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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06Q
管理番号 1329893
審判番号 不服2016-11728  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-04 
確定日 2017-07-25 
事件の表示 特願2014- 75818「情報管理装置、決済方法及び決済プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 9日出願公開、特開2015-197825、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成26年4月1日の出願であって、平成27年11月11日付けで拒絶理由通知がなされ、平成28年1月15日付けで手続補正がなされたが、同年4月28日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対し、同年8月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年4月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

請求項1?16に係る発明は、引用文献1?6に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開2002-123781号公報
2.国際公開第2007/136011号
3.特開2002-32689号公報
4.特開2013-125308号公報
5.特開2007-164361号公報
6.国際公開第2007/148373号

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1?15に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願の請求項1?15に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明15」という。)は、平成28年8月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

<本願発明1>
「売買取引の支払いの決済要求を受け付ける受付部と、
前記受付部によって受け付けられた決済要求に対応する売買取引の支払い可否を判定する判定部と、
前記判定部によって前記売買取引の支払いが不可であると判定された場合に、前記売買取引を未払い取引として登録する登録部と、
前記登録部によって前記未払い取引として登録される売買取引の前記決済要求を未払いの状態で前記売買取引の注文手続きを完了させるための通知を前記売買取引の売り手に通知する通知部と、
前記売買取引の買い手の口座への入金を受け付ける入金部と、
前記買い手の口座の残高から売買取引の支払額を引き落とす決済部と、を備え、
前記受付部は、
前記登録部によって登録された未払い取引のうち、前記買い手によって選択された未払い取引の支払いの決済要求を受け付け、
前記決済部は、
前記受付部によって前記買い手によって選択された未払い取引の支払いの決済要求が受け付けられた場合に、前記入金部によって入金された口座の残高から、当該買い手によって選択された未払い取引の支払額を引き落とし、
前記通知部は、
前記決済部によって前記買い手によって選択された未払い取引の支払額が引き落とされた場合に、前記決済要求の決済が完了した旨を通知する、
ことを特徴とする情報管理装置。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2002-123781号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審において付与した。)。

ア.「【0010】本発明は、上記した考えに基づき、さらに検討を加え、構成されたものである。すなわち、本発明は、インターネットを利用した登録会員相互間の通信販売における注文と商品代金の支払を同時に行う注文・支払同時決済システムであって、特定の金融機関に開設され、登録会員それぞれの補助口座を設けた特定口座と、前記登録会員の補助口座それぞれの残高を出力する残高出力手段と、前記特定口座内の補助口座間で商品代金の振替を行う商品代金振替手段とを備える(以上を支払サブシステムという)とともに、インターネットを介して商品の注文あるいは受注を行う注文・受注情報入出力手段と、前記注文に応じ、前記残高出力手段を介し前記注文を行った登録会員の補助口座残高を参照し、該登録会員の補助口座残高が前記注文の注文金額以上かどうかを検出し、残高が注文金額以上であれば注文成立、注文金額未満であれば注文不成立とする受注決定手段と、前記注文成立の場合には受注データを販売者である登録会員の前記注文・受注情報入出力手段に入力する受注データ通知手段と、該注文成立と同時に、前記注文金額を購入者である登録会員の補助口座から販売者である登録会員の補助口座へ振り替える指示を、前記支払サブシステムの商品代金振替手段に出力する注文金額振替指示手段と、あるいはさらに前記注文不成立の場合には、前記注文の情報を予約データとして記憶する予約データ記憶手段と、を備えて(以上を注文サブシステムという)なることを特徴とする通信販売における注文と販売代金の支払を同時に行う注文・支払同時決済システムである。」

イ.「【0011】・・・(中略)・・・また、前記支払サブシステムでは、前記登録会員それぞれの予め登録された1つまたは複数の金融機関口座から前記特定口座へ入金する入金手段により入金が行われ、前記特定口座へ入金された資金は、該特定口座内の補助口座に関連ずけられた前記金融機関口座のコードにより識別され、該当する補助口座へ振り替える入金振替手段とを有することが好ましい。」

ウ.「【0024】注文成立の場合には、受注データを受注データ通知手段6により受注データを販売者である登録会員の端末機器(注文・受注情報入出力手段)9bにインターネットを介し通知する。・・・(中略)・・・注文成立と同時に、注文金額を購入者である登録会員の補助口座から販売者である登録会員の補助口座へ振り替える指示を、注文金額振替指示手段5により特定口座に出し、銀行システムの商品代金振替手段7により、特定口座内の補助口座間で商品代金の振替を行う。これにより、商品代金の支払が注文と同時に決済されたことになる。」

エ.「【0025】一方、注文不成立の場合には、この注文のデータは予約データとして予約データ記憶手段8に記憶されるのが好ましい。この際、登録会員の補助口座の残高不足を、残高不足通知手段により該登録会員にインターナットを介し通知することが好ましい。この残高不足の情報により該登録会員がその補助口座に入金した場合には、残高が注文金額以上になったことを残高出力手段4を介し確認し受注決定手段3が注文成立と決定して、予約データ記憶手段8に記憶された予約データを予約データ変更手段により受注データとすることができる。受注決定となった場合、受注データ通知手段6によりインターネットを介し販売者である登録会員に通知する。同時に、上記したシステムを利用して、上記した方法と同様に商品代金の決済を行う。」

前記ア.?エ.によれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>
「インターネットを利用した登録会員相互間の通信販売における注文と商品代金の支払を同時に行う注文・支払同時決済システムであって(【0010】)、
特定の金融機関に開設され、登録会員それぞれの補助口座を設けた特定口座と(【0010】)、
前記登録会員それぞれの予め登録された1つまたは複数の金融機関口座から前記特定口座へ入金する入金手段と(【0011】)、
前記特定口座へ入金された資金を、前記金融機関口座のコードにより識別される補助口座へ振り替える入金振替手段と(【0011】)、
前記登録会員の補助口座それぞれの残高を出力する残高出力手段と(【0010】)、
補助口座間で商品代金の振替を行う商品代金振替手段と(【0010】)、
インターネットを介して商品の注文あるいは受注を行う注文・受注情報入出力手段と(【0010】【0024】)、
前記注文に応じ、前記残高出力手段を介し前記注文を行った登録会員の補助口座残高を参照し、該登録会員の補助口座残高が前記注文の注文金額以上かどうかを検出し、残高が注文金額以上であれば注文成立、注文金額未満であれば注文不成立とする受注決定手段と(【0010】)、
注文成立の場合に、受注データを販売者の端末機器(注文・受注情報入出力手段)に通知する受注データ通知手段と(【0024】)、
注文成立と同時に、前記注文金額を購入者である登録会員の補助口座から販売者である登録会員の補助口座へ振り替える指示を特定口座に出し、商品代金振替手段により補助口座間で商品代金の振替を行わせて、商品代金を決済する注文金額振替指示手段と(【0024】)、
注文不成立の場合に、前記注文の情報を予約データとして記憶する予約データ記憶手段と(【0010】)、
登録会員の補助口座の残高不足を、該登録会員に通知する残高不足通知手段と(【0025】)、
を備え、
前記受注決定手段は、残高不足の情報により該登録会員がその補助口座に入金した場合には、残高が注文金額以上になったことを残高出力手段を介し確認して、注文成立と決定し、予約データ記憶手段に記憶された予約データを予約データ変更手段により受注データとし(【0025】)、
補助口座への入金により受注決定となった場合、受注データ通知手段により販売者である登録会員に通知し、同時に、前記商品代金振替手段及び前記注文金額振替指示手段を利用して、商品代金の決済を行う(【0025】【0024】)、
注文・支払同時決済システム。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(国際公開第2007/136011号)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審において付与した。)。

ア.「[0042] 図1は、同電子商取引システムのシステム系統図の一例を示したものである。
[0043] このシステムは、インターネットなどの通信ネットワークL上にはサービスサーバ10が設置され、インターネットLを介して、ユーザのパソコンなどの通信端末器20からアクセスが可能な構成となっている。」

イ.「[0047] このシステムを利用して商品を購入する際には、ユーザは通信端末器20でブラウザを起動させて商品選択画面 (不図示)を表示させ、その商品選択画面で購入したい商品を選択し、それに対してサービスサーバ10が合計見積金額などを含んだ選択商品一覧を返信してきたときには、支払条件、納入時期、納入場所などの取引条件を入力し、注文確定操作をすれば、サービスサーバ10は選択された商品等の注文をその見積金額で受け付ける。
[0048] 図2は、選択商品の一覧表示から、取引条件の選択操作、選択した商品等の合計見積金額表示までの動作を、通信端末器20での画面表示で示したものである。
[0049] 図2(a)は、商品等の選択操作が終了した後に表示される画面G1で、取引合計評価額、購入個数を含めた選択商品の一覧g11の表示、取引条件g12の入力、顧客識別情報 (ユーザID)g13、パスワードg14の入力が同一画面で行えるようにしている。なお、取引条件情報は合計評価額、購入個数を含んだ概念であるが、図2に示した取引条件g12は、取引合計評価額、購入個数を除くものとして定義される。
[0050] この画面G1で、取引条件g12、ユーザIDg13、パスワードg14の入力後、試算ボタンg15を操作すると、サービスサーバ10が後述する所定のアルゴリズムを演算処理して見積金額を算出し、通信端末器20に図2(b)の画面G2を切替表示させる。この画面G2では、サービスサーバ10が算出した見積金額g21が表示され、さらに取引条件g22を再入力できるようになっている。ユーザが見積金額g21に満足しない場合には取引条件g22を再入力し、試算ボタンg23を操作して見積を繰り返すことができる一方、表示された見積金額g21で発注したい場合には、確定ボタンg24を操作して注文を確定することができる。」

前記ア.イ.によれば、引用文献2には次の事項が記載されている。

<引用文献2の記載事項>
「サービスサーバが、インターネットを介してユーザの通信端末器からアクセス可能に構成され([0043])、
ユーザは、商品を購入する際に、通信端末器でブラウザを起動させて商品選択画面を表示させ、その商品選択画面で購入したい商品を選択し([0047])、
商品等の選択操作が終了した後に表示される画面で、取引条件を入力後、試算ボタンを操作すると、サービスサーバは、見積金額を算出して通信端末器の画面に表示し([0050])、
ユーザが見積金額に満足しない場合には取引条件を再入力し、試算ボタンを操作して見積を繰り返し、表示された見積金額で発注したい場合には、確定ボタンを操作して注文を確定する([0050])、電子商取引システム([0042])。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2002-32689号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審において付与した。)。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、通信回線による売買方法に関する。」

イ.「【0035】
【発明の実施の形態】以下、添付した図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1に示すように、商品を購入する購入者の購入者側端末1と、商品を販売する販売者の販売者側端末3とは、インターネットを介して購入者と販売者とを仲介する仲介者の仲介者側端末5に通信回線により接続されている。」

ウ.「【0037】また、仲介者は、インターネット上に図2に示すようなホームページ11を開設しており、販売者及び購入者は、このホームページ11を利用して売買を行う。」

エ.「【0046】・・・(中略)・・・これにより、仲介者側端末5は、商品の代金、仲介者指定の銀行口座の口座番号、振り込み期限(入金猶予期間)等が記載された電子メールを購入者側端末1に送った後、期間カウント部9が入金猶予期間のカウントを開始する。本実施の形態では、購入者による入金猶予期間を1週間としており、期間カウント部9には、1週間の期間が設定されているが、これに限定されるものではなく、例えば、3日、5日、10日等の任意の期間を設定したり、購入者、販売者、又は仲介者の都合等により設定期間の延長又は短縮を行っても良い。」

オ.「【0052】ステップS17及びステップS18では、期間カウント部9による入金猶予期間のカウントが終了した後、購入者からの入金が確認されなかった場合には、販売者側端末3に入金がなかった旨の電子メールを送る。この時点で、販売者及び購入者の売買が不成立となり、仲介者側端末5による売買の仲介が終了する。」

前記ア.?オ.によれば、引用文献3には次の事項が記載されている。

<引用文献3の記載事項>
「通信回線による売買方法であって(【0001】)、
購入者側端末と販売者側端末とが、インターネットを介して仲介者側端末に接続され(【0035】)、
仲介者はホームページを開設し、販売者及び購入者は、このホームページを利用して売買を行い(【0037】)、
仲介者側端末は、商品の代金、仲介者指定の銀行口座の口座番号、振り込み期限(入金猶予期間)等が記載された電子メールを購入者側端末に送った後、入金猶予期間のカウントを開始し(【0046】)、
前記入金猶予期間には1週間が設定されるが、購入者、販売者、又は仲介者の都合等により設定期間の延長又は短縮を行っても良く(【0046】)、
入金猶予期間のカウントが終了した後、購入者からの入金が確認されなかった場合には、販売者側端末に入金がなかった旨の電子メールを送り、この時点で、販売者及び購入者の売買が不成立となり、仲介者側端末による売買の仲介が終了する(【0052】)、売買方法。」

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2013-125308号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審において付与した。)。

ア.「【0024】
まず、実施例1に係る決済処理方法について説明する。図1は、実施例1に係る決済処理方法を説明するための説明図である。実施例1に係る決済処理方法では、決済処理装置10は、商品1の価格をバーコード等により読み取って、決済額を算定する(ステップS1)。また決済処理装置10は、カード2からカードを一意に識別するカードID及びプリペイド価値の残高を読み取る(ステップS2)。カード2は、IC(Integrated Circuit:集積回路)チップを内蔵しており、ICチップにカードID及びプリペイド価値の残高を含むデータを記憶している。
【0025】
決済処理装置10は、決済額がカード2から読み取ったプリペイド価値の残高を超えるか否かを判定する。決済額がカード2から読み取ったプリペイド価値の残高以下であるならば(ステップS3;No)、決済処理(ステップS7)を行う。具体的には、読み取ったプリペイド価値の残高から決済額を減算し、減算後の値でカード2が記憶するプリペイド価値の残高を更新する。
【0026】
決済額がプリペイド価値の残高を超えるならば(ステップS3;Yes)、決済処理装置10は、プリペイド価値の残高が負の値となる決済(以下マイナス決済と記載する)を許容するか否かを判定するためのデータを取得する(ステップS4)。
【0027】
取得したデータがマイナス決済を許容する条件を満たしていなければ(ステップS5;No)、決済処理装置10は、決済処理を行わない(ステップS6)。一方、取得したデータがマイナス決済を許容する条件を満たしているならば(ステップS5;Yes)、決済処理装置10は、決済処理(ステップS7)を行う。具体的には、読み取ったプリペイド価値の残高から決済額を減算し、減算後の値でカード2が記憶するプリペイド価値の残高を更新する。このとき、減算前の残高が決済額未満であるので、減算後の値は負の値となり、カード2はプリペイド価値の残高として負の値を記憶することとなる。」

イ.「【0089】
また、利用頻度によってマイナス決済からチャージ期限を変化させてもよい。具体的には、利用頻度が高ければ、チャージ期限までに1週間の余裕を与え、利用頻度が低い場合には当日中をチャージ期限とする。」

前記ア.イ.によれば、引用文献4には、次の事項が記載されている。

<引用文献4の記載事項>
「決済処理装置が、
商品の価格をバーコード等により読み取って、決済額を算定し(ステップS1)、
カードからプリペイド価値の残高を読み取り(ステップS2)、
決済額がカードから読み取ったプリペイド価値の残高を超えるか否かを判定し(ステップS3)、
決済額がプリペイド価値の残高を超えるならば、プリペイド価値の残高が負の値となる決済(マイナス決済)を許容するか否かを判定するためのデータを取得し(ステップS4)、
取得したデータがマイナス決済を許容する条件を満たしているならば(ステップS5;Yes)、決済処理を行い(ステップS7)、読み取ったプリペイド価値の残高から決済額を減算し、減算後の値でカードが記憶するプリペイド価値の残高を更新し、このとき、カードはプリペイド価値の残高として負の値を記憶し、
カードの利用頻度によってマイナス決済からチャージ期限を変化させてもよく、具体的には、利用頻度が高ければ、チャージ期限までに1週間の余裕を与え、利用頻度が低い場合には当日中をチャージ期限とする、決済処理方法。」

5.引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(特開2007-164361号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審において付与した。)。

「【0002】
一般的に、企業間における商品の取引においては、販売側は商品を買手側に引渡し、後から代金を回収する掛売り(与信販売 クレジット販売)手法が採用されている。例えば、製造会社が各小売店等の取引先に商品を販売する場合、製造会社は、取引先に商品を掛売り(与信販売)しても代金の回収が不可能になる事態を予め想定して、取引先に与信限度額を設けている。この与信限度額は、各取引先の信用度、各取引先に対する取引の実績に応じて、取引先毎に設定されている。
【0003】
そして、取引先からの商品の受注要請があると、該当取引先に対する売掛残高(引渡し済み商品における未回収の金額)が与信限度額を超えているか否かの与信チェックを行い、売掛残高が与信限度額を超えていないときのみ、取引先からの商品を受注していた。このように、与信限度額は取引先毎に予め定められた一定値である。」

6.引用文献6について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6(国際公開第2007/148373号)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審において付与した。)。

「[0029] 通販販売データ保持部22は、ディスプレイ6の販売画面において購入のため入力されたID情報や商品情報を、販売レジスター8で決済がなされるか又はインターネット通販管理システム3での商品取り置き期間が終了するまでの一定期間、保持するようになつている。また、通販販売データ保持部22には、選択された商品の商品コード 、数量、購買者ID、選択日時 (及び価格)を記録する商品レコード(図6(a)参照)と、購買者IDの氏名、住所、電話番号等の配送先情報を記録する購買者レコード (図6(b)参照)とが保持されるようになっている。」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

・引用発明は「インターネットを介して商品の注文あるいは受注を行う注文・受注情報入出力手段」を備えるから、この注文・受注情報入出力手段が行った注文を、インターネットを介して受け付ける手段があるといえる。この手段と、本願発明1の「売買取引の支払いの決済要求を受け付ける受付部」は、「売買取引の要求を受け付ける受付部」の点て共通する。

・引用発明の「前記注文に応じ、前記残高出力手段を介し前記注文を行った登録会員の補助口座残高を参照し、該登録会員の補助口座残高が前記注文の注文金額以上かどうかを検出し、残高が注文金額以上であれば注文成立、注文金額未満であれば注文不成立とする受注決定手段」と、本願発明1の「前記受付部によって受け付けられた決済要求に対応する売買取引の支払い可否を判定する判定部」は、「前記受付部によって受け付けられた要求に対応する売買取引の支払い可否を判定する判定部」の点で共通する。

・引用発明の「注文不成立の場合に、前記注文の情報を予約データとして記憶する予約データ記憶手段」は、本願発明1の「前記判定部によって前記売買取引の支払いが不可であると判定された場合に、前記売買取引を未払い取引として登録する登録部」に相当する。

・引用発明の「前記登録会員それぞれの予め登録された1つまたは複数の金融機関口座から前記特定口座へ入金する入金手段」、及び、「前記特定口座へ入金された資金を、前記金融機関口座のコードにより識別される補助口座へ振り替える入金振替手段」は、本願発明1の「前記売買取引の買い手の口座への入金を受け付ける入金部」に相当する。

・引用発明の「注文成立と同時に、前記注文金額を購入者である登録会員の補助口座から販売者である登録会員の補助口座へ振り替える指示を特定口座に出し、商品代金振替手段により補助口座間で商品代金の振替を行わせて、商品代金を決済する注文金額振替指示手段」は、本願発明1の「前記買い手の口座の残高から売買取引の支払額を引き落とす決済部」に相当する。

・引用発明の「補助口座への入金により受注決定となった場合、受注データ通知手段により販売者である登録会員に通知し、同時に、前記商品代金振替手段及び前記注文金額振替指示手段を利用して、商品代金の決済を行う」と、本願発明1の「前記決済部は、前記受付部によって前記買い手によって選択された未払い取引の支払いの決済要求が受け付けられた場合に、前記入金部によって入金された口座の残高から、当該買い手によって選択された未払い取引の支払額を引き落とし」は、「前記決済部は、前記入金部によって入金された口座の残高から、未払い取引の支払額を引き落とす」の点で共通する。

・引用発明の「注文・支払同時決済システム」は、予約データを管理しているといえるから、本願発明1の「情報管理装置」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点があるといえる。

<一致点>
「売買取引の要求を受け付ける受付部と、
前記受付部によって受け付けられた要求に対応する売買取引の支払い可否を判定する判定部と、
前記判定部によって前記売買取引の支払いが不可であると判定された場合に、前記売買取引を未払い取引として登録する登録部と、
前記売買取引の買い手の口座への入金を受け付ける入金部と、
前記買い手の口座の残高から売買取引の支払額を引き落とす決済部と、を備え、
前記決済部は、
前記入金部によって入金された口座の残高から、未払い取引の支払額を引き落とす、
情報管理装置。」

また、本願発明1と引用発明との間には、次の相違点があるといえる。

<相違点1>
受付部によって受け付けられる要求が、本願発明1では「売買取引の支払いの決済要求」であるのに対し、引用発明では「商品の注文」である点。

<相違点2>
本願発明1は、「前記登録部によって前記未払い取引として登録される売買取引の前記決済要求を未払いの状態で前記売買取引の注文手続きを完了させるための通知を前記売買取引の売り手に通知する通知部」を備えるのに対し、引用発明は、当該通知部を備えていない点。

<相違点3>
受付部が、本願発明1では、「前記登録部によって登録された未払い取引のうち、前記買い手によって選択された未払い取引の支払いの決済要求を受け付け」るのに対し、引用発明では、当該決済要求を受け付けるものではない点。

<相違点4>
決済部が、本願発明1では、「前記受付部によって前記買い手によって選択された未払い取引の支払いの決済要求が受け付けられた場合に」、「当該買い手によって選択された」未払い取引の支払額を引き落とすのに対し、引用発明では、「残高不足の情報により該登録会員がその補助口座に入金した場合に」、未払い取引の支払額を引き落とす点。

<相違点5>
本願発明1は、「前記通知部は、前記決済部によって前記買い手によって選択された未払い取引の支払額が引き落とされた場合に、前記決済要求の決済が完了した旨を通知する」のに対し、引用発明の受注データ通知手段は、「注文成立の場合に、受注データを販売者の端末機器に通知する」ものであって、決済が完了した旨を通知するものではなく、引用発明は、本願発明1の上記通知部を備えていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点3について先に検討すると、相違点3に係る本願発明1の「前記登録部によって登録された未払い取引のうち、前記買い手によって選択された未払い取引の支払いの決済要求を受け付け」という構成は、上記引用文献1?6には記載されておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、本願発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、当業者であっても引用文献1?6に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2?15について
本願発明2?13も、本願発明1の「前記登録部によって登録された未払い取引のうち、前記買い手によって選択された未払い取引の支払いの決済要求を受け付け」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用文献1?6に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
本願発明14は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の「前記登録部によって登録された未払い取引のうち、前記買い手によって選択された未払い取引の支払いの決済要求を受け付け」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用文献1?6に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
本願発明15は、本願発明1に対応するプログラムの発明であり、本願発明1の「前記登録部によって登録された未払い取引のうち、前記買い手によって選択された未払い取引の支払いの決済要求を受け付け」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用文献1?6に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1?15は「前記登録部によって登録された未払い取引のうち、前記買い手によって選択された未払い取引の支払いの決済要求を受け付け」という事項、または、当該事項に対応する構成を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?6に記載された発明に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-07-10 
出願番号 特願2014-75818(P2014-75818)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山下 剛史山本 雅士谷川 智秀  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 相崎 裕恒
金子 幸一
発明の名称 情報管理装置、決済方法及び決済プログラム  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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