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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  A61K
管理番号 1329135
異議申立番号 異議2017-700283  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-17 
確定日 2017-06-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第5996824号発明「高純度PTH含有凍結乾燥製剤およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5996824号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 [第1]手続の経緯

特許第5996824号の請求項1?3に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年5月31日(優先権主張 平成23年6月7日)を国際出願日とする特願2013-519467号の一部を平成27年9月11日に新たな特許出願とした特願2015-179919号の一部を平成28年4月4日に新たな特許出願とした特願2016-75043号の一部を平成28年6月23日に新たな特許出願(特願2016-124399号)としたものであって、平成28年9月2日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人岡幹男(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


[第2]本件発明

本件特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」という。また、これらをまとめて単に「本件発明」ということがある。)。

「 【請求項1】
高純度のPTHペプチドを有効成分として含有する凍結乾燥製剤であって、下記の、
1)類縁物質3’:
ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
2)類縁物質4’:
ヒトPTH(1-34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
【化1】


3)類縁物質7’:
ヒトPTH(1-34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
4)類縁物質8’:
ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
5)類縁物質9’:
ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
6)類縁物質10’:
ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(c-1)又は(c-2)で示されるトリプトファン一酸化物残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、及び
【化2】


7)類縁物質11’:
ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物
【化3】


を含み、
8)類縁物質1’:
ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
9)類縁物質2’:
ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
10)類縁物質5’:
ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、及び
11)類縁物質6’:
ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物
を含まず、
但し、前記高純度の凍結乾燥製剤とは、当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量も1.0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味する、前記PTHペプチド含有凍結乾燥製剤。

【請求項2】
前記PTHペプチドがヒトPTH(1-34)である、請求項1に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。

【請求項3】
PTHペプチド含有凍結乾燥製剤がガラス製バイアルに収容された製剤である、請求項1又は2に記載のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤。 」


[第3]申立理由の概要

申立人は、証拠として以下の甲第1?4号証を異議申立書(以下、「申立書」という。)の添付書類として提出し、以下の申立理由1?3を主張している。

1. 証拠方法

甲第1号証: 国際公開第02/02136号(以下、「甲1」という。)

甲第2号証: Ji et al.,”Methionine,Tryptophan,and Histidine Oxidation in a Model Protein, PTH: Mechanisms and Stabilization”,Journal of Pharmaceutical Sciences,Vol.98,No.12,pp4485-4500,December 2009(以下、「甲2」という。)

甲第2号証の1:甲2の抄訳

甲第3号証: 国際公開第2010/030670号(以下、「甲3」という。)

甲第3号証の1:甲3の翻訳(特表2012-502102号公報)(以下、「甲3の1」という。)

甲第4号証: 旭化成ファーマ株式会社,“副甲状腺機能診断薬 テリパラチド酢酸塩静注用100「旭化成」”,販売開始2008年6月(以下、「甲4」という。)

2. 申立理由

(1) 申立理由1
本件発明1?3は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2) 申立理由2
本件発明1?3は、甲1に記載の発明並びに甲2の記載事項及び/又は甲3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3) 申立理由3
本件発明1?3は、公然実施された発明であって、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。


[第4] 甲号証の記載事項

甲1?4には、それぞれ以下の記載がある(下線は当合議体による。以下同様)。

なお、甲2及び甲3は英文であるため、甲2は当合議体による部分訳に基づく日本語文にて、また、甲3は申立人がその翻訳として提出した甲3の1の記載に基づく日本語文にて、それぞれ記す。

1. 甲1の記載事項

(摘記事項1-1) 請求の範囲第1?8項
「 1.ヒト副甲状腺ホルモンペプチドまたはその誘導体と、ヒト副甲状腺ホルモンペプチドまたはその誘導体に対して化学当量未満の酢酸からなることを特徴とする医薬用成分。
2.ヒト副甲状腺ホルモンペプチドまたはその誘導体と酢酸との塩からなる医薬用成分であって、酢酸がヒト副甲状腺ホルモンペプチドまたはその誘導体に対して化学当量未満である請求項1記載の医薬用成分。
3.ヒト副甲状腺ホルモンペプチドまたはその誘導体が、アミノ酸番号1?84からなるペプチドである場合は該ペプチドと該ペプチドに対して3重量%以下の酢酸からなり、また、アミノ酸番号1?34からなるペプチドである場合は該ペプチドと該ペプチドに対して6重量%以下の酢酸からなる請求項1または2記載の医薬用成分。
4.ヒト副甲状腺ホルモンペプチドまたはその誘導体が、アミノ酸番号1?34からなるペプチドである場合は該ペプチドと該ペプチドに対して4重量%以下の酢酸からなる請求項1?3のいずれか1項に記載の医薬用成分。
5.凍結乾燥組成物である請求項1?4のいずれか1項に記載の医薬用成分。
6.経鼻投与用である請求項1?5のいずれか1項に記載の医薬用成分。
7.ヒト副甲状腺ホルモンペプチドまたはその誘導体を有効成分とする医薬組成物であって、請求項1?6のいずれか1項に記載の医薬用成分を含有することを特徴とする経鼻投与用医薬組成物。
8.凍結乾燥部と添付溶解液部で構成され、請求項1?6のいずれか1項に記載の医薬用成分を凍結乾燥部に含有する用時溶解型製剤。 」

(摘記事項1-2) 明細書第1頁第4?5行
「 本発明は、良好な安定性を有し、かつ、医薬組成物に使用されるとき使用感に優れたヒト副甲状腺ホルモンの医薬用成分に関する。 」

(摘記事項1-3) 明細書第1頁第9?15行
「 ヒト副甲状腺ホルモンペプチド(以下、hPTHという)は、骨代謝に関与し、強い骨形成効果を有する生理活性ペプチドである(・・・)。hPTHは、生体内では通常84個のアミノ酸残基で構成されるペプチドである(以下、hPTH(1-84)という)。また、hPTHのアミノ酸番号1から34の34個のアミノ酸残基で構成されるhPTHの誘導体(以下、hPTH(1-34)という)もhPTH(1-84)と同様の薬理作用を有している・・・ 」

(摘記事項1-4) 明細書第3頁第25行?第4頁第7行
「 本発明者らは、経鼻投与用医薬組成物の提供を課題として鋭意研究を行い、hPTHが鼻腔内投与時に酸臭と刺激を生じ使用感を満足せず、またその原因が精製工程で用いられ、hPTHとの塩または付着物として微量に存在する酢酸であるとの知見を得て、酢酸含量を減じた医薬用成分を取得してこれを評価した結果、驚くべきことに該成分が良好な安定性を有し、また該成分が医薬組成物に使用されるとき使用感に優れ、さらに製剤化に際し通常用いられる担体、賦形剤等の成分はもとより、吸収改善、固体安定化等を目的として種々の他の機能性成分を適宜配合することができる良好な配合変化特性を有することを見い出し、本発明を完成するにいたった。 」

(摘記事項1-5) 明細書第18?20頁参考例1
「 hPTH(1-34)の製造(1)
大腸菌由来のβ-ガラクトシダーゼの誘導体をコードするDNAとhPTH(1-34)をコードするDNAをプロセッシング酵素であるKex2プロテアーゼの切断モチーフ(Lys-Arg)を含むリンカーをコードするDNAでつないだhPTH(1-34)のキメラタンパク質をコードする遺伝子を含む発現プラスミドpG117S4HPPH34(特開平9-29660号公報)を、・・・hPTH(1-34)を溶出させ、4gのhPTH(1-34)を含む精製画分を得た。
残りの封入体60gを同様に処理して得られた5gのhPTH(1-34)を含む精製画分をあわせ、減圧下でアセトニトリルを留去し、5v/v%酢酸でhPTH(1-34)濃度を10mg/mLに調整した。この溶液を15mLずつガラスバイアルに充填し、凍結乾燥することで、hPTH(1-34)9g(150mg×60本)を得た。この物質の分子量、アミノ酸組成比は以下に示すとおりであり、この物質がhPTH(1-34)であることが確認された。
・・・ 」

(摘記事項1-6) 明細書第32?34頁試験例1、並びに、図1及び図2
「 試験例1.hPTH(1-34)の安定性(1)
hPTHとの塩または付着物として含まれる酢酸を除去したhPTHの安定性について検討した。
ガラスバイアルに充填、密閉した参考例1で得られたhPTH(1-34)150mgを含む酢酸含量9.5%の凍結乾燥品を・・・保管庫で40±1℃の条件下、6ヶ月保存し、保存開始時、保存後に逆相HPLCを行い、保存開始時に存在する分解(副成)物及び保存後に生じる分解(副成)物を単離し、それらの構造を調べた。結果を表2に示す。
また、保存後の逆相HPLCクロマトグラムを図1に示す。hPTH(1-34)ピークの後方(保持時間13分?17分)にB、CおよびDの3本のピークが現れた。これらのピーク面積%は、表2に示すように、それぞれB;3.9%、C;6.9%、D;3.0%で、合計13.8%になりhPTH(1-34)劣化の主因であった。また、それぞれのピークの構造解析を行った結果、Bが[Nε-acetyl-Lys^(13)]-hPTH(1-34)と[Nε-acetyl-Lys^(26)]-hPTH(1-34)の混合物、Cが[Nα-acetyl-Ser^(1)]-hPTH(1-34)、Dが[Nε-acetyl-Lys^(27)]-hPTH(1-34)であった。
次に実施例1(3)で得られた酢酸含量2.9%のhPTH(1-34)凍結乾燥品について同様に安定性について検討した。
ガラスバイアルに充填、密閉したhPTH(1-34)約150mgを含む酢酸含量2.9%の凍結乾燥品を・・・保管庫で40±1℃の条件下、6ヶ月保存し、保存開始時、保存後に逆相HPLCを行い、保存開始時に存在する分解(副成)物及び保存後に生じる分解(副成)物を単離し、それらの構造を調べた。結果を表3に示す。
また、保存後の逆相HPLCクロマトグラムを図2に示す。図2から明らかなように、酢酸含量9.5%のhPTH(1-34)凍結乾燥品と比較し、ピークB、CおよびDの面積がいずれも減少した。また、表3に示すように、ピークB、CおよびDの面積の合計は、保存開始時は酢酸含量9.5%のhPTH(1-34)凍結乾燥品と同様、0.2%であったが、保存後は、3.6%であり、酢酸含量9.5%のhPTH(1-34)凍結乾燥品の13.8%と比較して著しく減少した。
従って、hPTHの場合、アセチル体が主要分解物であり、塩または付着物として存在する酢酸が安定性を低下させるため、hPTHとの塩または付着物として存在する酢酸含量を減らすことで、hPTHの安定性が向上することが判明した。すなわち、酢酸の減量により良好な安定性を有する医薬用成分が提供されることが示された。



(摘記事項1-7) 明細書第15頁第3行?第16頁第11行
「 本発明の経鼻投与用医薬組成物の調製は公知の方法に準じて行うことができる。
例えば、酢酸が減じられたhPTHの医薬用成分をそのまま医薬組成物として用いてもよく、また酢酸が減じられたhPTHの医薬用成分に必要に応じて製剤化に際し通常用いられる担体、賦形剤等の成分、有機酸あるいは種々の機能性成分を加えて配合して医薬用成分として用いてもよい。配合は、有機酸の酢酸との置換の他、添加により行うことができ、例えばhPTHの医薬用成分に、必要に応じて製剤化に際し通常用いられる担体、賦形剤等の成分、有機酸あるいは種々の機能性成分からなる混合物を蒸留水に一度溶解して凍結乾燥し、均一な組成物を得ることができる。
あるいはhPTHの医薬用成分と必要に応じて製剤化に際し通常用いられる担体、賦形剤等の成分を蒸留水に一度溶解して凍結乾燥した後、これに必要に応じて有機酸あるいは種々の機能性成分を合わせて溶解し、凍結乾燥することにより、均一な組成物を得ることもできる。
あるいはhPTHの医薬用成分と有機酸あるいは種々の機能性成分を蒸留水に一度溶解して凍結乾燥した後、これに必要に応じて製剤化に際し通常用いられる担体、賦形剤等の成分を合わせて溶解し、凍結乾燥することにより、均一な組成物を得ることもできる。
本発明の医薬用成分は、投与方法に応じた種々の剤型に製剤化することが可能であり、直腸、鼻腔、口腔などの粘膜投与ができる剤型に製剤化することが可能である。また、本発明の経鼻投与用医薬組成物は、経鼻薬の形態で投与することが好ましい。
本発明の経鼻投与用医薬組成物の好ましい例としては、凍結乾燥組成物として提供された本発明の医薬用成分が凍結乾燥部に含有され、これに溶解液部が添付された用時溶解型製剤が挙げられる。
上記した有機酸及び吸収促進剤としてのクエン酸、アジピン酸およびグリコール酸等の有機酸は、凍結乾燥部にhPTHとの塩もしくは付着物または添加物として本発明の医薬用成分をなすか、または溶解液部に添加溶解されて用いられてもよい。
また、本発明の経鼻投与用医薬組成物の投与は公知の方法に準じて行うことができ、例えば、本発明の経鼻投与用医薬組成物は経鼻薬として用いる製剤として、例えば、該医薬組成物を入れた容器に噴霧器を取りつけ、ノズルの先端を鼻腔内に入れてスプレーする、スプレーによる鼻腔内投与方法等が適用できる。 」

(摘記事項1-8) 明細書第48頁製剤例1
「 ・・・医薬用成分として実施例2で得られた酢酸含量2.1%の凍結乾燥品(バイアル10本、hPTH(1-34)1.5g)を・・・溶解した。・・・この溶液72.0mLに精製水を25.9mL加え、濃度を15mg/mLに調整した。このように調整した15mg/mLのhPTH(1-34)溶液97mLをとり、先に調製した27w/v%精製白糖水溶液48.5mLと混合し、精製白糖濃度9w/v%、hPTH(1-34)濃度10mg/mLのhPTH(1-34)水溶液を約145mL得た。該溶液を3mLずつバイアル47本に充填し、・・・凍結乾燥機(・・・)で凍結乾燥し、バイアルあたり270mgの精製白糖と30mgのhPTH(1-34)を含む安定な医薬組成物を得た。 」

2. 甲2の記載事項

(摘記事項2-1) 第4485頁右欄第1行?第4486頁左欄第11行
「 導入
酸化は、医薬品中のタンパク質についての主要な化学的分解経路の一つである。・・・システイン(Cys)、メチオニン(Met)、トリプトファン(Trp)、ヒスチジン(His)、及びチロシン(Tyr)残基の側鎖は、この順序で、酸化を受けやすい。Cysのチオール基は、最も反応性の高い官能基である;したがって、薬学的タンパク質で非置換のCysを含むものはほとんど見受けられない。この論文では、Cysの酸化は取り扱わない;代わりに我々は、Met,His,及びTrpの酸化に焦点を当てるつもりである。酸化の他の様式である光酸化もここでのディスカッションからは排除する。 』

(摘記事項2-2) 第4486頁左欄第12行?同右欄第9行
「 Met酸化
Met酸化は、Metスルホキシドを形成し(Met[O])、強い条件下では、スルホンを形成する。Met酸化が見られる薬学的タンパク質の例を、関連する研究(時系列)及び使用した酸化剤とともに、下記する。
・・・
・副甲状腺ホルモン(PTH)(・・・、H_(2)O_(2)使用)
・・・ 」

(摘記事項2-3) 第4486頁右欄第34行?第4487頁左欄第8行
「 Trp酸化
Trp酸化により、複数の産物が形成される。水溶液中のTrp単体、低分子ペプチド及びリゾチームにおけるTrp残基、並びにウシα-クリスタリンにおけるTrp残基についての安定性の研究により、主要な分解物が、5-ヒドロキシ-Trp、オキシ-インドールアラニン、キヌレニン及びN-ホルミルキヌレニンであることが明らかとなった。・・・ 」

(摘記事項2-4) 第4488頁左欄第25行?同右欄第8行
「 モデル・タンパク質の選択
PTH(1-34)が、その三次構造が最小であって、3種類の望ましいアミノ酸(1個のTrp、2個のMet、及び3個のHis)をすべて含む配列であること;逆相高速液体クロマトグラフィー(rp-HPLC)によるアッセイが容易であること;及び入手しやすいこと故に、選択された。・・・ 」

(摘記事項2-5) 第4489頁左欄第46行?同右欄第6行
「 rp-HPLC
酸化された及び未処理のPTHの分析が、C4(・・・)カラムを用いた・・・HPLC機器で行われた。溶液Aは0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液であり、溶液Bは0.08%TFAのアセトニトリル溶液であった。20%B?80%Bまでの直線勾配を用いて、流速0.2mL/min、45分間で、サンプルが分析された。カラム温度は30℃に設定された。UV検出は214nmに設定された。 」

(摘記事項2-6) 第4490頁左欄第24?29行
「 PTHにおけるMet及びTrp酸化
図1は、H_(2)O_(2)と反応させられたPTHのrp-HPLCクロマトグラムを示しており、Met18[O]-PTH、Met8[O]-PTH、及び二重に酸化されたPTHが検出されている;それらの同定は、LC/MSによって確認された。 」

(摘記事項2-7) 第4490頁右欄第30行?第4491頁左欄第7行
「 PTHを、3種のモデル酸化剤(H_(2)O_(2)、H_(2)O_(2)+Fe(II)、及びAAPH)によって酸化された。表1は、これら分解サンプルにおけるPTHのMet8及びTrp23における総体的な酸化の状況を要約する。APPHで6時間及び24時間処理したとき、それぞれ、総計で、PTHのTrp残基の43%及び84%が酸化された。したがって、図2に示された新たなピークは、Trp[O]-修飾PTH種と同定された。トリプシンペプチドを含む酸化されたMet18は逆相カラム上に保持されなかった;したがって、Met18酸化に関するデータは載せなかった。



3. 甲3の記載事項(決定注:[ ]は対応する甲3の1の記載箇所である。)

(摘記事項3-1) 第2頁第9?15行[【0004】]
「 感受性の順番において、酸化に対して特に弱いのはシステイン(Cys)、メチオニン(Met)、トリプトファン(Trp)、ヒスチジン(His)、およびチロシン(Tyr)残基の側鎖である。・・・ 」

(摘記事項3-2) 第2頁第16行?第3頁第8行[【0005】]
「 メチオニン酸化はMetスルホキシド(Met[O])を形成する。・・・ 」

(摘記事項3-3) 第3頁第18行?第4頁第2行[【0007】]
「 トリプトファンの酸化
トリプトファンの酸化に関しては、多数の生成物が形成される。水性溶液中のトリプトファン(・・・)、および小ペプチドおよびリゾチウム(・・・)中の、およびウシα-クリスタリン(・・・)中のトリプトファン残基の安定性の研究から、5-ヒドロキシ-トリプトファン、オキシ-インドールアラニン、キヌレニンおよびN-フォルミルキヌレニンである主な分解物が明らかに確認された。・・・ 」


(摘記事項3-4) 第25頁第18頁?第29頁表2[【0074】?【0085】]
「 実施例1
蛋白質酸化の実験:酸化的分解メカニズムに対する有効な安定化剤としてのメチオニンおよびトリプトファン
本実施例は、抗体および蛋白質の酸化を妨げるための、単独で、およびメチオニンと組合せたトリプトファンの使用を示す。
実験方法
材料:
・・・副甲状腺ホルモン(1-34)(SVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNF,・・・)は・・・から購入した。この報告においては、それは単にPTHという。・・・

試料の調製
pH5.0の20mM酢酸アンモニウム緩衝液中で1:42(蛋白質:オキシダント)のモル比率で、PTH(0.1mg/mL)を、各々、H_(2)O_(2)、H_(2)O_(2)/Fe(II)、t-BHP、t-BHP/Fe(II)、またはAAPHと混合した。Fe(II)の濃度は0.2mMであった。・・・

逆相クロマトグラフィー(rp-HPLC)
実験は、C4(・・・)を用いて・・・HPLC機器で行った。溶媒AはH20中の0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)であって、溶媒Bはアセトニトリル中の0.08%TFAであった。試料は、45分以内で、0.2mL/分の流速にて20%Bないし80%Bの直線状グラジエントで分析した。カラムの温度は30℃に設定した。UV検出は214nmに設定した。

トリプシン消化
・・・

トリプシン分解ペプチドマップのLC/MS/MS特徴付け:
トリプシン消化後のPTH試料を・・・HPLCシステムで分離し、ペプチドの質量および配列はオンライン-カップルドLTQ直線状イオンートラップ・マス・スペクトロメーター(・・・)で決定した。・・・

・・・引き続いて、酸化されたペプチドイオンのピーク面積を酸化されたおよび酸化されていないペプチドのピーク面積の総和で割ることによって、酸化の相対的パーセンテージを計算した。

結果および考察
部位非特異的酸化、PTH:
金属結合部位を含有しないPTHは、非-部位-特異的酸化を実験するためのモデル蛋白質である。反応は溶媒に暴露された残基に対して起こる。0.1mg/mLのPTHを40℃にて全て1mMのオキシダントと6および24時間反応させた。PTHに対するオキシダントのモル比率は41.2であった。合計5つのオキシダントを用いた、すなわち、Fe(II)の有りまたは無しでのAEPH(決定注:「AAPH」の誤記と認める。)、H_(2)0_(2)およびtBHPであった。反応体を表1にまとめる。試料は、rp-HPLCおよびトリプシン分解ペプチドのマッピング、続いての、LC/MS/MS特徴付けによって分析した。
・・・
図3は、H_(2)O_(2)と反応させたPTHのrp-HPLCクロマトグラムを示し、そこでは、Met18-修飾、Met8-修飾、および二重に修飾されたPTH種が検出された。この傾向は、Met8よりも酸化され、続いて、二重に酸化されたMet18でのrp-HPLCによって検出されたように3つのMet-酸化種を報告した・・・によって作成されたデータと合致する。図4はAAPHと反応したPTHのrp-HPLCクロマトグラムを示し、図3に示されたそれとは非常に異なるパターンを明らかにする。トリプレットピークの2つの組は、PTHおよびMet[O]ピークの間の保持時間に出現した。個々のピークは十分に特徴付けされなかったが、これらの新しいピークはTrp[O]修飾PTH種であったことが、トリプシン消化、続いての、LC/MS/MSによって後に確認された。PTH消化物のトリプシン分解ペプチドマッピングにより、Met酸化生成物に加えて、PTHがAAPHで処理された場合には、M+4、M+32、M+16(ここに、MはPTHのトリプシン分解ペプチドVGWLRの質量である)の分子質量を持つ3つのトリプシン分解ペプチド種が生じたことが判明した。ペプチド種のMS/MSスペクトルの分析の結果、3つのTrp酸化誘導体、すなわち、クヌレニン(M+4)、L-フォルミルクヌレニン(M+32)および5-ヒドロキシトリプトファンまたはOX-インドールアラニン(M+16)としてのそれらの帰属がもたらされた。それらの化学構造は図5に示される。・・・

表2は、これらの分解された試料中でのPTHのMet8およびTrp23の総じての酸化をまとめる。一緒にすると、各々、6時間および24時間処理した場合、PTHのTrp残基の43%および84%がAAPHによって酸化された。よって、図2に示された新しいピークは、Trp[O]修飾PTH種として同定された。実験ではHisの酸化は観察されなかった。トリプシン分解ペプチドを含有する酸化されたMet18は逆相カラムに保持されなかった。表2は、これらの分解された試料中でのPTHのMet8およびTrp23の総じての酸化をまとめる。



4. 甲4の記載事項

(摘記事項4-1) 題目
「処方せん医薬品 副甲状腺機能診断薬 テリパラチド酢酸塩静注用100「旭化成」(決定注:商品名と認める。以下においても同様。)」

(摘記事項4-2) 第1頁右上部
「薬価収載 2008年6月、販売開始 2008年6月」

(摘記事項4-3) 第1頁左欄【組成・性状】
「本剤は、白色の固体又は粉末で用時溶解して用いる凍結乾燥製剤である。
・・・
成分・含量(1バイアル中) テリパラチド酢酸塩 100テリパラチド酢酸塩単位」

(摘記事項4-4) 第3頁左欄






[第5] 当合議体の判断

1. 申立理由1(新規性違反)について

申立理由1の要旨は、上記[第3]2.(1)で述べたとおり、本件発明1?3は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではない、というものである。

(1) 本件発明1について
ア. 甲1に記載された発明
以下、甲1の表2?4等に記載の各「分解(副成)物」を次のとおりに記載する。

「ピークX1」に対応する分解(副成)物[Met(O)^(8)]-hPTH(1-34)を「類縁物質X1」という。
「ピークX2」に対応する分解(副成)物[Met(O)^(18)]-hPTH(1-34)を「類縁物質X2」という。
「ピークB^(*)」に対応する分解(副成)物[Nε-AcLys^(13)]-hPTH(1-34)と[Nε-AcLys^(26)]-hPTH(1-34)の混合物を「類縁物質B」という。
「ピークC」に対応する分解(副成)物[Nα-AcSer^(1)]-hPTH(1-34)を「類縁物質C」という。
「ピークD」に対応する分解(副成)物[Nε-AcLys^(27)]-hPTH(1-34)を「類縁物質D」という。

上記摘記事項1-1?1-8を踏まえると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「 以下の(1)及び(2)のいずれかであるhPTH(1-34)を含む凍結乾燥品。
(1)ガラスバイアルに充填、密閉した、hPTH(1-34)を含む酢酸含量9.5%の凍結乾燥品であって、
hPTH(1-34)を99.6%含み、かつ、
逆相HPLCクロマトグラムにより検出される分解(副成)物が以下の(A)?(F)である、前記凍結乾燥品。
(A)類縁物質X1が0.1%以下、
(B)類縁物質X2が0.1%以下、
(C)類縁物質Bが検出されず、
(D)類縁物質Cが0.2%、
(E)類縁物質Dが検出されず、
(F)未同定分解物が0.1%。

(2)ガラスバイアルに充填、密閉した、hPTH(1-34)を含む酢酸含量2.9%の凍結乾燥品であって、
hPTH(1-34)を99.5%含み、かつ、
逆相HPLCクロマトグラムにより検出される分解(副成)物が以下の(A)?(F)である、前記凍結乾燥品。
(A)類縁物質X1が0.1%、
(B)類縁物質X2が0.1%、
(C)類縁物質Bが検出されず、
(D)類縁物質Cが0.2%、
(E)類縁物質Dが検出されず、
(F)未同定分解物が0.1%。 」
(以下、「引用発明1」という。)

なお、引用発明1の「凍結乾燥品」は、凍結乾燥品の保存安定性を検討する際の保存開始時のものであって、そのうち上記(1)の凍結乾燥品(以下、「引用発明1-1」という。)は、表2の「開始時」の欄に示される凍結乾燥品に対応し、また、上記(2)の凍結乾燥品(以下、「引用発明1-2」という。)は表3の「開始時」の欄に示される凍結乾燥品に対応する。

イ. 対比及び判断
(ア) 引用発明1の「hPTH(1-34)」は、本件発明1の「PTHペプチド」に相当する。
また、本件発明1の「PTH類縁物質」が「PTHペプチド含有凍結乾燥製剤由来の試料をHPLCに付した際に、当該クロマトグラム上で有効成分であるPTHペプチドとは異なるピークとして検出されるもの」(本件特許の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)【0075】)であり、かつ、当該HPLCを、逆相カラムであるオクタデシルシリル化シリカゲルを充填したカラムを用いる条件で行うことが定義されていること(本件特許明細書【0086】?【0089】)を踏まえると、引用発明1の「逆相HPLCクロマトグラムにより検出される分解(副成)物」、「類縁物質X1」、「類縁物質X2」、「類縁物質B」、「類縁物質C」、「類縁物質D」及び「未同定分解物」は、いずれも本件発明1の「PTH類縁物質」に相当する。
さらに、引用発明1の「類縁物質X1」及び「類縁物質X2」における「[Met(O)^(8)]」及び「[Met(O)^(18)]」なる化学構造は、技術常識を踏まえるとメチオニンスルホキシド残基であると認められるから(要すれば、上記摘記事項3-2参照)、当該「類縁物質X1」及び「類縁物質X2」はそれぞれ、本件発明1の「類縁物質7’」及び「類縁物質8’」に相当する。
加えて、甲1の表2及び表3の記載(上記摘記事項1-6)を踏まえると、引用発明1の「凍結乾燥品」中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する各類縁物質の量はいずれも本願発明1の範囲である「1.0%以下」に該当し、また、当該「凍結乾燥品」中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量は本願発明1の範囲である「5.0%以下」に該当するといえるから、引用発明1の凍結乾燥品の組成は、本件発明1の「高純度のPTHペプチドを有効成分として含有する」なる発明特定事項と一致する。

よって、本件発明1と引用発明1とを対比すると、両者は
「高純度のPTHペプチドを有効成分として含有する凍結乾燥品であって、
類縁物質7’、及び、類縁物質8’を含み、
但し、前記高純度の凍結乾燥品とは、
当該凍結乾燥品中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量も1.0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味する、
前記PTHペプチド含有凍結乾燥品。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1が「凍結乾燥製剤」であるのに対して、引用発明1は「凍結乾燥品」である点

(相違点2)
本件発明1の「凍結乾燥製剤」が類縁物質3’?4’及び同7’?11’を含み、かつ、類縁物質1’?2’及び同5’?6’を含まないものであるのに対し、引用発明1の「凍結乾燥品」は類縁物質7’?8’、C及び未同定分解物を含み、かつ、類縁物質B及びDを含まず、さらに類縁物質1’?6’及び同9’?11’の有無が明示されていないものである点

(相違点3)
本件発明1の「凍結乾燥製剤」は、それが入れられた容器の形態及び酢酸含量が特定されたものでないのに対し、引用発明1の「凍結乾燥品」は、ガラスバイアルに充填、密閉され、かつ、酢酸含量が9.5%(引用発明1-1)又は2.9%(引用発明1-2)であるものとして特定されている点

(イ) さらに上記(ア)の相違点2に関し、引用発明1の凍結乾燥品が類縁物質1’?6’及び同9’?11の有無が明示されていないものであるというにとどまらず、実質的にも、甲1の記載から当該凍結乾燥品がそれらの類縁物質を含むものであるとはいえない理由を以下に述べる。

引用発明1の凍結乾燥品に含まれる「未同定分解物」について、引用発明1の凍結乾燥品の保存後のHPLCクロマトグラムである甲1の図1及び図2(上記摘記事項1-6)をみると、同定されていないピーク(すなわち、同表2及び表3の「未同定分解物」に対応するものと認める。)はおよそhPTH(1-34)より溶出の遅い類縁物質B?Dに係るピークの周辺に存在しており、その一方で、本件の図1及び図2に示される凍結乾燥製剤のHPLCクロマトグラムにおいて、類縁物質1’?6’及び同9’?11’に対応するピークはhPTH(1-34)より溶出が速い位置に存在している。
そうすると、甲1の記載から、引用発明1の凍結乾燥品に含まれる「未同定分解物」に類縁物質1’?6’及び同9’?11’が含まれているとはいえない。

よって、引用発明1の凍結乾燥品が「類縁物質3’?4’及び同7’?11’を含み、かつ、類縁物質1’?2’及び同5’?6’を含まない」ものであるとはいえない。

(ウ) 上記(ア)及び(イ)で述べた理由を踏まえると、本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえない。

ウ. 申立人の主張について
(ア) 申立人の主張
申立人の主張は、概略、以下のとおりのものである。

上記摘記事項1-5及び同1-6に記載された参考例1及び表2を踏まえると、甲1には、
「 hPTH(1-34)を有効成分として含有する凍結乾燥品であって、
8位Met酸化体(「類縁物質7’」に相当)および18位Met酸化体(「類縁物質8’」に相当)を含み、
当該凍結乾燥品中のhPTH(1-34)量と全分解物量の和に対するいずれの分解物の量も0.2%以下であり、hPTH(1-34)量と全分解物量の和に対する全分解物の量が0.4%以下である、凍結乾燥製品 」(以下、「甲1発明」という。)
が記載されているといえる。
また、本件発明1と甲1発明との相違点の1つである、
「 本件特許発明1では、類縁物質3’?5’および同7’?11’を含み、かつ、同1’、同2’および同6’を含まないものであるのに対し、甲1発明では、類縁物質7’と8’を含むことしか明示されておらず、本件特許発明1で言及されている他の類縁物質に相当する可能性のある記載としては「未同定分解物0.1%」としか記載がない点 」(申立書第21頁第17?21行)(決定注:上記記載は「 本件特許発明1では、類縁物質3’?4’および同7’?11’を含み、かつ、同1’、同2’、同5’および同6’を含まないものであるのに対し、甲1発明では、類縁物質7’と8’を含むことしか明示されておらず、本件特許発明1で言及されている他の類縁物質に相当する可能性のある記載としては「未同定分解物0.1%」としか記載がない点 」(下線は合議体で付した。)の誤記と認める。)
に関し、甲1発明は、既に、本件発明1よりも、より「高純度」のhPTH(1-34)凍結乾燥製剤であるから、類縁物質1’?11’についての、本件発明1にいうところの「含む」、「含まない」(換言すれば、特定のHPLC条件下、「検出される」、「検出されない」)について多少の相違があるとしても、そのような相違は、実質的な相違とは認められない。

(イ) 申立人の主張についての当合議体の判断
申立人は、上記(ア)に述べたとおり、本件発明1よりも、より「高純度」のhPTH(1-34)凍結乾燥製剤である甲1発明は、本件発明1にいうところの「含む」、「含まない」(特定のHPLC条件下、「検出される」、「検出されない」)について多少の相違があるとしても、そのような相違は実質的な相違とは認められない旨主張する。
しかしながら、本件発明1が甲1に記載された発明であるというためには、甲1に記載された発明(申立人の主張においては甲1発明)が、本件発明1のすべての発明特定事項と一致するものであることが示されなければならない。
この点は、本件特許明細書が、高純度、すなわちPTH類縁物質の含量が許容できるまで低いレベルであるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を提供するという課題を解決する発明を記載したものであることや、本件発明1における各類縁物質を含み又は含まないとする発明特定事項が、本件特許明細書に記載の特定のHPLC条件下における各類縁物質の検出の有無により定義されるものであることによって、左右されるものではない。
そうすると、本件発明1の各類縁物質について、「含む」、「含まない」を個別に議論することは何ら技術的意義を有するものではなく、むしろ、「高純度」であるか否かが本件発明1の特徴たり得るものであるから、各類縁物質に係る本件発明1と甲1発明との多少の相違は実質的な相違とは認められないという申立人の上記主張は、独自の見解に基づくものであり、甲1発明が本件発明1のすべての発明特定事項と一致することを具体的な根拠を示した上で論理的に説示したものではないので、採用することはできない。
また、本件発明1と甲1発明とが相違することは、上記ア.?イ.で述べた理由から明らかであり、さらに上記(ア)に記載した申立人の主張全体を検討しても、甲1発明が、本件発明1に係る「類縁物質3’?4’及び同7’?11’を含み、かつ、類縁物質1’?2’及び同5’?6’を含まない」という発明特定事項を満たすといえる合理的な根拠は見いだせない。
したがって、本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえない。

(2) 本件発明2?3について
本件発明2?3は本件発明1をさらに減縮した発明であるから、それら本件発明2?3もまた、上記(1)で説示した本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(3) 小括
上記(1)及び(2)での検討のとおりであるから、申立人が主張する申立理由1からは、本件発明1?3が特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないとはいえない。


2. 申立理由2(進歩性違反)について

申立理由2の要旨は、上記[第3]2.(2)で述べたとおり、本件発明1?3は、甲1に記載の発明並びに甲2の記載事項及び/又は甲3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、というものである。

(1) 本件発明1について
ア. 判断
(ア) 上記1.(1)ア.?イ.で述べた理由と同様に、甲1には引用発明1が記載されており、また、本件発明1と引用発明1とは上記相違点1?3において相違するから、以下、これらの相違点について判断する。

(イ) 事案に鑑み、最初に上記相違点2について判断する。
上記1.(1)イ.で述べた理由と同様に、甲1には、引用発明1の凍結乾燥品における類縁物質1’?6’及び同9’?11’の有無について明示の記載がなく、また、甲1の図1及び図2並びに表2及び表3、並びに、本件の図1及び図2の記載を踏まえると、甲1の記載から、引用発明1の凍結乾燥品に含まれる「未同定分解物」に類縁物質1’?6’及び同9’?11’が含まれているとはいえない。
また、甲1には、引用発明1の凍結乾燥品におけるPTH類縁物質の組成を、本件発明1に係る「類縁物質3’?4’及び同7’?11’を含み、かつ、類縁物質1’?2’及び同5’?6’を含まない」という特定の構成とすることについて記載も示唆もない。
さらに、甲2及び甲3にも本件発明1に係る当該特定の構成は記載も示唆もされていない。

加えて、以下に述べる理由から、引用発明1-1及び引用発明1-2に甲2及び/又は甲3の記載事項を組み合わせる動機付けは見いだせず、また引用発明1-2にこれらを組み合わせたとしても、本件発明1を容易に想到することができたとはいえない。
まず引用発明1-1について述べると、甲1は、経鼻投与用医薬組成物の提供を課題として鋭意研究を行ったところ、「hPTHが鼻腔内投与時に酸臭と刺激を生じ使用感を満足せず、またその原因が精製工程で用いられ、hPTHとの塩または付着物として微量に存在する酢酸であるとの知見を得て、酢酸含量を減じた医薬用成分を取得してこれを評価した結果、驚くべきことに該成分が良好な安定性を有」する等の効果を奏するものであったという発明をもっぱら記載したものである(上記摘記事項1-4)。さらに、甲1の請求の範囲及び試験例1の記載を踏まえると(上記摘記事項1-1及び同1-6)、酢酸含量9.5%のhPTH(1-34)凍結乾燥品である上記引用発明1-1はいわゆる比較例であるといえる。
以上の事項を踏まえると、甲1に酢酸による安定性が低い比較例の凍結乾燥品として記載された引用発明1-1をさらに改善する動機付けがなく、また、甲2及び甲3の記載事項をみても、それらを引用発明1-1と組み合わせる動機付けは見いだせない。
次に引用発明1-2について述べると、甲2及び甲3には、タンパク質中で、感受性の順番において、酸化に対して特に弱いのはシステイン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、及びチロシン残基の側鎖であることや、PTHのメチオニン残基及びモノクローナル抗体中のトリプトファン残基が酸化されること、PTHに各種の酸化剤を作用させた際に、メチオニン残基やトリプトファン残基において酸化誘導体が検出されたことが記載されているものの(上記摘記事項2-1?2-7及び同3-1?3-4)、甲2及び甲3のこれらの記載事項と引用発明1-2とは、医薬品中のタンパク質として用いられるPTHに係ること、及び、メチオニン残基が酸化されたPTH類縁物質に係るものであることが共通するに過ぎず、両者を組み合わせる動機付けは見いだせない。
仮に、甲2及び甲3において、酸化が医薬品中のタンパク質の主要な化学的分解経路の一つであることや(上記摘記事項2-1)、上述した酸化剤によるPTHの酸化が遊離メチオニン等の化合物によって抑制されること(甲2の要約、甲3の第31頁第13?16行)が記載されており、さらに、引用発明1-2の凍結乾燥品がメチオニン残基が酸化されたPTH類縁物質を含むものであることを踏まえて、引用発明1-2の凍結乾燥品の調製時に、hPTH(1-34)の酸化を抑制するために、上述した遊離メチオニンを共存させる示唆が得られたとしても、さらに、引用発明1-2の凍結乾燥品におけるPTH類縁物質の組成を、本件発明1に係る「類縁物質3’?4’及び同7’?11’を含み、かつ、類縁物質1’?2’及び同5’?6’を含まない」という特定の構成とすることまでを容易に想到し得たとはいえない。
したがって、相違点1及び相違点3について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載の発明並びに甲2の記載事項及び/又は甲3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ. 申立人の主張について
(ア) 申立人の主張
申立人の主張は、概略、以下のとおりのものである。

甲2及び甲3の記載(上記摘記事項2-1?2-7及び同3-1?3-4)から、遅くとも優先日当時、以下の事項が技術水準に含まれていたと考えられる。
a. PTH(1-34)を酸化した場合、メチオニン残基及びトリプトファン残基が酸化され、ヒスチジン残基までは酸化されないこと、よって、酸化体として検出されるのは、8位メチオニン、18位メチオニン及び23位トリプトファンのひとつ以上が酸化された酸化体であろうこと
b. メチオニン残基は、メチオニンスルホキシドに酸化されること
c. トリプトファン残基は、5-ヒドロキシ-トリプトファン、オキシ-インドールアラニン、キヌレニン及びN-ホルミルキヌレニンに酸化されること
d. PTH(1-34)の分解は、酸化が主であることから、周囲の環境との接触を抑制することで、その抑制の度合に応じて、酸化体の生成が抑制されるであろうこと
これらの技術水準を参酌すれば、hPTH(1-34)の酸化による類縁物質として、類縁物質1’?11’を予期し、検出することは、当業者にとって容易であるし、かつ、その類縁物質量を低減するために、凍結乾燥製剤の製造にあたり、hPTH(1-34)含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することも、当該技術水準を踏まえると当然である。
そして、甲1発明は、既に、本件発明1よりも「高純度」であるから、本件発明1には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ、いわゆる「有利な効果」を認める余地もない。

(イ) 申立人の主張についての当合議体の判断
本件発明1の進歩性を否定する申立人の主張における主引用発明である甲1発明は、1.(1)ウ.(ア)で述べたとおり、甲1の参考例1及び表2の記載(上記摘記事項1-5及び同1-6)に基づくものであり、さらにその発明特定事項を踏まえると、甲1発明は、上記引用発明1-1と同様に(上記1.(1)ア.)、凍結乾燥品の保存安定性を検討する際の保存開始時のものであって、表2の「開始時」の欄に示される凍結乾燥品に対応するものであるといえる。
そうすると、上記ア.(イ)で引用発明1-1を主引用発明とした場合について述べた理由と同様に、甲1発明は、甲1において酢酸による安定性が低い比較例の凍結乾燥品として記載されたものであるから、これを改善する動機付けは甲1の記載から見いだされないし、さらに、甲2及び甲3の記載事項をみても、それらを甲1発明と組み合わせる動機付けは見いだされない。
仮に申立人の主張するように、甲1発明と上述した優先日当時の技術水準とを組み合わせることができたとしても、甲1発明におけるPTH類縁物質の組成を、本件発明1に係る「類縁物質3’?4’及び同7’?11’を含み、かつ、類縁物質1’?2’及び同5’?6’を含まない」という特定の構成とすることまでを容易に想到し得たとはいえない。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。

(2) 本件発明2?3について
本件発明2?3は本件発明1をさらに減縮した発明であるから、それら本件発明2?3もまた、上記(1)で説示した本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1に記載の発明並びに甲2の記載事項及び/又は甲3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3) 小括
上記(1)及び(2)での検討のとおりであるから、申立人が主張する申立理由2からは、本件発明1?3が特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとはいえない。


3. 申立理由3(公然実施発明に対する新規性違反)について

申立理由3の要旨は、上記[第3]2.(3)で述べたとおり、本件発明1?3は、公然実施された発明であって、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができるものではない、というものである。

(1) 判断
申立理由3に係る証拠として、申立人が提出した甲4は「テリパラチド酢酸塩静注用100「旭化成」」なる「処方せん医薬品 副甲状腺機能診断薬」の添付文書であるものと認められ、当該文書には、当該医薬品が、バイアル中に保持された、hPTH(1-34)であるテリパラチド酢酸塩を有効成分とする凍結乾燥製剤であり、また、当該医薬品の販売開始時期が「2008年6月」であることが記載されている(上記摘記事項4-1?4-4)。
しかしながら、甲4には、当該凍結乾燥製剤が、本件発明1?3に係る「類縁物質3’?4’及び同7’?11’を含み、かつ、類縁物質1’?2’及び同5’?6’を含まない」という特定の構成のものであることは何ら記載されていない。
よって、甲4を証拠として、本件発明1?3が公然実施された発明であるとはいえない。

(2) 申立人の主張について
ア. 申立人の主張
申立人の主張は、概略、以下のとおりのものである。

甲4に記載された当該凍結乾燥製剤は、当然にグレードAの医薬品製造設備で製造され、その際、凍結乾燥にあたっては、その酸化し易い性質に鑑み、その時点で可能な限り酸化による類縁物質の発生を極力抑制するための措置がとられていたはずであるから、そのような凍結乾燥製剤は、少なくとも甲1に記載の甲1発明と同程度に「高純度」であったはずである。そうであるならば、市販されていた当該製剤は、本件発明1とも、少なくとも同程度に「高純度」のhPTH(1-34)凍結乾燥製剤であったはずである。

イ. 申立人の主張についての当合議体の判断
申立人が主張する、当該凍結乾燥時の酸化による類縁物質の発生を極力抑制する措置の採用、及び、甲4に記載の凍結乾燥製剤が少なくとも甲1発明と同程度に高純度であることはいずれも証拠に裏付けられたものでない。
また、甲1発明が本件発明と同一のものでないことも、上記1.(1)?(3)で既に述べたとおりである。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。

(3) 小括
上記(1)及び(2)での検討のとおりであるから、申立人が主張する申立理由3からは、本件発明1?3が特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができるものではないとはいえない。


4. むすび

以上に述べたとおり、特許異議の申立ての理由(上記申立理由1?3)及び証拠によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-14 
出願番号 特願2016-124399(P2016-124399)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
P 1 651・ 112- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 佳代子  
特許庁審判長 福井 美穂
特許庁審判官 渡邉 潤也
大久保 元浩
登録日 2016-09-02 
登録番号 特許第5996824号(P5996824)
権利者 旭化成ファーマ株式会社
発明の名称 高純度PTH含有凍結乾燥製剤およびその製造方法  
代理人 細田 芳徳  
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