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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1330126
異議申立番号 異議2017-700330  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-04 
確定日 2017-07-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6003956号発明「電池用包装材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6003956号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6003956号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成26年9月26日を出願日とする出願であって、平成28年9月16日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人松永健太郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明

本件特許の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?8」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも、基材層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、
前記基材層は、二軸延伸ポリアミド樹脂もしくは二軸延伸ポリエステル樹脂からなる単層フィルム、または前記金属層側から二軸延伸ポリアミド樹脂と二軸延伸ポリエステル樹脂が積層された積層フィルムであり、
前記金属層は、アルミニウム箔であり、
前記シーラント層は、ポリオレフィンであり、
前記積層体のMD方向における10%伸長時の応力をA1、TD方向における10%伸長時の応力をB1とし、
前記基材層のMD方向における10%伸長時の応力をA2、TD方向における10%伸長時の応力をB2とした場合において、
(A1-A2)≧60N/15mm、及び
(B1-B2)≧50N/15mm
の関係を充足する、電池用包装材料。

【請求項2】
(A1-A2)と(B1-B2)の比が、(A1-A2)/(B1-B2)=1.00?1.20の関係を充足する、請求項1に記載の電池用包装材料。

【請求項3】
前記基材層表面の動摩擦係数をC、前記シーラント層表面の動摩擦係数をDとした場合に、下記の関係:
C≦0.3、
D≦0.3、及び
C/D=0.5?2.5
を充足する、請求項1または2に記載の電池用包装材料。

【請求項4】
前記金属層の少なくとも一方の面に化成処理が施されている、請求項1?3のいずれかに記載の電池用包装材料。

【請求項5】
成形深さが4mm以上の深さで成形される深絞り用の電池用包装材料である、請求項1?4のいずれかに記載の電池用包装材料。

【請求項6】
前記積層体の厚みが、120μm以下である、請求項1?5のいずれかに記載の電池用包装材料。

【請求項7】
二次電池用の包装材料である、請求項1?6のいずれかに記載の電池用包装材料。

【請求項8】
少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子が、請求項1?7のいずれかに記載の電池用包装材料内に収容されている、電池。」

第3 特許異議申立理由の概要

申立人は、証拠として、下記甲第1号証?甲第3号証(以下、「甲1」?「甲3」という。)を提出し、以下の申立理由1?5によって請求項1?8に係る特許を取り消すべきである旨主張している。

甲第1号証(甲1):特開2006-66113号公報
甲第2号証(甲2):国際公開第2012/086501号
甲第3号証(甲3):特開2013-226838号公報

申立理由1
本件特許の請求項1には、10%伸長時の応力の差の値について下限値は規定されているものの、上限が規定されていないため、請求項1の記載は特許を受けようとする範囲が明確であるとはいえない。また、請求項1を引用する請求項2?8の記載も同様に、特許を受けようとする範囲が明確であるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1?8に係る発明は明確ではないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

申立理由2
本件発明を実施しようとする当業者は、これをどのように実施するのかを理解することができない。具体的には、基材層、金属層、シーラント層の材料を準備したところで、これらを具体的にどのような厚さでどのように積層すれば、本件特許の請求項1に規定された「(A1-A2)≧60N/15mm」及び「(B1-B2)≧50N/15mm」なる関係を満たすのか、具体的に想起することができないから、本件発明を実施しようとする当業者は、各層の厚さをどのような態様とすれば本件発明の実施に相当するのかを理解することができない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項1?8に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものではないから、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

申立理由3
以下の(i)?(iii)の事項によれば、本件特許の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
(i)請求項1においては、10%伸長時の応力の差の値について下限値は規定されているものの、上限は規定されていない。一方、本件特許明細書の【0017】には、「A1-A2の上限値は、通常、80N/15mmである。また、B1-B2の上限値は、通常、70N/15mmである。」との記載があり、(A1-A2)及び(B1-B2)の値がこの数値範囲の上限を超える場合にも、「成形後のカールを抑制する」との発明の課題を解決することができることを当業者は認識することができない。
(ii)本件発明では、各層の層厚が特定されていないが、金属層の厚さや接着層の厚さ、更にはこれらを含む積層体の厚さと基材層の厚さとの関係性は、10%伸長時の応力に影響する重要な因子であり、これらが規定されていない本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものと実質的に対応しているとはいえない。
(iii)本件特許明細書の実施例及び比較例では、基材層として「ナイロンフィルム」及び「ポリエチレンテレフタレート」、シーラント層として「プロピレン・エチレン共重合体」という特定の材料を用いて得られた試験結果が記載されているが、用いる材料が異なれば、得られた積層体の特性も異なるのが通常であるから、前記特定の材料を用いて得られた試験結果を、請求項1の「ポリアミド樹脂」、「ポリエステル樹脂」、「ポリオレフィン樹脂」の範囲にまでそれぞれ拡張ないし一般化することはできない。

申立理由4(甲1を主引例とする新規性進歩性について)
本件発明1、3、5及び7は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、本件発明1?8は、甲1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

申立理由5(甲2を主引例とする新規性進歩性について)
本件発明1、3、5及び7は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、本件発明1?8は、甲1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 当合議体の判断

申立人によって申立書に記載された、上記申立理由1?5は、いずれも、取消理由として採用できない。その理由は以下1?5に記載するとおりである。

1 申立理由1について
申立理由1における「10%伸長時の応力の差」とは、本件特許の請求項1の記載からみて、積層体のMD方向における10%伸長時の応力(A1)と基材層のMD方向における10%伸長時の応力(A2)との差(A1-A2)、並びに、積層体のTD方向における10%伸長時の応力(B1)と基材層のTD方向における10%伸長時の応力(B2)との差(B1-B2)を意味すると認められる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、前記(A1-A2)及び(B1-B2)の値は、いずれも、段落【0014】記載の測定方法を用いて実測できる値であり、「(A1-A2)≧60N/15mm」及び「(B1-B2)≧50N/15mm」なる関係を充足するか否かは、何らの困難なく判断できるから、本件発明1の「前記積層体のMD方向における10%伸長時の応力をA1、TD方向における10%伸長時の応力をB1とし、前記基材層のMD方向における10%伸長時の応力をA2、TD方向における10%伸長時の応力をB2とした場合において、(A1-A2)≧60N/15mm、及び(B1-B2)≧50N/15mmの関係を充足する」なる発明特定事項について、何ら不明瞭と認定し得る根拠は見当たらない。
なお、本件発明1は、電池用包装材料に係る発明であるから、その積層体の厚さは、電池用包装材料という用途に適した寸法に自ずから制限される上に、前記積層体を構成する各層の材料も特定されていることを勘案すると、積層体の10%伸長時の応力であるA1及びB1が、現実的とはいえないような大きな値となり得ないことは明らかである。そうすると、それぞれ前記A1及びB1よりも必ず小さい値となる前記(A1-A2)及び(B1-B2)もまた、現実的とはいえないような大きな値とはなり得ないから、前記(A1-A2)及び(B1-B2)の上限値の特定がないことは、本件発明1の技術的範囲が不明確であると認定し得る根拠とはなり得ない。
したがって、本件発明1と、本件発明1の特定事項を備えた本件発明2?8は明確でないとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるとはいえない。
そのため、上記申立理由1は取消理由として採用できない。

2 申立理由2について
本件特許明細書には、実施例1?7として、基材層として「ナイロンフィルム」及び「ポリエチレンテレフタレート」、金属層として「アルミニウム箔」、シーラント層として「プロピレン・エチレン共重合体」という特定の材料を用い、各層の厚さを異ならせた複数の積層体が例示されており、これらはいずれも、本件特許の請求項1に規定された「(A1-A2)≧60N/15mm」及び「(B1-B2)≧50N/15mm」なる関係を充足するものである。したがって、本件特許明細書の実施例1?7の記載を参照すれば、本件発明について、当業者が実施できる程度に記載されているといえる。
そのため、上記申立理由2は取消理由として採用できないことは明らかである。
念のため、本件特許明細書には、実施例1?7以外の場合にも、当業者が本件発明を実施できる程度に記載されているかにつき検討してみる。
本件特許明細書の段落【0081】には、「電池用包装材料の・・・10%伸張時応力・・・及び使用した基材層の・・・10%伸張時応力・・・は、それぞれJIS K7127の規定に準拠した方法で測定した」と記載されているところ、JIS K 7127:1999が引用するJIS K 7161:1994の「4.3.4」には、「x%ひずみ引張応力σ_(x)」は、「ひずみが規定の値(x%)に達したときの応力」であると定義されており、また、同「4.3」と「10.1」には、前記引張応力σは「試験中,試験片の標線間距離内の初め(応力をかける前)の断面の単位面積にかかる引張力」であって、以下の式(3)で求める旨が定義されている。

σ=F/A (3)
(σ:引張応力(MPa)、F:測定荷重(N)、A:試験片の初めの断面積(mm^(2)))

ここで、本件発明における「10%伸張時応力」の単位は「N/15mm」であり、本件特許明細書の段落【0081】の記載によれば、当該「15mm」はサンプル幅を意味するから、当該「10%伸張時応力」は、上記式(3)における「σ:引張応力(MPa)」ではなく、幅15mmのサンプルを用いて測定した「F:測定荷重(N)」の値であると認められる。そして、本件発明のようにサンプル幅が15mmで一定の試験条件で引張応力を測定する場合には、「A:試験片の初めの断面積(mm^(2))」はサンプルの厚さに比例し、その結果、「F:測定荷重(N)」の値がサンプルの厚さに比例することも、上記式から自明である。また、本件特許明細書の実施例1と実施例6の比較からも、基材層の材料及び延伸倍率が同じであれば、基材層の厚さが増加するにつれて基材層の10%伸長時応力(A2及びB2)が増加することは明らかである。
加えて、基材層の材料が異なれば10%伸長時応力も異なることや、複数の層の接着により得られた基材層が、貼り合わせ前の単層からなる基材層よりも大きな10%伸長時応力を有することも、本件特許に係る出願の出願日前の技術常識や、本件特許明細書の実施例1、3及び4の比較から明らかである。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、基材層の厚さや材料、積層構成を調整することにより、当該基材層の10%伸長時応力(A2及びB2)を調整できることを容易に理解するといえる。
さらに、同じ基材層を用いても、金属層やシーラント層の厚さが増加するにつれて、金属層やシーラント層を含む積層体の10%伸長時応力(A1及びB1)も増加することは、本件特許明細書の実施例1、5及び7の比較や、実施例7と比較例4の比較から明らかである。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、金属層やシーラント層の厚さを調整することによっても、積層体の10%伸長時応力(A1及びB1)を調整できることを、容易に理解するといえる。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、実施例1?7以外の場合にも、基材層やその他の層の材料や厚さを選択することで、基材層の10%伸長時応力(A2及びB2)及び積層体の10%伸長時応力(A1及びB1)をそれぞれ調整することにより、積層体の10%伸長時の応力と基材層の10%伸長時の応力との差((A1-A2)及び(B1-B2))を調整することが可能であり、それにより、本件特許の請求項1に規定された「(A1-A2)≧60N/15mm」及び「(B1-B2)≧50N/15mm」なる関係を充足する積層体を製造できることを、容易に理解するといえるから、本件特許明細書には、本件発明のうち前記特定の材料以外の材料を用いた実施の形態についても、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項1?8に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえないから、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるとはいえない。

3 申立理由3について
本件発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0006】に記載されているとおり、「少なくとも、基材層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなる電池用包装材料において、成形後のカールを抑制する技術を提供すること」であると認められる。そこで、以下において、本件発明が、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。

まず、申立理由3の(i)について検討する。
発明の詳細な説明の段落【0015】には、「電池用包装材料を構成する積層体全体と、その一部である基材層1との・・・応力の差・・・が、・・・特定の値よりも大きいことにより、成形時において、基材層1の形状変化が電池用包装材料全体に与える影響が小さくなり、成形によって形成された凹部周辺の基材層1の形状変化に伴う電池用包装材料のカール(湾曲)が抑制されるものと考えられる。」と記載されている。そして、当該記載に従うならば、前記応力の差が大きければ大きいほど、成形時における基材層の形状変化が電池用包装材料全体に与える影響が小さくなり、電池用包装材料のカールがさらに抑制されると認められるから、前記応力の差、すなわち、(A1-A2)及び(B1-B2)の値が大きくなり、発明の詳細な説明の段落【0017】に記載された通常の上限値を超える場合にも、電池用包装材料のカールは当然抑制され、前記課題を解決できるものと推認される。
したがって、申立理由3の(i)に係る申立人の主張は採用できない。

次に、申立理由3の(ii)について検討する。
申立人は、金属層の厚さや接着層の厚さ、更にはこれらを含む積層体の厚さと基材層の厚さとの関係性は、10%伸長時の応力に影響する重要な因子であると主張しているが、積層体や基材層の10%伸長時応力が、各層の厚さのみから決まるものではなく、各層の具体的な材料によっても異なることは、上記「2 申立理由2について」において示した技術常識から明らかである。
また、上記「2 申立理由2について」において検討したとおり、基材層の10%伸長時応力(A2及びB2)や、積層体の10%伸長時応力(A1及びB1)は、同じ材料であれば厚さに応じて決まることを勘案すれば、本件発明1においては、各層の厚さについて明示的に特定されていないが、「(A1-A2)≧60N/15mm」及び「(B1-B2)≧50N/15mm」なる式によって、各層の厚さが間接的に特定されているともいえる。
そして、本件特許明細書の段落【0015】における「電池用包装材料を構成する積層体全体と、その一部である基材層1との・・・応力の差・・・が、・・・特定の値よりも大きいことにより、成形時において、基材層1の形状変化が電池用包装材料全体に与える影響が小さくなり、成形によって形成された凹部周辺の基材層1の形状変化に伴う電池用包装材料のカール(湾曲)が抑制されるものと考えられる。」との記載、及び、実施例1?7の記載からみて、本件特許明細書には、積層体の10%伸長時応力と基材層の10%伸長時応力との差、すなわち(A1-A2)及び(B1-B2)をそれぞれ所定の値以上とすることにより、発明の課題を解決できることが、当業者が認識できるように記載されていると認められる。そうすると、前記(A1-A2)及び(B1-B2)の下限値が特定された本件発明には、発明の課題を解決するための手段が反映されているといえる。
したがって、申立理由3の(ii)に係る申立人の主張は採用できない。

次に、申立理由3の(iii)について検討する。
本件特許明細書に開示された実施例1?7においては、基材層として、ポリアミド樹脂であるナイロンとポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレートという、主鎖の構造が大きく異なる2種類の樹脂が用いられているが、いずれの樹脂を用いた場合でも、積層体と基材層の10%伸長時応力の差、すなわち(A1-B1)及び(A2-B2)がそれぞれ所定の値以上である場合には、電池用包装材料の成形後のカールは抑制され、発明の課題を解決できることが示されている。そうすると、当業者であれば、基材層として、「ナイロンフィルム」と類似の主鎖構造を有する任意のポリアミド樹脂、又は、「ポリエチレンテレフタレート」と類似の主鎖構造を有する任意のポリエステル樹脂を用い、シーラント層として、「プロピレン・エチレン共重合体」と類似の主鎖構造を有する任意のポリオレフィンを用いた場合にも、各層の厚さを調整して(A1-B1)及び(A2-B2)をそれぞれ所定の値以上とすることにより、発明の課題を解決できることを認識できるといえる。
したがって、申立理由3の(iii)に係る申立人の主張は採用できない。

よって、上記(i)?(iii)の点を検討しても、本件発明1?8は、発明の詳細な説明に記載された発明でないとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるとはいえない。
そのため、上記申立理由3は取消理由として採用できない。

4 申立理由4について

(1)甲1の記載及び甲1に記載された発明
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲1には、以下の記載がある(なお、下線は当審が付与したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。

(a)「【請求項9】
請求項1?8のいずれか1項に記載の積層材料を用いることを特徴とする電池用外装材。」

(b)「【0022】
図1に示すように、本発明の一実施例としての積層材料10は、プラスチックフィルム1の片面にアルミニウム箔2をドライラミネーション用接着剤層3を介して積層した基材4のアルミニウム箔2の表面がベーマイト処理が施されてベーマイト処理層2aを有する。この基材4のアルミニウム箔2のベーマイト処理層2aと、シーラント層3とが変性ポリプロピレン被覆層6を介して熱ラミネーション法により加熱・圧着して積層されており、そのシーラント層3の表面が粗面5aを形成されているものである。
【0023】
まず、本発明の積層材料を構成する材料について以下に説明する。本発明で用いられるプラスチックフィルム1としては、高弾性率を有する2軸延伸ナイロンまたはポリエステルフィルムなどが用いられ、特に2軸延伸ナイロンフィルムが好ましい。 プラスチックフィルム表面のJIS K7125「プラスチック及びシートの摩擦試験方法」に準拠した静摩擦係数が0.25以下であって、かつ、動摩擦係数が0.20以下のものが使用される。
・・・
【0025】
ナイロンフィルムの具体例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、・・・等からなる2軸延伸ナイロンフィルム(ONy)が挙げられる。
【0026】
また、ポリエステルフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、・・・等の2軸延伸ポリエステルフィルムが挙げられる。」

(c)「【0033】
本発明で使用するシーラント層5として、特に未延伸ポリプロピレンフィルムが好ましく用いられる。その中でも、ブロックポリプロピレンをコア層とし表面がランダムプロピレンからなる多層共押し出しフィルムが好適に使用される。」

(d)「【実施例1】
【0054】
下記に示す材料を使用して、図1に示す構成の本発明の積層材料を作成した。その積層材料の構成は、ONyフィルム層(1)/接着剤層(3)/AL箔(2)│(ベーマイト処理面)(2a)/変性PP被覆層(6)/CPP(5)│(エンボス粗面)(5a)である。なお、シーラント加工は、変性PP被覆層(6)として「モルプライムMP?8APCJ」塗布後、熱ラミネーション法でCPP(5)を積層加工した。
【0055】
<使用した材料>
・プラスチックフィルム層1:厚さ25μmの2軸延伸ナイロンフィルム(ONy)(出光社製「ユニロンG?100」)
・アルミニウム箔層2:厚さ40μmのアルミニウム箔(AL箔)(東洋アルミニウム(株)製「CE8079」)
・接着剤層3:ドライラミネーション用接着剤(東洋モートン社製「AD502」、塗布量3g/m^(2))
・シーラント層(5):厚さ30μmの未延伸ポリプロピレン(CPP)(昭和電工(株)製「アロマーET20」)
・変性ポリプロピレン被覆層(変性PP被覆層)(6):東洋モートン(株)製「モルプライムMP?8APCJ」、塗布量4g/m^(2))」

上記(a)の記載によれば、甲1記載の積層材料は、電池用外装材として用いられるものである。
また、上記(b)の記載によれば、甲1記載の積層材料は、プラスチックフィルム、アルミニウム箔、及びシーラント層が、接着剤層及び変性ポリプロピレン被覆層を介して順次積層されたものであり、また、前記プラスチックフィルムとしては、2軸延伸ナイロンフィルム又は2軸延伸ポリエステルフィルムが用いられている。
また、上記(c)の記載によれば、前記シーラント層としては、未延伸ポリプロピレンフィルムが用いられている。

したがって、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「プラスチックフィルム、アルミニウム箔、及びシーラント層が順次積層された積層材料からなり、前記プラスチックフィルムは、2軸延伸ナイロンフィルム又は2軸延伸ポリエステルフィルムであり、前記シーラント層は未延伸ポリプロピレンフィルムである、電池用外装材。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)申立理由についての判断

ア 本件発明1について

(ア)本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「プラスチックフィルム」、「積層材料」、「2軸延伸ナイロンフィルム又は2軸延伸ポリエステルフィルム」、「未延伸ポリプロピレン」、「電池用外装材」は、それぞれ、本件発明1の「基材層」、「積層体」、「二軸延伸ポリアミド樹脂もしくは二軸延伸ポリエステル樹脂からなる単層フィルム」、「ポリオレフィン」、「電池用包装材料」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、
「少なくとも、基材層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、前記基材層は、二軸延伸ポリアミド樹脂もしくは二軸延伸ポリエステル樹脂からなる単層フィルムであり、前記金属層は、アルミニウム箔であり、前記シーラント層は、ポリオレフィンである、電池用包装材料。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本件発明1は、「前記積層体のMD方向における10%伸長時の応力をA1、TD方向における10%伸長時の応力をB1とし、前記基材層のMD方向における10%伸長時の応力をA2、TD方向における10%伸長時の応力をB2とした場合において、(A1-A2)≧60N/15mm、及び(B1-B2)≧50N/15mmの関係を充足する」のに対して、甲1発明ではそのような関係が充足されているか不明である点。

(イ)判断
申立人は、申立書において、本件発明においては、カールを抑制する観点から、基材層の影響力を小さくするために、基材層は積層体に占める割合が小さくなるように設計されているということができるから、本件特許明細書に開示された実施例2及び実施例6と同様の「基材層の厚さ」、「基材層の材料」、「接着層を除く積層体の厚さ」、「基材層の厚さと接着層を除く厚さの割合」を備えている甲1の積層体は、10%伸長時の応力が本件特許の請求項1に規定された「(A1-A2)≧60N/15mm」及び「(B1-B2)≧50N/15mm」なる関係を充足している蓋然性が高いといえる旨主張しているので、この主張が妥当であるかについて検討する。
上記(d)の記載によれば、甲1の実施例1においては、積層材料を構成するプラスチックフィルムとして「厚さ25μmの2軸延伸ナイロンフィルム(ONy)(出光社製『ユニロンG-100』)」が用いられている。そして、当該「ユニロンG-100」なる製品は、ナイロン-6からなるフィルムであるから(要すれば、特開2004-345141号の【0100】を参照のこと。)、甲1記載の積層材料に用いられているプラスチックフィルムを、本件特許明細書の実施例2、6に係る積層体の基材層と比較すると、その材料及び厚さに異なる点はない。しかし、本件特許明細書の実施例2、6に係る積層体の基材層は、段落【0072】の記載によれば、延伸倍率が流れ方向(MD)3.0倍、幅方向(TD)3.3倍の同時二軸延伸により製造されたものであるのに対し、甲1記載の積層材料に用いられているプラスチックフィルムの延伸倍率は明らかではなく、また、延伸温度については両者ともに明らかでない。
ところで、本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である特開2013-213193号公報の段落【0030】には、「蓄電デバイス用セパレータフィルムのMDおよびTDのF5値・・・を上記した好ましい範囲とするためには、フィルムの製造工程での延伸温度と倍率を下記の好ましい範囲内とすることが望ましい。ここで、通常のフィルムであれば、延伸倍率は高ければ高いほど、延伸温度は低ければ低いほど、延伸方向に分子鎖の配向が進み、機械特性が高強度化する方向に構造変化が進行する。」と記載されている。また、同じく本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である、松本喜代一、高嶋英雄、竹谷恪、今村力造、「ポリエチレンテレフタレート二軸延伸フィルムの機械的性質のバランス性」、繊維学会誌、1970年、Vol.26、No.9、第417?425頁には、「F_(5)値とは,試料を5%伸長させるに要する力で,高分子鎖のtautness(緊張性)を表す。」(第419頁左欄最下行?第421頁左欄第2行)、「このフィルムの特徴は,延伸に伴って引張強さやF_(5)値が大きく増加するにもかかわらず・・・」(第421頁右欄第3?5行)、「筆者らは,未配向非晶のPETフィルムをシリコンオイル中で,一軸延伸および逐次法と同時法の2種類の二軸延伸を行ない,延伸に伴い発現するフィルムの機械的性質の変化を構造の変化と関連ずけて検討した。」(第425頁左欄第12?15行)と記載されており、これらの刊行物の記載によれば、延伸倍率や延伸温度を調整することにより、x%伸長時応力等の機械的特性を調整できることは、本件特許に係る出願の出願日前における技術常識であったと認められる。
そして、甲1記載の積層材料におけるプラスチックフィルムの延伸倍率及び延伸温度が不明である以上、当該プラスチックフィルムが、本件特許明細書の実施例2、6に係る積層体の基材層と同等の延伸倍率及び延伸温度で製造されたものとは限らないから、上記技術常識を考慮すると、甲1記載の積層材料におけるプラスチックフィルムと、本件特許明細書の実施例2、6に係る積層体の基材層が、必ずしも同等の10%伸長時応力を示すとはいえない。
また、甲1記載の積層材料において用いられている接着材層、変性ポリプロピレン被覆層及びシーラント層と、本件特許明細書の実施例2、6の積層体において用いられている接着層及びシーラント層とは、各層の材料も厚さも異なるから、甲1記載の積層材料と本件本件特許明細書の実施例2、6に係る特許明細書の実施例2、6に係る積層体が、必ずしも同等の10%伸長時応力を示すとはいえない。
そうすると、甲1記載の積層材料が、本件特許明細書の実施例2及び実施例6に係る積層体と同様の「基材層の厚さ」、「基材層の材料」、「接着層を除く積層体の厚さ」、「基材層の厚さと接着層を除く厚さの割合」を備えていても、その10%伸長時応力が、本件特許の請求項1に規定された「(A1-A2)≧60N/15mm」及び「(B1-B2)≧50N/15mm」なる関係を必ずしも充足しているとはいえないから、出願人の前記主張は採用できない。
また、甲1記載の積層材料の10%伸長時応力が、「(A1-A2)≧60N/15mm」及び「(B1-B2)≧50N/15mm」なる関係を充足していると推認するに足る他の理由も見出せない。
したがって、上記相違点は実質上の相違点であるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、本件特許明細書の【0009】、【0015】、実施例及び比較例の記載からみて、本件発明1は、積層体と基材層の10%伸長時応力の差、すなわち(A1-B1)及び(A2-B2)が、「(A1-A2)≧60N/15mm」及び「(B1-B2)≧50N/15mm」なる関係を充足することにより、電池用包装材料の成形後のカールを効果的に抑制できるという効果を発揮するものといえるが、申立人が証拠として提出した甲1ないし甲3のいずれにも、積層体と基材層の10%伸長時応力の差と、上述の効果との関係について何らの記載も示唆もないから、上述の効果は、当業者が予測し得ない格別の効果といえる。
したがって、本件発明1は、甲1ないし甲3に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2?8について
本件発明3、5及び7は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有する発明であるから、本件発明3、5及び7も、本件発明1と同様、甲1発明と少なくとも上記相違点において相違するので、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明2?8は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有する発明であるから、本件発明2?8も、本件発明1と同様、上記相違点に係る本件発明1の特定事項とすることが容易になし得ることであるとはいえないから、甲1ないし甲3に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 小括
それらのため、上記申立理由4は取消理由として採用できない。

5 申立理由5について

(1)甲2の記載及び甲2に記載された発明
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲2には、以下の記載がある。

(a)「[0022] また、本発明のポリエステルフィルムは、キャスト工程で得られた未延伸フィルムを長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する、あるいは、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する逐次二軸延伸方法により、または、フィルムの長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方法などにより延伸を行うことで得ることができるが、かかる延伸方法における延伸倍率としては、それぞれの方向に、好ましくは、3.5?4.5倍、さらに好ましくは3.6?4.2倍、特に好ましくは3.7?4倍が採用される。また延伸温度は、延伸ムラが生じない程度に低温とすることが好ましく、例えば、長手方向に延伸した後に、幅方向に延伸する逐次二軸延伸方法を採用する場合は、長手方向の予熱温度は50?60℃、延伸温度は80?90℃とすることが好ましく、幅方向の予熱温度は70?80℃、延伸温度は90?100℃とすることが好ましい。また、延伸は各方向に対して複数回行ってもよい。」

(b)「[0041] 本発明の積層体は、アルミニウム箔の上にさらにシーラントフィルムを積層することが好ましい。シーラントフィルムとしては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン-ブテン共重合体等のエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体等のプロピレン系樹脂の単体ないし混合物等を適宜選択して用いることができる。
[0042] また、アルミニウム箔と、シーラントフィルムとの密着性を向上させるために、アルミニウム箔とシーラントフィルムの間に変性ポリオレフィン樹脂を介在させる方法も好ましく用いられる。ここで、変性ポリオレフィン樹脂とは、ポリオレフィン樹脂の片末端、両末端及び内部の少なくともいずれかに一つ以上の極性基を含有するポリオレフィン樹脂のことを指す。ここで、極性基とは、酸素原子、窒素原子など電気陰性度の大きな原子を含む官能基であり、具体的には、アミド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基などの官能基、およびそれら官能基を含む置換基である。」

(c)「[0052] (4)F10_(MD)、F5_(MD)、F10_(TD)、F5_(TD)、F10_(MD)/F5_(MD)、F10_(TD)/F5_(TD)
25℃、63%Rhの条件下で、フィルムを長手方向および幅方向に長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)を用いてクロスヘッドスピード300mm/分、幅10mm、試料長50mmとしてフィルムの長手方向、幅方向について、引張試験を行い、長手方向の10%伸長時の応力をF10_(MD)、5%伸長時の応力をF5_(MD)、また、幅方向の10%伸長時の応力をF10_(TD)、5%伸長時の応力をF5_(TD)とした。各測定はそれぞれ5回ずつ行い、その平均を用いた。」

(d)「[0056] (8)構成体の成型追従性
本発明のポリエステルフィルムとアルミニウム箔(厚み40μm)をウレタン系の接着剤(東洋モートン社製、AD-502、CAT10L、酢酸エチルを15:1.5:25(質量比))を使用して常法によりドライラミネートして積層体を作成した。さらにアルミニウム箔の上に、シーラントとしてマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂とポリプロピレンとを共押出しした2層共押出しフィルム(マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂層:15μm、ポリプロピレン樹脂層:30μm)を、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂層がアルミニウム箔側に位置するようにし、ラミネーターを用いて加熱圧着(120℃、0.3MPa、2m/min)させることで積層させ、構成体を作成した。得られた構成体を、200mm×200mm大に切り出し、150mm×150mmの矩形状の雄型(R:2mm)とこの雄型とのクリアランスが0.5mmの雌型(R:2mm)からなる金型を用いて、雄型側にシーラント側がくるように雌型上に構成体をセットし、プレス成型(加圧:0.1MPa)を行い、下記の基準で評価を行った。
◎:10mm以上で成型できた(破損なし)
○:7m以上10mm未満で破損が発生
△:5mm以上7mm未満で破損が発生
×:5mm未満で破損が発生。

(e)「[0070]
[表1]

・・・
[0076]
[表2]

・・・
[0082]
[表3]

・・・
[0088]
[表4]

・・・
[0093]
[表5]



(f)「[0100] 本発明のポリエステルフィルムは、25℃におけるフィルムの長手方向および幅方向の5%伸長時応力(F5値)および、10%伸長時応力(F10値)が、特定の関係を示すため、アルミニウム箔を積層した後の成型追従性が良好であり、深絞り成型が可能であるため、高容量化対応の電池外装用構成体、様々な形状に対応可能な医薬包装用構成体に好適に使用することができる。」

上記(b)及び(c)の記載によれば、甲2記載の積層体は、ポリエステルフィルム、アルミニウム箔、及びシーラントフィルムとしてのポリプロピレン樹脂層が、接着剤及びマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂層を介して順次積層されたものである。
また、上記(a)の記載によれば、前記ポリエステルフィルムは、二軸延伸により得られたものである。
また、上記(f)の記載によれば、甲2記載の積層体は、電池外装用構成体として用いられるものである。

したがって、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。

「ポリエステルフィルム、アルミニウム箔、及びシーラントフィルムが順次積層された積層体からなり、前記ポリエステルフィルムは、二軸延伸により得られたポリエステルフィルムであり、前記シーラント層はポリプロピレン樹脂である、電池外装用構成体。」(以下、「甲2発明」という。)

(2)申立理由についての判断

ア 本件発明1について

(ア)本件発明1と甲2発明の対比
本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「ポリエステルフィルム」、「シーラントフィルム」、「二軸延伸により得られたポリエステルフィルム」、「ポリプロピレン樹脂」、「電池外装用構成体」は、それぞれ、本件発明1の「基材層」、「シーラント層」、「二軸延伸ポリアミド樹脂もしくは二軸延伸ポリエステル樹脂からなる単層フィルム」、「ポリオレフィン」、「電池用包装材料」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明は、
「少なくとも、基材層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、前記基材層は、二軸延伸ポリアミド樹脂もしくは二軸延伸ポリエステル樹脂からなる単層フィルムであり、前記金属層は、アルミニウム箔であり、前記シーラント層は、ポリオレフィンである、電池用包装材料。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本件発明1は、「前記積層体のMD方向における10%伸長時の応力をA1、TD方向における10%伸長時の応力をB1とし、前記基材層のMD方向における10%伸長時の応力をA2、TD方向における10%伸長時の応力をB2とした場合において、(A1-A2)≧60N/15mm、及び(B1-B2)≧50N/15mmの関係を充足する」のに対して、甲2発明ではそのような関係が充足されているか不明である点。

(イ)判断
申立人は、申立書において、本件特許明細書に開示された実施例2及び実施例6と同様の「基材層の厚さ」、「基材層の材料」、「接着層を除く積層体の厚さ」、「基材層の厚さと接着層を除く厚さの割合」を備えている甲2の積層体は、10%伸長時の応力が本件特許の請求項1に規定された「(A1-A2)≧60N/15mm」及び「(B1-B2)≧50N/15mm」なる関係を充足している蓋然性が高いといえる旨主張しているので、この主張が妥当であるかについて検討する。
甲2の上記(e)には、実施例1?25として、甲2発明の積層体に用いるポリエステルフィルムであって、異なる材料、延伸条件により製造されたポリエステルフィルムが開示されている。そして、甲2には、実施例1?25のポリエステルフィルムについて、その厚みと、MD方向の単位断面積あたりの10%伸長時応力(F10_(MD))及びTD方向の単位断面積あたりの10%伸長時応力(F10_(TD))も記載されている。そして、これらの値、及び、「2 申立理由2について」において提示した

σ=F/A
(σ:応力(MPa)、F:測定した力(N)、A:試験片の初めの断面積(mm^(2))

なる式に基づき、サンプル幅15mmにおける10%伸長時応力を算出すると、MD方向、TD方向のいずれの10%伸長時応力も約32?56N/15mmとなり、この数値範囲は、本件特許の実施例に係る積層体に用いられている基材層の10%伸長時応力の数値範囲と一部重複する。
しかし、甲2記載の積層体におけるポリエステルフィルムが、本件特許明細書の実施例に係る積層体の基材層と同程度の10%伸長時応力を有していても、甲2記載の積層体と、本件特許明細書の実施例に係る積層体は、上記(d)の記載によれば、少なくとも接着層及びシーラント層の厚さが異なり、かつ、各層を構成する材料が同一であるか否かも定かでないから、甲2記載の積層体と本件特許明細書に開示された実施例2及び実施例6の積層体が、必ずしも同等の10%伸長時応力を示すとはいえない。
そうすると、甲2記載の積層材料が、本件特許明細書の実施例2及び実施例6に係る積層体と同様の「基材層の厚さ」、「基材層の材料」、「接着層を除く積層体の厚さ」、「基材層の厚さと接着層を除く厚さの割合」を備えていても、その10%伸長時応力が、本件特許の請求項1に規定された「(A1-A2)≧60N/15mm」及び「(B1-B2)≧50N/15mm」なる関係を必ずしも充足しているとはいえないから、出願人の前記主張は採用できない。
また、甲2記載の積層体の10%伸長時応力が、「(A1-A2)≧60N/15mm」及び「(B1-B2)≧50N/15mm」なる関係を充足していると推認するに足る他の理由も見出せない。
したがって、上記相違点は実質上の相違点であるから、本件発明1は、甲2に記載された発明ではない。
また、「4 申立理由4について」において言及したとおり、本件発明1は、積層体と基材層の10%伸長時応力の差、すなわち(A1-B1)及び(A2-B2)が、「(A1-A2)≧60N/15mm」及び「(B1-B2)≧50N/15mm」なる関係を充足することにより、電池用包装材料の成形後のカールを効果的に抑制できるという効果を発揮するものといえるが、申立人が証拠として提出した甲1ないし甲3のいずれにも、積層体と基材層の10%伸長時応力の差と、上述の効果との関係について何らの記載も示唆もないから、上述の効果は、当業者が予測し得ない格別の効果といえる。
したがって、本件発明1は、甲1ないし甲3に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2?8について
本件発明3、5及び7は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有する発明であるから、本件発明3、5及び7も、本件発明1と同様、甲2発明と少なくとも上記相違点において相違するので、甲2に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明2?8は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有する発明であるから、本件発明2?8も、本件発明1と同様、上記相違点に係る本件発明1の特定事項とすることが容易になし得ることであるとはいえないから、甲1ないし甲3に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 小括
それらのため、上記申立理由5は取消理由として採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-27 
出願番号 特願2014-197013(P2014-197013)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 536- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀧 恭子  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 小川 進
橋本 憲一郎
登録日 2016-09-16 
登録番号 特許第6003956号(P6003956)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 電池用包装材料  
代理人 立花 顕治  
代理人 山田 威一郎  
代理人 田中 順也  
代理人 松井 宏記  
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