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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1329067 |
異議申立番号 | 異議2016-700344 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-04-21 |
確定日 | 2017-05-09 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5799520号発明「植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5799520号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5799520号の請求項1、2、4及び5に係る特許を維持する。 特許第5799520号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5799520号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成27年9月4日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人土田裕介及び特許異議申立人鈴木清司より特許異議の申立てがされ、平成28年9月14日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月11日に意見書が提出され、平成28年12月16日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成29年2月17日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年3月3日付けで特許異議申立人土田裕介及び特許異議申立人鈴木清司に対して本件訂正請求があった旨の通知がされ、特許異議申立人土田裕介及び特許異議申立人鈴木清司から同年4月3日に意見書が提出がされたものである。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合法にて得られた直鎖状低密度の植物由来ポリエチレン系樹脂を5?90モル%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10?95モル%」とあるのを、「サトウキビ由来のエチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合法にて得られた直鎖状低密度のサトウキビ由来のポリエチレン系樹脂を5?90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10?95重量%」と訂正する。 (2)訂正事項2 願書に添付した明細書の段落【0005】、【0012】、【0030】、【0039】及び【0056】にそれぞれ記載された「モル%」を「重量%」と訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1ないし3のいずれか1項に記載の包装材用シーラントフィルム」とあるのを、「請求項1ないし2のいずれか1項に記載の包装材用シーラントフィルム」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1 ア まず、「植物」とあるのを「サトウキビ」と訂正することについては、「植物」をその下位概念である「サトウキビ」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 次に、「モル%」とあるのを「重量%」と訂正することについては、願書に添付した明細書の段落【0058】に「重量部」と記載されるとおり、配合割合を「重量」で特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。 イ 訂正前の請求項1ないし5は、請求項1の記載を、請求項2ないし5が直接・間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1ないし5は、一群の請求項である。 したがって、訂正後の請求項1、2、4及び5は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 ウ 願書に添付した明細書の段落【0029】及び段落【0058】に、それぞれ「サトウキビ」及び「重量部」と記載されているから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 エ 特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、誤記の訂正を目的とするものであって、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 (2) 訂正事項2 ア 上記訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0005】、【0012】、【0030】、【0039】及び【0056】にそれぞれ記載された「モル%」を「重量%」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書の段落【0005】、【0012】、【0030】、【0039】及び【0056】には、訂正前の請求項1ないし5に対応する説明が記載されており、訂正前の請求項1ないし5は、上記2(1)イで記載したように、一群の請求項であるから、訂正事項2と関係する一群の請求項が訂正請求の対象とされている。 したがって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書の段落【0058】に「重量部」と記載されているから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 エ 明瞭でない記載の釈明を行うものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 (3) 訂正事項3 ア 請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 上記2(1)イに記載したように、訂正前の請求項1ないし5は、一群の請求項である。 したがって、訂正後の請求項1、2、4及び5は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 ウ 請求項3を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 エ 請求項3を削除するものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 (4) 訂正事項4 ア 上記訂正事項3に係る訂正に伴って、従属項である請求項4が引用する項番号の整合を図るために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 上記2(1)イに記載したように、訂正前の請求項1ないし5は、一群の請求項である。 したがって、訂正後の請求項1、2、4及び5は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 ウ 明瞭でない記載の釈明をするものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 エ 明瞭でない記載の釈明をするものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1ないし3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、2、4及び5について訂正を認める。 第3 本件特許発明 本件訂正請求により訂正された請求項1、2、4及び5に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、「本件特許発明4」及び「本件特許発明5」という。)は、特許請求の範囲の請求項1、2、4及び5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリエチレン系樹脂からなるフィルムであって、 サトウキビ由来のエチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合法にて得られた直鎖状低密度のサトウキビ由来のポリエチレン系樹脂を5?90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10?95重量%とを含む樹脂組成物を中間層とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成によるフィルムをヒートシール性フィルムとすることを特徴とする 包装材用シーラントフィルム。 【請求項2】 前記ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度を有するエチレン-α-オレフィン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の包装材用シーラントフィルム。 【請求項4】 請求項1ないし2のいずれか1項に記載の包装材用シーラントフィルムを、基材フィルムと積層させたことを特徴とする包装材用積層フィルム。 【請求項5】 請求項4に記載の包装材用積層フィルムを用いてなることを特徴とする包装袋。」 第4 取消理由(決定の予告)の概要 本件特許発明1、2、4及び5は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び刊行物2及び3に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。 記 刊行物1 特開平10-114037号公報(特許異議申立人土田裕介の特許異議申立書に添付された甲第1号証) 刊行物2 杉山英路ら、「地球環境に優しい『サトウキビ由来のポリエチレン』」、コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2009年8月15日、第37巻、第8号、通巻437号、第63?67頁(特許異議申立人土田裕介の特許異議申立書に添付された甲第5号証) 刊行物3 杉山英路 「新しいバイオマスプラスチックの可能性?『サトウキビ由来ポリエチレン』の製品化から?」、Polyfile、株式会社大成社、2009年12月10日、第46巻、第12号、通巻550号、第28?30頁(特許異議申立人土田裕介の特許異議申立書に添付された甲第6号証) 第5 当審の判断 1 刊行物に記載された事項及び引用発明 (1)刊行物1に記載された発明 刊行物1の【請求項1】、【0001】及び【実施例1】の記載から、刊行物1には、「ラミネートフィルムの袋」に関し、以下の発明が記載されているといえる。 「袋の表基材フィルムとして二軸延伸ポリアミドフイルムを用い、シーラントフィルムの内外層として、引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレン(宇部興産 (株)製1520F)のフィルム層を、中間層として引裂きの方向性がある樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0; 100重量部と住友化学工業 (株) 製F102-0;40重量部との混合物) を有し、ラミネートフィルムの袋に用いられるシーラントフィルム。」 (以下、「引用発明」という。) (2)刊行物2に記載された事項 ア 「CO_(2)(炭酸ガス)の増加による地球温暖化等の問題が明確になってきた。・・・ポリエチレン原料を従来の石油系原料から再生可能なサトウキビ(バイオマス系)に置き換えることは、植物の育成時のCO_(2)吸収と燃焼時の排出が同一(カーボンニュートラル)になり、地球上のCO_(2)を増やさないので地球環境にやさしく、また石油資源利用の節約にも貢献する。」(第63頁「1.はじめに」の項) イ 「サトウキビ由来ポリエチレンの製造フローを図1に示す。サトウキビ畑より刈り取ったサトウキビを圧延ローラーで糖液を取り出し、その糖液を加熱濃縮して結晶化する粗糖分(砂糖原料)と残糖液 (廃糖蜜)を遠心分離器により分離する。この廃糖蜜を適切な濃度まで水で希釈して酵母菌により発酵させエタノ-ルを作る。次にバイオエタノールを300?400℃に加熱してアルミナ等の触媒により分子内脱水反応させると高い収率でエチレンが生成される。生成物にはエチレン以外に水分、有機酸、一酸化炭素等の不純物が含まれるので必要な純度までエチレンを精製して、次の工程のポリエチレン重合プラントへ導入する。ポリエチレン重合プラントで重合触媒によりエチレンを高分子化(重合)してポリエチレンを生産する。」(第63頁「2.サトウキビ由来ポリエチレンの製造工程」の項) ウ 図1 製造フロー エ 「当社とBraskem社は共同でトリウンフォ工場内の研究開発センターで図2にある試験設備により同等性を評価した。 (1)エチレン 試験設備にバイオマス由来エタノールを導入し、出来上がったエチレンの成分分析を行った結果、従来の石油由来エチレンとの品質同等性を確認した。 (2)ポリエチレン 試験重合機に石油系エチレンとバイオマス系エチレンをそれぞれ投入し、同1条件でポリエチレン重合し、出来上がったポリマーの同等性を検討した。この結果を表1に示す。多少の数値上の差異はあるが、テスト重合機の条件設定に影響されていると考えられ、基本的にはいずれの用途グレードとも石油系、バイオマス系の品質は同等であることが確認できた。」(第63頁「3.サトウキビ由来ポリエチレンの同等性」の項) オ カ 「今回開発されたサトウキビ由来ポリエチレンは植物由来の樹脂であるが、従来から生産されてきた石油由来ポリエチレンと外観、物性が同じであり、バイオマス度(カーボンの由来比)を数値化することが重要であると考え、^(14)C(放射性炭素年代測定)による分析手法により判別を行った。図6は、Braskem社の試験プラントで試作したサトウキビ由来のHDPEを米国のベータアナリティック社においてASTMD6866^(2)) 測定法に基づいて炭素分析した結果であるが、100%バイオベースであることが確認された。」(第65頁「6.バイオマス度の判別法(^(14)Cによる分析手法)」の項) (3)刊行物3に記載された事項 キ 「サトウキビ由来ポリエチレンの商業生産は,まだ少し先のことであり、また、価格は石油系と比べて高価であるにもかかわらず,欧米・日本・韓国などのグローバル企業や業界トップ企業の関心は非常に高く,商業生産前に取引契約を進める企業が多い。日本では既に(株)資生堂が採用を公表しており,環境省が進める「エコファースト制度」の認定においても当ポリエチレンへの切り替えをコミットしている。引合い用途においては,化粧品やシャンプー等のボトル・チューブ類,レジ袋・ゴミ袋,レジカゴ,食品包装材,衛生用品,物流資材,電線被服材,人工芝・シート類,自動車部品など多種多様である。」(第28頁「2.市場の反応」の項) ク ケ 「2011年初旬より, Braskem社はトリウンフォエ場でHDPEとLLDPEを合せて年産20万トンの規模で生産する計画である。エタノールをエチレンに変換するプラントを新設して,重合機は,既存のスラリー法と気層法の設備をそれぞれ流用する。今回の生産スキームのメリットは、既存の重合機を流用することにより,生産初期トラブルを防ぐことができ,各グレード生産の立上げ,品質確保が早く実行できることがある。」(第28頁「3.生産スキーム」の項) コ 「図1にサトウキビ由来ポリエチレンの製造フローを示す。まず,サトウキビから糖液を取り出し,その糖液を加熱濃縮して結晶化する粗糖分(砂糖原料)と残糖液(廃糖蜜)を分離する。この廃糖蜜を適切な濃度まで水で希釈して酵母菌によりエタノール発酵させて,蒸留によりエタノールを得る。尚,サトウキビから糖液を絞り出す際に大量の搾りかす(バガス)が発生する。ブラジルでは,このバガスを燃料として蒸気を発生させ,砂糖・バイオエタノールに必要な熱・電気エネルギーを全て賄うことができ,また,その余剰電力がブラジルの重要な電力源となっている。このように生産されたエタノールは,Braskem社工場に運ばれ,エチレンに加工される。エタノールを300?400℃に加熱し,特別に開発されたアルミナ触媒により分子内脱水反応をさせることでエチレンが高い収率で生成する。生成物にはエチレン以外に水分,有機酸,一酸化炭素等の不純物が含まれるので必要な純度まで精製する。最後にこの精製エチレンを重合プラントにおいて触媒重合しポリエチレンを得る。」(第29頁「5.サトウキビ由来ポリエチレンの製造工程」の項) サ 図1 製造フロー シ 「バイオマス度は^(14)C(放射性炭素)の分析により測定することができる。原料となるバイオマスには,一定比率で14Cを含むのに対し,一方で石油・ガス・石炭に含まれるカーボンは,全て^(12)Cであり,その差を測定することで,バイオマス度を測定する。」(第29頁「7.バイオマス度の判別法」の項) 2 本件特許発明1について (1) 対比 本件特許発明1と引用発明とを対比すると、後者の「シーラントフィルムの内外層として、直鎖状低密度ポリエチレン(宇部興産 (株)製1520F)のフィルム層」は前者の「外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした」ことに相当する。同様に、「中間層として樹脂組成物」「を有」することは「樹脂組成物を中間層」とすることに、「ラミネートフィルムの袋に用いられるシーラントフィルム」は「包装材用シーラントフィルム」に相当する。 そして、引用発明が「ポリエチレン系樹脂からなるフィルム」であることは明らかである。 また、ラミネートフィルムには熱溶着性(ヒートシール性)が要求されるところ、引用発明は、「内外層」及び「中間層」を有する「ラミネートフィルムの袋に用いられるシーラントフィルム」であるから、引用発明が「多層構成によるフィルムをヒートシール性フィルムとする包装材用シーラントフィルム」であることも明らかである。 そして、リニアポリエチレンカタログ「SUMIKATHENE-L^(R)(合議体註:^(R)は○の中にRが記載されているものを意味する。以下、同様。)スミカセン-L^(R)」、住友化学工業株式会社、1992年3月(土田裕介の特許異議申立書に添付された甲第2号証)、高圧法ポリエチレンカタログ「SUMIKATHENE^(R)スミカセン^(R)」、住友化学工業株式会社、2001年3月(土田裕介の特許異議申立書に添付された甲第3号証)、特開平6-32946号公報(土田裕介の特許異議申立書に添付された甲第4号証、【0023】)によれば、引用発明の「FA101-0」はエチレン-ブテンー1共重合体、「F102-0」はポリエチレンであって、いずれも石油由来の原料から製造されていると認められるから、引用発明の「樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0; 100重量部と住友化学工業 (株) 製F102-0;40重量部との混合物) 」と本件特許発明1の「サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合法にて得られた直鎖状低密度のサトウキビ由来ポリエチレン系樹脂を5?90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10?95重量%とを含む樹脂組成物」は、「エチレンと石油由来α-オレフィンとの重合にて得られた直鎖状低密度のポリエチレン系樹脂を5?90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10?95重量%とを含む樹脂組成物」の限りで相当する。 以上の点からみて、本件特許発明1と引用発明とは、 [一致点] 「ポリエチレン系樹脂からなるフィルムであって、 エチレンと石油由来α-オレフィンとの重合にて得られた直鎖状低密度のポリエチレン系樹脂を5?90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10?95重量%とを含む樹脂組成物を中間層とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成によるフィルムをヒートシール性フィルムとする包装材用シーラントフィルム。」 である点で一致し、 次の点で一応相違する。 [相違点] 相違点1 エチレンと石油由来α-オレフィンとの重合の方法に関し、本件特許発明1では、「気相重合法」であるのに対して、引用発明では、特定していない点。 相違点2 エチレン及びそれと石油由来α-オレフィンとの重合にて得られた直鎖状低密度のポリエチレン系樹脂に関し、本件特許発明1では、「サトウキビ由来」のエチレンを用いた直鎖状低密度の「サトウキビ由来」のポリエチレン系樹脂であるのに対して、引用発明では、石油由来のエチレンを用いた直鎖状低密度の石油由来のポリエチレン系樹脂である点。 相違点3 引用発明では、「袋の表基材フィルムとして二軸延伸ポリアミドフイルムを用い、シーラントフィルムの内外層として、引裂きの方向性がないフィルム層」を用い、「中間層として引裂きの方向性がある樹脂組成物」を用いるのに対して、本件特許発明1では、この点について何ら特定がない点。 (2) 判断 ア 上記相違点1について検討する。 エチレンと石油由来α-オレフィンとの重合の方法として、気相重合法は周知であるから(上記摘示事項ケ参照)、気相重合法を引用発明において用いることは、当業者が容易になし得たことというべきである。 イ 上記相違点2について検討する。 (ア)本件特許発明1の課題について 上記相違点2について検討する前提として、まず、本件特許発明1の課題を確認する。 本件特許明細書の段落【0002】及び【0004】の記載から、本件特許発明1の課題は、「ポリ乳酸系樹脂に、エチレン-α-オレフィン共重合体およびエポキシ基を有する重合体をそれぞれ所定量含有させた生分解性の樹脂組成物を含む包装袋」が「石油系樹脂と比較して引裂強度やヒートシール強度などの加工適性が著しく劣り、生産性を向上させることができない」という問題を認識しつつ、「サトウキビ由来のポリエチレン系樹脂を原料に用いて」、「引裂強度やヒートシール強度など」の「加工適性に優れ」、「石油資源の節約を可能とするとともに、二酸化炭素の排出量削減による環境にやさしい包装用シーラントフィルムを提供すること」と解される。ここで、「石油資源の節約を可能とするとともに、二酸化炭素の排出量削減による環境にやさしい」との性質及び「加工適性に優れ」との性質を、以下に便宜上、それぞれ「良環境性」及び「ポリ乳酸系樹脂に比した良加工適性」という。 (合議体註:下線は、合議体が付した。以下に同じ。) 当該「ポリ乳酸系樹脂に比した良加工適性」について、本件特許明細書の段落【0012】の「ポリエチレン系樹脂からなる包装材用シーラントフィルムの構成を、全て石油由来の樹脂組成物に依存する状態から、この石油由来のポリエチレン系樹脂に、石油由来のポリエチレン系樹脂と性能的に違いがなく、カーボンニュートラルなサトウキビなど植物由来のポリエチレン系樹脂を混成(置換)することで、石油資源の使用量を削減するとともに、包装材用シーラントフィルム製造および廃棄時の二酸化炭素排出量を抑制することができる。従って、環境負荷を低減させたポリエチレン系樹脂からなる包装材用シーラントフィルムを提供することができる。」との記載から、「ポリ乳酸系樹脂に比した良加工適性」は、ポリ乳酸系樹脂に比した場合は「良加工適性」であるにとどまり、石油由来の樹脂に比すれば同等のものと理解できる。(ここで、「石油由来のポリエチレン系樹脂と性能的に違いがな」いとの性質を、以下に便宜上「石油由来のポリエチレン系樹脂との性質同等性」という。) また、本件特許明細書の段落【0033】の「植物(バイオマス)由来と石油由来の樹脂組成物は、分子量や機械的性質・熱的性質のような物性に差を生じない。そこで、これらを区別するためには、一般的にバイオマス度が用いられている。このバイオマス度では、石油由来の樹脂組成物の炭素には、^(14)C(放射性炭素14、半減期5730年 )が含まれていないことから、この^(14)Cの濃度を加速器質量分析により測定し、樹脂組成物において、植物由来樹脂組成物の含有割合の指標にするものである。従って、植物由来の樹脂組成物を用いたフィルムであれば、そのフィルムのバイオマス度を測定すると、植物由来樹脂組成物の含有量に応じたバイオマス度が生じる。」との記載及び段落【0033】の「本願発明の樹脂組成物1は、コモノマー種がブテン-1、密度が0.910?0.920g/^(cm3),メルトフローレートが0.70?1.30g/10分のエチレン-α-オレフィン共重合体であるので、石油由来のポリエチレン系樹脂と物性的に違いがないため、既存のフィルム製造工程を用いることができ、包材の加工適性を損ねることなく原料を切替えることができる。」との記載から、「サトウキビ由来」の樹脂は、「石油由来のポリエチレン系樹脂との性質同等性」があるからこそ、すなわち性質が同等だからこそ、どちらの原料に由来するのかを^(14)Cの濃度で「区別」していると解される(【請求項2】参照)。 そうすると、エチレン及びそれと石油由来α-オレフィンとの重合にて得られた直鎖状低密度のポリエチレン系樹脂に関し、エチレンを石油由来から「サトウキビ由来」にすること(以下に便宜上、単に「石油由来からサトウキビ由来にすること」という。)の前提となる課題は、「石油由来のポリエチレン系樹脂との性質同等性」を維持しつつ、「良環境性」及び「ポリ乳酸系樹脂に比した良加工適性」と解するのが相当である。 なお、石油由来のエチレンと「サトウキビ」由来のエチレンとを触媒も含めて全く同1条件で重合させてこそ、サトウキビ由来のポリエチレン系樹脂の「石油由来のポリエチレン系樹脂との性質同等性」が確保されるのであり、重合条件が異なるのであれば、重合条件に応じた樹脂が得られ、「石油由来のポリエチレン系樹脂との性質同等性」が達成されないことはいうまでもないことである。 したがって、「石油由来からサトウキビ由来にすること」によって、新たに解決された課題は、「良環境性」のみにとどまる。 (イ) 「石油由来からサトウキビ由来にすること」の容易想到性について まず、上記摘示事項イ、ウ、コ及びサによれば、サトウキビ由来の「エチレン」及び「それを用いて製造される直鎖状低密度のポリエチレン系樹脂」の製造方法(【図1】)は、本件特許の出願時点において、周知の方法であって、サトウキビ由来のエチレン及びサトウキビ由来のエチレンを重合させたポリエチレン系樹脂は、当業者に周知であったといえる。 また、上記摘示事項アによれば、地球上のCO_(2)を増やさないので地球環境にやさしく、また石油資源利用の節約にも貢献するために、当業者であれば、「良環境性」のため、ポリエチレン系樹脂の原料として石油由来のエチレンよりもサトウキビ由来のエチレンの方が有利なことが理解できる。 さらに、上記摘示事項エ、オによれば、ポリエチレン系樹脂の原料としての石油由来のエチレン及びサトウキビ由来のエチレンを用いた場合、同じ条件で重合させれば、エチレンを重合させたポリエチレン系樹脂から出来上がったフィルムの性質が同等である、すなわち「石油由来のポリエチレン系樹脂との性質同等性」があるといえる。 このように、「石油由来のポリエチレン系樹脂との性質同等性」がある上に、上記摘示事項キによれば、「良環境性」の観点から、食品包装材等のポリエチレン原料として、石油由来のエチレンからサトウキビ由来のエチレンへの切り替えが、本件特許の出願時点において、既に国を挙げて推奨されていたから、当業者であれば、食品包装材等のポリエチレン原料として、石油由来のエチレンからサトウキビ由来のエチレンへの切り替えを想起する動機づけが優に認められる。 加えて、石油由来原料からバイオマス原料(サトウキビ)への切り替えは、本件特許の出願時点において、当業者であれば、「良環境性」の観点から常に考慮されていた技術課題であるにすぎない(「バイオマス・ニッポン総合戦略」、平成18年3月31日、閣議決定、第5頁第1?3行、特開2008-56624号公報、【0002】及び【0003】、「プラスチックエージ 臨時増刊号」、株式会社プラスチックエージ、2003 Vol.49、第101?106頁)。 以上に照らせば、本件特許の出願時点において、直鎖状低密度のポリエチレン系樹脂の原料として用いるエチレンについて、石油由来のものからサトウキビ由来のものに置換することは、当業者に周知の事項(以下、「周知の事項」という。)というべきであるから、引用発明において、当該周知の事項に基づき、直鎖状低密度のポリエチレン系樹脂の原料として用いるエチレンの由来を石油由来からサトウキビ由来にし、得られた直鎖状低密度のポリエチレン系樹脂を「サトウキビ由来」と称することは、当業者が容易に推考できたことというべきである。 (ウ) 効果について 結論として、本件特許発明1による上記「良環境性」及び「石油由来のポリエチレン系樹脂との性質同等性」との効果も、引用発明及び周知の事項から当業者が予測し得たものである(上記摘示事項エ、オ参照)。 この点、本件特許明細書の段落【0054】には、「サトウキビ(植物)由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(実施例1)は、石化由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(比較例1)に比べて、引張破断強度や引裂強さが強く、腰やシール強度は同等の強度を有し、弾性率が低く柔軟であることが分かる。このように、植物由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、石化由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と比較して同等以上の物性を有し、石化由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の製造加工適性と遜色ないことが実証された。」との記載がある。 上記記載から、確かに、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、石化由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂に比較して「製造加工適性」の点で「遜色ない」とはいえる。 しかし、かかる比較をする前提として、エチレンが「サトウキビ由来」及び「石化由来」であること以外の重合条件等(例えば、エチレンの重合温度、重合触媒等)を同一として重合して製造されたポリエチレン系樹脂同志を比較する必要があり、そうでなければ、エチレンが「サトウキビ由来」及び「石化由来」の違いのみに基づく効果の適正な比較とはいえない。 しかるところ、本件特許明細書からは、「石化由来C4LL直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」(段落【0053】)が如何なる条件等で製造されたものであるか不明であり、これが「ブラスケム社C4LL-LL118」の触媒も含めた重合条件等と同一であることは読み取れない。のみならず、「植物由来のエチレンおよびポリエチレンは、石油由来のエチレンおよびポリエチレンと品質同等性が確認されている」(段落【0026】)との記載がある。 したがって、本件特許明細書の実施例1と比較例1との比較は、エチレンが「サトウキビ由来」及び「石化由来」の違いのみに基づく適正な比較とはいえないし、本件特許明細書には、他にエチレンが「サトウキビ由来」及び「石化由来」の違いのみに基づく効果の違いについての記載を見いだせないから、相違点2による本件特許発明1の効果が格別顕著であるとはいえない。 ウ 上記相違点3について検討する。 引用発明の「中間層」の樹脂組成物は、「引裂きの方向性がある」樹脂組成物である。当該「引裂きの方向性がある」とは、刊行物1の段落【0001】の「手で容易に直線的にカットできる」との記載及び同刊行物の段落【0006】の「指先によって容易に引裂くことのできる優れた開封性」との記載から、指先で加えることのできる程度の弱い力で容易に直線的にカットできること(以下、「易開封性」という。)と解されるから、引用発明の「中間層」の樹脂組成物は、「易開封性」の樹脂組成物といえる。 他方、本件特許発明1の「中間層」の樹脂組成物は、上記のように「石油由来のポリエチレン系樹脂との性質同等性」があり、また、本件特許明細書の段落【0054】の「引裂強さが強く」との記載から、引裂くためには少なくとも「易開封性」よりも強い力を必要とする耐引裂性を有すると解される。 そうすると、引裂強さの観点で、引用発明の「中間層」の樹脂組成物は、本件特許発明1の「中間層」の樹脂組成物と相反する方向性を指向するもので、引用発明において、「中間層として引裂きの方向性」がない樹脂組成物、すなわち、引裂くためには少なくとも「易開封性」よりも強い力を必要とする耐引裂性を有する樹脂組成物にする動機づけを見いだすことができない。 よって、引用発明において、上記相違点3に係る発明特定事項とすることが、引用発明及び上記周知の事項に基いて当業者が容易に推考し得たこととはいえない。 エ まとめ よって、本件特許発明1は、引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3 本件特許発明2、4及び5について 本件特許発明2、4及び5は、本件特許発明1の発明特定事項を含むものであるから、上記第4の2(2)アないしウで説示した理由と同一の理由で、引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 4 付言 (1)特許権者は、平成29年2月17日付けの意見書の第7頁で「サトウキビ由来のポリエチレン系樹脂からなる樹脂フィルムは、石油系樹脂からなる樹脂フィルムとは『異なる性質』を示し、その結果、包装材用シーラントフィルムとしての加工適性が劣る点は、本件明細書第2?5段落に記載したとおりです。」と主張する。 しかし、上記第4の2(2)イ(ア)で説示したように、サトウキビ由来のポリエチレン系樹脂からなる樹脂フィルムは、同1条件で重合させれば「石油由来のポリエチレン系樹脂との性質同等性」があり、上記主張は採用できない。 (2)また、特許権者は、上記(1)の主張の根拠として、資料1「ポリエチレン樹脂の分子量分布測定」を示し、「サトウキビ由来のLLDPEの分子量分布は、低分子量領域、及び高分子量領域になだらかな領域を有するものとなっております。」、「サトウキビ由来のLLDPEのみからなるフィルムは、低分子量成分が多いためにべたつきが生じ、ラミネート阻害を引き起こして加工適性を悪化させてしまいます。また高分子量成分が石油由来のLLDPEより多いため成膜時に押出しにくくなり加工適性や生産性が劣るものとなります。さらに剪断粘性も石油由来のLLDPEのものより劣ったものとなります。」及び「すなわち、サトウキビ由来のLLDPEと石油由来のLLDPEは、シーラントフィルム用の樹脂として異なった挙動を示すことになり、その結果、充分な加工適性や生産性を確保することが出来ません。」と主張する。 しかし、上記の根拠や主張は、本件特許明細書には何ら記載されておらず、また本件特許出願時の技術常識ともいえないから、上記主張は採用できない。 のみならず、上記資料1で3種のサトウキビ由来のLLDPEとの比較試料として、もっともらしい理由を付記しつつ「宇部丸善ポリエチレン株式会社製のUM-770FT(MFR2.0、密度が0.918)」を用いているが、本件特許発明1、2、4及び5の実施例として用いられた「ブラスケム社C4LL-LL118(d=0.916、MFR=1.0g/10分)」と上記「宇部丸善ポリエチレン株式会社製のUM-770FT」は、その製造条件が同一であるか不明であるし、MFRも密度も異なり、比較の対象としてふさわしくない。 (3)さらに、特許権者は、上記意見書の第12頁で「刊行物3の表題の『新しいバイオマスプラスチックの可能性』のとおり、一般的な包装材料としての用途が想定されているのであって、シーラント用フィルムという特殊用途への適性についてまで同等であることが理解できる記載はありません。」と主張する。 しかし、バイオマスや植物由来原料を使用した樹脂の用途として、シーラント用フィルムは、本件特許出願時周知であるから(特開2008-265115号公報(特許異議申立人土田裕介の特許異議申立書に添付された甲第7号証)の段落【0007】、特開2009-149013号公報(特許異議申立人土田裕介の特許異議申立書に添付された甲第8号証)の段落【0007】参照)、上記主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件訂正請求による訂正後の請求項1、2、4及び5に係る特許を取り消すことができない。 また、他に本件訂正請求による訂正後の請求項1、2、4及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件訂正請求による訂正後の請求項3に係る特許は、本件訂正請求による訂正により削除されたため、特許異議申立人の請求項3に係る特許についての特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋 【技術分野】 【0001】 ポリエチレン系樹脂からなるフィルムに関し、より詳細には、このポリエチレン系樹脂が、植物由来ポリエチレン系樹脂を含む包装材用シーラントフィルムおよび包装材用積層フィルム、これらのフィルムを用いた包装袋に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、例えば、シャンプーやリンスなどの詰め替えや、食品などの包材として用いられるパウチなどに代表される包装袋は、シーラントフィルムおよび基材フィルムからなる包装材料で構成されており、環境問題や石油など枯渇資源の節約に対応し、これら石油資源の包装材料への使用量低減のため、カーボンニュートラルな材料としてのポリ乳酸系樹脂に、エチレン-α-オレフィン共重合体およびエポキシ基を有する重合体をそれぞれ所定量含有させた生分解性の樹脂組成物を含む包装袋(例えば特許文献1)がある。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特開2009-155516号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかし、このような包装袋では、上述したように、包装袋を構成する樹脂組成物に石油由来原料以外の生分解性樹脂を含有させて石油由来原料の比率を下げているものの、石油系樹脂と比較して引裂強度やヒートシール強度などの加工適性が著しく劣り、生産性を向上させることができないという問題があった。 従って、この発明の目的は、再生可能資源である植物由来のポリエチレン系樹脂を原料に用いて、石油資源の節約を可能とするとともに、二酸化炭素の排出量削減による環境にやさしい包装材用シーラントフィルムおよび包装材用積層フィルム、ならびにこれらのフィルムを用いた加工適性に優れる包装袋を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0005】 このため、請求項1に記載の発明に係る包装材用シーラントフィルムは、ポリエチレン系樹脂からなるフィルムであって、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合法にて得られた直鎖状低密度の植物由来ポリエチレン系樹脂を5?90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10?95重量%とを含む樹脂組成物を中間層とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成によるフィルムをヒートシール性フィルムとすることを特徴とする。 【0006】 請求項2に記載の発明に係る包装材用シーラントフィルムは、前記ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度を有するエチレン-α-オレフィン共重合体であることを特徴とする。 【0007】 請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の包装材用シーラントフィルムにおいて、前記α-オレフィンが、ブテン-1またはヘキセン-1またはこれらの混合物、密度が0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレートが0.5?4.0g/10分の物性を有することを特徴とする。 【0009】 請求項4に記載の発明に係る包装材用積層フィルムは、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の包装材用シーラントフィルムを、基材フィルムと積層させたことを特徴とする。 【0010】 請求項5に記載の発明に係る包装袋は、請求項4に記載の包装材用積層フィルムを用いてなることを特徴とする。 【発明の効果】 【0012】 請求項1に記載の発明によれば、ポリエチレン系樹脂からなるフィルムであって、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合法にて得られた直鎖状低密度の植物由来ポリエチレン系樹脂を5?90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10?95重量%とを含む樹脂組成物を中間層とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成によるフィルムをヒートシール性フィルムとするので、ポリエチレン系樹脂からなる包装材用シーラントフィルムの構成を、全て石油由来の樹脂組成物に依存する状態から、この石油由来のポリエチレン系樹脂に、石油由来のポリエチレン系樹脂と性能的に違いがなく、カーボンニュートラルなサトウキビなど植物由来のポリエチレン系樹脂を混成(置換)することで、石油資源の使用量を削減するとともに、包装材用シーラントフィルム製造および廃棄時の二酸化炭素排出量を抑制することができる。従って、環境負荷を低減させたポリエチレン系樹脂からなる包装材用シーラントフィルムを提供することができる。さらに、包装材用シーラントフィルムを構成するポリエチレン系樹脂の石油由来の使用比率を低下させることができる。加えて、包装材用シーラントフィルムを構成する内外層に石油由来ポリエチレン系樹脂を用いることで、既存の製造工程が有する特性で包装材用シーラントフィルムを製造することができる。従って、石油資源の節約および環境負荷を低減させたポリエチレン系樹脂からなる包装材用シーラントフィルムを提供することができる。 【0013】 請求項2に記載の発明によれば、ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度を有するエチレン-α-オレフィン共重合体であるので、包装材用シーラントフィルムを構成するポリエチレン系樹脂の原料由来を、このバイオマス度を指標にして識別でき、包装材用シーラントフィルムの製造時から廃棄時まで由来原料を確認することができる。従って、原料由来の識別を可能としたポリエチレン系樹脂からなる包装材用シーラントフィルムを提供することができる。 【0014】 請求項3に記載の発明によれば、α-オレフィンが、ブテン-1またはヘキセン-1またはこれらの混合物、密度が0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレートが0.5?4.0g/10分の物性を有するので、石油由来のポリエチレン系樹脂と物性的に違いがないため、既存のフィルム製造工程を用いることができ、包材の加工適性を損ねることなく原料を切替えることができる。従って、環境負荷の低減および生産効率に優れたポリエチレン系樹脂からなる包装材用シーラントフィルムを提供することができる。 【0016】 請求項4に記載の発明によれば、植物由来ポリエチレン系樹脂を含むポリエチレン系樹脂からなる包装材用シーラントフィルム(請求項1ないし3のいずれかに記載)を、基材フィルムと積層させた包装材用積層フィルムとするので、ヒートシールに用いるシーラントフィルムにおいても、このシーラントフィルムであるフィルムを構成するポリエチレン系樹脂の石油由来の使用比率を低下させることができ、石油資源の使用量を削減するとともに、包装材用積層フィルムの製造および廃棄時の二酸化炭素排出量を抑制することができる。従って、石油資源の節約および環境負荷を低減させたポリエチレン系樹脂からなる包装材用積層フィルムを提供することができる。 【0017】 請求項5に記載の発明によれば、植物由来ポリエチレン系樹脂を含むポリエチレン系樹脂からなるフィルム(請求項1ないし3のいずれかに記載)を、基材フィルムと積層させた包装材用積層フィルム(請求項4に記載)を用いてなる包装袋であるので、包装袋を構成する包装材用積層フィルムにおけるポリエチレン系樹脂の石油由来の使用比率を低下させることができ、石油資源の使用量を削減するとともに、包装袋の製造および廃棄時の二酸化炭素排出量を抑制することができる。従って、石油資源の節約および環境負荷を低減させたポリエチレン系樹脂からなる包装袋を提供することができる。 【0018】 さらに、使い捨てとして世の中に数多く出回る包装袋を構成するポリエチレン系樹脂の石油由来の使用比率を低下させることができ、石油資源の使用量を削減するとともに、包装袋の製造および廃棄時の二酸化炭素排出量を抑制することができる。 【図面の簡単な説明】 【0019】 【図1】サトウキビ由来のポリエチレン製造の一例を示すフロー図である。 【図2】本願発明のサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなるフィルムを模式的に示す断面側面図である。 【図3】本願発明の樹脂組成物と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した単層構成のフィルムを模式的に示す断面側面図である。 【図4】本願発明の中間層を樹脂組成物とした多層構造からなるフィルムを模式的に示す断面側面図である。 【図5】本願発明の中間層を樹脂組成物および石油由来ポリエチレン系樹脂を混合した層とした多層構造からなるフィルムを模式的に示す断面側面図である。 【図6】本願発明の積層フィルムの一例を模式的に示す断面側面図である。 【図7】本願発明の積層フィルムを用いて形成した包装袋の一例としてのスタンディングパウチ を示す斜視図である。 【発明を実施するための形態】 【0020】 以下、図面を参照しつつ本発明を実施するための最良の形態について説明する。食品や化粧品などに用いられるラミネートチューブなどに例示される容器や、シャンプーやリンスの詰め替えの包材として広く採用されているスタンディングパウチなどに例示される包装袋には、これら容器や包装袋が積層フィルムで構成されている。 【0021】 この積層フィルムには、基材フィルムに、ヒートシール材として積層フィルムの内面に使用するシーラントフィルムを積層させるものがあり、基材フィルムの材質として、例えばポリエチレン系樹脂などが用いられるとともに、シーラントフィルムの材質には、積層体として例えば中間層を挟んで直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂が用いられている。 【0022】 このように、積層フィルムの材質には、プラスチック樹脂であるポリエチレン系樹脂が多く用いられているが、従来、このポリエチレン系樹脂は、出発原料を石油とする石油化学由来により製造されており、例えば、上述した直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、原油の精製などにより得られたエチレンと、コモノマー種としてのα-オレフィンとを、メタロセン触媒の存在下、気相において、120℃以上などの高温で共重合させたものである。なお、α-オレフィンは、一般式R-CH=CH_(2)(式中、Rは炭素数1以上のアルキル基)で表される、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、オクタデセンなど例示することができる。また、メタロセン触媒は特に限定しないが、例えば、シクロペンタジエニル基、置換基を有するシクロペンタジエニル基(置換シクロペンタジエニル基)、インデニル基、置換インデニル基から選ばれる1種類の基と、フルオレニル基、置換フルオレニル基から選ばれる1種類の基が、架橋基により架橋された配位子を有する周期表第4族の遷移金属化合物を挙げることができ、その代表例としてジフェニルメチレン(1-シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(3-メチル-1-シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1-シクロペンタジエニル)(2,7-ジメチル-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1-インデニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(4-フェニル-1-インデニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(4-フェニル-1-インデニル)(2,7-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド等のジクロル体および上記メタロセン化合物のジメチル体、ジエチル体、ジヒドロ体、ジフェニル体、ジベンジル体等を例示するメタロセン化合物を主成分として含むメタロセン触媒が用いられる。また、メタロセン触媒は、例えば、シクロペンタジエニル基、置換基を有するシクロペンタジエニル基(置換シクロペンタジエニル基)、インデニル基、置換インデニル基から選ばれる1種類の基と、フルオレニル基、置換フルオレニル基から選ばれる1種類の基が、架橋基により架橋された配位子を有する周期表第4族の遷移金属化合物を挙げることができ、その代表例としてジフェニルメチレン(1-シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(3-メチル-1-シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1-シクロペンタジエニル)(2,7-ジメチル-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1-インデニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(4-フェニル-1-インデニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(4-フェニル-1-インデニル)(2,7-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド等のジクロル体および上記メタロセン化合物のジメチル体、ジエチル体、ジヒドロ体、ジフェニル体、ジベンジル体などを例示するメタロセン化合物を主成分とするものである。 【0023】 しかしながら、石油など枯渇資源の節約志向とともに、二酸化炭素排出量の増加による地球温暖化など環境問題の意識が高まる中で、上述したような石油由来によるポリエチレン系樹脂では、石化製品の製造から廃棄に至るまでの間に、石油原料の持つ固定化した二酸化炭素が大量に排出されてしまうため、上記志向に沿うことができない。 【0024】 このような問題を踏まえ、近年、プラスチック類を、カーボンニュートラルで再生可能資源である植物から製造する技術の開発が進んでおり、その中でも、プラスチック類中で最も多く生産されているポリエチレンを、バイオマス系のサトウキビを出発原料として生産する技術が確立した。(加工技術研究会編、コンバーテック2009.9、P63?67)なお、カーボンニュートラルとは、植物の生育時の二酸化炭素吸収量と、燃焼時の二酸化炭素排出量とが略同一であることをいう。 【0025】 図1は、サトウキビ由来のポリエチレン製造の一例を示すフロー図、図2は本願発明のサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなるフィルムを模式的に示す断面側面図である。 【0026】 この図1に示すように、畑より刈り取ったサトウキビをから取り出した糖液を加熱濃縮して結晶化させた粗糖と廃糖密とを遠心分離機で分離する。次いで、廃糖密を適切な濃度まで水で希釈し、酵母菌により発酵させてエタノールを生成する。そして、このバイオエタノールを加熱して触媒存在下で分子内脱水反応により得られたエチレンを、重合触媒により重合させてポリエチレンが得られる。なお、植物由来のエチレンおよびポリエチレンは、石油由来のエチレンおよびポリエチレンと品質同等性が確認されている。 【0027】 そこで、本願発明のフィルムに用いる直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、上記のような出発原料を植物由来としたエチレンから生成するものであるが、この生成方法としては、石油由来のエチレンから直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を生成する場合と同じように、植物由来エチレンと、α-オレフィンとを、メタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合させることで得ることができる。 【0028】 本願発明では、上記のようにして得られた植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を用いて容器や包装袋を構成した積層フィルムを形成するフィルムを製造することにより、積層フィルムに用いられる樹脂組成物(直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂など)において、石油由来樹脂組成物の使用比率を低下させて、石油資源の節約を可能とするとともに、二酸化炭素の排出量削減による環境向上に貢献するものである。 【0029】 本願では、上記気相重合法にて得られたサトウキビ(サトウキビに限定されず、その他直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の製造原料となる植物であればよい)由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなる樹脂組成物1を用いて、図2に示すようなフィルムF1とすることができる。 【0030】 また、上記サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、石油由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と同様に、コモノマー種がブテン-1(C4)、密度が0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレート(MFR)が0.5?4.0g/10分の範囲、より好ましくは0.7?3.5g/10分とした各物性を有することができ、そのエチレン-α-オレフィン共重合体が用いられる。このようなサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなる樹脂組成物を石油由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂に対して90重量%を上限に適宜割合で含有させるものである。 【0031】 なお、上記物性評価では、密度(d、単位:g/cm^(3))として、150℃でプレス成形して得られた厚さ1mmのシートを用い、JIS K 6760(1981)に従って測定を行ったものである。また、メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)は、JIS K 7210(1995)に準じ、試験温度190℃の条件にて、試験荷重21.18Nで測定したものである。 【0032】 さらには、上記サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂には、放射性炭素年代測定^(14)Cによるバイオマス度が、80?100%を有する上記エチレン-α-オレフィン共重合体が用いられる。 【0033】 ここで、植物(バイオマス)由来と石油由来の樹脂組成物は、分子量や機械的性質・熱的性質のような物性に差を生じない。そこで、これらを区別するためには、一般的にバイオマス度が用いられている。このバイオマス度では、石油由来の樹脂組成物の炭素には、^(14)C(放射性炭素14、半減期5730年)が含まれていないことから、この^(14)Cの濃度を加速器質量分析により測定し、樹脂組成物において、植物由来樹脂組成物の含有割合の指標にするものである。従って、植物由来の樹脂組成物を用いたフィルムであれば、そのフィルムのバイオマス度を測定すると、植物由来樹脂組成物の含有量に応じたバイオマス度が生じる。 【0034】 このバイオマス度の測定は、測定対象試料を燃焼して二酸化炭素を発生させ、真空ラインで精製した二酸化炭素を、鉄を触媒として水素で還元し、グラファイトを生成させる。そして、このグラファイトをタンデム加速器をベースとした^(14)C?AMS専用装置(NEC社製)に装着して、^(14)Cの計数、^(13)Cの濃度(^(13)C/^(12)C)、^(14)Cの濃度(^(14)C/^(12)C)の測定を行い、この測定値から標準現代炭素に対する試料炭素の^(14)C濃度の割合を算出する。この測定では、米国国立標準局(NIST)から提供されたシュウ酸(HO_(X)II)を標準試料とした。 【0035】 本願ではこのような樹脂組成物からなるフィルムの構成にすることで、全て石油由来の樹脂組成物に依存する状態から、この石油由来のポリエチレン系樹脂に、石油由来のポリエチレン系樹脂と性能的に違いがないサトウキビなど植物由来のポリエチレン系樹脂を混成(置換)することで、フィルム製造および廃棄時の二酸化炭素排出量を抑制することができる。 【0036】 また、本願発明の樹脂組成物1は、コモノマー種がブテン-1、密度が0.910?0.920g/cm^(3),メルトフローレートが0.70?1.30g/10分のエチレン-α-オレフィン共重合体であるので、石油由来のポリエチレン系樹脂と物性的に違いがないため、既存のフィルム製造工程を用いることができ、包材の加工適性を損ねることなく原料を切替えることができる。 【0037】 さらに、本願発明の樹脂組成物1は、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度を有するエチレンーαーオレフィン共重合体であるので、フィルムを構成するポリエチレン系樹脂の原料由来を、このバイオマス度を指標にして識別でき、フィルムの製造時から廃棄時までの由来原料を確認することができる。 【0038】 次に、本願では、上述した樹脂組成物1と、後述する石油由来ポリエチレン系樹脂2とで、以下のようなフィルムに構成させることができる。図3は樹脂組成物と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した単層構成のフィルムを模式的に示す断面側面図、図4は中間層を樹脂組成物とした多層構造からなるフィルムを模式的に示す断面側面図、図5は中間層を樹脂組成物および石油由来ポリエチレン系樹脂を混合した層とした多層構造からなるフィルムを模式的に示す断面側面図である。 【0039】 この場合、上記樹脂組成物1を5?90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂2を10?95重量%とを、下記の(A)または(B)あるいは(C)の要領にてフィルムを構成した。まず(A)のフィルムF2として、図3に示すように、樹脂組成物1と、石油由来のポリエチレン系樹脂2とを混合した単層構成にすることができる。 【0040】 また、(B)のフィルムF3として、図4に示すように、中間層を樹脂組成物1とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂2とした多層構成にすることもできる。 【0041】 さらに、(C)のフィルムF4として、図5に示すように、中間層を樹脂組成物1と、石油由来ポリエチレン系樹脂2とを混合した層とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂2とした多層構成にすることもできる。 【0042】 このような構成にすることで、フィルムF2?F4を構成するポリエチレン系樹脂2の石油由来の使用比率を低下させることができ、フィルム製造および廃棄時の二酸化炭素排出量を抑制することができる。加えて、(B)あるいは(C)のようなフィルムF3?F4を構成する内外層に石油由来ポリエチレン系樹脂2を用いることで、既存の製造工程が有する特性でフィルムF3?F4を製造することができる。 【0043】 次に、本願では、上記フィルムF1?F4を用いた積層フィルムにすることができる。図6は、積層フィルムの一例を模式的に示す断面側面図、図7は本願発明の積層フィルムを用いて形成した包装袋の一例としてのスタンディングパウチを示す斜視図である。 【0044】 まず、積層フィルム3は、この図6に示すように、上記フィルムF1?F4のいずれかをシーラントフィルム4として、基材フィルム5と積層させる。 【0045】 なお、基材フィルム5としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂等の各種樹脂フィルムまたはシートを使用することができる。 【0046】 このような構成にすることで、ヒートシールに用いるシーラントフィルム4においても、このシーラントフィルム4である各フィルムF1?F4を構成するポリエチレン系樹脂の石油由来の使用比率を低下させることができ、石油資源の節約とともに、積層フィルム3の製造および廃棄時の二酸化炭素排出量を抑制することができる。 【0047】 以上のような積層フィルム3を用い、積層フィルム3からなる2枚の側面シートのシーラントフィルム4面同士を対向して配置し、積層フィルム3の下端部に少なくとも片面にシーラントフィルム4が積層された積層体からなる底面シートを、シーラントフィルム4面を外面にして中央で山折りして挿入し、ガセット部を有する形式に形成されており、山折りされた底面シートの両側下端近傍には、略半円形の底面シートの切り欠き部が設けられ、ガセット部が、周縁部を含む船底形の底部シール部でヒートシールされ底部が形成される。 【0048】 次いで、表裏の2枚の側面シートの両側端縁部を側端縁シール部でヒートシールして胴部が形成され、上端部を残して内容物の充填口とする、図7に示すようなスタンディングパウチ形式に製袋されたパウチ(包装袋)が形成される。そして、上端部の充填口に設けた上部シール部は、この部分から内容物を充填した後、例えば、脱気シールなどによりヒートシールして密封するものである。なお、図示しないが、胴部の上部などにレーザーにて開封用切れ目線を設けた注出口部を形成させてもよい。 【0049】 このような構成にすることで、包装袋6を構成する積層フィルム3におけるポリエチレン系樹脂の石油由来の使用比率を低下させることができ、石油資源の節約とともに、包装袋6の製造および廃棄時の二酸化炭素排出量を抑制することができる。特にこの包装袋6が、詰め替え用スタンディングパウチであるので、使い捨てとして普及するこのような包装袋を構成するポリエチレン系樹脂の石油由来の使用比率を低下させるとともに、二酸化炭素排出量を大きく抑制することができる。 【0050】 なお、本願発明の樹脂組成物1からなるフィルムF1?F4や、これらフィルムF1?F4を用いた積層フィルム3を使用して、上述したスタンディングパウチに例示される包装袋6以外にも、ポリエチレン系樹脂を用いた樹脂組成物1から構成される、例えば、飲食品・化粧品・薬品・雑貨品などの内容物を収容するラミネートチューブ、液体紙容器などを含む容器や、容器の蓋材、あるいは容器のラベルなどを構成することができ、いっそう石油由来の使用比率を低下させるとともに、二酸化炭素排出量を大きく抑制することができる。 【0051】 次に、本願発明の植物由来ポリエチレン系樹脂(樹脂組成物1)を用いて構成したフィルムの実施例を説明する。 【実施例1】 【0052】 スクリュー径30mmφ押出機を用いて、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(樹脂組成物1)であるブラスケム社C4LL-LL118(d=0.916、MFR=1.0g/10分)を200℃で溶融混練し、樹脂組成物を得た。次いで、上吹き空冷インフレーション共押出製膜機により、押出し温度200℃、回転数60rpmの加工条件において樹脂組成物を成形することで、厚み50μmの安定して外観の優れる図1に示すフィルムF1を製膜することができ、そのバイオマス度を測定すると、約88%であった。なお、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂に含まれるコモノマー種のブテン-1(C4)は石油由来のものであり、その含有量は1?15モル%(以下同様)である。 【0053】 これに対し、上記フィルムF1の比較例1として、石化由来C4LL直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を用いて、実施例1と同様にして、押出し温度200℃、回転数60rpmの加工条件で厚み50μmのフィルムに成形し、バイオマス度を測定すると、0%であった。 【0054】 実施例1の樹脂組成物について次の各物性評価試験を行い、得られた結果を以下に記す。 【表1】 上記結果から、サトウキビ(植物)由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(実施例1)は、石化由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(比較例1)に比べて、引張破断強度や引裂強さが強く、腰やシール強度は同等の強度を有し、弾性率が低く柔軟であることが分かる。このように、植物由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、石化由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と比較して同等以上の物性を有し、石化由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の製造加工適性と遜色ないことが実証された。 【0055】 なお、引張破断強度(伸び)は、JIS-Z1702を参考にテンシロン万能試験機を用い、試験速度500mm/min. N=3 JIS-K7127試験片タイプ5(ダンベル片:最小平行巾6mm、チャック間距離80mm)で行った。 弾性率(引張)は、JIS-K7176参考にテンシロン万能試験機を用い、試験速度1mm/min. 1.5mm伸びた時の強度を測定したもので、N=3 JIS-K7127試験片タイプ2参考(短冊:巾15mm、チャック間距離150mm)で行った。 腰は、ループスティフネステスターを用い、ループ長さ60mm、サンプル巾15mm、N=3、押しつぶし距離17mm(目盛り3)で行った。 シール強度は、ヒートシールテスターTP-701Sを用い、片面加熱 1kgf/cm^(2)×1.0s PET12μmを評価サンプルの上に載せてシールし、テンシロン万能試験機において試験速度300mm/min.巾15mm N=3 140℃で行った。 【実施例2】 【0056】 スクリュー径30mmφ押出機を用いて、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(樹脂組成物1)であるブラスケム社C4LL-LL118(d=0.916、MFR=1.0g/10分)を50重量%と、石油由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂2である宇部丸善ポリエチレンLDPE-F120N(d=0.920、MFR=1.2g/10分)50重量%を200℃で溶融混練し、樹脂組成物を得た。次いで、上吹き空冷インフレーション共押出製膜機により、押出し温度200℃、回転数60rpmの加工条件において樹脂組成物を厚み130μmの図3に示すフィルムF2に成形し、そのバイオマス度を測定すると、約44%であった。 【実施例3】 【0057】 第1層用および第3層用樹脂組成物として、スクリュー径30mmφ押出機を用いて、三井化学C6LL-エボリューSP2020(d=0.916、MFR=2.3g/10分)を200℃で溶融混練し、樹脂組成物を得た。同様に第2層用樹脂組成物として、スクリュー径30mmφ押出機を用いて、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であるブラスケム社C4LL-LL118(d=0.916、MFR=1.0g/10分)を200℃で溶融混練し、樹脂組成物を得た。なお、第1層:第2層:第3層の層比は1:1:1とした。次いで、二種三層の上吹き空冷インフレーション共押出製膜機により、押出し温度200℃、回転数60rpmの加工条件において樹脂組成物を厚み130μmの図4に示すフィルムF3に成形し、そのバイオマス度を測定すると、約29%であった。 【実施例4】 【0058】 第1層用および第3層用樹脂組成物として、スクリュー径30mmφ押出機を用いて、三井化学C6LL-エボリューSP2020(d=0.916、MFR=2.3g/10分)を200℃で溶融混練し、樹脂組成物を得た。同様に第2層用樹脂組成物として、スクリュー径30mmφ押出機を用いて、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であるブラスケム社C4LL-LL118(d=0.916、MFR=1.0g/10分)50重量部と、宇部丸善ポリエチレンLDPE-F120N(d=0.920、MFR=1.2g/10分)50重量部とを200℃で溶融混練し、樹脂組成物を得た。なお、第1層:第2層:第3層の層比は1:2:1とした。次いで、二種三層の上吹き空冷インフレーション共押出製膜機により、押出し温度200℃、回転数60rpmの加工条件において樹脂組成物を厚み130μmの図5に示すフィルムF4に成形し、このバイオマス度を測定すると、約22%であった。 【実施例5】 【0059】 外層に厚み25μmの、基材フィルム5としての二軸延伸ナイロンフィルム(ONy、東洋紡ハーデンN-1102)と、実施例4のフィルムF4とを用いて2液硬化型のウレタン系接着剤を使用し、ONy面に該接着剤を約4g/m^(2)塗布してポリエチレンのコロナ処理面をドライラミネーション法により貼合し、2層構成の図6に示す積層フィルム3を得、このバイオマス度を測定すると、約18%であった。 【0060】 そして、この積層フィルム3を使用し、レーザーにて開封用切れ目線を設けた注出口部付詰め替え用スタンディングパウチ(包装袋6)を作成し、この詰め替え用スタンディングパウチに内容物を入れて口部を密封したものについて、内容物の漏れ、転倒、座屈、胴部の折れを観察したが、認められなかった。さらに1mの高さから落下テストを5回行ったが、破袋、漏れなどは全く認められなかった。 【実施例6】 【0061】 外層に厚み25μmの、基材フィルム5としての二軸延伸ナイロンフィルム(ONy、東洋紡ハーデンN-1102)と、中間層に、片面にアルミニウム蒸着された厚さ12μmのVMPET(金属蒸着フィルムであり、ポリエチレンテレフタレートフィルムにアルミニウムを蒸着したもの)のアルミニウム蒸着面と積層し、さらにVMPETのポリエチレンテレフタレート面に2液硬化型のウレタン系接着剤を約4g/m^(2)塗布して、実施例4のフィルムF4のコロナ処理面とをドライラミネーション法により貼合し、3層構成の積層フィルム3を得た。そして、この積層フィルム3を使用し、レーザーにて開封用切れ目線を設けた注出口部付詰め替え用スタンディングパウチ(包装袋6)を作成し、バイオマス度を測定すると、約17%であった。 【0062】 作成した詰め替え用スタンディングパウチに内容物を入れて口部を密封したものについて、内容物の漏れ、転倒、座屈、胴部の折れを観察したが、認められなかった。さらに1mの高さから落下テストを5回行ったが、破袋、漏れ等は全く認められなかった。 【実施例7】 【0063】 上記実施例6の注出口部付詰め替え用スタンディングパウチにおける底材のみを、延伸ポリアミド(ONY)/LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)からなる石油由来フィルムを用いて作成した詰め替え用スタンディングパウチに内容物を入れて口部を密封したものについて、内容物の漏れ、転倒、座屈、胴部の折れを観察したが、認められなかった。さらに1mの高さから落下テストを5回行ったが、破袋、漏れ等は全く認められなかった。従って、本願発明のスタンディングパウチの底材には、胴部と同じ植物由来を含む積層フィルム3でも、石油由来のフィルムでもどちらを用いてもよい。 【実施例8】 【0064】 実施例1同様に、スクリュー径30mmφ押出機を用いて、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(樹脂組成物1)であるブラスケム社C4LL-LL318(d=0.918、MFR=2.7g/10分)を200℃で溶融混練し、樹脂組成物を得た。次いで、Tダイキャスト製膜機により、押出し温度220℃、回転数45rpmの加工条件において樹脂組成物を成形することで、厚み120μm(1種3層)の安定して外観の優れるフィルムを製膜することができ、そのバイオマス度を測定すると、約88%であった。 【実施例9】 【0065】 実施例1同様に、スクリュー径30mmφ押出機を用いて、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(樹脂組成物1)であるブラスケム社C4LL-LL318(d=0.918、MFR=2.7g/10分)と、三井化学C6LL-エボリューSP2020(d=0.918、MFR=3.8g/10分)とを7:3で200℃において混練溶融し、Tダイキャスト製膜機により、押出し温度220℃、回転数45rpmの加工条件において樹脂組成物を成形することで、厚み120μm(1種3層)の安定して外観の優れるフィルムを製膜することができ、そのバイオマス度を測定すると、約59%であった。 【0066】 以上詳述したように、この例のポリエチレン系樹脂からなるフィルムF1?F4は、気相重合法にて得られた直鎖状低密度の植物由来ポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物1からなるものである。また、これらフィルムF1?F4をシーラントフィルムとし、基材フィルム5と積層させた積層フィルム3とするとともに、包装袋6は、この積層フィルム3からなるものである。 【産業上の利用可能性】 【0067】 なお、この発明は、ポリエチレン系樹脂からなるフィルムおよび、このフィルムで構成された包装袋や容器など、ポリエチレン系樹脂を用いたあらゆる製品に適用することができる。 【符号の説明】 【0068】 1 樹脂組成物 2 石油由来ポリエチレン系樹脂 3 積層フィルム 4 シーラントフィルム 5 基材フィルム 6 包装袋 7,8 側面シート 9 底面シート F1?F4 フィルム (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリエチレン系樹脂からなるフィルムであって、 サトウキビ由来のエチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合法にて得られた直鎖状低密度のサトウキビ由来のポリエチレン系樹脂を5?90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10?95重量%とを含む樹脂組成物を中間層とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成によるフィルムをヒートシール性フィルムとすることを特徴とする包装材用シーラントフィルム。 【請求項2】 前記ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度を有するエチレン-α-オレフィン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の包装材用シーラントフィルム。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 請求項1ないし2のいずれか1項に記載の包装材用シーラントフィルムを、基材フィルムと積層させたことを特徴とする包装材用積層フィルム。 【請求項5】 請求項4に記載の包装材用積層フィルムを用いてなることを特徴とする包装袋。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-04-25 |
出願番号 | 特願2011-28784(P2011-28784) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C08L)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡▲崎▼ 忠、米村 耕一 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
守安 智 小柳 健悟 |
登録日 | 2015-09-04 |
登録番号 | 特許第5799520号(P5799520) |
権利者 | 大日本印刷株式会社 |
発明の名称 | 植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋 |
代理人 | 渡邊 敏 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 竹林 則幸 |
代理人 | 結田 純次 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 渡邊 敏 |
代理人 | 竹林 則幸 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 結田 純次 |