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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
管理番号 1329071
異議申立番号 異議2016-701033  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-04 
確定日 2017-05-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5920723号「アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法」の請求項1?4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5920723号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1?2〕、〔3?4〕について訂正することを認める。 特許第5920723号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5920723号の請求項1?4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年10月23日(優先権主張:平成23年11月21日)に特許出願され、平成28年4月22日に特許の設定登録がされ、その後、請求項1?4の特許に対し、特許異議申立人葛西文枝(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年1月12日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年3月6日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、これに対して申立人から平成29年4月7日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)?(20)のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1に「0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種類以上を添加したものであること」とあるのを、「0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種類以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加すること」に訂正する(当審注:下線は訂正箇所を示すために合議体が付与した。以下、同様。)。
(2)訂正事項2
請求項1に「アルミニウム-マグネシウム合金。」とあるのを、「アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法。」に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項2に「請求項1に記載の前記合金からなるアルミニウム-マグネシウム合金板であって、」とあるのを、「請求項1に記載の厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含むアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法であって、」に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項2に「アルミニウム-マグネシウム合金板。」とあるのを、「アルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法。」に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項3に「0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を添加したものであること」とあるのを、「0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加すること」に訂正する。
(6)訂正事項6
請求項3に「アルミニウム-マグネシウム合金。」とあるのを、「アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法。」に訂正する。
(7)訂正事項7
請求項4に「請求項3に記載の前記合金からなる成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金板。」とあるのを、「請求項3に記載の成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含む成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法。」に訂正する。
(8)訂正事項8
願書に添付した明細書の【発明の名称】に「アルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板」とあるのを、「アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法」に訂正する。
(9)訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0001】に「本発明は、アルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板に係り、特に、Pを不可避的不純物として含有する原料から製造されたアルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板に関する。」とあるのを、「本発明は、アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法に係り、特に、Pを不可避的不純物として含有する原料から製造するアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法に関する。」に訂正する。
(10)訂正事項10
願書に添付した明細書の段落【0012】に「その課題は、Beを添加しなくても溶湯酸化を抑制することが可能なアルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板を提供することにある。」とあるのを、「その課題は、Beを添加しなくても溶湯酸化を抑制することが可能なアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法を提供することにある。」に訂正する。
(11)訂正事項11
願書に添付した明細書の段落【0015】に「すなわち、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金(厚板用)は、・・・アルミニウム-マグネシウム合金に、0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を添加したものであることを特徴とする。」とあるのを、「すなわち、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金(厚板用)の製造方法は、・・・アルミニウム-マグネシウム合金に、0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加することを特徴とする。」に訂正する。
(12)訂正事項12
願書に添付した明細書の段落【0015】に「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金(成形加工用)は、・・・アルミニウム-マグネシウム合金に、0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を添加したものであることを特徴とする。」とあるのを、「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金(成形加工用)の製造方法は、・・・アルミニウム-マグネシウム合金に、0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加することを特徴とする。」に訂正する。
(13)訂正事項13
願書に添付した明細書の段落【0016】に「このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金は、」とあるのを、「このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法は、」に訂正する。
(14)訂正事項14
願書に添付した明細書の段落【0016】に「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金は、」とあるのを、「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法は、」に訂正する。
(15)訂正事項15
願書に添付した明細書の段落【0017】に「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)は、前記合金からなるアルミニウム-マグネシウム合金板であって、前記Mgの含有量が1.0?2.5質量%であることを特徴とする。」とあるのを、「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)の製造方法は、前記の厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含むアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法であって、前記Mgの含有量が1.0?2.5質量%であることを特徴とする。」に訂正する。
(16)訂正事項16
願書に添付した明細書の段落【0018】に「このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)は、Pを含有していても、前記合金からなることにより、Pは優先的にCr、Caと結合し、Mg-P酸化物(介在物)の発生を抑制することができる。」とあるのを、「このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)の製造方法は、Pを含有していても、前記合金からなることにより、Pは優先的にCr、Caと結合し、Mg-P酸化物(介在物)の発生を抑制することができる。」に訂正する。
(17)訂正事項17
願書に添付した明細書の段落【0020】に「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)は、Mg含有量をさらに所定値以下に規定することにより、耐食性を向上させることができる。」とあるのを、「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)の製造方法は、Mg含有量をさらに所定値以下に規定することにより、耐食性を向上させることができる。」に訂正する。
(18)訂正事項18
願書に添付した明細書の段落【0021】に「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(成形加工用)は、前記合金からなるアルミニウム-マグネシウム合金板であることを特徴とする。」とあるのを、「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(成形加工用)の製造方法は、前記の成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含むアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法であることを特徴とする。」に訂正する。
(19)訂正事項19
願書に添付した明細書の段落【0022】に「このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(成形加工用)は、Pを含有していても、前記合金からなることにより、Pは優先的にCr、Caと結合し、Mg-P酸化物(介在物)の発生を抑制することができる。」とあるのを、「このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(成形加工用)の製造方法は、Pを含有していても、前記合金からなることにより、Pは優先的にCr、Caと結合し、Mg-P酸化物(介在物)の発生を抑制することができる。」に訂正する。
(20)訂正事項20
願書に添付した明細書の段落【0023】に「本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板によれば、溶湯においてMg-P酸化物がほとんど形成されず、溶湯酸化を抑制することができる。その結果、介在物がほとんど形成しない高品質のアルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板を提供することができる。」とあるのを、「本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法によれば、溶湯においてMg-P酸化物がほとんど形成されず、溶湯酸化を抑制することができる。その結果、介在物がほとんど形成しない高品質のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法を提供することができる。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、2について
訂正事項1、2は、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている、本件訂正請求による訂正前(以下、単に「訂正前」ということがある。)の請求項1に係る発明を、物を生産する方法の発明に訂正することによって明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書の段落【0037】には、「Cr、Caは、前記合金(原材料)を鋳型に注入するまでの、どの工程において添加されてもよい。」と記載されているから、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正前の請求項1に係る発明と本件訂正請求による訂正後(以下、単に「訂正後」ということがある。)の請求項1に係る発明の課題及び課題解決手段に変更はなく、訂正後の請求項1に係る発明の実施に該当する行為は、訂正前の請求項1に係る発明の実施に該当する行為に全て含まれるため、第三者にとって不足の不利益が生じるおそれのないことに照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項3?7について
訂正事項1,2と同様の理由により、訂正事項3?7は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項8?20について
訂正事項8?20は、訂正事項1?7の訂正に伴って、特許請求の範囲と明細書の記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)そして、訂正事項1?20の訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。
(5)小括
以上によれば、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第3号を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するから、訂正後の請求項〔1?2〕、〔3?4〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立について
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1?本件発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
Mgを1.0?5.5質量%含有するとともに、Pを不可避的不純物の1つとして0.001質量%以上含有し、
Si:0.25質量%以下、Fe:0.4質量%以下、Cu:0.1質量%以下、Mn:0.5質量%以下、Zn:0.3質量%以下、Ti:0.1質量%以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金に、
0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加することを特徴とする厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含むアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法であって、
前記Mgの含有量が1.0?2.5質量%であることを特徴とする厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法。
【請求項3】
Mgを6.0?15.0質量%含有するとともに、Pを不可避的不純物の1つとして0.001質量%以上含有し、
Fe:1.0質量%以下、Si:0.5質量%以下、Ti:0.1質量%以下、B:0.05質量%以下、Mn:0.3質量%以下、Zr:0.3質量%以下、V:0.3質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Zn:1.0%質量以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金に、
0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加することを特徴とする成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含む成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?4に係る特許に対して平成29年1月12日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
訂正前の請求項1?4に係る発明は「・・・残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム-マグネシウム合金に、0.20?0.3質量%のCrおよび0.002質量%以上0.1質量%以下のCaのうち、少なくとも一種以上を添加したものである・・・アルミニウム-マグネシウム合金」という発明特定事項を有しているが、この発明特定事項は、特許異議申立書の「エ.発明の明確性について」の(ア)欄(第20頁第3行?第23頁第2行)及び(イ)欄(第23頁第3行?第24頁末行)に記載の理由により明確ではないから、訂正前の請求項1?4に係る発明は明確ではない。
したがって、訂正前の請求項1?4に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由(特許法第36条第6項第2号)について
ア 特許異議申立書の「エ.発明の明確性について」の(ア)欄(第20頁第3行?第23頁第2行)に記載の理由について
(ア)訂正前の請求項1の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
Mgを1.0?5.5質量%含有するとともに、Pを不可避的不純物の1つとして0.001質量%以上含有し、
Si:0.25質量%以下、Fe:0.4質量%以下、Cu:0.1質量%以下、Mn:0.5質量%以下、Zn:0.3質量%以下、Ti:0.1質量%以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金に、
0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を添加したものであることを特徴とする厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金。」
(イ)上記記載によれば、訂正前の請求項1に係る発明は、物の発明である一方、「Mgを1.0?5.5質量%含有するとともに・・・残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金」という記載によって、不可避的不純物も含めて原材料となる「アルミニウム-マグネシウム合金」を確定した上で、「0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を添加した」ものであるから、訂正前の請求項1の記載は、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に該当する。
(ウ)ここで、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である」(最高裁第二小法廷判決平成27年6月5日(平成24年(受)第1204号))と判示されているところ、訂正前の明細書の記載を参酌しても、訂正前の請求項1に係る発明に、かかる事情が存在する理由は見いだせないから、訂正前の請求項1の記載は、発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえない。
(エ)これに対し、訂正後の請求項1に係る発明は、上記「1 本件発明」にあるとおり、本件訂正請求による訂正によって物を生産する方法の発明となったから、上記の記載不備は解消した。
(オ)また、訂正前の請求項1を引用し、末尾の記載が「厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金板。」である訂正前の請求項2、独立形式で記載され、末尾の記載が「成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金。」である訂正前の請求項3、及び、訂正前の請求項3を引用し、末尾の記載が「成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金板。」である訂正前の請求項4についても、訂正前の請求項1と同様の理由によって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえないものの、いずれの請求項も、上記「1 本件発明」にあるとおり、本件訂正請求による訂正によって物を生産する方法の発明となったから、上記の記載不備は解消した。

イ 特許異議申立書の「エ.発明の明確性について」の(イ)欄(第23頁第3行?第24頁末行)に記載の理由について
(ア)上記ア(ア)にあるとおり、訂正前の請求項1に係る発明は、物の発明である一方、「Mgを1.0?5.5質量%含有するとともに・・・残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金」という記載によって、不可避的不純物も含めて原材料となる「アルミニウム-マグネシウム合金」を確定した上で、「0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を添加した」ものであるところ、例えば、下記(2)ア(ア)で摘記した甲1号証(以下、「甲1」ということがある。他の甲号証についても同様。)の記載cには、「合金番号」5052のアルミニウム合金の成分のうち、不可避的不純物に相当する「その他」の成分が「0.05以下(個々)、0.15以下(合計)」と記載されているとおり、アルミニウム合金においては、個々の含有量が0.05質量%以下の成分元素は不可避的不純物となり得ることが技術常識であると解されるから、添加量が「0.002?0.1質量%」であるCaについても、上記の原材料における不可避的不純物になり得るということができる。
(イ)そうすると、「厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金」という物の発明である訂正前の請求項1に係る発明において、当該合金中に含まれるCaが、上記原材料中に不可避的不純物として含まれるCaに由来するのか、又は、これとは別に「0.002?0.1質量%のCa・・・を添加した」ことに由来するのかを区別して特定することはできないから、訂正前の請求項1の記載は不明確であって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえないことになる。
(エ)これに対し、訂正後の請求項1に係る発明は、上記「1 本件発明」にあるとおり、本件訂正請求による訂正によって物を生産する方法の発明となり、Caは上記原材料中に含まれるCaに由来するものではなく、別途、上記原材料に添加したものであることが明らかとなったから、上記の記載不備は解消した。
(オ)また、訂正前の請求項1を引用し、末尾の記載が「厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金板。」である訂正前の請求項2、独立形式で記載され、末尾の記載が「成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金。」である訂正前の請求項3、及び、訂正前の請求項3を引用し、末尾の記載が「成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金板。」である訂正前の請求項4についても、訂正前の請求項1と同様の理由によって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえないものの、いずれの請求項も、上記「1 本件発明」にあるとおり、本件訂正請求による訂正によって物を生産する方法の発明となったから、上記の記載不備は解消した。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第29条第2項)について
ア 甲1号証?甲6号証の記載事項
(ア)「JISハンドブック 3 非鉄 2008」,日本規格協会,2008年1月30日,613?615頁,617?618頁,628?629頁(甲1)
甲1は、「アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条」と題する日本工業規格の「JIS H 4000(2006)」が記載された文書であり、以下の事項が記載されている。
a 「5.2 化学成分 板,合せ板(心材・皮材),条及び円板の化学成分は,表2による。」(614頁第31行)
b 「表1 種類,等級及び記号(続き)」(615頁)には、「種類」の欄の「合金番号」5052に対応する「記号」がA5052Pであり、「特性及び用途例」が記載された「参考」の欄には、「中程度の強度をもった代表的な合金で,耐食性,成形性及び溶接性がよい。船舶・車両・建築用材,飲料缶など。」と記載されている。
c 「表2 化学成分(続き)」(617頁)の第2行に、「合金番号」5052の「化学成分」が、「%(質量分率)」を単位として、Si:0.25以下、Fe:0.40以下、Cu:0.10以下、Mn:0.10以下、Mg:2.2?2.8、Cr:0.15?0.35、Zn:0.10以下、Ga,V,Ni,B,Zr等:-、Ti:-、その他:0.05以下(個々)、0.15以下(合計)、Al:残部であることが記載され、注(^(1))には、「その他の化学成分は,表中で“-”で示し成分値を規定していない化学成分も含み,存在が予知される場合又は通常の分析において,その他の既定値を超える兆候がみられる場合にだけ分析を行う。」と記載されている。
d 「5.3 機械的性質」、「5.3.1 板,条及び円板の機械的性質 板,条及び円板の機械的性質(引張強さ・耐力・伸び・曲げ)は,表3による。ただし,耐力及び曲げの適用は,次による。」(618頁第1行?第3行)
e 「表3 板・条及び円板の機械的性質(引張強さ・耐力・伸び・曲げ)(続き)」(628?629頁)の「記号」A5052P及びA5652Pの欄には、それぞれの「質別(^(2))」ごとに、「引張試験」及び「曲げ試験」の値が記載されている。

(イ)特開2000-8133号公報(甲2)
甲2には、以下の事項が記載されている。
a 「【請求項1】Mg1.7?5.0wt%、Mn0.8wt%以下、Cr0.35wt%以下、Cu0.3wt%以下、Fe0.3wt%以下、Si0.3wt%以下を含有し、不純物としてのアルカリ金属を1ppm以下に規制し、残部がAlとその他の不可避不純物からなり、耐力が210?340N/mm^(2)であることを特徴とする、耐落下強度に優れる缶蓋用アルミニウム合金焼付塗装板。」
b 「【0015】Feは通常アルミニウム地金や原料スクラップに含まれる不純物であるが、その範囲を0.3wt%以下としたのは、0.3wt%を超えると金属間化合物が増加し、耐落下強度が低下したりリベット成形性が低下してしまうためである。」
c 「【0016】Siも通常アルミニウム地金や原料スクラップに含まれる不純物であるが、その範囲を0.3wt%以下としたのは、0.3wt%を超えると金属間化合物が増加し、耐落下強度が低下したりリベット成形性が低下してしまうためである。」
d 段落【0029】の表1には、「本発明例」の「No.」が2で「合金記号」Bの「合金組成」が、Mg:2.4wt%、Mn:0.02wt%、Cr:0.24wt%、Cu:0.08wt%、Fe:0.24wt%、Si:0.26wt%、アルカリ金属:1ppm、Al及び不可避不純物:残部と記載されている。

(ウ)室町繁雄,峯岸知弘,「Al-Mg合金におよぼすCaの影響」,軽金属,Vol.10,No.6(No.45),軽金属研究会,1960年11月31日,26?28頁(甲3)
甲3には、以下の事項が記載されている。
a 「Oxidation of Mg in molten Al-Mg Alloys is prevented by the addition of 0.5?0.05% Ca. This effect is most remarkable when the Mg content in the alloy is as high as 5?10%」(26頁第6?7行)
(当審訳:Al-Mg合金の溶解中Mgの酸化は、0.5?0.05%のCaを添加することで防止される。この効果は合金中のMg含有量が5?10%である場合に最も顕著となる。)
b 「1. 緒 言
Al-Mg合金は,適度な強度を有し,しかも耐食性に富んでいるため近年その需要が著しく伸びてきた.一方本系合金は,溶解中Mgが燃焼し,酸化減少するためその防止策として少量のBeを添加する方法が一般に採用されているが,Beは高価であるばかりでなく,その燃焼ガスは有毒とされているので,これに代る酸化防止剤が要求されている。
筆者の一人は,かつてマグネシウム合金に少量のCaを添加する1)とその燃焼を防止するばかりでなく,鋳造性を改善し,更に腐食性を著しく向上させること,また一方少量のCaの添加は,アルミニウム合金中の含有ガスを低下し,添加後のガスの収集をしがたくなる2)ことを知つたので,Mgを含むアルミニウム合金にもCaの効果が期待できるものと考え,本研究を実施した次第である。」(26頁左欄第1行?第16行)
c 「Fig.3に,溶解減量におよぼすCaの影響を示した。Mg2.5%を含む合金では,Caの著しい効果は認められないが,Mg5%となるとその効果が現れ,Mg10%になると溶解減量が著しく低下し,Caの効果の著しいことが判る。」(27頁左欄第2行?第8行)
d 「以上の結果からCa0.05%程度添加すれば,Beに代り酸化防止剤としての効果のあることが判明したので」(27頁右欄最下行?28頁左欄第1行)

(エ)「JISハンドブック 3 非鉄 2015」,日本規格協会,2015年1月30日,717?726頁,737?738頁(甲4)
甲4は、その発行日が2015年1月30日であって、本件特許についての出願の優先日である平成23年11月21日、及び、出願日である平成24年10月23日の後に公知となった文献であるから、特許法第29条第2項についての判断において、これを参酌することはできない。

(オ)特開2006-249481号公報(甲5)
甲5には、以下の事項が記載されている。
a 「【請求項1】
質量%で、Mg:8%を超え14%以下、Fe:1.0%以下、Si:0.5%以下を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl-Mg系アルミニウム合金板素材を冷間圧延して、成形用アルミニウム合金板を製造するに際し、冷間圧延を複数の圧延パスで行うとともに、各冷間圧延時に前記アルミニウム板素材を冷却し、更に、前記各圧延パスの圧下率を30%以下にするとともに、前記各圧延パス間における前記アルミニウム板素材の温度を150℃以下にすることを特徴とする成形用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項2】
前記Al-Mg 系アルミニウム合金板素材が、DC鋳造による鋳塊を均熱、熱延されたか、または、双ロール式連続鋳造法により鋳造された、板厚が1?13mmのアルミニウム合金板状素材であり、この素材の平均導電率が20IACS%以上、26IACS%未満であり、平均結晶粒径が100μm以下である請求項1に記載の成形用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Mn:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、Cu:1.0%以下、Zn:1.0%以下、の一種または二種以上を含む、請求項1または2に記載の成形用アルミニウム合金板の製造方法。」
b 「【0017】
また、近年では、溶解原料として、純度の高いAl地金だけの使用ではなく、資源のリサイクルでの活用のために、Al-Mg系合金材や他のAl合金材などのスクラップを使用するなどした場合には、不純物であるFeやSiの含有量が必然的に多くなる。そして、この高MgのAl-Mg系合金板の不純物であるFeやSiの含有量が多くなるほど晶出物が増大し、冷間圧延工程での晶出物へのひずみ集中によって、クラックが発生しやすくなり、冷間圧延時の板の幅方向の両端部での割れが顕著になる。更に、冷間圧延工程におけるβ相発生の傾向は強くなり、脆くて硬いβ相へのひずみ集中によるせん断帯発生、あるいはβ相でのクラック発生によって冷間圧延時の板の幅方向の両端部での割れが顕著になる。」
c 「【0029】
この他、Mn、Cu、Cr、Zr、Zn、V、Ti、Bなども不純物元素であり・・・これらの許容量は、各々、質量%で、Mn:0.3%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、B:0.05%以下、Cu:1.0%以下、Zn:1.0%以下、である。」
d 「【0038】
・・・DC鋳造法においては、本発明範囲の成分組成を有する合金を常法に従って溶解し、鋳造する。・・・」
e 「【0041】
この双ロール式連続鋳造は・・・回転する一対の水冷銅鋳型などの双ロール間に、耐火物製の給湯ノズルから、上記成分組成のAl合金溶湯を注湯して凝固させ、かつ、この双ロール間において、上記凝固直後に圧下し、かつ急冷して、Al合金薄板とする。」
f 段落【0090】の表1には、「*含有量の記載において、-の記号は0.002%未満(検出限界以下)であることを表す。」という記載とともに、「発明例」の「略号」がIの「Al合金板状鋳塊の化学成分組成(質量%、残部Al)」が、Mg:10.5、Fe:0.25、Si:0.21、Ti:0.01、B:0.002、Mn:-、Cr:0.20、Zr:-、V:-、Cu:-、Zn:-と記載されている。

(カ)特開2012-197510号公報(甲6)
甲6は、平成29年4月7日に意見書とともに提出されたもので、本件特許についての出願の優先日である平成23年11月21日の後で、本件特許についての出願の出願日である平成24年10月23日の前に公開されており、以下の事項が記載されている。
a 「【0001】
本発明は、アルミニウム-マグネシウム合金に係り、特に、アルミニウムスクラップを含有した原料から製造された溶湯酸化抑制アルミニウム-マグネシウム合金に関する。」
b 「【0007】
また、近年の省エネルギー化・環境負荷軽減の観点から、リサイクルへの意識が高まっており、アルミニウムスクラップを含有した原料から製造されたAl-Mg合金が使用されている。したがって、このようなアルミニウムスクラップを原料として用いた場合であっても、溶湯酸化を抑制できる技術の創出が望まれている。」
c 「【0015】
・・・本発明に係る溶湯酸化抑制アルミニウム-マグネシウム合金は、他の成分と併せてMgを0.8?15質量%含有していても、Pの含有量を0.001質量%以下に規制していることから、溶湯においてMg-P酸化物がほとんど形成されず、溶湯酸化を抑制することができる。・・・」
d 「【0023】
[P低減方法]
工業的によく使用される純度99.7%以上のアルミニウム新塊や合金の製造時に添加されるMgに含まれているPは0.001質量%(10ppm)以下である。一方、市中屑や返り材などのアルミニウムスクラップには、通常、Pが0.0005?0.01質量%(5?100ppm)、またはそれ以上含有されている。
従って、前記アルミニウムスクラップの添加量が多いと必然的にP含有量が0.001質量%(10ppm)以上となる。」
e 「【0025】
従って、Al-Mg溶湯中のPの含有量を0.001質量%(10ppm)以下とするには、P含有量が少ないアルミニウム新塊や製造時に添加されるMgの使用量と、アルミニウムスクラップの使用量を調整すればよい。・・・」
f 「【0027】
[アルミニウムスクラップ]
アルミニウムスクラップとは、使用済みのアルミニウム製品であれば、限定されないが、例えば、使用済みのアルミニウム包装容器(飲料缶等)や、自動車部品アルミ鋳物、アルミ板にNi-Pメッキされたスクラップ材、Pが添加された過共晶Al-Si系合金等である。そして、これらのアルミニウムスクラップは、通常、Pを含有している。」

イ 申立人は、平成29年4月7日に提出された意見書において、リサイクル意識の高まりから、アルミニウム-マグネシウム合金の原料としてアルミニウムスクラップを用いること、及び、アルミニウムスクラップに所定量のPが含まれることが、いずれも技術常識であることを示す補強資料として甲6を提出し、訂正後の請求項1、2に係る発明は、甲1に記載された発明、及び、甲2?6に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正後の請求項3、4に係る発明は、甲5に記載された発明、及び、甲1?3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張する。
しかし、上記「ア 甲1号証?甲6号証の記載事項」にあるとおり、甲4は、これを参酌することはできず、また、甲1?3、5、6のいずれにも、訂正後の請求項1?4に係る発明における、不可避的不純物も含めて原材料となる「アルミニウム-マグネシウム合金」を確定した上で、これとは別に「0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加する」という製造工程に相当する事項は記載も示唆もされていない。
また、甲1?3、5、6には、Al-Mg合金溶湯中に所定量を超えるPが存在すると、当該PはMgと化合してP化Mgを形成し、P化Mgは、さらに大気雰囲気で酸化されて、MgとPの複合酸化物であるMg-P酸化物となるという、訂正明細書の段落【0013】に記載の溶湯酸化のメカニズム、及び、これを前提として、Cr、Caを外的に添加すると、Pが優先的にCr、Caと結合してP化Cr、P化Caを形成するため、P化Mgの発生が抑制され、最終的にMg-P酸化物の発生の抑制に繋がるという訂正明細書の段落【0016】に記載された課題解決の機序についても、何らの記載も示唆もされていない。
以上から、訂正後の請求項1?4に係る発明は、甲1?3、5、6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

第4 結論
以上によれば、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法に係り、特に、Pを不可避的不純物として含有する原料から製造するアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム溶湯は、大気に曝されると容易に酸化して多量の酸化物等の介在物を形成させる。この介在物としては、Al_(2)O_(3)、MgO、MgAl_(2)O_(4)、SiO_(2)、珪酸塩、Al・Si・O、FeO、Fe_(2)O_(3)などの酸化物の他に、炭化物(Al_(4)C_(3)、Al_(4)O_(4)C、黒鉛炭素)、ボライド(AlB_(2)、AlB_(12)、TiB_(2)、VB_(2))、Al_(3)Ti、Al_(3)Zr、CaSO_(4)、AlN及び各種のハロゲン化物がある。
【0003】
一方、アルミニウム-マグネシウム合金(以下、適宜、Al-Mg合金という)溶湯は、Mgの酸化物生成自由エネルギーがAlよりも小さいため、Mgが優先的に酸化され、MgO(マグネシア)、Al_(2)O_(3)-MgO(スピネル)を形成させると考えられている。そして、前記酸化物はAl-Mg合金溶湯(以下、適宜、溶湯という)との濡れ性が高いため、溶湯中に沈降又は浮遊する介在物として存在することとなる。
【0004】
これらの介在物が溶湯中に存在すると、最終的に非金属介在物となって、展伸材、鍛造品、ダイカスト品などの製品の品質低下を招いてしまう。
したがって、溶解炉、保持炉等による各製造段階において溶湯から介在物を分離除去するために、ガスやフラックスによる炉内溶湯処理、フィルター濾過や回転ノズル処理といったインライン処理等が行われている。
しかし、前記処理後に処理槽から溶湯を鋳造鋳型に移す工程、及び鋳造鋳型により鋳造を行う工程では、溶湯が大気に曝されるため、溶湯表面において酸化物が生成してしまう。
【0005】
そこで、Al-Mg合金におけるMgの溶湯酸化を抑制するため、一般的にBe(ベリリウム)を数ppm添加する処理が行われている。そして、この処理を行うことで、MgO、Al_(2)O_(3)-MgOの生成が抑制されることが確認されている(非特許文献1)。
【0006】
しかしながら、作業者が前記Beを微粉末やヒュームとして継続的に吸引し続けると、慢性呼吸機能障害を引き起こす原因となる恐れがある。そのため、作業者の安全や作業環境の向上のため、Beの添加を抑制する必要があった。
【0007】
また、近年の省エネルギー化・環境負荷軽減の観点から、リサイクルへの意識が高まっており、アルミニウムスクラップを含有することで所定量のPを含む原料から製造されたAl-Mg合金が使用されている。したがって、このような所定量のPを含む原料を用いた場合であっても、溶湯酸化を抑制できる技術の創出が望まれている。
【0008】
そこで、特許文献1には、Al-Mg合金において、Beを添加しなくてもMgの溶湯酸化を抑制できる方法が提案されている。詳細には、Al-Mg合金中におけるBi(ビスマス)の含有量を30ppm(0.003質量%)以下とすることによって、溶湯面におけるBiの存在を少なくしてBiによるMgに対する酸素の供給を防止するとともに、溶湯面を酸素の拡散速度の遅いAlやMgの酸化膜によって覆うことで、溶湯中におけるMgOの形成を抑制するという方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】 軽金属、No.21(1956)第68頁
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】 特開2008-260975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、工業的によく使用されるAl、Mg新塊や再生アルミニウムの原料となるアルミニウムスクラップにはそもそも不純物としてBiは含まれておらず、従来から使用されている原料により製造されたAl-Mg合金のBi含有量は30ppm(0.003質量%)以下となっていた。つまり、Al-Mg合金のBiの含有量を30ppm以下と規定したとしても、従来のAl-Mg合金とは何ら違いがなかった。
また、詳細な結果については後記するが、Al-Mg合金に含まれるBiの含有量を30ppm以下に抑制したとしても、溶湯酸化により介在物が多数形成される場合があった。
したがって、特許文献1に記載された従来技術では、溶湯酸化を十分には抑制できていないのが現状である。
【0012】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、Beを添加しなくても溶湯酸化を抑制することが可能なアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明の発明者らは、従来、Al-Mg合金溶湯では、Mgの酸化物生成自由エネルギーがAlよりも小さいため、Mgが優先的に酸化され、MgO、Al_(2)O_(3)-MgOを形成させると考えられていたことに関し、以下のような検討を行った。
すなわち、本発明の発明者らは溶湯酸化のメカニズムについて鋭意検討した結果、Al-Mg合金溶湯中のP(リン)の存在が溶湯酸化に大きな影響を与えることを見出した。
詳細には、Al-Mg合金溶湯中に所定量を超えるPが存在すると、当該PはMgと化合物(以下、適宜、P化Mgという)を形成するとともに溶湯内を浮上し、大気雰囲気にて酸化することでMgとPの複合酸化物(以下、適宜、Mg-P酸化物という)を形成させることがわかった。一方、Al-Mg合金溶湯中のPが所定量以下であると、Mg-P酸化物がほとんど形成されず、溶湯酸化を抑制できることがわかった。
また、前記Mg-P酸化物は溶湯との濡れ性が高いため、溶湯中に沈降又は浮遊する介在物として存在してしまうこともわかった。これは、MgとPの化合物が、AlとPの化合物よりも酸化物生成自由エネルギーが低く安定に溶湯中で存在し得るとともに、MgとPの化合物がAl溶湯よりも比重が小さく浮上するためである。
【0014】
なお、Al-Mg合金溶湯中のPの存在に着目し、溶湯からのP(P化合物)の除去を試みる技術は存在する。
例えば、特定温度下で溶湯を濾過してAl-P化合物を濾過する方法(特開平4-276031号公報)や、溶湯中にMgOと共に酸素を吹き込んでP酸化物或いはMg-P酸化物を生成させてこれを分離する方法(特開平7-207366号公報)が提案されている。しかし、何れもアルミニウムロスが大きく経済的でないだけでなく、濾過に時間が掛かりすぎるため実用化には適用不可能である。
また、溶湯にMg等を添加して、塩素ガス或いは塩化物を吹き込みPとMgとの化合物を浮上させて除去する方法(特許第3524519号公報)も提案されているが、当該方法もマグネシウムロスが大きく経済的でないだけでなく、塩素使用量が増加するため実用化への適用は難しい。さらに、塩素ガス或いは塩化物は、作業者が吸引してしまうと健康を害するおそれがあるため、作業者の安全や作業環境の点から考えても当該方法は望ましくない。
以上の事項に鑑み、本発明を創出した。
【0015】
すなわち、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金(厚板用)の製造方法は、Mgを1.0?5.5質量%含有するとともに、Pを不可避的不純物の1つとして0.001質量%以上含有し、Si:0.25質量%以下、Fe:0.4質量%以下、Cu:0.1質量%以下、Mn:0.5質量%以下、Zn:0.3質量%以下、Ti:0.1質量%以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金に、0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加することを特徴とする。
また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金(成形加工用)の製造方法は、Mgを6.0?15.0質量%含有するとともに、Pを不可避的不純物の1つとして0.001質量%以上含有し、Fe:1.0質量%以下、Si:0.5質量%以下、Ti:0.1質量%以下、B:0.05質量%以下、Mn:0.3質量%以下、Zr:0.3質量%以下、V:0.3質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Zn:1.0%質量以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金に、0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加することを特徴とする。
【0016】
このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法は、Pを含有していても、Cr、Caを所定量添加していることから、Pは優先的にCr、Caと結合し(P化CrまたはP化Caを形成し)、Mgと結合する割合が減少する。その結果、P化Mgの発生を抑制することができ、最終的には、Mg-P酸化物(介在物)の発生の抑制に繋がる。つまり、溶湯においてMg-P酸化物がほとんど形成されず、溶湯酸化を抑制することができる。
また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法は、Cr、Caを添加させているだけであるため、別途、濾過等の工程も必要とせず、また、アルミニウムやマグネシウムロス等の問題も存在しないことから、実用化にも適している。
【0017】
また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)の製造方法は、前記の厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含むアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法であって、前記Mgの含有量が1.0?2.5質量%であることを特徴とする。
【0018】
このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)の製造方法は、Pを含有していても、前記合金からなることにより、Pは優先的にCr、Caと結合し、Mg-P酸化物(介在物)の発生を抑制することができる。
【0020】
また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)の製造方法は、Mg含有量をさらに所定値以下に規定することにより、耐食性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(成形加工用)の製造方法は、前記の成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含むアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法であることを特徴とする。
【0022】
このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(成形加工用)の製造方法は、Pを含有していても、前記合金からなることにより、Pは優先的にCr、Caと結合し、Mg-P酸化物(介在物)の発生を抑制することができる。その結果、当該Mg-P酸化物が原因となる「ひけ巣(shrinkage cavity)」が発生したような表面欠陥の問題を回避することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法によれば、溶湯においてMg-P酸化物がほとんど形成されず、溶湯酸化を抑制することができる。その結果、介在物がほとんど形成しない高品質のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例に係るアルミニウム-マグネシウム合金板の730℃大気雰囲気で1時間保持後に冷却した凝固試料の溶湯表面の走査型電子顕微鏡による観察結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板を実施するための形態について、詳細に説明する。
【0026】
[アルミニウム-マグネシウム合金]
本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金は、所定量のMgを含有するとともに、Pを不可避的不純物の1つとして含有するアルミニウム-マグネシウム合金に、0.20質量%以上のCrおよび0.002質量%以上のCaのうち、少なくとも1種以上を添加したものであることを特徴とする。
以下に、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金に含まれる各合金成分を規定した理由について説明する。
【0027】
(Mg:0.8?15質量%)
Mgは、最終板製品或いは最終押出製品に高い強度及び耐力を付与するために必須の元素である。
Mgの含有量が0.8質量%未満では、最終板製品或いは最終押出製品を製造した場合に十分な強度及び耐力を得られない。一方、Mgの含有量が15質量%を超えると、Mgの偏析により鋳造割れが発生し、造塊が困難となるため、製品加工に適さなくなる。
したがって、Mgの含有量は0.8?15質量%とする。
【0028】
(P:不可避的不純物)
Pは、不純物元素である。
Pの含有量が所定量以上であると前記のように、Mg-P酸化物の形成が促進してしまい、最終板製品或いは最終押出製品の品質を劣化させてしまう。
詳細には、Pの含有量が、0.001質量%以上であると、Mg-P酸化物(介在物)が多数発生することにより、最終板製品或いは最終押出製品に、割れ、ひけ巣等を発生させる可能性が高い。言い換えると、Pを含有するAl-Mg合金の中でも、特に、Pの含有量が0.001質量%以上のAl-Mg合金について、Pを除去(Pを減少)する必要がある。
したがって、本発明は、Pの含有量が0.001質量%以上のAl-Mg合金に対して適用するのが好ましく、顕著な効果を発揮することとなる。
【0029】
なお、市中屑や返り材などのアルミニウムスクラップには、通常、Pが0.0005?0.01質量%(5?100ppm)、またはそれ以上含有されている。よって、Al-Mg合金に前記アルミニウムスクラップの添加量が多いと必然的にP含有量が0.001質量%(10ppm)以上となる。
したがって、本発明は、アルミニウムスクラップを使用したAl-Mg合金に対して、適用するのが好ましく、特に効果を発揮する。
なお、Pの含有量の上限値については特に限定されないが、通常、アルミニウムスクラップ(缶蓋)100%で構成されるAl-Mg合金であっても、Pの含有量は100ppmとなることから100ppm以下である。また、Pが100ppm以下であれば、本発明で対応することができる。
【0030】
(Cr:0.20質量%以上)
Crは、Al-Mg合金(溶湯)中において、Pと結合し、P化Crを形成する元素である。
CrをAl-Mg合金に0.20質量%以上添加することにより、CrがPと優先的に結合し(P化Crを形成し)、MgとPとが結合する割合を減少させ、Mg-P酸化物の発生を抑制することができる。その結果、最終板製品或いは最終押出製品の品質の劣化を防止することができる。一方、Crの添加量が0.20質量%未満であると、Mg-P酸化物の発生を十分に抑制することができない。
したがって、Crの添加量は0.20質量%以上とする。
【0031】
なお、Crの添加量の上限については、特に限定しないが、初晶として粗大な金属間化合物(Mn、Cr)Al_(7)が晶出する点を考慮すると、0.3質量%以下であることが好ましい。
【0032】
(Ca:0.002質量%以上)
Caは、Al-Mg合金(溶湯)中において、Pと結合し、P化Caを形成する元素である。
CaをAl-Mg合金に0.002質量%以上添加することにより、CaがPと優先的に結合し(P化Caを形成し)、MgとPとが結合する割合を減少させ、Mg-P酸化物の発生を抑制することができる。その結果、最終板製品或いは最終押出製品の品質の劣化を防止することができる。一方、Caの添加量が0.002質量%未満であると、前記効果を十分に発揮することができない。
したがって、Caの添加量は0.002質量%以上とする。
【0033】
なお、Caの添加量の上限については、特に限定しないが、熱間圧延時に耳割れが発生する場合があるため、0.1質量%以下であることが好ましい。
【0034】
前記添加量のCrおよびCaのうち、いずれか1種を添加することにより、Al-Mg合金は溶湯酸化の抑制という効果を発揮することができるが、前記添加量のCrおよびCaの2種を添加しても、当然、前記効果を発揮することができる。
【0035】
(アルミニウム及びマグネシウムの含有量の合計:90質量%以上)
アルミニウム及びマグネシウムの含有量の合計が90質量%以上であると、規定していない他の元素の含有量を少なくすることができる。よって、他の元素による影響を受けにくくなるため、溶湯酸化の抑制の効果を適切に発揮することができる。一方、アルミニウム及びマグネシウムの含有量の合計が90質量%未満であると、Mg以外の他の元素を多量に含有することなり、他の元素の影響も大きくなるため、溶湯酸化の抑制の効果が低減してしまう。
したがって、アルミニウム及びマグネシウムの含有量の合計は90質量%以上であることが好ましい。
【0036】
(その他の成分)
アルミニウム-マグネシウム合金は、前記成分の他、用途に応じて、Si、Fe、Cu、Mn、Zn等を含有するとともに、残部としてAlおよび不可避的不純物を含有する。なお、このようなその他の成分は、単体での含有量が5質量%を超えないことが好ましい。
【0037】
[アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法]
本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金は、所定のMgと不可避的不純物であるPを含有した合金(原材料)を、溶解して溶湯とし、その後、脱ガス処理、介在物除去処理等といった溶湯処理を施し、鋳型に注入することとなる。そして、Cr、Caは、前記合金(原材料)を鋳型に注入するまでの、どの工程において添加されてもよい。
【0038】
次に、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金からなる合金板について説明する。
[厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金板]
従来、アルミニウムスクラップを含有した原料から製造されたAl-Mg合金を厚板用板材に適用すると、所定量以上のPが存在することにより溶湯中に介在物(Mg-P酸化物)が多数発生し、最終的には、この介在物が面削工程時に脱落してしまい、表面に「ひけ巣」が発生したような表面欠陥を生じさせてしまうという問題があった。
この問題に対して、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板は、以下に示すように対処することができる。
【0039】
すなわち、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)によれば、Cr、Caが添加されていることにより、PはCr、Caと優先的に結合し、Mgと結合する割合が減少する。したがって、P化Mgの発生を抑制することができ、最終的には、Mg-P酸化物(介在物)の発生を抑制することができる。その結果、前記のような表面欠陥の問題を回避することができる。
【0040】
本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)は、Mgを1.0?5.5質量%含有するとともに、Pを不可避的不純物の1つとして含有するAl-Mg合金に、0.20質量%以上のCrおよび0.002質量%以上のCaのうち、少なくとも1種以上を添加したAl-Mg合金からなるAl-Mg合金板である。
なお、CrおよびCaの含有量の数値限定した理由は前記のとおりである。
【0041】
(Mg:1.0?5.5質量%:厚板用のAl-Mg合金板)
Mgの含有量が1.0質量%未満であると厚板の強度が不足し、Mgの含有量が5.5質量%を超えると、熱間圧延時に割れが発生し易くなるため、製品加工に適さなくなる。したがって、Mgの含有量は1.0?5.5質量%とする。
なお、Mgの含有量が2.5質量%を超えると、耐SCC(耐応力腐食割れ)性が低下する。したがって、耐食性が要求される場合に好ましいMgの含有量は1.0?2.5質量%とする。
【0042】
その他の成分については特に限定されないが、前記成分以外の成分は、JIS H4000に規定される合金番号5052や5083のような組成であればよい。例えば、Si:0.25質量%以下、Fe:0.4質量%以下、Cu:0.1質量%以下、Mn:0.5質量%以下、Zn:0.3質量%以下、Ti:0.1質量%以下、残部がAlおよび不可避的不純物から構成されていればよい。ここで、不可避的不純物としては、B、Zr、V等である。
なお、Al-Mg合金板(厚板用)を製造する際の製造方法については、特に限定されず、従来公知の方法を用いればよい。
例えば、所定の合金を溶解し、そこに前記所定量のCr、Caを添加し、DC鋳造法を用いて鋳塊(合金)を作製した後、この鋳塊に、均熱処理、粗熱延を施して、Al-Mg合金板(厚板用)とするといった方法である。なお、前記Al-Mg合金板(厚板用)は、粗熱延後に、必要に応じて、仕上げ熱間圧延を施してもよいし、更に必要に応じて、仕上げ熱間圧延後に冷間圧延を施してもよい。
【0043】
[成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金板]
従来、アルミニウムスクラップを含有した原料から製造されたAl-Mg合金を成形加工用板材(自動車パネル材)に適用すると、所定量以上のPが存在することにより溶湯中に介在物(Mg-P酸化物)が多数発生し、最終的には、この介在物がプレス加工時に脱落してしまい、表面に「ひけ巣」が発生したような表面欠陥を生じさせてしまうという問題があった。
この問題に対して、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金は、以下に示すように対処することができる。
【0044】
すなわち、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(成形加工用)によれば、Cr、Caが添加されていることにより、PはCr、Caと優先的に結合し、Mgと結合する割合が減少する。したがって、P化Mgの発生を抑制することができ、最終的には、Mg-P酸化物(介在物)の発生を抑制することができる。その結果、前記のような表面欠陥の問題を回避することができる。
【0045】
本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(成形加工用)は、Mg:6.0?15.0質量%含有するとともに、Pを不可避的不純物の1つとして含有するAl-Mg合金に、0.20質量%以上のCrおよび0.002質量%以上のCaのうち、少なくとも1種以上を添加したAl-Mg合金からなるAl-Mg合金板である。
なお、CrおよびCaの含有量の数値限定した理由は前記のとおりである。
【0046】
(Mg:6.0?15.0質量%:成形加工用のAl-Mg合金板)
Mgの含有量が6.0質量%未満であると成形加工用板材(自動車パネル材)としての強度が不足し、Mgの含有量が15.0質量%を超えると、成形性に劣り、実用に適さない。
したがって、Mgの含有量は6.0?15.0質量%とする。
【0047】
その他の成分については特に限定されないが、前記成分以外の成分は、Fe:1.0質量%以下、Si:0.5質量%以下、Ti:0.1質量%以下、B:0.05質量%以下、Mn:0.3質量%以下、Zr:0.3質量%以下、V:0.3質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Zn:1.0%質量以下の少なくとも1種以上の元素を不純物として含有する高Mg含有Al-Mg系合金から構成されることが好ましい。
なお、Al-Mg合金板(成形加工用)を製造する際の製造方法については、特に限定されず、従来公知の方法を用いればよい。
例えば、所定の合金を溶解し、そこに前記所定量のCr、Caを添加し、DC鋳造法を用いて鋳塊(合金)を作製した後、この鋳塊に、均熱処理、熱間圧延(粗圧延、仕上げ圧延)を施し、さらに、この熱間圧延板に冷間圧延を施して、Al-Mg合金板(成形加工用)とするといった方法を用いればよい。
【実施例】
【0048】
次に、アルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板について、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを比較して具体的に説明する。
[試料]
試料として、厚板用板材に適用するAl-Mg合金を想定した試料A(Mg:1.0?5.5質量%)、成形加工用板材に適用するAl-Mg合金を想定した試料B(Mg:6.0?15.0質量%)を用意した。そして、それぞれの試料に対して所定量のP、Cr、Caを添加してアルミニウム-マグネシウム合金を鋳込んだ。
【0049】
[試験方法]
所定量のP、Cr、Caを添加した後であって、前記アルミニウム-マグネシウム合金溶湯(試料)を鋳込む直前に樋から柄杓で採取した溶湯を約45mmφ×約30mm高さの鋳型に鋳込み冷却することでサンプル用の鋳片を作製し、その鋳片の鋳肌を旋盤等で切削して平滑化した表面に対しグロー放電質量分析法を用いP等の定量分析を行った。なお、厚板用板材および成形加工用板材(製品板)に対しグロー放電質量分析法を用いて定量分析を行ったが同じ値を示した。
【0050】
表1、2は、前記試験方法でグロー放電質量分析法を用いて定量分析を行った結果である。また、Bi含有量、Be含有量についても同様の方法により求めたが、全ての試料のBi含有量、Be含有量はいずれも0質量%(0ppm)であった。
【0051】
所定量のP、Cr、Caを添加した後の試料を50g溶解した後、溶解までに生成した溶湯面の酸化物を除去した。その後、730℃の大気雰囲気で1時間保持後に冷却し、溶湯面に生成した酸化物数及び平均酸化物サイズ(円相当径)を調べた。なお、酸化物数と平均酸化物サイズの測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、倍率350倍で20視野(合計2.4mm^(2))観察し、平均値を求めるという方法で行った。
【0052】
詳細な試料の組成、および試験結果を表1、2に示す。なお、表1、2において、本発明の構成を満たさないものについては、数値に下線を引いて示す。そして、走査型電子顕微鏡(SEM)観察の結果の一例を図1に示す。
また、図1の走査型電子顕微鏡(SEM)観察の結果における「SEM低倍」の結果は、350倍、「SEM高倍」の結果は、2000倍で観察した結果である。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
[結果の検討]
表1、2の結果に基づき、実施例に係る合金と比較例に係る合金との結果を比較すると、Crの添加量が本願の規定する値以上とした実施例に係る合金板は、溶湯面の酸化物数が80個/mm^(2)以下となるとともに、溶湯面の平均酸化物サイズ(μm)が10μm以下となった。また、Caの添加量が本願の規定する値以上とした実施例に係る合金板は、溶湯面の酸化物数が40個/mm^(2)以下となるとともに、溶湯面の平均酸化物サイズ(μm)が10μm以下となった。
一方、Cr、Caの添加量が本発明の規定する値未満であった比較例に係る合金板は、溶湯面の酸化物数(個/mm^(2))が80個/mm^(2)を大きく超え3倍以上となるものが多かった。そして、溶湯面の平均酸化物サイズ(μm)も、15μmのものもあったが、30μmとなるものもあった。
【0056】
なお、走査型電子顕微鏡(SEM)に付属のエネルギー分散形X線分析装置(EDX)で、酸化物の同定を行った。比較例に係る合金の溶湯面に生成した酸化物をEDXにより測定したところ、形成された酸化物の成分はMg、P、Oであり、MgとPの複合酸化物であった。また、試料底部の断面をSEMにより観察した結果、前記MgとPの複合酸化物が観察されたことから、溶湯面の酸化物は溶湯中に沈降又は浮遊する介在物として存在していることがわかった。
【0057】
図1の走査型電子顕微鏡観察の結果から、Crを0.20質量%添加したもの(実施例2-1)については、表面に存在するMg-P酸化物(介在物)の数は非常に少なく、また、サイズも比較的小さいとこがわかった。Caを0.003質量%添加したもの(実施例2-2)については、Mg-P酸化物(介在物)の存在をほとんど確認できなかった。一方、Crを0.1質量%、Caを0.001質量%添加したもの(比較例2-7)については、表面に存在するMg-P酸化物(介在物)の数は多く、サイズも比較的大きいことがわかった。
【0058】
以上より、Cr、Caを所定量以上添加することで、Beを添加しなくてもMgの溶湯酸化を抑制し、高品質なAl-Mg合金を製造することができることがわかった。
【0059】
(厚板用板材:結果)
表1に記載の合金を、溶解し、脱水素処理、ろ過を行った後、DC鋳造法を用いて厚さ500mmの鋳塊を作製した。この鋳塊に、500℃の均熱処理温度で4時間保持することにより均質化してから、熱間圧延(粗・仕上げ)して、厚さ約25mmのアルミニウム合金熱延板を作製した。このアルミニウム合金熱延板を、圧延方向長さ2000mm×幅1000mmに切断した後、圧延面(両面)に対してエンドミル加工による平滑化処理を行い、厚さ20mmのアルミニウム合金厚板(切断板)とした。さらに表面に、硫酸アルマイト処理(15%硫酸、20℃、電流密度2A/dm^(2))にて厚さ10μmのアルマイト皮膜を形成した。
【0060】
前記方法により厚板を40枚製造した。当該厚板の表面を肉眼により観察し、表面に「ひけ巣」が発生したような表面欠陥が発見されたものが1枚もない場合を、板表面外観が「良好」、1枚以上ある場合を、「ひけ巣発生」(不良)と判断した。
【0061】
表1に記載の実施例1-1?1-5と、3-1?3-3に係る合金を厚板に適用したところ、表面に「ひけ巣」が発生したような表面欠陥が発生しない良好な厚板を製造することができた。
一方、表1に記載の比較例1-6?1-7と、3-4に係る合金を厚板に適用したところ、介在物(Mg-P酸化物)が切断時または平滑化処理時に脱落してしまい、表面に「ひけ巣」が発生したような表面欠陥を生じさせてしまった。
また、このような表面欠陥は真空チャンバー用途では機能欠陥となる。真空チャンバー用途では、素材表面のままで使用されることは殆どなく、耐食性、耐候性を高めるためにアルマイト処理やメッキ処理が施される。しかし、前記表面欠陥部では十分なアルマイト皮膜が形成させず、真空装置用チャンバーの内部部材にこれらの欠陥があると、高真空に減圧した際に部材に固溶しているガス原子の表面への放出により、真空度が低下する。
そのため、目標の真空度に達するまでの時間を要し、生産効率が低下する。
【0062】
(成形加工用板材:結果)
表2に記載の合金を、溶解し、所定量のCr、Caを添加し、DC鋳造法および双ロール連続鋳造法を用いて各鋳塊厚に鋳造した。双ロール連続鋳造法の場合には各アルミ二ウム合金薄板鋳塊を表2に示す条件で均熱処理した後、熱間圧延することなしに、板厚1.0mmまで冷間圧延した。また、DC鋳造法の場合には表2に示す条件で均熱処理した後、480℃の開始温度、350℃の終了温度で板厚4mmまで圧延する熱間圧延を行い、その後、板厚1.0mmまで冷間圧延した。なお、これらの冷間圧延中の中間焼鈍は行わなかった。これら各冷延板を連続焼鈍炉で焼鈍温度450℃(1s以下)、冷却速度20℃/sの条件で最終焼鈍を行った。双ロール連続鋳造の際の、双ロール周速は70mm/min、アルミニウム合金溶湯を双ロールに注湯する際の注湯温度は液相線温度+20℃とし、双ロール表面の潤滑は行わなかった。なお、比較例2-10に係る合金はMgが15%以上であるため、Mgの偏析により鋳造割れが発生し、造塊できなかった。
【0063】
このようにして得られた、板厚1.00mmのアルミニウム合金板をパネルとしてプレス成形後にフラットヘム加工させることを模擬して、常温にて、試験片に10%のストレッチを行った後、曲げ試験を行い評価した。試験片条件は、前記アルミニウム合金板をJIS Z 2204に規定される3号試験片(幅30mm×長さ200mm)を用い、試験片長手方向が圧延方向と一致するように作製した。曲げ試験はJIS Z 2248に規定されるVブロック法により、フラットヘム加工を模擬して、先端半径0.3mm、曲げ角度60度の押金具で60度に曲げた後、更に180度に曲げた。
そして曲げ試験後の曲げ部(湾曲部)の割れの発生状況を観察し、10回(10枚)の試験で曲げ部表面に割れが無いものを○、1回でも割れがあるものを×と評価した。
【0064】
表2に記載の実施例2-1?2-6に係る合金を曲げ試験を行い曲げ加工性を評価したしたところ、良好な結果が得られた。
一方、表2に記載の比較例2-7?2-9に係る合金を曲げ試験を行い曲げ加工性を評価したしたところ、曲げ部表面に割れが発生し、割れ部には介在物(Mg-P酸化物)が観察された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgを1.0?5.5質量%含有するとともに、Pを不可避的不純物の1つとして0.001質量%以上含有し、
Si:0.25質量%以下、Fe:0.4質量%以下、Cu:0.1質量%以下、Mn:0.5質量%以下、Zn:0.3質量%以下、Ti:0.1質量%以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金に、
0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加することを特徴とする厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含むアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法であって、
前記Mgの含有量が1.0?2.5質量%であることを特徴とする厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法。
【請求項3】
Mgを6.0?15.0質量%含有するとともに、Pを不可避的不純物の1つとして0.001質量%以上含有し、
Fe:1.0質量%以下、Si:0.5質量%以下、Ti:0.1質量%以下、B:0.05質量%以下、Mn:0.3質量%以下、Zr:0.3質量%以下、V:0.3質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Zn:1.0%質量以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金に、
0.20?0.3質量%のCrおよび0.002?0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加することを特徴とする成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含む成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-04-25 
出願番号 特願2012-233540(P2012-233540)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C22C)
P 1 651・ 121- YAA (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 陶子  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 長谷山 健
河本 充雄
登録日 2016-04-22 
登録番号 特許第5920723号(P5920723)
権利者 株式会社神戸製鋼所
発明の名称 アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
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