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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1329462
審判番号 不服2016-555  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-13 
確定日 2017-06-15 
事件の表示 特願2011-142248「半導体発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月10日出願公開、特開2013- 8931〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年6月27日の出願であって、平成27年10月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年1月13日に拒絶査定不服審判が請求がされるととも手続補正書が提出され、同年2月9日付けで手続補正書(方式)が提出され、審判請求書の請求の理由が補正された。その後当審において、同年9月30日付けで拒絶理由が通知され、同年11月30日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年1月6日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年3月13日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 平成29年3月13日に提出された手続補正書による補正についての却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年3月13日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?12を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?11と補正するとともに、明細書の発明の詳細な説明を補正するものであり、補正前後の請求項1は、それぞれ次のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
サファイア基板と、
前記サファイア基板上に開口部を有して形成された絶縁膜と、
前記開口部内に形成された下地GaN層と、
前記絶縁膜及び前記下地GaN層上に形成された中間バッファ層と、
前記中間バッファ層上に形成されるとともにInGaNウエル層を含む発光層とを少なくとも備え、
前記中間バッファ層は、複数のInGaN膜と複数のGaN膜とが交互に積層された超格子構造を有し、前記InGaN膜のIn組成比率は、前記下地GaN層から前記発光層に向かって段階的に増加するとともに、前記発光層の前記InGaNウエル層のIn組成比率よりも小さいことを特徴とする半導体発光素子。」

(補正後)
「【請求項1】
サファイア基板と、
前記サファイア基板上に、三角形、菱形、六角形、円形、ストライプ、または選択横方向エピタキシャル成長を阻害しないパターン形状の開口部を有して形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜の前記開口部内に形成されたGaNバッファ層と、
前記GaNバッファ層及び前記絶縁膜上に形成された下地GaN層と、
前記下地GaN層上に形成された中間バッファ層と、
前記中間バッファ層上に形成されるとともにInGaNウエル層を含む発光層とを少なくとも備え、
前記中間バッファ層は、複数のInGaN膜と複数のGaN膜とが交互に積層された超格子構造を有し、前記InGaN膜のIn組成比率は、前記下地GaN層から前記発光層に向かって段階的に増加するとともに、前記発光層の前記InGaNウエル層のIn組成比率よりも小さいことを特徴とする半導体発光素子。」(下線は補正箇所に付加したもの。)

2 本件補正についての検討
(1)補正事項の整理
本件補正を整理すると次のとおりである。
[補正事項1]
補正前の請求項1に記載の「前記サファイア基板上に開口部を有して形成された絶縁膜」を、「前記サファイア基板上に、三角形、菱形、六角形、円形、ストライプ、または選択横方向エピタキシャル成長を阻害しないパターン形状の開口部を有して形成された絶縁膜」とすること。
[補正事項2]
補正前の請求項1に記載の「前記開口部内に形成された下地GaN層」を、「前記絶縁膜の前記開口部内に形成されたGaNバッファ層と、前記GaNバッファ層及び前記絶縁膜上に形成された下地GaN層」とすること。
[補正事項3]
補正前の請求項1に記載の「前記絶縁膜及び前記下地GaN層上に形成された中間バッファ層」を、「前記下地GaN層上に形成された中間バッファ層」とすること。
[補正事項4]
補正前の明細書の段落【0017】を補正すること。

(2)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否についての検討
以下、補正事項1?4について検討する。

ア 補正事項1について
(ア)補正事項1により補正された事項は、本願の願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面をまとめて「当初明細書等」という。)の段落【0074】に記載されているから、補正事項1は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、補正事項1は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

(イ)補正事項1は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「開口部」について、「三角形、菱形、六角形、円形、ストライプ、または選択横方向エピタキシャル成長を阻害しないパターン形状の」という構成を追加して、「開口部」を限定する補正であり、補正前の請求項に記載された発明と産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題が同一である。
したがって、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。

イ 補正事項2、3について
(ア)補正事項2により補正された事項は、当初明細書の段落【0073】に、補正事項3により補正された事項は、当初明細書の段落【0031】に記載されており、補正事項2及び3は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、補正事項2及び3は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、いずれも特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

(イ)補正事項2は、補正前の請求項1に記載の「前記開口部内に形成された下地GaN層」を、「前記絶縁膜の前記開口部内に形成されたGaNバッファ層」と補正するとともに、「前記GaNバッファ層及び前記絶縁膜上に形成された下地GaN層」との記載を付加するものであり、補正事項3は、補正前の請求項1に記載の「中間バッファ層」について、「前記絶縁膜及び前記下地GaN層上に形成された」との限定を「前記下地GaN層上に形成された」と補正するものである。
したがって、補正事項2、3は、補正前の請求項1に記載の「『前記開口部内に形成された』下地GaN層」が、具体的には、発明の詳細な説明に記載のどの層が対応するのか不明瞭であったものを、「前記絶縁膜の前記開口部内に形成された」層は「GaNバッファ層」であること、「下地GaN層」は「前記GaNバッファ層及び前記絶縁膜上に形成された」ものであること、及び「中間バッファ層」は「前記下地GaN層上に形成された」ものであることを明らかにするものであるから、「『明瞭でない記載』の不明瞭さ」を正して、「その記載本来の意味内容」を明らかにするものである。
よって、補正事項2、3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

ウ 補正事項4について
補正事項4により補正された事項は、当初明細書の段落【0073】及び【0074】に記載されており、補正事項4は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、補正事項4は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項に規定する要件を満たすものである。
そして、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定の規定に適合するか)について、以下において検討する。

(3)独立特許要件について
ア 本件補正後の発明
本件補正後の請求項1に係る発明は、上記「1 本件補正の内容」の「(補正後)」に記載したとおりである。

イ 引用例の記載と引用発明
(ア)引用例1:特開2008-34848号公報
当審における、平成29年1月6日付けで通知した最後の拒絶理由で引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2008-34848号公報(以下「引用例1」という。)には、「窒化物系発光素子」(発明の名称)に関して、図1?12とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同じ。)。

a「【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物系発光素子に係り、特に、発光素子の発光効率と信頼性を向上させることができる窒化物系発光素子に関する。」

b「【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)は、電流を光に変換させる周知の半導体発光素子で、1962年GaAsP化合物半導体を用いた赤色LEDが商品化したことを始めとして、GaP:N系列の緑色LEDと共に、情報通信機器をはじめとする電子装置の表示画像用光源として用いられてきている。
…(略)…
【0009】
一方、このようなGaN系列半導体の成長が、他のIII-V族化合物半導体よりも難しい理由の一つに、高品質の基板、すなわち、GaN、InN、AlNなどの物質からなるウエハが存在しないことが挙げられる。
【0010】
この理由から、サファイアのような異種基板上にLED構造を成長させることになるが、この場合、多くの欠陥が生じ、それらの欠陥はLED性能に大きく影響することになる。
【0011】
このようなGaN系列物質のLEDの基本構造をみると、図1に示すように、n-型半導体層1が配置され、このn-型半導体層1と隣接して量子井戸構造を持つ活性層2が配置され、この活性層2と隣接してp-型半導体層3が配置される。このようなLED構造のエネルギーバンド構造を、図2に示す。
【0012】
このようなLED構造は、基板4上に成長させた状態のもので、基板4上のバッファー層5上に形成される。
【0013】
以降、このようなLED構造には電極(図示せず)が形成され、このような電極を通した電荷の注入によって発光が可能になる。」

c「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記の問題点を解決するためのもので、その目的は、発光素子の歪(strain)及び結晶欠陥を調節または抑制し、電子と正孔が活性層に効率的に閉じ込められるようにすることによって信頼性特性を向上させることができる窒化物系発光素子を提供することにある。」

d「【発明の効果】
【0018】
本発明の窒化物系発光素子によれば、発光素子の発光効率と信頼性を向上させることが可能になる。」

e「[第1実施例]
【0026】
図3は、本発明の第1実施例による構造を示すもので、相互に異なるIn組成を持つInGaNからなる第1層10とこれらのそれぞれの第1層10をなす各層11,12,13間に位置するGaNからなる第2層20が、活性層30の下側に配置された構造を示している。
【0027】
このような構造は、基板40上に形成されるn-型半導体層60上に、上述した第1層10と第2層20が交互に配置されてなり、基板40とn-型半導体層60との間には非ドープのバッファー層50が配置されることができる。
【0028】
これらの第1層10と第2層20上には、量子井戸層と量子障壁層からなって量子井戸構造を持つ活性層30が配置され、この活性層30上にはp-型半導体層70が形成されることができる。
【0029】
ここで、第1層10は、上部の層が下部のそれよりも大きいIn組成を有し、それぞれ異なるIn組成で形成される。すなわち、二番目のInGaN層12は一番目のInGaN層11よりも大きいIn組成を持ち、三番目のInGaN層13は二番目のInGaN層12よりも大きいIn組成を持つ。
【0030】
したがって、これらのInGaNからなる第1層10のIn組成は、活性層30に近づくほど活性層30のIn組成に近似するIn組成を持つようになる。この場合、第1層10のIn組成は、活性層30より小さいIn組成を有することができる。
【0031】
したがって、第1層10のIn組成が次第に増加することから、図4に示すように、エネルギーバンドギャップは活性層30に近付くにつれて順次に低くなる。
【0032】
このような構造から、活性層30のInGaN物質の成長時に、n-型半導体層60上に直接成長する場合に比べてより小さい歪または応力を受けるようになり、その結果、活性層30において高品質のInGaN量子井戸層を成長させることができる。
【0033】
なお、図4に示すように、第1層10のバンドギャップは次第に活性層30に近似していくため、活性層30の下に配置された第1層10の3つのInGaN層11,12,13に電荷(carrier)が捕獲されて効率よく活性層30のInGaN量子井戸層に注入(injection)されることができる。
【0034】
また、これらのInGaN層11,12,13の間に配置される第2層20は、各InGaN層11,12,13よりも薄く形成されることができる。
【0035】
したがって、第2層20は電荷の流れを邪魔しない。
【0036】
上記のように、活性層30と第1層10がInGaNからなり、第1層10がIn_(x)Ga_(1-x)Nで表現される組成を有するとき、xは0.1?0.15(0.1≦x≦0.15)であることが好ましい。
【0037】
一方、活性層30がInGaNからなる場合、AlとInの組成を調節して第1層10をAlInGaNにしても良い。
【0038】
また、第1層10の厚さは50?1000Åとし、第2層20の厚さは5?500Åとすることが好ましい。
【0039】
本実施例では、第1層10と第2層20がn-型半導体層60と活性層30との間に配置される場合について説明しているが、このような第1層10と第2層20は成長段階で活性層30の下側に形成されるいずれの場合も適用可能である。
【0040】
したがって、もし活性層30の下側にp-型半導体層70が位置すると、第1層10と第2層20は活性層30とp-型半導体層70との間に位置することができる。
【0041】
また、本実施例では、活性層30がInGaNからなる例で説明したが、GaN、AlGaN、AlInGaNなどからなる場合も適用可能である。第2層20も同様に、GaNの他に、InGaN、AlGaN、AlInGaNなどの物質でも形成可能である。
【0042】
本実施例では第1層10をなす各層と第2層20がそれぞれ3つの層(各第1層と各第2層がなす3対の層)からなる例で説明しているが、少なくとも2つの層(2対の層)であれば本発明の効果が発揮できる。
【0043】
場合によって、第1層10と第2層20が交互に積層された構造は、活性層30の一部と見なしても良い。すなわち、バンドギャップの変化する第1層10は、バンドギャップの変化する量子井戸層と見なし、第1層10同士間にそれぞれ配置される第2層10は量子障壁層と見なしても良い。
[第2実施例]
…(略)…
【0060】
第1実施例と同様に、第1層10と第2層20が交互に積層された構造は、活性層30の一部と見なすことができる。すなわち、バンドギャップが変化する第1層10は、厚さの変化する量子井戸層と見なすことができ、第1層10同士間にそれぞれ位置する第2層10は量子障壁層と見なすことができる。
[第3実施例]
【0061】
図6は、本発明の第3実施例による構造を示すもので、活性層30とn-型半導体層60との間、及び活性層30とp-型半導体層70との間に、第1層80と第2層90が交互に配置されて介在された構造を示している。
【0062】
すなわち、基板40上に形成されるn-型半導体層60上に、上述した第1層80と第2層90が交互に形成されることができ、基板40とn-型半導体層60との間には非ドープのバッファー層50が配置されることができる。
【0063】
このような第1層80と第2層90の上には、量子井戸層と量子障壁層からなって量子井戸構造を持つ活性層30が配置され、この活性層30上には再び第1層80と第2層90が交互に配置され、その上にp-型半導体層70が形成される。
…(略)…
【0066】
第1層80は、n-型半導体層60またはp-型半導体層70をなすGaNよりもバンドギャップの大きい物質からなることができ、例えば、AlGaN、AlInGaNなどの物質を用いると良い。」

f「【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】一般の発光素子を例示する断面図である。
【図2】図1に示す構造のバンドダイヤグラムである。
【図3】本発明の第1実施例による構造を示す断面図である。
【図4】図3に示す構造のバンドダイヤグラムである。
【図5】本発明の第2実施例による構造を示す断面図である。
【図6】本発明の第3実施例による構造を示す断面図である。
…(略)…」

g 図3、4は、以下のとおりである。


(イ)引用発明
以上、図1?6を参酌してまとめると、引用例1には、図3に示される「第1実施例」として、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「窒化物系発光素子であって、
基板40と、
非ドープのバッファー層50と、
n-型半導体層60と、
活性層30とを備え、
相互に異なるIn組成を持つInGaNからなる第1層10とこれらのそれぞれの第1層10をなす各層11,12,13間に位置するGaNからなる第2層20が活性層30の下側に配置された構造が、基板40上に形成されるn-型半導体層60上に、上述した第1層10と第2層20が交互に配置されてなり、基板40とn-型半導体層60との間には非ドープのバッファー層50が配置され、
第1層10と第2層20上には、InGaN量子井戸層と量子障壁層からなって量子井戸構造を持つ活性層30が配置され、この活性層30上にはp-型半導体層70が形成され、
第1層10は、上部の層が下部のそれよりも大きいIn組成を有し、それぞれ異なるIn組成で形成され、すなわち、二番目のInGaN層12は一番目のInGaN層11よりも大きいIn組成を持ち、三番目のInGaN層13は二番目のInGaN層12よりも大きいIn組成を持ち、
したがって、これらのInGaNからなる第1層10のIn組成は、活性層30に近づくほど活性層30のIn組成に近似するIn組成を持つようになり、第1層10のIn組成は、活性層30より小さいIn組成を有し、
第1層10の厚さは50?1000Åとし、第2層20の厚さは5?500Åとし、
第1層10と第2層20が交互に積層された構造を有する窒化物系発光素子。」

ウ 対比
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「窒化物系発光素子」、「相互に異なるIn組成を持つInGaNからなる第1層10とこれらのそれぞれの第1層10をなす各層11,12,13間に位置するGaNからなる第2層20」、及び「InGaN量子井戸層と量子障壁層からなって量子井戸構造を持つ活性層30」は、それぞれ、補正発明の「半導体発光素子」、「中間バッファ層」、及び「InGaNウエル層を含む発光層」に相当する。
また、補正発明の「下地GaN層」と引用発明の「n-型半導体層60」とは、前者はその上に「中間バッファ層」や「発光層」が形成され、後者はその上に「第1層10と第2層20が交互に積層された構造」や「活性層30」が形成されたものであることは明らかであるから、いずれも、「下地層」である点で共通する。
更にまた、補正発明の「GaNバッファ層」と引用発明の「非ドープのバッファー層50」とは、「バッファ層」である点で共通する。

(イ)更に、引用発明では、「『相互に異なるIn組成を持つInGaNからなる第1層10とこれらのそれぞれの第1層10をなす各層11,12,13間に位置するGaNからなる第2層20』が、『配置された構造』が、『上述した第1層10と第2層20が交互に配置されてなり』」、「第1層10と第2層20が交互に配置された構造を有する」ものであること、及び、「第1層10の厚さは50?1000Åとし、第2層20の厚さは5?500Å」の数値範囲も勘案すると、引用発明の「第1層10と第2層20が交互に積層された構造」は、補正発明の「複数のInGaN膜と複数のGaN膜とが交互に積層された超格子構造」に相当する。

(ウ)引用発明では、「第1層10と第2層20上には、InGaN量子井戸層と量子障壁層からなって量子井戸構造を持つ活性層30が配置され、この活性層30上にはp-型半導体層70が形成され、第1層10は、上部の層が下部のそれよりも大きいIn組成を有し、それぞれ異なるIn組成で形成され、すなわち、二番目のInGaN層12は一番目のInGaN層11よりも大きいIn組成を持ち、三番目のInGaN層13は二番目のInGaN層12よりも大きいIn組成を持ち、したがって、これらのInGaNからなる第1層10のIn組成は、活性層30に近づくほど活性層30のIn組成に近似するIn組成を持つようになり、第1層10のIn組成は、活性層30より小さいIn組成を有」するから、引用例1の図4も参照すると、補正発明と引用発明とは、「中間バッファ層」は、「前記InGaN膜のIn組成比率は、前記下地層から前記発光層に向かって段階的に増加するとともに、前記発光層の前記InGaNウエル層のIn組成比率よりも小さ」い点で一致する。

(エ)したがって、補正発明と引用発明との一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「基板と、
バッファ層と、
前記バッファ層上に形成された下地層と、
前記下地層上に形成された中間バッファ層と、
前記中間バッファ層上に形成されるとともにInGaNウエル層を含む発光層とを少なくとも備え、
前記中間バッファ層は、複数のInGaN膜と複数のGaN膜とが交互に積層された超格子構造を有し、前記InGaN膜のIn組成比率は、前記下地層から前記発光層に向かって段階的に増加するとともに、前記発光層の前記InGaNウエル層のIn組成比率よりも小さい半導体発光素子。」

<相違点1>
相違点1を、相違点1-1?相違点1-3に分けて示す。
・相違点1-1
基板について、補正発明では、「サファイア基板」であるのに対し、引用発明では、「基板40」が「サファイア基板」とは特定されていない点。
・相違点1-2
(その上に下地GaN層が形成された)バッファ層について、補正発明では、「GaNバッファ層」であるのに対し、引用発明では、「非ドープのバッファー層50」で、「GaNバッファ層」とは特定されていない点。
・相違点1-3
下地層について、補正発明では、「下地GaN層」であるのに対し、引用発明では、「n-型半導体層60」で、「GaN層」とは特定されていない点。

<相違点2>
補正発明では、「『サファイア基板』と、『前記サファイア基板上に、三角形、菱形、六角形、円形、ストライプ、または選択横方向エピタキシャル成長を阻害しないパターン形状の開口部を有して形成された絶縁膜』と、『GaNバッファ層』と、『下地GaN層』と、『中間バッファ層』」とを少なくとも備え、「GaNバッファ層」は「前記絶縁膜の前記開口部内に形成されたGaNバッファ層」で、「下地GaN層」は「前記GaNバッファ層及び前記絶縁膜上に形成された下地GaN層」で、「中間バッファ層」は「前記下地GaN層上に形成された中間バッファ層」である。
それに対し、引用発明では、「基板40」と、「バッファー層50」と、「n-型半導体層60」(下地層)と、(「活性層30」と)を備え、「相互に異なるIn組成を持つInGaNからなる第1層10とこれらのそれぞれの第1層10をなす各層11,12,13間に位置するGaNからなる第2層20」(中間バッファ層)が配置されてなるものの、補正発明の「前記サファイア基板上に、三角形、菱形、六角形、円形、ストライプ、または選択横方向エピタキシャル成長を阻害しないパターン形状の開口部を有して形成された絶縁膜」を備える点について特定されておらず、そのため、「バッファー層50」(バッファ層)が「前記絶縁膜の前記開口部内に形成された」ものである点、及び「n-型半導体層60」(下地層)が「前記GaNバッファ層及び前記絶縁膜上に形成された」ものである点について特定されていない点。

エ 判断
以下、相違点1、2について検討する。
(ア)相違点1について
a まず、相違点1-3について検討する。
上記イ(ア)gの引用例1の図4から、層20と層60の伝導帯と価電子帯はいずれも等しいことが見てとれる。
図4の層20及び層60は、それぞれ引用発明の「第2層20」及び「n-型半導体層60」が対応すること、並びに、引用発明において、「第2層20」は「GaNからなる第2層20」であることを勘案すると、図4から、「n-型半導体層60」は「GaNからなる第2層20」と組成が等しいことが示唆されているといえる。
更に、引用例1の段落【0066】には、第3実施例について、「n-型半導体層60またはp-型半導体層70をなすGaN」と記載されている。
すなわち、引用例1には、「『GaN』からなる、n-型半導体層60」が開示されているといえる。
よって、相違点1-3は、実質的なものではない。

b 次に、仮に、相違点1-3が実質的なものであった場合について、相違点1-1?1-3について、以下においてまとめて検討する。
一般に、基板と、バッファ層と、バッファ層上に形成された下地層と、InGaN層を含む発光層を備える半導体発光素子において、基板をサファイア基板、バッファ層をGaNバッファ層、及び下地層をGaN層とすることは、下記の周知例1及び2に記載されているように、周知技術(以下「周知技術A」という。)である。

そして、引用発明の窒化物系発光素子は、「基板40」と、「n-型半導体層60」(下地層)とを備え、「基板40とn-型半導体層60との間には非ドープのバッファー層50が配置され」、「InGaN量子井戸層」を含む「活性層30」(発光層)を備えるものであるから、引用発明において、上記周知技術Aに基づき、基板がサファイア基板、バッファ層がGaNバッファ層、及び下地層がGaN層から、それぞれなる構成を採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。
よって、仮に、相違点1-3が実質的なものであったとしても、引用発明において、上記周知技術Aに基づき、相違点1-1?1-3に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(a)周知例1:特開2004-55646号公報
「【0072】
[2.実施例2(GaN系青色LEDにハニカム構造を適用)]
もう一つp型層が高抵抗になり電流拡散が難しいのはGaNである。図6に本発明を適用したGaN系青色発光ダイオードの一例を示す。サファイヤ基板22の上にMOCVD法(有機金属気相成長法)により30nm厚みのGaNバッファ層23、4μm厚みのn型GaNクラッド層24、InGaN活性層25、0.1μm厚みのp型AlGaNクラッド層26、0.3μm厚みのp型GaN層27を形成した。」

(b)周知例2:特開平10-335702号公報
「【0010】(実施例1)はじめに、本発明の第1の実施例である窒化物系化合物半導体発光ダイオードについて図1を用いて説明する。原料には、III族原料として有機金属であるトリメチルガリウム、トリメチルアルミニウムおよびV族原料としてアンモニアガスを用いた。窒化物系化合物半導体のエピタキシャル成長前に、一般的な反応性イオンエッチング装置を用いて(0001)面サファイア基板1表面をエッチング処理した。このエッチング処理に用いるガスはアルゴン、水素、窒素、メタン、エタン、塩素系等いずれでも構わない。そして、一般的な有機金属気相成長装置により、(0001)面サファイア基板1上に成長温度600度にてGaNバッファ層(厚さ20nm)2を堆積した。その後、アンモニアガスと水素とを混合したガス雰囲気中で温度1000度まで昇温することによってバッファ層2の再結晶化を行い、その上に温度1000度で以下に示す窒化物系化合物半導体多層構造を成長した。
【0011】まず、再結晶化したGaNバッファ層2上に、n-GaNコンタクト層(厚さ4μm、n=3×10^(18)cm^(-3))3、n-GaNクラッド層(厚さ2.5μm、n=1×10^(18)cm^(-3))4、ZnドープGa_(0.9)In_(0.1)N活性層(厚さ0.05μm、p=1×10^(18)cm^(-3))5、p-GaNクラッド層(厚さ1.5μm、p=8×10^(17)cm^(-3))6、およびp-GaNコンタクト層(厚さ0.5μm、n=3×10^(18)cm^(-3))7を順次エピタキシャル成長した。作製した窒化物系化合物半導体の2結晶X線回折測定を行ったところ、本発明により成長したGaN膜の半値幅は従来法により作製したGaN膜に比べ約半分の値が得られた。この結果から、本発明により成長した窒化物系化合物半導体エピタキシャル膜の結晶性は従来法よりも大幅に向上したものと考えられる。…(略)…」

c 同様に、相違点1-3が実質的なものではない場合についても、引用発明において、上記周知技術Aに基づき、基板がサファイア基板、及びバッファ層がGaNバッファ層から、それぞれなる構成を採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。
よって、相違点1-3が実質的なものではない場合についても、引用発明において、上記周知技術Aに基づき、相違点1-1及び1-2に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点2について
一般に、基板と、バッファ層と、バッファ層上に形成された下地層と、InGaNウエル層を含む発光層を備える半導体発光素子において、基板がサファイア基板で、当該サファイア基板上に、「サファイア基板を露出するように形成され、『選択横方向エピタキシャル成長を阻害しないパターン形状』の絶縁膜」、または「平行なストライプ形状、三角形状、若しくは六角形状の開口部を有する絶縁膜」を備え、かつ、バッファ層が、「前記絶縁膜に挟まれた基板上に配置されたバッファ層」、または「『前記絶縁膜の前記開口部内』に形成されたバッファ層」であり、下地層が、「『前記バッファ層及び前記絶縁膜上』に形成された」ものは、貫通転位を低下させることができるものであることは、下記の周知例3?7に記載されているように、周知技術(以下「周知技術B」という。)である(「サファイア基板を露出するように形成され、『選択横方向エピタキシャル成長を阻害しないパターン形状』の絶縁膜」を備え、かつ、バッファ層が、「前記絶縁膜に挟まれた基板上に配置されたバッファ層」であるものについては、周知例3?5を参照。「平行なストライプ形状、三角形状、若しくは六角形状の開口部を有する絶縁膜」を備え、かつ、バッファ層が、「『前記絶縁膜の前記開口部内』に形成されたバッファ層」であるものについては、周知例6、7を参照。)。
しかも、周知例5には、半導体発光素子として、サファイア基板10上の、バッファ層16として低温GaNバッファ層、第1半導体層12aとしてGaN系半導体層が開示されている。また、周知例7に記載の第2の実施形態は、サファイア基板30上に、低温GaNバッファ層32、アンドープGaN下地層33、n型GaNコンタクト層35、MQW構造を有するInGaN系活性層38等を備えるものである。

そして、引用発明の窒化物系発光素子は、活性層30(発光層)が「InGaN量子井戸層」を含むものであり、貫通転位を低下させることが望ましいことは明らかであるから、上記(ア)b、cで検討したように、引用発明において、基板40が「サファイア基板」からなる構成を採用する場合、上記周知技術Bに基づき、当該サファイア基板上に、「サファイア基板を露出するように形成され、『選択横方向エピタキシャル成長を阻害しないパターン形状』の絶縁膜」、または「平行なストライプ形状、三角形状、若しくは六角形状の開口部を有する絶縁膜」と、「前記絶縁膜に挟まれた基板上に配置されたバッファ層」、または「『前記絶縁膜の前記開口部内』に形成されたバッファ層」と、「『前記バッファ層及び前記絶縁膜上』に形成された下地層」を備える構成を採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。

したがって、引用発明において、上記周知技術Bに基づき、相違点2に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

a 周知例3:特開2009-194365号公報
「【0006】
現在、転位密度を10^(6)?10^(7)cm^(-2)程度まで低減できる有効な方法として確立している技術は、選択横方向成長の特性を生かしたELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)技術である。」

「【0027】
[第1の実施の形態]
(素子構造)
本発明の第1の実施の形態に係る半導体発光素子は、図1(a)および図1(b)に示すように、基板10と、基板10上に配置された保護膜18と、保護膜18に挟まれた基板10上および保護膜18上に配置され,n型不純物をドープされたn型半導体層12と、n型半導体層12上に配置された活性層13と、活性層13上に配置され,p型不純物をドープされたp型半導体層14とを備える。
【0028】
また、保護膜18に挟まれた基板10上に配置されたバッファ層16をさらに備えていても良い。」

「【0047】
異種基板上へ部分的に屈折率の異なる保護膜18を形成した基板を作成し、さらに窒化物系半導体を直接上記の基板へエピタキシャル成長させ、発光素子を形成することにより、エピタキシャル成長層ー基板界面に凹凸を形成でき、光の散乱・回折が生じ、光取り出し効率が向上する。
【0048】
また、基板の加工が不要なため、コスト・工程的にも負担が少なく、生産性も優れている。
【0049】
保護膜18の窓部分から直接エピタキシャル成長を行うことで、エピタキシャル成長プロセスを一度に統合できる。
【0050】
保護膜18を覆うように、横方向成長(ELO)させるため、結晶の貫通転位を曲げることができ、結晶性も向上する。
…(略)…
【0052】
(詳細構造例)
第1の実施の形態に係る半導体発光素子は、図11に示すように、基板10と、基板10上に配置された保護膜18と、保護膜18に挟まれた基板10上に配置されたバッファ層16と、バッファ層16および保護膜18上に配置され,n型不純物が不純物添加されたn型半導体層12と、n型半導体層12上に配置され、n型半導体層12より低い濃度でn型不純物が不純物添加されたブロック層17と、ブロック層17上に配置され活性層13と、活性層13上に配置されたp型半導体層14と、p型半導体層14上に配置された透明電極15とを備える。
…(略)…
【0056】
基板10には、例えば、c面(0001),0.25°オフのサファイア基板などが採用可能である。n型半導体層12、活性層13及びp型半導体層14はそれぞれIII族窒化物系半導体からなり、基板10上に保護膜18を形成後、バッファ層16、n型半導体層12、ブロック層17、活性層13及びp型半導体層14が順次積層される。
【0057】
(保護膜)
保護膜18は、発光波長に対して透明であり、かつ保護膜18の屈折率は、基板10の屈折率とほぼ等しい材料であることが必要である。例えば、保護膜は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜、チタン酸化膜、アルミナ膜などで形成する。
【0058】
サファイア基板(n=1.7?1.8)の場合、保護膜18としては、SiO_(2)(n=1.46)、SiN_(x)(n=2.05)、TiO_(x)(n=1.8)、Al_(2)O_(3)(n=1.7?1.8)などを適用することができる。
【0059】
保護膜18のサイズとしては、例えば、幅最大約10μm程度で、厚さは、例えば約100nm以上、1μm程度が望ましい。保護膜18の形状は、三角形、菱形、六角形、円形、ストライプ等、選択横方向エピタキシャル成長(ELO)を阻害しないパターン形状ものが良い。特に、ELOを行うため、パターンの方向は、横方向成長面であるa面、m面を考慮して、選択する。
【0060】
基板10の裏面もしくはエピタキシャル成長層の上面から光を取り出す際、保護膜18とエピタキシャル成長層の界面に凹凸が生じるため、光が散乱もしくは回折され、エピタキシャル成長層-異種基板界面の屈折率差によって全反射されていた光が、外へ効率よく取り出されることになる。」

「【0088】
(活性層)
活性層13は、図11(b)に示すように、第1バリア層311?第nバリア層31n及び最終バリア層310でそれぞれ挟まれた第1井戸層321?第n井戸層32nを有する多重量子井戸(MQW)構造である(n:自然数)。つまり、活性層13は、井戸層32を井戸層32よりもバンドギャップの大きなバリア層31でサンドイッチ状に挟んだ量子井戸構造を単位ペア構造とし、この単位ペア構造をn回積層したnペア構造を有する。
…(略)…
【0090】
井戸層321?32nは、例えばIn_(x)Ga_(1-x)N(0<x<1)層によって形成され、バリア層311?31n,310は、例えばGaN層によって形成される。また、多重量子井戸層のペア数は、例えば、6?11であることを特徴とする。なお、井戸層321?32nのインジウム(In)の比率{x/(1-x)}は、発生させたい光の波長に応じて適宜設定される。」

「【0139】
(製造方法)
第1の実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法は、図2乃至図8に示すように、基板10を準備する工程と、基板10上に保護膜18を形成する工程と、保護膜18をパターニングし、基板10を露出する工程と、保護膜18に挟まれ,露出された基板10および保護膜18上にn型不純物をドープされたn型半導体層12を横方向エピタキシャル成長により形成する工程と、n型半導体層12上に活性層13を形成する工程と、活性層13上にp型不純物をドープされたp型半導体層14を形成する工程とを有する。
【0140】
また、基板10を露出する工程後、保護膜18に挟まれ, 露出された基板10上にバッファ層16を形成する工程をさらに有する。」

b:周知例4:特開2011-9382号公報
「【0006】
現在、転位密度を10^(6)?10^(7)cm^(-2)程度まで低減できる有効な方法として確立している技術は、選択横方向成長の特性を生かしたELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)技術である。」

「【0028】
[第1の実施の形態]
(素子構造)
本発明の第1の実施の形態に係る半導体発光素子は、図1(a)および図1(b)に示すように、基板10と、基板10上に配置され、ナノサイズ加工された加工層18と、加工層18に挟まれた基板10上および加工層18上に配置され,n型不純物をドープされたn型半導体層12と、n型半導体層12上に配置された活性層13と、活性層13上に配置され,p型不純物をドープされたp型半導体層14とを備える。
【0029】
加工層18のパターンサイズはナノメータスケールであり、例えば、ナノインプリント技術を用いて基板成長面に充分な高さの凹凸構造を作製することによって、加工層18のパターンを形成している。
【0030】
また、加工層18に挟まれた基板10上に配置されたバッファ層16をさらに備えていても良い。」

「【0038】
第1の実施の形態に係る半導体発光素子の基板10の加工工程について、図3(a)?図3(d)及び図4(a)?(d)を参照して、以下に説明する。
【0039】
(a)まず、図3(a)に示すように、基板10として、例えば、サファイア基板を準備する。
【0040】
(b)次に、図3(b)に示すように、基板10の表面上に、加工層18を形成する。加工層18は、加工が容易な材料の層であり、例えば、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜、チタン酸化膜、アルミナ膜などを適用することができる。
…(略)…
【0045】
(g)次に、図4(c)に示すように、上記のレジストパターンを用いて、RIEなどのエッチング技術を用いて、加工層18を加工し、サファイア基板10を露出させる。」

「【0062】
(製造方法)
第1の実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法は、図15?図21に示すように、基板10を準備する工程と、基板10上に、ナノサイズ加工された加工層18を形成する工程と、加工層18をパターニングし、基板10を露出する工程と、加工層18に挟まれ,露出された基板10および加工層18上にn型不純物をドープされたn型半導体層12を横方向エピタキシャル成長により形成する工程と、n型半導体層12上に活性層13を形成する工程と、活性層13上にp型不純物をドープされたp型半導体層14を形成する工程とを有する。
【0063】
加工層18のパターンサイズはナノメータスケールであり、例えば、ナノインプリント技術を用いて基板成長面に充分な高さの凹凸構造を作製することによって、加工層18のパターンを形成している。
【0064】
また、基板10を露出する工程後、加工層18に挟まれ, 露出された基板10上にバッファ層16を形成する工程をさらに有する。
【0065】
以下、図15?図21を参照して、第1の実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法を説明する。以下に述べる半導体発光素子の製造方法は一例であり、変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。ここでは、基板10にサファイア基板を適用する例を説明する。
【0066】
(a)まず、図15に示すように、サファイア基板10を準備し、サファイア基板10上に加工層18を形成後、ナノインプリント技術を用いてナノサイズ加工し、基板10の表面を露出する。
【0067】
加工層18の形状は、矩形、三角形、菱形、六角形、円形、ストライプ等、横方向選択エピタキシャル成長(ELO)を阻害しないパターン形状ものが良い。特に、ELOを行うため、パターンの方向は、横方向成長面であるa面、m面を考慮して、選択する。サファイア基板10の裏面もしくはエピタキシャル成長層の上面から光を取り出す際、加工層18とエピタキシャル成長層の界面に凹凸が生じるため、光が散乱もしくは回折され、エピタキシャル成長層-異種基板界面の屈折率差によって全反射されていた光が、外へ効率よく取り出されることになる。サファイア基板10上に、屈折率nが次第に増加する傾向を有する加工層18を形成し、この加工層18に対して、特にナノインプリント技術を用いて、ナノメータスケールの凹凸構造を作製することによって、サファイア基板10側への光の取り出し効率が向上し、外部発光効率の向上する。
…(略)…
【0074】
例えば、加工層18のパターンをストライプ状に形成する場合、ストライプは、<11-20>または<1-100>方向とし、加工層18の幅を約1?4μm程度、繰り返しの周期を例えば約7μm程度とする。この上に、HVPE法により、1000℃でn型半導体層12となるGaNを成長する。」

「【0122】
(活性層)
また、活性層13は、バリア層とバリア層よりバンドギャップが小さい井戸層が交互に配置された積層構造を有し、インジウムを含む多重量子井戸からなる。
【0123】
また、バリア層は、GaNよりなり、井戸層は、In_(x)Ga_(1-x)N(0<x<1)よりなり、多重量子井戸のペア数は、例えば、6?11程度である。」

c:周知例5:特開2011-60917号公報
「【0027】
[第1の実施の形態]
(素子構造)
本発明の第1の実施の形態に係る半導体発光素子は、図1(a)および図1(b)に示すように、第1屈折率を有する基板10と、基板10上に配置され、第2屈折率を有し、周期的凹凸加工された加工層18と、加工層18に挟まれた基板10上および加工層18上に配置され、第3屈折率を有し、n型不純物をドープされた第1半導体層12と、第1半導体層12上に配置された活性層13と、活性層13上に配置され、p型不純物をドープされた第2半導体層14とを備え、第2屈折率の値は、第1屈折率の値よりも大きく、第3屈折率の値よりも小さい。
【0028】
基板10は、例えばサファイア基板で形成される。なお、基板10は、多層積層構造の途中に配置された層構造若しくは半導体層で形成されていても良い。
…(略)…
【0035】
また、第1の実施の形態に係る半導体発光素子は、図1(a)に示すように、加工層18に挟まれた基板10上に配置されたバッファ層16をさらに備えていても良い。
【0036】
バッファ層16は、例えば、B_(s)Al_(t)Ga_(1-u)N(0≦s≦1、0≦t≦1、0≦u≦1、u=s+t)系半導体を堆積することによって形成される。
【0037】
第1半導体層12は、バッファ層16上に配置されたB_(i)Al_(j)Ga_(1-k)N(0≦i≦1、0≦j≦1、0≦k≦1、k=i+j)系半導体層を備えていても良い。ここで、第3屈折率はバッファ層16の屈折率の値と同じ、または大きい値を有する。」

「【0083】
(製造方法)
第1の実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法は、図20?25に示すように、第1屈折率を有する基板10を準備する工程と、基板10上に、第2屈折率を有する加工層18を形成する工程と、加工層18をパターニングし、基板10を露出する工程と、加工層18に挟まれ、露出された基板10および加工層18上に、第3屈折率を有し、第1半導体層12を形成する工程と、第1半導体層12上に活性層13を形成する工程と、活性層13上に第2半導体層14を形成する工程とを有する。第2屈折率の値は、第1屈折率の値よりも大きく、第3屈折率の値よりも小さい。
【0084】
また、第1の実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法は、加工層18に挟まれた基板10上にバッファ層16を形成する工程を有していても良い。
【0085】
(a)まず、図20に示すように、サファイア基板10上に、周期的凹凸加工するための加工層18を一様に堆積する。加工層18は、例えば、…(略)…
【0086】
(b)次に、図21に示すように、フォトリソグラフィなどを用いてパターニングを実施し、所定のパターンサイズにエッチング加工することによって、加工層18の凹凸の周期構造を形成する。エッチングの方法は、ウェットエッチング法、ドライエッチング法のいずれも適用可能である。結果として、凹部の表面には、サファイア基板10が露出される。…(略)…
【0087】
(c)次に、図22に示すように、加工層18に挟まれたサファイア基板10上および加工層18上に、B_(w)Al_(y)Ga_(1-x)In_(z)N(0≦w≦1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x=w+y+z)系半導体層からなる第1半導体層12aを堆積する。堆積方法は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を用いることができる。MOCVDの反応炉は、縦型でも横型でも良いが、縦型の方が好ましい。
【0088】
詳細には、加工層18に挟まれたサファイア基板10上にB_(w)Al_(y)Ga_(1-x)In_(z)N(0≦w≦1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x=w+y+z)系半導体層からなるバッファ層16を形成し、その後、B_(w)Al_(y)Ga_(1-x)In_(z)N(0≦w≦1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x=w+y+z)系半導体層からなる第1半導体層12aを堆積する。バッファ層16と第1半導体層12aの組成(x、y、z、w)は異なっていても良い。w若しくはyの値は、第1半導体層12aよりもバッファ層16の方が大きい方が好ましい。第1半導体層12aでは、堆積するにつれて、w若しくはyの値が徐々に減少するような構造であっても良い。
【0089】
バッファ層16は、例えば、低温GaNバッファ層、高温AlNバッファ層、BAlNバッファ層、B_(s)Al_(t)Ga_(1-u)N(0≦s≦1、0≦t≦1、0≦u≦1、u=s+t)系半導体バッファ層などを堆積することによって形成しても良い。なお、バッファ層16の厚さは、凹部の深さt以下である。バッファ層16の屈折率の値は、第2屈折率の値と同じ、または大きい。
【0090】
第1半導体層12aは、例えば、GaN、AlN、AlGaN、B_(i)Al_(j)Ga_(1-k)N(0≦i≦1、0≦j≦1、0≦k≦1、k=i+j)系半導体層などを堆積することによって形成しても良い。若しくは、AlN層から連続的にGaを混ぜてGaN層まで変化させて形成しても良い。ここで、連続的な変化は、例えば、100nm毎にAl組成が10%減少し、Ga組成が10%増加する変化であっても良い。あるいは変化は、200nm毎でも良いし、50nm毎であっても良い。開始の濃度は、Al濃度50%、Ga濃度50%からでも良い。Alの代わりに、Bを用いても良い。また、Gaの代わりにInを用いても良い。
【0091】
バッファ層16、第1半導体層12aのいずれか一方若しくは両方ともにn型ドーパントであるSiがドーピングされていても良い。
【0092】
第1半導体層12aは、バッファ層16の屈折率の値と同じ、または大きい値の第3屈折率を有する。すなわち、第1屈折率を有するサファイア基板10と、第2屈折率を有する加工層18と、第3屈折率を有する第1半導体層12aにおいて、第1屈折率<第2屈折率<第3屈折率の関係があり、さらに、バッファ層16の屈折率の値は、第2屈折率の値と同じ、または大きく、もしくは第3屈折率の値と同じ、または小さい。
【0093】
(d)次に、図23に示すように、第1半導体層12aの形成後、n型BAlGaInN層12bを形成する。第1半導体層12aの形成後には、生産性を向上させるために、必要に応じて堆積装置を変更しても良い。例えば、縦型の反応炉を持つMOCVD装置から、別の縦型反応炉を持つMOCVD装置に変更する、もしくは横型反応炉のMOCVD装置へ変更することも可能である。n型BAlGaInN層12bを形成後は、活性層13を形成前に、必要に応じて、超格子構造を導入することも可能である。例えば、In_(0.09)Ga_(0.91)N(0.7nm)/GaN(2.6nm)の40周期の超格子構造を導入する。超格子構造は、Siがドーピングされていても良く、濃度は、例えば、約4×10^(18)cm^(-3)程度である。
【0094】
(e)次に、図23に示すように、n型BAlGaInN層12bを形成後、活性層13を形成する。活性層13は、量子井戸構造を有し、その井戸数は、例えば、1?20程度である。量子井戸構造は、例えば、井戸層としてIn_(0.09)Ga_(0.91)N(2.5nm)、障壁層としてGaN(7.5nm)を用いて井戸層の数を3とした場合、発光波長は、400nm程度が得られている。このような量子井戸構造に対して、In組成を増加した場合には、発光波長はレッドシフトし、例えば。450nmや500nmの発光波長を得ることができる。」

「【0107】
(横方向成長工程)
第1の実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法において、横方向成長の一工程を説明する模式的断面構造は、図26?図32に示すように、第1屈折率を有する基板10を準備する工程と、基板10上に、第2屈折率を有する加工層18を形成する工程と、加工層18をパターニングし、基板10を露出する工程と、加工層18に挟まれ、露出された基板10および加工層18上に、第3屈折率を有し、n型不純物をドープされた第1半導体層12を横方向エピタキシャル成長により形成する工程と、第1半導体層12上に活性層13を形成する工程と、活性層13上にp型不純物をドープされた第2半導体層14を形成する工程とを有する。第2屈折率の値は、第1屈折率の値よりも大きく、第3屈折率の値よりも小さい。活性層13を形成する工程と、第2半導体層14を形成する工程は、上述と同様である。
【0108】
また、基板10を露出する工程後、加工層18に挟まれ、露出された基板10上にバッファ層16を形成する工程をさらに有する。
【0109】
以下、図26?図32を参照して、横方向成長工程を説明する。以下に述べる横方向成長工程は一例であり、変形例を含めて、これ以外の種々の工程により実現可能であることは勿論である。ここでは、基板10にサファイア基板を適用する例を説明する。
【0110】
(a)まず、図26に示すように、サファイア基板10を準備し、サファイア基板10上に加工層18を形成後、周期的凹凸加工し、基板10の表面を露出する。
【0111】
加工層18の形状は、矩形、三角形、菱形、六角形、円形、ストライプ等、横方向選択エピタキシャル成長(ELO)を阻害しないパターン形状ものが良い。特に、ELOを行うため、パターンの方向は、横方向成長面であるa面、m面を考慮して、選択する。サファイア基板10の裏面もしくはエピタキシャル成長層の上面から光を取り出す際、加工層18とエピタキシャル成長層の界面に周期構造の凹凸を形成するため、光が干渉、散乱もしくは回折され、エピタキシャル成長層-異種基板界面の屈折率差によって全反射されていた光が、外へ効率よく取り出されることになる。サファイア基板10上に、屈折率nが次第に増加する傾向を有する加工層18を形成しても良い。この加工層18に対して、周期構造の凹凸構造を形成することによって、サファイア基板10側への光の散乱透過率が向上し、光取り出し効率が向上する。
…(略)…
【0115】
加工層18を埋めるため、途中からピタキシャル成長条件を横方向成長を促進させる条件に変えても良い。横方向成長を促進させるためには、例えば、結晶成長時のガス系の圧力を変化させると良い。第1のステップとして、例えば約1050℃で、約100Torrで約1μm程度成長後、第2のステップとして、例えば約1050℃で、約200Torrで約1.5μm程度成長させることができる。このように第1半導体層12を形成することによって、ELOによる貫通転位密度の低減効果と共に、横方向成長を促進させることができる。
…(略)…
【0118】
例えば、加工層18のパターンをストライプ状に形成する場合、ストライプは、<11-20>または<1-100>方向とし、凸部である加工層18の幅を約1?5μm程度、繰り返しの周期を例えば約1.2?7μm程度とする。この上に、HVPE法により、1000℃で第1半導体層12となるB_(i)Al_(j)Ga_(1-k)N(0≦i≦1、0≦j≦1、0≦k≦1、k=i+j)系半導体層を成長する。」

d:周知例6:特開平11-31864号公報
「【発明の属する技術分野】本発明は、窒化ガリウムの結晶成長方法に関し、特に、転位密度の低い窒化ガリウムの結晶成長方法に関する。
【0002】
【従来の技術】窒化ガリウムは、燐化インジウムや砒化ガリウムといった従来の一般的な化合物半導体に比べ、禁制帯幅エネルギーが大きい。そのため、窒化ガリウム系化合物半導体は緑から紫外にかけての発光素子、特に半導体レーザ(以下単にレーザと略記する)への応用が期待されている。
【0003】従来、代表的な窒化ガリウム系化合物半導体である窒化ガリウムは、有機金属化学気相成長(以下MOVPEと略記する)法により、(11-20)面または(0001)面を表面とするサファイア基板上に形成されることが一般的であった。
【0004】図18は、このような従来の技術の窒化ガリウムの結晶成長方法によりサファイア(0001)面基板上に形成された代表的な窒化ガリウム系レーザの概略断面図である(S. Nakamura et al., Jpn. J. Appl. Phys. 35 (1996) L74)。図18において、この窒化ガリウム系レーザは、(0001)面を表面とするサファイア基板101上に、成長温度550℃の厚さ300Åのアンドープの窒化ガリウム低温成長バッファ層1802、珪素が添加された厚さ3μmのn型窒化ガリウムコンタクト層1803、珪素が添加された厚さ0.1 μmのn型In_(0.1)Ga_(0.9 )N層1804、珪素が添加された厚さ0.4 μmのn型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層1805、珪素が添加された厚さ0.1μmのn型窒化ガリウム光ガイド層1806、厚さ25ÅのアンドープのIn_(0.2 )Ga_(0.8)N量子井戸層と厚さ50ÅのアンドープのIn_(0.05 )Ga_(0.95)N障壁層からなる26周期の多重量子井戸構造活性層1807、マグネシウムが添加された厚さ200Åのp型Al_(0.2 )Ga_(0.8) N層1808、マグネシウムが添加された厚さ0.1μmのp型窒化ガリウム光ガイド層1809、マグネジウムが添加された厚さ0.4μmのp型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層1810、マグネシウムが添加された厚さ0.5μmのp型窒化ガリウムコンタクト層1811、ニッケル(第1層)および金(第2層)からなるp電極1812、チタン(第1層)およびアルミニウム(第2層)からなるn電極1813が形成されている。半導体結晶層1802,1803,1804,1805,1806,1807,1808,1809,1810,1811の形成はMOVPE法により行われた。
【0005】図19は、やはり上述の従来技術の結晶成長法によりサファイア(11-20)面基板上に形成された代表的な窒化ガリウム系レーザの概略断面図である(S.Nakamura et al., Jpn. J. Appl. Phys. 35 (1996) L217) 。図19において、この窒化ガリウム系レーザは、(11-20)面を表面とするサファイア基板1901上に、成長温度550℃の厚さ500Åのアンドープの窒化ガリウム低温成長バッファ層1902、珪素が添加された厚さ3μmのn型窒化ガリウムコンタクト層1803、珪素が添加された厚さ0.1μmのn型In_(0.1) Ga_(0.9 )N層1804、珪素が添加された厚さ0.4μmのn型Al_(0.12)Ga_(0.88)Nクラッド層1905、珪素が添加された厚さ0.1μmのn型窒化ガリウム光ガイド層1806、厚さ25ÅのアンドープのIn_(0.2) Ga_(0.8 )N量子井戸層と厚さ50ÅのアンドープのIn_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる20周期の多重量子井戸構造活性層1907、マグネシウムが添加された厚さ200Åのp型Al_(0.2 )Ga_(0.8 )N層1808、マグネシウムが添加された厚さ0.1μmのp型窒化ガリウム光ガイド層1809、マグネシウムが添加された厚さ0.4μmのp型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nグラッド層1810、マグネシウムが添加された厚さ0.5μmのp型窒化ガリウムコンタクト層1811、ニッケル(第1層)および金(第2層)からなるp電極1812、チタン(第1層)およびアルミニウム(第2層)からなるn電極1813が形成されている。半導体結晶層1802,1803,1804,1905,1806,1907,1808,1809,1810,1811の形成はMOVPE法により行われた。
【0006】このような従来技術の結晶成長法により形成された窒化ガリウムは、貫通転位密度が高いという問題点がある。よって、その貫通転位密度を低減するために、改善された窒化ガリウムの結晶成長法もいくつか考案されている。」

「【0027】実施例5
サファイア基板上の窒化ガリウムの選択成長とマストランスポートを用いて、窒化ガリウム層の貫通転位密度を低減した。
【0028】サファイア(0001)面基板101上に、熱CVD法およびリソグラフィーおよび弗酸によるエッチングにより、窒化ガリウムの[1-100]方向に平行なストライプ状の開口部を持つ厚さ3000Åの酸化珪素マスク103を形成した。開口部の幅は5μm、マスク103の幅は5μmであった。続いて、MOCVD法により前記マスクの開口部のみ成長温度550℃で厚さ300Åのアンドープの窒化ガリウム低温成長バッファ層1802を形成した後に、MOVPE法により前記マスクの開口部にのみ(0001)面を表面とするアンドープの窒化ガリウム層104の形成を開始した。(0001)面を表面とする窒化ガリウムの[11-20]方向へのラテラル成長速度は速いため、相隣接する開口部に形成された窒化ガリウム層は次第に相互に接合し、マストランスポートにより接合部表面の平坦化が始まったが、その平坦化が完了する前に窒化ガリウム層104の形成を終了した。窒化ガリウム層104の厚さ1.5μmであった。窒化ガリウム層104形成時初期の基板の様子を示す概略断面図を図14に、相隣接する開口部に形成された窒化ガリウム層が相互に接合したときの基板の様子を示す概略断面図を図15に、窒化ガリウム層104の形成終了時の基板の様子を示す概略断面図を図16に示す。さらに、結晶成長を行わずに基板温度1000℃にて10分間保持すると、マストランスポートにより窒化ガリウム層104の表面が平坦化した。ここまでの工程を終えた基板の概略断面図を図17に示す。」

e:周知例7:特開2000-21789号公報
「【0048】(第1の実施形態)図1乃至3は、本発明の第1の実施形態に係わる窒化物系半導体素子の構造を説明するための図で、図1および図2は断面図、図3は斜視図である。
【0049】本実施形態では、従来法及び本発明による方法で、(0001)面に平行な主面を有するサファイア基板上に有機金属気相成長(MOCVD)法によりGaN層を形成する場合について説明する。また、従来法及び本発明による方法で作成したGaN層の結晶特性を比較した結果を示す。
【0050】図1は、従来法により作成した窒化物系半導体素子の部分的な断面図であり、製造法を以下に説明する。
【0051】まず、サファイア基板10上に低温(500?600℃)でGaNバッファ層12を数十nm成長し、その後に基板温度を1000℃以上に昇温し、高温でGaN層13の成長を行う。従来法によるこの材料系の成長では、低温バッファ層12を挿入しないで、最初からGaN単結晶の成長が可能な1000℃以上の高温で成長を行うと、格子不整合が約16%と非常に大きいため、島状成長が顕著となり、平坦な膜が得られない。高温で成長したGaN層13の結晶特性は、低温バッファ層12の成長温度及び成長膜厚等に大きく依存する。本実施例では、各パラメータの最適値を用いてレーザ用多層膜を作成した。
【0052】次に、サファイア基板10上にGaNバッファ層12を介して、高温GaN層13を成長する方法についての詳細を説明する。
【0053】まず、有機洗浄,酸洗浄によって処理されたサファイア基板10を、MOCVD装置の反応室内に導入し、高周波加熱されるサセプタ上に設置した。次いで、常圧で水素を25L/分の流量で流しながら、温度1200℃で約10分間だけ気相エッチングを施し、表面にできた自然酸化膜を除去した。
【0054】次いで、サファイア基板10上に、GaNバッファ層12を成長温度550℃で4分間、厚さ40nmに成膜した。本実験では成長時のキャリアガスとして水素が20.5L/分、原料ガスとしてしアンモニアが9.5L/分、TMG(トリメチルガリウム)を25cc/分流した。また、バッファ層12を成長後、基板温度を12分間で1100℃に昇温し、1100℃に到達したらGaN層13を1時間成長し、2μmの膜厚に形成した。
【0055】次いで、このようにして得られた高温成長GaN層13について、モフォロジ観察及びX線回折法によるロッキンカーブの半値幅の測定,ホール効果測定を行った。その結果、表面平坦性の極めて良いGaN層13が得られたことが判明した。X線半値幅は3.2 arcmin 、キャリア濃度6×10^(16)cm^(-3)(n型)、ホール移動度500cm^(2) /V・sec と、従来法で作成したGaN層としては、比較的良好な結晶特性が得られた。また、この試料について断面から透過電子顕微鏡(TEM)観察を行ったところ、高温成長GaN層13中の貫通転位密度は約3×10^(8 )cm^(-2)であり、従来法で作成したGaN層としては低転位密度の結晶が得られた。
【0056】次に、本発明による方法でGaN層を作成した場合について、図2、図3を用いて説明する。図2は、本発明による方法で作成した窒化物系半導体素子の部分的な断面図である。以下、本素子の作成法を説明する。
【0057】まず、図3に示すように、サファイア基板20上に、10μm間隔で直径2μmの開口部21aを有するSiO_(2 )から成るマスク21を形成する。次いで、このマスク21を有するサファイア基板20を、従来と同様のMOCVD装置の反応室内に導入し、高周波によって加熱されるサセプタ上に設置した。次いで、常圧で水素を25L/分の流量で流しながら、温度1200℃で約10分間、サーマルクリ-ニングを行い、水分や自然酸化膜を除去した。
【0058】次いで、マスク21を形成したサファイア基板20上に、GaNバッファ層22を成長温度550℃で2分間成膜し、厚さ20nmに形成した。本実験では成長時のキャリアガスとして水素を20.5L/分、原料ガスとしてアンモニアを9.5L/分、TMG(トリメチルガリウム)を25cc/分流した。また、バッファ層22を成長後、基板温度が1100℃に向けて昇温され、TMG供給量を100cc/分に増加した。温度が1100℃に到達した後GaN層23を1時間成長し、2μmの膜厚に形成した。
【0059】次いで、このようにして得られた高温成長GaN層23について、モフォロジ観察及びX線回折法によるロッキンカーブの半値幅の測定,ホール効果測定を行った。その結果、表面平坦性の極めて優れたGaN層23が得られ、X線半値幅は1.2 arcmin 、キャリア濃度5×10^(15)cm^(-3)(n型)、ホール移動度900cm^(2 )/V・sec と、従来法では得られなかった高品質の結晶が得られた。また、この試料について断面から透過電子顕微鏡(TEM)観察を行ったところ、高温成長GaN層23中の貫通転位密度は約1×10^(6 )cm^(-2)に低減されており、従来法で作成したGaN層の貫通転位密度の約1/100であった。
【0060】また、断面TEM観察によると、貫通転位25はSiO_(2 )マスク21のほぼ中央部にのみ存在しており、その他の部分には殆ど結晶欠陥は無かった。これは、マスク21の開口部21aが成長核となり、マスク21上ではラテラル成長が促進され、マスク21の中央部で各々の開口部21aからラテラル成長した各島が合体し、転位が形成されるためと考えられる。
【0061】なお、本実施形態では、低温バッファ層22を設け、その上部に高温成長GaN層23を形成したが、本発明による製造方法によれば、マスク21に形成する開口部21aの面積が本実施形態のように小さい場合には、低温バッファ層無しでも同様の効果が得られる。
【0062】このように本実施形態によれば、サファイア基板20上に開口21aを有するSiO_(2 )マスク21を設け、マスク21の開口21aを種にして低温成長GaNバッファ層22及び高温成長GaN層23を形成することにより、貫通転位をマスク21のほぼ中央部のみに制限することができ、従来よりも貫通転位を低減することができる。このため、結晶性,電気的特性,光学的特性の良好な窒化物系化合物半導体層をサファイア基板上に形成することができ、窒化物系化合物半導体を用いた半導体素子の歩留まり,初期特性,信頼性の向上をはかり得る。」

「【0064】(第2の実施形態)図4は、本発明の第2の実施形態に係わる窒化物系半導体レーザの素子構造を示す断面図である。
【0065】サファイア基板30上に、溝部31aを有するSiO_(2 )から成るマスク31が形成され、マスク31の溝部31aにはMOCVD法により低温GaNバッファ層32が形成されている。そして、マスク31及びバッファ層32上には、ラテラル成長を利用してアンドープGaN下地層33が形成されている。
【0066】GaN下地層33上には、n型GaNコンタクト層35,n型AlGaN電流注入層36,n側GaN光ガイド層37,多重量子井戸(MQW)構造を有するInGaN系活性層38,p側GaN光ガイド層39,p型AlGaN電流注入層40,p型GaNコンタクト層41がこの順で形成されている。」

「【0111】(第7の実施形態)図9、図10は本発明の第7の実施形態に係わる窒化物系半導体レーザを説明するための図で、図9は素子構造断面図、図10はマスクパターンの平面図である。
【0112】図9において、101はサファイア基板、102はマスクとしてのSiO_(2 )層(0.3μm)、103はアンドープGaN層(3μm)、104はn-GaNコンタクト層(Siドープ,5×10^(18)cm^(-3),3μm)、105はn-Al_(0.08)Ga_(0.92)Nクラッド層(Siドープ,1×10^(18)cm^(-3),0.8μm)、106はn-GaN導波層(Siドープ,0.1μm)、107はn-Al_(0.2 )Ga_(0.8 )Nキャリアオーバーフロー防止層(Siドープ,1×10^(18)cm^(-3),20nm)、108は活性層である。活性層108は、InGaN量子井戸(アンドープ,In_(0.2) Ga_(0.8 )N,3nm)が5層とそれを挟むInGaN障壁層(アンドープ,In_(0.05)Ga_(0.95)N,6nm)からなる量子井戸構造(SCH-MQW)となっている。
【0113】さらに、…(略)…
【0114】図9で示す構造の製造方法は、以下の通りである。まず、サファイア基板101上に、図10(a)に示すように、CVD法で形成したSiO_(2 )層102に六角形に開口したマスクを形成する。このSiO_(2 )マスクの周期及び大きさの比は、サファイア基板101とアンドープGaN103の格子不整率の1%以下とし、各辺はアンドープGaN103の〈1-100〉方向に平行になるように形成した。
…(略)…
【0123】なお、本実施形態では、図10(a)で示した六角形の開口パターンを有するSiO_(2 )マスク102を用いたが、図10(b)で示す三角形の開口パターンを有するマスクを用いた場合でも同様の効果を得ることができた。さらに、図10(a)で示した六角形パターンをSiO_(2 )の島として用いた場合、同様に図10(b)で示した三角形パターンをSiO_(2 )の島として用いた場合でも、同様の効果が得られた。」

(ウ)判断についてのまとめ
以上のとおりであるから、相違点1-3は実質的なものではなく、引用発明において、周知技術A及びBに基づいて、相違点1(相違点1-1、1-2)及び相違点2に係る補正発明の構成を採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。
また、仮に、相違点1-3が実質的なものであったとしても、引用発明において、周知技術A及びBに基づいて、相違点1(相違点1-1?1-3)及び相違点2に係る補正発明の構成を採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、補正発明によって当業者が予期し得ない格別の効果が奏されるとは認められず、補正発明は当業者が容易に発明をすることができたものというほかない。
したがって、補正発明は、引用発明並びに周知技術A及びBに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

よって、補正発明は、特許法第29条第2項に規定する要件を満たさず、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

オ 独立特許要件についてのまとめ
よって、本件補正は、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。

3 補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下され、本願は、「半導体発光素子」に関するものと認められ、その特許請求の範囲の請求項1には、以下のとおり記載されている。

「【請求項1】
サファイア基板と、
前記サファイア基板上に開口部を有して形成された絶縁膜と、
前記開口部内に形成された下地GaN層と、
前記絶縁膜及び前記下地GaN層上に形成された中間バッファ層と、
前記中間バッファ層上に形成されるとともにInGaNウエル層を含む発光層とを少なくとも備え、
前記中間バッファ層は、複数のInGaN膜と複数のGaN膜とが交互に積層された超格子構造を有し、前記InGaN膜のIn組成比率は、前記下地GaN層から前記発光層に向かって段階的に増加するとともに、前記発光層の前記InGaNウエル層のIn組成比率よりも小さいことを特徴とする半導体発光素子。」

2 引用例の記載と引用発明
当審における、平成29年1月6日付けで通知した最後の拒絶理由で引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2008-34848号公報(引用例1、再掲)には、「窒化物系発光素子」(発明の名称)に関して、図1?12とともに上記「第2 2(3)イ(ア)引用例1」に記載した事項が記載されており、引用例1には上記「第2 2(3)イ(イ)引用発明」に記載したとおりの引用発明が記載されている。

3 対比・判断
上記1に記載した本願発明について、検討する。
平成29年1月6日付けで通知した最後の拒絶理由の理由2(サポート要件)及び理由3(明確性)の概要は、理由2(サポート要件)、本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというもの、及び、理由3(明確性)、本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものである。
これに対し、請求人は、平成29年3月13日に提出された意見書で、「本意見書と同日付けで別途提出した手続補正書により、…請求項1の記載を補正した。…、補正後の請求項1の補正事項「前記絶縁膜の前記開口部内に形成されたGaNバッファ層と、前記GaNバッファ層及び前記絶縁膜上に形成された…中間バッファ層と、」は、拒絶の理由2(サポート要件)及び理由3(明確性)を解消するためにしたものであって、当初明細書の段落[0073]の記載などに基づく。」と主張している。

上記意見書の主張によると、本件補正のうち、上記第2、2(1)補正事項の整理の[補正事項2]及び[補正事項3]は、拒絶の理由2(サポート要件)及び理由3(明確性)、すなわち、特許請求の範囲の記載が不備であり、平成29年3月13日に提出した手続補正書によりその解消をするためにしたものである。
したがって、上記1で認定した本願発明のうち、上記[補正事項2]及び[補正事項3]に係る「前記開口部内に形成された下地GaN層」及び「前記絶縁膜及び前記下地GaN層上に形成された中間バッファ層」の記載は、発明の詳細な説明の記載と上記意見書の記載を参酌すると、「前記絶縁膜の前記開口部内に形成された」下地となる「GaN層」及び「前記絶縁膜及び前記」下地となる「GaN層上に」中間バッファ層の下地となる「GaN層」を介して「形成された中間バッファ層」を意味する発明を包含するものと認められる。
すなわち、「記絶縁膜の前記開口部内に形成された」下地となる「GaN層」と「前記絶縁膜及び前記」下地となる「GaN層上に」中間バッファ層の下地となる「GaN層」は、いずれも中間バッファ層の下側に位置するGaN層であって、前者は補正発明の「GaNバッファ層」に、後者は補正発明の「下地GaN層」にそれぞれ相当するものである。
してみると、補正発明の「GaNバッファ層」を「前記絶縁膜の前記開口部内に形成された」とし、補正発明の「下地GaN層」を「前記GaNバッファ層及び前記絶縁膜上に形成された」とした発明を包含する本願発明は、補正発明と同様に、引用発明並びに周知技術A及びBに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-03 
結審通知日 2017-04-04 
審決日 2017-04-25 
出願番号 特願2011-142248(P2011-142248)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 近藤 幸浩
恩田 春香
発明の名称 半導体発光素子  
代理人 三好 秀和  

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