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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1329105
異議申立番号 異議2017-700202  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-27 
確定日 2017-06-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第5987984号発明「樹脂組成物、感光性樹脂組成物、絶縁膜およびその製法ならびに電子部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5987984号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5987984号に係る出願は、平成26年5月23日(優先権主張 平成25年6月12日、特願2013-123613号)を国際出願日とする出願であって、平成28年8月19日に特許の設定登録(請求項の数 12)がされ、平成29年2月27日付け(受理日:同年3月1日)でその請求項1?12に係る特許に対し、特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明

特許第5987984号の請求項1?12に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂と、
(C)式(C-1-1)で表される化合物、式(C-2-1)で表される化合物、および式(C-3)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種のシラン化合物とを含有する樹脂組成物。
【化1】

[式(C-1-1)、(C-2-1)および(C-3)中、Xは-S-、-(S)_(n)-、-NH-C(=S)-NH-、-NH-C(=S)-S-または-NH-C(=O)-S-であり;nは2以上の整数であり;Aは、それぞれ独立に直接結合または2価の有機基であり;R^(1)は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1?10のアルコキシ基またはトリアルキルシロキシ基であり;R^(2)は、それぞれ独立に炭素数1?4のアルキル基であり;mおよびm'はそれぞれ独立に1?3の整数であり、pは1または2であり、qは0?10の整数であり、rは0?10の整数であり、ただしq+rは2?20の整数であり;R^(3)は、炭素数1?20のアルキル基、炭素数1?20のアルコキシ基、アリル基、アセトキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシル基であり、Xが-S-、-(S)_(n)-以外の基の場合は、R^(3)は、式(i)?(iii)で表される基であってもよい。]
【化2】

[式(i)?(iii)中、
L^(1)は、=CH-または窒素原子であり;
L^(2)は、=C(R^(12))-または窒素原子であり;
R^(11)?R^(21)は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1?6のアルキル基、前記アルキル基に含まれる水素原子の一部もしくは全部をフッ素原子で置換してなるフルオロアルキル基、アルコキシ基またはアミノ基であり;R^(11)とR^(12)が相互に結合して、R^(11)が結合する環炭素原子およびR^(12)が結合する環炭素原子と共に環骨格を形成してもよく、R^(12)とR^(13)が相互に結合して、R^(13)が結合する環炭素原子およびR^(12)が結合する環炭素原子と共に環骨格を形成してもよく、R^(15)とR^(16)が直接結合してこれらの置換基が結合する炭素間で二重結合を形成してもよく、R^(14)とR^(17)が相互に結合して、これらが結合する環炭素原子と共に脂肪族環または芳香族環を形成してもよく、R^(19)とR^(20)が直接結合してこれらの置換基が結合する炭素間で二重結合を形成してもよく、R^(18)とR^(21)が相互に結合して、これらが結合する環炭素原子と共に前記脂肪族環または前記芳香族環を形成してもよく;
Mは、-NH-、酸素原子または硫黄原子である。]
【請求項2】
樹脂(A)が、式(a1-1)で表される構造単位を有する重合体(A1)、およびノボラック樹脂(A2)から選ばれる少なくとも1種である請求項1の樹脂組成物。
【化3】

[式(a1-1)中、複数あるR^(1)は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ニトロ基またはシアノ基であり、ただしR^(1)のうち少なくとも1つは水酸基であり;R^(2)は、水素原子または炭素数1?4のアルキル基である。]
【請求項3】
樹脂(A)が、重合体(A1)である請求項2の樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂(A)100質量部に対して、シラン化合物(C)を0.1?20質量部の範囲で含有する請求項1?3の何れか1項の樹脂組成物。
【請求項5】
架橋剤(D)をさらに含有する請求項1?4の何れか1項の樹脂組成物。
【請求項6】
感光性酸発生剤(B)をさらに含有する請求項1?5の何れか1項の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6の樹脂組成物から得られる絶縁膜。
【請求項8】
請求項6の樹脂組成物を、金属を有する基板上に塗布して樹脂塗膜を形成する工程、前記樹脂塗膜を露光する工程、およびアルカリ性現像液により前記樹脂塗膜を現像してパターンを形成する工程を有する、パターン化絶縁膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1?5の何れか1項の樹脂組成物から得られる絶縁膜。
【請求項10】
請求項1?5の何れか1項の樹脂組成物を、金属を有する基板上に塗布して樹脂塗膜を形成する工程を有する、絶縁膜の製造方法。
【請求項11】
請求項7または9の絶縁膜を有する電子部品。
【請求項12】
基板と、
金属配線および請求項7または9の絶縁膜を含む再配線層と
を有する電子部品。」

以下、特許第5987984号の請求項1?12に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明12」という。

第3 特許異議の申立ての概要

特許異議申立人は、証拠として、
・特開2013-53371号公報(以下、「甲1」という。)
・特開2013-40409号公報(以下、「甲2」という。)
・特開2010-163633号公報(以下、「甲3」という。)
・特表2013-540166号公報(以下、「甲4」という。)
・特開2008-201873号公報(以下、「甲5」という。)
・特開2010-83956号公報(以下、「甲6」という。)
・特開2012-256023号公報(以下、「甲7」という。)
・特開2010-229210号公報(以下、「甲8」という。)
・特開2010-276631号公報(以下、「甲9」という。)
を提出し、取消理由として要旨以下のとおりの主張をしている。

1.特許法第29条第1項第3号について
本件発明1、4、5は、甲1、2又は3に記載された発明であるから、請求項1、4、5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

2.特許法第29条第2項について
(1)本件発明1、4、5は、甲1、2又は3に記載された発明及び甲4、6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、4、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

(2)本件発明2は、甲1、2又は3に記載された発明及び甲4、6に記載された事項、甲5?8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

(3)本件発明3は、甲1、2又は3に記載された発明及び甲4、6に記載された事項、甲7、8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

(4)本件発明6?12は、甲1、2又は3に記載された発明及び甲4、6に記載された事項、甲7?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

3.特許法第36条第6項第1号について
請求項1?12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

第4 甲1?9の記載及び甲1、2又は3に記載された発明

1.甲1の記載
甲1には、以下のとおりの記載がある。なお、下線は当審において付した。
(1)「【請求項1】
下記一般式(2)
【化1】

(式中、Rは加水分解性基であり、R’は炭素数1?4のアルキル基であり、Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1?6のアルキレン基であり、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、Zは-NH-、酸素原子又は硫黄原子であり、Mは-NH-、酸素原子又は硫黄原子であり、R^(4)?R^(7)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?6のアルキル基、アルコキシ基もしくはフルオロアルキル基、又はアミノ基であり、この場合R^(5)とR^(6)が直接結合して該置換基が結合する炭素間で二重結合を形成してもよく、さらにR^(4)とR^(7)でこれらが結合する炭素原子と共に脂肪族又は芳香族環骨格を形成してもよい。mは1?3の整数であり、nは0?3の整数である。)
で示される有機ケイ素化合物を必須成分とし、これを水、有機溶媒、又は水と有機溶媒の混合溶媒に溶解してなることを特徴とする金属表面処理剤。
・・・(略)・・・
【請求項7】
更に、水溶性もしくは水分散性樹脂を含むことを特徴とする請求項1?6のいずれか1項記載の金属表面処理剤。」

(2)「【0019】
ここで、上記式中、Rとしては塩素、臭素等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基が挙げられ、アルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。R’としてはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基が挙げられ、メチル基が好ましい。Aは直鎖状のものとしてはメチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられ、分岐鎖状のものとしてはメタリル基、イソプロピレン基、イソブチレン基等が挙げられ、炭素数1?3の直鎖状のアルキレン基が好ましく、プロピレン基が特に好ましい。また、R^(1)?R^(3)としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換したフルオロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、アミノ基が挙げられ、また、R^(1)とR^(2)又はR^(2)とR^(3)でこれらが結合する炭素原子と共にシクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環を形成してもよい。R^(4)?R^(7)としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換したフルオロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、アミノ基が挙げられ、R^(5)とR^(6)が直接結合してこれら置換基が結合する炭素間で二重結合を形成してもよく、さらにR^(4)とR^(7)でこれらが結合する炭素原子と共に脂肪族環骨格や芳香族環骨格を形成することができる。R^(8)?R^(11)としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換したフルオロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、アミノ基が挙げられ、R^(9)とR^(10)が直接結合してこれら置換基が結合する炭素間で二重結合を形成してもよく、さらにR^(8)とR^(11)でこれらが結合する炭素原子と共にシクロペンチル基、シクロヘキシル基等の脂肪族又は芳香族環骨格を形成することができる。mは1?3の整数であり、好ましくは2、3、特に好ましくは3である。nは0?3の整数であり、好ましくは0、1、特に好ましくは0である。」

(3)「【0042】
本発明の金属表面処理剤は、更に、水溶性もしくは水分散性樹脂を含むことが好ましい。水溶性もしくは水分散性樹脂としてはアクリル樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、エチレンアクリル共重合体、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アルキド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいし、更に共重合して使用してもよい。具体的には、例えば水溶性アクリル樹脂としては、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を主成分とした共重合体で、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が例示でき、それらの誘導体や、その他のアクリル系モノマーとの共重合体も使用可能である。特に、共重合体におけるアクリル酸及び/又はメタクリル酸モノマー割合が、70質量%以上であることが好ましい。」

(4)「【0060】
[合成例1]
・・・(略)・・・
また、NMRスペクトルにより下記化学構造式(4)に示す構造であることを確認した。NMRスペクトルデータは以下の通りであった。
【0061】
・・・(略)・・・
【0062】
【化8】



(5)「【0066】
[合成例3]
・・・(略)・・・
また、NMRスペクトルにより反応生成物は下記化学構造式(6)であることを確認した。NMRスペクトルデータは以下の通りであった。
【0067】
・・・(略)・・・
【0068】
【化10】



(6)「【0084】
[参考例1]
メタノール990g、水10gの混合溶媒に合成例1で得た高分子化合物を不揮発分として10g添加し、室温で5分間撹拌することで金属表面処理剤を得た。得られた金属表面処理剤を脱脂乾燥した市販の溶融亜鉛めっき鋼板(日本テストパネル社製;70×150×0.4mm)にバーコーターNo.20で乾燥膜厚が10μmになるように塗布し、金属表面温度105℃で10分間乾燥させた。その後V/P顔料含有のノンクロメートプライマーをバーコーターNo.16で乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、金属表面温度215℃で5分間乾燥した。更にトップコートとしてフレキコート1060(ポリエステル系上塗り塗料;日本ペイント社製)をバーコーターNo.36で乾燥膜厚が15μmとなるように塗布し、金属表面温度を230℃で乾燥させて試験板を得た。得られた試験板の折り曲げ密着性、深絞り性、耐食性を下記の評価方法に従って評価し、その結果を表1に記載した。
【0085】
[実施例1?3、参考例2?5]
合成例1で得られた化合物を合成例2?8で得られた化合物に変更した以外は、参考例1と同様にして金属表面処理剤を調製した。これらの金属表面処理剤を用いて、参考例1と同様にして試験板を作製し、これらの評価を行った。得られた結果を表1に記載した。
【0086】
[参考例6?13]
合成例1で得られた化合物、シラン系化合物の種類と濃度、有機チタン酸エステル、水分散性シリカ、ジルコニウムイオン、チオカルボニル基含有化合物、水溶性樹脂並びにリン酸イオンの濃度をそれぞれ表1に記載したように配合した以外は、参考例1と同様にして金属表面処理剤を調製した。これらの金属表面処理剤を用いて、参考例1と同様にして試験板を作製し、これらの評価を行った。得られた結果を表1に記載した。」

(7)「【0089】
なお、下記表1において、シラン系化合物、有機チタン酸エステル、水分散性シリカ、ジルコニウムイオンを形成する化合物、チオカルボニル基含有化合物、水溶性樹脂、リン酸イオンを形成する化合物として、以下の市販品を使用した。
【0090】
[シラン系化合物]
A:KBM-903(アミノプロピルトリメトキシシラン;信越化学工業社製)
B:KBM-403(グリシドキシプロピルトリメトキシシラン;信越化学工業社製)
C:下記構造式(12)で示される有機ケイ素化合物
D:下記構造式(13)で示される有機ケイ素化合物
【化16】

[有機チタン酸エステル]
チタンテトライソプロポキシド
[水分散性シリカ]
メタノールシリカゾル(日産化学工業社製)
[ジルコニウムイオンを形成する化合物]
ジルコノゾールAC-7(炭酸ジルコニルアンモニウム;第一稀元素社製)
[チオカルボニル基含有化合物]
チオ尿素
[水溶性樹脂]
ポリアクリル酸(重量平均分子量100万)
[リン酸イオンを形成する化合物]
リン酸」

(8)「【0095】
【表1】



2.甲1に記載された発明
甲1には、特に請求項7の記載から、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

「下記一般式(2)
【化1】

(式中、Rは加水分解性基であり、R’は炭素数1?4のアルキル基であり、Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1?6のアルキレン基であり、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、Zは-NH-、酸素原子又は硫黄原子であり、Mは-NH-、酸素原子又は硫黄原子であり、R^(4)?R^(7)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?6のアルキル基、アルコキシ基もしくはフルオロアルキル基、又はアミノ基であり、この場合R^(5)とR^(6)が直接結合して該置換基が結合する炭素間で二重結合を形成してもよく、さらにR^(4)とR^(7)でこれらが結合する炭素原子と共に脂肪族又は芳香族環骨格を形成してもよい。mは1?3の整数であり、nは0?3の整数である。)
で示される有機ケイ素化合物を必須成分とし、これを水、有機溶媒、又は水と有機溶媒の混合溶媒に溶解してなり、更に、水溶性もしくは水分散性樹脂を含むことを特徴とする金属表面処理剤。」

3.甲2の記載
甲2には、以下のとおりの記載がある。なお、下線は当審において付した。
(1)「【請求項1】
下記一般式(3)
【化1】

(式中、Rは加水分解性基であり、R’は炭素数1?4のアルキル基であり、Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1?6のアルキレン基であり、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、Zは-NH-、酸素原子又は硫黄原子であり、R^(8)?R^(11)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?6のアルキル基、アルコキシ基もしくはフルオロアルキル基、又はアミノ基であり、またR^(9)とR^(10)が直接結合して該置換基が結合する炭素間で二重結合を形成してもよく、さらにR^(8)とR^(11)でこれらが結合する炭素原子と共に脂肪族又は芳香族環骨格を形成してもよい。mは1?3の整数であり、nは0?3の整数である。)
で示される有機ケイ素化合物を必須成分とし、これを水、有機溶媒、又は水と有機溶媒の混合溶媒に溶解してなることを特徴とする金属表面処理剤。
・・・(略)・・・
【請求項7】
更に、水溶性もしくは水分散性樹脂を含むことを特徴とする請求項1?6のいずれか1項記載の金属表面処理剤。」

(2)「【0019】
ここで、上記式中、Rとしては塩素、臭素等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基が挙げられ、アルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。R’としてはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基が挙げられ、メチル基が好ましい。Aは直鎖状のものとしてはメチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられ、分岐鎖状のものとしてはメタリル基、イソプロピレン基、イソブチレン基等が挙げられ、炭素数1?3の直鎖状のアルキレン基が好ましく、プロピレン基が特に好ましい。また、R^(1)?R^(3)としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換したフルオロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、アミノ基が挙げられ、また、R^(1)とR^(2)又はR^(2)とR^(3)でこれらが結合する炭素原子と共にシクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環を形成してもよい。R^(4)?R^(7)としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換したフルオロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、アミノ基が挙げられ、R^(5)とR^(6)が直接結合してこれら置換基が結合する炭素間で二重結合を形成してもよく、さらにR^(4)とR^(7)でこれらが結合する炭素原子と共に脂肪族環骨格や芳香族環骨格を形成することができる。R^(8)?R^(11)としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換したフルオロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、アミノ基が挙げられ、R^(9)とR^(10)が直接結合してこれら置換基が結合する炭素間で二重結合を形成してもよく、さらにR^(8)とR^(11)でこれらが結合する炭素原子と共にシクロペンチル基、シクロヘキシル基等の脂肪族又は芳香族環骨格を形成することができる。mは1?3の整数であり、好ましくは2、3、特に好ましくは3である。nは0?3の整数であり、好ましくは0、1、特に好ましくは0である。」

(3)「【0042】
本発明の金属表面処理剤は、更に、水溶性もしくは水分散性樹脂を含むことが好ましい。水溶性もしくは水分散性樹脂としてはアクリル樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、エチレンアクリル共重合体、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アルキド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいし、更に共重合して使用してもよい。具体的には、例えば水溶性アクリル樹脂としては、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を主成分とした共重合体で、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が例示でき、それらの誘導体や、その他のアクリル系モノマーとの共重合体も使用可能である。特に、共重合体におけるアクリル酸及び/又はメタクリル酸モノマー割合が、70質量%以上であることが好ましい。」

4.甲2に記載された発明
甲2には、特に請求項7の記載から、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

「下記一般式(3)
【化1】

(式中、Rは加水分解性基であり、R’は炭素数1?4のアルキル基であり、Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1?6のアルキレン基であり、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、Zは-NH-、酸素原子又は硫黄原子であり、R^(8)?R^(11)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?6のアルキル基、アルコキシ基もしくはフルオロアルキル基、又はアミノ基であり、またR^(9)とR^(10)が直接結合して該置換基が結合する炭素間で二重結合を形成してもよく、さらにR^(8)とR^(11)でこれらが結合する炭素原子と共に脂肪族又は芳香族環骨格を形成してもよい。mは1?3の整数であり、nは0?3の整数である。)
で示される有機ケイ素化合物を必須成分とし、これを水、有機溶媒、又は水と有機溶媒の混合溶媒に溶解してなり、更に、水溶性もしくは水分散性樹脂を含むことを特徴とする金属表面処理剤。」

5.甲3の記載
甲3には、以下のとおりの記載がある。なお、下線は当審において付した。
(1)「【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rは加水分解性基であり、R’は炭素数1?4のアルキル基であり、Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1?6のアルキレン基であり、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、Yは-NH-又は硫黄原子であり、L^(1)、L^(2)は独立に炭素原子又は窒素原子であり、R^(1)?R^(3)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?6のアルキル基、アルコキシ基もしくはフルオロアルキル基、又はアミノ基であり、R^(1)とR^(2)又はR^(2)とR^(3)でこれらが結合している炭素原子及びL^(2)と共に環骨格を形成してもよい。mは1?3の整数であり、nは0?3の整数である。)
で示される有機ケイ素化合物を必須成分とし、これを水、有機溶媒、又は水と有機溶媒の混合溶媒に溶解してなることを特徴とする金属表面処理剤。
・・・(略)・・・
【請求項9】
更に、水溶性もしくは水分散性樹脂を含むことを特徴とする請求項1?8のいずれか1項記載の金属表面処理剤。」

(2)「【0019】
ここで、上記式中、Rとしては塩素、臭素等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基が挙げられ、アルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。R’としてはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基が挙げられ、メチル基が好ましい。Aは直鎖状のものとしてはメチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられ、分岐鎖状のものとしてはメタリル基、イソプロピレン基、イソブチレン基等が挙げられ、炭素数1?3の直鎖状のアルキレン基が好ましく、プロピレン基が特に好ましい。また、R^(1)?R^(3)としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換したフルオロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、アミノ基が挙げられ、また、R^(1)とR^(2)又はR^(2)とR^(3)でこれらが結合する炭素原子と共にシクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環を形成してもよい。R^(4)?R^(7)としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換したフルオロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、アミノ基が挙げられ、R^(5)とR^(6)が直接結合してこれら置換基が結合する炭素間で二重結合を形成してもよく、さらにR^(4)とR^(7)でこれらが結合する炭素原子と共に脂肪族環骨格や芳香族環骨格を形成することができる。R^(8)?R^(11)としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換したフルオロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、アミノ基が挙げられ、R^(9)とR^(10)が直接結合してこれら置換基が結合する炭素間で二重結合を形成してもよく、さらにR^(8)とR^(11)でこれらが結合する炭素原子と共にシクロペンチル基、シクロヘキシル基等の脂肪族又は芳香族環骨格を形成することができる。mは1?3の整数であり、好ましくは2、3、特に好ましくは3である。nは0?3の整数であり、好ましくは0、1、特に好ましくは0である。」

(3)「【0042】
本発明の金属表面処理剤は、更に、水溶性もしくは水分散性樹脂を含むことが好ましい。水溶性もしくは水分散性樹脂としてはアクリル樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、エチレンアクリル共重合体、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アルキド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいし、更に共重合して使用してもよい。具体的には、例えば水溶性アクリル樹脂としては、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を主成分とした共重合体で、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が例示でき、それらの誘導体や、その他のアクリル系モノマーとの共重合体も使用可能である。特に、共重合体におけるアクリル酸及び/又はメタクリル酸モノマー割合が、70質量%以上であることが好ましい。」

6.甲3に記載された発明
甲3には、特に請求項9の記載から、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

「下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rは加水分解性基であり、R’は炭素数1?4のアルキル基であり、Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1?6のアルキレン基であり、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、Yは-NH-又は硫黄原子であり、L^(1)、L^(2)は独立に炭素原子又は窒素原子であり、R^(1)?R^(3)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?6のアルキル基、アルコキシ基もしくはフルオロアルキル基、又はアミノ基であり、R^(1)とR^(2)又はR^(2)とR^(3)でこれらが結合している炭素原子及びL^(2)と共に環骨格を形成してもよい。mは1?3の整数であり、nは0?3の整数である。)
で示される有機ケイ素化合物を必須成分とし、これを水、有機溶媒、又は水と有機溶媒の混合溶媒に溶解してなり、更に、水溶性もしくは水分散性樹脂を含むことを特徴とする金属表面処理剤。」

7.甲4?9の記載
(1)甲4には、ポリマーマトリクスを化学的に安定化するため、および/またはその耐久性を増大するため、少なくとも1つのイオウ原子を含んでいる少なくとも1種の基によって官能化された少なくとも1種の無機充填剤の使用が記載されている(請求項1、3)。また、当該基は、ポリマーマトリクスよりも早く酸化し、ポリマーマトリクスが酸化条件によって影響をほとんどまたは全く受けないようにさせること(【0048】)、チオール基等の当該基は、シラン化のような過程を用いて無機充填剤上にグラフトされ得ること(【0066】、【0067】)が記載されている。

(2)甲5には、フェノールノボラック等の熱硬化性樹脂、メルカプト基含有アルコキシシラン、ジスルフィド基含有アルコキシシラン、を含有した半導体封止用樹脂組成物が記載されている(請求項1、【0018】、【0023】)。

(3)甲6には、フェノールノボラック樹脂等のフェノール樹脂、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン等の分子中に連続した2?4個の硫黄原子を含む有機化合物、を含有してなる封止用樹脂組成物が記載されている(請求項1、【0016】、【0025】)。

(4)甲7には、ノボラック樹脂を含有するアルカリ可溶性樹脂、感光性化合物、架橋剤、を含有する感光性組成物(請求項1)、該感光性組成物から得られる硬化膜(請求項4)、該硬化膜を有する電子部品(請求項5)が記載されている。また、感光性組成物は電子部品の層間絶縁膜等に用いられること(【0001】、【0097】)、フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂がp-ヒドロキシスチレン等であること(【0029】)、感光性化合物がキノンジアジド基を有する化合物、光感応性酸発生剤等であること(【0031】)、硬化膜の製造方法は塗布工程、露光工程、現像工程を有すること(【0089】?【0092】、【0094】)が記載されている。

(5)甲8には、光酸発生剤を含有する感光性樹脂組成物が記載されている(請求項1、5)。また、樹脂組成物が層間絶縁膜等に用いられること(【0001】、【0089】)、樹脂組成物がノボラックまたはポリヒドロキシスチレンなどのフェノール性水酸基を有する樹脂を含有してもよいこと(【0063】、【0067】)、樹脂組成物の加工例として、樹脂組成物を基板上に塗布し、さらに露光、現像してパターンを形成すること(【0080】、【0082】、【0085】、【0087】)が記載されている。

(6)甲9には、アルカリ性水溶液に可溶なポリマー、光の照射を受けて酸を発生する化合物、を含有してなるポジ型感光性樹脂組成物が記載されている(請求項1)。また、該ポジ型感光性樹脂組成物による感光性樹脂膜形成工程、露光工程、現像工程、加熱処理工程、を含むパターン硬化膜の製造方法(請求項6、【0074】)、該製造方法により得られるパターン硬化膜を、層間絶縁膜層等として有する電子部品(請求項8)が記載されている。

第5 対比・判断

1.特許法第29条第1項第3号について
(1)甲1に基づく特許法第29条第1項第3号について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「下記一般式(2)(注:構造式は省略)で示される有機ケイ素化合物」、「水溶性もしくは水分散性樹脂」は、それぞれ、本件発明1における「シラン化合物」、「樹脂」に相当する。
また、甲1発明において、「水溶性もしくは水分散性樹脂を含む」「金属表面処理剤」は、本件発明1にいう、「樹脂組成物」であるといえる。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「(A)樹脂と、(C)シラン化合物とを含有する樹脂組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1A>
本件発明1においては、シラン化合物が「式(C-1-1)で表される化合物、式(C-2-1)で表される化合物、および式(C-3)で表される化合物(注:構造式は省略)から選ばれる少なくとも1種」であるのに対して、甲1発明においては、有機ケイ素化合物が「下記一般式(2)(注:構造式は省略)で示される」ものである点。

<相違点2A>
本件発明1においては、樹脂が「フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂」であるのに対して、甲1発明においては、樹脂が「水溶性もしくは水分散性樹脂」である点。

相違点1Aについて検討する。
甲1発明の一般式(2)の構造式右端には環状構造が存在するが、当該環状構造は、本件発明1の式(ii)で表される基に相当するものである(例えば、甲1発明の一般式(2)においてR^(4)?R^(7)がいずれも水素原子、Mが-NH-であり、本件発明1の式(ii)においてR^(14)?R^(17)がいずれも水素原子、Mが-NH-である場合)。そこで、本件発明1が式(ii)で表される基を有する場合、すなわち「Xが-S-、-(S)_(n)-以外の基の場合は、R^(3)は、式(i)?(iii)で表される基であってもよい。」との条件から、シラン化合物が式(ii)で表されるR^(3)を有する式(C-1-1)で表される化合物であり、Xが-S-、-(S)_(n)-以外の基である場合の本件発明1に関して、さらに以下検討する。

甲1発明の一般式(2)における「R」は「加水分解性基」であるが、甲1には「Rとしては塩素、臭素等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基が挙げられ、アルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。」との記載がある(第4 1.(2))ように、当該「R」は、本件発明1の式(C-1-1)における「R^(1)」すなわち「ハロゲン原子、炭素数1?10のアルコキシ基またはトリアルキルシロキシ基」と重複し得る。
甲1発明の一般式(2)における「R’」すなわち「炭素数1?4のアルキル基」は、本件発明1の式(C-1-1)における「R^(2)」すなわち「炭素数1?4のアルキル基」と重複する。
甲1発明の一般式(2)における「m」は「1?3の整数」であり、本件発明1の式(C-1-1)における「m」は「1?3の整数」であるから、両者の「m」は重複する。
甲1発明の一般式(2)における「A」すなわち「直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1?6のアルキレン基」は、本件発明1の式(C-1-1)における「A」すなわち「直接結合または2価の有機基」と重複する。
甲1発明の一般式(2)において「Xは酸素原子又は硫黄原子であり、Zは-NH-、酸素原子又は硫黄原子であ」るから、Xが硫黄原子、Zが-NH-又は硫黄原子である場合、あるいはXが酸素原子、Zが硫黄原子である場合には、-NH-C(=X)-Z-は、本件発明1の式(C-1-1)における「X」が「-NH-C(=S)-NH-、-NH-C(=S)-S-または-NH-C(=O)-S-」である場合に重複する。
甲1発明の一般式(2)における「-(CH_(2))_(n)-」の「n」は「0?3の整数」であるから、nが0である場合には、本件発明1の式(C-1-1)においてXがR^(3)と直接結合することに重複する。

以上検討したように、甲1発明の一般式(2)で示される有機ケイ素化合物には、各基の組み合わせにより多数の有機ケイ素化合物が包含されており、確かにそのごく一部の有機ケイ素化合物は、本件発明1の式(C-1-1)で表されるシラン化合物に相当するといえるものの、これは、一般式(2)における各基の選択肢の組み合わせにおいて、一部の特定の基同士を選択して組み合わせた場合にすぎない。本件発明1の式(C-1-1)で表されるシラン化合物は硫黄原子を含む基が必須である一方、甲1発明の一般式(2)で示される有機ケイ素化合物は硫黄原子を含む基を含有する場合と含有しない場合があり、硫黄原子を含む基と他の特定の基を選択することは、甲1に記載も示唆もされていない。そして、甲1には、一般式(2)で示される有機ケイ素化合物と、水溶性もしくは水分散性樹脂とを含む甲1発明において、そのように特定の基同士を選択して組み合わせることについては、何ら具体的に示されていない。したがって、相違点1Aは実質的な相違点である。

次に、相違点2Aについて検討する。
甲1には、水溶性もしくは水分散性樹脂として「フェノール系樹脂」が例示されており(第4 1.(3))、当該フェノール系樹脂は、本件発明1における「フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂」に相当し得るものである。しかしながら、当該フェノール系樹脂は、多数の樹脂のうちの1つとして単に挙げられているにすぎないものである。そして、甲1には、一般式(2)で示される有機ケイ素化合物と、水溶性もしくは水分散性樹脂とを含む甲1発明において、水溶性もしくは水分散性樹脂として特にフェノール系樹脂を選択することについては、何ら具体的に示されていない。したがって、相違点2Aも実質的な相違点である。

ところで、甲1には、本件発明1の式(C-1-1)で表されるシラン化合物に相当する有機ケイ素化合物を合成例3で合成し、それをメタノールと水の混合溶媒に添加して金属表面処理剤を調製したことが実施例1として記載されている(第4 1.(4)?(8))。しかしながら、実施例1の金属表面処理剤は、水溶性もしくは水分散性樹脂を含んでいないから樹脂組成物ではない。また、参考例11?13の金属表面処理剤は、水溶性樹脂であるポリアクリル酸を含むことが記載されている(第4 1.(7)、(8))が、ポリアクリル酸は本件発明1において規定される「フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂」ではない。したがって、仮に、当該実施例、参考例の記載から、シラン化合物に関する上記相違点1Aが実質的な相違点であるとはいえなかったとしても、樹脂に関する上記相違点2Aは実質的な相違点である。

以上のことから、本件発明1は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるとはいえない。

イ 本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明1に係る請求項1を引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(2)甲2に基づく特許法第29条第1項第3号について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「下記一般式(3)(注:構造式は省略)で示される有機ケイ素化合物」、「水溶性もしくは水分散性樹脂」は、それぞれ、本件発明1における「シラン化合物」、「樹脂」に相当する。
また、甲2発明において、「水溶性もしくは水分散性樹脂を含む」「金属表面処理剤」は、本件発明1にいう、「樹脂組成物」であるといえる。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「(A)樹脂と、(C)シラン化合物とを含有する樹脂組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1B>
本件発明1においては、シラン化合物が「式(C-1-1)で表される化合物、式(C-2-1)で表される化合物、および式(C-3)で表される化合物(注:構造式は省略)から選ばれる少なくとも1種」であるのに対して、甲2発明においては、有機ケイ素化合物が「下記一般式(3)(注:構造式は省略)で示される」ものである点。

<相違点2B>
本件発明1においては、樹脂が「フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂」であるのに対して、甲2発明においては、樹脂が「水溶性もしくは水分散性樹脂」である点。

相違点1Bについて検討する。
相違点1Bは、第5 1.(1)アで述べた相違点1Aと同様な相違点であり、相違点1Aについて検討したのと同様に、甲2発明において、有機ケイ素化合物を、硫黄原子を含む基と他の特定の基を選択して本件発明1において規定されるシラン化合物に相当するものとすることは、甲2に何ら具体的に示されていない。したがって、相違点1Bは実質的な相違点である。

次に、相違点2Bについて検討する。
相違点2Bは、第5 1.(1)アで述べた相違点2Aと同様な相違点であり、相違点2Aについて検討したのと同様に、甲2発明において、水溶性もしくは水分散性樹脂として特にフェノール系樹脂を選択することは、甲2に何ら具体的に示されていない。したがって、相違点2Bも実質的な相違点である。

以上のことから、本件発明1は、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明であるとはいえない。

イ 本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明1に係る請求項1を引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、甲2に記載された発明であるとはいえない。

(3)甲3に基づく特許法第29条第1項第3号について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「下記一般式(1)(注:構造式は省略)で示される有機ケイ素化合物」、「水溶性もしくは水分散性樹脂」は、それぞれ、本件発明1における「シラン化合物」、「樹脂」に相当する。
また、甲3発明において、「水溶性もしくは水分散性樹脂を含む」「金属表面処理剤」は、本件発明1にいう、「樹脂組成物」であるといえる。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「(A)樹脂と、(C)シラン化合物とを含有する樹脂組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1C>
本件発明1においては、シラン化合物が「式(C-1-1)で表される化合物、式(C-2-1)で表される化合物、および式(C-3)で表される化合物(注:構造式は省略)から選ばれる少なくとも1種」であるのに対して、甲3発明においては、有機ケイ素化合物が「下記一般式(1)(注:構造式は省略)で示される」ものである点。

<相違点2C>
本件発明1においては、樹脂が「フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂」であるのに対して、甲3発明においては、樹脂が「水溶性もしくは水分散性樹脂」である点。

相違点1Cについて検討する。
相違点1Cは、第5 1.(1)アで述べた相違点1Aと同様な相違点であり、相違点1Aについて検討したのと同様に、甲3発明において、有機ケイ素化合物を、硫黄原子を含む基と他の特定の基を選択して本件発明1において規定されるシラン化合物に相当するものとすることは、甲3に何ら具体的に示されていない。したがって、相違点1Cは実質的な相違点である。

次に、相違点2Cについて検討する。
相違点2Cは、第5 1.(1)アで述べた相違点2Aと同様な相違点であり、相違点2Aについて検討したのと同様に、甲3発明において、水溶性もしくは水分散性樹脂として特にフェノール系樹脂を選択することは、甲3に何ら具体的に示されていない。したがって、相違点2Cも実質的な相違点である。

以上のことから、本件発明1は、甲3発明、すなわち甲3に記載された発明であるとはいえない。

イ 本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明1に係る請求項1を引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、甲3に記載された発明であるとはいえない。

2.特許法第29条第2項について
(1)甲1発明に基づく特許法第29条第2項について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、第5 1.(1)アで述べたとおり、本件発明1と甲1発明とは、
「(A)樹脂と、(C)シラン化合物とを含有する樹脂組成物。」
の点で一致し、第5 1.(1)アで述べた相違点1A、2Aで相違する。

相違点1Aについて検討する。
相違点1Aに係る構成の本件発明1における技術的意義は、本件特許明細書の記載(【0009】、【0062】?【0066】)からみて、モノスルフィド結合、ポリスルフィド結合およびチオウレア結合から選ばれる少なくとも1種の結合を有するシラン化合物である、「式(C-1-1)で表される化合物、式(C-2-1)で表される化合物、および式(C-3)で表される化合物(注:構造式は省略)から選ばれる少なくとも1種のシラン化合物」を用いることで、樹脂組成物から形成される絶縁膜が高温・高湿環境下に曝された場合でも、金属と絶縁膜との高い密着力を確保できることであると理解される。
甲1には、水溶性もしくは水分散性樹脂とともに用いる有機ケイ素化合物として、一般式(2)で示される多数の有機ケイ素化合物が記載されている(第4 1.(1))ものの、硫黄原子を含む特定の有機ケイ素化合物を用いることにより、高温・高湿環境下での樹脂組成物の絶縁膜と金属との高い密着力を確保できることについては、記載も示唆もされていない。
一方、甲4について、甲4の公表日は平成25年10月31日であり、本件特許の優先日は平成25年6月12日であるから、そもそも甲4は本件特許の優先日前に頒布された刊行物でない。また、甲4には、イオウ原子を含む基で官能化された無機充填剤によって、ポリマーマトリクスが酸化の影響を受けなくなることが記載されているものの、本件発明1において規定されるシラン化合物によって、高温・高湿環境下での樹脂組成物の絶縁膜と金属との高い密着力を確保できることについては、記載も示唆もされていない。
さらに、甲6には、シラン化合物であるビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンを含有してなる封止用樹脂組成物が記載されているものの、そもそもビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンは、本件発明1において規定されるシラン化合物である式(C-1-1)で表される化合物、式(C-2-1)で表される化合物、式(C-3)で表される化合物のいずれにも相当しない。また、甲6には、本件発明1において規定されるシラン化合物によって、高温・高湿環境下での樹脂組成物の絶縁膜と金属との高い密着力を確保できることについては、記載も示唆もされていない。
そうである以上、たとえ、甲4、6に、第4 7.(1)、(3)で摘示したような技術の開示があったとしても、甲1発明において、樹脂組成物から形成される絶縁膜が高温・高湿環境下に曝された場合でも、金属と絶縁膜との高い密着力を確保するための具体的な解決手段として、本件発明1において規定される「式(C-1-1)で表される化合物、式(C-2-1)で表される化合物、および式(C-3)で表される化合物(注:構造式は省略)から選ばれる少なくとも1種のシラン化合物」を用いる動機付けがないことから、甲1発明において相違点1Aに係る構成とすることは、たとえ当業者であっても到底容易であるとはいえない。
また、高温・高湿環境下での樹脂組成物の絶縁膜と金属との高い密着力を確保できるという相違点1Aに係る効果は、甲1、4、6に記載も示唆もなく、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。

以上のとおり、本件発明1は甲1発明と相違点1A、2Aにおいて相違するものであり、これらの相違点のうち相違点1Aは想到容易とはいえないのであるから、相違点2Aについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲4、6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明1に係る請求項1を引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲4、6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に係る請求項1を引用してなるものであるから、たとえ、甲5?8に、第4 7.(2)?(5)で摘示したような技術の開示があったとしても、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲4?8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1に係る請求項1を間接的に引用してなるものであるから、たとえ、甲7、8に、第4 7.(4)、(5)で摘示したような技術の開示があったとしても、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲4、6?8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件発明6?12について
本件発明6?12は、本件発明1に係る請求項1を直接的あるいは間接的に引用してなるものであるから、たとえ、甲7?9に、第4 7.(4)?(6)で摘示したような技術の開示があったとしても、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲4、6?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)甲2発明に基づく特許法第29条第2項について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比すると、第5 1.(2)アで述べたとおり、本件発明1と甲2発明とは、
「(A)樹脂と、(C)シラン化合物とを含有する樹脂組成物。」
の点で一致し、第5 1.(2)アで述べた相違点1B、2Bで相違する。

相違点1Bについて検討する。
相違点1Bは、第5 1.(1)アで述べた相違点1Aと同様な相違点であり、相違点1Aについて第5 2.(1)アで検討したのと同様に、たとえ、甲4、6に、第4 7.(1)、(3)で摘示したような技術の開示があったとしても、甲2発明において、樹脂組成物から形成される絶縁膜が高温・高湿環境下に曝された場合でも、金属と絶縁膜との高い密着力を確保するための具体的な解決手段として、本件発明1において規定される「式(C-1-1)で表される化合物、式(C-2-1)で表される化合物、および式(C-3)で表される化合物(注:構造式は省略)から選ばれる少なくとも1種のシラン化合物」を用いる動機付けがないことから、甲2発明において相違点1Bに係る構成とすることは、たとえ当業者であっても到底容易であるとはいえない。
また、高温・高湿環境下での樹脂組成物の絶縁膜と金属との高い密着力を確保できるという相違点1Bに係る効果は、甲2、4、6に記載も示唆もなく、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。

以上のとおり、本件発明1は甲2発明と相違点1B、2Bにおいて相違するものであり、これらの相違点のうち相違点1Bは想到容易とはいえないのであるから、相違点2Bについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲4、6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明1に係る請求項1を引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明及び甲4、6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に係る請求項1を引用してなるものであるから、たとえ、甲5?8に、第4 7.(2)?(5)で摘示したような技術の開示があったとしても、本件発明1と同様に、甲2発明及び甲4?8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1に係る請求項1を間接的に引用してなるものであるから、たとえ、甲7、8に、第4 7.(4)、(5)で摘示したような技術の開示があったとしても、本件発明1と同様に、甲2発明及び甲4、6?8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件発明6?12について
本件発明6?12は、本件発明1に係る請求項1を直接的あるいは間接的に引用してなるものであるから、たとえ、甲7?9に、第4 7.(4)?(6)で摘示したような技術の開示があったとしても、本件発明1と同様に、甲2発明及び甲4、6?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)甲3発明に基づく特許法第29条第2項について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比すると、第5 1.(3)アで述べたとおり、本件発明1と甲3発明とは、
「(A)樹脂と、(C)シラン化合物とを含有する樹脂組成物。」
の点で一致し、第5 1.(3)アで述べた相違点1C、2Cで相違する。

相違点1Cについて検討する。
相違点1Cは、第5 1.(1)アで述べた相違点1Aと同様な相違点であり、相違点1Aについて第5 2.(1)アで検討したのと同様に、たとえ、甲4、6に、第4 7.(1)、(3)で摘示したような技術の開示があったとしても、甲3発明において、樹脂組成物から形成される絶縁膜が高温・高湿環境下に曝された場合でも、金属と絶縁膜との高い密着力を確保するための具体的な解決手段として、本件発明1において規定される「式(C-1-1)で表される化合物、式(C-2-1)で表される化合物、および式(C-3)で表される化合物(注:構造式は省略)から選ばれる少なくとも1種のシラン化合物」を用いる動機付けがないことから、甲3発明において相違点1Cに係る構成とすることは、たとえ当業者であっても到底容易であるとはいえない。
また、高温・高湿環境下での樹脂組成物の絶縁膜と金属との高い密着力を確保できるという相違点1Cに係る効果は、甲3、4、6に記載も示唆もなく、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。

以上のとおり、本件発明1は甲3発明と相違点1C、2Cにおいて相違するものであり、これらの相違点のうち相違点1Cは想到容易とはいえないのであるから、相違点2Cについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲4、6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明1に係る請求項1を引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、甲3発明及び甲4、6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に係る請求項1を引用してなるものであるから、たとえ、甲5?8に、第4 7.(2)?(5)で摘示したような技術の開示があったとしても、本件発明1と同様に、甲3発明及び甲4?8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1に係る請求項1を間接的に引用してなるものであるから、たとえ、甲7、8に、第4 7.(4)、(5)で摘示したような技術の開示があったとしても、本件発明1と同様に、甲3発明及び甲4、6?8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件発明6?12について
本件発明6?12は、本件発明1に係る請求項1を直接的あるいは間接的に引用してなるものであるから、たとえ、甲7?9に、第4 7.(4)?(6)で摘示したような技術の開示があったとしても、本件発明1と同様に、甲3発明及び甲4、6?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.特許法第36条第6項第1号について
(1)特許異議申立人は特許異議申立書において、本件発明1には、式(C-1-1)、式(C-2-1)、式(C-3)で表される極めて広範なシラン化合物が規定されているが、本件特許明細書において、高温及び高湿下の非常に過酷な環境であっても金属との密着性に優れた絶縁膜を形成するとの課題を解決し得ることが立証された例は、実施例で示された成分(C-2-1-1)、成分(C-1-1-1)を用いたわずか2例にすぎず、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、さらに、出願時の技術常識に照らしても、実施例で用いられたわずか2例から、本件発明1に規定されたシラン化合物の範囲全体にまで拡張ないし一般化できるとは認められず、本件発明1、及び本件発明2?12は、発明の詳細な説明に記載したものでないと主張している(3(4)エ(イ)(イ-1)の<1点目>)。
しかしながら、本件特許明細書には、本件発明において、シラン化合物が有するモノスルフィド結合、ポリスルフィド結合、又はチオウレア結合は酸化されやすい性質を有し、当該結合が優先的に酸化されることで、樹脂組成物から形成される絶縁膜が高温・高湿環境下に曝された場合でも、金属と絶縁膜との高い密着力を確保することが出来たと考えられるとの記載があり(【0062】?【0066】)、それらの結合を有するシラン化合物を用いた実施例では、高温及び高湿下の非常に過酷な環境であっても金属との密着性に優れた絶縁膜が形成されていることからみて、シラン化合物がモノスルフィド結合、ポリスルフィド結合、又はチオウレア結合を有することにより、上記課題を解決できることが理解されるから、シラン化合物がそれらの結合を有する本件発明1?12は、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
そうすると、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、この主張は採用することができない。

(2)特許異議申立人は特許異議申立書において、本件発明1は、「(A)フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂」を規定し、本件発明2は、樹脂(A)が「式(a1-1)(注:構造式は省略)で表される構造単位を有する重合体(A1)」、「ノボラック樹脂(A2)」の両者を含む場合も規定しているが、本件特許明細書において、高温及び高湿下の非常に過酷な環境であっても金属との密着性に優れた絶縁膜を形成するとの課題を解決し得ることが立証された例は、実施例で示された成分(A1-1)、成分(A2-1)を単独で用いた2例にすぎず、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、さらに、出願時の技術常識に照らしても、実施例で用いられたわずか2例から、本件発明1はおろか本件発明2に規定された重合体(A1)、ノボラック樹脂(A2)の両者を含む場合にまで拡張ないし一般化できるとは認められず、本件発明1、2、及び本件発明3?12は、発明の詳細な説明に記載したものでないと主張している(3(4)エ(イ)(イ-1)の<2点目>)。
しかしながら、第5 3.(1)で述べたとおり、本件特許明細書の記載によれば、シラン化合物がモノスルフィド結合、ポリスルフィド結合、又はチオウレア結合を有することにより、上記課題を解決できることが理解されるから、シラン化合物がそれらの結合を有する本件発明1?12は、樹脂(A)が実施例における2例以外の場合であっても、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
そうすると、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、この主張は採用することができない。

(3)特許異議申立人は特許異議申立書において、本件発明1は、シラン化合物(C)の含有量を何ら特定せず、本件発明4は、樹脂(A)100質量部に対してシラン化合物(C)を0.1?20質量部の範囲で含有することを規定しているが、本件特許明細書において、高温及び高湿下の非常に過酷な環境であっても金属との密着性に優れた絶縁膜を形成するとの課題を解決し得ることが立証された例は、実施例で示されたシラン化合物(C)を3質量部、5質量部、及び7質量部配合させた例のみであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明や本件発明4をみても、さらに、出願時の技術常識に照らしても、実施例で用いられたわずか3?7質量部配合した例から、本件発明1はおろか本件発明4に規定された上記「0.1?20質量部」の範囲にまで拡張ないし一般化できるとは認められず、本件発明1、4、及び本件発明2、3、5?12は、発明の詳細な説明に記載したものでないと主張している(3(4)エ(イ)(イ-1)の<3点目>)。
しかしながら、第5 3.(1)で述べたとおり、本件特許明細書の記載によれば、シラン化合物がモノスルフィド結合、ポリスルフィド結合、又はチオウレア結合を有することにより、上記課題を解決できることが理解されるから、シラン化合物がそれらの結合を有する本件発明1?12は、シラン化合物の含有量が規定されていなくても、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
そうすると、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、この主張は採用することができない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-05-25 
出願番号 特願2015-522693(P2015-522693)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 橋本 栄和
西山 義之
登録日 2016-08-19 
登録番号 特許第5987984号(P5987984)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 樹脂組成物、感光性樹脂組成物、絶縁膜およびその製法ならびに電子部品  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

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