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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B23Q
管理番号 1329373
審判番号 無効2015-800230  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-12-24 
確定日 2017-05-15 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5684844号発明「スプリング式衝撃吸収装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5684844号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯及び本件特許発明
1 手続の経緯
本件特許第5684844号についての出願は、平成24年3月27日に出願しその後登録された実用新案登録第3176091号を基礎として、平成25年3月4日に特許に変更して出願したものであって、平成27年1月23日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
そして、本件無効審判請求に係る主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年12月24日付け 審判請求書の提出
平成28年 2月19日付け 審判請求書に対する手続補正書の提出
同 年 4月28日付け 審判事件答弁書及び訂正請求書の提出
同 年 6月29日付け 審判事件弁駁書の提出
同 年 8月25日付け 審理事項通知書の送付
同 年 9月26日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
同 年10月14日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
同 年10月31日 口頭審理の開催

第2 平成28年4月28日付けの訂正請求について
1 訂正事項
平成28年4月28日付けの訂正請求による訂正は、以下に示す事項についてのものである(訂正部分に理解の便のため下線を付す)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の、
「互いに隣接するカバーボックスのうちの内側のカバーボックス(A-2)に固定されたプレート(B)の背面に、円筒ローラー部分を有するスライダー(E)と該スライダー(E)を押圧する圧縮バネ(G)とが組み込まれたスライドケース(D)が長手方向が水平となる配置で設置され、」との記載を、
「互いに隣接するカバーボックスのうちの内側のカバーボックス(A-2)に固定されたプレート(B)の背面に、円筒ローラー部分を有するスライダー(E)と該スライダー(E)を押圧する圧縮バネ(G)とが組み込まれたスライドケース(D)が長手方向が水平となる配置で前記スライダー(E)を当該プレート(B)の幅方向外側に向けて設置され、」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の、
「互いに隣接するカバーボックスのうちの外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面にカムプレート(F)が取り付けられ、」との記載を、
「互いに隣接するカバーボックスのうちの外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面に該裏面のカバー伸縮方向に直交する幅方向の両側の側辺に沿って、該幅方向の内側にカム面を有する片面カム形状のカムプレート(F)が取り付けられ、」と訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の段落【0005】に、
「本発明はかかる問題を解決するため鋭意研究し得られたもので、スプリング式衝撃吸収装置(C)に関するものであり、複数のカバーボックスより成るテレスコープ式に伸縮自在なカバーに於けるカバーボックス同士の衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収装置を、互いに隣接するカバーボックスのうちの内側のカバーボックス(A-2)に固定されたプレート(B)の背面に、円筒ローラー部分を有するスライダー(E)と該スライダー(E)を押圧する圧縮バネ(G)とが組み込まれたスライドケース(D)が長手方向が水平となる配置で設置され、互いに隣接するカバーボックスのうちの外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面にカムプレート(F)が取り付けられ、前記外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面に取り付けられたカムプレート(F)が、内側のカバーボックス(A-2)のプレート(B)に長手方向が水平となる配置で設置された前記スライドケース(D)に組み込まれたスライダー(E)の円筒ローラー部分を前記圧縮バネ(G)とは反対側から押し、カバー伸縮に伴いスライダー(E)をスライドさせることによって、前記圧縮バネ(G)を圧縮させ、カバーボックス同士の衝突時の衝撃を圧縮バネ(G)の圧縮抵抗力により吸収するスプリング式衝撃吸収装置とすることで問題点を解決している。」と記載されているのを、
「本発明はかかる問題を解決するため鋭意研究し得られたもので、スプリング式衝撃吸収装置(C)に関するものであり、複数のカバーボックスより成るテレスコープ式に伸縮自在なカバーに於けるカバーボックス同士の衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収装置を、互いに隣接するカバーボックスのうちの内側のカバーボックス(A-2)に固定されたプレート(B)の背面に、円筒ローラー部分を有するスライダー(E)と該スライダー(E)を押圧する圧縮バネ(G)とが組み込まれたスライドケース(D)が長手方向が水平となる配置で前記スライダー(E)を当該プレート(B)の幅方向外側に向けて設置され、互いに隣接するカバーボックスのうちの外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面に該裏面のカバー伸縮方向に直交する幅方向の両側の側辺に沿って、該幅方向の内側にカム面を有する片面カム形状のカムプレート(F)が取り付けられ、前記外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面に取り付けられたカムプレート(F)が、内側のカバーボックス(A-2)のプレート(B)に長手方向が水平となる配置で設置された前記スライドケース(D)に組み込まれたスライダー(E)の円筒ローラー部分を前記圧縮バネ(G)とは反対側から押し、カバー伸縮に伴いスライダー(E)をスライドさせることによって、前記圧縮バネ(G)を圧縮させ、カバーボックス同士の衝突時の衝撃を圧縮バネ(G)の圧縮抵抗力により吸収するスプリング式衝撃吸収装置とすることで問題点を解決している。」と訂正する。

2 当審の判断
これら訂正事項1ないし3について検討する。
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の「スライドケース(D)」の配置構成について、「前記スライダー(E)を当該プレート(B)の幅方向外側に向けて設置され」との事項を付加することで、スライドケース(D)に組み込まれたスライダー(E)の向きを特定する配置として、より限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件図面の、対称図形を中心線から下側を省略して図示した図2(a)には、スライドケース(D)が長手方向が水平となる配置で前記スライダー(E)を当該プレート(B)の幅方向外側に向けて設置された構成が記載されているから、訂正事項1は願書に添付した図面に記載されたものである。
よって、訂正事項1が願書に添付した図面に記載された事項の範囲内で行われたことは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の「カムプレート(F)」が、外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面に単に取り付けられていたのに対し、訂正により「該裏面のカバー伸縮方向に直交する幅方向の両側の側辺に沿って」取り付けられたものに限定されるとともに、形状が特定されていなかったものが、訂正により「該幅方向の内側にカム面を有する片面カム形状」のものに限定されているから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件図面の、対称図形を中心線から下側を省略して図示した図2(a)には、天板部の裏面に該裏面のカバー伸縮方向に直交する幅方向の両側の側辺に沿って、該幅方向の内側にカム面を有する片面カム形状のカムプレート(F)が取り付けられた構成が記載されているから、訂正事項2は願書に添付した図面に記載されたものである。
よって、訂正事項2が願書に添付した図面に記載された事項の範囲内で行われたことは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、上記訂正事項1及び2で特許請求の範囲を訂正したことに伴い、明細書の記載との整合を図るために訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項3が願書に添付した図面に記載された事項の範囲内で行われたことは、上記(1)及び(2)で示すとおり明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 まとめ
したがって、平成28年4月28日付けの訂正請求による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。

第3 本件訂正発明
本件特許の特許請求の範囲は、上記のとおり訂正が認められるから、訂正後の本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という)は、平成28年4月28日付けの訂正請求により訂正した特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「複数のカバーボックスより成るテレスコープ式に伸縮自在なカバーに於けるカバーボックス同士の衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収装置であって、
互いに隣接するカバーボックスのうちの内側のカバーボックス(A-2)に固定されたプレート(B)の背面に、円筒ローラー部分を有するスライダー(E)と該スライダー(E)を押圧する圧縮バネ(G)とが組み込まれたスライドケース(D)が長手方向が水平となる配置で前記スライダー(E)を当該プレート(B)の幅方向外側に向けて設置され、
互いに隣接するカバーボックスのうちの外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面に該裏面のカバー伸縮方向に直交する幅方向の両側の側辺に沿って、該幅方向の内側にカム面を有する片面カム形状のカムプレート(F)が取り付けられ、
前記外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面に取り付けられたカムプレート(F)が、内側のカバーボックス(A-2)のプレート(B)に長手方向が水平となる配置で設置された前記スライドケース(D)に組み込まれたスライダー(E)の円筒ローラー部分を前記圧縮バネ(G)とは反対側から押し、カバー伸縮に伴いスライダー(E)をスライドさせることによって、前記圧縮バネ(G)を圧縮させ、カバーボックス同士の衝突時の衝撃を圧縮バネ(G)の圧縮抵抗力により吸収することを特徴とするスプリング式衝撃吸収装置。」

第4 請求人の主張
1 主張の概要
(1)無効理由の概要
請求人は、特許第5684844号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、当初、審判請求書で無効理由として、理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2-1(甲第1号証及び甲第2号証による特許法第29条第2項)、理由2-2(甲第3号証及び甲第4号証による特許法第29条第2項)を主張していた。しかし、平成28年2月19日付け手続補正書により、「理由2-2」並びに甲第3号証及び甲第4号証は削除され、「理由2-1」がその内容は変更されず項目のみ「理由2」と変更された(理由1については変更なし)。
その後、訂正請求により特許請求の範囲も訂正されたため、口頭審理において、無効理由の整理を行った結果、請求人は、特許法第29条第1項第3号の規定に基づく無効理由を取下げ、特許法第29条第2項に関する無効理由のみを主張することとなった(第1回口頭審理調書の「請求人 2」の項を参照)。

(2)特許法第29条第2項に関する無効理由
請求人は、訂正後の請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、よって、本件特許は無効とすべきであると主張している。

そして、請求人は、訂正後の請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明との相違点として、以下の3点を挙げた上、これらの相違点に係る構成の容易想到性について主張している。
a 訂正後の本件発明のカムプレートは「片面カム形状」であるのに対し、甲1号発明のブレーキ本体13,23は楔状の両面カム形状である点。
b 訂正後の本件発明のカムプレートは、「カム面を内側」に向けて、天板部の裏面において「幅方向の両側の側辺に沿って」取り付けられており、カムプレートに当接するスライダーが「幅方向外側に向けて」配置されているのに対し、甲1号発明のブレーキ本体13,23は、上壁の「中央」に取り付けられており、ブレーキシュー11,12が「中央向き」に配置されている点。
c 訂正後の本件発明のスライダーにおいてカムプレートに当接する部分は「円筒状ローラー」であるのに対し、甲1号発明のブレーキシュー11,12の形状はローラーではない点。

ア 相違点aについて
訂正後の本件発明の「カムプレート」、及び甲1号発明の「ブレーキ本体」は、直線的に往復運動することによって従動節にカムの形状に応じた運動をさせる「直動カム(直進カム)」である。そして、甲第4号証-1ないし16に示された直動カムは全て「片面カム」であり、直動カムとして「片面カム」を使用することは、出願時に周知技術・慣用技術であったから、甲1号発明の「ブレーキ本体」の形状に替えて、片面カム形状を適用することは、当業者の通常の創作力の発揮に過ぎない。
「カムプレートを、片面カム形状のものとしたことにより、楔状の両面カムに比べて、設置面積の小さいものとすることができる」との作用効果については、幅方向の両側にそれぞれ片面カムを設ける場合と、中央に楔状の両面カムを設ける場合とで、どちらかの設置面積が小さい、大きいと断定することは不可能である。被請求人の主張は非論理的であり、訂正後の請求項の構成に基づいて主張できる作用効果ではない。
「片面カム形状のカムプレートを用いるので、1箇所のカムプレートに対して、スライドケースを一つ設置すればよく、そのため、部品点数を低減でき、コストを抑えることができる」との作用効果については、カム面一つ当たりスライダーが一つ必要なことは、片面カムであっても両面カムであっても同じである。逆に、片面カムを幅方向の「両側に」計二枚設ける場合と、両面カムを中央に一枚設ける場合とでは、両面カムの方がカムプレートの枚数が少なくて済むという主張も成り立つ。従って、被請求人の主張は非論理的であり、訂正後の請求項の構成に基づいて主張できる作用効果ではない。
(以上「審判事件弁駁書」)

甲第1号証の発明において、「カバーキャビネットの伸縮時の衝突に伴う騒音を低減すること」(課題1)及び「更にはカバーを比較的小型として、騒音の低減作用を達成すること」(課題2)の解決のためにブレーキ本体13,23に要請されることは、「直線的な往復運動に伴って従動節を横方向に移動させること」であり、ブレーキ本体13,23が「楔形」であることまでは要請されていない。
甲第1号証の発明においてブレーキ本体13,23に要請されることは、「直線的な往復運動に伴って従動節を横方向に移動させること」で、直線的な往復運動に伴って従動節を横方向に移動させるカムは「直動カム(直進カム)」に他ならないから、機械要素として公知の「直動カム」の形状を、甲第1号証のブレーキ本体13,23に適用する動機付けが存在する。そして、「直動カム」として「片面カム」を使用することは周知技術・慣用技術である。
甲第1号証の発明においてブレーキ本体13,23に与えられている課題や作用・機能は、「直動カムである片面カム」に与えられる課題や作用・機能と同一である。
従って、甲第1号証のブレーキ本体13,23に、直動カムとして周知技術・慣用技術である「片面カム」形状を、適用する動機付けが存在する。
甲第1号証の特許請求の範囲で、ブレーキ本体13,23の形状を「楔形」に限定しているのは、従属項である請求項14である。そして、請求項1には、「・・各ブレーキシュー(11,12)は、前記ブレーキ本体(13,23)の運動方向に対して実質的な横方向に向けられた制動力を前記ブレーキ本体(13,23)に及ぼし、これにより前記隣接するカバーキャビネット(2,3;3,4)間の相対速度が低減され、好ましくは消滅される、カバー。」と記載されているから、甲第1号証のブレーキ本体13,23には、楔形状に限定されず、その運動方向に対して実質的な横方向にブレーキシューを移動させるカムであれば適用できることが、甲第1号証に示唆されている。
訂正後の請求項1に係る発明が、カムプレートを「片面カム」形状としたことにより、技術水準から予測される範囲を超える、顕著な効果を有するとは認められない。
甲第1号証のブレーキ本体13,23は「直動カム」であり、「片面カム」形状を適用しても、上記の課題1,2に係る目的の作用・機能を発揮するものである。また、甲第1号証のブレーキ本体13,23に「片面カム」形状を適用することを阻害する要因も、認められない。
(以上「口頭審理陳述要領書」)

イ 相違点bについて
上壁(天板部)に取り付けられてカバーボックスの伸縮方向に往復動させるカムの形状として、「片面カム形状」を採用すれば、カム面の反対側の直線状の辺を、同じく直線である側辺に沿わせることは、当業者のごく自然な選択に過ぎず、何ら創作力を要することではない。
片面カムにおける直線状の辺を天板部の側辺に沿わせれば、カム面は当然に幅方向の内側を向き、カム面に当接させる構成は、当然に幅方向の外側に向けて配置される。
スライダーが「幅方向外側に向けて」配置されている点は、片面カム形状を採用したことにより、ごく自然になされた選択の結果に過ぎない。
「カムプレートを幅方向両側の側辺に沿って取付け、幅方向両側で衝撃を吸収することにより、カバー伸縮時の蛇行を少なくし、直進安定性を向上させることができる」との作用効果については、直進安定性は、カム面の位置だけではなく、互いに当接して押し合うカムプレートとスライダーとの間に作用する力が、「内側のカバーボックスに対して、幅方向におけるどの位置で伝達されるか」にも大きく影響を受ける。従って、上記のような力の伝達位置を特定できる要件を、請求項で規定していない訂正後の本件発明の直進安定性を、甲1号発明と対比して論じることはできない。
「天板部の側辺に沿う剛性の高い箇所にカムプレートを取り付けたものであって、カバー自重によるタワミなどの影響が小さく、スライダーの円筒状ローラー部分がカム面から外れてしまうリスクを回避できる」との作用効果については、カバーボックスにおいては側辺側の剛性が高く中央寄りではカム面との接触部が外れるほどタワミやすいと、一般化することはできない。従って、カム面とスライダーとの接触が甲1号発明と対比して有利であるか否かを、訂正後の請求項の構成に基づいて主張することはできない。
(以上「審判事件弁駁書」)

甲第4号証-1ないし16は、「片面カム」形状として、カム面の反対側の辺を直線とした形状を図示している。従って、「片面カム」形状を適用する場合に、カム面の反対側の辺を直線状とすることは、周知技術・慣用技術である「片面カム」の通常の形状であって、見慣れた形状、馴染み深い形状を、単にそのまま適用しただけであり、創作力は何ら必要とされない。
甲第4号証-1ないし16において、直線状の辺の方向は、カムが直線的に往復運動する方向と一致しているから、直動カムとして通常の形状である「片面カム」を使用する場合、カム面の反対側の直線状の辺の方向を、カムが直線的に往復運動する方向と一致させて使用することは、周知技術・慣用技術である。
ここで、甲第1号証の発明において、カム(ブレーキ本体13,23)が直線的に往復運動する方向は、カバーキャビネットの伸縮方向であり、カバー伸縮方向に直交する幅方向の「側辺」が延びている方向と同一である。そして、訂正後の請求項1には、「幅方向の側辺」における「幅方向」は、直線的な往復方向である「カバー伸縮方向」に「直交する方向」であると記載されているから、「幅方向の側辺」は「直線」である。
従って、片面カムにおいてカム面の反対側の直線状の辺を、方向が一致し、且つ、同じく直線である側辺に沿わせることは、当業者にとってごく自然な選択である。
加えて、片面カムを使用する場合に、カム面の反対側の直線状の辺を直線的な部分に沿わせることも、周知技術・慣用技術であり、訂正後の請求項1に係る発明において、唯一、方向が一致する直線として特定される「側辺」に、カム面の反対側の直線状の辺を沿わせることは、周知技術・慣用技術の単純な適用に過ぎない。
更に、片面カムにおいてカム面の反対側の直線状の辺は、従動節を当接させない「使わない辺」である。従って、このような「使わない辺」を端辺である「側辺」に沿わせることは、技術的な意義からも、ごく自然な選択である。カムにおいてカバーの側辺に沿わせて当接させた辺には、当然ながら、更に何かを当接させることは技術的に不可能であり、「使わない辺」の位置としてごく自然であるからである。
また、甲第1号証、及び甲第2号証の発明の何れにおいても、直動カムに相当する構成、及び従動節に相当する構成は、カバーキャビネットの伸縮方向に対して左右対称に設けられている。従って、「両側の」側辺に片面カムを設けて左右対称とする構成は、引用発明に基づいて当業者が容易に採用し得た構成である。
以上より、片面カムの直線状の辺を両側の側辺に沿わせることは、甲第1号証のブレーキ本体13,23に「片面カム」形状を具体的に適用するに当たり、当業者が通常発揮する創作力でなし得る、単なる設計的事項に過ぎない。
訂正後の請求項1に係る発明が、カバーボックスの天板部の「幅方向両側の側辺に沿って」カムプレートを取り付けたことにより、技術水準から予測される範囲を超える顕著な効果を有するとは、認められない。
「幅方向両側で衝撃を吸収することにより、カバー伸縮時の蛇行を少なくし、直進安定性を向上させることができる」との効果については、カムが幅方向の中央付近にあって従動節が内側を向いている場合と、片面カムが側辺に沿っており従動節が外側を向いている場合とで、カム面と従動節との当接位置がより外側となるのはどちらの場合かを、訂正後の請求項1の記載に基づいて対比することはできない。しかも、カム面との相互作用により従動節が受ける力が、内側のカバーボックスに伝達される位置が、幅方向におけるどの位置であるかを請求項で規定していない訂正後の請求項1に基づいて、直進安定性を論じることはできない。
「カバー自重によるタワミなどの影響が小さい」との効果については、テレスコープ式のカバーボックスの発明について、「カバー自重によるタワミ」が問題視されるほど重度である事態は想定しにくく、被請求人の主張は妥当ではない。
カム面の反対側の辺が直線状であることは、「片面カム」の通常の形状であるから、甲第1号証のブレーキ本体13,23に直動カムである「片面カム」形状を適用する場合に、カム面の反対側の辺を直線状とすることに阻害要因が無い。
また、甲第1号証の発明が目的に反するものとなることも、機能しなくなることもない。
(以上「口頭審理陳述要領書」)

ウ 相違点cについて
カム面に当接させる部分にローラーを用いることは、甲第2号証に開示されている(ロール17,18)。甲2号発明と甲1号発明とは、カムプレートの取り付け対象が相違し、スライダーのスライド方向が相違する以外は同じ構成である。甲2号発明と甲1号発明は、カバーキャビネット(カバー要素)の伸縮の際の衝突による衝撃や騒音を低減するという課題で、共通している。従って、甲1号発明の「ブレーキシュー11,12」の先端に甲2号発明の「ロール」を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
カムと従動節との接触部分にローラーを取り付けることは、甲第4号証-1ないし7に記載されており、甲第4号証-1ないし14では、直動カムと接触する従動節の端部にローラーが図示されている。従って、カムと従動節との接触部分にローラーを取り付けることは、出願時の周知技術・慣用技術である。
「スライダーの移動が極めてスムーズである」との作用効果については、従動節にローラーを取り付けるとカムとの接触部分の摩擦が低減されることは、甲第4号証-1ないし3に記載されているように、公知の構成が発揮する公知の作用効果に過ぎない。
(以上「審判事件弁駁書」)

2 請求人の証拠方法
証拠方法として、審判請求書(平成28年2月19日付け手続補正書による補正も考慮)と共に以下の甲第1ないし3号証が提出され、審判事件弁駁書と共に以下の甲第4号証-1ないし甲第4号証-16が提出されている。
甲第1号証 欧州特許出願公開第0875337号明細書
甲第1号証-2 甲第1号証の日本語翻訳文
甲第2号証 欧州特許出願公開第1782914号明細書
甲第2号証-2 甲第2号証の日本語翻訳文
甲第3号証 特許第5684844号公報(本件特許公報:審判請求書の甲第5号証)
甲第4号証-1 松尾哲夫,外4名共著,「わかりやすい機械工学」,第2版,森北出版株式会社,2006年3月31日,p.67
甲第4号証-2 門田和雄著,「絵とき 機械要素 基礎のきそ」,日刊工業新聞社,2006年4月27日,p.188-189
甲第4号証-3 西川兼康,外1名監修,「機械工学用語辞典」,理工学社,1996年9月10日,p.94,p.356
甲第4号証-4 藤田勝久著,「機械運動学 機械力学の基礎から機構動力学解析まで」,森北出版株式会社,2004年12月20日,p.103-104
甲第4号証-5 門田和雄著,「新しい機械の教科書」,株式会社オーム社,平成16年6月15日,p.73
甲第4号証-6 日本カム工業会編,「カム機構ハンドブック」,日刊工業新聞社,2001年12月25日,p.132-133,p.197-198
甲第4号証-7 西岡雅夫著,「機械技術者のための実用カム機構学」,日刊工業新聞社,2003年7月31日,p.2-3
甲第4号証-8 朝比奈奎一著,「図解 はじめての機械工学」,科学図書出版株式会社,平成21年1月30日,p.119
甲第4号証-9 朝比奈奎一,外1名著,「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい機械の本」,日刊工業新聞社,2006年8月30日,p.65
甲第4号証-10 大高敏男著,「図解 はじめての機械要素」,科学図書出版株式会社,平成20年8月30日,p.160
甲第4号証-11 佐藤金司,外2名著,「機械工学概論」,共立出版株式会社,1999年3月10日,p.47
甲第4号証-12 越後亮三,外4名編,「機械工学辞典」,株式会社朝倉書店,1993年6月1日,p.633
甲第4号証-13 日本カム工業会技術委員会編,「カム機構図例集」,日刊工業新聞社,1999年7月30日,p.2-3
甲第4号証-14 岡野修一,外1名著,「図説機械用語事典」,実教出版株式会社,昭和59年1月20日,p.249
甲第4号証-15 渡辺忠著,「図解 機械要素のABC」,科学図書出版株式会社,平成12年4月21日,p.155
甲第4号証-16 工業教育研究会編,「図解 機械用語辞典」,第4版,日刊工業新聞社,2005年12月22日,p.388

第5 被請求人の主張
1 主張の概要
被請求人は、本件特許無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めており、以下の理由で、無効理由には理由がないと主張している。

本件発明の構成、特に、「円筒ローラー部分を有するスライダー(E)と該スライダー(E)を押圧する圧縮バネ(G)とが組み込まれたスライドケース(D)が長手方向が水平となる配置で前記スライダー(E)を当該プレート(B)の幅方向外側に向けて設置され」、および「外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面に該裏面のカバー伸縮方向に直交する幅方向の両側の側辺に沿って、該幅方向の内側にカム面を有する片面カム形状のカムプレート(F)が取り付けられ」とした構成は、甲第1号証、甲第2号証のいずれにも開示されておらず示唆されてもいない。

本件発明は、スライダー(E)の円筒ローラー部分がカムプレート(F)に当接するよう構成したものであり、そのため、スライダー(E)の移動が極めてスムーズである。
本件発明は、カムプレート(F)をカバーボックス(A-1)の天板部裏面の幅方向両側の側辺に沿って取り付け、幅方向両側でカムプレート(F)がスライダー(E)の円筒ローラー部分を押し、圧縮バネ(G)の圧縮抵抗力により衝撃を吸収するよう構成したものであり、幅方向両側で衝撃を吸収することにより、カバー伸縮時の蛇行を少なくし、直進安定性を向上させることができる。
本件発明は、カバーボックス(A-1)の天板部の側辺に沿う剛性の高い箇所にカムプレート(F)を取り付けたものであって、カバー自重によるタワミなどの影響が小さく、そのため、スライダー(E)の円筒ローラー部分がカムプレート(F)のカム面から外れてしまうリスクを回避でき、安定した衝撃吸収能力を発揮できる。
本件発明は、カバーボックス(A-1)の天板部の裏面に該裏面の幅方向両側の側辺に沿って取り付けるカムプレート(F)を、片面カム形状のものとしたことにより、カムプレート(F)が大きくならず、設置面積の小さいものとすることができ、カバー内部の機械本体主要部品(例えば工作機械の場合のリニアガイド、ボールネジ等)との干渉を避けることが容易となる。そのため、カバー全高を低くすることができて、カバーが低重心で安定した動きになり、機械本体への振動伝播も緩和される。そして、特に、カムプレート(F)を片面カム形状にしたことと、カバーボックス(A-1)の天板部裏面の幅方向両側の側辺に沿って取り付けたことによる相乗効果で、カバー重心が低く直進安定性の高いカバーの実現がより確実になる。
本件発明は、片面カム形状のカムプレート(F)を用いるので、1箇所のカムプレート(F)に対して、スライドケース(D)を一つ設置すればよく、そのため、部品数を低減でき、コストを抑えることができる。
こうした本件発明の構成および効果は、当業者といえども、甲1号発明、甲2号発明に基づいて容易に想到し得るものではない。
(以上、審判事件答弁書)

甲第1号証には、ブレーキ本体13,23が「楔形」でないものについては、実質的に何も記載されておらず、「楔形」であることまでは要請されないというのは、訂正後の請求項1に係る発明を念頭にして初めて浮かぶ後知恵である。
甲第1号証に記載された発明において ブレーキ本体13,23を、カバー幅方向の両側の側辺に沿って取り付け、且つ、片面形状にする、というのは、訂正後の請求項1に係る発明が念頭にあって初めて思い浮かぶことである。
甲第1号証に記載された発明において、楔状のブレーキ本体13,23が「楔形」でないものを具体的に想定する余地はなく、直動カムとして周知技術・慣用技術である「片面カム」形状を適用する動機付け」などは何処にもない。
(以上、口頭審理陳述要領書)

2 被請求人の証拠方法
証拠方法として、口頭審理陳述要領書と共に、以下の乙第1号証を参考資料として提出している(第1回口頭審理調書の「被請求人 3」の項を参照)。
乙第1号証 被請求人が作成した工作機械のヘッドカバーの幅方向断面図

第6 当審の判断
1 各書証の記載事項及び各書証記載の発明
(1)甲第1号証について
ア.甲第1号証の記載
甲第1号証には、「Teleskopabdeckung mit Bremseinrichtung」(制動装置を備える伸縮式カバー)に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、摘記部分の[○]はウムラウト記号付きの文字を表す(以下同様)。また、括弧内の日本語は請求人による日本語訳であり、理解の便のため当審で下線を付した(以下同様)。

(ア)「Die Erfindung bezieht sich auf eine Abdeckung fur ein Maschinenbett, insbesondere einer Werkzeugmaschine, mit teleskopartig ineinanderschiebbaren Abdeckk[a]sten.」(1欄3-6行)
(本発明は、伸縮式に互いに入り込んで移動可能なカバーキャビネットを備える、とりわけ工作機械の機械基台用のカバーに関する。)

(イ)「Fig. 1 zeigt schematisch eine Abdeckung 1 f[u]r ein Maschinenbett einer Werkzeugmaschine. Die Abdeckung 1 weist teleskopartig ineinander schiebbare Abdeckk[a]sten 2, 3 und 4 auf. Zur Verringerung der Schallemission bedingt durch Zusammenstosen zweier benachbarter Abdeckkasten 2, 3; 3, 4 weist die Abdeckung Bremseinrichtungen 10 auf. Jede Bremseinrichtung uml[a]sst einen Bremsk[o]rper 13, 23 sowie Bremsbacken, die eine im wesentlichen quer zur Bewegungsrichtung der Bremsk[o]rper 13, 23 gerichtete Bremskraft auf den Bremsk[o]rper 13, 23 aus[u]bt, wodurch die Relativgeschwindigkeit zwischen den benachbarten Abdeckk[a]sten 2, 3; 3, 4 verringert, vorzugsweise aufgehoben, wird.」(4欄34-47行)
(図1は、工作機械の機械基台用のカバー1を概略的に示す。カバー1は、伸縮式に互いに移動可能なカバーキャビネット2,3および4を有する。2つの隣接するカバーキャビネット2,3;3,4が衝突することに起因する騒音発生を低減するために、カバーは制動装置10を有する。各制動装置は、ブレーキ本体13,23およびブレーキシューを含み、ブレーキシューは、ブレーキ本体13,23の運動方向に対して実質的に横方向に向けられた制動力をブレーキ本体13,23に及ぼす。これにより隣接するカバーキャビネット2,3;3,4間の相対速度が低減され、好ましくは消滅される。)

(ウ)「Jeder Abdeckkasten weist eine erste und eine zweite Seitenwand 5, 6 auf, wie dies insbesondere aus der Fig. 2 ersichtlich ist. Mit den Seitenwanden 5, 6 ist eine Oberwand 7 sowie eine Ruckwand 9 verbunden. In den dargestellten Ausf[u]hrungsbeispielen sind die Bremsk[o]rper 13, 23 jeweils an einer Unterseite 8 einer Oberwand 7 angeordnet. Dies stellt eine bevorzugte Anordnung der Bremsk[o]rper 13, 23 dar. Alternativ kann der Bremsk[o]rper 13, 23 auch an den anderen W[a]nden eines Kastens angeordnet werden. Entsprechend sind die Bremsbacken ebenfalls umzusetzen.」(4欄48-58行)
(各カバーキャビネットは、第1と第2の側壁5,6を有する。これは特に図2にから良く分かる。側壁5,6には上壁7および後壁9が接続されている。図示の実施形態ではブレーキ本体13,23が、それぞれ上壁7の下面8に配置されている。これはブレーキ本体13,23の好ましい配置である。択一的にブレーキ本体13,23は、キャビネットの別の壁に配置することもできる。対応してブレーキシューも同様に置き換えられる。)

(エ)「An der Unterseite 8 einer Oberwand 7 sind jeweils zwei Bremsk[o]rper 13, 23 angeordnet. Der Bremsk[o]rper 13 ist in der N[a]he der R[u]ckwand 9 des betreffenden Abdeckkastens 2, 3 angeordnet. Der zweite Bremsk[o]rper 23 ist an dem der Ruckwand gegen[u]berliegenden Bereich angeordnet. Wie aus der Fig. 1 ersichtlich ist, ist der zweite Bremsk[o]rper 23 in der N[a]he eines Abstreifers 22 angeordnet, der in bekannter Weise auf der Oberwand 7 eines n[a]chst Kleineren Abdeckkastens 4 gleitet.」(5欄1-10行)
(上壁7の下面8にはそれぞれ2つのブレーキ本体13,23が配置されている。ブレーキ本体13は、該当するカバーキャビネット2,3の後壁9の近傍に配置されている。第2のブレーキ本体23は、後壁に対向する領域に配置されている。図1から分かるように、第2のブレーキ本体23は、スクレーパ22の近傍に配置されており、このスクレーパは公知のように、次に比較的小さなカバーキャビネット4の上壁7上をスライドする。)

(オ)「Die Abdeckkasten 3, 4 weisen Bremsbacken 11, 12 auf, die im wesentlichen quer zur Bewegungsrichtung der Bremsk[o]rper 13, 23 hin und her verschieblich sind. Die Bewegungsrichtung der Bremsk[o]rper 13, 23 entspricht der Bewegungsrichtung der einzelnen Abdeckkasten der Abdeckung. Die Bremsbacken 11, 12 sind so angeordnet, das der jeweilige Bremsk[o]rper 13, 23 zwischen die Bremsbacken 11, 12 einf[u]hrbar ist, so das die Bremsbacken 11, 12 zur Anlage an den Bremsk[o]rper 13, 23 gelangen.」(5欄11-20行)
(カバーキャビネット3,4はブレーキシュー11,12を有し、これらのブレーキシューは、ブレーキ本体13,23の運動方向に対して実質的に横方向に往復してスライドする。ブレーキ本体13,23の運動方向は、カバーの個別のカバーキャビネットの運動方向に相当する。ブレーキシュー11,12は、それぞれのブレーキ本体13,23がブレーキシュー11,12の間に移入できるように配置されており、したがってブレーキシュー11,12はブレーキ本体13,23に当接する。)

(カ)「Die Bremsbacken 11, 12 sind in einem Geh[a]use 18 angeordnet. Zur Fuhrung der Bremsbacken 11, 12 weist das Geh[a]use eine Fuhrung 17 auf. Wie aus der Fig. 3 ersichtlich ist, sind in dem Geh[a]use Federn 14, 15 angeordnet. Die Feder 14 ist eine Druckfeder, die zwischen der Bremsbacke 11 und einer Anschlagflache 24 des Geh[a]uses 18 in einer Kammer 25 angeordnet ist. Die Kammer 25 ist eine Durchgangskammer, die auch zur Aufnahme der Bremsbacke 12 sowie der Feder 15 geeignet ist. Die Feder 15 ist zwischen der Bremsbacke 12 und einer Anschlagflache 26 angeordnet. Die Bremsbacken 11, 12 sind aufeinander zu und voneinander weg beweglich.」(5欄21-33行)
(ブレーキシュー11,12はケーシング18内に配置されている。ブレーキシュー11,12を案内するために、ケーシングは案内部17を有する。図3から分かるように、ケーシング内にはバネ14,15が配置されている。バネ14は圧縮バネであり、チャンバ25内でブレーキシュー11とケーシング18のストップ面24との間に配置されている。チャンバ25は連続チャンバであり、ブレーキシュー12およびバネ15を格納するようにも構成されている。バネ15は、ブレーキシュー12とストップ面26との間に配置されている。ブレーキシュー11,12は、互いに接近および離反運動する。)

(キ)「Beim Zusammenschieben zweier benachbarter Abdeckkasten 2, 3; 3, 4 gelangt der Bremsk[o]rper 13 zwischen die Bremsbacken 11, 12. Der Bremsk[o]rper 13 ist im wesentlichen keilf[o]rmig ausgebildet. Die Basis des keilf[o]rmigen Bremsk[o]rpers 13 liegt an der Ruckwand 9 an. Durch die Geometrie des keilf[o]rmigen Bremsk[o]rpers 13 werden die Bremsbacken 11, 12 w[a]hrend eines Zusammenschiebens benachbarter Abdeckk[a]sten 2, 3; 3, 4 immer st[a]rker auseinandergedr[u]ckt, wodurch die Federn 14, 15 eine zunehmende Kompression erfahren. Hierdurch bedingt uben die Bremsbacken 11, 12 eine zunehmende Bremskraft auf den Bremsk[o]rper 13 aus.」(5欄34-46行)
(2つの隣接するカバーキャビネット2,3;3,4が収縮される際に、ブレーキ本体13はブレーキシュー11,12の間に達する。ブレーキ本体13は、実質的に楔形に構成されている。楔形のブレーキ本体13の底辺は、後壁9に当接する。楔形のブレーキ本体13の幾何形状により、ブレーキシュー11,12は、隣接するカバーキャビネット2,3;3,4の収縮の間、常に比較的に強く互いに離れるよう押圧される。これによりバネ14,15がますます圧縮される。これにより、増大する制動力がブレーキシュー11,12を介してブレーキ本体13に及ぼされる。)

(ク)「In dem in der Fig. 3 dargestellten Ausfuhrungsbeispiel sind die Bremsbacken 11, 12 gegen die Federkraft einer Druckfeder verschieblich. Statt Druckfedem k[o]nnen auch hydraulisch oder pneumatisch wirkende D[a]mpfer verwendet werden. Die Auswahl geeigneter Bauteile h[a]ngt auch von dem zur Verf[u]gung gestellten Einbauraum ab.」(6欄10-16行)
(図3に図示した実施形態では、ブレーキシュー11,12が圧縮バネのバネ力に抗してスライドする。圧縮バネの代わりに、液圧式または空圧式に作用するダンパーを使用することもできる。適切な構成部材の選択は、使用可能な取り付け空間にも依存する。)

(ケ)摘記事項(ウ)の「各カバーキャビネットは、第1と第2の側壁5,6を有する。・・・側壁5,6には上壁7および後壁9が接続されている。・・・ブレーキ本体13,23が、それぞれ上壁7の下面8に配置されている。」及び摘記事項(オ)の「カバーキャビネット3,4はブレーキシュー11,12を有し、・・・ブレーキシュー11,12は、それぞれのブレーキ本体13,23がブレーキシュー11,12の間に移入できるように配置され」並びに図1及び図2のブレーキシュー11,12、ケーシング18、ブレーキ本体13,23の各々の配置の図示から、「2つの隣接するカバーキャビネットのうちの内側のカバーキャビネットには、ケーシング18が内側のカバーキャビネットの後壁9の背面にケーシングの長手方向を後壁9に水平となるよう設置されて」いること、及び、ブレーキ本体13,23の両側にケーシング18が存在することから、「2つの隣接するカバーキャビネットのうちの外側のカバーキャビネットの上壁7の下面8に、ブレーキ本体13,23がブレーキシュー11,12の間に移入できるよう下面8の幅方向中央付近に取り付けられ」ていることが認められる。

(コ)図3に示されたブレーキシュー11,12、ケーシング18、ブレーキ本体13,23の配置構成の記載から、「ケーシング18内に配置されたブレーキシュー11,12を、当該ブレーキシュー11,12間に移入されたブレーキ本体13,23を挟み込むように、後壁9の幅方向内側に向けて」いることが認められる。

イ.甲1発明
上記摘記事項(ア)ないし(ク)並びに認定事項(ケ)及び(コ)によれば、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という)が記載されていると認められる。
「伸縮式に互いに入り込んで移動可能なカバーキャビネット2,3及び4を備えるカバー1における隣接するカバーキャビネット2,3;3,4が衝突することに起因する騒音発生を低減する制動装置10であって、
2つの隣接するカバーキャビネット2,3;3,4のうちの内側のカバーキャビネットには、ブレーキシュー11,12と該ブレーキシュー11,12を押圧する圧縮バネ14,15とが配置されたケーシング18が、内側のカバーキャビネットの後壁9の背面にケーシングの長手方向を後壁9に水平となるよう、ブレーキシュー11,12を当該ブレーキシュー11,12間に移入されたブレーキ本体13,23を挟み込むように後壁9の幅方向内側に向けて設置され、
2つの隣接するカバーキャビネット2,3;3,4のうちの外側のカバーキャビネットの上壁7の下面8に、楔形のブレーキ本体13,23がブレーキシュー11,12の間に移入できるよう下面8の幅方向中央付近に取り付けられ、
前記外側のカバーキャビネットの上壁7の下面8に取り付けられた楔形のブレーキ本体13,23が、内側のカバーキャビネットの後壁9にブレーキシュー11,12がカバーキャビネット3,4の運動方向に対して実質的に横方向に往復してスライドするように設置された前記ケーシング18に配置されたブレーキシュー11,12を互いに離れるよう押圧し、隣接するカバーキャビネット2,3;3,4の収縮に伴いブレーキシュー11,12をスライドさせ、これにより圧縮バネ14,15を圧縮させ、2つの隣接するカバーキャビネット2,3;3,4が衝突することに起因する騒音発生を圧縮バネのバネ力により低減する圧縮バネ式制動装置10。」

(2)甲第2号証について
ア.甲第2号証の記載
甲第2号証には、「Teleskopabdeckung fur Werkzeugmaschine」(工作機械用の伸縮自在カバー)に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「[0025] Wird die Bewegung der Teleskopabdeckung 1 in Einfahrrichtung 21a fortgesetzt, bewegen sich die Rollen 17 und 18 l[a]ngs der Anlagefl[a]chen 24 bzw. 25, wobei die Schlitten 14 und 15 gegen die Kraftwirkung der Federn 28 l[a]ngs der Welle 16 nach aussen in Richtung der senkrecht zur Auszugsrichtung 21 orientierten Bewegungspfeile 34 und 35 verschoben werden. Der Abstand D vergr[o]ssert sich. Die Federn 28 pressen die Rollen 17 und 18 mit einer von der Position der Rollen 17 und 18 auf den Anlagefl[a]chen 24 bzw. 25 abh[a]ngigen mechanischen Spannung (= Druck) gegen die Anlagefl[a]chen 24 bzw. 25. Entsprechend dem ansteigenden und abfallenden Verlauf der Anlagefl[a]chen 24 bzw. 25 nimmt diese Krafteinwirkung bis zum Erreichen der in Fig. 5 gezeigten Endposition kontinuierlich zu. Dadurch steigt auch der Grad der mechanischen Kopplung zwischen den benachbarten Abdeckelementen 2 und 3, 3 und 4 oder 4 und 5 und damit die Mitnahmewirkung stetig an. Insgesamt ergibt sich aufgrund der Federkrafteinwirkung ein ged[a]mpfter Mitnahmeeffekt.」
(【0025】 伸縮自在カバー1の前進方向21aの運動が引き続き行われると、ロール17および18が当接面24もしくは25に沿って移動し、その場合、キャリッジ14および15が、ばね28の力の作用に抗してシャフト16に沿って外方へ、引出し方向21に対して垂直の方向に向けられた運動矢印34および35の方向に移動される。距離Dは大きくなる。ばね28は、当接面24もしくは25上のロール17および18の位置に依存する機械的応力(=圧力)で、ロール17および18を当接面24もしくは25に押し付ける。この力の作用は、当接面24もしくは25の上昇及び下降の形状に対応して、図5に示された終点位置に達するまで連続的に大きくなる。それによって、隣り合うカバー要素2と3、3と4、または4と5間の機械的連結の程度も増加し、それによって、連動作用が増大する。全体として、ばね力の作用によって連動効果が減衰される。)

(イ)Fig.4及びFig.5

イ.甲2事項
上記摘記事項(ア)を(イ)の図面を参酌しながら技術常識を考慮して整理すると、甲第2号証には、以下の事項(以下「甲2事項」という)が記載されていると認められる。
「当接面24又は25に当接させる部材として、ロール17又は18を有するキャリッジ14又は15の構造」

2 無効理由の検討
(1)本件訂正発明について
ア.対比
本件訂正発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「カバーキャビネット2,3及び4」、「カバー1」及び「制動装置10」は、それぞれ本件訂正発明の「カバーボックス」、「カバー」及び「衝撃吸収装置」に相当する。そして、甲1発明の「伸縮式に互いに入り込んで移動可能なカバーキャビネット2,3及び4を備えるカバー1における隣接するカバーキャビネット2,3;3,4が衝突することに起因する騒音発生を低減する制動装置10」は、本件訂正発明の「複数のカバーボックスより成るテレスコープ式に伸縮自在なカバーに於けるカバーボックス同士の衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収装置」に相当することは、当業者には明らかである。
甲1発明の「2つの隣接するカバーキャビネット2,3;3,4」は、本件訂正発明の「互いに隣接するカバーボックス」に相当する。
甲1発明の「カバーキャビネットの後壁9」、「ブレーキシュー11,12」、「圧縮バネ14,15」、「ケーシング18」、「上壁7」、「下面8」、「楔形のブレーキ本体13,23」、「圧縮バネ式制動装置10」が、本件訂正発明の「カバーボックスに固定されたプレート」、「スライダー」、「圧縮バネ」、「スライドケース」、「天板部」、「裏面」、「カムプレート」、「スプリング式衝撃吸収装置」に相当する。
甲1発明のケーシング18が、ブレーキシュー11,12と該ブレーキシュー11,12を押圧する圧縮バネ14,15とが「配置された」は、本件訂正発明のスライドケースが、スライダーと該スライダーを押圧する圧縮バネとが「組み込まれた」に相当する。
甲1発明の「2つの隣接するカバーキャビネット2,3;3,4のうちの内側のカバーキャビネットには」、「ケーシング18が、内側のカバーキャビネットの後壁9の背面にケーシングの長手方向を後壁9に水平となるよう」設置された点は、本件訂正発明の「互いに隣接するカバーボックスのうちの内側のカバーボックスに固定されたプレートの背面に」、「スライドケースが長手方向が水平となる配置で」設置された点に相当する。
また、甲1発明のケーシング18が「ブレーキシュー11,12を当該ブレーキシュー11,12間に移入されたブレーキ本体13,23を挟み込むように後壁9の幅方向内側に向けて設置」する点は、本件訂正発明のスライドケースが「前記スライダーを当該プレートの幅方向外側に向けて設置」する点と、「前記スライダーを当該プレートの幅方向に向けて設置」する点では一致する。
さらに、甲1発明の楔形のブレーキ本体13,23が、「ブレーキシュー11,12を互いに離れるよう押圧し、隣接するカバーキャビネット2,3;3,4の収縮に伴いブレーキシュー11,12をスライドさせ、これにより圧縮バネ14,15を圧縮させ」ることは、本件訂正発明のカムプレートが、「スライダーを前記圧縮バネとは反対側から押し、カバー伸縮に伴いスライダーをスライドさせることによって、前記圧縮バネを圧縮させ」ることに相当するものと認められる。
そして、甲1発明が「2つの隣接するカバーキャビネット2,3;3,4が衝突することに起因する騒音発生を圧縮バネのバネ力により低減する」ことは、衝突時の騒音が衝撃により発生することは自明であり、圧縮バネのバネ力による騒音の低減作用が、圧縮バネの圧縮抵抗力による衝撃吸収作用によるものであることも技術常識に過ぎないから、本件訂正発明が「カバーボックス同士の衝突時の衝撃を圧縮バネの圧縮抵抗力により吸収する」ことに相当する。

そうすると、本件訂正発明と甲1発明とは、以下の点で一致し、かつ相違する。
<一致点>
「複数のカバーボックスより成るテレスコープ式に伸縮自在なカバーに於けるカバーボックス同士の衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収装置であって、
互いに隣接するカバーボックスのうちの内側のカバーボックスに固定されたプレートの背面に、スライダーと該スライダーを押圧する圧縮バネとが組み込まれたスライドケースが長手方向が水平となる配置で前記スライダーを当該プレートの幅方向に向けて設置され、
互いに隣接するカバーボックスのうちの外側のカバーボックスの天板部の裏面にカムプレートが取り付けられ、
前記外側のカバーボックスの天板部の裏面に取り付けられたカムプレートが、内側のカバーボックスのプレートに長手方向が水平となる配置で設置された前記スライドケースに組み込まれたスライダーを前記圧縮バネとは反対側から押し、カバー伸縮に伴いスライダーをスライドさせることによって、前記圧縮バネを圧縮させ、カバーボックス同士の衝突時の衝撃を圧縮バネの圧縮抵抗力により吸収するスプリング式衝撃吸収装置。」である点。

<相違点1>
本件訂正発明のスライダーは、「円筒ローラー部分を有する」のに対し、甲1発明のブレーキシュー11,12の制動面27,28は、円筒ローラー部分を有していない点。

<相違点2>
本件訂正発明のスプリング式衝撃吸収装置が、「前記スライダーを当該プレートの幅方向外側に向けて設置」し、「カバー伸縮方向に直交する幅方向の両側の側辺に沿って、該幅方向の内側にカム面を有する片面カム形状のカムプレートが取り付けられ」て構成される、つまり、スライダーをカバーの幅方向外側に向けて押圧する片面カム機構を、カバー幅方向の両側辺にそれぞれ配置したものであるのに対し、甲1発明の圧縮バネ式制動装置10が、「ブレーキシュー11,12を当該ブレーキシュー11,12間に移入されたブレーキ本体13,23を挟み込むように後壁9の幅方向内側に向けて配置」し、「楔形のブレーキ本体13,23がブレーキシュー11,12の間に移入できるよう下面8の幅方向中央付近に取り付けられ」て構成される、つまり、ブレーキシューをカバーの幅方向内側に向けて楔形のカムを挟んで押圧する両面カム機構を、カバーの中央付近に1個配置したものである点。

イ.判断
(ア)相違点1について
圧縮バネによるカム機構を用いたテレスコープ式カバーの衝撃吸収機構として、カムの当接面に円筒ローラー部分を設けた構造は、上記甲2事項としてロール17又は18を有するキャリッジの構造として示されている。そして、カム機構技術一般において当接面にローラーを用いることは、甲第4号証-1ないし14にも示されているように慣用技術に過ぎないことから、甲1発明においてカム機構の働きをするブレーキシュー11,12の制動面27,28に、円筒ローラー部分を有する構造を選択することは、当業者であれば容易に想到する事項である。
そうすると、上記相違点1に係る発明特定事項は、甲1発明に上記甲2事項として示された従来周知の構造を適用することで、当業者が容易に想到する事項と認められる。

(イ)相違点2について
甲第1号証において、本件訂正発明のカムプレートに相当する甲1発明の「ブレーキ本体」について具体的に記載されているものは、2つのブレーキシュー11,12の間に移入できる位置に配置された、楔形をした両面カム形状のブレーキ本体13,23だけであり、「ブレーキ本体は少なくとも1つのブレーキシューに係合させることができ」るとは記載されてはいるものの、ブレーキ本体の具体例として片面カム形状にすることや、ブレーキ本体をカバーキャビネットの中央付近ではなく側壁5,6に沿って配置させることについては、記載が全く無く、また、それら形状や配置を示唆する記載も認められない。
そうすると、甲第1号証には、「隣接するカバーキャビネットの衝突の減衰を改善するとともに、制動装置の比較的小型の構造を可能にする」という発明の効果を得るために、その装置構成としては、カバーキャビネットの中央付近に設置した上記両面カム形状である「楔形のブレーキ本体」を、2つのブレーキシュー11,12で両側から挟み込む構成を有する制動装置を用いることしか開示されておらず、甲1発明の「楔形のブレーキ本体」を、片面カム形状に変形し、更に、側壁5,6に沿った位置にブレーキ本体の配置箇所を変えるとする積極的な動機はない。また、当該動機を従来周知とすることを示す根拠も特に見当たらない。
また、本件訂正発明は、相違点2に係る発明特定事項のように構成したことにより、カバーボックスの天板部裏面の幅方向両側でカムプレートがスライダーを押すから、幅方向両側で衝撃を吸収することにより、カバー伸縮時の蛇行を少なくし、直進安定性を向上させることができるとともに、片面カム形状のものとしたことにより、カムプレートが大きくならず、設置面積の小さいものとすることができるという被請求人の主張する効果も、機械設計の観点からみても一応合理性があると考えられる。
よって、甲1発明に甲2事項及び従来周知の事項を適用したとしても、相違点2に係る発明特定事項のように構成することを当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

(ウ)請求人の意見について
請求人は、甲第1号証の特許請求の範囲でブレーキ本体13,23の形状を「楔形」に限定しているのは、従属項である請求項14であり、請求項1には「・・各ブレーキシュー(11,12)は、前記ブレーキ本体(13,23)の運動方向に対して実質的な横方向に向けられた制動力を前記ブレーキ本体(13,23)に及ぼし、これにより前記隣接するカバーキャビネット(2,3;3,4)間の相対速度が低減され、好ましくは消滅される、カバー。」と記載されているから、甲第1号証のブレーキ本体13,23は、楔形状に限定されず、その運動方向に対して実質的な横方向にブレーキシューを移動させるカムであれば適用できることが、甲第1号証に示唆されていると主張している。
そして、甲第1号証には、「カバーキャビネットを減衰するための従来技術から公知の解決手段では、個々のカバーキャビネットの減衰をカバーキャビネットの運動方向で行うが、これとは反対に本発明のカバーでは、カバーキャビネットの衝突の減衰を、カバーキャビネットの運動方向に対して横方向で行うことが提案される。」とも記載されている。
しかし、甲第1号証の上記記載を考慮しても、カバーキャビネット又はブレーキ本体の移動方向に対する「横方向」の向きとして、甲第1号証に具体的に開示されているものは、ブレーキシューを外側の向きではなく、当該ブレーキシュー間に移入したブレーキ本体に当接させる、つまり内側の向きに移動させるものだけであり、ブレーキシューを外側に向けることは示唆されておらず、甲第1号証の「運動方向に対して実質的に横方向」との記載から外側の向きを認識することは、本件訂正発明を見たことに起因する後知恵である。

また、請求人は、甲第4号証-1ないし14に直動カム(直進カム)の例が多数記載されていることから、直動カムは従来周知の事項であって、甲1発明のブレーキ本体に適用することは当業者が容易に想到することであるとも主張している。ここで、甲第4号証-1ないし14から、直動カム(直進カム)自体が従来周知であることは理解でき、このような周知の直動カムを甲1発明に適用して、カバーキャビネットの中央付近に配置された両面カムのブレーキ本体を、ブレーキ本体の運動方向に沿った線で切断して2個の片面カムに分けることで、直動カムをカバーキャビネットの中央付近に2個配置することは想到できる。しかしながら、カバーキャビネットの伸縮方向に直交する幅方向の両側の側辺に沿って直動カムを配置する構造上の変更を図ることの動機までもが、甲第4号証-1ないし14から得られるものではない。

さらに、請求人は、口頭審理陳述要領書において、「甲第4号証-1ないし16において、直線状の辺の方向は、カムが直線的に往復運動する方向と一致しているから、直動カムとして通常の形状である「片面カム」を使用する場合、カム面の反対側の直線状の辺の方向を、カムが直線的に往復運動する方向と一致させて使用することは、周知技術・慣用技術である。
ここで、甲第1号証の発明において、カム(ブレーキ本体13,23)が直線的に往復運動する方向は、カバーキャビネットの伸縮方向であり、カバー伸縮方向に直交する幅方向の「側辺」が延びている方向と同一である。そして、訂正後の請求項1には、「幅方向の側辺」における「幅方向」は、直線的な往復方向である「カバー伸縮方向」に「直交する方向」であると記載されているから、「幅方向の側辺」は「直線」である。
従って、片面カムにおいてカム面の反対側の直線状の辺を、方向が一致し、且つ、同じく直線である側辺に沿わせることは、当業者にとってごく自然な選択である。
加えて、片面カムを使用する場合に、カム面の反対側の直線状の辺を直線的な部分に沿わせることも、周知技術・慣用技術であり、訂正後の請求項1に係る発明において、唯一、方向が一致する直線として特定される「側辺」に、カム面の反対側の直線状の辺を沿わせることは、周知技術・慣用技術の単純な適用に過ぎない。
更に、片面カムにおいてカム面の反対側の直線状の辺は、従動節を当接させない「使わない辺」である。従って、このような「使わない辺」を端辺である「側辺」に沿わせることは、技術的な意義からも、ごく自然な選択である。カムにおいてカバーの側辺に沿わせて当接させた辺には、当然ながら、更に何かを当接させることは技術的に不可能であり、「使わない辺」の位置としてごく自然であるからである。」旨の主張もしている(上記第4 1(3)ウ(イ)を参照)。
しかし、上記の周知技術や甲第1号証には、片面カムを両側の側辺に沿って配置することへの動機付けがないことからみて、上記主張は本件訂正発明を見たことに起因する後知恵による解釈と解せざるを得ない。よって、請求人の上記主張を採用することはできない。

ウ.本件訂正発明についてのまとめ
したがって、本件訂正発明は、甲1発明、甲2事項及び従来周知の事項を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件訂正発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
スプリング式衝撃吸収装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として工作機械の保護カバー、その他一般産業機械の保護カバーとして活用するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりゴム状弾性体をクッション装置として用いる事は知られている。一般的にはゴム板をクッション材として用いており、衝撃の際にクッション材の変形を増長することでクッション効果が得られ衝撃を和らげている。伸縮自在カバーボックスは、其の伸縮運動の終わりに連結体が互いに衝突するが、その停止運動を緩衝体により出来るだけ和らげ、衝撃、振動、騒音の発生を減らすようにしている。この緩衝体について本出願人は、伸縮自在なカバーの往復動に於ける衝撃吸収式連結装置用ゴム状弾性体によるエヤークッション体について実用新案登録を取得している(特許文献1参照)。しかし、近年の大型化・高速化に伴いクッション材だけでは、衝撃、振動、騒音等の発生を和らげるには効果が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 実用新案登録第3056712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
伸縮自在なカバーの主な用途である工作機械の保護カバー、その他一般産業用機械の保護カバーは、近年著しい大型化・高速化を遂げている。その為、高速時でのカバーの衝撃、振動、騒音等の発生を軽減させる装置の開発が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はかかる問題を解決するため鋭意研究し得られたもので、スプリング式衝撃吸収装置(C)に関するものであり、複数のカバーボックスより成るテレスコープ式に伸縮自在なカバーに於けるカバーボックス同士の衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収装置を、互いに隣接するカバーボックスのうちの内側のカバーボックス(A-2)に固定されたプレート(B)の背面に、円筒ローラー部分を有するスライダー(E)と該スライダー(E)を押圧する圧縮バネ(G)とが組み込まれたスライドケース(D)が長手方向が水平となる配置で前記スライダー(E)を当該プレート(B)の幅方向外側に向けて設置され、互いに隣接するカバーボックスのうちの外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面に該裏面のカバー伸縮方向に直交する幅方向の両側の側辺に沿って、該幅方向の内側にカム面を有する片面カム形状のカムプレート(F)が取り付けられ、前記外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面に取り付けられたカムプレート(F)が、内側のカバーボックス(A-2)のプレート(B)に長手方向が水平となる配置で設置された前記スライドケース(D)に組み込まれたスライダー(E)の円筒ローラー部分を前記圧縮バネ(G)とは反対側から押し、カバー伸縮に伴いスライダー(E)をスライドさせることによって、前記圧縮バネ(G)を圧縮させ、カバーボックス同士の衝突時の衝撃を圧縮バネ(G)の圧縮抵抗力により吸収するスプリング式衝撃吸収装置とすることで問題点を解決している。
【発明の効果】
【0006】
従来のクッション材のみを設けた方法で、カバーボックス(A-1)を伸び方向に移動させ、カバーボックス(A-1)に配設されているストッパー(H)をカバーボックス(A-2)に固定されたプレート(B)に直接衝突させて連結させると、大きな衝撃、振動を発生したが、本発明の衝撃吸収装置(C)及びカムプレート(F)を設置した場合においては、極めて優れた衝撃吸収能力を発揮し、騒音、振動が飛躍的に減少した。
又、縮み方向の移動においても従来のクッションのみを設けた方法で、カバーボックス(A-1)を縮み方向に移動させ、カバーボックス(A-1)をカバーボックス(A-2)に固定されたクッション(H)に直接衝突させて連結させると、大きな騒音、振動が発生したが、本発明の衝撃吸収装置(C)及びカムプレート(F)を設置した場合においては、極めて優れた衝撃吸収能力を発揮し、騒音、振動が飛躍的に減少した。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】
本発明の実施形態の一例を示すカバーボックス断面斜視図
【図2】
本発明の実施形態の一例を示すカバーボックス及びスプリング式衝撃吸収装置の平面図(a)、断面図(b)
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1及び図2は本発明の実施の形態の一例を示している。
【0009】
この実施形態のカバーは。図1に示すように、複数のカバーボックスA-1,A-2より成るテレスコープ式に伸縮自在なカバーであって、図2に示すように、移動する複数のカバーボックスの1つであるカバーボックスA-2に固定されたプレートBにスライドケースDを固定し、そのスライドケースD内部にスライダーEと圧縮バネGを併設させることで、スプリング式衝撃吸収装置Cが構成されている。また、図2に示すように、カバーボックスA-2の左側に位置する他のカバーボックスについても同様にスプリング式衝撃吸収装置Cが構成されている。つまり、スプリング式衝撃吸収装置Cは、互いに隣接するカバーボックスのうちの内側のカバーボックスA-2に固定されたプレートBの背面に、円筒ローラー部分を有するスライダーEと該スライダーEを押圧する圧縮バネGとが組み込まれたスライドケースDが設置されることで構成されている。
【0010】
そして、図2に示すように、スライダーEを介して圧縮バネを圧縮させる為に、カムプレートFを右端のカバーボックスA-1の内面に固定している。また、図2に示すように、カバーボックスA-1の左側に位置するカバーボックスA-2およびそのカバーボックスA-2のさらに左側に位置するカバーボックスについても同様にカムプレートが設けられている。つまり、互いに隣接するカバーボックスのうちの移動する外側のカバーボックスの裏面にカムプレートFが取り付けられている。
図1、2において、Hはストッパーである。また、図1において、Iはクッションである。
【0011】
この実施形態のカバーは、カバーボックスA-1の移動によりカバーボックスA-2と衝突する手前で、カバーボックスA-1の内面に固定されたカムプレートFがスライダーEを介して圧縮バネGを圧縮させることで、圧縮バネGの圧縮抵抗力が発生し、カバーボックス同士の衝撃時の衝撃を吸収することができる。つまり、互いに隣接するカバーボックスのうちの外側のカバーボックスA-1の裏面に取り付けられたカムプレートFが、内側のカバーボックスA-2のプレートBに設置されたスライドケースDに組み込まれたスライダーEの円筒ローラー部分を圧縮バネGとは反対側から押し、カバー伸縮に伴いスライダーEをスライドさせることによって、圧縮バネGを圧縮させ、カバーボックス同士の衝突時の衝撃を圧縮バネGの圧縮抵抗力により吸収することができる。
【符号の説明】
【0012】
A-1 カバーボックス
A-2 カバーボックス
B プレート
C スプリング式衝撃吸収装置
D スライドケース
E スライダー
F カムプレート
G 圧縮バネ
H ストッパー
I クッション
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカバーボックスより成るテレスコープ式に伸縮自在なカバーに於けるカバーボックス同士の衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収装置であって、
互いに隣接するカバーボックスのうちの内側のカバーボックス(A-2)に固定されたプレート(B)の背面に、円筒ローラー部分を有するスライダー(E)と該スライダー(E)を押圧する圧縮バネ(G)とが組み込まれたスライドケース(D)が長手方向が水平となる配置で前記スライダー(E)を当該プレート(B)の幅方向外側に向けて設置され、
互いに隣接するカバーボックスのうちの外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面に該裏面のカバー伸縮方向に直交する幅方向の両側の側辺に沿って、該幅方向の内側にカム面を有する片面カム形状のカムプレート(F)が取り付けられ、
前記外側のカバーボックス(A-1)の天板部の裏面に取り付けられたカムプレート(F)が、内側のカバーボックス(A-2)のプレート(B)に長手方向が水平となる配置で設置された前記スライドケース(D)に組み込まれたスライダー(E)の円筒ローラー部分を前記圧縮バネ(G)とは反対側から押し、カバー伸縮に伴いスライダー(E)をスライドさせることによって、前記圧縮バネ(G)を圧縮させ、カバーボックス同士の衝突時の衝撃を圧縮バネ(G)の圧縮抵抗力により吸収することを特徴とするスプリング式衝撃吸収装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-03-17 
結審通知日 2017-03-22 
審決日 2017-04-04 
出願番号 特願2013-41799(P2013-41799)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (B23Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 哲  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 平岩 正一
栗田 雅弘
登録日 2015-01-23 
登録番号 特許第5684844号(P5684844)
発明の名称 スプリング式衝撃吸収装置  
代理人 進藤 純一  
代理人 進藤 純一  
代理人 前田 勘次  
代理人 大矢 正代  

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