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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A61K
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1330054
異議申立番号 異議2016-700749  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-16 
確定日 2017-05-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5866278号発明「ケラチン繊維のための化粧用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5866278号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第5866278号の請求項1、3ないし13に係る特許を維持する。 特許第5866278号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5866278号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成21年8月25日を国際出願日として出願され、平成28年1月8日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成28年8月16日に特許異議申立人 松田 亘弘(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年11月11日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年2月14日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して異議申立人から平成29年3月24日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による請求項1?13に係る訂正は、以下の訂正事項1?4のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載の「(c)少なくとも1つのポリオール」を「(c)少なくとも1つのポリオール((b)非イオン界面活性剤とは異なる)」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に記載の「前記(a)リン酸系界面活性剤が酸化エチレン及び酸化プロピレンから選択される1から50モルの酸化アルキレンを付加した12から20個の炭素原子を含有するアルコキシル化脂肪アルコールのリン酸モノエステルを含む」を「前記(a)リン酸系界面活性剤が酸化エチレン及び酸化プロピレンから選択される1から50モルの酸化アルキレンを付加した12から20個の炭素原子を含有するアルコキシル化脂肪アルコールのリン酸モノエステル、及び、12から22個の炭素原子を含有する非アルコキシル化アルコールのリン酸ジアルキルを含む」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3?5、7、8、10?13中の請求項の引用を下記のとおり訂正する。

ア 請求項3
「請求項2」を「請求項1」に訂正する。
イ 請求項4
「請求項1から3のいずれか一項」を「請求項1又は3」に訂正する。
ウ 請求項5
「請求項1から4」を「請求項1、3及び4」に訂正する。
エ 請求項7
「請求項1から6」を「請求項1及び3から6」に訂正する。
オ 請求項8
「請求項1から7」を「請求項1及び3から7」に訂正する。
カ 請求項10
「請求項1から9」を「請求項1及び3から9」に訂正する。
キ 請求項11
「請求項1から10」を「請求項1及び3から10」に訂正する。
ク 請求項12
「請求項1から11」を「請求項1及び3から11」に訂正する。
ケ 請求項13
「請求項1から7及び11」を「請求項1、3から7及び11」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の「(c)ポリオール」が同じく訂正前の請求項1に記載の「(b)非イオン界面活性剤」とは異なることを明確化するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2に基づいて、訂正前の請求項1に記載の「(a)リン酸系界面活性剤」について、「酸化エチレン及び酸化プロピレンから選択される1から50モルの酸化アルキレンを付加した12から20個の炭素原子を含有するアルコキシル化脂肪アルコールのリン酸モノエステル」を含むものから、さらに「12から22個の炭素原子を含有する非アルコキシル化アルコールのリン酸ジアルキル」をも含むものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4のア?ケは、いずれも、訂正事項3で削除された請求項2を引用しないものに訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?13〕についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
上記第2で述べたように、本件訂正請求は認められるので、本件の請求項1?13に係る発明(以下、「本件訂正発明1」などともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(a)少なくとも1つのリン酸系界面活性剤、
(b)少なくとも1つの非イオン界面活性剤、
(c)少なくとも1つのポリオール((b)非イオン界面活性剤とは異なる)、
(d)少なくとも1つの炭化水素油、及び
(e)少なくとも1つのアンモニア又はアルカノールアミン
を含む、ケラチン繊維のための化粧用組成物であって、
前記(d)炭化水素油の量が組成物の全重量を基準として4重量%以上であり、
前記(a)リン酸系界面活性剤が
酸化エチレン及び酸化プロピレンから選択される1から50モルの酸化アルキレンを付加した12から20個の炭素原子を含有するアルコキシル化脂肪アルコールのリン酸モノエステル、及び、
12から22個の炭素原子を含有する非アルコキシル化アルコールのリン酸ジアルキル
を含む、化粧用組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
リン酸系界面活性剤が、セテス-10 リン酸とリン酸ジセチルとの組合せ、セテス-20 リン酸とリン酸ジセチルとの組合せ、及び、オレス-5 リン酸とリン酸ジオレイルとの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
非イオン界面活性剤が、1から50モルの酸化エチレンを付加した12から22個の炭素原子を含有するポリオキシアルキレン化脂肪アルコール、1から50モルの酸化プロピレンを付加した12から22個の炭素原子を含有するポリオキシアルキレン化脂肪アルコール、並びに、それらの混合物からなる群から選択される、請求項1又は3に記載の組成物。
【請求項5】
ポリオールが、糖、糖アルコール及びトリオールからなる群から選択される、請求項1、3及び4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
炭化水素油が、流動パラフィン、流動ワセリン、ポリデセン、並びに、それらの混合物からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも1つの高級アルコールを更に含む、請求項1及び3から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの酸化染料を更に含む、請求項1及び3から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
酸化染料が、酸化塩基及びカプラーから選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも1つの直接染料を更に含む、請求項1及び3から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも1つの還元剤を更に含む、請求項1及び3から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
ケラチン繊維を着色するための、請求項1及び3から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
ケラチン繊維を再整形するための、請求項1、3から7及び11のいずれか一項に記載の組成物。」

2 取消理由の概要
請求項1?13に係る特許に対して平成28年11月11日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、以下、甲第1号証などを単に「甲1」という。

(1)本件特許の請求項1、4、7、10、12、13に係る発明は、本件特許の出願前外国において頒布された甲1に記載された発明であるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)本件特許の請求項1、4?13に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された甲2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)本件特許は、特許請求の範囲の請求項1?3及び6?13の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、これら請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

3 甲1?7の記載事項
(1)甲1
本出願前である2002(平成14)年12月19日に頒布された刊行物である「米国特許出願公開第2002/0192175号明細書」(甲1。以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されているものと認められる。なお、引用例1は英文で記載された刊行物であるので、異議の決定の便宜上、その記載事項は当審による翻訳文のみを示し、その英文の記載は省略する。また、以降の下線は当審で付したものである。

(1a)「[0024]以下の実施例において、全てのパーセンテージは重量によるものである。」

(1b)「実施例2
[0027]単一包装のヘアリラクシングダイ組成物を下記の組成により調製した。
セテアリルアルコール 8.00%
セチルアルコール 1.62%
セテアレス-20 1.85%
PEG-4 2.50%
ミネラルオイル 23.64%
ペトロラタム 9.86%
オレス-10リン酸DEA 0.35%
脱イオン水 42.00%
プロピレングリコール 2.95%
水酸化リチウム 2.50%
ポリメタクリルアミドプロピルトリモニウムクロライド 1.62%
PEG-75ラノリン 0.98%
ベンジルアルコール 1.00%
ベーシックブルー99
(Arianor(登録商標)Steel Blue) 0.50%
ベーシックレッド76
(Arianor(登録商標)Madder Red) 0.18%
トコフェロール 0.01%
香料 0.40%」

(2)甲2
本出願前である平成20年7月10日に頒布された刊行物である「特開2008-156252号公報」(甲2。以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(2a)「【請求項1】
酸化染料組成物と、該酸化染料組成物と混合して使用されるとともに酸化剤を含有する酸化剤組成物と、を備えた酸化染毛剤において、
前記酸化染料組成物は、
酸化染料、アルカリ剤及び水を含有するとともに下記の各成分を含有することを特徴とする酸化染毛剤。
(A)リン酸エステル系化合物。
(B)非イオン性界面活性剤。
(C)高級脂肪酸。
(D)炭素数12?18の高級アルコール。
(E)脂肪酸エステル、α-オレフィンオリゴマー及び流動パラフィンから選ばれる少なくとも一種の油性成分。」

(2b)「【0002】
・・・そうした垂れ落ちを抑制することのできる粘度の混合物が得られ易いという観点から、クリーム状の酸化染料組成物が好適である。ところが、クリーム状の酸化染料組成物は比較的高粘度であることから、酸化剤組成物との混合物の調製に手間を要したり、得られた混合物の粘度が高まりすぎることで混合物を毛髪に塗布し難くなったりする。このような実情から、最近ではゲル状の酸化染料組成物が注目されている。ゲル状の酸化染料組成物としては、リン酸エステル系化合物、非イオン性両親媒性化合物、高級脂肪酸、及び炭素数12?14の高級アルコールを含有した組成物が知られている(・・・)。
・・・
【0004】
・・・例えば、ボトル内に各組成物を封入した後、ボトルを振とうすることにより、混合物を調製することができる。このとき、ゲル状の酸化染料組成物から調製された混合物は調製用具に付着し易くなるという現象が生じる。こうした現象は、ゲル状の酸化染料組成物に含有される非イオン性化合物等と酸化剤組成物に含有される多量の水とによって強固なゲルが形成され、こうしたゲルが調製用具に対する混合物の付着性を高めてしまう主要因であると推測される。・・・
【0005】
本発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、無駄なく使用することの容易な酸化染毛剤を提供することにある。」

(2c)「【0016】
<第1剤>
第1剤は、(A)リン酸エステル系化合物、(B)非イオン性界面活性剤、(C)高級脂肪酸、及び(D)炭素数12?18の高級アルコールの各成分と、水とによりゲル構造を形成することで、ゲル状の剤型をなしている。
【0017】
(A)リン酸エステル系化合物は、第1剤をゲル状の形態として安定化する成分である。また、(A)成分は毛髪につやを付与するとともに毛髪の感触を良好にする。(A)成分の具体例としては、ラウリルリン酸、セチルリン酸、ポリオキシエチレン(以下、POEと略す)ラウリルエーテルリン酸、POEオレイルエーテルリン酸、POEセチルエーテルリン酸、POEステアリルエーテルリン酸、POEアルキルエーテルリン酸、POEアルキルフェニルエーテルリン酸等のリン酸エステル化合物、及びリン酸エステル化合物の塩が挙げられる。リン酸エステル化合物の塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩等が挙げられる。(A)成分は単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
・・・
【0019】
(B)非イオン性界面活性剤は、第1剤をゲル状の形態に構成するとともに、第1剤をゲル状の形態として安定化する成分である。また(B)成分は、毛髪につやを付与するとともに、毛髪の感触を良好にする。(B)成分の具体例としては、POEアルキルエーテル類、POEアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシプロピレン(以下、POPと略す)アルキルエーテル類、POE・POPアルキルエーテル類、POE・POPグリコール類、POPグリセリルエーテル類、POE脂肪酸類、POEソルビタン脂肪酸エステル類、POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油、POEソルビトールテトラ脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、N-アルキルジメチルアミンオキシド、POEプロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。(B)成分は単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
・・・
【0021】
(C)高級脂肪酸は、第1剤をゲル状の形態として安定化する成分である。・・・
・・・
【0023】
(D)炭素数12?18の高級アルコールは、第1剤をゲル状の形態として安定化する成分である。・・・
・・・
【0025】
(E)脂肪酸エステル、α-オレフィンオリゴマー及び流動パラフィンから選ばれる少なくとも一種の油性成分は、調製用具を用いて第1剤と第2剤とを混合して混合物を調製するに際して、調製用具に対する混合物の付着性を低減する成分である。・・・
・・・
【0027】
第1剤中における(E)成分の含有量は、好ましくは0.3?10質量%、より好ましくは0.5?8質量%、さらに好ましくは0.8?5質量%である。・・・」

(2d)「【0033】
アルカリ剤は、酸化剤の作用を促進するために配合される。アルカリ剤の具体例としては、アンモニア、アルカノールアミン、・・・等が挙げられる。・・・
・・・
【0035】
第1剤中におけるアルカリ剤の含有量は、好ましくは0.1?10質量%、より好ましくは0.2?9.6質量%、さらに好ましくは0.6?9質量%、最も好ましくは0.7?8質量%である。この含有量が0.1質量%未満の場合、十分な均染性が得られないおそれがある。一方、10質量%を超えて配合すると、仕上り後の毛髪において良好な感触を得ることが困難となるおそれがある。」

(2e)「【0069】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1?9、比較例1?4)
表1及び表2に示す各成分を混合することにより、酸化染料組成物としての第1剤を調製した。なお、表1及び表2の配合量を示す数値の単位は、質量%である。
【0070】
各例の第1剤と、表3に示される酸化剤組成物としての第2剤とを混合することにより混合物を調製した。各混合物についてB型粘度計を用いて、ロータNo.3、12rpm、25℃、測定時間1分の条件にて粘度測定を行った。各混合物の粘度を表1及び表2に併記する。」

(2f)「【0080】
【表1】

【0081】
【表2】



(3)甲3
本出願前である平成18年10月30日に頒布された刊行物である「関根茂他編、新化粧品ハンドブック、日光ケミカルズ株式会社他」(甲3。以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。

(3a)「炭化水素は炭素と水素よりなる化合物の総称で,炭素原子の配列により,鎖式炭化水素と環式炭化水素に大別される。化粧品原料としては鎖式炭化水素が多く使用される.炭化水素系の化粧品原料を分類すると,
・・・
〔3〕合成系:ポリエチレン,α-オレフィンオリゴマー,ポリブテン,合成スクワラン ・・・
がある.」(24頁左欄1?20行)

(3b)「表3・1 化粧品に使用される炭化水素」(25頁)の「原料」の項目に「α-オレフィンオリゴマー(α-Olefin oligomer)」が記載されている。

(4)甲4
本出願前である平成17年6月30日に頒布された刊行物である「特開2005-170791号公報」(甲4。以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。

(4a)「【0002】
従来、毛髪脱色剤組成物において、酸化剤の作用促進のために含有させるアルカリ剤として、一般的にはアンモニアを用いることが多いが、その場合、毛髪脱色剤組成物の使用時に刺激臭であるアンモニア臭が発生する。アンモニア臭の低減のため、アンモニアの少なくとも一部をモノエタノールアミン等のアルカノールアミンで代替させ、その分だけアンモニアの使用量を低減させようとする場合もある。
【0003】
一方、染毛剤組成物においても、酸化剤の作用促進や染料の毛髪への浸透促進のためにアルカリ剤を含有させる。そして、用いるアルカリ剤の種類は前記した毛髪脱色剤組成物の場合と同様であるから、やはりアンモニア臭の発生と言う問題があり、その刺激臭の低減や、毛髪に対する明度の付与等のために、アンモニアの代替としてモノエタノールアミン等を用いることがある。」

(4b)「【0044】
〔α-オレフィンオリゴマー〕
α-オレフィンオリゴマーとは、直鎖脂肪族α-オレフィン低重合物(3?7量体)の混合物を水素添加して得られる側鎖を持つ炭化水素である。・・・
・・・
【0046】
・・・
α-オレフィンオリゴマーの配合量は特段に限定されないが、使用時の濃度で0.05?8重量%が好ましく、0.2?5重量%が特に好ましい。その配合量が0.05重量%未満であると、α-オレフィンオリゴマー特有の効果、例えば揮発性アルカリ剤の刺激臭低減、毛髪に対する十分な明度の付与、優れたツヤ感等が十分に達成されない恐れがある。・・・」

(4c)【表6】には、第1剤に流動パラフィンが配合されていない比較例9と、第1剤に流動パラフィンが5.0重量%配合されている比較例11が記載されている。なお、比較例9及び比較例11は、いずれも28%アンモニア水、モノエタノールアミン、非イオン界面活性剤、ポリオールなどが同量配合された染毛剤組成物の第1剤である点で共通している。
【表8】には、比較例9の刺激臭の評価は「×」であること、比較例11の刺激臭の評価は「△」であることが記載されている。
また、【表6】には、第1剤にα-オレフィンオリゴマーが配合されていない比較例16と、第1剤にα-オレフィンオリゴマーが5.0重量%配合されている比較例10が記載されている。なお、比較例16及び比較例10は、いずれも28%アンモニア水、モノエタノールアミン、非イオン界面活性剤、ポリオールなどが同量配合された染毛剤組成物の第1剤である点で共通している。
【表8】には、比較例16の刺激臭の評価は「×」であること、比較例10の刺激臭の評価は「○」であることが記載されている。

(5)甲5
本出願前である平成14年12月18日に頒布された刊行物である「特開2002-363050号公報」(甲5。以下、「引用例5」という。)には、次の事項が記載されている。

(5a)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、この従来の脱色剤組成物及び染毛剤組成物においては、アンモニア臭に基づく脱色剤組成物又は染毛剤組成物の刺激臭を十分に低減することができないという問題があった。また、脱色剤組成物においては、さらに毛髪に十分な明度を付与することができないという問題があった。
【0005】本発明は、上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、刺激臭を低減することができるとともに、毛髪に十分な明度を付与することができる脱色剤組成物及び染毛剤組成物を提供することにある。」

(5b)「【0025】油性成分は、脱色剤組成物の刺激臭を低減するとともに、毛髪の感触を良好にするために配合される。油性成分の具体例としては、・・・流動パラフィン、固形パラフィン、イソパラフィン、スクワラン等の炭化水素類、・・・等が挙げられる。・・・」

(5c)「【0029】・ 第1の実施形態の脱色剤組成物においては、その他の添加成分として高級アルコール及び油性成分を含有して、脱色剤組成物を水中油滴型乳化物として構成することにより、アンモニアが揮発しにくくなるために、脱色剤組成物の刺激臭をより低減することができる。」

(6)甲6
本出願前である平成16年8月25日に頒布された刊行物である「新井泰裕著、最新ヘアカラー技術-特許にみる開発動向、フレグランスジャーナル社」(甲6。以下、「引用例6」という。)には、次の事項が記載されている。

(6a)「4-1 酸化染料を用いたヘアカラー(酸化染毛剤)
・・・
4-1-1.概要
(1)染毛のメカニズム
・・・
(2)設計目標
酸化染毛剤は,上記のようなメカニズムにより染毛するもめなので,第1剤に酸化染料とアルカリ剤を,第2剤に酸化剤を含有することが基本となる。設計目標としては,
1)目標色調を確保すること
2)堅牢性を向上すること
3)アルカリ,酸化剤による毛髪損傷を改善すること
4)アルカリによる皮膚刺激,臭いを改善すること
5)酸化染料の安全性を向上すること
である。」(102頁1行?104頁下から4行)

(7)甲7
本出願前である平成20年12月4日に頒布された刊行物である「特開2008-290971号公報」(甲7。以下、「引用例7」という。)には、次の事項が記載されている。

(7a)「【請求項1】
下記の一般式(1)及び一般式(2)で示されるリン酸エステルと脂肪族アルコールおよびノニオン界面活性剤およびまたはカチオン界面活性剤を含有することを特徴とするヘアダイおよびパーマネント・ウェーブ用剤または縮毛処理に適する組成物。
一般式(1)
【化1】

一般式(2)
【化2】



(7b)「【0002】
従来、ヘアダイ・脱色剤組成物、パーマネントウェーブ用剤及び縮毛矯正剤中にはアルカリ剤が配合されている。アルカリ剤としては主としてアンモニアを使用しているが、アンモニアによる刺激臭の問題から例えば特許文献1や特許文献2ではアンモニアの代わりにアルカノールアミンや無機アルカリを使用してきた。しかし、アルカノールアミン単独では脱色、縮毛矯正等の十分な効果が得られず、その効果を補うためにアンモニアを併用すると刺激臭の低減が十分でないと言う欠点があった。・・・
・・・
【0003】
本発明は上記の問題点について鋭意検討した結果、液晶構造を形成する特定のリン酸エステルとノニオン界面活性剤およびまたはカチオン界面活性剤をきわめて安定に併用できることを見出し、それらを応用したヘアダイおよびパーマネント・ウェーブ用剤または縮毛処理に適する組成物がきわめて有効にアンモニア臭などの刺激臭を低減させることや毛髪が受ける損傷を低減できることを見いだし、本発明を完成した。
・・・
【0005】
本発明はアンモニアおよびアンモニウム塩を使用する毛髪処理用組成物の刺激臭をきわめて有効に低減すると共に毛髪が受ける損傷を低減できるなどの特性を提供する。」

(7c)「【実施例3】
【0020】
表-3で酸化染毛剤第一剤を調整し、第一剤の臭いの評価や毛髪に施術後の染色性、均染性、毛髪の損傷の試験を行った。10人のパネラーによる臭いの評価、毛髪の引っ張り強度および40日での安定性試験を表-4にまとめた。調整した酸化染毛剤は20日後、結晶の析出や分離もなく安定であった。第一剤と第二剤(過酸化水素6%水溶液)を重量比1:1で混合したときに刺激臭がさらに少なくなる事を確認。染色性も向上した。これらの結果から、リン酸エステルとノニオン界面活性剤およびまたはカチオン界面活性剤を安定に配合する事によって刺激臭をさらに低減し、染色性が高く毛髪の損傷が少ない酸化染毛剤が得られた。
【0021】
【表-3】

【0022】
【表-4】



4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 特許法第36条第6項第2号について
(ア)請求項1は、ケラチン繊維のための化粧用組成物が、「(b)少なくとも1つの非イオン界面活性剤」と「(c)少なくとも1つのポリオール」を含むことが特定されているところ、本件特許明細書の記載を参酌すると、本件訂正前の請求項1は、上記(b)と(c)は同じ物質が兼ねてもよいことにもなるため不明確であった。
そして、本件訂正請求により、上記(b)と(c)とは、同じ物質が兼ねないことが明確となり、よって、本件訂正発明1は明確である。

(イ)本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3、6?13も、同様に明確である。
請求項2は削除されたので、取消理由は存在しない。

イ 特許法第29条第1項第3号について
(ア)引用例1に記載の発明
上記(1a)及び(1b)からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認める。

「次の組成(重量%)からなる、ヘアリラクシングダイ組成物。
セテアリルアルコール 8.00
セチルアルコール 1.62
セテアレス-20 1.85
PEG-4 2.50
ミネラルオイル 23.64
ペトロラタム 9.86
オレス-10リン酸DEA 0.35
脱イオン水 42.00
プロピレングリコール 2.95
水酸化リチウム 2.50
ポリメタクリルアミドプロピルトリモニウムクロライド 1.62
PEG-75ラノリン 0.98
ベンジルアルコール 1.00
ベーシックブルー99
(Arianor(登録商標)Steel Blue) 0.50
ベーシックレッド76
(Arianor(登録商標)Madder Red) 0.18
トコフェロール 0.01
香料 0.40」

(イ)本件訂正発明1と引用例1発明との対比
本件訂正発明1は、「(a)少なくとも1つのリン酸系界面活性剤」が「酸化エチレン及び酸化プロピレンから選択される1から50モルの酸化アルキレンを付加した12から20個の炭素原子を含有するアルコキシル化脂肪アルコールのリン酸モノエステル、及び、12から22個の炭素原子を含有する非アルコキシル化アルコールのリン酸ジアルキル」という2種類のリン酸系界面活性剤を含むと特定されている。
それに対し、引用例1発明では、リン酸系界面活性剤に相当する成分として、「オレス-10リン酸DEA」、すなわち、10モルの酸化エチレンを付加した18個の炭素原子を含有するアルコキシル化脂肪アルコールのリン酸モノエステルが配合されている。しかしながら、それ以外にリン酸系界面活性剤は含まれていない。

(ウ)まとめ
したがって、本件訂正発明1は引用例1に記載された発明ではない。
そして、本件訂正発明4、7、10、12、13は、いずれも本件訂正発明1を引用するものであるから、同様に、引用例1に記載された発明ではない。

ウ 特許法第29条第2項について
(ア)引用例2に記載の発明
上記(2e)【0069】及び(2f)【0081】【表2】の実施例7からみて、引用例2には、次の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されていると認める。

「次の組成(質量%)からなる、酸化染料組成物としての第1剤。
(A)POEオレイルエーテルリン酸(3EO) 3.5
(A)POEオレイルエーテルリン酸(10EO) 2.0
(B)POEトリデシルエーテル 5.0
(B)POEアルキル(12?14)エーテル(3EO) 2.0
(B)ポリオキシプロピレングリセリルエーテル 2.0
(B)POEオクチルドデシルエーテル(25EO) 6.0
(C)オレイン酸 2.0
(D)セタノール 3.0
(D)イソステアリルアルコール 3.0
(E)流動パラフィン 2.0
グリセリン 3.0
ヒドロキシエチルセルロース 0.4
ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸三ナトリウム 0.2
モノイソプロパノールアミン 0.5
無水亜硫酸ナトリウム 0.2
パラフェニレンジアミン 1.0
レゾルシン 1.0
香料 微量
強アンモニア水 適量
精製水 残量」

(イ)本件訂正発明1と引用例2発明との対比
a 引用例2発明の「(A)POEオレイルエーテルリン酸(3EO)」は、3モルの酸化エチレンを付加した18個の炭素原子を含有するアルコキシル化脂肪アルコールのリン酸モノエステルであり、「(A)POEオレイルエーテルリン酸(10EO)」は、10モルの酸化エチレンを付加した18個の炭素原子を含有するアルコキシル化脂肪アルコールのリン酸モノエステルである。
よって、引用例2発明の「(A)POEオレイルエーテルリン酸(3EO)」及び「(A)POEオレイルエーテルリン酸(10EO)」は、いずれも本件訂正発明1の「(a)少なくとも1つのリン酸系界面活性剤」であって、「前記(a)リン酸系界面活性剤が酸化エチレン及び酸化プロピレンから選択される1から50モルの酸化アルキレンを付加した12から20個の炭素原子を含有するアルコキシル化脂肪アルコールのリン酸モノエステル」に相当する。

b 引用例2発明の「(B)POEトリデシルエーテル」、「(B)POEアルキル(12?14)エーテル(3EO)」、「(B)ポリオキシプロピレングリセリルエーテル」、「(B)POEオクチルドデシルエーテル(25EO)」は、上記(2c)【0019】からも明らかなとおり非イオン性界面活性剤であるから、いずれも本件訂正発明1の「(b)少なくとも1つの非イオン界面活性剤」に相当する。

c 引用例2発明の「グリセリン」は、本件特許明細書の【0051】からみて、ポリオールであり、上記bの非イオン性界面活性剤とは異なるものであるから、本件訂正発明1の「(c)少なくとも1つのポリオール((b)非イオン界面活性剤とは異なる)」に相当する。

d 引用例2発明の「(E)流動パラフィン」は、本件特許明細書の【0059】からみて、本件訂正発明1の「(d)少なくとも1つの炭化水素油」に相当する。

e 引用例2発明の「強アンモニア水」及び「モノイソプロパノールアミン」は、本件訂正発明1の「(e)少なくとも1つのアンモニア又はアルカノールアミン」に相当する。

f 引用例2発明の「酸化染料組成物としての第1剤」は、毛髪用組成物であることは自明であるから、本件訂正発明1の「ケラチン繊維のための化粧用組成物」に相当する。

(ウ)本件訂正発明1と引用例2発明との相違点
本件訂正発明1は、(a)?(e)の成分を含むものであって、その他のものを含んでもよいものと解することができるから、上記(イ)の対比から、本件訂正発明1と引用例2発明とは、以下の相違点1?2で相違し、その余の点で一致する。

<相違点1>
本件訂正発明1は、「(d)炭化水素油の量が組成物の全重量を基準として4重量%以上」であるのに対し、引用例2発明は、「(E)流動パラフィン 2.0質量%」である点。

<相違点2>
本件訂正発明1は、「(a)少なくとも1つのリン酸系界面活性剤」について、「酸化エチレン及び酸化プロピレンから選択される1から50モルの酸化アルキレンを付加した12から20個の炭素原子を含有するアルコキシル化脂肪アルコールのリン酸モノエステル、及び、12から22個の炭素原子を含有する非アルコキシル化アルコールのリン酸ジアルキルを含む」のに対し、引用例2発明は、「酸化エチレン及び酸化プロピレンから選択される1から50モルの酸化アルキレンを付加した12から20個の炭素原子を含有するアルコキシル化脂肪アルコールのリン酸モノエステル」を含むものの「12から22個の炭素原子を含有する非アルコキシル化アルコールのリン酸ジアルキル」を含まない点。

(エ)相違点1?2についての検討
a 相違点1について
引用例2発明は、酸化染料組成物としての第1剤であって、上記(2a)請求項1の酸化染料組成物の具体例であるところ、引用例2発明の「(E)流動パラフィン」は、請求項1の「(E)脂肪酸エステル、α-オレフィンオリゴマー及び流動パラフィンから選ばれる少なくとも一種の油性成分」である。
そして、これについて上記(2c)【0027】に、「第1剤中における(E)成分の含有量は、好ましくは0.3?10質量%、より好ましくは0.5?8質量%、さらに好ましくは0.8?5質量%である。」と記載されている。
そうしてみると、引用例2発明の「(E)流動パラフィン」の含有量について、「2質量%」とされているものから、引用例2において好ましいとされる0.3?10質量%の範囲としてみることは、当業者が適宜なし得ることであって、本件訂正発明1は、その範囲の中から4重量%以上を単に選択したに過ぎない。しかも、本件特許明細書の記載を参酌しても、4重量%以上とすることによって格別な効果を奏するものともいえない。
よって、相違点1は、引用例2発明から当業者が容易になし得たものである。

b 相違点2について
(a)引用例2発明の「(A)POEオレイルエーテルリン酸(3EO)」及び「(A)POEオレイルエーテルリン酸(10EO)」は、上記(2a)請求項1の酸化染料組成物の「(A)リン酸エステル系化合物」の実施例であるところ、上記(2c)【0017】には、(A)成分の具体例について、「ラウリルリン酸、セチルリン酸、ポリオキシエチレン(以下、POEと略す)ラウリルエーテルリン酸、POEオレイルエーテルリン酸、POEセチルエーテルリン酸、POEステアリルエーテルリン酸、POEアルキルエーテルリン酸、POEアルキルフェニルエーテルリン酸等のリン酸エステル化合物、及びリン酸エステル化合物の塩が挙げられる。・・・(A)成分は単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。」と記載されている。
しかしながら、引用例2には、これ以外に(A)成分の具体例について記載したところはなく、本件訂正発明1の「12から22個の炭素原子を含有する非アルコキシル化アルコールのリン酸ジアルキル」を配合できることについては記載も示唆もない。

(b)ところで、引用例2発明には、「強アンモニア水」が含まれている。
そして、引用例2発明の「酸化染料組成物としての第1剤」のような染毛剤や、毛髪脱色剤などの毛髪用組成物は、一般的にアルカリ剤としてアンモニアが用いられているところ、毛髪用組成物の使用時に不快臭、刺激臭であるアンモニア臭が発生すること、このようなアンモニア臭の低減を求めることは、上記引用例4?7にも記載されているとおり(上記(4a)、(5a)、(6a)、(7b))、本件特許出願前から周知の課題である。
そうすると、「強アンモニア水」を配合した引用例2発明においても、引用例2には記載されていないものの(上記(2d)参照)、当業者であれば、使用時のアンモニア臭についても着目するといえる。

(c)そこで検討するに、上記引用例4には、α-オレフィンオリゴマーを配合することでアンモニア臭が低減されること、また流動パラフィンでも同様な効果がみられることが示されている(上記(4b)、(4c))。
上記引用例5には、流動パラフィンを配合することでアンモニアの刺激臭を低減できることが記載されている(上記(5b)、(5c))。

(d)そうすると、上記周知の課題を考慮すると、引用例2発明には、流動パラフィンが配合されているから、上記引用例4又は5の記載からみて、当業者であれば、引用例2発明では、アンモニア臭の低減は既に達成されていると理解するものといえる。

(e)ところで、上記引用例7には、液晶構造を形成する特定のリン酸エステルとノニオン界面活性剤およびまたはカチオン界面活性剤を併用することで、アンモニア臭などの刺激臭を低減できることが記載されている(上記(7b))。そして、引用例7の特定のリン酸エステルとは、上記(7a)の一般式(1)及び一般式(2)、上記(7c)の実施例3からみて、相違点2に係る本件訂正発明1の2種類のリン酸系界面活性剤に相当するものである。
このように、引用例7には、本件訂正発明1の2種類のリン酸系界面活性剤を含有する組成物が、アンモニア臭を低減できることが記載されているので、これに基づき、引用例2発明において、既に2種類配合されているリン酸系界面活性剤の一方を「12から22個の炭素原子を含有する非アルコキシル化アルコールのリン酸ジアルキル」に代えるか、あるいはこれをさらに加えるかして、アンモニア臭の低減を図ることが、当業者が容易に想到し得たものかについても検討する。
引用例2は、上記(2b)のとおり、リン酸エステル系化合物、非イオン性両親媒性化合物、高級脂肪酸、及び炭素数12?14の高級アルコールを含有したゲル状の酸化染料組成物について、調製用具に付着しやすくなるという課題を解決することを目的としたものに関する。
そして、上記(2c)【0016】?【0017】のとおり、引用例2発明は、「(A)リン酸エステル系化合物、(B)非イオン性界面活性剤、(C)高級脂肪酸、及び(D)炭素数12?18の高級アルコールの各成分と、水とによりゲル構造を形成することで、ゲル状の剤型をなしている」ものであって、「(A)リン酸エステル系化合物は、第1剤をゲル状の形態として安定化する成分」として配合されているものである。
一方、引用例7の2種類のリン酸系界面活性剤は、上記(7b)のとおり、液晶構造を形成することで、アンモニア臭を低減するものであり、上記(7c)の実施例3においても、液晶構造の確認と臭いの評価がなされている。
そうすると、引用例2発明が、アンモニア臭の低減という周知の課題を解決することを目的とするものであるといえるとしても、引用例2発明で達成すべきゲル構造を維持しつつ、引用例7でアンモニア臭の低減に関与するとされる液晶構造をも形成し得るように、リン酸系界面活性剤とそれ以外の成分をも含めた組み合わせ及び配合量を決定することが、当業者に容易であったとまではいうことができない。

(f)以上のことから、引用例2発明において、引用例2及び引用例4?7に記載の周知の事項を組み合わせても、相違点2に係る構成を導き出すことは、当業者が容易になし得たものということはできない。

(オ)まとめ
したがって、本件訂正発明1は、引用例2発明から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件訂正発明4?13は、いずれも本件訂正発明1を引用するものであるから、同様に、引用例2発明から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 異議申立人の意見について
異議申立人は、本件訂正発明1、3、6?13の明確性要件について、甲11(川原油化株式会社のウェブページ、ヘキシレングリコールが、ポリオールかつ非イオン界面活性剤であることを示すもの)を提出しつつ、本件訂正発明1は、「(c)少なくとも1つのポリオール((b)非イオン界面活性剤とは異なる)」とされたものの、特定の物質が、(c)に該当するのか(b)に該当するのか不明確である、特定の物質が、(c)のポリオールに該当するとしても(b)の非イオン界面活性剤であることも知られている場合は、(c)とすることができるのか否か不明であるから、依然として特許法第36条第6項第2号明確性要件に適合しない旨主張する。
しかしながら、本件訂正発明1は、「(c)少なくとも1つのポリオール((b)非イオン界面活性剤とは異なる)」という発明特定事項によって、ケラチン繊維のための化粧用組成物に、少なくとも(a)(2種)、(b)、(c)、(d)及び(e)で定義される6種類の成分を含むものであることが明確なものであって、甲11の内容を考慮しても、明確性要件に違反するということはできない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 上記「4 判断」「(1)取消理由通知に記載した取消理由について」「ウ 特許法第29条第2項について」に関連した申立理由について

(ア)異議申立人は、引用例2発明に加えて、上記(2f)【0080】【表1】の実施例6に基づく、「甲2発明その2」(異議申立書15?16頁)からの進歩性欠如についても主張する。
そこで検討するに、「甲2発明その2」は、引用例2発明との比較において、「(E)流動パラフィン 2質量%」に代えて「(E)α-オレフィンオリゴマー 2質量%」とした以外同一の組成からなる酸化染料組成物としての第1剤に関するものである。
そして、「(E)α-オレフィンオリゴマー」は、上記引用例3、4の記載からみて(上記(3a)、(3b)及び(4b))、本件訂正発明1の「(d)少なくとも1つの炭化水素油」に相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲2発明その2とは、上記「4 判断」「(1)取消理由通知に記載した取消理由について」「ウ 特許法第29条第2項について」で検討した相違点1及び相違点2と同様な相違点を有するところ、甲2発明その2についても、引用例2発明について検討したのと同様に、相違点2については、当業者が容易に想到し得たものということはできない。

(イ)よって、異議申立人の「甲2発明その2」に基づく特許法第29条第2項の規定による申立ては理由がない。

イ 本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、本件特許は取り消すべきものであるとの申立理由について

(ア)異議申立人は、本件訂正発明1の「(c)少なくとも1つのポリオール」について、本件特許明細書【0043】?【0051】には、分子量や化学的性質の異なる様々なものが例示されているのに対し、実施例で具体的に効果が確認されているのは、トリオールとしての「グリセリン」と糖アルコールとしての「ソルビトール」の2例に留まり、この2例のみから、特許請求の範囲の「(c)少なくとも1つのポリオール((b)非イオン界面活性剤とは異なる)」まで拡張ないし一般化させることは本件特許の出願時の技術常識に照らしても困難であり、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているため、本件訂正発明1、3?13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えていると主張する。

(イ)本件特許明細書【0009】の記載によれば、本件訂正発明1、3?13の解決しようとする課題は、「毛髪等のケラチン繊維のための化粧用組成物の美容的性能を良好に維持しながら、アンモニア等のアルカリ性剤を含む化粧用組成物の不快臭を低減すること」と認められる。
そして、本件訂正発明1で(a)?(e)で特定される成分を、(d)についてはその配合量も含めて配合することを満たすことによって、上記課題を解決したものであり、このことは、本件特許明細書の実施例、比較例によって確かめられている。

(ウ)よって、本件訂正発明1、3?13は、「(c)少なくとも1つのポリオール((b)非イオン界面活性剤とは異なる)」が特定の物質であることで課題を解決するものではなく、特定の成分を特定の量で配合することによって課題を解決するものであるから、異議申立人の主張する不備はなく、特許法第36条第6項第1号の規定による申立ては理由がない。

(3)平成29年3月24日付け意見書における主張について
ア 異議申立人は、異議申立の理由として、次の点を趣旨とする主張を新たに追加する。
(ア)本件訂正発明1及び3は、甲2発明と、甲8(特開2004-189680号公報)及び甲9(CRODAパーソナルケア用製品ガイド)などに基づいて、当業者が容易になし得たものである(意見書1?12頁)。
(イ)本件訂正発明1及び3は、甲1発明に基づいて、当業者が容易になし得たものである(意見書12?22頁)。
(ウ)本件訂正発明1及び3は、甲7発明と、甲10(特開2003-40750号公報)などに基づいて、当業者が容易になし得たものである(意見書22?28頁)。

イ しかしながら、本件訂正発明1は、訂正前の請求項2の発明特定事項に基づき訂正前の請求項1を減縮したものであって、本件訂正発明3は、訂正前の請求項2も引用していたものである。
したがって、上記ア(ア)?(ウ)の主張に係る異議申立の理由は、本件訂正請求の内容に付随して生じた理由に基づくものではないから、これらの主張は採用できない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び取消理由通知において採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1、3?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2に係る特許は、本件訂正請求により削除されたため、異議申立人の請求項2に係る特許についての特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つのリン酸系界面活性剤、
(b)少なくとも1つの非イオン界面活性剤、
(c)少なくとも1つのポリオール((b)非イオン界面活性剤とは異なる)、
(d)少なくとも1つの炭化水素油、及び
(e)少なくとも1つのアンモニア又はアルカノールアミン
を含む、ケラチン繊維のための化粧用組成物であって、
前記(d)炭化水素油の量が組成物の全重量を基準として4重量%以上であり、
前記(a)リン酸系界面活性剤が
酸化エチレン及び酸化プロピレンから選択される1から50モルの酸化アルキレンを付加した12から20個の炭素原子を含有するアルコキシル化脂肪アルコールのリン酸モノエステル、及び、
12から22個の炭素原子を含有する非アルコキシル化アルコールのリン酸ジアルキル
を含む、化粧用組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
リン酸系界面活性剤が、セテス-10リン酸とリン酸ジセチルとの組合せ、セテス-20リン酸とリン酸ジセチルとの組合せ、及び、オレス-5リン酸とリン酸ジオレイルとの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
非イオン界面活性剤が、1から50モルの酸化エチレンを付加した12から22個の炭素原子を含有するポリオキシアルキレン化脂肪アルコール、1から50モルの酸化プロピレンを付加した12から22個の炭素原子を含有するポリオキシアルキレン化脂肪アルコール、並びに、それらの混合物からなる群から選択される、請求項1又は3に記載の組成物。
【請求項5】
ポリオールが、糖、糖アルコール及びトリオールからなる群から選択される、請求項1、3及び4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
炭化水素油が、流動パラフィン、流動ワセリン、ポリデセン、並びに、それらの混合物からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも1つの高級アルコールを更に含む、請求項1及び3から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの酸化染料を更に含む、請求項1及び3から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
酸化染料が、酸化塩基及びカプラーから選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも1つの直接染料を更に含む、請求項1及び3から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも1つの還元剤を更に含む、請求項1及び3から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
ケラチン繊維を着色するための、請求項1及び3から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
ケラチン繊維を再整形するための、請求項1、3から7及び11のいずれか一項に記載の組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-05-09 
出願番号 特願2012-510460(P2012-510460)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 853- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 851- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 直子小出 直也岩下 直人團野 克也  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 小川 慶子
関 美祝
登録日 2016-01-08 
登録番号 特許第5866278号(P5866278)
権利者 ロレアル
発明の名称 ケラチン繊維のための化粧用組成物  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 志賀 正武  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
代理人 阿部 達彦  

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