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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F04D
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  F04D
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F04D
管理番号 1329125
異議申立番号 異議2017-700217  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-03 
確定日 2017-06-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第5989645号発明「ネジ溝式真空ポンプ及びこれを使用した真空排気システム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5989645号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5989645号の請求項1?8に係る特許についての出願は,2012年(平成24年)5月7日を国際出願日とする出願であって,平成28年8月19日にその特許権の設定登録がされ,その後,その請求項1に係る特許に対し,特許異議申立人プファイファー・ヴァキューム・ゲーエムベーハーにより特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件特許発明
特許第5989645号の請求項1?8の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められるところ,請求項1に係る発明(以下,「本件特許発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
吸気口と排気口とを有するケーシングを備え,
該ケーシング内に,軸受と回転駆動機構とにより一軸上に回転可能に支持されたロータ軸と,該ロータ軸に鍔状をした支持板部を介して接合されて該ロータ軸と一体回転可能に同心配置された少なくとも1個の回転円筒部で構成されるロータ部材と,該回転円筒部の外側面及び/もしくは内側面に所定のギャップを隔てて対向設置された少なくとも2個のステータ部材を設けてなるとともに,
前記回転円筒部と前記ステータ部材の互いに対向する側面の一方には前記ロータ軸の回転に伴って前記吸気口から前記排気口に気体分子を移送するネジ溝を形成し,
前記支持板部には前記吸気口もしくは前記排気口と前記ネジ溝とを連通させるための連通口を有するネジ溝式排気機構を前記ロータ軸上の軸方向に所定の間隔をあけて少なくとも2個設置し,かつ,
前記吸気口もしくは前記排気口のいずれか一方は,前記ネジ溝式排気機構同士の間に設置され,
前記ロータ軸が運転中に該ロータ軸と前記軸受との間に発生し得る変位によりコニカル運動をするときの変位中心と前記ロータ部材の軸方向センタ位置をほぼ一致させてなることを特徴とするネジ溝式真空ポンプ。」

第3.申立理由の概要
特許異議申立人は,証拠として甲第1号証を提出し,本件特許発明は,特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当し,本件特許発明に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであるから,取り消されるべきものである旨主張し,また,特許異議申立人は,主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2号証を提出し,本件特許発明に係る特許は,同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから,取り消されるべきものである旨主張している。
さらに,特許異議申立人は,請求項1の記載は,特許を受けようとする発明が不明確であり,特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていないから,本件特許発明に係る特許は,取り消されるべきものである旨主張している。

証拠方法
(1)甲第1号証:特開2002-310092号公報
(2)甲第2号証:特開平10-141277号公報

第4.甲各号証に記載された事項
(1)甲第1号証に記載された事項(当審により,特に,注目すべき記載に下線を付した。)
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は請求項1の上位概念に記載のガスの供給および高真空の発生のための真空ポンプに関するものである。」
・「【0006】本発明の配置により,コンパクトな構造で大気圧から高真空範囲までの全圧力範囲を包含する真空ポンプが提供される。高真空側におけるガス摩擦ポンプの並列配置により,高い排気速度を可能にする2系統吸込領域が形成される。ガス摩擦ポンプ内で吸込ガスが十分に圧縮されるので,下流側ポンプは1系統だけで十分である。このガス摩擦ポンプの両方のガス流れがこのガス摩擦ポンプ内で集められ且つ下流側ポンプ段の吸込室に供給されるという特徴を有するこの組み合わせは,コンパクトな構造を可能にし,且つ構造寸法および構造上の費用を著しく低減させる。この配置により,ロータの両端に軸受を設けることが可能になるので安定な支持が得られ,このとき直径の小さい軸受が使用可能であり,これが高い回転速度においても問題のない運転を可能にする。さらに,軸受がガス摩擦ポンプにより高真空側から分離され,これにより,高真空側を無潤滑として形成可能であるという利点が得られる。」
・「【0011】
【発明の実施の形態】吸込フランジ2およびガス吐出フランジ3を備えたポンプ・ハウジング1内に,ホルベック・タイプのガス摩擦ポンプ6および7の両方の並列段およびサイド・チャネル・ポンプ8が設けられている。両方のポンプのロータ要素10,11a,11bおよび13が共通軸4上に存在する。軸4は両方の軸受9aおよび9b内で芯出しされている。この場合,軸受9aは大気圧の範囲内におよび軸受9bは背圧の範囲内に存在する。この背圧の範囲内に駆動装置5もまた存在する。2系統ホルベック・ポンプのロータ要素は支持リング10からなり,支持リング10上に両方の並列ポンプ段に対する円筒形構造部分11aおよび11bが装着されている。渦巻溝として形成されて円筒形ロータ要素11aおよび11bを包囲するステータ要素12aおよび12bと共に,前記円筒形ロータ要素11aおよび11bはそれぞれ2つの2段ホルベック・ポンプを形成する。
【0012】サイド・チャネル・ポンプは一体のロータ・ディスク13からなり,ロータ・ディスク13は止めリング14によりロータ4に固定されている。ロータ・ディスク13の間に供給通路16を有するステータ構造部分15が存在する。
【0013】ガスの供給は図面に記入された矢印に沿って行われる。最初に,ガスは吸込領域22から並列ポンピング作動を行う並列ホルベック段6および7を介して吐出領域23および24に供給され,ホルベック段6および7は直列に設けられたそれぞれ2つのポンプ段11a/12aおよび11b/12bからなっている。これらの両方の領域間の結合要素26により,ガス流れはガス摩擦ポンプの吐出室25内に集められる。結合要素28を介してガス流れは吐出室25からサイド・チャネル・ポンプの吸込室27に到達する。ここで,ガスは,流路20を介して相互に結合されている複数のポンプ段内で大気圧まで圧縮され,吐出室29を介してガス吐出フランジ3に供給される。サイド・チャネル・ポンプの中間段から,過圧弁31を介して直接ガス吐出フランジ3へ結合導通路30が通じている。」
・「【図面の簡単な説明】
【図1】ガス摩擦ポンプがホルベック・ポンプとして形成され,およびその下流側のポンプがサイド・チャネル・ポンプとして形成されて,それらが1つの部分からなる本発明による真空ポンプの縦断面図である。
【符号の説明】
1 ポンプ・ハウジング
2 吸込フランジ
3 吐出フランジ
4 ロータ軸
5 駆動装置
6,7 ガス摩擦ポンプ
8 ポンプ
9a,9b 軸受
10,11a,11b,13 ロータ要素
12a,12b ステータ要素
14 止めリング
15 ステータ構造部分
16 供給通路
20 流路
22 吸込領域
23,24 吐出領域
25,29 吐出室
26 結合要素
27 吸込室
28 導通路(結合要素)
30 結合導通路
31 過圧弁」

・これらの記載事項と図1の図示内容からみて,ポンプ・ハウジング(1)内に,軸受(9a及び9b)と駆動装置(5)とにより一軸上に回転可能に支持されたロータ軸(4)が設けられていることが理解できる。
・段落【0011】の記載と図1の図示内容からみて,ロータ軸(4)に支持リング(10)を介して接合されてロータ軸(4)と一体回転可能に同心配置された第1の円筒形ロータ要素(外側の11a)と第2の円筒形要素(内側の11a),及び,第3の円筒形ロータ要素(外側の11b)と第4の円筒形要素(内側の11b)で構成されるロータ要素が設けられていることが理解できる。
・段落【0011】の記載と図1の図示内容からみて,第1の円筒形ロータ要素(外側の11a)の外側面に所定のギャップを隔てて対向設置された第1のステータ要素(外側の12a)と,第1の円筒形ロータ要素(外側の11a)の内側面及び第2の円筒形ロータ要素(内側の11a)の外側面に所定のギャップを隔てて対向設置された第2のステータ要素(内側の12a)が設けられていること,及び,第3の円筒形ロータ要素(外側の11b)の外側面に所定のギャップを隔てて対向設置された第3のステータ要素(外側の12b)と,第3の円筒形ロータ要素(外側の11b)の内側面及び第4の円筒形ロータ要素(内側の11b)の外側面に所定のギャップを隔てて対向設置された第4のステータ要素(内側の12b)が設けられていることが理解できる。
・段落【0011】の記載と図1の図示内容からみて,第1の円筒形ロータ要素(外側の11a)と対向する第1及び第2のステータ要素(12a)の側面には,ロータ軸(4)の回転に伴って吸込フランジ(2)から吐出領域(23)を介して吐出フランジ(3)側に気体分子を移送する渦巻溝が形成されていること,及び,第3の円筒形ロータ要素(外側の11a)と対向する第3及び第4のステータ要素(12b)の側面には,ロータ軸(4)の回転に伴って吸込フランジ(2)から吐出領域(24)を介して吐出フランジ(3)側に気体分子を移送する渦巻溝が形成されていること,が理解できる。
・段落【0011】の記載と図1の図示内容からみて,渦巻溝を有する第1及び第2のステータ要素(12a)と第1及び第2の円筒形ロータ要素(11a)は2段ホルベック・ポンプ(11a/12a)を形成しているとともに,渦巻溝を有する第3及び第4のステータ要素(12b)と第3及び第4の円筒形ロータ要素(11b)も2段ホルベック・ポンプ(11b/12b)を形成しており,2段ホルベックポンプ(11a/12a又は11b/12b)は,ロータ軸(4)の軸方向に所定の間隔をあけて2個設置されていることが理解できる。
・図1の図示内容からみて,支持リング(10)には,渦巻溝から排出した気体を吐出フランジ(3)側に移送するための連通口があることが理解できる。
・段落【0011】の記載と図1の図示内容からみて,吸込フランジ(2)が2段ホルベック・ポンプ(11a/12a又は11b/12b)同士の間に設置されていることが理解できる。
・図1の図示内容からみて,軸受(9a又は9b)がポンプ・ハウジング(1)の左右の壁にそれぞれ設けられるとともに,支持リング(10),第1と第3の円筒形ロータ要素(外側の11aと外側の11b),及び,第2と第4の円筒形ロータ要素(内側の11aと内側の11b)からなる部分が,それぞれ吸込フランジ(2)の中心軸線に対してほぼ左右対称に配置されていることが理解できる。

そうすると,甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる(以下,この発明を「引用発明」という。)。
「吸込フランジ(2)およびガス吐出フランジ(3)を備えたポンプ・ハウジング(1)を有し,
ポンプ・ハウジング(1)内に,軸受(9a及び9b)と駆動装置(5)とにより一軸上に回転可能に支持されたロータ軸(4)が設けられており,
ロータ軸(4)に支持リング(10)を介して接合されてロータ軸(4)と一体回転可能に同心配置された第1の円筒形ロータ要素(外側の11a)と第2の円筒形要素(内側の11a),及び,第3の円筒形ロータ要素(外側の11b)と第4の円筒形要素(内側の11b)で構成されるロータ要素が設けられており,
第1の円筒形ロータ要素(外側の11a)の外側面に所定のギャップを隔てて対向設置された第1のステータ要素(外側の12a)と,第1の円筒形ロータ要素(外側の11a)の内側面及び第2の円筒形ロータ要素(内側の11a)の外側面に所定のギャップを隔てて対向設置された第2のステータ要素(内側の12a)が設けられていること,及び,第3の円筒形ロータ要素(外側の11b)の外側面に所定のギャップを隔てて対向設置された第3のステータ要素(外側の12b)と,第3の円筒形ロータ要素(外側の11b)の内側面及び第4の円筒形ロータ要素(内側の11b)の外側面に所定のギャップを隔てて対向設置された第4のステータ要素(内側の12b)が設けられており,
前記第1の円筒形ロータ要素(外側の11a)と対向する第1及び第2のステータ要素(12a)の側面には,ロータ軸(4)の回転に伴って吸込フランジ(2)から吐出領域(23)を介して吐出フランジ(3)側に気体分子を移送する渦巻溝が形成されており,及び,前記第3の円筒形ロータ要素(外側の11a)と対向する第3及び第4のステータ要素(12a)の側面には,ロータ軸(4)の回転に伴って吸込フランジ(2)から吐出領域(24)を介して吐出フランジ(3)側に気体分子を移送する渦巻溝が形成されており,
支持リング(10)には,渦巻溝から排出した気体をガス吐出フランジ(3)側に移送するための連通口があり,渦巻溝を有する第1及び第2のステータ要素(12a)と第1及び第2の円筒形ロータ要素(11a)は2段ホルベック・ポンプ(11a/12a)を形成しているとともに,渦巻溝を有する第3及び第4のステータ要素(12b)と第3及び第4の円筒形ロータ要素(11b)も2段ホルベック・ポンプ(11b/12b)を形成しており,2段ホルベックポンプ(11a/12a又は11b/12b)は,ロータ軸(4)の軸方向に所定の間隔をあけて2個設置されており,
吸込フランジ(2)が2段ホルベック・ポンプ(11a/12a又は11b/12b)同士の間に設置されており,
軸受(9a又は9b)がポンプ・ハウジング(1)の左右の壁にそれぞれ設けられるとともに,支持リング(10),第1と第3の円筒形ロータ要素(外側の11aと外側の11b),及び,第2と第4の円筒形ロータ要素(内側の11aと外側の11b)からなる部分が,それぞれ吸込フランジ(2)の中心軸線に対してほぼ左右対称に配置されている,ホルベック・タイプのガス摩擦ポンプ(6又は7)を含む真空ポンプ。」

(2)甲第2号証に記載された事項
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,複流気体摩擦ポンプに関し,より詳しくは,吸入口と排気口とを有するハウジングを備え,前記ハウジング内には,気体の輸送並びに圧力比の発生及び保持のためのロータ・エレメント及びステータ・エレメントが配設されており,前記ロータ・エレメントはロータ軸に取り付けられており,該ロータ軸は前記吸入口の軸心に対して直交する方向に延在して軸支されている複流形気体摩擦ポンプに関する。」

・「【0004】これに対して複流形ポンプには次のような短所があり,それは,ポンプ作用を発生している部分へ到達するためには,吸入口のフランジ部分から流れ込んできた気体の流れが大きく方向を変えねばならないということである。これによって大きな流動抵抗が発生するため,排気速度が著しく損なわれる。しかしながら複流形ポンプには,単流形の構造と比較した場合に本質的な利点があり,それは,ボールベアリングを用いた通常の軸受構造を採用する場合でも,また様々な形態の磁気軸受構造を採用した場合でも,複流形ポンプであれば,安定条件を容易に満足することができるということである。更に,複流形ポンプでは,軸受及び駆動機構は常に背圧側に設けられるため,それらが高真空の影響を受けるおそれがない。」

・「【発明の実施の形態】以下に図1?図3を参照しつつ,本発明を更に詳細に説明して行く。図1に,複流形ターボ分子ポンプの形態の気体分子ポンプを示した。図示のごとく,吸入口2及び排気口3を有するハウジング1の中にロータ軸10が配設されており,ロータ軸10は軸受13に支持されている。参照番号12はロータ軸10を駆動する駆動装置である。ロータ軸10に,複数の羽根車8が取り付けられており,それら羽根車8は,夫々が複数の羽根板で構成されている。それら羽根車8に対して対向するように複数のステータ・プレート4が設けられており,それらステータ・プレート4も同様の羽根板で構成されている。羽根車8とステータ・プレート4とが協働することによって,ポンプ作用が発生する。複流形ターボ分子ポンプでは,図示したように,ロータ・エレメント(羽根車)8とステータ・エレメント(ステータ・プレート)4とは,いずれも吸入口2の平面に対して垂直に配設されている。そのため,吸入口2から流入してくる気体の流れをロータ・エレメント及びステータ・エレメントの方へより良好に導けるように,本発明では更に,気体輸送構造を有し装置15を装備している。この装置15は気体輸送構造を備えており,ロータ・エレメントと一体に回転する。
【0010】装置15の具体的な1つの実施の態様を図3に示した。ここで重要なことは,それが羽根車として構成されているということであり,この羽根車は,1つのインナー・リング17と,2つのアウター・リング18とを備え,インナー・リングとアウター・リングとのいずれか一方に複数の羽根板16を取り付けるようにしている。この装置15をポンプの回転部材に取り付けるには,インナー・リングをディスク19として形成し,そのディスク19をロータ軸10に固定連結するようにしてもよい。また別法として,2つのアウター・リング18の各々を,内側に位置する夫々の羽根車8に固定連結するようにしてもよい。
【0011】図2に示したのは,ホルベック形の構造とした複流形分子ポンプの形態の気体摩擦ポンプである。ステータ・エレメントである螺旋溝5に対向させて,ロータ・エレメントである,表面が平滑な円筒部材9を配設してある。それら螺旋溝5と円筒部材9とが協働することで,ポンプ作用が発生する。更に,吸入口2から流入してくる気体の流れをロータ・エレメント及びステータ・エレメントの方へ良好に導けるようにするために,本発明に従って,図1の実施の形態と同様に,装置15を付加して装備している。この装置15は気体輸送構造を備えており,ロータ・エレメントと一体に回転する。この装置15を回転部材に取り付けるには,前述の実施の形態と同様に,インナー・ディスク19を介して直接ロータ軸10に固定するようにしてもよく,また,2つのアウター・リング18を介して回転する円筒部材9に固定するようにしてもよい。」

第5.判断
(1)特許法第29条第1項第3号について
本件特許発明と引用発明とを対比すると,後者の「吸込フランジ(2)」は前者の「吸気口」に相当し,以下同様に,「ガス吐出フランジ(3)」は「排気口」に,「ポンプハウジング(1)」は「ケーシング」に,「支持リング(10)」は「支持板部」に,「第1の円筒形ロータ要素(外側の11a)」?「第4の円筒形ロータ要素(内側の11b)」はそれぞれ「回転円筒部」に,「ロータ要素」は「ロータ部材」に,「第1のステータ要素(外側の12a)」?「第4のステータ要素(内側の12b)」はそれぞれ「ステータ部材」に,「渦巻溝」は「ネジ溝」に,「ホルベック・タイプのガス摩擦ポンプ(6又は7)を含む真空ポンプ」は「ネジ溝式真空ポンプ」にそれぞれ相当する。
後者の「吸込フランジ(2)およびガス吐出フランジ(3)を備えたポンプ・ハウジング(1)を有し」は前者の「吸気口と排気口を有するケーシングを備え」に相当する。
後者の「駆動装置(5)」はロータ軸(4)を回転駆動させるものであるから,前者の「回転駆動機構」に相当し,後者の「ポンプ・ハウジング(1)内に,軸受(9a及び9b)と駆動装置(5)とにより一軸上に回転可能に支持されたロータ軸(4)が設けられており,ロータ軸(4)に支持リング(10)を介して接合されてロータ軸(4)と一体回転可能に同心配置された第1の円筒形ロータ要素(外側の11a)と第2の円筒形要素(内側の11a),及び,第3の円筒形ロータ要素(外側の11b)と第4の円筒形要素(内側の11a)で構成されるロータ要素が設けられており,第1の円筒形ロータ要素(外側の11a)の外側面に所定のギャップを隔てて対向設置された第1のステータ要素(外側の12a)と,第1の円筒形ロータ要素(外側の11a)の内側面及び第2の円筒形ロータ要素(内側の11a)の外側面に所定のギャップを隔てて対向設置された第2のステータ要素(内側の12a)が設けられていること,及び,第3の円筒形ロータ要素(外側の11b)の外側面に所定のギャップを隔てて対向設置された第3のステータ要素(外側の12b)と,第3の円筒形ロータ要素(外側の11b)の内側面及び第4の円筒形ロータ要素(内側の11b)の外側面に所定のギャップを隔てて対向設置された第4のステータ要素(内側の12b)が設けられており」と,前者の「該ケーシング内に,軸受と回転駆動機構とにより一軸上に回転可能に支持されたロータ軸と,該ロータ軸に鍔状をした支持板部を介して接合されて該ロータ軸と一体回転可能に同心配置された少なくとも1個の回転円筒部で構成されるロータ部材と,該回転円筒部の外側面及び/もしくは内側面に所定のギャップを隔てて対向設置された少なくとも2個のステータ部材を設けてなる」とは,「該ケーシング内に,軸受と回転駆動機構とにより一軸上に回転可能に支持されたロータ軸と,該ロータ軸に支持板部を介して接合されて該ロータ軸と一体回転可能に同心配置された少なくとも1個の回転円筒部で構成されるロータ部材と,該回転円筒部の外側面及び/もしくは内側面に所定のギャップを隔てて対向設置された少なくとも2個のステータ部材を設けてなる」において共通する。
後者の「前記第1の円筒形ロータ要素(外側の11a)と対向する第1及び第2のステータ要素(12a)の側面には,ロータ軸(4)の回転に伴って吸込フランジ(2)から吐出領域(23)を介して吐出フランジ(3)側に気体分子を移送する渦巻溝が形成されており,及び,前記第3の円筒形ロータ要素(外側の11a)と対向する第3及び第4のステータ要素(12a)の側面には,ロータ軸(4)の回転に伴って吸込フランジ(2)から吐出領域(24)を介して吐出フランジ(3)側に気体分子を移送する渦巻溝が形成されており」と,前者の「前記回転円筒部と前記ステータ部材の互いに対向する側面の一方には前記ロータ軸の回転に伴って前記吸気口から前記排気口に気体分子を移送するネジ溝を形成し」とは,「前記回転円筒部と前記ステータ部材の互いに対向する側面の一方には前記ロータ軸の回転に伴って前記吸気口から前記排気口側に気体分子を移送するネジ溝を形成し」において共通する。
後者の「2段ホルベック・ポンプ(11a/12a又は11b/12b)」と前者の「ネジ溝式排気機構」とは,回転円筒部とステータ部材からなる「ホルベック・ポンプ」である点において共通するから,後者の「支持リング(10)には,渦巻溝から排出した気体をガス吐出フランジ(3)側に移送するための連通口があり,渦巻溝を有する第1及び第2のステータ要素(12a)と第1及び第2の円筒形ロータ要素(11a)は2段ホルベック・ポンプ(11a/12a)を形成しているとともに,渦巻溝を有する第3及び第4のステータ要素(12b)と第3及び第4の円筒形ロータ要素(11b)も2段ホルベック・ポンプ(11b/12b)を形成しており,2段ホルベックポンプ(11a/12a又は11b/12b)は,ロータ軸(4)の軸方向に所定の間隔をあけて2個設置されており」と,前者の「前記支持板部には前記吸気口もしくは前記排気口と前記ネジ溝とを連通させるための連通口を有するネジ溝式排気機構を前記ロータ軸上の軸方向に所定の間隔をあけて少なくとも2個設置し」とは,「前記支持板部には,前記排気口側と前記ネジ溝とを連通させるための連通口があり,ホルベック・ポンプを前記ロータ軸上の軸方向に所定の間隔をあけて少なくとも2個設置し」において共通する。
後者の「吸込フランジ(2)が,2段ホルベック・ポンプ(11a/12a又は11b/12b)同士の間に設置されており」と前者の「前記吸気口もしくは前記排気口のいずれか一方は,前記ネジ溝式排気機構同士の間に設置され」とは,「前記吸気口もしくは前記排気口のいずれか一方は,前記ホルベック・ポンプ同士の間に設置され」において共通する。
そうすると,両者は,
「吸気口と排気口を有するケーシングを備え,
該ケーシング内に,軸受と回転駆動機構とにより一軸上に回転可能に支持されたロータ軸と,該ロータ軸に支持板部を介して接合されて該ロータ軸と一体回転可能に同心配置された少なくとも1個の回転円筒部で構成されるロータ部材と,該回転円筒部の外側面及び/もしくは内側面に所定のギャップを隔てて対向設置された少なくとも2個のステータ部材を設けてなるとともに,
前記回転円筒部と前記ステータ部材の互いに対向する側面の一方には前記ロータ軸の回転に伴って前記吸気口から前記排気口側に気体分子を移送するネジ溝を形成し,
前記支持板部には,前記排気口側と前記ネジ溝とを連通させるための連通口があり,ホルベック・ポンプを前記ロータ軸上の軸方向に所定の間隔をあけて少なくとも2個設置し,かつ,
前記吸気口もしくは前記排気口のいずれか一方は,前記ホルベック・ポンプ同士の間に設置される,ネジ溝式真空ポンプ。」
の点で一致し,以下の各点で相違する。
<相違点1>
ロータ軸に支持板部を介して接合されて該ロータ軸と一体回転可能に同心配置された少なくとも1個の回転円筒部で構成されるロータ部材に関して,「支持板部」が,本件特許発明では,「鍔状」であるのに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。
<相違点2>
前記吸気口から前記排気口側に気体分子を移送するネジ溝に関して,「排気口側」が,本件特許発明では,「排気口」であるのに対して,引用発明では,吐出領域23,24を介して間接的に吐出フランジ3(排気口)に移送している点。
<相違点3>
前記支持板部には,前記排気口側と前記ネジ溝とを連通させるための連通口があり,ホルベック・ポンプを前記ロータ軸上の軸方向に所定の間隔をあけて2個設置していること,及び,前記吸気口もしくは前記排気口のいずれか一方は,前記ホルベック・ポンプ同士の間に設置されることに関する「ホルベック・ポンプ」について,本件特許発明では,「ネジ溝式排気機構」は「前記支持板部には,前記吸気口もしくは前記排気口と前記ネジ溝とを連通させるための連通口を有する」ものであって,当該「ネジ溝式排気機構」を前記ロータ軸上の軸方向に所定の間隔をあけて「2個」設置しているのに対して,引用発明では,前記支持板部には,前記排気口側と前記ネジ溝とを連通させるための連通口はあるものの,それぞれの2段ホルベック・ポンプ(11a/12a又は11b/12b)が当該連通口を有してはいない点。
<相違点4>
本件特許発明では,「前記ロータ軸が運転中に該ロータ軸と前記軸受との間に発生し得る変位によりコニカル運動をするときの変位中心と前記ロータ部材の軸方向センタ位置をほぼ一致させてなる」のに対して,引用発明では,軸受(9a又は9b)がポンプ・ハウジング(1)の左右の壁にそれぞれ設けられるとともに,支持リング(10),第1と第3の円筒形ロータ要素(外側の11aと外側の11b),及び,第2と第4の円筒形ロータ要素(内側の11aと外側の11b)からなる部分が,それぞれ吸込フランジ(2)の中心軸線に対してほぼ左右対称に配置されているものの,そのような特定はなされていない点。

そうすると,上記<相違点1>から<相違点4>において,本件特許発明と引用発明とは相違するから,本件特許発明は,甲第1号証に記載された発明ではない。
よって,本件特許発明は,甲第1号証に記載された発明ではないから,特許法第29条第1項第3号の規定には該当しない。

なお,特許異議申立人は,引用発明の認定において,「支持リング10には,吸込フランジ2と渦巻溝とを連通させるための吸込領域22が設けられ」(特許異議申立書第9ページ下から2行?下から1行。)と主張し,本件特許発明と引用発明の対比において,「引用発明における吸込領域22は,吸気フランジ2と渦巻溝を連通させるためのものであり本件発明の連通口に相当する。そしてこれ(吸込領域22)は,渦巻溝を有するステータ要素12a,12bと円筒形構造部分11a,11bから成る渦巻溝式排気機構に設けられるものである。よって,引用発明における渦巻溝式排気機構は,本件発明のネジ溝式排気機構に相当する。」(特許異議申立書11ページ5行?9行)旨主張する。
しかしながら,吸込領域22は,支持リング10(本件特許発明の「支持板部」に相当。)に設けられるものではなく,ステータ要素12a,12bとロータ要素11a,11bの間に設けられるものであるから,特許異議申立人が主張する引用発明の認定及び本件特許発明と引用発明の対比には誤りがあるため採用できない。

(2)特許法第29条第2項について
<相違点3について>
相違点3に係る本件特許発明の構成は,証拠として提示された甲第1号証や甲第2号証に何ら記載されていないし,また自明な事項でもないから,それらの記載事項を組み合わせても当業者が容易に想到し得たものではない。
<相違点4について>
甲第2号証を参照しても,図1,図2について,吸入口を中心として左右対称であるとの説明はなく,甲第2号証の図1,図2の図示内容を参照しても,図1の複流形ターボ分子ポンプの形態の気体分子ポンプや図2のホルベック形の構造とした複流形分子ポンプの形態の気体摩擦ポンプの右側のみに駆動装置12が設けられていることを考慮すると,吸入口を中心として左右対称に配置された構造とはいえない。
そうすると,図1,図2に開示される構造は,ロータ軸10が運転中に該ロータ軸と軸受13,13との間に発生し得る変位によりコニカル運動をするときの変位中心とロータエレメントの軸方向センタ位置をほぼ一致させる構造とはいえない。
そうすると,相違点4に係る本件特許発明の構成は,引用発明に甲第2号証に記載された事項を適用しても,当業者が容易に想到し得たものではない。

そして,上記相違点3,4に係る本件特許発明の構成により,本件特許発明は,軸方向両側に各々設置した排気機構のギャップ変動差を最小にして排気要素の最小化が可能となるという格別の作用効果を奏するものである。

してみれば,相違点1,2については検討するまでもなく,本件特許発明は,引用発明,甲第2号証に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)特許法第36条第2項について
ロータ軸が運転中に該ロータ軸と軸受との間に発生し得る変位によりコニカル運動をするときの変位中心は,運転状態や経年変化によっても変動するものであるから,ロータ軸が運転中に該ロータ軸と軸受との間に発生し得る変位によりコニカル運動をするときの変位中心とロータ部材の軸方向センタ位置を完全に一致させることが困難であることは,出願時における技術常識である。明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮すると,本件特許発明は,ロータ軸が運転中に該ロータ軸と軸受との間に発生し得る変位によりコニカル運動をするときの変位中心とロータ部材の軸方向センタ位置をほぼ一致させることにより,軸方向両側に各々設置した排気機構のギャップ変動差を最小にして排気要素の最小化が可能とするものである,ということが理解できる。
そして,ここでいう「ほぼ一致」とは,軸方向両側に各々設置した排気機構のギャップ変動差を許容できる範囲という所要の特性におさめるための発明特定事項であって,明確でないとはいえない。
したがって,本件特許発明は明確であり,本件特許発明に係る請求項の記載は,特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものである。

第6.むすび
以上のとおりであるから,特許異議申立書に記載した異議申立ての理由によっては,本件特許発明に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-13 
出願番号 特願2013-523853(P2013-523853)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (F04D)
P 1 652・ 537- Y (F04D)
P 1 652・ 113- Y (F04D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 秀之  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 藤井 昇
堀川 一郎
登録日 2016-08-19 
登録番号 特許第5989645号(P5989645)
権利者 エドワーズ株式会社
発明の名称 ネジ溝式真空ポンプ及びこれを使用した真空排気システム  
代理人 清田 栄章  
代理人 林 孝吉  
代理人 江崎 光史  
代理人 中村 真介  
代理人 篠原 淳司  
代理人 鍛冶澤 實  
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