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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1329680
審判番号 不服2016-9485  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-27 
確定日 2017-07-14 
事件の表示 特願2012-55222「多層配線基板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年9月26日出願公開、特開2013-191645、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月13日の出願であって、平成27年11月26日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の平成28年1月8日に手続補正されたが、同年4月20日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。発送日:同年4月26日)され、これに対し、同年6月27日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正され、その後、当審において同年12月16日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由1」という。)が通知され、その指定期間内の平成29年1月16日に手続補正され、さらに、同年3月10日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由2」という。)が通知され、その指定期間内の同年4月5日に手続補正されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成29年4月5日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
絶縁材からなる第1絶縁層と、該第1絶縁層の前記絶縁材の硬度に比べて硬度が低い絶縁材、および少なくとも上記第1絶縁層に隣接する側の表面に粘着層を有する第2絶縁層とを積層してなる基板本体と、
上記第2絶縁層に形成された貫通導体と、
上記第1絶縁層において上記第2絶縁層に隣接する側の表面で且つ上記貫通導体の端面に接して形成された接続導体と、を備え、
上記第1絶縁層の絶縁材と上記第2絶縁層の絶縁材との硬度差は、少なくとも100Hv以上であり、
上記第2絶縁層は、少なくとも前記第1絶縁層に隣接する側の表面に熱可塑性樹脂からなり且つ厚みが3μm以下の上記粘着層を含み、
上記接続導体の厚みは、2μm以下であり、
上記粘着層の一部には、上記接続導体の上方に押し上げられ、且つ該接続導体に対向する上記第2絶縁層の絶縁材の表面を押し上げた凸部が形成されている、
ことを特徴とする多層配線基板。
【請求項2】
前記基板本体は、第1絶縁層の絶縁材がセラミックからなり且つ前記第2絶縁層の絶縁材が樹脂からなるか、前記第1絶縁層および第2絶縁層の絶縁材の双方が互いに異なる硬度の樹脂からなるか、あるいは、前記第1絶縁層および第2絶縁層の絶縁材の双方が互いに異なる硬度のセラミックからなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の多層配線基板。
【請求項3】
前記第1絶縁層の表面に形成される接続導体は、Ti薄膜層とCu薄膜層、Cr薄膜層とCu薄膜層、Ti薄膜層とMo薄膜層、Cr薄膜層とMo薄膜層、Cr薄膜層とMo薄膜層とCu薄膜層、あるいは、Ti薄膜層とMo薄膜層とCu薄膜層の何れかを積層したものからなる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の多層配線基板。
【請求項4】
絶縁材および第1貫通導体を有する第1絶縁層を形成する工程と、
上記第1絶縁層の表面に、上記第1貫通導体と接続し且つ厚みが2μm以下の接続導体を形成する工程と、
第2貫通導体を備え、第1絶縁層の上記絶縁材の硬度に比べて硬度が少なくとも100Hv以上低い絶縁材、および第1絶縁層に隣接する積層側の表面に熱可塑性樹脂からなる厚みが3μm以下の粘着層を有する第2絶縁層を形成する工程と、
上記接続導体に、上記第2絶縁層の積層側の表面に露出した第2貫通導体の端面が接触するように、第1絶縁層と第2絶縁層とを積層し、更に加熱および圧着して、上記粘着層の一部に、上記接続導体の上方に押し上げられ、且つ該接続導体に対向する上記第2絶縁層の絶縁材の表面を押し上げた凸部を有している基板本体を形成する工程と、を備える、
ことを特徴とする多層配線基板の製造方法。
【請求項5】
前記第1絶縁層の絶縁材がセラミックからなり、且つ前記第2絶縁層の絶縁材が樹脂からなる、
ことを特徴とする請求項4に記載の多層配線基板の製造方法。」

第3 刊行物
1 刊行物1
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された特開2009-76873号公報(以下「刊行物1」という、原査定では文献1として引用。)には、「多層配線基板及びその製造方法、IC検査装置用基板及びその製造方法」に関して、図面(特に、図3、図4、図10、図11参照)とともに、次の事項が記載されている。

(1)「【0033】
以下、本発明をIC検査装置用基板に具体化した一実施形態を図1?図11に基づき詳細に説明する。
図1?図3に示す本実施形態のIC検査装置用基板10は、複数箇所にICが形成されたシリコンウェハの電気検査を行うための装置(IC検査用治具)の一部に使用される部品である。IC検査装置用基板10は、多層配線基板71と、同多層配線基板71と電気的に接続されたセラミック多層配線基板11とを備えている。セラミック多層配線基板11は、複数のセラミック層14を積層してなるアルミナ(セラミック材料)の焼結体であって、平面視で略正方形状の外形を呈する板状物である。本実施形態のセラミック多層配線基板11は、一辺の長さが65mmに設定され、かつ厚さが4.0mm以上5.0mm以下に設定されている。
【0034】
図3に示されるセラミック多層配線基板11の内部において、セラミック層14同士の界面には、タングステンのメタライズ層からなる複数の内層電極31が形成されている。また、セラミック多層配線基板11の主面12上には、複数の主面側端子21が略全域にわたって形成され、セラミック多層配線基板11の裏面13上には、複数の裏面側端子22がほぼ全域にわたって格子状に形成されている(図1参照)。なお、本実施形態の主面側端子21及び裏面側端子22は、複数種の導電性金属薄膜を積層してなる構造となっている。裏面側端子22は平面視円形状をなし、その直径は0.3mm?1.0mm程度に設定されている。そして、複数の裏面側端子22上には、IC検査用治具の外部接続端子用のピン62が取り付けられている。
【0035】
また、セラミック多層配線基板11の内部には、セラミック多層配線基板11の厚さ方向に延びる複数のビア孔41が形成されている。これらのビア孔41は断面円形状をなしており、それらの内径は100μmに設定されている。そして、複数のビア孔41内には、タングステンのメタライズからなるビア導体42が配置されている。ビア導体42の裏面13側に露出する端面は、裏面側端子22と接合されている。また、ビア導体42はセラミック多層配線基板11の内部において内層電極31と接合されている。従って、複数のビア導体42によって、内層電極31と裏面側端子22との間が電気的に接続されている。
【0036】
図3に示されるように、前記多層配線基板71は、主面72及び裏面73を有し、平面視で略正方形状の外径を呈する板状物である。本実施形態の多層配線基板71は、一辺の長さが65mmに設定され、かつ厚さが136μmに設定されている。なお、多層配線基板71主面72は、使用時において検査対象であるウェハ(図示略)側に向けて配置されるようになっている。一方、多層配線基板71の裏面73には、多層配線基板71をその裏面73側から支持するセラミック多層配線基板11が接合されている。
【0037】
また、多層配線基板71の主面72上の中央部分には、複数の主面側端子74が格子状に形成されている(図2参照)。なお、本実施形態の主面側端子74は、複数種の導電性金属薄膜を積層してなる構造となっている。主面側端子74は平面視円形状をなし、その直径は0.3mm?0.5mm程度に設定されている。そして図3に示されるように、複数の主面側端子74上には、ウェハ上に形成された各ICの端子群に対して当接可能な導電性金属プローブ61が繰り返し当接しうるようになっている。
【0038】
図3?図5に示されるように、多層配線基板71は、第1層?第4層の樹脂絶縁層81(厚さ25μm)を積層した構造を有している。各樹脂絶縁層81は、ポリイミド(宇部興産株式会社製 ユーピレックスVT)からなる絶縁基材を主体として形成され、第1面82及び第2面83を有している。また、各樹脂絶縁層81には、第1面82及び第2面83を貫通するビア孔90が複数箇所に形成されている。これらのビア孔90は断面円形状をなしており、それらの内径は100μmに設定されている。
【0039】
また、各樹脂絶縁層81の第1面82には、『導電性金属材料』である銅からなる複数の導体層84(厚さ9μm)が形成されている。なお、導体層84の一部は、ビア孔90の開口縁からビア孔中心軸方向に突出する突出部85となっている。ここで、ビア孔90の開口縁からの突出部85の突出量は、ビア孔90の内径(100μm)の1/10程度、即ち10μm程度となっている。そして、突出部85は、多層配線基板71の裏面73側に曲がっている。なお、突出部85の曲がり角度θ1(図4参照)、即ち、樹脂絶縁層81の第1面82と突出部85の裏面とがなす角度は、15°程度に設定されている。
【0040】
図3?図5に示されるように、各ビア孔90内には、『導電性金属ペースト』である銀ペースト(ハリマ化成株式会社製 THR-500A)の硬化物からなるビア導体91が設けられている。なお、銀ペーストは、エポキシ樹脂内に多数の銀粒子を含有したものである(図5参照)。各ビア導体91は、突出部85が曲がっている方向の端面(即ち、第2面83側の端面)と、突出部85が曲がっている方向とは反対側の端面(即ち、第1面82側の端面)とが平坦面となっている。また、第1層?第3層の樹脂絶縁層81に設けられたビア導体91は、その側面92に溝部93(図4参照)を有している。そして、第1層の樹脂絶縁層81に設けられたビア導体91は、第2面83側の端面が前記主面側端子21に面接触した状態で電気的に接続されるとともに、第1面82側の端部が第1層の樹脂絶縁層81に形成された導体層84に電気的に接続されている。第2層の樹脂絶縁層81に設けられたビア導体91は、第2面83側の端部が第1層の樹脂絶縁層81に形成された導体層84に面接触した状態で電気的に接続されるとともに、第1面82側の端部が第2層の樹脂絶縁層81に形成された導体層84に電気的に接続されている。同様に、第3層の樹脂絶縁層81に設けられたビア導体91は、第2面83側の端部が第2層の樹脂絶縁層81に形成された導体層84に面接触した状態で電気的に接続されるとともに、第1面82側の端部が第3層の樹脂絶縁層81に形成された導体層84に電気的に接続されている。さらに、第4層の樹脂絶縁層81に設けられたビア導体91は、第2面83側の端部が第3層の樹脂絶縁層81に形成された導体層84に面接触した状態で電気的に接続されるとともに、第1面82側の端部が前記主面側端子74に面接触した状態で電気的に接続されている。」

(2)「【0057】
続く積層圧着工程では、まず、平板状の下治具(図示略)上にセラミック多層配線基板11を積層し、セラミック多層配線基板11の主面12上に第1層?第4層の樹脂絶縁層81(樹脂フィルム161)を順番に積層する(図10参照)。なお、各樹脂絶縁層81には、下治具に突設された複数の位置決めピン(図示略)が挿通される。このため、各樹脂絶縁層81の平面方向への位置ずれが防止される。その後、セラミック多層配線基板11と4枚の樹脂絶縁層81とからなる積層物に、平板状の上治具(図示略)を載置する。そして次に、2000?3000Pa以下の真空下で加熱(360℃)を行いながら、1時間のあいだ積層方向(接合方向)に押圧力(5MPa)を加える(真空熱プレス)。これに伴い、セラミック多層配線基板11及び各樹脂絶縁層81が積層方向に沿って押圧されるとともに、熱により樹脂絶縁層81の一部が塑性変形する。さらに、導体層84の各突出部85が下側(セラミック多層配線基板11側)に曲がり、ビア導体91が圧縮されることにより、ビア導体91の第1面82側の端面と導体層84との間に生じている段差が小さくなる。その結果、セラミック多層配線基板11及び各樹脂絶縁層81(多層配線基板71)が接合(熱圧着)される(図11参照)。」

上記記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「アルミナからなる複数のセラミック層14と、ポリイミドを有する複数の樹脂絶縁層81とを積層してなる積層体と、
上記複数の樹脂絶縁層81に形成されたビア導体91と、
上記複数のセラミック層14において上記複数の樹脂絶縁層81に隣接する側の表面で且つ上記ビア導体91の端面に接して形成された主面側端子21と、を備える、
IC検査装置用基板10。」

2 刊行物2
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された特開2009-272583号公報(以下「刊行物2」という、原査定では文献2として引用。)には、「ポリイミド多層基板」に関して、次の事項が記載されている。

(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高温高湿度下においてもポリイミドフィルムと無機基板との接着を維持でき、無機基板との線膨張係数差が小さく、ベアチップ実装時の接続信頼性が高い多層基板を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、下記の構成によるものである。
1. ポリイミドフィルムが熱可塑性脂層を介して無機基板に積層された多層基板において、前記熱可塑性樹脂層がフッ素樹脂及びサーモトロピック型の液晶高分子を含有し、該熱可塑性樹脂層中におけるフッ素樹脂の含有率が20?80質量%、サーモトロピック型の液晶高分子の含有率が20?80質量%であることを特徴とするポリイミド多層基板。
2. (省略)
3. (省略)
4. (省略)
5. (省略)
6. 無機基板が、セラミック基板及び/又はガラス基板である前記1.?5.のいずれかに記載のポリイミド多層基板。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリイミド多層基板において、熱可塑性樹脂層がフッ素樹脂とサーモトロピック型の液晶高分子とを含むことにより、フッ素樹脂とサーモトロピック型の液晶高分子は海島型の相分離構造を取り、海成分のフッ素樹脂が接着効果と、島成分のサーモトロピック型の液晶高分子によるフッ素樹脂の補強効果により、成形加工性、接着性、および耐熱性を兼ね備えた優れた効果を発現する。
本発明におけるポリイミドフィルムと無機基板とが、上記の特有の熱可塑性樹脂層を介して積層された構成を有する多層基板であるため、高温高湿時における層間の剥離や剥がれなどが発生しない多層基板となる。さらに多層基板そのものの温度変化に対する安定性と、多層基板間の線膨張係数の違いに基づく剥がれに対する耐久性が共に満足するものとなる。」

(2)「【0046】
本発明で用いるポリイミド多層基板の積層方法は、特に限定されるものではないが、例えば、
(1)ポリイミドフィルム、熱可塑性樹脂、無機基板を貼り合わせたうえで、熱プレスによって溶着させる方法
(2)共押し出しによる方法、ポリイミドフィルム上に熱可塑性樹脂を流延する方法、ポリイミドフィルムの前駆体フィルム上に熱可塑性樹脂を流延しイミド化する方法などして得た熱可塑性接着層付きポリイミドフィルムを無機基板に積層する方法
(3)無機基板に前記の接着剤を設けた後にポリイミドフィルムを積層する方法
などが挙げられる。」

第4 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「アルミナからなる複数のセラミック層14」は前者の「絶縁材からなる第1絶縁層」に相当し、以下同様に、「積層体」は「基板本体」に、「ビア導体91」は「貫通導体」に、「主面側端子21」は「接続導体」に、「IC検査装置用基板10」は「多層配線基板」にそれぞれ相当する。

また、後者の「ポリイミドを有する複数の樹脂絶縁層81」と前者の「該第1絶縁層の前記絶縁材の硬度に比べて硬度が低い絶縁材、および少なくとも上記第1絶縁層に隣接する側の表面に粘着層を有する第2絶縁層」とは、「絶縁材を有する第2絶縁層」という限りで共通する。

したがって、両者は、
「絶縁材からなる第1絶縁層と、絶縁材を有する第2絶縁層とを積層してなる基板本体と、
上記第2絶縁層に形成された貫通導体と、
上記第1絶縁層において上記第2絶縁層に隣接する側の表面で且つ上記貫通導体の端面に接して形成された接続導体と、を備える、
多層配線基板。」
で一致し、次の点で相違する。

〔相違点1〕
本願発明1は、第2絶縁層の絶縁材が「該第1絶縁層の前記絶縁材の硬度に比べて硬度が低」く「上記第1絶縁層の絶縁材と上記第2絶縁層の絶縁材との硬度差は、少なくとも100Hv以上であ」るのに対し、
引用発明は、複数のセラミック層14がアルミナからなり、複数の樹脂絶縁層8がポリイミドを有する点。

〔相違点2〕
本願発明1は、第2絶縁層が「少なくとも上記第1絶縁層に隣接する側の表面に粘着層を有」し「上記第2絶縁層は、少なくとも前記第1絶縁層に隣接する側の表面に熱可塑性樹脂からなり且つ厚みが3μm以下の上記粘着層を含み、上記接続導体の厚みは、2μm以下であり、上記粘着層の一部には、上記接続導体の上方に押し上げられ、且つ該接続導体に対向する上記第2絶縁層の絶縁材の表面を押し上げた凸部が形成されている」のに対し、
引用発明は、かかる構成を備えていない点。

そこで、事案に鑑み、先に相違点2について検討する。
刊行物2には、ポリイミドフィルムが熱可塑性脂層を介してセラミック基板に積層されること(段落【0006】)や、ポリイミドフィルム上に熱可塑性樹脂を流延して得た熱可塑性接着層付きポリイミドフィルムを無機基板に積層すること(段落【0046】)が記載されている。
これらの記載からみて、刊行物2には、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項のうち「第2絶縁層が『少なくとも上記第1絶縁層に隣接する側の表面に粘着層を有』」する点が記載されているといえる。
しかしながら、刊行物2には、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項のうち「上記第2絶縁層は、少なくとも前記第1絶縁層に隣接する側の表面に熱可塑性樹脂からなり且つ厚みが3μm以下の上記粘着層を含み、上記接続導体の厚みは、2μm以下であり、上記粘着層の一部には、上記接続導体の上方に押し上げられ、且つ該接続導体に対向する上記第2絶縁層の絶縁材の表面を押し上げた凸部が形成されている」こと(以下「発明特定事項A」という。)については記載されていない。

また、原査定において周知技術を示す文献として引用された刊行物3(特開2011-108960号公報、原査定では文献3として引用。)や、刊行物4(特開2002-252258号公報、原査定では文献4として引用。)にも、上記発明特定事項Aについての記載はない。

本願発明1は、上記発明特定事項Aを備えることにより、「熱硬化性樹脂の樹脂からなる前記第2絶縁層には、熱可塑性樹脂からなり且つ厚みが3μm以下の粘着層が含まれているので、該粘着層を活用して第1絶縁層との積層および接着(圧着)が成されている。更に、厚みが2μm以下の前記接続導体の頂面が第2絶縁層の樹脂層に押し込まれる押し込み量が少なく、且つ前記粘着層の一部に前記凸部を形成するに留まるため、前記クラックの発生が未然に防止され易くなっている。」(平成28年6月27日の手続補正により補正された明細書の段落【0007】)との効果を奏するものである。

このような効果は、引用発明及び刊行物2ないし刊行物4に記載された事項から、当業者が予測できるものではない。

したがって、引用発明において、当業者が刊行物2ないし刊行物4に記載された事項を適用して、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項Aを容易に想到し得たとはいえない。

よって、本願発明1は、引用発明及び刊行物2ないし刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明4について
本願発明4は、「上記第1絶縁層の表面に、上記第1貫通導体と接続し且つ厚みが2μm以下の接続導体を形成する工程」と「第1絶縁層に隣接する積層側の表面に熱可塑性樹脂からなる厚みが3μm以下の粘着層を有する第2絶縁層を形成する工程」と「上記接続導体に、上記第2絶縁層の積層側の表面に露出した第2貫通導体の端面が接触するように、第1絶縁層と第2絶縁層とを積層し、更に加熱および圧着して、上記粘着層の一部に、上記接続導体の上方に押し上げられ、且つ該接続導体に対向する上記第2絶縁層の絶縁材の表面を押し上げた凸部を有している基板本体を形成する工程」を含む多層配線基板の製造方法であって、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項Aを実質的に備えているから、本願発明1と同様に、引用発明及び刊行物2ないし刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明2、3及び5について
本願発明2、3及び5は、本願発明1又は4の発明特定事項を全て含むものであるから、それぞれ本願発明1又は4と同様に、引用発明及び刊行物2ないし刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、平成28年1月8日の手続補正により補正された請求項1ないし5に係る発明について、上記刊行物1ないし4に基いて当業者が容易に発明をすることができたから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、平成29年4月5日の手続補正により補正された請求項1は、前記発明特定事項Aを備えるものとなっており、前記のとおり、本願発明1ないし5は、引用発明及び刊行物2ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由1,2の概要及び当審拒絶理由1,2についての判断
当審では、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていないとの拒絶の理由を通知した。
しかしながら、平成29年4月5日の手続補正により請求項1ないし5の記載は、前記「第2」のとおり補正されたので、これらの拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし5は、いずれも、引用発明及び刊行物2ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-07-04 
出願番号 特願2012-55222(P2012-55222)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 冨岡 和人
小関 峰夫
発明の名称 多層配線基板およびその製造方法  
代理人 鈴木 学  

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