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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1330921
審判番号 不服2016-8141  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-02 
確定日 2017-08-02 
事件の表示 特願2013-513781「半導体発光デバイスのパッシベーション」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月15日国際公開,WO2011/154857,平成25年 7月 8日国内公表,特表2013-528325〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2011年5月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年6月7日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成24年12月10に手続補正がされ,平成27年3月12日付けで拒絶理由が通知され,同年9月16日に手続補正がされるとともに同時に意見書が提出され,平成28年1月28日付け(同年2月2日送達)で拒絶査定がされ,これに対して同年6月2日に審判請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[結論]
平成28年6月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,明細書及び特許請求の範囲を補正するものであり,本件補正の前後で特許請求の範囲の請求項7は以下のとおりである。
〈補正前〉
「【請求項7】
デバイスであって:
n型領域とp型領域との間に配置された発光層を含む半導体構造体と;
前記半導体構造体の側面の少なくとも部分の上に配置され,アンダーフィルに対して接着するように構成されており,かつ,前記半導体構造体と前記アンダーフィルとの間に挟まれているパッシベーション層と;を含み,
前記半導体構造体にコンタミネーションが達することを防ぐために,前記側面上に前記アンダーフィルと前記パッシベーション層がシールを形成する,
ことを特徴とするデバイス。」

〈補正後〉
「【請求項7】
デバイスであって:
n型領域とp型領域との間に配置された発光層を含む半導体構造体と;
前記半導体構造体の側面の少なくとも部分の上に配置され,アンダーフィルに対して接着するように構成されており,かつ,前記半導体構造体と前記アンダーフィルとの間に挟まれているパッシベーション層と;を含み,
前記半導体構造体にコンタミネーションが達することを防ぐために,前記側面上に前記アンダーフィルと前記パッシベーション層がシールを形成しており,
前記パッシベーション層は,屈折率が異なる二つの材料が交互に重なる層を含む多重誘電体スタックであり,前記n型領域と前記多重誘電体スタックとの間の境界面における発光を反射する,
ことを特徴とするデバイス。」

2 補正事項の整理
本件補正の,請求項7についての補正事項は以下のとおりである。
〈補正事項〉
補正前の請求項7の「前記半導体構造体にコンタミネーションが達することを防ぐために,前記側面上に前記アンダーフィルと前記パッシベーション層がシールを形成する,」を,補正後の請求項7の「前記半導体構造体にコンタミネーションが達することを防ぐために,前記側面上に前記アンダーフィルと前記パッシベーション層がシールを形成しており,
前記パッシベーション層は,屈折率が異なる二つの材料が交互に重なる層を含む多重誘電体スタックであり,前記n型領域と前記多重誘電体スタックとの間の境界面における発光を反射する,」と補正すること。

3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討
前記補正事項は,補正前の「パッシベーション層」について,補正後の「屈折率が異なる二つの材料が交互に重なる層を含む多重誘電体スタックであり,前記n型領域と前記多重誘電体スタックとの間の境界面における発光を反射する」ものとして,補正前の請求項7の発明特定事項である「パッシベーション層」について技術的に限定するものである。よって,前記補正事項は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,「パッシベーション層」が「屈折率が異なる二つの材料が交互に重なる層を含む多重誘電体スタックであり,前記n型領域と前記多重誘電体スタックとの間の境界面における発光を反射する」ものであることは,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の段落【0019】?【0020】に記載されている。よって,前記補正事項は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

上記のとおり,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むから,以下においては,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかについて検討する。

4 独立特許要件についての検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項7に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(再掲。以下「本願補正発明」という。)。
「【請求項7】
デバイスであって:
n型領域とp型領域との間に配置された発光層を含む半導体構造体と;
前記半導体構造体の側面の少なくとも部分の上に配置され,アンダーフィルに対して接着するように構成されており,かつ,前記半導体構造体と前記アンダーフィルとの間に挟まれているパッシベーション層と;を含み,
前記半導体構造体にコンタミネーションが達することを防ぐために,前記側面上に前記アンダーフィルと前記パッシベーション層がシールを形成しており,
前記パッシベーション層は,屈折率が異なる二つの材料が交互に重なる層を含む多重誘電体スタックであり,前記n型領域と前記多重誘電体スタックとの間の境界面における発光を反射する,
ことを特徴とするデバイス。」

(2)刊行物等に記載された発明
引用例:特開2006-279080号公報
ア 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2006-279080号公報(以下「引用例」という。)には,図1?図5とともに,以下の記載がある(下線は当審において付加。以下同様。)。

(ア)技術分野
「【0001】
本発明は,面実装用のチップ型発光素子およびその製造方法に関する。」

(イ)課題を解決するための手段
「【0010】
本発明に係るチップ型発光素子は,支持部材と,支持部材上に配置された発光素子チップとを備え,支持部材は,絶縁基板と,絶縁基板の上面に形成された一対の第1の導電膜と,絶縁基板の裏面に形成された一対の第2の導電膜と,一対の第1の導電膜と一対の第2の導電膜とをそれぞれ電気的に接続する少なくとも一対の接続部とを有し,発光素子チップは,透光性基板と,透光性基板上に形成された半導体発光層と,半導体発光層上に形成された一対の電極とを有し,支持部材の一対の第1の導電膜に発光素子チップの一対の電極が接合された状態で支持部材上に発光素子チップが貼り合わされたものである。
【0011】
・・・(中略)・・・
【0018】
支持部材と発光素子チップとの間隙に樹脂が充填されてもよい。これにより,支持部材と発光素子チップとの接合の機械的強度および耐環境特性が向上する。」

(ウ)第1の実施例
「【0036】
図1は本発明の第1の実施例における面実装用のチップ型発光素子の模式的断面図である。
【0037】
図1のチップ型発光素子100は,積層型アルミナ基板10上に発光ダイオードチップ(以下,LEDチップと呼ぶ)20が接合されてなる。
【0038】
・・・(中略)・・・
【0039】
一方,LEDチップ20は,透光性のサファイア基板21上にLED発光層28が形成されてなる。LED発光層28上にはp電極25およびn電極26が形成されている。
【0040】
積層型アルミナ基板10上にサファイア基板21を上に向けてLEDチップ20が貼り合わされ,LEDチップ20のp電極25およびn電極26が,Au(金)バンプ30および銀ペースト31によりそれぞれ積層型アルミナ基板10の電極パッド13に接合されている。積層型アルミナ基板10とLEDチップ20との間にはアンダーフィル樹脂32が充填されている。それにより,積層型アルミナ基板10上にLEDチップ20が固定されている。
・・・(中略)・・・
【0047】
図3(a),(b),(c)は図1のチップ型発光素子100に用いられるLEDチップ20のそれぞれ模式的平面図および模式的断面図である。
【0048】
図3に示すように,透光性の単結晶のサファイア基板21上に,GaN(窒化ガリウム)系化合物半導体からなるバッファ層22,n型半導体層23およびp型半導体層24が順に形成されている。p型半導体層24の一部領域が除去され,n型半導体層23が露出している。バッファ層22,n型半導体層23およびp型半導体層24がLED発光層28を構成する。このLED発光層28は,B(ホウ素),Ga(ガリウム),Al(アルミニウム)およびIn(インジウム)の少なくとも1つを含む他の窒化物系半導体により形成してもよい。
【0049】
p型半導体層24上にはp電極25が形成されている。p電極25の全面には,可視光に対して反射率の高いPd/Al等からなる反射膜(図示せず)が蒸着法等により形成されている。それにより,LED発光層28から出射した光が反射膜でサファイア基板21の側に反射される。その反射膜上および露出したn型半導体層23上には,n電極26が露出するようにSiO_(2 ),SiN等からなる絶縁保護膜27が形成されている。
【0050】
p型電極25上の絶縁保護膜27には,窓29が設けられ,p電極25の一部が窓29内に露出している。それにより,実質的にp電極25とn電極26との間の距離が隔てられ,短絡等による不良が防止される。また,このLEDチップ20のp電極25およびn電極26と積層型アルミナ基板10の電極パッド13との接合に半田ボールを用いた際に,窓29が半田留めとして作用し,半田ボールの形状の維持および半田ボールのセルフアライメントが可能となる。
【0051】
図3に示すように,p電極25とn電極26との間には数μm程度の段差が形成されている。この段差は,後述する製造工程により吸収される。
【0052】
図4および図5は図1のチップ型発光素子100の製造方法を示す模式的工程断面図である。
【0053】
まず,図4(a)に示すように,ウエハ状の透光性のサファイア基板21上に,図3に示した構造を有するGaN系化合物半導体からなるLED発光層28を形成し,電流供給のための電極形成プロセスによりp電極25およびn電極26を形成する。それにより,LEDウエハ20aが形成される。
【0054】
・・・(中略)・・・
【0058】
次いで,図4(d)に示すように,積層型アルミナ基板10上にLEDウエハ20aをAuバンプ30を下にして張り合わせて固定する。この場合,Auバンプ30上の銀ペースト31を積層型アルミナ基板10の電極パッド13に位置合わせする。この場合,図2に示した積層型アルミナ基板10においては,電極パッド13の面積が広いため,位置合わせの許容性が高くなっている。
【0059】
・・・(中略)・・・
【0061】
次いで,図5(e)に示すように,積層型アルミナ基板10とLEDウエハ20aとの接合の機械的強度を高め,かつ熱応力,湿度等に対する耐環境特性を高めるために,積層型アルミナ基板10とLEDウエハ20aとの間にアンダーフィル樹脂32を注入する。アンダーフィル樹脂32としては,絶縁性を有し,流動性を保持し,かつアルミナおよびGaN系化合物半導体の線膨張係数を考慮したエポキシ樹脂等の材料を用いる。
【0062】
・・・(中略)・・・
【0069】
本実施例のチップ型発光素子100の製造方法においては,図4(d)および図5(e)の工程で積層型アルミナ基板10にLEDウエハ20を接合した後に図5(f)の工程でサファイア基板21の研磨を行い,図5(g)の工程でチップ化を行っているので,LEDウエハ20aのサファイア基板21における割れおよび反りに対する耐性が高められている。したがって,サファイア基板1およびLED発光層28を含むLEDウエハ20aを研磨して厚み50μm以下に薄くしても,サファイア基板1の割れおよび反りが生じない。
【0070】
・・・(中略)・・・
【0071】
また,LED発光層28から発生した光は透光性のサファイア基板21を通して外部に出射される。この場合,p電極25およびn電極26はサファイア基板21と反対側のLED発光層28上に形成されているので,光がp電極25およびn電極26で遮断されない。したがって,高輝度化が可能となる。」

(エ)図1は次のものである。


(オ) 図3は次のものである。


イ 上記ア(イ)から,「支持部材と発光素子チップとの間隙に樹脂が充填されてもよ」く,「これにより,支持部材と発光素子チップとの接合の機械的強度および耐環境特性が向上する」ところ,当該「耐環境特性」としては,上記ア(ウ)の「かつ熱応力,湿度等に対する耐環境特性を高めるために,積層型アルミナ基板10とLEDウエハ20aとの間にアンダーフィル樹脂32を注入する」(段落【0061】)との記載から,「熱応力」及び「湿度等」対する耐環境特性を含むことがわかる。

ウ 上記ア(ウ)の段落【0047】?【0051】の記載とともに,前記ア(オ)の図3を参照すると,「p型半導体層24の一部領域が除去され,n型半導体層23が露出している」ことに伴い,n型半導体層23およびp型半導体層24からなるLED発光層28には段差部が生じており,絶縁保護膜27は,当該LED発光層28の段差部にも設けられていることがわかる。

エ 上記ア(ウ)の段落【0039】?【0040】の記載とともに,前記ア(エ)の図1を参照すると,アンダーフィル樹脂32は,積層型アルミナ基板10と,LEDチップ20のLED発光層28が設けられた側との間に隙間なく充填されていることが見て取れる。

オ 以上を総合すると,引用例には以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。
「チップ型発光素子であって,
支持部材と,支持部材上に配置された発光素子チップ20とを備え,支持部材の一対の第1の導電膜に発光素子チップ20のp電極25及びn電極26が接合された状態で支持部材上に発光素子チップ20が貼り合わされたものであり,
発光素子チップ20は,透光性の単結晶のサファイア基板21上に,GaN(窒化ガリウム)系化合物半導体からなるバッファ層22,n型半導体層23およびp型半導体層24が順に形成され,p型半導体層24の一部領域が除去され,n型半導体層23が露出しており,バッファ層22,n型半導体層23およびp型半導体層24が段差部が生じているLED発光層28を構成し,
p型半導体層24上にはp電極25が形成され,p電極25の全面には,可視光に対して反射率の高いPd/Al等からなる反射膜が蒸着法等により形成されて,それにより,LED発光層28から出射した光が反射膜でサファイア基板21の側に反射され,その反射膜上,露出したn型半導体層23上および前記LED発光層28の段差部には,n電極26が露出するようにSiO_(2 ),SiN等からなる絶縁保護膜27が形成されており,
支持部材と,発光素子チップ20のLED発光層28が設けられた側との間隙には隙間なくアンダーフィル樹脂32が充填されており,これにより,支持部材と発光素子チップ20との接合の機械的強度,および熱応力,湿度等に対する耐環境特性が向上するものである,
チップ型発光素子。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを比較する。
ア 引用発明の「発光素子チップ20は,透光性の単結晶のサファイア基板21上に,GaN(窒化ガリウム)系化合物半導体からなるバッファ層22,n型半導体層23およびp型半導体層24が順に形成され,p型半導体層24の一部領域が除去され,n型半導体層23が露出しており,バッファ層22,n型半導体層23およびp型半導体層24がLED発光層28を構成し」たものと,本願補正発明の「n型領域とp型領域との間に配置された発光層を含む半導体構造体」とは,「n型領域とp型領域とを含む半導体構造体」である点で一致する。

イ 引用発明においては,「絶縁保護膜27」が「露出したn型半導体層23上および前記LED発光層28の段差部」にも形成されており,「LED発光層28」の側面にも形成されているところ,「支持部材と,発光素子チップ20のLED発光層28が設けられた側との間隙には隙間なくアンダーフィル樹脂32が充填されて」いるから,「絶縁保護膜27」と「アンダーフィル樹脂32」が接着していることは明らかである。それゆえ,引用発明の「絶縁保護膜27」は,本願補正発明の「前記半導体構造体の側面の少なくとも部分の上に配置され,アンダーフィルに対して接着するように構成されており,かつ,前記半導体構造体と前記アンダーフィルとの間に挟まれているパッシベーション層」に相当する。

ウ 上記イで検討したとおり,引用発明においては,「絶縁保護膜27」が「露出したn型半導体層23上および前記LED発光層28の段差部」にも形成されており,「LED発光層28」の側面にも形成されているところ,「発光素子チップ20のLED発光層28が設けられた側との間隙には隙間なくアンダーフィル樹脂32が充填されており,これにより,支持部材と発光素子チップ20との接合の機械的強度,および熱応力,湿度等に対する耐環境特性が向上するものである」から,「前記LED発光層28の段差部」には「アンダーフィル樹脂32」も設けられていることは明らかである。また,当該「アンダーフィル樹脂32」が,「発光素子チップ20のLED発光層28」の「湿度等に対する耐環境特性が向上する」ことに寄与することも明らかである。よって,引用発明における「絶縁保護膜27」と「アンダーフィル樹脂32」を合わせたものと,本願補正発明の「前記半導体構造体にコンタミネーションが達することを防ぐために,前記側面上に前記アンダーフィルと前記パッシベーション層がシールを形成して」いることとは,「前記半導体構造体にコンタミネーションが達することを防ぐために,前記側面上に少なくとも前記アンダーフィルがシールを形成して」いる点で一致する。

エ 引用発明における「SiO_(2 ),SiN等からなる絶縁保護膜27」が誘電体からなることは明らかである。よって,当該「絶縁保護膜27」と,本願補正発明の「前記パッシベーション層は,屈折率が異なる二つの材料が交互に重なる層を含む多重誘電体スタックであり,前記n型領域と前記多重誘電体スタックとの間の境界面における発光を反射する」とは,「前記パッシベーション層は,誘電体層である」点で一致する。

オ 引用発明の「チップ型発光素子」は,引用発明の「デバイス」に相当する。

カ したがって,引用発明と本願補正発明とは,
「デバイスであって:
n型領域とp型領域とを含む半導体構造体と;
前記半導体構造体の側面の少なくとも部分の上に配置され,アンダーフィルに対して接着するように構成されており,かつ,前記半導体構造体と前記アンダーフィルとの間に挟まれているパッシベーション層と;を含み,
前記半導体構造体にコンタミネーションが達することを防ぐために,前記側面上に少なくとも前記アンダーフィルがシールを形成しており,
前記パッシベーション層は,誘電体層である,
デバイス。」
である点で一致する。

ク 一方,両者は以下の各点で相違する。
《相違点1》
本願補正発明は「n型領域とp型領域との間に配置された発光層を含む半導体構造体」を備えるのに対して,引用発明は「n型領域とp型領域とを含む半導体構造体」に対応する構成を備えるものの,「n型領域とp型領域との間に配置された発光層」を備えることまでは特定されていない点。
《相違点2》
本願補正発明は,「前記半導体構造体にコンタミネーションが達することを防ぐために,前記側面上に前記アンダーフィルと前記パッシベーション層がシールを形成して」いる構成を備えるのに対して,引用発明は,「前記半導体構造体にコンタミネーションが達することを防ぐために,前記側面上に少なくとも前記アンダーフィルがシールを形成して」いることに対応する構成を備えるものの,「前記半導体構造体にコンタミネーションが達することを防ぐために,」前記側面上に前記アンダーフィルだけではなく,前記パッシベーション層もシールを形成しているか否か明らかでない点。
《相違点3》
本願補正発明は,「前記パッシベーション層は,屈折率が異なる二つの材料が交互に重なる層を含む多重誘電体スタックであり,前記n型領域と前記多重誘電体スタックとの間の境界面における発光を反射する」構成を備えるのに対して,引用発明は「前記パッシベーション層は,誘電体層である」ものの,上記本願補正発明に係る構成は備えない点。

(4)判断
上記各相違点について検討する。
ア 《相違点1》について
発光ダイオード(LED)において,n型半導体層とp型半導体層の間に発光層(活性層)を設けることは,以下の周知例1及び2にも示されているように,キャリアのより確実な発光再結合を図るため,従来より周知・慣用される技術である。
それゆえ,引用発明の「発光素子チップ20」において,「n型半導体層23およびp型半導体層24が順に形成され」た構成に代えて,n型半導体層とp型半導体層の間に発光層(活性層)を設ける構成として,相違点1に係る構成を備えることは,当業者が適宜になし得たことである。

周知例1:特開平11-87771号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平11-87771号公報(以下「周知例1」という。)には,図3とともに,以下の記載がある。
「【0024】
【実施例】以下に本発明の一実施例を示すが,本発明はこれに限定されない。
(実施例1)実施例1において,図3の発光素子を用いて行った。MOCVD法を用いサファイア基板11上にn型層12,活性層(図示していない),p型層13を成長させ,素子形状になるように素子端部のn型層12及びp型層13の窒化物半導体層を塩素ガスを用いてRIE法で基板11まで除去し,続いてサファイア基板11を同RIE法で除去し第二の凹部302を形成した。基板11のエッチング深さ(基板露出端面305の長さ)は,約100Åであり,基板露出面304の幅は20μmであった。その後に,n型層12とn電極14を接触させるために,p型GaN層とn型GaN層の一部をRIE法でエッチングし,Ni/Auを膜厚100/500Åとした非透光性のp電極23,Ti/Alを膜厚200/5000Åとしたn電極14,Auを膜厚1μmとしたパッド電極25を各々形成し,パッド電極25及びn電極14を除いた素子表面,及び除去された半導体素子の端部等を絶縁膜24としてSiO_(2),TiO_(2)を順次に各5積層(TiO_(2)/SiO_(2))_(5)して得られた膜厚1000Åの絶縁性反射膜で図3のように覆った。得られた発光素子を図4のように配線基板401の導電部402に導電性接着剤403を介してボンディングさせた。その結果,図4で示すように,導電性接着剤403が発光素子の端面方向に回り込んでも,発光素子端面に形成されている絶縁膜24によって短絡不良は生じなかった。」

ここで,図3は以下のものである。


周知例2:特開2010-56323号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2010-56323号公報(以下「周知例2」という。)には,図2(a)とともに,以下の記載がある。
「【0043】
以下,本実施形態の半導体製造方法に適用される半導体発光素子101について詳しく説明する。
まず,基板10の上に形成される半導体層の積層構造の具体例について説明する。
本実施形態に係る半導体発光素子101は,例えば,サファイアからなる基板10の上に形成された窒化物半導体から構成される。
【0044】
・・・(中略)・・・
【0045】
ここで,図2(a)に例示したn型半導体層1は,上記の高炭素濃度の第1AlNバッファ層,高純度第2AlNバッファ層,ノンドープGaNバッファ層,Siドープn型GaNコンタクト層,及び,Siドープn型Al_(0.10)Ga_(0.90)Nクラッド層を含むことができる。
【0046】
また,図2(a)に例示した発光層3は,上記のSiドープn型Al_(0.11)Ga_(0.89)Nバリア層)とGaInN発光層(波長380nm)とが交互に3周期積層されてなる多重量子井戸構造の発光層,及び,多重量子井戸の最終Al_(0.11)Ga_(0.89)Nバリア層を含むことができる。
【0047】
そして,図2(a)に例示したp型半導体層2は,上記のMgドープp型Al_(0.28)Ga_(0.7a)Nクラッド層,Mgドープp型GaNコンタクト層,及び,高濃度Mgドープp型GaNコンタクト層を含むことができる。」

ここで,図2(a)は以下のものである。


上記記載とともに図2(a)を参照すると,「発光層3」は,n型半導体層1とp型半導体層2との間に配置されていることがわかる。

イ 《相違点2》について
一般に,発光ダイオード(LED)において,半導体からなる構造の表面に設けられたSiO_(2)等の絶縁膜が,外部からの水分等の侵入を防ぐことは,例えば前記周知例1にも示されているように,従来より周知である。

すなわち,周知例1には,図2とともに,更に以下の記載がある。
「【0008】本発明者等は,従来の問題点を種々検討した結果,高温高湿条件下で長期間使用すると,使用開始の際には起こらなかったにも関わらず,ショートが発生する素子が生じるのは,導電性接着剤又は空気中の水分がn型層と基板との界面から浸入するために生じるとものと推測した。例えば前記特開平9-205224号公報では,図2に示すようにp型層13側から基板11まで除去して基板の露出面を形成して絶縁膜19を設けているが,基板露出面がn型層12と基板11との界面の高さとほぼ同じ高さとなっており,導電性接着剤の量や接着状況等により,厳しい環境条件下での長期間の使用によって接着剤等が界面から素子内部に侵入してくると思われる。そして,この接着剤等の界面からの浸入は,界面に形成されている絶縁膜の膜厚のみでしか防ぐことができない。」
「【0023】本発明において,絶縁膜24の材料としては,少なくとも絶縁性であれば良く,例えばSiO_(2),TiO_(2),Al_(2)O_(3),Si_(3)N_(4)等を用いることができる。(以下略)」
上記記載から,絶縁膜19によって覆われた部分においては,絶縁膜19が導電性接着剤又は空気中の水分の侵入を防いでいることは明らかである。

したがって,引用発明においても,「SiO_(2 ),SiN等からなる絶縁保護膜27」が,外部からの水分等の侵入を防ぐ,すなわち,相違点2に係る「コンタミネーションが達することを防ぐ」作用を備えることは明らかである。
それゆえ,本願補正発明の「パッシベーション層」に相当する,引用発明の「SiO_(2 ),SiN等からなる絶縁保護膜27」は,「コンタミネーションが達することを防ぐ」作用を備え,「シールを形成している」といえるから,相違点2は実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても,相違点2に係る構成をそなえることは,当業者が適宜になし得たことである。

ウ 《相違点3》について
一般に,発光ダイオード(LED)チップについて,光取り出しの効率をより高めることは,不断の課題といえるものである。
そして,発光ダイオード(LED)チップについて,その側面において,屈折率の異なる2種類の材料を交互に積層させた構造の反射膜を設けることは,前記周知例1及び2にも示されているように,従来より周知の技術である。
すなわち,周知例1には,「ア 《相違点1》について」において摘記したとおり,「半導体素子の端部等を絶縁膜24としてSiO_(2),TiO_(2)を順次に各5積層(TiO_(2)/SiO_(2))_(5)して得られた膜厚1000Åの絶縁性反射膜で図3のように覆った」との記載がある。
また,周知例2には,更に以下の記載がある。
「【0062】
さらに,半導体発光素子101について説明する。
既に説明したように,誘電体積層膜11は,屈折率の異なる2種類以上の誘電体として,第1誘電体層(例えば,SiO_(2))と,第2誘電体層(例えば,TiO_(2))と,の積層膜の組み合わせを例えば5組み,すなわち,例えば合計10層の誘電体層からなる積層膜を用いることができる。この時,第1誘電体層及び第2誘電体層のそれぞれの膜厚は,それぞれの屈折率をnとし,発光層3からの発光波長をλとした時,λ/(4n)の厚さに設定される。
【0063】
・・・(中略)・・・
【0068】
これらの性質から,設計条件を選べば金属反射膜よりも高性能な反射膜として機能する誘電体積層膜11を採用することにより,光取り出し効率の向上が見込まれる。本具体例の半導体発光素子101においては,誘電体積層膜11の設計反射率は,99.7%である。」

それゆえ,引用発明において,光取り出しの効率をより高めるべく,「SiO_(2 ),SiN等からなる絶縁保護膜27」に代えて,前記周知技術に係る構成を用いて,相違点3に係る構成を備えることは,当業者が適宜になし得たことである。

(5)小括
よって,本願補正発明は,当業者が,周知技術を勘案して,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年6月2日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項7に係る発明は,平成27年9月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項7】
デバイスであって:
n型領域とp型領域との間に配置された発光層を含む半導体構造体と;
前記半導体構造体の側面の少なくとも部分の上に配置され,アンダーフィルに対して接着するように構成されており,かつ,前記半導体構造体と前記アンダーフィルとの間に挟まれているパッシベーション層と;を含み,
前記半導体構造体にコンタミネーションが達することを防ぐために,前記側面上に前記アンダーフィルと前記パッシベーション層がシールを形成する,
ことを特徴とするデバイス。」

2 引用発明
引用発明は,前記第2 4「(2)刊行物等に記載された発明」に記載したとおりのものである。

3 対比・判断
前記第2「1 本件補正の内容」?第2「3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討」において検討したとおり,本件補正は,「パッシベーション層」について,補正後の「屈折率が異なる二つの材料が交互に重なる層を含む多重誘電体スタックであり,前記n型領域と前記多重誘電体スタックとの間の境界面における発光を反射する」ものとして,補正前の請求項7の発明特定事項である「パッシベーション層」について技術的に限定するものである。言い換えると,本願発明は,本願補正発明から上記限定事項を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,前記第2 4「(3)対比」?第2 4「(5)小括」において検討したとおり,当業者が,周知技術を勘案して,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-02 
結審通知日 2017-03-07 
審決日 2017-03-21 
出願番号 特願2013-513781(P2013-513781)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高椋 健司  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 星野 浩一
近藤 幸浩
発明の名称 半導体発光デバイスのパッシベーション  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠彦  

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