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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1329050
異議申立番号 異議2016-700793  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-31 
確定日 2017-04-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5870515号発明「ポリカーボネート樹脂組成物および成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5870515号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 特許第5870515号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第5870515号の請求項1ないし11に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成23年6月24日(優先権主張 平成23年3月28日、平成23年3月1日、平成22年6月25日)に特許出願され、平成28年1月22日に設定登録され、同年3月1日に特許公報が発行され、その後、同年8月31日付けで特許異議申立人林法子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年12月5日付けで請求項1ないし11に係る特許について取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年2月3日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年3月16日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(A)100重量部と、ブルーイング剤0.1×10^(-4)重量部以上10.0×10^(-4)重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm?400nmの放射照度1.5kW/m^(2)で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTMD1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(A)100重量部と、ブルーイング剤0.1×10^(-4)重量部以上10.0×10^(-4)重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、
該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm?400nmの放射照度1.5kW/m^(2)で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTMD1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。」と訂正する。なお、下線は訂正箇所を示すものである。以下、同様。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に
「構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、
そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である、ポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、
そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である、ポリカーボネート樹脂組成物。」と訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許明細書の段落【0013】に
「即ち、本発明の要旨は以下である。
1.構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(A)100重量部と、ブルーイング剤0.1×10^(-4)重量部以上10.0×10^(-4)重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm?400nmの放射照度1.5kW/m^(2)で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTM D1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「即ち、本発明の要旨は以下である。
1.構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(A)100重量部と、ブルーイング剤0.1×10^(-4)重量部以上10.0×10^(-4)重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm?400nmの放射照度1.5kW/m^(2)で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTM D1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。」
に訂正する。

(4)訂正事項4
本件特許明細書の段落【0017】に
「3.構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である、ポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「3.構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である、ポリカーボネート樹脂組成物。」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
ア 「ポリカーボネート樹脂組成物」を「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」と減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項1の「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」は、本件特許明細書の段落【0073】に記載されているから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正事項1は、「ポリカーボネート樹脂組成物」を「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」と減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(2) 訂正事項2
ア 「ポリカーボネート樹脂組成物」を「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」と減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項2の「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」は、本件特許明細書の段落【0073】に記載されているから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正事項2は、「ポリカーボネート樹脂組成物」を「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」と減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(3) 訂正事項3
ア 訂正事項3は、訂正後の請求項1と整合性を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 訂正事項3の「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」は、本件特許明細書の段落【0073】に記載されているから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正事項3は、「ポリカーボネート樹脂組成物」を「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」と減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(4) 訂正事項4
ア 訂正事項4は、訂正後の請求項3と整合性を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 訂正事項4の「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」は、本件特許明細書の段落【0073】に記載されているから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正事項4は、「ポリカーボネート樹脂組成物」を「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」と減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(5) 一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1、2、4ないし11について、請求項2、請求項4ないし7は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1、2、4ないし11に対応する訂正後の請求項1、2、4ないし11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
訂正事項2に係る訂正前の請求項3、4ないし11について、請求項4ないし11は、請求項3を引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項3、4ないし11に対応する訂正後の請求項3、4ないし11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
よって、訂正後の請求項1ないし11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明11」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(A)100重量部と、ブルーイング剤0.1×10-4重量部以上10.0×10^(-4)重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、
該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm?400nmの放射照度1.5kW/m^(2)で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTMD1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】


【請求項2】
該式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が、ポリカーボネート樹脂(A)中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して15モル%以上90モル%未満である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、
そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である、ポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】


【請求項4】
前記ブルーイング剤が、520nm以上600nm以下に極大吸収波長を有する染料である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量が、1重量ppm以上、700重量ppm以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記ブルーイング剤が、下記式(3)で表される化合物である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化4】


(上記式(3)中、R1?R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1から3のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアミノ基を表す。)
【請求項7】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、ヒンダードアミン系安定剤を0.0001重量部以上1重量部以下含有する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、酸化防止剤を0.0001重量部以上1重量部以下含有する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
該樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mmの平板)の波長350nmにおける光線透過率が60%以上である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
該樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mmの平板)の波長320nmにおける光線透過率が30%以上である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られるポリカーボネート樹脂成形品。」

第4 取消理由
1 取消理由1
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。



発明の詳細な説明には、色相の悪化を課題の一つとし(段落【0007】ないし段落【0010】)、これを解決するための手段として「ナトリウム、カリウムおよびセシウム」の「合計量」を「金属量として、通常1重量ppm以下」とすることが記載されている(段落【0073】及び【表1】)。
しかるところ、本件特許発明は、「ナトリウム、カリウムおよびセシウム」の「合計量」を「金属量として、通常1重量ppm以下」とすることを発明特定事項としていない。そして、【表1】の「実施例」及び「比較例1-2」を参照するに、「ナトリウム、カリウムおよびセシウム」の「合計量」を「金属量として、通常1重量ppm以下」とすることは、上記課題を解決するための必要な点であると認められる。
また、「ナトリウム、カリウムおよびセシウム」の「合計量」を「金属量として、通常1重量ppm以下」とすることなく、上記課題が解決されると当業者が理解できる記載もないし、上記課題が解決されるとの出願時の技術常識があるともいえない。
そうすると、「ナトリウム、カリウムおよびセシウム」の「合計量」を「金属量として、通常1重量ppm以下」とすることの特定があれば格別、かかる特定のない本件特許発明は、上記課題を解決できないものまで含むというべきである。
よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

2 取消理由2
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。



発明の詳細な説明の【表1】の「実施例」及び「比較例1-2」を参照すると、ナトリウム、カリウムおよびセシウム濃度(合計)が「メタルハライドランプ照射処理後のYI値」に影響を与えることが理解できる。
しかるところ、発明の詳細な説明には、ナトリウム、カリウムおよびセシウム濃度(合計)をどのように調整すれば、所望の「メタルハライドランプ照射処理後のYI値」を得ることができるのかの説明はなく、また、ナトリウム、カリウムおよびセシウム濃度(合計)をどのように調整すれば、所望の「メタルハライドランプ照射処理後のYI値」を得ることができるのかが出願時における当業者の技術常識であったともいえない。
そうすると、本件特許発明がどのようにして実施されるか当業者が理解できない。
よって、発明の詳細な説明は、本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

第5 判断
1 取消理由1について
本件特許発明の課題は、優れた色相(請求項1で規定されたYI値(以下、「YI値」という。)を12以下)を有するポリカーボネート樹脂を提供することである(段落【0007】?【0010】)。
そして、当該課題を解決するための手段として「ナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」とすることが発明の詳細な説明に記載されている(段落【0073】及び【表1】)。
この点、請求項1には、発明特定事項として、「ナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」とすることが記載されている。
そうすると、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されているといえる。
よって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当しない。

2 取消理由2について
発明の詳細な説明の段落【0167】?【0173】、【表1】の「実施例」及び「比較例1-2」を参照すると、触媒として「酢酸カルシウム」1.3μmolを用いると本件特許発明が実施できることが記載されている。また、同じく段落【0064】から、本件特許発明の実施に触媒は限定されないことが理解できる。
むしろ、発明の詳細な説明の【表1】の「実施例」及び「比較例1-2」を比較すると、ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウム濃度(合計)が多いとYI値に悪影響を与えることが理解できる。
以上によれば、上記発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、触媒を限定せずとも、例えば、触媒として「酢酸カルシウム」1.3μmolを用いると本件特許発明が実施できること及びポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウム濃度(合計)を低減すると本件特許発明が実施できることを理解できる。
そうすると、発明の詳細な説明は、本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているから、同法第113条第4号に該当しない。

第6 補足的判断
以下に、取消理由とはしなかった特許法第29条について簡単に検討する。
1 特許法第29条第1項第3号について
特許異議申立人が証拠として提出した甲第1号証(特開2009-144013号公報)及び甲第2号証(特開2009-91404号公報)には、本件特許発明1の「ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm?400nmの放射照度1.5kW/m^(2)で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTMD1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下である」こと(以下、「相違点1」という。)及び本件特許発明3の「ポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である」こと(以下、「相違点2」という。)が記載されておらず、また、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明が実質的に上記相違点1、2の発明特定事項を満たすとの立証はされていない。
そうすると、本件特許発明1及び3が甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1及び3を含むその余の本件特許発明についても同様である。
よって、本件特許発明1ないし11は、特許法第29条の規定に違反しておらず、同法第113条第2号に該当しない。

2 特許法第29条第2項について
本件特許発明1及び3と甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明を比較すると、少なくとも、上記相違点1、2で相違する。
そして、上記相違点1、2に係る発明の容易想到性の根拠となる証拠が特許異議申立書には証拠方法として提出されていない。
そうすると、本件特許発明1及び3が甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件特許発明1及び3を含むその余の本件特許発明についても同様である。
よって、本件特許発明1ないし11は、特許法第29条の規定に違反しておらず、同法第113条第2号に該当しない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件訂正請求による訂正後の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件訂正請求による訂正後の請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリカーボネート樹脂組成物および成形品
【技術分野】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物、および該ポリカーボネート樹脂組成物を用いたポリカーボネート樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、一般的にビスフェノール類をモノマー成分とし、透明性、耐熱性および機械的強度等の優位性を生かし、電気・電子部品、自動車用部品、医療用部品、建材、フィルム、シート、ボトル、光学記録媒体およびレンズ等の分野でいわゆるエンジニアリングプラスチックスとして広く利用されている。
しかしながら、従来のポリカーボネート樹脂に使用されるビスフェノール化合物は、芳香族環構造を有するために紫外線吸収が大きい。このため、ポリカーボネート樹脂の耐光性悪化を招き、長時間紫外線または可視光に曝露される場所で使用すると、色相、透明性または機械的強度が悪化するため、屋外または照明装置の近傍での使用に制限があった。
【0003】
このような問題を解決するために、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤またはベンゾオキサジン系紫外線吸収剤をポリカーボネート樹脂に添加する方法が広く知られている(例えば、非特許文献1)。
また、ポリカーボネート樹脂として、分子骨格中に芳香族環構造を持たない脂肪族ジヒドロキシ化合物のモノマーユニット若しくは脂環式ジヒドロキシ化合物のモノマーユニット、またはイソソルビドのように分子内にエーテル結合を持つ環状ジヒドロキシ化合物のモノマーユニットを有するポリカーボネート樹脂を使用すれば、原理的には耐光性が改良されることが期待される。
【0004】
中でも、バイオマス資源から得られるイソソルビドをモノマーとしたポリカーボネート樹脂は、耐熱性または機械的強度が優れていることから、近年数多くの検討がなされるようになってきた(例えば、特許文献1?6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/111106号パンフレット
【特許文献2】特開2006-232897号公報
【特許文献3】特開2006-28441号公報
【特許文献4】特開2008-24919号公報
【特許文献5】特開2009-91404号公報
【特許文献6】特開2009-91417号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ポリカーボネート樹脂ハンドブック(1992年8月28日 日刊工業新聞社発行 本間精一編)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の紫外線吸収剤を添加した場合、紫外線照射後の色相などの改良は認められるものの、そもそもの樹脂の色相、耐熱性若しくは透明性の悪化を招いたり、または成型時に揮発して金型を汚染したりする等の問題があった。
また、前記の脂肪族ジヒドロキシ化合物若しくは脂環式ジヒドロキシ化合物、またはイソソルビドのように分子内にエーテル結合を持つ環状ジヒドロキシ化合物は、フェノール性水酸基を有しないため、ビスフェノールAを原料とするポリカーボネート樹脂の製法として広く知られている界面法で重合させることは困難であり、通常、エステル交換法または溶融法と呼ばれる方法で製造される。この方法では、前記ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルとを塩基性触媒の存在下、200℃以上の高温でエステル交換させ、副生するフェノール等を系外に取り除くことにより重合を進行させ、ポリカーボネート樹脂を得る。
【0008】
ところが、前記のようなフェノール性水酸基を有しないモノマーを用いて得られるポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA等のフェノール性水酸基を有するモノマーを用いて得られたポリカーボネート樹脂に比べて熱安定性に劣っているため、高温にさらされる重合中または成形中に着色が起こり、結果的には紫外線または可視光を吸収して耐光性の悪化を招くという問題があった。中でも、イソソルビドのように分子内にエーテル結合を有する環状ジヒドロキシ化合物を用いた場合は、色相悪化が著しく、明度の改良について、解決するのがより困難であった。
【0009】
更に、種々の成形品として使用する場合には、高温で溶融成形されるが、その時にも同様に、着色が起こり、結果的に紫外線または可視光を吸収して耐光性の悪化を招くという問題があった。
ところで、ポリカーボネート樹脂は色相を改善するためにブルーイング剤を用いる方法が知られている。しかしながら、一般的にブルーイング剤を混合する前のポリカーボネート樹脂の色相が悪い場合は、ブルーイング剤を混合し色相を改善したとしても、明度が悪化してしまうという問題があった。
【0010】
さらにビスフェノールAを原料とするポリカーボネート樹脂は、耐加水分解性に劣り、高温高湿条件では分子量の低下に伴い、物性が低下してしまうという問題があった。
本発明の目的は、上記従来の問題点を解消し、耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性および機械的強度に優れたポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、鋭意検討を重ねた結果、分子内に下記一般式(1)で表される構造を有するポリカーボネート樹脂と特定量のブルーイング剤を含有するポリカーボネート樹脂組成物が、優れた耐光性を有するだけでなく、優れた透明性、色相、耐熱性、熱安定性および機械的強度を有することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0012】
また本発明者らは、構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上であるポリカーボネート樹脂組成物が、十分に高い明度を有しながら着色が少なくなると同時に、優れた耐衝撃性、表面硬度、熱滞留安定性および耐加水分解性を同時に有することを見出した。本この知見に基づいて、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、本発明の要旨は以下である。
1.構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(A)100重量部と、ブルーイング剤0.1×10^(-4)重量部以上10.0×10^(-4)重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm?400nmの放射照度1.5kW/m^(2)で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTM D1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【0014】
【化1】

【0015】
[但し、上記一般式(1)で表される部位が-CH_(2)-O-Hである場合を除く。]
2.前記ポリカーボネート樹脂(A)の含む構造単位の由来となる、前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物であって、該式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が、ポリカーボネート樹脂(A)中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して15モル%以上90モル%未満である、前項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0016】
【化2】

【0017】
3.構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である、ポリカーボネート樹脂組成物。
【0018】
【化3】

【0019】
4.前記ブルーイング剤が、520nm以上600nm以下に極大吸収波長を有する染料である、前項1から前項3のいずれか1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
5.前記ブルーイング剤が、下記式(3)で表される化合物である、前項1から前項4のいずれか1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0020】
【化4】

【0021】
(上記式(3)中、R1?R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1から3のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアミノ基を表す。)
6.ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、ヒンダードアミン系安定剤を0.0001重量部以上1重量部以下含有する、前項1から前項5のいずれか1に記載のポリカーボネート樹脂祖組成物。
7.ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、酸化防止剤を0.0001重量部以上1重量部以下含有する前項1から前項6のいずれか1に記載のポリカーボネート樹脂祖組成物。
8.前項1から前項7のいずれか1に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られるポリカーボネート樹脂成形品。
【発明の効果】
【0022】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品は、明度、色相および耐光性に優れると共に、耐衝撃性、表面硬度、熱滞留安定性および耐加水分解性に優れている。本発明のポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品は、電気・電子部品、自動車用部品等の射出成形分野、フィルム、シート分野、ボトル、容器分野、さらには、カメラレンズ、ファインダーレンズ、CCDまたはCMOS用レンズなどのレンズ用途、液晶またはプラズマディスプレイなどに利用される位相差フィルム、拡散シート、偏光フィルムなどのフィルム、シート、光ディスク、光学材料、光学部品、色素、および電荷移動剤等を固定化するバインダー用途といった幅広い分野へ適用可能である。
【0023】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品は、屋外若しくは照明部品等の紫外線を含む光線に曝露される用途、またはサングラス、スポーツ用ゴーグル、眼鏡レンズ若しくは液体容器などの、高明度で着色が少なく、良好な色相が要求される用途に適している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。なお、本発明において、「重量%」は「質量%」と同義である。
1.ポリカーボネート樹脂組成物
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物(I)およびポリカーボネート樹脂組成物(II)(以下、それぞれ本発明のポリカーボネート樹脂組成物ともいう)を提供する。
【0025】
1-1.ポリカーボネート樹脂組成物(I)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物(I)は、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂を含有するものであって、ポリカーボネート樹脂組成物(I)から成形された成形体(厚さ3mmの平板)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm?400nmの放射照度1.5kW/m^(2)で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTM D1925-70(1988年)に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下、好ましくは10以下、特に好ましくは8以下であることを特徴とする。
【0026】
尚、本発明におけるメタルハライドランプを用いた照射処理は、後述するが、特定の装置で、特定のフィルターなどを用い、主として300nm?400nmの波長の光を(この波長範囲以外の波長の光はできるだけ取り除き)、放射照度1.5kW/m^(2)で、試料に100時間照射することをいう。
【0027】
【化5】

【0028】
但し、上記一般式(1)で表される部位が-CH_(2)-O-Hの一部である場合を除く。
前記メタルハライドランプを用い、波長300nm?400nmの放射照度1.5kW/m^(2)で、100時間照射処理した後に測定したASTM D1925-70(1988年)に準拠したイエローインデックス(YI)値が12を超えると、ポリカーボネート樹脂組成物(I)の成形直後には着色がなくても、紫外光を含む光線に成形体が曝露されると着色する場合がある。この問題は、意外にもエステル交換反応(重縮合反応)で受ける熱履歴、使用する触媒、含まれる金属成分または特定の分子構造を持つ物質の含有量等を制御することにより解決できる。
【0029】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物(I)は、該樹脂組成物から厚さ3mmの平板に成形し、上記のようなメタルハライドランプでの照射処理等を行わずに、透過光で測定したイエローインデックス値(初期のイエローインデックス値、初期のYI値と言う)が通常10以下であることが好ましく、より好ましくは7以下、特に好ましくは5以下であり、メタルハライドランプ照射前後でのイエローインデックス値の差の絶対値が6以下であるのが好ましく、より好ましくは4以下、特に好ましくは3以下である。初期のイエローインデックス(YI)値を10以下とすることにより、耐光性を向上することができる。
【0030】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物(I)は、該樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)の、波長350nmにおける光線透過率が60%以上であるのが好ましく、より好ましくは65%以上、特に好ましくは70%以上である。該波長における光線透過率を60%以上とすることにより、吸収が小さくなり、耐光性を向上することができる。
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物(I)は、該樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mmの平板)の波長320nmにおける光線透過率が30%以上であることが好ましく、40%以上が更に好ましく、50%以上が特に好ましい。該波長における光線透過率を30%以上とすることにより、耐光性を向上することができる。
【0031】
更には、本発明のポリカーボネート樹脂組成物(I)は、該樹脂組成物から厚さ3mmの平板に成形し、透過光で測定した国際照明委員会(CIE)で規定されたL*値は通常94.3以上であることが好ましく、より好ましくは94.6以上、更に好ましくは94.8以上である。L*値を94.3以上とすることにより、耐光性を向上することができる。
1-2.ポリカーボネート樹脂組成物(II)
構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上であることを特徴とする。
【0032】
【化6】

【0033】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性および機械的強度に優れたものであるが、特に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物(II)は、後述するポリカーボネート樹脂(A)と所定量のブルーイング剤とを含むことにより、好ましくは、特定のb*値および特定のL*値の少なくとも一方を満たすものとなるので、明度がより高いものであるか、着色度がより小さいものであるか、またはその両方を同時に満たすことが可能となり、得られる成形品の意匠性が高まるという特徴を発揮することができる。特に、飲料容器などに用いた際には内容物を入れた状態での意匠性が高まる。
【0034】
即ち、本発明のポリカーボネート樹脂組成物(II)は、ブルーイング剤の含有量を本発明規定の範囲で調節することにより、特定のb*値を有するものとすることができる。前記b*値は、-1以上1以下であり、-0.7以上0.7以下であることが好ましく、-0.5以上0.5以下であることが更に好ましい。また、前記L*値は、96.15以上であり、96.20以上であることが好ましく、96.30以上であることが更に好ましい。
前記b*値またはL*値は、国際照明委員会(CIE)が策定した、人間の目で見える全ての色を3つの座標[CIE L*a*b*(CIELAB)]で表現したときの、2つの座標である。
【0035】
このCIELABの3つの座標は、L*、a*およびb*であり、このうち、L*は色の明度を示し、L*=0は黒、L*=100は白を示す。このため、L*は、0以上100以下の値をとる。また、a*は、赤/マゼンタと緑の間の色の位置を示し、a*が負の値のときは緑寄りで、逆に、正の値のときはマゼンタ寄りを示す。さらに、b*は、黄色と青の間の色の位置を示し、b*が負の値のときは青寄り、正の値のときは黄色寄りを示す。本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、このCIELABのうち、L*とb*とが特定の範囲のものである。
【0036】
なお、本発明のポリカーボネート樹脂組成物おける上記のb*値およびL*値は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形品について、具体的には後述の実施例の項に記載される方法で測定される値である。
上記のようなポリカーボネート樹脂組成物(I)または(II)であれば、本発明の効果を奏する。上記のようなポリカーボネート樹脂組成物は、例えば、触媒の種類と量を適宜選択する、重合時の温度および時間を適宜選択する、樹脂中の紫外線吸収能を有する化合物、例えば、残存フェノールまたは残存ジフェニルカーボネートを減らす、原料モノマーとして紫外領域に吸収を持つ物質の使用量を減らす、および原料中の不純物として含まれる紫外領域に吸収を持つ物質の使用量を減らす等して製造することができる。特に、触媒の種類および量、並びに重合時の温度および時間が重要である。
【0037】
2.ポリカーボネート樹脂(A)
以下、本発明のポリカーボネート樹脂(A)を製造するための方法について詳述する。本発明のポリカーボネート樹脂(A)は、以下に詳述する本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとをエステル交換反応により重縮合させることによって得られる。
【0038】
<原料>
(ジヒドロキシ化合物)
本発明のポリカーボネート樹脂(A)は、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(以下、「本発明のジヒドロキシ化合物」と称することがある。)に由来する構造単位を少なくとも含む。即ち、本発明のジヒドロキシ化合物は、2つのヒドロキシル基と、更に下記一般式(1)の構造単位を少なくとも含むものを言う。
【0039】
【化7】

【0040】
但し、上記一般式(1)で表される部位が-CH_(2)-O-Hの一部である場合を除く。
本発明のジヒドロキシ化合物としては、構造の一部に上記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物であれば特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールおよびテトラエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレンおよび9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、並びに下記一般式(4)または(5)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を有する化合物が挙げられる。これらは得られるポリカーボネート樹脂の要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
中でも、耐熱性の観点からは、無水糖アルコール、環状エーテル構造を有する化合物が好ましい。また、入手のし易さ、ハンドリング、重合時の反応性、得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点から、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましい。
【0042】
【化8】

【0043】
前記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、例えば、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニドおよびイソイデットが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのジヒドロキシ化合物は、フェノール性水酸基を有しないため、通常界面法で重合させることは困難であり、本発明に係るポリカーボネート樹脂(A)は、通常炭酸ジエステルを用いたエステル交換反応により製造されることが好ましい。
【0044】
前記の脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物は、環状構造の炭化水素骨格と2つのヒドロキシ基を有する化合物であり、ヒドロキシ基は、環状構造に直接結合していてもよいし、置換基を介して環状構造に結合していてもよい。また、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物も、分子内に環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物も、環状構造は単環であっても多環であってもよいが、分子内に環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物では環状構造が複数あるものが好ましく、更には環状構造を2つ有するものが好ましく、特にはそれら2つの環状構造が同じものであることが好ましい。
【0045】
これらのジヒドロキシ化合物のうち、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物を用いることがポリカーボネート樹脂の耐光性の観点から好ましく、中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手および製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性並びにカーボンニュートラルの面から最も好ましい。
【0046】
また、前記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造は剛直であるため、前記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物が多すぎると得られるポリマーも硬く、脆い傾向にあり、成形性または機械物性が低下する傾向がある。また、少なすぎる場合は、ポリマーの耐熱性が劣り成形材料として使用が困難な場合がある。そのため、その他のジヒドロキシ化合物を用いることにより、ポリカーボネート樹脂の柔軟性の改善または成形性の改善などの効果を得ることも可能となる。しかし、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合が多過ぎると、機械的物性の低下または耐熱性の低下を招くことがある。
【0047】
したがって、ポリカーボネート樹脂(A)において、ジヒドロキシ化合物に由来する全構造単位に対して、構造の一部に前記一般式(2)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造を、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上、特に好ましくは20モル%以上であって、好ましくは90モル%以下、更に好ましくは80モル%以下、特に好ましくは70モル%以下含むことが好ましい。
【0048】
本発明のポリカーボネート樹脂は、上記本発明のジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物(以下「その他のジヒドロキシ化合物」と称す場合がある。)に由来する構造単位を含んでいてもよい。その他のジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ヘプタンジオールおよび1,6-ヘキサンジオールのなどの脂肪族ジヒドロキシ化合物、並びに1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノールおよび1,3-アダマンタンジメタノール等の脂環式ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0049】
前記の脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物は、環状構造の炭化水素骨格と2つのヒドロキシ基を有する化合物であり、ヒドロキシ基は、環状構造に直接結合していてもよいし、置換基を介して環状構造に結合していてもよい。また、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物も、分子内に環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物も、環状構造は単環であっても多環であってもよいが、分子内に環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物では環状構造が複数あるものが好ましく、更には環状構造を2つ有するものが好ましく、特にはそれら2つの環状構造が同じものであることが好ましい。
【0050】
また、その他のジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’-ジヒドロキシ-ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ-2-メチル)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9-ビス(4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)フルオレン等の芳香族ビスフェノール類が挙げられる。
【0051】
中でも、ポリカーボネート樹脂の耐光性の観点からは、分子構造内に芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物、即ち脂肪族ジヒドロキシ化合物および脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることが好ましく、脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、特に1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールが好ましく、脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。
【0052】
これらのその他のジヒドロキシ化合物を用いることにより、ポリカーボネート樹脂の柔軟性の改善、耐熱性の向上および成形性の改善などの効果を得ることも可能であるが、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合が多過ぎると、機械的物性の低下または耐熱性の低下を招くことがあるため、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する本発明のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が、20モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることが特に好ましい。
【0053】
本発明のジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤または熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよく、特に酸性下で本発明のジヒドロキシ化合物は変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。
塩基性安定剤としては、例えば、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における1族または2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩または脂肪酸塩、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドおよびブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、並びに4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾールおよびアミノキノリン等のアミン系化合物が挙げられる。その中でも、その効果と後述する蒸留除去のしやすさから、ナトリウムまたはカリウムのリン酸塩、亜リン酸塩が好ましく、中でもリン酸水素2ナトリウム、亜リン酸水素2ナトリウムが好ましい。
【0054】
これら塩基性安定剤の本発明のジヒドロキシ化合物中の含有量に特に制限はないが、少なすぎると本発明のジヒドロキシ化合物の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎると本発明のジヒドロキシ化合物の変性を招く場合があるので、通常、本発明のジヒドロキシ化合物に対して、通常0.0001重量%?1重量%であることが好ましく、より好ましくは0.001重量%?0.1重量%である。
【0055】
また、これら塩基性安定剤を含有した本発明のジヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂の製造原料として用いると、塩基性安定剤自体が重合触媒となり、重合速度または品質の制御が困難になるだけでなく、初期色相の悪化を招き、結果的に成形品の耐光性を悪化させるため、ポリカーボネート樹脂の製造原料として使用する前に塩基性安定剤をイオン交換樹脂または蒸留等で除去することが好ましい。
【0056】
本発明のジヒドロキシ化合物がイソソルビド等、環状エーテル構造を有する場合には、酸素によって徐々に酸化されやすい。そのため、保管または製造時には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤等を用いたり、窒素雰囲気下で取り扱うことが好ましい。イソソルビドが酸化されると、蟻酸等の分解物が発生する場合がある。例えば、これら分解物を含むイソソルビドをポリカーボネート樹脂の製造原料として使用すると、得られるポリカーボネート樹脂の着色を招く可能性があり、又、物性を著しく劣化させる可能性があるだけではなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られない場合もあり、好ましくない。
【0057】
前記酸化分解物を含まない本発明のジヒドロキシ化合物を得るために、また、前述の塩基性安定剤を除去するためには、蒸留精製を行うことが好ましい。この場合の蒸留とは単蒸留であっても、連続蒸留であってもよく、特に限定されない。蒸留の条件としてはアルゴンまたは窒素などの不活性ガス雰囲気において、減圧下で蒸留を実施することが好ましく、熱による変性を抑制するためには、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、特に好ましくは180℃以下の条件で行うことが好ましい。
【0058】
このような蒸留精製で、本発明のジヒドロキシ化合物中の蟻酸含有量を好ましくは20重量ppm以下、より好ましくは10重量ppm以下、特に好ましくは5重量ppm以下にすることにより、前記本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂の製造原料として使用した際に、重合反応性を損なうことなく色相または熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂の製造が可能となる。蟻酸含有量の測定はイオンクロマトグラフィーで行う。
【0059】
(炭酸ジエステル)
本発明のポリカーボネート樹脂(A)は、上述した本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。
用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記一般式(6)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0060】
【化9】

【0061】
前記一般式(6)において、A^(1)およびA^(2)は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1?炭素数18の脂肪族基、または、置換若しくは無置換の芳香族基である。
前記一般式(6)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびジ-t-ブチルカーボネート等が挙げられる。
【0062】
これらの中でも、ジフェニルカーボネートおよび置換ジフェルカーボネートが好ましく、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
【0063】
<エステル交換反応触媒>
本発明のポリカーボネート樹脂(A)は、上述のように本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルをエステル交換反応させてポリカーボネート樹脂を製造する。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、エステル交換反応触媒存在下でエステル交換反応により重縮合を行う。
【0064】
本発明のポリカーボネート樹脂(A)の製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に触媒、重合触媒と言うことがある)は、特に波長350nmにおける光線透過率またはイエローインデックス値に影響を与え得る。
用いられる触媒としては、耐光性を満足させ得る、即ち上記した波長350nmにおける光線透過率またはイエローインデックスを所定の値にし得るものであれば、限定されない。例えば、長周期型周期表における第1族または第2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物およびアミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。これらの中でも、好ましくは1族金属化合物および/又は2族金属化合物を使用する。
【0065】
1族金属化合物および/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物またはアミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物および/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
また、1族金属化合物および/又は2族金属化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩および酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
【0066】
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ナトリウムのアルコレートまたはフェノレート、およびビスフェノールAの2ナトリウム塩等のナトリウム化合物、水酸化カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸カリウム、水素化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素カリウム、安息香酸カリウム、リン酸水素2カリウム、フェニルリン酸2カリウム、カリウムのアルコレートまたはフェノレート、およびビスフェノールAの2カリウム塩等のカリウム化合物、水酸化リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素リチウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2リチウム、リチウムのアルコレートまたはフェノレート、およびビスフェノールAの2リチウム塩等のリチウム化合物、並びに水酸化セシウム、炭酸水素セシウム、炭酸セシウム、酢酸セシウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2セシウム、セシウムのアルコレートまたはフェノレート、およびビスフェノールAの2セシウム塩等のセシウム化合物等が挙げられる。中でもリチウム化合物が好ましい。
【0067】
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウムおよびステアリン酸カルシウム等のカルシウム化合物、水酸化バリウム、炭酸水素バリウム、炭酸バリウム、酢酸バリウムおよびステアリン酸バリウム等のバリウム化合物、水酸化マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムおよびステアリン酸マグネシウム等のマグネシウム化合物、並びに水酸化ストロンチウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウムおよびステアリン酸ストロンチウム等のストロンチウム化合物等が挙げられる。中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点から、マグネシウム化合物およびカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物が更に好ましく、最も好ましくはカルシウム化合物である。
【0068】
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩およびストロンチウム塩等が挙げられる。
【0069】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンおよび四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドおよびブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0070】
アミン系化合物としては、例えば、4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾールおよびアミノキノリン等が挙げられる。
【0071】
前記重合触媒の使用量は、通常、用いた全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol?300μmolであることが好ましく、より好ましくは0.5μmol?100μmolである。中でもリチウムおよび長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物およびカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を用いる場合、用いた全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、金属量として、通常0.1μmol以上とすることが好ましく、より好ましくは0.5μmol以上、特に好ましくは0.7μmol以上とする。また上限としては、通常20μmolとすることが好ましく、より好ましくは10μmol、さらに好ましくは3μmol、特に好ましくは1.5μmol、中でも1.0μmolが好ましい。
【0072】
重合触媒の使用量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため結果的に所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ようとすると、重合温度を高くせざるを得なくなり、得られたポリカーボネート樹脂の色相または耐光性が悪化したり、未反応の原料が重合途中で揮発して本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂の色相の悪化を招き、ポリカーボネート樹脂の耐光性が悪化する可能性がある。
【0073】
また、1族金属、中でもナトリウム、カリウムおよびセシウムは、特にはリチウム、ナトリウム、カリウムおよびセシウムは、ポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性があり、該金属は使用する触媒からのみではなく、原料または反応装置から混入する場合があるため、ポリカーボネート樹脂中のこれらの化合物の合計量は、金属量として、通常1重量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは0.8重量ppm以下、更に好ましくは0.7重量ppm以下である。
ポリカーボネート樹脂中の金属量は、湿式灰化などの方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光またはInductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
【0074】
<ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法>
本発明のポリカーボネート樹脂(A)は、本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応により重縮合させることによって得られるが、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。
【0075】
混合の温度は通常80℃以上であることが好ましく、より好ましくは90℃以上であり、その上限は通常250℃以下であることが好ましく、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。中でも100℃以上120℃以下が好適である。混合の温度が低すぎると溶解速度が遅かったり、溶解度が不足する可能性があり、しばしば固化等の不具合を招き、混合の温度が高すぎるとジヒドロキシ化合物の熱劣化を招く場合があり、結果的に得られるポリカーボネート樹脂(A)の色相が悪化し、耐光性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0076】
本発明のポリカーボネート樹脂(A)の原料である本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルと混合する操作は、酸素濃度が、好ましくは10体積%以下、より好ましくは0.0001体積%?10体積%、更に好ましくは0.0001体積%?5体積%、特に好ましくは0.0001体積%?1体積%である雰囲気下で行うことが、色相悪化防止の観点から好ましい。
【0077】
本発明の樹脂を得るためには、炭酸ジエステルは、反応に用いる本発明のジヒドロキシ化合物を含む全ジヒドロキシ化合物に対して、0.90?1.20のモル比率で用いることが好ましく、さらに好ましくは、0.95?1.10、より好ましくは0.98?1.02、特に好ましくは0.99?1.01のモル比率である。
【0078】
また、前記モル比率が大きくなると、エステル交換反応の速度が低下したり、所望とする分子量のポリカーボネートの製造が困難となる場合がある。エステル交換反応速度の低下は、重合反応時の熱履歴を増大させ、結果的に得られたポリカーボネート樹脂(A)の色相または耐光性を悪化させる可能性がある。
更には、本発明のジヒドロキシ化合物を含む全ジヒドロキシ化合物に対して、炭酸ジエステルのモル比率が増大すると、得られるポリカーボネート樹脂(A)中の残存炭酸ジエステル量が増加し、これらが紫外線を吸収してポリカーボネート樹脂(A)の耐光性を悪化させる場合があり、好ましくない。
【0079】
本発明のポリカーボネート樹脂(A)に残存する前記一般式(6)で表される炭酸ジエステルの濃度は、200重量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100重量ppm以下、更に好ましくは60重量ppm以下、特に好ましくは30重量ppm以下である。現実的にポリカーボネート樹脂(A)は未反応の炭酸ジエステルを含むことがあり、濃度の下限値は通常1重量ppmであることが好ましい。
【0080】
本発明において、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、通常、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式またはバッチ式と連続式との組み合わせのいずれの方法でもよい。
重合初期においては、相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましいが、各分子量段階でのジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが色相または耐光性の観点から重要である。
【0081】
例えば、重合反応が所定の値に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのモル比率を狂わせ、重合速度の低下を招いたり、所定の分子量または末端基を持つポリマーが得られなかったりして結果的に本願発明の目的を達成することができない可能性がある。
更には、留出するモノマーの量を抑制するために、重合反応器に還流冷却器を用いることは有効であり、特に未反応モノマー成分が多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができる。
【0082】
通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45?180℃であることが好ましく、より好ましくは80?150℃、特に好ましくは100?150℃である。冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下し、逆に低すぎると、本来留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率が低下する傾向にある。冷媒としては、例えば、温水、蒸気および熱媒オイル等が挙げられ、蒸気および熱媒オイルが好ましい。
【0083】
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的なポリカーボネート樹脂(A)の色相、熱安定性または耐光性等を損なわないようにするためには、前述の触媒の種類と量の選定が重要である。
本発明のポリカーボネート樹脂(A)は、触媒を用いて、複数の反応器を用いて多段階で重合させて製造することが好ましいが、重合を複数の反応器で実施する理由は、重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制してやることが重要であり、重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の重合反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。
【0084】
本発明の方法で使用される反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上であることが好ましく、より好ましくは3?5つ、特に好ましくは4つである。
本発明において、反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせる、連続的に温度・圧力を変えていくなどしてもよい。
【0085】
本発明において、重合触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもできるし、重合槽に直接添加することもできるが、供給の安定性、重合の制御の観点からは、重合槽に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、好ましくは水溶液で供給する。
重合反応の温度は、低すぎると生産性の低下または製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂の分解または着色を助長する可能性がある。
【0086】
具体的には、第1段目の反応は、重合反応器の内温の最高温度として、好ましくは140?270℃、より好ましくは180?240℃、更に好ましくは200?230℃で、好ましくは110?1kPa、より好ましくは70?5kPa、更に好ましくは30?10kPa(絶対圧力)の圧力下、好ましくは0.1?10時間、より好ましくは0.5?3時間、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施する。
【0087】
第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を200Pa以下にして、内温の最高温度として、好ましくは210?270℃、より好ましくは220?250℃で、通常好ましくは0.1?10時間、より好ましくは1?6時間、特に好ましくは0.5?3時間行う。
【0088】
特にポリカーボネート樹脂の着色または熱劣化を抑制し、色相または耐光性の良好なポリカーボネート樹脂を得るには、全反応段階における内温の最高温度が250℃未満であることが好ましく、特に225?245℃であることが好ましい。また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重合の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
【0089】
所定の分子量のポリカーボネート樹脂(A)を得るために、重合温度を高く、重合時間を長くし過ぎると、紫外線透過率は下がり、YI値は大きくなる傾向にある。
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行った後、炭酸ジフェニルまたはビスフェノールA等の原料として再利用することが好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂(A)は、上述の通り重縮合後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化する。
【0090】
ペレット化の方法としては、限定されるものではないが、例えば、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
【0091】
その際、押出機中で、残存モノマーの減圧脱揮、または、通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤若しくは難燃剤等を添加、混練することも出来る。
押出機中の、溶融混練温度は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度または分子量に依存するが、通常150?300℃であることが好ましく、より好ましくは200?270℃、更に好ましくは230?260℃である。溶融混練温度を150℃以上とすることにより、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度を低くし、押出機への負荷が小さくなり、生産性が向上する。300℃以下とすることにより、ポリカーボネートの熱劣化を抑え、分子量の低下による機械的強度の低下、着色またはガスの発生を防ぐことができる。
【0092】
本発明のポリカーボネート樹脂(A)を製造する際には、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが好ましい。フィルターの設置位置は押出機の下流側が好ましく、フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%除去の濾過精度として100μm以下が好ましい。特に、フィルム用途等で微少な異物の混入を嫌う場合は、40μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0093】
本発明のポリカーボネート樹脂(A)の押出は、押出後の異物混入を防止するために、JISB 9920(2002年)に定義される好ましくはクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが好ましい。
また、押出されたポリカーボネート樹脂(A)を冷却しチップ化する際は、空冷または水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが好ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが好ましい。用いるフィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10?0.45μmであることが好ましい。
【0094】
<ポリカーボネート樹脂(A)の物性>
本発明のポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、通常0.30dL/g以上が好ましく、0.35dL/g以上がより好ましく、還元粘度の上限は、1.20dL/g以下が好ましく、1.00dL/g以下がより好ましく、0.80dL/g以下が更に好ましい。
【0095】
ポリカーボネート樹脂の還元粘度が低すぎると成形品の機械的強度が小さい可能性があり、大きすぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性または成形性を低下させる傾向がある。
尚、還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定する。
【0096】
更に本発明のポリカーボネート樹脂(A)の下記一般式(5)で表される末端基の濃度(「末端フェニル基濃度」という)の下限量は、通常20μeq/gであることが好ましく、より好ましくは40μeq/g、特に好ましくは50μeq/gであり、上限は通常160μeq/gであることが好ましく、より好ましくは140μeq/g、特に好ましくは100μeq/gである。
【0097】
下記一般式(5)で表される末端基の濃度が、高すぎると重合直後または成型時の色相が良くても、紫外線曝露後の色相の悪化を招く可能性があり、逆に低すぎると熱安定性が低下する恐れがある。
下記一般式(7)で表される末端基の濃度を制御するには、原料である本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率を制御する他、エステル交換反応時の触媒の種類若しくは量、重合圧力または重合温度を制御する方法等が挙げられる。
【0098】
【化10】

【0099】
一般式(6)で表される炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用い、本発明のポリカーボネート樹脂(A)を製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生し、ポリカーボネート樹脂中に残存することは避けられないが、フェノール、置換フェノールも芳香環を有することから紫外線を吸収し、耐光性の悪化要因になる場合があるだけでなく、成型時の臭気の原因となる場合がある。
【0100】
ポリカーボネート樹脂中には、通常のバッチ反応後は1000重量ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有する、芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、耐光性または臭気低減の観点からは、脱揮性能に優れた横型反応器または真空ベント付の押出機を用いて、好ましくは700重量ppm以下、更に好ましくは500重量ppm以下、特には300重量ppm以下にすることが好ましい。ただし、工業的に完全に除去することは困難であり、芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限値は、通常1重量ppmである。
【0101】
尚、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基などを有していてもよい。
また、本発明のポリカーボネート樹脂(A)の芳香環に結合したHのモル数を(A)、芳香環以外に結合したHのモル数を(B)とした場合、芳香環に結合したHのモル数の全Hのモル数に対する比率は、A/(A+B)で表されるが、耐光性には上述のように、紫外線吸収能を有する芳香族環が影響を及ぼす可能性があるため、A/(A+B)は0.1以下であることが好ましく、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.02以下、特に好ましくは0.01以下である。A/(A+B)は、^(1)H-NMRで定量することができる。
【0102】
<その他のポリカーボネート樹脂>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリカーボネート樹脂を含有していても構わない。ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリカーボネート樹脂としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’-ジヒドロキシ-ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ-2-メチル)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9-ビス(4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)フルオレン等の芳香族ビスフェノール類に由来する繰り返し単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類に由来する繰り返し単位を有するポリカーボート樹脂、並びに9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレンおよび9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等の側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物に由来する繰り返し単位を有する、ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0103】
3.ブルーイング剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物(I)においては、ブルーイング剤は、重合体または紫外線吸収剤に基づく黄色味を打ち消すために配合する。本発明のポリカーボネート樹脂組成物(I)において、ブルーイング剤の添加量は、通常、ポリカーボネート樹脂を100重量部とした場合、0.1×10^(-4)?10.0×10^(-4)重量部の割合で配合されることが好ましい。配合割合が少な過ぎると黄色味の打ち消し効果が少なく、多すぎると明度が低下する傾向となり好ましくない。
【0104】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物(II)においては、ブルーイング剤は、ブルーイング剤を配合することによって、ポリカーボネート樹脂組成物(II)から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、且つL*値が96.15以上となるように、適宜選択し調整して使用する。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物(II)から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、且つ、L*値が96.15以上になるように調整可能なものであれば、通常ポリカーボネート樹脂組成物に使用されるブルーイング剤から適宜選択し調整して使用すればよく、複数種のブルーイング剤を使用してもよい。
【0105】
前記ブルーイング剤は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物(II)から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、且つL*値が96.15以上となるように調整可能であれば、その量に特に制限は無い。通常L*値が96.15以上になるようにするには、ブルーイング剤の使用量は少ない方が好ましく、使用するブルーイング剤の種類も少ない方が好ましい。
【0106】
より具体的には、本発明のポリカーボネート樹脂組成物(II)におけるブルーイング剤の配合量は、通常、ポリカーボネート樹脂(II)を100重量部とした場合、好ましくは0.1×10^(-4)重量部以上10.0×10^(-4)重量部以下、より好ましくは0.3×10^(-4)重量部以上5.0×10^(-4)重量部以下、特に好ましくは0.3×10^(-4)重量部以上2.0×10^(-4)重量部以下で配合することが好ましい。
【0107】
ブルーイング剤の配合割合が少な過ぎると、ポリカーボネート樹脂組成物(II)から成形された厚さ2mmの成形体のb*値を-1以上1以下にすることが困難となる。一方で、配合割合が多すぎると明度が低下するため、L*値を96.15以上とすることができない場合がある。特にブルーイング剤を配合しない状態でのポリカーボネート樹脂のb*値が高いと、本発明のポリカーボネート樹脂組成物(II)から成形された厚さ2mmの成形体のb*値を-1以上1以下にするには、ブルーイング剤の配合量を増やさざるを得ないが、ブルーイング剤の配合量が増えるとL*値が低下する傾向にあるため、本発明のポリカーボネート樹脂組成物(II)を得ることが困難になる。従って、b*値を-1以上1以下、且つL*値を96.15以上にするには、原料中の1族金属量を低減したり、原料中のアルデヒド化合物やモノヒドロキシ化合物を低減したり、原料の投入温度や速度などの条件を調節したり、反応器として横型の反応器を採用したり、重合反応時の温度条件や圧力条件を調節したり、触媒の種類や量を適宜選択したりすることが重要となる。
【0108】
本発明で用いるブルーイング剤としては、ポリカーボネート樹脂組成物に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができるが、吸収波長の観点からは、極大吸収波長が520nm以上600nm以下の染料が好ましく、極大吸収波長が540nm以上580nm以下の染料がより好ましい。
【0109】
極大吸収波長が520nm以上600nm以下の染料としては、例えば、一般名Solvent Violet 21に代表されるモノアゾ系染料、一般名Solvent Blue 2[CA.No(カラーインデックスNo)42563]に代表されるトリアリールメタン系染料、一般名Solvent Blue 25[CA.No74350]に代表されるフタロシアニン系染料および一般名Solvent Violet13[CA.No60725]に代表されるアンスラキノン系染料が挙げられる。これらの中でもアンスラキノン系染料が、入手容易であり好ましい。
【0110】
本発明で用いるブルーイング剤として利用可能なアンスラキノン系染料としては、その分子構造内にアンスラキノン構造を有するものであって、熱可塑性樹脂の染色に使用可能なものであれば、如何なるものでも利用することができる。なかでも、下記式(3)で表される化合物が、ポリカーボネート樹脂組成物の明度を高めるという点で、好適に用いられる。
【0111】
【化11】

【0112】
上記式(3)中の、R_(1)?R_(8)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1から3のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアミノ基を表す。
ここでアミノ基が有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基又はアリール基が挙げられる。アミノ基が置換基として有していてもよいアルキル基としては、炭素数が1から6のアルキル基が挙げられ、アミノ基が置換基として有していてもよいアリール基としては、環構造が3以下のアリール基が挙げられる。
【0113】
環構造が3以下のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基が挙げられ、これらのアリール基は、炭素数3以下のアルキル基で置換されていても構わない。アミノ基が置換基として有していてもよいアリール基としてより好ましくは、アルキル基で置換されていてもよいフェニル基であり、更に好ましくは炭素数3以下のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基であって、特に好ましくは少なくとも1つのメチル基を有するフェニル基である。
【0114】
本発明で用いるのに好ましいアンスラキノン系ブルーイング剤の具体例としては、例えば、一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725;商標名 ランクセス社製「マクロレックスバイオレットB」、三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーG」、住友化学工業(株)製「スミプラストバイオレットB」]、Solvent Violet14、一般名Solvent Violet31[CA.No68210;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンバイオレットD」]、Solvent Violet33[CA.No60725;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーJ」]、Solvent Violet36[CA.No68210;商標名 ランクセス社製「マクロレックスバイオレット3R」]、Solvent Blue45[CA.No61110;商標名 サンド社製「テトラゾールブルーRLS」]、一般名Solvent Blue94[CA.No61500;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーN」]、一般名Solvent Blue97[ランクセス社製「マクロレックスブルーRR」]、一般名Solvent Blue45、一般名Solvent Blue87および一般名Disperse Violet28が挙げられる。
【0115】
これらの中でも、一般名Solvent Violet13[ランクセス社製「マクロレックスバイオレットB」]、一般名Solvent Violet36[ランクセス社製「マクロレックスバイオレット3R」]、一般名Solvent Blue97[ランクセス社製「マクロレックスブルーRR」]が好ましく、一般名Solvent Violet13[ランクセス社製「マクロレックスバイオレットB」]がより好ましい。中でも特に、下記式(8)で表される構造の染料、すなわち一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725;商標名 ランクセス社製「マクロレックスバイオレットB」および三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーG」、住友化学工業(株)製「スミプラストバイオレットB」]が好ましい。
【0116】
【化12】

【0117】
前記ブルーイング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、ブルーイング剤の使用量は少ない方が好ましく、使用するブルーイング剤の種類も少ない方が好ましい。
本発明において、ポリカーボネート樹脂(A)に配合する上記のブルーイング剤の配合時期、配合方法は特に限定されない。配合時期としては、例えば、重合反応前に原料とともに添加しそのまま重合を行う方法、重合反応終了時に配管や押出機で配合・混合する方法、ポリカーボネート樹脂と他の配合剤との混練途中等のポリカーボネート樹脂が溶融した状態のときに押出機等を用い配合・混合する方法、ペレット又は粉末等の固体状態のポリカーボネート樹脂とブレンド・混練する方法等が挙げられるが、重合反応終了後に押出機を使って配合・混合することが、ブルーイング剤の分散を良くし、b*値とL*の両立を図りやすいため好ましい。特に重縮合反応終了後に溶融状態のまま押出機に導入し、ブルーイング剤を配合すると熱履歴や酸素混入の影響を最小限に抑えられるため好ましい。
【0118】
配合方法としては、例えば、ポリカーボネート樹脂(A)にブルーイング剤を直接混合又は混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂又は他の樹脂等とブルーイング剤を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして混合する方法;などが挙げられる。
4.その他の添加剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は更に酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤の含有により、本願発明のb*値とL*の両立を図ることが容易になる。ここで、酸化防止剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、通常0.0001重量部以上1重量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.0001重量部以上0.1重量部以下、さらに好ましくは0.0002重量部以上0.01重量部以下である。
【0119】
ポリカーボネート樹脂組成物における酸化防止剤の含有量が過度に少ないと、成形時の着色抑制効果が不十分になり、本願発明のb*値とL*の両立が困難になることがある。また、酸化防止剤の含有量が過度に多いと、射出成形時における金型への付着物が多くなったり、押出成形によりフィルムを成形する際にロールへの付着物が多くなったりすることにより、製品の表面外観が損なわれるおそれがあるだけでなく、ポリカーボネート樹脂の着色や明度の悪化を招くことがある。
【0120】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ホスフェイト系酸化防止剤およびイオウ系酸化防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。中でも、フェノール系酸化防止剤およびホスフェイト系酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤が好ましく、更には、耐光性を高めるという点でフェノール系酸化防止剤が好ましく、初期の色調を好ましいものとするという点でホスフェイト系酸化防止剤が好ましく、特にはフェノール系酸化防止剤およびホスフェイト系酸化防止剤を併用することが効果的である。
【0121】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール-3-ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマイド)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジルホスホネート-ジエチルエステル、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)および3,9-ビス{1,1-ジメチル-2-[β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の化合物が挙げられる。
【0122】
これらの化合物の中でも、炭素数5以上のアルキル基によって1つ以上置換された芳香族モノヒドロキシ化合物が好ましく、具体的には、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル-テトラキス{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]および1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が好ましく、ペンタエリスリチル-テトラキス{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが更に好ましい。
【0123】
ホスフェイト系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトおよびジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられる。
【0124】
これらの中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトおよびビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトが更に好ましい。
【0125】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2-メチル-4-(3-ラウリルチオプロピオニルオキシ)-5-tert-ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィドおよびメルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプト-6-メチルベンズイミダゾール、1,1’-チオビス(2-ナフトール)などが挙げられる。上記のうち、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
【0126】
本発明において、ポリカーボネート樹脂(A)に配合する前記の酸化防止剤の配合時期、配合方法は特に限定されない。配合時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂と他の配合剤との混練途中等のポリカーボネート樹脂が溶融した状態のとき;押出機等を用い、ペレット又は粉末等の固体状態のポリカーボネート樹脂とブレンド・混練する際;等が挙げられる。
【0127】
配合方法としては、例えば、ポリカーボネート樹脂(A)に酸化防止剤を直接混合又は混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂又は他の樹脂等と酸化防止剤を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして混合する方法;などが挙げられる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、さらにヒンダードアミン系安定剤を含有することが好ましい。
【0128】
ここで、ヒンダードアミン系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、通常0.0001重量部以上1重量部以下であることが好ましく、より好ましくは、0.0001重量部以上0.1重量部以下、さらに好ましくは0.0002重量部以上0.01重量部以下である。
ポリカーボネート樹脂組成物におけるヒンダードアミン系安定剤の含有量が過度に少ないと、耐光性の向上効果を十分に得ることができず、また、ヒンダードアミン系安定剤の含有量が過度に多いと、射出成形時における金型への付着物が多くなったり、押出成形によりフィルムを成形する際にロールへの付着物が多くなったりすることにより、製品の表面外観が損なわれるおそれがあるだけでなく、ポリカーボネート樹脂の着色や明度の悪化を招くことがある。
【0129】
前記ヒンダードアミン系安定剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン-2,4-ビス[N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルアミノ)-6-クロロ-1,3,5-トリアジン縮合物およびジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6)-テトラメチル-4-ピペリジル-1、6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物等が挙げられる。
【0130】
これらのヒンダードアミン系安定剤は、複数種を組み合わせて使用してもよい。なかでもビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケートおよびビス-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケートが好ましい。
本発明において、ポリカーボネート樹脂(A)に配合する上記のヒンダードアミン系安定剤の配合時期、配合方法は特に限定されない。配合時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂と他の配合剤との混練途中等のポリカーボネート樹脂が溶融した状態のとき;押出機等を用い、ペレット又は粉末等の固体状態のポリカーボネート樹脂とブレンド・混練する際;等が挙げられる。
【0131】
配合方法としては、例えば、ポリカーボネート樹脂(A)にヒンダードアミン系安定剤を直接混合又は混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂又は他の樹脂等とヒンダードアミン系安定剤を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして混合する方法;などが挙げられる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には更に酸性化合物を含有していてもよい。酸性化合物の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、少なくとも1種の酸性化合物0.00001重量部以上0.1重量部以下であることが好ましく、より好ましくは、0.0001重量部以上0.01重量部以下、さらに好ましくは0.0002重量部以上0.001重量部以下である。
【0132】
ポリカーボネート樹脂組成物における酸性化合物の配合量が過度に少ないと、射出成形する際に、ポリカーボネート樹脂組成物の射出成形機内の滞留時間が長くなった場合における着色を抑制することが充分に出来ない場合がある。また、酸性化合物の配合量が過度に多いと、ポリカーボネート樹脂組成物の耐加水分解性が著しく低下する場合がある。
酸性化合物としては、例えば、塩酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、アゼライン酸、アデノシンリン酸、安息香酸、ギ酸、吉草酸、クエン酸、グリコール酸、グルタミン酸、グルタル酸、ケイ皮酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、シュウ酸、p-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、ピクリン酸、ピコリン酸、フタル酸、テレフタル酸、プロピオン酸、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルホン酸、マロン酸およびマレイン酸等のブレンステッド酸並びにそのエステル類が挙げられる。
【0133】
これらの酸性化合物又はその誘導体の中でも、スルホン酸類又はそのエステル類が好ましく、中でも、p-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸ブチルが特に好ましい。
これらの酸性化合物は、上述したポリカーボネート樹脂の重縮合反応において使用される塩基性エステル交換触媒を中和する化合物として、ポリカーボネート樹脂組成物の製造工程において添加することができる。
【0134】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、帯電防止剤を含有することができる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、光安定剤を含有することができる。かかる安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.01重量部?2質量部が好ましい。
【0135】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、無機充填材を含有してもよい。無機充填材の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、通常1重量部以上100重量部以下であることが好ましく、より好ましくは3重量部以上50重量部以下である。無機充填材の配合量が過度に少ないと補強効果が少なく、また、過度に多いと外観が悪くなる傾向がある。
【0136】
無機充填材としては、例えば、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、シリカ、アルミナ、酸化チタン、硫酸カルシウム粉体、石膏、石膏ウィスカー、硫酸バリウム、タルク、マイカ、ワラストナイト等の珪酸カルシウム;カーボンブラック、グラファイト、鉄粉、銅粉、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素、窒化ケイ素繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、チタン酸カリウム繊維およびウィスカー等が挙げられる。
【0137】
これらの中でも、ガラスの繊維状充填材、ガラスの粉状充填材、ガラスのフレーク状充填材;炭素の繊維状充填材、炭素の粉状充填材、炭素のフレーク状充填材;各種ウィスカー、マイカ、タルクが好ましく、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、ワラストナイト、マイカおよびタルクがより好ましい。
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、例えば、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABSおよびASなどの合成樹脂、ポリ乳酸およびポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂、並びにゴムなどの1種又は2種以上と混練して、ポリマーアロイとしても用いることもできる。
【0138】
5.ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記成分を同時に、または任意の順序でタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混合機により混合して製造することができる。更に、本発明の目的を損なわない範囲で、樹脂組成物に通常用いられる核剤、難燃剤、無機充填剤、衝撃改良剤、発泡剤、染顔料等が含まれても差し支えない。
【0139】
6.本発明のポリカーボネート樹脂組成物の耐加水分解性
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐加水分解性に優れる樹脂組成物である。この耐加水分解性は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の初期の還元粘度と、所定の飽和蒸気圧下で所定時間保持する試験を行った後の還元粘度とを、本発明のポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度を測定するのと同様にして測定し、当該還元粘度の変化により評価することができる。
【0140】
前記還元粘度の変化は、前記試験の前後で測定した還元粘度から得られる還元粘度保持率で表現することができる。該還元粘度保持率は、120℃、0.12MPaの飽和水蒸気下で保持したときに、95%以上が好ましく、96%以上がより好ましい。95%以上とすることにより、当該ポリカーボネート樹脂組成物の分子量が使用時間の経過とともに低下するのを防ぎ、成形体の機械的強度を向上することができる。なお、この還元粘度保持率の上限は100%である。
【0141】
なお、この還元粘度保持率は、次の式で表すことができる。
還元粘度保持率(%)={(ηsp/c)2/(ηsp/c)1}×100
(なお、”(ηsp/c)2”は、ポリカーボネート樹脂組成物からなる平板を120℃、0.12MPaの飽和水蒸気下、48時間保持した後の還元粘度を示し、”(ηsp/c)1”は、試験前の還元粘度を示す。)
7.ポリカーボネート樹脂組成物のヘイズ
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、特にサングラス、スポーツ用ゴーグル、眼鏡レンズおよび液体容器などの用途において、ヘイズが製造直後において、10%以下であることが好ましく、9%以下であることがより好ましく、4%以下であることが特に好ましい。
【0142】
また、後述の実施例の項に記載されるサンシャインウェザーメーター照射試験後におけるヘイズは20%以下であることが好ましく、18%以下、特に13%以下であることが好ましい。
ポリカーボネート樹脂組成物のヘイズは、ポリカーボネート樹脂(A)の製造に用いるジヒドロキシ化合物の種類またはポリカーボネート樹脂(A)の分子量等を適宜調節することによって、これら好ましい範囲とすることが可能である。
【0143】
8.ポリカーボネート樹脂成形品
本実施の形態では、上述したポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるポリカーボネート樹脂成形品が得られる。ポリカーボネート樹脂成形品の成形方法は特に限定されないが、射出成形法が好ましい。
本発明によれば、耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性および機械的強度に優れたポリカーボネート樹脂組成物を提供することができる。
【0144】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる本発明のポリカーボネート樹脂成形品は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される鉛筆硬度が、F以上であることが好ましい。該鉛筆硬度は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂(A)を構成するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合に影響され、該割合が多いほど高い鉛筆硬度が得られるが、該割合はその他の物性とのバランスを考慮して調節される。
【実施例】
【0145】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0146】
以下において、ポリカーボネートの物性ないし特性の評価は次の方法により行った。
(1)酸素濃度の測定
重合反応装置内の酸素濃度を、酸素計(AMI社製:1000RS)を使用し、測定した。
(2)還元粘度の測定
ポリカーボネート樹脂のサンプルを、溶媒として塩化メチレンを用いて溶解し、0.6g/dLの濃度のポリカーボネート溶液を調製した。森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間t_(0)と溶液の通過時間tから次式より相対粘度ηrelを求め、
ηrel=t/t_(0)
相対粘度から次式より比粘度ηspを求めた。
【0147】
ηsp=(η-η_(0))/η_(0)=ηrel-1
比粘度を濃度c(g/dL)で割って、還元粘度ηsp/cを求めた。この値が高いほど分子量が大きい。
(3)ポリカーボネート樹脂中の各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位比および末端フェニル基濃度の測定
ポリカーボネート樹脂中の各ジヒドロキシ化合物構造単位比は、ポリカーボネート樹脂30mgを秤取し、重クロロホルム約0.7mLに溶解し、溶液とし、これを内径5mmのNMR用チューブに入れ、日本電子社製JNM-AL400(共鳴周波数400MHz)を用いて常温で^(1)H NMRスペクトルを測定した。各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に基づくシグナル強度比より各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位比を求めた。
【0148】
末端フェニル基濃度は、1,1,2,2-テトラブロモエタンを内標として、上記と同様に^(1)H-NMRを測定し、内標と末端フェニル基に基づくシグナル強度比より求めた。
(4)ポリカーボネート樹脂中の金属濃度の測定
パーキンエルマー社製マイクロウェーブ分解容器にポリカーボネート樹脂ペレット約0.5gを精秤し、97%硫酸2mLを加え、密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱した。室温まで冷却後、68%硝酸1.5mLを加えて、密閉状態にして150℃で10分間マイクロウェーブ加熱した後、再度室温まで冷却を行い、68%硝酸2.5mLを加え、再び密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱し、内容物を完全に分解させた。室温まで冷却後、上記で得られた液を純水で希釈し、サーモクエスト社製ICP-MSで定量した。
【0149】
(5)ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物含有量、前記一般式(2)で表される炭酸ジエステル含有量の測定
ポリカーボネート樹脂試料1.25gを塩化メチレン7mlに溶解し溶液とした後、総量が25mlになるようにアセトンを添加して再沈殿処理を行った。次いで、該処理液を0.2μmディスクフィルターでろ過して、液体クロマトグラフィーにて定量を行った。
【0150】
(6)ポリカーボネート樹脂組成物の初期色相の評価方法
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、窒素雰囲気下、110℃で10時間乾燥した。次に、乾燥したポリカーボネート樹脂組成物のペレットを射出成形機(日本製鋼所社製J75EII型)に供給し、樹脂温度220℃、成形サイクル23秒間の条件で、射出成形片(幅60mm×長さ60mm×厚さ3mm)を成形する操作を繰り返し、10ショット目?20ショット目で得られた射出成形片の厚み方向での透過光におけるイエローインデックス(初期のYI)値とL*値をカラーテスタ(コニカミノルタ社製CM-3700d)を用いて測定し、平均値を算出した。YI値が小さい程、黄色味がなく品質が優れることを示し、L*値が大きいほど明度が高いことを示す。
【0151】
(7)加熱状態で滞留したポリカーボネート樹脂組成物の色相の評価方法
前述したポリカーボネート樹脂組成物の初期色相の評価において、射出成形機による射出成形片の成形サイクルを、20ショット目から60秒とし、30ショット目まで成形操作を繰り返す。そして、30ショット目で得られた射出成形品の厚み方向の透過光におけるYI値(熱滞留試験後のYI値)を、上記カラーテスタを用いて測定した。
【0152】
(8)波長350nmおよび320nmにおける光線透過率の測定
上記(6)で得られた射出成形片(幅60mm×長さ60mm×厚さ3mm、10ショット目?20ショット目)の厚み方向の光線透過率を、紫外可視分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製U2900)を用いて測定し、その平均値を算出し評価した。
(9)芳香環に結合したHのモル数(A)の全Hのモル数(A+B)に対する比(ここで(B)は芳香環に結合していないHのモル数である)
内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)をあらかじめ添加混合した重クロロホルムのみのスペクトルを測定し、TMSと重クロロホルム中に含まれる残存Hのシグナル比を求める。次に、ポリカーボネート樹脂30mgを秤取し、前記重クロロホルム約0.7mLに溶解させた。これを内径5mmのNMR用チューブに入れ、日本電子社製JNM-AL400(共鳴周波数400MHz)を用いて常温で^(1)H NMRスペクトルを測定した。
【0153】
得られたNMRチャートの6.5ppm?8.0ppmに現れるシグナルの積分値から、重クロロホルム中に含まれる残存Hのシグナルの積分値(TMSのシグナルの積分値および前記で予め求めたTMSと重クロロホルム中に含まれる残存Hとの比から求める)を差し引いた値をaとする。一方、0.5ppm?6.5ppmに現れるシグナルの積分値をbとすると、a/(a+b)=A/(A+B)となるので、これを求めた。
【0154】
(10)メタルハライドランプ照射試験
スガ試験機社製メタリングウェザーメーターM6Tを用いて、63℃、相対湿度50%の条件下、光源として水平式メタリングランプを、インナーフィルターとして石英を、またランプの周囲にアウターフィルターとして#500のフィルターを取り付け、波長300nm?400nmの放射照度1.5kw/m^(2)になるように設定し、上記(6)で得られた20ショット目の平板(幅60mm×長さ60mm×厚さ3mm)の正方形の面に対して、100時間照射処理を行った。照射後のYI値を上記(6)と同様に測定した。
【0155】
(11)色相測定
JIS K7105(1981年)に準拠し、分光色差計(日本電色工業(株)製SE2000)を使用し、C光源透過法にて射出成形片(幅40mm×長さ65mm×厚さ2mm)のイエローインデックス(YI)値を測定した。YI値が小さい程、黄色味がなく品質が優れることを示す。
【0156】
射出成形片の厚み方向での透過光におけるイエローインデックス(初期のYI)値とL*値、b*値をカラーテスタ(コニカミノルタ(株)製:CM-3700d)を用いて測定し、平均値を算出した。L*値が大きいほど、b*値が大きいほど黄色味が高いことを示す。
(12)ヘイズ
JIS K7105に準拠し、ヘイズメーター(日本電色工業(株)製:NDH2000)を使用し、D65光源にて射出成形片のヘイズを測定した。
【0157】
(13)耐加水分解性試験
前記平板を120℃、212kPaの飽和水蒸気下、48時間保持した後の還元粘度[(ηsp/c)2]を測定し、試験前の還元粘度[(ηsp/c)1]からの保持率を次式より求めた。
還元粘度保持率(%)={(ηsp/c)2/(ηsp/c)1}×100
(14)サンシャインウェザーメーター照射試験
JIS B7753(2007年)に準拠してスガ試験機(株)製サンシャインウェザーメーターS80を用いて、サンシャインカーボンアーク(ウルトラロングライフカーボン4対)光源で放電電圧50V、放電電流60Aに設定し、照射および表面スプレ(降雨)にてブラックパネル温度63℃、相対湿度50%の条件下、射出成形片の平板(幅60mm×長さ60mm×厚さ3mm)の正方形の面に対して、500時間照射処理を行った。表面スプレー(降雨)時間は、12分/1時間とした。ガラスフィルターはAタイプを用いた。照射処理後ヘイズを測定した。
【0158】
(15)鉛筆硬度
後述する射出成形片(幅40mm×長さ65mm×厚さ2mm)について、23℃の恒温室内で、測定装置として東洋精機(株)製:鉛筆引掻塗膜硬さ試験機を用い、JIS K5600 5.4(1999年)「引っかき硬度(鉛筆法)」に従い、以下の条件で測定した。
・荷重:750g
・測定スピード:30mm/min
・測定距離:7mm
鉛筆として三菱鉛筆製:UNI(硬度:4H,3H,2H,H,F,HB,B,2B,3B,4B)を用い、5回測定し、2回以上、傷がついた鉛筆硬度のひとつ柔らかい硬度を射出成形片の鉛筆硬度とした。
【0159】
また、以下の製造例および実施例で用いた化合物の略号等は以下の通りである。
・ISB:イソソルビド(ロケットフルーレ社製、商品名:POLYSORB)を、窒素気流下、内温160℃、圧力133?266Paで、初溜を除去し、内温160?170℃、塔頂温度150?157℃、133Paで蒸留精製をしたものを用いた。(後留は約10%残した)。
・CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール(新日本理化(株)製、商品名:SKY CHDM)
・DPC:ジフェニルカーボネート(三菱化学(株)製)
・PC2:(2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに由来する構造のみを有する芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ノバレックス7022J、粘度平均分子量22,000)
・ブルーイング剤1:Solvent Violet13(ランクセス社製、商品名:マクロレックスバイオレットB、吸収極大波長587nm)
・ブルーイング剤2:Solvent Blue97(ランクセス社製、商品名:マクロレックスブルーRR)・ブルーイング剤3:Solvent Violet36(ランクセス社製、商品名:マクロレックスバイオレット3R、吸収極大波長558nm)
・酸化防止剤1:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン社製、商品名:イルガノックス1010)
・酸化防止剤2:リン系酸化防止剤(BASFジャパン社製、商品名:イルガノックス168)
・安定剤:ヒンダードアミン系安定剤(BASFジャパン社製、商品名:チヌヴィン765)
[製造例1:ポリカーボネート樹脂(A)の製造]
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.50/0.50/1.00/6.5×10-7になるように仕込み、十分に窒素置換した。
【0160】
続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。その後、昇温を開始し、40分で内温を210℃にし、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに30分間保持した。
【0161】
重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼および前記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温および減圧を開始して、60分で内温210℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて内温220℃、圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、重合反応装置出口より溶融状態のポリカーボネート樹脂をペレタイザーによりペレット化を行い、ペレットを得た。
【0162】
このポリカーボネート樹脂を「PC1」とする。「PC1」の還元粘度は0.623dL/gであった。
【0163】
[製造例2:ポリカーボネート樹脂(A)の製造]
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPCおよび炭酸セシウムを、モル比率でISB/CHDM/DPC/炭酸セシウム=0.50/0.50/1.00/2.4×10^(-6)になるように仕込み、十分に窒素置換した。
【0164】
続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が150℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。続いて、圧力を常圧から13.3kPaにした後、60分で内温を190℃にまで昇温し、内温が190℃に到達してから15分保持した。
【0165】
重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。
【0166】
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼および前記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温および減圧を開始して、15分で内温230℃、圧力6.67kPaにした。その後、8分かけて内温250℃、圧力200Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、重合反応装置出口より溶融状態のポリカーボネート樹脂をペレタイザーによりペレット化を行い、ペレットを得た。
このポリカーボネート樹脂を「PC3」とする。「PC3」の還元粘度は0.630dL/gであった。
【0167】
[実施例1-1]
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.69/0.31/1.00/1.3×10^(-6)になるように仕込み、十分に窒素置換した(酸素濃度0.0005vol%?0.001vol%)。続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。
【0168】
その後、昇温を開始し、40分で内温を210℃にし、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに60分間保持した。
重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。
【0169】
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼および上記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温および減圧を開始して、60分で内温220℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて内温228℃、圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、重合反応装置出口より溶融状態のポリカーボネート樹脂を得た。
【0170】
更に3ベントおよび注水設備を供えた二軸押出機に連続的に前記溶融状態のポリカーボネート樹脂を供給し、表1に示す組成となるようにブルーイング剤としてランクセス社製「マクロレックスブルーRR」および「マクロレックスバイオレット3R」、酸化防止剤として「イルガノックス1010」および「イルガフォス168」を所定の割合で連続的に添加するとともに、二軸押出機に具備された各ベント部にてフェノールなどの低分子量物を減圧脱揮したのち、ペレタイザーによりペレット化を行い、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。得られたポリカーボネート樹脂組成物について、上記記載の評価方法により、各種物性等を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0171】
[実施例1-2、1-3]
実施例1-1のブルーイング剤の添加濃度を変えた以外は、実施例1-1と同様に行った。
[比較例1-1]
実施例1-1のブルーイング剤を添加しない以外は、実施例1-1と同様に行った。
【0172】
[比較例1-2]
酢酸カルシウム1水和物の代わりに炭酸セシウムを用いた以外は、実施例1-1と同様に実施した。
なお、上記実施例および比較例の芳香族モノヒドロキシ化合物含有量については、そのほとんどが実質的にフェノールであった。同様に、炭酸ジエステル含有量については、そのほとんどが実質的にDPCであった。
【0173】
【表1】

【0174】
表1に示すように、ポリカーボネート樹脂(A)と、特定量のブルーイング剤とを含有する本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られる成形体は、優れた耐光性を有するとともに、優れた透明性、色相、耐熱性および熱安定性を有することが分かった。
[実施例2-1]
ベントを供えたバレル設定温度240℃の二軸押出機にPC1のペレットを供給し、表2に示す組成となるようにブルーイング剤として「マクロレックスバイオレットB」、酸化防止剤として「イルガノックス1010」および「イルガフォス168」を表1に示す割合で連続的に添加するとともに、二軸押出機に具備されたベント部にてフェノールなどの低分子量物を減圧脱揮した後、ペレタイザーによりペレット化を行い、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得、110℃で10時間乾燥した。
【0175】
次に、乾燥したポリカーボネート樹脂組成物のペレットを射出成形機(日本製鋼所社製J75EII型)に供給し、樹脂温度220℃、成形サイクル23秒間の条件で、所定の大きさの射出成形片を成形する操作を繰り返し、10ショット目?20ショット目で得られた射出成形片について、前記記載の評価方法により、各種物性等を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0176】
[実施例2-2]
ブルーイング剤として「マクロレックスバイオレットB」の代わりに「マクロレックスブルーRR」および「マクロレックスバイオレット3R」を表2に示す割合で添加し、酸化防止剤を添加しない以外は実施例2-1と同様に行い、各種物性等を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0177】
[実施例2-3]
ブルーイング剤として「マクロレックスバイオレットB」の代わりに「マクロレックスブルーRR」を表2に示す割合で添加した以外は実施例2-1と同様に行い、各種物性等を評価した。得られた結果を表2に示す。
[実施例2-4]
酸化防止剤の代りにヒンダードアミン系安定剤「チヌヴィン765」を表2に示す割合で添加した以外は実施例2-1と同様に行い、各種物性等を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0178】
[実施例2-5]
「マクロレックスバイオレットB」の使用量を表2の通りとした以外は、実施例1と同様に行い、各種物性等を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0179】
[比較例2-1]
ブルーイング剤「マクロレックスバイオレットB」を添加しない以外は実施例2-1と同様に行い、各種物性等を評価した。得られた結果を表2に示す。
[比較例2-2]
ベントを供えたバレル設定温度280℃の二軸押出機にPC2のペレットを供給し、表2に示す組成となるようにブルーイング剤として「マクロレックスブルーRR」および「マクロレックスバイオレット3R」を表2に示す割合で連続的に添加するとともに、二軸押出機に具備されたベント部にてフェノールなどの低分子量物を減圧脱揮した後、ペレタイザーによりペレット化を行い、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得、120℃で10時間乾燥した。
【0180】
次に、乾燥したポリカーボネート樹脂組成物のペレットを射出成形機(日本製鋼所社製J75EII型)に供給し、樹脂温度280℃、成形サイクル23秒間の条件で、所定の大きさの射出成形片を成形する操作を繰り返し、10ショット目?20ショット目で得られた射出成形片について、前記記載の評価方法により、各種物性等を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0181】
[比較例2-3]
ヒンダードアミン系安定剤「チヌヴィン765」を添加した以外は比較例2-2と同様に行い、各種物性等を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0182】
[比較例2-4]
PC1の代わりにPC3を使用した以外は2-1と同様に実施した。得られた結果を表2に示す。
【0183】
【表2】

【0184】
表2に示すように、ポリカーボネート樹脂(A)と所定量のブルーイング剤を含む本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐加水分解性に優れ、また、着色が少なく、明度も高く、更に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られる本発明のポリカーボネート樹脂成形品は、表面硬度も高いことが分かった。
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明のポリカーボネートは、透明性、色相、耐熱性、成形性、および機械的強度に優れ、かつ優れた光学特性を有するポリカーボネートを安定的に製造でき、電気・電子部品、自動車用部品等の射出成形分野、フィルム、シート分野、耐熱性が必要な、ボトル、容器分野、さらには、カメラレンズ、ファインダーレンズ、CCDまたはCMOS用レンズなどのレンズ用途、液晶またはプラズマディスプレイなどに利用される位相差フィルム、拡散シート、偏光フィルムなどのフィルム、シート、光ディスク、光学材料、光学部品、色素、および電荷移動剤等を固定化するバインダー用途といった幅広い分野への材料提供が可能である。一例である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(A)100重量部と、ブルーイング剤0.1×10^(-4)重量部以上10.0×10^(-4)重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、
該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm?400nmの放射照度1.5kW/m^(2)で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTM D1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

【請求項2】
該式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が、ポリカーボネート樹脂(A)中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して15モル%以上90モル%未満である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、
そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である、ポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】

【請求項4】
前記ブルーイング剤が、520nm以上600nm以下に極大吸収波長を有する染料である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量が、1重量ppm以上、700重量ppm以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記ブルーイング剤が、下記式(3)で表される化合物である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化4】

(上記式(3)中、R1?R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1から3のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアミノ基を表す。)
【請求項7】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、ヒンダードアミン系安定剤を0.0001重量部以上1重量部以下含有する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、酸化防止剤を0.0001重量部以上1重量部以下含有する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
該樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mmの平板)の波長350nmにおける光線透過率が60%以上である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
該樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mmの平板)の波長320nmにおける光線透過率が30%以上である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られるポリカーボネート樹脂成形品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-31 
出願番号 特願2011-141061(P2011-141061)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 繁田 えい子  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 小柳 健悟
山本 英一
登録日 2016-01-22 
登録番号 特許第5870515号(P5870515)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 ポリカーボネート樹脂組成物および成形品  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  

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