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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03C
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C03C
管理番号 1329055
異議申立番号 異議2015-700282  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-09 
確定日 2017-04-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5731388号発明「光学ガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5731388号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?16〕について訂正することを認める。 特許第5731388号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第5731388号の請求項2?16に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第5731388号は、平成22年8月6日(優先権主張:平成21年8月7日 日本国)を国際出願日とする特願2011-525960号の特許請求の範囲に記載された請求項1?16に係る発明について、平成27年4月17日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1?16に係る特許について特許異議の申立てがされ、以下の手続がされたものである。
平成28年 3月 8日付けの取消理由通知
同年 5月10日付けの訂正請求及び意見書提出(特許権者)
同年 7月11日付けの意見書提出(申立人)
同年10月11日付けの取消理由(決定の予告)通知
同年12月15日付けの訂正請求及び意見書提出(特許権者)
平成29年 2月 3日付けの意見書提出(申立人)

第2.訂正請求について

1.訂正の内容

平成28年12月15日付けの訂正請求は、特許請求の範囲に係る次の訂正事項1?20よりなる(下線部が訂正箇所)。なお、本訂正請求により、同年 5月10日付けの訂正請求は取り下げられたものとみなされる。

訂正事項1
請求項1に「SiO_(2)成分を1.0%以上60.0%以下」とあるを「SiO_(2)成分を10.0%以上30.0%以下」に訂正する。

訂正事項2
請求項1に「Na_(2)O成分を6.040%以上30.0%以下」とあるを「Na_(2)O成分を6.040%以上15.0%以下」に訂正する。

訂正事項3
請求項1に「ZrO_(2)成分を1.85%以上25.0%以下」とあるを「ZrO_(2)成分を1.85%以上15.0%以下」に訂正する。

訂正事項4
請求項1に「B_(2)O_(3)成分の含有量が0?15.0%、」を追加する。

訂正事項5
請求項1に「TiO_(2)成分の含有量が0?20.0%、」を追加する。

訂正事項6?20
請求項2?16を削除する。

なお、訂正事項4,5について、訂正特許請求の範囲の記載に従い、句読点を追記した。

2.訂正要件の判断

(1)訂正事項1?3について
これらの訂正はいずれも、請求項1に係る発明の光学ガラスにおいて、成分含有率の数値範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項4,5について
これらの訂正はいずれも、請求項1に係る発明の光学ガラスにおいて、新たな成分の含有率を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、これらの含有率はいずれも請求項1を引用する下位請求項に記載されていた数値範囲内のものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項6?20について
これらの訂正はいずれも、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1を、請求項2?16が直接的又は間接的に引用していたから、訂正前の請求項1?16は一群の請求項である。
したがって、訂正事項1を含む本訂正は、これらの一群の請求項ごとに請求をするものと認められる。

3.むすび

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に規定された事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?16〕について訂正することを認める。

第3.特許異議の申立てについて

1.本件発明について

本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。

【請求項1】
SiO_(2)成分を10.0%以上30.0%以下、Nb_(2)O_(5)成分を36.509%以上65.0%以下、Na_(2)O成分を6.040%以上15.0%以下、ZrO_(2)成分を1.85%以上15.0%以下含有し、B_(2)O_(3)成分の含有量が0?15.0%、TiO_(2)成分の含有量が0?20.0%、質量比(Na_(2)O/Rn_(2)O)が0.40以上であり、1.78以上の屈折率(nd)及び30以下のアッベ数(ν_(d))を有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν_(d))との間で、ν_(d)≦25の範囲において(-1.60×10^(-3)×ν_(d)+0.6346)≦(θg,F)≦(-4.21×10^(-3)×ν_(d)+0.7207)の関係を満たし、ν_(d)>25の範囲において(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6571)≦(θg,F)≦(-4.21×10^(-3)×ν_(d)+0.7207)の関係を満たす光学ガラス(式中、Rnは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)。

2.実施可能要件違反及びサポート要件違反(取消理由)について

(1)平成28年3月8日付けで通知した取消理由は、要するに、
「本件特許の発明の詳細な説明の記載は、訂正前の請求項に記載された成分含有率の上限値や下限値において、当業者が請求項に記載された光学特性を満足する光学ガラスを作成できる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、結果として、訂正前の請求項に記載された発明は、当業者がその課題である前記光学特性が得られることを認識できる範囲のものでないから、訂正前の請求項1?16に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」というものである。

(2)これに対し、訂正により請求項2?16は削除され、請求項1において、必須成分であるSiO_(2)成分、Na_(2)O成分及びZrO_(2)成分について、その含有率の数値範囲が実施例に則したものに狭められ、さらに、これらの成分の一部を代替可能なB_(2)O_(3)成分及びTiO_(2)成分の含有率の数値範囲も任意成分として特定された。
してみると、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、請求項1に記載された成分含有率の上限値や下限値において、当業者が請求項1に記載された光学特性を満足する光学ガラスを作成できる程度に明確かつ十分に記載したものであり、結果として、請求項1に記載された発明は、当業者がその課題である前記光学特性が得られることを認識できる範囲のものといえる。
したがって、本取消理由には理由がない。

(3)なお、申立人は平成29年2月3日付けの意見書で、SiO_(2)成分の上限値、Nb_(2)O_(5)成分の上限値、ZrO_(2)成分の上限値、TiO_(2)成分の上限値、Na_(2)O/Rn_(2)Oの下限値について、サポートされていないと主張しているので検討する。
SiO_(2)成分の上限値:本件明細書【0049】に、SiO_(2)成分を増やすと屈折率が低下する虞があると記載されているが、例えば、SiO_(2)成分を26.436%、Na_(2)O成分を13.172%含む「実施例214」において、SiO_(2)成分を上限の30.0%まで増やし、代わりに請求項1に記載の光学特性に影響のないNa_(2)Oを減らしても、元の屈折率が1.83382であるから、請求項1に記載の屈折率(1.78以上)を満足することを当業者が認識できるものと認められる。
Nb_(2)O_(5)成分の上限値:本件明細書【0050】【0052】【0057】に、Nb_(2)O_(5)成分は屈折率を高めるほかは、ZrO_(2)成分やLi_(2)O成分と同様、部分分散比を低下させると記載されているから、例えば、Nb_(2)O_(5)成分を55.38%、ZrO_(2)成分を5.74%、Li_(2)O成分を5.48%含む「実施例147」において、Nb_(2)O_(5)成分を上限の65.0%まで増やし、代わりにZrO_(2)成分とLi_(2)O成分を減らしても、請求項1に記載された屈折率及び部分分散比を満足することを当業者が認識できるものと認められる。
ZrO_(2)成分の上限値:本件明細書【0052】【0057】に、ZrO_(2)成分がLi_(2)O成分と同様、部分分散比を低下させると記載されているから、例えば、ZrO_(2)成分を10.68%、Li_(2)O成分を4.85%含む「実施例37」において、ZrO_(2)成分を上限の15.0%まで増やし、代わりにLi_(2)O成分を減らしても、請求項1に記載された部分分散比を満足することを当業者が認識できるものと認められる。
TiO_(2)成分の上限値:本件明細書【0051】【0052】【0057】に、TiO_(2)成分は屈折率を高めるほかは、ZrO_(2)成分やLi_(2)O成分と同様、部分分散比を低下させると記載されているから、例えば、TiO_(2)成分を16.350%、ZrO_(2)成分を5.888%、Li_(2)O成分を6.694%含む「実施例160」において、TiO_(2)成分を上限の20.0%まで増やし、代わりにZrO_(2)成分及び/又はLi_(2)O成分を減らしても、請求項1に記載された屈折率及び部分分散比を満足することを当業者が認識できるものと認められる。
Na_(2)O/Rn_(2)Oの下限値:本件明細書【0052】【0057】に、ZrO_(2)成分がLi_(2)O成分と同様、部分分散比を低下させると記載されているから、例えば、Na_(2)O成分を6.135%、Li_(2)O成分を6.977%、ZrO_(2)成分を7.195%含み、Na_(2)O/Rn_(2)Oが0.468である「実施例172」において、Na_(2)O/Rn_(2)Oが下限の0.40となるようにLi_(2)O成分を増やし、代わりにZrO_(2)成分を減らしても、請求項1に記載された部分分散比を満足することを当業者が認識できるものと認められる。
以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。

3.新規性進歩性要件違反(申立理由)について

(1)申立人は、
甲第1号証:Livshits et al.
"ELASTIC MODULI OF GLASSES IN THE Li_(2)O-Na_(2)O-Nb_(2)O_(5)-SiO_(2) SYSTEM",
Soviet Journal of Glass Physics & Chemistry,Vol.17,p.26-30,1991
(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:国際公開第2009/096437号
(以下、「甲2」という。)
甲第3号証:特開2004-161598号公報
(以下、「甲3」という。)
甲第4号証:国際公開第2001/72650号
(以下「甲4」という。)
を提出し、訂正前の請求項1?12に係る発明は、甲1に記載された発明であり、訂正前の請求項1?16に係る発明は、甲1に記載された発明、又は、甲2,3に記載された発明に甲4の記載を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものでもあると主張し、平成29年2月3日付けの意見書で、本件発明についても、甲1に記載された発明であるか、甲1に記載された発明、又は、甲2,3に記載された発明に甲4の記載を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであると主張している。
しかしながら、次の(2)?(4)に示すとおり、これらの申立理由には理由がない。

(2)甲1のTABLE.1には、「Glass No.14」として、
「mol%で、Li_(2)O:15%、Na_(2)O:16%、SiO_(2):47%、Nb_(2)O_(5):19%、ZrO_(2):3%」
のガラスが記載されており、これを質量%に換算すると、
「Li_(2)O:4.62%、Na_(2)O:10.24%、SiO_(2):29.17%、Nb_(2)O_(5):52.15%、ZrO_(2):3.82%」
となるから、本件発明が特定する成分組成を満足する。
しかしながら、甲1には、TABLE.2に上記ガラスの弾性率等の機械的特性が記載されているにすぎず、光学特性について記載も示唆もない。
すなわち、甲1には、上記ガラスを光学ガラスとすることについて記載も示唆もないから、本件発明は、甲1に記載された発明ではないし、当該発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)甲2の表2には、「ガラスNo.14」として、
「質量%で、SiO_(2):19.73%、Nb_(2)O_(5):41.82%、TiO_(2):8.70%、Li_(2)O:2.66%、Na_(2)O:5.51%、K_(2)O:2.58%、B_(2)O_(3):1.91%、ZrO_(2):5.06%、WO_(3):1.59%、CaO:1.92%、BaO:6.29%、ZnO:2.23%」
の光学ガラスの実施例が記載され、表3には、当該ガラスの屈折率(nd)が1.88093、アッベ数(ν_(d))が24.39、部分分散比(Pg,F)が0.615であることも記載されている。
してみると、本件発明と上記光学ガラス(以下、「甲2発明」という。)を比較すると、Na_(2)O成分を、本件発明が6.040%以上含むのに対し甲2発明が5.51%しか含まない点で相違する。
そこでこの相違点について検討するに、甲2には、甲2発明が含まれる屈折率1.87以上の第2の態様の光学ガラスにおけるNa_(2)Oの含有量の一層好ましい範囲が0.5?5%であることが記載されているから、甲2発明においてNa_(2)Oの含有量を増やす動機づけはない。また、甲4は、屈折率が1.60?1.78、アッベ数が29?45の光学ガラスについて記載したものであるから、甲2発明と組み合わせることはできない。
したがって、本件発明は、甲2に記載された発明に甲4の記載を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)甲3の表2には、実施例9として、
「質量%で、SiO_(2):25.0%、TiO_(2):8.0%、ZrO_(2):2.0%、Nb_(2)O_(5):50.0%、BaO:2.0%、Li_(2)O:5.0%、K_(2)O:8.0%、屈折率n_(d):1.8838、アッベ数ν_(d):26.6」の光学ガラスが記載されている。
してみると、本件発明と、上記光学ガラス(以下、「甲3発明」という。)を比較すると、Na_(2)O成分を、本件発明が6.040%以上含むのに対し甲3発明が含まない点、及び、甲3発明の部分分散比が不明な点で相違する。
そこで、これの相違点について検討するに、甲3には、部分分散比に関する記載も示唆もないから、仮に、甲3発明において、Na_(2)O成分を6.040%以上含むようにすることが容易になし得たことだとしても、その結果、本件発明が特定する部分分散比を得られることは、当業者が予期し得た作用効果にはならない。また、甲4は、屈折率が1.60?1.78、アッベ数が29?45の光学ガラスについて記載したものであるから、甲3発明と組み合わせることはできない。
したがって、本件発明は、甲3に記載された発明に甲4の記載を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.むすび

以上のとおりであるから、取消理由及び申立理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2?16係る特許は、訂正により削除されたため、これらの特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO_(2)成分を10.0%以上30.0%以下、Nb_(2)O_(5)成分を36.509%以上65.0%以下、Na_(2)O成分を6.040%以上15.0%以下、ZrO_(2)成分を1.85%以上15.0%以下含有し、B_(2)O_(3)成分の含有量が0?15.0%、TiO_(2)成分の含有量が0?20.0%、質量比(Na_(2)O/Rn_(2)O)が0.40以上であり、1.78以上の屈折率(nd)及び30以下のアッベ数(ν_(d))を有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν_(d))との間で、ν_(d)≦25の範囲において(-1.60×10^(-3)×ν_(d)+0.6346)≦(θg,F)≦(-4.21×10^(-3)×ν_(d)+0.7207)の関係を満たし、ν_(d)>25の範囲において(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6571)≦(θg,F)≦(-4.21×10^(-3)×ν_(d)+0.7207)の関係を満たす光学ガラス(式中、Rnは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】(削除)
【請求項14】(削除)
【請求項15】(削除)
【請求項16】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-04-17 
出願番号 特願2011-525960(P2011-525960)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C03C)
P 1 651・ 121- YAA (C03C)
P 1 651・ 851- YAA (C03C)
P 1 651・ 537- YAA (C03C)
P 1 651・ 536- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山崎 直也  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 後藤 政博
大橋 賢一
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5731388号(P5731388)
権利者 株式会社オハラ
発明の名称 光学ガラス  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  
代理人 新山 雄一  
代理人 林 一好  
代理人 新山 雄一  
代理人 正林 真之  

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