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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61L
管理番号 1330006
審判番号 不服2015-3145  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-19 
確定日 2017-07-05 
事件の表示 特願2012-199051「ドレッシング材」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月11日出願公開、特開2013- 63267〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年9月11日(パリ条約による優先権主張2011年9月15日、米国)の出願であって、平成26年10月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年2月19日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。その後、当審からの平成28年3月18日付け拒絶理由通知に対し、同年6月23日付けで意見書及び手続補正書が提出され、更に、当審からの同年7月14日付け拒絶理由通知に対し、同年12月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年12月20日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「ヒドロゲルと、該ヒドロゲル上に配置するメルトブロー不織布と、該メルトブロー不織布及び該ヒドロゲルの間に形成されている中間層であり、該メルトブロー不織布及び該ヒドロゲルが紫外線に照射されていることからなり且つ該メルトブロー不織布及び該ヒドロゲルの間に接合する相互貫入高分子網目とを含む一つの内層と、
ポリウレタンフィルムと、該ポリウレタンフィルムの下に配置する感圧接着剤とを含む一つの外層と、を包括するドレッシング材であって、
外側へ露出する該メルトブロー不織布の一部と該外層の該感圧接着剤とが安定的に接合し、該外層の面積は該内層の面積より大きく、該内層と該外層とは、同じ一端縁において揃っている形状となることを特徴とするドレッシング材。」

第3 当審からの平成28年7月14日付け拒絶理由の概要
当審において平成28年7月14日付けで通知した拒絶の理由(以下、単に「拒絶理由」という。)の概要は、以下のとおりである。

理由1.本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記1の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由2.本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記2の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

1 拒絶理由1(特許法第36条第6項第2号:明確性)について
(1) <省略>

(2)「貫網目重合体」について
平成28年6月23日付け意見書(以下、単に「意見書」という)の、 「請求項1に記載の「貫網目重合体」は、当初提出した外国語明細書から分かるとおり、「Interpenetrating Polymer Networks(IPNs)」、即ち、IPN重合体を指しています。」との主張のとおりであれば、「Interpenetrating Polymer Networks(IPNs)」に対応する日本語の技術用語としては、通常、「相互侵入高分子網目」(或いは「相互貫入高分子網目」)が用いられているので、「貫網目重合体」との表記を当てることは不適切であり、請求項1に係る発明を不明確とするものである。
しかしながら、「貫網目重合体」がIPNsであると解すると、下記(3)及び2(1ア)、(1イ)の疑問点がある点に留意されたい。

(3)請求項1の「該メルトブロー不織布及び該ヒドロゲルの間に形成する中間層であり、該メルトブロー不織布及び該ヒドロゲルに紫外線を照射することからなり且つ該メルトブロー不織布及び該ヒドロゲルの間に接合する貫網目重合体」との記載を文言どおり解釈すると、(既に形成されている)メルトブロー不織布及びヒドロゲルに対して紫外線を照射することにより、「貫網目重合体」が形成されるものであるように解釈される。しかしながら、そのような文言どおりの方法では、分子スケールで相互に侵入し合った網目構造を形成することはできないので、文言どおりの方法で形成されるものはIPNsであるか何ら明確でない。
或いは、そのように解釈されうる請求項1の上記記載自体が適切ではないともいえる。
下記2(1ア)も参照のこと。

2 拒絶理由2(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件)について
(1)請求項1に係る「ドレッシング材」の発明を実施するにあたり、当該「ドレッシング材」を実際に製造することができなければ、本願明細書の記載は、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないところ、本願明細書にはドレッシング材を製造する全ての工程が明確かつ具体的に記載されていない。
すなわち、
(1ア)本願明細書の【0015】の「該メルトブロー不織布(30)及び該ヒドロゲル(40)は、紫外線に照射されることによって接合し該貫網目重合体(50)となり、」との記載は、上記1(3)で指摘したのと同様に、IPNsが形成されるとはいえないか、あるいは、記載自体が不適切である。

(1イ)仮に、意見書の【図1】の説明のとおりであるとしても、既に形成されているメルトブロー不織布(繊維すなわち重合体の固体成型体となっているもの)にヒドロゲルを形成する以前の混合物(意見書で「単体」と記載されているが、これはヒドロゲル形成用の「モノマー」のことか?)を浸透させても、上記成型体を構成する重合体それ自体に対して、分子スケールで請求人がいう「単体」、或いはモノマーが侵入することは不可能であるから、この状態のものに紫外線を照射しても、分子スケールで相互に侵入し合った網目構造を形成することはできない。したがって、意見書の【図1】に示されるStep I?IIIでIPNsを形成することは不可能である。
そもそも、メルトブロー不織布が網目を有していても、メルトブロー不織布を構成する重合体それ自体が網目構造を有することは何ら明らかでない。この点からみても、「分子スケール」で相互に侵入し合った網目構造を請求項1に係る本願発明がとりうるかは何ら明らかでない。
そうすると、意見書の【図1】に示されるStep I?IIIで形成されるものを、IPNsであるとすることは適切ではない。
意見書の【図1】に示されるStep I?IIIでIPNsが形成されると主張する場合には、実際に分子スケールで相互に侵入し合った網目構造となっていることを確認できる根拠を示されたい。

(1ウ)?(1オ)及び(2) <省略>

第4 当審の判断
1 請求人の対応について
平成28年12月20日付けの手続補正により、補正前の請求項1の「貫網目重合体」が「相互貫入高分子網目」と補正された。
そして、同日提出の意見書における「拒絶理由1に係る(2)「貫網目重合体」について、「Interpenertrating Polymer Networks(IPNs)」を「貫網目重合体」と表記することは不適切という指摘を受け、同日付で提出した補正書により、IPNsに対応する「相互貫入高分子網目」に補正しました。」との記載によれば、請求人は、請求項1の「相互貫入高分子網目」はあくまでも「IPNs」であると主張しているものと解される。
しかしながら、拒絶理由の「「貫網目重合体」がIPNsであると解すると、下記(3)及び2(1ア)、(1イ)の疑問点がある点に留意されたい。」との指摘については、意見書で何ら応答していない。

2 拒絶理由1について
(1)そもそも、「相互侵入高分子網目(IPN)」(本願でいう「相互貫入高分子網目」)とは、「2つ以上の高分子が化学的結合によって架橋網目を持つことなく独立に存在する状態で互いに絡み合った物質」であり、「このとき2つの高分子網目間で化学的結合は持た(ない)」ものである(必要であれば、下記文献a(特に、601頁右欄)、文献b(特に、144頁左欄)。そして、IPNの製法は、例えば、一方の高分子として既に網目を構成するポリマーAを出発原料とする際は、「ポリマーAの高分子網目をモノマーBとその架橋剤で膨潤させた状態でBの重合を行う」(下記文献a 601頁右欄)(注:下線は当審で付した。)という、逐次生成法による。すなわち、「相互侵入高分子網目」、「相互貫入高分子網目」は、高分子の集合体である繊維から構成された不織物、織物、編物といった成型体の網目ではなく、高分子の分子レベルの網目に他の高分子が侵入して構成されるものである。

文献a:三田達、「高分子大辞典」、丸善、平成6年9月20日、p.601-605(特に、p.601右欄)
文献b:富樫幸子 他1名、「相互侵入高分子網目の特徴」、生活工学研究、2006年、第8巻、第1号、p.144-147

(2)そこで、本願発明の「相互貫入高分子網目」が、技術用語としての「IPN」といえるものであるか否か検討する。
ア 本願明細書には「相互貫入高分子網目」(貫網目重合体)に関して、以下の記載がある。
(ア)「【実施例2】
【0015】
ヒドロゲルの構造
図3に示されているように、該ヒドロゲルの構造は、ポリウレタンフィルム層(10)と、感圧接着層(20)と、メルトブロー不織布(30)と、ヒドロゲル(40)と、から組成されている貫網目重合体(50)を含んでいる。そのうち、該感圧接着層(20)は該ポリウレタンフィルム層(10)に塗布され、該メルトブロー不織布(30)及び該ヒドロゲル(40)は、紫外線に照射されることによって接合し該貫網目重合体(50)となり、且つ外側へ露出する該メルトブロー不織布(30)の一部と該外層の該感圧接着層(20)とが安定的に接合し、該ヒドロゲルの構造を構成している。」

(イ)「【実施例3】
【0016】
ヒドロゲルの配合
ヒドロゲルは、以下のような、
(a)(1)光重合開始剤及びアクリル酸アミドモノマーを溶解するまで混合し、(2)(1)にグリセロールを添加し溶解するまで混合し、(3)(2)にアクリルスルホン酸モノマーを添加し溶解するまで混合し、(4)グリセロールを添加し混合してなる一混合物を提供する工程と、
(b)(1)光重合開始剤と不飽和二重官能基エステルモノマーを混合するもうひとつの混合物をさらに提供する工程と、
(c)(a)工程と(b)工程との混合物を混合する工程と、
(d)(c)工程の混合物に紫外線を照射することで重合させてクロスリンクし、ヒドロゲルを形成する工程と、で作成される。
上記素材の重量比は次のとおり、
該アクリル酸アミドモノマーは、15から30ユニット、
該アクリルスルホン酸モノマーは、10から50ユニット、
該グリセロールは、15から45ユニット、
該光重合開始剤は、0.01から0.1ユニット、
該不飽和二官能基エステルモノマーは、0.01から0.2ユニット、である。」

イ 本願明細書において「貫網目重合体」ができる過程(「貫網目重合体」の製造方法)について記載されている唯一の箇所である上記ア(ア)の「該メルトブロー不織布(30)及び該ヒドロゲル(40)は、紫外線に照射されることによって接合し該貫網目重合体(50)となり」との記載からは、既に形成されているメルトブロー不織布(30)の一部とヒドロゲル(40)の一部とが紫外線照射によって「貫網目重合体」になるかのように解されるが、平成28年6月23日提出の意見書の「本願明細書に係る段落【0015】、【0016】等で述べている紫外線の照射は、同一の工程です」との記載を参酌しつつ、【0015】及び【0016】の記載を見ると、メルトブロー不織布に含浸された、ヒドロゲル形成前のアクリル酸アミドモノマー、アクリルスルホン酸モノマー、及び不飽和二官能基エステルモノマーの混合物が、紫外線照射により架橋重合してヒドロゲルとなり、メルトブロー不織布を構成する繊維と繊維の間にヒドロゲルが入り込んだ状態となっているようなものを本願明細書では「貫網目重合体」と称していると見受けられる。

ウ しかしながら、成型体であるメルトブロー不織布に、上記イのようにヒドロゲル形成前のアクリル酸アミドモノマー、アクリルスルホン酸モノマー、及び不飽和二官能基エステルモノマーの混合物(以下、「混合物A」という。)を含浸する程度のことで、混合物Aによってメルトブロー不織布が膨潤し、その膨潤したメルトブロー不織布を構成する高分子の分子レベルの網目内へ混合物Aが侵入していること、そして、メルトブロー不織布を構成する高分子の分子レベルの網目と混合物Aから形成されるヒドロゲルを構成する高分子の分子レベルの網目が相互に絡み合った状態となっていることが、本願明細書の如何なる記載からも確認できない。また、混合物Aがメルトブロー不織布の単繊維内へ浸透して、メルトブロー不織布を構成する高分子の分子レベルの網目内に混合物Aが侵入するまでメルトブロー不織布を構成する高分子が分子レベルで膨潤するとは、技術的にみて想定できない。このため、例えば、成型体であるメルトブロー不織布を出発点として混合物Aを含浸させて紫外線照射しメルトブロー不織布の繊維の間に入り込んだ状態のヒドロゲルを形成するような態様で実施したところで、メルトブロー不織布を構成する高分子の分子レベルの網目と混合物Aから形成されるヒドロゲルを構成する高分子の分子レベルの網目が相互に絡み合った状態、すなわち相互貫入高分子網目が構成されるとはいえない。

エ そうすると、本願明細書に記載される「貫網目重合体」は、技術用語としての「相互侵入高分子網目(IPN)」(相互貫入高分子網目)とはいえないので、本願発明の「相互貫入高分子網目」は、本願明細書の記載からみても技術用語としての「IPN」といえないものである。

(3)したがって、本願発明の「相互貫入高分子網目」の技術的意味が理解できず、請求項1の記載は、特許を受けようとする発明を不明確とするものであり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3 拒絶理由2について
上記2で検討したとおり、本願明細書の如何なる記載を参酌しても、例えば、成型体であるメルトブロー不織布を出発点として混合物Aを含浸させて紫外線照射しメルトブロー不織布の繊維の間に入り込んだ状態のヒドロゲルを形成するような態様で実施したところで相互貫入高分子網目が構成されるとはいえず、本願明細書の記載は、当業者が請求項1に係るドレッシング材を製造して実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第2号及び同法同条第4項第1号の規定する要件を満たしていないので、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-31 
結審通知日 2017-02-07 
審決日 2017-02-20 
出願番号 特願2012-199051(P2012-199051)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61L)
P 1 8・ 536- WZ (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 倫子杉江 渉  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 齊藤 光子
小川 慶子
発明の名称 ドレッシング材  
代理人 新保 斉  

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