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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1330120
異議申立番号 異議2017-700163  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-23 
確定日 2017-06-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第5973118号発明「ピラゾロン化合物含有水溶液が充填されたプラスチック容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5973118号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5973118号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成18年11月10日(優先権主張 平成17年11月10日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成28年7月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年2月23日に特許異議申立人 八田国際特許業務法人により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1?3に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める(以下、請求項の順にそれぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、「本件特許発明3」という。)

「【請求項1】
3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンを有効成分として含有する水溶液を充填しているプラスチック容器を脱酸素剤と共に収容する気体難透過性の容器であって、上記プラスチック容器がポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にしたものであり、上記プラスチック容器の形態が輸液バックである、気体難透過性の容器。

【請求項2】
上記プラスチック容器が、60℃で4週間保存前後における黄色方向の色度b*(L*a*b*表色系)の変化Δb*が2以下のプラスチック容器である、請求項1に記載の気体難透過性の容器。

【請求項3】
60℃で4週間の保存中において、上記水溶液の波長400nmでの吸光度が0.010以下である、請求項1又は2に記載の気体難透過性の容器。」

第3 申立理由

特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1?23号証を提出し、請求項1?3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?3に係る特許を取り消すべきである旨主張し、また、請求項1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号、同第6項第1号、同第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1?3に係る特許を取り消すべきである旨主張する。

証拠方法
甲第1号証:特表2005-525952号公報
甲第2号証:国際公開第2002/092082号
甲第3号証:国際公開第2006/118034号
甲第4号証:特開平09-131386号公報
甲第5号証:特開2006-298774号公報
甲第6号証:本件特許の優先権主張の基礎出願2005-326141号
甲第7号証:本件特許明細書(特許第5973118号)
甲第8号証:本件特許出願に対する拒絶理由通知(起案日 平成26年3月26日)
甲第9号証:本件特許と本件分割出願との関係を示す特許庁JPlatPatの検索結果
甲第10号証:本件分割出願の拒絶査定不服審判にて通知された拒絶理由通知(起案日 平成28年6月30日)
甲第11号証:平成27年6月16日に提出された本件分割出願の手続補正書
甲第12号証:平成28年9月1日に提出された本件分割出願の出願取下書
甲第13号証:本件分割出願の審判記録に関する特許庁JPlatPatの検索結果
甲第14号証:本件特許出願に係る拒絶査定不服審判請求(平成27年1月8日)に同時に提出された手続補正書
甲第15号証:平成25年4月4日起案に係る本件特許出願についての拒絶理由通知
甲第16号証:平成24年8月1日提出の本件特許出願に係る意見書
甲第17号証:医薬品インタビューフォーム「ミオコール注5mg、ミオコール注50mg」
甲第18号証:平成25年6月7日に提出された本件特許出願の意見書
甲第19号証:特開2002-301796号公報
甲第20号証:特開平11-114015号公報
甲第21号証:特開平11-158061号公報
甲第22号証:国際公開第99/39679号
甲第23号証:本件特許請求項1の進歩性判断は本件分割出願の請求項1と同一視できることを示す検討資料
(以上の甲号証はいずれも写し)

第4 当審の判断

1 明確性要件(特許法第36条第6項第2号)について
事案に鑑み、まず明確性要件について検討する。

(1) 特許異議申立人の明確性要件についての主張の概要
特許異議申立人は、請求項1の「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にしたもの」について、「「ポリエチレン」からなる層と「環状オレフィンポリマー」からなる層とを積層して多層としたのか、あるいは「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマー」からなる層を積層して多層としたのか、それともこれらいずれでもないのか、上記文言が多義的であることから、「プラスチック容器がポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にした」との意味が不明瞭である。」と主張する。(特許異議申立書第22頁第8?22行)

(2) 明確性要件についての判断
特許異議申立人が主張するように、請求項1の「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にしたもの」なる記載が多義的であるかについて検討する。
まず、「多層」とは通常、複数の層が積層され、各層の組成が区別できる状態を指すと解されるところ、請求項1の「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にしたもの」の意味を「「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマー」からなる層を積層して多層とした」と解すると、「「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマー」からなる層を積層して」には、各層の組成が同じで区別できない場合が包含され、上記「多層」の解釈と反するものとなるにもかかわらず、請求項1には各層の組成の違いについての特定がされていない。
したがって、請求項1の「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にしたもの」なる記載を、同じ組成の層を積層する場合も包含する「「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマー」からなる層を積層して多層とした」ものを意味すると、当業者が理解することはない。
そして、請求項1における「ポリエチレン」および「環状オレフィンポリマー」がそれぞれ、単独で層を形成できるポリマーであることは出願時の技術常識であるから、請求項1の「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にしたもの」なる記載を、「「ポリエチレン」からなる層と「環状オレフィンポリマー」からなる層とを積層して多層にした」ものを意味すると理解することは、「多層」の指す上記状態とも矛盾しない。
以上のとおり、請求項1の記載からみて、「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にしたもの」なる記載は多義的ではなく、「「ポリエチレン」からなる層と「環状オレフィンポリマー」からなる層とを積層して多層とした」ものの意味であることが、一義的に明確であるといえる。

ここで念のため、さらに本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載も検討する。
段落【0044】には「また、これらのプラスチックは単独で単層の状態で用いることができるほか、2以上の異なるプラスチックを重ね合わせて多層の状態で用いることもできる。ここで、2以上のプラスチックは種類の異なるプラスチックを2以上用いても、種類が同じで例えば分子量や密度が異なる2以上のプラスチックを用いてもよい。」との記載があり、これは、各層が単独のプラスチック(一種類のプラスチック)を用いることを前提とした多層の態様であると理解されるところ、「多層」の指す上述の状態と整合する。
さらに、多層の態様を示した上述の記載の直前には、プラスチックの種類が「例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、・・・」として、ポリマー名で記載されていることからみて、当該段落における多層についての記載は、各層が単独のポリマーで構成されていることを前提としたものといえる。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、請求項1の「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にしたもの」なる記載を、当業者が「「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマー」からなる層を積層して多層とした」との意味であると理解することはなく、「「ポリエチレン」からなる層と「環状オレフィンポリマー」からなる層とを積層して多層した」ものの意味であることが、一義的に明確である。

以上のとおり、特許異議申立人の明確性要件についての主張には理由がなく、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものといえる。

2 進歩性(特許法第29条第2項)について

(1) 特許異議申立人の進歩性についての主張の概要
特許異議申立人は、本件特許発明1?3は、本件特許の優先権主張の基礎出願の明細書に記載された範囲を超えているから、優先権主張の効果は認められないとした上で、甲第1号証に記載された発明を主引用発明として、本件特許発明1は甲第1号証?甲第4号証に基いて進歩性を有さないことが明らかである(以下、「進歩性欠如理由1」という。)と主張し(特許異議申立書第9頁第10行?第15頁第20行)、甲第5号証に記載された発明を主引用発明として、本件特許発明1は、甲第1号証、甲第2号証、及び甲第5号証に基いて進歩性を有さない(以下、「進歩性欠如理由2」という。)と主張し(特許異議申立書第15頁下から第8行?第17頁第7行)、さらに、本件特許発明2及び本件特許発明3は本件特許発明1と同様に甲第1号証?甲第4号証に基いて進歩性を有さない(以下、「進歩性欠如理由3」という。)と主張する(特許異議申立書第17頁第8行?第18頁第7行)。

(2) 優先権についての判断
本件特許の優先権主張の基礎出願の明細書(甲第6号証)には、本件特許明細書の段落【0044】に記載された「また、これらのプラスチックは単独で単層の状態で用いることができるほか、2以上の異なるプラスチックを重ね合わせて多層の状態で用いることもできる。ここで、2以上のプラスチックは種類の異なるプラスチックを2以上用いても、種類が同じで例えば分子量や密度が異なる2以上のプラスチックを用いてもよい。さらに、これらプラスチックの原料である異なるモノマーを2以上含む共重合体も用いることができる。」なる記載はなく、実施例でも、本件特許明細書の実施例に記載された材質「ポリエチレン(PE)+環状オレフィンポリマー(COP)」である番号(7)の輸液バッグを用いた例が記載されていない。
このため、本件特許の優先権主張の基礎出願の明細書には、そもそも多層の状態の材質を用いたプラスチック容器が記載されていないといえる。
そうすると、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された「上記プラスチック容器がポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にしたもの」は、明らかに本件特許の優先権主張の基礎出願の明細書に記載された技術的事項を越えるものである。
したがって、本件特許発明1?3に、優先権主張の効果は認められない。

(3) 甲第1?5号証の記載
甲第1号証
(1a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度0.935?0.950g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体を用いてなる厚さ10?50μmの表層と、
密度0.860?0.930g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体を用いてなる厚さ100?200μmの柔軟層と、
ポリ環状オレフィン60?95重量%と密度0.900?0.965g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体5?40重量%とを含む混合樹脂を用いてなる厚さ10?80μmのバリア層と、
密度0.910?0.950g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体を用いてなる厚さ5?80μmのシール層と、
を備える多層フィルム。
【請求項2】
上記柔軟層が、密度0.860?0.930g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体に、密度0.940?0.970g/cm^(3)の高密度ポリエチレンを20重量%以下の割合で混合してなるものである請求項1記載の多層フィルム。
【請求項3】
上記柔軟層が、密度0.860?0.930g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体からなる層と、密度0.860?0.930g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体に密度0.940?0.970g/cm^(3) の高密度ポリエチレンを20重量%以下の割合で混合してなる層との積層体である請求項1記載の多層フィルム。
【請求項4】
上記柔軟層に用いられる密度0.860?0.930g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体が、メタロセン触媒を用いて重合されたものである請求項1?3のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項5】
上記柔軟層に用いられる密度0.860?0.930g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体が、密度0.860?0.910g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体と密度0.910?0.940g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体との混合物である請求項2記載の多層フィルム。
【請求項6】
上記バリア層に用いられる密度0.900?0.965g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体が、メタロセン触媒を用いて重合されたものである請求項1?5のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項7】
全体の厚みが130?300μmである請求項1?6のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項8】
上記シール層の厚さが5?40μmである請求項1?7のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項9】
上記シール層の厚みが40?80μmである請求項1?7のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項10】
請求項1?9のいずれかに記載の多層フィルムを、その表層が外表面側となるように用いてなる薬剤容器。」

(1b)
「【背景技術】
【0002】
いくつかの薬剤は、持続的な点滴の用に供するために、輸液の中に混合した状態で投与される。注射用の薬剤についても、持続的な点滴の用に供するために、あらかじめ希釈水溶液の形態とすること、すなわちプレミクスト(Pre-Mixed)化することが検討されている。
従来、輸液等を収容する薬剤容器には、化学的に安定なガラスからなる瓶やアンプルが用いられてきたが、近年、薬剤容器の軽量化、取扱性の向上を目的として、医薬的に許容されたプラスチックからなる輸液バッグや輸液ボトルが広く用いられている。医薬的に許容されたプラスチックとしては種々のものが知られているが、中でもポリエチレンは安全性が高く、フィルムが柔軟であることから取扱性が極めて良好であり、しかも焼却しても有毒ガスを発生しないことから廃棄性に優れている。従って、薬剤容器の材質にはポリエチレンが広く採用されている。
【0003】
しかしながら、例えばニトログリセリン等のある種の薬剤はポリエチレンに吸着され易く、それゆえ、混注投与の場合に薬剤の含量低下が問題となっており、このことは、プレミクスト化を行なう上での障害ともなっている。
一方、下記特許文献1には、薬剤の吸着を抑制することを目的として、ポリ環状オレフィンを用いた薬剤容器が提案されている。
【0004】
しかしながら、ポリ環状オレフィンはニトログリセリン等の吸着性が乏しいという特性を有する反面、硬くて脆いという欠点を有しており、薬剤容器の強度や柔軟性等の性質を低下させる問題がある。
さらに、ポリ環状オレフィンは、他の樹脂との相溶性や接着性が乏しいことから、層間剥離が生じやすく、容器の強度が低下するという問題がある。また、ポリ環状オレフィンと他の樹脂とを接着樹脂によって接着させた場合には、薬剤中への溶出物の問題があることから、安全性が保障されない問題がある。
【特許文献1】特開平5-293159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、強度、柔軟性、耐熱性および医療用材料としての安全性に優れており、しかも薬剤・薬液が吸着するのを抑制した多層フィルムと、それを用いた薬剤容器とを提供することである。」

(1c)
「【0024】
上記バリア層において、ポリ環状オレフィンの含有割合が60重量%を下回ると、薬剤の吸着を防止する効果が低下する。一方、ポリ環状オレフィンの含有割合が95重量%を超えると、多層フィルム全体の柔軟性が低下するとともに、バリア層と他の層との接着性も低下する。
本発明の多層フィルムにおけるバリア層以外の全ての層は、後述するように、エチレン・α-オレフィン共重合体からなるか、あるいはエチレン・α-オレフィン共重合体を主成分としている。従って、バリア層を形成する樹脂のうちポリ環状オレフィンを除く残りの樹脂については、当該バリア層と、シール層や柔軟層との接着性を良好なものとする上で、全てエチレン・α-オレフィン共重合体であるのが好ましい。」

(1d)
「【0047】
本発明の薬剤容器に収容可能な薬剤としては、前述のニトログリセリン以外に、例えば硝酸イソソルビド、塩酸ニカルジピン、ミダゾラム、エダラボン等がその好適例として挙げられる。これらの薬剤は、一般に、ポリエチレン等からなる薬剤容器に吸着し易いものであるが、本発明の多層フィルムからなる薬剤容器に収容することで、その吸着を防止することができる。」

(1e)
「【0062】
表1および表2中、例えば「C+D」のように、2種以上の樹脂を“+”で繋いで示している場合は、これら2種以上の樹脂が混合樹脂であることを示す。一方、例えば「C,D」のように、2種以上の樹脂を“,”で区切って示している場合は,これら2種以上の樹脂フィルムを積層していることを示す。
〔評価試験〕
(試験例1)
上記実施例1?7および比較例1?2で得られた薬液バッグ(薬剤容器)に、それぞれ0.005%ニトログリセリン溶液100mLを充填し、106℃で40分間高圧蒸気滅菌を施した後、60℃で2週間保存した。保存の際、容器は水平面上にて横に寝かした状態で静置し、ニトログリセリン溶液と容器との接触面積が約160cm2 となるように調節した。次いで、2週間保存した後の液中のニトログリセリン濃度を高速液体クロマトグラフィ(HPLC)で測定し、初期濃度(0.005%)に対する割合を残存率(%)として求めた。
【0063】
対照として、ガラスアンプルに0.005%ニトログリセリン溶液100mLを充填し、上記と同じ条件下で保存した後の残存率(%)を求めた。さらに、この対照における残存率(%)と、実施例および比較例の残存率との差(ポイント)を求めた。
(試験例2)
薬剤容器に充填する薬液として、ニトログリセリン溶液に代えて、0.005%硝酸イソソルビド溶液を用いたほかは、試験例1と同様にして、高圧蒸気滅菌と60℃での2週間の保存とを行なった。次いで、2週間保存後の液中の硝酸イソソルビド濃度をHPLCで測定し、試験例1と同様に、初期濃度に対する残存率(%)を求めた。
【0064】
さらに、試験例1と同様にしてガラスアンプルによる対照試験を行ない、この対照における残存率(%)と、実施例および比較例の残存率との差(ポイント)を求めた。
(試験例3)
上記実施例8?10および比較例3で得られた薬液バッグ(薬剤容器)について、上記試験例2と同様の試験を行った。」

甲第2号証
(2a)
「現在、エダラボンは脳保護剤(点滴剤)として、すでに臨床において使用されており、1日2本のアンプルが必要とされている。今後、別の疾患にエダラボンを使用する場合には、更に多くの本数を使用しなくてはならない可能性もある。このように現行処方では、少なくても 1日当たり 2本以上のアンプルまたはパイアルの製剤の調剤が必要とされている。しかしながら、事故を起こしてはならない医療現場においては調剤行為をなるベく少なくし、製剤の使用性を向上させることが望まれている。また、製品保管時も複数本のアンプルまたはパイアルを使用する製剤はより多くの保管場所が必要である等、メーカー及び医療従事者の両者において好ましくない。
以上のことから高濃度のエダラボンを含み、全容量が少ない製剤、すなわち高濃度少容量の溶液注射剤の開発が望まれていた。しかし、エダラボンは水に溶けにくく(2mg/mL 25℃)、かつ水溶液中の濃度上昇に伴い、その化学的安定性が低下する、また、粉末状態と比較すると水溶液中では酸化を受け分解しやすいという性質を有している。従って、エダラボンを医薬品として長期的に安定化させ、かつ水への飽和溶解度を越えた量を含んだ注射剤の製剤化は困難であり、このような製剤は現在までのところ実現されていない。

発明の開示
本発明者らはピラゾ口ン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分とする高濃度少容量の溶液注射剤について鋭意検討したところ、注射剤に用いることが可能な製剤学的に許容されている種々の添加剤の中で、エタノールが優れた溶解補助効果を有し、ピラゾ口ン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の水への溶解度を大幅に上回ることを見いだした。」
(第2頁第14行?第3第9行)

甲第3号証
(3a)
「背景技術
[0002] 近年、薬液を収容する容器には、軽量、柔軟で、取扱い性が良好であり、しかも、廃棄が容易なプラスチック製の容器が広く用いられており、このプラスチック製容器を形成するプラスチックとしては、薬液に対する安定性、医薬上の安全性などの観点から、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフインが多用されている。
しかし、ポリオレフインは、酸素の透過度が高い素材であることから、酸化分解などが生じ易い薬液を収容して、保存する用途には、薬液の品質保持などの観点から、必ずしも適切ではない。

[0003] 一方、特許文献1には、アミノ酸を含有した水溶液からなる輸液剤が気体透過性を有する医療用一次容器に充填され、該医療用一次容器に充填された輸液剤が脱酸素剤と共に、実質的に酸素を透過しない二次包装容器内に収納されてなることを特徴とする輸液剤の包装体が記載されている。また、特許文献2には、プラスチックフィルムの少なくとも片面に、無機化合物膜が形成されてなる、以下の(1)? (4)物性を有する薬液容器用フィルムが記載されている。

(1)酸素透過度が1cc/m^(2)・24hr・atm以下;
(2)透湿度が1g/m^(2)24hr・atm以下;
(3)光線透過率が80%以上;
(4)色相b値が 5以下。

[0004] また、特許文献3には、少なくとも排出口が形成された可撓壁を有した樹脂容器からなり、上記容器壁はポリビニルアルコールの中間層を境に内層と外層に分かれて 多層形成され、上記最内層は、厚みが50乃至800μmの範囲のポリオレフイン層であり、上記外層の透湿量 So(g/m^(2)24hrs:温度40℃、90%RH)が上記内層の透湿量Si(g/m^(2)24hrs:温度40℃、90%RH)の2倍以上になるように、上記外層が設けられていることを特徴とするガスバリア一性を有する輸液容器や、この容器を、乾燥 剤を共存させて包装体で包装してある輸液容器が記載されている。また、同文献には、上記輸液容器について、オートクレープ滅菌処理した後においても、容器壁のガスバリア一性が直ぐに回復する旨が記載されている。」
[0002]?[0004]

甲第4号証
(4a)
「【0003】そのため、特開平7-61925号公報に記載されるように、アミノ酸輸液を充填したプラスチック容器を脱酸素剤と共にガスバリヤー性包材に封入する手段や、特開平7-67936号公報や特開平7-155361号公報に記載されているように、輸液が収容されたプラスチック製輸液容器を、ガスバリア性層の内側に酸素吸収性樹脂層を有するプラスチック積層材から構成されるガスバリア性外装容器またはガスバリア性外装フィルムで包装する手段が採用されている。しかし、これらの方法は、(1)2重袋を用いるため非常にコストが高いこと、(2)輸液が入っている内袋は全くバリヤー性が無いため、バリヤー性のある外袋から出した時点で輸液の酸素による劣化がはじまり、外袋から出してから長時間経過した輸液はかなり変質している可能性があること、等の問題がある。」

甲第5号証
(5a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基剤中に有効成分として次式:
【化1】
で表される3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその医学的に許容され得る塩を含有する経皮吸収型フリーラジカル抑制剤を、脱酸素剤と共に、酸素非透過包装材内に密封してなることを特徴とするフリーラジカル抑制製剤。」

(5b)
「【背景技術】
【0002】
3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンは、フリーラジカル消去作用を有する脳保護剤であり、脳梗塞急性期に伴うヒトの神経症候、日常生活動作障害、機能障害の改善薬として、注射剤(点滴静注、点滴による静脈注射)にて使用されている。近年、高齢化、食生活の多様化、日常生活におけるストレスの増加等により生じた脳機能障害等に悩む人も多く、それ故、脳機能障害への迅速かつ的確な対策は医療上重要な課題の一つとされている。
【0003】
脳梗塞などの虚血時及びその後の血流再開通後にヒトの生体内に過剰に発生するヒドロキシラジカル(・OH)などのフリーラジカルは、ヒトの細胞膜に連鎖的に酸化障害を引き起こし、脳虚血障害を更に悪化させる。このような場合に3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン含有注射剤(商標名:ラジカット注30mg、1回分あたり有効成分30mgを含む注射剤)を点滴静注にて用いると、該注射剤はヒトの生体内のヒドロキシラジカルを消去することにより、脳虚血障害に対する優れた治療効果を発揮する。
【0004】
ところが、前記注射剤は、その点滴静注時に患者の体(静脈)に注射針を刺すので患者に苦痛を与え、また、前記点滴静注は通常ベッド上に横たわった患者に対して行われるので、患者は一定時間(点滴静注が行われている間)、前記ベッド上に拘束される。加えて、インスリンやインターフェロン等の一部の注射剤を除いて患者本人による注射を行うことはできず、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン含有注射剤の点滴静注も、当然、患者本人にて行うことはできないので、医師、看護婦又は看護士による点滴静注(投与)が必要となる。それ故、患者は点滴静注のための入院又は通院を余儀なくされる。患者が点滴静注のために入院又は通院する場合であっても、点滴静注時に患者は苦痛を感じ、そして医師、看護婦、看護士等の医療関係者は点滴静注(投与)を行うための時間を必要とするので、例えば、点滴静注を用法・用量通り1日2回行うと、その都度、患者と医療関係者に苦痛と時間の消費が生じる。さらに、注射剤の点滴静注に伴う肝機能障害等の副作用が報告されており、かかる副作用は、点滴静注による血中薬剤濃度の一過性の上昇が原因の一つで起きることは容易に予測される。
このような状況から、長時間にわたって効果を持続させることができる上に、患者への苦痛が低く、且つ、投与が容易でしかも副作用の少ない3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン含有脳保護剤の開発が要望されていた。
【0005】
出願人は、既に上述の要望に応えるべく、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の一つとして脳保護剤を提案しており(PCT/JP03/14362)、実施例においてその顕著な効果を確認している。すなわち、試験例1において、出願人は、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンを、提案する経皮吸収型脳保護剤の形態と従来の注射剤の形態(静脈内投与)とでラットに投与し、その後の経時的な血漿中薬物濃度を定量している。その結果、注射剤の形態においては、静注直後は高い血漿中薬物濃度を示したがその後急速にその濃度が減少し、4時間後に消失してしまったのに対して、出願人の提案した経皮吸収型脳保護剤は、貼付2時間後に静脈内投与レベルの血漿中薬物濃度を上回り、それ以降製剤を剥離除去する24時間後まで略一定な血漿中薬物濃度を維持し得ることが認められている。さらに、ラット一過性局所脳虚血モデルを用いた薬効薬理試験においては、出願人の提案した貼付剤は、脳梗塞面積を有意に減少させていることが明らかとなっている。」

(4)進歩性欠如理由1について
ア 特許異議申立人は、甲第1号証には、
「A エダラボン等を含む水溶液
B を充填する薬剤容器
D 上記薬剤容器は、ポリエチレンとポリ環状オレフィンを重ね合わせて多層に構成している
E 上記薬剤容器は輸液バッグとして用いられる」発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認定した上で(特許異議申立書第7頁第3?9行)、
本件特許発明1と甲1発明とは、
「A エダラボン等を含む水溶液
B を充填するプラスチック製容器
D 上記プラスチック容器は、ポリエチレンとポリ環状オレフィンを重ね合わせて多層に構成している
E 上記薬剤容器は輸液バッグとして用いられる」点
で一致し、
本件特許発明1は、プラスチック容器が脱酸素剤とともに気体難透過性の容器内に収容されているのに対して、甲第1号証にはそのような特定がない点で相違すると主張する。
(特許異議申立書第9頁第10行?第10頁7行)

そこで、甲第1号証の記載を検討する。
甲第1号証の特許請求の範囲には、記載事項(1a)にあるとおり、
請求項1に
「密度0.935?0.950g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体を用いてなる厚さ10?50μmの表層と、
密度0.860?0.930g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体を用いてなる厚さ100?200μmの柔軟層と、
ポリ環状オレフィン60?95重量%と密度0.900?0.965g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体5?40重量%とを含む混合樹脂を用いてなる厚さ10?80μmのバリア層と、
密度0.910?0.950g/cm^(3)のエチレン・α-オレフィン共重合体を用いてなる厚さ5?80μmのシール層と、
を備える多層フィルム」、
請求項10に
「請求項1?9のいずれかに記載の多層フィルムを、その表層が外表面側となるように用いてなる薬剤容器。」
と記載されており、記載事項(1b)の記載からみて、請求項1を引用する請求項10に係る薬剤容器は、ニトログリセリン等の「ポリエチレンに吸着されやすい薬剤」を含有した溶液を薬剤容器に充填したときの、薬剤の吸着を抑制することを課題としたものと理解できる。
そして、当該「ポリエチレンに吸着されやすい薬剤」について、具体的な例として「ニトログリセン以外に、硝酸イソソルビド、塩酸ニカルジピン、ミダゾラム、エダラボン等」との記載はあるものの(記載事項(1d))、エダラボン溶液を充填した薬剤容器を具体的に示した実施例の記載はない(記載事項(1e))。
したがって、甲第1号証には、薬剤容器に充填される溶液が、「ポリエチレンに吸着されやすい薬剤を含有する溶液」であること、及び、エダラボンが「ポリエチレンに吸着されやすい薬剤」の一つであることは記載されているが、当該薬剤をエダラボンに限定したものが記載されているとはいえない。
さらに、本件特許発明1の「ポリエチレン」として、本件特許明細書には、エチレンと他のα-オレフィンとの共重合体が包含される旨記載されているから(本件特許明細書段落【0046】)、上記の薬剤容器に用いられる「多層フィルム」を構成する「表層」、「柔軟層」、「シール層」に用いられる「エチレン・α-オレフィン共重合体」は、本件特許発明1の「ポリエチレン」に相当する。また、同「バリア層」で用いられる混合樹脂に含まれる「ポリ環状オレフィン」は、本件特許発明1の「環状オレフィンポリマー」に相当する。
したがって、甲第1号証に記載された「多層フィルム」を構成する「表層」、「柔軟層」、「シール層」は、本件特許発明1の「ポリエチレン」からなる層に相当する一方、同「バリア層」は「ポリエチレン」と「環状オレフィンポリマー」との混合樹脂からなる層であって、本件特許発明1の「環状オレフィンポリマー」からなる層に相当するものではない。
また、上記の薬剤容器の形態について、「輸液バックや輸液ボトル」という例示はあるが(記載事項(1b))、「輸液バック」と限定したものが記載されているとはいえない。

以上のことから、甲第1号証に記載された発明を、甲1発明であると認定することはできない。

したがって、特許異議申立人による甲第1号証に記載された発明の認定には誤りがあり、それに伴い、本件特許発明1との一致点、相違点の認定にも誤りがある。
特許異議申立人の進歩性欠如理由1についての主張は、誤った認定に基づくものである以上、理由がない。

イ ここで念のために、仮に、甲第1号証に記載された発明として甲1発明が認定できるとした場合について、検討を加える。

(ア) 特許異議申立人の主張する本件特許発明1と甲1発明との相違点である、本件特許発明1は、プラスチック容器が脱酸素剤とともに気体難透過性の容器内に収容されているのに対して、甲第1号証にはそのような特定がない点について、特許異議申立人は「甲第1号証から甲第4号証は薬剤容器に関する発明であるから、甲第1号証から甲第4号証を組み合わせて、酸化されやすいエダラボン溶液を含む輸液バッグを長期に安定して保存するために、エダラボン溶液を含む輸液バッグを脱酸素剤とともに気体難透過性の外装袋に収容することは、当業者が容易に想到し得ることである。」と主張する(特許異議申立書第10頁第5?19行)。

甲第3、4号証には、酸化を受け分解しやすい薬剤を含有する溶液を収納して、保存等することを課題とした手段について記載されている(記載事項(3a)、(4a))。そして、当該手段として、甲第3号証には、輸液剤を充填した気体透過性を有する医療用一次容器を、脱酸素剤と共に、実質的に酸素を透過しない二次包装容器内に収納するという手段だけでなく、ガスバリアー性を有する輸液容器を乾燥剤を共存させて包装体で包装するという、別の手段も記載されているし(記載事項(3a))、甲第4号証にも、プラスチック容器を脱酸素剤と共にガスバリヤー性包材に封入する手段だけでなく、プラスチック容器をガスバリア性層の内側に酸素吸収性樹脂層を有するプラスチック積層材から構成されるガスバリア性外装容器またはガスバリア性外装フィルムで包装するという別の手段も記載され、2重袋を用いるため非常にコストが高いという問題についても言及している(記載事項(4a))。
以上のとおり、甲第3、4号証には、酸化を受け分解しやすい薬剤を含有する溶液を収納して、保存等することを課題とした手段について記載されているところ、これら甲号証の記載は、酸化を受け分解しやすい薬剤を含有する溶液を充填したプラスチック容器は、必ずしも脱酸素剤と共に気体難透過性の容器に収容して保存等されるものではなく、他の収容手段が採用される場合もあることを示唆しているといえる。

一方、甲1発明は、記載事項(1a)、(1b)からみて、「ポリエチレンに吸着されやすい薬剤」を含有した溶液を薬剤容器に充填したときに、薬剤の吸着を抑制することを課題とするものである。
そして、甲第1号証には、当該「ポリエチレンに吸着しやすい薬剤」を含有する溶液の着色、プラスチック容器の着色については記載も示唆もなく、ポリエチレンに対して吸着しやすいという性質は、薬剤の安定性(酸化されやすさ)とは直接関係しないから、ポリエチレンに吸着しやすい薬剤が、必ず酸化を受け分解しやすい性質を有するともいえない。
したがって、酸化を受け分解しやすい薬剤を含有する溶液を収納して、保存等するという課題は、上述の甲1発明の課題とは、異なるものであって、しかも、直接関係するものでもない。
したがって、甲第1号証の記載に接した当業者が、薬剤の吸着を抑制するという甲1発明の課題とは異なり、しかも、直接関係もしない別の課題である本件特許発明1の課題があることを認識するとはいえず、当該別の課題を解決する手段を採用する動機付けに欠ける。

しかも、上述のとおり、甲第3、4号証の記載は、酸化を受け分解しやすい薬剤を含有する溶液を充填したプラスチック容器は、必ずしも脱酸素剤と共に気体難透過性の容器に収容して保存等されるものではないことを示唆しているから、仮に「エダラボン」が酸化を受け分解しやすい薬剤であることが周知の事項であっても、甲1発明に対して、プラスチック容器を脱酸素剤と共に気体難透過性の容器に収容する手段を付加することを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(イ) また、特許異議申立人は「収容物の酸化等の変質防止という周知の課題の解決に、ポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にしたプラスチック容器を用いることの阻害要因に関する本件特許権者の主張は成り立たないこと」(特許異議申立書第12頁第8?10行)、そして、本件特許発明1の効果について、「本件特許発明の明細書の記載から、本件特許発明1の材質のバッグの着色が、他の材質のバッグに比較して少ないなどということはできない。」(特許異議申立書第11頁下から第4行?下から第2行)、「本件特許発明1は他の材質より劣るのであり、本件特許発明1が「薬液の着色が少なく、かつバッグの着色も少ないという有利な効果を奏することを特徴とします」などと到底いえるものではない。」(特許異議申立書第12頁第5?7行)と主張する。

しかし、当該阻害要因を有するか否かに関わらず、また、本件特許発明1の効果を検討するまでもなく、甲1発明に基いて、当業者が本件特許発明1の構成に容易に想到したといえないのは、上述のとおりである。

(ウ) さらに、特許異議申立人は、本件特許の出願の一部を新たな特許出願としたものである特願2013-120415号について、甲第1号証から甲第4号証と同じ文献に基いて進歩性を否定する旨の拒絶理由通知がなされた後に出願取下書が提出されたことを根拠に、本件特許権者が、本件特許発明1が甲第1号証?甲第4号証に基いて進歩性を有さないことを認めていると主張する。(特許異議申立書第14頁第1行?第15頁第13行)

しかし、出願を取り下げる理由は、出願人が拒絶理由を解消できないことを自認したためとは限らないから、当該主張は、根拠がない。

以上のとおりであるから、特許異議申立人による進歩性欠如理由1についての主張には、理由がない。

(5)進歩性欠如理由2について

ア 特許異議申立人は、甲第5号証には、
「A 3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンを含有する
C 脱酸素剤と共にガスバリヤー性を有する包装材に密封している
F ガスバリヤー性の包装材を有する」発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認定した上で(特許異議申立書第9頁第4?8行)、

本件特許発明1と甲5発明とは
「A 3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンを有効成分として含有する
C 脱酸素剤と共に気体難透過性の包装材を有する
F 気体難透過性の包装材を有する」点で一致し、
甲5発明は、本件特許発明1と以下の点で相違すると主張する。
「相違点1: 3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンが水溶液の形態でない点。
相違点2: B プラスチック容器の構成を備えない点。
相違点3: D プラスチック容器を、ポリエチレンと環状オレフィンポリマーを重ね合わせて構成していない点。
相違点4: E プラスチック容器は輸液バッグである点。」(特許異議申立書第15頁下から第8行?第16頁第19行)

そこで、甲第5号証の記載を検討する。
甲第5号証の特許請求の範囲の請求項1には、記載事項(5a)にあるとおり、「基剤中に、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその医学的に許容され得る塩を含有する経皮吸収型フリーラジカル抑制剤を、脱酸素剤と共に、酸素非透過包装材内に密封してなることを特徴とするフリーラジカル抑制製剤」と記載されている。
一方、特許異議申立人のいう甲5発明は、物の発明であるのか、方法の発明であるのか、何を「脱酸素剤と共にガスバリヤー性を有する包装材に密封している」のかすら理解できない極めて不明確なものであるから、甲第5号証の他の部分の記載を検討しても、甲第5号証に甲5発明が記載されていると認定することはできない。
したがって、特許異議申立人による甲第5号証に記載された発明の認定には誤りがあり、それに伴い、本件特許発明1との一致点、相違点にも誤りがある。
特許異議申立人の進歩性欠如理由2についての主張は、誤った認定に基づくものである以上、理由がない。

イ ここで念のために、仮に、甲第5号証に記載された発明として甲5発明が認定できるとした場合について検討を加える。

(ア) まず、特許異議申立人の主張する本件特許発明1と甲5発明との相違点である「相違点1: 3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンが水溶液の形態でない点」について検討する。
甲第5号証には、従来の3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン含有注射剤の点滴静注について、注射針を刺すため患者に苦痛を与え、また、点滴静注が行われている間、患者がベッド上に拘束されるだけでなく、医師等による投与であって患者本人では投与できないという問題点を挙げ、当該問題点を解決するために経皮吸収型の形態を提案したことが記載されている(記載事項(5b))。
一方、甲第1号証には、点滴用の注射剤である水溶液を収容する容器について記載され、甲第2号証には、点滴用の注射剤に適した水溶液について記載されている(記載事項(1b)(2a))。
このため、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンを含有する点滴用の注射剤の問題点を解決するために、水溶液の形態ではないもの(経皮吸収型の形態)とした甲5発明において、点滴用の注射剤に適した甲第1、2号証に記載される水溶液の形態を採用することには、阻害要因があるというべきである。
したがって、当業者は、甲5発明に対して、上記相違点に係る本件特許発明1の構成を採用することを容易に想到し得ない。

そして、本件特許発明1は、薬剤容器が着色しないという、甲第1、2、5号証に記載された効果とは異質の効果を奏する。

したがって、本件特許発明1は、甲5発明並びに甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ) なお、特許異議申立人は、特許異議申立人が認定した相違点1?4について「甲5発明における脱酸素剤と酸素非透過性の包装材との組合せにより、内容物であるフリーラジカル抑制剤の経時的な劣化が抑制され、着色が見られなかったことが記載されているから、甲第3号証、甲第4号証に代えて、甲5発明、甲1発明、及び甲第2号証を組み合わせることによっても本件特許発明1の進歩性は否定されるべきものである。」と主張する(特許異議申立書第17頁第1?6行)。

当該主張は、甲1発明を主引用発明として進歩性を否定しているのか、甲5発明を主引用発明として進歩性を否定しているのかが判然としないものであるし、甲第3号証、甲第4号証を副引用発明とするのか否かも判然としないものである。
しかし、そもそも特許異議申立人による甲第1号証に記載された発明の認定に誤りがあり、それに伴い、本件特許発明1との一致点、相違点の認定にも誤りがあることは上記(4)アで述べたとおりであり、また、特許異議申立人による甲第5号証に記載された発明の認定に誤りがあり、それに伴い、本件特許発明1との一致点、相違点の認定にも誤りがあることは上記(5)アでも述べたとおりであるから、特許異議申立人の当該主張がいずれであっても、理由がない。
そして、仮に、甲第1号証に記載された発明として甲1発明が認定できたとして、当該主張が、甲1発明を主引用発明とし甲第2?5号証に記載された発明を副引用発明とした主張であるとしても、または、仮に、甲第5号証に記載された発明として甲5発明が認定できたとして、当該主張が、甲5発明を主引用発明とし甲第1、2号証に記載された発明を副引用発明とした主張であるとしても、上記(4)イ、または、上記(5)イで述べたとおり、当該主張は理由がない。
さらに、当該主張が、甲5発明を主引用発明とし甲第3号証、甲第4号証を副引用発明とした主張であるとしても、甲第3、4号証には、「3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン」について記載も示唆もなく、輸液などの溶液を収納して、保存等することを課題とした手段に関して記載されているにすぎず、甲5発明に対して、甲第3、4号証に記載された手段を採用することには、阻害要因があるといえる。

よって、特許異議申立人の進歩性欠如理由2の主張には、理由がない。

(6) 進歩性欠如理由3について

本件特許発明2、3は、本件特許発明1にさらに発明特定事項を付加したものであるから、特許異議申立人による本件特許発明1についての進歩性欠如理由1および2についての主張に理由がない以上、進歩性欠如理由3についての主張も理由がない。

3 サポート要件(特許法第36条第6項第1号)について

(1) 特許異議申立人のサポート要件についての主張の概要
特許異議申立人は、実施例は、特許請求の範囲に記載のエダラボン(商品名「ラジカット」)を充填する前に別の薬液を充填した上でそれを破棄し、エダラボンを充填した上で薬液やバッグの着色を確認したものであって、特許請求の範囲に記載された内容をサポートしているとは到底言えないと主張する。(特許異議申立書第18頁第9行?第22頁第7行)

(2) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
ア「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含有する水溶液を充填したガラスアンプル以外の容器を提供することを解決すべき課題とした。」

イ「【実施例】
【0059】
試験例:
(試験方法)
(1)検体の製造
市販されているラジカット(登録商標)注30mg(三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)の希釈液を、表1に記載の材質の輸液バッグに充填し、エージレス包装後(アルミ袋にエージレスを2個入れ、窒素充填後、封をする)、60℃保存し、1週間目、2週間目及び4週間目の薬液の着色(吸光度400nm)、及びバッグの着色(黄色方向の色度b*(L*a*b*表色系))を評価した。評価項目及び保存条件を表2に示す。

【0062】
上記ラジカット(登録商標)注30mg、20mlを0.22μmのフィルターでろ過した生理食塩水で希釈し、50mlに全量調整後、輸液バッグに充填した。充填済みの輸液バッグをヒートシーラーにて封をし、アルミ袋に2袋ずつ入れた。更にアルミ袋にエージレス2個ずつ入れ、窒素を入れながらヒートシーラーにて封をした。
【0063】
(2)測定方法
(i)薬液の着色(吸光度400nm)
角形セル(光路長10mm)にて、波長400nmの吸光度を測定する。
【0064】
(ii)バッグの着色(黄色方向の色度b*(L*a*b*表色系))
分光式色差計(SE-2000、日本電色工業)の試料台(アタッチメント:4径)にバッグ片を置き、その上に白板(三刺激値X0=84.29、Y0=85.54、Z0=101.35)を設置後、反射モードで測定し、黄色方向の色度b*(L*a*b*表色系)を求める。
【0065】
(試験結果)
(1)薬液の着色(吸光度400nm)
薬液の着色の結果を表3に示す。その結果、全ての検体で保存期間を通じて変化はほとんど認められず、無色澄明であった。
【0066】


【0067】
(2)バッグの着色(黄色方向の色度b*(L*a*b*表色系))
バッグの着色の結果を表4に示す。その結果、バッグの着色は(4)PVC>(3)EVA>(2)PE>(1)PE>(7)PE+COP>(6)PE>(5)PP(60℃4W:(4)7.78、(3)5.73、(2)4.17、(1)3.69、(7)3.51、(6)3.45、(5)3.11)の順であった。目視観察の結果、(1)PE、(2)PE、(5)PP、(6)PE及び(7)PE+COPの着色は認められなかったが、(4)PVC及び(3)EVAは明らかに着色が認められた。
【0068】



(3) 甲第17号証の記載
(17a)
「剤形 注射剤

規格・含量 ミオコール^(R)(当審注:Rは丸付きである)注5mg:
1管10mL中ニトログリセリン5mg含有
ミオコール^(R)(当審注:Rは丸付きである)中50mg:
一袋100mL中ニトログリセリン50mg含有

一般名 和名: ニトログリセリン
洋名: Nitroglycerin

製造・輸入承認年月日 製造・輸入承認年月日:2006年3月1日
薬価基準収載・ 薬価基準収載年月日 :2006年7月7日
発 売 年 月 日 発 売 年 月 日 :2006年7月31日

開発 ・ 製造 ・ 製造販売:トーアエイヨー株式会社
輸入・販売・提携・ 販 売:アステラス製薬株式会社
販 売 会 社 名 」
(表紙 下の表)

(17b)
「無色透明ソフトバッグ
バッグ:ポリエチレン/シクロオレフィンポリマーの多層シート、ゴム
口部シール:ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン」
(第9頁「10.容器の材質」欄の表中「ミオコール注50mg」の項目)

(4) サポート要件についての判断
本件特許発明1?3の課題は、記載事項アから、「3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンを有効成分として含有する水溶液を充填したガラスアンプル以外の容器を提供すること」であると認められる。
これに対して、記載事項イに示された実施例では、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンを含有とする水溶液を充填した、番号(7)の輸液バックにおいて、エダラボンを充填した直後と60℃4週間保存した後とを比較して、薬液やバックの着色変化がないことは確認されている(特に、段落【0066】の表3、段落【0068】の表4)。
そして、たとえ特許異議申立人の主張のとおり、当該実施例が「エダラボンを充填する前に別の薬液を充填した状況において薬液やバッグの着色について確認した」結果であったとしても、エダラボンを充填する前に別の薬液を充填していない場合は、別の薬液を充填した場合よりも着色等をもたらす化学変化の要因が少ないことは明らかであるから、その結果に基づいて、エダラボンを含有する溶液を充填した後、溶液の色に変化が生じないこと、エダラボンを充填してもバックの着色が生じないことを、当業者は認識できる。
なお、記載事項イの段落【0060】の表1において当該番号(7)の輸液バックについて、材質が「ポリエチレン(PE)+環状オレフィンポリマー(COP)」、製品名が「ミオコール注50mg」であることが記載されているところ、本件特許出願時に頒布されていたと認められる当該製品のインタビューフォーム(甲第17号証)にも、バックの材質が、「ポリエチレン/シクロオレフィンポリマーの多層シート、ゴム」と記載されていることから、当該バックの材質が本件特許発明1の「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にしたもの」に相当することは、出願時の技術常識に基づいて当業者が認識し得たことである。
そうすると、記載事項イに示された実施例から、「ポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にしたもの」である輸液バッグが、薬液の着色、バックの着色のない、市販のガラスアンプルの形態とは異なる形態として使用できることを当業者は認識できる。
以上のとおり、特許異議申立人のサポート要件についての主張には理由がなく、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものといえる。

4 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について

(1) 特許異議申立人の実施可能要件についての主張の概要
特許異議申立人は、本件特許発明1?3における「環状オレフィンポリマー」について、どのような環状オレフィンを用いたポリマーであるか不明である。このため当業者が本件特許の明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、本件特許発明1?3に係る「環状オレフィンポリマー」を用いた物を製造することができず、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさないと主張する(特許異議申立書第22頁下から第5行?第24頁第17行)。

(2) 実施可能要件についての判断
上記3(2)記載事項イの段落【0066】の表1において、番号(7)の輸液バッグについて、材質が「ポリエチレン(PE)+環状オレフィンポリマー(COP)」、製品名が「ミオコール注50mg」であることが記載されている。この記載に接した当業者は、少なくとも、番号(7)の輸液バッグ「ミオコール注50mg」が請求項1にいう「上記プラスチック容器がポリエチレン及び環状オレフィンポリマーを重ね合わせて多層にしたものであり、上記プラスチック容器の形態が輸液バッグである」ものとして、使用できることを理解する。
そして、輸液バッグ製品「ミオコール注50mg」のインタビューフォーム(甲第17号証)が本件特許出願前に頒布されていたと認められることからも、輸液バッグ製品「ミオコール注50mg」を本件特許出願前に当業者は入手できたと認められる。
このことは、特許異議申立人が、特許異議申立書に「なお、本件特許権者の主張する阻害事由とは反対に、環状ポリオレフィンポリマーを使用した輸液バッグと脱酸素剤とを気体難透過性の容器に収納することは周知事項である(甲第3号証、甲第20号証、甲第21号証及び甲第22号証)。」(特許異議申立書第13頁下から第3行?最下行)と記載し、「環状オレフィンポリマー」を用いた輸液バックが、周知であると認めている点とも符号する。
したがって、当業者は、少なくとも輸液バッグ「ミオコール注50mg」を用いることにより、本件特許発明1?3に係る気体難透過製の容器を製造することができるといえる。したがって、特許異議申立人の実施可能要件についての主張には理由がなく、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものといえる。

第5 むすび

したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-19 
出願番号 特願2007-544193(P2007-544193)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 常見 優  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 穴吹 智子
松澤 優子
登録日 2016-07-22 
登録番号 特許第5973118号(P5973118)
権利者 田辺三菱製薬株式会社
発明の名称 ピラゾロン化合物含有水溶液が充填されたプラスチック容器  
代理人 藍原 誠  
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