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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1330086
異議申立番号 異議2016-700288  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-08 
確定日 2017-06-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5792807号発明「アセテートおよびサクシネートの置換が向上されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5792807号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5792807号の請求項1-5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5792807号の請求項1-5に係る発明についての出願は、平成23年6月13日(パリ条約による優先権主張 2010年6月14日(米国))を国際出願日として特許出願された特願2013-515418号であって、平成27年8月14日にその特許権の設定登録がなされ、特許異議申立人 信越化学工業株式会社(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。

平成28年 5月30日付け:取消理由の通知
同年 8月29日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
同年10月28日 :意見書の提出(申立人)
同年12月14日 :取消理由(決定の予告)の通知
平成29年 3月15日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
同年 3月29日 :取消理由の通知
同年 4月24日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)

第2 訂正の可否
1 訂正の内容
平成29年4月24日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)特許請求の範囲の請求項1の
「活性剤;ならびに
メトキシ基置換度(DS_(M))≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac)) 1.0?1.5、ならびにアセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(S))の組合せ置換度 1.25≦(DS_(Ac)+DS_(S))≦1.9を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS);
を含む、組成物。」
を、
「フェニトイン;ならびに
メトキシ基置換度(DS_(M))≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac)) 1.0?1.5、ならびにアセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(S))の組合せ置換度 1.25≦(DS_(Ac)+DS_(S))≦1.9を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS);
を含む、組成物。」
に訂正する(以下、「訂正事項1」という。)。

(2)特許請求の範囲の請求項5の
「前記組成物が固体非晶分散体の形状であり、前記分散体中の前記活性剤の少なくとも90質量%が非結晶性である、請求項1?4のいずれか1項に記載の組成物。」
を、
「前記組成物が固体非晶分散体の形状であり、前記分散体中の前記フェニトインの少なくとも90質量%が非結晶性である、請求項1?4のいずれか1項に記載の組成物。」
に訂正する(以下、「訂正事項2」という。)。

(3)明細書の【0150】の
「…表9および図7に示すように、HPMCAS-K(3)はHPMCAS-LGおよびPBSの単独よりも大幅に良好なフェニトイン沈殿を示した。…」
を、
「…表9および図7に示すように、HPMCAS-K(3)はHPMCAS-LGおよびPBSの単独よりも大幅に良好にフェニトイン沈殿を阻害した。…」
に訂正する(以下、「訂正事項3」という。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、本件特許の請求項1に係る「活性剤」を「フェニトイン」に、訂正事項2は、上記請求項1を引用する本件特許の請求項5に係る「前記活性剤」を「前記フェニトイン」に、それぞれ限定するものである。
これは、【0150】の「フェニトイン沈殿阻害およびインビトロ濃度向上
HPMCAS-K(3)中およびHPMCAS-K(1)中のフェニトインの溶解特性を測定し、E-グレードのHPMCAS-HGおよびHPMCAS-LGにおけるフェニトインの溶解と比較した。…」との記載に基づくものである。
訂正事項3は、本件の表9及び図7を参照すると、HPMCAS-K(3)はHPMCAS-LG及びPBS単独よりもフェニトイン沈殿を阻害したことが見て取れることに鑑みると、誤記を訂正するものと認められる。
そして、訂正前の請求項2-5は、訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用する請求項であるから、請求項1-5は一群の請求項であるところ、特許請求の範囲の訂正に係る上記の訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正事項1-3に係る訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたように、本件訂正請求は認められるので、本件の請求項1-5に係る発明(以下、「本件発明1」-「本件発明5」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、平成29年4月24日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1-5に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
【請求項1】
「フェニトイン;ならびに
メトキシ基置換度(DS_(M))≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac)) 1.0?1.5、ならびにアセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(S))の組合せ置換度 1.25≦(DS_(Ac)+DS_(S))≦1.9を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS);
を含む、組成物。」
【請求項2】
「1.5≦(DS_(Ac)+DS_(S))≦1.7である、請求項1に記載の組成物。」
【請求項3】
「アセチル基のサクシノイル基に対する比が、1.2から5.6の間である、請求項1に記載の組成物。」
【請求項4】
「1.0≦DS_(Ac)≦1.5、および
0.20≦DS_(S)≦0.7
である、請求項3に記載の組成物。」
【請求項5】
「前記組成物が固体非晶分散体の形状であり、前記分散体中の前記フェニトインの少なくとも90質量%が非結晶性である、請求項1?4のいずれか1項に記載の組成物。」

第4 取消理由についての判断
1 取消理由通知の概要
当審は平成28年12月14日付け取消理由(決定の予告)の通知において、概要以下のとおりの取消理由を通知した。

B 本件特許請求の範囲の記載は、本件発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものであり、本件発明1-5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものに対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
C 本件発明1-5は、その優先日前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明から当業者が容易になし得たことと認められるので、本件発明1-5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
刊行物1:特表2008-501009号公報(甲第1号証)

2 取消理由Bについて
(1)本件明細書の記載
本件の明細書には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0002】
分野
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートポリマー、これらのポリマーを含む組成物、該組成物の製造方法、および該組成物の使用方法の態様を開示する。

【0006】
低溶解性活性剤およびHPMCASの医薬処方は有効であることが証明されているが、信越によって製造されるAQOATポリマーはそのような処方を形成するための特性の限定された選択を与えるに過ぎない。
【0007】
所望されているのは、組成物中での活性剤の溶解濃度および活性剤の安定性を改善するために具体的に設計されたHPMCASポリマーである。加えて、多くの用途のための医薬組成物において用いられるポリマーの特性,例えば濃度向上および制御放出の用途を調整する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
要約
低溶解性活性剤を有する医薬組成物において用いる場合に改善された性能をもたらす置換基レベルの組合せを有するHPMCASポリマーの態様を開示する。一側面において、HPMCASポリマーの態様が提供される。…」

イ 「【0020】
開示される態様は、以下の利点の1つ以上を与える。HPMCASポリマーは、使用環境中での低溶解性活性剤のための溶解した活性剤の濃度を向上させる置換の置換度の組合せを有する。低溶解性活性剤、および特に疎水性活性剤の固体非晶分散体を形成するのに用いる場合、ポリマーは分散体中のより高量の活性剤を可能にし、更に貯蔵時に均一なままであり、一方、使用環境中での溶解した活性剤の濃度の向上を与える。過飽和水性溶液から急速に結晶化する傾向がある活性剤との組合せで用いる場合、開示されるポリマーの幾つかの態様は、高活性剤濃度の持続、およびこれによる活性剤のインビボでの吸収の向上、に特に有効である。加えて、低溶解性活性剤および本発明のポリマーの分散体は、市販グレードのHPMCASを伴って形成された分散体と比較したときに、改善された物理的安定性を付与できる。」

ウ 「【0055】
具体的には、本発明者らは、改善された性能および/または利用性を有する幾つかの態様のHPMCASポリマーが、市販グレードのHPMCASよりも、低いDS_(M)、高いDS_(Ac)、ならびに/または、アセチル基およびサクシノイル基の高い総置換(すなわちDS_(Ac)+DS_(S))を有することを見出した。…」

エ 「【0136】
X.例
例1
HPMCASポリマーの合成および特性化
ポリマー1?3を合成し、それぞれHPMCAS-K(1)、HPMCAS-K(2)、およびHPMCAS-K(3)とした。…

【0140】
特性化
各ポリマーにおけるアセテートおよびサクシネートの置換度を、III節で上記したように評価した。見掛け分子量は、サイズ排除クロマトグラフィで評価した。結果を表3および図1に示す。比較のために、市販で入手可能なHPMCASポリマー(信越より)の置換度および分子量も示す。信越の分子量は過去の範囲である。
【0141】
【表3】



オ 「【0150】
例2
フェニトイン沈殿阻害およびインビトロ濃度向上
HPMCAS-K(3)中およびHPMCAS-K(1)中のフェニトインの溶解特性を測定し、E-グレードのHPMCAS-HGおよびHPMCAS-LGにおけるフェニトインの溶解と比較した。フェニトインをメタノール中、濃度18mg/mLで溶解させた。ポリマーをPBS(20mM リン酸ナトリウム(Na_(2)HPO_(4))、47mM リン酸カリウム(KH_(2)PO_(4)),87mM NaCl,および0.2mM KC1,pH6.5にNaOHで調整))中、濃度1.5mg/mLで溶解させた。メタノール中に溶解したフェニトインをPBSまたはPBSの溶液(溶解したポリマーを含有するもの)(37℃で)のそれぞれに添加して、全てのフェニトインが溶解したらフェニトインの濃度が500μg/mLとなるようにした。次いで、ポリマー/PBS溶液中のフェニトインの溶解濃度を、HPLCで0,5,10,20,40,90および1200分で測定した。HPLCは、ZORBAX(登録商標)RX-C18カラム(4.6x75mm、3.5μm、Agilent Technologies)および水中0.2%H_(3)PO_(4)を含む移動相を用いて行い、流量1.0mL/分で、10μLの各溶液を注入した。各溶液について、フェニトインの添加後、初めの90分間の測定される時点に亘る最大濃度(C_(max90))、および1200分での濃度(C_(1200))を評価し、更に、0?90分の曲線下面積(AUC_(90))を評価した。表9および図7に示すように、HPMCAS-K(3)はHPMCAS-LGおよびPBSの単独よりも大幅に良好にフェニトイン沈殿を阻害した。HPMCAS-K(3)およびHPMCAS-LGは同様のサクシネート置換度を有する(それぞれ0.25および0.40(表7参照))が、大きく異なるアセテート置換度(それぞれ1.41および0.47)を有する。よって、データは、増大したアセテート置換がフェニトイン沈殿の阻害を増大することを示す。
【0151】
【表9】

【0152】
HPMCAS-K(3),HPMCAS-K(1),HPMCAS-HG,およびHPMCAS-LG中、25質量%フェニトインを含むスプレー乾燥した分散体(SDD)を、VIII節に記載したように調製した。SDDおよびバルクのフェニトインを、37℃、MFDS中の微小遠心溶解で2回評価(X節で上記した通り)して、濃度向上がSDDで見られたか否かを評価した。溶解濃度はHPLCで測定した。表10および図8に示すように、フェニトイン:HPMCAS-K(3) SDDは、フェニトイン:HPMCAS-LG SDDまたはバルクのフェニトインよりも良好な溶解および持続を示した。結果は、サクシネート置換に対して増大したアセテート置換がフェニトインの溶解を向上させることを示す。
【0153】
【表10】



(2)当審の判断
本件発明は、上記(1)ア及びイの「多くの用途のための医薬組成物において用いられるポリマーの特性,例えば濃度向上および制御放出の用途を調整する必要がある。」、「開示される態様は、以下の利点の1つ以上を与える。…ポリマーは分散体中のより高量の活性剤を可能にし、更に貯蔵時に均一なままであり、一方、使用環境中での溶解した活性剤の濃度の向上を与える。過飽和水性溶液から急速に結晶化する傾向がある活性剤との組合せで用いる場合、開示されるポリマーの幾つかの態様は、高活性剤濃度の持続、およびこれによる活性剤のインビボでの吸収の向上、に特に有効である。加えて、低溶解性活性剤および本発明のポリマーの分散体は、市販グレードのHPMCASを伴って形成された分散体と比較したときに、改善された物理的安定性を付与できる。」との記載からみて、使用環境中での溶解した活性剤の濃度の向上、高活性剤濃度の持続、およびこれによる活性剤のインビボでの吸収の向上、改善された物理的安定性をその課題とするものと理解できる。
そこで、本件発明の課題を解決するように実施しうることが明細書の記載から認識できるかについて検討する。

ア 実施例における各HPMCASについて
本件発明は、少なくとも「メトキシ基置換度(DS_(M))≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac)) 1.0?1.5、ならびにアセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(S))の組合せ置換度 1.25≦(DS_(Ac)+DS_(S))≦1.9」との規定を満たすものである。表3(上記(1)エ)にはDS_(M)について記載されていないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの1繰り返し単位の水酸基の数は3より小さく、その水酸基のうちエステル化反応に関与しない遊離水酸基が存在しうると仮定するとDS_(M)<3-(DS_(Ac)+DS_(S))と解されることからみると、HPMCAS-K(2)(以下、「K2」という。)及びHPMCAS-K(3)(以下、「K3」という。)は、DS_(M)、DS_(Ac)、DS_(Ac)+DS_(S)のいずれにおいてもこの規定を満たす。しかし、HPMCAS-K(1)(以下、「K1」という。)は、DS_(M)が、平成27年4月22日提出の意見書に記載される「1.3?1.4」であるとしても、DS_(Ac)(=0.85)においてこの規定を満たすとはいえず、本件実施例の例2及び3におけるK1を用いたものは、本件発明の実施例とはいえない。
そして、上記例2及び3において、K2は用いられておらず、結局本件発明の実施例として確認できるのはK3のみといえる。
また、比較対照であるHPMCAS-HG(以下、「HG」という。)及びHPMCAS-LG(以下、「LG」という。)は、【0150】に「E-グレードのHPMCAS-HGおよびHPMCAS-LG」と記載されているが、特許権者が平成28年8月29日に提出した意見書(以下、「意見書」という。)7頁冒頭の表と、上記(1)エの表3からみて、HG及びLGは、それぞれ該表3のHPMCAS-H、HPMCAS-Lの置換度を有するもの、すなわち本件発明の上記規定の範囲外のものと認められる。

イ フェニトインを用いた例2についての検討
フェニトインを用いた例2に関し、表9を参照すると、PBS中K3溶液のフェニトインにおける(C_(max90))、(AUC_(90))、及び(C_(1200))は、それぞれ、250、20500、220(注:単位を略す。以下同様。)であるところ、HG溶液のそれは、それぞれ、320、24800、190であり、本件発明の実施例であるK3を用いたものは、比較例であるHGを用いたものに対して、(C_(1200))において優れる。また、表10を参照すると、K3を用いたフェニトインのスプレー乾燥した分散体(SDD)における(C_(max90))、(AUC_(90))、及び(C_(1200))は、それぞれ、380、32900、210であるところ、HGを用いたそれは、それぞれ、420、35200、180であり、やはり本件発明の実施例であるK3を用いたものは、比較例であるHGを用いたものに対して、(C_(1200))において優れる。
この試験結果からみて、薬物としてフェニトインを用いた本件発明は、実施例における(C_(1200))において優れることから、少なくとも高活性剤濃度の持続という「利点の1つ」についてはその課題を解決するものと解される。

(3)小括
以上のとおり、本件明細書は、薬物としてフェニトインのみに限定された本件発明の課題を解決するように実施しうる程度に記載したものと言え、本件特許請求の範囲の記載は、本件発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものであるとは言えない。
したがって、本件発明1-5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものに対してされたものであるということはできない。

3 取消理由Cについて
(1)刊行物1(甲第1号証)に記載された事項
ア 「【請求項1】
薬物と高分子とを含む組成物であって、該高分子はヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)であり、かつ該HPMCASのアセチル基の置換度(DOS_(AC))とスクシノイル基の置換度(DOS_(S))が次の条件を満たすことを特徴とする組成物:
DOS_(S)≧約0.02、
DOS_(AC)≧約0.65、および
DOS_(AC)+DOS_(S)≧約0.85。
【請求項2】
DOS_(AC)≧約0.70である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
DOS_(AC)≧約0.72である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
DOS_(AC)+DOS_(S)≧約0.88である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
HPMCASが次の条件を満たす請求項1に記載の組成物:
DOS_(S)≧約0.02、
DOS_(AC)≧約0.7、および
DOS_(AC)+DOS_(S)≧約0.9。

【請求項11】
高分子のメチル基の置換度(DOS_(M))は約1.6以上であり、かつ約2.15以下である、請求項1?10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
高分子のメチル基の置換度(DOS_(M))は約1.75以上であり、かつ約2.0以下である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
薬物は難溶性薬物である、請求項1?12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
組成物は難溶性薬物と高分子とを含む非晶質固体分散体を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
組成物は難溶性薬物と高分子との物理的混合体を含む、請求項13に記載の組成物。」

イ 「【0001】
本発明は、特異な置換度の組み合わせを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)およびヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート(HPMCA)に、これらの高分子と難溶性薬物とを含有する、水溶解濃度を高めたおよび/または物理的安定性を高めた組成物に、そうした組成物を調製する方法に、またそうした組成物の使用方法に、関する。
【背景技術】
【0002】
医薬組成物はしばしば特定の所期治療効果を実現するための高分子を、コーティング剤として、持続放出または制御放出用の放出制御剤として、安定化剤として、懸濁化剤、錠剤用結合剤として、また増粘剤として使用する高分子を含めて、含有する。

【0006】
待たれるのは、溶出薬物濃度および組成物中の薬物安定性を特に高めるように設計されたHPMCASまたはHPMCA高分子である。また、高濃度化/制御放出用途を含む数多くの用途に合わせて医薬組成物に使用される高分子の性質を調節することも課題となっている。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、医薬組成物に難溶性薬物と併用したときに性能が高まる結果となるような、種々の置換度を組み合わせたHPMCAS高分子を提供する。本発明は一態様で、HPMCAS高分子であって、該高分子のアセチル基の置換度(DOS_(AC))とスクシノイル基の置換度(DOS_(S))を
DOS_(S)≧約0.02、
DOS_(AC)≧約0.65、および
DOS_(AC)+DOS_(S)≧約0.85
となるように定めたHPMCAS高分子を提供する。」

ウ 「【0028】
HPMCAS
信越化学により供給されている先行技術HPMCAS高分子は次のような一般的な置換度の組み合わせを有するが(比較例を参照)、値の範囲は表に示すように信越化学から入手した多数の異なるロットの高分子に関するものである:
【0029】
【表2】

【0030】
本願発明者は次いで、HPMCASの置換度を変えることにより、若干の難溶性の、特に疎水性の、薬物の、分散体中の溶解度をさらに高められるような新規グレードのHPMCASが調製可能であることを発見した。これは物理的に安定した、薬物含量の多い非晶質固体分散体をもたらす結果となった。こうした新規グレードのHPMCASに関するさらなる研究から、ある種の薬物の可溶化体との分散体または混合体は薬物の濃度を高め、また結晶化または析出をさらに抑制することが判明した。
【0031】
特に本願発明者は、性能と有用性を高めたHPMCAS高分子ではDOS_(AS)(注:特許請求の範囲の記載からみて、DOS_(AC)の誤記と解される。以下同じ。)が、および/またはアセチル基とスクシノイル基の合計置換度(すなわちDOS_(AS)+DOS_(S))が、商用グレードのHPMCASよりも高くなることを発見した。特定の理論または作用機構にこだわるつもりはないが、高DOS_(AS)が望ましいのは、疎水基が多くなるため該高分子に対する難溶性薬物の溶解度の上昇につながるのではないかと考えられる。それと同時に、スクシノイル基の置換度は少なくとも、該高分子をpH7?8で水溶性または水分散性にするに足る値であるのがよい。
【0032】
本願発明者は、性能と有用性を高めた医薬組成物用HPMCAS高分子が高DOS_(AS)であることを発見した。たとえば、一実施形態ではDOS_(AS)は約6.5(注:特許請求の範囲の記載からみて、0.65の誤記と解される。)以上である。DOS_(AS)は好ましくは約7.0(注:特許請求の範囲の記載からみて、0.7の誤記と解される。)以上であり、なお好ましくは約7.2(注:特許請求の範囲の記載からみて、0.72の誤記と解される。)以上である。
【0033】
本願発明者はまた、性能と有用性を高めた医薬組成物用HPMCAS高分子のスクシノイル基の置換度は極小であるのがよいことを発見した。たとえば、一実施形態ではDOS_(S)は約0.02以上である。DOS_(S)は好ましくは約0.03以上であり、なお好ましくは約0.05以上である。
【0034】
さらに、HPMCAS上のアセチル基とスクシノイル基の合計置換度は極小値よりも高いのがよい。たとえば、一実施態様ではDOS_(AS)+DOS_(S)≧約0.85である。好ましくはDOS_(AS)+DOS_(S)≧約0.88であり、なお好ましくはDOS_(AS)+DOS_(S)≧約0.90である。本願発明者はこうしたアセチル基とスクシノイル基の合計置換度のHPMCASが医薬組成物用に有用であることを発見した。
【0035】
メトキシ基の置換度に関しては、HPMCAS高分子のDOS_(M)は約1.6?約2.15であるのが好ましい。DOS_(M)は約1.7以上、さらには約1.75以上でもよいし、また約2.1以下、さらには約2.0以下でもよい。本願発明者はこうしたメトキシ基置換度のHPMCASが医薬組成物用に有用であることを発見した。

【0038】
本願発明者は、これらの基準に合致する高分子で調製した製剤組成物が本願明細書で述べる対照組成物と比較して薬物濃度の上昇または物理的安定性の向上またはその両方につながることを発見した。」

エ 「【0079】
難溶性薬物
用語「薬物」は通常の用語であり、哺乳動物特に人間に投与したときに有益な、予防的な、および/または治療的な性質を示す化合物を表す。薬物は「難溶性薬物」であるのが好ましい。すなわち生理的pH(たとえばpH1?8)での最小水溶解度が約0.5mg/mL以下である薬物をいう。本発明は薬物の水溶解度が低下するほど有用性が増す。従って、本発明の組成物は水溶解度が約0.2mg/mL未満の難溶性薬物用として好ましいが、水溶解度が約0.1mg/mL未満の難溶性薬物用としてなお好ましく、水溶解度が約0.05mg/mL未満の難溶性薬物用としてなお好ましい、水溶解度が約0.01mg/mL未満の難溶性薬物用としてさらになお好ましい。…。

【0082】
…降圧薬の具体例はプラゾシンやニフェジピン、ベシル酸アムロジピン、シリマゾシン、ドキサゾシンである; 血糖降下剤の具体例はグリピシドやクロルプロパミドである; 性的不能治療薬の具体例はシルデナフィルやクエン酸ルデナフィルである; 抗腫瘍薬の具体例はクロラムブシルやロムスチン、エキノマイシンである; イミダゾール系抗腫瘍薬の具体例はツブラゾール(tubulazole)である; 高コレステロール症用薬の具体例はアトルバスタチンカルシウムである; 抗不安薬の具体例は塩酸ヒドロキシジンや塩酸ドキセピンである; 抗炎症薬の具体例はベータメタゾンやプレドニゾロン、アスピリン、ピロキシカム、バルデコキシブ、カルプロフェン、セレコキシブ、フルルビプロフェン、(+)-N-{4-[3-(4-フルオロフェノキシ)フェノキシ]-2-シクロペンテン-1-}-Nヒドロキシウレアである; バルビツール酸塩系催眠薬の具体例はフェノバルビタールである; 抗ウイルス薬の具体例はアシクロビルやネルフィナビル、デラベルジン、ビラゾールである; ビタミン/栄養剤の具体例はレチノールビタミンEである; β遮断薬の具体例はチモロールやナドロールである; 催吐薬の具体例はアポモルフィンである; 利尿剤の具体例はクロルタリドンやスピロノラクトンである;抗凝固薬の具体例はジクマロールである; 強心剤の具体例はジゴキシンやジギトキシンである; アンドロゲン薬の具体例は17-メチルテストステロンやテストステロンである; 鉱質コルチコイドの具体例はデスオキシコルチコステロンである; ステロイド系催眠薬/麻酔薬の具体例はアルファキサロンである; 同化剤の具体例はフルオキシメステロンやメタンステノロンである; 抗うつ薬の具体例はスルピリドや[3,6-ジメチル-2-(2,4,6-トリメチル-フェノキシ)-ピリジン-4-イル]-(1-エチルプロピル)-アミン、3,5-ジメチル-4-(3'-ペントキシ)-2-(2',4',6'-トリメチルフェノキシ)ピリジン、ピロキシジン、フルオキセチン、パロキセチン、ベンラファキシン、セルトラリンである; 抗生物質の具体例はカルベニシリンインダニルナトリウムや塩酸バカンピシリン、トロレアンドマイシン、塩酸ドキシサイクリン、アンピシリン、ペニシリンGである; 抗感染薬の具体例は塩化ベンザルコニウムやクロルヘキシジンである; 冠拡張薬の具体例はニトログリセリンやミオフラジンである; 催眠薬の具体例はエトミデートである; 炭酸脱水素酵素阻害薬の具体例はアセタゾラミドやクロルゾラミドである; 抗真菌薬の具体例はエコナゾールやテルコナゾール、フルコナゾール、ボリコナゾール、グリセオフルビンである; 抗原虫薬の具体例はメトロニダゾールである; 駆虫薬の具体例はチアベンダゾールやオクスフェンダゾール、モランテルである; 抗ヒスタミン薬の具体例はアステミゾールやレボカバスチン、セチリジン、レボセチリジン、デスロラタジン(decarboethoxyloratadine)、シンナリジンである; 抗精神病薬の具体例はジプラシドンやオランゼピン、塩酸チオチキセン、フルスピレリン、リスペリドン、ペンフルリドールである; 胃腸薬の具体例はロペラミドやシサプリドである; の具体例はである; の具体例はである; の具体例はである; セロトニン拮抗薬の具体例はケタンセリンやミアンセリンである; 麻酔薬の具体例はリドカインである; 血糖降下薬の具体例はアセトヘキサミドである; 制吐薬の具体例はジメンヒドリナートである; 抗菌薬の具体例はコトリモキサゾールである; ドーパミン作動薬の具体例はL-DOPAである; 抗アルツハイマー病薬の具体例はTHAやドネペジルである; 抗潰瘍薬/H2拮抗薬の具体例はファモチジンである; 鎮静/催眠薬の具体例はクロルジアゼポキシドやトリアゾラムである;
【0083】
血管拡張薬の具体例はアルプロスタジルである; 抗血小板薬の具体例はプロスタサイクリンである; ACE阻害薬/降圧剤の具体例はエナプリラト(enalaprilic acid)やキナプリル、リシノプリルである; テトラサイクリン系抗生物質の具体例はオキシテトラサイクリンやミノサイクリンである; マクロライド系抗生物質の具体例はエリスロマイシンやクラリスロマイシン、スピラマイシンである; アザライド系抗生物質の具体例はアジスロマイシンである; グリコーゲンホスホリラーゼ阻害薬の具体例は[R-(R^(*)S^(*))]-5-クロロ-N-[2-ヒドロキシ-3-{メトキシメチルアミノ}-3-オキソ-1-(フェニルメチル)プロピル-1H-インドール-2-カルボキサミドや5-クロロ-1H-インドール-2-カルボン酸[(1S)-ベンジル-(2R)-ヒドロキシ-3-((3R,4S)-ジヒドロキシ-ピロリジン-1-イル)-3-オキプロピル]アミドである; およびコレステリルエステル輸送タンパク質(CETP)阻害薬の具体例は(2R,4S)-4-[(3,5-ビス-トリフルオロメチル-ベンジル)-メトキシカルボニル-アミノ]-2-エチル-6-トリフルオロメチル-3,4-ジヒドロ-2H-キノリン-1-カルボン酸エチルエステル、別名トルセトラピブである。

【0085】
…CETP阻害薬はまた米国特許第6,723,752号明細書でも、(2R)-3-{[3-(4-クロロ-3-エチル-フェノキシ)-フェニル]-[[(1,1,2,2,-テトラフルオロ-エトキシ)-フェニル]-メチル]-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールなど、多数が開示されている。さらに…たとえば(2R,4R,4aS)-4-[アミノ-3,5-ビス-(トリフルオロメチル-フェニル)-メチル]-2-エチル-6-(トリフルオロメチル)-3,4-ジヒドロキノリン-1-カルボン酸イソプロピルエステルも含まれる。
【0086】
さらなるCEPT阻害薬は、JTT-705別名S-[2-([[1-(2-エチルブチル)シクロヘキシル]カルボニル]アミノ)フェニル]2-メチルプロパンチオアート、および国際公開第WO 04/020393号パンフレットで開示されているもの、たとえばS-[2-([[1-(2-エチルブチル)シクロヘキシル]カルボニル]アミノ)フェニル]2-メチルプロパンチオアート、トランス-4-[[[2-[[[[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]メチル](2-メチル-2H-テトラゾール-5-イル)アミノ]メチル]-4-(トリフルオロメチル)フェニル]エチルアミノ]メチル]-シクロヘキサン酢酸およびトランス-4-[[[2-[[[[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]メチル](2-メチル-2H-テトラゾール-5-イル)アミノ]メチル]-5-メチル-4-(トリフルオロメチル)フェニル]エチルアミノ]メチル]-シクロヘキサン酢酸、…。

【0093】
…一態様では、HMG-CoA還元酵素阻害薬はスタチン類という一群の治療薬から選択される。HMG-CoA還元酵素阻害薬は好ましくは、フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、リバスタチン、メバスタチン、ベロスタチン、コンパクチン、ダルバスタチン、フルインドスタチン、ロスバスタチン、ピチジスタチン、ジヒドロコンパクチン、およびそれらの製薬上許容しうる形態からなる群より選択される。…より好ましい実施形体では、HMG-CoA還元酵素阻害薬はアトルバスタチン、アトルバスタチンの環化ラクトン体、そうした化合物の2-、3-または4-ヒドロキシ誘導体、およびそれらの製薬上許容しうる形態からなる群より選択される。さらになお好ましくは、HMG-CoA還元酵素阻害薬はアトルバスタチンヘミカルシウム三水和物である。…。」

オ 「【0116】
非晶質固体分散体
別の実施形態では、難溶性薬物と高分子を組み合わせて非晶質固体分散体を形成させる。「非晶質固体分散体」は難溶性薬物の少なくとも一部分が非晶質体として高分子中に分散している固形物をいう。非晶質固体分散体が好ましいのは、非晶質固体分散体はしばしばin vitroおよびin vivo使用環境中で高溶出薬物濃度を実現しうるためである。

【0119】
非晶質薬物は純固相として、高分子中に一様に分散させた薬物の固溶体として、またはこれらの状態やその中間の状態の任意の組み合わせとして、存在しうる。薬物が難溶性であり、また濃度または生体利用率の改善が望ましい場合には、分散体は「実質的に一様」とし、高分子全体に可能な限り一様に非晶質薬物を分散させるのが好ましい。実質的に一様である本発明の分散体は一般に、非一様分散体と比べて、物理的により安定であり、高濃度化特性や生体利用率にも優れる。「実質的に一様」は、固体分散体の比較的純粋な、非晶質の領域に存在する薬物が比較的少なく、薬物全量の約20%未満、なお好ましくは約10%未満であることを意味する。好ましい実施形態では、分散体は高分子中に一様に分散させた薬物の固溶体を含む。」

(2)対比・判断
ア 刊行物1に記載された発明(引用発明)
刊行物1には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)と薬物とを含む組成物(上記(1)ア)であって、該薬物は200ダルトン以下の分子量(上記(1)エ【0082】以降に列記されるもの)及び約0.5mg/mL以下の水溶解度を有すること(上記(1)エ)、HPMCASはアセチル基置換度が約0.65以上、アセチル基置換度及びサクシノイル基置換度の組合せ置換度が約0.85以上であること(上記(1)ア)、及び、メトキシ基置換度に関しては、約1.6?約2.15であるのが好ましいこと(上記(1)ウ)が記載されている。すなわち、刊行物1には以下の引用発明が記載されていると認められる。
「2000ダルトン以下の分子量および約0.5mg/mL以下の水溶解性を有する薬物;ならびに
メトキシ基置換度が約1.6?約2.15であるのが好ましく、アセチル基置換度(DS_(Ac))が約0.65以上、ならびにアセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(S))の組合せ置換度が約0.85以上を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS);
を含む、組成物。」

イ 本件発明1と引用発明との対比
引用発明における「水溶解性」は、本件発明1の「水性溶解性」に相当する。引用発明では水溶解性は「約0.5mg/mL以下」であり、本件発明1は「0.5mg/mL以下」であるところ、これらの間には実質的な差異はない。
そうすると、本件発明1と引用発明とは以下の点で一致する。
「2000ダルトン以下の分子量および約0.5mg/mL以下の水性溶解性を有する薬物;ならびに
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS);
を含む、組成物。」
そして、両者は以下の点で相違する。
相違点1:薬物について、本件発明1は「フェニトイン」であるのに対し、引用発明は「2000ダルトン以下の分子量および約0.5mg/mL以下の水性溶解性を有する薬物」であるが、フェニトインであることは明らかでない点。
相違点2:HPMCASの置換度について、本件発明1は「メトキシ基置換度(DS_(M))≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac)) 1.0?1.5、ならびにアセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(S))の組合せ置換度 1.25≦(DS_(Ac)+DS_(S))≦1.9」であるのに対し、引用発明は「アセチル基置換度(DS_(Ac))が約0.65以上、ならびにアセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(S))の組合せ置換度が約0.85以上」であり、メトキシ基置換度は「約1.6?約2.15であるのが好ましい」とされている点。

ウ 判断
相違点1について検討する。
引用発明における「2000ダルトン以下の分子量および約0.5mg/mL以下の水性溶解性を有する薬物」に関し、フェニトインはこの物性を満たすものである。しかし、刊行物1には、引用発明に係る上記薬物として、フェニトインが含まれることの記載はなく、フェニトインが上記物性を満たすからといって、フェニトインを引用発明における薬物として使用しうることを想起させる技術常識は存在しない。
そして、上記2(2)イで検討したとおり、薬物としてフェニトインを用いた本件発明は、少なくとも高活性剤濃度の持続という点については有利な効果を奏するものと認められる。
このため、相違点1において、本件発明1は、刊行物1に記載された発明から当業者が容易になし得たものとはいえず、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、取り消すことはできない。

エ 本件発明2-5と引用発明との対比・判断
本件発明2は、本件発明1に対して、(DS_(Ac)+DS_(S))を限定するもの、本件発明3は、本件発明1に対して、アセチル基のサクシノイル基に対する比を設定するもの、本件発明4は、本件発明1に対して、(DS_(S))を限定するもの((DS_(Ac))は、本件発明1と同一。)、本件発明5は、本件発明1に対して、「前記組成物が固体非晶分散体の形状であり、前記分散体中の前記薬物の少なくとも90質量%が非結晶性である」と規定したものである。
そして、上記ウで検討したことと同様の理由で、本件発明2-5は、刊行物1に記載された発明から当業者が容易になし得たものとはいえず、本件発明1に係る特許と同様、本件発明2-5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、取り消すことはできない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1-5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

4 異議申立ての理由についての検討
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
・申立ての理由1
本件発明1-4は本件明細書に記載された周知技術に基づいて、本件発明5は甲第1号証に記載された発明及び本件明細書に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
・申立ての理由2
本件発明1-5は、実施可能要件及びサポート要件に違反しており、特許法第36条第4項第1号又は同条第6項第1号の規定を満たしていないものに対して特許されたものである。

(1)申立ての理由1について
申立ての趣旨からみて、申立人がいう「本件明細書に記載された周知技術」とは、HPMCAS-LG又はHPMCAS-HGをヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートとし、これを薬物と組み合わせた組成物に係るものと解されるところ、本件発明1-5と「本件明細書に記載された周知技術」とは、少なくとも上記3(2)イで示した相違点1において相違する。
そうすると、上記3(2)ウで検討したことと同様であり、この理由によって本件発明1-5の特許を取り消すことはできない。

(2)申立ての理由2について
本件発明1-5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものに対してされたものであるということはできないことは、上記2に示したとおりである。
また、本件発明1-5は、少なくとも高活性剤濃度の持続という点について、その課題を解決するものと解されることに鑑みると、この点において目的とする作用効果を奏するように実施しうるものと認められる。このため、本件発明1-5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものに対してされたものであるということはできない。
そうすると、この理由によって本件発明1-5の特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、本件発明1-5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1-5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アセテートおよびサクシネートの置換が向上されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本件は、米国仮特許出願第61/354,525号(2010年6月14日出願)(その全部を参照により本明細書に組入れる)の利益を主張する。
【0002】
分野
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートポリマー、これらのポリマーを含む組成物、該組成物の製造方法、および該組成物の使用方法の態様を開示する。
【背景技術】
【0003】
背景
医薬組成物はしばしば、コーティング剤として使用するため、フィルム形成剤として、持続放出または制御放出のための速度制御ポリマーとして、安定剤として、懸濁剤として、タブレットバインダーとして、そして増粘剤として、等の特定の所望の処置効果を実現するためにポリマーを含む。
【0004】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)は、元々、医薬剤形用の腸溶性ポリマー、および写真用フィルムのハレーション防止層製造用として開発された。Ondaら,米国特許第4,226,981号を参照のこと。腸溶性ポリマーは、胃の酸性環境中で損傷を受けずに残るものであり、そのようなポリマーでコートされた剤形は、酸性環境中での不活化または分解から活性剤を保護し、および/または活性剤による胃の刺激を低減する。HPMCASは現在、信越化学工業(株)(東京、日本)から市販で入手可能であり、商品名「AQOAT」として公知である。信越は3グレードのAQOATを製造し、これらは異なる組合せの置換基レベルを有して、種々のpHレベルで腸溶性の保護を付与する。AS-LFおよびAS-LGグレード(「F」は微細を表し、「G」は顆粒を表す)はpH5.5以下での腸溶性保護を付与する。AS-MFおよびAS-MGグレードは、pH6.0以下での腸溶性保護を付与し、一方AS-HFおよびAS-HGグレードは、pH6.8以下での腸溶性保護を付与する。信越は、これらの3グレードのAQOATポリマーについて以下の仕様を与える。
【0005】
【表1】

【0006】
低溶解性活性剤およびHPMCASの医薬処方は有効であることが証明されているが、信越によって製造されるAQOATポリマーはそのような処方を形成するための特性の限定された選択を与えるに過ぎない。
【0007】
所望されているのは、組成物中での活性剤の溶解濃度および活性剤の安定性を改善するために具体的に設計されたHPMCASポリマーである。加えて、多くの用途のための医薬組成物において用いられるポリマーの特性,例えば濃度向上および制御放出の用途を調整する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
要約
低溶解性活性剤を有する医薬組成物において用いる場合に改善された性能をもたらす置換基レベルの組合せを有するHPMCASポリマーの態様を開示する。一側面において、HPMCASポリマーの態様が提供される。ここでHPMCAS上のメトキシ基の置換度(DS_(M))、アセチル基の置換度(DS_(Ac))、およびサクシノイル基の置換度(DS_(s))は、DS_(M)≦1.45、ならびにアセチル基およびサクシノイル基の組合せ置換度(DS_(Ac)+DS_(s))≧1.25であるように選択される。一態様において、HPMCASポリマーは、DS_(M)≦1.45、および(DS_(Ac)+DS_(s))≧1.35であるような置換度を有する。別の態様において、HPMCASポリマーは、DS_(M)≦1.45、および(DS_(Ac)+DS_(s))≧1.45であるような置換度を有する。
【0009】
HPMCASポリマーの態様が提供され、ここでHPMCASポリマー上のメトキシ基置換度(DS_(M))、アセチル基置換度(DS_(Ac))、およびサクシノイル基の置換度(DS_(s))は、DS_(M)≦1.45、DS_(S)≧0.20、DS_(Ac)≧0.5、および(DS_(Ac)+DS_(s))が、≧1.25であるように選択される。
【0010】
別の側面において、医薬組成物は、活性剤、ならびに、メトキシ基置換度(DS_(M)) ≦1.45、ならびにアセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(s))の組合せ置換度(DS_(Ac)+DS_(s)) ≧1.25を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を含む。一態様において、アセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(s))の組合せ置換度(DS_(Ac)+DS_(s))は、(DS_(Ac)+DS_(s))≧1.35である。
【0011】
別の態様において、医薬組成物は、活性剤;ならびに、メトキシ基置換度(DS_(M)) ≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac)) ≧0.5、およびサクシノイル基置換度(DS_(s)) ≧0.20を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を含む。
【0012】
別の態様において、HPMCASは、1.25≦(DS_(Ac)+DS_(s))≦1.9である置換度を有する。更に別の態様において、HPMCASは、1.5≦(DS_(Ac)+DS_(s))≦1.7である置換度を有する。更に別の態様において、HPMCASは、DS_(Ac)≧0.5、DS_(s)≧0.20、および1.25≦(DS_(Ac)+DS_(s))≦1.9である置換度を有する。
【0013】
別の態様において、医薬組成物は、活性剤;ならびに、メトキシ基置換度(DS_(M)) ≦1.45、ならびにアセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(s))の組合せ置換度(DS_(Ac)+DS_(s)) ≧1.25、DS_(Ac) ≦1.2、およびDS_(s) ≦0.9を有するHPMCASを含む。
【0014】
別の態様において、医薬組成物は、活性剤;ならびに、メトキシ基置換度(DS_(M)) ≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(s))の組合せ置換度 ≧1.25、DS_(Ac) ≦1.2、ならびにアセチル基のサクシノイル基に対する比 0.8?6.5の間を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を含む。別の態様において、アセチル基のサクシノイル基に対する比は1.0?6.0の間である。更に別の態様において、アセチル基のサクシノイル基に対する比は、1.2?5.6の間である。一態様において、HPMCASは、1.0≦DS_(Ac)≦1.5、および0.20≦DS_(s)≦0.7である置換度を有する。
【0015】
一態様において、組成物は、活性剤およびHPMCASの固体非晶分散体の形状であり、分散体中の活性剤の少なくとも90質量%が非結晶性である。
【0016】
一態様において、方法は、ポリマーの提供によって活性剤の効果を増大させること(該ポリマーは、メトキシ基置換度(DS_(M)) ≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac)) ≧0.5、およびサクシノイル基置換度(DS_(s)) ≧0.20を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)である)、ならびに、該ポリマーを活性剤と組合せて、5?95質量%活性剤を含む固体非晶分散体を形成すること(該固体非晶分散体は活性剤の水性溶解性を、ポリマーを伴わない活性剤の水性溶解性と比べて少なくとも1.25倍増大させることができる)を含む。
【0017】
別の態様において、方法は、ポリマーの提供によって活性剤の効果を増大させること(該ポリマーは、メトキシ基置換度(DS_(M)) ≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac)) ≧0.5、およびサクシノイル基置換度(DS_(s)) ≧0.20を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)である)、ならびに、該ポリマーを活性剤と組合せて医薬組成物を生成すること(該医薬組成物は活性剤の水性溶解性を、ポリマーを伴わない活性剤の水性溶解性と比べて少なくとも1.25倍増大させることができる)を含む。
【0018】
別の態様において、方法は、ポリマーの提供によって活性剤の効果を増大させること(該ポリマーは、メトキシ基置換度(DS_(M)) ≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac)) ≧0.5、およびサクシノイル基置換度(DS_(s)) ≧0.20を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)である)、該ポリマーを活性剤と組合せて、活性剤のポリマーに対する比0.05?20を有する医薬組成物を形成すること、ならびに該医薬組成物を対象に経口投与すること(該医薬組成物は、対象の血液中の活性剤濃度を、ポリマーを伴わない活性剤の投与と比べて少なくとも1.25倍増大させることができる)を含む。
【0019】
別の態様において、方法は、ポリマーの対象への投与によって活性剤の効果を増大させること(該ポリマーは、メトキシ基置換度(DS_(M)) ≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac)) ≧0.5、およびサクシノイル基置換度(DS_(s)) ≧0.20を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)である)、ならびに、ポリマーと同時に、またはポリマーの投与後60分未満に、活性剤を対象に投与すること(対象へのポリマーおよび活性剤の投与は、対象の血液中の活性剤濃度を、ポリマーを伴わない活性剤の投与と比べて少なくとも1.25倍増大させることができる)を含む。
【0020】
開示される態様は、以下の利点の1つ以上を与える。HPMCASポリマーは、使用環境中での低溶解性活性剤のための溶解した活性剤の濃度を向上させる置換の置換度の組合せを有する。低溶解性活性剤、および特に疎水性活性剤の固体非晶分散体を形成するのに用いる場合、ポリマーは分散体中のより高量の活性剤を可能にし、更に貯蔵時に均一なままであり、一方、使用環境中での溶解した活性剤の濃度の向上を与える。過飽和水性溶液から急速に結晶化する傾向がある活性剤との組合せで用いる場合、開示されるポリマーの幾つかの態様は、高活性剤濃度の持続、およびこれによる活性剤のインビボでの吸収の向上、に特に有効である。加えて、低溶解性活性剤および本発明のポリマーの分散体は、市販グレードのHPMCASを伴って形成された分散体と比較したときに、改善された物理的安定性を付与できる。
【0021】
開示した態様の以下および他の目的、特徴および利点は、添付の図面を参照してなされる以下の詳細な説明からより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、幾つかの態様のHPMCASポリマーについてのサクシネート置換度 対 アセテート置換度のグラフである。
【図2】図2は、幾つかの態様のHPMCASポリマーの^(13)C NMRスペクトルを示す。
【図3】図3は、幾つかの態様のHPMCASポリマーについてのガラス転移温度 対 相対湿度パーセントのグラフである。
【図4】図4は、幾つかの態様のHPMCASポリマーのpH5.5での濁度を示す棒グラフである。
【図5】図5は、幾つかの態様のHPMCASポリマーのpH6.5での濁度を示す棒グラフである。
【図6】図6は、幾つかの態様のHPMCASポリマーのpH7.5での濁度を示す棒グラフである。
【図7】図7は、HPMCASポリマーの態様を含有する溶液中のフェニトイン溶解についての、濃度対時間のグラフである。
【図8】図8は、フェニトイン、およびHPMCASポリマーの態様(MFDS中、pH6.5にて)を含有するスプレー乾燥分散体の溶解についての、濃度対時間のグラフである。
【図9】図9は、イトラコナゾール、およびHPMCASポリマーの態様(MFDS中、pH6.5にて)を含有するスプレー乾燥分散体の溶解についての、濃度対時間のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
置換レベルの特異な組合せを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)ポリマー、およびそのようなポリマーを形成する方法を提供する。HPMCASポリマーおよび活性剤を含む組成物、更にそのような組成物を製造および使用する方法もまた提供する。
【0024】
特記がない限り、明細書または特許請求の範囲で用いる含有成分の量、特性,例えば分子量、パーセント等、の全ての数値は、用語「約」で修飾されると理解すべきである。特記がない限り、明細書または特許請求の範囲で用いる非数値的な特性,例えば非晶性、結晶性、均一性等は、用語「実質的に」(かなりの量または程度を意味する)修飾されると理解すべきである。従って、特記がない限り、黙示的または明示的に、記載される数値パラメータおよび/または非数値的特性は、求められる所望の特性、標準的な試験条件/方法下の検出限界、処理方法の限界、および/またはパラメータもしくは特性の性質、に左右される場合がある近似である。議論される先行技術から態様を直接および明示的に区別する場合、用語「約」が示されていない限り、態様の数値は近似ではない。
【0025】
1.用語および略号
用語および略号の以下の表現は本開示をより良く記載するため、そして本開示の実施において当業者を導くために与える。本件および特許請求の範囲で用いる単数形a,anおよびtheは明示の特記がない限り複数形も包含する。加えて、用語「包含する」または「有する」は「含む」を意味する。用語「または」は、明示の特記がない限り、記載される代替的な要素の1つの要素または2つ以上の要素の組合せを意味する。
【0026】
特記がない限り、本開示で用いる全ての技術的および科学的な用語は、本開示が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本開示で記載されるものと同様または同等の方法および物質を本開示の実施または試験で用いることができるが、好適な方法および物質を以下に記載する。物質、方法および例は例示のみであり制限を意図しない。開示の他の特徴は以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかである。
【0027】
本開示で用いる、活性剤は、薬物、薬剤、医薬、治療剤、栄養物、または他の化合物(対象に投与できるもの)である。一態様において、活性剤は、一般的に分子量2000ダルトン以下を有する「小分子」である。
【0028】
非晶性は、非結晶性で、分子格子構造を全くまたは実質的に有さないことを意味する。液体は非晶性である。幾つかの固体または半固体,例えばガラス、ゴムおよび幾つかのポリマーもまた非晶性である。非晶性の固体および半固体は明確な結晶構造および明確に定義された融点を有さない。
【0029】
セルロースは、直鎖での、約70から10,000超のβ(1→4)結合D-グルコース単位の天然起源のポリサッカリドである。セルロースは一般式(C_(6)H_(10)O_(5))_(n)および以下の一般繰り返し単位:
【0030】
【化1】

【0031】
を有する。
【0032】
置換度(DS)は、ポリマー鎖中の繰り返し単位当たりの置換されている置換基または基の平均数を意味する。例えば、セルロースのサッカリド繰り返し当たり平均2つのアセチル基が存在する場合、置換度DS_(Ac)は2である。
【0033】
分散体は、異なる組成物全体に亘って粒子が分布する系である。固体分散体は、少なくとも1種の固体成分の粒子が別の固体成分全体に亘って分散した系である。分子分散体は、少なくとも1種の成分が均一または実質的に均一に分子レベルで別の成分全体に亘って分散した系である。分子分散体はまた固溶体として公知である。
【0034】
賦形剤は、医薬組成物において添加剤として用いられる生理学的に不活性な物質である。本開示で用いる賦形剤は、医薬組成物の粒子中に組入れることができ、またはこれは医薬組成物の粒子と物理的に混合できる。賦形剤は例えば活性剤の希釈および/または医薬組成物の特性の改変に用いることができる。
【0035】
ガラス転移温度,Tgは、非晶性固体,例えばガラスまたはポリマーが、冷却で脆くもしくは強くなり、または加熱で柔らかくもしくは曲げ易くなる温度である。Tgは、例えば、示差走査熱量計(DSC)によって評価できる。DSCはサンプルおよび対照の温度を上昇させるのに必要な熱の量の差を、温度の関数として測定する。相転移,例えば非晶状態から結晶状態への変化の間、必要な熱の量は変化する。結晶性成分を実質的に有さない固体について、単独のガラス転移温度は、固体が分子分散体であることを示す。
【0036】
分子量は、分子中の原子の原子量の和である。ポリマーに関して本開示で用いる用語 分子量、平均分子量、ミーン分子量、および見かけ分子量は、個別の高分子の分子量の算術平均(以下のサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)で測定したとき)を意味する。ポリマーのサンプルは、移動相中、濃度2mg/mLで溶解させる。移動相は40:60(V:V)アセトニトリル:移動相バッファー(6mg/mLリン酸二水素ナトリウムおよび8.5mg/mLの硝酸ナトリウム、水中に溶解、からなる)からなり、10M NaOHを用いてpH8に調整される。100μlサンプルをSECでTSK-GEL(登録商標)GMPW_(XL) 300x7.8mmカラム((Tosoh Bioscience)を用いて試験し、0.5mL/分の移動相で、約40℃で操作する。サンプルは、マルチアングルレーザー光散乱(MALLS)検出器および示差屈折率(RI)検出器を用いて検出する。この方法で測定される分子量は見かけである。これはこの分析に用いる溶媒系に特有であるからである。分子量分布は、重量平均分子量(Mw)および多分散度(PD)(これは重量平均分子量の、数平均分子量に対する比である)によって特性化される。
【0037】
モノサッカリドはポリサッカリドの基準単位である。モノサッカリドは基準化学式C_(x)(H_(2)O)_(y)(式中、xおよびyは整数である)を有する単純な糖である。典型的には、y=xまたはy=x-1である。多くのモノサッカリドはペントース(x=5)またはヘキソース(x=6)である。モノサッカリドの例としては、アラビノース、フルクトース、ガラクトース、グルコース、リボース、およびキシロース等が特に挙げられる。
【0038】
用語「粒子」は、極めて小さいまたは細かい物体を意味することが一般的に理解される。結晶性物質について、粒子は典型的には個別の結晶を意味する。
【0039】
医薬上許容可能とは、対象への顕著な不利で有毒な作用を有さずに対象中に取り込むことができる物質を意味する。用語「医薬上許容可能な形」は、任意の医薬上許容可能な誘導体または変形,例えば立体異性体、立体異性体混合物、エナンチオマー、溶媒和物、水和物、同形体、多形体、仮像、中性形、塩形、およびプロドラッグ剤を意味する。
【0040】
ポリマーは、化学反応(すなわち重合)で形成される、繰り返し構造単位(例えばモノマー)の分子である。
【0041】
ポリサッカリドは、グリコシド結合で共に結合したモノサッカリドのポリマーである。一般的な例としては、ヘミセルロース、セルロース、スターチ、およびデキストランが挙げられる。
【0042】
粉末は、互いから比較的自由流動性で分散可能な固体粒子を含む組成物である。
【0043】
固溶体は、少なくとも1つの固体成分が別の固体成分中に分子的に分散している場合に形成され、均一または実質的に均一な固体物質をもたらす。固溶体は、例えば、2つの固体成分を液体溶媒中で完全または実質的に完全に溶解させ、次いで液体溶媒を除去して固溶体を生成することによって形成できる。固溶体はまた、分子分散体としても公知である。
【0044】
可溶性であるとは、溶媒中に分子的またはイオン的に分散するようになって溶液を形成することが可能であることを意味する。
【0045】
溶液(溶体)(solution)は、2種以上の物質で構成された均一または実質的に均一な混合物である。
【0046】
サスペンションは、粒子が実質的に均一に液体または気体の媒体中に分散した不均一混合物である。撹拌なしでは、粒子は液体または気体の媒体から経時的に分離する傾向がある。
【0047】
II.ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)は、置換セルロースポリマーである。「置換セルロースポリマー」は、サッカリド繰り返し単位のヒドロキシル基の少なくとも一部が化合物で置換されてエステル結合置換基またはエーテル結合置換基を形成しているセルロースポリマーを意味する。HPMCASは、繰り返し単位上に存在する任意のヒドロキシル基上の置換によってサッカリド繰り返し単位に結合した、または別のヒドロキシプロポキシ基上のヒドロキシル基に結合した、2-ヒドロキシプロポキシ基(-OCH_(2)CH(CH_(3))OH、以下ヒドロキシプロポキシ基という)エーテルを含有する。HPMCASはまた、繰り返し単位上に存在する任意のヒドロキシル基上の置換によってサッカリド繰り返し単位にエーテル結合したメトキシ基(-OCH_(3))を含有する。HPMCASはまた、繰り返し単位上に存在する任意のヒドロキシル基上の置換によってサッカリド繰り返し単位にエステル結合したアセチル基(-COCH_(3))を含有する。HPMCASはまた、繰り返し単位上に存在する任意のヒドロキシル基上の置換によってサッカリド繰り返し単位にエステル結合したサクシノイル基(-COCH_(2)CH_(2)COOH)を含有する。
【0048】
よって、本開示および特許請求の範囲で用いる「HPMCAS」は、2-ヒドロキシプロポキシ基(-OCH_(2)CH(CH_(3))OH)、メトキシ基-OCH_(3))、アセチル基(-COCH_(3))、およびサクシノイル基(-COCH_(2)CH_(2)COOH)を含むセルロースポリマーを意味する。他の置換基は、これらがHPMCASの性能および特性に実質的に影響しない限り、ポリマー中に少量含まれることができる。
【0049】
ポリマー上の任意の1つの置換基の量は、ポリマー上でのその置換度によって特性化される。ポリマー上の置換基または基の「置換度」は、セルロース鎖上の各サッカリド繰り返し単位上で置換された置換基の平均数を意味する。置換基は、サッカリド繰り返し単位上の3つのヒドロキシルの任意のものについての置換によってサッカリド繰り返し単位に対して直接結合していることができ、またはこれらは、サッカリド繰り返し単位上の3つのヒドロキシルの任意のものについての置換によってサッカリド繰り返し単位に結合しているヒドロキシプロポキシ置換基を介して結合していることができる。例えば、以下のように、アセチル置換基は、サッカリド繰り返し単位上のヒドロキシル基に、またはヒドロキシプロポキシ置換基上のヒドロキシル基に、結合できる。
【0050】
【化2】

【0051】
DSは、サッカリド繰り返し単位上の与えられた置換基の平均数を表す。よって、サッカリド繰り返し単位上の平均1.3のヒドロキシルがメトキシ基で置換されている場合、DS_(M)は1.3である。別の例として、サッカリド繰り返し単位上の3つのヒドロキシルのうち2つがメトキシ基で置換されている場合、DS_(M)は2.0である。別の例において、サッカリド繰り返し単位上の3つのヒドロキシルのうち1つがヒドロキシプロポキシ基で置換され、サッカリド繰り返し単位上の残りの2つのヒドロキシルのうち1つがメトキシ基で置換され、そしてヒドロキシルプロポキシ基上のヒドロキシルがメトキシ基で置換されている場合、DS_(HP)は1.0、そしてDS_(M)は2.0である。ポリマー上の種々の置換基の置換度を変える好適な方法、および医薬組成物を形成する方法を以下に更に詳細に説明する。
【0052】
先行技術のHPMCASポリマー(信越から得られるもの)は、以下の典型的な組合せの置換基レベルを有する。ここで与えられる範囲は信越から得られるポリマーの多くの異なるロットについてである(表に示す通り)。
【0053】
【表2】

【0054】
発明者らは、HPMCAS上の組合せの置換レベルを変えることによって、新規なグレードのHPMCASを得ることができ、ここで幾つかの低溶解性活性剤(特に疎水性のもの)が更により高い溶解性を分散体において有することを見出した。これは、高活性剤量を有する物理的に安定な固体非晶分散体をもたらす。これらの新規なグレードのHPMCASの更なる検討は、特定活性剤の溶解性改善形を有する分散体または混合物が、濃度向上を与え、そして結晶化または沈殿の阻害を改善することを示した。
【0055】
具体的には、本発明者らは、改善された性能および/または利用性を有する幾つかの態様のHPMCASポリマーが、市販グレードのHPMCASよりも、低いDS_(M)、高いDS_(Ac)、ならびに/または、アセチル基およびサクシノイル基の高い総置換(すなわちDS_(Ac)+DS_(S))を有することを見出した。高いDS_(Ac)は望ましい。これは、ポリマー中の低溶解性活性剤の増大した溶解性をもたらすより疎水性の基を与えるからである。同時に、サクシノイル基の置換度は、望ましくは、少なくとも、ポリマーを水性でpH5?8で可溶または分散可能にするのに十分な値である。
【0056】
HPMCASはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)から合成される。開示されるHPMCASポリマーは、好ましくは、メトキシ置換度1.45またはこれ未満を有する。驚くべきことに、メトキシ基のこの置換度を有するHPMCASは、医薬処方のための優れた利用性を有するという評価がされた。いずれの特定の理論にも拘束されないが、低いDS_(M)は、これがアセチル基およびサクシノイル基での置換に利用可能なより多くの部位を与えるために望ましいと考えられる。DS_(M)が1.9であるHPMC(HPMCグレードE、または「HPMC-E」)と比べ、DS_(M)が1.4であるHPMC(「HPMC-K」)は、サッカリド繰り返し単位当たりで約0.5多い部位(アセテート置換基および/またはサクシネート置換基による置換に利用可能なもの)を有する。DS_(M)を低減することは、HPMCASポリマーの調製および低溶解性活性剤を含む医薬組成物におけるその利用において先に理解されてはいなかった、結果に有効な変数である。
【0057】
一態様において、HPMCASポリマーは、DS_(M) ≦1.45および(DS_(Ac)+DS_(s)) ≧1.25を有する。別の態様において、HPMCASポリマーは、DS_(M) ≦1.45および(DS_(Ac)+DS_(s)) ≧1.35を有する。更に別の態様において、HPMCASポリマーは、DS_(M) ≦1.45および(DS_(Ac)+DS_(s)) ≧1.45を有する。
【0058】
DS_(HP)は、好ましくはは、0.10?0.35の範囲である。DS_(HP)はまた、0.15?0.30の範囲であることができる。驚くべきことに、この範囲のヒドロキシプロポキシ基を有するHPMCASポリマーが、医薬処方のための優れた利用性を有すると評価された。幾つかの態様の開示されたHPMCASポリマーは、DS_(Ac) 少なくとも0.5を有する。他の態様において、DS_(Ac)は0.8?1.5である。更に他の態様において、DS_(Ac)は1.0?1.5である。驚くべきことに、高いDS_(Ac)を有するHPMCASポリマーは医薬処方のための優れた性能および利用性を有すると評価された。
【0059】
HPMCグレードEから製造されるHPMCASは、典型的には、DS_(Ac) 0.4?0.7を有する。開示されたHPMCASポリマーにおける増大したアセテート置換は、ポリマー中の低溶解性活性剤の増大した溶解性をもたらし、従ってHPMCASを含む医薬組成物において首尾よく投与できる可能な活性剤の数を広げる。従来のポリマー中での悪い溶解性によって以前は考慮から外されていた可能な活性剤が、医薬組成物において、開示されるHPMCASと組合せた場合に、十分な溶解性、従って利用性を有することができる。
【0060】
開示されるHPMCASポリマーの特定の態様は、DS_(S) 少なくとも0.20,例えば0.20?0.7を有する。一態様において、DS_(S)は少なくとも0.35,例えば0.35?0.7である。驚くべきことに、サクシノイル基のこの置換度を有するHPMCASポリマーは、医薬処方のための改善された性能および利用性を有すると評価された。サクシノイル基による増大した置換は、医薬処方が向上した薬物濃度を、従来のHPMCASポリマーと比べてより長時間持続することを可能にする。
【0061】
特定の態様において、HPMCAS上のアセチル基およびサクシノイル基の組合せの置換度は最小値よりも大きい。一態様において、(DS_(Ac)+DS_(S))≧1.25;別の態様において、1.25≦(DS_(Ac)+DS_(S))≦1.9;更に別の態様において、1.5≦(DS_(Ac)+DS_(S))≦1.7である。HPMCグレードKから合成されるHPMCASポリマー中の組合せのDS_(Ac)+DS_(S)の置換は、HPMCグレードEから合成されるHPMCASポリマー(これは組合せの(DS_(Ac)+DS_(S))置換 0.8?0.9を有する)中に見出されるものの約2倍である。本発明者らは、アセチル基およびサクシノイル基のこの組合せの置換度を有するHPMCASが、医薬処方において予期せず優れた結果を与えることを見出した。アセテート基およびサクシネート基の両者における増大は、ポリマー特性に対して相乗効果を有する。特に、高い組合せの置換度はHPMCASポリマーの両親媒性の性質を増大し、ポリマーが水性溶液中で増大したミセル挙動を示すことを可能にする。加えて、増大したアセテート置換は、SDD中の低溶解性活性剤の溶解性を増大させ、一方、増大したサクシネート置換は、水性溶液中のポリマーの溶解性を増大させる。アセチル基およびサクシノイル基の両者の増大した置換度は、HPMCグレードEから得られるHPMCASポリマーと比べて、医薬組成物の製造において用いるための優れた特性および多用途性を有する、開示されるHPMCASポリマーを与える。
【0062】
一態様において、HPMCASは、1.0≦DS_(Ac)≦1.5、および0.20≦DS_(s)≦0.7である置換度を有する。別の態様において、HPMCASは、メトキシ基の置換度(DS_(M))≦1.45、ならびにアセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(s))の組合せ置換度 ≧1.25、DS_(Ac)≦1.2、およびDS_(s)≦0.9を有する。
【0063】
別の態様において、HPMCASは、メトキシ基の置換度(DS_(M))≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(s))の組合せ置換度(DS_(Ac)+DS_(s)) ≧1.25、ならびに、アセチル基のサクシノイル基に対する比 0.8?6.5の間を有する。別の態様において、アセチル基のサクシノイル基に対する比は、1.0?6.0の間である。更に別の態様において、アセチル基のサクシノイル基に対する比は1.2?5.6の間である。
【0064】
図1は、HPMC-KとHPMC-Eとの境界、すなわち可能な最大組合せDS_(Ac)+DS_(s)(置換の可能部位の数基準)を示す。図1はまた、開示されるHPMCASポリマーの3つの態様(HPMCAS-K(l),HPMCAS-K(2),HPMCAS-K(3))および3つの市販で入手可能なHPMCASポリマー(信越より)(L,M,H)についてのDS_(s)およびDS_(Ac)を示す。グラフが明瞭に示すように、任意の与えられるDS_(Ac)について、開示されるポリマーは、信越ポリマーから製造される対応するポリマー,HPMC-Eと比べて大幅に高いDS_(s)を有することができる。同様に、任意の与えられるDS_(S)について、開示されるポリマーは大幅により高いDS_(Ac)を有する。
【0065】
発明者らは、これらの基準に合致するポリマーとともに形成される活性剤の医薬組成物が、本開示で概説する対照の組成物と比べて、濃度向上もしくは改善された物理的安定性または両者を与えることを見出した。
【0066】
III.HPMCASの合成
HPMCASの合成方法は当該分野で周知である。例えばOndaら,米国特許第4,226,981号およびComprehensive Cellulose Chemistry(Klemmらによる)(1998;第164-197頁および第207-249頁参照)(その教示は参照により本明細書に組入れる)を参照のこと。HPMCASは、o-(ヒドロキシプロピル)-o-メチルセルロース(すなわちHPMC)を無水酢酸および無水コハク酸で処理することによって合成できる(例えば米国特許出願公開第2008/0262107号(参照により本明細書に組入れる)に開示される通り)。HPMCの起源としては、Dow(Midland,Michigan),信越(東京,日本),Ashland Chemical(Columbus,Ohio),Aqualon(Wilmington,Delaware),およびColorcon(West Point,Pennsylvania)が挙げられる。ヒドロキシプロポキシ置換基およびメトキシ置換基の種々の置換度を有する種々のHPMC出発物質が入手可能である。当業者は、HPMC出発物質の選択が、それから生成するポリマーの溶解性パラメータおよび他の特性への影響を有することを理解するであろう。好ましい態様において、HPMCはDS_(M) 1.45またはそれ未満、DS_(HP) 0.18?0.35の範囲、および見掛け粘度 2.4?3.6cpを有する。そのようなポリマーの例としては、METHOCEL(登録商標)K3 Premium LVグレード(「HPMC-K」)(Dow (Midland, Michigan)から入手可能)が挙げられる。代替として、HPMCは、当該分野で周知の方法を用いてセルロースから合成できる。例えば、セルロースは水酸化ナトリウムで処理して、膨潤したアルカリセルロースを生成し、次いでクロロメタンおよびプロピレンオキシドで処理してHPMCを生成できる。Comprehensive Cellulose Chemistry,Klemmらより(1998)を参照のこと。HPMC出発物質は、好ましくは、分子量 600?60,000ダルトン、好ましくは3,000?50,000ダルトン、より好ましくは6,000?30,000ダルトンの範囲を有する。
【0067】
ポリマー上のヒドロキシプロポキシ基、メトキシ基、アセチル基、およびサクシノイル基の置換度は、ポリマー上の置換基の質量%(これは当業者に周知の方法を用いて評価できる)から評価できる。例えば米国特許第4,226,981号およびJapanese Pharmaceutical Excipients(1993,第182-187頁)(これらの開示は参照により本明細書に組入れる)を参照のこと。置換基の質量%は、ポリマー上の置換基の量の特性化について産業的に受入れられた方法である。しかし、本発明者らは、セルロース骨格上の置換基の置換度が、医薬組成物において用いるためのポリマーの与えられるグレードの有効性を評価するためのより有意義なパラメータを与えることを見出した。特に、ポリマーの1つの成分の置換度が変化した場合、他の成分の置換度は同じままである。しかし、質量%を用いた場合、1つの成分の質量%の変化がポリマーの全成分の質量%の変化をもたらす(置換度が変化しない場合であっても)。これは、質量%が、全置換基を含む、セルロース繰り返し単位の総質量基準であるからである。
【0068】
慣習により、ヒドロキシプロポキシ基の質量%はヒドロキシプロポキシ基(すなわち、サッカリド基に結合した-OCH_(2)CH(CH_(3))OH)の質量基準で報告され、メトキシ基の質量%はメトキシ基(すなわち-OCH_(3))の質量基準で報告され、アセチル基の質量%はアセチル基(すなわち-COCH_(3))の質量基準で報告され、そしてサクシノイル基の質量%はサクシノイル基(すなわち-COCH_(2)CH_(2)COOH)の質量基準で報告される。この慣習は、本開示で、置換基の質量%を議論する際に用いる。
【0069】
Rashanら(Journal of AOAC International,Vol.86,No.4,p.694-702,2003)は、ポリマー上のヒドロキシプロポキシ基およびメトキシ基の質量%を評価するための基準を、以下のように与える。ポリマーの60?70mgサンプルをバイアルに計り入れる。このサンプルバイアルに、70?130mgのアジピン酸および2mL分量の57質量%ヨウ化水素酸(水中)を添加する。2mL分量のo-キシレンを次いでバイアル内に添加し、バイアルに蓋をして計量する。バイアルを次いで150℃に加熱し、定期的に振る。1時間の加熱後、バイアルを室温まで冷やし、バイアルを再度計量して、10mg未満の質量損失を確保する。2相を分離し、1.5mLの上部o-キシレン層を、ピペットを用いて取り出して小ガラスバイアル内に入れる(下部水性層を乱さずに)。次いで、取り出したo-キシレン層の1mLを、10mL容量フラスコ内に正確に計り入れ、メタノールで所定容量に希釈し、良く混合する。これを試験サンプルと標識する。
【0070】
標準溶液を以下のように調製する。約2mLのo-キシレンを10mL容量フラスコ内に入れる。次いで約200μLのヨードメタンをフラスコに添加して、添加したヨードメタンの質量を記録する。次いで約34μLの2-ヨードプロパンをフラスコに添加し、添加したヨードプロパンの質量を記録する。次いでフラスコの内容物をo-キシレンで所定容量にし、フラスコを良く混合する。
【0071】
次いで、80?90mgのアジピン酸を8mLバイアルに添加する。このサンプルバイアルに、2mLヨウ化水素酸(57質量%、水中)を添加し、バイアルを振る。層を分離し、ピペットを用いて1.5mLの上部o-キシレン層を取り出して小ガラスバイアル内に入れる。次いで、取り出したo-キシレン層の1mLを、10mL容量フラスコ内に正確に計り入れ、メタノールで所定容量に希釈し、良く混合する。これを標準と標識する。
【0072】
試験サンプルおよび標準を、高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)で以下のように分析する。移動相Aは、90/10 v/v 水/メタノールであり、移動相Bは、15/85 v/v 水/メタノールである。10μL体積の試験サンプルまたは標準をHPLCに注入する。HPLCはAQUASIL(登録商標)カラム(5μm、C_(18)125Å、150×4.60mm)を備える。流量は1.0mL/分であり、以下のグラジエントプロファイルを有する:0.00分で、70%移動相A、30%移動相B;8.00分で、40%A、60%B;10.00分で、15%A、85%B;17分で、15%A、85%B;そして17.01分で、70%A、30%B。検出は、波長254nmにてUVによる。
【0073】
ポリマーサンプル上のヒドロキシプロポキシおよびメトキシの量を算出するために、標準の結果に基づき、種iについての標準応答係数(RF_(i))を下記等式:
【0074】
【数1】

【0075】
(式中、A_(std,i)は、種iについて得られるピーク面積であり、DF_(std,i)は、種iについての希釈係数であり、_(std,i)は標準を調製するために用いるo-キシレンの体積であり、W_(std,i)は、標準を調製するために用いる種iの質量(mg単位)であり、そしてPF_(i)は、種iについての純度係数である)
に従って算出する。応答係数は、ヨードメタンおよび2-ヨードプロパンの両者について算出する。
【0076】
試験サンプル中の種iの量は、下記等式:
【0077】
【数2】

【0078】
(式中、変数は、値が標準ではなく試験溶液についてであることを除いて上記と同じ定義を有する)
に従って算出する。ヨードメタンおよび2-ヨードプロパンの両者の量はこのようにして算出する。
【0079】
次いで、ポリマー中のメトキシ基(-OCH_(3))の量(質量%)を、下記等式:
【0080】
【数3】

【0081】
(式中、W_(ヨードメタン)は上記等式で与えられる)
に従って算出する。
【0082】
同様に、ポリマー中のヒドロキシプロポキシ基(-OCH_(2)CH(CH_(3))OH)の量(質量%)は、下記式:
【0083】
【数4】

【0084】
(式中、W_(2-ヨードプロパン)は上記等式で与えられる)
に従って算出する。
【0085】
ポリマー上のヒドロキシプロポキシ基およびメトキシ基の質量%を評価するための別の手順はJapanese Pharmaceutical Excipients,第182-187頁(1993)に記載されている。
【0086】
HPMCAS中のアセチル基およびサクシノイル基の質量%は、高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)手順によって以下のように評価できる。まず、ポリマーの12.4mgサンプルをガラスバイアル内に入れる。バイアルに、4mLの1.0N NaOHを添加して、磁気撹拌器を用いて4時間撹拌することによってポリマーを加水分解する。次いで、4mLの、1.2M H_(3)PO_(4)溶液を添加して、溶液pHを3未満に下げる。サンプル溶液バイアルを数回反転させて、完全な混合を確保する。次いでサンプル溶液を0.22μmシリンジフィルター経由でHPLCバイアルに濾し入れた後分析する。
【0087】
対照として、加水分解されていないポリマーサンプルを準備する。これは、まず102.4mgのポリマーをバイアル内に計り入れる。バイアルに、4mLの20mM KH_(2)PO_(4)溶液(pH7.50で)(1.0N 水酸化ナトリウム溶液を滴下添加することによってpHについて調整)を添加して、磁気撹拌器を用いて2時間撹拌することによってポリマーを溶解させる。次いで、4mLの25mM H_(3)PO_(4)溶液を添加して、ポリマーを溶液から沈殿させる。バイアルを数回反転させて完全な混合を確保する。次いで対照溶液を0.22μmシリンジフィルター経由でHPLCバイアル内に濾し入れた後分析する。
【0088】
サンプル溶液および対照溶液を、HPLCで、Phenomenex AQUA(登録商標)5μ C18カラム(ガードカラムなし)で、215nmでのサンプル検出、およびサンプルサイズ10μLで分析する。移動相は20mM KH_(2)PO_(4)(pH2.8、流量1.00mL/分、室温で)である。一連の酢酸およびコハク酸の標準を較正のために調製する。HPLC分析から、サンプル溶液中および対照溶液中の酢酸およびコハク酸の濃度を評価する。
【0089】
HPMCASのアセチル基およびサクシノイル基の含有量は、加水分解したサンプル溶液中の測定された酢酸およびコハク酸、ならびに加水分解されていない対照溶液中の測定された遊離の酢酸およびコハク酸から算出する。算出のために用いる式は以下の通りである:
【0090】
【数5】

【0091】
(式中、[酢酸]_(free)および[コハク酸]_(free)は、それぞれ、加水分解されていない対照溶液中の遊離の酢酸および遊離のコハク酸の濃度であり;そして[ポリマー]_(free)は、加水分解されていない対照溶液中の初期に添加されたHPMCASの濃度である。全ての濃度は、mg/mL単位で表す。
【0092】
ポリマーのアセチルおよびサクシノイルの量は下記式で評価される:
【0093】
【数6】

【0094】
(式中、[酢酸]_(Hyd)および[コハク酸]_(Hyd)は、それぞれ、加水分解されたサンプル溶液中の酢酸およびコハク酸の濃度であり;[酢酸]_(free)および[コハク酸]_(free)は、それぞれ、加水分解されていない対照溶液中の遊離の酢酸およびコハク酸の濃度であり;そして[ポリマー]_(free)および[ポリマー]_(Hyd)は、それぞれ、加水分解されていない対照溶液中および加水分解されたサンプル溶液中の、初期に添加されたポリマーの濃度である。全ての濃度は、mg/mL単位で表す。
【0095】
上記分析は、ポリマー上のメトキシ基、ヒドロキシプロポキシ基、アセチル基、およびサクシノイル基の質量%を与える。この情報を用いて、ポリマー上の各置換基の置換度を、以下の手順を用いて算出する。
【0096】
まず、骨格であるポリマー(すなわちポリマーのメトキシ基、ヒドロキシプロポキシ基、アセチル基またはサクシノイル基でない部分)の質量%を下記等式:
骨格(質量%)=100-メトキシ(質量%)-ヒドロキシプロポキシ(質量%)-アセチル(質量%)-サクシノイル(質量%)
に従って算出する。
【0097】
次いで、ポリマー100gm当たりの骨格のモル数、M_(骨格)を下記等式:
【0098】
【数7】

【0099】
から見積もる。
【0100】
この等式は、メトキシ基およびヒドロキシプロポキシ基の質量%が、サッカリド繰り返し単位上のヒドロキシル基の一部であった酸素を含む一方、アセチル基およびサクシノイル基の質量%はそうではないという事実を説明する。当業者は、この等式が近似に過ぎず、ポリマー100gm当たりの骨格の実際のモル数を評価するには反復計算が必要であることを理解するであろう。しかし、本発明者らは、この近似が一般的には、ポリマー上の置換基の質量%の測定についての誤差範囲内である、算出された置換度をもたらし、置換度の評価に必要な計算の数を大きく低減することを見出した。本開示で用いる置換度は、この近似を用いて算出される。
【0101】
次いで、置換基の置換度(DS_(i))(式中、iは置換基を表す)を、置換基のモル数(置換基の質量%を、置換基の分子量で除することで算出する)を骨格のモル数で除することによって以下のように評価する:
【0102】
【数8】

【0103】
IV.活性剤
HPMCASを含有する組成物は、活性剤を必要としている患者に投与することが所望される生物学的に活性な化合物とともに使用するのに好適である。組成物は1種以上の活性剤を含有できる。組成物は低溶解性活性剤に特に好適である。
【0104】
一態様において、活性剤は小分子である。別の態様において、活性剤は生物学的活性剤である。更に別の態様において、活性剤は小分子と生物学的活性剤との混合物である。
【0105】
好ましくは、活性剤は「低溶解性活性剤」であり、これは活性剤が生理学的に適切なpH(例えばpH1?8)で、0.5mg/mL以下の最小水性溶解性を有することを意味する。開示されるポリマーの幾つかの態様は、活性剤の水性溶解性が低くなるに従ってより大きい利用性を見出す。よって、HPMCASポリマーを含有する組成物の幾つかの開示される態様は、水性溶解性0.2mg/mL未満を有する低溶解性活性剤に好ましく、水性溶解性0.1mg/mL未満を有する低溶解性活性剤により好ましく、水性溶解性0.05mg/mL未満を有する低溶解性活性剤により好ましく、水性溶解性0.01mg/mL未満を有する低溶解性活性剤に更により好ましい。一般的に、活性剤は、容量-対-水性溶解性比10mL超、より典型的には100mL超を有するということができ、ここで水性溶解性(mg/mL)は、任意の生理学的に適切な水性溶液(例えばpH値が1?8の間であるもの)(USPのシミュレートされた胃および腸のバッファー等)で観測される最小値であり、用量はmg単位である。よって、用量-対-水性溶解性比は、用量(mg単位)を水性溶解性(mg/mL単位)で除することによって算出できる。
【0106】
活性剤は、開示される組成物の利益を受けるために低溶解性活性剤である必要はない(低溶解性活性剤は組成物の幾つかの態様で用いるための好ましい分類を表すが)。とはいっても、活性剤が使用の所望環境中で相当の水性溶解性を示すことは、向上した水性濃度および改善した生体利用効率の利益を得ることができる。これは、組成物が処置効率に必要な用量のサイズを低減するか、または活性剤吸収速度を増大させる場合(活性剤の急速な立ち上がりの効果が所望される場合)、開示される組成物の特定の態様によって可能になる。そのような場合、活性剤は水性溶解性 最大1?2mg/mL、または更に20?40mg/mLの高さであることができる。
【0107】
活性剤の分類の例としては、これらに限定するものではないが、降圧剤、抗不安薬、抗凝固薬、抗痙攣薬、血糖降下剤、うっ血除去薬、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、抗腫瘍薬、β遮断薬、抗炎症薬、抗精神病薬、認知増強剤、コレステロール低下剤、トリグリセリド低減剤、抗アテローム性動脈硬化剤、抗肥満剤、自己免疫疾患剤、抗インポテンス剤、抗菌剤および抗真菌剤、催眠剤、抗パーキンソン剤、抗アルツハイマー病剤、抗生物質、抗うつ剤、抗ウイルス剤、グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤、およびコレステリルエステル転送蛋白阻害剤が挙げられる。
【0108】
活性剤は、活性剤の任意の医薬上許容可能な形を包含することを理解すべきである。「医薬上許容可能な形」は、任意の医薬上許容可能な誘導体または変形(立体異性体、立体異性体混合物、エナンチオマー、溶媒和物、水和物、同形体、多形体、仮像、中性形、塩形、およびプロドラッグ剤等)を意味する。
【0109】
V.医薬組成物
医薬組成物(低溶解性活性剤およびHPMCASポリマー等)の態様を開示する。開示される医薬組成物中に存在する活性剤の量に対するポリマーの量は、活性剤およびポリマー上の置換基レベルの組合せに左右され、活性剤-対-ポリマーの質量比0.01?100(例えば1質量%活性剤から99質量%活性剤)から広範に変動できる。殆どの場合で、活性剤-対-ポリマーの比は0.05(4.8質量%活性剤)超および20(95質量%活性剤)未満であることが好ましい。
【0110】
好ましい態様において、組成物は、高量の活性剤を有する。「高量の活性剤」は、医薬組成物が少なくとも40質量%の活性剤を含むことを意味する。好ましくは、医薬組成物は、少なくとも45質量%の活性剤を含み、より好ましくは少なくとも50質量%の活性剤を含む。そのような高量の活性剤は、医薬組成物の量を低い値に維持するのに望ましい。
【0111】
活性剤およびポリマーは、任意の好適な様式,例えばブレンドまたは混合(例えば湿式または乾式の顆粒化)、活性剤粒子を部分的または完全にポリマーでコーティングすること、活性剤を含むタブレットをポリマーでコーティングすること、共投与(すなわち、2種の成分を別個に、しかし同じ概略時間軸内に投与すること)によって組合せることができる。好ましい態様において、活性剤およびポリマーを組合せて下記の固体非晶分散体を形成する。
【0112】
VI.固体非晶分散体
一態様において、組成物は、活性剤およびHPMCASを含む固体分散体の形状であり、分散体中の活性剤の少なくとも90質量%が非結晶性である。
【0113】
分散体中の活性剤とHPMCASとの相対量は、0.01質量%?99質量%の活性剤、および1質量%?99.99質量%のHPMCASであることができる。他の態様において、活性剤の量は、0.1質量%?80質量%、または0.1質量%?60質量%、または1質量%?40質量%の範囲であることができる。HPMCASの量は、20質量%?99.9質量%、40質量%?99.9質量%、または60質量%?99質量%の範囲であることができる。更に別の態様において、分散体は、以下の組成を有する:0.1?80質量%の活性剤、および20?99.9質量%のHPMCAS。更に別の態様において、分散体は以下の組成を有する:0.1?60質量%の活性剤、および40?99.9質量%のHPMCAS。別の態様において、分散体は以下の組成を有する:1?40質量%の活性剤、および60?99質量%のHPMCAS。
【0114】
一態様において、分散体中に存在する活性剤の少なくとも90質量%は非晶である。「非晶」は、活性剤が、示差走査熱量計で、粉末X線回折(PXRD)で、固相核磁気共鳴(NMR)で、または任意の他の公知の定量測定で、評価したときに非結晶性であることを意味する。
【0115】
HPMCASが非晶であるため、分散体は、HPMCAS相中に分散した、1種以上の活性剤リッチなドメインを含むことができ、または分散体は、HPMCAS中に分散した活性剤分子の固溶体を含むことができ、または分散体は、任意の相もしくは間の相の組合せを含むことができる。一態様において、分散体は、ポリマーの非晶性の特性に起因して少なくとも1つのTgを有する。別の態様において、分散体中の本質的に全ての活性剤およびHPMCASが固溶体の形である。よって、一態様において、組成物は、活性剤とHPMCASとの固溶体から本質的になる。
【0116】
別の態様において、分散体は、2種以上の活性剤を含む。更に別の態様において、活性剤およびポリマーの相対量は、分散体がガラス転移温度少なくとも50℃を相対湿度50%にて有するように選択される。別の態様において、相対湿度5%未満で評価した場合、分散体はガラス転移温度少なくとも50℃、または少なくとも80℃、または更に少なくとも100℃を有する。固体分散体は単独のガラス転移温度を有し、固体分散体が均一な固溶体であることを示す。
【0117】
本発明の固体分散体は、当該分野で公知の任意の方法,例えばミル粉砕、押出し、沈殿、または溶媒添加、次いで溶媒除去によって形成できる。例えば、活性剤およびHPMCASは熱、機械的混合および押出し(例えば二軸押出機を用いて)で処理できる。次いで生成物を所望の粒子サイズにミル粉砕できる。別の例で、活性剤およびHPMCASは溶媒(両物質はこれに可溶である)中に溶解する。次いで分散体を該溶液から任意の公知のプロセス,例えば混和性非溶媒中での沈殿、非混和性非溶媒中での乳化、または液滴の形成、次いで溶媒の蒸発による除去、で形成できる。
【0118】
一態様において、固体分散体はスプレー乾燥で形成する。活性剤、HPMCAS、および任意の賦形剤を溶媒中に溶解させることができる。よって、スプレー乾燥される流体は、サスペンションまたは均一溶液または溶解および懸濁した物質の組合せであることができる。一態様において、スプレー乾燥される流体は、溶媒中に一緒に溶解した活性剤およびHPMCASの均一溶液を含む。別の態様において、スプレー乾燥される流体は、溶媒中に溶解した活性剤およびHPMCASの溶液から本質的になる。更に別の態様において、スプレー乾燥される流体は、溶媒中に溶解したHPMCASの溶液中の活性剤粒子のサスペンションを含む。
【0119】
溶媒は、沸点約150℃未満を有する活性剤およびポリマーの両者を溶解させることができる任意の溶媒または溶媒の混合物であることができる。好適な溶媒としては、水、アセトン、メタノール、エタノール、メチルアセテート、エチルアセテート、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタンおよび溶媒の混合物が挙げられる。スプレー乾燥溶液が水混和性の有機溶媒(例えば、アセトンまたはメタノール)を含む場合、水を溶液に添加できる。スプレー乾燥溶液を次いで、アトマイザー(例えば圧力ノズルまたは2つの流体ノズル)でスプレー乾燥チャンバー中にスプレーする。液滴を、加熱された乾燥ガス(例えば乾燥窒素)に接触させる。液滴は急速に乾燥し、活性剤およびHPMCASを含む固体非晶分散体の粒子を形成する。粒子はスプレードライヤーを出て、収集(例えばサイクロン内で)される。
【0120】
一態様において、固体分散体は、高表面積基材の存在中で形成される。例示的な高表面積基材としては、無機酸化物,例えばSiO_(2)(ヒュームドシリカ)、TiO_(2)、ZnO_(2)、ZnO、A1_(2)O_(3)、ゼオライト、および無機分子篩;水不溶性ポリマー,例えば架橋セルロースアセテートフタレート、架橋ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、架橋ポリビニルピロリドン(クロスポビドンとしても公知)、架橋セルロースアセテートフタレート、微結晶セルロース、ポリエチレン/ポリビニルアルコールコポリマー、ポリエチレンポリビニルピロリドンコポリマー、架橋カルボキシメチルセルロース、ナトリウムスターチグリコレート、架橋ポリスチレンジビニルベンゼン;および活性炭が挙げられる。一態様において、基材はヒュームドシリカである。この態様において、固体分散体は基材の表面上に吸着でき、基材の外側の上にコートでき、またはこれらの任意の組合せであることができる。
【0121】
別の態様において、固体分散体は適切な基材上のコーティングとして形成できる。例えば、固体分散体は50μm?5,000μmの範囲の径を有する多粒子上にコートできる。別の例において、固体分散体はタブレット上またはカプセル上にコートできる。更に別の態様において、固体分散体はタブレット内に組込まれている層に形成できる。
【0122】
VII.物理的安定性
低溶解性活性剤および開示されるHPMCASポリマーの態様を含む固体非晶分散体は、一般的に、改善された物理的安定性を有する。本開示で用いる「物理的安定性」または「物理的に安定な」は、(1)分散体中に存在する非晶活性剤が結晶化する傾向、または(2)分散体が実質的に均一である場合、活性剤は活性剤リッチドメインに分離し、活性剤リッチドメイン中の活性剤が非晶または結晶性である傾向、のいずれかを意味する。よって、他のものよりも物理的に安定である分散体は、(1)分散体中の活性剤結晶化のより遅い速度、または(2)活性剤リッチドメイン形成のより遅い速度、のいずれかを有することになる。具体的には、特定の態様において、固体非晶分散体は、3週間、25℃および10%RHでの貯蔵中に結晶化するのが分散体中の活性剤の10質量%未満である十分な安定性を有する。好ましくは、活性剤の5質量%未満が3週間、25℃および10%RHでの貯蔵中に結晶化する。
【0123】
一態様において、本開示で開示する、低溶解性活性剤およびHPMCASポリマーを用いて形成された固体非晶分散体は、対照組成物と比べて改善された物理的安定性を与える。物理的安定性を評価するために用いる対照組成物は、等量のHPMCAS中の等量の活性剤の固体非晶分散体から本質的になるが、ここでHPMCASは市販グレードのHPMCAS(例えばAQOAT「L」グレード、「M」グレード、または「H」グレードのいずれか)である。特に、物理的安定性は、試験組成物中の薬物の結晶化の程度を対照組成物中の程度と比較することによって、試験組成物中の薬物の相分離の程度を対照組成物の程度と比較することによって、または試験組成物の薬物/ポリマー分散体からの薬物の相分離の程度を対照組成物における程度と比較することによって、評価できる(米国特許出願公開第2008/0262107号(参照により本明細書に組入れる)に記載されるように)。
【0124】
開示されるHPMCASポリマーを含む組成物についての物理的安定性の改善は、良好な物理的安定性を維持しながら、より高い活性剤量(例えばより高い活性剤:ポリマー比)を有する固体非晶分散体を形成することを可能にする。
【0125】
VIII.濃度向上
別の別個の態様において、HPMCASポリマーを含有する組成物は濃度向上性である。用語「濃度向上性」は、ポリマーが、水性使用環境中での溶解した活性剤の濃度を、ポリマーを有さない対照組成物に対して改善、または増大させるように組成物中に十分量存在することを意味する。本開示で用いる「使用環境」は、動物(例えば哺乳類、特に人間)の消化管、皮下、鼻腔、口、髄腔、目、耳、皮下空間、膣管、動脈および静脈の血管、肺管、もしくは筋肉組織のインビボ環境、または試験溶液,例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、酵素を有さない擬似腸緩衝液(SIN)、Model Fasted Duodenal (MFD)溶液、もしくは摂取状態モデルのための溶液のインビトロ環境のいずれであることもできる。濃度向上は、インビトロ溶解試験で、またはインビボ試験で、のいずれでも評価できる。インビトロ溶解試験での向上した活性剤濃度が評価されてきた。そのようなインビトロ試験溶液がインビボ性能および生体利用効率の良好なインジケータを与える。適切なPBS溶液は、20mM リン酸ナトリウム(Na_(2)HPO_(4))、47mM リン酸カリウム(KH_(2)PO_(4))、87mM NaCl、および0.2mM KC1を含み、NaOHでpH6.5に調整された水性溶液である。適切なSIN溶液は、pH7.4に調整された50mM KH_(2)PO_(4)である。適切なMFD溶液は同じPBS溶液で、更に7.3mM タウロコール酸ナトリウムおよび1.4mM 1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンが存在する溶液である。摂取状態モデルのための適切な溶液は、同じPBS溶液で、更に29.2mM タウロコール酸ナトリウムおよび5.6mMの1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンが存在する溶液である。特に、組成物は、これをインビトロ試験溶液に添加して撹拌して溶解を促進することにより、または膜浸透試験を行うことにより(米国特許出願公開第2008/0262107号(参照により本明細書に組入れる)に記載されるように)、溶解試験できる。
【0126】
一側面において、HPMCASポリマーを含む組成物の態様は、水性使用環境に投与する場合、ポリマーを含まない対照組成物によって与えられるMAACの少なくとも1.25倍の最大活性剤濃度(MAAC)を与える。言い換えると、対照組成物によって与えられるMAACが100μg/mLである場合には、濃度向上ポリマーを含有する組成物は、少なくとも125μg/mLのMAACを与える。より好ましくは、開示されるHPMCASポリマーを含む組成物で与えられる活性剤のMAACは、対照組成物のものの少なくとも2倍、更により好ましくは少なくとも3倍、および最も好ましくは少なくとも5倍である。驚くべきことに、組成物は、水性濃度において非常に大きな向上を実現できる。幾つかの場合、開示されるHPMCASポリマーを含む組成物によって得られる極めて疎水性の活性剤のMAACは、対照組成物のものの少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも200倍、少なくとも500倍、から1000倍超である。
【0127】
対照組成物は、従来、分散していない活性剤単独(例えば、典型的には、その熱力学的に最も安定な結晶形での結晶性活性剤単独、または活性剤の結晶形が未知である場合、対照は非晶活性剤単独であることができる)であり、または活性剤と、これに加え試験組成物中のポリマーの質量と等量の不活性希釈剤である。不活性は、希釈剤が濃度向上性ではないことを意味する。よって、対照組成物は活性剤を含むがHPMCASポリマーを含まない。
【0128】
これに代えて、開示されたHPMCASポリマーを含む組成物の幾つかの態様は、水性使用環境中で、濃度 対 時間の曲線下面積(AUC)を、使用環境中への導入時と、使用環境への導入後270分との間の少なくとも90分間の任意の期間について、対照組成物のものの少なくとも1.25倍で与える。より好ましくは、開示される組成物の特定態様で実現される水性使用環境中のAUCは、対照組成物のものの少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも3倍、および最も好ましくは少なくとも5倍である。幾つかの疎水性活性剤について、組成物は、上記の対照のものの少なくとも10倍、少なくとも25倍、少なくとも100倍、および更には250倍超のAUC値を与えることができる。
【0129】
これに代えて、開示されるHPMCASポリマーを含有する組成物の幾つかの態様は、人間または他の動物に経口投与される場合、血漿中または血清中の活性剤濃度において、適切な対照組成物(すなわち、HPMCASポリマーなしで活性剤を含む組成物)を投与する場合に観察されるものの少なくとも1.25倍のAUCを与える。好ましくは、血中AUCは、対照組成物のものの少なくとも2倍、好ましくは少なくとも3倍、好ましくは少なくとも4倍、好ましくは少なくとも6倍、好ましくは少なくとも10倍、および更により好ましくは少なくとも20倍である。そのような組成物はまた、対照組成物のものの1.25倍から20倍の相対生体効率を有するということができる。よって、開示される組成物の特定態様は、評価される場合、インビトロ、もしくはインビボ、またはこれらの両者のいずれかで、性能基準に合致する。
【0130】
これに代えて、開示されるHPMCASポリマーを含む組成物の幾つかの態様は、人間または他の動物に経口投与される場合、適切な対照組成物を投与する場合に観察されるものの少なくとも1.25倍の血漿中または血清中の最大活性剤濃度(C_(max))を与える。好ましくは、血中C_(max)は、対照組成物のものの少なくとも2倍、好ましくは少なくとも3倍、好ましくは少なくとも4倍、好ましくは少なくとも6倍、好ましくは少なくとも10倍、および更により好ましくは少なくとも20倍である。
【0131】
これに代えて、開示される組成物は、人間または他の動物に経口投与される場合、改善された生体利用効率またはC_(max)をもたらすことができる。組成物中の活性剤の相対的な生体利用効率およびC_(max)は動物または人間で、そのような評価をするための従来の方法を用いてインビボで試験できる。インビボ試験,例えばクロスオーバー試験、は活性剤およびポリマーの組成物が、上記の対照組成物と比べて向上した相対的な生体利用効率またはC_(max)を有するか否かを評価するために用いる。インビボクロスオーバー試験において、低溶解性活性剤およびポリマーを含む試験組成物は、被験者の半分に投与し、適切なウオッシュアウト期間(例えば1週間)後、同じ被験者に、試験組成物と等量の結晶性活性剤からなる対照組成物(しかしポリマーは存在しない)を投与する。グループの他の半分には対照組成物をまず投与し、次いで試験組成物を投与する。相対的な生体利用効率を、血中(血清または血漿)の活性剤の濃度 対 曲線下時間面積(試験グループで評価されるもの)を対照組成物によって得られる血中AUCで除したもの、として測定する。好ましくは、この試験/対照比は、各被験者について評価され、次いで試験の全被験者で比を平均する。AUCおよびC_(max)のインビボ評価は、横座標(x軸)に沿った時間に対して、縦座標(y軸)に沿って活性剤の血清または血漿の濃度をプロットすることによって行うことができる。用量を容易にするために、用量媒体を用いて用量を投与できる。用量媒体は好ましくは水であるが、試験組成物または対照組成物を懸濁させるための物質も含有できる(但しこれらの物質が組成物を溶解させ、またはインビボでの活性剤の水性溶解性を変化させることがないことを条件とする)。AUCおよびC_(max)の評価は周知の手順であり、例えば、Welling,“Pharmacokinetics Processes and Mathematics,”ACS Monograph 185(1986)に記載されている。
【0132】
IX.賦形剤および剤形
組成物中に他の賦形剤を含めることは、組成物をタブレット、カプセル、サスペンション、サスペンション用粉末、クリーム、経皮パッチ、デポ等に配合するために有用である場合がある。活性剤およびポリマーの組成物は、活性剤を実質的に変えない本質的に任意の様式で他の剤形含有成分に添加できる。開示される組成物が固体非晶分散体の形状である場合、賦形剤は分散体と物理的に混合でき、および/または分散体中に含めることができる。
【0133】
従来の配合賦形剤は、開示される組成物の態様において用いることができ、周知の賦形剤(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(20th ed.,2000)に記載されるもの)が挙げられる。一般的に、賦形剤,例えばフィラー、崩壊剤、顔料、バインダー、潤滑剤、流動促進剤、香料等、を慣例の目的で、組成物の特性に負に影響しない典型的な量で使用できる。これらの賦形剤は、組成物をタブレット、カプセル、座薬、サスペンション、サスペンション用粉末、クリーム、経皮パッチ、デポ等に配合するために、活性剤/ポリマー組成物を形成した後に利用できる。
【0134】
開示される組成物の態様は、広範なルート(例えば、これらに限定するものではないが、口、鼻、直腸、膣、皮下、静脈および肺)で送達できる。一般的に、経口ルートが好ましい。
【0135】
開示されるHPMCASポリマーおよび該ポリマーを含む組成物の他の特徴および態様は、開示される態様の意図する範囲の限定を意図せず、例示のために与えられる以下の例から明らかとなろう。
【0136】
X.例
例1
HPMCASポリマーの合成および特性化
ポリマー1?3を合成し、それぞれHPMCAS-K(1)、HPMCAS-K(2)、およびHPMCAS-K(3)とした。Kの表示は、出発物質(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)グレード、すなわちMETHOCEL(登録商標)K3 Premium LV(Dow Chemical)を意味する。K-グレードMETHOCEL(登録商標)はメトキシル量19?24質量%を有する。比較で、EグレードMETHOCEL(登録商標)は、メトキシル量28?30質量%を有する。1、2および3の表示は、低、中、および高のアセテート置換 対 サクシネート置換の比を意味する。
【0137】
1.HPMCAS-K(l):122g HPMC(Dow METHOCEL(登録商標)K3 Premium LV)を、198.8gの氷酢酸とガラス反応容器(凝縮器および窒素パージを備える)中で組合せ、450rpmで撹拌しながら91℃に加熱した。次いで、97.9gの無水酢酸を数分間かけてゆっくり添加した。20.5gの無水コハク酸、39.5gの酢酸ナトリウム、および1.9gの塩素酸ナトリウムの乾燥混合物を添加し、1時間撹拌しながら反応させた。20.6gの無水コハク酸および39.8gの酢酸ナトリウムの第2の乾燥混合物を添加し、3.5時間撹拌しながら反応させた。反応混合物を水に添加することによって反応をクエンチした。ポリマーをろ過により収集し、数回水で洗浄した。次いでポリマーを使用前に乾燥させた。
【0138】
2.HPMCAS-K(2):122gのHPMC(Dow METHOCEL(登録商標)K3 Premium LV)を165gの氷酢酸と組合せ、上記と同じ装置を用い、1.75時間、450rpmで撹拌しながら91℃に加熱した。次いで、109.5gの無水酢酸を数分間かけてゆっくり添加した。15gの無水コハク酸、36.2gの酢酸ナトリウム、および1.8gの塩素酸ナトリウムの乾燥混合物を添加し、5分間撹拌しながら反応させた。36.2gの酢酸ナトリウムおよび15gの無水コハク酸の第2の乾燥混合物を添加し、6時間撹拌しながら反応させた。次いで反応をクエンチし、上記のように精製した。
【0139】
3.HPMCAS-K(3):122.2gのHPMC(Dow METHOCEL(登録商標)K3 Premium LV)を121gの氷酢酸と組合せ、50rpmで撹拌しながら91℃まで加熱した。追加の酢酸を添加して固形分量を40質量%まで下げた。次いで、142gの無水酢酸を添加し、次いで8gの無水コハク酸、38.5gの酢酸ナトリウム、および1.9gの塩素酸ナトリウムを添加して、450rpmで45分間撹拌しながら反応させた。撹拌を200rpmに低減し、反応を更に15分間行った。撹拌を330rpmに増大させ、38.5gの酢酸ナトリウムおよび8gの無水コハク酸の第2の乾燥混合物を添加した。フラスコを30分間雰囲気に開放して過剰の酢酸を蒸発させた。次いでフラスコを閉じて、250rpmで6.5時間撹拌しながら還流させた。次いで反応をクエンチし、上記のように精製した。
【0140】
特性化
各ポリマーにおけるアセテートおよびサクシネートの置換度を、III節で上記したように評価した。見掛け分子量は、サイズ排除クロマトグラフィで評価した。結果を表3および図1に示す。比較のために、市販で入手可能なHPMCASポリマー(信越より)の置換度および分子量も示す。信越の分子量は過去の範囲である。
【0141】
【表3】

【0142】
アセチル基およびサクシノイル基による置換は、サッカリド環中の可能なC2、C3もしくはC6炭素で、またはヒドロキシプロポキシ(HP)基の遠位端で生じることができる。置換の位置化学を評価するために、^(13)C NMRを行った。各々の可能な位置での置換度についての結果を表4に示す。図2は、HPMCAS-K(1)、HPMCAS-K(2)、およびHPMCAS-K(3)のNMRスペクトルを示す。
【0143】
【表4】

【0144】
ポリマーのガラス転移温度は、その物理的安定性に関係する。典型的には、物理的安定性は、高いTg値を有するポリマーでより大きい。合成されたポリマーのガラス転移温度は75%相対湿度(RH)および5%未満のRHで測定した。比較のために、E-グレードのHPMCAS-MGのガラス転移温度を評価した。表5に示すように、合成されたポリマーは、HPMCAS-MGと同様であったガラス転移温度を有する。図3は、評価したポリマーの、ガラス転移温度 対 相対湿度%のグラフである。
【0145】
【表5】

【0146】
この例の開示されるポリマーのコロイド性を評価し、アセテート/サクシネート置換の低、中または高の比を有するE-グレードのHPMCから合成されたHPMCASポリマー(HPMCAS-LG,-MG,および-HG)のコロイド性と比較した。各ポリマーについて、10mLのPBSバッファー中1.0質量%溶液を調製し、pH5.5、6.5または7.5に調整した。サンプルを37℃で3時間撹拌した。pHをチェックし、必要に応じて希水酸化ナトリウムを用いて調整した。サンプルを37℃にて700rpmで更に21時間撹拌した。各サンプルを1.0μmガラスフィルターでろ過することによって不溶性ポリマーを除去した。コロイド状の、および溶解したポリマーを1.0μmガラスフィルターに通した。濁度の測定は、動的光散乱(DLS)(ZetaPALS装置(Brookhaven Instruments)で)を用いて行った。光強度は、HPMCAS-MGサンプルを用いてpH5.5にて最大化した。コロイド径は、DLS BI-200SM粒子サイズ分析器(BI-9000AT相関器を有する)で評価した。自己相関関数からの指数の和を、CONTINソフトウエアを用いて分析し、サンプルからサイズ分布を抽出した。pH5.5で(表6、図4)、HPMCAS-K(2)およびHPMCAS-K(1)は、E-グレードのHPMCAS-MGとほぼ同じ量のコロイド種を示した。HPMCAS-K(3)は、最も低い濁度値を有した。pH6.5で(表7、図5)、全3つのK-グレードのHPMCASポリマーは、E-グレードのMGおよびLGのポリマーよりも大きい量のコロイド種を示した。しかし、E-グレードのHGのポリマーはpH6.5で最も大きく濁った。pH7.5で(表8、図6)、全3つのK-グレードのHPMCASポリマーは、ほぼ同じ量のコロイド種を形成した。これはE-グレードのMGおよびLGのポリマーよりも大きかった。E-グレードのHGのポリマーは、pH7.5で最も大きい濁度を示した。
【0147】
【表6】

【0148】
【表7】

【0149】
【表8】

【0150】
例2
フェニトイン沈殿阻害およびインビトロ濃度向上
HPMCAS-K(3)中およびHPMCAS-K(1)中のフェニトインの溶解特性を測定し、E-グレードのHPMCAS-HGおよびHPMCAS-LGにおけるフェニトインの溶解と比較した。フェニトインをメタノール中、濃度18mg/mLで溶解させた。ポリマーをPBS(20mM リン酸ナトリウム(Na_(2)HPO_(4))、47mM リン酸カリウム(KH_(2)PO_(4)),87mM NaCl,および0.2mM KC1,pH6.5にNaOHで調整))中、濃度1.5mg/mLで溶解させた。メタノール中に溶解したフェニトインをPBSまたはPBSの溶液(溶解したポリマーを含有するもの)(37℃で)のそれぞれに添加して、全てのフェニトインが溶解したらフェニトインの濃度が500μg/mLとなるようにした。次いで、ポリマー/PBS溶液中のフェニトインの溶解濃度を、HPLCで0,5,10,20,40,90および1200分で測定した。HPLCは、ZORBAX(登録商標)RX-C18カラム(4.6x75mm、3.5μm、Agilent Technologies)および水中0.2%H_(3)PO_(4)を含む移動相を用いて行い、流量1.0mL/分で、10μLの各溶液を注入した。各溶液について、フェニトインの添加後、初めの90分間の測定される時点に亘る最大濃度(C_(max90))、および1200分での濃度(C_(1200))を評価し、更に、0?90分の曲線下面積(AUC_(90))を評価した。表9および図7に示すように、HPMCAS-K(3)はHPMCAS-LGおよびPBSの単独よりも大幅に良好にフェニトイン沈殿を阻害した。HPMCAS-K(3)およびHPMCAS-LGは同様のサクシネート置換度を有する(それぞれ0.25および0.40(表7参照))が、大きく異なるアセテート置換度(それぞれ1.41および0.47)を有する。よって、データは、増大したアセテート置換がフェニトイン沈殿の阻害を増大することを示す。
【0151】
【表9】

【0152】
HPMCAS-K(3),HPMCAS-K(1),HPMCAS-HG,およびHPMCAS-LG中、25質量%フェニトインを含むスプレー乾燥した分散体(SDD)を、VIII節に記載したように調製した。SDDおよびバルクのフェニトインを、37℃、MFDS中の微小遠心溶解で2回評価(X節で上記した通り)して、濃度向上がSDDで見られたか否かを評価した。溶解濃度はHPLCで測定した。表10および図8に示すように、フェニトイン:HPMCAS-K(3) SDDは、フェニトイン:HPMCAS-LG SDDまたはバルクのフェニトインよりも良好な溶解および持続を示した。結果は、サクシネート置換に対して増大したアセテート置換がフェニトインの溶解を向上させることを示す。
【0153】
【表10】

【0154】
例3
イトラコナゾール沈殿阻害およびインビトロ濃度向上
HPMCAS-K(3)中およびHPMCAS-K(1)中のイトラコナゾールの溶解特性を測定し、E-グレードのHPMCAS-HGおよびHPMCAS-LG(AQOAT-HGおよびAQOAT-LG,信越)におけるイトラコナゾールの溶解と比較した。イトラコナゾールをジメチルスルホキシド(DMSO)中、濃度18mg/mLで溶解させた。ポリマーをPBS(20mM リン酸ナトリウム(Na_(2)HPO_(4))、47mM リン酸カリウム(KH_(2)PO_(4)),87mM NaCl,および0.2mM KC1,pH6.5にNaOHで調整))中、濃度1.5mg/mLで溶解させた。DMSO中に溶解したイトラコナゾールをPBSまたはPBSおよび溶解したポリマーの溶液(37℃で)のそれぞれに添加して、全てのイトラコナゾールが溶解したらイトラコナゾールの濃度が500μg/mLとなるようにした。次いで、溶液中のイトラコナゾールの溶解濃度を、HPLCで0,5,10,20,40,90および1200分で測定した。HPLCは、ZORBAX(登録商標)RX-C18カラム(4.6x75mm、3.5μm、Agilent Technologies)および40%の10mM酢酸アンモニウム/60%アセトニトリルを含む移動相を用いて行い、流量1.0mL/分で、10μLの各溶液を注入した。各溶液について、イトラコナゾールの添加後、初めの90分間の測定される時点に亘る最大濃度(C_(max90))、および1200分での濃度(C_(1200))を評価し、更に、0?90分の曲線下面積(AUC_(90))を評価した。表11に示すように、AUC_(90)に基づき、HPMCAS-K(3)は他のポリマーまたはPBSの単独よりも大幅に良好なイトラコナゾール沈殿を示した。HPMCAS-K(1)は、HPMCAS-HGおよびHPMCAS-LGと同様の沈殿を示した。HPMCAS-K(3)は、HPMCAS-K(1)(0.85),HPMCAS-HG(0.65)およびHPMCAS-LG(0.47)よりも大幅に大きいアセテート置換度(1.41)を有し、増大したアセテート置換がイトラコナゾールの沈殿の阻害を増大させることを示す。
【0155】
【表11】

【0156】
HPMCAS-K(1)およびHPMCAS-HG中、25質量%イトラコナゾールを含むスプレー乾燥させた分散体(SDD)を、VIII節に記載するように調製した。SDDおよびバルクのイトラコナゾールを、37℃、MFDS中の微小遠心溶解で2回評価(X節で上記した通り)して、濃度向上がSDDで見られたか否かを評価した。溶解濃度はHPLCで上記のように測定した。表12および図9に示すように、イトラコナゾール:HPMCAS-K(1) SDDは、イトラコナゾール:HPMCAS-HG SDD、イトラコナゾール:HPMCAS-K(3) SDD、またはバルクのイトラコナゾールよりも大幅に良好な溶解を示した。
【0157】
【表12】

【0158】
一態様において、組成物は、活性剤;ならびに、メトキシ基の置換度(DS_(M))≦1.45、ならびにアセチル基(DS_(Ac))とサクシノイル基(DS_(S))との組合せ置換度(DS_(Ac)+DS_(S))≧1.25を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を含む。別の態様において、上記の関連する組成物の任意の1つ以上は、(DS_(Ac)+DS_(S))≧1.35を有することができる。他の態様において、上記の関連する組成物の任意の1つ以上は、1.25≦(DS_(Ac)+DS_(S))≦1.9を有することができる。他の態様において、上記の関連する組成物の任意の1つ以上は、1.5≦(DS_(Ac)+DS_(S))≦1.7を有することができる。他の態様において、上記の関連する組成物の任意の1つ以上は、DS_(Ac)≧0.5、DS_(S)≧0.20、および1.25≦(DS_(Ac)+DS_(S))≦1.9を有することができる。
【0159】
他の態様において、開示される組成物の任意の1つ以上は、アセチル基のサクシノイル基に対する比 0.8?6.5の間を有することができる。他の態様において、開示される組成物の任意の1つ以上は、アセチル基のサクシノイル基に対する比 1.0?6.0の間を有することができる。他の態様において、開示される組成物の任意の1つ以上は、アセチル基のサクシノイル基に対する比 1.2?5.6の間を有することができる。
【0160】
他の態様において、開示される組成物の任意の1つ以上は、1.0≦DS_(Ac)≦1.5、および0.20≦DS_(S)≦0.7を有することができる。
【0161】
別の態様において、組成物は、活性剤;ならびに、メトキシ基の置換度(DS_(M))≦1.45、アセチル基の置換度(DS_(Ac))≧0.5、およびサクシノイル基の置換度(DS_(S))≧0.20を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を含む。
【0162】
別の態様において、組成物は、活性剤;ならびに、メトキシ基の置換度(DS_(M))≦1.45、アセチル基(DS_(Ac))とサクシノイル基(DS_(S))との組合せ置換度(DS_(Ac)+DS_(S))≧1.25、アセチル基の置換度(DS_(Ac))≦1.2、およびサクシノイル基の置換度(DS_(S))≦0.9を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を含む。
【0163】
他の態様において、開示される組成物の任意の1つ以上は、固体非晶分散体の形であって該分散体中の該活性剤の少なくとも90質量%が非結晶性であるものであることができる。
【0164】
開示される発明の原理を適用できる多くの可能な態様に鑑み、例示の態様は本発明の好ましい例に過ぎず、本発明の範囲の限定ととるべきないことを理解すべきである。そうではなく、本発明の範囲は特許請求の範囲によって決定される。従って我々はこれら特許請求の範囲の範囲および精神に入ることになる全てを本発明として請求する。
以下もまた開示される。
[1] 活性剤;ならびに
メトキシ基置換度(DS_(M))≦1.45、ならびにアセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(s))の組合せ置換度(DS_(Ac)+DS_(s))≧1.25を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS);
を含む、組成物。
[2] (DS_(Ac)+DS_(s))≧1.35である、上記[1]に記載の組成物。
[3] 1.25≦(DS_(Ac)+DS_(s))≦1.9である、上記[1]に記載の組成物。
[4] 1.5≦(DS_(Ac)+DS_(s))≦1.7である、上記[1]に記載の組成物。
[5] DS_(Ac)≧0.5、
DS_(s)≧0.20、および
1.25≦(DS_(Ac)+DS_(s))≦1.9
である、上記[1]に記載の組成物。
[6] アセチル基のサクシノイル基に対する比が、0.8から6.5の間である、上記[1]に記載の組成物。
[7] アセチル基のサクシノイル基に対する比が、1.0から6.0の間である、上記[1]に記載の組成物。
[8] アセチル基のサクシノイル基に対する比が、1.2から5.6の間である、上記[1]に記載の組成物。
[9] 1.0≦DS_(Ac)≦1.5、および
0.20≦DS_(s)≦0.7
である、上記[8]に記載の組成物。
[10] 活性剤;ならびに
メトキシ基置換度(DS_(M))≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac))≧0.5、およびサクシノイル基置換度(DS_(s))≧0.20を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS);
を含む、組成物。
[11] 活性剤;ならびに
メトキシ基置換度(DS_(M))≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(s))の組合せ置換度(DS_(Ac)+DS_(s))≧1.25、アセチル基置換度(DS_(Ac))≦1.2、およびサクシノイル基置換度(DS_(s))≦0.9を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS);
を含む、組成物。
[12] 前記組成物が固体非晶分散体の形状であり、前記分散体中の前記活性剤の少なくとも90質量%が非結晶性である、である、上記[1]?[11]のいずれかに記載の組成物。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニトイン;ならびに
メトキシ基置換度(DS_(M))≦1.45、アセチル基置換度(DS_(Ac)) 1.0?1.5、ならびにアセチル基置換度(DS_(Ac))およびサクシノイル基置換度(DS_(s))の組合せ置換度 1.25≦(DS_(Ac)+DS_(s))≦1.9を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS);
を含む、組成物。
【請求項2】
1.5≦(DS_(Ac)+DS_(s))≦1.7である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アセチル基のサクシノイル基に対する比が、1.2から5.6の間である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
1.0≦DS_(Ac)≦1.5、および
0.20≦DS_(s)≦0.7
である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が固体非晶分散体の形状であり、前記分散体中の前記フェニトインの少なくとも90質量%が非結晶性である、請求項1?4のいずれか1項に記載の組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-05-23 
出願番号 特願2013-515418(P2013-515418)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高橋 樹理  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 大熊 幸治
関 美祝
登録日 2015-08-14 
登録番号 特許第5792807号(P5792807)
権利者 ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
発明の名称 アセテートおよびサクシネートの置換が向上されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート  
代理人 胡田 尚則  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 齋藤 都子  
代理人 有原 幸一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 青木 篤  
代理人 胡田 尚則  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 出野 知  
代理人 奥山 尚一  
代理人 出野 知  
代理人 河村 英文  
代理人 齋藤 都子  
代理人 青木 篤  

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