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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する B66F
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する B66F
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する B66F
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する B66F
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する B66F
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する B66F
管理番号 1330357
審判番号 訂正2017-390007  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2017-01-25 
確定日 2017-06-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4890790号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4890790号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第4890790号(以下、「本件特許」ともいう。)は、平成17年5月31日を出願日とする特願2005-158739号として特許出願され、平成23年12月22日に特許権の設定登録がされたものであり、その後、平成29年1月25日に本件訂正審判の請求がされ、平成29年2月17日付けで手続補正指令書(方式)による指令がされ、これに対して、平成29年3月10日に手続補正書が提出されたものである。


第2 請求の趣旨及び訂正内容
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第4890790号の明細書及び特許請求の範囲を本件訂正審判請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正すること(以下、「本件訂正」という。)を認める、との審決を求めるものである。


第3 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、平成29年3月10日に提出された手続補正書により補正された審判請求書の記載によると、次のとおりである。

1 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記第1の故障検出手段により前記舵角検出手段の故障が検出されているとき、」と記載されているのを、「前記第1の故障検出手段により、前記舵角検出手段からの出力信号が所定範囲内のものでなくて前記舵角検出手段が故障であると検出されているとき、」に訂正する(下線は訂正箇所を示す。)。

2 訂正事項2
明細書の段落【0006】に、「第1の故障検出手段により舵角検出手段の故障が検出されているとき、」と記載されているのを、「第1の故障検出手段により、舵角検出手段からの出力信号が所定範囲内のものでなくて舵角検出手段が故障であると検出されているとき、」に訂正する(下線は訂正箇所を示す。)。


第4 当審の判断
上記訂正事項1及び2について、訂正要件を満たすか(特許法第126条第1項ただし書第1ないし4号に掲げる事項のいずれかを目的とし、また、同条第5ないし7項の規定に適合するものであるか)を以下に検討する。
ここで、検討に際し、本件特許に係る願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を、以下、「特許明細書等」といい、また、本件特許に係る願書に添付した明細書を、以下、「特許明細書」という。
なお、本件訂正審判の請求は、特許権全体に対して請求するものであるから、特許法第126条第3項の規定に適合するかについては検討しない。

1 本件訂正の目的の適否について
(1)訂正事項1について
まず、訂正事項1において、「前記舵角検出手段の故障が検出されているとき」という発明特定事項(以下、「前者の事項」という。)を「前記舵角検出手段が故障であると検出されているとき」という発明特定事項(以下、「後者の事項」という。)と訂正することについて検討すると、特許明細書の段落【0026】における「先ず、舵角検出器62が故障した場合について説明する。舵角検出器62が故障してその出力が異常なものとなっている場合(例えば舵角検出器62からの出力信号の電圧が所定範囲内のものでなかった場合)、舵角検出器62の故障がコントローラ50によって検出される。」(下線は、当審で付したものである。)との記載によれば、前者の事項と後者の事項とは、表現が異なるだけで、その技術的意義及び内容において実質的に差異はない。
次に、訂正事項1において、訂正後に「前記舵角検出手段からの出力信号が所定範囲内のものでなくて」を追加することについて検討すると、訂正前の「前記舵角検出手段の故障が検出されているとき」という発明特定事項について、直列的に限定事項を付加するものである。
以上を総合すると、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために、段落【0006】の記載を訂正後の請求項1の記載と整合させるものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

2 本件訂正が特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
(1)訂正事項1について
特許明細書の段落【0026】には、次の記載がされている。
・「先ず、舵角検出器62が故障した場合について説明する。舵角検出器62が故障してその出力が異常なものとなっている場合(例えば舵角検出器62からの出力信号の電圧が所定範囲内のものでなかった場合)、舵角検出器62の故障がコントローラ50によって検出される。」(下線は当審で付した。)
この記載によれば、特許明細書等には、訂正事項1に係る訂正後の「前記第1の故障検出手段により、前記舵角検出手段からの出力信号が所定範囲内のものでなくて前記舵角検出手段が故障であると検出されているとき、」という事項は、特許明細書等に記載されている。
したがって、訂正事項1は、特許明細書等ののすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものであり、特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために、段落【0006】の記載を訂正後の請求項1の記載と整合させるものであるから、上記(1)の検討を踏まえると、同様の理由により、特許明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものであり、特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

3 本件訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
(1)訂正事項1
訂正事項1は、請求項1の記載において発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、上記(1)と同様の理由により、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に適合するものである。

4 独立特許要件について
訂正事項1が請求項1についての訂正であり、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2及び3も訂正事項1により訂正されることになる。
そうすると、上記のとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件訂正後の請求項1ないし3に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件訂正発明1ないし3」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないところ、本件訂正発明1ないし3が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。
なお、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第126条第7項の規定は適用されない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1及び3号に掲げる事項を目的とし、また、同条第5ないし7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
作業車の走行装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪駆動式の走行体に作業装置を備えて構成された作業車の走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪駆動式の走行体に作業装置を備えて構成された作業車としては、例えば走行体に昇降手段を介して作業台を取り付けた高所作業車が知られている。このような高所作業車には種々の形態のものがあるが、その中には比較的小型の走行体に垂直昇降装置(伸縮ポストやシザース機構等)を設け、この垂直所高装置に作業台を取り付けたものがある。このような高所作業車では、作業台に搭乗した作業者が作業台上から走行体の走行操作及び作業台の昇降操作を行うことができるようになっている(例えば、下記の特許文献1参照)。
【0003】
上記タイプの作業車における走行体の走行操作は、走行体の発進停止及び前進後退の切り換えを行う進行停止操作手段(例えばレバーやダイヤル等からなる)と、走行中の走行体の舵取り、すなわち走行体の被操舵輪の操舵操作を行う操舵操作手段(例えばレバーやダイヤル等からなる)とを作業者が操作して行うようになっている。そして、走行体の走行中に作業者によって走行体の舵取りがなされると、作業台若しくは走行体に備えられたコントローラは、舵角検出器により検出された被操舵輪の舵角が操舵操作手段の操作状態に応じて設定された被操舵輪の目標舵角に追従するように操舵アクチュエータ(通常油圧シリンダ)を作動させ、リンク機構(ステアリングリンク機構)を介して被操舵輪の舵角を変化させる。なお、ここで被操舵輪の舵角とは、被操舵輪の走行体の前後中心軸に対する偏向角をいう。
【特許文献1】特開平10-158000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の作業車において、被操舵輪の舵角を検出する舵角検出器や操舵操作手段の操作状態を検出する操舵操作検出器が故障した場合には、被操舵輪の目標舵角への追従制御ができなくなることから操舵不能(ひいては走行不能)となってしまい、故障した機器の修理がなされるまで車両をその場で待機させるしかなかった。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、被操舵輪の舵角を検出する舵角検出器や操舵操作手段の操作状態を検出する操舵操作検出器が故障した場合であっても操舵不能、ひいては走行不能となることのない構成の作業車の走行装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る作業車の走行装置は、作業装置(例えば、実施形態における伸縮ポスト20及び作業台30)を備えた車輪駆動式の走行体と、走行体の被操舵輪(例えば、実施形態における前輪11a)の操舵操作を行う操舵操作手段(例えば、実施形態における操舵ダイヤル42)と、操舵操作手段の操作状態を検出する操舵操作検出手段(例えば、実施形態における操舵操作検出器42a)と、操舵操作検出手段により検出された操舵操作手段の操作状態に応じて被操舵輪の目標舵角を設定する目標舵角設定手段(例えば、実施形態におけるコントローラ50)と、被操舵輪の舵角を検出する舵角検出手段(例えば、実施形態における舵角検出器62)と、被操舵輪に繋がるリンク機構(例えば、実施形態におけるステアリングリンク機構13)を駆動して被操舵輪の舵角を変化させる操舵アクチュエータ(例えば、実施形態における操舵シリンダ17)と、舵角検出手段により検出された被操舵輪の舵角が目標舵角設定手段において設定された被操舵輪の目標舵角に追従するように操舵アクチュエータを作動させる制御を行う通常走行制御手段(例えば、実施形態におけるコントローラ50及び操舵制御バルブ52)とを備えて構成された作業車(例えば、実施形態における高所作業車1)の走行装置において、舵角検出手段の故障を検出する第1の故障検出手段(例えば、実施形態におけるコントローラ50)と、第1の故障検出手段により、舵角検出手段からの出力信号が所定範囲のものでなくて舵角検出手段が故障であると検出されているとき、通常走行制御手段による制御を規制し、操舵操作手段の操作状態に応じた方向に、操舵操作手段が操作されている間だけ、所定の速度(例えば第1の故障検出手段により舵角検出手段の故障が検出されていないときにおける操舵アクチュエータの作動速度よりも遅い速度)で操舵アクチュエータを作動させる制御を行う第1の非常時走行制御手段(例えば、実施形態におけるコントローラ50及び操舵制御バルブ52)とを備える。ここで被操舵輪の舵角とは、被操舵輪の走行体の前後中心軸に対する偏向角をいう。
【0007】
なお、上記作業車の走行装置において、第1の非常時走行制御手段は、第1の故障検出手段により操舵操作手段の故障が検出されているときには、走行体の走行速度規制を行うようになっていることが好ましい。
【0008】
また、もう一つの本発明に係る作業車の走行装置は、作業装置(例えば、実施形態における伸縮ポスト20及び作業台30)を備えた車輪駆動式の走行体と、作業装置の操作を行う作業装置操作手段(例えば、実施形態における昇降操作レバー43)と、作業装置操作手段の操作に応じて作業装置を作動させる作業装置作動手段(例えば、実施形態におけるコントローラ50、昇降制御バルブ53及び昇降シリンダ23)と、走行体の被操舵輪(例えば、実施形態における前輪11a)の操舵操作を行う操舵操作手段(例えば、実施形態における操舵ダイヤル42)と、操舵操作手段の操作状態を検出する操舵操作検出手段(例えば、実施形態における操舵操作検出器42a)と、操舵操作検出手段により検出された操舵操作手段の操作状態に応じて被操舵輪の目標舵角を設定する目標舵角設定手段(例えば、実施形態におけるコントローラ50)と、被操舵輪の舵角を検出する舵角検出手段(例えば、実施形態における舵角検出器62)と、被操舵輪に繋がるリンク機構(例えば、実施形態におけるステアリングリンク機構13)を駆動して被操舵輪の舵角を変化させる操舵アクチュエータ(例えば、実施形態における操舵シリンダ17)と、舵角検出手段により検出された被操舵輪の舵角が目標舵角設定手段において設定された被操舵輪の目標舵角に追従するように操舵アクチュエータを作動させる制御を行う通常走行制御手段(例えば、実施形態におけるコントローラ50及び操舵制御バルブ52)とを備えて構成された作業車(例えば、実施形態における高所作業車1)の走行装置において、操舵操作検出手段の故障を検出する第2の故障検出手段(例えば、実施形態におけるコントローラ50)と、走行体が走行しているか否かを検出する走行検出手段(例えば、実施形態における走行速度検出器61)と、第2の故障検出手段により操舵操作検出手段の故障が検出され、かつ走行検出手段により走行体が走行中であることが検出されているとき、作業装置作動手段が作業装置操作手段の操作に応じて作業装置の作動を行わないように規制するとともに、通常走行制御手段による制御を規制し、作業装置操作手段の操作状態に応じた方向に、作業装置操作手段が操作されている間だけ、所定の速度(例えば第2の故障検出手段により操舵操作手段の故障が検出されていないときにおける操舵アクチュエータの作動速度よりも遅い速度)で操舵アクチュエータを作動させる制御を行う第2の非常時走行制御手段(例えば、実施形態におけるコントローラ50及び操舵制御バルブ52)とを備える。
【0009】
なお、上記作業車の走行装置において、第2の非常時走行制御手段は、第2の故障検出手段により操舵操作手段の故障が検出され、かつ走行検出手段により走行体が走行中であることが検出されているとき、走行体の走行速度規制を行うようになっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る作業車の走行装置においては、舵角検出手段の故障が検出された場合には、舵角検出手段により検出された被操舵輪の舵角が操舵操作手段の操作状態に応じて設定された被操舵輪の目標舵角に追従するように操舵アクチュエータを作動させる制御(通常走行制御手段による制御)から、操舵操作手段の操作状態に応じた方向に、操舵操作手段が操作されている間だけ、操舵アクチュエータを作動させる制御(第1の非常時走行制御手段による制御)に切り換えられるので、舵角検出手段が故障した場合であっても、走行体が操舵不能、ひいては走行不能に陥ることがない。
【0011】
また、もう一つの本発明に係る作業車の走行装置においては、操舵操作検出手段の故障が検出され、かつ走行体が走行中であることが検出された場合には、舵角検出手段により検出された被操舵輪の舵角が操舵操作手段の操作状態に応じて設定された被操舵輪の目標舵角に追従するように操舵アクチュエータを作動させる制御(通常走行制御手段による制御)から、作業装置操作手段の操作状態に応じた方向に、作業装置操作手段が操作されている間だけ、操舵アクチュエータを作動させる制御(第2の非常時走行制御手段による制御)に切り換えられるので、操舵操作検出手段が故障した場合であっても、走行体が操舵不能、ひいては走行不能に陥ることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。図2は本発明の一実施形態に係る作業車の走行装置を備えた高所作業車1を示している。この高所作業車1はいわゆる垂直昇降式の高所作業車であり、車輪駆動式の走行体10と、この走行体10に垂直上方に延びて設けられた垂直昇降装置としての伸縮ポスト20と、この伸縮ポスト20に支持された作業者搭乗用の作業台30とを有して構成されている。走行体10は前後左右にタイヤ車輪11を備えるとともに内部に走行モータ(油圧モータ)12を備えており(図3参照)、この走行モータ12により後部のタイヤ車輪11(以下、後輪11bと称する)を駆動し、また前部のタイヤ車輪11(以下、前輪11aと称する)を操舵して走行することができるようになっている。
【0013】
伸縮ポスト20は走行体10に垂直上方に延びて設けられた下部ポスト21と、この下部ポスト21に対して入れ子式に設けられた上部ポスト22とからなり、内蔵された昇降シリンダ(油圧シリンダ)23(図1参照)の伸縮作動により上下方向に伸縮(上部ポスト22を昇降)させることができるようになっている。作業台30は上部ポスト22に取り付けられており、伸縮ポスト20の上下方向の伸縮作動により昇降移動させることができるようになっている。
【0014】
作業台30には走行体10の発進停止及び前進後退の切り換えを行う進行停止操作レバー41と、走行中の走行体10の舵取り、すなわち被操舵輪である前輪11aの操舵操作を行う操舵ダイヤル42と、作業台30の昇降操作を行う昇降操作レバー43とが備えられた操作ボックス40が設けられており(図2及び図5参照)、作業台30に搭乗した作業者はこれら進行停止操作レバー41、操舵ダイヤル42及び昇降操作レバー43を操作することにより、作業台30に居ながらにして走行体10の走行操作と作業台30の昇降操作とを行うことができるようになっている。
【0015】
被操舵輪である前輪11aのステアリング機構は、前輪11aに繋がるステアリングリンク機構13と、このステアリングリンク機構13を駆動して前輪11aの舵角γ(前輪11aの走行体10の前後中心軸に対する偏向角。図4参照)を変化させる操舵シリンダ(油圧シリンダ)17と、操舵ダイヤル42の操作に応じて操舵シリンダ17の作動制御を行うコントローラ50とから構成されている。
【0016】
ステアリングリンク機構13は、図3に示すように、前輪11aを回転自在に支承する左右の前輪支持部材14と、左右の前輪支持部材14を連結するタイロッド16とを有して構成されている。左右の前輪支持部材14はそれぞれ上下方向に延びたキングピン15を介して走行体10に取り付けられており、そのキングピン15まわりに揺動できるようになっている。また、左右の前輪支持部材14それぞれにはアーム部14aが走行体10の後方に延びて設けられており、タイロッド16の両端部はこれら左右のアーム部14aに連結ピンP1によって連結されている。
【0017】
ステアリングリンク機構13を構成する左側の前輪支持部材14のアーム部14aには操舵シリンダ17の一端部が連結ピンP2によって連結されており、操舵シリンダ17の他端部は図示しない走行体10のシリンダ連結部に連結ピンP3によって連結されている。このため、操舵シリンダ17を伸縮作動させることにより左側の前輪支持部材14をキングピン15回りに揺動させることができ、またタイロッド16を介して右側の前輪支持部材14を左側の前輪支持部材14と同時かつ同方向に揺動させることができる。そして、操舵シリンダ17を伸長作動させることによって左右の前輪11aを右方向に向けることができ、操舵シリンダ17を収縮作動させることによって左右の前輪11aを左方向に向けることができる。また、図4に示すように、前輪11aの舵角γが零(γ=0)であるときの操舵シリンダ17の長さを操舵シリンダ17の伸縮量Δが零(Δ=0)の状態であり(図4(A)参照)、また前輪11aが右方向に偏向した状態の舵角γの符号を正、前輪11aが左方向に偏向した状態の舵角γの符号を負と定義すると、操舵シリンダ17の伸長量Δが正値(Δ>0)のときには前輪11aの舵角γは正値(γ>0)となり(図4(B)参照)、操舵シリンダ17の伸縮量Δが負値(Δ<0)のときには前輪11aの舵角γは負値(γ<0)となる(図4(C)参照)。
【0018】
図1は走行体10の走行動作及び作業台30の昇降動作に関する信号及び動力の伝達経路を示している。作業台30の操作ボックス40内に備えられた進行停止操作レバー41は非操作状態において中立位置(図5に示すよう垂直姿勢の位置)に位置し、この中立位置を基準に前方或いは後方へ傾動操作することができるようになっている。そして、この進行停止操作レバー41は、傾動操作状態から手を放したときには、内蔵されたスプリングの力によって自動で中立位置に復帰する構成となっている。進行停止操作レバー41の操作状態(中立位置を基準とした操作方向と操作量)は操作ボックス40内に設けられたポテンショメータ等からなる進行停止操作検出器41aによって検出することができ、進行停止操作検出器41aが検出した進行停止操作レバー41の操作状態の情報はコントローラ50(作業台30若しくは走行体10に備えられる)に入力されるようになっている。ここで、進行停止操作レバー41の中立位置よりも前方への傾動操作は走行体10の前進走行指令に相当し、その傾動操作量が大きいときほどコントローラ50において前進走行時における目標走行速度が大きい値に設定される。また、進行停止操作レバー41の中立位置よりも後方への傾動操作は走行体10の後退走行指令に相当し、その傾動操作量が大きいときほどコントローラ50において後退走行時における目標走行速度が大きい値に設定される。また、進行停止操作レバー41を中立位置に復帰させる操作は走行体10の停止指令に相当する。
【0019】
操舵ダイヤル42は非操作状態において中立位置(図5に示すように、操舵ダイヤル42に記されたマークM1と操作ボックス40に記されたマークM2とが一致する位置)に位置し、この中立位置を基準に右回り(時計回り)或いは左回り(反時計回り)に捻り操作することができるようになっている。そして、この操舵ダイヤル42は、捻り操作状態から手を放したときには、内蔵されたスプリングの力によって自動で中立位置に復帰する構成となっている。操舵ダイヤル42の操作状態(中立位置を基準とした操作方向と操作量)は操作ボックス40内に設けられたポテンショメータ等からなる操舵操作検出器42aによって検出することができ、操舵操作検出器42aが検出した操舵ダイヤル42の操作状態の情報はコントローラ50に入力されるようになっている。ここで、操舵ダイヤル42の右回り方向へ捻り操作は前輪11aの右方向への操舵指令に相当し、中立位置から右回り方向への捻り操作量が大きいときほどコントローラ50において右方向への目標舵角が大きい値に設定される。また、操舵ダイヤル42の左回り方向への捻り操作は前輪11aの左方向への操舵指令に相当し、中立位置から左回り方向への捻り操作量が大きいときほどコントローラ50において左方向への目標舵角が大きい値に設定される。また、操舵ダイヤル42を中立位置に復帰させる操作は前輪11aを舵角零の状態(γ=0の状態。図4(A)参照)にする指令に相当する。
【0020】
昇降操作レバー43は非操作状態において中立位置(図5に示すように垂直姿勢の位置)に位置し、この中立位置を基準に前方或いは後方へ傾動操作することができるようになっている。そして、この昇降操作操作レバー43は、傾動操作状態から手を放したときには、内蔵されたスプリングの力によって自動で中立位置に復帰する構成となっている。昇降操作レバー43の操作状態(中立位置を基準とした操作方向と操作量)は操作ボックス40内に設けられたポテンショメータ等からなる昇降操作検出器43aによって検出することができ、昇降操作検出器43aが検出した昇降操作レバー43の操作状態の情報はコントローラ50に入力されるようになっている。ここで、昇降操作レバー43の中立位置よりも前方への傾動操作は作業台30の下降指令に相当し、その傾動操作量が大きいときほどコントローラ50において作業台30の下降時における目標作動速度が大きい値に設定される。また、昇降操作レバー43の中立位置よりも後方への傾動操作は作業台30の上昇指令に相当し、その傾動操作量が大きい時ほどコントローラ50において作業台30の上昇時における目標作動速度が大きい値に設定される。また、昇降操作レバー43を中立位置に復帰させる操作は作業台30の停止指令に相当する。
【0021】
走行体10の内部には電動モータや小型エンジン等からなる動力源(図示せず)によって駆動される油圧ポンプP(図1参照)が設けられており、この油圧ポンプPから吐出された圧油は進行停止制御バルブ51経由で走行モータ12に供給されるようになっている。ここで、走行体10の駆動輪である左右の後輪11bは走行モータ12によりギヤボックス18を介して駆動される左右の車軸19に取り付けられており(図3参照)、コントローラ50は、進行停止操作レバー41の操作状態に応じた方向及び量で進行停止制御バルブ51のスプール(図示せず)を電磁駆動するので、作業台30上の作業者は、進行停止操作レバー41の操作によって走行体10の発進停止及び進行方向(前進後退)の切り換えと走行速度の設定とを行うことができる。また、油圧ポンプPから吐出された圧油は操舵制御バルブ52経由で操舵シリンダ17に供給されるようになっており(図4も参照)、コントローラ50は操舵ダイヤル42の操作状態に応じた方向及び量で操舵制御バルブ52のスプール(図示せず)を電磁駆動するので、作業台30上の作業者は、操舵ダイヤル42の操作によって操舵シリンダ17の伸縮操作を行って、前輪11aの操舵を行うことができる。また、油圧ポンプPから吐出された圧油は昇降制御バルブ53経由で昇降シリンダ23に供給されるようになっており、コントローラ50は昇降操作レバー43の操作状態に応じた方向及び量で昇降制御バルブ53のスプール(図示せず)を電磁駆動するので、作業台30上の作業者は、昇降操作レバー43の操作によって作業台30の昇降移動を行うことができる。
【0022】
走行体10には後輪11bの車軸19の回転数から走行体10の走行速度を検出する走行速度検出器61と前輪支持部材14のキングピン15回りの回転角から前輪11aの舵角を検出する舵角検出器(例えばポテンショメータ)62とが設けられており、伸縮ポスト20内には昇降シリンダ23の作動速度等から作業台30の昇降速度を検出する昇降速度検出器63が設けられている(図1参照)。そして、これら走行速度検出器61により検出された走行体10の走行速度の情報、舵角検出器62により検出された舵角の情報及び昇降速度検出器63により検出された作業台30の昇降速度の情報はいずれもコントローラ50に入力されるようになっている。
【0023】
コントローラ50は、進行停止操作検出器41aにより検出された進行停止操作レバー41の操作状態(中立位置を基準とした操作方向及び操作量)の情報が入力されると、その検出された進行停止操作レバー41の操作状態に応じた走行体10の目標走行速度を設定し、走行速度検出器61により検出された走行体10の走行速度がその目標走行速度に追従するように進行停止制御バルブ51のスプールを駆動して走行モータ12の回転数をコントロールする。また、コントローラ50は、昇降操作検出器43aにより検出された昇降操作レバー43の操作状態(中立位置を基準とした操作方向及び操作量)の情報が入力されると、その検出された昇降操作レバー43の操作状態に応じた走行体10の目標昇降速度を設定し、昇降速度検出器63により検出された作業台30の昇降速度がその目標昇降速度に追従するように昇降制御バルブ53のスプールを駆動して昇降シリンダ23の作動速度をコントロールする。
【0024】
またコントローラ50は、操舵操作検出器42aにより検出された操舵ダイヤル42の操作状態(中立位置を基準とした操作方向及び操作量)の情報が入力されると、その検出された操舵ダイヤル42の操作状態に応じた前輪11aの目標舵角を設定し、舵角検出器62により検出される前輪11aの舵角がその目標舵角に追従するように操舵制御バルブ52を駆動して操舵シリンダ17の伸長量をコントロールする。例えば、走行体10の直進走行中(このとき目標舵角と実際の舵角はともに0度である)に操舵ダイヤル42を右回り方向に捻り操作してこれにより目標舵角が右方向30度に設定されたとすると、コントローラ50は舵角検出器62により検出される舵角が目標舵角(30度)と一致するまで操舵シリンダ17を伸長作動させる。
【0025】
上述のように、本高所作業車1の走行装置では、コントローラ50が、舵角検出器62により検出された前輪11aの舵角が操舵ダイヤル42の操作状態に応じて設定された前輪11aの目標舵角に追従するように操舵シリンダ17を作動させるようになっている(これを通常走行制御と称する)。このため作業者は、作業台30上から進行停止操作レバー41及び操舵ダイヤル42を同時操作することによって走行体10の走行操作を行うことができるのであるが、この走行装置では、以下に述べるように、何らかの原因によって舵角検出器62或いは操舵操作検出器42aが故障してしまった場合には、コントローラ50が行う上記通常走行制御が後述する非常時走行制御に切り換えられることにより、走行体10が操舵不能(ひいては走行不能)に陥ることがないようになっている。
【0026】
先ず、舵角検出器62が故障した場合について説明する。舵角検出器62が故障してその出力が異常なものとなっている場合(例えば舵角検出器62からの出力信号の電圧が所定範囲内のものでなかった場合)、舵角検出器62の故障がコントローラ50によって検出される。そして、コントローラ50は、舵角検出器62の故障を検出したら、作業台30上に設けたパネルやブザー等の警報機45(図1参照)によって舵角検出器62が故障した旨の報知を行って作業者に注意を喚起するとともに、上記通常走行制御を停止し、非常時走行制御に切り換える。この非常時走行制御は、操舵ダイヤル42が中立位置から閾値(予め定めた任意の所定捻り操作量)以上の捻り操作量で捻り操作されている間だけ、その捻り操作により指定される方向(単に右か左か)に操舵シリンダ17を作動させて前輪11aを操舵する制御である。
【0027】
図6は上記非常時走行制御においてコントローラ50が行う制御のフローである。非常時走行制御では、コントローラ50は先ず、ステップS1において、操舵操作検出器42aにより検出される操舵ダイヤル42の操作量の情報に基づいて、操舵ダイヤル42の操作量が閾値以上であるか否かの判定を行う。そして、操舵ダイヤル42の操作量が閾値に達していないと判定したときにはステップS2に進み、操舵制御バルブ52のスプールを中立位置52a(図4参照)に維持して操舵シリンダ17の作動の停止状態を維持し(或いは操舵制御バルブ52のスプールを中立位置52aに位置させて操舵シリンダ17の伸縮作動を停止させ)、ステップS1に戻る。一方、ステップS1において操舵ダイヤル42の操作量が閾値以上であったときにはステップS3に進み、操舵操作検出器42aにより検出される操舵ダイヤル42の操作方向の情報に基づいて、操舵ダイヤル42の操作方向が右方向操舵に対応するものか否かの判定を行う。そして、ステップS3において操舵ダイヤル42の操作方向が右方向操舵に対応するものであると判定した場合にはステップS4に進み、操舵制御バルブ52のスプールを操舵シリンダ17の伸長方向位置52b(図4参照)に位置させて操舵シリンダ17を所定の速度で伸長作動させ(これにより前輪11aは右方向に向けられる)、ステップS1に戻る。一方、ステップS3において操舵ダイヤル42の操作方向が右方向操舵に対応するものでない(左方向操舵に対応するものである)と判定した場合にはステップS5に進み、操舵制御バルブ52のスプールを操舵シリンダ17の収縮方向位置52c(図4参照)に位置させて操舵シリンダ17を所定の速度で収縮作動させ(これにより前輪11aは左方向に向けられる)、ステップS1に戻る。
【0028】
コントローラ50が上記制御を行うことにより、作業者が中立位置より閾値を超える操作量で操舵ダイヤル42を右回り方向に捻り操作したときには、その捻り操作をしている間だけ操舵シリンダ17を所定の速度で伸長作動させて前輪11aを右方向に回転(前輪支持部材14をキングピン15回りに右方向に回転)させることができ、操舵ダイヤル42の操作量を閾値よりも小さい捻り量まで戻すことによって操舵シリンダ17の伸長作動を停止させて前輪11aのそれ以上の右方向への回転が行われないようにすることができる。また、作業者が中立位置より閾値を超える操作量で操舵ダイヤル42を左回り方向に捻り操作したときには、その捻り操作をしている間だけ操舵シリンダ17を所定の速度で収縮作動させて前輪11aを左方向に回転(前輪支持部材14をキングピン15回りに左方向に回転)させることができ、操舵ダイヤル42の操作量を閾値よりも小さい捻り量まで戻すことによって操舵シリンダ17の収縮作動を停止させて前輪11aのそれ以上の左方向への回転が行われないようにすることができる。このため作業者は、上記非常時走行制御が行われているときでも、進行停止操作レバー41の操作により走行体10の走行速度を調整しつつ、操舵ダイヤル42の操作を行って前輪11aの操舵を行えば、走行体10を所望の方向へ走行させることができる。なお、通常走行制御から非常時走行制御に切り換えているときにおける上記操舵シリンダ17の所定の速度は、舵角検出器62の故障が検出されていないときにおける操舵シリンダ17の作動速度よりも遅い速度であることが好ましい。また、通常走行制御から非常時走行制御に切り換えられている状態では、前輪11aの操舵を容易にするために、極低速でしか走行できないように走行体10の走行速度規制が行われるようになっていることが好ましい。
【0029】
このように、本高所作業車1の走行装置においては、舵角検出器62の故障が検出された場合には、舵角検出器62により検出された前輪11aの舵角が操舵ダイヤル42の操作状態に応じて設定された前輪11aの目標舵角に追従するように操舵シリンダ17を作動させる制御(通常走行制御)から、操舵ダイヤル42の操作状態に応じた方向に、操舵ダイヤル42が操作されている間だけ、操舵シリンダ17を作動させる制御(非常時走行制御)に切り換えられるので、舵角検出器62が故障した場合であっても、走行体10が操舵不能、ひいては走行不能に陥ることがない。
【0030】
次に、操舵操作検出器42aが故障した場合について説明する。操舵操作検出器42aが故障してその出力が異常なものとなっている場合(例えば操舵操作検出器42aからの出力信号の電圧が所定範囲内のものでなかった場合)、操舵操作検出器42aの故障がコントローラ50によって検出される。そして、コントローラ50は、操舵操作検出器42aの故障を検出したら、作業台30上に設けた警報機45によって舵角検出器62が故障した旨の報知を行って作業者に注意を喚起する。そして、更に、走行速度検出器61により走行体10が走行していることが検出されているとき(走行速度検出器61からの出力に基づいて走行体10が走行中であることを認識しているとき)には、昇降操作レバー43の操作に応じて伸縮ポスト20の(昇降シリンダ23の)作動を行わないように自己規制するとともに、上記通常走行制御を停止し、非常時走行制御に切り換える。この非常時走行制御は、操舵ダイヤル42が中立位置から閾値以上の捻り操作量で捻り操作されている間だけ、その捻り操作により指定される方向(単に右か左か)に操舵シリンダ17を作動させて前輪11aを操舵する制御である。
【0031】
この場合においてコントローラ50が行う制御は前述の舵角検出器62が故障した場合と同様であり、図6の制御フローに示す通りである。すなわち、コントローラ50は先ず、ステップS1において、昇降操作検出器43aにより検出される昇降操作レバー43の操作量の情報に基づいて、昇降操舵レバー43の操作量が閾値以上であるか否かの判定を行う。そして、昇降操作レバー43の操作量が閾値に達していないと判定したときにはステップS2に進み、操舵制御バルブ52のスプールを中立位置52a(図4参照)に維持して操舵シリンダ17の作動の停止状態を維持し(或いは操舵制御バルブ52のスプールを中立位置52aに位置させて操舵シリンダ17の伸縮作動を停止させ)、ステップS1に戻る。一方、ステップS1において昇降操作レバー43の操作量が閾値以上であったときにはステップS3に進み、昇降操作検出器43aにより検出される昇降操舵レバー43の操作方向の情報に基づいて、昇降操作レバー43の操作方向が右方向操舵に対応するものか否かの判定を行う(非常時走行制御が行われているときにおける昇降操作レバー43の操作方向が前輪11aの右方向操舵及び左方向操舵のいずれに対応するかは予め定めておくものとする)。そして、ステップS3において昇降操作レバー43の操作方向が右方向操舵に対応するものであると判定した場合にはステップS4に進み、操舵制御バルブ52のスプールを操舵シリンダ17の伸長方向位置52b(図4参照)に位置させて操舵シリンダ17を所定の速度で伸長作動させ(これにより前輪11aは右方向に向けられる)、ステップS1に戻る。一方、ステップS3において昇降操作レバー43の操作方向が右方向操舵に対応するものでない(左方向操舵に対応するものである)と判定した場合にはステップS5に進み、操舵制御バルブ52のスプールを操舵シリンダ17の収縮方向位置52c(図4参照)に位置させて操舵シリンダ17を所定の速度で収縮作動させ(これにより前輪11aは左方向に向けられる)、ステップS1に戻る。
【0032】
コントローラ50が上記制御を行うことにより、作業者が中立位置より閾値を超える操作量で昇降操作レバー43を前方に傾動操作したときには、その傾動操作をしている間だけ操舵シリンダ17を所定の速度で伸長作動させて前輪11aを右方向に回転(前輪支持部材14をキングピン15回りに右方向に回転)させることができ、昇降操作レバー43の操作量を閾値よりも小さい傾動量まで戻すことによって操舵シリンダ17の伸長作動を停止させて前輪11aのそれ以上の右方向への回転が行われないようにすることができる。また、作業者が中立位置より閾値を超える操作量で昇降操作レバー43を後方に傾動操作したときには、その傾動操作をしている間だけ操舵シリンダ17を所定の速度で収縮作動させて前輪11aを左方向に回転(前輪支持部材14をキングピン15回りに左方向に回転)させることができ、昇降操作レバー43の操作量を閾値よりも小さい傾動量まで戻すことによって操舵シリンダ17の収縮作動を停止させて前輪11aのそれ以上の左方向への回転が行われないようにすることができる。このため作業者は、上記非常時走行制御が行われているときでも、進行停止操作レバー41の操作により走行体10の走行速度を調整しつつ、昇降操作レバー43の操作を行って前輪11aの操舵を行えば、走行体10を所望の方向へ走行させることができる。この場合も、通常走行制御から非常時走行制御に切り換えているときにおける上記操舵シリンダ17の所定の速度は、操舵操作検出器42aの故障が検出されていないときにおける操舵シリンダ17の作動速度よりも遅い速度であることが好ましい。また、通常走行制御から非常時走行制御に切り換えられている状態では、極低速でしか走行できないように走行体10の走行速度規制が行われるようになっていることが好ましい。
【0033】
なお、コントローラ50は、操舵操作検出器42aが故障したことを検知している場合に、昇降操作レバー43の操作による伸縮ポスト20の作動を自己規制し、昇降操作レバー43の操作に応じて前輪11aの操舵を行うのは、走行体10が走行中である場合のみである。すなわち、走行速度検出器61からの出力に基づいて走行体10が現在走行中ではない(走行体10が停止している)と判断したときには、通常通り、昇降操作レバー43の操作に応じて伸縮ポスト20の伸縮作動(作業台30の昇降作動)を行う。
【0034】
このように、本高所作業車の走行装置においては、操舵操作検出器42aの故障が検出され、かつ走行体10が走行中であることが検出された場合には、舵角検出器62により検出された前輪11aの舵角が操舵ダイヤル42の操作状態に応じて設定された前輪11aの目標舵角に追従するように操舵シリンダ17を作動させる制御(通常走行制御)から、昇降操作レバー43の操作状態に応じた方向に、昇降操作レバー43が操作されている間だけ、操舵シリンダ17を作動させる制御(非常時走行制御)に切り換えられるので、操舵操作検出器42aが故障した場合であっても、走行体10が操舵不能、ひいては走行不能に陥ることがない。
【0035】
これまで本発明の好ましい実施形態について説明してきたが、本発明の範囲は上述の実施形態に示したものに限定されない。例えば、上述の実施形態では、走行体の被操舵輪(前輪11a)の操舵操作を行う操舵操作手段はダイヤル(操舵ダイヤル42)であったが、これは他の手段、例えばレバー等であってもよい。また、舵角検出手段である舵角検出器62の故障及び操舵操作検出器42aの故障を検出する手段は、上述の実施形態ではコントローラ50がその機能を果たしていたが、これはコントローラ50とは別に設けられた装置(例えば舵角検出器62或いは操舵操作検出器42aを構成するポテンショメータに繋がるアナログ回路等)に替えることも可能である。また、上述の実施形態では、操舵操作検出器42aが故障した場合において、前輪11aの操舵操作を行う手段として利用されるものは、作業台30を昇降移動させる伸縮ポスト20の操作レバー(昇降操作レバー43)であったが、これは必ずしも伸縮ポスト20の操作レバーに限られるものではなく、走行体10に備えられた他の作業装置があれば、その作業装置の操作レバーを、非常時走行制御が行われる際における前輪11aの操舵操作を行う手段として利用するようにしてもよい。
【0036】
また、走行体の被操舵輪(前輪11a)に繋がるリンク機構(ステアリングリンク機構13)を駆動する操舵アクチュエータは必ずしも油圧シリンダでなくてもよく、油圧モータ或いは電動モータとラック・ピニオン機構とを組み合わせたもの等であってもよい。また、上述の実施形態では、1つの走行モータ12の動力をギヤボックス18及び左右の車軸19を介して駆動輪である左右の後輪11bに伝達させる構成、すなわち1つの走行モータ12によって左右の後輪11bを同時に駆動する構成となっていたが、走行体10に2つの走行モータを備え、これら2つの走行モータによって左右の後輪11bを別々に駆動する構成となっていてもよい。また、上述の実施形態では、本発明が適用される対象の作業車は、走行体に昇降移動自在な作業台を備えた高所作業車であったが、これは一例であり、走行体に設けたブーム等の先端部に作業台を備えた高所作業車であってもよい。また、作業車は車輪駆動式の走行体に作業装置を備えた作業車であれば、必ずしも高所作業車でなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る作業車の走行装置を備えた高所作業車における走行体の走行動作及び作業台の昇降動作に関する信号及び動力の伝達経路を示すブロック図である。
【図2】上記高所作業車を走行体の斜め後方から見た図である。
【図3】上記高所作業車における走行体に備えられた走行装置の構成を示す平面図である。
【図4】上記高所作業車における操舵シリンダの伸長量と前輪の舵角との関係を示す図であり、(A)は操舵シリンダの伸長量が零の状態、(B)は操舵シリンダの伸長量が正値の状態、(C)は操舵シリンダの伸長量が負値の状態を示している。
【図5】上記高所作業車の作業台に備えられた操作ボックスの斜視図である。
【図6】非常時走行制御においてコントローラが行う制御のフローである。
【符号の説明】
【0038】
1 高所作業車(作業車)
10 走行体
11a 前輪(被操舵輪)
13 ステアリングリンク機構(リンク機構)
17 操舵シリンダ(操舵アクチュエータ)
20 伸縮ポスト(作業装置)
23 昇降シリンダ(作業装置作動手段)
30 作業台(作業装置)
42 操舵ダイヤル(操舵操作手段)
42a 操舵操作検出器(操舵操舵検出手段)
43 昇降操作レバー(作業装置操作手段)
50 コントローラ(目標舵角設定手段、通常走行制御手段、第1の故障検出手段、第1の非常時走行制御手段、作業装置作動手段、第2の故障検出手段、第2の非常時走行制御手段)
51 進行停止制御バルブ(走行速度規制手段)
52 操舵制御バルブ(通常走行制御手段、第1の非常時走行制御手段、第2の非常時走行制御手段)
53 昇降制御バルブ(作業装置作動手段)
61 走行速度検出器(走行検出手段)
62 舵角検出器(舵角検出手段)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業装置を備えた車輪駆動式の走行体と、前記走行体の被操舵輪の操舵操作を行う操舵操作手段と、前記操舵操作手段の操作状態を検出する操舵操作検出手段と、前記操舵操作検出手段により検出された前記操舵操作手段の操作状態に応じて前記被操舵輪の目標舵角を設定する目標舵角設定手段と、前記被操舵輪の舵角を検出する舵角検出手段と、前記被操舵輪に繋がるリンク機構を駆動して前記被操舵輪の舵角を変化させる操舵アクチュエータと、前記舵角検出手段により検出された前記被操舵輪の舵角が前記目標舵角設定手段において設定された前記被操舵輪の目標舵角に追従するように前記操舵アクチュエータを作動させる制御を行う通常走行制御手段とを備えて構成された作業車の走行装置において、
前記舵角検出手段の故障を検出する第1の故障検出手段と、
前記第1の故障検出手段により、前記舵角検出手段からの出力信号が所定範囲内のものでなくて前記舵角検出手段が故障であると検出されているとき、前記通常走行制御手段による前記制御を規制し、前記操舵操作手段の操作状態に応じた方向に、前記操舵操作手段が操作されている間だけ、所定の速度で前記操舵アクチュエータを作動させる制御を行う第1の非常時走行制御手段とを備えたことを特徴とする作業車の走行装置。
【請求項2】
前記所定の速度は、前記第1の故障検出手段により前記舵角検出手段の故障が検出されていないときにおける前記操舵アクチュエータの作動速度よりも遅い速度であることを特徴とする請求項1記載の作業車の走行装置。
【請求項3】
前記第1の非常時走行制御手段は、前記第1の故障検出手段により前記操舵操作手段の故障が検出されているとき、前記走行体の走行速度規制を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の作業車の走行装置。
【請求項4】
作業装置を備えた車輪駆動式の走行体と、前記作業装置の操作を行う作業装置操作手段と、前記作業装置操作手段の操作に応じて前記作業装置を作動させる作業装置作動手段と、前記走行体の被操舵輪の操舵操作を行う操舵操作手段と、前記操舵操作手段の操作状態を検出する操舵操作検出手段と、前記操舵操作検出手段により検出された前記操舵操作手段の操作状態に応じて前記被操舵輪の目標舵角を設定する目標舵角設定手段と、前記被操舵輪の舵角を検出する舵角検出手段と、前記被操舵輪に繋がるリンク機構を駆動して前記被操舵輪の舵角を変化させる操舵アクチュエータと、前記舵角検出手段により検出された前記被操舵輪の舵角が前記目標舵角設定手段において設定された前記被操舵輪の目標舵角に追従するように前記操舵アクチュエータを作動させる制御を行う通常走行制御手段とを備えて構成された作業車の走行装置において、
前記操舵操作検出手段の故障を検出する第2の故障検出手段と、
前記走行体が走行しているか否かを検出する走行検出手段と、
前記第2の故障検出手段により前記操舵操作検出手段の故障が検出され、かつ前記走行検出手段により前記走行体が走行中であることが検出されているとき、前記作業装置作動手段が前記作業装置操作手段の操作に応じて前記作業装置の作動を行わないように規制するとともに、前記通常走行制御手段による前記制御を規制し、前記作業装置操作手段の操作状態に応じた方向に、前記作業装置操作手段が操作されている間だけ、所定の速度で前記操舵アクチュエータを作動させる制御を行う第2の非常時走行制御手段とを備えたことを特徴とする作業車の走行装置。
【請求項5】
前記所定の速度は、前記第2の故障検出手段により前記操舵操作手段の故障が検出されていないときにおける前記操舵アクチュエータの作動速度よりも遅い速度であることを特徴とする請求項4記載の作業車の走行装置。
【請求項6】
前記第2の非常時走行制御手段は、前記第2の故障検出手段により前記操舵操作手段の故障が検出され、かつ前記走行検出手段により前記走行体が走行中であることが検出されているとき、前記走行体の走行速度規制を行うことを特徴とする請求項4又は5記載の作業車の走行装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-05-31 
結審通知日 2017-06-02 
審決日 2017-06-14 
出願番号 特願2005-158739(P2005-158739)
審決分類 P 1 41・ 841- Y (B66F)
P 1 41・ 853- Y (B66F)
P 1 41・ 851- Y (B66F)
P 1 41・ 856- Y (B66F)
P 1 41・ 854- Y (B66F)
P 1 41・ 855- Y (B66F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 本庄 亮太郎  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
三島木 英宏
登録日 2011-12-22 
登録番号 特許第4890790号(P4890790)
発明の名称 作業車の走行装置  
代理人 川野 宏  
代理人 並木 敏章  
代理人 川野 宏  
代理人 大西 正悟  
代理人 並木 敏章  
代理人 大西 正悟  

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