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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1329878
審判番号 不服2015-17538  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-28 
確定日 2017-07-25 
事件の表示 特願2010-539033「ワイヤレス送受信MRIコイル」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 2日国際公開、WO2009/081378、平成23年 3月10日国内公表、特表2011-507588、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2008年(平成20年)12月22日(パリ条約による優先権主張 2007年12月21日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成25年7月18日付けで拒絶理由が通知され、平成26年1月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月1日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成27年1月30日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年5月21日付けで補正の却下の決定がなされ、同日付けで拒絶査定されたところ、同年9月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後当審において平成28年11月4日付けで拒絶理由が通知され、平成29年4月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要

原査定(平成27年5月21日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

[理由1]
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(a)請求項7における「前記磁性共鳴再構成プロセッサ」の記載が明確でない。
(b)請求項8における「前記方法」の記載が明確でない。
(c)請求項13における「プロセッサを制御するソフトウェアによって、プログラムされるコンピュータ可読媒体」の記載が明確でない。

[理由2]
本願の請求項1ないし13に係る発明は、以下の引用例AないしCに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例一覧
A.国際公開第2006/008665号
B.特開平10-229977号公報
C.特開2002-325095号公報

第3 当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

[理由1]
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1における「前記コイル電源再充電ユニットが、外部の電力伝送装置から、ワイヤレス伝送媒体を通じて電力供給され、」の記載、及び、請求項7における「外部の電力伝送装置から前記ワイヤレス伝送媒体を通じて前記低電力コイル電源を再充電するステップ」の記載における、「外部の電力伝送装置」にどのようなものが含まれるのか明確でなく、請求項1、7に係る発明、及び、請求項1又は7の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6、8ないし12に係る発明が明確でない。

[理由2]
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

「外部の電力伝送装置」から、どのようにすれば、「誘導性、容量性又はRF電力伝送」によって電力の供給が可能であるのか、発明の詳細な説明の記載からは不明であり、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし12に係る発明することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

[理由3]
本願の請求項1ないし12に係る発明は、以下の引用例1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例一覧
1.国際公開第2006/008665号(拒絶査定時の引用例A)
2.特開2002-325095号公報(拒絶査定時の引用例C)

第4 本願発明

本願の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれの発明を「本願発明1」などという。)は、平成29年4月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載の事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本願発明1はA)ないしN)の符号を付与して分説すると、以下の事項により特定される発明である。

「【請求項1】
A) 医用磁気共鳴イメージングシステム用のワイヤレス局所コイルであって、
B) 1又は複数のコイル素子を有するRFコイルと、
C) 検査領域にRFパルスを送信するために、前記RFコイルにRF信号を印加する少なくとも1の送信増幅器と、
D) 前記送信増幅器に電力のパルスを供給するピーク電源と、
E) 局所コイル電源からの電力により、前記ピーク電源をトリクル充電する充電装置と、
F) 前記局所コイル電源と、
G) 前記局所コイル電源を再充電するコイル電源再充電ユニットと、
H) 前記1又は複数のコイル素子において受け取られる磁気共鳴信号を増幅することが可能なプリアンプと、
I) 局所コイルクロックと、
を有し、
J) 前記コイル電源再充電ユニットが、ワイヤレスで電力供給され、
K) MRシステム制御部からの制御信号が、ワイヤレス伝送媒体を通じて、前記局所コイル上の回路にワイヤレスで通信され、
L) 前記回路が、前記制御信号を入力して、前記送信増幅器及び前記局所コイルクロックによって生成される送信RF信号の波形を制御する波形発生器を有し、
M) 前記送信増幅器が、前記波形発生器からの波形信号及び前記ピーク電源からの電力供給を受けて前記RF信号を生成し、
N) 前記局所コイルクロックは、前記送信増幅器によるRF送信及び前記プリアンプによる共鳴信号の受信をクロックするために、マスタクロックとして機能する、局所コイル。」


第5 引用例、引用発明等

1 引用例1及び引用発明

当審の拒絶理由に引用された引用例1には、次の事項が記載されている(和訳は、引用例1に対応する日本語ファミリー文献である特表2008-506441号公報の記載を参考に、当審において翻訳したものである。なお、参考のため、特表2008-506441号公報の対応箇所の段落番号を記す。)。

(引1-ア)「With reference to FIGURE 1, a magnetic resonance imaging system includes a main magnet, an upper magnet pole 10 and a lower magnet pole 12 in the illustrated open or vertical field magnetic system, for generating a temporally constant B 0 magnetic field through an examination region 14. Of course, the present invention is also applicable to bore-type magnets with annular coils. The magnetic resonance imaging system further includes gradient coils 16, 18 for generating magnetic field gradients across the Bo field. Whole-body RF coils 20, 22 generate Bi RF excitation pulses and can receive the resultant magnetic resonance signals.」(第3頁第14行-第21行)
(【0015】
図1を参照すると、磁気共鳴画像システムは、主要磁石、つまり開放又は垂直型磁気システム内の上部磁極10及び下部磁極12を有し、検査領域14を通じて時間的に一定のB_(0)磁界を生成する。勿論、本発明はまた、管状コイルを備えた筒型磁石にも適用可能である。磁気共鳴画像システムは、傾斜磁場コイル16、18を更に有し、B_(0)場を横切る傾斜磁場を生成する。全身用RFコイル20、22は、B_(1)RF励磁パルスを生成し、結果として生じる磁気共鳴信号を受信し得る。)

(引1-イ)「A local coil assembly 30, a head coil assembly in the illustrated embodiment, is selectively movable from a docking station which includes a battery charging unit to a patient support 32 or the subject itself for surface coils. This enables the local coil assembly 30 to be positioned in the imaging region 14 on an as needed basis. The local coil assembly preferably includes a plurality of individual RF coil elements 34, which are shaped and oriented to be sensitive to induced resonance signals. The plurality of coils may include a plurality of coils which make up a phased-array coil assembly, a plurality of coils which constitute a SENSE coil assembly, a loop coil, a saddle coil, and other more complex coil designs and combinations. The plurality of RF coils is connected with a plurality of infrared (IR) transmit/receive modules 36. Each of the modules has an optical output lens 38_(O) and an optical input lens 38_(i). As is explained in greater detail below, received data is transmitted from each module through the optical output lens 38_(O) and timing and control information is received by each module through the optical input lens 38_(i).」(第3頁第22行-第4頁第4行)
(【0016】
局部コイル部品30、つまり図示された実施例の頭部コイル部品は、バッテリー充電装置を有する接続架台から患者支持材32又は表面コイルの対象自体へ選択的に移動可能である。これは、局部コイル部品30を、必要に応じて撮像領域14内に位置付け可能にする。局部コイル部品は、望ましくは、複数の個別のRFコイル要素34を有する。RFコイル要素34は、誘起される共鳴信号を検知するよう形作られ且つ方向付けられる。複数のコイルは、位相配列コイル部品を形成する複数のコイル、SENSEコイル部品を構成する複数のコイル、ループコイル、鞍型コイル、及び他のより複雑なコイル設計及び組み合わせを包含して良い。複数のRFコイルは、複数の赤外線(IR)送信/受信モジュール36と接続される。各モジュールは、光出力レンズ38_(o)及び光入力レンズ38_(i)を有する。以下により詳細に説明されるように、受信データは、各モジュールから光出力レンズ38_(o)を通じて送信される。また、タイミング及び制御情報は、各モジュールにより光入力レンズ38_(i)を通じて受信される。)

(引1-ウ)「The optical input and output lenses of each of the modules is aimed and screened such that each can communicate with a single, corresponding pair of scanner optical output and input lens 4O_(0) and 4O_(j). Each of the scanner optical input and output lens pairs is connected by an optic fiber cable 42 to a scanner communications module 44, typically located within the Faraday shielded scanner room. However, the optical fibers may carry the signals to the exterior of the shielded room.」(第4頁第5行-第10行)
(【0017】
各モジュールの光入力及び出力レンズは、それぞれがスキャナーの単一の対応する光出力及び入力レンズ対40o及び40iと通信可能なように、向けられ選別される。スキャナーの光入力及び出力レンズ対のそれぞれは、光ファイバーケーブル42により、標準的に静電シールドされたスキャナー室内に位置付けられたスキャナー通信モジュール44と接続される。しかしながら、光ファイバーは、シールドされた部屋の外部へ信号を伝達して良い。)

(引1-エ)「Data signals received from the local coil are communicated to a console which includes a reconstruction processor 50 which reconstructs the received data into diagnostic images that are stored in an image memory 52. A video processor 54 converts the images into a selected form and format for display on a video monitor 56. A scan controller 58 controls the application and timing of RF and gradient coil pulses by the whole-body gradient coils 16, 18 and RF coils 20, 22. The scan controller also communicates through the system module 44 and the IR channels with the local coil 30 to convey timing information, switch the coils between transmit and receive modes, cause local coils that are used to transmit B_(1)RF fields to transmit, and the like. 」(第4頁第11行-第19行)
(【0018】
局部コイルから受信したデータ信号は、制御装置へ通信される。制御装置は、受信データを画像メモリー52に格納される診断画像に再構成する再構成処理装置50を有する。ビデオ処理装置54は、ビデオモニター56に表示するため、画像を選択された形及び形式に変換する。走査制御部58は、アプリケーション及びRFのタイミング及び全身用傾斜磁場コイル16、18及びRFコイル20、22による傾斜磁場コイルのパルスを制御する。走査制御部はまた、システムモジュール44及びIRチャネルを通じて、局部コイル30と通信し、タイミング情報を伝達し、コイルを送信及び受信モードの間で切り替え、B_(1)RF場を送信するために用いられる局部コイルに送信等させる。)

(引1-オ)「Looking now to FIGURE 2, each of the coil mounted modules 36 includes a rechargeable power supply 60, such as a rechargeable battery, a large capacitor, or other device capable of storing and supplying energy. Preferably, each coil module includes its own power supply, although a central coil mounted power supply or power sharing among module power supplies is contemplated. The power supply is associated with a charging circuit 62. In the preferred embodiment, the charging circuit connects with a source of power when the coil is docked in its storage rack. Alternately, the charging circuit can receive electric power inductively, such as power passed from the whole-body RF coils 20, 22 to the coil windings 34.」(第4頁第20行-第28行)
(【0019】
図2を参照する。コイルを取り付けられたモジュール36のそれぞれは、再充電可能なバッテリー、大容量キャパシター、又はエネルギーを格納及び供給可能な他の装置のような再充電可能な電源60を有する。望ましくは、各コイルモジュールは、それぞれ電源を有する。しかしながら、中央コイルを取り付けられた電源又はモジュール電源間の電力共有も考えられる。電源は、充電回路62に付随する。好適な実施例では、コイルが充電回路の収納棚に取り付けられると、充電回路は電源と接続する。代案として、充電回路は、全身用RFコイル20、22からコイル巻線34へ通過する電力のような電力を誘導的に受信し得る。)

(引1-カ)「The power supply supplies the operating power for an infrared module driver/receiver amplifier and associated circuitry 70. The module 70 includes an amplifier 72 which amplifies outgoing signals and an infrared LED 74 which converts the electrical signals to optical signals. The output lens 38 can be connected directly with the LED 74 or can be interconnected with it by fiber optics. Analogously, the module includes a silicon PIN diode 76 which converts optical signals received at the input lens 38j into electrical signals which are amplified by an amplifier 78. The input signals include clock signals to clock circuits of the coil module to the system clock and command signals for switching the coil 30 among various available operating modes.」(第4頁第29行-第5頁第5行)
「【0020】
電源は、赤外線モジュール駆動装置/受信機の増幅器及び関連回路70に動作電力を供給する。モジュール70は、発信信号を増幅する増幅器72、及び電気信号を光信号に変換する赤外線LED74を有する。出力レンズ38は、LED74と直接接続されるか、又は光ファイバーによりLED74と間接接続され得る。同様に、モジュールは、入力レンズ38iで受信した光信号を増幅器78により増幅される電気信号に変換するシリコンPINダイオード76を有する。入力信号は、クロック信号を有し、コイルモジュールの回路にシステムクロックを供給する。また、入力信号は、コイル30を種々の利用可能な動作モードの間で切り替えるための命令信号を有する。」

(引1-キ)「The input information is conveyed from the driver/receiver amplify to a control logic circuit 80 which implements the instructions. Specifically, the control logic circuit controls a driver circuit 82 which switches 84 the element 34 of the receive coil between transmit and receive modes. In the illustrated embodiment, the coil segment 34 is detuned during transmit such that it is relatively insensitive to signals of the frequency of the excitation pulse. In an alternate embodiment in which the local coil 30 is used as both a transmit and receive coil, the driver circuit 82 applies power from the power supply 60 to create an RF excitation pulse with the timing and characteristics set by the control logic circuit 80 in accordance with the timing and instructions received from the scan electronics 58. During the receive mode, resonance signals received by the coil segment 34 are amplified 86 and again by a switchable preamplifier 88.」(第5頁第6行-第17行)
(【0021】
入力情報は、駆動装置/受信機増幅器から、命令を実装する制御論理回路80へ伝達される。具体的には、制御論理回路は、受信コイルの要素34を送信モードと受信モードの間で切り替える駆動回路82を制御する。図示された実施例では、コイル部分34が励磁パルスの周波数の信号に比較的影響を受けないように、コイル部分34は送信中に離調される。別の実施例では、局部コイル30は送信コイル及び受信コイルの両方として用いられ、駆動回路82は、電源60からの電力を利用し、走査電子機器58から受信したタイミング及び命令に従い、制御論理回路80により設定されたタイミング及び特性を有するRF励磁パルスを生成する。
【0022】
受信モード中、コイル部分34により受信された共鳴信号は、増幅され86、そして切り替え可能な前置増幅器88により更に増幅される。)

(引1-ク) FIGURE 1




(引1-ケ) FIGURE 2




(引1-コ) また、上記(引1-ア)ないし(引1-ケ)の記載より、以下の点が読み取れる。
a 磁気共鳴画像システムが、上部磁極10及び下部磁極12、傾斜磁場コイル16、18、全身用RFコイル20、22、局部コイル部品30を少なくとも有する点。
b コイルモジュール36は、局部コイル部品30に設けられるものである点。
c (引1-カ)を参照すると、「光ファイバーによりLED74と間接接続」される態様に加えて、「出力レンズ38は、LED74と直接接続される」態様が示唆されており、(引1-ク)及び(引1-ケ)に示された図面を参照すると、システムモジュール44とコイルモジュール36とが直接接続されておらず、通信経路が、ジグザグ状の矢印で示されていることから、走査電子機器58と局部コイル部品30が、光を用いたワイヤレス通信手段を介して接続される点が記載されているといえる。
d (引1-ケ)を参照すると、(引1-カ)における「入力信号」は、増幅器78を経ると(引1-キ)における「入力情報」となることから、両者は同一の情報を有するものであり、「入力信号」が、「命令を実装する制御論理回路80へ伝達され」るといえる点。
e (引1-キ)における「走査電子機器58から受信したタイミング」は(引1ーエ)を考え合わせると「タイミング情報」であり、「入力信号」に含まれるものである点。

また、引用例1には、磁気共鳴画像システム全体の発明に加えて、局部コイル部品30の発明も記載されているといえる。

よって、引用例1には、

「上部磁極10及び下部磁極12、傾斜磁場コイル16、18、全身用RFコイル20、22、局部コイル部品30を有する磁気共鳴画像システムであり、
局部コイル部品30は、撮像領域14内に位置付け可能であり、複数の個別のRFコイル要素34を有し、
局部コイル部品30に設けられたコイルモジュール36は、再充電可能な電源60を有し、
RFコイル要素34により受信された共鳴信号を増幅する前置増幅器88を有し、
電源60は、充電回路62に付随するものであり、
充電回路62は、電力を誘導的に受信し得るものであり、
走査電子機器58は、ワイヤレス通信手段により接続され、システムモジュール44及びIRチャネルを通じて、局部コイル部品30と通信し、タイミング情報を含む入力信号を伝達し、
前記入力信号は、クロック信号を有し、コイルモジュールの回路にシステムクロックを供給し、
前記入力信号は、駆動装置/受信機増幅器から、命令を実装する制御論理回路80へ伝達され、
制御論理回路は、受信コイルの要素34を送信モードと受信モードの間で切り替える駆動回路82を制御し、
駆動回路82は、電源60からの電力を利用し、走査電子機器58から受信したタイミング情報及び命令に従い、制御論理回路80により設定されたタイミング及び特性を有するRF励磁パルスを生成する、
磁気共鳴画像システムの局部コイル部品30。」

の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

2 引用例2

当審の拒絶理由に引用された引用例2の段落【0033】ないし【0048】の記載からみて、当該引用例2には、ワイヤレス伝送媒体を通じた伝送のサービス品質を監視し、前記サービス品質に従って、信号が前記ワイヤレス伝送媒体を介して送信される帯域幅を調整する技術思想が記載されていると認められる。

第6 対比・判断

1 本願発明1について

(1) 対比
本願発明1と、引用発明を対比する。

ア 本願発明のA)の特定事項について
(ア) 引用発明1の「磁気共鳴画像システム」は、本願発明1の「医用磁気共鳴イメージングシステム」に相当し、引用発明1の「局部コイル部品30」は「磁気共鳴画像システム」に用いられるものである。
(イ) 引用発明1の「局部コイル部品30」は、「電力を誘導的に受信」し、かつ、「ワイヤレス通信手段により接続され」ることから、「ワイヤレス」であるといえる。
(ウ) よって、引用発明1の「電力を誘導的に受信」し、「ワイヤレス通信手段により接続され」る「磁気共鳴画像システムの局部コイル部品30」は、本願発明1の「医用磁気共鳴イメージングシステム用のワイヤレス局所コイル」に相当する。

イ 本願発明のB)の特定事項について
引用発明1の「複数の個別のRFコイル要素34」は、本願発明1の「1又は複数のコイル素子を有するRFコイル」に相当する。

ウ 本願発明のC)の特定事項について
(ア) 引用発明1の「駆動回路82」は、「RF励磁パルスを生成する」ものである。そして、引用発明1の「RF励磁パルス」は、本願発明1の「RF信号」に相当する。
(イ) 引用発明1において、「RFコイル要素34」は、「RF励磁パルス」を受けることにより、磁気的なパルスを検査領域に送信するものであることは、当業者にとって明らかである。
(ウ) したがって、引用発明1の「駆動回路82」は、本願発明1の「検査領域にRFパルスを送信するために、前記RFコイルにRF信号を印加する少なくとも1の送信増幅器」に相当する。

エ 本願発明のD)ないしG)及びJ)の特定事項について
(ア) 引用発明1の「駆動回路82」は、「RF励磁パルスを生成する」ために「再充電可能な電源60」「からの電力を利用」するものであるから、「駆動回路82」のパルスを供給するものであるといえる。
(イ) よって、引用発明1の「駆動回路82」に「電力を」供給する「再充電可能な電源60」は、本願発明1の「送信増幅器に電力のパルスを供給するピーク電源」に相当する。
(ウ) 引用発明1の「電源60」が「付随」する「充電回路62」と、本願発明1の「局所コイル電源からの電力により、」「ピーク電源をトリクル充電する充電装置」は、「ピーク電源を」「充電する充電装置」である点で共通する。
(エ) 引用発明1の「充電回路62は、電力を誘導的に受信し得る」ことと、本願発明1の「コイル電源再充電ユニットが、ワイヤレスで電力供給され」ることは、「ワイヤレスで電力供給され」る点で共通する。

オ 本願発明のH)の特定事項について
(ア) 引用発明1の「受信された共鳴信号」は、本願発明1の「受け取られる磁気共鳴信号」に相当する。
(イ) よって、引用発明1の「RFコイル要素34により受信された共鳴信号を増幅する前置増幅器88」は、本願発明1の「1又は複数のコイル素子において受け取られる磁気共鳴信号を増幅することが可能なプリアンプ」に相当する。

カ 本願発明のI)の特定事項について
引用発明1は、本願発明1のI)の特定事項を具備していない。

キ 本願発明のK)の特定事項について
(ア) 引用発明1の「走査電子機器58」、「タイミング信号」、「ワイヤレス通信手段」、及び、「コイルモジュールの回路」は、それぞれ、本願発明1の「MRシステム制御部」、「制御信号」、「ワイヤレス伝送媒体」、及び、「局所コイル上の回路」に相当する。
(イ) よって、引用発明1の「走査電子機器58は、ワイヤレス通信手段により接続され、」「タイミング情報を含む入力信号を」「伝達し、」「コイルモジュールの回路にシステムクロックを供給」することは、本願発明1の「MRシステム制御部からの制御信号が、ワイヤレス伝送媒体を通じて、前記局所コイル上の回路にワイヤレスで通信され」ることに相当する。

ク 本願発明のL)ないしM)の特定事項について
引用発明1は、本願発明1のL)ないしM)の特定事項を具備していない。

よって、両者は下記の点で一致する。

<一致点>
「医用磁気共鳴イメージングシステム用のワイヤレス局所コイルであって、
1又は複数のコイル素子を有するRFコイルと、
検査領域にRFパルスを送信するために、前記RFコイルにRF信号を印加する少なくとも1の送信増幅器と、
前記送信増幅器に電力のパルスを供給するピーク電源と、
前記ピーク電源を充電する充電装置と、
前記1又は複数のコイル素子において受け取られる磁気共鳴信号を増幅することが可能なプリアンプと、を有し、
ワイヤレスで電力供給され、
MRシステム制御部からの制御信号が、ワイヤレス伝送媒体を通じて、前記局所コイル上の回路にワイヤレスで通信される、
局所コイル。」

そして、両者は、以下の点において相違する。

<相違点1>
局所コイル内の電源とその充電装置に関して、本願発明1は、局所コイルが、ピーク電源と、前記ピーク電源を充電する充電装置に加えて、局所コイル電源と、前記局所コイル電源を再充電するコイル電源再充電ユニットを備え、前記コイル電源再充電ユニットがワイヤレスで電力供給され、前記ピーク電源を充電する充電装置が前記ピーク電源をトリクル充電するものであるのに対して、引用発明1は、そのような構成となっていない点。

<相違点2>
RF信号の生成に係るクロックに関して、本願発明1は、局所コイルクロックを有し、局所コイル上の回路が、MRシステム制御部からの制御信号を入力して、送信増幅器及び前記局所コイルクロックによって生成される送信RF信号の波形を制御する波形発生器を有し、前記送信増幅器が、前記波形発生器からの波形信号及び電源からの電力供給を受けてRF信号を生成し、前記局所コイルクロックは、前記送信増幅器によるRF送信及び前記プリアンプによる共鳴信号の受信をクロックするために、マスタクロックとして機能するのに対して、引用発明1は、その点が不明である点。

(2) 判断

上記各相違点のうち、相違点1について以下に検討する。
局所コイルに対してワイヤレスで電力供給を行うにあたって、局所コイル内の電源を、局所コイル電源と、前記局所コイル電源を再充電するワイヤレスで電力供給されるコイル再充電ユニットと、送受信増幅器に電力のパルスを供給するピーク電源と、局所コイル電源からの電力により前記ピーク電源をトリクル充電する充電装置を有する構成とし、ワイヤレスで電力供給を行う場合においても、ピーク電源に対してトリクル充電を可能とした点は、当審拒絶理由において引用された、引用例1及び2には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用例1、及び、引用例2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし5について

本願発明2ないし5は、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、引用例1、及び、引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明6について

本願発明6は、「医用磁気共鳴イメージング方法」の発明であり、実質的に本願発明1の発明特定事項をすべて含む、「医用磁気共鳴イメージングシステム」の発明である本願発明5の発明のカテゴリを方法の発明に変更したものである。
そして、本願発明6も、ワイヤレス局所コイルを用い、ワイヤレス局所コイルによって検査領域にRFパルスを送信する送信増幅器に電力供給を行うピーク電力ストレージ装置に対してトリクル充電を行うために、低電力コイル電源を設け、さらに、該低電力コイル電源をワイヤレスに再充電するステップを備えたものであり、本願発明1の相違点1に係る構成と同様の技術的特徴を備えたものである。
したがって、上記「1 本願発明1について」「(2) 判断」において検討したとおり、本願発明6は、当業者であっても、引用例1、及び、引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 本願発明7ないし10について

本願発明7ないし10は、本願発明6の発明特定事項をすべて含み、本願発明6をさらに限定したものであるので、本願発明6と同様に、引用例1、及び、引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定についての判断

1 理由1(特許法第36条第6項第2号)について

平成29年4月28日付け手続補正による補正後の特許請求の範囲の記載においては、「前記磁性共鳴再構成プロセッサ」の記載以前に「磁性共鳴再構成プロセッサ」の記載が付加され、「前記方法」の記載以前に「・・・方法であって、」の記載が付加され、「プロセッサを制御するソフトウェアによって、プログラムされるコンピュータ可読媒体」の記載は、「・・・各ステップを・・・プロセッサに実行させるコンピュータプログラムを記載したコンピュータ可読媒体」に補正された。
したがって、特許請求の範囲の記載は明確になり、原査定の理由1は解消した。


2 理由2(特許法第29条第2項)について

拒絶査定時に示した引用例Aは、上記引用例1に、また、引用例Cは、上記引用例2に対応するものである。
したがって、上記「第6 対比・判断」において検討したように、本願発明1ないし10は、拒絶査定時に提示された引用例A(引用例1に対応する)、及び、引用例C(引用例2に対応する)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、拒絶査定時に示した引用例B(特開平10-229977号公報)は、段落【0012】-【0015】、図1、図2の記載からみて、NMRに使用するピーク電力ストレージ装置に対して充電を行う技術的事項が記載されていると認められる。
しかしながら、上記「第6 対比・判断」において示した本願発明1における相違点1に係る構成は、引用例Bには記載されていないことから、引用例AないしCに記載された事項に接した当業者といえども、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を想起することはできない。
本願発明2ないし10についても同様である。

よって、本願発明1ないし10は、当業者であっても、原査定における引用例AないしCに基づいて容易に発明をすることができたものではなく、原査定の理由2を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由についての判断

1 理由1(特許法第36条第6項第2号)について

平成29年4月28日付け手続補正による補正により、補正前の請求項1の「コイル電源再充電ユニットが、外部の電力伝送装置から、ワイヤレス伝送媒体を通じて電力供給され」の記載が、「前記コイル電源再充電ユニットがワイヤレスで電力供給され」と補正され、また、補正前の請求項7における「外部の電力伝送装置から前記ワイヤレス伝送媒体を通じて前記低電力コイル電源を再充電するステップ」の記載が、補正後の請求項6における「前記低電力コイル電源をワイヤレスに再充電するステップ」の記載に補正され、いずれも「外部の電力伝送装置」を用いない記載に補正された。
したがって、当審拒絶理由の理由1は解消した。

2 理由2(特許法第36条第4項第1号)について

上記手続補正による補正により、「外部の電力伝送装置から」の記載が削除され、補正後の請求項1には「前記コイル電源再充電ユニットが、ワイヤレスで電力供給され」と記載され、補正後の請求項6には「前記低電力コイル電源をワイヤレスに再充電する」と記載された。
したがって、補正後の請求項1、6及びそれらの請求項の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5、7ないし10は、発明の詳細な説明に基づき、当業者が実施できる程度のものと認められ、当審拒絶理由の理由2は解消した。

3 理由3(特許法第29条第2項)について

当審拒絶理由の理由3についての判断は、上記「第6 対比・判断」において示したとおりである。

第9 むすび

以上のとおり、原査定の理由、及び、当審拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-07-10 
出願番号 特願2010-539033(P2010-539033)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
P 1 8・ 536- WY (A61B)
P 1 8・ 537- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 島田 保田邉 英治  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 松岡 智也
▲高▼橋 祐介
発明の名称 ワイヤレス送受信MRIコイル  
代理人 笛田 秀仙  

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