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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06K
管理番号 1330924
審判番号 不服2016-10034  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-04 
確定日 2017-08-02 
事件の表示 特願2014-550329「製品情報を提供するための装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 4日国際公開、WO2013/101538、平成27年 3月 2日国内公表、特表2015-506512〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許出願は、平成24年12月18日(パリ条約による優先権主張 平成23年12月27日 米国、平成24年9月14日 米国)を国際出願日としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 6月15日付け:拒絶理由の通知
平成27年12月24日 :意見書及び手続補正書の提出
平成28年 3月 2日付け:拒絶査定
平成28年 7月 4日 :審判請求書及び手続補正書の提出
平成28年 8月 4日付け:前置報告書
平成28年12月 1日 :上申書の提出


第2.平成28年7月4日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成28年7月4日付けの手続補正を却下する。


[理由]

1.補正の内容

平成28年7月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成27年12月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲(以下、「補正前の特許請求の範囲」という。)について、以下のとおりの特許請求の範囲(以下、「補正後の特許請求の範囲」という。)に補正することを含むものである。

(補正前の特許請求の範囲)

「【請求項1】
タグを含むセンサーシステムであって、前記タグは、
a.センサー環境内の変化と近似する出力をもたらすように適合された少なくとも1つのセンサーであって、前記センサーは出力端子を有する、少なくとも1つのセンサーと、
b.前記センサーのアナログ出力をデジタル値に変換するように適合されたアナログ-デジタル変換器であって、前記アナログ-デジタル変換器は入力端子及び出力端子を有し、前記アナログ-デジタル変換器の前記入力端子は前記センサーの前記出力端子と電気通信するように配置される、アナログ-デジタル変換器と、
c.メモリ素子、入力端子、及び出力端子を含む無線周波チップであって、前記入力端子は、前記アナログ-デジタル変換器の前記出力端子と電気通信するように配置される、無線周波チップと、
d.前記無線周波チップの前記出力端子と電気通信するように配置された第1アンテナであって、全方向性アンテナである、第1アンテナとを含む、センサーシステム。

【請求項2】?【請求項15】 (省略) 」


(補正後の特許請求の範囲)

「【請求項1】
タグを含むセンサーシステムであって、前記タグは、
センサー環境内の変化と近似する出力をもたらすように適合された少なくとも1つのセンサーであって、前記センサーは出力端子と所定の電位を生成するための作用電極とを有する、該少なくとも1つのセンサーと、
前記センサーのアナログ出力をデジタル値に変換するように適合されたアナログ-デジタル変換器であって、前記アナログ-デジタル変換器は入力端子及び出力端子を有し、前記アナログ-デジタル変換器の前記入力端子は前記センサーの前記出力端子と電気通信するように配置される、該アナログ-デジタル変換器と、
メモリ素子、入力端子、及び出力端子を含む無線周波チップであって、前記入力端子は、前記アナログ-デジタル変換器の前記出力端子と電気通信するように配置される、該無線周波チップと、
前記無線周波チップの前記出力端子と電気通信するように配置された第1アンテナであって、全方向性アンテナである、該第1アンテナと、
前記センサーと前記アナログ-デジタル変換器との間に接続された、前記センサの前記作用電極によって生成された前記所定の電位の信号を、前記アナログ-デジタル変換器の入力範囲に調節するための集積前置増幅器と、 前記第1アンテナを介してRFID回路から得られた電力を前記センサーの前記作用電極および前記集積前置増幅器に供給するための蓄電素子とを具えたことを特徴とするセンサーシステム。

【請求項2】?【請求項15】 (省略) 」


2.本件補正の目的及び新規事項の有無

2-1.本件補正にかかる補正事項

補正前後の請求項1の記載を対比すると、本件補正は、以下の補正事項を含むものである。(なお、下線は審判請求人により付されたものである。)

(a)補正前の「前記センサーは出力端子を有する、」を補正後の「前記センサーは出力端子と所定の電位を生成するための作用電極とを有する、」とする補正事項。

(b)補正後のセンサーシステムが含んでいるタグについて「前記センサーと前記アナログ-デジタル変換器との間に接続された、前記センサの前記作用電極によって生成された前記所定の電位の信号を、前記アナログ-デジタル変換器の入力範囲に調節するための集積前置増幅器」及び「前記第1アンテナを介してRFID回路から得られた電力を前記センサーの前記作用電極および前記集積前置増幅器に供給するための蓄電素子」を具えることとする補正事項。

2-2.新規事項の有無について

上記補正事項(a)及び(b)は、出願当初の明細書の段落【0014】、段落【0016】、段落【0017】に記載されていると認められるので、特許法第17条の2第3項に違反するものではない。

2-3.目的要件について

上記補正事項(a)及び(b)を含む本件補正が,特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。

(ア)特許法第17条の2第5項第1号(請求項の削除)、同第3号(誤記の訂正)、同第4号(明りょうでない記載の釈明)を目的とするものであるかについて

<補正事項(a)について>
上記補正事項(a)は、タグを構成しているセンサーについて「所定の電位を生成するための作用電極とを有する」との事項を付加するものであるから、特許法第17条の2第5項第1号、第3号、第4号を目的とするものでないことは明らかである。

<補正事項(b)について>
上記補正事項(b)は、センサーシステムが含むタグの構成について、「前記センサーと前記アナログ-デジタル変換器との間に接続された、前記センサの前記作用電極によって生成された前記所定の電位の信号を、前記アナログ-デジタル変換器の入力範囲に調節するための集積前置増幅器」及び「前記第1アンテナを介してRFID回路から得られた電力を前記センサーの前記作用電極および前記集積前置増幅器に供給するための蓄電素子」を付加するものであるから、特許法第17条の2第5項第1号、第3号、第4号を目的とするものでないことは明らかである。

(イ)特許法第17条の2第5項第2号(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであるかについて

特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。また、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。

<補正事項(a)について>

上記補正事項(a)については、タグを構成するセンサーについて「所定の電位を生成するための作用電極とを有する」との事項を付加するのであるから、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものと認められ、また、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題についても同一であると認められる。
したがって、補正事項(a)は、特許法第17条の2第5項第2号でいうところの「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

<補正事項(b)について>

(1)補正前後の請求項1にかかる発明は、いずれも「タグを含むセンサーシステム」であるものの、同請求項の記載から明らかなように「センサーシステム」を構成する要素として「タグ」以外のものは何ら特定されていないから、補正前後の請求項1にかかる発明は、実質的に「タグ」にかかる発明であると解すると、補正前の請求項1にかかる発明を特定するために必要な事項(発明特定事項)は、「センサー」、「アナログ-デジタル変換器」、「無線周波チップ」、「第1アンテナ」である。

してみると、補正事項(b)によって付加された「集積前置増幅器」と「蓄電素子」は、前記発明特定事項の何れをも限定するものではなく、前記発明特定事項とは別の「集積前置増幅器」と「蓄電素子」とを外的(枠外)に付加したものである。

したがって、補正事項(b)は、補正前の請求項1にかかる発明の発明特定事項を限定するものに該当するとはいえないから、特許法第17条の2第5項第2号でいうところの「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえない。

(2)一方、上述した様に、補正前後の請求項1にかかる発明は、その請求項の記載から明らかなように「センサーシステム」を構成する要素として「タグ」以外のものは何ら特定されていないものの、当該「タグ」を「センサーシステム」にかかる発明を特定するために必要な事項の一つであると解釈すると、補正事項(b)によって付加された「集積前置増幅器」と「蓄電素子」は、発明特定事項である「タグ」の構成を限定するものと認められる。

しかしながら、「集積前置増幅器」は「前記センサの前記作用電極によって生成された前記所定の電位の信号を、前記アナログ-デジタル変換器の入力範囲に調節するため」という新たな課題を解決するために付加されたものであり、同様に、「蓄電素子」は「前記第1アンテナを介してRFID回路から得られた電力を前記センサーの前記作用電極および前記集積前置増幅器に供給するため」という新たな課題を解決するために付加されたものであるから、補正前後の請求項1にかかる発明が解決しようとする課題が同一であるとはいえない。

したがって、補正事項(b)は、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる、との要件を満たさないので、特許法第17条の2第5項第2号でいうところの「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえない。

(3)また、仮に、補正事項(b)が特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるとすると、本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当することになるから、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に適合するか)についても一応検討する。

(3-1)引用例

(3-1-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、特開2007-229077号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付した。)

(ア)「<ICタグの構成>
図3(b)において、100は、外部からの通信信号を受けて作動するように構成された温度センサ付ICタグ(RFID)(第2の測温部)である。101は、ICタグ読み取り部34からの信号を受け、ロジック部110を所定のフローで動作させるプログラムが記憶され、コンピュータで読取り可能な記憶媒体であるRAMである。102はEEPROMで、温度センサ106のそれぞれに対応するオフセット値,温度補正値などが記憶されている。また、体温情報も記憶可能である。なお、ロジック部110は、より複雑な処理フローの制御が可能なCPUとしてもよい。
温度センサ106としては、温度変化に対してほぼリニアにアナログ出力し、小型化・ICタグとの一体化が可能で、35?42℃の間で温度分解能が0.05℃である、半導体型の温度センサ、例えばC-MOS温度センサが好ましく用いられるが、サーミスタ型、サーモパイル(熱電対)型でも可能である。103は、被介護者Pに設けられた温度測定部を有するICタグ(RFID)100の体温情報を取得するための送受信回路、103aはアンテナ、104は電源部である。この電源部104は、コイルを有するアンテナ部103aを介して、体温情報を読取られる時に温度測定部を有するICタグ100の各部に電源を供給する。107はA/D変換部であり、温度センサ106と発振回路(不図示)で発生した体温信号をA/D変換するものである。ICタグ100は、アンテナ103aを含めて幅W5mm×5mm、厚さW1.5mm程度の大きさである。なお、ICタグ100は、生体を通過可能な周波数の電磁波での通信(送受信)可能なものであれば、どのような周波数でもよいが、好ましくは13.56MHzの電磁波で3cm?1m程度の距離で送信可能になっている。」(【0016】)

(イ)「【図3】




したがって、上記摘記事項(ア)及び(イ)の記載から引用例1には、

「外部からの通信信号を受けて作動するように構成された温度センサ付ICタグ(RFID)であって、
小型化・ICタグとの一体化が可能で、温度変化に対してほぼリニアにアナログ出力する温度センサと、
温度センサと発振回路で発生した体温信号をA/D変換するA/D変換部と、
ICタグ読み取り部からの信号を受け、ロジック部を所定のフローで動作させるプログラムが記憶され、コンピュータで読取り可能な記憶媒体であるRAMと、温度センサのそれぞれに対応するオフセット値,温度補正値などが記憶され、また、体温情報も記憶可能であるEEPROMと、より複雑な処理フローの制御が可能なCPUとしてもよいロジック部と、温度測定部を有するICタグ(RFID)の体温情報を取得するための送受信回路と、
アンテナと、
コイルを有するアンテナ部を介して、体温情報を読取られる時に温度測定部を有するICタグの各部に電源を供給する電源部と
を具えた温度センサ付ICタグ。」(以下、「引用例1発明」という。)が開示されているものと認められる。

(3-1-2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、特表2008-516541号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付した。)

(ウ)「本発明は、対象物のトレーサビリティを保証するように設計された非接触トランシーバ装置に関し、特に全方向アンテナを有する非接触ラベルに関する。」(【0001】)

(3-1-3)引用例3
本件特許出願の優先権主張日前に公開された特開2007-310506号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付した。)

(エ)「次に、図5は本発明の住宅内環境情報取得管理システムで用いるセンサ機能付きRFIDタグの回路ブロック図であり、センサ機能付きRFIDタグ1は、各種センサ2を接続して各種測定データを取得するA/D変換回路30を内蔵したセンサ機能付きRFIDチップ19と、当該センサ機能付きRFIDチップ19のRF部にアンテナ20を接続して構成する。
上記アンテナ20はハンディリーダー6又は固定リーダー16と電磁誘導又は電磁波による無線通信を行うため、センサ入力機能付きRFIDタグ1内又は一部センサ入力機能付きRFIDタグ1外の同調キャパシタ(図示せず)から成る同調回路21に接続し、本発明の住宅内環境情報取得管理システムで使用するキャリア周波数、例えば13.56MHzや2.45GHz又は952MHz帯等に同調させて共振回路を構成する。
上記同調回路21の後段には、ハンディリーダー6のアンテナ7又は固定リーダー16のアンテナ17から出力された電磁界又は電磁波が当該センサ入力機能付きRFIDタグ1のアンテナ20を通過した時に発生する誘導起電力の電圧波形を検波したり、該誘導起電力を半波又は全波整流して直流電圧を取り出すための整流回路22を接続する。
次に、上記整流回路22の後段には、検波したキャリアを分周してシステム用のクロックを生成するためのクロック生成回路23と、信号受信時においてキャリアから信号を取り出す復調動作を行ったり信号送信時においてスイッチング素子(図示せず)により変調動作を行うための変復調回路24と、上記直流電圧を安定化して回路電源を供給したり、充電用コンデンサ26に充電電圧を供給するための電源回路25を接続する。該充電用コンデンサ26は一般的にはセラミックコンデンサであり、電力を必要とする場合には電気二重層コンデンサが好適であるが、特に限定するものではない。
次に、上記変復調回路24の後段には、該変復調回路24の制御や不揮発性メモリであるFRAM(Ferroelectric RAM:米国Ramtron社の登録商標)28に対する当該センサ入力機能付きRFIDタグ1のIDデータや測定データ等の書込み又は読出し制御及びA/D変換回路30の制御を行うためのロジック回路27を接続する。
上記FRAM28は強誘電体型の不揮発性メモリであり、回路電源がOFFになっても当該センサ入力機能付きRFIDタグ1のIDデータや測定データ等は消失することはない。また、データの書込み電圧は、EEPROMやフラッシュメモリのように高圧に昇圧する必要がないため、昇圧回路が簡略化される。また、書込み又は読出し速度はDRAMと同等であり、EEPROMやフラッシュメモリよりはるかに高速であるという特徴を持つものである。このように、不揮発性メモリとしてはFRAM28が好適であるが、他のメモリを使用しても構わない。
図6は図5におけるA/D変換回路の詳細ブロック図である。該ブロック図において、センサ2は複数個入力することができ、例えばセンサ2aとして雨漏り検知センサを接続し,センサ2bとして歪み検知センサを接続し,センサ2cとして振動検知センサをアナログマルチプレクサ31に接続してサンプリングを行い、選択された入力信号をスケーラーアンプ32にて適正レベルにスケーリングした後、A/Dコンバータ33に接続して測定データを得る。」(【0022】?【0028】)

(3-1-4)引用例4
本件特許出願の優先権主張日前に公開された特開2008-157964号公報(以下、「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付した。)

(オ)「図1B及び1Cの両方の実装例において、電極が接続される前置増幅・駆動回路は一般にポテンシオスタットである。従来技術によるポテンシオスタット回路の物理図を図2Aに、その電気図を図2Bに示した。図2Aに示すとおり、ポテンシオスタット回路は対極CE、基準電極RE、作用電極WEの3つの電極で構成される。これらの電極は、対極CEと基準電極REの間にある生物材料1001を含んだ緩衝液が実現する電気化学セルと、基準電極REと作用電極WEとの間の生物受容層1015とに接続されている。この3端子電気化学セルの等価回路を図2Bに示した。基本は、REを既知電圧に保ちながら、生物受容層での酸化還元反応により作用電極WEに起きた電流をポテンシオスタット回路に測定させるのである。対極CEは、基準電極REを既知電圧に保つのに必要な電流を供給するために設けられている。ポテンシオスタットは多くのバージョンが知られているが、マルチチャネル・ポテンシオスタットが試料のマトリックスの測定用として知られている。加えられた入力電圧は生物受容層での酸化還元反応を変化させ、それがまた等価回路のキャパシタンスと電気抵抗の実効値を変化させて、標的生物分子の有無と濃度の検知が可能となる。」(【0010】)

(カ)「図8は、本発明に係るセンサ装置の第1の実施例の要部を示す図である。具体的に説明すると、図8Aは、ガラス基板112上に複数のセンサ110が配列されて備わったバイオセンサ・チップを示す図である。チップ全体を適切な不活性化材料116の層が連続的に覆う中にあって、金製電極111の上に開いたバイアホールを覆う生物受容層115の領域が、各センサを構成している。各生物受容層115は試験対象溶液中の生物材料とそれぞれ異なる形で作用し合い、また測定中に電圧が加えられると酸化還元反応が起きる。さらに、このセンサチップは、チップ中に一体化されたTFTに代表される回路構成100を有している。図8Bに示すとおり、この回路構成100には、マイクロコントローラ又は演算処理装置125、RFID電子装置120、前置増幅回路140、駆動回路150、記憶装置130、デジタル・アナログ変換器170及びアナログ・デジタル変換器180が備わっている。これらの素子は、マイクロコントローラ又は演算処理装置125に制御されるバス160を用いて接続されている。各センサ110からの信号は、駆動回路150に制御される前置増幅回路140へと搬送さる。検出データに相当する個別バイオセンサからの信号は、演算処理装置125に制御されて記憶装置130に保存され、その後RFID回路120を使って基地局へと送信される。具体的に述べると、基地局は各センサチップを探査し、検出データを要求する。検出データがあれば、基地局は演算処理装置125に命じて各センサ110、又は少なくともデータが保存されたセンサに関し、検出データを基地局へと送信させ、続いてそれを分析する。
本発明においては、そのようなセンサチップを複数個、分析のため溶液又は試料中に配置してよい。それらのセンサチップは、試料液の異なる特性をそれぞれ1つ以上検出するためのものであってよい。それゆえ、異なる生物分子が数多く入った例えば尿などの試料Xを図3に示す。センサチップA?Eは、試料のそれぞれの特性を検出するために尿試料中に配置されている。例えば、センサチップAはブドウ糖濃度、センサチップB及びCは第1組目と第2組目の遺伝子配列、センサチップDは特定のペプチド、そしてセンサチップEは特定のウィルスをそれぞれ検出するためのものであってよい。各センサチップA?Eは図8Bに示す回路構成を有している。
試料Xを本発明の検出装置のホルダ500中に、基地局300との位置関係を保ちながら配置する。基地局には、レジスタ又は記憶装置310及びデータ処理部320、並びに送受信機(トランシーバ)回路350及びアンテナ340が備わっている。アンテナ340とトランシーバ回路350により、基地局300は試料X中の各センサチップA?Eと通信することができる。また、各センサチップ上のRFID回路120はアンテナが放出した高周波信号から電力を抜き取ることができるため、検出、前置増幅及び駆動の各回路の電源のみならず、基地局300のアンテナ340へ信号を送る際の電源も供給することができる。」(【0049】?【0051】)

(3-1-5)引用例5
本件特許出願の優先権主張日前に公開された特開2009-508100号公報(以下、「引用例5」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付した。)

(キ)「少なくとも一個の電気化学セルと、作用電極と、対向電極と、当該センサに対するデータ・タグであって該センサの出力を測定するときに適用されるべき補正またはスケールファクターを表すデータを担持するというデータ・タグとを備えるセンサと、
前記センサの電気的出力を測定すると共に、前記データ・タグから前記データを読み出して前記補正係数を前記センサ出力に対して適用する計器とを備えて成る、
試験センサ・システム。」(【請求項21】)


(3-2)対比

本願補正発明と引用例1発明とを対比する。

(3-2-1)
引用例1発明にかかる温度センサは、温度変化に対してほぼリニアにアナログ出力し、温度センサと発振回路で発生した体温信号をA/D変換部に出力するものであり、前記「温度変化に対してほぼリニアにアナログ出力し」は、本願補正発明でいうところの『センサー環境内の変化と近似する出力をもたらすように適合された』に対応するものといえる。
また、引用例1発明にかかる温度センサは、当該温度センサによって取得した信号をA/D変換部に出力するのであるから、『出力端子』を備えていることは明らかである。
してみると、引用例1発明にかかる温度センサは、本願補正発明でいうところの『センサー環境内の変化と近似する出力をもたらすように適合された少なくとも1つのセンサーであって、前記センサーは出力端子を有する、該少なくとも1つのセンサー』に対応するものといえる。

(3-2-2)
引用例1発明にかかるA/D変換部は、上記摘記事項(イ)で摘記した【図3】(b)から明らかな様に、温度センサからの信号を入力し、A/D変換した後、CPUへ電気通信するのであるから、当然、入力端子と出力端子を有している。
してみると、引用例1発明にかかるA/D変換部は、本願補正発明でいうところの『センサーのアナログ出力をデジタル値に変換するように適合されたアナログ-デジタル変換器であって、前記アナログ-デジタル変換器は入力端子及び出力端子を有し、前記アナログ-デジタル変換器の前記入力端子は前記センサーの前記出力端子と電気通信するように配置される、該アナログ-デジタル変換器』に対応するものといえる。

(3-2-3)
引用例1発明にかかる「RAM」及び「EEPROM」は、本願補正発明でいうところの『メモリ素子』に対応することは明らかである。
また、上記摘記事項(イ)で摘記した【図3】(b)から明らかな様に、引用例1発明にかかる「ロジック部」は、A/D変換部からの信号を入力信号として受信し、そして引用例1発明にかかる「送受信回路」は、前記ロジック部を介して取得した体温情報をアンテナを介して外部のICタグ読み取り部へ送信している。
さらに、「温度センサ」、「A/D変換部」、「ロジック部(CPU)」、「RAM」、「EEPROM」、「電源部」、「送受信回路」、「アンテナ」を全て備えるICタグの大きさは、幅W5mm×5mm、厚さW1.5mm程度であることも踏まえると、引用例1発明における「「ロジック部(CPU)」、「RAM」、「EEPROM」、「電源部」、「送受信回路」」からなる部分は、本願補正発明でいうところの『無線周波チップ』に対応するといえる。
そして、ロジック部が備える上記「A/D変換部からの信号を入力信号として受信」する部分と送受信回路が備える上記「体温情報をアンテナを介して外部のICタグ読み取り部へ送信」する部分は、それぞれ、本願補正発明でいうところの『入力端子』と『出力端子』に対応するといえる。
してみると、引用例1発明は、本願補正発明でいうところの『メモリ素子、入力端子、及び出力端子を含む無線周波チップであって、前記入力端子は、前記アナログ-デジタル変換器の前記出力端子と電気通信するように配置される、該無線周波チップ』に対応する構成を有しているといえる。

(3-2-4)
引用例1発明にかかる「アンテナ」は、上記摘記事項(イ)で摘記した【図3(b)】から明らかな様に、送受信回路と電気通信する様に配置されているものであり、上記(3-3-3)で言及した事項を踏まえると、本願補正発明でいうところの『無線周波チップの前記出力端子と電気通信するように配置された第1アンテナ』に対応するものといえる。

(3-2-5)
引用例1発明にかかる温度センサ付ICタグは、外部からの通信信号を受けて作動するように構成されているものであるから、当該温度センサ付ICタグを含むセンサーシステムが、引用例1には開示されているといえる。

したがって、両者は、
「タグを含むセンサーシステムであって、前記タグは、
センサー環境内の変化と近似する出力をもたらすように適合された少なくとも1つのセンサーであって、前記センサーは出力端子を有する、該少なくとも1つのセンサーと、
前記センサーのアナログ出力をデジタル値に変換するように適合されたアナログ-デジタル変換器であって、前記アナログ-デジタル変換器は入力端子及び出力端子を有し、前記アナログ-デジタル変換器の前記入力端子は前記センサーの前記出力端子と電気通信するように配置される、該アナログ-デジタル変換器と、
メモリ素子、入力端子、及び出力端子を含む無線周波チップであって、前記入力端子は、前記アナログ-デジタル変換器の前記出力端子と電気通信するように配置される、該無線周波チップと、
前記無線周波チップの前記出力端子と電気通信するように配置された第1アンテナである、該第1アンテナと、
を具えたことを特徴とするセンサーシステム。」
で一致しており、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明にかかるセンサーは、『所定の電位を生成するための作用電極』を有するのに対し、引用例1発明にかかる温度センサには、その旨特定されていない点。

[相違点2]
本願補正発明にかかる第1アンテナは、『全方向アンテナ』であるのに対し、引用例1発明にかかるアンテナは、その旨特定されていない点。

[相違点3]
本願補正発明には、『前記センサーと前記アナログ-デジタル変換器との間に接続された、前記センサの前記作用電極によって生成された前記所定の電位の信号を、前記アナログ-デジタル変換器の入力範囲に調節するための集積前置増幅器』が備わっているのに対し、引用例1発明には、かかる集積前置増幅器が備わっていない点。

[相違点4]
本願補正発明には、『前記第1アンテナを介してRFID回路から得られた電力を前記センサーの前記作用電極および前記集積前置増幅器に供給するための蓄電素子』が備わっているのに対し、引用例1発明には、かかる集積前置増幅器が備わっていない点。


(3-3)判断

[相違点1]について
いわゆる無線ICタグが備えるセンサとして、どの様なセンサを用いるかは、測定する対象により異なることは自明である。そして、上記引用例4や引用例5に開示されている様に、無線ICタグに備わっているセンサとして作用電極を有するものを用いることも本件特許出願の優先権主張日前において普通に知られている事項である。
してみると、引用例1発明において、測定対象に応じてセンサを作用電極を有するものに変更することは、当業者であれば適宜なし得るものと認められる。

[相違点2]について
上記引用例2に開示されている様に、全方向アンテナを有する非接触ラベルは、本件特許出願の優先権主張日前において普通に知られており、読み取り機(リーダー)が無線ICタグの情報を読み取る際の位置についての制限を緩和するために、引用例1発明が備えるアンテナを全方向アンテナとすることは、当業者であれば適宜なし得るものと認められる。

[相違点3]について
上記引用例3には、「上記(3-1-3)引用例3(エ)」で摘記した様に「例えばセンサ2aとして雨漏り検知センサを接続し,センサ2bとして歪み検知センサを接続し,センサ2cとして振動検知センサをアナログマルチプレクサ31に接続してサンプリングを行い、選択された入力信号をスケーラーアンプ32にて適正レベルにスケーリングした後、A/Dコンバータ33に接続して測定データを得る。」と記載されており、前記「スケーラーアンプ32」は、その機能及びRFIDタグ内での配置箇所からも、本件補正発明でいうところの『集積前置増幅器』に対応するものといえる。

また、上記引用例4においても、「前置増幅回路140」をバイオセンサ・チップ内において、各センサ110とデジタル・アナログ変換器180との間に配置することが開示されている。

してみると、いわゆる「センサを備える無線ICタグ」の技術分野において、前置増幅器を用いることは、本件特許出願の優先権主張日前において普通に知られており、引用例1発明において「集積前置増幅器」を付加することは当業者であれば容易になし得るものと認められる。
なお、本件補正発明には、集積前置増幅器について「前記センサの前記作用電極によって生成された前記所定の電位の信号を、前記アナログ-デジタル変換器の入力範囲に調節するため」との事項が特定されているが、これは集積前置増幅器がその機能として当然担うべき事項であり格別な技術的特徴とはいえない。

[相違点4]について
上記引用例3には、「上記(3-1-3)引用例3(エ)」で摘記した様に「センサ機能付きRFIDタグ1は、各種センサ2を接続して各種測定データを取得するA/D変換回路30を内蔵したセンサ機能付きRFIDチップ19と、当該センサ機能付きRFIDチップ19のRF部にアンテナ20を接続して構成する。上記アンテナ20は・・・途中省略・・・同調回路21に接続し、・・・途中省略・・・上記同調回路21の後段には、ハンディリーダー6のアンテナ7又は固定リーダー16のアンテナ17から出力された電磁界又は電磁波が当該センサ入力機能付きRFIDタグ1のアンテナ20を通過した時に発生する誘導起電力の電圧波形を検波したり、該誘導起電力を半波又は全波整流して直流電圧を取り出すための整流回路22を接続する。次に、上記整流回路22の後段には、・・・途中省略・・・上記直流電圧を安定化して回路電源を供給したり、充電用コンデンサ26に充電電圧を供給するための電源回路25を接続する。」と記載されており、センサ機能付きRFIDタグの技術分野において、「センサ入力機能付きRFIDタグのアンテナを通過した時に発生する誘導起電力を半波又は全波整流して取り出した直流電圧を充電用コンデンサに供給するための電源回路」は、本件特許出願の優先権主張日前において普通に知られている事項である。
そして、当該「充電用コンデンサ」が蓄電素子であることは明らかであり、また、当該充電用コンデンサに充電された電力がセンサ機能付きRFIDタグにおいて電力を必要とする各部に供給されることも当業者にとっては明らかな事項と解される。

そこで、引用例1発明が備える電源部に、引用例3で開示されている様に、充電用コンデンサである「蓄電素子」を付加することは、当業者であれば容易になし得るものと認められる。
なお、本件補正発明には、蓄電素子について「前記センサーの前記作用電極および前記集積前置増幅器に供給するため」との事項が特定されているが、引用例1発明が備える電源部は「ICタグの各部に電源を供給する」のであるから、充電用コンデンサである「蓄電素子」が電力を提供する先として「作用電極および集積前置増幅器」と特定することは、格別な技術的特徴とはいえない。

また、本願補正発明の構成によってもたらされる効果は、引用例1発明と引用例2から5に開示されている事項より当業者ならば容易に予測することができる程度のものである。

したがって、本願補正発明は引用例1発明と引用例2から5に開示されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


2-4.まとめ

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について

平成28年7月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年12月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(上記「「第2.平成28年7月4日付けの手続補正についての補正却下の決定」「1.補正の内容」における(補正前の特許請求の範囲)の【請求項1】」参照。)により特定されるものである。


1.引用例

1-1.引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(特開2007-229077号公報)に記載された事項及び当該引用例1に開示されている発明(引用例1発明)は、上記「「第2.平成28年7月4日付けの手続補正についての補正却下の決定」「2-3.目的要件について」「(3-1-1)引用例1」」に記載したとおりである。

1-2.引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された引用例2(特表2008-516541号公報)に記載された事項は、上記「「第2.平成28年7月4日付けの手続補正についての補正却下の決定」「2-3.目的要件について」「(3-1-2)引用例2」」に記載したとおりである。


2.対比

本願発明と引用例1発明とを対比する。

対比の内容は、上記「「第2.平成28年7月4日付けの手続補正についての補正却下の決定」「2-3.目的要件について」「(3-2)対比」」」に記載したとおりであるから、両者は、

「タグを含むセンサーシステムであって、前記タグは、
a.センサー環境内の変化と近似する出力をもたらすように適合された少なくとも1つのセンサーであって、前記センサーは出力端子を有する、少なくとも1つのセンサーと、
b.前記センサーのアナログ出力をデジタル値に変換するように適合されたアナログ-デジタル変換器であって、前記アナログ-デジタル変換器は入力端子及び出力端子を有し、前記アナログ-デジタル変換器の前記入力端子は前記センサーの前記出力端子と電気通信するように配置される、アナログ-デジタル変換器と、
c.メモリ素子、入力端子、及び出力端子を含む無線周波チップであって、前記入力端子は、前記アナログ-デジタル変換器の前記出力端子と電気通信するように配置される、無線周波チップと、
d.前記無線周波チップの前記出力端子と電気通信するように配置された第1アンテナとを含む、センサーシステム。」で一致しており、
「本願発明にかかる第1アンテナは、『全方向アンテナ』であるのに対し、引用例1発明にかかるアンテナは、その旨特定されていない点。」(以下、単に「相違点」という。)の点で相違している。

なお、当該「相違点」は、上記「「第2.平成28年7月4日付けの手続補正についての補正却下の決定」「2-3.目的要件について」「(3-2)対比」」で特定した[相違点2]と同じである。


3.判断

上記「相違点」についての判断は、上記「「第2.平成28年7月4日付けの手続補正についての補正却下の決定」「2-3.目的要件について」「(3-3)判断」「[相違点2]について」」に記載したとおりである。

したがって、本願発明は、引用例1発明と引用例2に開示されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例1発明と引用例2に開示されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-28 
結審通知日 2017-03-07 
審決日 2017-03-21 
出願番号 特願2014-550329(P2014-550329)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡北 有平月野 洋一郎  
特許庁審判長 手島 聖治
特許庁審判官 佐藤 智康
相崎 裕恒
発明の名称 製品情報を提供するための装置及び方法  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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