であるから、本件訂正発明2についても、甲5に記載された発明あるいは甲9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

(3)小括
以上のことより、申立理由2によっては、本件訂正発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由3について
(1)申立人は、特許異議申立書で
「本件の請求項2には、『曲げ強度が10MPa以上、ビッカース硬度が71以上の機械強度を有する』と記載されているところ、本件の発明の詳細な説明の記載には、曲げ強度が『10MPa』よりも極めて大きい中性子線減速材用フッ化物焼結体について、何ら記載されてなく、当該中性子線減速材用フッ化物焼結体及びこれを作る方法は周知でもない。また、ビッカース硬度が『71』よりも極めて大きい中性子線減速材用フッ化物焼結体についても同様に、何ら記載されてなく、周知でもない。
したがって、本件の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている、とはいえない。
また、本件の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものである、とはいえない。
また、本件の請求項2には、『10MPa以上』、『71以上』と記載されており、当該数値範囲について上限が限定されていない。
したがって、本件の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確である、とはいえない。」と主張している。

(2)本件特許明細書には実施例1?11として、本件訂正発明1及び2のフッ化物焼結体の詳細な製造方法が記載されており、その実施例1?11のフッ化物焼結体について全て曲げ強度とビッカース強度を測定し、その結果を図6として以下の【表2】に記載されている。


この結果を参酌するに、曲げ強度は11?25MPa、ビッカース硬度は71?120となっている。申立人が述べる「曲げ強度が『10MPa』よりも極めて大きい」とは、どの程度の曲げ強度のことをいっているのか、「ビッカース硬度が『71』よりも極めて大きい」とは、どの程度のビッカース硬度のことをいっているのか不明であるものの、本件訂正発明1で特定される「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有すること」、本件訂正発明2で特定される「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有すること」は、特段の事情がない限り、上記実施例で示される曲げ強度、ビッカース硬度を基に解することが相当である。
してみれば、本件訂正発明1のフッ化物焼結体において「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」と特定すること、本件訂正発明2のフッ化物焼結体でさらに「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有する」と特定することが、曲げ強度及びビッカース硬度について上限値が特定されていないことをもってして不明確とはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
さらに、上記【表2】に曲げ強度が11?25MPa、ビッカース硬度が71?120のフッ化物焼結体が記載されており、「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」こと、「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有する」ことについてサポートされていることから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
そして、【表2】に記載されている曲げ強度が11?25MPa、ビッカース硬度が71?120のフッ化物焼結体を製造する方法が、発明の詳細な説明の【0128】?【0143】に[実施例1]?[実施例11]の各々として具体的に詳細に記載されているのであるから、曲げ強度が11?25MPa、ビッカース硬度が71?120のフッ化物焼結体を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(3)小括
以上、本件訂正発明1及び2について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願でもなく、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願でもなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願でもないことから、申立理由3によっては、本件訂正発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。

第9 本件訂正発明に対する申立人の主張
申立人は、平成29年3月16日付けの意見書で、本件訂正発明1に対して、
「本件訂正明細書の実施例等の記載を参酌するに、本件訂正特許発明1の嵩密度を満たす焼結体はいずれも曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有しているから、嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)のMgF_(2)焼結体は、曲げ強度が10MPaの機械的強度を有すると言える。
一方、甲第2号証のMgF_(2)焼結体は、嵩密度について本件訂正特許発明1のものと差異がない。してみると、甲第2号証のMgF_(2)焼結体も曲げ強度が10MPaの機械的強度を有すると判断される。
・・・「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度」は、MgF_(2)焼結体における新規な特性ではなく、緻密なMgF_(2)焼結体の特性として一般的な特性であるから、本件訂正特許発明1と同等の嵩密度を有する甲第2号証のMgF_(2)焼結体も、曲げ強度が10Mpa以上である蓋然性が極めて高い。
仮に、甲第2号証のMgF_(2)焼結体の曲げ強度が10MPa未満であったとしても、曲げ強度が10MPa以上のMgF_(2)焼結体は、ありふれた存在であるから(甲5,7,8,9号証参照)、甲第2号証のMgF_(2)焼結体の曲げ強度を10MPa以上とすることは、当業者において格別困難なことではない。」と主張している。
しかしながら、上記第7の1の(2)「甲2を主引用例とする場合について」のイ判断で説示したように、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体が、仮に本件訂正発明1の「嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下」を満たすとしても、製造方法の異なる本件訂正発明1のフッ化物焼結体と同等に「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」ものとはいえない。さらに、曲げ強度が10MPa以上のMgF_(2)焼結体が本件特許に係る出願の優先日前に存在していたとしても、BNCT用熱外中性子源の減速材用として使用できる大きさのものを製造することが当業者において容易になし得たことともいえない。
したがって、上記申立人の主張をもってしても、本件訂正発明1及び2係る特許を取り消すことはできない。

第10 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
中性子線減速材用フッ化物焼結体及びその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物焼結体及びその製造方法に関し、より詳細には、中性子線など各種放射線の放射速度を抑制するための減速材に好適な緻密な構造を有する中性子線減速材用フッ化物焼結体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化物は、フッ化カルシウム(CaF_(2))単結晶体、フッ化マグネシウム(MgF_(2))単結晶体などが光学分野において比較的広く使用されている。フッ化物が光学分野以外に使用されているケースは極めて少なく、CaF_(2)単結晶体が、その高い耐プラズマ性を生かし、半導体製造工程において稀に用いられている。シリコンウエハーのプラズマエッチング処理炉内において最も耐プラズマ性が要求される部材、例えばリングボートとか天井板などに応用することなどが考案されている。しかしながら、CaF_(2)単結晶体は極めて高価なものであり、実際の製造ラインで使用されたという報告は未だなされていない。
放射線のひとつである中性子線の遮蔽物用としてCaF_(2)単結晶体、フッ化リチウム(LiF)あるいはフッ化アルミニウム(AlF3)単結晶体が稀に使用される程度であった。
【0003】
放射線は宇宙では大量に存在するが、地球上においては地球の磁場とか大気圏の影響を受け、その大部分が遮断され、ごく微量にしか存在していない。人為的には、例えば原子炉内での原子核反応により中性子線などの放射線を発生させている。
放射線は、アルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線、エックス(X)線および中性子線などに分けられ、この順番で物質を透過する能力(透過力)が徐々に大きくなる。
【0004】
放射線の中で一番透過力が大きいとされる中性子線は、さらにエネルギーレベルによって細かく分類される。その一例を以下に示す。括弧内は各種中性子線が有するエネルギーレベルを表しており、その数値が大きいほど透過力が大きいことを示している。
透過力の小さい方から順に、低温中性子(?0.002eV)、熱中性子(?0.025eV)、熱外中性子(?1eV)、低速中性子(0.03?100eV)、中速中性子(0.1?500keV)、高速中性子(500keV以上)に分類される。ただし、括弧内のエネルギー値は厳密なものではなく、中性子線の分類には諸説が存在する。例えば、熱外中性子のエネルギーとして、上記の中速中性子のエネルギー領域に入る40keV以下を記す説などもある。
【0005】
中性子線の有効利用の代表的なものが医療分野への応用である。悪性腫瘍細胞に中性子線を照射して破壊する放射線治療は近年急速に普及しつつある。現在の放射線治療で、十分な医療効果を得るためには、ある程度高エネルギーの中性子線を使用せざるを得ない状況にある。高エネルギー中性子線を照射すると、患者の患部以外の部位(健全部)への影響を回避することはできず、副作用を伴うこととなる。そのため、現状では、放射線治療は重度の患者への適用に限られている。
【0006】
高エネルギーの放射線が正常細胞に照射されるとDNAが傷つき、皮膚炎や放射性貧血、白血球減少などの副作用が引き起こされる。さらには、治療後しばらくしてから晩期障害を生じ、直腸や膀胱に腫瘍ができて出血することもある。
【0007】
こうした副作用や晩期障害を生じさせないために、放射線を腫瘍にピンポイントで当てる方法が研究されている。その例が、正確に腫瘍部分にだけ高い線量を立体照射する“強度変調放射線治療法(IMRT)”、あるいは患者の呼吸や心臓の動きなど体内の動きに合わせて放射線を照射する“動体追跡放射線治療法”、あるいは治療効果の高い重粒子線や陽子線などを集中的に照射する“粒子線治療法”などである。
【0008】
この様な放射線治療に使用されることが多い中性子の半減期は887.0±2.0秒(約15分)と短く、短時間で崩壊して電子とニュートリノを放出し、陽子に変わる。また、中性子は電荷を持たず、このため原子核と衝突した時に吸収されやすい。この様に中性子を吸収することを中性子捕獲と言い、この性質を利用した医療分野への応用例が、近年注目されつつある“ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:以下、BNCTと称す)”である。
【0009】
この方法は、まず患者の悪性腫瘍細胞にホウ素を反応させてその腫瘍部分に反応生成物(ホウ素化合物)を形成しておき、その反応生成物に、健全部に影響の少ない中性子線(主として熱外中性子線と熱中性子線で構成)を照射する。そして前記ホウ素化合物が形成されたごく微細な範囲内だけに核反応を生じさせて腫瘍細胞のみを死滅させる方法である。
【0010】
この方法は約60年前に提案され、患者の健全部への影響が少ないことなどから、優れた放射線治療法としてかなり以前から注目され、各国で研究が成されてきた。しかし、中性子線発生装置、治療に有効な中性子線の選択、選定を行う装置(減速系装置)、患者の健全部への影響の回避(その必要条件のひとつは、ホウ素化合物を腫瘍部分にだけ形成すること)など、多岐に渡る開発課題があった。
【0011】
現時点ではこれらの多くの課題が十分に解決されているとはいえず、一般的な治療法として普及するには至っていない。普及に至っていない大きな要因の一つとして、中性子線の発生装置に関して言えば、過去のほとんどの場合、既設の原子炉に付随して設置され、研究、開発、臨床のすべてがその場所で行われ、医療用途に適した状況が実現できていなかったことが挙げられる。このような状況を抜本的に改善するには、医療用専用の中性子線発生装置の開発、実用化が必須であり、我が国では2、3の装置メーカーがその期待を担ってこの種中性子線発生装置の開発を進めつつある。
【0012】
小型で高性能な中性子線発生装置の開発に加え、普及に至っていないもう一つの大きな要因は、減速系装置に関しても同様に高性能化、小型化を図らなければならない点にあり、この点が実用化に向けてのもう一つの大きな課題となっている。
【0013】
医療用の粒子線として中性子線を効果的に利用するためには、中性子線の線種の選定が重要であり、その一例を以下に示す。
医療効果の面から見ると、健全な身体組織に悪影響を与える高エネルギーの中性子線を除去し、また、医療効果の少ない極低エネルギーの中性子線(例えば、熱中性子線と低温中性子線)を減らし、同効果の高い中性子線(例えば、中速中性子線の内の低エネルギー部分と熱外中性子線)の割合を高めることにより、望ましい医療用粒子線を形成することができる。
【0014】
熱外中性子線及び中速中性子線の内の低エネルギー部分は、患者体内組織への深達性が高く、例えば脳腫瘍の場合も開頭手術を必要とせず、あるいは他の主要な臓器で開腹手術が容易でない場合も開腹手術を必要とせず、患部への効果的な照射が可能である。
一方、熱中性子線などの極低エネルギーの中性子線を使用すると、深達性が低いが故に、開頭または開腹手術が必要となり、患者への負担が大きなものとなる。
【0015】
放射線を安全に、且つ、有効に利用するには、減速材を適宜選定して配置することが必要である。放射線の中で最も透過能力が高い中性子線を有効に利用するには、各種物質の中性子線に対する減速性能を把握し、効果的な減速をすることが重要である。
サイクロトロンなどの加速器で発生させた中性子線の大部分は高エネルギー中性子線であり、これを減速材を用い、まずは身体に悪影響を及ぼすレベルの高エネルギー中性子線(例えば、高速中性子線と中速中性子線の内の高エネルギー部分など)を極力除外することである。
【0016】
上記した医療効果の高い中性子線の必要量を確保し、且つ、身体に悪影響を及ぼす高エネルギー中性子線をカットして皆無にすることは、難易度の高い減速制御を必要とする。一般的には、医療効果の高い中性子線の必要量を確保しようとすれば、必然的に高エネルギー中性子線を含んだものとなり、この高エネルギー中性子線を次の減速工程で極力除去することが必要となる。
【0017】
上記ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の一つの方式として、京都大学を中心とするグループが近年進めているものがある(非特許文献1および非特許文献2)。この方式は、既存の原子炉に附帯させておらず、中性子線発生装置として専用のサイクロトロン加速器が設けられており、医療専用の中性子線発生装置が採用されている。
【0018】
しかし、そのサイクロトロン加速器の小型化は不十分で、大きなものとなっている。また、このサイクロトロン加速器で発生させた放射線(主として中性子線)を安全に、且つ有効に利用するため、放射線用遮蔽物として選定された減速材には鉛(Pb)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ポリエチレンとともに、フッ化カルシウム(CaF_(2))とフッ化リチウム(LiF)とを含有するポリエチレンが使用されている。
【0019】
これら減速材の減速性能は十分とは言えず、詳しくは後述するが、これら減速材の組合せで減速させた後に得られる中性子線は、BNCTによる治療に最も適する熱外中性子線の必要線量を得る条件に設定した場合、健全組織に悪影響を及ぼす高速中性子線が多量に混入する構成となってしまっていた。
【0020】
また、必要な減速を行うためには減速材の厚さがかなり厚いものとなってしまい、換言すれば、減速系装置が大きくなってしまい、装置全体の小型化が十分に図れないといった課題があった。このBNCTの一般病院への普及には、装置全体の小型化が必須要件であり、加速器の小型化と減速系装置の小型化のためには減速性能に優れた減速材の開発が急務となっていた。
【0021】
以下、治療効果の向上とBNCT装置の小型化にとって重要な減速材の選定について詳述する。
BNCTにおいては、高速中性子線などの高エネルギー中性子線を除去し、熱外中性子線を主体とし、熱中性子線を少量含む中性子線を患部に照射することが必要とされている。
【0022】
具体的には、照射時間を1時間程度とした場合に必要とされる熱外中性子線と熱中性子線量の目安は、おおよそ1×10^(9)[n/cm^(2)/sec]といわれている。そのためには、中性子線生成のターゲットにベリリウム(Be)を使用した場合、中性子線の発生源である加速器からの出射ビームのエネルギーとして、およそ5?10MeVが必要といわれている。
【0023】
つぎに、加速器を用いたBNCT用中性子線照射場での各種減速材による粒子線種の選択について述べる。
加速器から出射されたビームはターゲット(Be)に衝突し、核反応により主として高速中性子線などの高エネルギー中性子線を発生させる。高速中性子線の減速方法として、まずは非弾性散乱断面積の大きいPbやFeなどを使用し、中性子線の減衰を抑えながら減速する。これら2種類の減速材である程度(?1MeV程度)まで減速し、その後、照射場に必要な中性子線エネルギーに応じて減速・最適化してゆく。
【0024】
ある程度減速された後の中性子線に対する減速材としては、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、フッ化アルミニウム(AlF_(3))、CaF_(2)、黒鉛、あるいは重水(D_(2)O)などが使われている。1MeV近傍まで減速された中性子線を、これら減速材に入射させることによって、BNCTに適した熱外中性子エネルギー領域(4keV?40keV)まで減速させることが求められている。
【0025】
京都大学を中心とする上記グループの場合、減速材として、Pb、Fe、Al、CaF_(2)、ポリエチレン、及びLiFを含有させたポリエチレンを使用している。
この内、ポリエチレンと、LiF含有ポリエチレンとは高エネルギー中性子線の照射場以外への漏洩防止のため、装置外部を覆うように設けられる遮蔽用の減速材である。
【0026】
これら減速材の内、高エネルギー中性子線をPb、Feを使用してある程度まで減速させること(減速の前半段階)は望ましいものであったが、このある程度まで減速したあとの、Al、CaF_(2)を用いた後半段階の減速に関しては、あまり望ましいものとは言えなかった。このある程度まで減速された線種の中には、健全細胞にとって有害な高エネルギー中性子線がまだかなり残っていた。これら高エネルギー中性子線を皆無になるまで除去しつつ、医療効果の高い熱外中性子線などの中エネルギーレベルの中性子線を必要量残すことが必要であったが、この点が十分達成されているとはいえなかった。
【0027】
すなわち、後半段階に使用されていた減速材(Al、CaF_(2))では、前半段階の減速で残っていた高エネルギー中性子線の多くが遮断されずに透過してしまい、この中性子線をそのまま治療に使用すると、患者の健全組織への悪影響が避けられない状況にあった。
その原因は、後半段階の減速材のうち、CaF_(2)の高エネルギー中性子線に対する遮断性能が十分でなく、一部が遮断されずに透過してしまうことにあった。
【0028】
CaF_(2)と共に後半段階で使用されているLiF含有ポリエチレンは、治療室側の中性子線の出射口以外の全面を覆うように使用され、患者への高速中性子線による全身被爆を防ぐために設置されており、出射口における減速材としては使用されていない。
【0029】
また、前半段階における減速材としてのポリエチレンは、この後半段階の
LiF含有ポリエチレンと同様に、治療室側以外の装置外周の全面を覆うように使用され、装置周囲への高速中性子線の漏洩を防ぐために設置されている。
このため、後半段階のCaF_(2)に代わり、治療に必要とされる中エネルギーレベルの中性子線の減衰を抑えながら、高エネルギー中性子線を遮断し、減速させることが出来る優れた減速材の開発が望まれていた。
【0030】
本発明者らは種々の調査・研究から、上記ある程度減速された中性子線(?1MeV)から、最も治療効果が高いと見込まれる熱外中性子線を主体とし、治療に最適のエネルギー(4keV?40keV)分布を有する中性子線を得るための減速材としてMgF_(2)系焼結体に着目した。
MgF_(2)系焼結体には、MgF_(2)焼結体のほか、MgF_(2)-CaF_(2)二元系焼結体、MgF_(2)-LiF二元系焼結体、MgF_(2)-CaF_(2)-LiF三元系焼結体なども含まれる。これまでに中性子線の減速材用としてMgF_(2)が使用されたという報告は見当たらない。ましてや、MgF_(2)焼結体やMgF_(2)-CaF_(2)二元系焼結体をはじめとするMgF_(2)系焼結体が中性子線減速材に採用された例は報告されていない。
【0031】
本件出願では、MgF_(2)単味(単独と同意語)の焼結体(以下、MgF_(2)焼結体と記す)に関する発明について記述する。
MgF_(2)は、理化学辞典によると、融点1248℃、沸点2260℃、密度3.15g/cm^(3)、立方晶系、ルチル構造と称される無色の結晶である。その単結晶体は透明度が高く、おおよそ波長0.2?7μmの広範囲の波長域で高い光透過性が得られることと、バンドギャップが広くレーザー耐性が高いことから主としてエキシマレーザー用窓材として使用されている。また、MgF_(2)はレンズの表面に蒸着されて内部保護や乱反射防止用など、いずれも光学用途に使用されている。
【0032】
これらの用途はいずれもMgF_(2)単結晶体を光学用途に使用したものであるが、単結晶体は単結晶成長に長時間を要し、且つその結晶成長の制御の難度が高く、極めて高価となる。そのため、経済性の面から用途が限定される。
他方、MgF_(2)焼結体は多結晶構造のため、光透過性に乏しく、透明度が低いことから光学用途には不向きである。
単結晶体、焼結体ともにMgF_(2)が光学用途以外に使用されたケースは極めて少なく、以下に記述する耐プラズマ性部材用に焼結体が使用された例が2,3ある程度である。
【0033】
MgF_(2)をベースとした焼結体の耐プラズマ性部材への適用例としては、特開2000-86344号公報(下記特許文献1)がある。当該特許請求の範囲には、Mg、Ca、SrおよびBaの群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属のフッ化物からなり、前記アルカリ土類金属以外の金属元素の総量が金属換算で100ppm以下、前記フッ化物の結晶粒子の平均粒径が30μm以下であり、かつ相対密度が95%以上であること、が記載されている。
【0034】
しかしながら、この公報の実施例の一覧表に記載されている物質は、前記アルカリ土類金属4種の各々単独の金属フッ化物(すなわちMgF_(2)、CaF_(2)、SrF_(2)、BaF_(2))を原料として焼成されたものであり、それら原料の混合物が焼成されたとする記載は無い。
【0035】
また、実施例の表1に記載されているMgF_(2)およびCaF_(2)を原料とする焼成において、適正と評価される(表中の表記で◎または○で示される)ケースの焼成温度は、MgF_(2)の場合、850℃、950℃、1050℃となっており、その焼結体の相対密度はいずれも95%以上となっている。また、CaF_(2)の場合、950℃、1040℃、1130℃となっており、その焼結体の相対密度はいずれも97%以上になった、と記載されている。
【0036】
この点に関し、本発明者らの研究・実験によれば、MgF_(2)およびCaF_(2)はいずれもこれらの焼成温度と同等、またはこれよりも低い温度から昇華現象を呈し、上記の焼成温度では激しい発泡現象を生じることとなり、MgF_(2)で相対密度95%以上、またCaF_(2)で相対密度97%以上を得ることは不可能であることが判明した。
【0037】
本発明者らは、この焼成実験に先立ち、原料粉の示差熱分析により、MgF_(2)の昇華は約800℃から発生し始め、850℃以上では活発に昇華すること、また、CaF_(2)の昇華は約850℃から発生し始め、900℃以上では活発に昇華することを突き止めた。
【0038】
この示差熱分析の結果は、特許文献1の実施例中のMgF_(2)とCaF_(2)で“適正”と表示された各々3ケースの焼成温度では、いずれも焼成過程で昇華現象が活発に生じる温度条件となっており、焼結体を緻密化させることは実際には困難であることを示している。
【0039】
この特許文献1の発明者らも、本文中では、「AlF_(3)は比較的低温から昇華し始めるため、昇華を抑制しつつ焼成する必要があり、緻密な焼結体を得ることは難しいものであった。」と記載しており、“焼成時の昇華現象の顕在化”すなわち“焼結体の発泡”すなわち“緻密な焼結体を得にくい”との見識は持っていたようである。
【0040】
しかし、何故か、前述したように、MgF_(2)およびCaF_(2)に関し、いずれも上記昇華が始まる温度よりも高い焼成温度で焼結体を製造したことが記載されている。これでは、原料粉の焼結を進める焼成過程で、その焼結体の内部で活発な発泡が生じてしまい、緻密な焼結体を得ることが困難な条件で焼結を行ってしまっている。
【0041】
本発明者らは、このような現象を把握したうえで、焼結過程でその昇華現象の影響を極力減らす方法を研究し、緻密な焼結体が安定的に得られる優れた焼結方法を開発した。
【0042】
その他に、MgF_(2)をベースとした焼結体の耐プラズマ性部材への適用例としては、特開2012-206913号公報(下記特許文献2)がある。この発明では、
MgF_(2)単味の焼結体は機械的強度が弱い欠点があるため、Al2O3、AlN、SiC、MgOなどの平均線熱膨張係数がMgF_(2)よりも低い、非アルカリ金属系物質を少なくとも1種混合し、MgF_(2)単味の焼結体の機械的強度が弱い欠点を補う方法が開示されている。このような混合物の焼結体を、上記中性子線の減速材に使用すると、MgF_(2)に混合する非アルカリ金属の影響で、MgF_(2)単味の減速性能と大きく異なることとなり、この種混合物の焼結体では、減速材用途への適応は困難であることが予見された。
【0043】
また、MgF_(2)焼結体に関する発明としては、特開2000-302553号公報(下記特許文献3)がある。MgF_(2)、CaF_(2)、YF_(3)、LiFなどのフッ化物セラミックス焼結体の最も大きな欠点は、機械的強度が弱いことであるとし、これを解決すべく発明したのが、これらフッ化物とAl2O3とを所定の比率で複合化した焼結体である、としている。しかしながら、この方法で製造された焼結体の耐蝕性と機械的強度は、いずれの組合せでも、単にそれらフッ化物とAl2O3との双方の特性の中間の特性を持ったものが得られたに過ぎず、複合化により双方の特性を超えるものまでは得られていない。
【0044】
上記したように、従来の方法で焼結されたMgF_(2)と他の物質との混合物を焼成し、焼結体としたものでは、耐プラズマ性部材以外の用途、具体的には、放射線のひとつである中性子線減速材用などの新たな用途に用いるには解決すべき多くの課題が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0045】
【特許文献1】特開2000-86344号公報
【特許文献2】特開2012-206913号公報
【特許文献3】特開2000-302553号公報
【非特許文献】
【0046】
【非特許文献1】H.Tanaka et al.、Applied Radiation and Isotopes 69(2011)1642-1645
【非特許文献2】H.Tanaka et al.、Applied Radiation and Isotopes 69(2011)1646-1648
【非特許文献3】熊田博明ら、保健物理、42(2007)23?37
【発明の概要】
【課題を解決するための手段及びその効果】
【0047】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、放射線の一種である中性子線を有効利用する際に、その中性子線のエネルギーを減速させるために使用される減速材であって、高純度単結晶体のように高価格なものとはならず、しかも、有効な減速効果が得られ、その結果、治療効果を高めることが出来ながら、しかも治療用装置の小型化を図ることができる中性子線減速材用フッ化物焼結体及びその製造方法を提供することを目的としている。
【0048】
本発明者らは、まず、高エネルギー中性子線に対する十分な減速効果を有する物質(金属または化合物)の選定に関する基本的な考察を行った。
BNCTにおいては、上記したように、治療時に有害となる高エネルギー中性子線を極力少なくし、他方、大きな治療効果を得るために、熱外中性子線を主体とし、熱中性子線をわずかに含む中性子線を患部に照射することが重要となる。具体的には、照射時間を1時間程度とした場合に必要とされる熱外及び熱中性子線量の目安は、おおよそ1×10^(9)[n/cm^(2)/sec]である。そのための中性子線の発生源である加速器からの出射ビームエネルギーは、中性子線生成のターゲットにベリリウム(Be)を使用する場合、おおよそ5?10MeVが必要と言われている。
【0049】
つぎに、加速器を用いたBNCT用中性子線照射場での各種減速材による粒子線種の選択について記述する。
加速器から出射されたビームはターゲット(Be)に衝突し、核反応により主として高エネルギー中性子線(高速中性子線)を発生させる。高速中性子線の減速方法としては、まずは非弾性散乱断面積の大きいPbやFeなどで中性子線の減衰を抑えながらある程度まで減速する。ある程度(?1MeV)まで減速された中性子線に対する減速材は、照射場に必要な中性子エネルギー量に応じて最適化させていく。
【0050】
ある程度減速された中性子線に対する減速材としては一般的には、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、フッ化アルミニウム(AlF_(3))、CaF_(2)、黒鉛、あるいは重水(D_(2)O)などが使われている。1MeV近傍まで減速された中性子線をこれらの減速材に入射させることによって、BNCTに適したエネルギー(4keV?40keV)の熱外中性子線領域まで減速させる。しかし、上記減速材を用いた方法では治療時に患者の健全組織に害を及ぼす高速中性子線の除去が不十分となり易い。そこで、この高速中性子線の除去に重点をおくと、逆に減速し過ぎとなって熱外中性子線領域よりもさらに減速してしまい、熱外中性子線よりも治療効果の少ない熱中性子線の割合が多いものとなってしまう。
【0051】
このため、本発明者らは各種化合物の中から、ある程度減速された中性子線に対する有力な減速材の候補としてMgF_(2)とCaF_(2)の2種類のフッ化物を選択し、後述する減速効果の調査を行った。その結果(図4)、1MeV近傍まで減速させた中性子線をMgF_(2)製の減速材に入射させることによって、BNCTに有害な高速中性子線をほぼ完全に除去でき、同治療に最も適したエネルギー領域(4keV?40keV)の熱外中性子線を得ることができることを突き止めた。
【0052】
MgF_(2)製減速材を製造する際の課題は種々あったが、まず最初に考えなければならなかったのは、その製造方式であった。製造方式としては、結晶法、単結晶法、多結晶法(すなわち焼結法)などを挙げることができる。
結晶法で製造した結晶は、一般的に、結晶方位に偏析があり、不純物に関しても偏析を生じやすく、減速材として使用した場合、その部位により減速性能にばらつきを生じ易い。従って、減速材には不向きと考えられる。
【0053】
単結晶法で製造する単結晶は、製造に際して高い制御精度を要し、品質の安定度に劣り、価格は極めて高価なものとなる。従って、減速材には不向きと言わざるを得ない。
そこで、今回は、多結晶法(以下、焼結法と記す)による減速材の製造方法について研究、開発し、本発明を完成するに至った。
【0054】
本発明における基本的な技術的思想
(1)減速材としての性能確保のための製品純度の確保
MgF_(2)減速材としての性能の確保のためには、まずは製品純度の確保が重要となる。純度確保のためには、原料レベルでの純度の確保、及び製造過程における不純物混入の阻止が重要と考え、これらを考慮することで減速性能を確保した。
市販品のMgF_(2)原料の純度レベルには2N(99.0%)、3N(99.9%)、4N(99.99%)の3種類があり、予め小規模な試験でこれら3種類の純度の原料を使用し、焼結性の状態を評価した。
【0055】
(2)原料を微粉化することによる焼結条件の緩和
原料粒子の微粉化により、焼結過程における粒子間の反応界面を増加させて脱泡の進行を促進し、焼結部位毎の焼結反応の進行を均一化した。
【0056】
(3)焼結工程の分割による焼結反応の均一化
焼結工程を仮焼結と本焼結(本焼結をさらに分割すると効果が増す傾向にある)とに分割することで、仮焼結工程では焼結反応を主として固相間反応による粒成長(以後、固相焼結と記す)によるものとし、本焼結工程では固溶体生成温度域で主として固溶体生成反応による焼結体形成(以後、固溶体焼結と記す)、あるいは溶融体生成反応による焼結体形成(以後、溶融焼結と記す)によるものとした。このことにより、上記(2)の原料の微粉化による効果と相俟って、焼結部位毎の焼結反応の進行を均一化し、焼結体を強固な粒子間結合力を有するものとすることができた。
【0057】
減速材には減速性能に加え、減速系装置への設置などのハンドリング時における損傷発生耐性、中性子線照射衝撃による粉塵発生耐性も必要である。すなわち、特性として機械的強度に優れたものであることも要求される。焼結体の機械的強度は、粒子間結合部のミクロ強度、気泡の大きさ、形状、分布、数など脱泡状態、換言すれば、結合部および元の粒子の結合体(母体)の太さ、長さなどの形状(焼結体の緻密さ)、さらにはその母体の結晶構造(単結晶、多結晶など)に起因する脆性度によって決定される。
【0058】
(4)焼結過程での発泡抑制と大型残留気泡の低減による高密度焼結体の形成原料であるMgF_(2)は、焼結過程で気化(昇華)現象を生じ易く、フッ素ガスを発生し、焼結体の内部に多数の微細な気泡を生じ易い。この気化による発泡は、本来の焼結過程の進行による空隙の減少と相反しており、発泡を極力抑制することした。
【0059】
フッ化物系原料は高温加熱されると、原料の一部が気化する。気化し始める温度は組成により異なり、MgF_(2)が主体の組成の場合は約800℃から気化し始め、約850℃からはかなり活発に気化する。気化するとフッ素ガスを発生するため、焼結体中に微細な気泡が生成される。発生した気泡の形状はほぼ球形で、電子顕微鏡(SEM)で焼結体の破断面を観察すると、気泡の断面は真円に近い円形に見える。その気泡のサイズを、破断面に見える径で表示すると、小さなもので数μm、大きなもので20?40μm程度である。小さい数μmのものの形状はほぼ円形に近く、大きなものの形状は円形のものは希で、大半は細長いものとか、角ばったものとか、不定形なものとなっている。これら形状から、小さなものは発生したばかりの気泡、大きなものは発生した気泡の幾つかが集合したものと考えられる。
【0060】
このため、低温の加熱で焼結させることにより、小さな気泡の発生(発泡)を可能な限り避け、また加熱の経過によって小さな気泡が集合することも可能な限り避けて緻密な焼結体とすることとした。上記(1)?(3)の思想を併用し、中性子線減速系装置の部材として減速性能以外の要求特性である機械的強度に優れた特性を有する中性子線減速材用フッ化物焼結体を製造することとした。
【0061】
上記目的を達成するために、本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体(1)は、緻密な多結晶構造のMgF_(2)焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下で、曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有することを特徴としている。
【0062】
上記中性子線減速材用フッ化物焼結体(1)によれば、嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下の緻密な多結晶構造のMgF_(2)焼結体であるため、焼結体の組織構造が均一で、内外部位での差が小さくなっており、かつ固溶体生成量を抑制して結晶成長を抑え、脆性部分の発生を減少させ、焼結体の強度を高めることができる。従って、焼結体製造時の加工工程において、また工程間のハンドリング時において割れ、欠けが容易に発生することがない。また、BNCT装置への設置時において、あるいは同装置の操業時において中性子線照射衝撃が加わっても、割れ、欠けなどの損傷が発生しない機械的強度のものを得ることができる。従って、良好な減速性能を有し、且つハンドリングが容易な機械的強度を有する中性子線減速材用フッ化物焼結体を提供することができる。
【0063】
また、本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体(2)は、上記中性子線減速材用フッ化物焼結体(1)において、ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有するものであることを特徴としている。
【0064】
上記中性子線減速材用フッ化物焼結体(2)によれば、上記中性子線減速材用フッ化物焼結体(1)と同様の効果が得られるとともに、当該焼結体は極めて優れた機械的強度を有しており、減速材とする際の機械加工時においてひび割れなどを起こすことがなく、また、減速材としての使用中に照射される中性子線照射衝撃に対しても十分な耐衝撃性を有するものとすることができる。
【0065】
上記目的を達成するために、本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法(1)は、高純度MgF_(2)原料をメディアン径で1?2μm程度まで粉砕し、焼結助剤を0.1?1wt.%添加して配合する工程、該配合原料を出発原料として一軸プレス成形機を用いて成形圧5MPa以上で成形する工程、該一軸成形品を冷間等方加圧成形(CIP)機を用いて成形圧5MPa以上で成形する工程、該CIP成形品を大気雰囲気中で550?600℃に加熱して仮焼結を行わせる工程、不活性ガス雰囲気中で、発泡開始温度直下の温度範囲で4?16時間加熱して焼結をより均一に進行させ、その後、固溶体を生成し始める温度域近傍で0.5?3時間加熱し、緻密な構造のMgF_(2)焼結体を形成する本焼結工程を含むことを特徴としている。
【0066】
ここでCIPとは、上水と直接触れないようにビニール製袋などでシールした袋内に一軸成形品を入れ、脱気したものを圧力容器内に置き、その容器内に上水をはり、所定の水圧を掛ける加圧成形方法をいう。
【0067】
ここで、発泡開始温度とは、フッ素化合物の一部が分解し始め、フッ素ガスを発生して微細な気泡を生成し始める温度のことをいう。MgF_(2)原料を用い、大気雰囲気中で550℃で6時間加熱処理して形成した仮焼結体を粉砕し、この粉砕物を示差熱分析計の供試試料とし、加温しつつ試料の重量変化と吸発熱量の変化を調査した。およそ800℃くらいから極わずかに重量減少が認められたが、これは結合性の弱い、例えば仮焼結体の母材に付着したフッ素とか母材中に溶解したフッ素がまず先に解離、分解したことによるものと思われた。さらに加温していくと、850℃あたりで重量減少曲線の変曲点が現れ、その重量減少は活発なものとなった。これ以上の温度域では、MgF_(2)中の結合したフッ素の一部が分解し始め、フッ素ガスを発生して微細な気泡を生成する原因になる、と想定された。このため、この変曲点の温度、すなわち約850℃を発泡開始温度と称することにした。
【0068】
ここで、発泡開始温度直下の温度範囲とは、具体的には750?840℃の温度範囲のことをいう。
ここで、固溶体を生成し始める温度域とは、図1に示すMgF_(2)-CaF_(2)二元系状態図における固溶体を生じ始める温度である980℃前後の温度域のことをいう。
【0069】
上記本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法(1)を用いて製造された焼結体は、強固な粒子間の結合力を有し、結合部の機械的強度(ミクロ強度)は高いものとなる。課題であった曲げ強度、耐衝撃性は著しく向上し、中性子線用減速材として実用上全く問題なく使用出来るものが得られた。また、製造される焼結体は、MgF_(2)の純度、加熱雰囲気、加熱温度パターンなどの選定により、より緻密度の高いものとなる。また、焼結体であるため、その結晶構造は多結晶となり、単結晶と比較して脆性度は著しく向上する。
【0070】
従って、上記本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法(1)を用いて製造された焼結体は、BNCTの減速系装置中の減速材用として切断、研削、研磨等の加工成形、更には、その減速系装置への設置などのハンドリングに際しても十分な機械的強度を有しており、問題無く施工することができるものであった。また、中性子線が照射されても、その照射衝撃に対して問題無く使用できるものであり、中性子線の減速性能に関しても、極めて優れたものであった。
【0071】
また、本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法(2)は、上記中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法(1)において、前記本焼結工程における不活性ガス雰囲気が、窒素、ヘリウム、アルゴン、及びネオンの中から選択される1種類のガス、または複数種類のガスを混合させたものからなることを特徴としている。
このように、不活性ガスとしては、窒素(N_(2))、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)が使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】MgF_(2)-CaF_(2)二元系の状態図である。
【図2】仮焼結工程の加熱条件と仮焼結体の収縮率との関係を示す図である。
【図3】窒素ガス雰囲気中での焼結工程の加熱条件と焼結体の生成状態との関係を示す図である。
【図4】減速材としてのMgF_(2)焼結体とCaF_(2)焼結体とを重ね合わせ構造にした場合の減速後の中性子線種の変化(減速後に、混入する高速中性子線量と治療に適する熱外中性子線量の変化)を示す図である。
【図5】MgF_(2)焼結体の相対密度と減速後の中性子線種の変化を示す表である。
【図6】実施例、比較例の測定データを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下、本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体及びその製造方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。
実施の形態に係る中性子線減速材用に好適なフッ化物焼結体の製造には、高純度(純度99.9wt.%以上)のMgF_(2)粉末を用い、焼結助剤として例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)溶液を前記粉末100に対し、0.03?0.5wt.%添加(外掛け)し、混練したものを出発原料とした。
【0074】
所定の寸法の型枠内に前記原料を充填した後、一軸プレス機を使用して成形圧5MPa以上で圧縮し、その成形品をさらに冷間等方加圧成形(CIP)機を用いて成形圧5MPa以上で成形した。
【0075】
このCIP成形品を大気雰囲気中で550?600℃の温度範囲で加熱して仮焼結を行い、その仮焼結品を大気中または不活性ガス雰囲気中で発泡開始温度(示差熱分析計での測定で定めた前記温度、約850℃)の直下の温度範囲(750?840℃)で4?16時間加熱する。この加熱により、焼結をより均一に進行させた後、固溶体が生成し始める温度域近傍、すなわち、900?1100℃の温度範囲で0.5?3時間加熱し、その後冷却して緻密な構造のMgF_(2)焼結体を製造する。
【0076】
上記したように、図1に示すMgF_(2)-CaF_(2)二元系状態図においては、固溶体を生じ始める温度は980℃前後の温度域であるが、本発明者らは、実際に焼結させた焼結体の断面の観察などから、MgF_(2)単味の場合はこの状態図の表示温度980℃よりも数10度低めの温度から固溶体が生じてくる可能性が高いと推測した。従って、固溶体が生成し始める温度域近傍は900℃以上とし、980℃未満で加熱した場合でも、固溶体は生成しているものと考えた。
【0077】
原料であるMgF_(2)の粉砕は、ポットミル中にボールミル用のボールを充填し、そこに原料を3kg充填して一週間混練、粉砕した。ポットミルはアルミナ製で内径200mm、長さ250mmのものを使用し、充填したボールはアルミナ製で、φ5:1800g、φ10:1700g、φ20:3000g、φ30:2800gとした。粉砕後の原料の粒度を堀場製作所製のレーザ回析・散乱式粒度分布測定装置LA-920型で計測した。メディアン径はおおよそ1.2?1.3μmになっていた。
【0078】
焼結助剤は、前記CMCとステアリン酸カルシウムとの2種類を選定し、それぞれの添加割合を変えて実施し、各々の焼結助剤の効果を調べる試験を実施した。対比のため、焼結助剤を使わない試験も併せて行った。
焼結助剤の混合は、焼結助剤二種類をおのおの0?2wt.%の配合比で添加し、前記原料の粉砕と同様に、ポットミル中にボールミル用のボールを充填して一昼夜混練することにより行った。
【0079】
この混合原料を、一軸プレス機の型枠(型寸法220mm×220mm×H150mm)内に充填した後、20MPaのプレス圧を掛けて圧縮成形し、続いて、このプレス成形体をビニール袋に入れて封入し、CIP機成形部(内寸法:内径350mm×高さ120mm)に装填し、該成形部内の空間を上水で満たした後、室温で水圧による等方加圧力を種々変化させて冷間等方加圧成形(CIP)を行った。
【0080】
このCIP成形体を大気雰囲気中で温度500?700℃、時間3?18時間の範囲内で加熱条件を種々変化させて仮焼結を行った。この仮焼結体の外観を観察した後、窒素ガス雰囲気中で、室温から550℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持した。その後950℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持し、その後20時間を掛けて100℃まで冷却した。取り出した焼結体の外観、及び内部の緻密化状態を観察し、適正な配合、処理条件と仮焼結条件を調査した。
【0081】
その結果、焼結助剤2種類の効果に大差は無かったが、焼結助剤無しでは一軸プレス成形品の形状維持性能が劣り、次工程であるCIP成形工程へのハンドリング時に型くずれが多発した。焼結助剤の配合比が0.03wt.%以上で前記型くずれが認められなくなり、また、配合比が0.6wt.%を超えると仮焼結体あるいは焼結体に焼結助剤の残留物とみられる着色が認められることがあった。これらのことから、焼結助剤の配合比の適正範囲を0.03?0.5wt.%とした。
【0082】
CIP機の成形圧が5MPa未満では仮焼結、本焼結の加熱条件の適正化試験における焼結体の嵩密度が、いずれの試験においても、成形圧が5MPa以上の場合と比べて2%以上低くなっていた。例えば、成形圧10MPaの場合に、同じ焼結条件で焼結させた焼結体の嵩密度が2.95g/cm^(3)であったのに対し、成形圧4.8MPaの場合の焼結体の嵩密度は2.86g/cm^(3)となり、3%低くなっていた。成形圧を5MPaから20MPaまで徐々に増加させると、焼結後の焼結体の嵩密度は少しずつ増加する傾向が認められた。成形圧をさらに徐々に増加させて50MPaまで試験を行った。成形圧20MPa以上の場合の仮焼結体、焼結体の嵩密度の増加は、わずかな増加にとどまり、5?20MPa間のような直線的な向上は認められなかった。これらのことから、成形圧の適正値は5MPa以上、望ましくは20MPa以上とした。
【0083】
成形体の大気雰囲気中での仮焼結条件は、図2に示したように、加熱温度が550℃未満では成形体の寸法と比較して収縮はわずかであり、610℃以上ではその収縮が大きく、収縮の制御が困難になった。このことから、仮焼結温度の適正範囲を550?600℃とした。
【0084】
また加熱時間の適正値は、図2に示したように、550℃では収縮速度の評価から8?9時間が最適であり、4?10時間が適正と判断できた。600℃では6?8時間が最適であり、4?10時間が適正と判断できた。これらの結果から、仮焼結の加熱条件は、大気雰囲気中で550?600℃、4?10時間の加熱とした。
【0085】
次に、中性子線減速材用に好適なMgF_(2)焼結体を製造するうえで重要な本焼結工程およびその焼結機構について記載しておく。
焼結工程の進行度を表現する用語である“一次凝集過程”、“二次凝集過程”の定義について記述する。“一次凝集過程”とは、焼結の前半段階であり、その初期段階では粒子と粒子との間隔が徐々に狭まり、粒子同士の間の空隙も狭まってくる。さらには、粒子同士の接触部分が太くなり、その間の空隙は小さくなる。ただし、その空隙の大多数は開気孔で周りの雰囲気と通じている。この様な段階までを“一次凝集過程”と称する。
【0086】
一次凝集過程を終え、さらに焼結が進むと、開気孔が徐々に減り、閉気孔化して行く。大まかには、この閉気孔化の段階と、さらにその後の脱泡、緻密化の段階を含めて“二次凝集過程”と称する。
【0087】
本発明では、原料の微粉砕、粒度調整、焼結助剤の混練、一軸プレス成形、CIP成形、仮焼結などで、仮焼結体の粒子間の空隙は小さく、且つ、その空隙は集合せずにほぼ均一に分散しているとみとめられた(一次凝集過程の前半段階)。
【0088】
次の本焼結工程の昇温過程で徐々に加熱温度を上昇させ、仮焼結温度域(550?600℃)あたりから粒子同士の集合がはじまり、それに引き続き、固溶体が生成し始める980℃よりもかなり低い温度域から固相間反応が始まり、それに伴い粒子同士の凝集が進行し、粒子間距離は短くなり、空隙が小さくなる。ただし、仮焼結程度の比較的低い温度(550℃付近の温度)で短時間の加熱では、大半の空隙は依然として開気孔状態のままである(一次凝集過程の後半段階)。
【0089】
固相間反応は、一般的には、その温度から10%程度またはそれ以上低い温度域から始まると言われている。本発明者らの予備試験での焼結体断面の観察などから、固相間反応は一般的にいわれている温度よりもさらに低い温度域から始まり、おおよそ500℃程度から始まっていると考えられた。その根拠は、適正な仮焼結温度の下限である550℃ではすでにかなり焼結が進行し、仮焼結体は成形体に比べてかなり収縮するからである。この予備試験では、おおよそ10?20vol.%程度嵩体積が収縮していた。この温度域ではゆっくりとした反応速度で進み、およそ700℃近傍またはそれ以上の980℃以下の温度域ではかなりの反応速度を有すると考えられた。
【0090】
また、ここで注意すべき点は、約850℃以上の温度域における、原料の一部が気化して発生する微細な気泡(発泡気体)の挙動である。約850℃以上の加熱をする場合には、この気泡の発生が顕著になるため、可能な限り短時間の加熱にすべきと考えられた。
【0091】
つぎに、原料粒子のミクロな挙動について説明する。固溶体を生じ始める980℃を超えたあたりからは、MgF_(2)の微粒子が存在する粒子界面付近から溶融し始め、MgF_(2)の固溶体が生成し始める。図1に基づいて説明したとおり、本発明者らは予備試験での焼結体の断面観察などから、MgF_(2)単味系の場合、実態としてはこの温度よりも数十度程度低い温度域から固溶体は生成し始めていると推定した。この固溶体が粒子間の空隙を埋めていき、一部では毛細管現象により微細な空隙も埋められると推定された。
【0092】
他方、加熱温度が980℃未満であっても、前述のように約700℃以上で長時間加熱すると、固相間反応が進み、時間の経過とともに空隙は徐々に減少して閉気孔化し、それと並行して閉気孔内のガス成分が焼結体のバルク(母体)内に拡散して脱泡が進み、気泡の少ない緻密な焼結体となる(二次凝集過程)。ただし、700℃程度の比較的低い温度域での加熱で緻密化させるには、かなり長時間の加熱を要することとなり、生産性が低くなり、経済的ではない。
【0093】
ここでも、約850℃以上の加熱では、原料の気化によって発生する微細な気泡(発泡気体)の存在に注意が必要である。気泡中にはフッ素ガスが内包されていると推定される。フッ素は原子番号が9、原子量が18.998と空気よりも重く、軽元素の中では比較的重い元素である。焼結体のバルク(母体と同意語)内での拡散速度は遅く(拡散し難く)、一旦形成された気泡は簡単には消滅しないと考えられる。発泡抑制策としては、発泡する温度域での加熱を可能な限り避けること、またその温度域での加熱を短時間にとどめることなどが挙げられる。
【0094】
この発泡気体と焼結工程で閉気孔化し脱泡出来ずに残った気泡(以下、残留気泡と称す)との外観上の差異を記す。通常の比較的短時間の加熱で発生した発泡気体のサイズはおおよそ直径数μm、形状はほぼ真球状である。他方、残留気泡のサイズは大中小まちまちであり、形状は真球状ではなく不定形であり、形状の差異から両者を見分けることが可能である。ただし、980℃をはるかに超える高温での加熱とか、980℃を超えた温度域での長時間加熱の場合には、発泡気体同士、あるいは残留気泡と発泡気体とが集合して大きな不定形の気泡に成長してしまい、発生由来の判別は困難となる。
【0095】
二次凝集過程の進行に伴い、粒子間の空隙は小さくなり、空隙の全部または大半は粒子または焼結体のブリッジ部分などに囲まれ、閉気孔(気泡)となる。条件によっては空隙(開気孔)を通じて脱ガスし、あるいは粒子とか焼結体のブリッジ部分などのバルク内に気泡内のガス成分が浸透して脱ガスし、気泡が消滅する(脱泡現象)。この粒子間の空隙が閉気孔(気泡)として残るか、あるいは脱ガスして気泡として残らずに消滅してしまうかは、焼結体の緻密化の達成度、ひいては焼結体の特性を決めるうえで大きな要素となる。とくに不活性ガス(He、Neなどの軽元素ガス)雰囲気中での焼結では、軽元素ほど細孔内とか焼結体のバルク内を拡散し易く、毛細管現象と脱泡現象とが促進され、気泡が残り難く、緻密化が容易になると考えられた。この様に全体を緻密化させるためには、一次凝集過程と二次凝集過程とを連続的にバランスよく進めることが重要である。
【0096】
本発明では、主として一次凝集過程の前半段階に当たる仮焼結工程と、主として一次凝集過程の後半と二次凝集過程に当たる本焼結工程とを分けて行うこととし、二つの凝集過程が焼結体全体として均一に進みやすくしている。しかしながら、このように仮焼結と、本焼結とに焼結工程を2つに分けたからと言って加熱条件が適正でなければ意味をなさない。例えば、仮焼結工程で適正域を超えた高温で加熱したり、本焼結工程の昇温段階で急速に加熱をしたり、本焼結工程の保持温度が適正域を超えた高温であったりすると、焼結体の外周部と内部とで緻密化の程度に著しく差を生じてしまう。このような状態になると、焼結体内部の緻密化過程で脱ガスが困難となり、内部の緻密化が不十分となる。そこで、サイズに応じた焼結工程の加熱温度パターンの適正化が重要となる。
【0097】
前述のとおり、本焼結工程直前までの適正条件が明らかになっており、この本焼結工程に供される仮焼結体はその全体が既に一次凝集の前半段階まで進んだ状態になっている。ここで重要なことは、仮焼結体の全体が既に均一に一次凝集の途中まで進んでいることである。
【0098】
中性子線減速材用に好適なフッ化物焼結体の製造方法を探るため、種々の本焼結工程を実施してみた。
粉砕した原料であるMgF_(2)に、焼結助剤としてCMCを0.2wt.%添加した配合原料に、一軸プレス成形とCIP成形を施し、550℃で6時間の仮焼結を実施した仮焼結体を用いた。いずれも加熱時間を一定の6時間にして焼結温度を600℃から1200℃までの間で、50℃毎にそれぞれ変更させた場合の焼結体の嵩密度を測定した。おおよそ900℃から1100℃の範囲の場合は、2.90g/cm^(3)を超える高密度となったが、850℃以下の焼結温度の場合、逆に1150℃以上の焼結温度の場合はいずれも嵩密度が2.90g/cm^(3)を下回った。それらの焼結体の断面を観察すると800℃以下のものの場合、焼結部分のブリッジ幅が細く、如何にも焼結進行不足と判断でき、850℃ではわずかではあるが開気孔が認められた。1100℃では内部に幾つかの不定形の気泡が見られ、さらに1150℃以上では内部に不定形の気泡が無数に発生したようなポーラスな軽石状の組織となっていた。また、焼結体全体に直径数?10数μmのほぼ真球状の微細な気泡と径10μm以上の不定形の気泡が観察した断面の全面に無数に認められた。この真球状の気泡はその形状から発泡気体、また、この不定形の気泡は同じくその形状から集合気泡であると判断できた。
【0099】
一方、本発明者らの調査では、これらを粉砕したMgF_(2)原料を示差熱分析計にかけて昇温させていく過程で、温度800℃くらいから重量が明確に減少し始め、850℃くらいから急激に重量が減少することが分かった。これは、800℃くらいからMgF_(2)が分解・気化し始めてフッ素ガスが発生するいわゆる昇華現象が始まっており、850℃くらいからこの現象が活発化すること(いわゆる発泡現象を呈する)を意味している。
【0100】
この昇華により、上記したように、焼結体全体に微細な気泡が発生することとなる。発生した微細な気泡(発泡気体)は、焼結工程の進行度、焼結体のどの部位での発生なのかなどにより、脱泡するか、気泡として残るかなどの挙動が決定される。
【0101】
例えば一次凝集過程では、焼結体全体がまだ主として開気孔で構成されているため、大半の気泡が開気孔を通じて脱泡され、気泡として残るものは少ない。二次凝集過程では、焼結体が主として閉気孔で構成されているため、多くの発泡気体が脱泡出来ず、気泡として残ってしまう。また、基本的には二次凝集過程での焼結を速やかに完了させることが残留気泡を少なくできる方向であるといえる。
【0102】
これらのことから、一次凝集過程から二次凝集過程への移行は焼結体全体で可能な限り時間差少なく推移させることが望ましい。しかしながら、一次凝集過程から二次凝集過程への移行を焼結体全体で時間差なく行なわせることは容易ではない。
【0103】
そこで本発明者らは、発泡開始温度(約850℃)直下の温度域での低めの加熱を比較的長い時間行い、一次凝集過程と二次凝集過程前半を完了させ、その後、固溶体が生成し始める温度(980℃)域近傍で比較的短時間加熱にして二次凝集過程後半を完了させることとした。これが焼結体全体における焼結進行度を合わせることができ、発泡気体の生成も少ない優れた焼結方法であることを見出した。
【0104】
次に、焼結条件の適正範囲について記すことにする。仮焼結には、大気中で600℃に6時間保持した。その仮焼結体のサイズは、おおよそ212mm×212mm×t72mmの正方体形状である。
【0105】
次に、加熱雰囲気を窒素ガス雰囲気とし、加熱パターンのうち、まず昇温、降温条件はおのおの所要時間を3、6、9時間の3ケースで予備試験を行った。その結果、3時間では焼結体に小さな亀裂が発生し、その他は良好であったので6時間に設定した。
【0106】
引き続き、加熱雰囲気を窒素ガス雰囲気とし、まず加熱温度を700?1250℃の範囲で変化させ、保持時間を2、3、4、5、6、8、10、12、14、16、18時間の11ケースで実施した。結果は図3に示したように、750℃以下の場合、保持時間に依らず、緻密化が不十分であった。また、保持時間4時間以下では、1100℃以外の場合では緻密化が不十分であった。一方、1150℃を超える加熱温度では、保持時間に依らず焼結速度が速過ぎるためか気泡が多く発生し、保持時間16時間以上では焼結体外周の一部が発泡して外観形状が崩れることが生じた。
【0107】
図3の結果を詳細に見てみると、850℃の加熱の場合、保持時間8時間以上で焼結状態は良好であり、6時間以下ではやや焼結不足気味であった。
900℃の場合、5時間以上で良好であり、4時間以下ではやや焼結不足であり、16時間以上では良否判定不能であった。
950℃の場合、5?14時間が良好で、4時間以下ではやや焼結不足となり、15時間以上では良否判定不能であった。
1000℃の場合、5?12時間が良好で、4時間以下ではやや焼結不足となり、14時間以上では発泡が多いものとなった。
1100℃の場合、3?8時間が良好で、10時間以上では発泡が多いものとなった。
1150℃の場合、いずれの保持時間でも発泡が多く見られた。
1200℃の場合、3時間以下では焼結不足となり、4時間以上では、良否判定不能か、溶け過ぎなどの不良なものであった。
【0108】
800?850℃の比較的低目の加熱温度の場合、保持時間4?8時間ではやや焼結不足気味であったが、本発明では本焼結工程を二段に分け、次の後本焼結工程が有るため、前本焼結工程における評価では良好と位置付けることにした。
【0109】
つぎに、加熱温度と焼結体の嵩密度、歩留りに相当する焼結体の質量減TGとの関係を調べるために、上記と同じ仮焼結体を使用して保持時間は6時間一定とし、加熱温度を600?1300℃の範囲で変化させた。
【0110】
結果は、加熱温度が900℃で嵩密度はおおよそ2.90g/cm^(3)となり、これ以上の嵩密度の焼結体は、図3に示した結果と同様に、後工程での取扱いで崩れる様なトラブルは無く、緻密化は十分と判断できた。
【0111】
一方、加熱温度が1150℃以上では質量減TGは-0.8%以上となり、歩留低下が著しい状態となり、またこの温度以上になると、焼結体外周の一部が発泡して外観形状が崩れたりするトラブルが発生した。
【0112】
図3に示した結果から、焼結工程をひとつの加熱工程とした場合の加熱温度は850?1100℃、保持時間は3?14時間(この範囲内で高温度では短時間の加熱、また、低温度では比較的長い時間の加熱)が適正条件であると判断できた。
【0113】
この中で顕著になったことは、例えば900℃で16時間以上、1000℃で14時間以上、1100℃で10時間以上の比較的長時間の加熱を実施した場合、発泡量が多く、その一部は集合して大きな気泡に成長しつつあることである。この様な焼結体は、次工程の機械加工工程において、大きな気泡部分から亀裂が発生したり、割れの原因になるなどの欠陥を内包することが確認された。
【0114】
この様な状況から、本願発明者らは、本焼結工程の基本的な方針として、発泡を極力抑制し、尚且つ焼結反応は十分に進行させることとし、その後の機械加工工程で良好な加工性を有する焼結体を製造することとした。
【0115】
本焼結工程の最初の段階では発泡を極力生じさせず、ゆっくりと焼結を進行させ、焼結体内部とその外周部との焼結の進行度合いに極力差を生じさせないことを基本方針とした。加熱温度、同保持時間域としては上記のとおり800?1100℃の範囲内とした。発泡が顕著になる温度が約850℃のため、それを下回る840℃以下、すなわち本焼結工程の最初の段階の加熱温度は750?840℃、保持時間は5?12時間とした。
【0116】
次の焼結体の焼結反応を高める段階の加熱は、上記の適正条件の内で、固溶体が生成し始める温度である980℃前後の温度域、すなわち900?1100℃とした。保持時間については、焼結反応を高めて、且つ発泡を抑えるため極力短時間にすることとし、図3の結果と後述する実施例、比較例の事例などを判断材料にして、0.5時間未満では焼結反応の高まりに乏しく、4時間以上では発泡が多くなり過ぎることから0.5?3時間の保持とした。
【0117】
雰囲気ガスをヘリウムに変えた場合も、その結果は窒素ガスの場合と変わらず、800℃未満では保持時間に依らず、また、保持時間4時間以下では緻密化が不十分であり、1110℃以上の場合、窒素ガスの場合と同様に保持時間に依らず焼結速度が速過ぎて気泡が多く発生し、保持時間4時間以上では発泡して外観形状が崩れることがあった。
【0118】
つぎに、加熱温度と、焼結体の嵩密度と、歩留りに相当する焼結体の質量減TGとの関係を調べるために、上記と同じ仮焼結体を使用して保持時間は6時間一定とし、加熱温度を600?1300℃の範囲で変化させた。結果は窒素ガスの場合と同じように、加熱温度900℃で嵩密度はおおよそ2.90g/cm^(3)となり、これ以上の嵩密度の焼結体は、窒素ガスの場合と同様に、後工程での取扱いで崩れる様なこともなく、緻密化は十分と判断した。一方、加熱温度が1110℃以上では質量減TGが-0.8%以上となり、歩留低下が著しい状態となり、また、焼結体外周の一部が発泡して外観形状が崩れたりするトラブルが発生した。
【0119】
よって、加熱温度は900?1100℃、保持時間0.5?2.5時間が適正条件であると判断した。さらに、加熱温度が950?1050℃、保持時間0.5?3時間の場合、機械加工に供す場合に割れ等の欠陥が生じ難く、機械加工性も良好であったことから望ましい加熱温度、保持時間は950?1050℃、0.5?3時間であると判断した。よって、ヘリウムガス雰囲気中での本焼結工程の適正な加熱条件は、上記窒素ガス雰囲気の場合と同様に、本焼結工程の最初の加熱は750?840℃、5?12時間の保持時間、後工程の加熱は900?1100℃、0.5?3時間の保持時間を適正条件とした。
【0120】
不活性ガスとしては窒素、ヘリウムに限らず、アルゴンでもネオンでも同様の効果が得られる。ネオンに関しては、ヘリウムと同様にこの焼結体の母材への溶解度とか拡散性が高いと見込まれるため、脱泡現象をより促進し、ヘリウムと同等ないしはさらなる改善が期待される。
【0121】
本焼結工程の加熱条件が適正範囲である場合、焼結体の出来上がり状態は常に全体が緻密となり、一般的なセラミックス焼結体で見られる局部的に大きい空隙とか亀裂などの明らかな欠陥部位は、これらの焼結体には見られなかった。
【実施例】
【0122】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
最初に、実施例の中で焼結体について行う代表的な特性評価試験方法を説明しておく。中性子線の減速性能を評価するには、まず、加速器から出射されたビームをターゲットであるBeに衝突させ、核反応により主として高エネルギーの中性子線(高速中性子線)を発生させる。次に、これを前半の減速材としての非弾性散乱断面積の大きいPbとFeとを用い、中性子数の減衰を抑えながらある程度(おおよそ、?1MeV)まで減速する。次に、これを評価したい減速材(後半の減速材)に照射し、減速させたあとの中性子線を調べることにより評価する。中性子線の内容(以下、「中性子束」と称す)の測定は、本発明者らが考案した方法(前記の非特許文献3)に準じて行った。評価する後半の減速材のトータル厚さは320mmの一定とし、減速材の種類はMgF_(2)、CaF_(2)の2種類とした。さらに、MgF_(2)とCaF_(2)とを2層に重ね合わせたケース(トータル厚さは320mmの一定)の評価も行った。
【0123】
ここで評価する内容は、減速材によって減速された中性子線のなかに患者に悪影響を与える可能性が高い高速中性子線がどの程度の数量残留しているかである。その結果を図4に示す。ここでのMgF_(2)及びCaF_(2)は、その相対密度(100×(実密度)/(真密度)、単位%)はいずれも95±2%の緻密な焼結体を用いた。
【0124】
図4からは、減速材としてMgF_(2)の層厚が増すにつれて(横軸の右方向に向かうにつれて)、患者に悪影響を与える可能性がある高速中性子線の数量が減少し、CaF_(2)のみの場合に比べてMgF_(2)のみの場合、約1/3?1/4に低減できており、MgF_(2)の方が減速材としては優れたものであることが理解できる。
【0125】
次に、上記の評価装置を用い、同じ方法で、MgF_(2)の相対密度(すなわち、緻密度)が減速性能に及ぼす影響について調査した。減速材としてはMgF_(2)焼結体のみとし、相対密度が90?97%のものを用いた。
【0126】
その結果を表1に示した。相対密度が高いものほど高速中性子線の混入量が減少しており、減速材として優れた性能が得られている。また、相対密度が92%未満のものは減速性能に大きなバラツキがあり、高速中性子線の混入量が急に増加したり、熱外中性子線量が急激に増加したりする不安定なケースが認められた。これは、緻密度が不十分で減速性能が不十分となったり、また開気孔が生じて焼結体の成形加工時に焼結体内に不純物が混入して減速性能にイレギュラーな影響を及ぼしたためと考えられる。安定した減速性能を発揮させるためには、相対密度は92%以上、すなわち嵩密度は2.90g/cm^(3)以上が必要であることが判明した。
【0127】
機械的強度の評価指数としては、曲げ強度、ビッカース硬度を採用した。曲げ強度の準備試料は、JIS C2141に準拠して試料寸法4mm×46mm×t3mmで上下面光学研磨とし、3点曲げ試験JIS R1601に準拠して試験を行った。ビッカース硬度は、島津製作所製の商品名“Micro Hardness Tester”を使用し、荷重100g、荷重時間5秒で圧子を押しつけ、圧痕の対角長を測定し、下記の硬度換算を行った。
硬度=0.18909×P/(d)^(2)
ここで、P:荷重(N)、d:圧痕対角線長さ(mm)
【0128】
[実施例1]
高純度のMgF_(2)原料(平均粒径20μm、純度99.9wt.%以上)を、上記の「発明を実施するための形態」中で説明したポットミルとアルミナ製ボールを用いて粉砕し、高純度のMgF_(2)粉末(平均粒径1.2μm、純度99.9wt.%以上)とした。この粉末に焼結助剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)溶液を前記MgF_(2)粉末100に対し、0.2wt.%の割合で添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。
この出発原料を一軸プレス機を用いて型枠(型寸法220mm×220mm×H150mm)内に充填し、一軸のプレス圧を10MPa掛けて圧縮、成形した。
【0129】
このプレス成形体(寸法約220mm×220mm×t85mm)を厚手のビニール袋内に入れ、脱気、封入したものを冷間等方加圧成形(CIP)機の成形部(内寸法:内径350mm×H120mm)に装填した。このプレス成形体が入った前記ビニール袋と前記CIP機成形部との隙間に上水を満たしてから成形圧20MPaの等方加圧を行い、CIP成形による成形体(寸法約215mm×215mm×t75mm)とした。
【0130】
この成形体に大気雰囲気中で600℃、5時間の仮焼結を実施し、寸法約208mm×208mm×t72mmの仮焼結体とした。
この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から830℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持した。この後、1000℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持した。この後、加熱を停止し、取り出し温度に設定した100℃まで約20時間かけて自然冷却(炉冷)し、その後、取り出した。
【0131】
焼結体の嵩密度は、概略寸法(193mm×193mm×t62mm)と重さから、3.05g/cm^(3)(相対密度96.8%)と算出された。焼結状態は良好であった。ここで言う“嵩密度”は、焼結体の外観が、平面視、正方形形状であるため、計測したその正方形の2辺と厚さから嵩体積を計算で求め、別に計測した重さを前記嵩体積で除して求める方法を採用した。以下、同様に行った。
【0132】
この焼結体から採取した試料を用い、前記非特許文献3に示す方法で、中性子線の減速性能および各種の特性評価試験を行った。その結果を表1に示す。以下、実施例、比較例ともに同様とした。
中性子線の減速性能は、比較材であるCaF_(2)と比べて熱外中性子線量の減少はわずかに少ない程度であったが、患者に悪影響を与える可能性が高い高速中性子線量は約1/4に低減され、優れた減速性能を有するものであることが分かった。
また、同じく表2に示したように、その他の機械的強度は問題のない良好なものであった。
【0133】
[実施例2]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で550℃、10時間の仮焼結を実施し、208mm×208mm×t73mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から750℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に9時間保持した。この後、920℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、195mm×195mm×t64mm、嵩密度2.90g/cm^(3)(相対密度92.1%)であり、焼結状態は良好であった。
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したようにいずれも良好なものであった。
【0134】
[実施例3]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、同じ冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で600℃、8時間の仮焼結を実施し、206.5mm×207mm×t71mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から840℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に12時間保持した。その後、1080℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、192mm×192mm×t61mm、嵩密度3.00g/cm^(3)(相対密度95.2%)であり、焼結状態は良好であった。
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したように、いずれも良好なものであった。
【0135】
[実施例4]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、この原料を一軸プレス成形の型枠内に充填し、一軸プレス圧を70MPa掛けて圧縮、成形し、その後、冷間等方圧力成形(CIP)機を用いて成形圧を40MPaに設定して成形を行い、成形体(寸法約213mm×214mm×t74mm)を得た。
【0136】
この成形体に大気雰囲気中で600℃、10時間の仮焼結を実施し、204.5mm×205mm×t70mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から830℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に12時間保持した。その後、1080℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持し、この後取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、190.5mm×191mm×t60mm、嵩密度3.07g/cm^(3)(相対密度97.5%)であり、焼結状態は良好であった。
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したようにいずれも良好なものであった。
【0137】
[実施例5]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で580℃、10時間の仮焼結を実施し、206mm×206mm×t70.5mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から800℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に12時間保持した。その後、920℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に3時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、191.0mm×191.5mm×t62mm、嵩密度3.02g/cm^(3)(相対密度95.9%)であり、焼結状態は良好であった。
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したようにいずれも良好なものであった。
【0138】
[実施例6]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で580℃、7時間の仮焼結を実施し、207mm×207mm×t71.5mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から830℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に12時間保持した。その後、1000℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に3時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、192.5mm×192.5mm×t63mm、嵩密度2.99g/cm^(3)(相対密度94.9%)であり、焼結状態は良好であった。
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したようにいずれも良好なものであった。
【0139】
[実施例7]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で580℃、10時間の仮焼結を実施し、206mm×206mm×t70.5mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から840℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持した。その後、980℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に3時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、193mm×193.5mm×t62.5mm、嵩密度2.96g/cm^(3)(相対密度94.0%)であり、焼結状態は良好であった。
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したようにいずれも良好なものであった。
【0140】
[実施例8]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で560℃、8時間の仮焼結を実施し、207mm×206mm×t70.5mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から840℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持した。その後、920℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に3時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、194.5mm×194.5mm×t64mm、嵩密度2.91g/cm^(3)(相対密度92.4%)であり、焼結状態は良好であった。
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したようにいずれも良好なものであった。
【0141】
[実施例9]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で580℃、10時間の仮焼結を実施し、205mm×205mm×t70.5mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体をヘリウムガス雰囲気中で室温から840℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持した。その後、980℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に3時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、192.5mm×192.5mm×t62mm、嵩密度3.00g/cm^(3)(相対密度95.2%)であり、焼結状態は良好であった。
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したようにいずれも良好なものであった。
【0142】
[実施例10]
実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で560℃、6時間の仮焼結を実施し、207mm×207mm×t70.5mmの仮焼結体を得た。
この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から770℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に10時間保持した。その後、900℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に3時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、194.5mm×194.5mm×t64mm、嵩密度2.90g/cm^(3)(相対密度92.1%)であり、焼結状態は良好であった。
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したようにいずれも良好なものであった。
【0143】
[実施例11]
実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で550℃、8時間の仮焼結を実施し、207mm×207mm×t70mmの仮焼結体を得た。
この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から790℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持した。その後、940℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1.5時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、194.5mm×194.5mm×t64mm、嵩密度2.91g/cm^(3)(相対密度92.4%)であり、焼結状態は良好であった。
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したようにいずれも良好なものであった。
【0144】
[比較例1]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で530℃、5時間の仮焼結を実施し、208mm×208mm×t73mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から750℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に9時間保持した。その後、920℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、195mm×195mm×t64mm、嵩密度2.88g/cm^(3)(相対密度91.4%)であり、焼結状態は良好であった。
【0145】
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したように、減速後の中性子線束において身体に悪影響を及ぼす恐れがある高速中性子線が多く残存しており、十分な減速効果が得られておらず、問題を残したものとなっていた。しかも、機械的強度が低く、このことも問題がある結果となっていた。
【0146】
[比較例2]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で530℃、5時間の仮焼結を実施し、209mm×209mm×t76mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から740℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に4時間保持した。その後、890℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、198mm×198mm×t68mm、嵩密度2.80g/cm^(3)(相対密度88.9%)であり、焼結状態は明らかにポーラスなものになっており、取扱いに問題を来す不都合なものであった。
【0147】
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したように、減速後の中性子線束において身体に悪影響を及ぼす恐れがある高速中性子線が多く残存しており、十分な減速効果が得られておらず、問題を残したものとなっていた。しかも、機械的強度は測定出来ないほど低くなっており、このことも問題がある結果となっていた。
【0148】
[比較例3]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で550℃、10時間の仮焼結を実施し、208mm×208mm×t73mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から750℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に9時間保持した。その後、880℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1.5時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、197mm×196mm×t67mm、嵩密度2.88g/cm^(3)(相対密度91.4%)であった。焼結状態は外観上は良好であったが、焼結体を研削機で仕上げる研削加工する段階において、焼結体内に研削液を吸収する現象が認められた。そのため、焼結体内のミクロ組織を詳細に調べた。その結果、開気孔が多数出来ており、焼結が不十分であることが判明した。
【0149】
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したように、減速後の中性子線束において身体に悪影響を及ぼす恐れがある高速中性子線が多く残存しており、十分な減速効果が得られておらず、問題を残したものとなっていた。しかも、機械的強度が低く、このことも問題がある結果となっていた。
【0150】
[比較例4]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で600℃、10時間の仮焼結を実施し、208mm×208mm×t73mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から840℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持した。その後、1150℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に3時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、196.5mm×197mm×t68mm、嵩密度2.87g/cm^(3)(相対密度91.1%)であった。焼結状態はポーラスであった。焼結体内のミクロ組織を調べたところ、組織が疎になっており、激しい発泡により多孔質化した跡が観察された。
【0151】
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したように、減速後の中性子線束において身体に悪影響を及ぼす恐れがある高速中性子線が多く残存しており、十分な減速効果が得られておらず、問題を残したものとなっていた。しかも、機械的強度が低く、このことも問題がある結果となっていた。
【0152】
[比較例5]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、この原料を一軸プレス機を用いて型枠(型寸法220mm×220mm×H150mm)内に充填し、一軸のプレス圧を4MPa掛けて圧縮、成形した。
このプレス成形体(寸法約220mm×220mm×t85mm)を厚手のビニール袋内に入れ、脱気、封入したものを冷間等方加圧成形(CIP)機の成形部(内寸法:内径350mm×H120mm)に装填した。このプレス成形体が入った前記ビニール袋と前記CIP機成形部との隙間に上水を満たしてから成形圧4MPaの等方加圧を行い、CIP成形による成形体(寸法約218mm×218mm×t75mm)とした。
【0153】
その成形体に大気雰囲気中で550℃、5時間の仮焼結を実施し、寸法約211mm×211mm×t73mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から740℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持した。その後、900℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持し、この後、加熱を停止し、取り出し温度に設定した100℃まで約20時間かけて自然冷却(炉冷)し、その後、取り出した。
【0154】
焼結体の嵩密度は概略寸法(199mm×199mm×t68mm)と重さから2.86g/cm^(3)(相対密度90.8%)と算出され、焼結状態はポーラス気味であった。
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したように、減速後の中性子線束において身体に悪影響を及ぼす恐れがある高速中性子線が多く残存しており、十分な減速効果が得られておらず、問題を残したものとなっていた。しかも、機械的強度が低く、このことも問題がある結果となっていた。
【0155】
[比較例6]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、この原料を一軸プレス機を用いて型枠(型寸法220mm×220mm×H150mm)内に充填し、一軸のプレス圧を10MPa掛けて圧縮、成形した。
【0156】
このプレス成形体(寸法約220mm×220mm×t85mm)を厚手のビニール袋内に入れ、脱気、封入したものを冷間等方加圧成形(CIP)機の成形部(内寸法:内径350mm×H120mm)に装填した。このプレス成形体が入った前記ビニール袋と前記CIP機成形部との隙間に上水を満たしてから成形圧20MPaの等方加圧を行い、CIP成形による成形体(寸法約215mm×215mm×t75mm)とした。
【0157】
その成形体に大気雰囲気中で500℃、4時間の仮焼結を実施し、寸法約211mm×211mm×t72mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から730℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持した。その後、900℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持し、この後、加熱を停止し、取り出し温度に設定した100℃まで約20時間かけて自然冷却(炉冷)し、その後、取り出した。
【0158】
焼結体の嵩密度は概略寸法(198mm×198mm×t68mm)と重さから2.85g/cm^(3)(相対密度90.5%)と算出され、焼結状態は不十分でポーラス気味であった。
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したように、減速後の中性子線束において身体に悪影響を及ぼす恐れがある高速中性子線が多く残存しており、十分な減速効果が得られておらず、問題を残したものとなっていた。しかも、機械的強度が低く、このことも問題がある結果となっていた。
【0159】
[比較例7]
上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、この原料を一軸プレス機を用いて型枠(型寸法220mm×220mm×H150mm)内に充填し、一軸のプレス圧を4MPa掛けて圧縮、成形した。
このプレス成形体(寸法約220mm×220mm×t85mm)を厚手のビニール袋内に入れ、脱気、封入したものを冷間等方加圧成形(CIP)機の成形部(内寸法:内径350mm×H120mm)に装填した。このプレス成形体が入った前記ビニール袋と前記CIP機成形部との隙間に上水を満たしてから成形圧4MPaの等方加圧を行い、CIP成形による成形体(寸法約218mm×218mm×t75mm)とした。
【0160】
その成形体に大気雰囲気中で550℃、5時間の仮焼結を実施し、寸法約211mm×211mm×t72.5mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体をヘリウムガス雰囲気中で室温から740℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持した。その後、900℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持し、この後、加熱を停止し、取り出し温度に設定した100℃まで約20時間かけて自然冷却(炉冷)し、その後、取り出した。
【0161】
焼結体の嵩密度は概略寸法(198mm×198.5mm×t67.5mm)と重さから2.89g/cm^(3)(相対密度91.7%)と算出され、焼結状態はポーラス気味であった。
中性子線の減速性能および各種特性評価結果は、表2に示したように、減速後の中性子線束において身体に悪影響を及ぼす恐れがある高速中性子線が多く残存しており、十分な減速効果が得られておらず、問題を残したものとなっていた。しかも、機械的強度が低く、このことも問題がある結果となっていた。
【0162】
[比較材:CaF_(2)]
高純度のCaF_(2)原料(平均粒径20μm、純度99.9wt.%以上)を、上記ポットミルとアルミナ製ボールを用いて粉砕し、高純度のCaF_(2)粉末(平均粒径1.4μm、純度99.9wt.%以上)とした。この粉末に焼結助剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)溶液を前記CaF_(2)粉末100に対し、0.2wt.%の割合で添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とした。
【0163】
この原料を一軸プレス機を用いて型枠(型寸法220mm×220mm×H150mm)内に充填し、一軸のプレス圧を10MPa掛けて圧縮、成形した。
このプレス成形体(寸法約220mm×220mm×t85mm)を厚手のビニール袋内に入れ、脱気、封入したものを冷間等方加圧成形(CIP)機の成形部(内寸法:内径350mm×H120mm)に装填した。このプレス成形体が入った前記ビニール袋と前記CIP機成形部との隙間に上水を満たしてから成形圧20MPaの等方加圧を行い、CIP成形による成形体(寸法約215mm×215mm×t75mm)とした。
【0164】
その成形体に大気雰囲気中で600℃、6時間の仮焼結を実施し、寸法約208mm×208mm×t72mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から870℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持した。その後、1100℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持し、この後、加熱を停止し、取り出し温度に設定した100℃まで約20時間かけて自然冷却(炉冷)し、その後、取り出した。
【0165】
CaF_(2)焼結体の嵩密度は概略寸法(193mm×193mm×t62mm)と重さから3.05g/cm^(3)(相対密度95.9%。CaF_(2)の真密度は3.18g/cm^(3))と算出され、焼結状態は良好であった。
評価結果は、表2に示したように緻密な焼結状態の焼結体が得られており、機械的強度は十分なものであった。しかしながら、中性子線に対する減速性能は高速中性子線の残存量が多く、大きな問題を残すものとなっていた。この結果は、CaF_(2)焼結体においては十分に緻密なものであっても、減速材としての特性は、MgF_(2)焼結体に比べると劣るものであることを示していた。
【産業上の利用可能性】
【0166】
中性子線など各種放射線の放射速度を抑制するための減速材に利用することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緻密な多結晶構造のMgF_(2)焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm^(3)以上3.07g/cm^(3)以下で、曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有することを特徴とする中性子線減速材用フッ化物焼結体。
【請求項2】
ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有することを特徴とする請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体。
【請求項3】
MgF_(2)焼結体からなる中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法であって、
高純度のMgF_(2)原料を微粉砕し、焼結助剤を0.1?1wt.%添加して混合する工程、
一軸プレス機を用いて成形圧5MPa以上で成形する工程、
冷間等方加圧成形(CIP)機を用いて成形圧5MPa以上で成形する工程、
大気雰囲気中、550?600℃の温度範囲、4?10時間の条件で仮焼結させる工程、
不活性ガス雰囲気中で、750?840℃の温度範囲で、5?12時間加熱する工程、
前工程と同じ雰囲気中で900?1100℃の温度範囲で、0.5?3時間加熱して緻密な構造のMgF_(2)焼結体を形成する本焼結工程、
を含むことを特徴とする請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記本焼結工程における不活性ガス雰囲気が、窒素、ヘリウム、アルゴン、及びネオンの中から選択される1種類のガス、または複数種類のガスを混合させたものからなることを特徴とする請求項3記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-04-11 
出願番号 特願2014-561664(P2014-561664)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (C04B)
P 1 652・ 121- YAA (C04B)
P 1 652・ 111- YAA (C04B)
P 1 652・ 536- YAA (C04B)
P 1 652・ 113- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 浅野 裕之立木 林  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 後藤 政博
三崎 仁
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5813258号(P5813258)
権利者 国立大学法人 筑波大学 株式会社大興製作所
発明の名称 中性子線減速材用フッ化物焼結体及びその製造方法  
代理人 井内 龍二  
代理人 井内 龍二  
代理人 井内 龍二  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
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