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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10J
管理番号 1330587
審判番号 不服2016-3020  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-29 
確定日 2017-07-20 
事件の表示 特願2015-539990「超臨界流体によるガス化装置、及びガス化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月28日国際公開、WO2016/063399〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)10月23日を国際出願日とする出願であって、平成27年9月16日付けで拒絶理由が通知され、同年11月25日付けで意見書及び補正書が提出され、同年12月11日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年2月29日付けで拒絶査定不服の審判請求がされるとともに、同時に手続補正書が提出され、同年12月12日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年2月8日付けで意見書及び補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成29年2月8日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。
「高分子化合物を含むガス化原料から原料スラリーを作製し、前記ガス化原料を含む水を加熱及び加圧して超臨界状態とすることで前記ガス化原料を分解処理し、燃料ガスを得るガス化装置であって、
前記分解処理された処理後流体と前記ガス化原料とを熱交換し、前記ガス化原料を加熱する二重管式の熱交換器と、
前記熱交換器において加熱された前記ガス化原料にラジカル捕捉剤を添加する捕捉剤添加部と、
前記ラジカル捕捉剤が添加された前記原料スラリーにおける前記ガス化原料を含む水を、超臨界状態まで加熱及び加圧するガス化処理部と、を有し、
前記熱交換器は、前記ガス化処理部よりも上流側に設けられ、当該熱交換器における前記原料スラリーが通る低温側流路の途中に、前記捕捉剤添加部によって前記ラジカル捕捉剤を添加することを特徴とするガス化装置。」

3.当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、本願発明は、本願の国際出願日前に頒布された特開2014-189590号公報(以下、「引用例1」という。)に記載された発明、「山下康貴、吉田拓也、松村幸彦、バイオマスモデル物質の超臨界水部分酸化ガス化における分解促進剤の添加効果、日本エネルギー学会大会講演要旨集、日本、2011.08.09発行、20、96-97頁」(以下、「引用例2」という。) の記載、及び、「山下康貴、吉田拓也、松村幸彦、バイオマスモデル物質の超臨界水部分酸化ガス化におけるギ酸の添加効果、バイオマス科学会議発表論文集、日本、2011.01.12発行、6、144-145頁」(以下、「引用例3」という。)の記載に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

4.引用例1?3の記載について
(1)引用例1について
引用例1には、「活性炭によるバイオマスの超臨界水ガス化システムの運転方法」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
(引1ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水性バイオマスに活性炭を懸濁した懸濁液に懸濁させた前記活性炭を触媒として、前記バイオマスを超臨界水でガス化処理するガス化反応器と、
前記ガス化反応器にて生成された生成ガス及び灰分、並びに前記活性炭が水に懸濁された混合物を、生成ガスを含む気体成分と、灰分及び活性炭が水に懸濁された液体成分とに分離する気液分離器と、
前記ガス化反応器から排出される前記混合物の熱を利用して、前記ガス化反応器で超臨界水によりガス化処理される前記懸濁液を予熱する熱交換器と、
前記熱交換器から前記ガス化反応器に供給される前記懸濁液を予熱する予熱器と、
を備える超臨界水ガス化システムにおいて、
前記超臨界水ガス化システムへガス化触媒である活性炭を懸濁させたガス化原料の送液を開始して、前記懸濁液を前記超臨界水ガス化システムにおける各装置に供給する前に、活性炭を懸濁させた水をあらかじめ供給することを特徴とする超臨界水ガス化システムの運転方法。」
(引1イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のシステムにおいては、システムの運転、すなわち懸濁液の供給を開始させてからバイオマスが処理されて灰分、活性炭及び水等の液体成分が排出される所定の時間が経過しても、液体成分には活性炭がほとんど懸濁されておらず、数時間が経過してから液体成分に、システムに供給している量と同程度の活性炭が懸濁されているようになるため、システムの運転開始時(システムの運転開始から懸濁液と同程度の量の活性炭を懸濁させた排液が液体成分として排出されるようになるまでの間)は、システムに供給した活性炭、すなわち含水性バイオマスに懸濁させた活性炭を有効に利用できないため、タール等を発生させ、配管閉塞を生じさせる可能性がある。
また、システムに供給している量と同程度の活性炭が液体成分に懸濁されている場合には、その液体成分から活性炭及び灰分を取り除いたものは透明であるが、活性炭がほとんど懸濁されていない液体成分から活性炭及び灰分を取り除いたものは白濁又は黄みがかっておりまたタール臭を有し、タール等の閉塞物の生成が確認できることから、システムの運転開始時には、システムに供給した活性炭の量に比べて、超臨界水ガス化反応器に供給される活性炭の量が少なくなり、超臨界水によるガス化反応に影響を及ぼし、タール等の閉塞物が生成されるものと考えられる。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、活性炭によるバイオマスの超臨界水ガス化システムの運転開始時において、システムに供給した、含水性バイオマスに活性炭を懸濁した懸濁液における活性炭の濃度の低下を抑制して、タール等による装置の閉塞を防ぐとともに、活性炭によるバイオマスの超臨界水ガス化を効率よく行うことができる方法を提供することを目的とする。」
(引1ウ)「【0007】
本発明によれば、活性炭によるバイオマスの超臨界水ガス化システムの運転開始時において、システムに供給した、含水性バイオマスに活性炭を懸濁した懸濁液における活性炭の濃度の低下を抑制して、タール等による装置の閉塞を防ぐとともに、活性炭によるバイオマスの超臨界水ガス化を効率よく行うことができる方法を提供することができる。」
(引1エ)「【0010】
==活性炭によるバイオマスの超臨界水ガス化システムの構成==
図1は、本発明の一実施形態として説明する、活性炭によるバイオマスの超臨界水ガス化システム(以下、単に「システム」と称する。)の概略構成を示す図である。図1に示すように、システム100は、調整タンク1、破砕機2、供給ポンプ3、熱交換器30、予熱器40、ガス化反応器50、冷却器51、減圧器52、気液分離器60、ガスタンク61、加熱器62,63などを備えており、供給ポンプ3とスラリー供給装置21、スラリー供給装置21と熱交換器30、熱交換器30と予熱器40、予熱器40とガス化反応器50、ガス化反応器50と熱交換器30、熱交換器30と冷却器51、冷却器51と減圧器52、及び減圧器52と気液分離器60は、それぞれ配管によって接続されている。
【0011】
調整タンク1は、含水性バイオマス、活性炭、水などを混合するタンクである。システム100へガス化触媒である活性炭を懸濁させたガス化原料の送液を開始する前には、投入された水及び活性炭を混合して水に活性炭を懸濁し、システム100へガス化触媒である活性炭を懸濁させたガス化原料の送液を開始すると、投入された含水性バイオマス及び活性炭、並びに必要に応じて投入された水を混合して、含水性バイオマス(あるいはバイオマス溶液)に活性炭を懸濁し、ガス化原料(懸濁液)を調製する。なお、水の投入は、バイオマスの含水率に応じて行われる。上記含水性バイオマスは、例えば、焼酎残渣、採卵鶏糞、汚泥などである。また、上記活性炭としては、平均粒径200μm以下の粒子を用いることが好ましく、平均粒径200μm以下の多孔質の粒子を用いることがより好ましい。
【0012】
破砕機2は、調整タンク1で懸濁した懸濁液中のバイオマスを破砕して、あらかじめ均一な大きさ(好ましくは平均粒径が500μm以下、より好ましくは平均粒径が300μm以下)にするための装置である。
【0013】
ガス化反応器50は、破砕機2でバイオマスを破砕した懸濁液に懸濁させた活性炭を触媒として、懸濁液中のバイオマスを超臨界水でガス化する装置である。超臨界水によるバイオマスのガス化は、前記活性炭を利用して、374℃以上の温度、及び22.1MPa以上の圧力の条件下でバイオマスを水熱処理することにより行われる。このようにバイオマスを超臨界水で処理することにより、バイオマスを分解し、水素ガス、メタン、エタン、エチレン等の燃料ガスを生成することができる。
【0014】
供給ポンプ3は、ガス化反応器50に破砕機2でバイオマスを破砕した懸濁液を供給する装置である。供給ポンプ3は、バイオマスを破砕した懸濁液を供給できる装置であれば特に制限されるものではなく、例えば、高圧ポンプやモーノポンプなどを用いることができる。
【0015】
熱交換器30は、ガス化反応器50において超臨界水によりガス化処理することにより生成された生成ガス及び灰分、並びに活性炭が水に懸濁され、かつ、ガス化反応器50から排出される排出物(混合物)の熱を利用して、ガス化反応器50で超臨界水によりガス化処理されるバイオマスを破砕した懸濁液を予熱する装置である。
【0016】
予熱器40は、熱交換器30からガス化反応器50に供給されるバイオマスを破砕した懸濁液を所定の温度に予熱する装置である。
冷却器51は、ガス化反応器50から排出された排出物(生成ガス、灰分及び活性炭が水に懸濁されたもの)を冷却するための装置である。冷却器51は、例えば、クーラーなどである。
減圧器52は、ガス化反応器50から排出された排出物の圧力を減圧する装置である。
【0017】
気液分離器60は、ガス化反応器50から排出された排出物を、生成ガス(燃料ガス等)を含む気体成分と、灰分及び活性炭が水に懸濁された液体成分とに分離する装置である。
ガスタンク61は、気液分離器60によって分離された気体成分(生成ガス)を貯える容器(好ましくは耐圧容器)である。
【0018】
加熱器62は、ガスタンク61に貯えられた生成ガス(燃料ガス)の一部あるいは燃料ガス(例えば、LPGなど)を燃焼してガス化反応器50を加熱し、バイオマスを粉砕した懸濁液を所定の温度に加熱する装置である。また、加熱器63は、ガスタンク61に貯えられた生成ガス(燃料ガス)の一部あるいは燃料ガス(例えば、LPGなど)を燃焼して予熱器40を加熱し、バイオマスを粉砕した懸濁液を所定の温度に加熱する装置である。
【0019】
なお、本実施の形態においては、加熱器63によりガスタンク61の生成ガスを燃焼することによって得られた排ガスの熱を利用して、バイオマスを粉砕した懸濁液を加熱する熱交換器をガス化反応器50に設けている。
加熱器62,63は、例えば、バーナーなどの、燃料ガスを燃焼して加熱する既存の装置である。
【0020】
また、本実施の形態においては、調整タンク1で、含水性バイオマス(あるいはバイオマスの溶液)に活性炭を懸濁した懸濁液、あるいは、活性炭を懸濁させた水を、供給ポンプ3により熱交換器30に供給しているが、供給ポンプ3で供給する直前に、活性炭を、破砕機2で破砕した含水性バイオマス(あるいはバイオマスの溶液)に懸濁し、あるいは、水に懸濁し、熱交換器30に供給してもよい。
【0021】
さらに、本実施の形態においては、1つの調整タンク1にて、含水性バイオマス(バイオマスの溶液)に活性炭を懸濁した懸濁液、及び、活性炭を懸濁させた水を調製することとしているが、含水性バイオマスに活性炭を懸濁した懸濁液と、活性炭を懸濁させた水を別々に調製する調整タンクをそれぞれ設けてもよい。この場合、調整タンクによって調製された、活性炭を懸濁させた水については、破砕機2を介さず、供給ポンプ3あるいは別の供給ポンプによって、熱交換器30に供給してもよい。」
(引1オ)【図1】


(2)引用例2について
引用例2には、「バイオマスモデル物質の超臨界水部分酸化ガス化における分解促進剤の添加効果」(論文の標題)について、次の記載がある。
(引2ア)「1.緒言
近年、バイオマスをエネルギー資源として利用することが注目されている。高含水系バイオマスのエネルギー変換の技術として超臨界水ガス化があり、この技術を利用することでエネルギー変換効率が高くなる。一方で、比較的低温領域(400℃)では、チャーやタールといった副生成物の生成が顕著となり、反応器の閉塞といった問題を引き起こす。・・・(略)・・・そこで、本研究ではチャー生成(重合反応)抑制、ガス化効率向上の新たな方法として、分解促進剤を用いることを提案し、その添加効果を実験的に確認する。分解促進剤として、ギ酸、メタノールを使用し、ギ酸はフリーラジカル反応、メタノールはメタノリシス反応に注目し選定した。また、もう一つのチャー生成抑制方法として、急速昇温による方法を提案する。・・・(略)・・・バイオマスモデル物質として、構造が簡単なグルコースを使用し、酸化剤として過酸化水素水を使用した。」(1頁左欄1行?末行)
(引2イ)「2.実験
Fig.1に実験装置の概略図、反応器の構造を示す。反応器は熱分解反応器、酸化反応器で構成されている。それぞれのポンプで純水を流しながら反応器の昇温を行い、所定の温度で一定になった後、過酸化水素水、分解促進剤、グルコース水溶液の順で流通を開始した。」(1頁右欄1?6行)
(引2ウ)「3.結果と考察
・・・(略)・・・
Fig.3にギ酸、メタノールをそれぞれ添加した場合のチャー収率の実験結果を示す。ギ酸を添加した場合はチャー収率が低下し、メタノールを添加した場合は、逆に増加した。よって、ギ酸は分解促進剤として有効であり、ギ酸から生成されるラジカル(ギ酸分解によるラジカル生成を以下に示す)がチャーに作用し、チャーの分解、生成抑制に繋がったと考えられる。
HCOOH = H + COOH・ (2)
COOH・ = H・ + CO_(2) (3)
COOH・ = OH・ + CO (4)」(2頁左欄1?21行)
(引2エ)「4.結言
グルコース水溶液にギ酸、メタノールを添加し、また、昇温速度を変化させ、超臨界水部分酸化反応を行った結果、以下のことが示された。
・ ギ酸添加することでチャー収率が低下し、チャー生成抑制効果が確認できた。
・ メタノール添加にはチャー生成抑制効果は確認できなかった。
・ 急速昇温を行うことでチャー収率が低下し、チャー生成抑制効果が確認できた。」(2頁右欄1?10行)
(引2オ)

(標題:Fig.1 Experimental apparatus and reactors(当審仮訳:図1 実験装置とリアクター))

(3)引用例3について
引用例3には、「バイオマスモデル物質の超臨界水部分酸化ガス化におけるギ酸の添加効果」(論文の標題)について、次の記載がある。
(引3ア)「1.緒言
近年、地球温暖化問題、エネルギー問題の観点からバイオマスをエネルギー資源として利用することが注目されている。バイオマスの中には含水率の高いものが多く、高含水系バイオマスのエネルギー変換の技術として超臨界水ガス化がある。超臨界水ガス化を行うことで乾燥工程を省くことが出来、エネルギー変換効率が高くなる。一方で、バイオマスのガス化ではチャーやタールといった副生成物が生成し、反応器の閉塞といった問題を引き起こす。・・・(略)・・・そこで、本研究では酸化剤に変わる分解促進剤としてギ酸を採用し、チャー生成(重合反応)抑制、ガス化効率向上を検証する。ギ酸の還元作用はよく知られ、水素添加は金属触媒存在下で通常行われているが、超臨界水中であれば金属触媒を用いずに水素添加が行われることが期待される。また、バイオマスモデル物質として、構造が簡単なグルコースを使用し、酸化剤として過酸化水素水を使用した。」(1頁左欄1行?末行)
(引3イ)「2.実験
Fig.1に実験装置と反応器の構造を示す。反応器は熱分解反応器、酸化反応器で構成されている。それぞれのポンプで純水を流しながら反応器の昇温を行い、所定の温度で一定になった後、過酸化水素水、分解促進剤、グルコース・ギ酸混合溶液の順で流した。」(1頁右欄1?6行)
(引3ウ)「ギ酸の分解促進剤としての効果は、ギ酸分解により生じるラジカルが生成したチャーに作用することにより生じると期待できる。しかし、今回の実験では、反応物に当初からギ酸を混合したため、生成したラジカルがチャーの分解反応ではなく、グルコースの解裂反応などに消費されてしまったため、ギ酸添加によるチャー生成(重合反応)抑制、ガス化率向上が顕著に示されたなかったと考えられる。今後は、反応物(グルコース)とギ酸を別々の反応管に導入した後酸化反応器手前で混合することにより、ギ酸添加効果を検証する必要がある。」(2頁右欄1?11行)
(引3エ)

(標題:Fig.1 Experimental apparatus and reactors(当審仮訳:図1 実験装置とリアクター))

3.引用発明の認定
(1)(引1ア)の【請求項1】から、引用例1には、
「含水性バイオマスに活性炭を懸濁した懸濁液に懸濁させた前記活性炭を触媒として、前記バイオマスを超臨界水でガス化処理するガス化反応器と、
前記ガス化反応器にて生成された生成ガス及び灰分、並びに前記活性炭が水に懸濁された混合物を、生成ガスを含む気体成分と、灰分及び活性炭が水に懸濁された液体成分とに分離する気液分離器と、
前記ガス化反応器から排出される前記混合物の熱を利用して、前記ガス化反応器で超臨界水によりガス化処理される前記懸濁液を予熱する熱交換器と、
前記熱交換器から前記ガス化反応器に供給される前記懸濁液を予熱する予熱器と、
を備える超臨界水ガス化システム」が記載されているということができる。
(2)具体的には、「懸濁液」は、(引1エ)の【0011】から、ガス化原料であり、調整タンク1によって、含水性バイオマス、活性炭及び水を混合して、含水性バイオマスに活性炭を懸濁させて調製されるものであり、ガス化反応器50に供給される懸濁液は、同【0012】から、破砕機2によって、懸濁液中のバイオマスは破砕されて、バイオマスは均一な大きさにされ、同【0014】から、その懸濁液は、供給ポンプ3によって供給されるものであって、同【0015】及び【0016】から、破砕機2によってバイオマスが均一な大きさにされた懸濁液は、熱交換器30及び予熱器40を介して、ガス化反応器50に供給されるということができる。
(3)同【0015】から、熱交換30は、ガス化反応器50から排出される排出物(混合物)の熱を利用して、バイオマスを破砕した懸濁液を予熱する装置であり、同【0016】から、予熱器40は、熱交換器30からガス化反応器50に供給されるバイオマスを破砕した懸濁液を所定の温度に予熱する装置であるということができる。
(4)同【0013】から、ガス化反応器50は、供給された懸濁液に対して、懸濁液に懸濁された活性炭を触媒として、懸濁液中のバイオマスを超臨界水でガス化するものであり、同【0017】から、ガス化反応器50から排出された排出物は、気液分離器60によって、燃料ガスを含む生成ガス、灰分、及び前記活性炭が水に懸濁された混合物に分離されるということができる。」
(5)以上のことから、引用例1には、
「調整タンク1によって、含水性バイオマス、活性炭、水を混合した、ガス化原料である懸濁液を調製し、
破砕機2によって、懸濁液中のバイオマスを破砕して、均一な大きさにし、
供給ポンプ3によって、破砕機2でバイオマスが均一な大きさにされた懸濁液を、熱交換器30及び予熱器40を介して、ガス化反応器50に供給し、
ガス化反応器50によって、活性炭を触媒として、破砕機2でバイオマスを破砕した懸濁液中のバイオマスを超臨界水でガス化し、
ガス化反応器50から排出される排出物(混合物)である、燃料ガスを含む生成ガス及び灰分、並びに前記活性炭が水に懸濁された混合物を、生成ガスを含む気体成分と、灰分及び活性炭が水に懸濁された液体成分とに分離する気液分離器60とを備えた超臨界ガス化システムにおいて、
熱交換器30は、ガス化反応器50から排出される排出物(混合物)の熱を利用して、バイオマスを破砕した懸濁液を予熱する装置であり、
予熱器40は、熱交換器30からガス化反応器50に供給されるバイオマスを破砕した懸濁液を所定の温度に予熱する装置である、
超臨界水ガス化システム100。」(以下、「引用発明」という。)(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4.対比・判断
(1)対比
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
イ 引用発明の「含水性バイオマス」は、本願発明の「高分子化合物」に相当し、引用発明の「含水性バイオマス、活性炭、水を混合した、ガス化原料である懸濁液」は、本願発明の「高分子化合物を含むガス化原料から」「作製」された「原料スラリー」に相当し、引用発明の「ガス化原料である懸濁液を調製する」ことにおける「調製」は、本願発明の「高分子化合物を含むガス化原料から原料スラリーを作製」することにおける「作製」に相当する。
ウ 引用発明の「活性炭を触媒として、破砕機2でバイオマスを破砕した懸濁液中のバイオマスを超臨界水でガス化」することは、「ガス」には「燃料ガス」が含まれるから、本願発明の「ガス化原料を含む水を加熱及び加圧して超臨界状態とすることで前記ガス化原料を分解処理し、燃料ガスを得る」ことに相当する。
エ 引用発明の「ガス化反応器50から排出される排出物(混合物)」は、本願発明の「分解処理された処理後流体」に相当し、引用発明の「ガス化反応器50から排出される排出物(混合物)の熱を利用して、バイオマスを破砕した懸濁液を予熱する装置」である「熱交換器30」は、本願発明の「分解処理された処理後流体とガス化原料とを熱交換し、ガス化原料を加熱する熱交換器」に相当する。
オ 引用発明の「ガス化反応器50」と本願発明の「ガス化処理部」とは、「原料スラリーにおけるガス化原料を含む水を、超臨界状態まで加熱及び加圧する」点で共通する。
カ 引用発明では、「熱交換器30」は「ガス反応器50」の上流に設けられているから、本願発明の「熱交換器は、ガス化処理部よりも上流側に設けられ」た点で共通する。
キ 引用発明は、「予熱器40」を備え、該「予熱器40」は、「熱交換器30からガス化反応器50に供給されるバイオマスを破砕した懸濁液を所定の温度に予熱する装置」であるところ、本願発明は、ガス化処理部に供給される原料スラリーを予熱する装置を備えることを排除するものではなく、しかも、本願の明細書の[0033]に「予熱器42は、ラジカル捕捉剤が添加された原料スラリーを予熱する装置である。本実施形態では約450℃で導入された原料スラリーを約600℃まで加熱している。」と記載されているように、本願発明は、ガス化処理部と熱交換器との間に予熱器を備えるものも含むことから、引用発明が「予熱器40」を備えることは、本願発明との相違点にはならない。

ク そうすると、本願発明と、引用発明とは、
「高分子化合物を含むガス化原料から原料スラリーを作製し、前記ガス化原料を含む水を加熱及び加圧して超臨界状態とすることで前記ガス化原料を分解処理し、燃料ガスを得るガス化装置であって、
前記分解処理された処理後流体と前記ガス化原料とを熱交換し、前記ガス化原料を加熱する熱交換器と、
前記原料スラリーにおける前記ガス化原料を含む水を、超臨界状態まで加熱及び加圧するガス化処理部と、を有し、
前記熱交換器は、前記ガス化処理部よりも上流側に設けられたガス化装置。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点1)
熱交換器の構造が、本願発明は二重管式であって、原料スラリーが低温側流路を通るのに対し、引用発明の熱交換器30の構造は不明な点。
(相違点2)
本願発明は、「ガス化処理部」の「原料スラリー」に「ラジカル捕捉剤」が含まれ、「熱交換器において加熱されたガス化原料にラジカル捕捉剤を添加する捕捉剤添加部」を備え、ラジカル捕捉剤の添加が、「熱交換器における」「流路の途中」で行われているのに対し、引用発明は、「熱交換器において加熱されたガス化原料にラジカル捕捉剤を添加する捕捉剤添加部」を備えておらず、「含水性バイオマス、活性炭、水を混合した、ガス化原料である懸濁液」に「ラジカル捕捉剤」は含まれない点。

(2)判断
ここで、相違点について検討する。
(相違点1について)
引用発明のような超臨界ガス化システムにおいて、ガス化反応器から排出される排出物の熱を利用して、バイオマスを破砕した懸濁液(スラリー体)を予熱する熱交換器として、二重管式のものを用いることは本願出願前の周知技術である(必要であれば、当審拒絶理由の4.(3)で引用された特開2014-189589号公報の【0002】の「超臨界水でガス化される含水性バイオマス又はバイオマスのスラリー体を加熱する二重管式熱交換器を備えた超臨界水によるバイオマスガス化システムが開発されている」という記載、及び同【0006】の「・・・前記ガス化反応器から排出される混合物の熱を利用して、前記ガス化反応器で超臨界水によりガス化処理される前記含水性バイオマス又は前記バイオマスのスラリー体に前記非金属系触媒を懸濁させた懸濁液を予熱する二重管式熱交換器と、を備える超臨界水によるバイオマスガス化システム・・・」という記載を参照されたい。)
そして、引用発明において、熱交換器30は、バイオマスを破砕した懸濁液(スラリー体)を予熱することができれば、どのような構造のものを用いてもよいことは明らかであり、しかも、上述したように、そのような熱交換器として、二重管式のものは本願出願前の周知技術であって、本願発明において、二重管式の熱交換器を用いたことにより、二重管式ではない熱交換器を用いた場合と比較して、格別顕著な作用効果を奏するものとは認めることができないことから、引用発明の熱交換器30として、二重管式のものを用いて、予熱されるバイオマスを破砕した懸濁液を低温側流路に通すことは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点2について)
引用例2は、「バイオマスモデル物質の超臨界水部分酸化ガス化における分解促進剤の添加効果」という標題の論文であり、(引2ア)には、「本研究ではチャー生成(重合反応)抑制、ガス化効率向上の新たな方法として、分解促進剤を用いることを提案し、その添加効果を実験的に確認する。分解促進剤として、ギ酸、メタノールを使用し、ギ酸はフリーラジカル反応、メタノールはメタノリシス反応に注目し選定した。」と記載されていることから、引用例2における実験は、バイオマスの超臨界水ガス化において、バイオマス等のガス化原料(以下、単に「ガス化原料」という。)にギ酸を添加することで、反応器内におけるチャーの生成が抑制されるかどうかについて検証するものであり、(引2エ)に、「ギ酸添加することでチャー収率が低下し、チャー生成抑制効果が確認できた。」と記載されるように、ガス化原料にギ酸を添加することで、反応器内におけるチャーの生成が抑制されたことが確認されたことがわかる。

また、引用例3は、「バイオマスモデル物質の超臨界水部分酸化ガス化におけるギ酸の添加効果」という標題の論文であり、(引3ア)には、「本研究では酸化剤に変わる分解促進剤としてギ酸を採用し、チャー生成(重合反応)抑制、ガス化効率向上を検証する。」と記載されていることから、引用例3における実験も、引用例2の実験と同様に、バイオマスの超臨界水ガス化において、ガス化原料にギ酸を添加することで、反応器内におけるチャーの生成が抑制されるかどうかについて検証するものといえる。

そして、引用例2の上記「チャー生成(重合反応)抑制」という記載からみて、チャーの生成は、ガス化原料の重合反応によるものであって、しかも、(引2ウ)の「3.結果と考察」に、「ギ酸(ラジカル発生剤)」について、「ギ酸から生成されるラジカル(ギ酸分解によるラジカル生成を以下に示す)がチャーに作用し、チャーの分解、生成抑制に繋がったと考えられる。」と記載されていることから、引用例2の反応器内においては、ガス化原料が重合反応してチャーが生成される際に、ギ酸からラジカルが生成され、それが、チャーとなる物質と反応することで、チャーの生成が抑制されたものと解することができ、また、引用例3の「ギ酸」についても、同様であるとみるのが妥当である。

さらに、一般に、セルロースなどを超臨界状態又は亜臨界状態の水を溶媒として加水分解及び/又は熱分解する際に、水分子から水素ラジカルが発生することは、本願出願前の周知技術(例えば、特開2000-103901号公報の【0010】ないし【0016】、特開平5-31000号公報の【0008】ないし【0015】参照)であり、上記周知技術と引用例2、3の「バイオマスモデル物質(ガス化原料)を超臨界水部分酸化ガス化する際に、ギ酸(ラジカル発生剤)を用いてチャーの生成を抑制する」こととは、バイオマスモデル物質を超臨界水を用いて分解するという点で軌を一にするものであることからして、引用例2、3においても、上記周知技術と同じく、水分子から水素ラジカルが発生しているというべきであるので、引用例2、3の「バイオマスモデル物質(ガス化原料)を超臨界水部分酸化ガス化する際に、ギ酸(ラジカル発生剤)を用いてチャーの生成を抑制する」ことにおいて発生する「ギ酸ラジカル」の少なくとも一部は、水素ラジカルが「ギ酸(ラジカル発生剤)」に衝突すること(ラジカル連鎖反応)により発生したものである。つまり、「ギ酸(ラジカル発生剤)」は、水素ラジカルを捕捉し得る「ラジカル捕捉剤」であるというべきものである。

ここで、引用例1の「しかしながら、上述のシステムにおいては、システムの運転、すなわち懸濁液の供給を開始させてからバイオマスが処理されて灰分、活性炭及び水等の液体成分が排出される所定の時間が経過しても、液体成分には活性炭がほとんど懸濁されておらず、数時間が経過してから液体成分に、システムに供給している量と同程度の活性炭が懸濁されているようになるため、システムの運転開始時(システムの運転開始から懸濁液と同程度の量の活性炭を懸濁させた排液が液体成分として排出されるようになるまでの間)は、システムに供給した活性炭、すなわち含水性バイオマスに懸濁させた活性炭を有効に利用できないため、タール等を発生させ、配管閉塞を生じさせる可能性がある。」((引1イ)の【0004】)との記載によれば、引用発明の「ガス化反応器50内」においてタール等が生成されることは明らかである。

また、引用例1の(引1ウ)の【0007】によれば、引用発明は、タール等による装置の閉塞を防ぐことを目的とするものであるものの、タールが完全に除かれるわけではないことから、タールをさらに減少させる必要があることも明らかである。

そして、引用例3の(引3ウ)の「今回の実験では、反応物に当初からギ酸を混合したため、生成したラジカルがチャーの分解反応ではなく、グルコースの解裂反応などに消費されてしまったため、ギ酸添加によるチャー生成(重合反応)抑制、ガス化率向上が顕著に示されたなかったと考えられる。今後は、反応物(グルコース)とギ酸を別々の反応管に導入した後酸化反応器手前で混合することにより、ギ酸添加効果を検証する必要がある。」という記載からみて、当業者は、ガス化原料にギ酸を添加することで、反応器内におけるチャーの生成を抑制するためには、ガス化原料に対するギ酸の添加は、ガス化原料に当初からギ酸を混合させるのではなく、ガス化反応器の手前で行う必要があると、認識するというべきである。

そうすると、タール等による装置の閉塞を防ぐことを目的とする(反応器内でタール等が生成する)引用発明において、反応器内におけるチャー(タール)の生成をさらに抑制するために、引用例2、3の記載及び周知技術に基づき、ギ酸(ラジカル捕捉剤)を、当初から混合させるのではなく、ガス化処理部の手前で、ガス化原料に添加すること、すなわち、「熱交換器において加熱されたガス化原料にラジカル捕捉剤を添加する捕捉剤添加部」を備えることは、当業者が容易に想到し得ることであり、その際に、具体的に、どこに、「捕捉剤添加部」を設けるかは、ギ酸(ラジカル捕捉剤)がガス化原料に当初から混合しない場所であればよいことから、供給ポンプ3からガス化反応器50の間において、当業者が適宜、決定するものということができる。

そして、本願発明において、「ラジカル捕捉剤」の添加が、「熱交換器における」「流路の途中」で行われたことにより、そうでないものと比較して、格別顕著な作用効果を奏するようになったとは認めることができないことから、引用発明において、ギ酸(ラジカル捕捉剤)のガス化原料に対する添加を熱交換器30の途中で行い、上記相違点2に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(まとめ)
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2、3の記載並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、本願発明は、「前記熱交換器において加熱された前記ガス化原料にラジカル捕捉剤を添加する捕捉剤添加部」を発明特定事項とするところ、該発明特定事項からは、捕捉剤添加部は、熱交換器の途中ではなく、熱交換器の下流に設けられているとも解することができる。
しかしながら、上述したように、引用発明において、どこに、「捕捉剤添加部」を設けるかは、供給ポンプ3からガス化反応器50の間において、当業者が適宜、決定するものということができるから、捕捉剤添加部を、熱交換器の下流に設けた態様についても、当業者が容易に想到し得るものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2、3の記載並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-22 
結審通知日 2017-05-23 
審決日 2017-06-05 
出願番号 特願2015-539990(P2015-539990)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C10J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 川端 修
原 賢一
発明の名称 超臨界流体によるガス化装置、及びガス化方法  
代理人 一色国際特許業務法人  
代理人 一色国際特許業務法人  
代理人 一色国際特許業務法人  
代理人 一色国際特許業務法人  

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