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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1330710
審判番号 不服2016-15432  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-14 
確定日 2017-07-27 
事件の表示 特願2012-106999「不純物拡散層形成組成物,不純物拡散層の製造方法,太陽電池素子の製造方法,及び太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月21日出願公開,特開2013-235942〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年5月8日の出願であって,平成28年1月19日付けで拒絶理由が通知され,同年3月28日に意見書と補正書が提出され,同年7月14日付けで拒絶査定がなされ,同年10月14日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年10月14日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理 由]
1 補正の内容
平成28年10月14日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1-18を補正して,補正後の請求項1-16とするものであって,補正前後の請求項1は次のとおりである。

<補正前>
「【請求項1】
ドナー元素を含む粒子又はアクセプタ元素を含む粒子と,
イソボルニルシクロヘキサノール,イソボルニルフェノール,1-イソプロピル-4-メチル-ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物,及びp-メンテニルフェノールからなる群より選ばれる1種以上の特定有機化合物と,
アルコキシシランと,
を含有する不純物拡散層形成組成物。」

<補正後>
「【請求項1】
ドナー元素を含む粒子又はアクセプタ元素を含む粒子と,
イソボルニルシクロヘキサノール,イソボルニルフェノール,1-イソプロピル-4-メチル-ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物,及びp-メンテニルフェノールからなる群より選ばれる1種以上の特定有機化合物と,
アルコキシシランと,
を含有し,
前記ドナー元素を含む粒子又はアクセプタ元素を含む粒子がガラス粒子である不純物拡散層形成組成物。」

2 補正事項の整理
本件補正の請求項1についての補正事項を整理すると次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1の「含有する不純物拡散層形成組成物」を補正して,補正後の請求項1の「含有し,前記ドナー元素を含む粒子又はアクセプタ元素を含む粒子がガラス粒子である不純物拡散層形成組成物」とすること。

3 新規事項追加の有無,発明の特別な技術的特徴の変更の有無,及び,補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項1は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって,補正事項1は,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。

(2)さらに,補正事項1による補正は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。また,本願の願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」という。)に記載されているものと認められるから,補正事項1は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって,補正事項1は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(3)そして,補正事項1は,発明の特別な技術的特徴を変更するものではないと認められるから,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものといえる。

(4)以上検討したとおりであるから,本件補正の補正事項1を含む請求項1についての補正は,特許法第17条の2第3項,第4項,及び,第5項に規定する要件を満たす。

4 独立特許要件についての検討
本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項1を含むから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定によって,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであることを要する。
そこで,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて,請求項1に係る発明について,更に検討を行う。

(1)補正後の発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)は,本件補正により補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
以下,再掲する。

「【請求項1】
ドナー元素を含む粒子又はアクセプタ元素を含む粒子と,
イソボルニルシクロヘキサノール,イソボルニルフェノール,1-イソプロピル-4-メチル-ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物,及びp-メンテニルフェノールからなる群より選ばれる1種以上の特定有機化合物と,
アルコキシシランと,
を含有し,
前記ドナー元素を含む粒子又はアクセプタ元素を含む粒子がガラス粒子である不純物拡散層形成組成物。」

(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明
拒絶査定の理由で引用した,本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用例1ないし9には,図面とともに以下の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

ア 引用例1:特開2011-71489号公報(査定時の引用文献3)
(1a)「【請求項1】
半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって,
不純物拡散成分(A)と,
前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)と,
SiO_(2)微粒子(C)と,
沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と,
を含有することを特徴とする拡散剤組成物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂(B)は,その熱分解温度が,前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度よりも200℃低い温度未満であることを特徴とする請求項1に記載の拡散剤組成物。
【請求項3】
前記バインダー樹脂(B)は,その熱分解温度が400℃未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の拡散剤組成物。」

(1b)「技術分野】
【0001】
本発明は,拡散剤組成物,不純物拡散層の形成方法,および太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,太陽電池の製造において,半導体基板中にP型やN型の不純物拡散層を形成する場合には,不純物拡散成分を含む拡散剤を用いて半導体基板表面に塗膜形成し,この拡散剤の塗膜から不純物拡散成分を半導体基板中に拡散させて,不純物拡散層を形成していた。」

(1c)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように,現在,太陽電池の製造においてスクリーン印刷法やロールコート印刷法を採用しようとする試みはなされているが,これらの方法では実用に耐えるレベルの塗膜形成が困難であった。その原因の一つとして,これらの方法に好適に採用可能な拡散剤が知られていなかったことが挙げられる。すなわち,上述したスクリーン印刷法やロールコート印刷法ではメッシュ状やロール状の印刷版に拡散剤を塗布するため,拡散剤は所定の粘性を有している必要があった。拡散剤に粘性を付与するために,従来の拡散剤はその固形分濃度がある程度高く設定されていたが,これにより拡散剤は乾燥しやすかった。印刷版に塗布された拡散剤が乾燥すると,半導体基板に印刷カスレが生じ,良好な塗膜を形成することができない。
【0008】
そのため,スクリーン印刷法やロールコート印刷法に用いられる拡散剤には,所定の粘性を有しつつも乾燥しにくいことが求められていた。また一方で,拡散剤には,半導体基板表面に塗布された際に正確な塗膜形状(パターン)を形成できること,すなわち塗膜形成性や,半導体基板の所定の領域に均一に拡散して拡散領域の抵抗値を所望の値まで低減できること,すなわち拡散性を向上させたいという要求は常に存在している。
【0009】
本発明は,発明者によるこうした認識に基づいてなされたものであり,その目的は,優れた塗膜形成性や拡散性を有するとともに,スクリーン印刷法やロールコート印刷法に好適に採用可能な拡散剤組成物,当該拡散剤組成物を用いた不純物拡散層の形成方法,および太陽電池を提供することにある。」

(1d)「【0020】
《不純物拡散成分(A)》
不純物拡散成分(A)は,一般にドーパントとして太陽電池の製造に用いられる化合物である。不純物拡散成分(A)は,V族(15族)元素の化合物を含むN型の不純物拡散成分,またはIII族(13族)元素の化合物を含むP型の不純物拡散成分であり,太陽電池における電極を形成する工程において,半導体基板内にN型またはP型の不純物拡散層(不純物拡散領域)を形成することができる。V族元素の化合物を含むN型の不純物拡散成分は,太陽電池における電極を形成する工程において,P型の半導体基板内にN型の不純物拡散層を形成することができ,N型の半導体基板内にN^(+)型(高濃度N型)の不純物拡散層を形成することができる。不純物拡散成分(A)に含まれるV族元素の化合物としては,例えば,P_(2)O_(5),Bi_(2)O_(3),Sb(OCH_(2)CH_(3))_(3),SbCl_(3),As(OC_(4)H_(9))_(3)などが挙げられ,不純物拡散成分(A)にはこれらの化合物が1種類以上含まれる。また,III族元素の化合物を含むP型の不純物拡散成分は,太陽電池における電極を形成する工程において,N型の半導体基板内にP型の不純物拡散層を形成することができ,P型の半導体基板内にP^(+)型(高濃度P型)の不純物拡散層を形成することができる。不純物拡散成分(A)に含まれるIII族元素の化合物としては,例えば,B_(2)O_(3),Al_(2)O_(3)などが挙げられ,不純物拡散成分(A)にはこれらの化合物が1種類以上含まれる。」

(1e)「【0022】
《バインダー樹脂(B)》
バインダー樹脂(B)は,不純物拡散成分(A)が良好に分散する特性を有する。そのため,バインダー樹脂(B)は,不純物拡散成分(A)を拡散剤組成物中に均一に分散させ,これにより不純物拡散成分(A)を半導体基板表面に均一に分散させる役割を果たす。バインダー樹脂(B)は,不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失する樹脂である。そのため,不純物拡散成分(A)の熱拡散時に,半導体基板表面にカーボンが残らず,これにより不純物拡散成分(A)の熱拡散とともにカーボンが半導体基板内に拡散して所望の抵抗値が得られなくなったり,抵抗値のばらつきが生じるといった事態を回避することができる。
【0023】
すなわち,このようなバインダー樹脂(B)によれば,拡散剤組成物の拡散性を向上させることができ,半導体基板の拡散剤組成物が拡散した領域における抵抗値を所望の値に精度よく調整することができる。ここで,前記『熱拡散を開始する温度』とは,半導体基板表面から半導体基板内への不純物拡散成分の進入が始まったときの温度であり,例えば,不純物拡散成分が半導体基板と拡散剤組成物との界面から約10nm,好ましくは約1nm進入したときの温度である。また,前記「熱分解して消失する」とは,例えば,バインダー樹脂がバインダー樹脂全質量の約95%,好ましくは約99%,さらに好ましくは100%消失することをいう。
【0024】
バインダー樹脂(B)としては,その熱分解温度が,不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度よりも200℃低い温度未満である樹脂,あるいは,熱分解温度が400℃未満である樹脂が好ましい。また,バインダー樹脂(B)としては,加熱温度500℃で80質量%以上が熱分解する樹脂が好ましい。これらによれば,不純物拡散成分(A)の熱拡散時にカーボン残渣がある状態をより確実に回避することができる。ここで,前記『熱分解温度』は,バインダー樹脂の質量減少が始まったときの温度であり,例えば,バインダー樹脂の質量がバインダー樹脂全質量の約5%,好ましくは約1%減少したときの温度である。」

(1f)「【0026】
好ましくは,バインダー樹脂(B)はアクリル系樹脂を含む。また,バインダー樹脂(B)に含まれるアクリル系樹脂は,ブチラール基を有するものであることが好ましい。バインダー樹脂(B)の具体例としては,メチルメタクリレート(MMA),メタクリル酸(MAA),イソブチルメタクリレート(i-BMA),ターシャリーブチルメタクリレート(t-BMA),アクリル酸,エチルアクリレート,メチルアクリレート,ブチルアクリレート,ヒドロキシエチルアクリレート,ヒドロキシプロピルアクリレート,イソブチルアクリレート,エチルメタクリレート,ブチルメタクリレート,ヒドロキシプロピルメタクリレートなどの重合性モノマーで構成されるアクリル樹脂などが挙げられる。」

(1g)「【0033】
《不純物拡散層の形成方法,および太陽電池の製造方法》
図1および図2を参照して,半導体基板にロールコート印刷法またはスクリーン印刷法を用いて不純物拡散層を形成する方法と,これにより不純物拡散層が形成された半導体基板を備えた太陽電池の製造方法について説明する。図1(A)?図1(D),および図2(A)?図2(D)は,実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。なお,ここではP型の半導体基板にN型の不純物拡散層を形成する方法を例として説明するが,特にこれに限定されず,例えばN型の半導体基板にP型の不純物拡散層を形成することもできる。
【0034】
本実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法は,半導体基板に不純物拡散成分(A)を含有する上述の拡散剤組成物を印刷して塗膜を形成する工程と,拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる工程と,を含む。
【0035】
まず,図1(A)に示すように,シリコン基板などのP型の半導体基板1を用意する。そして,図1(B)に示すように,周知のウェットエッチング法を用いて,半導体基板1の一方の主表面に,微細な凹凸構造を有するテクスチャ部1aを形成する。このテクスチャ部1aによって,半導体基板1表面の光の反射が防止される。続いて,図1(C)に示すように,半導体基板1のテクスチャ部1a側の主表面に,N型の不純物拡散成分(A)を含有する上述の拡散剤組成物2を塗布する。
【0036】
拡散剤組成物2は,ロールコート印刷法またはスクリーン印刷法により半導体基板1の表面に塗布される。すなわち,ロールコート印刷法の場合には,周知のロールコーターに設けられた印刷ローラに拡散剤組成物2を充填し,印刷ローラと,印刷ローラに対向配置されたローラとの間に半導体基板1を通過させることで,半導体基板1上に拡散剤組成物2を印刷する。また,スクリーン印刷法の場合には,周知のスクリーン印刷機に設けられたスクリーンに拡散剤組成物2を塗布し,拡散剤組成物2をスキージで半導体基板1の表面に押し出すことで,半導体基板1上に拡散剤組成物2を印刷する。このようにして塗膜を形成した後は,塗布した拡散剤組成物2をオーブンなどの周知の手段を用いて乾燥させる。
【0037】
次に,図1(D)に示すように,拡散剤組成物2が塗布された半導体基板1を電気炉内に載置して焼成する。焼成の後,電気炉内で拡散剤組成物2中のN型の不純物拡散成分(A)を半導体基板1の表面から半導体基板1内に拡散させる。なお,電気炉に代えて,慣用のレーザーの照射により半導体基板1を加熱してもよい。このようにして,N型の不純物拡散成分(A)が半導体基板1内に拡散してN型不純物拡散層3が形成される。
【0038】
次に,図2(A)に示すように,周知のエッチング法により,拡散剤組成物2を除去する。」

(1h)「【0046】
上述の実施の形態では,ロールコート印刷法またはスクリーン印刷法により半導体基板に拡散剤組成物を印刷したが,スピンオン法,スプレー印刷法,インクジェット印刷法,凸版印刷法,凹版印刷法などの他の印刷法を採用してもよい。」

イ 引用発明
引用例1の上記摘記(1a)-(1h)の記載から,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明)という。)が記載されていると認められる。

「半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって,
不純物拡散成分(A)であって,不純物拡散成分(A)は,V族(15族)元素の化合物を含むN型の不純物拡散成分,またはIII族(13族)元素の化合物を含むP型の不純物拡散成分であり,太陽電池における電極を形成する工程において,半導体基板内にN型またはP型の不純物拡散層(不純物拡散領域)を形成することができるものであり,不純物拡散成分(A)に含まれるV族元素の化合物としては,例えば,P_(2)O_(5),Bi_(2)O_(3),Sb(OCH_(2)CH_(3))_(3),SbCl_(3),As(OC_(4)H_(9))_(3)などが挙げられ,不純物拡散成分(A)に含まれるIII族元素の化合物としては,例えば,B_(2)O_(3),Al_(2)O_(3)などが挙げられ,不純物拡散成分(A)にはこれらの化合物が1種類以上含まれる不純物拡散成分(A)と,
前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)であって,バインダー樹脂(B)は,不純物拡散成分(A)を拡散剤組成物中に均一に分散させ,これにより不純物拡散成分(A)を半導体基板表面に均一に分散させる役割を果たすものであり,好ましくは,バインダー樹脂(B)はアクリル系樹脂を含むものであり,前記「熱分解して消失する」とは,バインダー樹脂全質量の好ましくは100%消失することをいうものであるバインダー樹脂(B)と,
SiO_(2)微粒子(C)と,
沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と,
を含有する拡散剤組成物。」

ウ 引用例2:特開2007-217603号公報(査定時の引用文献4)
(2a)「【0005】
また,バインダー樹脂としてセルロース系樹脂を含有する導電性または誘電性塗料のガラス基板に対する難接着性の改善を目的として,セルロース系樹脂の代わりにアクリル樹脂の使用も試みられている(例えば特許文献3)。しかしながらその場合,導電性粒子の分散安定性が不十分なために,導電性または誘電性粒子の凝集および/または沈降を生じ,さらに膜形成材料層にクレーターおよび/またはピンホールなどの膜欠陥が生じ,新たな問題となっている。
この問題を解決すべく,アクリル系共重合体樹脂に脂肪酸を加えるか,または(メタ)アクリル酸系共重合体樹脂を用いる試みもなされている(例えば特許文献4および5)が,この場合,重合反応における重合体樹脂の分子量の制御が困難である。また,エチルセルロースを用いた場合,600℃付近までの焼成工程において,微量の残渣が残存し,電気特性を低下させるという問題がある。」

(2b)「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の消失性バインダー組成物はC_(10)?C_(16)架橋環式二環性炭化水素化合物またはその誘導体を含有する。
本発明における,架橋環式炭化水素化合物またはその誘導体としては,二環式テルペン化合物またはその誘導体あるいはビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン誘導体化合物を挙げられる。
二環式テルペン化合物としては,例えばα-ピネン,β-ピネン,カンフェン,Δ-2-カレン,Δ-3-カレン,リモネン,テルピネン,ターピノーレン,ロンギフォーレンおよびカリオフィレンなどのモノテルペン化合物が挙げられる。
【0013】
二環式テルペン化合物の誘導体としては,例えば上記のモノテルペン化合物とフェノールか,または水酸基,アルキル基もしくはアルコキシ基で置換されていてもよいフェノールとの反応物あるいはそれらの還元物などが挙げられる。
なかでも,カンフェンまたはα-ピネンとフェノールとの反応物,すなわち,イソボルニルフェノールまたはp-メンテニルフェノールおよびこれらの還元物,すなわち,イソボルニルシクロヘキサノールまたはp-メンテニルシクロヘキサノールが好ましい。
また,ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン誘導体化合物,より具体的には,1-イソプロピル-4-メチル-ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物またはそのエステル化合物も好ましい。」

(2c)「【0056】
その上,本発明による消失性バインダー組成物を用いれば,デラミネーション,クレーター,ピンホールおよび焼成残渣がない導電体層,誘電体層または蛍光体層を形成することができ,PDPまたは積層セラミックコンデンサーなどの製造に好適に用いることができる。」

エ 引用例3:特開2009-263448号公報(査定時の引用文献5)
(3a)「【0004】
前記の無機物層形成プロセスは,バインダポリマを熱分解するため,大量の不定形炭素が発生する。それらの不定形炭素が加熱装置内部に付着することで加熱の効率悪化,雰囲気の汚染を引き起こしやすい。また,発生する不定形炭素の処理は,一般に熱処理を行い完全燃焼させることが必要であるが,そのために環境負荷の増大,コストの増大といった問題が発生する。そこで,高粘度であり,かつ,バインダポリマの熱分解温度よりも低温で蒸発する有機化合物でバインダポリマを代替し,バインダポリマの熱分解工程を省略できる無機微粒子含有組成物を本発明者らは提案した。特に,イソボルニルシクロヘキサノールは,300℃における加熱残分が0?1重量%であり,通常のバインダポリマとして用いられるセルロース類が,前記イソボルニルシクロヘキサノールと同様の加熱残分を達成するには,それよりも高い300?500℃程度まで加熱することが必要であり,低温で加熱残分を抑制できる有用な化合物である。」

オ 引用例4:特開2011-60752号公報(査定時の引用文献6)
(4a)「(4)高粘性溶媒
高粘性溶媒は,導電性ペースト組成物における導電性粉末の分散安定性を良くするために使用する。
【0054】
本発明では,高粘性溶媒として,200℃以下で蒸発し得る溶媒を使用するのが好ましい。そのような高粘性溶媒としては,ターピオネール,ジヒドロターピネオール,イソボルニルシクロヘキサノール(商品名:テルソルブMTPH)がある。イソボルニルシクロヘキサノールは,テルペンとシクロヘキサノールを結合させ,高沸点,高粘度で溶剤と樹脂の特性を併せ持った安定なテルペン誘導体である。この高粘性溶媒は,沸点が260℃であり,加熱乾燥のみで導電性無機膜を形成することができる。」

カ 引用例5:国際公開2011/074467号(査定時の引用文献9)
(5a)「請求の範囲
[請求項1]半導体基板の表面にp型および/またはn型領域がパターン形成された半導体デバイスの製造方法であって,前記半導体基板の表面に,エッチングペースト,マスクキングペースト,ドーピングペースト,電極ペーストのうち少なくとも1つのペーストをノズルの吐出口から吐出させ,前記半導体基板と前記吐出口との間に前記ペーストからなるビードを形成するとともに,前記半導体基板を前記ノズルに対して相対移動させることで,前記半導体基板の表面に前記ペーストをストライプ状に塗布する工程を含むことを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
[請求項2]前記半導体デバイスが,前記半導体基板の受光面の反対側の面にpn接合が形成された裏面接合型太陽電池である,請求項1記載の半導体デバイスの製造方法。
・・・
[請求項5]n型またはp型のどちらか一方のドーピングペーストを前記半導体基板にストライプ状に塗布した後に該半導体基板を加熱して固相拡散源をパターン形成し,該固相拡散源を隔壁として他方のドーピングペーストをストライプ状に塗布する,請求項1?3いずれか記載の半導体デバイスの製造方法。」

(5b)「技術分野
[0001]本発明は,半導体デバイスの製造方法および裏面接合型太陽電池に関するものである。特に,裏面接合型太陽電池におけるストライプ形状のn型,p型拡散領域を高精度かつ低コストに形成するのに好適な方法に関する。」

(5c)「[0023](b)半導体基板11の裏面(受光面とは反対側の面)に,n型のドーピングペーストをノズルの吐出口から吐出する。このとき,半導体基板11と吐出口との間に狭いすきまを作り,そのすきまの一部にドーピングペーストからなる液を満たして液だまり,いわゆるビードを形成する。そして,このビードを保ちつつ,半導体基板11をノズルに対して相対移動させることで,ペーストをストライプ状に塗布し,200?600℃にベークすることで,n型固相拡散源24を形成する。なお,半導体基板11をノズルに対して相対移動させるとは,両者の位置関係が変わるようにすればよく,半導体基板11とノズルのいずれか一方を動かしてもよいし,両方を異なる速度や異なる方向に動かしてもよい。
[0024]同様に,(c)n型固相拡散源24の間に,p型のドーピングペーストをストライプ状に塗布し,200?600℃にベークすることで,p型固相拡散源25を形成する。これら固相拡散源の厚さは100nm?1μmであることが好ましく,p型固相拡散源25の幅はn型固相拡散源24の幅よりも広いことが好ましい。また,n型固相拡散源24とp型固相拡散源25のピッチは0.2?2mmに設計することが好ましい。
[0025](d)この半導体基板11を窒素中あるいは酸素を混合させた窒素中など公知の条件下で850?1100℃に加熱する。こうすることで,n型固相拡散源24とp型固相拡散源25とにそれぞれ含まれるn型ドーパントとp型ドーパントとを半導体基板11中に固相拡散させ,n型領域12およびp型領域13を形成する。これらの拡散領域の典型的な不純物濃度は,n型ドーパントやp型ドーパントの拡散量を制御することで,10 ^(17)?10 ^(20) /cm ^(3) に調整することが好ましい。なお,n型領域12とp型領域13とが接触すると太陽電池の性能に悪影響を及ぼすので,両者は間隔を開けて形成することが好ましい。また,n型固相拡散源24とp型固相拡散源25の形成順序は特に限定されない。本形態のようにn型およびp型ドーパントを同時拡散させた方が工程簡略化の面で好ましいが,例えば,n型固相拡散源24を形成してn型ドーパントを固相拡散させた後にp型固相拡散源25を形成することもでき,またその逆も可能である。さらに,n型固相拡散源24とp型固相拡散源25のどちらか一方を本発明のストライプ塗布法で形成し,他方はスクリーン印刷法などの公知の手法で形成することもできる。
[0026](e)フッ酸などによるエッチングにより,n型固相拡散源24およびp型固相拡散源25を除去する。」

(5d)「[0069]本発明においてドーピングペーストの組成は,ドーパント成分を含有していれば特に限定されるものではない。例えば,SOG法によりドープドオキサイド膜を形成するためのペーストを中心とした公知材料を使用することができる。この典型的な組成としては,少なくともマトリクス材料,溶剤,ドーパントを含むことが好ましい。必要に応じて公知の増粘剤が添加されることもある。
[0070]好ましいドーピングペーストのマトリクス材料としては,焼成後にシリカ膜を形成するケイ素化合物を挙げることができる。具体的にはアルコキシシラノール,アルコキシシラン,アルキルシラノール,アルキルシラン,シルセスキオキサン,シラノラート,およびそれらの芳香族置換体やそれらをオリゴマー化させた広義のシロキサン材料を例示することができる。マトリクス材料には他のガラス質形成材料や有機バインダーなどを添加することもできる。
[0071]
溶媒はマトリクス材料を溶解するものであれば特に限定はされず,アルコールやエステル,エーテル,アルデヒド,ケトン,水,酸などを例示することができる。
[0072]シリコン半導体基板に対するn型ドーパントとしては,リン,砒素,アンチモンなどを含む化合物を,p型ドーパントとしてはホウ素やアルミニウムなどを含む化合物を例示することができる。具体的には,五酸化二リンや酸化リン,リン酸,リン系塩,有機リン化合物,酸化ホウ素,ホウ酸,ホウ素塩,有機ホウ素化合物,ホウ素#アルミニウム化合物,アルミニウム塩,有機アルミニウム化合物を好ましい例として挙げることができる。
[0073]マトリクス材料は,ドーピングペーストにおいて50wt%以下の濃度に調整されることが多い。ドーパントはドーピングペーストの10wt%以下の濃度で添加されることが好ましく,5wt%以下であることがより好ましい。なお,マトリクス材料を使用せずに,ドーパントと溶媒だけからなる溶液を使用することもできるが,マトリクス材料がないことによる気相拡散に注意が必要である。なお,ドーピングペーストの粘度は,特に限定されないが,3?3000mPa・s,より好ましくは10?500mPa・sで使用されることが好ましい。」

(5e)「[0077]以上のような本発明により得られる裏面接合型太陽電池は,例えば以下のような構成を有するものとなる。
[0078]一般に,固相拡散源のマトリクスがシリカ系の膜である場合,ドーパントの拡散後にフッ酸系の溶液で固相拡散源を除去することが多い。このフッ酸系の溶液は下地の半導体基板もエッチングする能力がある。一方で,固相拡散源が微量でも残ると太陽電池の性能が低下するので,固相拡散源を除去する際には下地の半導体基板も少しエッチングするのが通常である。そのため,固相拡散源をフォトリソグラフィ法でパターン加工する従来法による裏面接合型太陽電池では,表面が滑らかな半導体基板が用いられていても,該半導体基板のうちの,n型固相拡散源とp型固相拡散源どちらか一方の下地となる部分が,他方の下地となる部分よりも,エッチングされる回数が多くなる。その結果,該半導体基板自体の表面に凹凸が生じ,また,n型領域とp型領域の表面にも高低差が生じ,品質が低下しやすいという問題がある。
[0079]しかしながら,本発明によれば,エッチング処理の回数を低減でき,また必要に応じて,n型固相拡散源とp型固相拡散源を一度のエッチング処理にて除去することができる。」

キ 引用例6:特開2011-187894号公報(査定時の引用文献10)
(6a)「【請求項1】
結晶系太陽電池の製造工程において,リン拡散層形成用のリンドーパント拡散用塗布膜をインクジェット塗布法によりシリコン結晶基板に形成するための塗布液であり,
溶質としてリン化合物およびケイ素化合物を含有し,かつ溶媒として炭素数6以上のアルコールを前記塗布液中の全溶媒量に対して50重量%以上含有することを特徴とするリンドーパント拡散用塗布液。」

(6b)「【0039】
(ケイ素化合物)
本発明のリンドーパント拡散用塗布液に含まれるケイ素化合物は,熱処理により分子間で結合してシリコン原子を中心としたポリマーネットワーク構造を形成することが可能な化合物であれば特に限定されない。
形成されるネットワーク構造としては,Si-O結合からなるポリシロキサン系化合物,Si-C結合からなるシリコンカーバイド系化合物,Si-N結合からなるポリシラザン系化合物およびSi-Si結合からなるポリシラン系化合物などが挙げられ,これらの中でもSi-O結合からなるポリシロキサン系化合物を形成し得る化合物が特に好ましい。
【0040】
ポリシロキサン系化合物を形成し得る化合物としては,様々なアルコキシシランが挙げられるが,ケイ素原子に結合している4つの置換基のうち2つ以上がアルコキシ基であるアルコキシシランが膜形成に有利である。
・・・
【0042】
リンドーパント拡散用塗布液は塗布膜構造を安定に維持することができるシロキサン骨格に必要なシリコン濃度を有していればよく,リンドーパント拡散用塗布液におけるケイ素化合物の濃度は,好ましくは2?30重量%,より好ましくは3?15重量%である。
ケイ素化合物の濃度が2重量%未満では,十分に被膜を形作るネットワーク構造が得られ難く,塗布膜の造膜性,耐熱性が低下することがあり,逆に30重量%を超えると,リンドーパントの拡散を阻害するおそれがある。」

ク 引用例7:国際公開第2006/117975号(査定時の引用文献11)
(7a)「技術分野
[0001]本発明は,太陽電池の製造方法及び太陽電池に関するものであり,特に低コストで 高効率の太陽電池の製造方法及びこの方法で製造される太陽電池に関する。」

(7b)「[0015]また,第1塗布剤又は第2塗布剤として珪素化合物を含むものを用いることが好ましい。
このように,第1塗布剤又は第2塗布剤として珪素化合物を含むものを用いれば,ド一パントのアウトディフュージョン (外方拡散)を抑制でき,これによつて二段エミッタにおいて高濃度拡散層と低濃度拡散層との表面濃度差を極めて確実に形成できる。
[0016]また,前記珪素化合物をシリカゲル又は珪素酸化物前駆体とすることが好ましい。
このように,珪素化合物をシリカゲル又はアルコキシシラン等の珪素酸化物前駆体とすれば,塗布剤の粘度を効果的に制御できるとともに,ドーパントのアウトディフュージョンを抑制でき,これによつてニ段エミッタにおける高濃度拡散層と低濃度拡散層との表面濃度差を極めて確実に形成できる。」

(7c)「[0028]以下,図1に示す太陽電池の製造フローを説明する。・・・
・・・
[0030]太陽電池は通常,表面に凹凸形状を形成するのが好ましい。その理由は,可視光域の反射率を低減させるために,できる限り2回以上の反射を受光面で行わせる必要があるためである。そこで,ダメージエッチングを行った基板を例えば3重量パーセント水酸化ナトリウムにイソプロピルアルコールを加えた水溶液に浸し,ウェットエッチングすることにより,両面に図4に示すようなランダムテクスチャを形成する。これら一つ一つの山のサイズは1?20μm程度である。他の代表的な表面凹凸構造としてはV溝,U溝が挙げられる。これらは研削機を利用して形成可能である。また,ランダムな凹凸構造を作るには酸エッチングやリアクティブ・イオン・エッチング等を代替法として用いることが可能である。なお,図1では基板の両面(受光面1a,裏面1b)に形成したテクスチャ構造は微細なため図中での記載を省略している。
[0031]引き続き,基板を洗浄した後,図3(a)に示すように,基板の受光面1aに第1塗布剤としてリン酸等のドーパントおよび好ましくはシリカゲルや,アルコキシシラン等の珪素酸化物前駆体をはじめとする珪素化合物を含有した拡散ペースト8をスクリーン印刷機によって印刷し,塗布する。このときの印刷はストライプ状のラインパターンやドットパターンとすることができ,例えばラインパターンの場合の印刷パターンは2mmピッチ,150μm幅ラインとできる。印刷した基板を700℃で30分間ベークし,その後,このように作製したサンプル基板を熱処理炉に入れ,POCl_(3)等の気相拡散ソース雰囲気下,880℃で30分間保持して気相拡散熱処理を行ない,取り出す。これにより,塗布により形成される第1拡散層2(高濃度拡散層又は高濃度エミッタ層ともいう)と,気相拡散により形成される第1拡散層より導電率が低い第2拡散層3(低濃度拡散層又は低濃度エミッタ層ともいう)とを同時に形成することができ,pn接合が形成される。低濃度エミッタ層である拡散ペースト印刷部以外の箇所,すなわち気相拡散のみを行った箇所のシート抵抗は,80から110Ω/□とできる。また,拡散ペーストを印刷した部分のドーパントの表面濃度は2×10^(20)cm^(-2)程度とできる。
[0032]なお,別の実施形態として,図3(b)に示すように,基板の受光面1aに第2塗布剤として前記第1塗布剤よりドーパント濃度が低い拡散ペースト8’をスクリーン印刷機によって印刷,塗布し,その後気相拡散ソースを高濃度とする他は前記と同様の工程により,気相拡散熱処理によって,塗布により形成される第2拡散層と,気相拡散により形成される第2拡散層より導電率が高い第1拡散層とを同時に形成してもよい。
この場合,低濃度エミッタ層3を形成する拡散ペースト8’に含まれるシリカゲル等の珪素化合物はペーストからのドーパントのアウトディフュージョンを抑制するとともに,気相拡散のドーパントが受光面の他の部分に拡散するのを防ぐ役割を果たす。本製法は確実に二段エミッタを形成できる特徴がある。
・・・
[0034]引き続き,表面に形成されたリンガラスをフッ酸でエッチング・・・」

ケ 引用例8:特開2012-9627号公報(査定時の引用文献1)
(8a)「【請求項1】
ドナー元素を含むガラス粉末と,分散媒と,を含有し,前記ガラス粉末の含有比率が1質量%以上90質量%以下の範囲であるn型拡散層形成組成物。
【請求項2】
前記ドナー元素が,P(リン)及びSb(アンチモン)から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のn型拡散層形成組成物。
【請求項3】
前記ドナー元素を含むガラス粉末が,P_(2)O_(3),P_(2)O_(5)及びSb_(2)O_(3)から選択される少なくとも1種のドナー元素含有物質と,SiO_(2),K_(2)O,Na_(2)O,Li_(2)O,BaO,SrO,CaO,MgO,BeO,ZnO,PbO,CdO,SnO,ZrO_(2),及びMoO_(3)から選択される少なくとも1種のガラス成分物質と,を含有する請求項1又は請求項2に記載のn型拡散層形成組成物。」

(8b)「【技術分野】
【0001】
本発明は,太陽電池セルのn型拡散層形成組成物,n型拡散層の製造方法,及び太陽電池セルの製造方法に関するものであり,更に詳しくは,半導体基板である結晶シリコンの特定の部分にn型拡散層を形成することを可能とする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の結晶シリコン太陽電池セルの製造工程について説明する。
まず,光閉じ込め効果を促して高効率化を図るよう,テクスチャー構造を形成したp型シリコン基板を準備し,続いてオキシ塩化リン(POCl_(3)),窒素,酸素の混合ガス雰囲気において800?900℃で数十分の処理を行って一様にn型拡散層を形成する。この従来の方法では,混合ガスを用いてリンの拡散を行うため,表面のみならず,側面,裏面にもn型拡散層が形成される。それゆえ,側面のn型拡散層を除去するためのサイドエッチング工程が必要であった。また,裏面のn型拡散層はp^(+)型拡散層へ変換する必要があり,裏面のn型拡散層の上にアルミニウムペーストを付与して,アルミニウムの拡散によってn型拡散層からp^(+)型拡散層に変換させていた。
【0003】
一方で,半導体の製造分野では,五酸化リン(P_(2)O_(5))あるいはリン酸二水素アンモニウム(NH_(4)H_(2)PO_(4))等のリン酸塩を含有する溶液の塗布によってn型拡散層を形成する方法が提案されている(例えば,特許文献1参照)。しかしながら,この方法では溶液を用いるために,上記混合ガスを用いる気相反応法と同様,リンの拡散が側面及び裏面にもおよび,表面のみならず,側面,裏面にもn型拡散層が形成される。
・・・
【先行技術文献】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように,n型拡散層形成の際,オキシ塩化リンを用いた気相反応では,本来n型拡散層が必要となる片面(通常受光面,表面)のみならず,もう一方の面(非受光面,裏面)や側面にもn型拡散層が形成されてしまう。また,リン酸塩を含有する溶液を塗布して熱拡散させる方法でも,気相反応法と同様,表面以外にもn型拡散層が形成されてしまう。そのため,素子としてpn接合構造を有するためには,側面においてはエッチングを行い,裏面においてはn型拡散層をp型拡散層へ変換しなければならない。一般には,裏面に第13族元素であるアルミニウムのペーストを塗布,焼成し,n型拡散層をp型拡散層へ変換している。
【0006】
本発明は,以上の従来の問題点に鑑みなされたものであり,結晶シリコン基板を用いた太陽電池セルの製造工程において,不要なn型拡散層を形成させることなく,短時間で特定の部分にn型拡散層を形成することが可能なn型拡散層形成組成物,n型拡散層の製造方法,及び太陽電池セルの製造方法の提供を課題とする。」

(8c)「【発明の効果】
【0014】
本発明によれば,結晶シリコン基板を用いた太陽電池セルの製造工程において,不要なn型拡散層を形成させることなく,短時間で特定の部分にn型拡散層を形成することが可能となる。」

(8d)「【0019】
なお,本発明のn型拡散層形成組成物に含有されるガラス粉末は焼成により溶融し,n型拡散層の上にガラス層を形成する。しかし従来の気相反応法やリン酸塩含有の溶液を塗布する方法においてもn型拡散層の上にガラス層が形成されており,よって本発明において生成したガラス層は,従来の方法と同様に,エッチングにより除去することができる。したがって本発明のn型拡散層形成組成物は,従来の方法と比べても不要な生成物を発生させず,工程を増やすこともない。
【0020】
ここで,n型拡散層形成組成物に含有されるガラス粉末の含有率が1質量%以上90質量%以下の場合では,n型拡散層の上に形成されるガラス層を短時間で除去できる。また,ドナー元素の拡散によりn型拡散層の形成が十分に行われる。
なお,本発明における「n型拡散層を形成する」ために要する時間とは,n型拡散層を形成し且つn型拡散層の上に形成されるガラス層を除去するために要する総時間をいう。よって,n型拡散層の上に形成されるガラス層が短時間で除去されることにより,n型拡散層を形成するための時間が短縮される。
【0021】
また,ガラス粉末は焼成中でも揮散しないため,揮散ガスの発生によって表面のみでなく裏面や側面にまでn型拡散層が形成されるということが防止される。
【0022】
本発明に係るドナー元素を含むガラス粉末について,詳細に説明する。
ドナー元素とは,シリコン基板中にドーピングさせることによってn型拡散層を形成することが可能な元素である。ドナー元素としては第15族の元素が使用でき,例えばP(リン),Sb(アンチモン),As(ヒ素)等が挙げられる。安全性,ガラス化の容易さ等の観点から,P又はSbが好適である。
【0023】
ドナー元素をガラス粉末に導入するために用いるドナー元素含有物質としては,P_(2)O_(3),P_(2)O_(5),Sb_(2)O_(3),Bi_(2)O_(3),及びAs_(2)O_(3)が挙げられ,P_(2)O_(3),P_(2)O_(5)及びSb_(2)O_(3)から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。」

(8e)「【0039】
次に,本発明のn型拡散層及び太陽電池セルの製造方法について,図1を参照しながら説明する。図1は,本発明の太陽電池セルの製造工程の一例を概念的に表す模式断面図である。以降の図面においては,共通する構成要素に同じ符号を付す。
・・・
【0041】
図1(2)では,p型半導体基板10の表面すなわち受光面となる面に,上記n型拡散層形成組成物を塗布して,n型拡散層形成組成物層11を形成する。本発明では,塗布方法には制限がないが,例えば,印刷法,スピン法,刷毛塗り,スプレー法,ドクターブレード法,ロールコーター法,インクジェット法などがある。
・・・
【0042】
なお,n型拡散層形成組成物の組成によっては,塗布後に,組成物中に含まれる溶剤を揮発させるための乾燥工程が必要な場合がある。・・・
【0044】
次いで,上記n型拡散層形成組成物層11を形成した半導体基板10を,600?1200℃で熱拡散処理する。この熱拡散処理により,図1(3)に示すように半導体基板中へドナー元素が拡散し,n型拡散層12が形成される。熱拡散処理には公知の連続炉,バッチ炉等が適用できる。また,熱拡散処理時の炉内雰囲気は,空気,酸素,窒素等に適宜調整することもできる。
・・・
【0045】
形成されたn型拡散層12の表面には,リン酸ガラスなどのガラス層(不図示)が形成されているため,このリン酸ガラスをエッチングにより除去する。エッチングとしては,ふっ酸等の酸に浸漬する方法,苛性ソーダ等のアルカリに浸漬する方法など公知の方法が適用できる。
【0046】
図1(2)及び(3)に示される,本発明のn型拡散層形成組成物11を用いてn型拡散層12を形成する本発明のn型拡散層の形成方法では,所望の部位にのみn型拡散層12が形成され,裏面や側面には不要なn型拡散層が形成されない。
したがって,従来広く採用されている気相反応法によりn型拡散層を形成する方法では,側面に形成された不要なn型拡散層を除去するためのサイドエッチング工程が必須であったが,本発明の製造方法によれば,サイドエッチング工程が不要となり,工程が簡易化される。
・・・
【0048】
しかし本発明の製造方法によれば,裏面に不要なn型拡散層が形成されないことから,n型拡散層からp型拡散層への変換を行う必要がなくなり,アルミニウム層を厚くする必然性がなくなる。その結果,シリコン基板内の内部応力の発生や反りを抑えることができる。結果として,電力損失の増大や,セルの破損を抑えることが可能となる。」

コ 引用例9:特開2012-9628号公報(査定時の引用文献2)
(9a)「【請求項1】
アクセプタ元素を含むガラス粉末と,分散媒と,を含有し,前記ガラス粉末の含有比率が1質量%以上90質量%以下であるp型拡散層形成組成物。
【請求項2】
前記アクセプタ元素が,B(ほう素),Al(アルミニウム)及びGa(ガリウム)から選択される少なくとも1種である請求項1に記載のp型拡散層形成組成物。
【請求項3】
前記アクセプタ元素を含むガラス粉末が,B_(2)O_(3),Al_(2)O_(3)及びGa_(2)O_(3)から選択される少なくとも1種のアクセプタ元素含有物質と,SiO_(2),K_(2)O,Na_(2)O,Li_(2)O,BaO,SrO,CaO,MgO,BeO,ZnO,PbO,CdO,Tl_(2)O,SnO,ZrO_(2),及びMoO_(3)から選択される少なくとも1種のガラス成分物質と,を含有する請求項1又は請求項2に記載のp型拡散層形成組成物。
【請求項4】
請求項1?請求項3のいずれか1項に記載のp型拡散層形成組成物を塗布する工程と,熱拡散処理を施す工程と,を有するp型拡散層の製造方法。
【請求項5】
半導体基板上に,請求項1?請求項3のいずれか1項に記載のp型拡散層形成組成物を塗布する工程と,
熱拡散処理を施して,p型拡散層を形成する工程と,
を有する太陽電池セルの製造方法。」

(9b)「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,結晶シリコン基板を用いた太陽電池セルの製造工程において,シリコン基板中の内部応力,基板の反りを抑制しつつ,短時間でp型拡散層を形成することが可能となる。」

(3)本願補正発明1の進歩性について
ア 本願補正発明1と引用発明との対比
(ア)本願明細書には,「【0033】(ドナー元素を含む粒子)ドナー元素とは,半導体基板中に拡散することによってn型拡散層を形成することが可能な元素である。」,及び,「【0049】(アクセプタ元素を含む粒子)アクセプタ元素とは,半導体基板中に拡散することによってp型拡散層を形成することが可能な元素である。」と記載されている。
そうすると,引用発明の「V族(15族)元素の化合物を含むN型の不純物拡散成分」及び「III族(13族)元素の化合物を含むP型の不純物拡散成分」は,それぞれ,ドナー元素を含む成分,及び,アクセプタ元素を含む成分といえる。
してみれば,引用発明の「不純物拡散成分(A)であって,不純物拡散成分(A)は,V族(15族)元素の化合物を含むN型の不純物拡散成分,またはIII族(13族)元素の化合物を含むP型の不純物拡散成分であり,太陽電池における電極を形成する工程において,半導体基板内にN型またはP型の不純物拡散層(不純物拡散領域)を形成することができるものであり,不純物拡散成分(A)に含まれるV族元素の化合物としては,例えば,P_(2)O_(5),Bi_(2)O_(3),Sb(OCH_(2)CH_(3))_(3),SbCl_(3),As(OC_(4)H_(9))_(3)などが挙げられ,不純物拡散成分(A)に含まれるIII族元素の化合物としては,例えば,B_(2)O_(3),Al_(2)O_(3)などが挙げられ,不純物拡散成分(A)にはこれらの化合物が1種類以上含まれる不純物拡散成分(A)」と,本願補正発明1の「ドナー元素を含む粒子又はアクセプタ元素を含む粒子」とは,「ドナー元素を含む成分又はアクセプタ元素を含む成分」である点で一致する。

(イ)本願明細書には,「【0078】(特定有機化合物)本発明の不純物拡散層形成組成物は,イソボルニルシクロヘキサノール,イソボルニルフェノール,1-イソプロピル-4-メチル-ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物,及びp-メンテニルフェノールからなる群より選ばれる1種以上の特定有機物を含有する。前記特定有機化合物は,粘度,入手の容易さ,化学的安定性の観点から,イソボルニルシクロヘキサノール,及びイソボルニルフェノールからなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。前記不純物拡散層形成組成物が,嵩高い構造を有する特定有機化合物を含むことで,不純物拡散層形成組成物の半導体基板への付与適性,特に塗布適性が向上する。また特定有機化合物は比較的低温(例えば400℃以下)で分解又は揮発するため,熱拡散処理後の半導体基板上に特定有機化合物に由来する残存物が発生することを抑制することができる。」と記載されている。
一方,引用発明の「バインダー樹脂(B)」は,「不純物拡散成分(A)を半導体基板表面に均一に分散させる役割を果たすもの」であって,「前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失する」ものである。
そして,引用発明の前記「不純物拡散成分(A)を半導体基板表面に均一に分散させる」ことは,拡散剤組成物の半導体基板への付与適正の向上を意味するものと認められ,また,「前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失する」ことは,熱拡散処理後の半導体基板上にバインダー樹脂(B)に由来する残存物が発生することを抑制することを意味するものと認められる。
さらに,「樹脂」は,「有機化合物」であるといえる。
そうすると,引用発明の「バインダー樹脂(B)」と,本願補正発明1の「特定有機化合物」とは,不純物拡散層形成組成物の半導体基板への付与適性を向上させる役割を果たし,熱拡散処理後の半導体基板上に当該有機化合物に由来する残存物が発生することを抑制することができる有機化合物である点で一致する。

(ウ)引用発明の「拡散剤組成物」と,本願補正発明1の「不純物拡散層形成組成物」とは,以下の相違点1ないし3を除いて,「不純物拡散層形成組成物」である点で一致する。

したがって,上記の対応関係から,本願補正発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりといえる。

<一致点>
「ドナー元素を含む成分又はアクセプタ元素を含む成分と,
不純物拡散層形成組成物の半導体基板への付与適性を向上させる役割を果たし,熱拡散処理後の半導体基板上に当該有機化合物に由来する残存物が発生することを抑制することができる有機化合物と,
を含有する不純物拡散層形成組成物」

<相違点>
・相違点1:一致点に係る構成である,不純物拡散層形成組成物の半導体基板への付与適性を向上させる役割を果たし,熱拡散処理後の半導体基板上に当該有機化合物に由来する残存物が発生することを抑制することができる有機化合物が,本願補正発明1では,「イソボルニルシクロヘキサノール,イソボルニルフェノール,1-イソプロピル-4-メチル-ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物,及びp-メンテニルフェノールからなる群より選ばれる1種以上の特定有機化合物」であるのに対して,引用発明では,「好ましくは,バインダー樹脂(B)はアクリル系樹脂を含むものであり」とされている点。

・相違点2:本願補正発明1が,「アルコキシシラン」を含有するのに対して,引用発明では,このような特定がされていない点。

・相違点3:一致点に係る構成である,ドナー元素を含む成分又はアクセプタ元素を含む成分が,本願補正発明1では,「ガラス粒子」であるのに対して,引用発明では,このような特定がされていない点。

イ 相違点についての判断
・相違点1について
(ア)引用例2の上記(2)ウの摘記(2a)ないし(2c)の記載から,以下の事項を理解することができる。
・バインダー樹脂として,アクリル樹脂を使用した場合には,導電性または誘電性粒子の凝集および/または沈降を生じ,さらに膜形成材料層にクレーターおよび/またはピンホールなどの膜欠陥が生じるという問題が起きること。
また,アクリル系共重合体樹脂に脂肪酸を加えるか,または(メタ)アクリル酸系共重合体樹脂を用いた場合には,重合反応における重合体樹脂の分子量の制御が困難となり,エチルセルロースを用いた場合には,600℃付近までの焼成工程において,微量の残渣が残存し,電気特性を低下させるという問題があること。
・消失性バインダー組成物として,イソボルニルフェノール,p-メンテニルフェノール,イソボルニルシクロヘキサノール,1-イソプロピル-4-メチル-ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物等の材料を用いることで,前記問題が解決されること。

(イ)また,引用例3の上記(2)エの摘記(3a)の記載から,以下の事項を理解することができる。
・イソボルニルシクロヘキサノールは,300℃における加熱残分が0?1重量%であり,通常のバインダポリマとして用いられるセルロース類が,前記イソボルニルシクロヘキサノールと同様の加熱残分を達成するには,それよりも高い300?500℃程度まで加熱することが必要であり,低温で加熱残分を抑制できる有用な化合物であること。

(ウ)さらに,引用例4の上記(2)オの摘記(4a)の記載から,以下の事項を理解することができる。
・イソボルニルシクロヘキサノールは,高沸点,高粘度で溶剤と樹脂の特性を併せ持った安定なテルペン誘導体であって,「テルソルブMTPH」という名称で商品化されており,ペースト組成物における導電性粉末の分散安定性を良くするために使用され,加熱乾燥のみで導電性無機膜を形成することができ,沸点が260℃の高粘性溶媒であること。

(エ)一方,引用発明のバインダー樹脂(B)は,不純物拡散成分(A)を拡散剤組成物中に均一に分散させ,これにより不純物拡散成分(A)を半導体基板表面に均一に分散させる役割を果たすものであり,不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するものである。
そして,不純物拡散成分(A)を半導体基板表面に均一に分散させる役割を果たすためには,バインダー樹脂が,導電性または誘電性粒子の凝集および/または沈降を生じさせ,さらに膜形成材料層にクレーターおよび/またはピンホールなどの膜欠陥を生じさせるものであることが望ましくないことは,当業者にとって自明な事項である。
また,熱分解して消失する材料として,300℃における加熱残分が0?1重量%である特性は望ましいものといえる。
さらに,ペースト組成物における分散安定性の向上が望ましいことも明らかである。

(オ)そうすると,引用発明と,引用例2の上記記載に接した当業者であれば,引用発明において,バインダー樹脂(B)として「アクリル系樹脂を含むもの」を使用した場合に,導電性または誘電性粒子の凝集および/または沈降を生じさせ,さらに膜形成材料層にクレーターおよび/またはピンホールなどの膜欠陥を生じさせることが問題となることに思い至るといえる。
そして,引用例2には,前記問題を解決する材料として,イソボルニルシクロヘキサノール等の材料が示されており,さらに,引用例3,4にも,前記イソボルニルシクロヘキサノール等の材料が基板への付与適性を向上させる役割を果たし,熱処理後に当該有機化合物に由来する残存物が発生することを抑制することができる有機化合物として示されているのであるから,引用発明と,引用例2ないし4に接した当業者であれば,不純物拡散層形成組成物の半導体基板への付与適性を向上させる役割を果たし,熱拡散処理後の半導体基板上に当該有機化合物に由来する残存物が発生することを抑制することができる有機化合物として,引用発明の「アクリル系樹脂を含むもの」に替えて,引用例2ないし4に記載された,イソボルニルシクロヘキサノール等の材料を用いることは容易に想到し得たことである。
以上から,引用発明1において,相違点1について,本願補正発明1の構成とすることは,引用例2ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易になし得たことである。

・相違点2について
(ア)引用例5の上記(2)カの摘記(5a)ないし(5e)の記載から,以下の事項を理解することができる。
・半導体基板の表面に,ドーピングペーストをノズルの吐出口から吐出させてストライプ状に塗布する工程と,
該半導体基板を加熱して固相拡散源をパターン形成する工程と,
200?600℃にベークすることで,固相拡散源を形成する工程と,
半導体基板を窒素中あるいは酸素を混合させた窒素中など公知の条件下で850?1100℃に加熱することで,固相拡散源に含まれるドーパントを半導体基板中に固相拡散させ,n型(p型)領域を形成する工程と,
フッ酸などによるエッチングにより,固相拡散源を除去する工程と,
を含む,裏面接合型太陽電池におけるストライプ形状のn型(p型)拡散領域を高精度かつ低コストに形成するのに好適な方法において用いられる前記ドーピングペーストの典型的な組成は,少なくともマトリクス材料,溶剤,ドーパント,及び,必要に応じて公知の増粘剤を含むことが望ましく,
前記ドーピングペーストの前記マトリクス材料としては,焼成後にシリカ膜を形成する,アルコキシシランを例示することができ,さらに,前記マトリクス材料には他のガラス質形成材料や有機バインダーなどを添加することもできること。
・マトリクス材料を使用せずに,ドーパントと溶媒だけからなる溶液を使用することもできるが,マトリクス材料がないことによる気相拡散に注意が必要であること。
・固相拡散源のマトリクスがシリカ系の膜である場合,ドーパントの拡散後にフッ酸系の溶液で固相拡散源が除去できること。

(イ)引用例6の上記(2)キの摘記(6a),(6b)の記載から,以下の事項を理解することができる。
・溶質としてリン化合物およびケイ素化合物を含有し,かつ溶媒として炭素数6以上のアルコールを塗布液中の全溶媒量に対して50重量%以上含有する,結晶系太陽電池の製造工程において用いる,ドーパント拡散用塗布膜をインクジェット塗布法により形成するための塗布液は,前記ケイ素化合物を含むことによって,塗布膜構造を安定に維持すること,すなわち,十分に被膜を形作るネットワーク構造を得ることができ,塗布膜の造膜性,耐熱性を確保することができるものであって,
前記塗布液に含まれる前記ケイ素化合物としては,アルコキシシランが膜形成に有利であること。

(ウ)引用例7の上記(2)クの摘記(7a)ないし(7c)の記載から,以下の事項を理解することができる。
・太陽電池の製造において,基板に塗布剤としてリン酸等のドーパントおよび,アルコキシシラン等の珪素化合物を含有した拡散ペーストを塗布し,熱処理を行ない,塗布により形成される拡散層を形成する際に,拡散ペーストに含まれる珪素化合物はペーストからのドーパントのアウトディフュージョンを抑制すること。
・珪素化合物をアルコキシシラン等の珪素酸化物前駆体とすることで,塗布剤の粘度を効果的に制御できるとともに,ドーパントのアウトディフュージョンを抑制できること。

(エ)一方,引用発明の「拡散剤組成物」は,太陽電池における電極を形成する工程において,半導体基板内にN型またはP型の不純物拡散層(不純物拡散領域)を形成するものであって,引用例1の上記(2)アの摘記(1g)の記載から,引用発明の「拡散剤組成物」は,以下の方法によって使用されるものであると理解される。
・半導体基板の表面に,不純物拡散成分を含有する拡散剤組成物を塗布する工程と,
塗布した拡散剤組成物をオーブンなどの周知の手段を用いて乾燥させる工程と,
拡散剤組成物が塗布された半導体基板を電気炉内に載置して焼成する工程と,
焼成の後,電気炉内で拡散剤組成物中の不純物拡散成分を半導体基板の表面から半導体基板内に拡散させて,不純物拡散層を形成する工程と,
周知のエッチング法により,前記拡散剤組成物を除去する工程を含む,
不純物拡散層が形成された半導体基板を備えた太陽電池の製造方法。

(オ)してみれば,引用発明に係る「拡散剤組成物」と,引用例5に記載された「ドーピングペースト」は,いずれも,半導体基板の表面に塗布し,乾燥・焼成し,拡散剤組成物中の不純物拡散成分を半導体基板の表面から半導体基板内に拡散させて不純物拡散層を形成し,その後,前記拡散剤組成物を除去する工程を含む太陽電池の製造に用いるものである点で,その用途を共通とするものといえる。
また,引用例6に記載された「塗布液」,及び,引用例7に記載された「拡散ペースト」もまた,いずれも,太陽電池の製造において,不純物拡散層を形成するために用いるものである点で,引用発明に係る「拡散剤組成物」と用途を共通とするものといえる。
そうすると,太陽電池の製造において,半導体基板内にN型またはP型の不純物拡散層(不純物拡散領域)を形成する際に,前記不純物拡散領域を,高精度かつ低コストに形成することが望ましいことは,当業者にとって自明な課題といえるところ,引用例5の上記記載から,ドーピングペーストを,アルコキシシラン等のケイ素化合物からなるマトリクス材料を含むものとすることによって,気相拡散が抑制されて,拡散領域を高精度かつ低コストに形成するすることができることが理解できるのであるから,引用発明と引用例5に接した当業者であれば,引用発明の「拡散剤組成物」を,アルコキシシランが適量含まれたものとすること,すなわち,引用発明1において,相違点2について,本願補正発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(カ)さらに,太陽電池の製造において,塗布剤の粘度を効果的に制御し,ドーパントのアウトディフュージョンを抑制するという課題は当業者にとって自明な課題といえるところ,このような課題を解決する手段として,前記塗布剤を,アルコキシシランが適量含まれたものとすることは,引用例5ないし7の上記記載からも明らかなように,本願の出願の日前において周知であったということができる。
そうすると,引用発明と,引用例5ないし7の上記記載に接した当業者であれば,引用発明において,半導体基板内にN型またはP型の不純物拡散層(不純物拡散領域)を形成する際のドーパントのアウトディフュージョンを抑制し,さらに,拡散剤組成物の粘度を制御を容易にするために,前記拡散剤組成物にアルコキシシランを含有させることは容易に想到し得たことである。

(キ)以上から,引用発明1において,相違点2について,本願補正発明1の構成とすることは,引用例5又は引用例5ないし7に記載された事項に基づいて,当業者が容易になし得たことである。

・相違点3について
(ア)引用例8の上記(2)ケの摘記(8a)ないし(8e)の記載,及び,引用例9の上記(2)コの摘記(9a),(9b)の記載から,以下の事項を理解することができる。
・太陽電池セルの製造工程において,ガラス粉末は焼成中でも揮散しないため,揮散ガスの発生によって表面のみでなく裏面や側面にまで拡散層が形成されるということが防止されるので,不要な拡散層を形成させることなく,特定の部分に拡散層を形成することが可能となり,あるいは,シリコン基板中の内部応力,基板の反りを抑制しつつ,拡散層を形成することが可能となること。

(イ)一方,引用発明の「拡散剤組成物」は,太陽電池における電極を形成する工程において,半導体基板内にN型またはP型の不純物拡散層(不純物拡散領域)を形成するものである。
そして,太陽電池における電極を形成する工程において,半導体基板内にN型またはP型の不純物拡散層(不純物拡散領域)を形成する際に,不要な拡散層を形成させることなく,特定の部分に拡散層を形成すること,及び,シリコン基板中の内部応力,基板の反りを抑制しつつ,拡散層を形成することが望ましいことは,引用例8,9の前記記載に接した当業者であれば直ちに理解することである。
そうすると,引用発明と,引用例8,9の上記記載に接した当業者であれば,引用発明において,半導体基板内にN型またはP型の不純物拡散層(不純物拡散領域)を形成する際に,不要な拡散層を形成させることなく,特定の部分に拡散層を形成し,あるいは,シリコン基板中の内部応力,基板の反りを抑制しつつ,拡散層を形成するために,ドナー元素を含む成分又はアクセプタ元素を含む成分として,引用発明の「不純物拡散成分(A)であって,不純物拡散成分(A)は,V族(15族)元素の化合物を含むN型の不純物拡散成分,またはIII族(13族)元素の化合物を含むP型の不純物拡散成分であり,太陽電池における電極を形成する工程において,半導体基板内にN型またはP型の不純物拡散層(不純物拡散領域)を形成することができるものであり,不純物拡散成分(A)に含まれるV族元素の化合物としては,例えば,P_(2)O_(5),Bi_(2)O_(3),Sb(OCH_(2)CH_(3))_(3),SbCl_(3),As(OC_(4)H_(9))_(3)などが挙げられ,不純物拡散成分(A)に含まれるIII族元素の化合物としては,例えば,B_(2)O_(3),Al_(2)O_(3)などが挙げられ,不純物拡散成分(A)にはこれらの化合物が1種類以上含まれる不純物拡散成分(A)」に替えて,引用例8の「『P_(2)O_(5)』『のドナー元素含有物質と』,『ガラス成分物質と,を含有する』『ドナー元素を含むガラス粉末』」,あるいは,引用例9の「『B_(2)O_(3),Al_(2)O_(3)』『から選択される少なくとも1種のアクセプタ元素含有物質と』『ガラス成分物質と,を含有する』『ガラス粉末成分物質』」であるガラス粒子を用いることは容易に想到し得たことである。
以上から,引用発明1において,相違点3について,本願補正発明1の構成とすることは,引用例8及び9に記載された事項に基づいて,当業者が容易になし得たことである。

ウ 効果について
上記相違点1ないし3による効果は当業者が予測する範囲内のものである。そして,本願補正発明1が,相違点1ないし3に係る効果の寄せ集めを超える顕著な効果を奏するとは,本願明細書の記載からは認めることができない。

(5)むすび
本願補正発明1は,引用例1に記載された引用発明と引用例2ないし9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の却下の決定のむすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであり,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年10月14日に提出された手続補正書による補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-18に係る発明は,平成28年3月28日に提出された補正書によって補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-18に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうち請求項1に係る発明に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
ドナー元素を含む粒子又はアクセプタ元素を含む粒子と,
イソボルニルシクロヘキサノール,イソボルニルフェノール,1-イソプロピル-4-メチル-ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物,及びp-メンテニルフェノールからなる群より選ばれる1種以上の特定有機化合物と,
アルコキシシランと,
を含有する不純物拡散層形成組成物。」

2 進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶理由に引用され,本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用例1ないし9に記載されている事項は,上記「第2 4 (2)引用例とその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりである。

(2)当審の判断
本願発明1を限定したものである本願補正発明1が,前記「第2 4 (3)本願補正発明1の進歩性について」で判断したとおり,引用例1に記載された発明と引用例2ないし9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと判断されることから,本願発明1も同様に,引用例1に記載された発明と引用例2ないし9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1に記載された発明と引用例2ないし9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-25 
結審通知日 2017-05-30 
審決日 2017-06-12 
出願番号 特願2012-106999(P2012-106999)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桑原 清  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 河口 雅英
加藤 浩一
発明の名称 不純物拡散層形成組成物、不純物拡散層の製造方法、太陽電池素子の製造方法、及び太陽電池  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
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