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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特174条1項  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1329052
異議申立番号 異議2016-701024  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-27 
確定日 2017-04-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5910717号発明「ナノインプリント方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5910717号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第5910717号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5910717号の請求項1に係る特許についての出願は、平成22年6月21日に出願した特願2010-141104号(以下、「原出願」という。)の一部を平成26年12月12日に新たな特許出願としたものであって、平成28年4月8日付けでその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人川上佳弘(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年12月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年2月16日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年3月29日付けで申立人から意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正前の願書に添付した特許請求の範囲(以下、単に「訂正前特許請求の範囲」という。)の請求項1に「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、13mJ/m^(2)以上である」とあるのを「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であり、」に訂正する。
(下線は、訂正箇所を示す。以下、同じ。)

(2)訂正事項2
訂正前特許請求の範囲の請求項1に「であることを特徴とするナノインプリント方法。」とあるのを「前記モールドの表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(mold)および極性成分γ^(p)_(mold)の和により表される前記モールドの表面自由エネルギーをγ_(mold)とし、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(mold)および極性成分γ^(p)_(mold)の和により表される前記硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーをγ_(resist)とした場合に、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーγ_(resist)を一定値として、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの極性成分γ^(p)_(resist)を0以上前記表面自由エネルギーγ_(resist)の値以下の範囲内で変動させて、下記式により算出される前記モールドおよび硬化後の硬化性樹脂の付着エネルギーW_(mold/resist)と前記極性成分γ^(p)_(resist)との関係を示すグラフを得て、当該グラフの軌跡から求められる、付着エネルギーW_(mold/resist)が最大値を示さないような前記極性成分γ^(p)_(resist)の値を示す硬化性樹脂を、前記凹パターンが転写される前記硬化樹脂として用いることを特徴とするナノインプリント方法。

」に
訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の願書に添付した明細書(以下、単に「訂正前明細書」という。)の段落【0014】に記載された「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、13mJ/m^(2)以上である」とあるのを「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であり、」に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前明細書の段落【0014】に記載された「であることを特徴とするナノインプリント方法である。」とあるのを「前記モールドの表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(mold)および極性成分γ^(p)_(mold)の和により表される前記モールドの表面自由エネルギーをγ_(mold)とし、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(mold)および極性成分γ^(p)_(mold)の和により表される前記硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーをγ_(resist)とした場合に、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーγ_(resist)を一定値として、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの極性成分γ^(p)_(resist)を0以上前記表面自由エネルギーγ_(resist)の値以下の範囲内で変動させて、下記式により算出される前記モールドおよび硬化後の硬化性樹脂の付着エネルギーW_(mold/resist)と前記極性成分γ^(p)_(resist)との関係を示すグラフを得て、当該グラフの軌跡から求められる、付着エネルギーW_(mold/resis)tが最大値を示さないような前記極性成分γ^(p)_(resist)の値を示す硬化性樹脂を、前記凹パターンが転写される前記硬化樹脂として用いることを特徴とするナノインプリント方法である。

」に
訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前明細書の段落【0014】に記載された


」を


」に
訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前明細書の段落【0025】に記載された


」を


」に
訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギー」を、「13mJ/m^(2)以上」から「25mJ/m^(2)以上」に減縮するものである。
よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項
願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、単に「当初明細書等」という。)の段落【0037】?【0038】及び図4には、
「【0037】
図4は、X軸が樹脂の硬化前の表面自由エネルギー(γ)、Y軸が浸透到達高さ(h_(c))として、凹パターンの開口サイズ(直径=2×r)を変化させた場合の上記数式(5)をプロットした図である。なお、接触角(θ)は5度、凹パターンの深さ(h_(m))は100nm、圧力(p)は3500Paである。
【0038】
図4に示すように、樹脂の表面自由エネルギー(γ)が小さくなると、浸透到達高さ(h_(c))も小さくなり、この変化は、樹脂の表面自由エネルギー(γ)が10mJ/m^(2)より小さくなると顕著になる。それゆえ、樹脂の表面自由エネルギー(γ)は10mJ/m^(2)以上であることが好ましい。」、
「【図4】


との記載があり、硬化前の硬化性樹脂は、浸透到達高さが大きくなるように、その表面自由エネルギーが10mJ/m^(2)以上であることが好ましいとされ、図4には、表面自由エネルギーが10mJ/m^(2)以上の範囲で浸透到達高さが大きくなっていることが読み取れる。
また、当初明細書等の段落【0051】?【0052】及び図7には、
「【0051】
・・略・・
図7は、X軸を樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))、Y軸を接触角(θ)として、上記数式(11)、(13)に基づき、上記数式(9)をプロットした図である。接触角は、液体と固体の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分によって変わるため、極性成分の関数として示してある。なお、図7においては、樹脂の表面自由エネルギー(γ_(resist))を25mJ/m^(2)、モールドの表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(mold))をモールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))の1/2としている。
【0052】
図7に示すように、樹脂の表面自由エネルギー(γ_(resist))が、モールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))よりも小さい場合に、接触角(θ)が5度以下になる領域が現れる。」、
「【図7】


との記載があり、図7を参照すると、硬化前の硬化性樹脂の表面自由エネルギー(γ_(resist))が25mJ/m^(2)、モールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))が25mJ/m^(2)及び30mJ/m^(2)のときに、小さい接触角が得られる領域があることが読み取れる。
すると、これらの当初明細書等の記載から、硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であるときに、確かに、5度以下の小さい接触角が得られ、大きい浸透到達高さが得られるいう技術事項が記載されていると認められるから、「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であり、」に訂正することによって、新たな技術的事項を導入するものではないことは明らかである。
よって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。

なお、申立人は、「訂正事項1は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載した事項の範囲内のものでなく、訂正請求は認められない。」と主張するが、上述のとおりであって、申立人の主張は採用できない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更
上記「ア」で検討したとおり、訂正事項1は、訂正前特許請求の範囲の請求項1の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前特許請求の範囲の請求項1の「硬化性樹脂」をどのような方法で選択して用いるかを限定する記載を追加するものである。
すると、訂正事項2は、訂正前特許請求の範囲の請求項1の「ナノインプリント方法」を減縮するものである。
よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項
当初明細書等の段落【0058】及び図10には、
「【0058】
さらに、表面自由エネルギーの極性成分、分散成分に着目して、付着エネルギーの増減を示す。図10は、X軸が樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))、Y軸が付着エネルギー(W_(mold/resis)t)として、上記数式(13)をプロットした図である。なお、図10においては、図7と同様に、樹脂の表面自由エネルギー(γ_(resist))を25mJ/m^(2)、モールドの表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(mold))をモールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))の1/2としている。」、
「【図10】


との記載があり、これらの記載から、硬化後の硬化性樹脂の表面自由エネルギー(γ_(resist))を一定値(25mJ/m^(2))として、該樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))を0以上γ_(resist)の範囲で変動した時の式




により算出される付着エネルギー(W_(mold/resist))をプロットしたグラフを得ていることが読み取れる。
また、当初明細書等の段落【0065】に、
「ここで、モールドと樹脂の離型性を考えると、付着エネルギーが最大となる領域は避けるべきである。したがって、硬化前の状態である樹脂の表面自由エネルギーの極性成分の値は、硬化後の樹脂とモールドとの付着エネルギーが最大となる樹脂の表面自由エネルギーの極性成分の値から、離れた値である樹脂であることが望ましいと思われる。」(なお、「硬化前の状態である」は、「硬化後の状態である」の誤記であると解される。)
との記載があり、図10から得られる付着エネルギー(W_(mold/resist))が最大となる表面自由エネルギーの極性成分の値から離れた、表面自由エネルギーの極性成分の値となる樹脂であることが望ましいという技術事項が記載されていることは明らかである。
すると、これらの当初明細書等の記載から、訂正事項2により追加される事項は当初明細書等に記載した事項であって、訂正事項2が新たな技術的事項を導入するものではないことは明らかである。
よって、訂正事項2は、新規事項の追加に該当しない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更
上記「ア」で検討したとおり、訂正事項2は、訂正前特許請求の範囲の請求項1の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3、4について
訂正事項3、4は、訂正事項1、2による訂正前特許請求の範囲の請求項1の訂正に併せて、訂正前明細書の段落【0014】の記載を訂正するものである。
すると、訂正事項3、4は、明瞭でない記載の釈明と目的とするものである。
また、上記「(1)」及び「(2)」での検討と同様、訂正事項3、4は、新規事項の追加に該当せず、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項5、6について
訂正事項5、6は、数式(3)、(5)に明らかに誤記があったものを訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とするものである。
また、この誤記の訂正により、新たな技術事項が導入されないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、明らかである。

3 むすび
したがって、上記訂正請求に係る訂正事項1?6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1についての訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 訂正発明
訂正後の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
モールドに形成された凹凸の転写パターンを、被転写基板上に形成された硬化性樹脂に転写するナノインプリント方法であって、
前記転写パターンには、開口サイズが100nm以下の凹パターンが含まれており、
前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、前記モールドの転写前後の表面自由エネルギーよりも小さい値であり、
前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であり、
前記モールドの表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(mold)および極性成分γ^(p)_(mold)の和により表される前記モールドの表面自由エネルギーをγ_(mold)とし、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(mold)および極性成分γ^(p)_(mold)の和により表される前記硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーをγ_(resist)とした場合に、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーγ_(resist)を一定値として、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの極性成分γ^(p)_(resist)を0以上前記表面自由エネルギーγ_(resist)の値以下の範囲内で変動させて、下記式により算出される前記モールドおよび硬化後の硬化性樹脂の付着エネルギーW_(mold/resist)と前記極性成分γ^(p)_(resist)との関係を示すグラフを得て、当該グラフの軌跡から求められる、付着エネルギーW_(mold/resist)が最大値を示さないような前記極性成分γ^(p)_(resist)の値を示す硬化性樹脂を、前記凹パターンが転写される前記硬化樹脂として用いることを特徴とするナノインプリント方法。



2 取消理由の概要
(訂正前の)請求項1に係る特許に対して、平成28年1月18日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。
(1)平成27年10月5日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
よって、(訂正前の)請求項1に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであるから、取り消すべきものである。

(2)上記理由(1)と同様、訂正前の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、本願の原出願である特願2010-141104号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されたものではない。
すると、本願は分割要件を満たさないから、その出願日は平成26年12月12日であると認める。

(3)本件特許発明は、甲第1号証(特表2006-528088号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当する。
よって、本件特許発明は特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(4)本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、あるいは、甲第1号証及び甲第2号証(米国特許第5772905号明細書)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件特許発明は特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(5)本件特許発明は、甲第3号証(J.Vac.Sci.Technol.B 25(3),2007,p.785-790)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当する。
よって、本件特許発明は特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(6)本件特許発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件特許発明は特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(7)本件特許発明は、甲第12号証(特開2012-4516号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件特許発明は特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

3 取消理由(1)について
上記「第2」で検討したとおり、訂正後の請求項1についての訂正は認められ、訂正前の「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、13mJ/m^(2)以上である」を、「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であり、」に訂正する訂正事項1は、上記「第2」「2」「(1)」「イ」で検討したとおり、新規事項の追加に該当しない。
すると、訂正発明の特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものとはいえない。
よって、訂正発明に係る特許は取り消すべきものであるとすることはできない。

4 分割要件(上記「2」「(2)」)について
上記「3」での検討と同様、本件特許発明1は、本願の原出願である特願2010-141104号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されたものとなったので、本願は分割要件を満たすものとなった。
よって、本願の出願日は、原出願の出願日である平成22年6月21日に遡及すると認める。

5 取消理由(3)について
(1)甲号証の記載
取消理由に引用され、原出願の出願前に頒布された刊行物である、甲第1号証(特表2006-528088号公報)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。)

ア 「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明の一実施形態によるリソグラフィ・システム10を描いており、
・・略・・
【0010】
図1と2の両方を参照すると、インプリント・ヘッド18に接続されているのが上に成形型28を有する型板26である。成形型28は間隔を置かれた複数の凹部28aと凸部28bによって規定される複数の特徴形状を有する。これら複数の特徴形状は移動ステージ20上に位置決めされた基板31へと転写されることになる原型のパターンである。基板31はベア・ウェハ、あるいは上に1層もしくは複数の層を配置されたウェハである。そのために、インプリント・ヘッド18はZ軸に沿って移動し、かつ成形型28と基板31との間の距離「d」を変えるように構成されている。この様式で、成形型28上の特徴形状は、以下でさらに充分に検討されるが、基板31の成形される領域にインプリントされる。放射源22は成形型28が放射源22と基板31との間に位置付けられるように配置されている。結果として、成形型28は放射源22にからの放射に対して実質的に透明な材料から作製される。
【0011】
図2と3の両方を参照すると、インプリンティング層34のような成形される領域は実質的に平面の輪郭である基板32の一部の上に置かれる。・・略・・しかしながら本発明の実施形態では、成形される領域は、下記でさらに充分に検討されるが、基板31上に材料36aの間隔を置かれた複数の個別の液滴36として堆積させられるインプリンティング層34で構成される。インプリンティング層34は、原型のパターンを記録するために選択的に重合させられ、かつ架橋させられることで記録されたパターンを形成することが可能な材料36aから構成される。材料36aは、点36bで架橋させられ、架橋ポリマー材料を形成するように図4に示されている。
・・略・・
【0014】
図2、3、4を参照すると、望ましい距離「d」が達成された後に放射源22が化学線を放射し、材料36aを重合させ、架橋させてポリマー材料36cを形成し、その大部分が架橋させられる。結果として、材料36aは固体である材料36cへと変化し、図5に示されるインプリンティング層134を形成する。特に、材料36cは成形型28の表面28cの形状に適合する形状でインプリンティング層134の側34cを形成するように固化させられ、インプリンティング層134が凹部30を有する。図4に示された材料36cで構成されるようにインプリンティング層134が変換させられるとその後、図2に示されたインプリント・ヘッド18は距離「d」を増すように移動させられ、それにより、成形型28とインプリンティング層134が間隔を開けられる。
・・略・・
【0017】
図1と2の両方を参照すると、一例の放射源22は紫外放射を放射させるが、どのような知られている放射源を使用することも可能である。インプリンティング層34の材料の重合を開始するために使用される放射の選択は当業者に知られており、通常では所望の特定の用途に応じて決まる。さらに、成形型28の複数の特徴形状は凸部28bに平行の方向に沿って延びる凹部28aとして示され、狭間胸壁の形状を備えた成形型28の断面を与えている。しかしながら、凹部28aと凸部28bは集積回路を作るために必要とされる事実上どのような外観に対応することも可能であり、10分の数ナノメートルの小ささであることが可能である。
【0018】
図1、2、5を参照すると、本パターニング技術によって作られるパターンは30:1の大きさのアスペクト比を有する特徴形状を与えるように基板31へ転写せることが可能である。そのために、成形型28の一実施形態は1:1から10:1の範囲でアスペクト比を決める凹部28aを有する。特に、凸部28bが約10nmから約5000μmの範囲の幅W_(1)を有し、凹部28aが約10nmから約5000μmの範囲の幅W_(2)を有する。結果として、成形型28および/または型板26は、限定はされないが溶融石英、石英、シリコン、有機ポリマー、シロキサンポリマー、ホウ珪酸ガラス、フルオロカーボンポリマー、金属、強化サファイヤなどのような様々な従来式の材料から形成されることが可能である。
・・略・・
【0021】
図1、2、3を参照すると、材料36aに関して一例の組成は以下の通りである。
・・略・・
【0022】
成形型28とインプリンティング層34のリリース特性を向上させるため、およびインプリンティング層34が成形型28に接着しないことを確実化するために、材料36aが形成される組成は、組成1の表面張力を下げる添加剤を含むことが可能である。そのために、材料36aは添加剤として界面活性剤を含むことが可能である。本発明の目的に関すると、界面活性剤はその1つの尾部が疎水性であるいずれかの分子として定義される。界面活性剤はフッ素含有物である、すなわちフッ素鎖を含むか、または界面活性剤の分子構造内にどのようなフッ素も含まないかのどちらでもよい。一例の界面活性剤はZONYL(登録商標)FSO-100という商標名の下でDUPONT(商標)から入手可能であり、それはR_(1)R_(2)の一般構造を有し、ここでR_(1)=F(CF_(2)CF_(2))_(y)であり、yは1から7を含めた範囲にあり、R_(2)=CH_(2)CH_(2)O(CH_(2)CH_(2)O)_(x)Hでありxは0から15を含めた範囲にある。これは材料36aに以下の組成を与える。

組成2:アクリル酸イソボルニル、アクリル酸-n-ヘキシル、エチレングリコール二アクリル酸エステル、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、RfCH_(2)CH_(2)O(CH_(2)CH_(2)O)_(x)H
・・略・・
【0026】
特に、界面136aはそれに付随する第1の界面エネルギー・ステップを決め、第2の界面137aは第2の界面エネルギー・ステップを決める。第1の界面エネルギー・ステップは第2の界面エネルギー・ステップよりも大きい。第1の界面エネルギー・ステップは成形型28の表面エネルギーと領域136の材料36cの表面張力の差異によって決まる。第2の界面の表面エネルギーは領域137に付随する材料36cに関して領域136に付随する材料36cの接着によって決められる。この一例では、組成2は20?35ミリニュートン/メートルの範囲の表面張力を領域136に与え、1ミリジュール/cm^(2)=1ミリニュートン/メートルである。結果として、界面136aでの界面の表面エネルギー・ステップは界面137での界面エネルギー・ステップに打ち勝つために充分に大きい。
【0027】
図2を参照すると、成形型28を濡らし、それにより、液滴36を広げるために必要とされる時間が削減されるという付加的な利点が組成2によって提供される。特に、成形型28上にプライオリ・リリース層を有する必要性を無効化することによって成形型28の表面に、高い表面エネルギー、例えば60から250ミリニュートン/メートルを与えてもよい。接触角法によって決まる組成2に関する成形型28の表面の濡れ性は10度以下の範囲にある。これは成形型28上のパターンの特徴形状を充填するために必要とされる時間を最小にする。さらに、接触角法によって決められるZONYL(登録商標)FSO-100添加剤は組成2に75から90度の範囲の濡れ性を与え、それにより、成形型28の濡れ性を増大させ、それにより、液滴36を広げるために必要とされる時間をさらに削減する。もちろん、リリース特性をさらに向上させるために組成2が先行技術で知られているそれらのようなプライオリ・リリース層と共に使用されることは可能である。」

イ 「【図2】



上記記載事項アの段落【0026】の「1ミリジュール/cm^(2)=1ミリニュートン/メートルである。」及び「高い表面エネルギー、例えば60から250ミリニュートン/メートル」は、技術常識からみて、「1ミリジュール/m^(2)=1ミリニュートン/メートルである。」及び「高い表面張力、例えば60から250ミリニュートン/メートル」の誤記であることは明らかである。

すると、上記甲第1号証の記載事項から、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「成形型28は間隔を置かれた複数の凹部28aと凸部28bによって規定される複数の特徴形状を有し、該特徴形状を基板31の成形される領域にインプリントする方法であって、
凸部28bが約10nmから約5000μmの範囲の幅を有し、凹部28aが約10nmから約5000μmの範囲の幅を有し、
成形される領域は、基板31上に材料36aの間隔を置かれた複数の個別の液滴36として堆積させられるインプリンティング層34で構成され、
放射源22が化学線を放射し、材料36aを重合させ、架橋させてポリマー材料36cを形成し、その大部分が架橋させられ、結果として、材料36aは固体である材料36cへと変化し、インプリンティング層134を形成し、
材料36aを形成する組成2は、20?35ミリニュートン/メートルの範囲の表面張力を領域136に与え、1ミリジュール/m^(2)=1ミリニュートン/メートルであり、成形型28を濡らし、それにより、液滴36を広げるために必要とされる時間が削減されるという付加的な利点を提供する組成2は、成形型28上にプライオリ・リリース層を有する必要性を無効化することによって成形型28の表面に、高い表面張力、例えば60から250ミリニュートン/メートルを与える、方法。」

(2)対比
ア 訂正発明と甲1発明との対比
(ア)甲1発明の「成形型28」、「複数の凹部28aと凸部28bによって規定される複数の特徴形状」、「基板31」、及び「複数の凹部28a」が、それぞれ、訂正発明の「モールド」、「凹凸の転写パターン」、「被転写基板」及び「凹パターン」に相当する。
また、甲1発明の「材料36a」は、「放射源22が化学線を放射し、材料36aを重合させ、架橋させてポリマー材料36cを形成」することから、訂正発明の「硬化性樹脂」に相当する。

(イ)甲1発明は、「凸部28bが約10nmから約5000μmの範囲の幅を有し、凹部28aが約10nmから約5000μmの範囲の幅を有」する「特徴形状」を「インプリントする方法」であるから、その「成形型28は間隔を置かれた複数の凹部28aと凸部28bによって規定される複数の特徴形状を有し、該特徴形状を基板31の成形される領域にインプリントする方法であって、」「成形される領域は、基板31上に材料36aの間隔を置かれた複数の個別の液滴36として堆積させられるインプリンティング層34で構成され、放射源22が化学線を放射し、材料36aを重合させ、架橋させてポリマー材料36cを形成し、その大部分が架橋させられ、結果として、材料36aは固体である材料36cへと変化し、インプリンティング層134を形成」することは、訂正発明の「モールドに形成された凹凸の転写パターンを、被転写基板上に形成された硬化性樹脂に転写するナノインプリント方法」に相当する。

(ウ)甲1発明の「凹部28aが約10nmから約5000μmの範囲の幅を有」することは、訂正発明の「前記転写パターンには、開口サイズが100nm以下の凹パターンが含まれて」いる構成に相当する。

(エ)甲1発明の「材料36aを形成する組成2は、20?35ミリニュートン/メートルの範囲の表面張力を領域136に与え」の「表面張力」は、「放射源22が化学線を放射し、材料36aを重合させ、架橋させてポリマー材料36cを形成し、その大部分が架橋させられ、結果として、材料36aは固体である材料36cへと変化し、」という特定事項からみれば、「組成2」が化学線により架橋される前、すなわち、硬化する前の「表面張力」であると認められること、及び、表面張力と表面自由エネルギーは、1ミリニュートン/メートル=1ミリジュール/m^(2)という対応関係(以下、単に「表面張力と表面自由エネルギーの対応関係」という。)を有することから、該「材料36aを形成する組成2は、20?35ミリニュートン/メートルの範囲の表面張力を領域136に与え」の「表面張力」は、訂正発明の「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギー」に相当する。
また、甲1発明の「成形型28の表面に、高い表面張力、例えば60から250ミリニュートン/メートルを与える」の「表面張力」は「成形型28」の表面張力を意味し、さらに、「成形型28」のようなモールドの表面張力が樹脂の硬化前後で変化がないことは自明であること、及び、表面張力と表面自由エネルギーの対応関係から、該「成形型28の表面に、高い表面張力、例えば60から250ミリニュートン/メートルを与える」の「表面張力」は、訂正発明の「モールドの転写前後の表面自由エネルギー」に相当する。
そして、「20?35ミリニュートン/メートル」<「60から250ミリニュートン/メートル」であることから、甲1発明の
「材料36aを形成する組成2は、20?35ミリニュートン/メートルの範囲の表面張力を領域136に与え、1ミリジュール/m^(2)=1ミリニュートン/メートルであり、成形型28を濡らし、それにより、液滴36を広げるために必要とされる時間が削減されるという付加的な利点を提供する組成2は、成形型28上にプライオリ・リリース層を有する必要性を無効化することによって成形型28の表面に、高い表面張力、例えば60から250ミリニュートン/メートルを与える」ことは、訂正発明の
「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、前記モールドの転写前後の表面自由エネルギーよりも小さい値であり、
前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であること」に相当する。

イ 一致点
してみると、両者は、
「モールドに形成された凹凸の転写パターンを、被転写基板上に形成された硬化性樹脂に転写するナノインプリント方法であって、
前記転写パターンには、開口サイズが100nm以下の凹パターンが含まれており、
前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、前記モールドの転写前後の表面自由エネルギーよりも小さい値であり、
前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であるナノインプリント方法。」
で一致し、次の点で相違する。

ウ 相違点
訂正発明では、
「前記モールドの表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(mold)および極性成分γ^(p)_(mold)の和により表される前記モールドの表面自由エネルギーをγ_(mold)とし、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(mold)および極性成分γ^(p)_(mold)の和により表される前記硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーをγ_(resist)とした場合に、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーγ_(resist)を一定値として、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの極性成分γ^(p)_(resist)を0以上前記表面自由エネルギーγ_(resist)の値以下の範囲内で変動させて、下記式により算出される前記モールドおよび硬化後の硬化性樹脂の付着エネルギーW_(mold/resist)と前記極性成分γ^(p)_(resist)との関係を示すグラフを得て、当該グラフの軌跡から求められる、付着エネルギーW_(mold/resist)が最大値を示さないような前記極性成分γ^(p)_(resist)の値を示す硬化性樹脂を、前記凹パターンが転写される前記硬化樹脂として用いる


のに対して、甲1発明では、このような方法を備えない点。(以下、「相違点1」という。)

(3)判断
してみると、訂正発明は、相違点1において、甲1発明であるとはいえない。

(4)申立人の意見について
申立人は、その意見書において、「尚、本件要件E1に技術的意義がなく、本件要件Eは実質的に本件要件E2のみに等しいと言える場合には、前述の通り、甲第1号証には本件要件E2が記載されているのであるから、訂正後の本件特許発明は甲第1号証に記載された発明である。」と主張する。
まず、申立人は、相違点1に係る訂正発明の発明特定事項を「本件要件E」とし、これを、前半の「前記モールドの・・グラフを得」ること(「本件要件E1」)、後半の「当該グラフの軌跡から求められる、・・硬化樹脂として用いること」(「本件要件E2」)の二つに分けている。
しかし、「本件要件E2」の「当該グラフの軌跡から求められる」という発明特定事項は、「本件要件E1」の「グラフを得」ることと密接に関連するものであるから、「本件要件E」をこのように二つに分けて検討することは適切であるとはいえない。さらに、申立人は、「本件要件E2」についての主張において、「当該グラフの軌跡から求められる」という発明特定事項についての検討を行わず、単に、「付着エネルギーW_(mold/resist)が最大値を示さないような前記極性成分γ^(p)_(resist)の値を示す硬化性樹脂を、前記凹パターンが転写される前記硬化樹脂として用いる」ことについてのみ検討しているが、このような検討も、また、適切であるとはいえない。

すると、申立人の上記「本件要件E1に技術的意義がなく、本件要件Eは実質的に本件要件E2のみに等しいと言える場合」との前提がそもそも不適切であり、さらに、技術的意義がないから実質的に訂正発明の要件ではないという主張自体も採用することができないものである。

(5)結論
したがって、訂正発明は甲1発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当して特許を受けることができないとはいえない。
よって、訂正発明に係る特許は取り消すべきものであるとすることはできない。

6 取消理由(4)について
(1)対比・判断
上記「5」で検討したとおり、訂正発明は、相違点1において、甲1発明であるとはいえないところ、甲第2号証(米国特許第5772905号明細書)にも、相違点1に係る構成が記載も示唆もないことは明らかである。
すると、訂正発明は、甲1発明に基づいて、あるいは、甲1発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)申立人の意見について
申立人は、その意見書において、「その結果をグラフ化することを規定しているに過ぎず、この手順に何ら困難性は見いだせない。」、「それをグラフを得て特定する要件E1には、進歩性の根拠とできるような技術的意義はない。」等と主張するのみであり、上記相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得るものであるという具体的根拠を欠くものであり、該主張は採用できない。
また、申立人が提出した参考資料1?3によれば、樹脂硬化後のモールドの離形性をよくするために、モールドと硬化後の樹脂の付着性を低減することが好ましいという技術事項が周知であると認められるが、モールドと硬化後の樹脂の付着性が低い樹脂を用いる際に、上記相違点1に係るグラフを得て、グラフから求められる付着エネルギーが最大値とならないような樹脂を選択して用いる方法が周知であるとは認められない。
したがって、申立人が提出した参考資料1?3を参酌しても、上記相違点1は当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

(3)結論
したがって、訂正発明は、甲1発明に基づいて、あるいは、甲1発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって特許を受けることができないとはいえない。
よって、訂正発明に係る特許は取り消すべきものであるとすることはできない。

7 取消理由(5)について
(1)甲号証の記載
取消理由に引用され、原出願の出願前に頒布された刊行物である、甲第3号証(J.Vac.Sci.Technol.B 25(3),2007,p.785-790)には、以下の事項が記載されている。(日本語訳は、申立人が作成したものである。)

ア 「UV nanoimprint lithography (UV NIL) is attracting more and more interest as a technique to transfer nanosized patterns without using expensive optical exposure tools. The resolution of this technique is only limited by the availability of patterns that can be resolved on a mold and the availability of an appropriate UV curing materials.」(第785頁左欄第2?7行)
(日本語訳)
「UVナノインプリントリソグラフィ(UV NIL)は、高価な光学露光ツールを用いずにナノサイズのパターンを転写する技術として注目されている。この技術の解決は、モールド上で変化させ得るパターンの可能性と、適切なUV硬化材料の可能性に限られる。」

イ 「For all imprints, a fused silica mold with a size of 12.5 ×12.5 mm^(2) and a surface roughness of less than 0.6 nm rms was used.」(第786頁左欄第36?38行)
(日本語訳)
「全てのインプリントについて、サイズが12.5×12.5mm^(2)、表面粗さRmsが0.6nm未満の石英モールドを用いた。」

ウ 「UV NIL resists Inoflex R+ and PAK 01 were obtained by Inomat GmbH and Toyo Gosei, respectively.」(第786頁右欄20?22行)
(日本語訳)
「UV NILレジストのInoflex RP+及びPAK 01はそれぞれ、Inomat GmbHおよび東洋合成から入手した。」

エ 「TABLE II. Surface tensions of Teflon and fused silica. Thetwo solid materials were used to measure the surface tensions of the UV curing materials.」(第787頁左欄上)
(日本語訳)
「表II. テフロンおよび石英ガラスの表面張力。UV硬化材料の表面張力を測定するために、2つの固体材料を用いた。」

オ 「TABLE V. Surface tension of the evaluated UV curing materials」(第788頁右欄上)
(日本語訳)
「表V. 評価したUV硬化材料の表面張力」

カ 「FIG.3. SEM images of first UV nanoimprints with the imprint tool NPS 300. On the upper image, pattern sizes from 100 to 200 nm, and on the lower image, pattern sizes from 50 to 70 nm are transferred into PAK 01.」(第789頁右欄上)
(日本語訳)
「図3. インプリントツールNPS300を用いた最初のUV尚インプリントのSEMイメージ。上側のイメージではサイズが100?200nmのパターン、下側のイメージではサイズが50?70nmのパターンが、PAK01に転写される。」

TABLE I(略)の記載から、石英ガラスの表面張力が94.7mN/mであること、TABLE V(略)の記載から、UV硬化材料の表面張力が、22.2?40.8mN/mであることが読み取れる。
FIG.3.(略)の記載から、パターンがライン&スペースパターンであることが読み取れるところ、上記記載事項カの記載事項において、「サイズが50?70nmのパターン」が、ライン&スペースパターンのライン及びスペースの幅が50?70nmであると解される。

すると、上記甲第3号証の記載事項から、甲第3号証には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。

「ナノサイズのパターンを転写する技術として注目されているUVナノインプリントリソグラフィ(UV NIL)であって、
幅が50?70nmのライン&スペースパターンが転写され、
表面張力が94.7mN/mである石英モールド及び表面張力が22.2?40.8mN/mであるUV硬化材料を用いた、UVナノインプリントリソグラフィ(UV NIL)。」

(2)対比・判断
ア 訂正発明と甲3発明との対比
(ア)甲3発明の
「ナノサイズのパターンを転写する技術として注目されているUVナノインプリントリソグラフィ(UV NIL)であって、
幅が50?70nmのライン&スペースパターンが転写され」ることは、訂正発明の
「モールドに形成された凹凸の転写パターンを、被転写基板上に形成された硬化性樹脂に転写するナノインプリント方法であって、
前記転写パターンには、開口サイズが100nm以下の凹パターンが含まれて」いる構成に相当する。

(イ)甲第3号証の記載を総合すると、甲3発明の「表面張力が22.2?40.8mN/mであるUV硬化材料」の「表面張力」は「UV硬化材料」の硬化前の表面張力を示すものであると解される。
そして、「石英モールド」の「表面張力」が「UV硬化材料」の硬化前後で変化がないことは自明であること、及び、表面張力と表面自由エネルギーの対応関係から、甲3発明の「石英モールド」の「表面張力」、「UV硬化材料」の「表面張力」は、それぞれ、訂正発明の「モールドの転写前後の表面自由エネルギー」、「硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギー」に相当する。
すると、甲3発明の「表面張力が94.7mN/mである石英モールド及び表面張力が22.2?40.8mN/mであるUV硬化材料を用いた」ことは、訂正発明の
「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、前記モールドの転写前後の表面自由エネルギーよりも小さい値であり、
前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であること」に相当する。

イ 一致点
してみると、両者は、
「モールドに形成された凹凸の転写パターンを、被転写基板上に形成された硬化性樹脂に転写するナノインプリント方法であって、
前記転写パターンには、開口サイズが100nm以下の凹パターンが含まれており、
前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、前記モールドの転写前後の表面自由エネルギーよりも小さい値であり、
前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であるナノインプリント方法。」
で一致し、相違点1で相違する。

ウ 判断
してみると、訂正発明は、相違点1において、甲3発明であるとはいえない。

(3)申立人の意見について
上記「5」「(4)」と同様である。

(4)結論
したがって、訂正発明は甲3発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当して特許を受けることができないとはいえない。
よって、訂正発明に係る特許は取り消すべきものであるとすることはできない。

8 取消理由(6)について
(1)対比・判断
上記「7」で検討したとおり、訂正発明は、相違点1において、甲3発明であるとはいえないし、他に、相違点1に係る構成が当業者が容易に発明をすることができたものであるとする理由もない。
すると、訂正発明は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)申立人の意見について
上記「6」「(2)」と同様である。

(3)結論
したがって、訂正発明は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって訂正発明は特許を受けることができないとはいえない。
よって、訂正発明に係る特許は取り消すべきものであるとすることはできない。

9 取消理由(7)について
上記「4」で検討したとおり、本願の出願日は、原出願の出願日である平成22年6月21日に遡及する。
よって、原出願の出願後に頒布された刊行物である甲第12号証(特開2012-4516号公報)は、いわゆる公知文献ではない。

すると、訂正発明が甲12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるかを検討するまでもなく、訂正発明は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって特許を受けることができないとはいえない。
よって、訂正発明に係る特許は取り消すべきものであるとすることはできない。

10 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立理由の概要
ア 申立人は、本件特許発明は、甲第4号証(特開2007-55235号公報)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、あるいは、本件特許発明と甲第4号証に記載された発明との間に何らかの形式的な差異が認められるとしても、甲第4号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものであると主張する。(以下、単に「申立理由ア」という。)

イ 申立人は、本件特許発明の「前記転写パターンには、開口サイズが100nm以下の凹パターンが含まれており、」の「開口サイズ」がどのサイズを示すのかが不明確であるから、本件特許は、特許請求の範囲の請求の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、その発明に係る特許は取り消すべきものであると主張する。(以下、単に「申立理由イ」という。)

(2)申立理由アについて
ア 甲号証の記載
原出願の出願前に頒布された刊行物である、甲第4号証には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。)

(ア)「【発明の好ましい態様の詳細な説明】
【0014】
以下に、添付の図面を参照しながら本発明の実施態様をより詳細に説明する。
【0015】
本発明は、本明細書で「2工程インプリント製法」と呼ぶ方法に関する。この用語は、第一工程においてナノメートルおよび/またはマイクロメートルサイズのパターン形成された表面を有するテンプレートの一個以上のレプリカを、インプリント工程または射出成形工程により、一個以上の可撓性重合体フィルムに形成する製法として理解される。このパターン形成された重合体フィルムは、第二工程で重合体スタンプとして使用することができる。あるいは、このパターン形成された重合体フィルムを、別の重合体フィルム上に別のインプリントを行うためのスタンプとして使用し、続いてこの別の重合体フィルムを第二工程で使用する。このように、本製法の第一工程は、パターンがオリジナルテンプレートのパターンに対して逆である可撓性のネガ型重合体レプリカ、およびパターンがオリジナルテンプレートのパターンと類似している、可撓性のポジ型重合体レプリカ、の両方を形成することができる。第二工程では、そのように製造されたレプリカを可撓性重合体スタンプとして使用し、続いて行う熱的インプリント、UVインプリント、またはそれらの両方を使用するインプリント工程により、物体表面にそのパターンを再現することができる。
【0016】
本明細書で使用する用語「ナノ-インプリント製法」または「インプリント製法」は、テンプレートまたはスタンプのナノ-および/またはマイクロ-構造化された表面の逆転したコピーを形成するための製法を意味し、その複写は、スタンプを成形可能な層、例えば重合体またはプレポリマーに押し付け、その層を変形させることにより形成される。その層は、ベースまたは基材の上に別に施された被膜でよく、その際、ベースおよび層は異なった材料から製造することができる。あるいは、その層は、単一材料物体の一部であってもよく、その場合、その層は、物体の表面から、物体の材料中の特定深さまで伸びる部分として定義される。インプリント(熱エンボス加工)工程の際、成形可能な層は、そのガラス転移温度Tgより高い温度に加熱し、続いてガラス転移温度未満に冷却することができる、および/またはインプリント工程の際または後に、UV露光により、重合体を硬化または架橋させることができる。テンプレートの、およびインプリントされた層の、パターン形成された表面は、深さおよび幅の両方に関して、マイクロメートルまたはナノメートル尺度の構造を有することができる。」

(イ)「【0023】
マスターテンプレートの表面および可撓性重合体レプリカが製造される元となる重合体材料の表面は、インプリントを行った後、インプリントされたパターンに損傷を与えないように重合体スタンプをテンプレートから引き離すには、相互に十分な接着防止および粘着防止特性を示している必要がある。さらに、第二工程で、可撓性重合体レプリカの材料は、基材上のレジスト材料層の表面に対して十分な接着防止特性を示す必要がある。
【0024】
低い表面エネルギー値を有する液体は、エネルギーが最小に抑えられるために、一般的により高い値を有する固体上に広がる。反対の場合には、逆のことが起こる。従って、本発明の異なった材料間の良好な接着防止および粘着防止特性には、異なった材料の表面エネルギー間の下記の関係が与えられる。
σ固体(テンプレート材料)<σ液体(重合体材料)、かつ
σ固体(重合体材料)<σ液体(レジスト材料) (1)
【0025】
ここで、テンプレート材料とは、重合体材料と接触する表面の材料を意味し、従って、粘着防止層が備わっている場合には、テンプレートの粘着防止層を意味する。また、用語「表面エネルギー/張力」とは、真空中での材料に該当することにも注意すべきである。実際的な理由から、この用語は、固体-空気および液体-空気界面の場合に使用されることが多い。固体-液体界面の濡れ特性を絶対的に正確に評価するには、「界面エネルギー」をさらに考える必要があり、ヤングの式が平衡状態
σ固体-真空-σ固体-液体=σ液体-真空cos(ψ) (2)
を表す。
【0026】
ここで、固体表面と液体表面との間の接触角度ψは、完全に濡れないかもしく反接着性の挙動には、90°?180°になければならず、これはσ固体-真空<σ固体-液体の関係が導かれる。さらに、場合により、界面の連結強度を慎重に研究するには、表面エネルギーの分散部分σ_(i)^(d)(非極性、長範囲London力を表す)や、その極性部分σ_(i)^(P)(極性、短範囲非London力を表す)を考慮しなければならない。界面エネルギー(σ固体-液体)ならびにσ_(i)^(d)およびσ_(i)^(P)は、通常は未知であるものの、等式(1)の関係で十分であり、より有効な近似であると考えられる。その際、σ固体(テンプレート材料)が、粘着防止被膜で被覆されたオリジナルテンプレートまたはスタンプの表面エネルギーを意味し、σ液体(重合体材料)が、ガラス転移温度より高い温度に加熱された可撓性重合体フィルムの表面エネルギーを意味し、σ固体(重合体材料)が、インプリントを行った後の固相中の可撓性重合体フィルムの表面エネルギーを意味し、σ液体(レジスト材料)が、基材表面上に堆積したレジスト材料の表面エネルギーを意味する。
【0027】
本発明の、表面張力が28?40mN/mであるCOC重合体材料により、他の材料と比較して顕著な接着防止特性が得られ、本発明のインプリント製法で使用するのに理想的であることを見出した。しかし、すべてのCOCがこの範囲内の表面張力を有する訳ではないことに注意すべきである。IUPAC Technical Report「Chemical Structure and Physical Properties of Cyclic Olefin Copolymers」、Pure Appl. Chem., Vol. 77, No. 5, pp.801-814, 2005, DOI: 10.1351/pac200577050801に開示されているように、市販されている多くのCOCに対してJ.Y. Shinらが試験を行っている。試験した6種類のCOC重合体の中で、5種類が28?40mN/mの範囲内にあり、2種類が28?37mN/mの範囲内にあり、1種だけが30?35の範囲内にある。接着防止特性の問題だけを考えると、より広い範囲内にあるCOCが等式(1)におけるσ固体(重合体材料)の条件を満たし、従って、マスターテンプレート表面張力が20mN/m未満、典型的には18mN/m以下であり、基材に塗布されるレジスト層が45mN/mの領域にある場合、ここに記載する2工程インプリント製法に有利である。好ましい実施態様では、テンプレートがSAM粘着防止被覆を有し、テンプレートに約18mN/mの表面張力を与え、基材上に、表面張力約45mN/mのUV架橋性レジスト材料、例えばSU8を使用する中間重合体スタンプに最も望ましい表面張力は、約31.5mN/m、または30?33mN/mであろう。
【0028】
ここで、用語「可撓性重合体フィルム」は、可撓性で、延性があり、透明な重合体フィルムを意味する。本発明により、可撓性重合体フィルム、またはパターン形成された場合の重合体スタンプは、シクロ-オレフィン共重合体(COC)を含んでなる。好ましくは、重合体フィルムは一種以上のCOCから均質に製造されるが、別の実施態様では、重合体フィルムの材料は、他の化合物も含んでもよい。好ましい実施態様では、重合体フィルムは、一種以上の慎重に選択されたCOC誘導体から製造され、重合体フィルムの表面張力は28?40mN/mである。好ましい狭い範囲は、28?37mN/m、30?35mN/m、さらには30?33mN/mである。」

(ウ)「【0042】
そのようにして製造された、オリジナルテンプレート1のパターンと逆の、または同等の表面パターンをそれぞれ有するレプリカ5または8は、本発明の二次インプリント工程で、可撓性重合体テンプレートとして、図1g)?1i)でそれぞれ左側および右側に図式的に示すように使用される。ここで、可撓性重合体スタンプ5または8の表面4または7は、標的表面17を有する基材13を含む物体12の表面16と接触させて配置され、その標的表面17は、放射線感応性材料、例えば放射線で露光することにより架橋し得るプレポリマーまたは重合体、の薄い成形表面層14で被覆されている。可撓性重合体スタンプ5または8の表面4または7は、それらの表面の材料組成により、成形層14の表面16に対して接着防止特性を示す。可撓性重合体テンプレート5または8の一方および物体12を一緒に押し付けるように作用させる圧力、および重合体フィルム14の選択された部分の放射線露光により、図1hに示すように、成形可能な層14の中に重合体スタンプ表面の反転したパターンが形成される。可撓性重合体スタンプ5または8は、作用させる放射線に対して透明であるか、または僅かな吸収を示し、放射線で露光した時に表面層14の材料を硬化または架橋させるのに必要な、十分な量の放射線を透過させる。図1h)に示すように、インプリントおよび接着防止特性焼き付けを行った後、可撓性重合体スタンプ5または8は、基材13から機械的に引き離すか、あるいは一種以上の好適な溶剤を好適な方法で使用し、重合体スタンプ5または8全体もしくはその一部を化学的に溶解
させることができる。」

(エ)「【0047】
図5に、図1における重合体スタンプ5または8に対応し得る重合体スタンプ10を示す。重合体スタンプ10は、表面4または7に対応する構造化された表面11を有し、高さおよび幅が1nm?数μmで、より小さくても、大きくてもよい、三次元的な突起および窪みが形成された、転写すべき所定のパターンを有する。重合体スタンプ10の厚さは、典型的には10?1000μmである。基材12は、重合体スタンプ表面11に対して実質的に平行に配置された標的表面17を有し、図5に示す初期段階では表面間に空間を有する。基材12は、基材ベース13を含み、そこに重合体スタンプ表面11のパターンを転写する。図には示していないが、基材は、基材ベース13の下に支持層を含んでいても良い。重合体スタンプ10のパターンを、重合体材料にインプリントすることにより、基材12に直接転写する方法では、該材料は、基材の標的表面17上に表面層14として直接施すことができる。破線で示す別の実施態様では、例えば第二重合体材料の転写層15も使用する。そのような転写層の例、および続いて基材ベース13にインプリントパターンを転写する際にどのように使用するかは、米国特許第6,334,960号に記載されている。転写層15を包含する実施態様では、標的表面17は、転写層15の上側または外側表面を指し、これが基材ベース表面18上に配置されている。」

(オ)「【図1】



すると、上記甲第4号証の記載事項から、甲第4号証には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。

「スタンプのナノ-および/またはマイクロ-構造化された表面の逆転したコピーを形成するための製法であるナノ-インプリント製法であって、
重合体スタンプは、高さおよび幅が1nm?数μmで、三次元的な突起および窪みが形成された、転写すべき所定のパターンを有し、
インプリント工程の際または後に、UV露光により、重合体を硬化または架橋させ、
基材上に表面張力約45mN/mのUV架橋性レジスト材料を使用する中間重合体スタンプに最も望ましい表面張力は、約31.5mN/mであり、
異なった材料間の良好な接着防止および粘着防止特性には、異なった材料の表面エネルギー間の下記の関係が与えられるナノ-インプリント製法。
σ固体(重合体材料)<σ液体(レジスト材料)」

イ 対比
(ア)訂正発明と甲4発明との対比
a 甲4発明の「重合体スタンプ」、「三次元的な突起および窪みが形成された、転写すべき所定のパターン」、「基材」、「UV架橋性レジスト材料」及び「ナノ-インプリント製法」が、それぞれ、訂正発明の「モールド」、「凹凸の転写パターン」、「被転写基板」「硬化性樹脂」及び「ナノインプリント法」に相当する。

b 甲4発明の
「スタンプのナノ-および/またはマイクロ-構造化された表面の逆転したコピーを形成するための製法であるナノ-インプリント製法であって、
重合体スタンプは、高さおよび幅が1nm?数μmで、三次元的な突起および窪みが形成された、転写すべき所定のパターンを有し、
インプリント工程の際または後に、UV露光により、重合体を硬化または架橋させ」ることは、訂正発明の
「モールドに形成された凹凸の転写パターンを、被転写基板上に形成された硬化性樹脂に転写するナノインプリント方法であって、
前記転写パターンには、開口サイズが100nm以下の凹パターンが含まれて」いる構成に相当する。

c 甲4発明の「表面張力約45mN/mのUV架橋性レジスト材料を使用する」ことは、表面張力と表面自由エネルギーの対応関係から、訂正発明の「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であること」に相当する。

(イ)一致点
してみると、両者は、
「モールドに形成された凹凸の転写パターンを、被転写基板上に形成された硬化性樹脂に転写するナノインプリント方法であって、
前記転写パターンには、開口サイズが100nm以下の凹パターンが含まれており、
前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であるナノインプリント方法。」
で一致し、相違点1に加え、次の点でも相違する。

(ウ)相違点
訂正発明では、「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、前記モールドの転写前後の表面自由エネルギーよりの小さい値であ」るのに対して、甲4発明では、「異なった材料間の良好な接着防止および粘着防止特性には、異なった材料の表面エネルギー間の下記の関係が与えられる」「σ固体(重合体材料)<σ液体(レジスト材料)」である点。(以下、単に「相違点2」という。)

ウ 判断
してみると、訂正発明は、相違点1及び2において、甲4発明であるとはいえない。

また、相違点1及び2について、これらの相違点に係る構成が公知であることを示す証拠はないから、訂正発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 申立人の意見について
申立人は、その特許異議申立書において、
「甲第4号証には、以下の記載がある。「低い表面エネルギー値を有する液体は、エネルギーが最小に抑えられるために、一般的により高い値を有する固体上に広がる。」(【0024】)したがって、甲第4号証には、低い表面エネルギー値を有する液体は、エネルギーが最小に抑えられるために、一般的により高い値を有する固体上に広がる。」
と主張する。
確かに、甲第4号証には、低い表面エネルギー値を有する液体は、エネルギーが最小に抑えられるために、一般的により高い値を有する固体上に広がることが記載されているところ、甲第4号証の該記載は、濡れ性に関する一般的な技術常識を記載する箇所であり、甲第4号証に記載された発明としては、「本発明の異なった材料間の良好な接着防止および粘着防止特性」を考慮して、「σ固体(重合体材料)<σ液体(レジスト材料)」という訂正発明とは逆の構成とすることが記載されるのみであると認められる。
すると、甲4発明の「σ固体(重合体材料)<σ液体(レジスト材料)」は技術的意味を持つ構成であるから、これを訂正発明のように逆の構成とすることには阻害要因がある。

オ 結論
したがって、訂正発明は、甲4発明であるとはいえないから、特許法第29条第3甲第1号に規定する発明に該当して特許を受けることができないとはいえない。
また、訂正発明は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって訂正発明は特許を受けることができないとはいえない。
よって、訂正発明に係る特許は取り消すべきものであるとすることはできない。

(3)申立理由イについて
ナノインプリント法において、開口サイズという語は、例えば、円形状であれば直径を、ライン&スペースパターンであれば線幅を示すことは当業者には技術常識にすぎない。また、申立人は、「凹パターンが不規則な形状である場合には、どの部分をもって開口サイズとするかは全くもって不明である。」とするが、申立人の「不規則な形状」がどのような形状を指すのかが必ずしも明確でないところ、100nm以下という極めて小さいサイズのパターンにおいて、不規則な形状であることはまれであること、また、そのようなパターンがあったとしても、不規則な形状のどの部分のサイズを開口サイズとして考慮する必要があるかは、当業者であれば明確に理解できることは明らかである。
すると、訂正発明の「前記転写パターンには、開口サイズが100nm以下の凹パターンが含まれており、」の「開口サイズ」がどのサイズを示すのかが不明確であるとはいえない。
したがって、訂正発明に係る特許は、特許請求の範囲の請求の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。
よって、訂正発明に係る特許は取り消すべきものであるとすることはできない。

11 申立人の新たな主張について
申立人は、その意見書で、訂正発明について、次の(1)ア及びイ並びに(2)に記載するように、3つの意見を主張しているので、これらについて、以下、検討する。
(1)サポート要件違反
ア 申立人は、概略、次のように主張する。
訂正発明の「前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であり、」について、「本件明細書には、「離形性を向上させるために、樹脂の表面自由エネルギーが所定の上限値以下であることが望ましい」という技術思想が開示されている。そして、本件発明は、・・モールドと硬化性樹脂との離形性向上を第2の目的とするものである(・・)しかし、本件要件D’は下限値のみを規定するもので、上限値が規定されていない。したがって、本件要件D’は、離形性向上を達成し得ない範囲をも含むものであり、発明の詳細な説明に記載したものではない。」
したがって、訂正発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。

しかし、申立人のいう「離形性を向上させるために、樹脂の表面自由エネルギーが所定の上限値以下であることが望ましい」の「樹脂の表面自由エネルギー」は、(硬化性)樹脂の硬化後の表面自由エネルギーのことであることは、訂正後の明細書の記載からみて明らかである。
また、訂正後の明細書には、硬化前の樹脂の表面自由エネルギーの上限値を規定することの記載はないから、訂正発明において、その点の記載がないとしても、訂正発明が発明の詳細な説明に記載したものではないとすることはできない。
なお、訂正発明は、離形性を向上させるための構成として、「・・当該グラフの軌跡から求められる、付着エネルギーW_(mold/resist)が最大値を示さないような前記極性成分γ^(p)_(resist)の値を示す硬化性樹脂を、前記凹パターンが転写される前記硬化樹脂として用いる」という発明特定事項を有している。
よって、訂正発明が発明の詳細な説明に記載したものではないとすることはできない。

イ 申立人は、概略、次のように主張する。
訂正発明の「・・グラフを得て、当該グラフの軌跡から求められる、付着エネルギーW_(mold/resist)が最大値を示さないような前記極性成分γ^(p)_(resist)の値を示す硬化性樹脂を、前記凹パターンが転写される前記硬化樹脂として用いる」ことは、発明の詳細な説明に記載したものではない。
また、数式(13)



は記載されているものの、式



は記載されていない。
したがって、訂正発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。

しかし、訂正発明の「・・グラフを得て、・・前記凹パターンが転写される前記硬化樹脂として用いる」ことは、上記「第2」「2」「(2)」「イ」での検討と同様、訂正後の明細書に記載したものである。
また、訂正後の段落【0058】の「図10は、X軸が樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))、Y軸が付着エネルギー(W_(mold/resist))として、上記数式(13)をプロットした図である。」という記載は、図10が、「≒」である数式(13)



をプロットしたものではなく、「=」である式



をプロットしたものであることは、当業者には自明のことであるから、
「・・下記式により算出される・・グラフを得」ること



は訂正後の明細書に記載したものである。
よって、訂正発明が発明の詳細な説明に記載したものではないとすることはできない。

(2)実施可能要件違反
申立人は、概略、次のように主張する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、訂正発明の「前記モールドの表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(mold)および極性成分γ^(p)_(mold)の和により表される前記モールドの表面自由エネルギーをγ_(mold)とし、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(mold)および極性成分γ^(p)_(mold)の和により表される前記硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーをγ_(resist)とした場合に、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーγ_(resist)を一定値として、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの極性成分γ^(p)_(resist)を0以上前記表面自由エネルギーγ_(resist)の値以下の範囲内で変動させて、下記式により算出される前記モールドおよび硬化後の硬化性樹脂の付着エネルギーW_(mold/resist)と前記極性成分γ^(p)_(resist)との関係を示すグラフを得」ることを、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

しかし、訂正発明の上記発明特定事項は、訂正後の明細書の記載を参照すれば、式



において、まず、「γ^(d)_(mold)」及び「γ^(p)_(mold)」は一定である(モールド材料が特定されている)ことを前提として、「γ_(resist)」を一定値とし、「γ^(p)_(resist)」を0?「γ_(resist)」の値以下で変動させて(「γ_(resist)=γ^(d)_(resist)+γ^(p)_(resist)」である。訂正後の明細書段落【0048】参照。)、「W_(mold/resist)」を上記式から計算して、プロットして、グラフを得ることを示すことは明らかである。
すると、申立人のいうような、特定の樹脂を想定したり、樹脂の材料設計をしながら、グラフを得るものではないから、申立人の主張は、その前提が誤っており、採用できるものではない。
したがって、訂正後の発明の詳細な説明は、当業者が訂正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとすることはできない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書の記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ナノインプリント方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノインプリント用モールドに形成された微細な凹凸パターンを、被転写基板上に形成された硬化性樹脂に転写するナノインプリント方法に関し、より詳しくは、モールドの微細な凹凸パターンに樹脂を充填させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特に半導体デバイスについては、微細化の一層の進展により高速動作、低消費電力動作が求められ、また、システムLSIという名で呼ばれる機能の統合化などの高い技術が求められている。このような中、半導体デバイスのパターンを作製する要となるリソグラフィ技術は、パターンの微細化が進むにつれ、露光装置などが極めて高価になってきており、また、それに用いるマスク価格も高価になっている。
【0003】
これに対して、1995年Princeton大学のChouらによって提案されたナノインプリント法(インプリント法とも呼ばれる)は、装置価格や使用材料などが安価でありながら、10nm程度の高解像度を有する微細パターン形成技術として注目されている(特許文献1)。
【0004】
ナノインプリント法は、予め表面にナノメートルサイズの凹凸パターンを形成したモールド(テンプレート、スタンパ、金型とも呼ばれる)を、半導体ウエハなどの被転写基板表面に塗布形成された樹脂に押し付けて、前記樹脂を力学的に変形させて前記凹凸パターンを転写し、このパターン転写された樹脂をレジストマスクとして被転写基板を加工する技術である。一度モールドを作製すれば、ナノ構造が簡単に繰り返して成型できるため高いスループットが得られて経済的であるとともに、有害な廃棄物が少ないナノ加工技術であるため、近年、半導体デバイスに限らず、さまざまな分野への応用が期待されている。
【0005】
このようなナノインプリント法には、熱可塑性樹脂を用いて熱により凹凸パターンを転写する熱インプリント法や、光硬化性樹脂を用いて紫外線により凹凸パターンを転写する光インプリント法などが知られている(特許文献2)。
【0006】
上記の光インプリント法は、室温でパターン転写でき、熱インプリント法のような加熱・冷却サイクルが不要でモールドや樹脂の熱による寸法変化が生じないために、解像性、アライメント精度、生産性などの点で優れていると言われている。
【0007】
ここで、上述のようなナノインプリント法を用いて凹凸パターンを被転写基板に転写する際には、被転写基板上に形成された硬化前の樹脂を、モールドの凹凸パターンの形状に忠実に充填し、樹脂を硬化した後は、硬化した樹脂がモールドから離型されずに付着残留することに起因するパターン欠陥が発生しないように離型する必要がある。硬化前の樹脂充填に必要な時間を短縮するには、モールドと被転写基板の間の押圧力を増大させる方法があり、また、モールドと硬化後の樹脂の離型性を向上させるためには、モールド表面に離型層を形成する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2004-504718号公報
【特許文献2】特開2002-93748号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】金原寿郎著 「基礎物理学 上巻」裳華房 1963年
【非特許文献2】J.N.イスラエルアチヴィリ著 近藤保/大島広行訳「分子間力と表面力」朝倉書店 1963第2版 1996年
【非特許文献3】D.K.Owens et al,J.Appl.Polym.Sci,13,1741-1747(1969)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、高い押圧でモールドの微小な凹凸パターンに硬化前の流動性を有する樹脂を充填させる場合、樹脂が被転写基板の所望しない領域まで広がる恐れがある。また、モールドの変形を誘発してしまう恐れや、樹脂の広がりが不均一になるなどの恐れ、さらには、モールドもしくは被転写基板を破損してしまう恐れがあった。
【0011】
一方、離型性を向上させるべく、表面自由エネルギーの小さい離型層をモールド表面に形成すると、離型する際の剥離力が小さくなるため、硬化後の樹脂がモールドに付着残留することに起因するパターン欠陥の低減には有効であるものの、硬化前における樹脂の充填を阻害してしまうという課題があった。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高い押圧を要することなく、樹脂の充填を阻害することなく、モールドに形成された微小な凹凸パターンに、その形状に忠実に追従して樹脂を充填させることを可能とするナノインプリント方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、種々研究した結果、モールドに形成された微小な凹凸パターンへの樹脂の充填に関して、モールドの表面自由エネルギーと樹脂の表面自由エネルギーの関係や、樹脂の表面自由エネルギーの大きさ、および、モールドと樹脂との付着エネルギーと樹脂の表面自由エネルギーおよびその極性成分との関係等が、特定の条件を満たすものであれば、毛管力を効果的に利用することができ、これにより上記課題を解決できることを見出して本発明を完成したものである。
【0014】
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、モールドに形成された凹凸の転写パターンを、被転写基板上に形成された硬化性樹脂に転写するナノインプリント方法であって、前記転写パターンには、開口サイズが100nm以下の凹パターンが含まれており、前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、前記モールドの転写前後の表面自由エネルギーよりも小さい値であり、前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であり、前記モールドの表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(mold)および極性成分γ^(p)_(mold)の和により表わされる前記モールドの表面自由エネルギーをγ_(mold)とし、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(resist)および極性成分γ^(p)_(resist)の和により表わされる硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーをγ_(resist)とした場合に、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーγ_(resist)を一定値として、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの極性成分γ^(p)_(resist)を0以上前記表面自由エネルギーγ_(resist)の値以下の範囲内で変動させて、下記式により算出される前記モールドおよび硬化後の硬化性樹脂の付着エネルギーW_(mold/resist)と前記極性成分γ^(p)_(resist)との関係を示すグラフを得て、当該グラフの軌跡から求められる、付着エネルギーW_(mold/resist)が最大値を示さないような前記極性成分γ^(p)_(resist)の値を示す硬化性樹脂を、前記凹パターンが転写される前記硬化性樹脂として用いることを特徴とするナノインプリント方法である。

【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、毛管力を効果的に利用することにより、高い押圧を要することなく、モールドに形成された微小な凹凸パターンに、その形状に忠実に追従して硬化前の樹脂を充填させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ホール状の凹パターンを有するモールドにおける毛管浸透のモデルを示す説明図である。
【図2】ホール状の凹パターンを有するモールドにおける樹脂の浸透高さの時間依存性を示す図である。
【図3】ホール状の凹パターンを有するモールドのパターンサイズと樹脂の浸透到達高さの関係を示す図である。
【図4】樹脂の表面自由エネルギーと樹脂の浸透到達高さの関係を示す図である。
【図5】モールドと樹脂との付着エネルギーを説明する図である。
【図6】モールド表面の樹脂に働く力を説明する模式図である。
【図7】樹脂の表面自由エネルギーの極性成分と接触角との関係を示す図の一例である。
【図8】樹脂の表面自由エネルギーの極性成分と接触角との関係を示す図の他の例である。
【図9】モールドの表面自由エネルギーと付着エネルギーの最大値との関係を示す図である。
【図10】樹脂の表面自由エネルギーの極性成分と付着エネルギーとの関係を示す図の一例である。
【図11】樹脂の表面自由エネルギーの極性成分と付着エネルギーとの関係を示す図の他の例である。
【図12】毛管浸透の理論式のモデルを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明に係る樹脂の凹パターンにおける浸透到達高さについて説明する。
【0020】
数式(1)は、円管内定常流の理論式(Hagen-Poiseulleの式)であり、半径r、長さhの円管の定常流の流量Qを、長さh端間の圧力差P、液体の粘性係数ηで記述するものである(非特許文献1)。図12は、そのモデルを示す説明図である。
【0021】
【数1】

次に、図1に、ホール状の凹パターン(円柱状の孔パターン)を有するモールド1における毛管浸透のモデルを示す。図1に示す凹パターンは円管の上部が閉じられた系に相当し、流体である硬化前の樹脂2がこの凹パターンに毛管浸透し、凹パターンの底部(閉じられた円管の上部に相当)に気体3が閉じ込められている。図1に示すモデルにおいては、樹脂2と接するモールド1の表面とホール状の凹パターン内に浸透した樹脂表面との圧力差Pは、数式(2)のように表される。ここで、第1項は、ラプラス圧力に起因する成分であり、rはホール状の凹パターンの半径、γは樹脂の表面自由エネルギー、θは樹脂の凹パターン内壁での接触角、ηは樹脂の粘性係数を表す。第2項は、重力に起因する成分であり、ρは樹脂の密度、gは重力加速度、hは樹脂の浸透高さを示す。第3項は、モールドの押圧力の成分である。第4項は、閉じ込められた気体の圧力の成分であり、hは浸透高さ、h_(m)は凹パターンの深さ、p_(air)は大気圧を示す。
【0022】
【数2】

上記の数式(1)に、数式(2)を代入したものを数式(3)に示す。
【0023】
【数3】

ここで、流量Qは、体積速度であるため、数式(4)のようにも表される。なお、Vは流体の体積を、tは時間を示す。
【0024】
【数4】

それゆえ、数式(3)と数式(4)から、次の数式(5)が導き出される。
【0025】
【数5】

図2は、X軸を時間(t)、Y軸を浸透高さ(h)として上記数式(5)をプロットした図である。図2に示すように、浸透高さ(h)は、時間(t)の経過に伴って高くなるが、一定の時間を経過すると、変化の小さい安定した値となる。それゆえ、以降、この安定した値を浸透到達高さ(h_(C))とする。
【0026】
次に、図1に示すホール状の凹パターンを有するモールドの毛管浸透のモデルにおける、凹パターンの開口サイズ(直径=2×r)と浸透到達高さ(h_(C))の関係について、以下説明する。なお、凹パターンの深さ(h_(m))は100nmとして説明する。
【0027】
図3は、X軸が凹パターンの開口サイズ(直径=2×r)、Y軸が浸透到達高さ(h_(C))として、接触角(θ)を変化させた場合の上記数式(5)をプロットした図である。
【0028】
なお、表面自由エネルギー(γ)は25mJ/m^(2)、圧力(p)は3500Paとした。この圧力(p)の値は、モールド裏面側から押圧せずに、モールドを樹脂の上に静置しているだけの状態を想定したものである。
【0029】
図3に示すように、凹パターンの開口サイズが20nm近傍では毛管力が強く、接触角(θ)が40度以下の樹脂であれば、浸透到達高さ(hC)は95nm以上、すなわち凹パターンの深さ(h_(m))の95%に達する。
【0030】
ただし、モールドを押圧しない状態で、被転写基板上の樹脂をモールドの転写領域全体に広げるためには、接触角(θ)は可能な限り小さくする必要がある。モールドの転写領域全体の大きさは、例えば、40mm角程度である。
【0031】
表1に転写面に各種離型層を設けた石英モールドにおける、純水と硬化性樹脂(東洋合成工業社製、PAK-01)の接触角の測定結果を示す。前記PAK-01は、ナノインプリントに一般的に用いられる硬化性樹脂である。
【0032】
接触角測定装置としては、協和界面科学社製Drop Masterを用いた。
【0033】
なお、表1において、Optool(登録商標)とは、フッ素系シラン化合物を主成分とする離型層(ダイキン工業社製、Optool-DSX)を、ODSとは、オクタデシルトリメトキシシラン(CH_(3)(CH_(2))_(17)Si(OCH_(3))_(3))をモールド上に気相成長法により形成した離型層を、HMDSとは、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)雰囲気に、モールドを曝して、モールド上に形成したHMDSからなる離型層を、それぞれ示す。
【0034】
【表1】

表1に示すように、離型層HMDSと樹脂PAK-01の系において接触角(θ)が最も小さい結果となった。しかしながら、このHMDSとPAK-01の系であっても、押圧しない状態では、樹脂はモールドの転写領域全体に広がりきらない場合がある。
【0035】
それゆえ、樹脂の接触角(θ)は出来るだけ小さい値、例えば5度以下にすることが好ましい。
【0036】
次に、図1に示すホール状の凹パターンを有するモールドの毛管浸透のモデルにおける、樹脂の表面自由エネルギー(γ)と浸透到達高さ(h_(C))の関係について、以下説明する。
【0037】
図4は、X軸が樹脂の硬化前の表面自由エネルギー(γ)、Y軸が浸透到達高さ(h_(C))として、凹パターンの開口サイズ(直径=2×r)を変化させた場合の上記数式(5)をプロットした図である。なお、接触角(θ)は5度、凹パターンの深さ(h_(m))は100nm、圧力(p)は3500Paである。
【0038】
図4に示すように、樹脂の表面自由エネルギー(γ)が小さくなると、浸透到達高さ(h_(C))も小さくなり、この変化は、樹脂の表面自由エネルギー(γ)が10mJ/m^(2)より小さくなると顕著になる。それゆえ、樹脂の表面自由エネルギー(γ)は10mJ/m^(2)以上であることが好ましい。
【0039】
次に、樹脂の表面自由エネルギー(γ)とモールドの付着エネルギー(W_(mold/resist))の関係について、以下説明する。
【0040】
図5は、モールドと樹脂との付着エネルギーを説明する図である。図面上の凹凸パターンは省略してある。なお、図5において、21はモールド、22は樹脂を示す。
【0041】
ここで、図5(a)に示すように、接触している2つの媒質であるモールド21と樹脂22の単位面積を、図5(b)に示すように、引き離すのに必要な自由エネルギーの変化を示す付着エネルギーは、樹脂表面からモールドを引き離す付着エネルギーをW_(mold/resist)とし、モールドの表面自由エネルギーをγ_(mold)、樹脂の表面自由エネルギーをγ_(resist)、モールドとレジスト間の界面エネルギーをγ_(mold/resist)とすると、次の数式(6)で表される。
【0042】
【数6】

一方、樹脂とモールドの固体表面との間の現象は、簡単には樹脂の固体表面への濡れの程度で表される。本発明において、表面自由エネルギーを求めるのに用いる接触角は、固体表面上におかれた液滴の表面と固体表面との交点において、液滴に引いた接線と固体表面とのなす角度で、液滴を含む側の角度を示す。
【0043】
図6は、モールド表面の樹脂に働く力を説明する模式図である。図6に示すように、モールド31の表面に樹脂32が形成されたとき、濡れ性すなわち親水性、疎水性の程度を表す接触角に関して、モールドの表面自由エネルギーをγ_(mold)、モールドと樹脂間の界面エネルギーをγ_(mold/resist)、樹脂の表面自由エネルギーをγ_(resist)、接触角をθとすると、3つの矢印で示す力関係が釣り合い、数式(7)に示すヤング-デュプレ(Young-Dupre)の式(非特許文献2)が成り立つ。
【0044】
【数7】

上記の数式(6)、(7)より、付着エネルギー(W_(mold/resist))は、次の数式(8)で表される。したがって、樹脂の表面自由エネルギー(γ_(resist))と接触角(θ)がわかれば、樹脂表面からモールドを引き離す付着エネルギー(W_(mold/resist))を求めることができる。なお、樹脂の表面自由エネルギー(γ_(resist))と接触角(θ)は計測により求めることができる。
【0045】
【数8】

それゆえ、数式(8)から、次の数式(9)が導き出される。
【0046】
【数9】

そして、数式(9)から、次の数式(10)に示す範囲において5度以下の接触角(θ)が得られることになる。
【0047】
【数10】

一方、数式(11)に示すように、表面自由エネルギーγを分散相互作用による表面自由エネルギーγ^(d)と極性相互作用による表面自由エネルギーγ^(p)との和とすると、オーエンス(Owens)の式(非特許文献3)から、下記の数式(12)、(13)が成り立つ。なお、γ^(d)_(resist)およびγ^(p)_(resist)は、それぞれレジストの表面自由エネルギーの分散成分と極性成分であり、γ^(d)_(mold)およびγ^(p)_(mold)は、それぞれモールド(モールド表面に離型層が設けられている場合は、その離型層)の表面自由エネルギーの分散成分と極性成分である。
【0048】
【数11】

【0049】
【数12】

【0050】
【数13】

数式(13)が示す通り、付着エネルギー(W_(mold/resist))は、樹脂とモールドの表面自由エネルギーの分散成分(γ^(d)_(resist)およびγ^(d)_(mold))と極性成分(γ^(p)_(resist)およびγ^(p)_(mold))で決まるが、付着エネルギーの最大値(W_(mold/resist)max)は、数式(11)の関係から、分散成分と極性成分に依存せずに、数式(14)のように表される。
【0051】
【数14】

図7は、X軸を樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))、Y軸を接触角(θ)として、上記数式(11)、(13)に基づき、上記数式(9)をプロットした図である。接触角は、液体と固体の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分によって変わるため、極性成分の関数として示してある。なお、図7においては、樹脂の表面自由エネルギー(γ_(resist))を25mJ/m^(2)、モールドの表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(mold))をモールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))の1/2としている。
【0052】
図7に示すように、樹脂の表面自由エネルギー(γ_(resist))が、モールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))よりも小さい場合に、接触角(θ)が5度以下になる領域が現れる。
【0053】
具体的には、図7において、モールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))が20mJ/m^(2)の場合には、樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))が如何なる値であっても、接触角(θ)は30度以上であるが、モールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))が25mJ/m^(2)の場合には、樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))が概ね11?14mJ/m^(2)の範囲で、接触角(θ)は5度以下になり、さらに、モールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))が30mJ/m^(2)の場合には、樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))が概ね4?21mJ/m^(2)の範囲で、接触角(θ)は5度以下になる。
【0054】
図8は、図7におけるモールドの表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(mold))を、モールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))の1/5にして、図7と同様にプロットした例である。
【0055】
図8に示すように、モールドの表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(mold))が変化すると、接触角(θ)が5度以下になる樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))の範囲も変化する。
【0056】
具体的には、図7において、モールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))が25mJ/m^(2)の場合には、樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))が概ね11?14mJ/m^(2)の範囲で、接触角(θ)は5度以下になっていたが、図8においては、樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))が概ね4?6mJ/m^(2)の範囲で、接触角(θ)が5度以下になる。
【0057】
一方、図9は、X軸をモールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))、Y軸を付着エネルギーの最大値(W_(mold/resist)max)とし、樹脂の表面自由エネルギー(γ_(resist))をパラメータとして、上記数式(14)をプロットしたものである。図9に示すように、モールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))が小さいほど、及び/又は樹脂の表面自由エネルギー(γ_(resist))が小さいほど、付着エネルギーの最大値(W_(mold/resist)max)は小さくなる。したがって、モールドと樹脂の離型性を考えると、各々の表面自由エネルギーを小さくすることが望ましい。
【0058】
さらに、表面自由エネルギーの極性成分、分散成分に着目して、付着エネルギーの増減を示す。図10は、X軸が樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))、Y軸が付着エネルギー(W_(mold/resist))として、上記数式(13)をプロットした図である。なお、図10においては、図7と同様に、樹脂の表面自由エネルギー(γ_(resist))を25mJ/m^(2)、モールドの表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(mold))をモールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))の1/2としている。
【0059】
図7、および図10に示すように、接触角(θ)が最小(若しくは、接触角が5度以下となる領域の中心)となる樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))において、付着エネルギー(W_(mold/resist))は最大になる。
【0060】
具体的には、モールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))が25mJ/m^(2)の場合には、樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))が概ね12mJ/m^(2)の近傍で、接触角(θ)は最小になっており(図7)、付着エネルギー(W_(mold/resist))は最大になっている(図10)。
【0061】
次に、図11は、図10におけるモールドの表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(mold))を、モールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))の1/5にして、図10と同様にプロットした例である。
【0062】
図11に示すように、モールドの表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(mold))が変化すると、付着エネルギー(W_(mold/resist))が最大になる樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))の値も変化する。
【0063】
そして、上述の図7と図10の関係と同様に、接触角(θ)が最小(若しくは、接触角が5度以下となる領域の中心)となる樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))において、付着エネルギー(W_(mold/resist))は最大になる。
【0064】
具体的には、モールドの表面自由エネルギー(γ_(mold))が25mJ/m^(2)の場合には、樹脂の表面自由エネルギーの極性成分(γ^(p)_(resist))が概ね5mJ/m^(2)の近傍で、接触角(θ)は最小になっており(図8)、付着エネルギー(W_(mold/resist))は最大になっている(図11)。
【0065】
ここで、モールドと樹脂の離型性を考えると、付着エネルギーが最大となる領域は避けるべきである。したがって、硬化前の状態である樹脂の表面自由エネルギーの極性成分の値は、硬化後の樹脂とモールドとの付着エネルギーが最大となる樹脂の表面自由エネルギーの極性成分の値から、離れた値である樹脂であることが望ましいと思われる。
【0066】
以上、説明したように、モールドに形成された微小な凹凸パターンへの樹脂の充填に関して、モールドの表面自由エネルギーと樹脂の表面自由エネルギーの関係や、樹脂の表面自由エネルギーの大きさ、および、モールドと樹脂との付着エネルギーと樹脂の表面自由エネルギーおよびその極性成分との関係等が、本発明において特定した範囲を満たすものであれば、転写領域の全てに樹脂が広がり、かつ、毛管力を効果的に利用することができるため、高い押圧を要することなく、モールドに形成された微小な凹凸パターン形状に、忠実に追従して樹脂を充填させることができる。
【符号の説明】
【0067】
1、21、31・・・モールド
2、22、32・・・樹脂
3・・・気体
42・・・液体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールドに形成された凹凸の転写パターンを、被転写基板上に形成された硬化性樹脂に転写するナノインプリント方法であって、
前記転写パターンには、開口サイズが100nm以下の凹パターンが含まれており、
前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、前記モールドの転写前後の表面自由エネルギーよりも小さい値であり、
前記硬化性樹脂の硬化前の表面自由エネルギーが、25mJ/m^(2)以上であり、
前記モールドの表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(mold)および極性成分γ^(p)_(mold)の和により表わされる前記モールドの表面自由エネルギーをγ_(mold)とし、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの分散成分γ^(d)_(resist)および極性成分γ^(p)_(resist)の和により表わされる硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーをγ_(resist)とした場合に、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーγ_(resist)を一定値として、硬化性樹脂の硬化後の表面自由エネルギーの極性成分γ^(p)_(resist)を0以上前記表面自由エネルギーγ_(resist)の値以下の範囲内で変動させて、下記式により算出される前記モールドおよび硬化後の硬化性樹脂の付着エネルギーW_(mold/resist)と前記極性成分γ^(p)_(resist)との関係を示すグラフを得て、当該グラフの軌跡から求められる、付着エネルギーW_(mold/resist)が最大値を示さないような前記極性成分γ^(p)_(resist)の値を示す硬化性樹脂を、前記凹パターンが転写される前記硬化性樹脂として用いることを特徴とするナノインプリント方法。

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-04-14 
出願番号 特願2014-252223(P2014-252223)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 55- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 植木 隆和  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 伊藤 昌哉
松川 直樹
登録日 2016-04-08 
登録番号 特許第5910717号(P5910717)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 ナノインプリント方法  
代理人 伊藤 英生  
代理人 伊藤 裕介  
代理人 後藤 直樹  
代理人 立石 英之  
代理人 深町 圭子  
代理人 深町 圭子  
代理人 藤枡 裕実  
代理人 太田 昌孝  
代理人 伊藤 英生  
代理人 太田 昌孝  
代理人 後藤 直樹  
代理人 藤枡 裕実  
代理人 伊藤 裕介  
代理人 立石 英之  
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