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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01Q
管理番号 1329920
審判番号 不服2016-16460  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-04 
確定日 2017-07-25 
事件の表示 特願2012-103564「車載用アンテナ、及び車載用アンテナ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月14日出願公開、特開2013-232772、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成24年4月27日の出願であって、平成28年1月21日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年4月8日付けで手続補正がされ、平成28年8月8日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成28年11月4日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成28年8月8日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-8に係る発明は、以下の引用文献1-7に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧

1.米国特許出願公開第2003/0210206号明細書
2.特開2010-232820号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
3.特開2010-130100号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
4.米国特許出願公開第2009/0295646号明細書(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
5.特開2006-151373号公報
6.特開2009-267992号公報
7.特開2010-074656号公報


第3 審判請求時の補正について

審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

審判請求時の補正によって請求項1に「前記グランド部の長手方向の長さが、前記第1素子の前記垂直方向の長さよりも長い」という事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に該当する。

また、当初明細書の段落【0047】(下線は当審が付与。)に、

「【0047】
また、アンテナ装置4は、第1素子45及び第2素子46を有する構成であるため、信号受信用のアンテナ線(第1素子45)の長さを、放送波の波長の約1/4の長さよりも短くした場合においても、第2素子46との容量結合を利用することで、低周波数帯域の受信感度を低下させることなく放送波を受信することが可能になる。また、グランド部42の長手方向に対して略垂直方向に延在するアンテナ線の長さを短くすることができるため、運転者の視界を遮ることもなく見栄えも向上させることができる。」

と記載されている事項であるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
さらに、特許法第17条の2第4項に規定する要件要件を満たす。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-4に係る発明は、独立特許要件を満たすものであるから、特許法第17条の2第6項に規定する要件を満たす。


第4 本願発明

本願請求項1-8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)は、平成28年11月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
車両に設置される車載用アンテナであって、
略長方形状に延在するグランド部と、
前記グランド部の延在方向の一方の端部近傍に設けられたグランド側給電点と、
前記グランド側給電点の近傍に設けられたホット側給電点と、
前記ホット側給電点から前記グランド部の長手方向に対して垂直方向に延在する第1素子と、
前記グランド側給電点から前記グランド部の長手方向に対して垂直方向に延在する第2素子と、を備え、
前記第2素子は、前記グランド側給電点とは反対側の端部が前記第1素子側に折り返されており、
前記グランド部の長手方向の長さが、前記第1素子の前記垂直方向の長さよりも長い、
ことを特徴とする車載用アンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載の車載用アンテナにおいて、
前記第2素子の折り返されている部分は、前記端部がグランド部に対向するように延在していることを特徴とする車載用アンテナ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車載用アンテナにおいて、
前記第2素子の折り返されている部分は、前記第1素子と、第2素子のグランド側給電点から延在している部分との間に配置されていることを特徴とする車載用アンテナ。
【請求項4】
請求項3に記載の車載用アンテナにおいて、
前記第1素子と、第2素子の折り返されている部分と、第2素子のグランド側給電点から延在している部分とが等間隔で配置されていることを特徴とする車載用アンテナ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車載用アンテナにおいて、
前記第2素子の長さは、前記第1素子の長さよりも長いことを特徴とする車載用アンテナ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の車載用アンテナにおいて、
前記第1素子及び第2素子における前記グランド部側の所定領域が黒色に着色されていることを特徴とする車載用アンテナ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の車載用アンテナにおいて、
前記グランド部の端部に、車両に設置する際の位置決め部材がさらに備えられていることを特徴とする車載用アンテナ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の車載用アンテナと、
前記車載用アンテナで受信した放送波から所望の周波数の放送波を抽出して出力するピックアップ部と、
を備えていることを特徴とする車載用アンテナ装置。」


第5 引用文献、引用発明等

1.引用文献1について

原査定の拒絶の理由に引用された米国特許出願公開第2003/0210206号明細書(以下「引用文献1」という。下線は当審が付与。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「BACKGROUND OF THE INVENTION
[0002] As the technology for cellular telephones advances, more operating modes and operating frequency bands are becoming available. Making a cellular telephone operable for all of these modes and at all of these frequencies places great demands on the performance of cellular telephone antenna system. In particular, multi-mode and multi-band cellular systems are demanding greater operation bandwidths for antenna systems. Short helical antennas and other small antennas have too narrow of a band of operation to cover the spectrum required of multi-band telephones, particularly when the antenna is coupled with conductive surfaces or planes in proximity to the antenna.」
(当審訳:
背景技術
[0002] 携帯電話の技術が進歩するにつれ、より多くの動作モードや動作周波数が利用可能になってきている。これら全てのモードや全ての周波数において携帯電話を動作可能とすることは、携帯電話アンテナシステムの性能に対する大きな要求を課す。特に、マルチモード及びマルチバンド携帯電話システムは、アンテナシステムのより大きな動作帯域幅を要求している。特に、アンテナが近接した導電性表面や表面と結合されている場合、マルチバンド電話の必要帯域に対して、短い螺旋アンテナや他の小型アンテナは、スペクトル動作帯域が狭すぎる。)

「[0023] FIG.1 is a representation of a first, preferred embodiment of an antenna apparatus with a capacitively coupled parasitic element. In practice, the antenna structure is supported and encapsulated in nonconductive materials, as is known in the art. For example, dielectrics and plastics are commonly used to accomplish this purpose. These are not shown to simplify the figures. The antenna structure includes an antenna element 10 and a parasitic element 12 located in proximity to the antenna element. Both structures are mounted on top of a vertical ground plane 14, which comprises one or more of a printed circuit board with a metalized ground plane, a conductive housing of the communication device utilizing the antenna apparatus, or other conductive element of the communication device. The conductive portions and the antenna structures are coupled to the communication device through conventional means, as is known in the art.」
(当審訳:
[0023] 図1は容量結合された無給電素子を有するアンテナ装置の第1の好ましい実施形態を示す図である。実際には、アンテナ構造は、当技術分野で知られているように、非導電材料に支持され、包まれる。例えば、誘電体とプラスチックが、この目的を達成するために一般に使用される。これらは図面を簡略化するために示されていない。アンテナ構造はアンテナ素子10とアンテナ素子に近接して配置された無給電素子12とを含む。両方の構造体は、金属化された接地平面を有するプリント回路基板、アンテナ装置を利用する通信装置の導電性ハウジング、または通信装置の他の導電性素子の一つ又は複数を含む垂直接地面14の上に取り付けられる。導電性部分及びアンテナ構造は、当技術分野で知られているように、従来の手段を介して通信デバイスに結合される。)

「[0040] Alternative embodiments of the inductively coupled tunable antenna apparatus can be generated by changing the positioning, size, and/or type of the magnetic loop element or the type of antenna used. One specific alternative embodiment is shown in FIG.9. In this embodiment, the parasitic element 12 is mounted completely outside of, and perpendicular to, the circumference of a helical antenna. Additional alternative geometries of the inductively coupled family of embodiments can be created by placing the magnetic loop parasitic element completely inside of the helical antenna element or by placing the driven antenna element inside the magnetic loop element.」
(当審訳:
[0040] 誘導結合調整可能アンテナの代替的な実施形態は、磁気ループ要素の位置、大きさ及び/又はタイプ、又は使用されるアンテナのタイプを変更することで生成することができる。1つの具体的な代替実施形態を図9に示す。この実施形態では、無給電素子12が螺旋アンテナの周囲の完全な外側に取り付けられている。磁気ループ無給電素子を螺旋アンテナ素子の内部に完全に配置することによって、または無給電アンテナ素子を磁気ループ素子の内側に配置することによって、誘導結合された一連の実施形態のさらなる代替的な形状を作成することができる。)

したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「携帯電話用のアンテナであって、
垂直接地面14と、
垂直接地面14の端部近傍に設けられた接地部と、
垂直接地面14の垂直方向に延在する螺旋アンテナ素子10と、
接地部から垂直方向に延在する無給電素子12と、
を備え、
無給電素子12は前記接地部とは反対側の端部が前記螺旋アンテナ素子10側に折り返されている、
アンテナ。」


第6 対比・判断

1.本願発明1について

(1)対比

本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「垂直接地面10」は、本願発明1における「グランド部」に、
引用発明における「接地部」は、本願発明1における「グランド側給電点」に、
引用発明における「無給電素子12」は、本願発明1における「第2素子」に、
それぞれ相当する。

引用発明における「螺旋アンテナ素子10」と、本願発明1における「第1素子」とは、「第1アンテナ」で共通する。


したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「アンテナであって、
グランド部と、
前記グランド部の延在方向の一方の端部近傍に設けられたグランド側給電点と、
前記グランド部の長手方向に対して垂直方向に延在する第1アンテナと、
前記グランド側給電点から前記グランド部の長手方向に対して垂直方向に延在する第2素子と、を備え、
前記第2素子は、前記グランド側給電点とは反対側の端部が前記第1アンテナ側に折り返されている、
ことを特徴とするアンテナ。」

(相違点1)

一致点の「アンテナ」の用途が、本願発明1では「車両に設置される車載用」であるのに対し、引用発明では「携帯電話用」である点。

(相違点2)

一致点の「第1アンテナ」について、本願発明1は「第1素子」であるのに対し、引用発明は「螺旋アンテナ素子」である点。

(相違点3)

本願発明1は「グランド側給電点の近傍に設けられたホット側給電点」を備えるのに対し、引用発明は「螺旋アンテナ素子」の給電について明記されていない点。

(相違点4)

本願発明1は「グランド部の長手方向の長さが、前記第1素子の前記垂直方向の長さよりも長い」のに対し、引用発明は、垂直接地面の長手方向の長さについて記載が無い点。

(相違点5)

本願発明1の「グランド部」は、「略長方形状に延在」するのに対し、引用発明の「垂直接地面」はどの様な形状であるか記載が無い点。

(2)相違点についての判断

事案に鑑み、相違点1について検討する。

本願発明1の「車両に設置される車載用アンテナ」は、本願明細書の段落【0021】-【0023】や図2等の記載によれば、ガラス面に貼付して用いるためのアンテナであるから、平面(2次元)構造のアンテナであることを前提としていると解される。
また、本願発明1の「車載用アンテナ」をみても、「グランド部」が「略長方形状」であって「第1素子」と「第2素子」が「グランド部の長手方向に対して垂直方向に延在」しているから、本願発明1の「車載用アンテナ」は、全体として「平面(2次元)構造」のアンテナであることは明らかである。

他方、引用発明の「螺旋アンテナ素子」は、引用文献1のFig.9から読み取れるように、立体(3次元)構造を有するアンテナであるから、引用発明のアンテナは、全体として「3次元構造」のアンテナであり、引用文献1には「螺旋アンテナ」を平面(2次元)構造のアンテナに置き換えることは記載も示唆もされておらず、当業者に自明な事項でもない。

そうすると、引用発明の「アンテナ」を本願発明1の「車両に設置される車載用アンテナ」の用途に転用することはできないから、引用発明の「アンテナ」に基づいて本願発明1の「アンテナ」を構成することはできない。

したがって、他の相違点や他の引用文献の記載について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


2.本願発明2-8について

本願発明2-8も、少なくとも本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、拒絶査定において引用された引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-07-10 
出願番号 特願2012-103564(P2012-103564)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩井 一央米倉 秀明西村 純  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 吉田 隆之
中野 浩昌
発明の名称 車載用アンテナ、及び車載用アンテナ装置  

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