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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1329053
異議申立番号 異議2016-700258  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-29 
確定日 2017-04-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5788566号発明「低エキスのノンアルコールビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5788566号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第5788566号の請求項1?3、5に係る特許を維持する。 特許第5788566号の請求項4、6、7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許異議の申立てに係る特許第5788566号(以下「本件特許」という。)の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成26年 5月30日 本件特許出願
平成27年 8月 7日 設定登録
平成28年 3月29日 特許異議申立書
同年 5月25日 取消理由通知書
同年 7月28日 意見書、訂正請求書(特許権者)
同年 9月20日 意見書(特許異議申立人)
同年11月25日 取消理由通知書(決定の予告)
平成29年 1月27日 意見書、訂正請求書(特許権者)
同年 3月 8日 意見書(特許異議申立人)
なお、平成29年1月27日付けで訂正請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、平成28年7月28日付けの訂正請求は、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正について
1 訂正の内容
平成29年1月27日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に
「【請求項1】
pH4.0以下のノンアルコールのビールテイスト飲料であって、
(a)1g/100mL未満の、穀物由来のエキス分、
(b)1.2?2.5g/100mLの食物繊維、および
(c)3?500mg/Lの、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも一種のミネラル
を含んでなり、以下の条件:
(i)ナトリウムの量が15?250mg/Lである;
(ii)カリウムの量が15?500mg/Lである;
(iii)カルシウムの量が10?350mg/Lである;および
(iv)マグネシウムの量が3?300mg/Lである、
のうちの少なくとも一つの条件を満たし、
さらに、ナトリウムの量の上限値が250mg/Lであり、カリウムの量の上限値が500mg/Lであり、カルシウムの量の上限値が350mg/Lであり、かつ、マグネシウムの量の上限値が300mg/Lである、ビールテイスト飲料。」
とあるのを
「【請求項1】
pH4.0以下のノンアルコールのビールテイスト飲料であって、
(a)1g/100mL未満の、穀物由来のエキス分、
(b)1.2?2.5g/100mLの食物繊維、および
(c)15?500mg/Lの、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも一種のミネラル
を含んでなり、以下の条件:
(ii)カリウムの量が15?300mg/Lである;
を満たし、
さらに、ナトリウムの量の上限値が250mg/Lであり、カリウムの量の上限値が300mg/Lであり、カルシウムの量の上限値が350mg/Lであり、かつ、マグネシウムの量の上限値が300mg/Lである、ビールテイスト飲料。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項5に
「【請求項5】
(c)のミネラルのうち、カリウムの量が15?500mg/Lである、請求項1?4のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。」
とあるのを
「【請求項5】
カリウムの量が50?250mg/Lである、請求項1?3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
請求項4、6、7を削除する。

2 訂正の適否
訂正事項1は、選択肢が(i)?(iv)であったのを(ii)のみに限定し、明細書の【0017】の記載に基づいてミネラル及びカリウムの量の範囲をより狭い範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項2は、引用する請求項数を減らし、明細書の【0017】の記載に基づいてカリウムの量の範囲をより狭い範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項3は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
pH4.0以下のノンアルコールのビールテイスト飲料であって、
(a)1g/100mL未満の、穀物由来のエキス分、
(b)1.2?2.5g/100mLの食物繊維、および
(c)15?500mg/Lの、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも一種のミネラル
を含んでなり、以下の条件:
(ii)カリウムの量が15?300mg/Lである;
を満たし、
さらに、ナトリウムの量の上限値が250mg/Lであり、カリウムの量の上限値が300mg/Lであり、カルシウムの量の上限値が350mg/Lであり、かつ、マグネシウムの量の上限値が300mg/Lである、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
(a)の穀物が、麦芽または大豆である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
(b)の食物繊維が難消化性デキストリンである、請求項1または2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
カリウムの量が50?250mg/Lである、請求項1?3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?7に係る特許に対して平成28年5月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。

本件発明1?7は、引用例1に記載された発明及び引用例1、5の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、あるいは、引用例1に記載された発明及び引用例3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用例>
引用例1:国際公開第2014/057954号(甲第1号証)
引用例2:楊井理恵、外2名、「飲用水中カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムイオンのキャピラリー電気泳動法による同時分析」、川崎医療福祉学会誌、2003年、第13巻、第1号、p.103-109(甲第2号証)
引用例3:宮地秀夫、「ビール醸造技術」、株式会社食品産業新聞社、1999年12月28日、p.82-85(甲第3号証)
引用例4:財団法人日本醸造協会、「醸造物の成分」、平成11年12月10日、p.187-189(甲第4号証)
引用例5:特開2011-217706号公報(甲第5号証)

3 引用例
(1)引用例1
引用例1には、以下の事項が記載されている(下線は当審による。)。
「次の成分(A)、(B)及び(C);
(A)麦汁、
(B)難消化性デキストリン 0.3?2.3質量%、及び
(C)炭酸ガス
を含有し、(A)麦汁中の固形分と(B)難消化性デキストリンとの質量比〔(B)/(A)〕が0.3以上であり、かつpH3?4である、アルコール含有量が1質量%未満のビアテイスト飲料。」([請求項1])

「(A)麦汁の含有量の範囲としては、本発明のビアテイスト飲料中に、固形分換算で0.05?7質量%が好ましく、0.05?5質量%がより好ましく、更に0.05?4質量%が好ましく、0.1?3質量%がより好ましく、0.2?2質量%が更に好ましく、0.3?1質量%が殊更に好ましい。」([0013])

「(B)難消化性デキストリンの含有量の範囲としては、本発明のビアテイスト飲料中に、0.5?2.2質量%が好ましく、0.8?2.1質量%がより好ましく、1.2?2質量%が更に好ましい。」([0018])

「本発明のビアテイスト飲料のpHを上記範囲内に調整するために、酸味料又はpH調整剤を含有することができる。酸味料又はpH調整剤としては、例えば、アスコルビン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸等の有機酸、リン酸等の無機酸及びそれらの塩類から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。中でも、クエン酸、グルコン酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、殊更グルコン酸及び/又はその塩が好ましい。なお、塩としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属塩を挙げることができる。」([0027])

「本発明のビアテイスト飲料は、更に香料、ビタミン、ミネラル、酸化防止剤、各種エステル類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、果汁エキス、野菜エキス、花蜜エキス、品質安定剤等の添加剤を1種又は2種以上を組み合わせて含有させることができる。」([0029])

以上によれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「(A)固形分換算で0.3?1質量%の麦汁、
(B)1.2?2質量%の難消化性デキストリン、及び
(C)炭酸ガス
を含有し、(A)麦汁中の固形分と(B)難消化性デキストリンとの質量比〔(B)/(A)〕が0.3以上であり、
ミネラルを含有し、かつpH3?4である、アルコール含有量が1質量%未満のビアテイスト飲料。」

(2)引用例2?5
引用例2には、水道水中の金属イオン濃度を5つの試料について実測したところ、カリウムが0.6?2.1ppm、ナトリウムが3.8?16.6ppm、カルシウムが6.2?23.1ppm、マグネシウムが0.9?3.2ppmであったことが記載されている。
引用例3には、ビール醸造用水の前処理として、石膏、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、食塩、塩化カリウム等の無機塩を添加することが記載され、また、ビール醸造に用いられる東京の軟水について、カルシウムを13?22mg/L、マグネシウムを4?6mg/L含むことが記載されている。
引用例4には、ビール中の無機成分は、原料である麦芽やホップから溶出移行したものと、醸造用水からのものが大部分であることが記載されている。
引用例5には、甘味料と酸味料と苦味料を含有する飲料に、グルコン酸ナトリウムを含有させることで甘味、酸味、苦味のばらつき感を抑えたノンアルコールビールテイスト飲料であって、甘味料としてアセスルファムKを20?80ppm含有するものが記載されている。

4 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 引用発明の「pH3?4である、アルコール含有量が1質量%未満のビアテイスト飲料」は、本件発明1の「pH4.0以下のノンアルコールのビールテイスト飲料」に相当し、以下同様に、「固形分換算で0.3?1質量%の麦汁」は、「1g/100mL未満の、穀物由来のエキス分」に、「1.2?2質量%の難消化性デキストリン」は、「1.2?2.5g/100mLの食物繊維」に、それぞれ相当する。
よって、本件発明1と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「pH4.0以下のノンアルコールのビールテイスト飲料であって、
(a)1g/100mL未満の、穀物由来のエキス分、
(b)1.2?2.5g/100mLの食物繊維、および
(c)ミネラル
を含んでなるビールテイスト飲料。」

[相違点1]
ミネラルについて、本件発明1は、「15?500mg/Lの、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも一種のミネラル」であって、「(ii)カリウムの量が15?300mg/Lである;を満たし」、「ナトリウムの量の上限値が250mg/Lであり、カリウムの量の上限値が300mg/Lであり、カルシウムの量の上限値が350mg/Lであり、かつ、マグネシウムの量の上限値が300mg/Lである」ことが特定されているのに対し、引用発明は、このような特定がなされていない点。

イ 相違点1について検討する。
引用発明は麦汁含有量が固形分換算で0.3?1質量%と少ないことを踏まえ、引用例4の記載事項を参酌すると、引用発明に含まれるミネラルは、醸造用水からのものが大部分であると認められる。
そして、引用発明のビールテイスト飲料を製造するための水として、引用例2に示される水道水や引用例3に示される軟水を用いることは普通に想到し得ることであるから、引用発明のビールテイスト飲料は、少なくとも水からの無機成分として、上記引用例2及び3に示された範囲の量、すなわち、ナトリウム3.8?16.6mg/L、カリウム0.6?2.1mg/L、カルシウム6.2?23.1mg/L、マグネシウム0.9?6mg/Lを含み得ると認められるものの、本件発明1の「(ii)カリウムの量が15?300mg/Lである」との条件を満たすとは認められない。
一方、引用例3によれば、ビール醸造用水の前処理として、石膏、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、食塩、塩化カリウム等の無機塩を添加することが認められるが、カリウムの添加量は明らかでないから、上記引用例3の技術事項を考慮しても、本件発明1の「(ii)カリウムの量が15?300mg/Lである」との条件を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また、引用例1には甘味料を添加できることが記載され([0029])、引用例5にはノンアルコールビールテイスト飲料に甘味料としてアセスルファムKを20?80ppm(カリウム濃度換算で4?16mg/L)となるように添加することが記載されている。しかし、引用例5において実施例で具体的に確認しているのは50ppm(カリウム濃度換算で10mg/L)の例だけであり、アセスルファムKは後味が悪く、特に高濃度で使用すると後味が苦いことが周知であることを考慮すると、単に濃度範囲として20?80ppmが記載されているからといって、引用発明のビールテイスト飲料にカリウムの量が15mg/L以上となるようにアセスルファムKを添加することを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 特許異議申立人は参考資料1?6を提出し、「15?300mg/L」は、ノンアルコールビールテイスト飲料において一般的なカリウム濃度にすぎないと主張する。
しかし、上記参考資料1?6は、引用発明のような、麦汁が固形分換算で1質量%以下のノンアルコールビールテイスト飲料における一般的なカリウム濃度を示すものとは認められないし、カリウムを添加して15?300mg/Lとすることが周知であることを示すものとも認められない。
よって、上記参考資料1?6を考慮しても、引用発明のカリウムの量が15?300mg/Lであるとはいえず、引用発明にカリウムを添加して15?300mg/Lとすることを当業者が容易に想到し得たともいえない。

エ したがって、本件発明1は、引用発明及び引用例1、5の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、また、引用発明及び引用例3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)本件発明2、3、5について
上記相違点1は、本件発明2、3、5と引用発明との相違点でもある。
よって、本件発明2、3、5も、本件発明1と同じく、引用発明及び引用例1、5の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、また、引用発明及び引用例3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

第4 むすび
以上のとおり、上記取消理由によっては、請求項1?3、5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項4、6、7に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4、6、7に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH4.0以下のノンアルコールのビールテイスト飲料であって、
(a)1g/100mL未満の、穀物由来のエキス分、
(b)1.2?2.5g/100mLの食物繊維、および
(c)15?500mg/Lの、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも一種のミネラル
を含んでなり、以下の条件:
(ii)カリウムの量が15?300mg/Lである;
を満たし、
さらに、ナトリウムの量の上限値が250mg/Lであり、カリウムの量の上限値が300mg/Lであり、カルシウムの量の上限値が350mg/Lであり、かつ、マグネシウムの量の上限値が300mg/Lである、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
(a)の穀物が、麦芽または大豆である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
(b)の食物繊維が難消化性デキストリンである、請求項1または2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
カリウムの量が50?250mg/Lである、請求項1?3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-04-18 
出願番号 特願2014-112950(P2014-112950)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 晴絵星 浩臣  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 紀本 孝
山崎 勝司
登録日 2015-08-07 
登録番号 特許第5788566号(P5788566)
権利者 キリン株式会社
発明の名称 低エキスのノンアルコールビールテイスト飲料  
代理人 柏 延之  
代理人 反町 洋  
代理人 永井 浩之  
代理人 永井 浩之  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 中村 行孝  
代理人 朝倉 悟  
代理人 反町 洋  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 柏 延之  
代理人 中村 行孝  
代理人 朝倉 悟  

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