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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1330138
異議申立番号 異議2017-700471  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-15 
確定日 2017-07-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6027655号発明「はんだ付け用フラックスおよびソルダペースト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6027655号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6027655号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願日は、平成27年8月5日(優先権主張 平成26年8月29日)であって、平成28年10月21日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人北村仁により特許異議の申立てがなされたものである。

2 本件発明
特許第6027655号の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ロジン系樹脂と、溶剤と、活性剤と、チクソ剤とを含むはんだ付け用フラックスであって、
前記チクソ剤は、硬化ひまし油とジベンジリデンソルビトールとを含み、
前記硬化ひまし油の配合量ははんだ付け用フラックス全量に対して1重量%から6重量%であり、前記ジベンジリデンソルビトールの配合量ははんだ付け用フラックス全量に対して1.5重量%から4.5重量%であることを特徴とするはんだ付け用フラックス。
【請求項2】
ロジン系樹脂と、溶剤と、活性剤と、チクソ剤とを含むはんだ付け用フラックスであって、
前記チクソ剤は、硬化ひまし油とジメチルジベンジリデンソルビトールとを含み、
前記硬化ひまし油の配合量ははんだ付け用フラックス全量に対して1重量%から6重量%であり、前記ジメチルジベンジリデンソルビトールの配合量ははんだ付け用フラックス全量に対して1.5重量%から4.5重量%であり、
前記活性剤としてトリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートを含むことを特徴とするはんだ付け用フラックス。
【請求項3】
前記チクソ剤としてビスアマイド系チクソ剤を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項4】
前記ビスアマイド系チクソ剤の配合量ははんだ付け用フラックス全量に対して0.1重量%から5重量%であることを特徴とする請求項3に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のはんだ付け用フラックスと、はんだ合金粉末とを含むことを特徴とするソルダペースト。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人北村仁は、主たる証拠として以下の甲第1号証を提出するとともに、従たる証拠として以下の甲第2号証?甲第6号証を提出した。以下において、甲第1号証?甲第6号証を、それぞれ、「甲1」?「甲6」という。
甲第1号証:特開2014-144473号公報
甲第2号証:特開2013-86177号公報
甲第3号証:製品情報「ゲルオールD」、新日本理化株式会社、[平成29年4月12日検索]、インターネットのプリントアウト
甲第4号証:製品情報「ゲルオールMD」、新日本理化株式会社、[平成29年4月12日検索]、インターネットのプリントアウト
甲第5号証:特開2003-1487号公報
甲第6号証:製品情報「スリパックスZHH」、日本化成株式会社、[平成29年4月26日検索]、インターネットのプリントアウト

そして、本件特許発明1は、甲1に記載の発明、及び甲2?甲4の開示事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明2は、甲1に記載の発明、及び甲2?甲5の開示事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明3?5は、甲1に記載の発明、及び甲2?甲6の開示事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとして、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

4 甲1?甲6に開示された事項
(1) 甲1
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同様である。)
「【請求項1】
(a)ロジン系樹脂と,(b)溶剤と,(c)活性剤と,(d)増粘剤とを含有するフラックスであって,前記増粘剤(d)として糖の脂肪酸エステルを含有することを特徴とするソルダペースト用フラックス。」
「【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載のソルダペースト用フラックスとはんだ粉末とを混合して得られることを特徴とするスクリーン印刷用ソルダペースト。」
「【0001】
本発明は,印刷時のフラックスにじみを抑制することのできるソルダペースト用フラックス,およびこれを用いることにより良好な印刷形状を保持することのできるスクリーン印刷用はんだ組成物(いわゆるソルダペースト)に関する。」
「【0002】
ソルダペーストを用いたスクリーン印刷法は,パッケージ部品のバンプ形成に一般に用いられる方法である。そして近年,情報機器等の小型化が進むにつれてパッケージ部品の小型化,バンプピッチの狭小化が進行している。バンプピッチが狭小化すると,印刷時に印刷されたソルダペーストからにじみ出したフラックスが隣接するバンプとブリッジを発生させ,それが印刷時やリフロー時のはんだブリッジ,Big-and-Small,ミッシングバンプ等の不良を発生させる原因となる。またこのフラックスのにじみ出しは,ソルダペーストの印刷形状の悪化も引き起こす。
ここで,ソルダペーストの特性を発現させるためにフラックスに添加される材料の一つである増粘剤(チクソ剤,ゲル化剤)としては,従来ワックスや脂肪酸アミドが使用されてきた。しかし,これらはソルダペーストに対する増粘剤としては機能するものの,フラックスに対するそれとしてはその効果が不充分であり,ソルダペーストをスクリーン印刷した際にフラックスがにじみ出すことが多い。一方で1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトールに代表されるゲル化剤は,フラックスに対する増粘効果は満足できる結果が得られるものの(特許文献1参照),ソルダペーストとしては溶融性,ボイドの悪化といった不具合を引き起こすという結果が得られていた。」
「【0006】
そこで本発明では,印刷時のフラックスのにじみ出しを抑制することができるソルダペースト用フラックス,およびこれを用いることにより良好な特性を発揮させることのできるソルダペーストを提供することをその目的とする。」
「【0029】
[(d)増粘剤]
本発明のフラックスは,増粘剤(d)として糖の脂肪酸エステルを含有する。このような糖の脂肪酸エステルは,増粘剤(d)の一部として,またはその全部として配合することができる。
前記糖の脂肪酸エステルの糖としては,デキストリンおよびイヌリンの少なくとも1種類が用いられる。また前記糖の脂肪酸エステルの脂肪酸としては,パルミチン酸,ステアリン酸,2-エチルヘキサン酸およびミリスチン酸の少なくとも1種類が用いられる。
前記糖の脂肪酸エステルの配合量は,フラックス100wt%に対して0.1%以上5wt%以下であることが好ましく,0.5wt%以上2wt%以下であることが特に好ましい。
【0030】
本発明のフラックスに用いる増粘剤(d)としては,いわゆるチクソ剤,ダレ止め剤,ゲル化剤も用いることができる。このようなチクソ剤,ダレ止め剤,ゲル化剤としては,例として飽和脂肪酸アミド,飽和脂肪酸ビスアミド類;ジベンジリデンソルビトール類;硬化ヒマシ油等が挙げられる。
前記糖の脂肪酸エステルと他の増粘剤とを併用する場合の増粘剤(d)の配合量の総量はフラックス100wt%に対して3wt%以上10wt%以下であることが好ましく,5wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。」
「【0037】
以下に一実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお,実施例中の各特性値の判定は次の基準に従って実施した。また各フラックスおよびソルダペーストの組成は表1の記載に従った。なお,表1記載の数値の単位はすべて重量%である。」
「【0038】
〔実施例1〕
(1)フラックスの調製
以下,その配合としてフラックス製造量を100%とした場合の重量%で記載する。ロジン系樹脂(a)として25wt%の水添酸変性ロジンおよび10wt%の完全水添ロジン,溶剤(b)として30wt%のヘキシルジグリコールおよび10wt%のα-テルピネオールを容器に仕込み,これらを加熱溶解させた。次いでこれに増粘剤(d)として硬化ヒマシ油5wt%,ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド2wt%およびレオパールTL2 1wt%(千葉製粉株式会社製パルミチン酸デキストリン化合物)を加え溶解させ,その後,これに活性剤(c)および添加剤(e)を加え溶解させた後に冷却して本発明のフラックスを得た。
【0039】
(2)ソルダペーストの調製
ソルダペースト製造量に対して90.2wt%のSn/Pb(63wt%/37wt%)はんだ粉末(f)(粒径3?10μm)および(1)項で調整したフラックス9.8wt%をとり,これらを17℃に冷却しつつ60分間撹拌混練して本発明のソルダペーストを得た。このソルダペーストの粘度は270Pa・s,チクソ指数は0.67であった。」
「【0041】
[比較例1?6]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして,比較例のソルダペーストを得た。」
「【0047】
〔洗浄性評価〕
洗浄液として株式会社花王製クリンスルー750Kを使用し,これを300ccビーカーに250?300cc入れ,撹拌装置つきホットプレート上でこれを撹拌しながら所定の温度に加温した。撹拌にはテフロンコーティングされた磁性撹拌子を用いた。上記溶融性試験後の各基板を洗浄液の入ったビーカーに吊るし,所定の時間と回転数で洗浄した。洗浄後,各基板を純水でリンスし金属顕微鏡を用いてリフロー残さの洗浄残り有無を観察し,以下の基準に従い評価した。その結果を表2に示す。
【0048】
〔洗浄性評価基準〕
×:洗浄時間180秒でも洗浄できない
△:同条件で洗浄できる
○:洗浄時間120秒で洗浄できる
◎:洗浄時間60秒で洗浄できる」
「【0051】
【表1】


*1 荒川化学株式会社製 水添酸変性ロジン
*2 Pinova, Inc製 完全水添ロジン
*3 日本テルペン化学株式会社製 α-テルピネオール
*4 Unidym製 ダイマー酸
*5 日本化成株式会社製 ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド
*6 千葉製粉株式会社製 パルミチン酸デキストリン化合物
*7 千葉製粉株式会社製 (パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デキストリン化合物
*8 千葉製粉株式会社製 ステアリン酸イヌリン
*9 日本化成株式会社製 エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド
*10 Elementis plc製 ポリアマイドワックス
*11 日本化成株式会社製 メチレンビスステアリン酸アマイド
*12 新日本理化株式会社製 1,3:24-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトール(ジベンジリデンソルビトール)
*13 新日本理化株式会社製 1,3:2,4-ビス-O-(4-メチルベンジリデン)-D-ソルビトール
*14 BASFジャパン製 ヒンダードフェノール」

「【0052】
【表2】



「【0053】
表2に示す結果から明らかなように,実施例1?7で示される本発明のソルダペーストは,既存の増粘剤(チクソ剤)を使用した比較例1?4と比較して明らかに印刷性に優れる結果となっている。一方で既存の増粘剤(ゲル化剤)を使用した比較例5および6は印刷性に関しては比較的良好な結果が得られているものの,溶融性およびボイドにおいて現在要求されている特性を満足できていない。」

イ 甲1の【表1】の比較例5及び6の欄に基づき、ロジン系樹脂と、溶剤と、活性剤と、増粘剤とを含むソルダペースト用フラックスであって、前記活性剤はジブロモブテンジオールを含み、前記増粘剤は硬化ヒマシ油と、ゲルオールD又はゲルオールMDと、スリパックスZHHとを含むものが把握できる。
ウ 甲1の段落【0051】の*12の注釈、及び、下記(3)に示す甲3の記載事項からみて、前記ゲルオールDが「ジベンジリデンソルビトール」の商品名であることは明らかである。
エ 甲1の段落【0051】の*13の注釈、及び、下記(4)に示す甲4の記載事項からみて、前記ゲルオールMDが「ジメチルジベンジリデンソルビトール」の商品名であることは明らかである。
オ 甲1の段落【0051】の*5の注釈、及び、下記(6)に示す甲6の記載事項からみて、前記スリパックスZHHが、増粘剤やチキソ付与剤等として用いられる飽和脂肪酸系ビスアマイドであるヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アマイドの商品名であることは明らかである。
カ 以上を踏まえた上で、甲1の比較例5及び6に基づくと、甲1には、以下の発明(「甲1A発明」という)が記載されていると認められる。

甲1A発明
「ロジン系樹脂と、溶剤と、活性剤と、増粘剤とを含むソルダペースト用フラックスであって、
前記増粘剤として硬化ヒマシ油と、ジベンジリデンソルビトール又はジメチルジベンジリデンソルビトールとを含み、前記硬化ヒマシ油の配合量はソルダペースト用フラックス全量に対して5重量%であり、前記ジベンジリデンソルビトール又はジメチルジベンジリデンソルビトールの配合量はソルダペースト用フラックス全量に対して1重量%であり、
前記活性剤としてジブロモブテンジオールを含み、
前記増粘剤として飽和脂肪酸系ビスアマイドを含み、前記飽和脂肪酸系ビスアマイドの配合量はソルダペースト用フラックス全量に対して2重量%である、
ソルダペースト用フラックス。」

(2) 甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
酸化防止剤(A)を含む鉛フリーソルダペースト用フラックスであって、α,β-不飽和カルボン酸変性ロジン水素化物(b1)を含むベース樹脂(B)および下記一般式(1)で表される化合物(C)を含有するフラックス。
【化1】

(式(1)中、R^(1)及びR^(2)はいずれも水素又は炭素数1?3のアルキル基を表す。)」

「【0001】
本発明は、鉛フリーソルダペースト用フラックス及び鉛フリーソルダペーストに関する。」
「【0006】
本発明は、酸化防止剤を用いたフラックスにおける前記問題点に鑑み、鉛フリーソルダペーストの保存安定性や耐加熱だれ性、連続印刷適性、耐ソルダボール性を改善し得るフラックスを提供することを主たる課題とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、酸化防止剤を用いたフラックスにおいて、ベース樹脂として所定のロジン誘導体を選択し、かつ特定の添加剤を使用することによって前記課題を解決できることを見出した。」
「【0025】
本発明のフラックスにおける各成分の含有量は特に限定されないが、本発明の所期の効果を好適に達成するため、通常は以下の通りである。(なお、合計量は100重量%を超えない。)
(A)成分:0.1?3重量%程度、好ましくは0.3?1重量%
(B)成分:25?69重量%程度、好ましくは30?56重量%
(C)成分:0.5?5重量%程度、好ましくは0.5?3重量%
(D)成分:5?13重量%程度、好ましくは9?12重量%
(E)成分:3?10重量%程度、好ましくは5?7重量%
(F)成分:21.4?50重量%程度、好ましくは28.2?45重量%
(G)成分:0?10重量%程度、好ましくは1?5重量%
添加剤:0?5重量%程度」

「【0029】
【表1】


「【0033】
(3)加熱時のだれ試験
JIS Z 3284 附属書8に準拠し、実施例及び比較例のソルダペーストを付属書7に準拠して印刷塗布した銅版を、180℃の循風乾燥機中で1分間、加熱した。そして、印刷パターンにおいて、印刷後の平面状のソルダペーストが一体にならない最小間隔が0.2mm?0.3mmである場合は良好(A)と、それ以上の間隔である場合は不良(B)とした。」
「【0035】
【表2】


「【0036】
【表3】




(3) 甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。




(4) 甲4
甲4には、以下の事項が記載されている。



(5) 甲5
甲5には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 カルボン酸基を有し軟化点が100℃以下の樹脂成分、酸解離定数(pKa)が10.0?11.5の範囲内で沸点が50℃?200℃の範囲内である有機アミンおよび非イオン性有機ハロゲン化合物を含有することを特徴とするハンダ付けフラックス。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子部品の回路基板への実装に用いられるハンダ付けフラックス、それを用いたハンダペースト、特にPbフリーハンダを用いたハンダペースト並びに該ハンダペーストを用いた回路基板の製造方法に関する。」
「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、活性剤として有機ハロゲン化合物を用いたハンダ付けフラックスにおいて、軟化点が100℃以下のカルボン酸基を有する化合物、及び沸点が50℃?200℃、pKaが10.0?11.5のアミンを含有させることにより、従来使用が困難であったPbフリーハンダにおいても高いハンダ付け性と保存安定性が得られることを見出し本発明を完成させた。・・・」(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、同じ。)
「【0023】本発明のハンダ付けフラックスは、活性剤としては特に非イオン性有機ハロゲン化合物を含有している。従来の錫-鉛系ハンダでは、活性剤としてイオン性のものが多く用いられてきた。しかしイオン性の活性剤は、室温下でも活性を有するため、保存安定性には悪影響を与えていた。本発明のハンダ付けフラックスの活性剤に用いた非イオン性有機ハロゲン化合物は、常温においてはフラックス製造後使用するまでの保存中や印刷時にはハンダ金属粒子と反応することなく長期間にわたり安定であり、活性剤性能が劣化することがな。しかし一旦リフロー時加熱されたときにはじめて分解し、活性を発現する化合物である。このような有機ハロゲン化合物は、特公昭56-32079号公報、特開平3-106594号公報、特公平4-59079号公報などに有効な化合物が開示されている。
【0024】本発明において、用いることが好ましい有機ハロゲン化合物としては、例えば、・・・2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール、・・・、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート等が例示できる。この中で特に、9,10,12,13,15,16-ヘキサブロモステアリン酸、9,10,12,13,15,16-へキサブロモステアリン酸メチルエステル、同エチルエステル、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートを用いることが好ましい。」

(6) 甲6
甲6には、以下の事項が記載されている。





5 判断
(1) 本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と、甲1A発明とを対比する。
(ア) 甲1A発明の「ソルダペースト用フラックス」は、甲1の請求項6が示すとおりはんだ粉末と混合されて用いられるから、はんだ付けに用いられるフラックスであるといえる。したがって、甲1A発明の「ソルダペースト用フラックス」は、本件特許発明1の「はんだ付け用フラックス」に相当する。
(イ) 甲1A発明の「増粘剤」について、甲1の段落【0030】の「本発明のフラックスに用いる増粘剤(d)としては,いわゆるチクソ剤,ダレ止め剤,ゲル化剤も用いることができる。このようなチクソ剤,ダレ止め剤,ゲル化剤としては,例として飽和脂肪酸アミド,飽和脂肪酸ビスアミド類;ジベンジリデンソルビトール類;硬化ヒマシ油等が挙げられる。」と記載されていることから、甲1A発明において「増粘剤」として含まれる「硬化ヒマシ油」と、「ジベンジリデンソルビトール又はジメチルジベンジリデンソルビトール」と、「飽和脂肪酸系ビスアマイド」は、「チクソ剤」であるともいえる。
そうすると、甲1A発明の「増粘剤」は、本件特許発明1の「チクソ剤」に相当する。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)を踏まえると、甲1A発明が「ロジン系樹脂と、溶剤と、活性剤と、増粘剤とを含むソルダペースト用フラックスである」ことは、本件特許発明1が「ロジン系樹脂と、溶剤と、活性剤と、チクソ剤とを含むはんだ付け用フラックス」であることに相当する。
(エ) 甲1A発明において「前記硬化ヒマシ油の配合量はソルダペースト用フラックス全量に対して5重量%であ」ることは、本件特許発明1において「前記硬化ひまし油の配合量ははんだ付け用フラックス全量に対して1重量%から6重量%であ」ることと、前記硬化ひまし油の配合量が重複する。

イ 本件特許発明1と、甲1A発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「ロジン系樹脂と、溶剤と、活性剤と、チクソ剤とを含むはんだ付け用フラックスであって、前記チクソ剤は、硬化ひまし油とジベンジリデンソルビトールとを含み、前記硬化ひまし油の配合量ははんだ付け用フラックス全量に対して1重量%から6重量%である、はんだ付け用フラックス。」
<相違点>
「ジベンジリデンソルビトール」の「配合量」は、はんだ付け用フラックス全量に対し、本件特許発明1では「1.5重量%から4.5重量%」であるのに対し、甲1A発明では1重量%である点

ウ 上記相違点について検討する。
(ア) 甲1A発明は、甲1によれば、比較例5、6として記載されたフラックスに基づく発明であり、これらは溶融性およびボイドにおいて現在要求されている特性を満足できないとされている(甲1の段落【0053】)。
甲1に記載された実施例1?7と比較例5、6との組成の違いを検討すると、それらは全て増粘剤として硬化ヒマシ油と、飽和脂肪酸系ビスアマイドとを含んでおり、実施例1?7は増粘剤として更に糖の脂肪酸エステル(レオパールTL2、レオパールTT2、又はレオパールISK2(いずれも商品名)を含む一方、比較例5、6は増粘剤として更にジベンジリデンソルビトール又はジメチルジベンジリデンソルビトールを用いている点で異なっている。
したがって、甲1A発明は、甲1によれば、増粘剤として、糖の脂肪酸エステルではなく、ジベンジリデンソルビトール又はジメチルジベンジリデンソルビトールを用いていることに起因して、要求される特性を満足できないとされたものと解されるから、特性を満足させられない原因であるジベンジリデンソルビトール又はジメチルジベンジリデンソルビトールを、1重量%からさらに増加させて配合させようとすることに、合理的な動機付けが存在しないことは明らかである。

(イ) 上記相違点の数値限定の下限値である「1.5重量%」の技術的意義について検討する。
本件特許明細書の実施例2と参考例4とを比較すると、フラックス全量に対するゲルオールDすなわちジベンジリデンソルビトールの配合量に関し、実施例2は1.5重量%であるのに対し参考例4では0.5重量%である。
本件特許明細書の表3においては、プリヒートだれ性の評価に関し、実施例2では「8」であるのに対し、参考例4では「23」となっている。プリヒートだれ性は、プリヒート前後のソルダペーストの直径の差の数値で評価されており(段落【0044】)、その数値が小さいほどプリヒートだれが抑制されていることは明らかであるから、ジベンジリデンソルビトールを1.5重量%含む実施例2は、ジベンジリデンソルビトールを0.5重量%含む参考例4に対し大きく改善されているといえる。
したがって、本件特許発明1は、「ジベンジリデンソルビトール」の「配合量」の下限値を「1.5重量%」とすることで、プリヒートだれ性を大きく改善することができる効果を奏するものであって、そのような効果を奏することは甲1?甲6のいずれの記載からも把握されることではなく当業者にとって新規なものであると認められるから、甲1A発明に基づいて当業者が通常の創作能力を発揮したとしても、当該数値限定に到達することが容易であったとは認められない。

(ウ) 異議申立人は、甲2の記載事項に基づき当該相違点に係る構成が当業者が容易に想到し得たことである旨を主張しているので、この主張についても検討する。
鉛フリーソルダペースト用フラックスを開示する甲2の実施例の欄には、ゲルオールMD(ジメチルジベンジリデンソルビトール)を含むフラックスについて記載されており、フラックス全量に対するその配合量は、実施例1及び2では2重量%であり、実施例3及び比較例2では1重量%であり、比較例1及び3では0重量%となっている。これらのフラックスの耐加熱ダレ性に関し、ゲルオールMDを2重量%含む実施例1及び2は、ゲルオールMDを1重量%含む実施例2及び比較例2とともに、良好(A)とされている。
この甲2の開示は、ゲルオールMDの配合量を1重量%から2重量%に増やしたとしても、耐加熱ダレ性において効果が同等であり改善されないことを示唆しているから、当業者が甲2に接したとしても、甲1A発明のジベンジリデンソルビトール又はジメチルジベンジリデンソルビトールの配合量を1重量%からさらに増加させようという動機付けを合理的に導出することができない。

エ 以上の検討のとおり、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2) 本件特許発明2について
ア 本件特許発明2と、甲1A発明とを対比する。
(ア) 甲1A発明の「ソルダペースト用フラックス」は、甲1の請求項6が示すとおりはんだ粉末と混合されて用いられるから、はんだ付けに用いられるフラックスであるといえる。したがって、甲1A発明の「ソルダペースト用フラックス」は、本件特許発明2の「はんだ付け用フラックス」に相当する。
(イ) 甲1A発明の「増粘剤」について、甲1の段落【0030】の「本発明のフラックスに用いる増粘剤(d)としては,いわゆるチクソ剤,ダレ止め剤,ゲル化剤も用いることができる。このようなチクソ剤,ダレ止め剤,ゲル化剤としては,例として飽和脂肪酸アミド,飽和脂肪酸ビスアミド類;ジベンジリデンソルビトール類;硬化ヒマシ油等が挙げられる。」と記載されていることから、甲1A発明において「増粘剤」として含まれる「硬化ヒマシ油」と、「ジベンジリデンソルビトール又はジメチルジベンジリデンソルビトール」と、「飽和脂肪酸系ビスアマイド」は、「チクソ剤」であるともいえる。
そうすると、甲1A発明の「増粘剤」は、本件特許発明2の「チクソ剤」に相当する。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)を踏まえると、甲1A発明が「ロジン系樹脂と、溶剤と、活性剤と、増粘剤とを含むソルダペースト用フラックスである」ことは、本件特許発明2が「ロジン系樹脂と、溶剤と、活性剤と、チクソ剤とを含むはんだ付け用フラックス」であることに相当する。
(エ) 甲1A発明において「前記硬化ヒマシ油の配合量はソルダペースト用フラックス全量に対して5重量%であ」ることは、本件特許発明2において「前記硬化ひまし油の配合量ははんだ付け用フラックス全量に対して1重量%から6重量%であ」ることと、前記硬化ひまし油の配合量が重複する。

イ 本件特許発明2と、甲1A発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「ロジン系樹脂と、溶剤と、活性剤と、チクソ剤とを含むはんだ付け用フラックスであって、前記チクソ剤は、硬化ひまし油とジメチルジベンジリデンソルビトールとを含み、前記硬化ひまし油の配合量ははんだ付け用フラックス全量に対して1重量%から6重量%である、はんだ付け用フラックス。」
<相違点>
相違点1
「ジメチルジベンジリデンソルビトール」の「配合量」は、はんだ付け用フラックス全量に対し、本件特許発明2では「1.5重量%から4.5重量%」であるのに対し、甲1A発明では1重量%である点
相違点2
「活性剤」に関し、本件特許発明2では「トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートを含む」のに対し、甲1A発明では「ジブロモブテンジオール」を含み、「トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート」を含まない点

ウ 上記相違点1について検討する。
(ア) 上記(1)ウ(ア)において示したとおり、甲1A発明は、甲1によれば、増粘剤として、糖の脂肪酸エステルではなく、ジベンジリデンソルビトール又はジメチルジベンジリデンソルビトールを用いていることに起因して、溶融性およびボイドにおいて現在要求されている特性を満足できないとされたものと解されるから、特性を満足させられない原因であるジベンジリデンソルビトール又はジメチルジベンジリデンソルビトールを、1重量%からさらに増加させて配合させようとすることに、合理的な動機付けが存在しないことは明らかである。
(イ) 異議申立人は、甲2の記載事項に基づき当該相違点1に係る構成が当業者が容易に想到し得たことである旨を主張しているので、この主張についても検討する。
鉛フリーソルダペースト用フラックスを開示する甲2の実施例の欄には、ゲルオールMD(ジメチルジベンジリデンソルビトール)を含むフラックスについて記載されており、フラックス全量に対するその配合量は、実施例1及び2では2重量%であり、実施例3及び比較例2では1重量%であり、比較例1及び3では0重量%となっている。これらのフラックスの耐加熱ダレ性に関し、ゲルオールMDを2重量%含む実施例1及び2は、ゲルオールMDを1重量%含む実施例2及び比較例2とともに、良好(A)とされている。
この甲2の開示は、ゲルオールMDの配合量を1重量%から2重量%に増やしたとしても、耐加熱ダレ性において効果が同等であり改善されないことを示唆しているから、当業者が甲2に接したとしても、1A発明のジベンジリデンソルビトール又はジメチルジベンジリデンソルビトールの配合量を1重量%からさらに増加させようという動機付けを合理的に導出することができない。

エ 上記相違点2について検討する。
(ア) 上記(1)ウ(ア)及び上記(2)ウ(ア)において示したとおり、甲1A発明は、甲1によれば、増粘剤として、糖の脂肪酸エステルではなく、ジベンジリデンソルビトール又はジメチルジベンジリデンソルビトールを用いていることに起因して、溶融性およびボイドにおいて現在要求されている特性を満足できないとされたものと解される。
そして、甲1A発明における活性剤の具体的な種類は、上記した満足されない特性である溶融性およびボイドとは関連するものではなく、また、甲1において特許を受けようとして記載された発明が解決しようとしている課題である印刷時のフラックスのにじみ出し(甲1の段落【0006】)とも関連するものではない。そのため、甲1A発明において、活性剤の種類を変更しようとする動機付けを合理的に導出できないことは明らかである。
(イ) さらに、本件特許発明2は、「チクソ剤」としての「ジメチルジベンジリデンソルビトール」と、「活性剤」としての「トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート」とが併用されるという組み合わせを含む。
本件特許明細書の段落【0026】には「なお、前記ジベンジリデンソルビトール化合物としてジメチルジベンジリデンソルビトールを用いる場合、活性剤としてトリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートを併用すると、ソルダペーストを用いてはんだ付けをした際の異形バンプの発生を抑制することができる。」と記載されていることから、本件特許発明2における上記の組み合わせは、異形バンプの発生を抑制することができるという技術的意義を有するものと認められる。
これに対し、甲1?甲6のいずれの記載を参照しても、この二種類の化合物の組み合わせにより異形バンプの発生を抑制できるといった技術的意義を把握することはできない。
そのため、甲1では比較例の増粘剤として同等に扱われている、甲1A発明におけるジベンジリデンソルビトールとジメチルジベンジリデンソルビトールのうちの一方を選択し、さらに活性剤を変更することで、「チクソ剤」としての「ジメチルジベンジリデンソルビトール」と、「活性剤」としての「トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート」とを併用するという特定の組み合わせを想起することは、当業者にとって容易になし得たものといえないことは明らかである。
(ウ) 異議申立人は、甲5の記載事項に基づき当該相違点2に係る構成を当業者が容易に想到し得たことである旨を主張しているので、この主張についても検討する。
甲5には、ハンダ付けフラックスの活性剤に用いる非イオン性有機ハロゲン化合物として種々のものが例示されており、ここには、甲1A発明において活性剤として含まれるジブロモブテンジオールに相当する2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオールや、本件特許発明2において活性剤として含まれるトリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートも含まれており、特に好ましいものとして挙げられた4種類の化合物の中に、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートが含まれている。
しかしながら、甲5におけるこれら活性剤に関する記載は、甲5において特許を受けようとして記載された発明である、特定の樹脂成分と特定の有機アミンを含有するハンダ付けフラックスにおける活性剤として使用されることを前提に、特に好ましい活性剤を記載したものである。
したがって、甲5に記載された前記ハンダ付けフラックスとは成分が異なる甲1A発明に対し、甲5において特に好ましいとされた活性剤を適用しようとする動機付けを合理的に導出することはできない。仮に適用することができるとしても、甲1では比較例の増粘剤として同等に扱われている、甲1A発明におけるジベンジリデンソルビトールとジメチルジベンジリデンソルビトールのうちの一方を選択し、さらに甲5において特に好ましいとされた4種類の活性剤の中から特にトリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートを選び出して適用しようとする動機付けを合理的に導出することはできないから、当該相違点2に係る構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。

オ 以上の検討のとおり、本件特許発明2は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3) 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2をさらに減縮したものであるから、本件特許発明1に対する上記(1)の判断又は本件特許発明2に対する上記(2)の判断と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4) 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明3をさらに減縮したものであるから、本件特許発明3に対する上記(3)の判断と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5) 本件特許発明5について
本件特許発明5は本件特許発明1?4のいずれかであるはんだ付け用フラックスと、はんだ合金粉末を含むソルダペーストである。
本件特許発明1?4は、上記(1)?(4)に示したとおり、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、本件特許発明5のソルダペーストについても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-07-19 
出願番号 特願2015-155550(P2015-155550)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 市川 篤  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 ▲辻▼ 弘輔
小川 進
登録日 2016-10-21 
登録番号 特許第6027655号(P6027655)
権利者 株式会社タムラ製作所
発明の名称 はんだ付け用フラックスおよびソルダペースト  
代理人 特許業務法人コスモ国際特許事務所  
代理人 太田 洋子  
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