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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1329064
異議申立番号 異議2016-700973  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-07 
確定日 2017-05-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5903904号発明「ポリカーボネート樹脂成形体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5903904号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔5-7〕について訂正することを認める。 特許第5903904号の請求項1-7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5903904号の請求項1-7に係る特許についての出願は、平成24年 1月24日(優先権主張平成23年 1月24日)に特許出願され、平成28年 3月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人志築正治により特許異議の申立てがされ、平成28年12月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年 2月28日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人志築正治から平成29年 4月 3日に意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
本件特許の特許請求の範囲の請求項5に「前記ポリカーボネート樹脂成形体の鉛筆硬度がF以上である」とあるのを「前記ポリカーボネート樹脂成形体の前記フィルム層における鉛筆硬度がF以上である」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件特許の特許請求の範囲の請求項5における「前記ポリカーボネート樹脂成形体の鉛筆硬度がF以上である」という発明特定事項における「ポリカーボネート樹脂成形体」は、同請求項が引用する請求項1において「フィルム層」と「基体」とを含むことが規定されているため、上記発明特定事項の「鉛筆硬度」が、「フィルム層」と「基体」のいずれの「鉛筆硬度」を指すものであるのかが不明確であった。
一方、上記の訂正に関連する記載として、特許明細書の発明の詳細な説明には、段落0120において「また、上記ポリカーボネート樹脂成形体のフィルム層における、ISO15184で規定される鉛筆硬度はF以上が好ましく、H以上がより好ましく、2H以上がさらに好ましい。鉛筆硬度が低いと、該成形体表面に傷がつきやすくなる傾向にある。」と記載されている。
よって上記の訂正は、請求項5に特定された事項を上記発明の詳細な説明の記載と整合させ、「鉛筆硬度」が「フィルム層」を指すものであることを明確にするためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
そして、この訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、この訂正は一群の請求項〔5-7〕に対して請求されたものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔5-7〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7にそれぞれ記載された以下のとおりのものと認められる。
【請求項1】
少なくともポリカーボネート樹脂(a)を含有するフィルム層と、前記ポリカーボネート樹脂(a)とは異なる構造単位を有するポリカーボネート樹脂(b)を含有する基体とを含み、該フィルム層が表層にあるポリカーボネート樹脂成形体であって、以下の(i)及び(ii)の条件を満足することを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体を製造する方法において、前記ポリカーボネート樹脂(a)を含有するフィルム層を金型に設置し、次いで前記ポリカーボネート樹脂(b)を含有する基体を、射出成形する、ポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
(i)フィルム層のISO15184で規定される鉛筆硬度が、基体のISO15184で規定される鉛筆硬度より高いこと
(ii)ポリカーボネート樹脂(a)が、下記一般式(1a)で表される化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂であること


【請求項2】
前記フィルム層のガラス転移温度が100℃以上であり、かつ前記基体のガラス転移温度以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂(b)が、下記一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
【化3】

【請求項4】
前記フィルム層の厚さが1μm以上2000μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記ポリカーボネート樹脂成形体の前記フィルム層における鉛筆硬度がF以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記フィルム層を構成するポリカーボネート樹脂のフェノール性末端水酸基の濃度が5μeq/g以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
前記基体を構成するポリカーボネート樹脂のフェノール性末端水酸基の濃度が5μeq/g以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。

(2)取消理由の概要
本件訂正前の請求項1-7に係る特許に対して平成28年12月28日付けで通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。

ア 下記の甲4ないし7号証(以下、甲第1号証等を「甲1」等という。)に記載の技術常識を考慮すれば、本件発明1ないし5は、甲1ないし3のいずれかに記載された発明であると認められるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1ないし5に係る特許は、取り消されるべきものである。
イ 本件発明1ないし5は、上記アに示したとおり、甲1ないし3のいずれかに記載された発明であり、かかる発明から当業者が容易に発明し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1ないし5に係る特許は、取り消されるべきものである。
ウ 本件発明6及び7は、甲1ないし3のいずれかに記載された発明、周知技術、及び、甲8又は9に記載される技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項6及び7に係る特許は、取り消されるべきものである。
エ 請求項5ないし7の記載は、請求項5の「前記ポリカーボネート樹脂成形体の鉛筆硬度がF以上であること」なる発明特定事項における「ポリカーボネート樹脂成形体」は、同請求項が引用する請求項1において、「フィルム層」と「基体」とを含むことが規定されているため、上記発明特定事項の「鉛筆硬度」が、「フィルム層」と「基体」のいずれの「鉛筆硬度」を指すものであるかが、本件特許明細書(段落0124等)を参酌しても不明確であり、請求項5を引用する請求項6及び7についても同様である点で、不明確であるから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項5ないし7に係る特許は、取り消されるべきものである。


甲第1号証:特開2001-212868号公報
甲第2号証:特開2001-342266号公報
甲第3号証:特開2001-139705号公報
甲第4号証:特開昭64-69625号公報
甲第5号証:特開2010-188719号公報
甲第6号証:特開平7-53856号公報
甲第7号証:特開昭62-10160号公報
甲第8号証:特開2003-3059号公報
甲第9号証:特開平8-157586号公報

(3)甲号証の記載
ア 甲1の記載
甲1には、以下のとおり記載されている。

「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、インサート成形用に用いた時、ダイラインが外観上殆ど目立たないインサート成形用ポリカーボネート樹脂フィルムでかつ寸法安定性に優れたインサート成形用ポリカーボネート樹脂フィルムを提供することにある。
【0007】本発明者は、従来の技術を解決すべく鋭意検討した結果ポリカーボネート樹脂を溶融してフィルム状に押出されたシート状物をそのままの状態で挟持加圧しないで一個の冷却ロールで受ける片面タッチ方式で製造する際に、溶融押出しするTダイに着目し、該先端部分であるリップ口のエッジのRおよび表面粗さRaが特定範囲のTダイを使用し、かつ冷却時の温度及び引取による延伸で二次成形時に収縮が起こることに着目し引き取るロールの回転速度と温度をある範囲に制御して生産すれば、上記課題を達成し得ることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明はポリカーボネート樹脂フィルムのダイラインの凹凸差△Dtおよびダイラインの幅Dwが下記式(1)および下記式(2)
0.1≦△Dt≦0.5 …(1)
50≦Dw≦500 …(2)
・・・(中略)・・・
【0009】本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重縮合法または溶融法で反応させて得られるものである。二価フェノールの代表的な例としては2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[通称ビスフェノールA]、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、なかでもビスフェノールAが好ましい。これらの二価フェノールは単独または2種以上を混合して使用できる。」
「【0030】更に本発明の上記ポリカーボネート樹脂フィルムは、特にポリカーボネート樹脂をインサート成形する際に、金型内にインサートするフィルムとして使用することができる。・・・(後略)・・・」
「【0033】[実施例1?3および比較例1?3]ビスフェノールAとホスゲンから界面重合法により製造した粘度平均分子量24、500のポリカーボネート樹脂を図1、図2に示した製造装置によりスクリュー径120mmのTダイリップの付いた押出機にて温度約280℃で押出し、幅1000mmで連続的に押出し、Tダイのリップエッジの表面粗さRa、第2冷却ロールに対する第3冷却ロールの速度比、第1?第3冷却ロールのそれぞれの温度を表1記載の通りに設定して冷却させながらポリカーボネート樹脂フィルムを成形し、引取ロールにより引取り、得られたフィルムに印刷を行った。印刷後のフィルムを印刷面が金型表面側になるように射出成形金型内に装着し、ポリカーボネート樹脂ペレット(パンライトL-1225 帝人化成製)を用いて310℃の成形温度でインサート成形を行った。得られたフィルムの物性値、インサート成形後の成形品の外観を評価し、表2にその結果を示した。」

以上の記載によれば、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

甲1発明
ポリカーボネート樹脂を含有するフィルムを印刷面が金型表面側になるように射出成形金型内に装着し、ポリカーボネート樹脂ペレットを用いてインサート成形を行う、成形品を製造する方法であって、
ポリカーボネート樹脂フィルムに使用されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重縮合法または溶融法で反応させて得られるものであって、二価フェノールの代表的な例としては2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[通称ビスフェノールA]、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、なかでもビスフェノールAが好ましく、ビスフェノールAとホスゲンから界面重合法により製造したポリカーボネート樹脂を用い、
インサート成形を行うポリカーボネート樹脂ペレットには、帝人化成製のパンライトL-1225を用いる、
ポリカーボネート樹脂の成形品の製造方法。

イ 甲2号証の記載
甲2には、以下のとおり記載されている。なお、甲2の出願人及び発明者は、甲1と同一である。

「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、優れた表面特性を有するインサート成形用ポリカーボネート樹脂フィルムでかつ寸法安定性に優れたインサート成形用ポリカーボネート樹脂フィルムを提供することにある。
【0007】本発明者は、従来の技術を解決すべく鋭意検討した結果、ポリカーボネート樹脂を溶融してフィルム状に押出す際、該フィルムを形成する樹脂中の欠陥に着目し、目視では確認できないが欠点検出機で検出できる欠陥の大きさと個数をある範囲に制御することで本発明に到達した。更に、冷却時の温度及び引取による延伸で二次成形時に収縮が起こることに着目し引き取るロールの回転速度と温度をある範囲に制御して生産することで、加熱伸縮率のバランスしたフィルムを得ることを見出した。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、ポリカーボネート樹脂からなり、大きさが50?100μmの欠陥の個数が5個/10m2以下を満足するインサート成形用ポリカーボネート樹脂フィルムに係るものである。また本発明は、ポリカーボネート樹脂をインサート成形する際に金型内に、インサートするフィルムとしては前記に記載したポリカーボネート樹脂フィルムを使用するポリカーボネート樹脂のインサート成形品にも係わる。
【0009】本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重縮合法または溶融法で反応させて得られるものである。二価フェノールの代表的な例としては2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[通称ビスフェノールA]、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、なかでもビスフェノールAが好ましい。これらの二価フェノールは単独または2種以上を混合して使用できる。」
「【0032】更に本発明の上記ポリカーボネート樹脂フィルムは、特にポリカーボネート樹脂をインサート成形する際に、金型内にインサートするフィルムとして使用することができる。・・・(後略)・・・」
「【0040】[実施例1?3及び比較例1?4]ビスフェノールAとホスゲンから界面重縮合法により製造した粘度平均分子量24、500のポリカーボネート樹脂を図1に示した製造装置によりスクリュー径120mm、表1記載のスクリーンメッシュを使用したTダイリップの付いた押出機にて温度約280℃、幅1000mmで連続的に押出し冷却させながらポリカーボネート樹脂フィルムを成形し、引取ロールにより引取り表1記載、厚さのポリカーボネート樹脂フィルムを得た。得られたフィルムにハードコート処理を行い、ハードコート処理後のフィルムをハードコート面が金型表面側になるように射出成形金型内に装着し、ポリカーボネート樹脂ペレット(パンライトL-1225 帝人化成製)を用いて310℃の成形温度でインサート成形を行った。得られたフィルムの物性値、インサート成形後の成形品の外観を評価し、表2にその結果を示した。」

以上の記載によれば、甲2にも、上記アに示した甲1発明が記載されていると認められる。

ウ 甲3号証の記載
甲3には、以下のとおり記載されている。なお、甲3の出願人及び発明者も、甲1と同一である。

「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は連続生産工程によりガラス転移点近傍以上の高温に加熱しても加熱時および加熱処理後の伸縮が小さく耐熱性も兼ね備え、インサート成形用に用いた時、皺の発生、成形物の反りのない寸法安定性に優れたインサート成形用ポリカーボネート樹脂フィルムを提供することにある。
【0007】本発明者は、従来の技術を解決すべく鋭意検討した結果ポリカーボネート樹脂を溶融してフィルム状に押出し複数個の冷却ロールを使用して該フィルムを製造する際に、冷却時の温度及び引取による延伸で二次成形時に収縮が起こることに着目し、溶融ポリカーボネート樹脂を冷却ロールの第1ロールと中央の第2ロールの間に供給しながら当該2本のロールで圧延または中央の第2ロールに密着させてから他端の第3ロールの間隙を通過させてから引き取るロールの回転速度と温度をある範囲に制御すれば、上記課題を達成し得ることを見出し、更に検討を重ねた結果本発明に到達した。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、加熱温度が160℃の時の加熱伸縮率が下記式(1)?(3)
0.3≦STD/SMD≦3 …(1)
-5.0≦STD≦-0.2 …(2)
-5.0≦SMD≦-0.2 …(3)
[式中、STDは巾方向の加熱伸縮率(%)、SMDは押出方向の加熱伸縮率(%)]を満足することを特徴とする寸法安定性の優れたインサート成形用ポリカーボネート樹脂フィルムに係るものである。」
「【0015】本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重縮合法または溶融法で反応させて得られるものである。二価フェノールの代表的な例としては2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[通称ビスフェノールA]、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、なかでもビスフェノールAが好ましい。これらの二価フェノールは単独または2種以上を混合して使用できる。」
「【0023】本発明の上記ポリカーボネート樹脂フィルムは、インサート成形する際に、金型内にインサートするフィルムとして好適に使用することができる。かかるフィルムは、通常、少なくとも片面を表面加工して使用される。この表面加工としては、例えばハードコート加工、防曇加工、帯電防止加工、無反射加工、プライマー加工、印刷、スタンピング、蒸着、スパッタリング等があげられ、加工層は単一であっても複層であってもよい。蒸着、スパッタリング以外のこれらの層の厚さは一般に0.1?20μmである。片面を加工されたフィルムの場合は加工された面(両面加工の場合は所望の面)を金型表面側にし、フィルムをセッテングする。次いで熱可塑性樹脂を射出して成形する。」
「【0028】[実施例1?3及び比較例1]図1に示す装置を設けた押出機によりポリカーボネート樹脂フィルムを製造した。図中1は幅1250mmのTダイス、2,3及び4は直径300mmの第1?第3冷却ロール、5は引取ロールである。
【0029】ビスフェノールAとホスゲンから溶液法により製造した粘度平均分子量24、500のポリカーボネート樹脂を図1に示した製造装置によりスクリュー径120mmのTダイリップの付いた押出機にて温度約280℃で押出し、幅1000mmで連続的に押出し、第2冷却ロールに対する第3冷却ロールの速度比、第1?第3冷却ロールのそれぞれの温度を表1記載の通りに設定して冷却させながらポリカーボネート樹脂フィルムを成形し、引取ロールにより引取りフィルムを得た。得られたフィルムに1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンとホスゲンとを通常の界面重縮合反応させて得られたポリカーボネート樹脂(比粘度0.895、Tg175℃)30部、染料としてPlast Red 8370(有本化学工業製)15部、溶剤としてジオキサン130部を混合した印刷用インキで印刷した。この印刷フィルムを射出成形金型内に装着し、ポリカーボネート樹脂ペレット(パンライトL-1225 帝人化成製)を用いて310℃の成形温度でインサート成形し、銘板を得た。得られたフィルムの物性値、インサート成形後の成形品の外観を評価し、表1にその結果を示した。」

以上の記載によれば、甲3にも、上記アで示した甲1発明が記載されていると認められる。

(4)対比・判断
ア 上記(2)のアないしウの取消理由(特許法第29条第1項第3号、第2項)について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1が、「フィルム層のISO15184で規定される鉛筆硬度が基体のISO15184で規定される鉛筆硬度より高い」ものであるのに対し、甲1発明にはこのような特定がない点。

<相違点2>
フィルム層に用いるポリカーボネート樹脂について、本件発明1は「一般式(1a)で表される化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂」あるのに対し、甲1発明は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重縮合法または溶融法で反応させて得られるものであって、二価フェノールの代表的な例としては2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[通称ビスフェノールA]、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、なかでもビスフェノールAが好ましく、ビスフェノールAとホスゲンから界面重合法により製造したポリカーボネート樹脂である点(下線は、当審が付した。)。

まず、相違点2について検討する。
甲1発明は、フィルム層を形成するポリカーボネート樹脂(a)の「例」として、上記「一般式(1a)」の構造を有する2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンを含むものではある。
しかし、甲1発明は、上記(3)アに摘記した段落0033の実施例が用いているビスフェノールAは、「なかでもビスフェノールAが好ましく」と記載されているところ、そのようなビスフェノールAに代えて、その他の特定事項を変えることなく、「好ましい」もの以外に複数列挙された「例」の中から、「2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン」を選択することまでは、甲1には記載されていないし、示唆もされていない。
そして、本件発明1は、この相違点2に基づいて、表面硬度と耐衝撃性を改善するという格別な効果を得るものである。
そうすると、上記相違点2は実質的な相違点である。
さらに、甲1において、表面硬度と耐衝撃性の改善を図るとの記載も示唆もされていない。そうすると、甲1発明において、上記相違点2を備えるものとすることの動機に欠けるものであるから、上記相違点2は当業者にとって容易になし得たものでもない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

本件発明2ないし7は、本件発明1を直接あるいは間接に引用するものであるから本件発明1の特定事項の全てを含みさらに限定されたものである。上記に示したとおり本件発明1は甲1発明ではなく、また甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。したがって、本件発明1の特定事項の全てを含みさらに限定されたものである本件発明2ないし7についても、甲1発明ではなく、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

さらに、上記(3)のイ、ウにそれぞれ示したとおり、甲1発明は、甲2及び甲3にそれぞれ記載された発明でもあった。
したがって、本件発明1は、甲1ないし3のいずれかに記載された発明ではなく、これらの発明から当業者が容易になし得たものでもない。
本件発明2ないし7は、本件発明1を直接あるいは間接に引用するものであるから本件発明1の特定事項の全てを含みさらに限定されたものである。上記に示したとおり本件発明1は甲1ないし3のいずれかに記載された発明ではなく、また甲1ないし3のいずれかに記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。したがって、本件発明1の特定事項の全てを含みさらに限定されたものである本件発明2ないし7についても、甲1ないし3のいずれかに記載された発明ではなく、甲1ないし3のいずれかに記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 上記(2)のエの取消理由(特許法第36条第6項第2号)について
訂正により取消理由は解消した。

ウ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成29年 4月 3日付けの意見書において、甲1ないし3のそれぞれにはインサート成形用のポリカーボネート樹脂フィルムに用いるポリカーボネート樹脂として2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)が記載されていることから、本件発明1には新規性がない旨を主張する。
上記アに示したとおり、確かに甲1ないし3は、フィルム層を形成するポリカーボネート樹脂(a)の「例」として、上記「一般式(1a)」の構造を有する2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンを挙げるものではある(甲1の段落0009、甲2の段落0009、甲3の段落0015)。
しかし、甲1ないし3は、「好ましい」もの以外に複数列挙された「例」の中から、「2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン」を選択することまでを、特定するものではない。
そして、本件発明1では、このような選択を行うことによって、表面硬度と耐衝撃性を改善するという格別の効果を得るものであるから、新規性及び進歩性を有するものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1-7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1-7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリカーボネート樹脂(a)を含有するフィルム層と、前記ポリカーボネート樹脂(a)とは異なる構造単位を有するポリカーボネート樹脂(b)を含有する基体とを含み、該フィルム層が表層にあるポリカーボネート樹脂成形体であって、以下の(i)及び(ii)の条件を満足することを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体を製造する方法において、前記ポリカーボネート樹脂(a)を含有するフィルム層を金型に設置し、次いで前記ポリカーボネート樹脂(b)を含有する基体を、射出成形する、ポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
(i)フィルム層のISO15184で規定される鉛筆硬度が、基体のISO15184で規定される鉛筆硬度より高いこと
(ii)ポリカーボネート樹脂(a)が、下記一般式(1a)で表される化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂であること

【請求項2】
前記フィルム層のガラス転移温度が100℃以上であり、かつ前記基体のガラス転移温度以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂(b)が、下記一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
【化3】

【請求項4】
前記フィルム層の厚さが1μm以上2000μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記ポリカーボネート樹脂成形体の前記フィルム層における鉛筆硬度がF以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記フィルム層を構成するポリカーボネート樹脂のフェノール性末端水酸基の濃度が5μeq/g以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
前記基体を構成するポリカーボネート樹脂のフェノール性末端水酸基の濃度が5μeq/g以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-04-26 
出願番号 特願2012-12044(P2012-12044)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岸 進  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 千葉 成就
谿花 正由輝
登録日 2016-03-25 
登録番号 特許第5903904号(P5903904)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 ポリカーボネート樹脂成形体及びその製造方法  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 剛  

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