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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 一部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1330073
異議申立番号 異議2016-701104  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-25 
確定日 2017-06-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5928896号発明「窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板並びにその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5928896号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第5928896号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5928896号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成24年10月4日の出願であって、平成28年 5月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人「青木眞理」により特許異議の申立てがされ、平成29年 1月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年 3月13日に意見書の提出及び訂正の請求があり、訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年 4月19日付けで意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のア?オのとおりである。

ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記窒化珪素基板の厚さが0.1?0.4mmであり」と記載されているのを「前記窒化珪素基板の厚さが0.15?0.4mmであり」に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群を含む直径8?27μmの最小内接円として規定される空孔集合体を含み」と記載されているのを「前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群からなる空孔集合体を有し、前記空孔集合体の最小内接円の直径が8?27μmであり[なお前記空孔率および前記空孔集合体の最小内接円の直径は、前記断面研磨面の組織写真の視野250×250μmの画像(ただし、視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)^(2)となる1又は2以上の視野の画像)を解析して求めたものである。]」に訂正する。

ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、「絶縁破壊の強さが31kV/mm以上である」と記載されているのを「絶縁破壊の強さが32kV/mm以上である」に訂正する。

エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に、「前記絶縁破壊の強さが35kV/mm以上である」と記載されているのを「前記窒化珪素基板の厚さが0.2?0.4mmであり、前記絶縁破壊の強さが35kV/mm以上である」に訂正する。

オ.訂正事項5
明細書の段落【0034】に、「(実施例1?11)」と記載されているのを「(参考例1及び実施例2?11)」に訂正し、明細書の【表1】?【表3】にそれぞれ「実施例1」と記載されているのを「参考例1」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否
ア.訂正事項1は、窒化珪素基板の厚さの範囲を縮小するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

イ.訂正事項2は、空孔率等の測定条件を特定する訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

ウ.訂正事項3は、絶縁破壊の強さの範囲を「31kV/mm以上」から「32kV/mm以上」に変更するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

エ.訂正事項4は、窒化珪素基板の厚さをさらに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

オ.訂正事項5は、特許請求の範囲に整合していない実施例1を参考例1に変更するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

(3)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、窒化珪素基板の厚さの範囲を縮小するものであるから、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」といい、それぞれ「本件明細書」などという。)に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、空孔集合体の定義を明確にするための訂正であって、本件明細書の【0019】の記載に基づくものであり、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、絶縁破壊の強さの範囲を「31kV/mm以上」から「32kV/mm以上」に変更するものであるから、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ.訂正事項4について
訂正事項4は、絶縁破壊の強さに加えて窒化珪素基板の厚さを特定するものであって、当該窒化珪素基板の厚さは本件明細書の実施例9に記載されたものであるから、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項4は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

オ.訂正事項5について
訂正事項5は、実施例1を参考例1に変更するものであるから、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項5は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(4)一群の請求項について
訂正事項1?4は、それぞれ訂正前の請求項1?4を訂正するものであり、訂正前の請求項2?4は請求項1を直接的又は間接的に引用するため、請求項1?4は一群の請求項である。
また、訂正事項5は、この一群の請求項の全てについて明細書を訂正するものである。
よって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?4〕について請求するものと認められる。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。

3.本件発明
上記2.のとおり訂正を認めたので、訂正後の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明4」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである(下線は訂正箇所である。)。

【請求項1】
窒化珪素結晶粒子、粒界相および空孔を有する窒化珪素基板であって、
前記窒化珪素基板の厚さが0.15?0.4mmであり、
前記粒界相が酸化物からなる焼結助剤で形成されており、
前記窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率が0.1?4%であり、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群からなる空孔集合体を有し、前記空孔集合体の最小内接円の直径が8?27μmであり[なお前記空孔率および前記空孔集合体の最小内接円の直径は、前記断面研磨面の組織写真の視野250×250μmの画像(ただし、視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)^(2)となる1又は2以上の視野の画像)を解析して求めたものである。]、
絶縁破壊の強さが32kV/mm以上であることを特徴とする窒化珪素基板。

【請求項2】
前記酸化物からなる焼結助剤がMgO及び希土類酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素基板。

【請求項3】
前記窒化珪素基板の厚さが0.2?0.4mmであり、前記絶縁破壊の強さが35kV/mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化珪素基板。

【請求項4】
前記窒化珪素基板が回路基板用であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の窒化珪素基板。

4.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由の概要
平成29年1月18日付けで当審が通知した取消理由において、訂正前の請求項1?2、4に係る発明が、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許を取り消すべきものであることの通知、及び、請求項1?4に係る発明が、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許を取り消すべきものであることの通知を行った。

・特許異議申立書で提示された刊行物(以下、それぞれ「甲1」?「甲4」という。)
甲第1号証:菊池広実、今村寿之、加賀洋一郎、手島博幸、渡辺純一、厚銅貼り窒化珪素回路基板の開発、日立金属技報、2007.発行、Vol.23、pp.65-68
甲第2号証:特開2002-171037号公報
甲第3号証:特開2009-117614号公報
甲第4号証:特開2009-218322号公報

(2)特許法第29条第1項第3号について
ア.本件発明1
取消理由通知において引用した甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加したものである。)。

摘記1:「2.3 信頼性評価
厚銅貼り窒化珪素基板,・・・・試験には,寸法35×30×0.32mmの窒化珪素基板に・・・銅配線を接合した厚銅貼り窒化珪素回路基板を用いた。・・・室温の絶縁油中で絶縁耐圧試験を行った。
図5によれば,熱サイクル試験をしていない窒化珪素白基板の絶縁破壊電圧は,熱サイクル試験前に9?10kVあった・・・」(第67頁左欄第5行?第18行)

摘記2:「3.1 窒化珪素材の高熱伝導化
・・・材料特性改善の方法としては,窒化珪素結晶のミクロ組織制御とその高純度化,ならびに粒界相量制御の3点に着目した。高熱伝導と高強度とを両立させる窒化珪素のミクロ組織として,熱伝導率の高いC軸方向に結晶成長させた柱状結晶と,強度を維持する微細結晶とからなる複合組織の実現を試みた。」(第67頁左欄下から第7行?第67頁右欄第3行)

摘記3:「一方,図6(b)に示す熱伝導率が90W/m・Kの窒化珪素基板は,大きさが5μm以下の比較的均一な粒状の結晶で構成されている。
・・・

」(第67頁右欄第12行?第14行、図6)

よって、摘記1、2より、甲1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「窒化珪素の柱状結晶及び微細結晶を有する窒化珪素基板であって、
窒化珪素基板の厚さが0.32mmであり、
絶縁破壊電圧が9?10kVである窒化珪素基板」

次に、本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明は、窒化珪素基板の厚さが0.32mm、絶縁破壊電圧が9?10kVであるから、絶縁破壊の強さが28.1kV/mm?31.2kV/mmである。
また、甲1には、引用発明において、粒界相量制御を行うこと(摘記2)が記載されており、さらに、図6に記載の窒化珪素基板のミクロ組織において、黒色が空孔であること(摘記3)から、引用発明は、窒化珪素結晶粒子、粒界相および空孔を有する窒化珪素基板であり、図6(b)から、「空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群からなる空孔集合体」が少なくとも1つは存在していることは見て取れる。

よって、本件発明1のうち、
「窒化珪素結晶粒子、粒界相および空孔を有する窒化珪素基板であって、
前記窒化珪素基板の厚さが0.32mmであり、
前記窒化珪素基板の断面研磨面において空孔が存在し、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群からなる空孔集合体を有する窒化珪素基板」の点は引用発明と一致し、以下の4点で両者は相違する。

相違点A:本件発明1は粒界相が酸化物からなる焼結助剤で形成されているのに対し、引用発明は、粒界相が酸化物からなる焼結助剤で形成されているかどうか不明な点。

相違点B:本件発明1は、窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率が0.1?4%であるのに対し、引用発明には、窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率が0.1?4%であるかどうか不明な点。

相違点C:本件発明1は、空孔集合体の最小内接円の直径が8?27μmである[なお前記空孔率および前記空孔集合体の最小内接円の直径は、前記断面研磨面の組織写真の視野250×250μmの画像(ただし、視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)^(2)となる1又は2以上の視野の画像)を解析して求めたものである。]のに対し、引用発明は、断面の組織写真の視野が250×250μmの画像、もしくは、合計視野面積62500(μm)^(2)となる1又は2以上の視野の画像を解析して求めたものではなく、空孔集合体の最小内接円の直径が8?27μmであるか否かが不明である点。

相違点D:本件発明1は、絶縁破壊の強さが32kV/mm以上であるのに対し、引用発明は、絶縁破壊の強さが28.1kV/mm?31.2kV/mmである点。

上記相違点のうち、相違点Dについて検討する。

引用発明には、絶縁破壊の強さが28.1kV/mm?31.2kV/mmであることしか記載されておらず、相違点Dは実質的な相違点である。

よって、相違点A?Cについて検討するまでもなく、本件発明1と引用発明との間には実質的な相違点Dが存在するため、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。

イ.本件発明2、4
本件発明2、4は本件発明1の構成をさらに限定したものであるから、本件発明2、4と引用発明との間にも実質的な相違点が存在するため、本件発明2、4は甲1に記載された発明ではない。

(3)特許法第36条第6項第2号について
平成29年1月18日付けの取消理由通知において、以下の2点の記載不備を通知した。

ア.訂正前の請求項1について、「前記窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率が0.1?4%であり、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群を含む直径8?27μmの最小内接円として規定される空孔集合体を含み」と特定されているが、「直径8?27μmの最小内接円として規定される空孔集合体」が窒化珪素基板内のどこかに1つでも存在すればよいことを意味しているのか、【0019】に記載された解析を前提にして、視野250μm×250μm(視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)^(2)となる1又は2以上の視野の画像)内に必ず「直径8?27μmの最小内接円として規定される空孔集合体」が存在していることを意味しているのか不明確である。
訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2?4についても同様の点で不明確である。

イ.訂正前の請求項1は、「前記窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率が0.1?4%であり、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群を含む直径8?27μmの最小内接円として規定される空孔集合体を含み」と特定されている。
これに対し、【0040】に記載の実施例1は、空孔集合体の直径が12?30μmであることが記載されており、実施例1が、訂正前の請求項1の特定に含まれるのか否かが不明確である。
訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2?4についても同様の点で不明確である。

ウ.請求項1は、訂正事項2によって、「前記窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率が0.1?4%であり、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群からなる空孔集合体を有し、前記空孔集合体の最小内接円の直径が8?27μmであり[なお前記空孔率および前記空孔集合体の最小内接円の直径は、前記断面研磨面の組織写真の視野250×250μmの画像(ただし、視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)^(2)となる1又は2以上の視野の画像)を解析して求めたものである。]、」と訂正され、当該訂正によって、窒化珪素基板の任意の視野250×250μmの画像(ただし、視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)^(2)となる1又は2以上の視野の画像)を解析したこと、及び、空孔集合体の最小内接円の直径が8?27μmであることが明確となったため、上記アの理由は解消した。
また、訂正事項5によって、実施例1は参考例1に訂正されたため、上記イの理由も解消された。
よって、特許法第36条第6項第2号についての取消理由は解消した。

(4)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
・本件発明1?4に対する特許法第29条第2項について

特許異議申立人は、甲2に記載された「実施例9」の窒化珪素回路基板の絶縁耐圧が38kVと高いことから、空孔の存在状態についても本件発明1に係る窒化珪素基板と同様の組織構造(同様の空孔集合体が存在する構造)となっている旨を主張している。

ここで、甲2に記載の事項について検討すると、甲2には、以下の点が記載されている。

摘記A:「【0025】さらに上記高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法は、酸素を1.7質量%以下、不純物陽イオン元素としてのAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.3質量%以下、α相型窒化けい素を90質量%以上含有し、平均粒径1.0μm以下の窒化けい素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して2.0?17.5質量%,Mgを酸化物に換算して0.3?3.0質量%と、必要に応じてCaおよびSrの少なくとも一方を酸化物に換算して1.5質量%以下添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、温度1700?1900℃で常圧焼結または雰囲気加圧焼結し、上記焼結温度から、上記希土類元素により焼結時に形成された液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することを特徴とする。」

摘記B:「【0079】実施例1?6
・・・【0080】次にドクターブレード法を用い、ブレードの開口幅および原料スラリーのブレードからの押出し速度を調整しながら上記原料スラリーをシート成形し、多数のシート状成形体を製作した。次に得られた成形体を700℃のN_(2)雰囲気ガス中において2時間脱脂した後に、この脱脂体を窒素ガス雰囲気中で常圧?7気圧にて1800?1900℃で3?6時間保持し、緻密化焼結を実施した後に、焼結炉に付設した加熱装置への通電量を制御して焼結炉内温度が1500℃まで降下するまでの間における焼結体の冷却速度が100℃/hr(実施例1?3,5),50℃/hr(実施例4)および600℃/hr(自然冷却)(実施例6)となるように調整して焼結体を冷却し、長辺長さ60mm×短辺長さ40mmであり、表1に示す厚さを有する各実施例用の窒化けい素基板を多数調製した。」

摘記C:「【0090】【表1】




摘記D:「【0107】実施例7?12
熱伝導率が90W/m・Kであり、縦40mm×横60mm×厚さ0.32mmの窒化けい素焼結体に対して、表3に示す条件で表面処理としてのホーニング処理と超音波洗浄処理とを実施して各実施例用のSi_(3)N_(4)基板を調製した。なお、研磨加工は実施していない。
・・・
【0111】
【表3】


【0112】上記表3に示す結果から明らかなように、適正な粒径の砥粒を使用し、適正なホーニング圧力でホーニング処理した窒化けい素基板を使用した実施例7?10に係る回路基板においては、絶縁耐圧が25?38kV/mmと優れているとともに、窒化けい素基板の反り量は、いずれも0.5mm以下であった。」

摘記Dに記載の絶縁耐圧の強さが38kV/mmとなる実施例9は、その製造方法が明記されていないものの、甲2には、摘記A?Bに記載されているような原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、温度1700?1900℃で常圧焼結または雰囲気加圧焼結し、上記焼結温度から、希土類元素により焼結時に形成された液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷する製造方法で行うことしか記載されていないため、実施例9も同様の方法で行っているものと認められる。
(例えば、摘記C?Dから、実施例9の熱伝導率は実施例4と同じであるから、実施例4と同じ方法で作成できると推測できる。)

してみると、甲2に記載の製造方法は、本件明細書に記載の製造方法と異なることは明らかであり、さらに、絶縁耐圧の強さが同程度であれば同様の組織構造(同様の空孔集合体)となるという技術常識もない。

したがって、甲1に記載の引用発明に甲2に記載の発明を適用して絶縁耐圧の強さが38kV/mmとなる窒化珪素基板を作成しても本件発明1が特定する空孔集合体を有する窒化珪素基板になるとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

甲3?甲4についても、本件発明1で特定されている空孔集合体について何等記載されていない。
よって、本件発明1は、甲1?甲4に記載の発明から当業者が容易に発明することができたものではない。
本件発明1を引用する本件発明2?4についても同様である。

したがって、本件発明1?4に対する特許法第29条第2項に関する特許異議申立理由は採用できない。

(5)特許異議申立人の意見書の主張について
ア.本件発明1?4の不明確性(特許法第36条第6項第2号)について
特許異議申立人は意見書において、「また、本件特許明細書の[0035]段落に記載された「比較例1」の窒化珪素基板に関しては、前記の通り、「空孔集合体を作らず粗大な空孔が焼結体内に均一に分散されている」とだけ記載されており、この「粗大な空孔」と記載されているが、その具体的な空孔のサイズに関する記載は全く無い。
ここで、窒化珪素基板の空孔割合が同一であっても、その空孔の直径(円相当径)が異なれば、窒化珪素基板の絶縁強度は大きく影響され、空孔の直径が所定値以上になると、絶縁強度が大幅に低下することは周知の技術的知見である。
・・・
しかしながら、本件特許明細書において、上記「空孔の直径の上限」を示す記載が全く無いことから、本発明は依然として技術的な矛盾を内包し請求項1に係る発明は不明確である。同様に、請求項1に従属する請求項2?4に係る発明も不明確である。」と主張しており、空孔自体の直径(円相当径)の上限値が特定されていないため、本件発明1の窒化珪素基板の構成が不明確である旨主張している。

しかしながら、本件発明1は、「前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群からなる空孔集合体を有し、前記空孔集合体の最小内接円の直径が8?27μmであり」及び「絶縁破壊の強さが32kV/mm以上であること」が特定されており、特許異議申立人が主張する技術常識によれば、少なくとも、全体の絶縁破壊の強さが32kV/mm未満になるような粗大な空孔が存在しないこと、及び、空孔集合体の最小内接円の直径が8?27μmの範囲外になるような空孔が存在しないことが特定されていると認められる。
したがって、空孔の直径の上限値が明示的に特定されていないことによって、本件発明1の窒化珪素基板の組織が不明確であるとまではいえない。
よって、上記主張は採用できない。
本件発明1を引用する本件発明2?4についても同様である。

5.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板並びにその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス回路基板またはそれを用いた大電力半導体モジュールに使用されるセラミックス基板に関し、セラミックス基板を形成するのに好適な窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HEVを初めとした自動車分野、車両用分野や電力分野の制御機器、産業機械分野または民生用機器等の制御用電装部品には、セラミックス基板に能動素子を実装した種々のセラミックス回路基板(以下、単に回路基板とも記す)が用いられている。回路基板に実装される素子(ダイオード、FWD、IGBT、GTO、MOS-FET)の実装密度の増加と、素子からの発熱量が増加する傾向を示すことから、能動素子が安定的に動作するように発生する熱を、回路基板を経由して放熱する働きと、能動素子を放熱部材と電気的に絶縁する働きをする。特にパワーモジュールや大電力用途に使用される回路基板では、回路基板の破損が無い事は勿論のこと、高温や熱衝撃の激しい過酷な稼動環境においても放熱性、絶縁性の保障が要求される。またセラミックス基板では動作電圧・電流や動作周波数増加の傾向を受けて低ノイズ化のために誘電損失の小さい材料であるアルミナや窒化アルミニウム、窒化珪素といった窒化物材が回路基板用のセラミックス基板として使用されている。特に強度・靭性に優れた窒化珪素基板は、高熱伝導化が達成できつつあることから、窒化アルミニウムやアルミナの代替材として今後の需要拡大が注目されている。
【0003】
前記セラミックス回路基板は、一般にセラミックス基板の一方の面に電気回路となる金属回路板を接合し、他方の面に放熱用の金属放熱板を接合した構造で使用される。また前記金属板には熱伝導性の良好な銅又はアルミニウムを主成分とした金属板が主に用いられ、ろう材による活性金属法や、拡散接合法、直接接合するいわゆるDBA法またはDBC法といった接合方法によりセラミックス基板と接合される。また金属回路板および/または金属放熱板には回路パターンがエッチング等により形成される。前記能動素子や外部との電気信号の授受を行うための端子やワイヤー等は金属回路板上に搭載または接続される。更に、金属放熱板は、ベース板や冷却フィン等の放熱部材に固着した状態や、金属放熱板が冷却フィンと兼用された形で一体接合された形でモジュール等に使用される。
【0004】
上記のようなセラミックス基板は、セラミックス粉末を混合後、シート状の成形体(グリーンシート)を成形し、焼成して製造される。このグリーンシートの成形方法としてはドクターブレード法、押し出し成形法またはプレス成形法で形成されるのが一般的である。ここで、セラミックス基板は放熱性と絶縁性の観点から焼結後の厚さが0.2?1.5mm程度のものが使用される。1.5mmの厚い基板の用途は、主に高い絶縁破壊の強さが必要な場合や、基板の高剛性が必要な場合に適用される。
【0005】
半導体モジュールはあらゆる環境下において長期間にわたり設計通りの機能を発揮する必要があるため、それに用いるセラミックス回路基板には高い信頼性が求められる。セラミックス回路基板の信頼性評価には種々の項目があるが、その一つに金属回路板と金属放熱板との間の絶縁性評価(抵抗、絶縁破壊電圧)がある。セラミックス回路基板は金属回路板-セラミックス基板-金属放熱板の接合体であるから、その絶縁性はセラミックス基板そのものの絶縁性に大きく依存する。
【0006】
特許文献1は絶縁信頼性を大幅に向上させた窒化珪素セラミックス基板を提供する。この窒化珪素セラミックス基板は、空孔率が容量比で2.5%以下であり、粒界相中の最大空孔径が0.3μm以下であり、厚さが0.3?1.5mmである窒化珪素焼結体から成る。この窒化珪素セラミックス基板に温度25℃、湿度70%の条件下で表裏間に1.5Kv-100Hzの交流電圧を印加したときの電流リーク値が1000nA以下であるとしている。
【0007】
しかし、近年では半導体モジュールの小型化、軽量化を図るためセラミックス基板もより薄くすることが求められており、厚さ0.3mm未満のセラミックス基板においても高い絶縁信頼性が必要とされている。特許文献2は基板を構成する焼結体中の気孔率を0.01%未満、すなわち実質的に気孔が存在しないことを特徴とする窒化珪素基板を開示し、この基板は厚さ0.1?0.4mmと薄く形成してもリーク電流が少なく優れた絶縁性を示すことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3797905号公報
【特許文献2】特開2003-192445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、粉末原料から混合、成形、焼成の各プロセスを経て作製されるセラミックス焼結体において実質的に空孔が形成されない焼結体を作製することは極めて困難である。特許文献2では焼結工程後に焼結体を熱間静水圧(HIP)処理することにより焼結体の緻密化をさらに促進し、厚さ0.1?0.4mmの薄い窒化珪素基板において実質的に空孔が無いとする空孔率0.01vol.%未満を達成している。しかし、焼結工程後にHIP処理を追加することは生産性を低下させ製造コストを増加させるため好ましくない。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたもので、厚さ0.1?0.4mmの薄い窒化珪素基板においても高い絶縁信頼性を達成することのできる窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板をHIP処理を含まない製造プロセスにより提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願第1の発明の窒化珪素焼結体は、窒化珪素結晶粒子、粒界相および空孔を有する窒化珪素焼結体であって、該焼結体の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率0.1?4%であり、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群を含む直径8?30μmの最小内接円として規定される空孔集合体を含むことを特徴とする。
【0012】
本願第2の発明の窒化珪素基板は、請求項1記載の窒化珪素焼結体から形成されることを特徴とする。
【0013】
本願第2の発明において、窒化珪素基板の厚さ0.1?0.4mmであることが好ましい。
【0014】
本願第3の発明の窒化珪素焼結体の製造方法は、窒化珪素粉末を主成分とする原料粉末、焼結助剤および溶媒を混合し出発原料1、同様にして出発原料2?N(Nは2以上の整数)を得る原料粉調整工程、前記出発原料1?Nの各々にバインダを添加、混合して素スラリー1?Nを作製する混練工程、これらの素スラリー1?Nを混合して混合スラリーとするスラリー混合工程、前記混合スラリーをシート成形法により成形速度600mm/min.以下で成形した後、乾燥速度0.8wt%/min.以下で乾燥して成形体を作製する成形工程および前記成形体を脱脂および焼成して窒化珪素焼結体とする脱脂・焼成工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、厚さの薄い窒化珪素基板においても高い絶縁信頼性を達成することのできる窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板をHIP処理を含まない製造プロセスにより提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の窒化珪素焼結体の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識にも基づいて、以下の実施形態に適宜変更、改良が加えられたものも本発明の範囲内に含まれる。
【0018】
最初に本発明の窒化珪素焼結体について述べる。一般的に窒化珪素焼結体内に空孔が存在する場合、空孔を介して電流がリークしやすいため焼結体の絶縁破壊の強さは低下する。しかしながら、本発明の窒化珪素焼結体は、焼結体内にある程度の空孔が存在する場合でも、該焼結体の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率0.1?4%、好ましくは0.1?3%であり、円相当径0.5μm以上の空孔が外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群を含む直径8?30μmの最小内接円として規定される空孔集合体を含む。ここで、外周間の最短距離は実際の空孔形状における外周間の距離を測定するものとする。
【0019】
本発明の窒化珪素焼結体の空孔率および空孔の外周間の最短距離は、焼結体の断面研磨面の組織写真の視野250×250μmの画像を解析して求めることができる。焼結体が薄く視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)^(2)となる1又は2以上の視野の画像を解析して求めることができる。
【0020】
このような焼結体では焼結体の極一部の領域を占める空孔集合体内では電流がリークしやすいものの、それ以外の領域では空孔の割合が低いため電流のリークが起こりにくい。焼結体全体では絶縁破壊の強さの低下を抑制することができる。本発明の窒化珪素焼結体は、厚さ0.1?0.4mm程度の薄い窒化珪素基板としても、31KV/mm以上、更には35KV/mm以上の絶縁破壊の強さを有する。
【0021】
空孔集合体は前記視野中に1個?20個存在することが好ましい。空孔集合体がない場合は、空孔が焼結体内に均一に分散していると考えられ、絶縁耐圧が低下する。また、空孔集合体が20個より多い場合は、空孔集合体間で電流がリークする可能性があり、絶縁体耐圧が低下する。空孔集合体の前記視野中のより好ましい存在個数は1?10個である。
【0022】
次に窒化珪素焼結体および窒化珪素基板の製造方法について図1に沿って述べる。尚、ここでは特定の原料や焼結工程で説明するが製造方法・製造条件は下記の例に限定されるものではない。
【0023】
[原料粉調整工程]
まず、窒化珪素粉末を主成分とする原料粉末および焼結助剤を所定の比率となるように調整して、溶媒および必要に応じて分散剤を用いて、ボールミルで混合し出発原料とする。ここで、焼結体において窒化珪素91?95重量%、マグネシア1?4重量%、希土類元素を酸化物に換算して2?8重量%となるように調整し、溶媒として変性アルコール、1-ブタノール、MEKのうち何れか1種以上を用いることが好ましい。
【0024】
[混練工程]
次に、出発原料にバインダおよび必要に応じて溶媒を添加した後、ボールミルで混合して素スラリー1とする。素スラリー1と同様の工程でボールミルの混合を別ロットで行ったスラリーを素スラリー2とする。更に別ロットで作製したスラリーを素スラリーN(Nは2以上の整数)とする。ここで、出発原料100重量部に対してバインダとしてPVB5?15重量部、溶媒として変性アルコール、1-ブタノール、MEKのうち何れか1種以上を用いることが好ましい。混合は3?48時間とすることが好ましい。
【0025】
[スラリー混合工程]
次に、ボールミルもしくは攪拌機等の混練装置を用いて、素スラリー1,2,・・・,Nを統合混練して素スラリー1,2,・・・,Nが混合された混合スラリーとする。混練の際に、前記のバインダーおよび前記の溶媒を添加してもよい。
【0026】
上記のように2以上の混合ロットのスラリーとすることで、焼結体に空孔集合体を生成することができると推定される。理由は明確ではないが、2種以上の素スラリーの粘度や配合がほぼ同等であっても、2種類以上の素スラリーを混合した場合、混合後の混合スラリー中の原料粉とバインダや溶媒との分布にわずかに不均一な部分が生成し、この混合スラリーを成形、焼結することで焼結体内に空孔集合体が生成されると推定される。
【0027】
[成形工程]
次に、脱泡工程を経てスラリーの粘度を更に所定の範囲内に調整した後、スラリーをドクターブレード法または押し出し法により成形した後、乾燥して成形体を作製する。成形体を所定の大きさに切断しhBNを塗布してから乾燥し所定の厚さのセラミックスグリーンシート(以下、単に「シート」と表現することがある)を作製する。ここで、スラリーの成形速度は600mm/min.以下とすることが好ましく、乾燥速度は最大乾燥速度0.8wt.%/min.以下とすることが好ましい。
【0028】
ここで、シートの成形速度について説明する。スラリーがドクターブレード法のドクターブレードや押し出し法の金型を通過する際のせん断応力により、チクソトロピー性のスラリーの粘度の低下が起こる。成形速度が600mm/min.を超える場合、スラリーが容易に流動し空孔の要因となる泡を巻き込み易い。その結果、そのようなシートから作製した焼結体では多数の空孔が散在して形成され、空孔集合体が生成し難くなる。特に、2種類以上のスラリーを混合した場合に成形体内にわずかに不均一な部分が生成し、空孔集合体の元となる成形体内の空隙ができると推定されるが、この不均一性により生じる成形体内の空隙は、成形速度が600mm/min.を超える場合に成形体内に生成する泡と結合し、焼結後に多数の粗大な空孔となりやすい。特に円相当径5μm超の粗大な空孔は実質的に他の空孔と空孔集合体を形成しにくい。
【0029】
次に、シートの最大乾燥速度について説明する。成形後の乾燥が早い場合、溶媒の急激な揮発が起こる。乾燥速度が0.8wt%/min.を超えると、溶媒揮発によりシート内に気泡が生成し易い。その結果、このようなシートから作製した焼結体では多数の空孔が散在して形成され、空孔集合体が生成し難くなる。シートは乾燥ゾーンを通過させることで、徐々に昇温して乾燥させるために、乾燥過程における乾燥速度は一定ではなく変動する。そのため、乾燥速度は最大値を規定することとする。特に、2種類以上のスラリーを混合した場合には、成形速度が600mm/min.を超える場合と同様の理由で焼結後に多数の粗大な空孔となりやすい。
【0030】
[焼成工程]
作製したセラミックスグリーンシートを分離材を挟んで複数枚積層し脱脂したのち焼結炉にセットし、真空にした後昇温し、所定温度を超えた段階で窒素雰囲気を導入し更に焼成温度まで昇温して焼成する。例えば、セラミックスグリーンシートの積層数は10枚とし、温度1000℃を超えた段階で0.7?0.9MPa窒素雰囲気を導入し1850?1900℃の温度で3?5時間焼成を行い窒化珪素焼結体(窒化珪素基板)を得る。ここで、得られた焼結体に対して熱間静水圧(HIP)処理を行う必要はない。
【0031】
窒化珪素焼結体の表面を清浄化と適度な粗さとすることを目的に液体ホーニング処理した。ホーニング処理は水中にアルミナ砥粒を適量添加し、例えば0.2?0.5MPaの圧力で焼結体表裏に吹き付けて行うことができる。
【0032】
清浄化と液体ホーニング処理の後、窒化珪素焼結体の絶縁破壊の強さ(kV/mm)を常温にてJIS C2110に準拠して測定した。
【0033】
成形方向に対して直角方向の切断面が現れるように窒化珪素基板を厚さ方向に切断した。切断面を研磨後、走査電子顕微鏡(1000-5000倍)により研磨面を観察し、その研磨面の任意の表3に記載の大きさの視野に現われている円相当径0.5μm以上の空孔の面積を画像解析により計測した。そして、計測した空孔の面積を視野の総面積で割ることにより視野面積に占める空孔率(%)として算出した。円相当径0.5μm未満の空孔は絶縁性に及ぼす影響が比較的小さいため計測から除外した。
【0034】
(参考例1及び実施例2?11)
前述の窒化珪素焼結体の製造方法および評価方法にしたがって表1、表2に示す出発原料、混合、成形および焼成条件により窒化珪素焼結体を作製し、空孔の面積を画像解析により計測した。各ロットの出発原料の原料粉の総量は、それぞれ10kgとした。スラリーの混練ロット数を2以上とし、成形速度600(mm/min.)以下とし、成形体の乾燥速度を0.8(wt%/min.)以下とすることでHIP処理を含まない製造プロセスにより、表3に示す焼結体を得ることができた。空孔割合0.1?4%であっても十分な絶縁破壊の強さを有する厚さ0.15?0.25mmの窒化珪素基板を得ることができた。
【0035】
(比較例1)
混練ロット数を1としてスラリーを作製したため粗大な空孔が焼結体内に均一に分散し、空孔集合体が形成されずに本発明の焼結体は得られなかった。厚さ0.25mmの窒化珪素基板の絶縁破壊の強さは不十分であった。
【0036】
(比較例2)
混練ロット数を2としたものの成形速度が速過ぎるため多数の空孔が散在して形成された。その結果、得られた窒化珪素焼結体は視野面積に占める空孔割合が大き過ぎるものであり、かつ粗大な空孔が焼結体内に均一に分散し、空孔集合体が形成されなかった。厚さ0.25mmの窒化珪素基板の絶縁破壊の強さは不十分であった。
【0037】
(比較例3)
混練ロット数を2としたものの最大乾燥速度が速過ぎるため多数の空孔が散在して形成された。その結果、得られた窒化珪素焼結体は視野面積に占める空孔割合が大き過ぎるものであり、かつ粗大な空孔が焼結体内に均一に分散し、空孔集合体が形成されなかった。厚さ0.25mmの窒化珪素基板の絶縁破壊の強さは不十分であった。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、セラミックス回路基板またはそれを用いた大電力半導体モジュールに使用されるセラミックス基板に関し、HIP処理を含まない製造プロセスにより作製され実質的に空孔を含む窒化珪素焼結体からなり厚さ0.1?0.4mmの薄い窒化珪素基板においても高い絶縁信頼性を達成することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素結晶粒子、粒界相および空孔を有する窒化珪素基板であって、
前記窒化珪素基板の厚さが0.15?0.4mmであり、
前記粒界相が酸化物からなる焼結助剤で形成されており、
前記窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率が0.1?4%であり、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群からなる空孔集合体を有し、前記空孔集合体の最小内接円の直径が8?27μmであり[なお前記空孔率および前記空孔集合体の最小内接円の直径は、前記断面研磨面の組織写真の視野250×250μmの画像(ただし、視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)^(2)となる1又は2以上の視野の画像)を解析して求めたものである。]、
絶縁破壊の強さが32kV/mm以上であることを特徴とする窒化珪素基板。
【請求項2】
前記酸化物からなる焼結助剤がMgO及び希土類酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素基板。
【請求項3】
前記窒化珪素基板の厚さが0.2?0.4mmであり、前記絶縁破壊の強さが35kV/mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化珪素基板。
【請求項4】
前記窒化珪素基板が回路基板用であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の窒化珪素基板。
【請求項5】
窒化珪素粉末と焼結助剤粉末と溶媒とを混合して出発原料1?N(Nは2以上の整数)を各々作製する調整工程を有し、
前記出発原料1?Nの各々にバインダを添加、混合して素スラリー1?Nを作製する混練工程を有し、
前記素スラリー1?Nを混合して混合スラリーとするスラリー混合工程を有し、
前記混合スラリーをシート成形法により成形速度600mm/min以下で成形した後、乾燥速度0.8wt%/min以下で乾燥して成形体を作製する成形工程を有し、
前記成形体を脱脂、焼成して窒化珪素焼結体とする脱脂・焼成工程を有することを特徴とする窒化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
前記脱脂・焼成工程の前に、分離材をはさんで前記成形体を複数枚積層する積層工程を有することを特徴とする請求項5に記載の窒化珪素基板の製造方法。
【請求項7】
前記窒化珪素焼結体にホーニング処理することにより窒化珪素基板と為すことを特徴とする請求項5又は6に記載の窒化珪素基板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-05-24 
出願番号 特願2012-222253(P2012-222253)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (C04B)
P 1 652・ 121- YAA (C04B)
P 1 652・ 113- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 立木 林阪野 誠司佐溝 茂良  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山本 雄一
後藤 政博
登録日 2016-05-13 
登録番号 特許第5928896号(P5928896)
権利者 日立金属株式会社
発明の名称 窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板並びにその製造方法  
代理人 高石 橘馬  
代理人 高石 橘馬  
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