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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02F
管理番号 1331183
異議申立番号 異議2016-700671  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-03 
確定日 2017-06-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5859449号発明「TN液晶表示装置の前面板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 平成29年3月6日付け訂正請求において、特許第5859449号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-9]について訂正することを認める。 特許第5859449号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5859449号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、2011年9月22日(優先権主張2010年10月13日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年12月25日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、平成28年8月3日付けで特許異議申立人志築正治より請求項1ないし9に対して特許異議の申立てがされ、同年9月29日付けで取消理由通知がされ、同年11月29日に意見書が提出され、同年12月27日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成29年3月6日に意見書の提出及び訂正請求がされ、その訂正請求に対して同年6月6日付けで特許異議申立人志築正治から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成29年3月6日付けの訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正を、以下「本件訂正」という。)は、特許第5859449号の明細書及び特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項1ないし訂正事項3からなる。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ポリカーボネート樹脂シートを備え、バックライト光源が白色LEDであるTN液晶表示装置の前面板であって、
前記ポリカーボネート樹脂シートの表面又は表裏面に、厚みが30?100μmの範囲であり、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が少なくともF以上である硬質樹脂層をさらに備え、該硬質樹脂層が、(メタ)アクリル樹脂、少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種類の芳香族ビニルモノマーとの共重合体の芳香環が水素化された樹脂(以下、核水添MS樹脂と記す)、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン単位若しくは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン単位を主たる構成単位とした変性ポリカーボネート樹脂からなり、
前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、斜め45°の偏光が出るTN液晶パネルの縦方向と平行であり、レターデーションが5000nm以上であることを特徴とするTN液晶表示装置の前面板。」と記載されているのを、
「ポリカーボネート樹脂シートを備え、バックライト光源が、青色のLED発光によって黄色と赤色が蛍光励起されて発光するシングルチップ方式の白色LEDであるTN液晶表示装置の前面板であって、
前記ポリカーボネート樹脂シートの表面又は表裏面に、厚みが30?100μmの範囲であり、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が少なくともF以上である硬質樹脂層をさらに備え、該硬質樹脂層が、(メタ)アクリル樹脂、少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種類の芳香族ビニルモノマーとの共重合体の芳香環が水素化された樹脂(以下、核水添MS樹脂と記す)、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン単位若しくは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン単位を主たる構成単位とした変性ポリカーボネート樹脂からなり、
前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、斜め45°の偏光が出るTN液晶パネルの縦方向と平行となるように、該TN液晶パネルに取り付けられた状態にあり、レターデーションが5000nm以上であり、
前記前面板は、下記式(1)で表される透過率TT(λ)と、前記バックライト光源の光スペクトルS(λ)と、CIE1931の等色関数(スペクトル刺激値)x(λ)、y(λ)及びz(λ)のそれぞれとの重なり積分を、波長領域:380?780nmで実施し、X、Y及びZを算出した結果得られた色度図上のx=X/(X+Y+Z)とy=Y/(X+Y+Z)の範囲が、x_(MAX)-x_(MIN)≦0.04、y_(MAX)-y_(MIN)≦0.04の関係を満たす、ことを特徴とするTN液晶表示装置の前面板。
TT(λ)=cos^2(π×Re(λ)/λ)…(1)」に訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許明細書の【0011】に「本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)ポリカーボネート樹脂シートを備え、バックライト光源が白色LEDであるTN液晶表示装置の前面板であって、前記ポリカーボネート樹脂シートの表面又は表裏面に、厚みが30?100μmの範囲であり、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が少なくともF以上である硬質樹脂層をさらに備え、該硬質樹脂層が、(メタ)アクリル樹脂、少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種類の芳香族ビニルモノマーとの共重合体の芳香環が水素化された樹脂(以下、核水添MS樹脂と記す)、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン単位若しくは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン単位を主たる構成単位とした変性ポリカーボネート樹脂からなり、前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、斜め45°の偏光が出るTN液晶パネルの縦方向と平行であり、レターデーションが5000nm以上であることを特徴とするTN液晶表示装置の前面板。」と記載されているのを、
「本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)ポリカーボネート樹脂シートを備え、バックライト光源が、青色のLED発光によって黄色と赤色が蛍光励起されて発光するシングルチップ方式の白色LEDであるTN液晶表示装置の前面板であって、前記ポリカーボネート樹脂シートの表面又は表裏面に、厚みが30?100μmの範囲であり、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が少なくともF以上である硬質樹脂層をさらに備え、該硬質樹脂層が、(メタ)アクリル樹脂、少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種類の芳香族ビニルモノマーとの共重合体の芳香環が水素化された樹脂(以下、核水添MS樹脂と記す)、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン単位若しくは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン単位を主たる構成単位とした変性ポリカーボネート樹脂からなり、前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、斜め45°の偏光が出るTN液晶パネルの縦方向と平行となるように、該TN液晶パネルに取り付けられた状態にあり、レターデーションが5000nm以上であり、前記前面板は、下記式(1)で表される透過率TT(λ)と、前記バックライト光源の光スペクトルS(λ)と、CIE1931の等色関数(スペクトル刺激値)x(λ)、y(λ)及びz(λ)のそれぞれとの重なり積分を、波長領域:380?780nmで実施し、X、Y及びZを算出した結果得られた色度図上のx=X/(X+Y+Z)とy=Y/(X+Y+Z)の範囲が、x_(MAX)-x_(MIN)≦0.04、y_(MAX)-y_(MIN)≦0.04の関係を満たす、ことを特徴とするTN液晶表示装置の前面板。
TT(λ)=cos^2(π×Re(λ)/λ)…(1)」に訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許明細書の【0028】に「ここで、前記液晶パネル100の前面と、前記メガネ前側偏光板210が平行ニコルの関係にあり、その間に液晶表示装置前面板1を配置し、2つの偏光板の透過軸(方向は同じ)と、前記液晶表示装置前面板1のポリカーボネート樹脂シート10の屈折率楕円体の進相軸または遅相軸が45°で交差する配置である。その場合の透過率の波長依存性TT(λ)は、下式(1)で表現される。
TT(λ)=cos^2(π×Re(λ)/λ)・・・(1)
ここで、cosは余弦関数、πは円周率、λは波長、Re(λ)はレターデーションの波長依存性を表している。
また、図3は、ポリカーボネートのレターデーションの波長依存性Re(λ)を、590nm(ナトリウムD線)のレターデーションで規格化したグラフを示したものである。図中の数式は、コーシーの近似式となる。さらに、図4は液晶モニター全面を白色表示させて、光スペクトルアナライザーで測定した光スペクトルS(λ)を示す。なお、この際の液晶モニターで用いられている光源は、白色のLEDであり、青色のLED発光により、黄色と赤色が蛍光励起されて発光し、そのバランスによって白色になるシングルチップ方式のLEDである。
そして、式1の平行ニコルでの透過率TT(λ)と、図3の光スペクトルS(λ)と、CIE1931の等色関数(スペクトル刺激値)x(λ)、y(λ)及びz(λ)のそれぞれとの重なり積分を実施し、X、Y及びZを算出し、任意のレターデーションRe(λ)の色度図上のx=X/(X+Y+Z)とy=Y/(X+Y+Z)を算出した。なお、積分波長領域は、可視光領域の380?780nmに設定した。」と記載されているのを、
「ここで、前記液晶パネル100の前面と、前記メガネ前側偏光板210が平行ニコルの関係にあり、その間に液晶表示装置前面板1を配置し、2つの偏光板の透過軸(方向は同じ)と、前記液晶表示装置前面板1のポリカーボネート樹脂シート10の屈折率楕円体の進相軸または遅相軸が45°で交差する配置である。その場合の透過率の波長依存性TT(λ)は、下式(1)で表現される。
TT(λ)=cos^2(π×Re(λ)/λ)・・・(1)
ここで、cosは余弦関数、πは円周率、λは波長、Re(λ)はレターデーションの波長依存性を表している。
また、図3は、ポリカーボネートのレターデーションの波長依存性Re(λ)を、590nm(ナトリウムD線)のレターデーションで規格化したグラフを示したものである。図中の数式は、コーシーの近似式となる。さらに、図4は液晶モニター全面を白色表示させて、光スペクトルアナライザーで測定した光スペクトルS(λ)を示す。なお、この際の液晶モニターで用いられている光源は、白色のLEDであり、青色のLED発光により、黄色と赤色が蛍光励起されて発光し、そのバランスによって白色になるシングルチップ方式のLEDである。
そして、式1の平行ニコルでの透過率TT(λ)と、図4の光スペクトルS(λ)と、CIE1931の等色関数(スペクトル刺激値)x(λ)、y(λ)及びz(λ)のそれぞれとの重なり積分を実施し、X、Y及びZを算出し、任意のレターデーションRe(λ)の色度図上のx=X/(X+Y+Z)とy=Y/(X+Y+Z)を算出した。なお、積分波長領域は、可視光領域の380?780nmに設定した。」に訂正する。

2 訂正の適否
訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1
訂正事項1を、以下の「訂正事項1-1」、「訂正事項1-2」及び「訂正事項1-3」に分けて検討する。

ア まず、訂正事項1のうち、「バックライト光源が白色LEDである」を「バックライト光源が、青色のLED発光によって黄色と赤色が蛍光励起されて発光するシングルチップ方式の白色LEDである」に訂正すること(以下「訂正事項1-1」という。)について

a 上記訂正事項1-1は、「白色LED」の発光方式を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

b そして、白色LEDについては、本件特許明細書の【0028】に「…なお、この際の液晶モニターで用いられている光源は、白色のLEDであり、青色のLED発光により、黄色と赤色が蛍光励起されて発光し、そのバランスによって白色になるシングルチップ方式のLEDである。」と記載されていることから、上記訂正事項1-1は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

イ 次に、訂正事項1のうち、「該TN液晶パネルに取り付けられた状態にあり、」との事項を追加する訂正(以下「訂正事項1-2」という。)について

a 上記訂正事項1-2は、「前面板」の状態を明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

b また、上記訂正事項1-2は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 最後に、訂正事項1のうち、「前記前面板は、下記式(1)で表される透過率TT(λ)と、前記バックライト光源の光スペクトルS(λ)と、CIE1931の等色関数(スペクトル刺激値)x(λ)、y(λ)及びz(λ)のそれぞれとの重なり積分を、波長領域:380?780nmで実施し、X、Y及びZを算出した結果得られた色度図上のx=X/(X+Y+Z)とy=Y/(X+Y+Z)の範囲が、x_(MAX)-x_(MIN)≦0.04、y_(MAX)-y_(MIN)≦0.04の関係を満たす、……TT(λ)=cos^2(π×Re(λ)/λ)…(1)」との事項を追加する訂正(以下「訂正事項1-3」という。)について

a 上記訂正事項1-3は、色度図上で「色度のバラツキ」の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

b 本件特許明細書の【0028】には、「透過率の波長依存性TT(λ)は、下式(1)で表現される。
TT(λ)=cos^2(π×Re(λ)/λ)・・・(1)
ここで、cosは余弦関数、πは円周率、λは波長、Re(λ)はレターデーションの波長依存性を表している。……式1の平行ニコルでの透過率TT(λ)と、図3の光スペクトルS(λ)と、CIE1931の等色関数(スペクトル刺激値)x(λ)、y(λ)及びz(λ)のそれぞれとの重なり積分を実施し、X、Y及びZを算出し、任意のレターデーションRe(λ)の色度図上のx=X/(X+Y+Z)とy=Y/(X+Y+Z)を算出した。なお、積分波長領域は、可視光領域の380?780nmに設定した。」と記載されている。

c してみると、訂正事項1-3のうち、前段の「前記前面板は、下記式(1)で表される……波長領域:380?780nmで実施し、」は、本件特許明細書に記載された事項であると認められる。

d 上記記載を踏まえて、改めて、本件特許の図面である図5(a)及び図5(b)を詳細に見ると、本件発明1に係るサンプルでは「黒い点」が、おおよそ「0.04」の狭い範囲に集中し、従来のサンプルと比較して「色度のバラツキ」の小さいことが理解できる。

そうすると、上記訂正事項1-3のうち、後段の「X、Y及びZを算出した結果得られた色度図上のx=X/(X+Y+Z)とy=Y/(X+Y+Z)の範囲が、x_(MAX)-x_(MIN)≦0.04、y_(MAX)-y_(MIN)≦0.04の関係を満たす、」は、「色度のバラツキ」の程度を色度図の座標を用いて数値として客観的に把握できるようにしたものにすぎずないことから、新たな技術的事項を導入するものではない。

エ よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正事項2は、訂正事項1により特許請求の範囲を訂正したことに伴い、特許請求の範囲と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ また、上記「(1)訂正事項1」で検討したのと同様の理由により、新規事項の追加に該当しない。

ウ よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、特許明細書の「図3の光スペクトルS(λ)」を、「図4の光スペクトルS(λ)」に訂正するものであって、明らかな誤記を訂正しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に規定する「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。
また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)一群の請求項
本件訂正は、請求項1ないし9について請求されたものであって、訂正前の請求項2ないし8は、請求項1を引用し、訂正前の請求項9は、請求項8を引用するもである。
そして、訂正前の請求項2ないし9は、訂正事項1により訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし9に対応する訂正後の請求項1ないし9は、「一群の請求項」である。
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する

3 訂正の適否のまとめ
本件訂正請求は適法であることから、訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-9]について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明1ないし本件発明9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
ポリカーボネート樹脂シートを備え、バックライト光源が、青色のLED発光によって黄色と赤色が蛍光励起されて発光するシングルチップ方式の白色LEDであるTN液晶表示装置の前面板であって、
前記ポリカーボネート樹脂シートの表面又は表裏面に、厚みが30?100μmの範囲であり、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が少なくともF以上である硬質樹脂層をさらに備え、該硬質樹脂層が、(メタ)アクリル樹脂、少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種類の芳香族ビニルモノマーとの共重合体の芳香環が水素化された樹脂(以下、核水添MS樹脂と記す)、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン単位若しくは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン単位を主たる構成単位とした変性ポリカーボネート樹脂からなり、
前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、斜め45°の偏光が出るTN液晶パネルの縦方向と平行となるように、該TN液晶パネルに取り付けられた状態にあり、レターデーションが5000nm以上であり、
前記前面板は、下記式(1)で表される透過率TT(λ)と、前記バックライト光源の光スペクトルS(λ)と、CIE1931の等色関数(スペクトル刺激値)x(λ)、y(λ)及びz(λ)のそれぞれとの重なり積分を、波長領域:380?780nmで実施し、X、Y及びZを算出した結果得られた色度図上のx=X/(X+Y+Z)とy=Y/(X+Y+Z)の範囲が、x_(MAX)-x_(MIN)≦0.04、y_(MAX)-y_(MIN)≦0.04の関係を満たす、ことを特徴とするTN液晶表示装置の前面板。
TT(λ)=cos^2(π×Re(λ)/λ)…(1)
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂シートを構成するポリカーボネート樹脂は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン単位を主たる構成単位とし、その粘度平均分子量が20000?30000の範囲であり、ガラス転移温度が130?160℃の範囲である請求項1記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂シートの厚みが、0.3?2mmの範囲である請求項1に記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル樹脂は、主たる構成単位がメタクリル酸メチル単位であり、ガラス転移温度が95℃以上である請求項1記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項5】
前記核水添MS樹脂は、メタクリル酸メチルとスチレンとの共重合体の芳香環が水素化された樹脂で、その共重合比率が60:40?90:10の範囲であり、芳香環の水素化率が70%以上である請求項1記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項6】
前記変性ポリカーボネート樹脂は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとの共重合体であって、その共重合比率が50:50?100:0である請求項1記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項7】
前記変性ポリカーボネート樹脂は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとの共重合体であって、その共重合比率が50:50?100:0である請求項1記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項8】
前記前面板の最表面又は最表裏面に、ハードコート皮膜をさらに備える請求項1記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項9】
前記ハードコート皮膜は、紫外線硬化型のアクリル系樹脂組成物からなり、その厚さが1?20μmの範囲であり、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が3H以上である請求項8記載のTN液晶表示装置の前面板。」

第4 当審の判断
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対して平成28年12月27日付けで特許権者に通知した取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア 特許法第36条第6項第2号に関する取消理由
請求項1の「前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、斜め45°の偏光が出るTN液晶パネルの縦方向と平行であり」の発明特定事項は、「液晶表示装置の前面板」の構成をどのように特定しようとするものであるのか不明瞭である。
よって、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、取り消すべきものである。
また、本件発明2ないし本件発明9に係る特許は、請求項1の記載を引用するものであるから、同様の理由により、取り消すべきものである。

イ 特許法第29条2項に関する取消理由
本件発明1ないし本件発明9は、当業者が甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし本件発明9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきものである
甲第1号証:特開平6-258634号公報
甲第2号証:特開2006-103169号公報
甲第3号証:特開2010-188719号公報

(2)特許法第36条第6項第2号に関する取消理由
ア 本件訂正により、訂正前の請求項1の「前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、斜め45°の偏光が出るTN液晶パネルの縦方向と平行であり」は、「前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、斜め45°の偏光が出るTN液晶パネルの縦方向と平行となるように、該TN液晶パネルに取り付けられた状態にあり」に訂正され、「ポリカーボネート樹脂シート」が「TN液晶パネル」に取り付けられた状態であること、すなわち、「TN液晶表示装置の前面板」は、装着された状態にあることが特定された。

イ そして、訂正後の請求項1に記載された事項は、「『TN液晶パネルに取り付けられた状態にある』『TN液晶表示装置の前面板』」の構成を特定するための事項としては明確であることから、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているものと認められる。

ウ よって、本件発明1ないし本件発明9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるとすことはできない。

(3)特許法第29条2項に関する取消理由
ア 甲第1号証に記載された発明
取消理由通知で引用した甲第1号証(特開平6-258634号公報)には、図とともに、以下の記載がある(なお、下線は、当審で付した。)。

(ア)「【請求項1】 2枚の透明基板で液晶層が挾持され、該2枚の透明基板の外側にそれぞれ偏光板が配置され、前記液晶層の一方の面で表示されてなる液晶表示デバイスであって、前記液晶層の表示面側に配置されたフロント側偏光板の前面に位相差板が配置され、該位相差板はその光学軸が前記フロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置されると共に、前記位相差板のリターデイションが4000nm以上の範囲に設定されてなる液晶表示デバイス。」

(イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来の液晶表示デバイスのばあい、フロント側偏光板2から出射する光が直線偏光になっているため、図3に示すように観測者7が偏光めがね6をかけているばあい、見る方向によっては液晶表示面が見えなくなる。すなわちフロント側偏光板2の吸収軸の方向Cと偏光めがね6の吸収軸の方向Fとのなす角度が90°のばあい、光源5から液晶表示デバイスに入射し、フロント側偏光板2から出射する光が、自動車の運転や釣などのときに使用される偏光めがね6を透過できなくなるという欠点がある。とくに液晶表示デバイスが自動車のインジケータなど、表示計器に使用されたばあい、運転者が偏光板を使用したサングラスをかけていることがよくあるため、問題となる。
【0006】本発明の目的は、偏光めがねをかけた観測者がどの方向から眺めても、表示面が偏った着色にならないで、確実に視認できる液晶表示デバイスを提供することにある。
【0007】
……
【0009】
【作用】本発明によれば、フロント側偏光板の前面に位相差板を配設し、位相差板の光学軸の方向とフロント側偏光板の吸収軸の方向とのなす角度をほぼ35°?55°にすると共に、そのリターデイションΔn・dをほぼ4000nm以上に設定しているため、位相差板の複屈折性により常光線と異常光線とのあいだの位相のズレが1/4波長となる波長の光が、可視光の全波長領域(380nm ?780nm )にわたって多数存在する。すなわち青色波長領域(380 ?500nm )、緑色波長領域(500nm ?600nm )、赤色波長領域(600nm ?780nm)のいずれの波長領域においても、透過率のわるい波長もある反面、透過率のよい波長が存在し、各色領域で、円偏光に近い楕円偏光になる。そのため、一定方向の吸収軸を有する偏光めがねを使用して、液晶表示デバイスをどの方向から見ても表示される色によって表示面が見づらくなったりすることがなく良好に認識することができる。」

(ウ)「【実施例】つぎに、図面を参照しながら本発明を説明する。図1は本発明のTN型液晶表示デバイスを偏光めがねをかけて眺めたばあいの偏光めがねの吸収軸の方向などを示す分解説明図、図2は液晶セルに電界を印加したばあいに、位相差板から出た種々の波長の光の偏光めがねの透過率を表わすグラフである。
【0011】図1において、液晶層が2枚の透明基板に挾持された液晶セル1の両側にフロント側偏光板2およびリア側偏光板3が配設され、表示面側であるフロント側偏光板2の表面側にさらに位相差板4が配設されている。また裏面側には光源5が配設されている。液晶材料としては、たとえばTN液晶が用いられ、両透明基板間で90°のねじれが生じるため、両側の透明基板に設けられるラビング方向は、たとえば図1にA、Bで示されるように90°の方向をなしている。また両偏光板2、3の吸収軸の方向C、Dは図1に示すように、フロント側とリア側とで同じ方向にして、ネガ型TN液晶表示デバイスを構成している。6は偏光めがねを示し、位相差板4の光学軸の方向をE、偏光めがね6の吸収軸の方向をFで示している。位相差板4は、フロント側偏光板2の前に一定の間隙をあけて配置してもよいし、フロント側偏光板2の表面に密着または接着してもよい。また位相差板4の表面をアングレア処理し、乱反射機能をもたせてもよい。こうすることにより液晶表示パネル表面における外光反射による視認性低下を防止する効果がある。位相差板4はたとえばポリカーボネートなどの異常光線と常光線とのあいだで位相差を生じるフィルムからなり、高分子材料が熱延伸され、一軸延伸高分子フィルムに形成されている。また位相差板4は、雲母、人工雲母、水晶などの無機物により作製することもできる。位相遅れ(リターデイション)Rと屈折率ne 、no とのあいだには
R=|ne -no |×d=Δn・d
の関係が成り立つ。ここで、dは板材の厚さ、ne は異常光線に対する屈折率、no は常光線に対する屈折率である。」

(エ)「【0013】前述の構成の液晶表示デバイスを製造し、位相差板4をフロント側偏光板2の表面に密着させ、位相差板4の光学軸の方向Eとフロント側偏光板2の吸収軸の方向Cとのなす角度αを、0?90°のあいだで5°または10°ずつ変えると共に、それぞれの角度αに対し、位相差板のリターデイションΔn・dを500 ?10000 nmの範囲で変化させた。それぞれのリターデイションΔn・dの値と角度αのときに、偏光めがね6の吸収軸Fを360 °回転させながら、観測者7が目視により液晶表示面の視認特性を測定した。表1にその結果を示す。
【0014】
【表1】

【0015】表1から明らかなように、リターデイションΔn・dがほぼ4000nm以上で、かつ、角度αがほぼ35°?55°の範囲では、偏光めがね6の吸収軸方向Fを360 °どの方向に向けても液晶表示面が認識できた。とくにリターデイションが5000nm以上で、かつ、角度αが45°の範囲で認識状態が最も優れており(表1のa)、またリターデイションが5000nm以上で、かつ、角度αが40°?50°の範囲でも良好に認識でき、好ましかった(表1のb)。さらにリターデイションが4000nm以上で、かつ、角度αが35°?55°の範囲でもやや視認特性は低下したが認識はできた(表1のc)。また、偏光めがねの角度によっては認識できないものを-で示した。
【0016】本発明ではリターデイションが大きな位相差板を使用しているため、位相差板に入射する直線偏光の波長の違いがわずかであっても、位相差板による常光線と異常光線との位相のズレは大きなものとなり、図2に示すように、位相のズレが1/4波長となる波長の光が可視光の波長領域に多数存在する。そのため、前述の角度αがほぼ35°?55°、位相差板のリターデイションをほぼ4000nm以上にすることにより、偏光めがねをかけてどの方向から見ても、液晶表示デバイスの表示画面を認識することができる。」

(オ)「【0021】さらに本発明の液晶表示デバイスは、従来の液晶表示デバイスの表面に、ポリカーボネートなどからなる厚い位相差板を設けるだけでえられるので、従来の製造プロセスを殆ど変更する必要がなく、安価にうることができる。」

(カ)「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のTN型液晶表示デバイスを偏光めがねをかけて眺めたばあいの偏光めがねの吸収軸の方向などを示す分解説明図である。
【図2】位相差板から出た種々の波長の光の偏光めがねの透過率を表わすグラフである。
【図3】従来のTN型液晶表示デバイスを偏光めがねをかけて眺めたばあいの偏光めがねの吸収軸の方向などを示す分解説明図である。
【符号の説明】
1 液晶セル
2 フロント側偏光板
3 リア側偏光板
4 位相差板
C フロント側偏光板の吸収軸方向
E 位相差板の光学軸方向」

(キ)図1は、以下のものである。


(ク)図2は、以下のものである。


イ 甲第1号証に記載された発明
(ア)上記ア(ア)の記載からして、甲第1号証には、
「液晶表示デバイスのフロント側偏光板の前面に、その光学軸がフロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置された位相差板であって、
リターデイションが4000nm以上である位相差板。」が記載されているものと認められる。

(イ)上記ア(ウ)及び(エ)の記載を踏まえて、図1を見ると、以下のことが理解できる。
a 上記(ア)の「液晶表示デバイス」は、「リア側偏光板側に光源が配置されたTN液晶表示デバイス」であってもよいこと。

b 上記(ア)の「位相差板」は、「ポリカーボネートのフィルム」からなり、フロント側偏光板の前面に一定の間隙をあけて配置してもよいこと。

(ウ)上記ア(ウ)ないし(オ)の記載を踏まえて、図1を見ると、
上記(ア)の「ほぼ35°?55°の角度」及び「4000nm以上の範囲」は、具体的には、それぞれ、「45°」及び「6000nm」であってもよいことが理解できる。

(エ) 上記(ア)ないし(ウ)より、甲第1号証には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「リア側偏光板側に光源が配置されたTN液晶表示デバイスのフロント側偏光板の前面に一定の間隙をあけて配置され、その光学軸がフロント側偏光板の吸収軸と45°の角度をなすように配置された位相差板であって、
ポリカーボネートのフィルムからなり、リターデイションが6000nmである位相差板。」

ウ 本件発明1と引用発明との対比
(ア) 引用発明の「ポリカーボネートのフィルム」及び「TN液晶表示デバイス」は、それぞれ、本件発明1の「ポリカーボネート樹脂シート」及び「TN液晶表示装置」に相当する。

(イ)引用発明の「『リア側偏光板側に』配置された『光源』」は、本件発明1の「バックライト光源」に、相当する。
また、甲第1号証には、位相差板から出た種々の波長の光の偏光めがねの透過率を表わすグラフである図2について、「図2に示すように、位相のズレが1/4波長となる波長の光が可視光の波長領域に多数存在する。」(摘記(エ)と記載されていることから、引用発明に係る「TN液晶表示デバイス」は、可視光の全波長領域にわたって表示が可能なものと解される。
してみると、引用発明の「光源」が、「白色光を出射する光源」であることは明らかである。

(ウ)引用発明の「位相差板」は、「水平方向に偏光が出るTN液晶表示デバイスのフロント側偏光板の前面に一定の間隙をあけて配置され」るものであって、引用発明の「位相差板」と本件発明1の「前面板」は、特定範囲のリターデイションを生じるものであるから、両者は、「TN液晶表示装置の前方に配置される光学板」である点で一致する。

(エ)本件発明1の「前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、斜め45°の偏光が出るTN液晶パネルの縦方向と平行となるように、該TN液晶パネルに取り付けられた状態にあり」の意味について検討する。

a 本件特許明細書には、図とともに、以下の記載がある。
(a)「【発明を実施するための形態】
【0024】
……
【0025】
……
ここで、遅相軸とはシート面内の屈折率が最大になる軸であり、進相軸とは遅相軸と面内で直交する軸であり、シート面内の屈折率が最小になる軸である。また、前記液晶パネルの縦方向とは、液晶表示装置に使用した場合の縦方向のことをいう。
【0026】
図2は、3D用液晶シャッターメガネ200を通してTN液晶パネル100を観察したときの状態を示したものである。
従来のTN液晶表示装置用の前面板1を用いた場合、液晶パネルの前面偏光板100から斜め45°の偏光がメガネ前側偏光板210をそのまま透過し、ツイストネマティック液晶層220で旋光し、偏光方向が90°回転し(偏光透過軸が90°回転し)、メガネ後側偏光板230の透過軸をそのまま透過する。そして、……という問題があった。
【0027】
……
【0028】
ここで、前記液晶パネル100の前面と、前記メガネ前側偏光板210が平行ニコルの関係にあり、その間に液晶表示装置前面板1を配置し、2つの偏光板の透過軸(方向は同じ)と、前記液晶表示装置前面板1のポリカーボネート樹脂シート10の屈折率楕円体の進相軸または遅相軸が45°で交差する配置である。その場合の透過率の波長依存性TT(λ)は、下式(1)で表現される。……なお、積分波長領域は、可視光領域の380?780nmに設定した。」

(b)図2は、以下のものである。


上記記載からして、
本件発明1の「前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、斜め45°の偏光が出るTN液晶パネルの縦方向と平行となるように、該TN液晶パネルに取り付けられた状態にあり」との事項から、「前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、TN液晶パネルの偏光が出る方向と45°の角度をなすように、該TN液晶パネルに取り付けられた状態にある」ことが理解できる。
一方、 引用発明の「位相差板」は、その光学軸がフロント側偏光板の吸収軸と45°の角度をなすように配置される位相差板、つまり、TN液晶表示デバイスの偏光が出る方向と45°の角度をなすように配置されたものであることは、当業者にとって明らかである。
してみると、引用発明と本件発明1とは、「ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、TN液晶パネルの偏光が出る方向と45°の角度をなすように、該TN液晶パネルに取り付けられた状態にある」点で一致する。

(オ)以上のことから、本件発明1と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「ポリカーボネート樹脂シートを備え、バックライト光源が白色であるTN液晶表示装置の前方に配置される光学板であって、
前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、TTN液晶パネルの偏光が出る方向と45°の角度をなすように、該TN液晶パネルに取り付けられた状態にあり、
レターデーションが5000nm以上である、TN液晶表示装置の前方に配置される光学板。」

(カ)一方で、本件発明1と引用発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
「バックライト光源」に関して、
本件発明1は、「青色のLED発光によって黄色と赤色が蛍光励起されて発光するシングルチップ方式の白色LED」であるのに対して、
引用発明は、「白色LED」であるか否か不明である点。

<相違点2>
「光学板」に関して、
本件発明1は、
a 「前面板」であって、
b 「前記前面板は、TT(λ)=cos^2(π×Re(λ)/λ)で表される透過率TT(λ)と、前記バックライト光源の光スペクトルS(λ)と、CIE1931の等色関数(スペクトル刺激値)x(λ)、y(λ)及びz(λ)のそれぞれとの重なり積分を、波長領域:380?780nmで実施し、X、Y及びZを算出した結果得られた色度図上のx=X/(X+Y+Z)とy=Y/(X+Y+Z)の範囲が、x_(MAX)-x_(MIN)≦0.04、y_(MAX)-y_(MIN)≦0.04の関係を満たし」、
c 「前記ポリカーボネート樹脂シートの表面又は表裏面に、厚みが30?100μmの範囲であり、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が少なくともF以上である硬質樹脂層をさらに備え、該硬質樹脂層が、(メタ)アクリル樹脂、少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種類の芳香族ビニルモノマーとの共重合体の芳香環が水素化された樹脂(以下、核水添MS樹脂と記す)、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン単位若しくは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン単位を主たる構成単位とした変性ポリカーボネート樹脂からな」るのに対して、
引用発明は、「前面板」と呼べるものであるか否か不明であり、「x_(MAX)-x_(MIN)≦0.04、y_(MAX)-y_(MIN)≦0.04」の関係を満たすものであるか不明であり、かつ、「ポリカーボネートのフィルム」の表面又は表裏面に硬質樹脂層をさらに備えたものではない点。

<相違点3>
「遅相軸又は進相軸の方向」と「TN液晶パネル」との関係に関して、
本件発明1は、「斜め45°の偏光が出るTN液晶パネルの縦方向と平行となるように、該TN液晶パネルに取り付けられた状態にあ」るのに対して、
引用発明は、「斜め45°の偏光が出るTN液晶パネル」ではなく、そのような関係にない点。

エ 判断
a まず、上記<相違点1>及び<相違点2>について検討する。
(a)引用発明の「位相差板」は、甲第1号証の記載及び図面の記載からして、フロント側偏光板から出射する光を「直線偏光」から「円偏光に近い楕円偏光」とすることで、偏光めがねを透過できず液晶表示面が見えなくなるという欠点を解消するものであって、その効果は、「白色光を出射する光源」において奏されるものと認められるものの、甲第1号証には、その発光方式に依存することは記載されていない。

(b)一方、本件発明1の「TN液晶表示装置の前面板」は、本件特許明細書の【0022】の「……ポリカーボネート樹脂シートのレターデーション及びそのムラに起因した、色付き及び色ムラの発生を抑制できる。」との記載、及び【0037】の「……本発明では、面内のレターデーションの最小値を5000nm以上とすることにより、レターデーションの面内ムラは問題とならない。」等の記載からして、レターデーションの最小値を5000nm以上とすることで、レターデーション及びその面内ムラに起因する色付き及び色ムラの発生を抑制するものであって、その効果は、「シングルチップ方式の白色LED光源を用いた(実施例)」の状態を示す図6(a)と、「CCFL光源を用いた(比較例3)」の状態を示す図6(d)との比較からして、レターデーションが5000nm以上であって、かつ、シングルチップ方式の白色LEDを採用した場合にのみ生じる効果であると認められる。

(c)そして、引用発明において、「シングルチップ方式の白色LED」を採用した際に、「レターデーション及びその面内ムラに起因する色付き及び色ムラの発生を抑制する」という効果は、引用発明の奏する効果からでは予測し得るものではなく、特許異議申立人の提出した甲第2号証及び甲第3号証、さらには、平成29年6月6日に意見書とともに提出された参考資料1及び参考資料2を見ても予測し得るものではない。
また、引用発明において、「シングルチップ方式の白色LED」を採用した際に、色度図上のx=X/(X+Y+Z)とy=Y/(X+Y+Z)の範囲が、「x_(MAX)-x_(MIN)≦0.04、y_(MAX)-y_(MIN)≦0.04」の関係を満たすことを立証する証拠もない。

(d)してみると、引用発明において、当業者が上記<相違点1>及び<相違点2>係る本件発明1の発明特定事項を採用することが容易になし得たことであるとすることはできない。

b 以上の検討によれば、上記<相違点3>について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

エ 本件発明2ないし本件発明9と引用発明との対比
本件発明2ないし本件発明9は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるから、本件発明1と同様に、当業者が甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(4)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 特許異議申立人の「特許法第36条第4項第1号」に関する主張
(ア)特許異議申立人は、「ポリカーボネート樹脂シートの製造方法」及び「ポリカーボネート樹脂との共押出成形」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない旨主張する。

a しかし、本件特許明細書の【0038】における「…例えば、前記引き取り速度を高くして、ポリカーボネート樹脂の流れ方向の延伸倍率を高めることによって、5000nm以上の高レターデーションのポリカーボネート樹脂シート10を得ることができる。」、【0042】における「前記硬質樹脂層20は、熱ラミネーション法などによっても設けることが可能であるが、前記ポリカーボネート樹脂との共押出成形によって設けたものが好ましい。」、【0050】における「……熱硬化型樹脂塗料としてはポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などのものが挙げられる。この様な樹脂組成物は、アクリル樹脂用ハードコート剤或いはポリカーボネート樹脂用ハードコート剤として市販されている」などの記載に基づけば、具体的にその手順が記載されていなくとも、当業者であれば、どのように製造・作製すればよいかは理解できることである。

b また、積層体のレターデーションは、両者のレターデーションの和に近くなることが知られており、ポリカーボネート樹脂シートに「硬質樹脂層」を加えた全体のレターデーションの和が5000nm未満になることはない。

c よって、特許異議申立人の主張は理由がない。

イ 特許異議申立人の「特許法第36条第6項第1号及び第2号」に関する主張
(ア)特許異議申立人は、本件特許明細書には、実施例として、(メタ)アクリル樹脂を用いた例しか記載されておらず、核水添MS樹脂又は変性ポリカーボネート樹脂を用いた場合に発明の目的を達成できるかは明らかでない旨主張する。

a しかし、核水添MS樹脂又は変性ポリカーボネート樹脂は、硬質樹脂としてよく知られた樹脂であって、(メタ)アクリル樹脂と同様に、「耐傷付き性や表面硬度の向上」という効果を奏することは容易に理解できることである。
b よって、特許異議申立人の主張は理由がない。

(イ)特許異議申立人は、本件発明は、「TN液晶表示装置」の発明であるのか、「前面板」自体の発明であるのか不明確である旨主張する。

a しかし、本件発明1ないし本件発明9は、請求項1ないし9の記載からして、「TN液晶表示装置の前面板」の発明であることは明らかである。
b よって、特許異議申立人の主張は理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし本件発明9に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件発明1ないし本件発明9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
TN液晶表示装置の前面板
【技術分野】
【0001】
本発明は、TN液晶表示装置の前面板、特に、優れた耐衝撃性、耐熱性及び透明性を有しつつ、偏光メガネや3D用液晶シャッターメガネを通して液晶表示装置を観察した場合であっても、ポリカーボネート樹脂シートのレターデーション及びそのムラに起因した、色付き及び色ムラの発生を抑制できるTN液晶表示装置の前面板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル等の保護を目的として、該液晶表示装置の前面板が設けられている。従来の液晶ディスプレイの前面板に用いられる材料としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代表される(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。
【0003】
また近年、高い耐衝撃性、耐熱性、2次加工性、軽量性及び透明性などを有する点から、ポリカーボネート樹脂からなるシートを備えた前面板が用いられている。特に、ポリカーボネート樹脂シートの表層にアクリル樹脂を積層した多層シート上に、ハードコートを施した液晶表示装置の前面板は、従来のハードコート付きアクリル樹脂に匹敵する表面硬度及び耐擦傷性を有しつつ、ポリカーボネート樹脂の優れた耐衝撃性、耐熱性、加工性及び透明性を合わせ持つため、液晶ディスプレイ前面板として広く採用されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
上記ポリカーボネート樹脂シートを備える液晶表示装置の前面板については、アクリル樹脂と共に溶融押出法によって形成されることが一般的である。
そして、溶融押出法によって形成されたポリカーボネート樹脂シートについては、樹脂温度、冷却ロール温度、引き取り速度等の影響によって、ポリカーボネート樹脂を構成する分子が配向する結果、レターデーションが生じることとなる。ここで、本発明における「レターデーション」とは、シート面内の遅相軸の主屈折率をnx、進相軸の主屈折率をny、シートの厚みをdとしたとき、(nx-ny)×dを、nm単位で表現したものをいう。
なお、アクリル樹脂については、延伸による配向複屈折の発現性が非常に小さいため、レターデーションはほぼ0と考えることができる。また、ハードコート層は架橋化反応によって3次元網目構造を有する無配向状態の樹脂硬化物であり、厚みも数ミクロン程度と薄いため、同様にレターデーションはほぼ0と考えることができる。
【0005】
そして、このようなレターデーションをもつポリカーボネート樹脂シートを、製造時の押出方向に縦横の辺を合わせてカットして、VAモードやIPSモードのようにテレビ画面の上下方向の偏光が出ている液晶表示装置の前面板として用いた場合、液晶表示装置前面の偏光板の透過軸とポリカーボネート樹脂シートの面内の進相軸又は遅相軸が平行になる構成となり、液晶表示装置からの偏光は、画面上下の方向を保ったまま前面板を通過することとなる。そのため、上下方向に透過軸を持つ偏光メガネや3D用TN液晶シャッターメガネで液晶ディスプレイに表示された映像を観察したとき、頭を傾けたりしない限り、通常通りの映像を確認できる。
【0006】
しかしながら、パソコンモニター等に広く使用されている、斜め45°の偏光が出るTN液晶表示装置の前面板として、上述したポリカーボネート樹脂シートを用いた場合、TN液晶パネル前面の偏光板の透過軸と、前面板のポリカーボネート樹脂シートの面内の進相軸又は遅相軸とが、45°の角度を成す構成となるため、前記前面板のレターデーション、及び波長によって様々な楕円偏光に変換される。そのため、上下方向に透過軸を持つ偏光メガネや3D用TN液晶シャッターメガネで液晶ディスプレイに表示された映像を観察した際に、波長によって光の透過率が異なる結果、いわゆる平行ニコルから直交ニコルの干渉色が映像中に観察されるという問題があった。
【0007】
さらに、前記前面板のポリカーボネート樹脂シートのレターデーションに面内ムラがある場合には、それによってさらに視認性の悪い映像になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-103169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ポリカーボネート樹脂シートの適正化を図ることによって、優れた耐衝撃性、耐熱性及び透明性を有しつつ、偏光メガネや3D用液晶シャッターメガネを通して液晶パネルを観察した場合であっても、ポリカーボネート樹脂シートのレターデーション及びそのムラに起因した、色付き及び色ムラの発生を抑制できるTN液晶表示装置の前面板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ポリカーボネート樹脂シートを備え、白色LED光源を用いたTN液晶表示装置の前面板について、上記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、前記ポリカーボネート樹脂シートのレターデーションを5000nm以上と大きくすることで、該レターデーションの色度図上における分布が白色に近い領域に位置し、且つ分布のバラツキが小さくなるため、色付き及び色ムラの発生を抑制できることを見出した。
【0011】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)ポリカーボネート樹脂シートを備え、バックライト光源が、青色のLED発光によって黄色と赤色が蛍光励起されて発光するシングルチップ方式の白色LEDであるTN液晶表示装置の前面板であって、前記ポリカーボネート樹脂シートの表面又は表裏面に、厚みが30?100μmの範囲であり、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が少なくともF以上である硬質樹脂層をさらに備え、該硬質樹脂層が、(メタ)アクリル樹脂、少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種類の芳香族ビニルモノマーとの共重合体の芳香環が水素化された樹脂(以下、核水添MS樹脂と記す)、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン単位若しくは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン単位を主たる構成単位とした変性ポリカーボネート樹脂からなり、前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、斜め45°の偏光が出るTN液晶パネルの縦方向と平行となるように、該TN液晶パネルに取り付けられた状態にあり、レターデーションが5000nm以上であり、前記前面板は、下記式(1)で表される透過率TT(λ)と、前記バックライト光源の光スペクトルS(λ)と、CIE1931の等色関数(スペクトル刺激値)x(λ)、y(λ)及びz(λ)のそれぞれとの重なり積分を、波長領域:380?780nmで実施し、X、Y及びZを算出した結果得られた、色度図上のx=X/(X+Y+Z)とy=Y/(X+Y+Z)の範囲が、それぞれ、x_(MAX)-x_(MIN)≦0.04、y_(MAX)-y_(MIN)≦0.04の関係を満たす、ことを特徴とするTN液晶表示装置の前面板。
TT(λ)=COS^2(π×Re(λ)/λ)・・・(1)
【0012】
(2)前記ポリカーボネート樹脂シートを構成するポリカーボネート樹脂は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン単位を主たる構成単位とし、その粘度平均分子量が20000?30000の範囲であり、ガラス転移温度が130?160℃の範囲である上記(1)に記載のTN液晶表示装置の前面板。
【0013】
(3)前記ポリカーボネート樹脂シートの厚みが、0.3?2mmの範囲である上記(1)に記載のTN液晶表示装置の前面板。
【0016】
(4)前記(メタ)アクリル樹脂は、主たる構成単位がメタクリル酸メチル単位であり、ガラス転移温度が95℃以上である上記(1)に記載のTN液晶表示装置の前面板。
【0015】
(5)前記硬質樹脂層は、アクリル樹脂、少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種類の芳香族ビニルモノマーとを重合して得られる共重合体の芳香環を水素化して得られる樹脂(核水添MS樹脂)、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン若しくは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンを主たる原料モノマーとした変性ポリカーボネート樹脂からなる上記(1)に記載のTN液晶表示装置の前面板。
【0016】
(6)前記アクリル樹脂は、主たる原料モノマーがメタクリル酸メチルであり、ガラス転移温度が95℃以上である上記(5)に記載のTN液晶表示装置の前面板。
【0017】
(5)前記核水添MS樹脂は、メタクリル酸メチルとスチレンとの共重合体の芳香環が水素化された樹脂で、その共重合比率が60:40?90:10の範囲であり、芳香環の水素化率が70%以上である上記(1)に記載のTN液晶表示装置の前面板。
【0018】
(6)前記変性ポリカーボネート樹脂は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとの共重合体であって、その共重合比率が50:50?100:0である上記(1)に記載のTN液晶表示装置の前面板。
【0019】
(7)前記変性ポリカーボネート樹脂は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとの共重合体であって、その共重合比率が50:50?100:0である上記(1)に記載のTN液晶表示装置の前面板。
【0020】
(8)前記前面板の最表面又は最表裏面に、ハードコート皮膜をさらに備える上記(1)に記載のTN液晶表示装置の前面板。
【0021】
(9)前記ハードコート皮膜は、紫外線硬化型のアクリル系樹脂組成物からなり、その厚さが1?20μmの範囲であり、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が3H以上である上記(8)に記載のTN液晶表示装置の前面板。
【発明の効果】
【0022】
本発明のTN液晶表示装置の前面板を用いることによって、優れた耐衝撃性、耐熱性及び透明性を発揮でき、さらに、偏光メガネや3D用液晶シャッターメガネを通して液晶パネルを観察した場合であっても、ポリカーボネート樹脂シートのレターデーション及びそのムラに起因した、色付き及び色ムラの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に従うTN液晶表示装置の前面板の断面を模式的に示した図である。
【図2】3D用液晶シャッターメガネを通してTN液晶パネルを観察したときの状態を説明するための図である。
【図3】ポリカーボネートのレターデーションの波長依存性Re(λ)を、590nm(ナトリウムD線)のレターデーションで規格化したグラフである。
【図4】液晶モニター全面を白色表示させて、光スペクトルアナライザーで測定した光スペクトルS(λ)を示したグラフである。
【図5】各サンプルのレターデーションのムラについて色度図上での分布を示した図であり、(a)は従来のTN液晶表示装置の前面板を用いた場合、(b)は本発明にかかるTN液晶表示装置の前面板を用いた場合である。
【図6】3D用TN液晶シャッターメガネを通して液晶画面の映像を観察したときの写真であり、(a)は実施例のTN液晶表示装置の前面板であり、液晶バックライトの光源がLEDである場合、(b)は比較例1のTN液晶表示装置の前面板であり、液晶バックライトの光源がCCFLである場合、(c)は比較例2の液晶表示装置の前面板であり、液晶バックライトの光源がLEDである場合、(d)は比較例3の液晶表示装置の前面板であり、液晶バックライトの光源がCCFLである場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のTN液晶表示装置の前面板は、図1に示すように、ポリカーボネート樹脂シート10を備える。ここで、ポリカーボネート樹脂シートの表面とは、液晶ディスプレイに使用した場合のユーザー側の面のことをいい、裏面とは、液晶ディスプレイに使用した場合の液晶パネル側の面のことをいう。
【0025】
そして、本発明によるTN液晶表示装置の前面板は、前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、TN液晶パネルの縦方向と平行であり、レターデーションが5000nm以上であることを特徴とする。
ここで、遅相軸とはシート面内の屈折率が最大になる軸であり、進相軸とは遅相軸と面内で直交する軸であり、シート面内の屈折率が最小になる軸である。また、前記液晶パネルの縦方向とは、液晶表示装置に使用した場合の縦方向のことをいう。
【0026】
図2は、3D用液晶シャッターメガネ200を通してTN液晶パネル100を観察したときの状態を示したものである。
従来のTN液晶表示装置用の前面板1を用いた場合、液晶パネルの前面偏光板100から斜め45°の偏光がメガネ前側偏光板210をそのまま透過し、ツイストネマティック液晶層220で旋光し、偏光方向が90°回転し(偏光透過軸が90°回転し)、メガネ後側偏光板230の透過軸をそのまま透過する。そして、液晶パネル100の前面に前面板を設け、ポリカーボネート樹脂シート10の進相軸又は遅相軸を画面上下に合わせて配置する場合、上述したように、平行ニコルによる干渉色が生じる(面内のレターデーションムラに起因する色ムラも発生する)という問題があった。
【0027】
そのため、本発明では、前記ポリカーボネート樹脂シート10のレターデーションを5000nm以上に設定することによって、該レターデーションの色度図上における分布が白色に近い領域に位置し、且つ分布のバラツキが小さくなる結果、ポリカーボネート樹脂シート10のレターデーションに起因した平行ニコルによる干渉色及びその色ムラの発生を有効に抑制することができる。
【0028】
ここで、前記液晶パネル100の前面と、前記メガネ前側偏光板210が平行ニコルの関係にあり、その間に液晶表示装置前面板1を配置し、2つの偏光板の透過軸(方向は同じ)と、前記液晶表示装置前面板1のポリカーボネート樹脂シート10の屈折率楕円体の進相軸または遅相軸が45°で交差する配置である。その場合の透過率の波長依存性TT(λ)は、下式(1)で表現される。
TT(λ)=cos^2(π×Re(λ)/λ)・・・(1)
ここで、cosは余弦関数、πは円周率、λは波長、Re(λ)はレターデーションの波長依存性を表している。
また、図3は、ポリカーボネートのレターデーションの波長依存性Re(λ)を、590nm(ナトリウムD線)のレターデーションで規格化したグラフを示したものである。図中の数式は、コーシーの近似式となる。さらに、図4は液晶モニター全面を白色表示させて、光スペクトルアナライザーで測定した光スペクトルS(λ)を示す。なお、この際の液晶モニターで用いられている光源は、白色のLEDであり、青色のLED発光により、黄色と赤色が蛍光励起されて発光し、そのバランスによって白色になるシングルチップ方式のLEDである。
そして、式1の平行ニコルでの透過率TT(λ)と、図4の光スペクトルS(λ)と、CIE1931の等色関数(スペクトル刺激値)x(λ)、y(λ)及びz(λ)のそれぞれとの重なり積分を実施し、X、Y及びZを算出し、任意のレターデーションRe(λ)の色度図上のx=X/(X+Y+Z)とy=Y/(X+Y+Z)を算出した。なお、積分波長領域は、可視光領域の380?780nmに設定した。
【0029】
そして、液晶表示装置前面板として用いたときの色ムラを計算するために、従来例の液晶表示装置前面板のサンプル及び本発明にかかる液晶表示装置の前面板のサンプルそれぞれについて、波長590nmでのレターデーションのムラを分光エリプソメーターで測定し、色度図にプロットした。ここで、従来例のサンプルのレターデーション(Re)は、2520?2800nm、レターデーションのムラ(ΔRe)は、280nmであり、本発明にかかるサンプルのレターデーションは5250?6300nm、レターデーションのムラ(ΔRe)は、1050nmであった。従来例のサンプルについての色度図上での分布を図5(a)、本発明にかかるサンプルについての色度図上での分布を図5(b)に示す。
図5(a)から、従来例のサンプルについてのレターデーションのムラの分布(黒い点)には、色度のバラツキが見られ、製品として使用した際には色つきや色ムラが発生することがわかる。一方、図5(b)から、本発明にかかるサンプルについてのレターデーションのムラの分布(黒い点)は、全て白色に近い領域に位置し且つ色度のばらつきが小さいことから、製品として使用した際にも色つきや色ムラの発生が抑えられることがわかる。この効果は、前記ポリカーボネート樹脂シート10のレターデーションが5000nm以上になったときに顕著に見られることから、レターデーションを5000nm以上とすることが重要である。
【0030】
本発明では、前記TN液晶表示装置の前面板1に光を照射する液晶バックライトの光源については、シングルチップ方式の白色LEDを用いる必要がある。他の光源、例えば広く用いられている冷陰極管(CCFL)のような特定波長でピークをもつようなスペクトル形状を有する光源では、前記ポリカーボネート樹脂シート10のレターデーションが5000nm以上ある場合でも、本発明の効果を十分に発揮できないからである。
【0031】
以下に、本発明によるTN液晶表示装置の前面板の各構成部材について説明する。
(ポリカーボネート樹脂シート)
本発明によるTN液晶表示装置の前面板1は、図1に示すように、ポリカーボネート樹脂シート10を備える。本ポリカーボネート樹脂シート10は、図2に明示されていないが、その遅相軸X又は進相軸Yの方向を、TN液晶パネルの縦方向として100と210の間で100の前面に配置される。その他の構成要件(膜厚、材料、製造方法等)については特に限定はされない。
【0032】
また、前記ポリカーボネート樹脂シート10を構成するポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの重縮合反応(界面法)により得られるか、又は、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応(溶融法)により得られる分岐化構造の含有が可能な熱可塑性ポリカーボネート重合体であり、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを主たる原料モノマーとすることが好ましい。なお、前記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを主たる原料モノマーとするとは、該原料モノマーを、50%以上含有することをいう。当該原料モノマーによるポリカーボネート重合体は熱安定性や透明性が高く、液晶表示装置前面板として非常に好適である。しかしながら、シート製造工程でレターデーションが発生し易く、またそのバラツキを制御するには細心の注意が必要である。さらに、光弾性が大きく、応力による光学歪も大きく問題であるが、本発明の高レターデーションとしたシートを用いることによりこれらの問題を解消できる。
【0033】
また、前記ポリカーボネート樹脂は、その粘度平均分子量が20000?30000の範囲であることが好ましい。当該範囲の粘度平均分子量が、ポリカーボネート樹脂シート10を通常の押出成形によって形成するのに適しており、粘度平均分子量が30000超えの場合、十分な加工性を得ることができないおそれがある。また、粘度平均分子量が20000未満の場合は耐衝撃性などの物理特性が劣るので好ましくない。
【0034】
さらに、前記ポリカーボネート樹脂は、そのガラス転移温度が130?160℃の範囲であることが好ましい。ガラス転移温度が130℃未満であると、ポリカーボネート樹脂の高耐熱性という特色が薄れて、例えば、高温に晒される可能性の高い車載用途向け製品への展開が難しくなる。一方、ガラス転移温度が160℃を超えると、押出成形時の設定温度を高くしなければならなくなり、色相の悪化や異物発生等の問題が発生し易くなるためである。
【0035】
さらにまた、前記ポリカーボネート樹脂には、一般に用いられる各種の添加剤を添加しても良く、添加剤としては、例えば、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、染料などが挙げられる。
【0036】
また、前記ポリカーボネート樹脂シート10は、その厚みが0.3?2mmの範囲であることが好ましい。厚みが0.3mm未満の場合、前記ポリカーボネート樹脂シート10が薄くなりすぎるため、特に曲げ強度等の機械物性が低下し、液晶を保護するための前面板としての機能を果たさなくなるおそれがあり、一方、厚みが2mmを超えると、前記ポリカーボネート樹脂シート10が厚くなりすぎるため、液晶パネルユニットも厚くなって、薄型表示装置としてのメリットが薄れるおそれがあるからである。
【0037】
また、前記ポリカーボネート樹脂シート10は、溶融押出法によって形成されることが一般的である。そして、溶融押出法によって形成されたポリカーボネート樹脂シートについては、樹脂温度、冷却ロール温度、引き取り速度等の影響によって、ポリカーボネート樹脂を構成する分子が配向性を有する(ポリカーボネート分子の延伸配向)結果、複屈折が起こり、レターデーションが発生する。
本発明では、面内のレターデーションの最小値を5000nm以上とすることにより、レターデーションの面内ムラは問題とならない。
【0038】
前記ポリカーボネート樹脂シート10レターデーションを5000nmとするための製造方法としては、特に限定はされないが、例えば、前記引き取り速度を高くして、ポリカーボネート樹脂の流れ方向の延伸倍率を高めることによって、5000nm以上の高レターデーションのポリカーボネート樹脂シート10を得ることができる。
【0039】
(硬質樹脂層)
本発明によるTN液晶表示装置の前面板1は、図1に示すように、前記ポリカーボネート樹脂シート10の表面又は表裏面(図2では表面のみ)に、硬質樹脂層20を備える。ここで、硬質樹脂層20とは、耐傷付き性や表面硬度の向上を目的として、前記ポリカーボネート樹脂シート10と共に形成され、または前記ポリカーボネート樹脂シート10上に形成された層のことである。硬質樹脂層20を構成する材料については、所望の耐傷付き性や表面硬度を確保できるものであれば特に限定はされず、例えば、(メタ)アクリル樹脂を用いることができる。
【0040】
また、前記硬質樹脂層20は、所望の耐傷付き性や表面硬度を確保する点から、厚みが30?100μmの範囲であることが好ましい。厚みが30μm未満の場合、十分な耐傷付き性や表面硬度を有することができないおそれがあり、一方、厚みが100μmを超えると、層が厚すぎるため、TN液晶表示装置の前面板1の耐衝撃性や加工性が低下するおそれがある。
【0041】
さらに、前記硬質樹脂層20は、所望の耐傷付き性や表面硬度を確保する点から、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が少なくともF以上であることが好ましく、H以上である方がより好ましい。ポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度は2B程度しかないため、そのままでは液晶前面保護板として好適でないが、鉛筆硬度がF以上となるように、硬質樹脂層20をポリカーボネート樹脂シート10の表面に設けることによって、その表面に傷が付き難くなり、前面保護板として最低限の性能を確保することが可能となる。さらに、前記硬質樹脂層20を積層したシートの鉛筆硬度がF以上であれば、ハードコート実施後の積層状態における鉛筆硬度を3H程度まで高めることが可能であり、液晶前面保護板として、十分な性能を付与することができる。
【0042】
また、前記硬質樹脂層20は、熱ラミネーション法などによっても設けることが可能であるが、前記ポリカーボネート樹脂との共押出成形によって設けたものが好ましい。共押出成形に用いられる装置としては、例えば、ポリカーボネート樹脂を押し出すための一台のメイン押出機と、前記硬質樹脂層20を構成する樹脂を押し出すためのサブ押出機とを備える多層成形機が挙げられる。通常、前記サブ押出機は前記メイン押出機より小型のものが採用される。前記メイン押出機の温度条件は、通常230?290℃、好ましくは240?280℃であり、前記サブ押出機の温度条件は前記硬質樹脂層の種類によって適宜決定されるが、メイン押出機の設定温度条件との差が小さい方が好ましいため、通常220?270℃、好ましくは230?260℃である。また、樹脂中の異物を除去するために押出機のTダイより上流側にポリマーフィルターを設置することが好ましい。
【0043】
2種の溶融樹脂を積層する方法としては、フィードブロック方式、マルチマニホールド方式などの公知の方法を用いることができる。この場合、フィードブロックで積層された溶融樹脂はTダイなどのシート成形ダイに導かれ、シート状に成形された後、表面を鏡面処理された成形ロール(ポリッシングロール)に導かれ、2本の成形ロール間にてメルトバンク(樹脂溜り)を形成する。このシート状成形物は、成形ロール通過中に鏡面仕上げと冷却が行われ、積層体が形成される。また、マルチマニホールドダイの場合は、それぞれの溶融樹脂が当該ダイの内部でシート状に拡張された後に積層が行われるが、その後はフィードブロック方式と同様に、成形ロールにて鏡面仕上げおよび冷却が行われ、積層体が形成される。ダイの温度としては、通常250?310℃、好ましくは260?300℃であり、成形ロール温度としては、通常90?190℃、好ましくは100?180℃である。ロール成形機は縦型ロール成形機又は、横型ロール成形機を適宜使用することができる。
【0044】
また、前記硬質樹脂層は、所望の耐傷付き性や表面硬度を確保する点から、アクリル樹脂、少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種類の芳香族ビニルモノマーとを重合して得られる共重合体の芳香環を水素化して得られる樹脂(核水添MS樹脂)、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン若しくは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンを主たる原料モノマーとした変性ポリカーボネート樹脂からなる。
【0045】
前記アクリル樹脂については、主たる原料モノマーがメタクリル酸メチルであり、ガラス転移温度が95℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が95℃未満である場合には、液晶前面板に求められる耐熱性の確保が難しくなることに加えて、表面硬度の低下が認められるようになるためである。なお、「主たる原料モノマーがメタクリル酸メチル」とは、メタクリル酸メチルが全原料モノマー中の50%以上、好ましくは70%以上を占めることをいう。メタクリル酸メチルを主たる原料モノマーとすることによって、ポリカーボネート樹脂シートとの共押出成形における密着性を確保することが可能となる。
【0046】
前記核水添MS樹脂については、メタクリル酸メチルとスチレンとを重合して得られる共重合体の側鎖の芳香環を部分水素化した樹脂であり、その共重合比率が60:40?90:10の範囲であり、芳香環の水素化率が70%以上であることが好ましい。核水添MS樹脂を使用することによって、液晶前面板の反りの発生を低減する効果がある。メタクリル酸メチルとスチレンとの共重合比率が60:40未満の場合、ポリカーボネート樹脂との密着力が不足し、その界面にて剥離する可能性がある。一方、共重合比率が90:10を超える場合や、側鎖芳香環の水素化率が70%未満の場合には、通常のメタクリル酸メチル樹脂やMS樹脂(メタクリル酸メチルとスチレンとの共重合体)との性能差が小さくなり、敢えて使用するメリットが少なくなる。
【0047】
前記変性ポリカーボネート樹脂については、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとの共重合体であって、その共重合比率が50:50?100:0であることが好ましい。2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと共重合比率が50:50未満の場合、鉛筆硬度が低下して、液晶前面板とした時の耐擦傷性が悪化するおそれがある。
また、前記変性ポリカーボネート樹脂は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとの共重合体であってもよく、その共重合比率は50:50?100:0であることが好ましい。2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと共重合比率が50:50未満の場合、鉛筆硬度が低下して、液晶前面板とした時の耐擦傷性が悪化するおそれがある。
【0048】
また、前記アクリル樹脂、前記核水添MS樹脂、または前記変性ポリカーボネート樹脂中には、耐候性を長期間保持する目的のために紫外線吸収剤を0.01?3.0重量%添加することが好ましい。また、共押出成形時に前記アクリル樹脂、前記核水添MS樹脂、または前記変性ポリカーボネート樹脂の熱劣化を防止するため、酸化防止剤と着色防止剤を添加することもできる。酸化防止剤は前記アクリル樹脂、前記核水添MS樹脂、または前記変性ポリカーボネート樹脂に対して0.01?3重量%添加するのが良い。着色防止剤は0.01?3重量%添加することができる。紫外線吸収剤、酸化防止剤及び着色防止剤の合計の添加量が0.1重量%未満の場合、十分な耐候性を示さない。また、これらの合計の添加量5%を超えて添加してもさらなる耐候性向上は期待できないばかりでなく、これら添加剤がブリードアウトを起こし、白化の原因になったり、密着性や衝撃強度の低下を招くこともある。
【0049】
(ハードコート皮膜)
本発明によるTN液晶表示装置の前面板1は、図1に示すように、その最表面又は最表裏面(図1では最表裏面のみ)に、ハードコート皮膜30がさらに形成されることが好ましい。ここで、ハードコート皮膜30とは、耐擦傷性の向上を目的として、主に前記硬質樹脂層20上に形成される皮膜のことであり、例えば、熱硬化あるいは活性エネルギー線によって塗料を硬化させてなる皮膜等が用いられる。なお、前記TN液晶表示装置前面板の最表面とは、前記TN液晶表示装置前面板の最もユーザー側にある面のことをいい、最裏面とは、最も液晶パネルに近い側の面のことをいう。
【0050】
活性エネルギー線を用いて硬化させる塗料の一例としては、1官能あるいは多官能のアクリレートモノマーあるいはオリゴマーなどの単独あるいは複数からなる樹脂組成物に、硬化触媒として光重合開始剤が加えられた樹脂組成物が挙げられる。また、熱硬化型樹脂塗料としてはポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などのものが挙げられる。この様な樹脂組成物は、アクリル樹脂用ハードコート剤或いはポリカーボネート樹脂用ハードコート剤として市販されているものもあり、ハードコート塗工設備との適正を加味し、適宜選択すれば良い。
その中でも、高い耐擦傷性を実現できる点と生産性の高さから、前記ハードコート皮膜30は、紫外線硬化型のアクリル系樹脂組成物からなることが好ましい。
【0051】
さらに、前記塗料中に、必要に応じて、有機溶剤の他、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの各種安定剤やレベリング剤、消泡剤、増粘剤、帯電防止剤、防曇剤などの界面活性剤等を適宜添加することもできる。
【0052】
また、前記ハードコート皮膜30は、その厚さが1?20μmの範囲であることが好ましい。厚さが1μm未満の場合、十分に耐擦傷性を発揮できないおそれがあり、一方、厚さが20μmを超えると、TN液晶表示装置の前面板1の2次加工性や耐衝撃性が大きく低下するおそれがあるためである。
【0053】
さらに、前記ハードコート皮膜30を施した液晶前面板の皮膜面は、所望の耐擦傷性を確保する点から、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が少なくとも3H以上であることが好ましい。
【0054】
(TN液晶表示装置の前面板)
本発明によるTN液晶表示装置の前面板1は、上述の構成を備え、液晶シャッターメガネを装着して3D画像を視認するTN液晶ディスプレイにも好適に用いられる。なお、前記TN液晶とは、TWISTED NEMATICという表示方式を採用した液晶のことをいう。
【0055】
(液晶ディスプレイ装置)
本発明によるTN液晶表示装置の前面板1と、白色LED光源を用いた液晶バックライトとを備える液晶ディスプレイ装置を得ることができる。この液晶ディスプレイ装置は、ポリカーボネート樹脂シート10のレターデーションに起因した平行ニコルによる干渉色及びその色ムラの発生を有効に抑制することができる。液晶パネル等のその他の構成については特に限定はなく、市販のものを採用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例)
本発明にかかる実施例として、図1に示すように、ポリカーボネート樹脂シート10(膜厚:0.96mm)の片面に、硬質樹脂層20(膜厚:60μm)を有し、最外面に、ハードコート皮膜30(膜厚:10μm)が形成されたTN液晶表示装置の前面板1を作製した。
なお、前記ポリカーボネート樹脂シート10を構成するポリカーボネート樹脂は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのホモポリマーである三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社販売のポリカーボネート樹脂、ユーピロンE-2000Nである。また、前記硬質樹脂層20を構成する樹脂は、クラレ株式会社製メタクリル酸メチル樹脂パラペットHR-1000Lであり、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が2Hであった。さらに、前記ハードコート皮膜30を構成する樹脂組成物は、ダイセルサイテック株式会社製EB-220:6官能ウレタンアクリレートオリゴマーが90部、大阪有機化学工業株式会社製#260:1,9-ノナンジオールジアクリレートが10部、及びチバ・スペシャリティケミカルズ株式会社製1-184:1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトンが3部からなる紫外線硬化型のアクリル系樹脂組成物であり、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が3Hであった。
また、前記ポリカーボネート樹脂シート10のレターデーションは、5250?6300nmである。さらに、バックライトの光源としては、シングルチップ方式の白色LED光源を用いた。
【0058】
(比較例1)
前記ポリカーボネート樹脂シート10のレターデーションが2520?2800nmの範囲であること、及び、液晶バックライトの光源として、CCFL光源を用いたこと以外は、実施例と同様の条件によって、比較例1のTN液晶表示装置の前面板を作製した。
【0059】
(比較例2)
前記ポリカーボネート樹脂シート10のレターデーションが2520?2800nmの範囲であること以外は、実施例と同様の条件によって、比較例2のTN液晶表示装置の前面板を作製した。
【0060】
(比較例3)
液晶バックライトの光源として、CCFL光源を用いたこと以外は、実施例と同様の条件によって、比較例3のTN液晶表示装置の前面板を作製した。
【0061】
<評価>
実施例及び比較例で作製したTN液晶表示装置の前面板について、以下の評価を行った。
実際のTN液晶パネルに装着した後、液晶ディスプレイ装置(NVIDIA社製の3Dディスプレイ)に組み込んだ。そして、3D用TN液晶シャッターメガネ(GEFORCE 3D VISION Model:P701)を装着した状態で、液晶ディスプレイに表示された映像の観察を行った。
3D用TN液晶シャッターメガネを通して液晶画面の映像を観察した結果について、図6に示す。図6(a)が実施例のTN液晶表示装置の前面板及び液晶バックライトの光源にLEDを用いた状態、図6(b)が比較例1のTN液晶表示装置の前面板及び液晶バックライトの光源にCCFLを用いた状態、図6(c)が比較例2のTN液晶表示装置の前面板及び液晶バックライトの光源にLEDを用いた状態、図6(d)が比較例3のTN液晶表示装置の前面板及び液晶バックライトの光源にCCFLを用いた状態である。
【0062】
図6(a)?(d)からわかるように、実施例のTN液晶表示装置の前面板を用いたときの映像(図6(a))は、比較例1?3のTN液晶表示装置の前面板を用いたときの映像(図6(b)?(d))に比べて、大幅に色付き及び色ムラの発生が改善されていることがわかった。また、実施例及び比較例1?3は、製造時の引き取り速度以外は同様の条件によって作製されており、実施例にかかるTN液晶表示装置の前面板については、耐衝撃性、耐熱性及び透明性についても、従来のものと同様に良好であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、優れた耐衝撃性、耐熱性及び透明性を有しつつ、偏光メガネや3D用液晶シャッターメガネを通して液晶パネルを観察した場合であっても、ポリカーボネート樹脂シートのレターデーション及びそのムラに起因した、色付き及び色ムラを抑制できるTN液晶表示装置の前面板の提供が可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1 TN液晶表示装置の前面板
10 ポリカーボネート樹脂シート
20 硬質樹脂層
30 ハードコート皮膜
100 TN液晶パネル
200 3D用液晶シャッターメガネ
210 メガネ前側偏光板
220 ツイストネマッティック液晶層
230 メガネ後側偏光板
X 遅相軸の方向
Y 進相軸の方向
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂シートを備え、バックライト光源が、青色のLED発光によって黄色と赤色が蛍光励起されて発光するシングルチップ方式の白色LEDであるTN液晶表示装置の前面板であって、
前記ポリカーボネート樹脂シートの表面又は表裏面に、厚みが30?100μmの範囲であり、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が少なくともF以上である硬質樹脂層をさらに備え、該硬質樹脂層が、(メタ)アクリル樹脂、少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと少なくとも1種類の芳香族ビニルモノマーとの共重合体の芳香環が水素化された樹脂(以下、核水添MS樹脂と記す)、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン単位若しくは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン単位を主たる構成単位とした変性ポリカーボネート樹脂からなり、
前記ポリカーボネート樹脂シートの遅相軸又は進相軸の方向が、斜め45°の偏光が出るTN液晶パネルの縦方向と平行となるように、該TN液晶パネルに取り付けられた状態にあり、レターデーションが5000nm以上であり、
前記前面板は、下記式(1)で表される透過率TT(λ)と、前記バックライト光源の光スペクトルS(λ)と、CIE1931の等色関数(スペクトル刺激値)x(λ)、y(λ)及びz(λ)のそれぞれとの重なり積分を、波長領域:380?780nmで実施し、X、Y及びZを算出した結果得られた、色度図上のx=X/(X+Y+Z)とy=Y/(X+Y+Z)の範囲が、それぞれ、x_(MAX)-x_(MIN)≦0.04、y_(MAX)-y_(MIN)≦0.04の関係を満たす、ことを特徴とするTN液晶表示装置の前面板。
TT(λ)=COS^2(π×Re(λ)/λ)・・・(1)
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂シートを構成するポリカーボネート樹脂は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン単位を主たる構成単位とし、その粘度平均分子量が20000?30000の範囲であり、ガラス転移温度が130?160℃の範囲である請求項1記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂シートの厚みが、0.3?2mmの範囲である請求項1に記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル樹脂は、主たる構成単位がメタクリル酸メチル単位であり、ガラス転移温度が95℃以上である請求項1記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項5】
前記核水添MS樹脂は、メタクリル酸メチルとスチレンとの共重合体の芳香環が水素化された樹脂で、その共重合比率が60:40?90:10の範囲であり、芳香環の水素化率が70%以上である請求項1記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項6】
前記変性ポリカーボネート樹脂は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとの共重合体であって、その共重合比率が50:50?100:0である請求項1記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項7】
前記変性ポリカーボネート樹脂は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとの共重合体であって、その共重合比率が50:50?100:0である請求項1記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項8】
前記前面板の最表面又は最表裏面に、ハードコート皮膜をさらに備える請求項1記載のTN液晶表示装置の前面板。
【請求項9】
前記ハードコート皮膜は、紫外線硬化型のアクリル系樹脂組成物からなり、その厚さが1?20μmの範囲であり、JIS5600-5-4に準拠して測定した積層状態における鉛筆硬度が3H以上である請求項8記載のTN液晶表示装置の前面板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-21 
出願番号 特願2012-538627(P2012-538627)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02F)
P 1 651・ 536- YAA (G02F)
P 1 651・ 537- YAA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 星野 浩一
近藤 幸浩
登録日 2015-12-25 
登録番号 特許第5859449号(P5859449)
権利者 MGCフィルシート株式会社 三菱瓦斯化学株式会社
発明の名称 TN液晶表示装置の前面板  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 吉田 憲悟  
代理人 冨田 和幸  
代理人 冨田 和幸  
代理人 吉田 憲悟  
代理人 冨田 和幸  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 吉田 憲悟  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 憲司  
代理人 齋藤 恭一  

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