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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1331056
審判番号 不服2016-11665  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-04 
確定日 2017-08-07 
事件の表示 特願2015-194836号「ニンジン汁の甘味確保方法、ニンジン汁の製造方法及びニンジン汁」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日出願公開、特開2017- 63733号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年9月30日の出願であって、平成28年6月10日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年8月4日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年8月4日の手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容の概要
本件補正は、特許請求の範囲についての補正を含むものであって、請求項5について本件補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである(下線は、補正箇所を示す。)。

(本件補正前の請求項5)
ニンジン汁の製造方法であって、その構成は、少なくとも、以下の工程であって、
ブランチされるのは、剥皮ニンジンであること、及び
搾られるのは、ブランチされたニンジンであること、であり、
ブランチされたニンジンが至る温度(以下、「ブランチング温度」という。)は、68度以下である、
こと。

(本件補正後の請求項5)
ニンジン汁の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、以下の工程であり、
ブランチされるのは、剥皮ニンジンであること、及び
搾られるのは、ブランチされたニンジンであること、であり、
ブランチされたニンジンが至る温度(以下、「ブランチング温度」という。)は、68度以下であり、それによって抑制されるのは、グルタミン酸濃度であり、その結果として、ニンジン汁の旨味が抑制されることで、ニンジン汁の甘味が確保される、
こと。

2 補正の適否
補正前の請求項5は、「ニンジン汁の製造方法」についての発明であり、当該発明は、製造方法として、「ブランチされるのは、剥皮ニンジンであること」、及び「搾られるのは、ブランチされたニンジンであること、であり」、「ブランチされたニンジンが至る温度(以下、「ブランチング温度」という。)は、68度以下である、
こと。」を特定するものである(以下これらの事項と「特定事項A」という。)。
一方、補正後の請求項5は、補正前の請求項5に「その構成は、」及び「以下の工程であって、」とあるのを、それぞれ「それを構成するのは、」及び「以下の工程であり、」と補正し、さらに、「それによって抑制されるのは、グルタミン酸濃度であり、その結果として、ニンジン汁の旨味が抑制されることで、ニンジン汁の甘味が確保される」(以下この事項を「特定事項B」という。)としている。
しかしながら、上記特定事項Bによる補正は、上記特定事項Aの工程を経て得られるニンジン汁について、単に、「グルタミン酸」及び「旨味」の性状を説明しているに過ぎないものであり、ニンジン汁の製造方法として、製造工程を具体的に限定するものではないことは明らかである。
そうすると、本件補正後の請求項5に係る上記補正は、本件補正前の請求項5を限定的に減縮することを目的としたものとはいえず、特許法第17条の2第5項第2号に該当しない。また、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明であるとも認められない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号のいずれにも該当しない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 独立特許要件
請求人は、平成28年8月4日の審判請求書において、「本補正の目的は、特許請求の範囲の減縮であるため、特許法第17条の2第5項に規定する要件は、満たされており」(「3.(1)(ニ)」)と主張している。
そこで、上記請求人の主張を踏まえ、仮に本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の前記請求項5に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1) 引用例
原査定の拒絶理由に引用された特開平10-313835号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1a) 「【請求項3】 生ニンジンを皮むき状態で1日以上経過させることなく、ニンジンを60?70℃の0.02M?0.05Mクエン酸溶液中で内部温度が60?70℃に達するまでブランチングし、その後破砕し搾汁する工程を有するニンジンジュースの製造方法。」

(1b) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、凝集の起こらない高品質で安定した性状のニンジンジュースを製造する方法に関する。」

(1c) 「【0003】
【本発明が解決しようとする課題】しかしながら、かかる発明の如く、ニンジンを破砕した後にブランチングを行うと、加熱臭は付かなくなるものの、生臭さが強くなり飲みにくくなる傾向がある。では、上記発明を、単にブランチングした後破砕するように変更すればよいかと言うと、品温80?90℃到温となるようにブランチングした場合、搾汁液に加熱臭が付く問題があるし、この加熱臭を避けるために品温の到達温度を下げると凝集が発生するようになりかえって品質を低下させてしまう。
【0004】また、品温を80?90℃に到達させるために沸騰水中でブランチングを行うと、搾汁率が低下し、香味も悪くなることが明らかになってきた。
【0005】そこで本発明は、かかる問題点に鑑みて、ニンジンジュース製造における凝集の原因を解明し、その上で、ニンジンをブランチングした後破砕する製造法において、生臭さが低く、凝集を生じることがない高品質で安定した性状のニンジンジュースを歩留り良く得られるニンジンジュースの製造方法を提供せんとする。」

(1d) 「【0006】
【課題を解決するための手段】かかる課題解決のための本発明のニンジンジュースの製造方法は、生ニンジンを剥皮し、皮むき状態で1日以上経過させることなく、ニンジンのペクチンエステラーゼ活性を完全に失活させ、かつペクチナーゼ活性残存率を60%以下とするように酵素失活処理し、その後破砕、搾汁することを特徴とする。
【0007】本発明においては、生ニンジンを洗浄したものを剥皮する。そして、皮むき後1日以上、好ましくは12時間以上経過しない間に上記酵素失活処理する。皮むき状態で1日以上経過すると、例えば品温が90℃に達するまで十分にブランチングしても凝集の発生を防ぐことが難しくなる。
【0008】本発明の酵素失活処理は、ニンジンのペクチンエステラーゼ活性を完全に失活させ、かつペクチナーゼ活性残存率を60%以下に処理するものである。ペクチンエステラーゼ活性が完全に失活しないか、或いはペクチナーゼ活性残存率が60%以上であると、凝集が発生する可能性がある。
【0009】本発明におけるニンジンのペクチンエステラーゼ活性を完全に失活させ、かつペクチナーゼ活性残存率を60%以下にするように酵素失活処理方法としては、例えばニンジンを70?80℃の水中で内部温度が70?80℃に達するまでブランチングするのが好ましい。かかる方法において、ブランチングを行う水温が70℃より低いとペクチン分解酵素の働きにより凝集が発生するようになり、80℃より高い温度では収率が減少し、かつ加熱臭が付くようになる。」

(1e) 「【0024】表1の結果により、70℃以上でのブランチングにより凝集は防止された。また、図3の結果より、凝集が防止された70℃でのブランチングでは、ペクチナーゼ活性は60%以下に低下し、ペクチンエステラーゼ活性は完全に失活していた。さらに80℃では、ペクチナーゼ活性は30%以下に低下し、ペクチンエステラーゼ活性は完全に失活していた。これより、凝集を防止するにはペクチナーゼ活性を60%以下に低下させると共に、ペクチンエステラーゼ活性は完全に失活させる必要があると考えられる。また、図1及び図2の結果より、収率及びbrixはブランチング温度の上昇に伴い低下するため、ブランチング温度は70?80℃が好ましいと判断することができる。」

(1f) 「【0031】(クエン酸溶液でのブランチング試験)市販のニンジンを水洗し剥皮した後、2cm角ダイスにカットし、これを60℃の0.01?0.5Mクエン酸溶液中又は60℃の水中で内部温度が60℃に達するまでブランチングを行った。その後、いずれも破砕、ネルろ過により搾汁し、遠心分離(3000rpm,10分)してニンジンジュースとした。得られたジュースについて、上記と同様の方法で、凝集評価、搾汁率(重量%)、Brix、滴定酸分(酸度) 、pH、色調を測定及び観察し、この結果を表4に示すと共に、クエン酸濃度とペクチナーゼ活性との関係を図4に示した。」

(1g) 「【0033】表4の結果より、クエン酸溶液の濃度が0.02M以上であれば、60℃のブランチングでも凝集は認められなかった。また、図4の結果より、凝集を起こした0.01Mクエン酸溶液では、ペクチナーゼ活性は水の場合と同様であったが、凝集を防止できた0.02Mクエン酸溶液では、ペクチナーゼ活性は85%前後に低下し、0.02M以上のクエン酸溶液では濃度依存的にペクチナーゼ活性は抑制された。なお、0.1M以上のクエン酸溶液ではジュースpHが低すぎるため、利用に不適当であると考えられる。」

以上より、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「生ニンジンを皮むき状態で1日以上経過させることなく、ニンジンを60?70℃の0.02M?0.05Mクエン酸溶液中で内部温度が60?70℃に達するまでブランチングし、その後破砕し搾汁する工程を有するニンジンジュースの製造方法。」

(2) 対比
引用発明の「ニンジンジュース」、「皮むき状態」の「生ニンジン」、「ブランチング」及び「破砕し搾汁する」ことは、その作用・機能からみて、それぞれ本願補正発明の「ニンジン汁」、「剥皮ニンジン」、「ブランチ」及び「搾られる」ことに相当する。
また、引用発明の「ニンジンジュース」は、「ブランチングし、その後破砕し搾汁する」ことにより得られるので、引用発明は、本願補正発明の「搾られるのは、ブランチされたニンジンであること」を有するものである。
引用発明の「生ニンジンを皮むき状態で1日以上経過させることなく、ニンジンを60?70℃の0.02M?0.05Mクエン酸溶液中で内部温度が60?70℃に達するまでブランチングし」ていることは、本願補正発明の「ブランチされるのは、剥皮ニンジンであること」に相当する。また、引用発明の「ブランチング」により「60?70℃に達する」「内部温度」は、本願補正発明の「ブランチされたニンジンが至る温度(以下、「ブランチング温度」という。)」に相当する。
そうすると、引用発明の「ニンジン」が「内部温度が60?70℃に達するまでブランチング」されていることにおいて、その内部温度の下限値は、本願補正発明の「ブランチされたニンジンが至る温度(以下、「ブランチング温度」という。)は、68度以下であ」ることにおける温度の範囲内であるので、引用発明は、「ブランチされたニンジンが至る温度(以下、「ブランチング温度」という。)は、68度以下であ」るものといえる。
以上のことを踏まえると、引用発明の「ニンジンジュースの製造方法」は、「ブランチング」されるのは、「皮むき状態」の「ニンジン」であること、及び、「破砕し搾汁」されるのは、「ブランチング」された「ニンジン」であること、の工程で、少なくとも構成されているといえる。

そうすると、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

[一致点]
ニンジン汁の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、以下の工程であり、
ブランチされるのは、剥皮ニンジンであること、及び
搾られるのは、ブランチされたニンジンであること、であり、
ブランチされたニンジンが至る温度(以下、「ブランチング温度」という。)は、68度以下である、
こと。

[相違点1]
ブランチされたニンジンが至る温度について、本願補正発明は、上記特定事項B(「それによって抑制されるのは、グルタミン酸濃度であり、その結果として、ニンジン汁の旨味が抑制されることで、ニンジン汁の甘味が確保される」)と特定しているのに対して、引用発明は、そのような特定をしていない点。

(3) 判断
上記「第2 2 補正の適否」で検討したとおり、上記特定事項Bは、上記特定事項Aの工程を経て得られるニンジン汁について、単に、「グルタミン酸」及び「旨味」の性状を説明しているに過ぎないものであり、ニンジン汁の製造方法として、製造工程を具体的に限定するものではないことは明らかである。
そして、上記したように、本願補正発明は、引用発明とニンジン汁の製造工程において、具体的な違いがないことより、その製造工程を経て得られるニンジン汁の性状において、引用発明と相違すると認めることはできない。
そうすると、相違点1は、実質的な相違点ではない。
したがって、本願補正発明は、引用発明と実質的に同一のものである。

(4) 小括
以上のとおり、本願補正発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反し、あるいは、同法第17条の2第5項第2号に該当するとしても、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年8月4日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成28年4月21日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項5に記載された事項(第2[理由]1 補正の内容の概要 (補正前の請求項5)参照。)により特定されるとおりのものと認める。

2 引用例の記載事項及び記載された発明
上記拒絶理由で引用された刊行物である引用例1の記載事項及び記載された発明は上記の「第2 3 (1)」に記載されたとおりである。


3 対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、「それによって抑制されるのは、グルタミン酸濃度であり、その結果として、ニンジン汁の旨味が抑制されることで、ニンジン汁の甘味が確保される」との特定を省き、本願補正発明が「それを構成するのは、」及び「以下の工程であり、」と特定していたものを、それぞれ「その構成は、」及び「以下の工程であって、」とするものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含むものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3 (3) 判断」に記載したとおり、引用発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、本願発明も、同様に、引用発明と同一なものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-14 
結審通知日 2017-06-15 
審決日 2017-06-27 
出願番号 特願2015-194836(P2015-194836)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
P 1 8・ 113- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 裕美子  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 山崎 勝司
井上 哲男
発明の名称 ニンジン汁の甘味確保方法、ニンジン汁の製造方法及びニンジン汁  

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