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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08L |
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管理番号 | 1329853 |
審判番号 | 不服2016-6573 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-05-02 |
確定日 | 2017-07-21 |
事件の表示 | 特願2013-181648「ポリアミド樹脂組成物及び成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月16日出願公開、特開2015- 48424、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 本願は、平成25年9月2日に出願された特許出願であって、平成27年10月15日付けで拒絶理由が通知され、同年12月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年2月4日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年5月2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたので、特許法162条所定の審査がされた結果、同年6月30日付けで同法164条3項所定の報告(前置報告)がされたものである。 第2 本願発明の認定 本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成28年5月2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 (A)ポリアミド610樹脂:100質量部と、 (B)ガラス繊維:1?200質量部と、 (C)ガラス繊維以外の無機充填材:0.1?10質量部と、 (D)滑剤:0.01?10質量部と、 を、含有するポリアミド樹脂組成物であって、 前記(D)滑剤が、高級脂肪酸金属塩であり、前記高級脂肪酸が、炭素数8以上の脂肪族モノカルボン酸であり、 前記(D)滑剤の融点が110?150℃であり、 前記(D)滑剤である高級脂肪酸金属塩の金属含有量が3.5?11.5質量%である、ポリアミド樹脂組成物。 【請求項2】 前記(A)ポリアミド610樹脂の、98%硫酸中で測定した相対粘度が、2.0?3.0である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項3】 前記(B)ガラス繊維が、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と、当該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体を除く不飽和ビニル単量体を、重合単位として具備する共重合体を含む集束剤により処理されているガラス繊維である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項4】 (E)銅化合物及びハロゲン化合物(ただし、ハロゲン化銅を除く。):0.002?2質量部を、さらに含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項5】 前記(E)銅化合物及びハロゲン化合物(ただし、ハロゲン化銅を除く。)中のハロゲン元素の含有量xと、銅元素の含有量yとのモル比x/yが、2/1?50/1である、請求項4に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項6】 前記(E)銅化合物及びハロゲン化合物(ただし、ハロゲン化銅を除く。)が、ポリアミドマスターバッチの形態で添加される、請求項4又は5に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項7】 (F)着色剤:0.01?5質量部をさらに含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項8】 請求項1乃至7のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。」 以下、請求項1に記載された事項により特定される発明を、「本願発明」という。 第3 原査定の概要 原査定(平成28年2月4日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 この出願の請求項1-10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特表2010-522259号公報 2.特開2010-269995号公報 3.特開2001-131407号公報 4.特表2011-528724号公報 5.特開2009-120692号公報 6.特表2008-517117号公報 第4 当審の判断 1 刊行物 刊行物1:特表2010-522259号公報(拒絶査定における引用文献1) 2 刊行物1の記載事項 本願の出願前に日本国内において頒布されたことが明らかな刊行物である刊行物1には、以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 (a)約48.9?約79.988重量パーセントのポリ(ヘキサメチレンセバカミド)と、 (b)20?50重量パーセントのガラス繊維と、 (c)0.002?0.1重量パーセントの銅と、 (d)0.01?1.5重量パーセントの少なくとも1種の核形成剤と を含むポリアミド組成物であって、該組成物は98パーセントの硫酸中で測定される際に2.4?3.0の相対粘度を有し、該組成物は5分以下の半結晶点を有し、および重量パーセントが組成物の総重量を基準とすることを特徴とする組成物。 【請求項2】 前記核形成剤が、カーボンブラックであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 前記核形成剤が、タルク、またはカーボンブラックとタルクとの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。 【請求項4】 銅が銅(I)塩および/または銅(II)塩の形態であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。」(特許請求の範囲) イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、高温で良好な耐加水分解性、耐塩性、強靱性および耐クリープ性を有するポリアミド組成に関する。 【背景技術】 【0002】 ガラス強化ポリアミド6,6組成物は、ラジエーターエンドタンク、リザーブタンク、ヒーターコア、蓄熱タンク、送水ポンプ、送水バルブなどの自動車水冷システム用部品の製造に典型的に使用されている。この用途では、一般的に、良好な耐加水分解性、道路塩への暴露によって引き起こされる応力亀裂に対する良好な抵抗および良好な強靱性を有する樹脂の使用が必要とされる。強化ポリアミド6,6組成物は、一般的にそのような用途で良好な耐加水分解性を有するが、それらは応力亀裂に影響されやすい。ポリアミド6,6と6,12とのブレンドを含む組成物は、応力亀裂に対して改善された耐性を有し得、したがって、これらの用途でしばしば使用される。 【0003】 しかしながら、より燃料効率の良い自動車が求められるようになり、エンジン冷却液がより高温で流されるデザインに至った。温度が上がると、ポリアミド冷却システム部品の加水分解によって、分解の速度が速くなり得る。したがって、ポリアミド6,6、およびポリアミド6,6と6,12とのブレンドを含む組成物は、多くの場合、これらの用途で使用される加水分解耐性が不十分であるだろう。その上、部品は、エンジン起動前の比較的冷たい状態になり得、エンジン作動間の高温への長時間の暴露され得る。応力耐性および強靱性も必要であり、ポリマー材料の望ましくない変形(クリープなど)が防止されなければならない。」 エ 「【0014】 それらが上記成分(a)?(d)の好ましい機能に影響を及ぼさない限り、他の成分が本発明の組成物に存在してもよい。他の成分は、潤滑油、可塑剤、酸化防止剤、UV安定剤、衝撃改質剤、無機フィラーおよびガラス繊維以外の繊維形成強化剤である。潤滑油は、より速いサイクルも促進する好ましい成分である。典型的な潤滑油は、脂肪酸金属塩、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、グリセリンエステル、有機モノまたはビスアミド、および酸化または非酸化ポリエチレンワックス、あるいはそれらの混合物である。」 オ 「【0021】 ノッチ付きシャルピー衝撃強さ:ISO179に基づいて測定する。 【0022】 浸漬試験-引張強さ:試料を120×140×2.5mmの寸法を有するプラークへと射出成形し、次いで、ガラス繊維がASTM 1引張棒の形状に配向される方向に対して、プラークの中心から機械加工する。この棒を130℃で888時間または1800時間、水およびToyota genuine LLCの50/50体積/体積混合物に浸漬する。棒の引張強さ(TS)を測定し、結果を表2に示す。」 キ 「【0030】 【表1】 ・・・ 【0033】 【表2】 」 3 刊行物1に記載された発明 刊行物1には、上記2アから、以下の発明が記載されていると認める。 「(a)約48.9?約79.988重量パーセントのポリ(ヘキサメチレンセバカミド)と、 (b)20?50重量パーセントのガラス繊維と、 (c)0.002?0.1重量パーセントの銅と、 (d)0.01?1.5重量パーセントの少なくとも1種のタルクまたはカーボンブラックとタルクとの組み合わせである核形成剤と を含むポリアミド組成物であって、該組成物は98パーセントの硫酸中で測定される際に2.4?3.0の相対粘度を有し、該組成物は5分以下の半結晶点を有し、および重量パーセントが組成物の総重量を基準とする組成物。」(以下、「引用発明」という。) 4 本願発明と引用発明との対比・判断 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の(a)成分である「ポリ(ヘキサメチレンセバカミド)」は、本願発明の「ポリアミド610」に相当する。 引用発明の(b)成分である「ガラス繊維」の配合量は、引用発明の(a)成分を100質量部とすると、当該(b)成分は、40.9?62.5質量部(100×20/48.9?100×50/79.988)となるから、配合量において重複一致する。 引用発明の(d)成分である「少なくとも1種のタルクまたはカーボンブラックとタルクとの組み合わせである核形成剤」は、本願発明の「ガラス繊維以外の無機充填材」に相当し、当該(d)成分の配合量は、引用発明の(a)成分を100質量部とすると、当該(d)成分は、0.02?1.88質量部(100×0.01/48.9?100×1.5/79.988)となるから、配合量において重複一致する。 引用発明の「組成物」は、本願発明の「ポリアミド樹脂組成物」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「(A)ポリアミド610樹脂:100質量部と、 (B)ガラス繊維:1?200質量部と、 (C)ガラス繊維以外の無機充填材:0.1?10質量部と、 を含有するポリアミド樹脂組成物。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点> 本願発明は、「(D)滑剤:0.01?10質量部」を含有し、「前記(D)滑剤が、高級脂肪酸金属塩であり、前記高級脂肪酸が、炭素数8以上の脂肪族モノカルボン酸であり、前記(D)滑剤の融点が110?150℃であり、前記(D)滑剤である高級脂肪酸金属塩の金属含有量が3.5?11.5質量%である」と特定するのに対して、引用発明は、この点を特定しない点。 以下、相違点について検討する。 刊行物1には、「他の成分が本発明の組成物に存在してもよい。他の成分は、潤滑油、・・・潤滑油は、より速いサイクルも促進する好ましい成分である。典型的な潤滑油は、脂肪酸金属塩・・である。」(上記2エ)との記載があるから、潤滑剤として脂肪酸金属塩を配合することが示唆されている。 また、本願の出願前の当業者において、ポリアミド樹脂組成物に成形性改良剤、潤滑剤、滑剤、離型剤として、高級脂肪酸金属塩を所定量配合することは周知技術(原査定で引用文献3ないし6として引用された刊行物並びに前置報告で引用文献7及び8として引用された刊行物である特開2001-131407号公報、特表2011-528724号公報、特開2009-120692号公報、特表2008-517117号公報、特開2005-162821号公報、特開2013-119560号公報等参照のこと、特に、特開2005-162821号公報、特開2013-119560号公報においては、具体的に示されている実施例において、本願発明の高級脂肪酸金属塩の実施例として利用されているモンタン酸カルシウムが用いられている。)といえる。 しかしながら、引用発明において、配合してもよいとされる潤滑油としての脂肪酸金属塩を配合することには動機付けがあるといえても、本願発明で特定する特定の高級脂肪酸金属塩を選択する動機はなく、さらに、本願明細書において具体的に確認されている、相違点に係る特定の高級脂肪酸金属塩を配合することにより、水中雰囲気におけるクリープ特性が改良するとともにシャルピー衝撃強度も改善するとの有利な効果(具体的には、本願明細書の実施例7及び9では、対応する比較例4、5よりも優れたシャルビー衝撃強度と優れた水中雰囲気におけるクリープ特性を確認することができる)は、上記提示されているいずれの文献にも記載されておらず、当業者においても予測できない。 そうすると、当業者といえども、上記相違点は、周知技術に基づいて想到容易とはいえない。 また、原査定で引用文献2として引用された刊行物(特開2010-269995号公報)にも、上記効果に関する記載はない。 したがって、本願発明は、引用発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。 5 請求項2ないし8に係る発明について 請求項2ないし8に係る発明は、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であるから、上記4と同様に、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願については、原査定の拒絶の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-07-11 |
出願番号 | 特願2013-181648(P2013-181648) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C08L)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 柳本 航佑、杉江 渉 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
守安 智 大島 祥吾 |
発明の名称 | ポリアミド樹脂組成物及び成形品 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 江口 昭彦 |
代理人 | 内藤 和彦 |
代理人 | 大貫 敏史 |