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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1331060
審判番号 不服2016-13922  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-16 
確定日 2017-08-28 
事件の表示 特願2014- 20483「酸化物半導体膜、及び半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月 5日出願公開、特開2014-103415、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年11月5日(国内優先権主張 先の出願日平成21年11月6日)の出願である特願2010-248163号の一部を,平成26年2月5日に新たな出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 2月14日 審査請求
平成26年12月24日 拒絶理由通知
平成27年 1月20日 意見書・手続補正
平成27年 2月27日 拒絶理由通知(最後)
平成27年 4月13日 意見書
平成27年12月18日 拒絶理由通知(最後)
平成28年 2月12日 意見書・手続補正
平成28年 7月15日 補正却下の決定・拒絶査定(以下,「原査定」という)
平成28年 9月16日 審判請求・手続補正
平成29年 4月17日 拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由」という)
平成29年 6月 5日 意見書・手続補正

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は,平成29年6月5日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
酸化物半導体膜と,
前記酸化物半導体膜の一方の面に接する領域を有する第1の絶縁膜と,前記酸化物半導体膜の他方の面に接する領域を有する第2の絶縁膜とを有し,
前記酸化物半導体膜は,In-Ga-Zn-O膜であり,
前記酸化物半導体膜の水素の抜けた欠損部および酸素欠損部に,酸素が供給されて存在し,
前記酸化物半導体膜のキャリア濃度が,1×10^(14)/cm^(3)未満を有し,
前記第2の絶縁膜は,前記酸化物半導体膜に酸素を供給する機能を有することを特徴とする半導体装置。」
「【請求項2】
酸化物半導体膜と,
前記酸化物半導体膜の一方の面に接する領域を有する第1の絶縁膜と,前記酸化物半導体膜の他方の面に接する領域を有する第2の絶縁膜とを有し,
前記酸化物半導体膜は,In-Ga-Zn-O膜であり,
前記酸化物半導体膜の水素の抜けた欠損部および酸素欠損部に,酸素が供給されて存在し,
前記酸化物半導体膜のキャリア濃度が,1×10^(14)/cm^(3)未満を有し,
前記第2の絶縁膜は,前記酸化物半導体膜よりも酸素濃度が高いことを特徴とする半導体装置。」

第3 原査定の理由の概要
1 理由1(明確性)
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
<物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合の明確性要件について>
請求項1,2に係る発明は,「半導体装置」(物の発明)であるが,当該請求項には,「水素が脱離した後,水素の欠損部および酸素欠損部に,酸素が供給され」という,その物の製造方法が記載されているものと認められる。
ここで,物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において,当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最二小判平成27年6月5日 平成24年(受)1204号,同2658号)。
しかしながら,不可能・非実際的事情が存在することについて,明細書等に記載がなく,また,出願人から主張・立証がされていないため,その存在を認める理由は見いだせない。
したがって,請求項1及び2に係る発明は明確でない。
2 理由2(新規性)
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
・請求項1,2
引用文献1(特に[0018],[0029],[0032]-[0038]参照。)には,
Inと,Gaと,Znとを有し,キャリア濃度の低減のために,大気中にて,400℃,1時間の熱処理を行い,キャリア濃度が10^(13)?10^(14)/cm^(3)である,酸化物半導体膜,および当該酸化物半導体膜を用いた電界効果トランジスタ,の発明が記載されている。
ここで,引用文献2([0070]-[0071]参照。)には,酸化物半導体の脱水のための加熱処理について,不活性雰囲気だけではなく,酸素等の雰囲気を用いることができ,加熱温度が150℃以上であれば良い旨記載されている。
当該記載を参酌すると,酸化物半導体膜に大気中にて,400℃,1時間の熱処理を行った場合,水素の脱離に必要な加熱温度が,酸素の供給するための加熱温度よりも低温であるから,まず膜中から水素が脱離し,その後,水素が脱離した箇所や酸素空孔に酸素が供給されるといえる。
してみると,引用文献1に記載された発明における,大気中,400℃,1時間の熱処理でも,水素が脱離した後,水素の欠損部と酸素の欠損部に酸素が供給されると認められる。
請求項2に係る発明について,Inと,Gaと,Znとを有する酸化物半導体は,概ね2eV以上のバンドギャップを有する。
3 理由3(進歩性)
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1,2
・引用文献1,2
・備考
二酸化ケイ素をゲート絶縁膜や保護膜に適用することが慣用手段であり,二酸化ケイ素からなるゲート絶縁膜や保護膜は,材質からみて,酸化物半導体膜よりも酸素濃度が高く,かつ酸化物半導体膜に酸素を供給する機能を有する。
<引用文献等一覧>
引用文献1 国際公開第2007/139009号
引用文献2 特開2008-281988号公報

第4 当審拒絶理由の概要
1 理由1(進歩性)
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
引 用 文 献 等 一 覧
引用文献1 国際公開2007/139009号
引用文献A 特開2009-253204号公報
(1)請求項1について
・引用文献等 1,A
・備考
本願発明の「酸化物半導体膜」は,本願明細書段落【0036】の記載から見て,Snを有するものも含むものである。そして,引用文献1([0001],[0018],[0022]-[0029],[0032]-[0038])記載の発明(「引用発明」)は,「酸化性雰囲気の熱処理により酸素空孔を補償しキャリヤ濃度を制御する」ものであるから,キャリヤ供給源となる水素を抜くことも含まれることは,当業者に明らかである。
すると,本願発明と引用発明とを対比すると,両者は下記の点で相違すると認められる。
相違点:本願発明において「絶縁膜は,前記酸化物半導体膜に酸素を供給する機能を有する」のに対し,引用発明においてはこのことが明示されていない点。
前記相違点について検討すると,引用文献A(段落【0033】)には酸素リッチの絶縁膜が記載されており,引用発明において「酸化性雰囲気」を強化するために,引用文献2に記載された酸素リッチの絶縁膜を採用することは,当業者が容易になし得ることである。
したがって,本願発明は,引用文献1,Aに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)請求項2について
・引用文献等 1,A
・備考
前記(1)と同様。
2 理由2(実施可能要件)
この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

・請求項1及び2について
本願の発明の詳細な説明には,「絶縁膜」が「酸化物半導体膜に酸素を供給する機能を有すること」ないし「酸化物半導体膜よりも酸素濃度が高いこと」について,段落【0061】に記載されているが,そこには単に「絶縁膜に効率よく水素を引き抜くことができる」と記載されているだけで,絶縁膜の組成や厚さ,反応温度や反応時間についての記載が一切なく,また,酸化物半導体膜についても,その組成や厚さ,結晶状態についての記載が一切なく,これらの条件をどのようにすれば「酸化物半導体膜のキャリア濃度が1×10^(14)/cm^(3)未満」とすることができるのか,当業者に不明である。
また,同段落には「絶縁膜1200は,スパッタ法により形成するとよい」と記載されているが,そもそもスパッタ法による形成中に水素の引き抜きが起こるのか,それとも,絶縁膜のスパッタ法による形成後に加熱ないし室温で放置することにより水素の引き抜きがおこるのかも不明で,この記載から,当業者が「酸化物半導体膜のキャリア濃度が1×10^(14)/cm^(3)未満」となるような反応条件を見いだすことはできない。
なお,本願の発明の詳細な説明(段落【0040】,【0041】)には,酸化物半導体膜に加熱処理を施すことにより,キャリア濃度を,好ましくは1×10^(14)/cm^(3)未満にすることが記載されているが,この記載は段落【0032】,【0033】に記載されたゲート絶縁膜を前提としたもので,そこには酸素を含むものと含まないものが記載されているから,前記加熱処理は,「絶縁膜」が「酸化物半導体膜に酸素を供給する機能を有すること」ないし「酸化物半導体膜よりも酸素濃度が高いこと」と因果関係があるとは認められない。
また,段落【0061】には,冒頭に「また別の構成の一つとして」と記載されており,同段落の発明は,ゲート絶縁膜(GI)とは別に酸素濃度の高い絶縁膜1200を用いるものであるから,段落【0061】に記載された発明とは「別の構成」である発明についての段落【0040】,【0041】に記載の反応条件を,段落【0061】に記載された発明に適用できるものでないことは,明らかである。
したがって,請求項1及び2に係る発明について,本願の発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に記載されていない。
3 理由3(サポート要件)
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

・請求項1及び2について
前記2のとおり,発明の詳細な説明にはゲート絶縁膜(GI)とは別に酸素濃度の高い絶縁膜1200を用いることしか記載されておらず,ゲート絶縁膜としての機能を果たしつつ「酸化物半導体膜に酸素を供給する機能を有すること」ないし「酸化物半導体膜よりも酸素濃度が高いこと」を同時に満たす「絶縁膜」は記載されていない。
しかし,請求項1及び2に記載された「絶縁膜」は,「ゲート絶縁膜」も含むものとなっているから,請求項1及び2に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。

第5 引用文献
1 引用文献1の記載
(1)引用文献1
引用文献1には,図面とともに,次の記載がある。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,酸化物半導体,薄膜トランジスタ,及びそれらの製造方法に関する。」
イ 「【発明の効果】
【0016】
本願発明者らは,Snの単独添加の場合,Snは移動度を維持しつつオフ電流を低下させる働きがあることを見出しており,よって,InとSnを同時に添加することにより,低オフ電流を維持しつつ移動度の向上が達成できたものと考えられる。またZnの場合,同量のSnを加えることにより,アモルファス材料であるSnZnO_(3)を形成させることにより,アモルファス状態を維持しつつ移動度の向上をはかることができたものと考えられる。・・・
【0018】
また,得られたアモルファス酸化物をさらに酸化性ガス雰囲気下で熱処理することで,キャリヤ濃度の低い酸化物半導体を安定的に得ることができる。これは,酸化性雰囲気の熱処理により膜中の酸素空孔を補償しキャリヤ濃度を制御するとともに,加熱により構造的に不安定な部分が解消されるためであると考えられる。」
ウ 「【0022】
図1は,本発明に係る薄膜トランジスタの構成の一例を示す断面図である。図1に示すように,この薄膜トランジスタは,基板10上に,ゲート電極11,ゲート絶縁膜12,酸化物半導体13が順次形成されている。そして,酸化物半導体13の表面にソース電極14およびドレイン電極15が形成されている。
・・・
【0026】
ゲート絶縁膜12としては,シリコン,イットリウム,アルミニウム,ハフニウム,ジルコニウム,タンタル等の金属酸化物,チタン酸バリウムストロンチウム等の複合酸化物,窒化シリコン等を用いることができるが,これらに限定されるものではない。ゲート絶縁膜12の薄膜形成およびパターニングも,ゲート電極11と同様に,スパッタやフォトリソグラフにより容易に行う事が出来る。
【0027】
酸化物半導体膜13としては,一般式In_(x+1)MZn_(y+1)Sn_(z)O_((4+1.5x+y+2z))(M=Ga又はAl,0≦x≦1,-0.2≦y≦1.2,z≧0.4,0.5≦(x+y)/z≦3)で表される,アモルファス構造を有する酸化物を用いる。In,M(Ga又はAl),Zn,Snの比率をこの範囲内にすることで,より高い移動度(好ましくは,15cm^(2)/Vs以上の範囲)を持ち,かつキャリヤ濃度を低減する(好ましくは,10^(15)/cm^(3)以下の範囲に低減する)ことができる酸化物半導体膜を得ることができる。
・・・
【0029】
酸化物半導体膜13については,成膜条件により低キャリヤ濃度の試料も得る事ができるが,安定的にキャリヤ濃度の低い試料を得るために,酸化性ガス雰囲気下で熱処理する事が望ましい。酸化性ガスとしては,酸素ラジカル,酸素,水分,またはオゾンを少なくとも含む事が望ましい。また,熱処理の方法としては,通常の雰囲気加熱の他,赤外線過熱,誘導過熱などの方法を採用することができる。加熱温度としては200?600℃が好ましい。」
エ 「【実施例】
【0032】
(実施例1?5)
図1の構造の電界効果トランジスタを以下のようにして5種類作製した。先ず,基板として,厚さ100nmの熱酸化膜がついたシリコンウエハを用いた。用いたシリコンウエハはハイドープしたp型であり,ゲート電極として機能し,また熱酸化膜はゲート絶縁膜として機能する。
【0033】
この熱酸化膜の上に,酸化物半導体を高周波マグネトロンスパッタ法により形成した。酸化物半導体ターゲットにはInGaZnO_(4)を用い,ターゲット上に小径のIn_(2)O_(3),ZnO,SnO_(2)等の金属酸化物ペレットを置く事で膜組成の調整を行った。スパッタ条件は,基板を加熱しない条件において,アルゴンガス下,真空度は2Paとした。これにより形成した薄膜の金属原子組成を,誘導プラズマ発光分光分析(ICP)により評価した。その結果の膜組成を表1に示す。また,これら薄膜は,キャリヤ濃度の低減のため,大気中にて400℃,1時間の熱処理を行った。
【0034】
これら薄膜上に,ソース電極とドレイン電極として銅の蒸着膜をシャドウマスク法により形成し,電界効果トランジスタを得た。電極の厚さは80nm,ソース電極とドレイン電極の間のチャネル領域は,チャネル長さ(ソース電極とドレイン電極との間の距離)50μm,チャネル幅(ソース電極およびドレイン電極の幅)1mmとした。成膜に用いた蒸着装置は拡散ポンプ排気で,蒸着は4×10^(-4)Pa(3×10^(-6)torr)の真空度で行った。また,蒸着は抵抗加熱方式により成膜速度はそれぞれ10nm/sec,0.4nm/secで行った。なお成膜時の基板温度は室温とした。
【0035】
(比較例1?4)
酸化物半導体のスパッタ成膜の際,ターゲット上に置いた金属酸化物ペレットの種類を変えたことを除き,実施例1?5と同様の手順にて,4種類の電界効果トランジスタを作製した。これらの膜組成を表1に示す。
【0036】
(移動度およびキャリヤ濃度の測定)
実施例1?5及び比較例1?4について,微小電流計6487(ケースレー社製)を用いて電界効果トランジスタ特性(ドレイン電流)を測定し,ゲート電圧-ドレイン電流特性から飽和領域におけるFET移動度を求めた。また,キャリヤ濃度に比例する値として,ゲート電圧を0Vとした時に流れるドレイン電流(以後,オフ電流と呼ぶ)を測定した。これらの結果を表1に示す。また,膜組成(x+y)/zとFET移動度の関係を示すグラフを図2に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示すように,実施例1?5では15?20cm^(2)/Vsと高い移動度が得られた。また,オフ電流から推定されるキャリヤ濃度は10^(13)?10^(14)/cm^(3)と十分に低い事が確認できた。なお,上記の実施例および比較例の酸化物半導体はすべて粉末X線回折によりアモルファス構造である事が確認できた。」
(2)引用発明1
前記アより,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「熱酸化膜の上に酸化物半導体を形成した電界効果トランジスタであって,前記酸化物半導体はInGaZnSnOの膜であり,キャリア濃度が10^(13)?10^(14)/cm^(3)であること。」
2 引用文献2の記載
(1)引用文献2
引用文献2には,図面とともに,次の記載がある。
「【0057】
次に,本発明における,有機EL素子を駆動するための電界効果型トランジスタを有する発光装置の作製方法について,図2に基づいて説明する。
【0058】
まず,基板上に電界効果型トランジスタを形成する(ステップS1)。ボトムゲート,トップコンタクトの場合,基板1上にゲート電極2をパターニングして形成した後に,ゲート絶縁層3を形成する。次に,酸化物半導体層4をパターニングして形成する。
【0059】
ここで,酸化物半導体層4を形成した後,有機EL素子を構成するための有機層の形成前までがドライプロセスであるならば,酸化物半導体層4を形成した後,連続して,脱水のための熱処理を行うことが好ましい。
・・・
【0070】
脱水のための加熱処理は雰囲気や圧力に依存せず,成膜時の条件に依存して,ドライエア,窒素ガス,希ガス等の不活性雰囲気だけでなく,酸素等の雰囲気を用いることができる。
【0071】
本発明の熱処理時の加熱温度は,150℃から300℃,好ましくは200℃から300℃である。また,一定温度でなく昇温する場合は,例えば,赤外線ランプを用いて毎分60℃で昇温を行い,150℃に到達すれば,本発明の効果を得ることができる。」
(2)引用発明2
前記(1)より,引用文献2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「電界効果型トランジスタを形成する際に,酸化物半導体層を形成した後,連続して,脱水のための熱処理を行うこと。」
3 引用文献Aの記載
(1)引用文献A
引用文献Aには,図面とともに,次の記載がある。
「【0026】
以下,本発明の電界効果型トランジスタを構成部材について説明する。
・・・
【0031】
3.半導体層の保護層
半導体の保護層を形成する材料には特に制限はないが,非晶質酸化物又は非晶質窒化物からなることが好ましい。
例えば,SiO_(2),SiN_(x)(x=0.1?10),Al_(2)O_(3),Ta_(2)O_(5),TiO_(2),MgO,ZrO_(2),CeO_(2),K_(2)O,Li_(2)O,Na_(2)O,Rb_(2)O,Sc_(2)O_(3),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3),PbTi_(3),BaTa_(2)O_(6),SrTiO_(3),AlN等を用いることができる。これらのなかでも,SiO_(2),SiN_(x),Al_(2)O_(3),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3)を用いるのが好ましく,より好ましくはSiO_(2),SiN_(x),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3)であり,特に好ましくはSiO_(2),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3)等の酸化物である。これらの酸化物の酸素数は,必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば,SiO_(2)でもSiO_(x)(x=0.1?10)でもよい)。また,SiN_(x)は水素元素を含んでいても良い。
【0032】
このような保護層は,異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。
また,保護層は,結晶質,多結晶質,非晶質のいずれであってもよいが,工業的に製造しやすい多結晶質か,非晶質であるのが好ましい。特に,保護層が非晶質であることが好ましい。非晶質膜でないと界面の平滑性が悪く移動度が低下したり,閾値電圧やS値が大きくなりすぎるおそれがある。
また,保護層が酸化物でないと半導体中の酸素が保護層側に移動し,オフ電流が高くなったり,閾値電圧が負になりノーマリーオフを示すおそれがある。
また,半導体層の保護層は,ポリ(4-ビニルフェノール)(PVP)やパリレン等の有機絶縁膜を用いてもよい。さらに,半導体層の保護層は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上積層構造を有してもよい。
【0033】
4.ゲート絶縁膜
ゲート絶縁膜を形成する材料には特に制限はない。本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば,SiO_(2),SiN_(x)(x=0.1?10),Al_(2)O_(3),Ta_(2)O_(5),TiO_(2),MgO,ZrO_(2),CeO_(2),K_(2)O,Li_(2)O,Na_(2)O,Rb_(2)O,Sc_(2)O_(3),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3),PbTi_(3),BaTa_(2)O_(6),SrTiO_(3),AlN等を用いることができる。これらのなかでも,SiO_(2),SiN_(x),Al_(2)O_(3),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3)を用いるのが好ましく,より好ましくはSiO_(2),SiN_(x),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3)であり,特に好ましくはSiO_(2),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3)等の酸化物である。これらの酸化物の酸素数は,必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば,SiO_(2)でもSiO_(x)(x=0.1?10)でもよい)。また,SiN_(x)は水素元素を含んでいても良い。
このようなゲート絶縁膜は,異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。積層した場合は,半導体層と接する側をSiO_(2)等の酸化膜とすることが好ましい。また,ゲート絶縁膜は,結晶質,多結晶質,非晶質のいずれであってもよいが,工業的に製造しやすい多結晶質か,非晶質であるのが好ましい。界面が平坦な非晶質膜が特に好ましい。」
(2)引用発明A
前記(1)より,引用文献Aには,次の発明(以下,「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。
「電界効果トランジスタの半導体層の保護層及びゲート絶縁層に酸化数の高い酸化物をもちいること。」

第6 判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1との対比
ア 引用発明1の「酸化物半導体」は「InGaZnSnOの膜」であるから,下記相違点1を除いて,本願発明1の「酸化物半導体膜」に相当する。
イ 引用発明1の「熱酸化膜」はその上に「酸化物半導体を形成した」ものであり,ゲート絶縁膜として機能する(前記第5の1(1)エ【0032】)から,本願発明1の「前記酸化物半導体膜の一方の面に接する領域を有する第1の絶縁膜」に相当する。
ウ 引用発明1の「酸化物半導体」は,「酸化性雰囲気の熱処理により膜中の酸素空孔を補償しキャリヤ濃度を制御」されたもの(前記第5の1(1)イ【0018】)であるから,本願発明1の「前記酸化物半導体膜の水素の抜けた欠損部および酸素欠損部に,酸素が供給されて存在し」を満たすと認められる。
エ 引用発明1の「酸化物半導体」は「キャリア濃度が10^(13)?10^(14)/cm^(3)である」から,本願発明1の「前記酸化物半導体膜のキャリア濃度が,1×10^(14)/cm^(3)未満を有し」を満たすと認められる。
オ 引用発明1の「電界効果トランジスタ」は,本願発明1の「半導体装置」に相当する。
カ すると,本願発明1と引用発明1とは,下記キの点で一致し,下記クの点で相違すると認められる。
キ 一致点
「酸化物半導体膜と,
前記酸化物半導体膜の一方の面に接する領域を有する第1の絶縁膜と,を有し,
前記酸化物半導体膜の水素の抜けた欠損部および酸素欠損部に,酸素が供給されて存在し,
前記酸化物半導体膜のキャリア濃度が,1×10^(14)/cm^(3)未満を有することを特徴とする半導体装置。」
ク 相違点
(ア)相違点1
本願発明1の「酸化物半導体膜」は,「In-Ga-Zn-O膜」であるのに対し,引用発明1の「酸化物半導体」は「InGaZnSnOの膜」である点。
(イ)相違点2
本願発明1では「前記酸化物半導体膜の他方の面に接する領域を有する第2の絶縁膜」を有し,「前記第2の絶縁膜は,前記酸化物半導体膜に酸素を供給する機能を有する」のに対し,引用発明1ではそうなっていない点。
(2)判断
ア 相違点1について
引用文献1には,酸化物半導体にSnを添加することによりオフ電流を低下させることが開示されており(前記第5の1(1)イ【0016】),引用発明1において「InGaZnSnOの膜」を「In-Ga-Zn-O膜」とするにはSnを省く必要があり,すると引用文献1の前記開示に反することになるから,引用発明1においてSnを省いて相違点1に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得ることではない。
イ 相違点2について
絶縁膜が「酸化物半導体膜に酸素を供給する機能を有する」ことについて,いずれの引用文献にも記載も示唆もない。
引用文献Aには保護層を酸化物として半導体中の酸素の移動を防止することが開示ないし示唆されている(前記第5の3(1)【0032】)が,半導体に酸素を供給する機能が示唆されているとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから,本願発明1は,引用文献1,2及びAに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
2 本願発明2について
(1)本願発明2と引用発明1との対比
前記1(1)アないしオと同様であるから,本願発明2と引用発明1とは,下記アの点で一致し,下記イの点で相違すると認められる。
ア 一致点
「酸化物半導体膜と,
前記酸化物半導体膜の一方の面に接する領域を有する第1の絶縁膜と,を有し,
前記酸化物半導体膜の水素の抜けた欠損部および酸素欠損部に,酸素が供給されて存在し,
前記酸化物半導体膜のキャリア濃度が,1×10^(14)/cm^(3)未満を有することを特徴とする半導体装置。」
イ 相違点
(ア)相違点3
本願発明2の「酸化物半導体膜」は,「In-Ga-Zn-O膜」であるのに対し,引用発明1の「酸化物半導体」は「InGaZnSnOの膜」である点。
(イ)相違点4
本願発明2では「前記酸化物半導体膜の他方の面に接する領域を有する第2の絶縁膜」を有し,「前記第2の絶縁膜は,前記酸化物半導体膜よりも酸素濃度が高い」のに対し,引用発明1ではそうなっていない点。
(2)判断
ア 相違点3について
引用文献1には,酸化物半導体にSnを添加することによりオフ電流を低下させることが開示されており(前記第5の1(1)イ【0016】),引用発明1において「InGaZnSnOの膜」を「In-Ga-Zn-O膜」とするにはSnを省く必要があり,すると引用文献1の前記開示に反することになるから,引用発明1においてSnを省いて相違点1に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得ることではない。
イ 相違点4について
絶縁膜が「前記酸化物半導体膜よりも酸素濃度が高い」ことについて,いずれの引用文献にも記載も示唆もない。
引用文献Aには保護層を酸化物として半導体中の酸素の移動を防止することが開示ないし示唆されている(前記第5の3(1)【0032】)が,半導体よりも酸素濃度が高いことが示唆されているとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから,本願発明2は,引用文献1,2及びAに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
3 実施可能要件について
平成29年6月5日付け補正後の請求項1及び2に係る発明は,「前記酸化物半導体膜のキャリア濃度が,1×10^(14)/cm^(3)未満を有する」と同時に「前記酸化物半導体膜の一方の面に接する領域を有する第1の絶縁膜と,前記酸化物半導体膜の他方の面に接する領域を有する第2の絶縁膜とを有する」ものである。
してみると,請求項1及び2に係る発明について,発明の詳細な説明(段落【0040】,【0041】,【0061】)において,当業者が実施できる程度に十分に記載されていると認められる。
4 サポート要件について
前記3のとおり,請求項1及び2に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものであると認められる。

第7 原査定の理由についての判断
1 理由1について
平成29年6月5日付け補正後の請求項1及び2の記載は「水素が脱離した後,水素の欠損部および酸素欠損部に,酸素が供給され」という記載を含まない。
よって,請求項1及び2は,物の発明においてその物の製造方法が記載されているものではないから,同請求項の記載は明確である。
よって,原査定の理由1では本願を拒絶することはできない。
2 理由2について
(1)本願発明1について
本願発明1と引用発明1とを対比すると,前記第6の1(1)クのとおり,相違点1及び2で相違する。
したがって,本願発明1は,引用文献1に記載された発明ではない。
(2)本願発明2について
本願発明2と引用発明1とを対比すると,前記6の2(1)イのとおり,相違点3及び4で相違する。
したがって,本願発明2は,引用文献1に記載された発明ではない。
(3)小括
よって,原査定の理由2では本願を拒絶することはできない。
3 理由3について
本願発明1及び本願発明2は,前記「第6 判断」の1及び2のとおり,引用文献1,2及びAに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから,引用文献1及び2に記載された発明に基づいても当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって,原査定の理由3では本願を拒絶することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由及び当審拒絶理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-08-07 
出願番号 特願2014-20483(P2014-20483)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山口 大志岩本 勉  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 深沢 正志
小田 浩
発明の名称 酸化物半導体膜、及び半導体装置  
代理人 玉城 信一  
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