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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1330116
異議申立番号 異議2016-701076  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-22 
確定日 2017-06-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第5921087号発明「筆記具用水性インク組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5921087号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯

特許第5921087号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成28年4月22日にその特許権の設定登録がなされ、その後、同年11月22日付けで特許異議申立人猪瀬則之(以下「申立人」という。)により、「特許第5921087号の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された発明についての特許は取消されるべきものである。」という趣旨で、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され、平成29年1月17日付けで取消理由が通知され、同年3月17日に意見書の提出がなされ、同年4月19日に、申立人により、上申書の提出がなされたものである。

2 特許異議の申立について

(1) 本件発明

本件請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
下記式(I)で示されるロイコ色素、下記式(III)で示される顕色剤及び変色温度調整剤を少なくとも含むマイクロカプセル顔料を含有してなることを特徴とする筆記具用水性インク組成物。
【化1】

【化2】

〔上記式(III)中のR1は、水素原子又は炭素数1?2のアルキル基を示し、R2は、炭素数4?10の分岐のアルキル基を示す。〕
【請求項2】
前記変色温度調整剤が下記式(IV)で示されることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用水性インク組成物。
【化4】

〔上記式(IV)中のR3及びR4は、炭素数7?21の直鎖又は分岐のアルキル基を示し、R5及びR6は、水素原子、炭素数1?2のアルキル基、又はCF_(3)を示す。〕
【請求項3】
前記マイクロカプセル顔料を構成する壁膜がメラミン樹脂である請求項1又は2に記載の筆記具用水性インク組成物。
【請求項4】
前記マイクロカプセル顔料の平均粒子径が0.3?1.0μmであることを特徴とする請求項1?3の何れか一つに記載の筆記具用水性インク組成物。」

(2) 取消理由の概要

本件請求項1?4に係る発明に対して平成29年1月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

請求項1?4に係る発明は、引用文献1に記載された発明、並びに、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2、3に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項1?4に係る特許は、取り消されるべきものである。

(3) 引用文献1?3の記載事項

ア 引用文献1(特開2010-132822号公報、甲第4号証)には、以下のことが記載されている。

A「【請求項1】
(イ)ロイコ色素、(ロ)顕色性物質、及び(ハ)変色温度調整剤をマイクロカプセルに内包されてなる可逆感温変色性組成物において、(ロ)顕色性物質が化1で示される化合物であり、且つ(ハ)変色温度調整剤が化2で示される化合物であることを特徴とする可逆感温変色性ヒステリシス組成物。
【化1】

(式中のR1は、水素原子又は炭素数1?2のアルキル基を示し、R2は、炭素数4?10の直鎖又は分岐のアルキル基を示す。)
【化2】

(式中のR3及びR4は、炭素数7?21の直鎖又は分岐のアルキル基を示し、R5及びR6は、水素原子、炭素数1?2のアルキル基、又はCF3(
当審注:「CF_(3)」の誤記と認定する。)を示す。)
【請求項2】
可逆感温変色性ヒステリシス組成物のマイクロカプセルの平均粒子径が0.3?1.0μm、且つ、0.5μm未満の粒子を20%以上含む請求項1記載の可逆感温変色性ヒステリシス組成物。
【請求項3】
可逆感温変色性ヒステリシス組成物が、ヒステリシス幅が30℃乃至100℃の範囲のものである請求項1又は2記載の可逆感温変色性ヒステリシス組成物。
【請求項4】
可逆感温変色性ヒステリシス組成物のマイクロカプセル壁膜がメラミン樹脂である請求項1、2又は3記載の可逆感温変色性ヒステリシス組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4記載の可逆感温変色性ヒステリシス組成物を用いてなる筆記用インク、印刷用インク、塗料、成形用マスターバッチ、カラーペレット又はゾルペーストである可逆感温変色性ヒステリシス材料。
【請求項6】
請求項5記載の可逆感温変色性ヒステリシス材料を用いてなる筆記具、印刷物、塗装物又は成型物。」

B「【0012】
(4)先の発明の可逆感温変色性組成物が優れたヒステリシス特性を呈する理由は、該発明の変色温度調整剤には、冷却(降温)時に凝固点が大幅に低下するという特性があること、該調整剤には変色性成分と固溶体を形成する特性があること、又は、該両特性が複合的に作用すること等のために、反応相の固化温度が、大幅に低下したことによるものと考えられる。
(5)ところが、先の発明は、材料とした時の物性を上げるために可逆感温変色性組成物を微細なマイクロカプセルに内包するとヒステリシス幅が狭くなる、発色濃度が低下する、消色時に残色がでるなどの点で問題があることが分かった。
そこで、上記の問題を解決するため、更に、鋭意研究を重ねたところ、変色温度調整剤として、先の発明で用いた、特定のビスフェノールの脂肪酸エステル化合物(化2)を使用するとともに、顕色性物質として、特定のビスフェノール化合物(化1)を使用すると、可逆感温変色性材料とした時の物性を上げるために、微細なマイクロカプセルに内包したとしても、広いヒステリシス幅を有し、高発色濃度且つ消色時の残色が少ないハイコントラストな通常使用条件下(常温域)で、見かけ上、不可逆的な呈色状態を呈する可逆感温変色性組成物が得られることをつきとめ、本発明を完成した。」

C「【0016】
1.ロイコ色素
ロイコ色素は、電子供与性化合物からなるものであって、以下の顕色性物質と呈色反応を生起して発色する成分であり、本発明では必須の成分である。
ロイコ色素としては、感圧複写紙用色素、感熱記録紙用色素として通常知られているものや、その他の感熱変色性組成物を構成するものして従来公知のもの等何れも用いることができ、例えば、トリフェニルメタンフタリド系、フルオラン系、フェノチアジン系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系、スピロピラン系、ローダミンラクタム系、トリフェニルメタン系、トリアゼン系、スピロフタランキサンテン系、ナフトラクタム系、アゾメチン系等が挙げられる。この様なロイコ色素の具体例としては、3,6-ジメトキシフルオラン、3,6-ジブトキシフルオラン、3-ジエチルアミノ-6,8-ジメチルフルオラン、3-クロロ-6-フェニルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-クロロフルオラン、3-ジエチルアミノ-7,8-ベンゾフルオラン、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3,3′-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)フタリド、3-ジエチルアミノ-7-フェニルアミノフルオラン、3,3-ビス(p-ジエチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-(4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-メチル)フェニル-3-(1,2-ジメチルインドール-3-イル)フタリド、2′-(2-クロロアニリノ)-6′-ジブチルアミノスピロ〔フタリド-3,9′-キサンテン〕、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等を挙げることができるが、勿論これ等に限定されるものではない。 本発明においては、これ等のロイコ色素を1種又は2種以上組み合わせて用いることができ、これにより発色状態の色彩を任意とすることができる。」

D「【0022】
(水性筆記具用インク)
各種水性筆記具用インクとしては、水性で無色あるいは有色のボールペンインク、筆ペンインク、フェルトペンインク、マーカーペンインクなどに水性分散された可逆感温変色性ヒステリシス組成物を配合して得ることができる。」

E「【発明の効果】
【0025】
本発明の感温変色性組成物は、ヒステリシス幅が広いので、日常環境温度では、見かけ上、不可逆な挙動を示すが、適切な熱又は冷熱を与えることにより元の状態に戻ることができるため、可逆的なものであり、この様な特性は、繰り返して使用できる。
又、従来よりも微細な粒子径を持つため優れた材料特性を有し、可逆感温変色性色素として各種の用途に好適に利用可能である。」

F「【0027】
(実施例1)
<可逆感温変色性ヒステリシス組成物の作製>
ロイコ色素として、3-ジブチルアミノ-7-(2-クロロアニリノ)フルオラン1部、顕色性物質として、4,4′-(2-エチルヘキシリデン)ビスフェノール2部、及び変色性温度調整剤として、4,4′-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジミリステート24部を100℃に加熱溶融して、均質な組成物27部を得た。」

G「【0038】
(実施例9)筆記具用インク:水性インク
<可逆感温変色性ヒステリシス組成物のマイクロカプセル溶液の作製>
実施例1のロイコ色素の3-ジブチルアミノ-7-(2-クロロアニリノ)フルオランに代えて、3-ジブチルアミノー7,8-ベンゾフルオランを用いることを除き、他は全て実施例1と同様にして、可逆感温変色性ヒステリシス組成物のマイクロカプセル化を行った後、酸を添加することにより保護コロイド剤の機能を低下させ、濾別、水洗を2回繰り返し、平均粒子径が0.69μmで0.5μm以下の粒子を40%含む可逆感温変色性ヒステリシス組成物の水分散物を作成した。
得られた感温変色性色素のヒステリシス幅の測定をしたところ、ヒステリシス特性を伴って可逆感温変色性を示し、ヒステリシス幅は55℃、完全発色温度(T2a)は-19℃、発色保持温度(T3a)は50℃、完全消色温度(T3b)は75℃、消色保持温度(T2b)は-5℃であり、発色状態においては濃厚な赤色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
次に、得られた感温変色性の水分散物50部、2%ケルザンS(キサンタンガム:三晶(株)製)3部、ジョンクリルHPD-96(水溶性アクリル樹脂:BASFジャパン(株)製)10部、グリセリン10部、水27部を混合し水性筆記具用インクを得た。
得られた水性筆記具用インクを-20℃以下に冷却して発色させた後、ペン体に充填することで感温変色性のボールペンを得た。」

イ 引用文献2(特開平7-179777号公報、甲第2号証)には、以下のことが記載されている。

A「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、この種の色彩記憶性効果は、前記特公平4-17154号公報に開示されている如く、呈色反応をコントロールするエステル類から選ばれる化合物のうち特定の化合物を構成成分として適用した系のみが発現できる熱変色性効果である為、この種の熱変色性材料の利用度が制約されており、新たに効果的な化合物の発見が待ち望まれていた。本発明者らは前記色彩記憶性効果を発現させる反応媒体となる化合物について、更に追求し、反応媒体の選択の自由度を高め、更に、発色時の高い濃度と消色時の色消えの良さによる、非常に高いコントラストにより、この種の感温変色性色彩記憶性材料の利用度を更に高めようとするものである。」

B「【0008】以下に(イ)、(ロ)、(ハ)の各成分について具体的に化合物を例示する。本発明の(イ)成分、即ち電子供与性呈色性有機化合物としては、従来より公知のジフェニルメタンフタリド類、フルオラン類、ジフェニルメタンアザフタリド類、インドリルフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、スチリルキノリン類等がある。以下にこれらの化合物を例示する。3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-(4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、1,3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン、2-クロロ-3-メチル-6-ジメチルアミノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-キシリジノフルオラン、2-(2-クロロアニリノ)-6-ジブチルアミノフルオラン、3,6-ジメトキシフルオラン、3,6-ジ-n-ブトキシフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジエチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジブチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-エチルイソアミルアミノフルオラン、2-メチル-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(N-フェニル-N-メチルアミノ)-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(3’-トリフルオロメチルアニリノ)-6-ジエチルアミノフルオラン、3-クロロ-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、2-メチル-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、3-メトキシ-4-ドデコキシスチリルキノリン等がある。
【0009】成分(ロ)の電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群、偽酸性化合物群〔酸ではないが、組成物中で酸として作用して成分(イ)を発色させる化合物群〕、電子空孔を有する化合物群等がある。活性プロトンを有する化合物を例示すると、フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、さらにその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール-アルデヒド縮合樹脂等が挙げられる。又、前記フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩であってもよい。
【0010】以下に具体例を挙げる。フェノール、o-クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n-オクチルフェノール、n-ドデシルフェノール、n-ステアリルフェノール、p-クロロフェノール、p-ブロモフェノール、o-フェニルフェノール、p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル、p-ヒドロキシ安息香酸n-オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、1-フェニル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ノナン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ドデカン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ノナン、等がある。前記フェノール性水酸基を有する化合物が最も有効な熱変色特性を発現させることができるが、芳香族カルボン酸及び炭素数2?5の脂肪族カルボン酸、カルボン酸金属塩、酸性リン酸エステル及びそれらの金属塩、1、2、3-トリアゾール及びその誘導体から選ばれる化合物等であってもよい。」

C「【0015】感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料の製造方法
(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン3.0部、(ロ)フェノール化合物として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン8.0部、(ハ)本発明の脂肪族ケトン化合物50.0部からなる3成分を120℃にて加温溶解して均質相溶体となし、エポン828〔油化シェルエポキシ(株)製、エポキシ樹脂〕10部とメチルエチルケトン10部の混合溶液に混合したのち、これを10%ゼラチン水溶液100部中に滴下し、微小滴になるよう攪拌する。別に用意した5部の硬化剤エピキュアU〔油化シェルエポキシ(株)製、エポキシ樹脂のアミン付加物〕を45部の水に溶解させた溶液を前記攪拌中の溶液中に徐々に添加し、液温を80℃に保って約5時間攪拌を続け、マイクロカプセル原液を得た。前記原液を遠心分離処理することにより、含水率約40重量%の黒色から無色に変化する感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を得た。」

D「【0024】適用例1
(イ)3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、(ロ)1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、(ハ)8-ペンタデカノンの三成分の均質相溶体をエポキシ樹脂/アミンの界面重合法によってマイクロカプセル化して、平均粒子径10μmの感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を得た。得られた感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は黒色-無色の可逆的熱変色特性(T_(1) :7℃、T_(4) :39℃)を有する。白色上質紙の表面に前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を含むエチレン-酢酸ビニルエマルジョンに分散されてなるインキをスクリーン版(180メッシュ)を用いて印刷し、感温変色性記録紙を作製した。前記記録紙は常態では黒色を視覚させており、40℃以上の加熱により、白色となる。この状態は約25℃の室温下で保持される。次に約7℃以下に冷却したところ、黒色となり、室温下ではこの状態が保持された。前記記録紙の黒色、白色のいずれかの状態は、常温域で互変的に保持させることができた。室温下で黒色状態にある前記記録紙上を加熱ペン(55℃)で筆記すると白色の筆跡が視覚された。一方、白色状態にある前記記録紙上を冷熱ペン(0℃)で筆記すると黒色の筆跡を現出させた。この状態は前記室温下で保持された。
【0025】適用例2
(イ)3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、(ロ)1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、(ハ)2-ペンタデカノンの三成分の均質相溶体をエポキシ樹脂/アミンの界面重合法によってマイクロカプセル化して、平均粒子径10μmの感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を得た。得られた感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は黒色-無色の可逆的熱変色特性(T_(1) :8℃、T_(4 ):39℃)を有する。得られた前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料40部をアクリル酸エマルジョンを主成分とした、無色透明の水性スクリーンインキビヒクル60部中に均一分散し、109メッシュのスクリーン版を用いて、ピンク,ブルー,イエローの鮮やかな有彩色にて白色上質紙上に水玉模様が描かれた印刷体上に印刷し、感温変色性色彩記憶性印刷物を得た。前記印刷物は、常態では黒色を視覚させており、下地に描かれたカラフルな水玉模様は全く視覚する事が出来ず、黒色により、完全に隠蔽されていたが、40℃以上の加熱により、黒色が消色し、ピンク,ブルー,イエローの鮮やかな水玉模様が出現した。この状態は約25℃の室温下で保持され、次に約8℃以下に冷却したところ、再び黒色となり、ピンク,ブルー,イエローの鮮やかな水玉模様は完全に隠蔽され、視覚する事が、出来なくなった。前記印刷物の黒色、有彩色模様のいずれかの状態は、常温域で互変的に保持させることができ、室温下で黒色状態にある前記記録紙上を加熱ペン(55℃)で筆記すると前記有彩色のカラフル且つ鮮やかな筆跡が視覚された。一方、鮮やかな有彩色の水玉模様の状態にある前記印刷物を、冷熱ペン(0℃)で筆記すると黒色の筆跡を現出させた。この状態は前記室温下で保持された。」

E「【0026】
【発明の効果】本発明感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、色濃度-温度曲線に関して、8℃?30℃のヒステリシス幅(ΔH)を示して発色-消色の可逆的変色を生起させ、変色温度より低温側の色と高温側の色の両方を常温域で互変的に記憶保持でき、必要に応じて熱又は冷熱を適用することにより、いずれかの色を可逆的に再現させて記憶保持できる特性を効果的に発現させることができ、更に、発色時の高い濃度と消色時の色消えの良さによる、非常に高いコントラストを発現させることができる。本発明の感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、塗料或いは印刷インキとして、多様な塗装乃至印刷物への適用や、該顔料を熱可塑性樹脂やワックス類等に溶融ブレンドして諸種の形態の賦形物として適用される。」

ウ 引用文献3(特開平8-39936号公報、甲第3号証)には、以下のことが記載されている。

A「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、この種の色彩記憶性効果は、前記特公平4-17154号公報に開示されている如く、呈色反応をコントロールするエステル類から選ばれる化合物のうち特定の化合物を構成成分として適用した系のみが発現できる熱変色性効果である為、この種の熱変色性材料の利用度が制約されており、新たに効果的な化合物の発見が待ち望まれていた。本発明者らは前記色彩記憶性効果を発現させる反応媒体となる化合物について追求し、反応媒体の選択の自由度を高め、更に、発色時の高い濃度と消色時の色消えの良さによる、非常に高いコントラストにより、この種の感温変色性色彩記憶性材料の利用度を更に高めようとするものである。」

B「【0008】以下に(イ)、(ロ)、(ハ)の各成分について具体的に化合物を例示する。本発明の(イ)成分、即ち電子供与性呈色性有機化合物としては、従来より公知のジフェニルメタンフタリド類、フルオラン類、ジフェニルメタンアザフタリド類、インドリルフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、スチリルキノリン類、ピリジン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類等がある。以下にこれらの化合物を例示する。3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-(4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、2-N-シクロヘキシル-N-ベンジルアミノ-6-ジエチルアミノフルオラン、2-P-ブチルフェニルアミノ-6-ジエチルアミノ-3-メチルフルオラン、1,3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン、2-クロロ-3-メチル-6-ジエチルアミノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-キシリジノフルオラン、2-(2-クロロアニリノ)-6-ジブチルアミノフルオラン、3,6-ジメトキシフルオラン、3,6-ジ-n-ブトキシフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジエチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジブチルアミノフルオラン、3-(ブチル-2-メチルインドール-3-イル)-3-(1-オクチル-2-メチルインドール-3-イル)-1(3H)イソベンゾフラノン、1,2-ベンツ-6-エチルイソアミルアミノフルオラン、2-メチル-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、3,3-ビス(1-n-ブチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3,3-ビス(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、2-(N-フェニル-N-メチルアミノ)-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(3’-トリフルオロメチルアニリノ)-6-ジエチルアミノフルオラン、3-クロロ-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、2-メチル-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、3-メトキシ-4-ドデコキシスチリルキノリン、4-(4’-メチルベンジルアミノフェニル)-ピリジン、2,6-ジフェニル-4-(4’-ジメチルアミノフェニル)-ピリジン、2,6-ビス(4’-メトキシフェニル)-4-(4’-ジメチルアミノフェニル)-ピリジン、2,6-ジメチル-3,5-ビスカルボエトキシ-4-(4’-ジメチルアミノフェニル)-ピリジン、2-(2’-オクトキシフェニル)-4-(4’-ジメチルアミノフェニル)-6-フェニル-ピリジン、2,6-ジエトキシ-4-(4’-ジエチルアミノフェニル)-ピリジン、2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-メトキシ-キナゾリン、2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-フェノキシ-キナゾリン2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-(4’’-ニトロフェニルオキシ)-キナゾリン、2-(4’-フェニルメチルアミノフェニル)-4-フェノキシ-キナゾリン 2-(4’-ピペリジノフェニル)-4-フェノキシ-キナゾリン、2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-(4’’-クロロフェニルオキシ)-キナゾリン、2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-(4’’-メトキシフェニルオキシ)-キナゾリン、4,4’-(エチレンジオキシ)-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-〔プロピレンジオキシ(1,3)〕-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-〔ブチレンジオキシ(1,3)〕-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-〔ブチレンジオキシ(1,4)〕-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-(オキシジエチレン)-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-エチレン-ビス〔2-(4-ピペリジノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-エチレン-ビス〔2-(4-ジ-n-プロピルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-(エチレンジオキシ)-ビス〔2-(4-ジ-n-ブチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-シクロヘキシレン-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕等が好適に用いられる。
【0009】成分(ロ)の電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群、偽酸性化合物群〔酸ではないが、組成物中で酸として作用して成分(イ)を発色させる化合物群〕、電子空孔を有する化合物群等がある。活性プロトンを有する化合物を例示すると、フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、さらにその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール-アルデヒド縮合樹脂等が挙げられる。又、前記フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩であってもよい。
【0010】以下に具体例を挙げる。フェノール、o-クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n-オクチルフェノール、n-ドデシルフェノール、n-ステアリルフェノール、p-クロロフェノール、p-ブロモフェノール、o-フェニルフェノール、p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル、p-ヒドロキシ安息香酸n-オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、4-ヒドロキシ-4’-イソプロポキシジフェニルスルホン1-フェニル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ノナン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ドデカン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ノナン、等がある。前記フェノール性水酸基を有する化合物が最も有効な熱変色特性を発現させることができるが、芳香族カルボン酸及び炭素数2?5の脂肪族カルボン酸、カルボン酸金属塩、酸性リン酸エステル及びそれらの金属塩、1、2、3-トリアゾール及びその誘導体から選ばれる化合物等であってもよい。」

C「【0017】実施例12
感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料の製造方法
(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン3.0部、(ロ)フェノール化合物として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン8.0部、(ハ)n-ラウロフェノン50.0部からなる3成分を120℃にて加温溶解して均質相溶体となし、エポン828〔油化シェルエポキシ(株)製、エポキシ樹脂〕10部とメチルエチルケトン10部の混合溶液に混合したのち、これを10%ゼラチン水溶液100部中に滴下し、微小滴になるよう攪拌する。別に用意した5部の硬化剤エピキュアU〔油化シェルエポキシ(株)製、エポキシ樹脂のアミン付加物〕を45部の水に溶解させた溶液を前記攪拌中の溶液中に徐々に添加し、液温を80℃に保って約5時間攪拌を続け、マイクロカプセル原液を得た。前記原液を遠心分離処理することにより、含水率約40重量%の黒色から無色に変化する平均粒子径10μmの感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を得た。」

D「【0024】適用例1
(イ)3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、(ロ)1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、(ハ)n-ラウロフェノンの三成分の均質相溶体をエポキシ樹脂/アミンの界面重合法によってマイクロカプセル化して、平均粒子径10μmの感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を得た。得られた感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は黒色-無色の可逆的熱変色特性(T_(1) :-6℃、T_(4) :46℃)を有する。白色上質紙の表面に前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を含むエチレン-酢酸ビニルエマルジョンに分散されてなるインキをスクリーン版(180メッシュ)を用いて印刷し、感温変色性記録紙を作製した。前記記録紙は常態では黒色を視覚させており、46℃以上の加熱により、白色となる。この状態は約25℃の室温下で保持される。次に-6℃以下に冷却したところ、黒色となり、室温下ではこの状態が保持された。前記記録紙の黒色、白色のいずれかの状態は、常温域で互変的に保持させることができた。室温下で黒色状態にある前記記録紙上を加熱ペン(55℃)で筆記すると白色の筆跡が視覚された。一方、白色状態にある前記記録紙上を冷熱ペン(-10℃)で筆記すると黒色の筆跡を現出させた。この状態は前記室温下で保持された。
【0025】適用例2
(イ)3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、(ロ)1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、(ハ)n-デカノフェノンの三成分の均質相溶体をエポキシ樹脂/アミンの界面重合法によってマイクロカプセル化して、平均粒子径10μmの感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を得た。得られた感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は黒色-無色の可逆的熱変色特性(T_(1 ):-23℃、T_(4 ):36℃)を有する。得られた前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料40部をアクリル酸エマルジョンを主成分とした、無色透明の水性スクリーンインキビヒクル60部中に均一分散し、109メッシュのスクリーン版を用いて、ピンク,ブルー,イエローの鮮やかな有彩色にて白色上質紙上に水玉模様が描かれた印刷体上に印刷し、感温変色性色彩記憶性印刷物を得た。前記印刷物は、約20℃の室温下では黒色を視覚させており、下地に描かれたカラフルな水玉模様は全く視覚する事が出来ず、黒色により、完全に隠蔽されていたが、36℃以上の加熱により、黒色が消色し、ピンク,ブルー,イエローの鮮やかな水玉模様が出現した。この状態は約20℃の室温下で保持され、次に-23℃以下に冷却したところ、再び黒色となり、ピンク,ブルー,イエローの鮮やかな水玉模様は完全に隠蔽され、視覚することができなくなった。」

E「【0029】
【発明の効果】本発明感温変色性色彩記憶性組成物、殊にマイクロカプセル化した顔料は、色濃度-温度曲線に関して、8℃?80℃のヒステリシス幅(ΔH)を示して発色-消色の可逆的変色を生起させ、変色温度より低温側の色と高温側の色の両方を常温域で互変的に記憶保持でき、必要に応じて熱又は冷熱を適用することにより、いずれかの色を可逆的に再現させて記憶保持できる特性を効果的に発現させることができ、更に、発色時の高い濃度と消色時の色消えの良さによる、非常に高いコントラストを発現させることができる。本発明の感温変色性色彩記憶性組成物、殊にマイクロカプセル化した顔料は、塗料或いは印刷インキとして、多様な塗装乃至印刷物への適用や、該顔料を熱可塑性樹脂やワックス類等に溶融ブレンドして諸種の形態の賦形物として適用される。」

(4)引用文献1(甲第4号証)に記載の発明

引用文献1の上記A?Gの記載からすれば、引用文献1には次のとおりの発明(以下、引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「(イ)ロイコ色素、(ロ)化1で示される顕色性物質及び(ハ)化2で示される変色温度調整剤を、壁膜がメラミン樹脂であリ、平均粒子径が0.3?1.0μmのマイクロカプセルに内包されてなる、可逆感温変色性ヒステリシス組成物、及び、該組成物を配合した水性筆記具用インク。(化1、化2の具体的化学構造式は省略)」

(5)判断

ア 取消理由通知に記載した取消理由(特許法第29条第2項)について

本件発明1と引用発明とを対比すると、ロイコ色素について、本件発明1は、式(I)で示されるロイコ色素(以下「本件ロイコ色素」という。)に特定しているのに対し、引用発明は、特定していない点で相違しており、その余の点で一致しているといえる。

該相違点について検討する。
引用文献1の上記C(【0016】)には、ロイコ色素としては、感圧複写紙用色素、感熱記録紙用色素として通常知られているものや、その他の感熱変色性組成物を構成するものとして従来公知のもの等何れも用いることができる旨記載されており、このようなロイコ色素の具体例としては、3,6-ジメトキシフルオラン、3,6-ジブトキシフルオラン、3-ジエチルアミノ-6,8-ジメチルフルオラン、3-クロロ-6-フェニルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-クロロフルオラン、3-ジエチルアミノ-7,8-ベンゾフルオラン等のフルオラン系化合物が記載されている。そして、これ等に限定されるものではないとも記載されている。
また、同じく上記G(【0038】)には、引用発明に対応する実施例としてフルオラン系化合物(3-ジブチルアミノー7,8-ベンゾフルオラン)のロイコ色素を用いることが記載されている。
他方、引用文献2の上記C及びD(【0015】、【0024】、【0025】)、引用文献3の上記C及びD(【0017】、【0024】、【0025】)には、本件発明と同じく、フルオラン系ロイコ色素、顕色剤、及び、変色温度調整剤を必須成分とするマイクロカプセル顔料に関し、フルオラン系ロイコ色素として、「3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン」を用いた実施例が記載されており、当該化合物は、式(I)で示された本件ロイコ色素に包含される化合物である。
また、引用文献2の上記D(【0024】、【0025】)、引用文献3の上記D(【0024】、【0025】)には、本件ロイコ色素と、本件発明1において特定された、式(III)で示される化合物に包含される顕色剤(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン)との具体的な組み合わせが、実施例として具体的に記載されており、そのような組み合わせについては従来公知である。
さらに、引用文献2の上記A(【0003】)、引用文献3の上記A(【0003】)には、「発色時の高い濃度と消色時の色消えの良さによる、非常に高いコントラスト」を発現させることが発明が解決しようとする課題である旨記載されている。

以上のことからみて、引用発明において、引用文献2、3に記載された本件ロイコ色素を適用することが、当業者にとって容易か否かについて以下検討する。
引用文献2、3に記載された、本件ロイコ色素を含むマイクロカプセル顔料の適用分野についてみると、引用文献2、3の共に上記D(【0024】、【0025】)の各適用例1、2には、本件ロイコ色素、式(III)に包含される顕色剤などを用いてマイクロカプセル化した、平均粒子径10μmの感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料が得られたこと、該マイクロカプセル顔料を含むエチレン-酢酸ビニルエマルジョンに分散させてなるインク、または、アクリル酸エマルジョンを主成分とした溶媒に分散させてなるインクを、それぞれ、スクリーン版(180メッシュ、109メッシュ)を用いて、白色上質紙表面上に印刷し、感温変色性記憶紙を作製したことが記載され、また、引用文献2の上記C(【0026】)、引用文献3の上記C(【0029】)には、「塗料或いは印刷インキとして、多様な塗装乃至印刷物への適用や該顔料を熱可塑性樹脂やワックス類等に溶融ブレンドして諸種の形態の賦形物として適用される」ことが記載されている。
すなわち、引用文献2、3に記載されたマイクロカプセル顔料は、塗料あるいは印刷インキに適用することが具体的に開示されているだけで、引用文献2、3には、水性筆記具用インクに適用することに関しては、何らの開示も示唆もされていないといえる。
よって、引用発明と、引用文献2、3に記載された発明とでは、技術分野あるいは適用分野が異なるといえる。
ここで、紙等への塗装、印刷に用いられる塗料、印刷インキの配合成分は、塗装、印刷の条件に合わせて最適化されるものであるのに対し、筆記用具インキの配合成分は筆記具への充填性、保管性、自由な描線等の異なる課題に対応し、特有の配合が行われるものと考えられるところ、一方で用いられる色素成分のみに着目して他方に適用することが必ずしも容易であるとはいえない。
してみると、引用発明おけるロイコ色素として、引用文献2、3に記載された本件ロイコ色素を適用することにより本件発明1に相当するインクとすることは、塗料あるいは印刷インキ用として適した成分が筆記具用水性インクにも適するということが必ずしも自明であるとはいえない以上、当業者が容易に想到し得ることではない。
また、仮に、ロイコ色素を適用することが容易想到であったとしても、塗料、印刷インキにおいて得られた効果が筆記具用水性インクに調製されたときにも同じように奏されるかどうかは必ずしも自明であるとはいえない。
よって、本件発明1は、引用文献1及び引用文献2、3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定に違反していない。本件発明1を引用する本件発明2?4についても同様である。

イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立の理由について

(ア)申立理由1(特許法第29条第1項第3号)について

申立人は申立書(第2?3頁、第8?10頁)において、本件発明1、4は、甲第1号証(特開2005-213361号公報)の請求項1、【0007】、【0009】、【0014】の記載に基づけば、すべて記載されているといえるため、新規性を欠くものである旨述べている。
しかしながら、甲第1号証には、【0007】において、多数列挙されたロイコ色素の一つとして本件ロイコ色素が記載されているに過ぎず、実施例においては実際に使用されていないから、甲第1号証には、本件ロイコ色素が具体的に開示されているとはいえない。また、既に述べたとおり、一般にロイコ色素といっても、色の種類の相違等によって発色性や色調も異なるものであること、及び、本件ロイコ色素が本件顕色剤との組合せにおいて描線濃度及び発色/消色性に特に優れていると認識もされていないことからすれば、甲第1号証に、本件ロイコ色素が記載された発明が記載されているとはいえず、本件発明が新規性を欠くとはいえない。

(イ)申立理由2(特許法第29条第2項)について

申立人は申立書(第4?6頁、第10?15頁)において、本件発明1?4は、甲第1号証を主たる引用例とし、甲第2号証?甲第5号証、及び、技術常識を組み合わせることで当業者が容易に想到し得たものであるため、進歩性を欠くものである旨述べている(甲第1号証?甲第5号証については以下のとおり)。

甲第1号証(特開2005-213361号公報)
甲第2号証(特開平7-179777号公報、上記引用文献2)
甲第3号証(特開平8-39936号公報、上記引用文献3)
甲第4号証(特開2010-132822号公報、上記引用文献1)
甲第5号証(特開2009-270033号公報)

(本件発明1について)
申立人は、申立書(第4?5頁、第11?13頁)において、本件発明1は、甲第1号証?甲第3号証、及び、技術常識に基づき、容易に想到し得る旨述べている。
しかしながら、甲第1号証に記載された発明は、筆記具用インキに関するものであり、他方、甲第2号証及び甲第3号証は、紙等への塗装、印刷に用いられる塗料あるいは印刷インキに関するものであるから、上記(5)のアで述べたのと同様に、甲第1号証に記載された発明おけるロイコ色素として、甲第2号証及び甲第3号証(引用文献2、3)に記載された本件ロイコ色素を適用することにより本件発明1に相当するインクとすることは、塗料あるいは印刷インキ用として適した成分が筆記具用水性インクにも適するということが必ずしも自明であるとはいえない以上、当業者が容易に想到し得ることではない。
また、仮に、ロイコ色素を適用することが容易想到であったとしても、塗料、印刷インキにおいて得られた効果が筆記具用水性インクに調整されたときにも同じように奏されるかどうかは必ずしも自明であるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲第1?3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定に違反していない。本件発明1を引用する本件発明2?4についても同様である。

(本件発明2?4について)
申立人は、申立書(第5?6頁、第13?14頁)において、本件発明2、3は、甲第1号証?甲第5号証、及び、技術常識に基づき、容易に想到し得る旨述べている。
同様に、申立人は、申立書(第6頁、第14頁)において、本件発明4は、甲第1号証?甲第3号証、及び、技術常識に基づき、容易に想到し得る旨述べている。
しかしながら、本件発明1が、甲第1?3号証に基づいて容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明1を含む本件発明2?4についても、容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)申立理由3(特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号) について

申立人は申立書(第6頁、第7頁)において、請求項1に記載の発明は、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載されたものとは認められないので、サポート要件(第36条第6項第1号)に違反するものであり、また、これらの発明を実施することができる程度に、明細書に必要な事項を記載されているとは認められないので、実施可能要件(第36条第4項第1号)に違反するものである旨述べている。
具体的には、サポート要件については、申立書(第15頁)において、変色温度調整剤に関し、「本件明細書の実施例では、式(IV)を満たす特定のエステル化合物で作用効果が認められることを記載しているのみであるから、何ら変色温度調整剤の種類についての限定のない本件発明1の全ての範囲で課題を解決できると認識することはできず、技術常識を参酌してもそのような効果は認められない。」と主張し、実施可能要件については、申立書(第16頁)において、「本件発明1は、本件明細書の開示事項と比較して極めて抽象的かつ広範なクレームを規定しており、本件発明の技術的課題に対応する解決手段が本件明細書に十分開示されているとは言い難い」と主張している。

そこで、本件発明1の記載を改めて参照すると、
「【請求項1】
下記式(I)で示されるロイコ色素、下記式(III)で示される顕色剤及び変色温度調整剤を少なくとも含むマイクロカプセル顔料を含有してなることを特徴とする筆記具用水性インク組成物。(式(I)、(III)は省略)」と記載されており、変色温度調整剤の具体的な種類については、何らの限定もないといえる。
また、本件明細書の【0006】には、本件発明の解決しようとする課題に関し、「平均粒子径が小さく、また、インク中のマイクロカプセル顔料含有量を少なくしても満足のいく十分な描線濃度が得られ、かつ発色/消色性に優れた筆記具用水性インク組成物を提供すること」と記載されている。
ここで、変色温度調整剤について、発明の詳細な説明をみると、「本発明に用いる変色温度調整剤は、前記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールする物質である。用いることができる変色温度調整剤は、従来公知のものが使用可能である。」(【0015】)、「変色温度調整剤の使用量は、所望されるヒステリシス幅及び発色時の色彩濃度等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではない」(【0017】)と記載されている。すなわち、発明の詳細な説明には、変色温度調整剤については、変色温度をコントロールする物質として従来公知のものを自由に選択でき、その使用量も所望されるヒステリシス幅及び発色時の色彩濃度等に応じて適宜選択することができる旨明記されているといえるから、本件発明の「十分な描線濃度」及び「発色/消色性に優れ」るとの課題は、主としてロイコ色素(I)と顕色剤(III)との組合せにより解決され、変色温度調整剤は変色温度等を副次的に調整する成分であると解することができる。
また、ロイコ色素と顕色剤との組合せ、及び、使用条件に応じて、最適な変色温度調整剤は異なるとしても、限られた種類の変色温度調整剤でなければ上記本件発明の課題を解決できないとまではいえない。
そうすると、実施例において、式(IV)を満たす特定のエステル化合物からなる変色温度調整剤で作用効果が認められることを記載しているのみであるからといって、本件発明1の全ての範囲で課題を解決できないとまではいえない。
したがって、本件発明1は、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載されたものであるといえるから、サポート要件を満足するものである。

また、実際に、発明の詳細な説明において、実施例A1?7をみると、式(I)で示されるロイコ色素、式(III)で示される顕色剤、変色温度調整剤を少なくとも含むマイクロカプセル顔料を含有するインク組成物を実際に得られることが記載され、そして、得られたインク組成物を用いて水性ボールペンを作製し、その描線濃度、及び、発色/消色性を評価し、「○:発色状態は濃い黒色」、あるいは、「○:消色状態では完全に消色し、-10℃保管後には消色前の色相まで復帰する」ということを確認しているから、本件発明1について発明の効果が裏付けられているといえる。
したがって、本件発明1が変色温度調整剤について特定されていないとしても、本件明細書に記載されているような出願時の技術常識も合わせて考慮すれば、発明の詳細な説明は、本件発明1を実施することができる程度に、明細書に必要な事項を記載されているから、実施可能要件も満足するといえる。
よって、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号、及び、同条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

3 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-13 
出願番号 特願2011-115673(P2011-115673)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09D)
P 1 651・ 113- Y (C09D)
P 1 651・ 536- Y (C09D)
P 1 651・ 537- Y (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 牟田 博一中野 孝一磯貝 香苗佐宗 千春  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 井上 能宏
天野 宏樹
登録日 2016-04-22 
登録番号 特許第5921087号(P5921087)
権利者 三菱鉛筆株式会社
発明の名称 筆記具用水性インク組成物  
代理人 宮尾 明茂  
代理人 馬場 信幸  
代理人 神田 正義  
代理人 藤本 英介  
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