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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10L
管理番号 1330814
審判番号 不服2014-19200  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-26 
確定日 2017-08-22 
事件の表示 特願2009-263214「内燃機関用燃料」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月 2日出願公開、特開2011-105872〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年11月18日の出願であって、平成25年8月28日付けの拒絶理由通知書に対して、同年10月31日付けで意見書が提出され、平成26年6月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月26日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 本願に係る発明について
本願に係る発明は、平成26年9月26日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下の事項により特定されるものである。

「軽油、灯油、ガソリンまたはA重油である石油燃料に、ジメチルアルキル3級アミンからなる燃料油注入剤を0.5?1容量%の範囲で注入したことを特徴とする内燃機関用燃料。」

第3 原審の拒絶査定の概要
原審において、平成25年8月28日付け拒絶理由通知書で概略以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「 理 由
1.(省略)

2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

理由1、2について
・請求項 1?3
・引用文献等 1、2
・備考
引用文献1、2には、N,N-ジメチルラウリルアミンを1%含有するディーゼルエンジン用燃料が記載されている(引用文献1のTable 6, Fig. 3等、引用文献2のTable 4, Fig. 3等)。
また、N,N-ジメチルラウリルアミンの量を上記数値を参考に調整することや、他の燃料油等に適用すること、アルキル基の炭素数を調整する程度のことは当業者が容易になし得たことである。
・・(中略)・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.Journal of Energy Resources Technology,
1999年,Vol.121,pp.225-230
・・(後略)」

<拒絶査定>
「この出願については、平成25年 8月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
理由1、2(特許法第29条第1項第3号、同条第2項)
・請求項1?3
・上記拒絶理由通知書で引用した引用文献1?10
平成25年10月31日付け意見書において、出願人は、
「請求項1の発明は、ジメチルアルキル3級アミンからなる燃料油注入剤を含有するのに対し、引用文献1,2の発明は、N,N-ジメチルドデシルアミンを含有するものであり、含有する燃料油注入剤が異なっているし、請求項1の発明は、燃料油注入剤を0.5?1容量%の範囲で注入したものであるのに対し、引用文献1,2の発明は、1%含有するものであり、含有量も異なっている。
よって、請求項1?3の発明は、引用文献1,2に記載された発明ではない。」
と主張している。
しかしながら、N,N-ジメチルドデシルアミンは、ジメチルアルキル3級アミンであるから、燃料油注入剤は異なっていないし、含有量も1%の点で相違していない。
したがって、出願人の上記主張を採用することはできない。」

第4 当審の判断

1.刊行物に記載された事項
本審決で引用する刊行物は、以下のとおりである。
刊行物1:Journal of Energy Resources Technology,
1999年,Vol.121,pp.225-230
(原査定における「引用文献1」)
上記刊行物1には、以下の事項が記載されている(なお、『』内は、当審による仮訳である。)。

(1-a)
「Diesel Fuel Extenders

Antiknock Performance. Cetane number (CN) is one of the most important road fuel properties, as it expresses the ignition quality of the automotive diesel; it must be stressed that good ignition quality results in exhaust emission reduction (Russel,1989). Table 6 shows the impact of the two nitrogen compounds tested as diesel substitutes on cetane number. In this table, the increases observed in CN values and the BCN (blending cetane number) of the compounds are presented. BCN is defined through a mathematical relationship, similar to that already described for BRON values, and expresses the cetane number of the substitute when blended with the base fuel, assuming that the impact on mixture cetane number is linear. BCN depends on both chemical structure and concentration; for many compounds there is a concentration range where BCN is higher, which means that these compounds have the best antiknock effectiveness in these concentrations.
The data of Table 6 show clearly that the compounds studied enhanced the ignition quality of diesel fuel; the magnitude of the positive impact depended on the structure of the compound and on concentration. Particularly, N, N-dimethy1-dodecylamine appears to be very effective, even when tested in small concentrations (1 percent w/v), and performed better than dibuty1 palmitamide. Both compounds appear to have their best antiknock effectiveness in low concentrations (1-2 percent w/v).
It must be stressed that both compounds tested can be prepared from fatty acids and, especially if they are used in small concentrations (1-2 percent w/v), they appear to have higher ignition quality than fatty acid methylesters (biodiesel) (Klopfenstein, 1985; Freedman and Bagby ,1990).
Effects on Exhaust Emissions. A general tendency in diesel fuels is that compounds with high CN values have a positive effect on exhaust emissions. Table 7 presents the exhaust emissions from the Petter engine when fueled with base fuel O, while Figs.2-3 show the impact of the addition of the compounds tested on NOx and particulate matter emissions, respectively, No significant change of HC and CO emissions were observed. Although, it is known that the increase of CN leads to the improvement of HC and CO emissions, the Petter engine employed emitted these two pollutants at very low levels, even when fueled with conventional fuels.
The addition of nitrogen compounds in diesel fuel did not have any apparent, negative effect on NOx emissions, as seen in Fig. 2. This behavior can be attributed to the compression engine technology; combustion takes place in the presence of high quantities of atmospheric nitrogen. Consequently, the nitrogen amount added by the novel component is negligible when compared with the total amount of the atmospheric nitrogen. An important result from these experiments was the beneficial impact of the compounds tested on particulate matter emissions. The nitrogen compounds studied reduced particulate matter emissions; this behavior was more evident, as the concentration of the added compound increased, as seen in Fig. 3.」(229頁左欄下から11行?右欄下から5行)
『ディーゼル燃料向上剤

耐ノック性について。セタン価(CN)は、ディーゼル車の着火性を示す上で、最も重要な燃料性能の一つである。良好な着火性は結果的に排出ガスを減少させるといわれている(Russel,1989)。セタン価についてディーゼル代替品として試験された2種の窒素化合物の影響を、表6に示す。この表では、CN値の増加及び化合物のBCN(混合セタン価)が示されている。既出のBRON 値と同様、BCNは数学的関係により定義され、ベース燃料とブレンドした際の代替品のセタン価を示している。混合した際のセタン価の影響は一次的であると仮定する。BCNは化学的構造及び濃度の両者に依存する。化合物の多くは、BCNがより高い濃度範囲にあり、こうした濃度では、最適な耐ノック性効果をこれらの化合物は有すものといえる。
研究で使用された化合物がディーゼル燃料の着火性を向上させたこと、プラスの効果の大きさは化合物の構造と濃度によること、が表6のデータにより明らかになった。特に、N,N-ジメチルドデシルアミンは、低濃度(1%w/v)の試験で、更にジブチルパルミタミドよりも大変効果的であることがわかる。両化合物は低濃度(1-2%w/v)において最適な耐ノック性を有すと思われる。
試験に供された両化合物は脂肪酸から調製することができ、特に、化合物を低濃度(1-2%w/v)で使用した場合、脂肪酸メチルエステル(バイオディーゼル)よりも高い着火性を有すとされる(Klopfenstein,1985;Freedman and Bagby,1990)。
排出ガスに関する効果。ディーゼル燃料についての一般的な傾向として、高いCN値を持つ化合物は排出ガスについてプラスの効果を持つとされる。ベース燃料Oを燃料とするPetterエンジンからの排出ガスについて、表7に示す。一方、図2-3では、NOx、PM排出ガスそれぞれに関し、化合物の添加による影響について示す。HC及びCO排出ガスについて重大な変化は見られなかった。しかし、CNの増加はHC及びCO排出ガスの改善に導くことは知られていることではあるが、従来の燃料を使用したときでさえ、Petterエンジンがこの2つの大気汚染物質の排出を低濃度に抑えたといえる。
図2に示すように、ディーゼル燃料への窒素化合物の添加は、NOx排出において明らかに負の効果をもたらすものではなかった。この作用結果は圧縮エンジン技術に因るものである。燃焼は高い大気窒素量存在下で生じる。 したがって、大気窒素全量と比べても新規組成物として添加された窒素量はわずかである。これらの実験から得られた重要な結果は、粒状物質排出量について試験した化合物の有益な効果であった。窒素化合物を用いて粒状物質排出量の減少について研究した。図3に示すように、添加化合物の濃度を増加させることにより、この作用がさらに明らかになった。』

(1-b)
「Table 3 shows the characteristics of the base fuels used in the tests in diesel engines. Fuel K is a poor ignition quality conventional diesel fuel that is used for cetane number measurements, while fuel 0 is a high-quality reference diesel fuel (CEC-T-90 reference fuel), mainly used as a reference fuel in emission measurements.」(225頁右欄下から4行?226頁左欄2行)
『表3はディーゼエンジンの試験に使用されるベース燃料の特性を示す。ベース燃料Kはセタン価の測定のために使用される着火品質の乏しい従来型ディーゼ燃料である。一方、ベース燃料Oは着火品質の高い参照ディーゼ燃料(CEC-T-90参照燃料)であり、排気試験において参照ディーゼ燃料として主に使用される。』

(1-c)


」(226頁)

(1-d)


」(228頁)




2.本願発明についての検討

(1)刊行物に記載された発明
摘示(1-d)のTable 6における「BFK」は、摘示(1-b)及び摘示(1-c)のTable 3からみて、ディーゼルベース燃料Kを意味するものと認められ、摘示(1-a)及び摘示(1-d)の「Table 6」における「N,N-ジメチルドデシルアミン」欄の「1(w/v in BFK)」からみて、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「ディーゼル燃料に、N,N-ジメチルドデシルアミンからなるディーゼル燃料向上剤を1w/v %注入したディーゼル燃料組成物。」
に係る発明(以下、「引用発明」という。)

(2)対比・検討
ア 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明における「ディーゼル燃料」、「N,N-ジメチルドデシルアミンからなるディーゼル燃料向上剤」及び「ディーゼル燃料組成物」は、それぞれ、本願発明における「軽油」、「ジメチルアルキル3級アミンからなる燃料油注入剤」及び「内燃機関用燃料」に相当する。

(イ)上記(ア)からみて、本願発明と引用発明とは、
「軽油に、ジメチルアルキル3級アミンからなる燃料油注入剤を特定比率で注入した内燃機関用燃料。」
の点で一致し、下記の点で相違する。

相違点:本願発明は、ジメチルアルキル3級アミンからなる燃料油注入剤が、0.5?1容量%の範囲であるのに対して、引用発明は、1w/v %である点。

イ 検討
(ア)相違点について
引用発明の「1w/v %」が本願発明の「1容量%」と近傍することは当業者に自明であるから、引用発明において、「1w/v %」をその近傍である「1容量%」に変化させることは当業者が適宜に得ることである。

(イ)効果
本願明細書の【0027】【表1】、【0028】【表2】、【0029】【表3】、【0036】【表10】【0037】【表11】及び【0050】?【0079】の記載をみても、「1容量%」に臨界的意義があるものとはいえないことからして、本願発明の奏する効果は引用発明の奏する効果と同程度のものであるというべきである。
さらにいえば、引用発明は、摘示(1-d)の「Table 6」並びに摘示(1-a)の「ディーゼル燃料についての一般的な傾向として、高いCN値を持つ化合物は排出ガスについてプラスの効果を持つとされる」及び「CNの増加はHC及びCO排出ガスの改善に導くことは知られていることではある」からみて、排出ガス低減の効果を奏するものと認められる。そして燃費が向上することにより、排気ガスが減少することは当業者に自明である(例えば、特表2004-530739号公報【0003】参照)から、引用発明は排出ガス低減の効果とともに、燃費が向上することの効果をも奏するものであるというべきである。

ウ 検討のまとめ
したがって、本願発明は、当業者が、刊行物1に記載された発明及び刊行物1に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものである。

3.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願発明は、当業者が、刊行物1に記載された発明及び刊行物1に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではない。

第5 むすび
したがって、本願は、他の請求項に係る各発明につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-07 
結審通知日 2015-08-11 
審決日 2015-08-24 
出願番号 特願2009-263214(P2009-263214)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福山 則明  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 日比野 隆治
菅野 芳男
発明の名称 内燃機関用燃料  
代理人 鳥巣 実  
代理人 鳥巣 実  
代理人 鳥巣 実  
代理人 鳥巣 実  
代理人 鳥巣 実  

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