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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C03C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C03C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C03C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C03C
管理番号 1330761
審判番号 不服2016-5310  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-11 
確定日 2017-07-26 
事件の表示 特願2013-550736「真空ガラス部材の製造において真空を得る方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 9日国際公開、WO2012/103745、平成26年 4月 3日国内公表、特表2014-508087〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年8月17日(パリ条約による優先権主張 平成23年1月31日、中国)を国際出願日とする出願であって、平成26年8月27日付けで拒絶理由が通知され、同年10月24日付けで意見書が提出され、平成27年4月27日付けで拒絶理由が通知され、同年8月4日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年1月4日付けで拒絶査定されたのに対し、同年4月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされ、その後、同年7月29日付けで上申書が提出されたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 補正前の
「【請求項1】
真空ガラス部材の製造において真空を得る方法であって、当該方法は具体的に、
所定真空度を有する真空雰囲気中で、真空ガラス部材を構成する各ガラス板の組立および最終封着が行われるものであり、前記ガラス板の組立前には、前記ガラス板を一枚ずつ互いに独立させ、前記真空雰囲気中に配置し、これによって、組立てられた真空ガラス部材内部の真空空間は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有することを特徴とする真空ガラス部材の製造において真空を得る方法。」から、
「【請求項1】
真空ガラス部材の製造において真空を得る方法であって、当該方法は具体的に、
所定真空度を有する真空雰囲気中で、真空ガラス部材を構成する各ガラス板の組立および最終封着が行われるものであり、前記ガラス板の組立前には、前記ガラス板を一枚ずつ互いに独立させ、前記真空雰囲気中に配置し、前記各ガラス板は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有し、これによって、組立てられた真空ガラス部材内部の真空空間は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有することを特徴とする真空ガラス部材の製造において真空を得る方法。」(下線は補正箇所を示す。)と補正された。

2 補正事項について
上記請求項1についての補正は、各ガラス板についての限定を設けるもので、いわゆる限定的減縮を目的とするものといえることから、請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 独立特許要件について
(1)特許法第36条第6項第2号について
請求項1の「前記各ガラス板は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有し」との記載について検討するに、ガラス板自体が真空度を有するとは、どのようなガラスのことを意図しているのか、技術的に明確でない。
よって、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえないことから、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2)特許法第29条第1項第3号について
ア 請求項1における「前記各ガラス板は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有し」との記載は、上記(1)のとおり不明確であるものの、本願明細書の【0013】には「各ガラス板の周囲はすべて配置される真空雰囲気と全く同一の真空度を有する」との記載があり、また、請求人が提出した上記上申書で当該記載について「「前記各ガラス板の周囲は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有し」と補正する意思があります」述べていることからも、「各ガラス板は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有し」との記載は「前記各ガラス板の周囲は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有し」ていることを意味するものとして、以下判断する。

イ 引用例の記載事項及び引用発明
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である米国特許出願公開第2008/0245011号明細書(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、以下の引用発明の認定に関連する訳の部分に下線を付与した。
(1-ア)「[0001]The invention relates to a vacuum-insulated glass building element that is to a vacuum-insulated glass pane and also to other building components consisting of a combination of vacuum insulated glass including for example a solar module. The invention also resides in a method and an apparatus for the manufacture of such vacuum-insulated building elements.」
(訳:[0001]本発明は、真空断熱ガラス構成要素、すなわち、例えばソーラーモジュール等のような真空断熱ガラスの組み合わせとなる真空断熱ガラス板とその他の構成要素に関するものである。本発明は、また、そのような真空断熱構成要素を製造するための方法および装置である。)

(1-イ)「[0040]In a first method step A, the two individual glass panes are prepared under atmospheric conditions. This includes the connection of the metal foil strips to the individual glass panes and the attachment of the spacers to the bottom pane as well as the application of the getter material, if used.
[0041]The second method step B resides in the cleaning of the two individual panes, particularly the removal of water molecules from the pane surfaces.」
(訳:[0040]第1のステップAにおいて、2個の個々のガラス板は、大気条件下で用意される。これは、個々のガラス板への金属箔の結合と底側のガラス板へのスペーサーの取り付けを含み、必要なら、ゲッタ材の適用をも含む。
[0041]第2のステップBは、2個の個々のガラス板のクリーニング、特にガラス表面からの水分子の除去である。

(1-ウ)「[0043]The third method step C is the laser welding of the metal foil strips in a second vacuum chamber 13, which is schematically shown in FIG. 8 in a sectional view. Herein, first, the lower pane 2 is introduced into the vacuum chamber 13 and subsequently the upper pane is introduced and placed onto the lower pane. The vacuum chamber 13 is provided at its topside along all four corner areas with a, in each case, line-like window 14 which, of course, is interrupted by bridge areas of supporting material as necessary for the integrity of the top wall of the vacuum chamber 13. A laser cannon 15 is arranged on the outside, that is, above the vacuum chamber 13 and movable along the window 14 in order to direct the laser beam through the window 14 onto the metal foil strips to be welded. The pane arrangement is disposed within the vacuum chamber 13 on a corresponding carriage which is movable in the plane of the pane since, because of the design-based interruptions of the window 14, a certain movability of the pane arrangement is necessary in addition to the movability of the laser cannon.」
(訳:[0043]第3のステップCは、図8に断面図としてその模式図が示されているように、第2の真空チャンバ13中での金属箔のレーザー溶接である。ここで、まず、下側のガラス板2が、真空チャンバ13の中へ導入され、続いて、上側のガラス板が導入されて、下側のガラス板の上に配置される。真空チャンバ13には、その上側の壁の4つのコーナー部に沿って線状窓14が設けられており、もっともそれは、真空チャンバ13の上側の壁の保全のために必要に応じて設ける支持部材による橋梁領域によって遮られてもよい。レーザー照射器はその外側、すなわち、真空チャンバ13の上側に配置されており、窓14を通してレーザービームを溶接する金属箔に照射するために、窓14に沿って移動可能になっている。ガラス板は、ガラス板の平面方向で移動可能に対応する運び台に配置されており、窓14の設計に基づく妨害のために、レーザー照射器の移動に加えて、ガラス板の配置を動かすことが必要である。」

(1-エ)Fig.8として、以下の図面が記載されている。


上記(1-ア)?(1-エ)の記載から、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「真空断熱ガラスの製造方法であって、
大気条件下で2個の個々のガラス板への金属箔の結合と底側のガラス板へのスペーサーの取り付けを含むステップ、
下側のガラス板が、真空チャンバの中へ導入され、続いて、上側のガラス板が導入されて、下側のガラス板の上に配置され、真空チャンバ中での金属箔のレーザー溶接を行うステップを含む、方法。」(以下「引用発明1」という。)

ウ 補正発明との対比
(ア)引用発明1の「真空断熱ガラス」は、ガラス間に真空を得ることで得られるものであるから、引用発明の「真空断熱ガラスの製造方法」は、補正発明の「真空ガラス部材の製造において真空を得る方法」に相当しているといえる。

(イ)引用発明1の「真空チャンバの中」は、補正発明の「所定真空度を有する真空雰囲気中」に相当する。
また、補正発明の「各ガラス板の組立および最終封着」とは、具体的には、本願明細書に「二枚のガラス板を互いに一体になるよう組立てた後、レーザー溶接、電子ビーム溶接、シーム溶接、抵抗溶接、TIG溶接又は金属ろう付けによって、二枚のガラス板上の金属封着シート層8を互いに連結することができ、真空ガラス部材の気密封着を完成させる。」(【0019】)と記載されている。
してみれば、引用発明1の「上側のガラス板が・・・下側のガラス板の上に配置され、真空チャンバ中での金属箔のレーザー溶接を行う」ことは、補正発明の「所定真空度を有する真空雰囲気中で、真空ガラス部材を構成する各ガラス板の組立および最終封着が行われる」ことに相当するといえる。

(ウ)してみれば、補正発明と引用発明1とは、
(一致点)
「真空ガラス部材の製造において真空を得る方法であって、当該方法は具体的に、
所定真空度を有する真空雰囲気中で、真空ガラス部材を構成する各ガラス板の組立および最終封着が行われるものであり、真空ガラス部材の製造において真空を得る方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
補正発明では、「前記ガラス板の組立前には、前記ガラス板を一枚ずつ互いに独立させ、前記真空雰囲気中に配置し、前記各ガラス板(の周囲)は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有し、これによって、組立てられた真空ガラス部材内部の真空空間は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有する」のに対し、引用発明1では、「下側のガラス板が,真空チャンバに導入され、続いて、上側のガラス板が導入され」る点。

エ 相違点についての判断
引用発明1は「下側のガラス板が、真空チャンバの中へ導入され、続いて、上側のガラス板が導入され」るものであるから、上側のガラス板を下側のガラス板に接触せずに導入するため、上側のガラス板と下側のガラス板は一枚ずつ互いに独立させて、真空チャンバの中に配置されるものと認められ、この結果、各ガラス板(の周囲)は真空チャンバと全く同一の真空度を有し、これによって、組み立てられた真空断熱ガラスの内部は真空チャンバと全く同一の真空度を有しているといえる。
してみれば、上記相違点は実質的な相違点とはいえない。

オ 請求人の主張について
なお、請求人は、上記上申書で、引用発明1について、
「二枚のガラス板間のギャップ、および、ガラス板と真空チャンバとの間のギャップが非常に小さく、ガラス板1とガラス板2との間のギャップに多くのミドルウェア(middlewares)が存在するということです。これにより、真空化工程中に、真空チャンバ内に存在するガス分子の互いに衝突する回数(時間)、ガス分子の真空チャンバの側壁に衝突する回数およびガス分子のガラス板に衝突する回数は非常に多くなり、真空効率に深刻な影響を与えます。」と、また、補正発明(本願発明)について、
「真空化工程において、二枚のガラス板間のギャップおよびガラス板と真空チャンバの側壁との間のギャップは大きいため、真空チャンバ内に存在するガス分子の互いに衝突する回数、ガス分子の真空チャンバの側壁に衝突する回数およびガス分子のガラス板に衝突する回数は非常に減少し、ガス分子の平均自由行程は小さくなり、その結果、真空効率が非常に改善されます。」と主張しているが、補正発明は、二枚のガラス板間のギャップの大きさを特定しているわけではないし、空間においてガス分子がその空間にある物体に衝突する回数は、空間の真空度が同じであれば、空間の大きさによらず、当然同じになることが技術常識であるから、上記主張は技術常識に則したものでもない。
したがって、上記主張は採用できない。

カ 小括
したがって、補正発明は、引用例1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)特許法第29条第1項第3号又は第2項について
ア 引用例の記載事項及び引用発明
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2000-63157(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。なお、以下の引用発明の認定に関連する訳の部分に下線を付与した。
(2-ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複数のガラス板を重ね合わせて形成するガラスパネル及びその製造方法に関し、詳しくは、複数のガラス板の対向する対向面の間に、複数のスペーサを設けて、一方の前記対向面と他方の前記対向面との間に空隙を形成すると共に、前記空隙を前記両ガラス板の周部で気密に維持し、且つ、前記両ガラス板を一体化可能な封止材を、前記両対向面の周辺部に配置してあるガラスパネル及びその製造方法に関する。」

(2-イ)「【0029】〔別実施形態〕
〈1〉スペーサ予備形成体6を整高整形するのに代えて、周辺部9を封止する封止材5を焼成するシール焼成時に他方のガラス板で押圧して整高整形するようにしてもよい。例えば一方のガラス板1Aの温度及び他方のガラス板1Bの温度を予備整形体軟化温度に保持した状態で、前記両ガラス板1A,1Bを対向させて、接当端部6aを前記他方のガラス板1Bの対向面2Bに接当させて押圧することで行ってもよい。このようにすることで、予め前記他方のガラス板1Bの周辺部9に封止材5を配置しておいて、前記前記予備整形体軟化温度に保持してある炉中で、両ガラス板1A,1B同士を対向配置して、前記スペーサ予備形成体6の整高整形処理と、前記周辺部9の封止処理とを同時に施すことも可能である。
【0030】〈2〉上記〈1〉の同時処理について具体的に説明すると、ガラス板の周囲を封止するのに、例えば図5に示すように、ガラスパネル10の周辺部9の封止材5としての低融点ガラスから構成されるガラスペーストの塗布に印刷技術を活用すれば省力化でき、且つ高速に処理できるようになる。つまり、上記実施の形態に示したように、スペーサ形成用ペースト8の配置と共に、封止材5の配置にもスクリーン印刷を活用し、対向面2に固定配置されたスペーサ予備形成体6を予め整高整形してある一方のガラス板1Aを用意し、他方のガラス板1Bの周辺部9には全周に亘って封止材5を形成するための低融点ガラスからなるガラスペーストを印刷しておいて(同図(イ)参照)、両ガラス板1A,1Bを真空炉中で一体化する(同図(ロ)参照)ようにすれば、連続生産が可能となり、量産が容易になる。ここで、前記封止材5を形成するためのガラスペーストは、前記スペーサ3の高さより幾分厚くしておくとよい。両ガラス板1A,1Bを合わせる際にこのガラスペーストを加圧できることと、ガラスペーストの焼成の際に幾分収縮が見込まれるからである。尚、ガラスペーストを構成するガラスフリットに単なる低融点ガラスを用いても実施可能であるが、上記実施の形態と同様に、結晶化ガラスを用いると、スペーサ3、封止材5共に同質のガラスで形成することが可能であり、強度上昇も期待できる。このような真空炉中封止を行うことによって、空隙4の間隔を従来より小さくすることが可能となる。これは、従来の吸引口から空隙4内を吸引脱気する場合には、両対向面2間の間隔が小さくなれば、吸引に際する流路抵抗が増すために、十分に空隙4内を減圧できなかったのであるが、真空炉内で両ガラス板1A,1Bを重ね合わすことによって、両対向面2が真空雰囲気に曝されているから、封止材5を溶融して封着する際には、前記空隙4内は十分に減圧されているのである。
【0031】〈3〉上記〈2〉において、真空炉中で封止を行うのに、対向面2にスペーサ形成用ペースト8を印刷し、半固形化処理して整高整形した状態のスペーサ予備形成体6を複数所定位置に配置してある一方のガラス板1Aと、同じく対向面2の周辺部9に封止材5用のガラスペーストを前記ペースト成形体7の高さ以上の厚さに印刷してある他方のガラス板1Bとを、前記対向面2を、前記空隙4の間隔以上に維持した状態で対向させて、例えば400?600℃の焼成温度に維持された真空炉内に保持し、スペーサ予備形成体6の固形化処理と、封止材5としてのガラスペーストの脱泡とガラスフリットの融着とを行い、前記封止材5を前記一方のガラス板1Aの対向面2Aに接当させて両ガラス板1A,1Bを押し付け合った状態のまま放冷し、両ガラス板1A,1Bを一体化させ、ガラスパネル10を形成すればよい。ここで、前記封止材5用のペーストの塗布厚さを前記ペースト成形体7の高さ以上にしてあるから、前記ペースト成形体7の他端側の端部が他方のガラス板1Bに接当押圧されることなく封着できて、前記接当端部3aがガラス板1の対向面2に過度の接当圧力を及ぼすことを防止できる。以上のような製造手順によれば、ガラスパネル10の空隙4は、炉中でガラスペーストを焼成する際の炉内の真空度に維持されている。封止後に冷却することで、空隙4内はさらに減圧される。また、スペーサ3の焼成と封止材5による封止とを同時に行うから、作業効率が向上し、しかも同時に複数のガラスパネル10を同時に炉内で処理できる。尚、上記脱泡処理の際の加熱温度を前記焼成温度よりも20?30℃程度高くすれば脱泡が促進されるから、脱泡処理工程に時間を短縮できる。従って、真空加熱処理設備を準備すれば作業コストを大幅に低減できる。」

上記(2-ア)及び(2-イ)の記載から、引用例2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「複数のガラス板の対向する対向面の間に、複数のスペーサを設けて、一方の前記対向面と他方の前記対向面との間に空隙を形成すると共に、前記空隙を前記両ガラス板の周部で気密に維持し、且つ、前記両ガラス板を一体化可能な封止材を、前記両対向面の周辺部に配置してあるガラスパネルの製造方法であって、
対向面2に固定配置されたスペーサ予備形成体6を予め整高整形してある一方のガラス板1Aを用意し、他方のガラス板1Bの周辺部9には全周に亘って封止材5を形成するための低融点ガラスからなるガラスペーストを印刷しておいて、
前記対向面2を、前記空隙4の間隔以上に維持した状態で対向させて、例えば400?600℃の焼成温度に維持された真空炉内に保持し、
真空炉内で両ガラス板1A,1Bを重ね合わすことによって、両対向面2が真空雰囲気に曝され、
両ガラス板1A,1Bを真空炉中で一体化することにより、ガラスパネル10の空隙4は、炉中でガラスペーストを焼成する際の炉内の真空度に維持されている、方法。」
(以下「引用発明2」という。)

イ 補正発明との対比
(ア)引用発明2の「ガラスパネル」は、「一方の前記対向面と他方の前記対向面との間に空隙を形成すると共に、前記空隙を前記両ガラス板の周部で気密に維持」することで真空を得るものであるから、引用発明2の「複数のガラス板の対向する対向面の間に、複数のスペーサを設けて、一方の前記対向面と他方の前記対向面との間に空隙を形成すると共に、前記空隙を前記両ガラス板の周部で気密に維持し、且つ、前記両ガラス板を一体化可能な封止材を、前記両対向面の周辺部に配置してあるガラスパネルの製造方法」は、補正発明の「真空ガラス部材の製造において真空を得る方法」に相当しているといえる。

(イ)引用発明2の「真空炉中」は、補正発明の「所定真空度を有する真空雰囲気中」に相当する。
また、補正発明の「各ガラス板の組立および最終封着」とは、具体的には、本願明細書に「その封着材料5は周知の低融点ガラス封着材料である。このように、上下二枚のガラス板1、3を互いに一体になるよう組立てた後、真空室中で加熱によって封着材料5と上下の二枚ガラス板1、3を互いに溶着し、真空ガラス部材の気密封着を完成させる。」(【0014】)とも記載されている。
してみれば、引用発明2の「両ガラス板1A,1Bを真空炉中で一体化すること」及び「炉中でガラスペーストを焼成する」ことは、補正発明の「所定真空度を有する真空雰囲気中で、真空ガラス部材を構成する各ガラス板の組立および最終封着が行われる」ことに相当するといえる。

(ウ)引用発明2の「前記対向面2を、前記空隙4の間隔以上に維持した状態で対向させて」「真空炉内に保持し」、「真空炉内で両ガラス板1A,1Bを重ね合わすことによって、両対向面2が真空雰囲気に曝され」ることは、補正発明の「各ガラス板(の周囲)は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有」することに相当するといえる。
そして、引用発明2の「両ガラス板1A,1Bを真空炉中で一体化することにより、ガラスパネル10の空隙4は、炉中でガラスペーストを焼成する際の炉内の真空度に維持されている」ことは、補正発明の「組立てられた真空ガラス部材内部の真空空間は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有する」ことに相当する。

(エ)してみれば、補正発明と引用発明2とは、
(一致点)
「真空ガラス部材の製造において真空を得る方法であって、当該方法は具体的に、
所定真空度を有する真空雰囲気中で、真空ガラス部材を構成する各ガラス板の組立および最終封着が行われるものであり、前記各ガラス板(の周囲)は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有し、これによって、組立てられた真空ガラス部材内部の真空空間は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有する真空ガラス部材の製造において真空を得る方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
補正発明では、前記ガラス板の組立前には「前記ガラス板を一枚ずつ互いに独立させ」前記真空雰囲気中に配置しているのに対し、引用発明2では、真空炉中でガラス板1A,1Bを「一枚ずつ互いに独立させ」ているかどうか不明である点。

ウ 相違点についての判断
引用発明2は、真空炉中でガラス板1A,1Bを「一枚ずつ互いに独立させ」ているかどうか不明であるものの、摘記(2-イ)に記載されているとおり、引用発明は「従来の吸引口から空隙4内を吸引脱気する場合には、両対向面2間の間隔が小さくなれば、吸引に際する流路抵抗が増すために、十分に空隙4内を減圧できなかったのであるが、真空炉内で両ガラス板1A,1Bを重ね合わすことによって、両対向面2が真空雰囲気に曝されているから、封止材5を溶融して封着する際には、前記空隙4内は十分に減圧されている」ようにするものであるから、真空炉中でガラス板1Aと1Bを離して、両対向面2間の間隔を保つこと、すなわち、引用発明2において、真空炉中でガラス板1A,1Bを「一枚ずつ互いに独立させ」ることは当業者とって、自明ないしは容易になし得たことである。

エ 小括
したがって、補正発明は、引用例2に記載された発明であるか、当該発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は同条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
以上のとおり、補正発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、あるいは、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすとしても、特許法第29条第1項第3号に該当し、若しくは、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成27年8月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1の補正前の【請求項1】に記載されたとおりのものである。

2 引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記引用例1及び2の記載事項は、上記第2の3(2)イ及び(3)アに記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、補正発明から「前記各ガラス板は前記真空雰囲気と全く同一の真空度を有し」との限定を省いた発明であり補正発明を包含するものであるところ、その補正発明が、前記第2の3(2)及び(3)で記載したとおり、引用例1、2に記載された発明であるか、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、引用例1、2に記載された発明であるか、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2017-02-27 
結審通知日 2017-02-28 
審決日 2017-03-13 
出願番号 特願2013-550736(P2013-550736)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C03C)
P 1 8・ 575- Z (C03C)
P 1 8・ 121- Z (C03C)
P 1 8・ 113- Z (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 潤  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 三崎 仁
瀧口 博史
発明の名称 真空ガラス部材の製造において真空を得る方法  
代理人 特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所  

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