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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01S
管理番号 1329670
審判番号 不服2016-18497  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-08 
確定日 2017-07-11 
事件の表示 特願2015- 81897「車速計測装置および車速特定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月 1日出願公開、特開2016-200538、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年4月13日の出願であって、平成28年5月17日付けで拒絶理由が通知され、平成28年7月25日付けで手続補正がなされたが、平成28年9月30日付けで、拒絶査定(以下、「原査定」という)がなされ、これに対し、平成28年12月8日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年9月30日付け拒絶査定)の概要は次の通りである。

1 理由2
請求項12に係る発明は不明確であり、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 理由4
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1,11
・引用文献等 1,5,6

引用文献1に記載された発明は・・・算出した車速の平均値を速度として特定する、ことは明示されていない点で、請求項1に係る発明と異なるが、
角度が異なる2方向に送信波を送波するJANUS方式の速度計であれば、引用文献5の記載(第2頁左下欄第16行-第3頁左上欄第8行)や引用文献6の記載(第3頁右下欄第17行-第4頁右上欄第5行)にもあるように、各方向でのドップラ周波数の平均値から速度を算出することは、周知の技術であり、
そして、各方向のドップラ周波数に対応して車速を算出できるので、ドップラ周波数の平均値から速度を算出することは、各方向で求めた車速の平均値を算出することに等しいことも技術常識であるから、
引用文献1に記載された発明において、上記の周知技術と技術常識から、算出した車速の平均値を速度として特定する、ようにすることは当業者であれば容易に想到できたことである。

・請求項 1,11
・引用文献等 2

引用文献2に記載された発明においても、・・・算出した車速の平均値を速度として特定する、ことは明示されていないが、
引用文献2の記載(段落[0047],図8)では、車両の前部及び後部に幾何学的に対称となるよう配置するペアビーム構成を採用したとき、前部の送受信機のドップラ周波数fd1と後部の送受信機のドップラ周波数fd2の差(式(2)及び(3)の差)と水平速度Vが関係づけられているが、ドップラ周波数の極性を考慮すれば、ドップラ周波数の水平成分(cosθ項)の和の平均から水平速度Vが求められることが読み取れ、
そして、各方向のドップラ周波数に対応して車速を算出できるので、ドップラ周波数の平均値から速度を算出することは、各方向で求めた車速の平均値を算出することに等しいことも技術常識であるから、
引用文献2に記載された発明において、上記の引用文献2の記載から読み取れることと技術常識から、算出した車速の平均値を速度として特定する、ようにすることは当業者であれば容易に想到できたことである。

・請求項 2,12
・引用文献等 2,7,8

・請求項 3,4
・引用文献等 1,2,5-8

・請求項 5
・引用文献等 1,2,5-8

・請求項 6
・引用文献等 1,2,5-8

・請求項 7
・引用文献等 1,2,5-8

・請求項 8
・引用文献等 1,2,5-8

・請求項 9
・引用文献等 1-3,5-8

・請求項 10
・引用文献等 1-8

引用文献等一覧
1.特開平8-54461号公報
2.特開平5-79839号公報
3.特開平11-38132号公報
4.特開2003-231460号公報
5.特開昭56-104267号公報
6.特開昭53-17376号公報
7.特開2006-337025号公報
8.特開平9-257922号公報

第3 本願発明
ここで、平成28年12月8日付け手続補正書により、補正前(原査定時)の請求項5,11,12は削除され、補正前(原査定時)の請求項1-4,6-10は、補正されて、補正後の請求項1-9とされている。
本願の請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりのものである。

「【請求項1】
車両から走行面に対し、前記車両の左右方向における2以上の位置の各々から、前記車両に対する角度が異なる2以上の方向に送信波を送波し、前記走行面からの反射波を受波する送受波手段と、
前記2以上の位置の各々に関し、当該位置から送波した送信波の前記反射波の周波数を特定する周波数特定手段と、
前記2以上の位置の各々に関し、当該位置から前記送受波手段により送波された送信波の各々に関し前記送信波の周波数と前記反射波の周波数を用いて車速を算出し、算出した車速の平均値を前記車両の前記走行面に対する速度として特定する車速特定手段と
を備える車速計測装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。

a 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電波を用いて速度計測を行う技術に係り、特に、鉄道車両に搭載され、線路(レール軌道)に対し電波を送受信することで相対的移動により生じるドップラ効果を利用して当該車両の速度を計測し、その速度情報から当該車両の移動距離及び位置を認識する鉄道車両用非接触速度計測装置に関する。」

b 「【0023】
【実施例】図1には本発明の第1実施例に係る鉄道車両用非接触速度計測装置の構成が示される。図1において、11は送信用の搬送波信号foを発生する発振器、12は該発振器の出力foを2つの信号(送信用の信号と受信信号復調用の信号)に分配する方向性結合器、13は該方向性結合器の出力の一部(送信用の信号)を2系統に分配する分配器、14は変調用の可変の符号化された2位相ランダム信号(変調符号)MA1,MB1を発生する符号発生器、15及び16はそれぞれ符号発生器14の出力(変調符号MA1及びMB1)と方向性結合器12及び分配器13を介して供給される送信搬送波信号foとに応答する変調器を示し、該変調器15,16は、それぞれ対応する変調符号MA1,MB1により送信搬送波信号foに対して直接拡散変調を行う。
【0024】また、17及び18はそれぞれ目標物(本実施例では、線路を含む地面)に向けて電波ビームを投射し、該ビームに対する線路等からの反射波を受信する送受信アンテナ、19及び20はそれぞれ対応する変調器15,16の出力を対応するアンテナ17,18に導くと共に、該アンテナで受信された反射波信号をそれぞれ受信するサーキュレータ、21及び22はそれぞれ対応するサーキュレータ19,20の出力と方向性結合器12の出力の一部(受信信号復調用の信号すなわち局部信号)を混合して中間周波信号IF1及びIF2を生成する復調器、23及び24はそれぞれ対応する復調器21,22の出力IF1,IF2を増幅する増幅器を示す。
【0025】25及び26はそれぞれ対応する増幅器23,24の出力(中間周波信号)と符号発生器14の出力MA2,MB2との間で相関をとる相関器を示す。この場合、符号発生器14の出力MA2,MB2は、送信搬送波信号foに変調を行った2位相ランダム信号(変調符号)MA1,MB1と同じ符号であって且つ信号が線路等までを往復するのに要する時間だけ位相が遅れた符号を持つように設定されている。従って、各相関器25,26は、或る限られた領域すなわち特定の距離範囲からの反射波に含まれるドップラ周波数成分のみを出力する。27及び28はそれぞれ対応する相関器25,26の出力信号成分のうち所定周波数成分(すなわち特定の伝播経路を往復した信号に含まれるドップラ周波数成分)のみを抽出し増幅するドップラ・フィルタおよび増幅器、そして、29は抽出された2つのドップラ周波数成分fd1,fd2 から同位相で且つ同振幅を有する信号をパルス成形してそのパルス周期を計測し、それに基づき当該鉄道車両の速度情報を生成する周波数検出器を示す。」

c 「【0027】なお、参照番号50で示される一点鎖線で囲まれた部分(11?16及び19?28の構成要素を含む部分)は、送受信およびスペクトル拡散(SS)制御部と称する。上記構成において、各変調器15,16は、発振器11から方向性結合器12及び分配器13を介して供給される送信信号(送信搬送波信号fo)に対してそれぞれ符号発生器14からの符号化2位相ランダム信号(変調符号MA1,MB1)により直接拡散変調を行う。変調された送信信号は、図5に示されるように拡散された状態で、それぞれサーキュレータ19,20を介してアンテナ17,18から線路等に向けて放射される。
【0028】線路等からの反射波は、近傍反射、妨害信号、送信信号の受信系への回り込み等を含んだ状態でアンテナ17,18より受信され、サーキュレータ19,20を介して対応する復調器21,22に入力される。復調器21,22は、方向性結合器12の出力の一部を局部信号として入力し、該局部信号をそれぞれサーキュレータ19,20からの受信信号と混合し、中間周波信号IF1,IF2を生成する。アンテナ17,18で受信された信号に含まれるドップラ周波数成分をそれぞれfd1,fd2 とすると、該受信された信号は復調器21,22において図6に示されるように復調される。復調器21,22で復調された信号IF1,IF2は、それぞれ増幅器23,24で増幅された後、相関器25,26に入力される。
【0029】相関器25,26は、それぞれ近傍反射、妨害信号、送信信号の受信系への回り込み等を含んだ混合信号の相関をとるものであり、復調器21,22から増幅器23,24を通して供給される受信信号(中間周波信号IF1,IF2)を、送信時に2位相ランダム変調をかけた符号MA1,MB1と同じ符号であって且つ設定された伝播距離を信号が往復するのに要する時間だけ位相が遅れた符号MA2,MB2で相関をとることで、特定の距離範囲からの反射波に含まれるドップラ周波数成分(fd1,fd2)のみを出力する。
【0030】出力されたドップラ周波数成分は、それぞれ対応するドップラ・フィルタおよび増幅器27,28において図7に示されるように出力され、さらに周波数検出器29に入力され、ドップラ周波数成分fd1,fd2 のうち同位相で且つ同レベルのドップラ周波数成分fdのみが抽出される(図8参照)。これによって当該鉄道車両の速度が計測され、速度情報が生成される。」

d 「【0038】すなわち、図4において、アンテナ17,18から放射される電波ビームのビーム角をφ(これは、2つのアンテナパターンのクロスポイントの方向と速度Vの方向とのなす角度によって規定される)、周波数検出器29によって抽出されるドップラ周波数をfd、その抽出された信号の波長をλとすると、計測されるべき速度Vは、以下の式で表される。
【0039】
V=fd・λ/(2・cosφ) ……………………………………(1)
この(1)式から分かるように、ビーム角φが一定であれば、速度Vは、周波数検出器29によって検出されるfdとλに依存して一義的に決定することができる。しかしながら実際には、上述したように速度Vの方向と機軸方向が必ずしも一致しない場合が存在し、これによってビーム角φが変動するため、速度Vはこのビーム角φの大きさにも依存して変化することになる。次に説明する本発明の第2実施例は、かかる不都合を解消したものである。」

e 「【0040】図9は本発明の第2実施例に係る鉄道車両用非接触速度計測装置の構成を概略的に示したものであり、また、図10は図9における各アンテナのパターンを模式的に示したものである。この第2実施例に係る速度計測装置の特徴は、前述した第1実施例の装置構成(図1参照)との対比において、(1)送受信アンテナ17,18、送受信およびSS制御部50、及び周波数検出器29をそれぞれ3系統設けて(各系統毎にそれぞれa,b,cの添字が付してある)冗長構成としたこと、(2)図10(a)及び(b)に示すように、1系統の送受信アンテナ17a,18aは、地面に対し前方方向に所定の角度Δθで電波ビームを照射し、且つ、他の2系統のアンテナ17b,18b、及び17c,18cは、地面に対し後方方向に所定の角度Δθでそれぞれ電波ビームを照射するように各アンテナを配設したこと、である。
【0041】なお、各周波数検出器29a?29cから出力される速度情報は、距離・位置演算器30’に入力される。この距離・位置演算器30’の構成とその作用については、第1実施例における距離・位置演算器30の場合と同様であるので、その説明は省略する。この第2実施例に係る速度計測装置によれば、前述した第1実施例の速度計測装置で得られる効果に加えて、以下の効果が得られる。
【0042】まず、例えば図11(a)に示すように鉄道車両の走行の過程において鉄道車両が動揺し、図11(b),(c)に示すように速度Vの方向と機軸方向が一致した状態から不一致の状態に変化した場合でも(つまり、ビーム角θがθ’に変化しても)、上述した(2)の特徴事項に基づいて前後ビーム間の角度(2×Δθ)が既知であり、しかも一定であるため、この角度に基づいて当該鉄道車両の速度Vを正しく計測することができる。
【0043】また、上述した(1)の特徴事項に基づく冗長構成により、仮に1系統の速度計測部が何らかの原因で故障した場合でも、他の2系統の速度計測部を適宜利用することで、鉄道車両の速度計測を続行することができる。つまり、たとえ高精度でなくても鉄道車両の速度計測を継続して行えるので、当面の目的である速度計測という観点からその信頼性を向上させることができる。同時に、この信頼性の向上は、人員の安全輸送に大いに寄与するものである。」(丸付文字は、括弧付文字とした。以下同様。)

ア 上記a?dより、引用文献1には、第1の実施例について次の事項が記載されている(括弧内は、認定に用いた引用文献1の記載箇所を示す。以下同様。)。
「線路を含む地面に向けて電波ビームを投射し、該ビームに対する線路等からの反射波を受信する送受信アンテナ17、18と、
サーキュレータ19,20と、復調器21,22と、増幅器23,24と(【0024】)、相関器25,26と、ドップラ・フィルタおよび増幅器27,28とを有する(【0025】)、送受信およびスペクトル拡散(SS)制御部50と(【0027】)、
周波数検出器29と(【0025】)、
を備える鉄道車両用非接触速度計測装置であって(【0023】)、
線路等からの反射波は、アンテナ17,18より受信され、サーキュレータ19,20を介して対応する復調器21,22に入力され、
復調器21,22は、アンテナ17,18で受信された信号に含まれるドップラ周波数成分をそれぞれfd1,fd2 とすると、信号IF1,IF2に復調し、
復調器21,22で復調された信号IF1,IF2は、それぞれ増幅器23,24で増幅された後、相関器25,26に入力され(【0028】)、
相関器25,26は、復調器21,22から増幅器23,24を通して供給される受信信号(中間周波信号IF1,IF2)を、送信時に2位相ランダム変調をかけた符号MA1,MB1と同じ符号であって且つ設定された伝播距離を信号が往復するのに要する時間だけ位相が遅れた符号MA2,MB2で相関をとることで、特定の距離範囲からの反射波に含まれるドップラ周波数成分(fd1,fd2)のみを出力し(【0029】)、
出力されたドップラ周波数成分は、それぞれ対応するドップラ・フィルタおよび増幅器27,28において出力され、さらに周波数検出器29に入力され、ドップラ周波数成分fd1,fd2のうち同位相で且つ同レベルのドップラ周波数成分fdのみが抽出され、これによって当該鉄道車両の速度が計測され、速度情報が生成され(【0030】)、
アンテナ17,18から放射される電波ビームのビーム角をφ(これは、2つのアンテナパターンのクロスポイントの方向と速度Vの方向とのなす角度によって規定される)、周波数検出器29によって抽出されるドップラ周波数をfd、その抽出された信号の波長をλとすると、計測されるべき速度Vは、V=fd・λ/(2・cosφ)で表される(【0038】、【0039】)、鉄道車両用非接触速度計測装置(【0023】)。」

イ 引用文献1は、「この第2実施例に係る速度計測装置の特徴は、前述した第1実施例の装置構成(図1参照)との対比において、(1)送受信アンテナ17,18、送受信およびSS制御部50、及び周波数検出器29をそれぞれ3系統設けて(各系統毎にそれぞれa,b,cの添字が付してある)冗長構成としたこと、(2)図10(a)及び(b)に示すように、1系統の送受信アンテナ17a,18aは、地面に対し前方方向に所定の角度Δθで電波ビームを照射し、且つ、他の2系統のアンテナ17b,18b、及び17c,18cは、地面に対し後方方向に所定の角度Δθでそれぞれ電波ビームを照射するように各アンテナを配設したこと、である。」(【0040】)と記載されているので、
引用文献1には、上記第1の実施例についての記載事項(上記「ア」)と合わせて、第2の実施例に関して次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「送受信アンテナ17,18、送受信およびSS制御部50、及び周波数検出器29をそれぞれ3系統設け(【0040】)、
3系統の送受信アンテナ17,18である、線路を含む(【0024】)地面に対し前方方向に所定の角度Δθで電波ビームを照射する送受信アンテナ17a,18a、地面に対し後方方向に所定の角度Δθでそれぞれ電波ビームを照射するアンテナ17b,18b、及び17c,18cと(【0040】)、
3系統のSS制御部50である、サーキュレータ19,20と、復調器21,22と、増幅器23,24と(【0024】)、相関器25,26と、ドップラ・フィルタおよび増幅器27,28と(【0025】)を、それぞれ有する送受信およびスペクトル拡散(SS)制御部50と(【0027】)、
3系統の周波数検出器29と(【0025】)、
を備える鉄道車両用非接触速度計測装置であって(【0023】)、
線路等からの反射波は、アンテナ17,18より受信され、サーキュレータ19,20を介して対応する復調器21,22に入力され、
復調器21,22は、アンテナ17,18で受信された信号に含まれるドップラ周波数成分をそれぞれfd1,fd2 とすると、信号IF1,IF2に復調し、
復調器21,22で復調された信号IF1,IF2は、それぞれ増幅器23,24で増幅された後、相関器25,26に入力され(【0028】)、
相関器25,26は、復調器21,22から増幅器23,24を通して供給される受信信号(中間周波信号IF1,IF2)を、送信時に2位相ランダム変調をかけた符号MA1,MB1と同じ符号であって且つ設定された伝播距離を信号が往復するのに要する時間だけ位相が遅れた符号MA2,MB2で相関をとることで、特定の距離範囲からの反射波に含まれるドップラ周波数成分(fd1,fd2)のみを出力し(【0029】)、
出力されたドップラ周波数成分は、それぞれ対応するドップラ・フィルタおよび増幅器27,28において出力され、さらに周波数検出器29に入力され、ドップラ周波数成分fd1,fd2のうち同位相で且つ同レベルのドップラ周波数成分fdのみが抽出され、これによって当該鉄道車両の速度が計測され(【0030】)、各周波数検出器29a?29cから速度情報が出力され(【0041】)、
アンテナ17,18から放射される電波ビームのビーム角をφ(これは、2つのアンテナパターンのクロスポイントの方向と速度Vの方向とのなす角度によって規定される)、周波数検出器29によって抽出されるドップラ周波数をfd、その抽出された信号の波長をλとすると、計測されるべき速度Vは、V=fd・λ/(2・cosφ)で表され(【0038】、【0039】)、
ビーム角θがθ’に変化しても、前後ビーム間の角度(2×Δθ)が既知であり、しかも一定であるため、この角度に基づいて当該鉄道車両の速度Vを正しく計測することができる(【0042】)鉄道車両用非接触速度計測装置(【0023】)。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、図面とともに、次の事項が記載されている。
a 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、超音波又は電波を用いて自動車の車速及び/又は路面の摩擦係数(μ)を測定する車載用センサに関する。」

b 「【0042】このようにして、振幅検出器30-1,30-2,…30-N及びドップラ検出器31-1,31-2,…31-Nには、異なる部位S1,S2,…SNに係る受信信号が供給される。時分割測定タイミング#1,#2,…#Nは、μ検出器30及び車速検出器31にも与えられ、切替器60の切替と同期して振幅検出器及びドップラ検出器が動作し、対応する部位S1,S2,…SNからの受信信号の振幅の検出及びドップラ成分の検出が行われる。各部位S1,S2,…SNは、図6に示されるようにそれぞれ異なる伏角θ1,θ2,…θNを有しており、各振幅検出器及びドップラ検出器は第1実施例と同様異なる伏角θ1,θ2,…θNの受信信号を処理する。
【0043】この実施例において得られる受信信号のパルス幅PWは、図7に示されるようにPW≦τmax-τminとなる。これは、伏角θが小さい部位(前方寄りの部位)では全反射が生じ十分なエネルギーの反射波が得られないことによる。路面Rのμが徐々に小さくなっていく場合を考えると、受信パルス幅PWが小さくなっていき、N個の振幅検出器30-1,30-2,…30-Nのうち後方寄りの部位に対応するものにのみ、十分な振幅を有する受信信号が供給されるようになる。本実施例では、μ判定器30-0は、十分な振幅を有する受信信号が得られる伏角θのうち最も小さい伏角θnを、振幅検出器により所定値以上の振幅が検出されるうち最も遅い時分割測定タイミングを判定することにより求める。速度演算器31-0は、この伏角θnに係る受信信号から検出されたドップラ成分Δfから車両の速度Vを演算する。」

c 「【0046】さらに、いわゆるペアビーム構成を採用すると、より好ましい。すなわち、一組又は2個の送受波器を、車両の前部及び後部に幾何学的に対称となるよう配置する。例えば図1の実施例であれば送受波器10-1,10-2,…10-Nの組を一組づつ車両の前部及び後部に、図5の実施例であれば送受波器10を1個づつ車両の前部及び後部に、配置する。このようにした上で、各送受波器の出力を対応する送受波器の出力と合成等すれば、速度検出等に不要な路面Rの上下方向のドップラシフトを相殺できる。
【0047】すなわち、図8に示されるように、路面Rからの反射波に路面Rの凹凸等による垂直速度成分が含まれている場合、水平速度をV、垂直速度をUとすると、車両の前部の送受波器により受信される反射波のドプラ周波数fd1は
fd1=(2f/C)・(Vcosθ-Usinθ) …(2)
となる。ただし、θは伏角である。逆に、車両の後部に設けられている同一伏角の送受波器により受信される反射波のドプラ周波数fd2は
fd2=(2f/C)・(-Vcosθ-Usinθ)
となる。すると、この式(2)及び(3)の差は、
fd=fd1-fd2=(4fV/C)cosθ
となる。このように、車両前後の送受波器の出力の差を求めることにより、Uが含まれない数値が得られる。この数値に基づいて車速を検出することにより、垂直速度Uの影響のないより正確な車速を検出できる。
【0048】また、このようなペアビーム構造により、トリムヒールの影響を除去できる。今、式(2)において垂直速度Uを無視した式
fd1=(2f/C)Vcosθ
において、θが微小角δだけ増加したとする。すなわち、車体がδだけ傾いたとする。この場合、ドプラ周波数は、
fd1´=(2f/C)Vcos(θ+δ)
と表せる。従って、車体がδだけ傾いたときのドプラ周波数の誤差E1は、
E1=(fd1´-fd1)/fd1
=(cos(θ+δ)-cosθ)/cosθ
=cosδ-tanθsinδ-1
となる。一方、車両後方の送受波器10については、車体がδだけ傾いたときのドプラ周波数fd2´は
fd2´=(2f/C)Vcos(θ-δ)
となる。ペアビームでは、fd´=fd1´-fd2´を用いて車速Vを求めるため、問題となるのはこのfd´の誤差E12である。E12は、
E12=((cosδ-tanθsinδ-1)+(cosδ+tanθsinδ-1))/2
=cosδ-1
となる。従って、ペアビームとすることにより、誤差が低減し、トリムヒールの影響が低減する。」

d 「【手続補正書】
【提出日】平成3年10月1日・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、μが小さい路面からは十分な反射信号が得られず、車速の測定が不能になることがありまたμの測定が不正確になる等の不都合があった。すなわち、送受波器で観測されるドップラ偏移Δf[Hz]から車速Vを求める式
V=(Δf/f)・C・(1/(2・cosθ)) …(1)
ただし、f:送信波の周波数[Hz]
C:送信波の伝搬速度(音速又は光速)
θ:送信ビームの伏角
からわかるように、車速Vの測定精度はドップラ偏移Δfの観測値やビームの伏角θにより決まる。例えば、ビームの伏角θを小さくすれば、車速Vの測定精度を高めることができる。しかし、このとき、路面のμが小さくなると路面から送受波器への反射エネルギーが極度に低下してしまい、車速Vが測定できなくなる。μが低い路面でも車速を測定できるようにするためには、ビームの伏角θを大きくすればよいが、このようにすると車速Vの測定精度が低下してしまう。」

引用文献2には、「いわゆるペアビーム構成を採用すると、より好ましい。すなわち、一組又は2個の送受波器を、車両の前部及び後部に幾何学的に対称となるよう配置する。・・・、図5の実施例であれば送受波器10を1個づつ車両の前部及び後部に、配置する。」(【0046】)と記載されているので、ペアビーム構成を採用した図5の実施例に関して、
上記a?dより、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「ペアビーム構成を採用し、1個づつ車両の前部及び後部に、幾何学的に対称となるよう配置された送受波器10と(【0046】)、
異なる部位S1,S2,…SNからの受信信号のドップラ成分の検出が行われるドップラ検出器31-1,31-2,…31-Nと(【0042】)、
十分な振幅を有する受信信号が得られる伏角θのうち最も小さい伏角θnに係る受信信号から検出されたドップラ成分Δfから車両の速度Vを(【0043】)、送信波の周波数f、送信波の伝搬速度C、送信ビームの伏角θとして、式V=(Δf/f)・C・(1/(2・cosθ))に基づき(【0003】)演算する速度演算器31-0と(【0043】)、
を備える車載用速度センサであって(【0001】)、
送信波の周波数をf、水平速度をVとして、車体がδだけ傾いてθが微小角δだけ増加したとすると、
車両の前部の送受波器により受信される反射波のドプラ周波数fd1´は、fd1´=(2f/C)Vcos(θ+δ)と表せ(【0047】、【0048】)、
車両後方の送受波器10についてのドプラ周波数fd2´は、fd2´=(2f/C)Vcos(θ-δ)
となり、
ペアビームでは、fd´=fd1´-fd2´を用いて車速Vを求める(【0048】)車載用速度センサ(【0001】)。」

3 引用文献5について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献5には、図面とともに、次の事項が記載されている。
a 「一般にドップラ効果を利用した対地車速レーダには第1図(A)、(B)に夫々、示したように単ビーム方式(同図(A))とJanus方式(同図(B))があり、前者は車両1に搭載されたレーダ装置2に装着された単一のアンテナ3より路面3に電磁波4を照射し、その照射波と、反射波との間のドップラ効果により車速信号を検出するものである。
また後者は車両1に搭載されたレーダ装置2に路面4に対して車両の進行方向と逆方向の2方向に電磁波を照射し、夫々、照射波と反射波とのドップラ効果により2つの車速信号を検出しこれらの車速信号を加算することにより車速誤差を軽減するものである。」(第2頁左上欄第7?20行)

b 「ここでJanus方式は既述の如く2つのドップラレーダの設定ビーム入射角θoに対し、車両のピッチングによるビーム入射角θの変化が、2つのドップラレーダで正負逆となるため、この2つのドップラ信号を平均しビーム入射角θの変動の影響を軽減する方式であるから、回路構成は、2つの周波数-電圧変換器10a、10bの各々の出力信号を加算器12で加算したものが対地車速信号となる。」(第2頁右下欄第16行?第3頁左上欄第5行)

4 引用文献6について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献6には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「今仮りに第3図に示す様に、電磁波ビームの投射角θ、θ′を双方共60°に選んだ場合を想定すると、
cosθ=cos60°=0.5000
であるから、第1式から導かれる
v=cfd/fo(1/2cosθ)・・・・・・・・・・・・・・・・・(第2式)
において、
2cosθ=1となり、都合がよい。
次にθが、ピッチングによって5°変化しθ=65°θ′=55°になったと仮定しよう。
此の場合、θ、またはθ′を夫々単独で使って、2cosθ、2cosθ′を用いれば前記のように夫々、(-)15.5%、(+)14.7%の誤差を生するが、cosθまたは、cosθ′の代りにその平均値である(cosθ+cosθ′)×1/2を用いればどうか。
2×1/2(cosθ+cosθ′)=cos65°+cos55°
=0.42261+0.57357
=0.99618
これは、θ=60°のときの2cos60°=2×0.5000=1.0000と比べて僅かに、0.4%弱の誤差に過ぎない。
即ち fd=(fd2+fd3)×1/2
とすることにより、fdは、5°以下のピッチングにおいては、0.4%以下の誤差におさえることが可能であることがわかった。」(第3頁右下欄第17行?第4頁右上欄第1行)

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用発明1を主たる引用発明とした場合
ア 対比
本願発明1と引用発明1を対比する。
(ア)引用発明1の「線路を含む地面に対し前方方向に所定の角度Δθで電波ビームを照射する送受信アンテナ17a,18a、地面に対し後方方向に所定の角度Δθでそれぞれ電波ビームを照射するアンテナ17b,18b、及び17c,18c」は、本願発明1の「車両から走行面に対し、」「前記車両に対する角度が異なる2以上の方向に送信波を送波し、前記走行面からの反射波を受波する送受波手段」に相当する。

(イ)引用発明1は「線路等からの反射波は、アンテナ17,18より受信され、サーキュレータ19,20を介して対応する復調器21,22に入力され、復調器21,22は、アンテナ17,18で受信された信号に含まれるドップラ周波数成分をそれぞれfd1,fd2 とすると、信号IF1,IF2に復調し、復調器21,22で復調された信号IF1,IF2は、それぞれ増幅器23,24で増幅された後、相関器25,26に入力され、相関器25,26は、復調器21,22から増幅器23,24を通して供給される受信信号(中間周波信号IF1,IF2)を、送信時に2位相ランダム変調をかけた符号MA1,MB1と同じ符号であって且つ設定された伝播距離を信号が往復するのに要する時間だけ位相が遅れた符号MA2,MB2で相関をとることで、特定の距離範囲からの反射波に含まれるドップラ周波数成分(fd1,fd2)のみを出力し、出力されたドップラ周波数成分は、それぞれ対応するドップラ・フィルタおよび増幅器27,28において出力され、さらに周波数検出器29に入力され、ドップラ周波数成分fd1,fd2のうち同位相で且つ同レベルのドップラ周波数成分fdのみが抽出され」るので、
引用発明1の「3系統のSS制御部50である、サーキュレータ19,20と、復調器21,22と、増幅器23,24と、相関器25,26と、ドップラ・フィルタおよび増幅器27,28とを、それぞれ有する送受信およびスペクトル拡散(SS)制御部50と、3系統の周波数検出器29」は、
本願発明1の「周波数特定手段」について、本願明細書に「第1周波数特定部121-1は第1受波アンテナ1122-1から出力される交流波の周波数を特定する。第2周波数特定部121-2は第2受波アンテナ1122-2から出力される交流波の周波数を特定する。」(【0044】)と記載されているところを参酌すると、
本願発明1の「送波した送信波の前記反射波の周波数を特定する周波数特定手段」に相当する。

(ウ)
a 引用発明1の「ドップラ周波数」「fd」は、本願発明の「反射波の周波数」に相当し、λ=c/fであるので、引用発明1の「信号の波長」「λ」は、本願発明1の「送信波の周波数」に関連する値といえる。
b 引用発明1は「送受信アンテナ17,18、送受信およびSS制御部50、及び周波数検出器29をそれぞれ3系統設け」ることにより、「各周波数検出器29a?29cから速度情報が出力され」ているので、
引用発明1は「3系統の」「アンテナ17,18から放射される電波ビーム」の各々に関し「鉄道車両の速度が計測され」ている。
c 引用発明1は「速度V」を、「ビーム角をφ」「ドップラ周波数をfd」「信号の波長をλ」として式「V=fd・λ/(2・cosφ)」により求めている。
上記a?cより、引用発明1の「3系統の」「アンテナ17,18から放射される電波ビームのビーム角をφ」「周波数検出器29によって抽出されるドップラ周波数をfd」「信号の波長をλとすると、計測されるべき速度Vは、V=fd・λ/(2・cosφ)で表され」、「3系統の」「アンテナ17,18から放射される電波ビーム」の各々に関し「鉄道車両の速度が計測され」ることは、本願発明1の「前記送受波手段により送波された送信波の各々に関し前記送信波の周波数と前記反射波の周波数を用いて車速を算出し」に相当する。

(エ)引用発明1は、「送受信アンテナ17a,18a」は「地面に対し前方方向に所定の角度Δθで電波ビームを照射」し、「アンテナ17b,18b、及び17c,18c」は「地面に対し後方方向に所定の角度Δθでそれぞれ電波ビームを照射」しているので、「ビーム角θがθ’に変化しても、前後ビーム間の角度(2×Δθ)が既知であり、しかも一定」である。
また、引用発明1は「鉄道車両の速度Vを正しく計測」しているので、「車速特定手段」を有しているといえる。
よって、引用発明1の「3系統の」「アンテナ17,18から放射される電波ビーム」の各々に関し「鉄道車両の速度が計測され」ることにより、「ビーム角θがθ’に変化しても、前後ビーム間の角度(2×Δθ)が既知であり、しかも一定であるため、この角度に基づいて当該鉄道車両の速度Vを正しく計測することができる」ることと、本願発明1の「算出した車速の平均値を前記車両の前記走行面に対する速度として特定する車速特定手段」とは、「算出した車速の値に基づいて前記車両の前記走行面に対する速度として特定する車速特定手段」である点で共通する。

(オ)引用発明1の「鉄道車両用非接触速度計測装置」は、本願発明1の「車速計測装置」に相当する。

すると、本願発明1と引用発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「車両から走行面に対し、前記車両に対する角度が異なる2以上の方向に送信波を送波し、前記走行面からの反射波を受波する送受波手段と、
送波した送信波の前記反射波の周波数を特定する周波数特定手段とを備え、
前記送受波手段により送波された送信波の各々に関し前記送信波の周波数と前記反射波の周波数を用いて車速を算出し、算出した車速の値に基づいて前記車両の前記走行面に対する速度として特定する車速特定手段と
を備える車速計測装置。」

(相違点1)
「送受波手段」が、本願発明1は、「前記車両の左右方向における2以上の位置の各々から、前記車両に対する角度が異なる2以上の方向に送信波を送波」しているのに対して、引用発明1は、「前方方向に所定の角度Δθで電波ビームを照射する送受信アンテナ17a,18a」「後方方向に所定の角度Δθでそれぞれ電波ビームを照射するアンテナ17b,18b、及び17c,18c」を有するものの、車両の左右方向における2以上の位置の各々から、角度が異なる2以上の方向に電波ビームを照射するものではない点。

(相違点2)
「算出した車速の値に基づいて」「速度」を「特定する」ことに関して、本願発明1は、「算出した車速の平均値を前記車両の前記走行面に対する速度として特定」するのに対して、引用発明1は、「3系統」の「アンテナ17,18から放射される電波ビーム」の各々に関し「鉄道車両の速度が計測され」ることにより、「ビーム角θがθ’に変化しても、前後ビーム間の角度(2×Δθ)が既知であり、しかも一定であるため、この角度に基づいて当該鉄道車両の速度Vを正しく計測することができる」ものの、車速の平均値を速度として特定するものではない点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
引用発明1は、「前方方向に所定の角度Δθで」「送受信アンテナ17a,18a」「後方方向に所定の角度Δθで」「アンテナ17b,18b、及び17c,18c」を設けて、「ビーム角θがθ’に変化しても」「鉄道車両の速度Vを正しく計測することができる」ものであり、さらに、引用文献1には、「1系統の速度計測部が何らかの原因で故障した場合でも、他の2系統の速度計測部を適宜利用することで、鉄道車両の速度計測を続行することができる。」(【0043】)と記載されているが、3系統の送受信アンテナ17a,18a、17b,18b、及び17c,18cを一組としたものを、車両の左右方向における2以上の位置に設けることは記載されておらず、そのようにする動機も記載されていない。
また、引用文献5,6にも、「前記車両の左右方向における2以上の位置の各々から、前記車両に対する角度が異なる2以上の方向に送信波を送波し」ている「送受波手段」は、記載されていない。

したがって、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明1、引用文献5、6に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

よって、本願発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、引用発明1、引用文献5、6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)引用発明2を主たる引用発明とした場合
ア 対比
本願発明1と引用発明2を対比する。
(ア)引用発明2の「ペアビーム構成を採用し、1個づつ車両の前部及び後部に、幾何学的に対称となるよう配置しされた送受波器10」は、本願発明1の「車両から走行面に対し、前記車両に対する角度が異なる2以上の方向に送信波を送波し、前記走行面からの反射波を受波する送受波手段」に相当する。

(イ)引用発明2の「受信信号のドップラ成分」は、本願発明1の「反射波の周波数」に相当するので、
引用発明2の「異なる部位S1,S2,…SNからの受信信号のドップラ成分の検出が行われるドップラ検出器31-1,31-2,…31-N」は、本願発明1の「送波した送信波の前記反射波の周波数を特定する周波数特定手段」に相当する。

(ウ)引用発明2の「車両の前部の送受波器により受信される反射波のドプラ周波数fd1´」及び「車両後方の送受波器10についてのドプラ周波数fd2´」より、「fd´=fd1´-fd2´を用いて車速Vを求める」ことは、「式V=(Δf/f)・C・(1/(2・cosθ))」の「Δf」を「fd1´-fd2´」とし速度を求めることであり、「速度V」は、V=((fd1´-fd2´)/f)・C・(2・cosθ))に基づき演算しているといえる、即ち、「車両の前部の送受波器により受信される反射波のドプラ周波数fd1´」と「車両後方の送受波器10についてのドプラ周波数fd2´」の各々の「反射波のドプラ周波数」を用いて、一つの「速度V」を算出している。
よって、引用発明2の「受信信号から検出されたドップラ成分Δfから車両の速度Vを、送信波の周波数をf、送信波の伝搬速度をC、送信ビームの伏角をθとして、式V=(Δf/f)・C・(1/(2・cosθ))に基づき演算する速度演算器31-0」と、本願発明1の「前記送受波手段により送波された送信波の各々に関し前記送信波の周波数と前記反射波の周波数を用いて車速を算出し、算出した車速の平均値を前記車両の前記走行面に対する速度として特定する車速特定手段」とは、「前記送受波手段により送波された送信波の各々の前記送信波の周波数と前記反射波の周波数を用いて車速を算出する車速特定手段」である点で共通する。

(エ)引用発明2の「車載用速度センサ」は、本願発明1「車速計測装置」に相当する。

すると、本願発明1と引用発明2とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「車両から走行面に対し、前記車両に対する角度が異なる2以上の方向に送信波を送波し、前記走行面からの反射波を受波する送受波手段と、
送波した送信波の前記反射波の周波数を特定する周波数特定手段と、
前記送受波手段により送波された送信波の各々の前記送信波の周波数と前記反射波の周波数を用いて車速を算出する車速特定手段と、
を備える車速計測装置。」

(相違点1)
「送受波手段」が、本願発明1は、「前記車両の左右方向における2以上の位置の各々から、前記車両に対する角度が異なる2以上の方向に送信波を送波」しているのに対して、引用発明2は、「ペアビーム構成を採用し、1個づつ車両の前部及び後部に、幾何学的に対称となるよう配置された送受波器10」であるものの、車両の左右方向における2以上の位置の各々から、角度が異なる2以上の方向に送信波を送波するものではない点。

(相違点2)
本願発明1は、「前記送受波手段により送波された送信波の各々に関し前記送信波の周波数と前記反射波の周波数を用いて車速を算出し、算出した車速の平均値を前記車両の前記走行面に対する速度として特定する車速特定手段算出した車速の平均値を前記車両の前記走行面に対する速度として特定」するのに対して、引用発明2は、「車両の前部の送受波器により受信される反射波のドプラ周波数fd1´」及び「車両後方の送受波器10についてのドプラ周波数fd2´」より、「fd´=fd1´-fd2´を用いて車速Vを求め」ているものの、「車両の前部の送受波器により受信される反射波のドプラ周波数fd1´」及び「車両後方の送受波器10についてのドプラ周波数fd2´」の各々に関し「車速V」を算出し、算出した「車速V」の平均値を速度として特定するものでない点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
引用発明2は、「1個づつ車両の前部及び後部に、幾何学的に対称となるよう配置された送受波器10」であるが、「送受波器10」を車両の左右方向における2以上の位置に設けることは記載されておらず、また、引用文献2には、そのようにする動機も記載されていない。

したがって、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明2に基づいて、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

よって、本願発明1は、上記相違点2及び3について検討するまでもなく、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2も、本願発明1の「車両から走行面に対し、前記車両の左右方向における2以上の位置の各々から、前記車両に対する角度が異なる2以上の方向に送信波を送波し、前記走行面からの反射波を受波する送受波手段」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由によって、当業者であっても、引用発明2、拒絶査定において引用された引用文献7、8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 本願発明3ないし7について
本願発明1または2を引用する本願発明3ないし7についても、本願発明1の「車両から走行面に対し、前記車両の左右方向における2以上の位置の各々から、前記車両に対する角度が異なる2以上の方向に送信波を送波し、前記走行面からの反射波を受波する送受波手段」と同一の構成を備えるものであるから、引用発明1、拒絶査定において引用された引用文献5、6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない、及び、引用発明2、拒絶査定において引用された引用文献7、8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

4 本願発明8について
本願発明1または2を引用する本願発明8についても、本願発明1の「車両から走行面に対し、前記車両の左右方向における2以上の位置の各々から、前記車両に対する角度が異なる2以上の方向に送信波を送波し、前記走行面からの反射波を受波する送受波手段」と同一の構成を備えるものであるから、引用発明1、拒絶査定において引用された引用文献3,5、6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない、引用発明2、拒絶査定において引用された引用文献3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない、及び、引用発明2、拒絶査定において引用された引用文献3、7、8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

5 本願発明9について
本願発明1または2を引用する本願発明9についても、本願発明1の「車両から走行面に対し、前記車両の左右方向における2以上の位置の各々から、前記車両に対する角度が異なる2以上の方向に送信波を送波し、前記走行面からの反射波を受波する送受波手段」と同一の構成を備えるものであるから、引用発明1、拒絶査定において引用された引用文献3-6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない、引用発明2、拒絶査定において引用された引用文献3、4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない、及び、引用発明2、拒絶査定において引用された引用文献3、4、7、8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 原査定について
1 理由2(特許法第36条第6項第2号)について
審判請求時の補正により、請求項12は削除されており、原査定の理由2を維持することはできない。
2 理由4(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1ないし9は「車両から走行面に対し、前記車両の左右方向における2以上の位置の各々から、前記車両に対する角度が異なる2以上の方向に送信波を送波し、前記走行面からの反射波を受波する送受波手段」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1ないし8に基づいて、容易に発明をすることができたとはいえない。したがって、原査定の理由4を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-26 
出願番号 特願2015-81897(P2015-81897)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01S)
P 1 8・ 537- WY (G01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 安井 英己三田村 陽平  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 清水 稔
須原 宏光
発明の名称 車速計測装置および車速特定装置  
代理人 特許業務法人朝日特許事務所  

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