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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1329888
審判番号 不服2016-17417  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-22 
確定日 2017-07-07 
事件の表示 特願2013-538588「研摩材スラリー及び研摩方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月18日国際公開、WO2013/054883〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)10月12日(優先権主張:平成23年10月13日、日本国、平成24年1月31日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年5月16日付けで拒絶理由が通知され、同年7月11日付けで意見書及び補正書が提出され、同年8月19日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月22日付けで拒絶査定不服の審判請求がされるとともに、同時に手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成28年11月22日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。
「酸化マンガン粒子とマンガン酸イオンとを含有したスラリーからなり、
酸化マンガン粒子は二酸化マンガンからなり、マンガン酸イオンは過マンガン酸イオンであり、
スラリー中のマンガン酸イオンが0.1質量%以上であり、
スラリーのpHが5.5以上10.5以下であり、酸化マンガンに対するマンガン酸イオンのモル濃度比が0.2以上1.5以下であり、
スラリー中のマンガン酸イオンは0.1質量%以上4.0質量%以下である、モース硬度で硬度8以上の高硬度材料を研摩するための研摩材スラリー。」

3.原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は、本願発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された「長谷川正外8名、酸化マンガン系スラリーを用いたSiC単結晶基板の精密加工-密閉型加工環境コントロールCMP装置による加工特性-、2011年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集、2011年3月11日、vol.2011、p.375-376」(以下、「引用例」という。)に記載された発明に基いて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

4.引用例記載の発明について
(1)引用例の記載
引用例には、「酸化マンガン系スラリーを用いたSiC単結晶基板の精密加工」(標題)について、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
(引ア)「1.緒言
現在,パワーデバイス用半導体材料として,主にシリコン(Si)が使用されているが,さらなる性能向上の要求のため新しい材料として,シリコンカーバイド(SiC)が期待されている.SiCはバンドギャップ,絶縁破壊電界,熱伝導率などの点でSiより優れており,Siパワーデバイスの壁を超えた性能が期待できる.しかし,SiCはダイヤモンドに次ぐ硬度を持ち,熱的,化学的に極めて安定であるため,加工が非常に困難である^(1)).一般的にSiC基板は,単結晶成長から,外周加工,切断加工,面加工を経て作られる.面加工の最終段階では,化学的機械研磨(Chemical Mechanical Polishing :CMP)が用いられている.
本研究では,SiC単結晶基板の高能率,高品質CMP加工を目指しており,スラリー及び加工部周辺雰囲気とその他の複合作用に注目していく.これまでの研究より,酸素雰囲気中でSiCのCMPを行うと,加工レートが大きくなることが分かっており,SiC基板の加工において,酸化が大きく寄与していると考えられている^(2)).そこで,固体酸化剤である酸化マンガンを砥粒として用い^(3)),SiC基板の加工特性を把握しつつ,加工メカニズムについて考察する.これまでの実験結果からMnO_(2)スラリーを高いpHで用いることで高い加工レートを得ることができることが分かっている^(4)).本稿では,酸化反応をより促進するためスラリーに過マンガン酸カリウム(KMnO_(4))を添加し,さらに高圧雰囲気下で加工を行うことでさらなる加工レートの上昇を目指す.」

(引イ)「2.酸化マンガン系スラリーによる加工メカニズムの想定モデル
これまでの研究経過から,酸化マンガン砥粒によるSiCの加工メカニズムとして図1に示すようなモデルを想定した.まず,SiC基板の表面は酸化マンガン砥粒の強力な酸化作用によって酸化される.次に酸化されたSiC表面と酸化マンガン砥粒との間に(Si-O-Mn)結合を形成する.この結合によってSiC基板内部のバックボンドが弱くなり,砥粒の運動に応じて結合が切れ,研磨が進行する.これは一般的に考えられているガラスをシリカ砥粒で研磨する場合のメカニズム^(5))と類似する.」

(引ウ)「3.実験方法
加工条件を表1に示す.実験1には卓上CMP装置(NF300)を用い,定盤回転数:90min^(-1),研磨圧力:20.6kPaとした.実験2には加工部周囲の雰囲気の影響を調べるため図2に示すベルジャー型CMP装置を用いた.このベルジャー型CMP装置は加工部が耐圧密閉容器で覆われており,容器内部には様々な気体を導入することができ,内部の圧力も変化させることができる.実験2では定盤回転数:60min^(-1),研磨圧力:18.3kPaでとした.
SiCの加工量の測定は,電子天秤を用いて実験前後の試料の重量を測定し,その差から算出した.スラリーのpHはKOH水溶液を添加して調整した.」

(引エ)「4.実験結果と考察
まず実験1としてスラリーへのKMnO_(4)添加の効果を調べた.結果として,図3にKMnO_(4)の添加量と加工レートの関係を示す.
KMnO_(4)を添加すると加工レートは大きくなり,0.05mol/L添加した時の加工レートは添加しない時の約2倍になった.スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオンにより,酸化反応が促進され,加工レートは大きく上昇したものと考えられる.しかしKMnO_(4)の添加量をさらに増やしても加工量は増えなかった.
次に,実験2として,加工雰囲気の付加作用により加工レートの向上を試みた.スラリーとしてMnO_(2)スラリーを用いKMnO_(4)を添加した場合と添加しない場合を比較した.KMnO_(4)の添加量は0.01mol/Lとした.実験結果を図4に示す.雰囲気で比較すると,Air大気圧下に比べ,高圧Air,O_(2)雰囲気下では加工レートが増加した.高圧Air・酸素雰囲気下では,スラリー中の溶存酸素量が増加するため,反応式(1)
MnO_(2) + 2KOH + O_(2) → K_(2)MnO_(4) + H_(2)O (1)
により増加したマンガン酸(MnO_(4)^(2-))が酸化反応を促進していると考えられる.
KMnO_(4)を添加した場合には,添加しない場合に比べ高圧雰囲気下での加工レートの上昇量が大きい.KMnO_(4)を添加したスラリーを用いることで高圧雰囲気の条件を効果的に利用できると考えられる.」

(引オ)「5.結言
SiCは次世代の半導体材料として期待されている.本研究ではSiCのCMPにおいて高能率・高品質加工を目指すもので,ここでは酸化マンガン系スラリーを用いて加工実験を行いその結果以下のことを明らかにした.
1. KMnO_(4)を添加することで加工量が大きくなることがわかった.
2. MnO_(2)スラリーは高圧酸素雰囲気下で用いることで加工量を大きくすることができる.さらにKMnO_(4)を添加したスラリーを用いることで.高圧雰囲気条件を効果的に利用できる.」

(引カ)「参考文献
1) 新井和夫・吉田貞史:SiC素子の基礎と応用,オーム社(2003)p.12
2) 岸井貞浩ら:酸化マンガン研磨剤を用いたCMP技術,西澤純一編 超LSI技術(22) デバイスとプロセスその12 半導体研究44 (1998) p.267
3) 土肥俊郎:雰囲気制御型CMP法とSiC基板加工への適用,「ポストシリコン・デバイスと将来加工プロセス研究」講演集,ポストSiデバイス将来加工プロセス研究会 (2007) pp.79-84
4) 長谷川正ら:酸化マンガン系スラリーを用いたSiC基板の精密加工プロセスに関する研究 2010年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集 (2010) pp.149-150
5) Lee M. CooK, Chemical processes in glass polishing, J of Non-Crystalline Solids (1990) vol.120, pp.152-171」

(引キ)

(当審仮訳。表の区切りを「:」で示した。)
表1 実験条件
試料:2インチ 4H-SiCウエハ(Si面)
実験装置: 1:NF-300(株式会社ナノファクター)
2:ベルジャー型CMP装置(不二越機械工業株式会社)
パッド:ポリウレタン
プラテン回転速度: 1:90分^(-1)
2:60分^(-1)
研磨時間:1時間
研磨圧力: 1:20.6kPa(210gf/cm^(2))
2:18.3kPa(187gf/cm^(2))
スラリー:MnO_(2)(pH11)、MnO_(2)+KMnO_(4)(pH11)
砥粒濃度:5重量%
雰囲気条件(ゲージ圧力):空気(0kPa)、空気(300kPa)、酸素(300kPa)

(引ク)

(標題の当審仮訳) 図1 加工メカニズム

(引ケ)

(標題の当審仮訳) 図3 加工レート 対 過マンガン酸カリウム(KMnO_(4))の添加量

(2)引用発明の認定
ア (引ア)より、引用例には、ダイヤモンドに次ぐ硬度を持つシリコンカーバイド(以下、「SiC」と呼ぶ。)の化学的機械研磨(CMP)において、加工レートの上昇を目指すために、固体酸化剤である酸化マンガンを砥粒として用い、MnO_(2)スラリーを高いpHで用いて、酸化反応をより促進するためスラリーに過マンガン酸カリウム(KMnO_(4))を添加し、さらに高圧雰囲気下で加工を行うことが記載されている。
また、砥粒として酸化マンガンを用いたスラリーが、「MnO_(2)スラリー」と称されていることから、酸化マンガンは、「MnO_(2)」、すなわち、二酸化マンガンであることがわかる。

そうすると、スラリーに着目すると、引用例には、
「ダイヤモンドに次ぐ硬度を持つSiCのCMPに用いられるスラリーにおいて、
砥粒である二酸化マンガンを用い、
過マンガン酸カリウムが添加された、高いpHのスラリー」が記載されていることがわかる。

イ (引エ)の「KMnO_(4)を添加すると加工レートは大きくなり、スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオンにより,酸化反応が促進され,加工レートは大きく上昇したものと考えられる.」という記載からみて、スラリー中には、過マンガン酸カリウム(KMnO_(4))に基づく、過マンガン酸イオンが含まれることがわかる。

ウ (引キ)の表1の「試料:2インチ 4H-SiCウエハ」という記載、「スラリー:MnO_(2)+KMnO_(4)(pH11)」及び「砥粒濃度:5重量%」という記載から、実験に用いられた試料は、4H-SiCであり、過マンガン酸カリウム(KMnO_(4))が添加されたスラリーのpHは11であり、砥粒の濃度は5重量%であることがわかる。

エ (引エ)の「実験1としてスラリーへのKMnO_(4)添加の効果を調べた.結果として,図3にKMnO_(4)の添加量と加工レートの関係を示す.」及び「KMnO_(4)を添加すると加工レートは大きくなり,0.05mol/L添加した時の加工レートは添加しない時の約2倍になった.スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオンにより,酸化反応が促進され,加工レートは大きく上昇したものと考えられる.しかしKMnO_(4)の添加量をさらに増やしても加工量は増えなかった.」という記載から、加工レートが、過マンガン酸カリウム(KMnO_(4))を添加しない時の約2倍になったことが確認されたスラリーの過マンガン酸カリウム(KMnO_(4))の添加量は、0.05mol/Lであることがわかる。

さらに、(引ケ)の過マンガン酸カリウム(KMnO_(4))の添加量と加工レートとを示す図3の記載から、スラリーについて、過マンガン酸カリウムが0.1mol/L添加されたスラリーは、過マンガン酸カリウムが0.05mol/L添加されたスラリーと同等の加工レートを有することがわかり、過マンガン酸カリウムが0.02mol/L、0.01mol/L添加されたスラリー及び過マンガン酸カリウムが添加されなかったスラリーは、0.05mol/Lや0.1mol/L添加されたスラリーよりも、加工レートが低いことがわかる。

オ 二酸化マンガンのモル質量は、86.94g/molであるから、5重量%の二酸化マンガンを含有する1kgのスラリーには、二酸化マンガンが50g含まれ、1L(リットル)のスラリーには、0.61(=50/86.94×(1/(1-0.050)))mol含まれることがわかる。
また、過マンガン酸カリウムは、水に可溶であるから、全てスラリーに溶けているとすると、過マンガン酸カリウムを0.1mol/L用いた場合、過マンガン酸カリウムのモル質量は、158.034g/molであるから、スラリーの過マンガン酸イオンは、15.8g/L(=158.034×0.1)含まれることがわかる。

カ 以上のことから、引用例には、実験に用いられた、加工レートが、過マンガン酸カリウム(KMnO_(4))を添加しない時の約2倍になったことが確認されたスラリーとして、
「砥粒である二酸化マンガンを5重量%(0.61mol/L)含有し、
過マンガン酸イオンを0.1mol/L(15.8g/L)含有し、
該過マンガン酸カリウムに基づく、過マンガン酸イオンが含まれ、
スラリーのpHは11であり、
ダイヤモンドに次ぐ硬度を持つ4H-SiCの化学的機械研磨に用いられるスラリー。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

5.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「砥粒である二酸化マンガン」において、引用発明の「二酸化マンガン」は、本願発明の「酸化マンガン」に相当し、引用発明の「砥粒」は、本願発明の「酸化マンガン」が「粒子」である構成に相当するから、引用発明の「砥粒である二酸化マンガン」は、本願発明の「酸化マンガン粒子」に相当し、しかも、本願発明の「酸化マンガン粒子は二酸化マンガンからな」る構成に相当する。
(2)引用発明の「過マンガン酸イオン」は、本願発明の「マンガン酸イオン」に相当し、しかも、本願発明の「マンガン酸イオンは過マンガン酸イオンであ」る構成に相当する。
(3)引用発明の「過マンガン酸イオンを15.8g/L含有」する構成は、「15.8g/L」が、スラリー1リットルを1kgとすれば、「1.58質量%」と表せることから、本願発明の「スラリー中のマンガン酸イオンが0.1質量%以上であ」って、「スラリー中のマンガン酸イオンは0.1質量%以上4.0質量%以下である」構成に相当する。
(4)引用発明の「ダイヤモンドに次ぐ硬度を持つ4H-SiC」は、ダイヤモンド(モース硬度10)に次ぐ硬度であるから、そのモース硬度が、8以上であることは明らかであり、本願発明の「モース硬度で硬度8以上の高硬度材料」に相当する(なお、4H-SiCのモース硬度が8以上(9程度)であることは、必要であれば、国際公開第97/09470号の明細書15頁24?26行の「undoped or very low doped 4H SiC with a Mohs hardness of approximately 9(当審仮訳:約9のモース硬度を有する、ドープされていないか、わずかにドープされた4H-SiC)」という記載を参照。)。
(5)引用発明の「化学的機械研磨に用いられるスラリー」は、本願発明の「研摩するための研摩材スラリー」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「酸化マンガン粒子とマンガン酸イオンとを含有したスラリーからなり、
酸化マンガン粒子は二酸化マンガンからなり、マンガン酸イオンは過マンガン酸イオンであり、
スラリー中のマンガン酸イオンが0.1質量%以上であり、
スラリー中のマンガン酸イオンは0.1質量%以上4.0質量%以下である、モース硬度で硬度8以上の高硬度材料を研摩するための研摩材スラリー。」である点で一致し、次の相違点1、2で相違する。

(相違点1)
酸化マンガンに対するマンガン酸イオンのモル濃度比について、本願発明は、0.2以上1.5以下であるのに対し、引用発明は、約0.16(=0.1/0.61)である点。

(相違点2)
研磨材スラリーのpHについて、本願発明は、5.5以上10.5以下であるのに対し、引用発明は、11である点。

ここで、相違点について検討する。
(相違点1について)
上記「4.(1)(引エ)」には、「KMnO_(4)を添加すると加工レートは大きくなり,0.05mol/L添加した時の加工レートは添加しない時の約2倍になった.スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオンにより,酸化反応が促進され,加工レートは大きく上昇したものと考えられる.」という記載がある。
そうすると、「スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオンにより,酸化反応が促進され、加工レートは大きく上昇」するのであるから、「スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオン」の濃度を高くすることによって、加工量が増加することは明らかである。

しかも、過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオンは、酸化反応の促進等に使用されることによって研磨の進行と共に消費されるものといえるから、スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオンを、より多く含有させたほうが望ましいことも明らかである。

なお、同(引エ)には、「しかしKMnO_(4)の添加量をさらに増やしても加工量は増えなかった.」という記載があるものの、同(引イ)の「まず,SiC 基板の表面は酸化マンガン砥粒の強力な酸化作用によって酸化される.次に酸化されたSiC 表面と酸化マンガン砥粒との間に(Si-O-Mn)結合を形成する.この結合によってSiC 基板内部のバックボンドが弱くなり,砥粒の運動に応じて結合が切れ,研磨が進行する.」という記載と、同(引ク)の図1から看取される、OH基を有する酸化マンガン(MnO_(2))が、SiC表面の(SiO_(2))の表面のOH基と結合し、酸化マンガン(MnO_(2))の表面のOH基の「H」と(SiO_(2))の表面のOH基の「OH」が結合して分離することで、酸化マンガン(MnO_(2))と「-O-」を介して結合した(SiO_(2))が生じ、酸化マンガン(MnO_(2))に「-O-」を介して結合された該(SiO_(2))が、研磨によって分離する加工メカニズムとからみて、加工量は、SiC基板の表面の酸化マンガン砥粒による酸化速度、酸化マンガン(MnO_(2))と「-O-」を介して結合した(SiO_(2))が生じる速度、研磨速度、研磨時間及び研磨圧力等の研磨条件によっても左右されるものであるから、引用例に記載された特定の研磨条件では、上記(引エ)に記載されるように「KMnO_(4)の添加量をさらに増やしても加工量は増えなかった.」ことがいえるとしても、同(引エ)の上記記載は、「スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオン」の濃度を高めても、加工レートが上昇しないことまでを意味するとはいえない。
また、同(引エ)の上記記載は、「スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオン」の濃度ではなく、スラリーに対する「KMnO_(4)の添加量」について言及するものであるところ、「KMnO_(4)の添加量」を単に増やしたとしても、スラリーに溶解しない「KMnO_(4)」の量が増えるだけで、「スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオン」の濃度がある程度以上には上がらないことがあることは明らかである。
また、そのような場合であっても、スラリーに対する「KMnO_(4)の添加量」を増やすともに、スラリーの温度や雰囲気圧力等を変えることで、「スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオン」の濃度をさらに増やすことができることは、当業者にとって明らかである。

以上のことから、加工レートの向上を目指した引用発明において、加工レートの向上のために、「スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオン」の濃度をさらに増やすことは、当業者が当然考慮する事項であり、スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオンの濃度をどの程度のものとするかは、SiC基板の表面の酸化マンガン砥粒による酸化速度、酸化マンガン(MnO_(2))と「-O-」を介して結合した(SiO_(2))が生じる速度、研磨速度、研磨時間及び研磨圧力等の研磨条件や、研磨する対象の表面粗さ等を考慮して当業者が適宜、決定すべき事項であるといえる。

したがって、引用発明において、スラリー中の過マンガン酸(MnO_(4)^(-))イオンの濃度を増やし、その結果、酸化マンガンに対する過マンガン酸イオンのモル濃度比を0.2以上1.5以下とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

そうすると、引用発明において、本願発明の上記相違点1に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点2について)
上記「4.(1)(引ア)」に「これまでの実験結果からMnO_(2)スラリーを高いpHで用いることで高い加工レートを得ることができることが分かっている^(4)).」と記載されるように、スラリーのpHは、「高い」ものであるところ、上述したように、同(引イ)及び同(引ク)の図1から理解される加工メカニズムからみて、pHが11以上の場合のみ研磨が進行するものではなく、11よりも小さくしたとしても、酸化マンガン砥粒の酸化作用は生じ、SiC表面が酸化されSiC表面の研磨は進行することは明らかである。

しかも、引用例が参考文献4として引用する「長谷川正ら:酸化マンガン系スラリーを用いたSiC基板の精密加工プロセスに関する研究 2010年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集 (2010)pp.149-150」には、SiCの研磨に用いるMnO_(2)スラリーのpHについて、
「4.実験結果と考察
各スラリーを用いて実験を行った結果を図3に示す.MnO_(2)スラリーは最も高い加工レートを示した.MnO_(2)はマンガンの参加数が大きく酸化作用も強いので,SiCの研磨において酸化作用が重要な役割を果たしていると考えられる。また,MnO_(2)スラリーはpHによって加工レートが大きく変化し,特にpH10以上の領域において大きな上昇が見られた.」(149頁右下欄7?13行)と記載されていることから、同(引ア)の上記「これまでの実験結果からMnO_(2)スラリーを高いpHで用いることで高い加工レートを得ることができることが分かっている^(4)).」という記載において、スラリーのpHが「高い」とは、10を含む10以上の値を意味することは、本願の優先権主張の日前に当業者にとって周知であるということができる。

そして、発明の詳細な説明の記載からは、本願発明が、スラリーのpHが5.5以上10.5以下であって、酸化マンガンに対するマンガン酸イオンのモル濃度比が0.2以上1.5以下である場合に、そうでない場合と比較して、格別顕著な作用効果を奏するものであるということはできない。

そうすると、引用発明において、スラリーのpHを10程度とすること、すなわち、本願発明の上記相違点2に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(まとめ)
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求書における請求人の「高い加工レートの実現以外の点、特に連続使用による研摩レートの低下を抑制することに関しては、何ら記載もなく、示唆もない。そして、このような連続使用による研摩レートの低下を抑制する効果を、酸化マンガンに対するマンガン酸イオンのモル濃度比を正誤(審決注:「制御」の誤記と認める。)することに関しても、この引用文献1(審決注:引用例)には何ら記載もなく、示唆もない。」という主張は、本願発明の使用態様が連続使用に特定されるものではない以上、採用することができない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-12 
結審通知日 2017-05-15 
審決日 2017-05-26 
出願番号 特願2013-538588(P2013-538588)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉岡 沙織  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 川端 修
原 賢一
発明の名称 研摩材スラリー及び研摩方法  
代理人 特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ  
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