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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1330147
異議申立番号 異議2017-700340  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-05 
確定日 2017-07-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第6022061号発明「熱硬化性樹脂組成物、熱伝導性シートの製造方法、及びパワーモジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6022061号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6022061号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願は、国際出願日である平成26年1月10日(優先権主張 平成25年6月14日)にされたとみなされる特許出願であって、平成28年10月14日に設定登録がされ、同年11月9日に特許掲載公報が発行され、平成29年4月5日(受理日 4月6日)に特許異議申立人柏木里実(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第602261号の請求項1ないし12の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであって、次のとおりのものである。

「【請求項1】
熱硬化性樹脂及び無機充填材を含む熱硬化性樹脂組成物であって、前記無機充填材が、10以上20以下のアスペクト比を有する窒化ホウ素の一次粒子から形成される二次粒子焼結体(A)と、2以上9以下のアスペクト比を有する窒化ホウ素の一次粒子から形成される二次粒子焼結体(B)とを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記二次粒子焼結体(A)の比表面積が4m^(2)/g以上15m^(2)/g以下であり、前記二次粒子焼結体(B)の比表面積が4m^(2)/g未満であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記二次粒子焼結体(A)の圧縮強度が6MPa以上であり、前記二次粒子焼結体(B)の圧縮強度が3MPa以上5MPa以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記二次粒子焼結体(B)に対する前記二次粒子焼結体(A)の平均粒径の比が0.8以上10以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記二次粒子焼結体(A)の平均粒径が20μm以上110μm以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記二次粒子焼結体(A)及び前記二次粒子焼結体(B)を形成する前記窒化ホウ素の一次粒子の平均長径が0.1μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記二次粒子焼結体(A)と前記二次粒子焼結体(B)との体積比が、5:95?90:10であることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂組成物の固形分における前記無機充填材の含有量が40体積%以上80体積%以下であることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1?8のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を離型性基材に塗布して乾燥させる工程と、塗布乾燥物を0.5MPa以上50MPa以下のプレス圧で加圧しながら硬化させる工程とを含むことを特徴とする熱伝導性シートの製造方法。
【請求項10】
一方の放熱部材に搭載された電力半導体素子と、前記電力半導体素子で発生する熱を外部に放熱する他方の放熱部材と、前記半導体素子で発生する熱を前記一方の放熱部材から前記他方の放熱部材に伝達する、請求項9に記載の熱伝導性シートの製造方法により製造された熱伝導性シートとを備えることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項11】
前記電力半導体素子は、ワイドバンドギャップ半導体によって形成されていることを特徴とする請求項10に記載のパワーモジュール。
【請求項12】
前記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化ケイ素、窒化ガリウム系材料又はダイヤモンドであることを特徴とする請求項11に記載のパワーモジュール。」
(請求項1ないし12に係る発明を、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明12」という。)

第3 申立理由の概要
異議申立人は、証拠として下記甲第1号証ないし甲第5号証を提出し、特許異議の申立ての理由として、概略、以下のとおり主張している。

1 取消理由1(特許法第29条第2項:進歩性)
本件特許の請求項1ないし12に係る各発明は、甲第1号証に記載された発明および甲第2ないし5号証に記載された事項に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

2 取消理由2(特許法第36条第6項第2号:明確性)
本件特許の請求項1ないし12に係る各発明について、本件特許の請求項1ないし12の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。

・異議申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2011-6586号公報
甲第2号証:特開平11-60216号公報
甲第3号証:特開平10-87990号公報
甲第4号証:特開平10-67507号公報
甲第5号証:「半導体用語大辞典」、1120頁、日刊工業新聞、1999年3月20日
(以下、「甲第1号証」ないし「甲第5号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲5」と略していう。)

第4 甲各号証の記載および甲第1号証に記載された発明
1 甲1の記載事項
甲1には、「熱硬化性樹脂組成物、熱伝導性シート及びその製造方法、並びにパワーモジュール」に関して、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
熱硬化性樹脂中に無機充填材を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
前記無機充填材は、平均長径が8μm以下の窒化ホウ素の一次粒子からなる二次凝集体(A)と、平均長径が8μmを超え20μm以下の窒化ホウ素の一次粒子からなる二次凝集体(B)とを40:60?98:2の体積比で含み、且つ前記無機充填材の含有量は40体積%以上80体積%以下であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記二次凝集体(A)の平均粒径は20μm以上180μm以下であり、前記二次凝集体(B)の平均粒径は9μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を0.5MPa以上50MPa以下のプレス圧で加圧しながら硬化させてなることを特徴とする熱伝導性樹脂シート。
【請求項7】
一方の放熱部材に搭載された電力半導体素子と、前記電力半導体素子で発生する熱を外部に放熱する他方の放熱部材と、前記半導体素子で発生する熱を前記一方の放熱部材から前記他方の放熱部材に伝達する、請求項5に記載の熱伝導性樹脂シートとを備えることを特徴とするパワーモジュール。」(特許請求の範囲 請求項1、2、5および7)

(2)「本実施の形態の熱硬化性樹脂組成物は、凝集強度が異なる2種類の窒化ホウ素の二次凝集体(A)及び(B)を含む無機充填材を熱硬化性樹脂中に含有する。ここで、二次凝集体(A)及び(B)はいずれも窒化ホウ素の一次粒子が凝集したものである。また、二次凝集体(A)の凝集強度は、二次凝集体(B)の凝集強度よりも大きい。
凝集強度が大きい二次凝集体(A)は、熱硬化性樹脂組成物及び熱伝導性樹脂シートの製造工程において変形又は崩壊することがほとんどなく、熱伝導性樹脂シートにおける厚さ方向の熱伝導性を向上させることができる。
二次凝集体(A)を構成する窒化ホウ素の一次粒子の平均長径は、8μm以下、好ましくは0.1μm以上6μm以下である。この一次粒子があらゆる方向を向いて凝集、すなわち等方的に凝集しているため、二次凝集体(A)は等方的な熱伝導性を有している。窒化ホウ素の一次粒子の平均長径が8μmよりも大きいと、窒化ホウ素の一次粒子の凝集密度が低くなりすぎてしまうため、二次凝集体(A)自体の熱伝導性が低下すると共に、熱伝導性樹脂シートの製造工程(プレス工程)において二次凝集体(A)が崩れ易くなり、所望の熱伝導性を有する熱伝導性樹脂シートが得られない。・・・
凝集強度が小さい二次凝集体(B)は、熱硬化性樹脂組成物の製造工程では変形又は崩壊することはほとんどないが、熱伝導性樹脂シートの製造工程(プレス工程)で変形又は崩壊し、二次凝集体(A)同士の応力を緩和させると共に、ボイドの発生を抑制することができる。
二次凝集体(B)を構成する窒化ホウ素の一次粒子の平均長径は、8μmを超え20μm以下、好ましくは8μmを超え15μm以下である。窒化ホウ素の一次粒子の平均長径が8μm以下であると、窒化ホウ素の一次粒子の凝集密度が高くなりすぎてしまい、プレス工程の際に二次凝集体(B)が優先的に変形又は崩壊せず、二次凝集体(A)が応力によって変形又は崩壊してしまうため、所望の熱伝導性が得られない。また、熱伝導性樹脂シート内でボイド等が発生するため、所望の電気絶縁性も得られない。一方、窒化ホウ素の一次粒子の平均長径が20μmを超えると、窒化ホウ素の一次粒子の凝集密度が低くなりすぎてしまい、熱硬化性樹脂組成物の製造工程(混練工程)で二次凝集体(B)が崩壊してしまう。」(段落【0011】?【0014】)

(3)「二次凝集体(A)及び(B)は、所定の窒化ホウ素の一次粒子を用いて、公知の方法に従って製造することができる。具体的には、所定の窒化ホウ素の一次粒子をスプレードライ等の公知の方法によって凝集させた後、焼成及び粒成長させればよい。ここで、焼成温度は特に限定されないが、一般的に2,000℃である。」(段落【0016】)

(4)「本実施の形態の熱伝導性樹脂シートは、上記の熱硬化性樹脂組成物を所定のプレス圧で加圧しながら硬化させたものである。
以下、本実施の形態の熱伝導性樹脂シートについて図面を用いて説明する。
図1は、本実施の形態の熱伝導性樹脂シートの断面模式図である。図1において、熱伝導性樹脂シート1は、マトリックスとなる熱硬化性樹脂2と、この熱硬化性樹脂中に分散された二次凝集体(A)3及び変形又は崩壊した二次凝集体(B)4とから構成されている。
このような構成を有する熱伝導性樹脂シート1では、変形又は崩壊した二次凝集体(B)4の結晶方向が二次凝集体(A)3の存在によってシート面方向に配向し難くなり、ランダムな方向を向いてシート厚さ方向にも配向される。また、熱伝導性樹脂シート1では、シート厚さ方向に配向される変形又は崩壊した二次凝集体(B)4に加えて、等方的な熱伝導性を有する二次凝集体(A)3も含有しているので、シート厚さ方向の熱伝導性が向上する。
さらに、熱伝導性樹脂シート1では、熱伝導性を向上させるために、無機充填材を高充填化させることができる。一般的に、無機充填材を高充填化させるとシート内にボイドが発生するため、プレス工程でのプレス圧を大きくする必要があるが、上記したように、熱硬化性樹脂組成物において、凝集強度が異なる2種類の窒化ホウ素の二次凝集体(A)及び(B)を含む無機充填材を用いているため、熱硬化性樹脂組成物を所定のプレス圧で加圧しながら硬化させても、二次凝集体(A)3に加えられる圧力が二次凝集体(B)4の変形又は崩壊によって緩和される。すなわち、二次凝集体(A)3が変形又は崩壊する前に二次凝集体(B)4が優先的に変形又は崩壊し、二次凝集体(A)3の変形又は崩壊を防止する。その結果、熱伝導性に対する寄与が大きい二次凝集体(A)3が、熱伝導性樹脂シート中で保持されるため、熱伝導性樹脂シートの熱伝導性を飛躍的に向上させることが可能となる。さらに、二次凝集体(B)4が、二次凝集体(A)3の間に均一に分散すると共に、変形又は崩壊することによってボイドが生じることなく充填されるため、熱伝導性樹脂シートの電気絶縁性も向上する。」(段落【0028】?【0029】)

(5)「本実施の形態の熱伝導性樹脂シート1は、上記の熱硬化性樹脂組成物を離型性基材に塗布して乾燥させる工程と、塗布乾燥物を所定のプレス圧で加圧しながら硬化させる工程とを含む方法によって製造することができる。
・・・
塗布乾燥物の加圧時のプレス圧は、0.5MPa以上50MPa以下、好ましくは1.9MPa以上30MPa以下である。プレス圧が0.5MPa未満であると、熱伝導性樹脂シート内のボイドを十分に除去することができない。一方、プレス圧が50MPaを超えると、二次凝集体(B)4だけでなく二次凝集体(A)3も変形又は崩壊してしまい、熱伝導性樹脂シート1の熱伝導性及び電気絶縁性が低下する。
・・・
上記のようにして製造される本実施の形態の熱伝導性樹脂シート1は、電気・電子機器の発熱部材と放熱部材との間に配置することにより、発熱部材と放熱部材とを接着すると共に電気絶縁することができる。また、本実施の形態の熱伝導性樹脂シート1は、熱伝導性が高いので、発熱部材から放熱部材に熱を効率良く伝達することもできる。
本実施の形態の熱伝導性樹脂シート1を電気・電子機器に組み込む場合、熱硬化性樹脂組成物を発熱部材や放熱部材上に直接塗布して熱伝導性樹脂シート1を作製することも可能である。また、マトリックスの熱硬化性樹脂2がBステージ状態にある熱伝導性樹脂シート1を予め作製しておき、これを発熱部材と放熱部材との間に配置した後、所定のプレス圧で加圧しながら80℃以上250℃以下に加熱することで熱伝導性樹脂シート1を作製することも可能である。これらの方法によれば、熱伝導性樹脂シート1に対する発熱部材や放熱部材の接着性がより高くなる。」(段落【0031】?【0033】)

(6)「

」(図1)

2 甲第1号証に記載された発明
上記(1)ないし(6)の記載事項を総合すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「熱硬化性樹脂中に無機充填材を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
前記無機充填材は、平均長径が8μm以下の窒化ホウ素の一次粒子からなる二次凝集体(A)と、平均長径が8μmを超え20μm以下の窒化ホウ素の一次粒子からなる二次凝集体(B)とを40:60?98:2の体積比で含み、且つ前記無機充填材の含有量は40体積%以上80体積%以下である、熱硬化性樹脂組成物。」

3 甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】凝集度が3?50%であることを特徴とする熱伝導性窒化ホウ素フィラー。」(特許請求の範囲 請求項1)

(2)「本発明においては、凝集度が3?50%の範囲内であれば、その凝集の形態は、ファンデルワールス力、静電気力、吸着水分等に起因する自然凝集であっても、混合造粒、押出造粒、噴霧乾燥等の操作により意図的に凝集させたものであっても、更にはB_(2)O_(3)等の不可避不純物を粒界に介した固着であってもよい。・・・
また、BN粒子の表面は滑らかでシリコーンゴム組成物等との密着性が良好であることが好ましい。そのためには、比表面積(BET法)が10m^(2)/g以下、特に5m^(2)/g以下のものが好適に使用される。」(段落【0007】?【0009】))

4 甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

(1)「本発明を更に詳細に説明する。本発明に用いる窒化ホウ素は結晶系が六方晶で、その粒子は一次粒子が偏平状粒子の集合体であり、見掛け上さらに大きな粒子になっている粒子の状態をいい、凝集粒子の体積粒径を凝集粒子径という。また、平均粒子径とは凝集粒子径の最小の凝集粒子から最大の凝集粒子の累積50%体積粒径をいう。
本発明の窒化ホウ素粉末は粉砕等の方法により粒子径を調整し分散性の良いものを得るが、その粒径は1.0μm以下の凝集粒子径の粒子を60重量%以上含み、平均粒子径が1.0μm以下であることが必要である。また、好ましくは、凝集粒子径の粒子を70重量%以上含むのが好適である。凝集粒子径および平均粒子径がこれらの範囲を外れた場合には、樹脂への分散性が悪く表面の平滑性が得られないばかりか、フィルムに分散させた場合、ブツが発生し、フィルム強度を高く保つことができない。
また、本発明の窒化ホウ素粉末は0.5μm以下の凝集粒子径の粒子を30重量%以上含むのが好ましく、更に好ましくは、40重量%以上が好適である。更には、本発明の窒化ホウ素粉末の比表面積は2?50m^(2)/gが好ましく、更に好ましくは5?15m^(2)/gが好適である。比表面積が2m^(2)/g未満では、板状が発達し分散しにくくなるため好ましくない。また、50m^(2)/gを超えると結晶性が低いため、熱伝導性等が悪くなり、樹脂の性質を改良できないので好ましくない。」(段落【0009】?【0011】)

5 甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。

(1)「本発明を更に詳細に説明する。本発明で用いる窒化ホウ素は結晶系が六方晶で、その粒子は一次粒子が偏平状粒子の集合体であり、見掛け上さらに大きな粒子になっている粒子の状態をいい、凝集粒子の体積粒径を凝集粒子径という。また、平均粒子径とは凝集粒子径の最小の凝集粒子から最大の凝集粒子の累積50%体積粒径をいう。
本発明の窒化ホウ素粉末は粉砕等の方法により粒子径を調整し分散性の良い物を得るが、その粒径は1.0μm以下の凝集粒子径の粒子を60重量%以上含み、平均粒子径が1.0μm以下であることが必要である。また、好ましくは、凝集粒子径の粒子を70重量%以上含むのが好適である。凝集粒子径および平均粒子径がこれらの範囲を外れた場合には、樹脂への分散性が悪く表面の平滑性が得られないばかりか、フィルムに分散させた場合、ブツが発生し、フィルム強度を高く保つことができない。
また、本発明の窒化ホウ素粉末は0.5μm以下の凝集粒子径の粒子を30重量%以上含むのが好ましく、更に好ましくは、40%以上が好適である。また、更には、本発明の窒化ホウ素粉末の比表面積は2?50m^(2)/gが好ましく、更に好ましくは、2?15m^(2)/gが好ましい。比表面積が2m^(2)/g未満では、板状が発達し分散しにくくなるため好ましくない。また、50m^(2)/gを超えると結晶性が低いため、熱伝導性等が悪くなり、樹脂の性質を改良できないので好ましくない。」(段落【0008】?【0010】)

6 甲5の記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。

(1)「

」(1120頁左欄)

第5 申立理由についての当審の判断
1 取消理由1(進歩性)について
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「熱硬化性樹脂」は、本件発明1の「熱硬化性樹脂」に相当し、同様に、甲1発明の「無機充填材」、「熱硬化性樹脂組成物」は、それぞれ、本件発明1の「無機充填材」、「熱硬化性樹脂組成物」に相当する。

以上の点からみて、本件発明1と甲1発明とは、

[一致点]
「熱硬化性樹脂及び無機充填材を含む、熱硬化性樹脂組成物。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点1]
無機充填材に関し、本件発明1は「10以上20以下のアスペクト比を有する窒化ホウ素の一次粒子から形成される二次粒子焼結体(A)と、2以上9以下のアスペクト比を有する窒化ホウ素の一次粒子から形成される二次粒子焼結体(B)とを含む」と特定するのに対して、甲1発明では「平均長径が8μm以下の窒化ホウ素の一次粒子からなる二次凝集体(A)と、平均長径が8μmを超え20μm以下の窒化ホウ素の一次粒子からなる二次凝集体(B)とを含む」点。

イ 判断
相違点1について
本件特許明細書の段落【0008】、段落【0015】、段落【0018】の記載に照らせば、本件発明1は、アスペクト比の大きい、すなわち、熱伝導率の高い面方向の径が大きい一次粒子より形成された二次粒子(A)を熱伝導性向上成分とし、アスペクト比が小さい、すなわち、官能基を持つ端面の面積の割合が大きい一次粒子より形成された二次粒子(B)を接着性向上成分として併用することで、熱伝導性および接着性を同時に向上させるとの知見に基づいてなされたものである。
一方、甲1発明は、上記摘示第4 1(2)、(4)より、熱伝導性に対する寄与が大きい二次凝集体(A)を、熱伝導性樹脂シート中で保持することで熱伝導性を向上させ、二次凝集体(B)を、二次凝集体(A)の間に均一に分散させると共に、変形又は崩壊させることでボイドが生じることなく充填させ、電気絶縁性を向上させるものであるから、一方の二次凝集体を接着性向上成分とするものではない。
さらに、本件特許明細書の段落【0040】には、本件発明1の熱硬化性樹脂組成物から熱伝導性シートを製造するに際に、二次粒子(A)及び二次粒子(B)を変形、崩壊させないことが記載されていることから、本件発明1と甲1発明とでは、併用される二次粒子(二次凝集体)の熱伝導性シートにおける使用形態は異なっている。
また、甲2ないし5のいずれにも、二次粒子を形成する一次粒子のアスペクト比が、熱伝導性、接着性に寄与することに関する記載も示唆もない。
そうすると、甲各号証には、上記知見が記載も示唆もなく、上記相違点1に係る発明特定事項を特定する動機づけの根拠を見いだせない。

そして、本件発明1に関し、本件特許明細書の【表1】および【表2】を見ると、一次粒子のアスペクト比が特定された二次粒子焼結体(A)および(B)を併用した実施例は、当該二次粒子焼結体(A)および(B)を併用しない比較例にと比べて、熱伝導率と接着強度とが同時に向上しており、顕著な効果を奏していると認められる。

したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明および甲2ないし5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 本件発明2ないし12について
本件発明2ないし12は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1に記載された発明および甲2ないし5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし12は、甲1に記載された発明および甲2ないし甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、取消理由1には理由がない。

2 取消理由2(明確性)について
(1) 特許異議申立人の主張の内容
ア 本件発明1の「前記無機充填材が、10以上20以下のアスペクト比を有する窒化ホウ素の一次粒子から形成される二次粒子焼結体(A)」および「2以上9以下のアスペクト比を有する窒化ホウ素の一次粒子から形成される二次粒子焼結体(B)とを含む」は、いずれも窒化ホウ素の原料の形状ないし特性を表現したものであり、本件発明1の「熱硬化性樹脂組成物」を特定したものではない。
すなわち、前記アスペクト比は窒化ホウ素の原料の形状ないしは特性であり、焼結体にするとアスペクト比は変化するかまたはアスペクト比は測定できない形態となる。

イ 本件発明1の「窒化ホウ素の一次粒子から形成される二次粒子焼結体」について、実質は製法を表現しており、物を表現したものではないから、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当する。

ウ 本件発明6の「窒化ホウ素の一次粒子の平均長径が0.1μm以上30μm以下」は、前記アと同様に、熱可塑性樹脂組成物から特定することはできない。

エ 本件発明10は本件発明9を引用しているが、本件発明9は製法クレームであり、本件発明10から本件発明9に記載のプレス圧は特定できず、本件発明10は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当する。

オ 本件発明1を引用する本件発明2ないし12、本件発明6を引用する本件発明7ないし12、並びに、本件発明10を引用する本件発明11および12は、前記アないしエと同様に、特許法36条第6項第2号に規定する明確性に違反する。

(2) 当審の判断
ア 本件発明1において、各二次粒子焼結体を形成する一次粒子のアスペクト比に関し、本件特許明細書の段落【0014】には、「ここで、本明細書において、二次粒子を構成する窒化ホウ素の一次粒子のアスペクト比とは、二次粒子をエポキシ樹脂に埋封したサンプルを作製し、そのサンプルの断面を研磨して電子顕微鏡で数千倍に拡大した写真を数枚撮影した後、二次粒子を構成する一次粒子の長径及び短径を任意に100個測定し、長径と短径との比(長径/短径)を算出して平均値を求めることによって得られた値を意味する。」と記載されている。
そうすると、一次粒子のアスペクト比は、二次粒子をエポキシ樹脂に埋設したサンプルから求められる値であり、単に窒化ホウ素の原料の形状ないしは特性を示すものではなく、「熱硬化性組成物」において特定することができるから、明確である。

イ 「窒化ホウ素の一次粒子から形成される二次粒子焼結体」について、「二次粒子焼結体」とは一次粒子が凝集、焼結している状態を示しているから、単に状態を示すことにより構造または特性を特定しているにすぎないものであって、明確である。

ウ 本件発明6の一次粒子の平均長径については、上記アで述べたと同様に、エポキシ樹脂に埋設したサンプルから求められる値であり、単に窒化ホウ素の原料の形状ないしは特性を示すものではなく、「熱硬化性組成物」において特定することができるから、明確である。

エ 本件発明10は、「製造方法の発明を引用する場合」に形式的には該当する。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0040】には、「塗布乾燥物の加圧時のプレス圧は、0.5MPa以上50MPa以下、好ましくは1.9MPa以上30MPa以下である。プレス圧が0.5MPa未満であると、熱伝導性シート5内のボイドを十分に除去することができない。一方、プレス圧が50MPaを超えると、二次粒子(A)1及び二次粒子(B)3が変形又は崩壊してしまい、熱伝導性シート5の熱伝導性及び電気絶縁性が低下する。」と記載されており、本件特許明細書および図面の記載及び出願時の技術常識にかんがみれば、上記所定のプレス圧により製造される熱伝導性シートは、ボイドが除去され、二次粒子(A)及び二次粒子(B)が変形、崩壊していない状態にあるものであって、熱伝導性シートの構造または特性は明らかである。
そうすると、斯かる熱伝導性シートを備える「パワーモジュール」の構造または特性は明らかといえるから、本件発明10は明確である。

オ 本件発明1を引用する本件発明2ないし12、本件発明6を引用する本件発明7ないし12、並びに、本件発明10を引用する本件発明11および12に関し、上記アないしエのとおり、特許法36条第6項第2号に規定する明確性に違反していない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし12について、特許請求の範囲の記載は明確である。
よって、取消理由2には理由がない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-07-11 
出願番号 特願2015-522569(P2015-522569)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保 道弘  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 上坊寺 宏枝
守安 智
登録日 2016-10-14 
登録番号 特許第6022061号(P6022061)
権利者 三菱電機株式会社
発明の名称 熱硬化性樹脂組成物、熱伝導性シートの製造方法、及びパワーモジュール  
代理人 梶並 順  
代理人 上田 俊一  
代理人 曾我 道治  
代理人 大宅 一宏  
代理人 吉田 潤一郎  
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