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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01J
管理番号 1329056
異議申立番号 異議2016-700155  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-24 
確定日 2017-04-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5787306号発明「コロナ処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5787306号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について」訂正することを認める。 特許第5787306号の請求項1?4、6に係る特許を維持する。 特許第5787306号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由
1 手続の経緯

特許第5787306号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年8月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成28年2月24日付けで特許異議申立人川尻耕造(以下「申立人1」という。)により「特許第5787306号の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された発明についての特許は取消されるべきものである。」という趣旨の本件特許異議申立(以下「申立1」という。)がされ、また、同年3月11日付けで特許異議申立人森嶋孝明(以下「申立人2」という。)により「特許第5787306号の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された発明についての特許は取消されるべきものである。」という趣旨の本件特許異議申立(以下「申立2」という。)がされ、同年8月23日付けで取消理由が通知され、同年10月21日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年11月16日に申立人2から意見書が提出され、また、同年11月28日に申立人1から意見書が提出され、さらに、平成29年1月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成29年3月31日付けで意見書(以下、単に「意見書」という。)の提出及び訂正請求(以下、当該訂正請求を「本件訂正請求」という。)がなされたものである。
なお、平成28年10月21日にした訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

2 訂正の適否についての判断

(1) 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。

ア 訂正事項1

特許権者は、特許請求の範囲の請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正することを請求する。(当審注:下線は、特許権者により付したものである。以下同じ。)

「【請求項1】
第1コロナ処理装置が備える第1放電電極と第1アースロールとの間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に前記第1アースロールを介して偏光フィルムを通過させ、前記偏光フィルムの表面をコロナ処理する工程と、
第2コロナ処理装置が備える第2放電電極と第2アースロールとの間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に前記第2アースロールを介して保護フィルムを通過させ、前記保護フイルムの表面をコロナ処理する工程と、
コロナ処理によって活性化された前記偏光フイルムの前記表面に生成するシュウ酸が第1ガイドロールに付着しないようにするために、前記偏光フイルムの前記表面と反対の裏面が前記第1ガイドロールと接触するようにコロナ処理後の前記偏光フイルムを搬送する工程と、
コロナ処理によって活性化された前記保護フィルムの前記表面に生成するシュウ酸が第2ガイドロールに付着しないようにするために、前記保護フィルムの前記表面と反対の裏面が前記第2ガイドロールと接触するようにコロナ処理後の前記保護フィルムを搬送する工程と、
コロナ処理によって活性化された前記偏光フィルムの前記表面とコロナ処理によって活性化された前記保護フィルムの前記表面とを接着剤または粘着剤を用いて貼合する工程と、
を備え、
前記第1コロナ処理装置は、前記第1放電電極を覆うとともに、前記第1アースロール側に開口部を有する第1電極カバーをさらに備え、
前記第1電極カバーの開口部が斜め上向きないし上向きとなるように、前記第1コロナ処理装置を配置し、
前記第2コロナ処理装置は、前記第2放電電極を覆うとともに、前記第2アースロール側に開口部を有する第2電極カバーをさらに備え、
前記第2電極カバーの開口部が斜め上向きないし上向きとなるように、前記第2コロナ処理装置を配置することを特徴とするコロナ処理方法。」

イ 訂正事項2

特許権者は、特許請求の範囲の請求項2を以下の事項により特定されるとおりの請求項2として訂正することを請求する。

「【請求項2】
前記第1コロナ処理装置および前記第2コロナ処理装置が、耐食性部材で構成されている請求項1記載のコロナ処理方法。」

ウ 訂正事項3

特許権者は、特許請求の範囲の請求項3を以下の事項により特定されるとおりの請求項3として訂正することを請求する。

「【請求項3】
前記第1コロナ処理装置の表面および前記第2コロナ処理装置の表面が、耐食処理されている請求項1または2記載のコロナ処理方法。」

エ 訂正事項4

特許権者は、特許請求の範囲の請求項4を以下の事項により特定されるとおりの請求項4として訂正することを請求する。

「【請求項4】
前記第1電極カバーおよび前記第2電極カバーが、透明性部材で構成されている請求項1?3のいずれかに記載のコロナ処理方法。」

オ 訂正事項5

特許権者は、特許請求の範囲の請求項5を削除して訂正することを請求する。

カ 訂正事項6

特許権者は、特許請求の範囲の請求項6を以下の事項により特定されるとおりの請求項6として訂正することを請求する。

「【請求項6】
前記偏光フィルムの長さおよび前記保護フィルムの長さが、1万m以上である請求項1?4のいずれかに記載のコロナ処理方法。」

キ 訂正事項7

特許権者は、明細書の段落【0009】を以下の事項のとおりの段落【0009】として訂正することを請求する。

「【0009】
すなわち、本発明のコロナ処理方法は、以下の構成からなる。
(1)第1コロナ処理装置が備える第1放電電極と第1アースロールとの間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に前記第1アースロールを介して偏光フィルムを通過させ、前記偏光フィルムの表面をコロナ処理する工程と、第2コロナ処理装置が備える第2放電電極と第2アースロールとの間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に前記第2アースロールを介して保護フィルムを通過させ、前記保護フイルムの表面をコロナ処理する工程と、コロナ処理によって活性化された前記偏光フイルムの前記表面に生成するシュウ酸が第1ガイドロールに付着しないようにするために、前記偏光フイルムの前記表面と反対の裏面が前記第1ガイドロールと接触するようにコロナ処理後の前記偏光フイルムを搬送する工程と、コロナ処理によって活性化された前記保護フィルムの前記表面に生成するシュウ酸が第2ガイドロールに付着しないようにするために、前記保護フィルムの前記表面と反対の裏面が前記第2ガイドロールと接触するようにコロナ処理後の前記保護フィルムを搬送する工程と、コロナ処理によって活性化された前記偏光フィルムの前記表面とコロナ処理によって活性化された前記保護フィルムの前記表面とを接着剤または粘着剤を用いて貼合する工程と、を備え、前記第1コロナ処理装置は、前記第1放電電極を覆うとともに、前記第1アースロール側に開口部を有する第1電極カバーをさらに備え、前記第1電極カバーの開口部が斜め上向きないし上向きとなるように、前記第1コロナ処理装置を配置し、前記第2コロナ処理装置は、前記第2放電電極を覆うとともに、前記第2アースロール側に開口部を有する第2電極カバーをさらに備え、前記第2電極カバーの開口部が斜め上向きないし上向きとなるように、前記第2コロナ処理装置を配置することを特徴とするコロナ処理方法。
(2)前記第1コロナ処理装置および前記第2コロナ処理装置が、耐食性部材で構成されている前記(1)記載のコロナ処理方法。
(3)前記第1コロナ処理装置の表面および前記第2コロナ処理装置の表面が、耐食処理されている前記(1)または(2)記載のコロナ処理方法。
(4)前記第1電極カバーおよび前記第2電極カバーが、透明性部材で構成されている前記(1)?(3)のいずれかに記載のコロナ処理方法。
(5)
(6)前記偏光フィルムの長さおよび前記保護フィルムの長さが、1万m以上である前記(1)?(4)のいずれかに記載のコロナ処理方法。」

(2) 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正事項1?5について

訂正事項1?5の請求項1?5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項6について

訂正事項6の請求項6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、上記訂正事項5に係る請求項5の削除に伴い、引用関係を単に正したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項7について

訂正事項7の、明細書の段落【0009】に係る訂正は、上記訂正事項1?6に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0009】の記載を訂正事項1?6に対応するように訂正するものであるから、当該訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正事項7は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 一群の請求項について

上記訂正事項1?7は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

(3)小括

したがって、上記本件訂正請求による訂正事項1?7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について、訂正することを認める。

3 特許異議の申立てについて

(1) 本件発明

本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?4、6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」、「本件発明6」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4、6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(なお、請求項5は、本件訂正請求により削除された。)。

「【請求項1】
第1コロナ処理装置が備える第1放電電極と第1アースロールとの間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に前記第1アースロールを介して偏光フィルムを通過させ、前記偏光フィルムの表面をコロナ処理する工程と、
第2コロナ処理装置が備える第2放電電極と第2アースロールとの間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に前記第2アースロールを介して保護フィルムを通過させ、前記保護フイルムの表面をコロナ処理する工程と、
コロナ処理によって活性化された前記偏光フイルムの前記表面に生成するシュウ酸が第1ガイドロールに付着しないようにするために、前記偏光フイルムの前記表面と反対の裏面が前記第1ガイドロールと接触するようにコロナ処理後の前記偏光フイルムを搬送する工程と、
コロナ処理によって活性化された前記保護フィルムの前記表面に生成するシュウ酸が第2ガイドロールに付着しないようにするために、前記保護フィルムの前記表面と反対の裏面が前記第2ガイドロールと接触するようにコロナ処理後の前記保護フィルムを搬送する工程と、
コロナ処理によって活性化された前記偏光フィルムの前記表面とコロナ処理によって活性化された前記保護フィルムの前記表面とを接着剤または粘着剤を用いて貼合する工程と、
を備え、
前記第1コロナ処理装置は、前記第1放電電極を覆うとともに、前記第1アースロール側に開口部を有する第1電極カバーをさらに備え、
前記第1電極カバーの開口部が斜め上向きないし上向きとなるように、前記第1コロナ処理装置を配置し、
前記第2コロナ処理装置は、前記第2放電電極を覆うとともに、前記第2アースロール側に開口部を有する第2電極カバーをさらに備え、
前記第2電極カバーの開口部が斜め上向きないし上向きとなるように、前記第2コロナ処理装置を配置することを特徴とするコロナ処理方法。

【請求項2】
前記第1コロナ処理装置および前記第2コロナ処理装置が、耐食性部材で構成されている請求項1記載のコロナ処理方法。

【請求項3】
前記第1コロナ処理装置の表面および前記第2コロナ処理装置の表面が、耐食処理されている請求項1または2記載のコロナ処理方法。

【請求項4】
前記第1電極カバーおよび前記第2電極カバーが、透明性部材で構成されている請求項1?3のいずれかに記載のコロナ処理方法。

【請求項6】
前記偏光フィルムの長さおよび前記保護フィルムの長さが、1万m以上である請求項1?4のいずれかに記載のコロナ処理方法。」

(2) 取消理由の概要

訂正前の請求項1?4、6に係る特許に対して平成29年1月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

請求項1?4、6に係る発明は、引用文献1に記載された発明、並びに、引用文献1?8に記載された公知の技術事項、及び、周知事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項1?4、6に係る特許は、取り消されるべきものである。

(3) 引用文献1の記載事項

引用文献1(特開平1-246540号公報)には、以下のことが記載されている。

1-ア 「2.特許請求の範囲
(1)放電電極とアースロールからなり、電極の周囲にフードを設け、フード内の大気を吸引排除するプラスチックフイルムのコロナ放電処理方法において、該フードの形状を、フード先端とフイルム面との間隔がフイルム入り側で狭く、出側で広くした事を特徴とするコロナ放電処理方法。」

1-イ 「[発明の背景]
プラスチックフイルム(以下単にフイルムという)のごとき疎水性支持体に感光材料を塗布する際、感光材料を構成する親水性コロイド層を該支持体に接着するための前処理、または該支持体に接着するために設ける下引きのための前処理並びに該下引きの後処理としてコロナ放電処理が行なわれることは公知である。またフイルムに印刷する場合には印刷インキの付着性を向上したり、2種以上のフイルムを複合接着する際の接着強度を増加するためコロナ放電処理が行なわれる。」

1-ウ 「第1図は本発明の具体的実施態様の1例を示すコロナ放電処理装置の側面図である。
同図において、フイルム2は矢印の方向にアースロール1を抱いて走行する。このアースロールに対向してコロナ放電電極3が配置され、該電極からアースロールに向けて高周波、高電圧のコロナ放電が行なわれる。したがってフイルムは電極とアースロールの間にあり、コロナ放電処理を受ける。
本発明においては、該放電電極3の周囲にフード4を設ける。このフードには排気装置6が付設され、電極付近のオゾンを含む大気を吸引排除する。さらに電極後にエアーカーテン5を設置することによりオゾン等を含む有害気体が充分排除される。該フード4の構造はフードとフイルム2との間隔が電極3に対して入り側が狭く、出側を広くすることにより発生するオゾン等の排除の効率を上げている。その間隔は入り側で約1?20mm、出側で3?40mm程度が好ましい。その他のフードの構造にはとくに制限はなく、また材質はオゾン等の腐食に耐えるものであれば良い。さらに本発明では電極を囲むフード4の後、すなわち上記出側の後にエアーカーテンを設けることにより、フイルムに随伴する気流を遮断し、オゾン等の排除効果を高めている。」

1-エ 「4.図面の簡単な説明
第1図は本発明の実施態様の1例を示す側面図である。
・・・(中略)・・・
1:アースロール 2:フイルム
3:放電電極 4:フード
5:エアーカーテン 6:排気装置
◎:オゾン濃度測定位置」

1-オ 「



(4) 引用文献1(甲第1号証)に記載の発明

引用文献1の上記1-ア?1-オの記載及び当業者の技術常識からみて、引用文献1には、コロナ放電処理装置が備えるコロナ放電電極3とアースロール1との間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に前記アースロール1を介してフイルム2を通過させ、前記フイルム2の表面をコロナ処理するコロナ放電処理工程と、コロナ放電処理後の前記フイルム2を搬送する工程を備えることが記載されており、また、前記コロナ放電処理装置は、前記放電電極を囲むとともに、前記アースロール1側に開口部を有するフード4をさらに備えるものであり、さらに、この電極カバーの開口部が横向きとなるように配置されているといえるから、引用文献1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「コロナ放電処理装置が備えるコロナ放電電極3とアースロール1との間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に前記アースロール1を介してフイルム2を通過させ、前記フイルム2の表面をコロナ処理する工程と、
コロナ放電処理後の前記フィルム2を搬送する工程と、
を備え、
前記コロナ放電処理装置は、前記コロナ放電電極3を囲むとともに、前記アースロール1側に開口部を有するフード4をさらに備え、
このフード4の開口部が横向きとなるように、前記コロナ放電処理装置を配置するコロナ処理方法。」

(5) 判断

ア 取消理由通知に記載した取消理由について

(ア) 特許法第29条第2項について

本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明は、単独であるフィルムのコロナ処理方法に関するものであり、一方、本件発明1は、偏光フィルム及びそれに貼合される保護フィルムのコロナ処理、及びコロナ処理後のフィルムをガイドロールを用いて搬送することに関するものであるから、本件発明1と引用発明とは、その技術分野が相違している。
また、本件発明1は、コロナ処理によって活性化された偏光フイルム(保護フィルム)の表面に生成するシュウ酸が第1(第2)ガイドロールに付着しないようにするために、偏光フイルムの表面と反対の裏面が第1(第2)ガイドロールと接触するようにコロナ処理後の偏光フイルム(保護フィルム)を搬送する工程を発明特定事項とするところ、上記のとおり技術分野が相違する引用発明1においては、当該発明特定事項はなく、また、引用文献1の記載を参照しても、上記発明特定事項についての記載も示唆も見当たらない。
さらに、同じく上記取消理由で引用した引用文献2(特開昭60-251962号公報)、引用文献3(特許第2764278号公報)、引用文献4(特開平4-149247号公報)、引用文献5(特開2007-103205号公報)、引用文献6(特開2010-115575号公報)、引用文献7(特開2010-43215号公報)、及び引用文献8(特開2009-237489号公報)を含めて、上記発明特定事項についてを開示ないし示唆する証拠や技術常識も見当たらない。
そして、当該発明特定事項である「コロナ処理によって活性化された偏光フイルム(保護フィルム)の表面に生成するシュウ酸が第1(第2)ガイドロールに付着しないようにするために、偏光フイルムの表面と反対の裏面が第1(第2)ガイドロールと接触するようにコロナ処理後の偏光フイルム(保護フィルム)を搬送する工程」を有するにより、本件発明1は、コロナ処理後の偏光フィルム、保護フィルムの表面に生成する結晶状異物であるシュウ酸が、コロナ処理する工程の後において、第1及び第2ガイドロールに付着し、当該ガイドロールが汚染されることを抑制するという顕著な効果を奏するものであり、本件発明1は、引用発明、並びに、引用文献1?8に記載された公知の技術事項、及び、周知事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立の理由について

(ア) 特許法第29条第1項第3号の規定について

上記「(5)ア(ア)」で検討したとおり、本件発明1と引用発明との間には、「コロナ処理によって活性化された偏光フイルム(保護フィルム)の表面に生成するシュウ酸が第1(第2)ガイドロールに付着しないようにするために、偏光フイルムの表面と反対の裏面が第1(第2)ガイドロールと接触するようにコロナ処理後の偏光フイルム(保護フィルム)を搬送する工程」という実質的な相違点が存在するから、本件発明1及びその下位概念である本件発明2?4、6は、引用文献1に記載された発明ではない。
また、上記取消理由で引用した引用文献2?8においても同様であり、本件発明1及びその下位概念である本件発明2?4、6は、引用文献2?8に記載された発明ではない。

(イ) 特許法第36条第6項第2号の規定について

申立人1は、平成28年2月24日付け特許異議申立書の第5頁において、『発明を特定するための事項の内容に瑕疵があり、不明確である。』、同じく第42頁において、『処理量の長さが長ければ長いほどよいとする根拠が不明確であるばかりか、「被コロナ処理物の長さが、1万m以上である」ことによる特有の効果が何ら示されておらず、本件特許発明6は発明を特定するための事項の内容に瑕疵があり、不明確で、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。』旨、述べている。
そこで、本件発明6(本件特許発明6)の記載を改めて参照すると、
「【請求項6】
前記偏光フィルムの長さおよび前記保護フィルムの長さが、1万m以上である請求項1?4のいずれかに記載のコロナ処理方法。」と記載されているところ、訂正明細書の段落【0024】、【0025】には、「コロナ処理装置1によってコロナ処理される被コロナ処理物10としては、コロナ処理が必要な所望のフィルム状のものが採用可能であり、特に限定されるものではないが、例えば偏光フィルム等の光学フィルム、この光学フィルムを保護する保護フィルム、粘着剤層や接着剤層を備えたフィルム等が挙げられる。偏光フィルムとしては、例えばポリビニルアルコール系フィルムに二色性色素を吸着配向させたもの等が挙げられ、保護フィルムとしては、例えばトリアセチルセルロースやジアセチルセルロースのようなアセチルセルロース系樹脂フィルム、シクロオレフィン系樹脂フィルム等が挙げられる。」、「被コロナ処理物10の長さ(以下、「処理量」と言う。)としては、1万m以上であるのが好ましく、3万m以上であるのがより好ましく、4万m?6万mであるのがさらに好ましい。このような処理量に対して従来のコロナ処理を行うと、被コロナ処理物10に結晶状異物が付着しやすい傾向にある。長期にわたり安定してコロナ処理を行うことができる本実施形態のコロナ処理方法によれば、上述した処理量に対しても安定してコロナ処理を行うことができる。なお、上述した処理量を有する被コロナ処理物10は、長尺の被コロナ処理物がロール状に巻取られてなる1本の原反ロールから繰り出されるものであってもよいし、各々が所定の処理量を有する複数の被コロナ処理物を継ぎ足したものであってもよい。」と記載されている。
ここで、本件発明6の「偏光フィルム」、「保護フィルム」については、上記段落【0024】に記載されているように、光学フィルムを構成するフィルムの一種であることが明らかであり、また、それらの材質についても同じく列記されているように明らかである。
また、「偏光フィルムの長さ」、及び「保護フィルムの長さ」における「長さ」についても、上記段落【0025】に記載されているように、「処理量」のことであることが明記されており、当該長さ(処理量)が、当該フィルムの搬送方向に沿った長さであることは当業者に明らかである。
さらに、長さ(処理量)が「1万m以上」とは、当該フィルムの搬送方向に沿った長さが「1万m以上」ということであるから、当該記載自体明確であり、あくまでも好ましい範囲を規定したものであって、本件発明6が、1万m以上連続してコロナ処理しても、所望の作用効果を奏するとしただけに過ぎないものであり、訂正明細書においても、処理量(長さ)が1万m以上である「49654m」の実施例・比較例が記載されており(段落【0039】【表1】参照。)、その効果を裏付けている。なお、上限値が規定されていないからといって、直ちに、請求項の記載が不明確となるものではなく、コロナ処理方法として使用できる範囲で、当該フィルムの長さが規定されればよく、これらの値の上限は、明確に特定することができないことから、数値限定の上限が規定されていないからといって、本件発明6の範囲は不明確であるともいえない。

よって、本件発明6は、明確ではないといえないから、本件発明6は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

4 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4、6に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件請求項1?4、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項5に係る発明は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項5に対し、申立人1、及び申立人2がした申立1、及び申立2については、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
コロナ処理方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状の被コロナ処理物の表面をコロナ処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、偏光フィルム等の表面をコロナ処理することによって、その表面を活性化させることが記載されている。コロナ処理は、通常、高周波電源により供給される高周波・高電圧出力を、コロナ処理装置が備える放電電極とアースロールとの間に印加することでコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に偏光フィルム等の被コロナ処理物を通過させることによって行われる。
しかし、コロナ処理を長期にわたって行うと、被コロナ処理物に結晶状異物が付着して歩留りが低下するという問題があった。
【0003】
一方、コロナ放電によってオゾンおよび窒素酸化物(NOx)が生成することが知られている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3では、オゾンおよび窒素酸化物(NOx)の発生量を、所定構造を有するコロナ処理装置を使用することによって低減している。
【0004】
しかし、特許文献3に記載されているコロナ処理装置は、上述したコロナ処理を長期にわたって行う際の結晶状異物の付着を抑制するという点で、必ずしも満足のいくものではなかった。また、特許文献3には、コロナ処理装置を所定構造にする必要があるという点で、コロナ処理を簡単に行うことができないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-213314号公報
【特許文献2】特開2009-8860号公報
【特許文献3】特許第4194766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、長期にわたり安定してコロナ処理を行うことができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を見出した。すなわち、被コロナ処理物に付着した結晶状異物を分析した結果、該結晶状異物は、シュウ酸、シュウ酸塩、シュウ酸アンモニウム、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム等であった。
【0008】
本発明者らは、これらの結晶状異物の由来について、検討を重ねた。その結果、これらの結晶状異物は、コロナ放電を行うにつれてコロナ処理装置に蓄積されたものであり、それが被コロナ処理物に落下して付着したものであるという知見を得た。そして、この知見に基づき、さらに鋭意研究を重ねた結果、コロナ処理装置が備える電極カバーの開口部が特定方向となるようにコロナ処理装置を配置すれば、コロナ処理装置に蓄積される結晶状異物が被コロナ処理物に落下して付着するのを抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のコロナ処理方法は、以下の構成からなる。
(1)第1コロナ処理装置が備える第1放電電極と第1アースロールとの間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に前記第1アースロールを介して偏光フィルムを通過させ、前記偏光フィルムの表面をコロナ処理する工程と、第2コロナ処理装置が備える第2放電電極と第2アースロールとの間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に前記第2アースロールを介して保護フィルムを通過させ、前記保護フィルムの表面をコロナ処理する工程と、コロナ処理によって活性化された前記偏光フィルムの前記表面に生成するシュウ酸が第1ガイドロールに付着しないようにするために、前記偏光フィルムの前記表面と反対の裏面が前記第1ガイドロールと接触するようにコロナ処理後の前記偏光フィルムを搬送する工程と、コロナ処理によって活性化された前記保護フィルムの前記表面に生成するシュウ酸が第2ガイドロールに付着しないようにするために、前記保護フィルムの前記表面と反対の裏面が前記第2ガイドロールと接触するようにコロナ処理後の前記保護フィルムを搬送する工程と、コロナ処理によって活性化された前記偏光フィルムの前記表面とコロナ処理によって活性化された前記保護フィルムの前記表面とを接着剤または粘着剤を用いて貼合する工程と、を備え、前記第1コロナ処理装置は、前記第1放電電極を覆うとともに、前記第1アースロール側に開口部を有する第1電極カバーをさらに備え、前記第1電極カバーの開口部が斜め上向きないし上向きとなるように、前記第1コロナ処理装置を配置し、前記第2コロナ処理装置は、前記第2放電電極を覆うとともに、前記第2アースロール側に開口部を有する第2電極カバーをさらに備え、前記第2電極カバーの開口部が斜め上向きないし上向きとなるように、前記第2コロナ処理装置を配置することを特徴とするコロナ処理方法。
(2)前記第1コロナ処理装置および前記第2コロナ処理装置が、耐食性部材で構成されている前記(1)記載のコロナ処理方法。
(3)前記第1コロナ処理装置の表面および前記第2コロナ処理装置の表面が、耐食処理されている前記(1)または(2)記載のコロナ処理方法。
(4)前記第1電極カバーおよび前記第2電極カバーが、透明性部材で構成されている前記(1)?(3)のいずれかに記載のコロナ処理方法。
(5)
(6)前記偏光フィルムの長さおよび前記保護フィルムの長さが、1万m以上である前記(1)?(4)のいずれかに記載のコロナ処理方法。
【0010】
なお、本発明における前記「アースロール」は、放電電極との間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下にフィルム状の被コロナ処理物を通過させる機能を有するものであればよく、いわゆる処理ロールやバックロール等と呼ばれるものも含むものである。
本発明における前記「フィルム状」は、フィルム状のみに限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない限りにおいて、フィルム状ないしシート状をも含む概念である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コロナ処理装置に蓄積される結晶状異物が被コロナ処理物に落下して付着するのを抑制することができ、それゆえ長期にわたり安定してコロナ処理を行うことができるという効果がある。しかも、一般的な構成を有するコロナ処理装置を採用することができるので、コロナ処理を簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態にかかるコロナ処理装置を示す概略説明図である。
【図2】(a)?(c)は、図1に示すコロナ処理装置の配置状態を説明する概略説明図である。
【図3】(a),(b)は、図1に示すコロナ処理装置の配置状態を説明する概略説明図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかるコロナ処理方法を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかるコロナ処理方法の一実施形態について、図1?図4を参照して詳細に説明する。本実施形態のコロナ処理方法は、図1に示すコロナ処理装置1を使用して行うものである。
【0014】
コロナ処理装置1は、放電電極2と、この放電電極2に対向して配置されているアースロール3と、放電電極2を覆っている電極カバー4と、放電電極2を保持している電極ホルダ5と、電極カバー4のアースロール3側に位置している一端面4aと反対の他端面4b側に位置している排気管6と、を備えている。
【0015】
放電電極2は、略棒状をなし、その先端部2aが電極カバー4の一端面4aよりも電極カバー4の内方に位置しており、その後端部2bが電極ホルダ5によって保持されている。なお、放電電極2の形状は、放電可能な限り略棒状に限定されるものではなく、例えば針状、板状、円柱状等の他の形状であってもよい。
【0016】
アースロール3は、アースされているとともに、放電電極2の先端部2aとの間に所定の間隔をおいて、かつ放電電極2に対向して配置されている。アースロール3は、図示しないモータ等の回転駆動手段に接続されており、所定の周速度で回転可能に構成されている。
【0017】
電極カバー4は、アースロール3側に位置している一端面4aに開口する開口部4cを有している。また、電極カバー4は、一対の側面4d,4dを有している。一対の側面4d,4dは、一端面4aから他端面4bに向かって互いに略平行となるように延びている。
【0018】
排気管6は、その外周の一部が電極カバー4によって囲まれている空間内に通じているとともに、図示しない排気管出口が真空ポンプ等の吸引手段に接続されている。これにより、電極カバー4によって囲まれている空間内の気体を、排気管6を通じて吸引しコロナ処理装置1の外部へ排気することができる。したがって、コロナ処理によって発生するオゾンを、排気管6を通じてコロナ処理装置1の外部へ排気することができる。排気管6の排気管出口における風量としては、オゾンの排気を確実に行う上で、0.1m^(3)/秒以上であるのが好ましい。
【0019】
上述したコロナ処理装置1を使用して行う本実施形態のコロナ処理方法は、図示しない高周波電源により供給される高周波・高電圧出力を、放電電極2とアースロール3との間に印加することで、これらの間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下にアースロール3を介してフィルム状の被コロナ処理物10を通過させ、これにより被コロナ処理物10の表面をコロナ処理する方法である。
【0020】
コロナ処理強度としては、被コロナ処理物10に応じて所望の強度を採用すればよく、特に限定されないが、通常、200?2000W程度である。コロナ処理強度が低すぎると、被コロナ処理物10の全幅にわたって安定したコロナ放電が得られ難い傾向にあり、また高すぎると、被コロナ処理物10の耐熱特性等により差があるものの、発生する熱によって被コロナ処理物10にシワ等が発生し易くなる傾向にあるので好ましくない。
【0021】
ここで、本実施形態のコロナ処理方法では、図2(a)?(c)に示すように、上述した電極カバー4の開口部4cが横向きないし上向きとなるようにコロナ処理装置1を配置する。これにより、コロナ処理装置1に蓄積される結晶状異物が被コロナ処理物10に落下して付着するのを抑制することができ、長期にわたり安定してコロナ処理を行うことができる。これに対し、図3(a),(b)に示すように、電極カバー4の開口部4cが横向きよりも斜め下向きないし下向きとなるようにコロナ処理装置1を配置すると、コロナ処理装置1に蓄積される結晶状異物が被コロナ処理物10に落下してしまう。
【0022】
一方、一般的なコロナ処理装置は、電極ホルダや排気管等を構成する部材にアルミを採用することが多いが、結晶状異物はアルミで構成されている部材に多く付着する傾向がある。それゆえ、本実施形態にかかるコロナ処理装置1は、アルミ以外の部材で構成されているのが好ましく、耐食性部材で構成されているのがより好ましい。耐食性部材としては、例えばセラミックス、ステンレス鋼(SUS)等が挙げられる。また、コロナ処理装置1自体を耐食性部材で構成することに代えて、コロナ処理装置1の表面を耐食性部材で被覆するか、またはその表面を耐食処理することによっても、同様の効果を得ることができる。耐食処理としては、例えばアルマイト処理等が挙げられる。上述した耐食性部材や耐食処理の適用は、コロナ処理装置1全体に対して適用してもよく、コロナ処理装置1のうち結晶状異物が付着し易い部材や領域に対して適用するようにしてもよい。
【0023】
また、電極カバー4を、透明性部材で構成するのが好ましい。これにより、電極カバー4が透明になるので、該電極カバー4を介して放電電極2,電極ホルダ5等の状態を目視で確認することができる。透明性部材としては、例えばアクリル系樹脂等が挙げられる。電極カバー4の側面4dの内側は、結晶状異物が蓄積され易い溝や凹凸等のない形状で構成するのが好ましい。
【0024】
コロナ処理装置1によってコロナ処理される被コロナ処理物10としては、コロナ処理が必要な所望のフィルム状のものが採用可能であり、特に限定されるものではないが、例えば偏光フィルム等の光学フィルム、この光学フィルムを保護する保護フィルム、粘着剤層や接着剤層を備えたフィルム等が挙げられる。偏光フィルムとしては、例えばポリビニルアルコール系フィルムに二色性色素を吸着配向させたもの等が挙げられ、保護フィルムとしては、例えばトリアセチルセルロースやジアセチルセルロースのようなアセチルセルロース系樹脂フィルム、シクロオレフィン系樹脂フィルム等が挙げられる。
【0025】
被コロナ処理物10の長さ(以下、「処理量」と言う。)としては、1万m以上であるのが好ましく、3万m以上であるのがより好ましく、4万m?6万mであるのがさらに好ましい。このような処理量に対して従来のコロナ処理を行うと、被コロナ処理物10に結晶状異物が付着しやすい傾向にある。長期にわたり安定してコロナ処理を行うことができる本実施形態のコロナ処理方法によれば、上述した処理量に対しても安定してコロナ処理を行うことができる。なお、上述した処理量を有する被コロナ処理物10は、長尺の被コロナ処理物がロール状に巻取られてなる1本の原反ロールから繰り出されるものであってもよいし、各々が所定の処理量を有する複数の被コロナ処理物を継ぎ足したものであってもよい。
【0026】
被コロナ処理物10の厚さとしては、通常、10?300μm程度、被コロナ処理物10の幅としては、通常、300?2500mm程度であるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
次に、被コロナ処理物10として偏光フィルムおよび保護フィルムを用いた場合を例に挙げ、これらの表面に対して本発明のコロナ処理を行う一実施形態について、図4を参照して詳細に説明する。
【0028】
同図に示すように、まず、電極カバー4の開口部4cが横向きとなるように2つのコロナ処理装置1,1を所定の位置に配置する。
【0029】
ついで、偏光フィルム11,保護フィルム12を、コロナ処理前ガイドロール15a,15bを介してそれぞれ矢印A,B方向に搬送する。このとき、偏光フィルム11,保護フィルム12は、各々の表面がコロナ処理前ガイドロール15a,15bと接触するように搬送する。
【0030】
そして、図示しない高周波電源により供給される高周波・高電圧出力を、放電電極2とアースロール3との間に印加することで、これらの間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下にアースロール3を介して偏光フィルム11,保護フィルム12を通過させる。これにより、偏光フィルム11,保護フィルム12の各々の表面をコロナ処理することができるとともに、電極カバー4の開口部4cが横向きとなるようにコロナ処理装置1が配置されているので、コロナ処理装置1に蓄積される結晶状異物が偏光フィルム11,保護フィルム12に落下して付着するのを抑制することができ、それゆえ長期にわたり安定してコロナ処理を行うことができる。
【0031】
一方、コストを削減する上で、偏光フィルム11,保護フィルム12を搬送する前に予め安価なフィルムをリードフィルムとして搬送し、その後、偏光フィルム11,保護フィルム12を搬送するのが好ましい。その際、リードフィルム搬送中にはコロナ放電を発生させず、偏光フィルム11,保護フィルム12がアースロール3上を通過するときにコロナ放電を発生させるのが好ましい。
【0032】
コロナ処理後の偏光フィルム11,保護フィルム12は、コロナ処理後ガイドロール16a,16bを介してそれぞれ矢印C,D方向に搬送される。ここで、コロナ処理によって活性化された偏光フィルム11,保護フィルム12の表面が、コロナ処理後ガイドロール16a,16bに接触すると、これらコロナ処理後ガイドロール16a,16bが汚染される傾向にある。この理由としては、コロナ処理後の偏光フィルム11,保護フィルム12の表面には、コロナ処理によって生成するシュウ酸等が存在しており、これがコロナ処理後ガイドロール16a,16bに付着するためであると推察される。そのため、本実施形態では、コロナ処理によって活性化された表面と反対の裏面がコロナ処理後ガイドロール16a,16bと接触するようにコロナ処理後の偏光フィルム11,保護フィルム12を搬送する。
【0033】
そして、コロナ処理によって活性化された互いの表面同士を左右一対の貼合ロール17a,17bによって貼合し、矢印E方向に引取って偏光板13とする。なお、この偏光板13の層構成は、偏光フィルム11の表面に保護フィルム12が貼合された2層構成であるが、偏光フィルム11の裏面にも保護フィルム12を貼合して3層構成としてもよい。また、偏光フィルム11,保護フィルム12の貼合は、例えば接着剤、粘着剤(感圧粘着剤)等を用いて行うことができ、特に限定されるものではない。
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
上述した図1に示すコロナ処理装置1を使用して被コロナ処理物10の表面をコロナ処理した。そして、被コロナ処理物10への結晶状異物の付着の有無を、目視観察して評価した。使用したコロナ処理装置1の構成、被コロナ処理物10およびコロナ処理条件を以下に示すとともに、その結果を表1に示す。
【0036】
(コロナ処理装置1の構成)
・電極ホルダ5,排気管6:表面をアルマイト処理(耐食処理)したアルミ製
・電極カバー4:透明なアクリル系樹脂製
・電極カバー4の開口部4cの向き:斜め上向き(図2(b)参照)
【0037】
(被コロナ処理物10およびコロナ処理条件)
・被コロナ処理物10:各々が所定の処理量を有する偏光フィルム、シクロオレフィンフィルムおよびトリアセチルセルロースフィルムを継ぎ足したもの
・コロナ処理強度:600W
・処理量:49654m
【0038】
[比較例]
電極カバー4の開口部4cの向きを下向きにし(図3(b)参照)、処理量を49747mにした以外は、上述した実施例と同様にして被コロナ処理物10の表面をコロナ処理し、被コロナ処理物10への結晶状異物の付着の有無を、目視観察して評価した。その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1から明らかなように、電極カバー4の開口部4cの向きを斜め上向きにした実施例は、開口部4cの向きを下向きにした比較例よりも、長期にわたり安定してコロナ処理を実施できているのがわかる。
【符号の説明】
【0041】
1 コロナ処理装置
2 放電電極
3 アースロール
4 電極カバー
4a 一端面
4b 他端面
4c 開口部
4d 側面
5 電極ホルダ
6 排気管
10 被コロナ処理物
11 偏光フィルム
12 保護フィルム
13 偏光板
15a,15b コロナ処理前ガイドロール
16a,16b コロナ処理後ガイドロール
17a,17b 貼合ロール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コロナ処理装置が備える第1放電電極と第1アースロールとの間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に前記第1アースロールを介して偏光フィルムを通過させ、前記偏光フィルムの表面をコロナ処理する工程と、
第2コロナ処理装置が備える第2放電電極と第2アースロールとの間にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に前記第2アースロールを介して保護フィルムを通過させ、前記保護フィルムの表面をコロナ処理する工程と、
コロナ処理によって活性化された前記偏光フィルムの前記表面に生成するシュウ酸が第1ガイドロールに付着しないようにするために、前記偏光フィルムの前記表面と反対の裏面が前記第1ガイドロールと接触するようにコロナ処理後の前記偏光フィルムを搬送する工程と、
コロナ処理によって活性化された前記保護フィルムの前記表面に生成するシュウ酸が第2ガイドロールに付着しないようにするために、前記保護フィルムの前記表面と反対の裏面が前記第2ガイドロールと接触するようにコロナ処理後の前記保護フィルムを搬送する工程と、
コロナ処理によって活性化された前記偏光フィルムの前記表面とコロナ処理によって活性化された前記保護フィルムの前記表面とを接着剤または粘着剤を用いて貼合する工程と、を備え、
前記第1コロナ処理装置は、前記第1放電電極を覆うとともに、前記第1アースロール側に開口部を有する第1電極カバーをさらに備え、
前記第1電極カバーの開口部が斜め上向きないし上向きとなるように、前記第1コロナ処理装置を配置し、
前記第2コ口ナ処理装置は、前記第2放電電極を覆うとともに、前記第2アースロール側に開口部を有する第2電極カバーをさらに備え、
前記第2電極カバーの開口部が斜め上向きないし上向きとなるように、前記第2コロナ処理装置を配置することを特徴とするコロナ処理方法。
【請求項2】
前記第1コロナ処理装置および前記第2コロナ処理装置が、耐食性部材で構成されている請求項1記載のコロナ処理方法。
【請求項3】
前記第1コロナ処理装置の表面および前記第2コロナ処理装置の表面が、耐食処理されている請求項1または2記載のコロナ処理方法。
【請求項4】
前記第1電極カバーおよび前記第2電極カバーが、透明性部材で構成されている請求項1?3のいずれかに記載のコロナ処理方法。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記偏光フィルムの長さおよび前記保護フィルムの長さが、1万m以上である請求項1?4のいずれかに記載のコロナ処理方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-04-18 
出願番号 特願2011-21461(P2011-21461)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B01J)
P 1 651・ 113- YAA (B01J)
P 1 651・ 537- YAA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増田 健司  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 日比野 隆治
國島 明弘
登録日 2015-08-07 
登録番号 特許第5787306号(P5787306)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 コロナ処理方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 深井 敏和  
代理人 永田 元昭  
代理人 大田 英司  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 深井 敏和  

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