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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B60N
管理番号 1330115
異議申立番号 異議2017-700382  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-18 
確定日 2017-06-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6011418号発明「自動車用フロアカーペットの構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6011418号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6011418号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成25年3月28日に特許出願され、平成28年9月30日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人秋山満により特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件特許発明
本件特許の請求項1?5に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次のとおりのものである(以下それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明5」という。)。
「【請求項1】
表皮材層と前記表皮材層の裏面側の中間層とを有し、
自動車のフロアパネル上への敷設時に、前記中間層を介して前記フロアパネルと離隔して配置される前記表皮材層が前記フロアパネルと協働して二重壁構造を構成する自動車用フロアカーペットの構造であって、
前記中間層には、厚みが所定の厚み以下の薄肉箇所が部分的に設けられ、
前記薄肉箇所にのみ部分遮音層が設けられている
ことを特徴とする、自動車用フロアカーペットの構造。
【請求項2】
前記フロアパネルの中央部にはフロアパネル基面よりも上方に突出したトンネル部が前後に延びて形成され、前記フロアパネルの左右端部のサイドシルと結合する箇所には前記フロアパネル基面よりも高くなったサイドシル結合部が前後に延びて形成され、
前記薄肉箇所は、前記トンネル部及び前記サイドシル結合部を含む、前記フロアパネル基面よりも高くなった箇所に対応して設けられている
ことを特徴とする、請求項1記載の自動車用フロアカーペットの構造。
【請求項3】
前記部分遮音層はシート状材料を型抜きした一枚ものである
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の自動車用フロアカーペットの構造。
【請求項4】
前記表皮材層には高密度で且つ非通気もしくは通気抵抗の大きい材料が用いられ、
前記中間層には低密度で且つ通気抵抗の小さい材料が用いられ、
前記部分遮音層には高密度で且つ非通気もしくは通気抵抗の大きい材料が用いられている
ことを特徴とする、請求項1?3の何れか1項に記載の自動車用フロアカーペットの構造。
【請求項5】
前記部分遮音層は前記表皮材層と前記中間層の前記薄肉箇所との間に介装される
ことを特徴とする、請求項1?4の何れか1項に記載の自動車用フロアカーペットの構造。」

第3.取消理由の概要
特許異議申立人秋山満は証拠として、実公昭63-5952号公報(以下「甲第1号証」という。)、特開2011-173446号公報(以下「甲第2号証」という。)、実願平5-20486号(実開平6-72738号)のCD-ROM(以下「甲第3号証」という。)、特開昭61-70085号公報(以下「甲第4号証」という。)、特開2009-12561号公報(以下「甲第5号証」という。)を提出して、以下のとおり、請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
請求項1?5に係る特許は、甲第1号証に記載されている発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである(以下「申立理由1」という。)。
また、甲第1号証ないし甲第5号証により、請求項1?5に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下「申立理由2」という。)。
また、本件の特許請求の範囲の請求項1、及び4の記載は、同法第36条第6項第1、及び2号の規定に違反してされ、本件特許明細書の詳細な説明の記載は、同法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものである(以下「申立理由3」という。)。

第4.甲各号証の記載
1.甲第1号証
甲第1号証には、次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)「熱可塑性合成樹脂の裏打を施こしたカーペットを加熱し、軟化させた後、予め下型上にセツトしてあるフエルト及び、該フエルト上にセツトされ、フエルトよりも小なる輪郭を有する遮音シートの上に前記カーペツトを重ね、プレス成形を施こすことにより、前記遮音シートを自動車フロアの音圧の大なる部位のカーペツトとフエルトの間に形成された袋状部に挿入介在させたことを特徴とした自動車用フロアマツト。」(1頁1欄2?10行)
上記の記載を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「熱可塑性合成樹脂の裏打を施こしたカーペツトを加熱し、軟化させた後、予め下型上にセツトしてあるフエルト及び、該フエルト上にセツトされ、フエルトよりも小なる輪郭を有する遮音シートの上に前記カーペツトを重ね、プレス成形を施こすことにより、前記遮音シートを自動車フロアの音圧の大なる部位のカーペツトとフエルトの間に形成された袋状部に挿入介在させた自動車用フロアマツト。」
2.甲第2号証
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(1)「車室に面する意匠層と車体パネルに面する緩衝材層とを有する車両用成形敷設内装材であって、
プレス成形により前記車室側の凹凸形状が形成された前記意匠層と、厚み方向へ繊維が配向された繊維構造体とされた緩衝材がプレス成形されることにより前記車体パネル側の凹凸形状が形成された前記緩衝材層と、が少なくとも積層されて一体化された、車両用成形敷設内装材。」(【請求項1】)
(2)「図2,3に示すように、カーペット層の凹凸形状31と緩衝材層の凹凸形状51とは、一致していない部分がある。これにより、緩衝材層50は、場所により厚みが異なることとなる。本フロアカーペット10は、緩衝材40に厚み方向D3へ繊維45,46が配向された繊維構造体が用いられているので、緩衝材層50が厚み方向D3への深い成形に追従しており、新規な車両用成形敷設内装材とされている。」(段落【0016】)
これらの記載を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「車室に面する意匠層と車体パネルに面する緩衝材層とを有する車両用成形敷設内装材であって、
プレス成形により前記車室側の凹凸形状が形成された前記意匠層と、厚み方向へ繊維が配向された繊維構造体とされた緩衝材がプレス成形されることにより前記車体パネル側の凹凸形状が形成された前記緩衝材層と、が少なくとも積層されて一体化され、
カーペット層の凹凸形状と緩衝材層の凹凸形状とは、一致していない部分があり、これにより、緩衝材層は、場所により厚みが異なることとなる、
車両用成形敷設内装材。」
3.甲第3号証
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
(1)「自動車のフロアパネル上に敷設するフロアカーペットであって、裏面に繊維を主体とした緩衝材をそなえるものにおいて、前記緩衝材の下面が、敷設するフロアパネルに沿う形状に成形されてあり、かつ前記緩衝材の一部が厚さ10mm以下ないしは元厚さの10%以下に圧縮されていることを特徴とする自動車用フロアカーペット」(【請求項1】)
(2)「第1図は本考案のフロアカーペット10を示し、裏面には緩衝材20が配されている。フロアカーペット10は加熱して成形することが可能なものであり、略々フロアパネルにあった形状に成形してある。好適な一実施例は、ナイロン繊維の表皮繊維層11の立毛としてタフティングによってポリエステル繊維の基布12に組織したタフテッドカーペットの裏面に押出機によってダイから押し出された低密度ポリエチレン樹脂の裏打材13からなるカーペットである。
緩衝材20は、繊維を主体としてなる厚さ50mmのマットであり、下面が敷設するフロアパネルに沿う形状に成形され、特に凹凸成形部21はフロアパネルの凹凸形状に対応する形に成形してある。フロアパネルに凹凸形状の無い部分に対応する圧縮部22は厚さが実質的に0に成形してある。ここで実質的に0の厚さとは、10mm以下、好ましくは5mm以下の厚さである。または、マットの圧縮前の元厚さに対して10%以下の厚さのことである。」(段落【0009】)
(3)上記(2)、及び図1の記載から、「表皮繊維層、基布、及び裏打材からなるカーペット」が示されているといえる。
これらの記載を総合すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「自動車のフロアパネル上に敷設するフロアカーペットであって、表皮繊維層、基布、及び裏打材からなるカーペットと、裏面に繊維を主体とした緩衝材をそなえるものにおいて、前記緩衝材の下面が、敷設するフロアパネルに沿う形状に成形されてあり、特に凹凸成形部はフロアパネルの凹凸形状に対応する形に成形し、フロアパネルに凹凸形状の無い部分に対応する圧縮部は厚さが10mm以下、好ましくは5mm以下の厚さである自動車用フロアカーペット。」
4.甲第4号証
甲第4号証には、次の事項が記載されている。
(1)「高い遮音効果を有する、低域に同調させた質量-弾性体系を形成するために、層の順序を次のように、すなわち
a)カーペット層
b)重量層
c_(1))流れ抵抗が比較的高い発泡プラスチック層
c_(2))流れ抵抗が比較的低い発泡プラスチック層
という順序で選定したことを特徴とする特許請求の範囲第2項に記載のカーペット部材。」(1頁左下欄下から5行?右下欄6行)
(2)「本発明は、自動車内に遊離して内装されて、自動車の内部騒音を引下げる防音用カーペット部材に関する。」(2頁右下欄4?6行)
これらの記載を総合すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。
「高い遮音効果を有する、低域に同調させた質量-弾性体系を形成するために、層の順序を次のように、すなわち
a)カーペット層
b)重量層
c_(1))流れ抵抗が比較的高い発泡プラスチック層
c_(2))流れ抵抗が比較的低い発泡プラスチック層
という順序で選定した自動車の内部騒音を引下げる防音用カーペット部材。」
5.甲第5号証
甲第5号証には、次の事項が記載されている。
(1)「エンジンルーム(E)と車室(R)とを区画するダッシュパネル(10)の室内面側に装着される自動車用インシュレータダッシュ(20)において、
前記インシュレータダッシュ(20)は、インストルメントパネル(30)内に位置する上半部(20a)は吸音材(21)の単層構造が採用されるとともに、下半部(20b)は、吸音材(21)の表面に遮音材(22)を積層した積層構造が採用され、上記インシュレータダッシュ(20)における上半部(20a)と下半部(20b)の面密度の比率が1:2.5?5の範囲内に設定されていることを特徴とする自動車用インシュレータダッシュ。」(【請求項1】)
上記の記載を総合すると、甲第5号証には、次の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されているものと認められる。
「エンジンルーム(E)と車室(R)とを区画するダッシュパネル(10)の室内面側に装着される自動車用インシュレータダッシュ(20)において、
前記インシュレータダッシュ(20)は、インストルメントパネル(30)内に位置する上半部(20a)は吸音材(21)の単層構造が採用されるとともに、下半部(20b)は、吸音材(21)の表面に遮音材(22)を積層した積層構造が採用され、上記インシュレータダッシュ(20)における上半部(20a)と下半部(20b)の面密度の比率が1:2.5?5の範囲内に設定されている自動車用インシュレータダッシュ。」

第5.判断
1.申立理由1、及び2について
(1)本件特許発明1について
ア.対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、
後者における「熱可塑性合成樹脂の裏打を施したカーペツト」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「表皮材層」に相当し、以下同様に、「フエルト」は「中間層」に、「自動車フロア」は「自動車のフロアパネル」に、「自動車用フロアマツト」は「自動車用フロアカーペット」に、それぞれ相当する。
また、後者における「遮音シート」は、自動車フロア(自動車のフロアパネル)の音圧の大なる部位に配置されされているから、前者における「部分遮音層」に相当する。
また、後者におけるカーペツトは、フエルト上にセツトされるから、「カーペツト(表皮材層)の裏面側にフエルト(中間層)を有している」といえる。
また、後者の自動車用フロアマツト(自動車用フロアカーペット)は、「自動車フロア(自動車のフロアパネル)上への敷設されるもの」であって、カーペツト(表皮材層)の裏面側にフエルト(中間層)を有しているといえるから、「フエルト(中間層)を介して自動車フロア(自動車のフロアパネル)と離隔して配置される」といえる。してみると、後者の自動車用フロアマツト(自動車用フロアカーペット)は、「カーペツト(表皮材層)が自動車フロア(自動車のフロアパネル)と協働して二重壁構造を構成している」ことは明らかである。
後者における「自動車用フロアマツト(自動車用フロアカーペット)」は、その後者の全体構成から、「自動車用フロアマツト(自動車用フロアカーペット)の構造」が示されているといる。
したがって、両者は、
「表皮材層と前記表皮材層の裏面側の中間層とを有し、
自動車のフロアパネル上への敷設時に、前記中間層を介して前記フロアパネルと離隔して配置される前記表皮材層が前記フロアパネルと協働して二重壁構造を構成する自動車用フロアカーペットの構造であって、
部分遮音層が設けられている、
自動車用フロアカーペットの構造。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
本件特許発明1においては、「中間層には、厚みが所定の厚み以下の薄肉箇所が部分的に設けられ、前記薄肉箇所にのみ」部分遮音層が設けられているのに対し、引用発明1においては、そのようなものでない点。
イ.判断
そうすると、引用発明1は、上記相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項を具備していない。
したがって、本件特許発明1が、引用発明1であるとすることはできない。
次に、上記相違点について以下検討する。
引用発明2は、上記「第4 2.」のとおりであって、引用発明2における「意匠層」は、その構造、機能、作用等からみて、本件特許発明1における「表皮材層」に相当し、以下同様に、「緩衝材層」は「中間層」に、「車体パネル」は「自動車のフロアパネル」に、「車両用成形敷設内装材」は「自動車用フロアカーペット」に、それぞれ相当する。
また、引用発明2における「緩衝材層(中間層)」は、車体パネル(自動車のフロアパネル)側の凹凸形状が形成され、場所により厚みが異なっているから、「緩衝材層(中間層)の厚みは、所定の厚み以下の薄肉箇所が部分的に設けられている」といえる。
引用発明3は、上記「第4 3.」のとおりであって、引用発明3における「表皮繊維層、基布、及び裏打材からなるカーペット」は、その構造、機能、作用等からみて、本件特許発明1における「表皮材層」に相当し、以下同様に、「緩衝材」は「中間層」に、「自動車のフロアパネル」は「自動車のフロアパネル」に、「自動車用フロアカーペット」は「自動車用フロアカーペット」に、それぞれ相当する。
また、引用発明3における「緩衝材(中間層)」は、その下面が、敷設するフロアパネルに沿う形状に成形されて、特に凹凸成形部はフロアパネルの凹凸形状に対応する形に成形しているから、「緩衝材(中間層)の厚みは、所定の厚み以下の薄肉箇所が部分的に設けられている」といえる。
引用発明4は、上記「第4 4.」のとおりであって、引用発明4における「カーペット層」は、その構造、機能、作用等からみて、本件特許発明1における「表皮材層」に相当し、以下同様に、「流れ抵抗が比較的高い発泡プラスチック層、及び流れ抵抗が比較的低い発泡プラスチック層」は「中間層」に、「自動車の内部騒音を引下げる防音用カーペット部材」は「自動車用フロアカーペット」に、それぞれ相当する。
また、引用発明4における「重量層」と本件特許発明1の「部分遮音層」とは、「遮音層」との概念で共通する。
引用発明5は、上記「第4 5.」のとおりであって、引用発明5における「遮音材(22)」は、自動車用インシュレータダッシュの下半部(20b)に設けられたものであるから、本件特許発明1における「部分遮音層」に相当する。
してみると、引用発明2?5には、上記相違点に係る本件特許発明1の「薄肉箇所にのみ」部分遮音層が設けられているとの発明特定事項が示されていない。
そして、本件特許発明1は、上記相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項により、「効率よく遮音性能を向上させつつも、重量増を抑制することができるようにした」(段落【0012】、【0017】参照。)という格別な作用効果を奏するものである。
しかも、上記相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項とする根拠もない。
したがって、引用発明1において、上記相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えるものとすることについて、当業者が容易に想到し得るものではない。
よって、本件特許発明1は、引用発明1?4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件特許発明2?5について
本件特許発明2?5は、本件特許発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、本件特許発明2?5は、上記「(1)イ.」と同様の理由により、引用発明1であるとすることはできないし、また、引用発明1?4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2.申立理由3について
(1)本件請求項1の「厚みが所定の厚み以下の薄肉箇所」との記載について
本件請求項1の「厚みが所定の厚み以下の薄肉箇所」との記載は、薄肉箇所の具体的な厚みを特定していないという点で明らかである。
また、本件請求項1には、「薄肉箇所にのみ部分遮音層が設けられている」と記載され、薄肉箇所に部分遮音層が設けられることが示され、本件特許明細書には、従来技術として、「図7に示すように、カーペット130は、表皮材層131とフロアパネル基面115との間に構成される中間層134の厚みが所定の厚みより大きく、二重壁効果が得られるようになっているが、フロアパネル110の突出部111,112,113と係合する中間層134は、その厚みが相対的に小さい薄肉箇所133a,133b,133c,133d,133eとなる。」(段落【0008】)、「つまり、フロアパネル110のサイドシル結合部112及び波型断面部113はフロアパネル基面115よりも高くなっているのに対し、これらに被覆する部分のカーペット130の表面は、乗員が足を乗せ易いようにフラットに形成されているため、これらの部分の中間層134は薄肉箇所133b,133eとなる。また、上述したように、上方に突出するセンタートンネル部111及びサイドシル部120,120に被覆する部分のカーペット130は、車室内空間を広くするために薄く成形されて車室側への突出を抑えているので、これらの部分の中間層134は薄肉箇所133a,133c,133dとなる。」(段落【0009】)と記載されているように、従来の自動車用フロアカーペットの構造においても、フロアパネルのサイドシル結合部、波型断面部、及びセンタートンネル部を被覆している自動車用フロアカーペットの中間層を薄肉箇所として形成して、車室側への突出を抑えて車室内空間を広くしていたものであるから、当業者は、中間層の薄肉箇所の厚さがどの程度のものであるか、当然理解していたものであって、本件請求項1に記載の自動車用フロアカーペットは、薄肉箇所に部分遮音層が設けられたものであるから、部分遮音層の厚さを考慮して、当業者は、中間層の薄肉箇所の厚さがどの程度のものであるか、当然理解することができる。
また、薄肉箇所の厚みは、中間層の基準の厚み、部分遮音層の厚み、車室内空間の大きさの設定等により、適宜決定されるにすぎないものである。
してみると、本件請求項1の「厚みが所定の厚み以下の薄肉箇所」における薄肉箇所の具体的な厚みを特定していないからといって、その記載が明確性を欠くことにはならないから、特許を受けようとする発明は明確である。
そして、本件特許明細書には、「本実施形態では、中間層34の基準的な厚みは10?20mmとなっている。」(段落【0032】)、「本実施形態では、薄肉箇所33b,33d,33eの厚みは3?4mm、薄肉箇所33a,33cの厚みは約1mmとなっている。」(段落【0036】)と記載されているように、薄肉箇所の具体的な厚さが示されているから、特許を受けようとする発明(本件請求項1の「厚みが所定の厚み以下の薄肉箇所」との事項)は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(2)本件請求項1の「薄肉箇所にのみ部分遮音層が設けられている」との記載について
本件請求項1の「薄肉箇所にのみ部分遮音層が設けられている」との記載は、部分遮音層が薄肉箇所に限って設けられているという意味であることは、明らかである。
また、上記「(1)」のとおり、薄肉箇所の厚みに関する事項は、明らかである。
してみると、特許を受けようとする発明(本件請求項1の「薄肉箇所にのみ部分遮音層が設けられている」との事項)は明確である。
そして、本件特許明細書には、「図1?図3に示すように、これらの薄肉箇所33a,33b,33c,33d,33eと表皮材層31との間には、それぞれ部分遮音層32a,32b,32c,32d,32e(以下、これらを区別しない場合は単に「部分遮音層32」という。)が設けられている。部分遮音層32は、所望の二重壁効果が得られない厚み(即ち、所定の厚み以下の厚み)の薄肉箇所33にのみ設けられているものであり、所望の二重壁効果が得られる厚み(所定の厚みよりも大きい厚み)の箇所には設けられていない。」(段落【0037】)と記載されているように、部分遮音層が薄肉箇所にのみ設けられていることが示されているから、特許を受けようとする発明(本件請求項1の「薄肉箇所にのみ部分遮音層が設けられている」との事項)は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(3)本件請求項4の表皮材層には「高密度で且つ非通気もしくは通気抵抗の大きい材料」が用いられ、中間層には「低密度で且つ通気抵抗の小さい材料」が用いられ、部分遮音層には「高密度で且つ非通気もしくは通気抵抗の大きい材料」が用いられているとの記載について
本件請求項1の表皮材層には「高密度で且つ非通気もしくは通気抵抗の大きい材料」が用いられ、中間層には「低密度で且つ通気抵抗の小さい材料」が用いられ、部分遮音層には「高密度で且つ非通気もしくは通気抵抗の大きい材料」が用いられているとの記載は、表皮材層、中間層、及び部分遮音層に用いられる材料の密度、及び通気抵抗について、具体的に特定していないという点で明らかである。
また、本件請求項1には、「薄肉箇所にのみ部分遮音層が設けられている」と記載され、薄肉箇所に部分遮音層が設けられることが示され、本件特許明細書には、従来技術として、「ところで、一般的にカーペットは、図7に示すように、非通気もしくは通気抵抗の高い表皮材層131と、表皮材層131よりも通気抵抗の低いフェルト材(中間層)134との積層構造とし、表皮材層131とフロアパネル110とで二重壁をつくることによって、遮音性能(透過損失)を材料の面密度(又は質量)と周波数との積の対数に比例する特性(いわゆる、質量則)によるものよりも大きく向上させたものとしている。」(段落【0006】)、「遮音層を用いる場合、遮音層に質量のより大きい(高密度の)材料を用いることで、質量則に基づく遮音性能をより向上させることができる。一方、カーペットには、組み付け時に作業者が無理なく持ち運ぶことができるように重量制限が設けられているため、遮音層を過剰に追加すれば、カーペットの重量増が過剰になり、カーペットの重量が重量制限を超えてしまって一枚ものでは扱えなくなってしまう。」(段落【0011】)と記載されているように、従来の自動車用フロアカーペットの構造においても、本件請求項4に記載の自動車用フロアカーペットの構造と同様に、表皮材層、中間層、及び遮音層を備えるものであって、表皮材層は、非通気もしくは通気抵抗の高い材料が用いられ、中間層は、表皮材層よりも通気抵抗の低いフェルト材が用いられ、遮音層は、質量のより大きい高密度の材料が用いられていたのであるから、当業者は、表皮材層、中間層、及び遮音層の材料の密度、及び通気抵抗がどの程度のものであるか、当然理解していたものであって、本件請求項4に記載の自動車用フロアカーペットの表皮材層、中間層、及び部分遮音層の材料の密度、及び通気抵抗がどの程度のものであるかについても、当業者は、当然理解することができる。
また、表皮材層、中間層、及び部分遮音層の材料の密度、及び通気抵抗は、設定する遮音レベル、強度、重量、組み付け性等を考慮して、適宜決定されるにすぎないものである。
してみると、本件請求項4の表皮材層には「高密度で且つ非通気もしくは通気抵抗の大きい材料」が用いられ、中間層には「低密度で且つ通気抵抗の小さい材料」が用いられ、部分遮音層には「高密度で且つ非通気もしくは通気抵抗の大きい材料」が用いられているとの記載において、「表皮材層、中間層、及び遮音層の材料」の密度、及び通気抵抗を具体的に特定していないからといって、その記載が明確性を欠くことにはならないから、特許を受けようとする発明は明確である。
そして、本件特許明細書には、「図2及び図3に示すように、表皮材層31には、ここでは、表側の不織布の層31aと裏側のバッキング層31bとから成る、例えばニードルパンチカーペットなどが用いられる。バッキング層31bは、合成樹脂により高密度で且つ非通気もしくは通気抵抗が大きい層として構成されている。」(段落【0026】)、「また、中間層34には、例えば、フェルトなどの低密度で且つ通気抵抗の小さい材料が用いられる。なお、本実施形態では、表皮材層31は2?3mm程度で略一様な厚みに形成されている。」(段落【0027】)、「部分遮音層32には、例えば、オレフィンなどの、高密度で且つ非通気もしくは通気抵抗の大きい材料が用いられる。本実施形態では、部分遮音層32の厚みは約1mmで略一様な厚みとなっている。」(段落【0038】)と記載され、表1(段落【0052】)には、表皮材層、中間層、及び部分遮音層の材料の面密度比、及び通気抵抗比が示されているから、特許を受けようとする発明(本件請求項4の表皮材層には「高密度で且つ非通気もしくは通気抵抗の大きい材料」が用いられ、中間層には「低密度で且つ通気抵抗の小さい材料」が用いられ、部分遮音層には「高密度で且つ非通気もしくは通気抵抗の大きい材料」が用いられている)は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。
また、上記に示した本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみれば、「表皮材層、中間層、及び遮音層の材料」の密度、及び通気抵抗に関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

第6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由、及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許は、取り消すことができない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-19 
出願番号 特願2013-68632(P2013-68632)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B60N)
P 1 651・ 537- Y (B60N)
P 1 651・ 121- Y (B60N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小島 哲次  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 藤本 義仁
黒瀬 雅一
登録日 2016-09-30 
登録番号 特許第6011418号(P6011418)
権利者 三菱自動車工業株式会社
発明の名称 自動車用フロアカーペットの構造  
代理人 真田 有  

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