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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1331195 |
異議申立番号 | 異議2016-700285 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-04-07 |
確定日 | 2017-07-06 |
異議申立件数 | 7 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5862055号発明「ポリオレフィン樹脂フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5862055号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 特許第5862055号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5862055号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成28年1月8日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人土田裕介、特許異議申立人岡本敏夫、特許異議申立人一條淳、特許異議申立人上田精一、特許異議申立人山田宏基、特許異議申立人鈴木清司及び特許異議申立人ブラスケム エス. エーよりそれぞれ特許異議の申立てがされ、平成28年11月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年1月6日に意見書が提出され、同年2月13日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年4月17日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年4月25日付けで特許異議申立人土田裕介、特許異議申立人岡本敏夫、特許異議申立人一條淳、特許異議申立人上田精一、特許異議申立人山田宏基、特許異議申立人鈴木清司及び特許異議申立人ブラスケム エス. エーに対してそれぞれ本件訂正請求があった旨の通知がされ、特許異議申立人土田裕介から同年5月26日付けの意見書が、特許異議申立人岡本敏夫から同年5月24日付けの意見書が、特許異議申立人一條淳から同年5月24日付けの意見書が、特許異議申立人上田精一から同年5月18日付けの意見書が、特許異議申立人山田宏基から同年5月19日付けの意見書が、特許異議申立人鈴木清司から同年5月29日付けの意見書が、及び特許異議申立人ブラスケム エス. エーから同年5月31日付けの意見書がそれぞれ提出がされたものである。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「0.91?0.937g/cm^(3)の密度」とあるのを、「0.91?0.918g/cm^(3)の密度」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項、 訂正事項1 ア 「密度」の数値範囲をより狭い範囲に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書の段落【0080】に、「実施例3」として「メルトブレンドとした樹脂・・・密度:0.918g/cm^(3)」と記載されているから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 ウ 特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 エ 訂正前の請求項1ないし11は、請求項1の記載を、請求項2ないし11が直接・間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1ないし11は、一群の請求項である。 したがって、訂正後の請求項1ないし11は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし11について訂正を認める。 第3 本件特許発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明11」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 バイオマス由来のエチレンを含むモノマーが重合してなるバイオマス由来のポリオレフィンと、化石燃料由来のエチレンと化石燃料由来のエチレンおよび/またはα-オレフィンとを含むモノマーが重合してなる化石燃料由来のポリオレフィンと、を含んでなる樹脂組成物からなる包装製品用樹脂フィルムであって、 前記樹脂組成物が、前記バイオマス由来のエチレンを前記樹脂組成物全体に対して5質量%以上含んでなり、前記樹脂組成物が、0.91?0.918g/cm^(3)の密度を有する、包装製品用樹脂フィルム。 【請求項2】 前記樹脂組成物が、1?30g/10分のメルトフローレートを有する、請求項1に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項3】 前記樹脂組成物が、前記バイオマス由来のエチレンを、前記樹脂組成物全体に対して5?95質量%含んでなる、請求項1または2に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項4】 前記バイオマス由来のエチレンを含むモノマーが、化石燃料由来のエチレンおよび/またはα-オレフィンをさらに含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項5】 前記バイオマス由来のエチレンを含むモノマーが、バイオマス由来のα-オレフィンをさらに含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項6】 前記樹脂組成物が、5?90質量%の前記バイオマス由来のポリオレフィンと、10?95質量%の前記化石燃料由来のポリオレフィンとを含んでなる、請求項1?5のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項7】 前記α-オレフィンが、ブチレン、ヘキセン、またはオクテンである、請求項1?6のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項8】 前記ポリオレフィンが、ポリエチレンである、請求項1?7のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項9】 前記樹脂組成物が押出成形されてなる、請求項1?8のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項10】 前記押出成形が、Tダイ法またはインフレーション法により行われる、請求項9に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項11】 請求項1?10のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルムを備えた、包装製品。」 第4 取消理由(決定の予告)の概要 本件特許発明1ないし11は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び刊行物2ないし6の記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。 記 刊行物1 特開昭53-31751号公報(特許異議申立人上田精一が提出した特許異議申立書に添付された甲第3号証) 刊行物2 杉山英路ら、「地球環境に優しい『サトウキビ由来のポリエチレン』」、コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2009年8月15日、第37巻、第8号、通巻437号、第63?67頁(特許異議申立人土田裕介が提出した特許異議申立書に添付された甲第5号証) 刊行物3 「特集 自動車・複写機で採用進むバイオポリエチレンも登場」、日経バイオテク 12-20 2010、日経BP社、2010年12月20日、第3?8頁(特許異議申立人上田精一が提出した特許異議申立書に添付された甲第2号証) 刊行物4 「バイオポリエチレンの試験生産がスタート、2011年・20万t供給に変更なし」、日経バイオテク 11-22 2010、日経BP社、2010年11月22日、第17頁(特許異議申立人上田精一が提出した特許異議申立書に添付された甲第10号証) 刊行物5 特表2010-511634号公報(特許異議申立人上田精一が提出した特許異議申立書に添付された甲第8号証) 刊行物6 特表2011-506628号公報(特許異議申立人上田精一が提出した特許異議申立書に添付された甲第9号証) 第5 当審の判断 1 刊行物1に記載された発明、刊行物1に記載された事項及び刊行物2ないし6に記載された事項 (1)刊行物1に記載された発明及び刊行物1に記載された事項 ア 刊行物1に記載された発明 刊行物1の特許請求の範囲の記載から、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「チーグラー触媒を利用した重合法によって得られる密度0.920?0.945、メルトインデックス0.5以上のエチレン重合体またはエチレンを主体としたエチレンとα-オレフィン類との共重合体類と、高圧重合法によって得られるエチレン重合体との混合樹脂において、密度0.920?0.941、メルトインデックス1.0以上、破断点伸び700%以下の範囲にある混合樹脂よりなる包装フィルム。」 イ 刊行物1に記載された事項 (ア) 第1頁左下欄第15?同頁右下欄第4行 「本発明は、特に、食品包装に利用される包装フィルムに関するものであり、この種の包装フィルムとして要求される透明性、粘着性(易密接性)および良好なるカッター切断性を有するうえに、更に耐熱性を有する包装フィルムを提供することを目的としている。」 (イ) 第3頁左上欄第7?12行 「本発明で使用するチーグラー触媒を利用した重合法によって得られるエチレン系重合体と、高圧重合法によって得られるエチレン重合体との混合樹脂の密度が0.919以下になると、本発明の包装フィルムの特徴とする110℃以上の耐熱温度を有するという耐熱性が失われる」 (2)刊行物2に記載された事項 ア 「CO_(2)(炭酸ガス)の増加による地球温暖化等の問題が明確になってきた。・・・ポリエチレン原料を従来の石油系原料から再生可能なサトウキビ(バイオマス系)に置き換えることは、植物の育成時のCO_(2)吸収と燃焼時の排出が同一(カーボンニュートラル)になり、地球上のCO_(2)を増やさないので地球環境にやさしく、また石油資源利用の節約にも貢献する。」(第63頁「1.はじめに」の項) イ 「サトウキビ由来ポリエチレンの製造フローを図1に示す。サトウキビ畑より刈り取ったサトウキビを圧延ローラーで糖液を取り出し、その糖液を加熱濃縮して結晶化する粗糖分(砂糖原料)と残糖液(廃糖蜜)を遠心分離器により分離する。この廃糖蜜を適切な濃度まで水で希釈して酵母菌により発酵させエタノ-ルを作る。次にバイオエタノールを300?400℃に加熱してアルミナ等の触媒により分子内脱水反応させると高い収率でエチレンが生成される。生成物にはエチレン以外に水分、有機酸、一酸化炭素等の不純物が含まれるので必要な純度までエチレンを精製して、次の工程のポリエチレン重合プラントへ導入する。ポリエチレン重合プラントで重合触媒によりエチレンを高分子化(重合)してポリエチレンを生産する。」(第63頁「2.サトウキビ由来ポリエチレンの製造工程」の項) ウ 図1 製造フロー エ 「当社とBraskem社は共同でトリウンフォ工場内の研究開発センターで図2にある試験設備により同等性を評価した。 (1)エチレン 試験設備にバイオマス由来エタノールを導入し、出来上がったエチレンの成分分析を行った結果、従来の石油由来エチレンとの品質同等性を確認した。 (2)ポリエチレン 試験重合機に石油系エチレンとバイオマス系エチレンをそれぞれ投入し、同1条件でポリエチレン重合し、出来上がったポリマーの同等性を検討した。この結果を表1に示す。多少の数値上の差異はあるが、テスト重合機の条件設定に影響されていると考えられ、基本的にはいずれの用途グレードとも石油系、バイオマス系の品質は同等であることが確認できた。」(第63頁「3.サトウキビ由来ポリエチレンの同等性」の項) オ カ 「今回開発されたサトウキビ由来ポリエチレンは植物由来の樹脂であるが、従来から生産されてきた石油由来ポリエチレンと外観、物性が同じであり、バイオマス度(カーボンの由来比)を数値化することが重要であると考え、^(14)C(放射性炭素年代測定)による分析手法により判別を行った。図6は、Braskem社の試験プラントで試作したサトウキビ由来のHDPEを米国のベータアナリティック社においてASTMD6866^(2)) 測定法に基づいて炭素分析した結果であるが、100%バイオベースであることが確認された。」(第65頁「6.バイオマス度の判別法(^(14)Cによる分析手法)」の項) (3)刊行物3に記載された事項 「新しい汎用のバイオプラスチックも登場する。レジ袋販売で大手の福助工業は2011年から、『バイオポリエチレン』製レジ袋を販売することを、エコプロダクツ2010で明らかにした。・・・レジ袋の販売価格は、バイオポリエチレン100%なら石油由来の5割増し、25%なら1割増し程度になりそう。」(第6頁左欄) (4)刊行物4に記載された事項 「用途としては、シートとボトル容器がほぼ半々になりそう。シートは、・・・レジ袋などとしての用途が考えられる。・・・100%バイオポリエチレンで置き換えるのは、汎用品ではコスト面から難しいこともある。従って、石油系ポリエチレンの30%のみをバイオポリエチレンに置き換える・・・といった方法で、コストを抑えた製品も登場しそうだ。」(第17頁右欄) (5)刊行物5に記載された事項 「【0084】 本発明による方法によって生成したプロピレン、エチレン及びブチレンは、それらの公知の誘導体を得るために、好ましくはポリプロピレン及びそのコポリマー並びにポリエチレン及びそのコポリマーを生成するために使用することができ、再生可能な天然源からの原料及び残渣のみを使用する本発明の最も好ましい実施形態が適用される場合、その組成が、ASTM D6866-06標準による試験法で決定して、再生可能な天然源からの炭素を100%含むポリマーが得られる。他の補完的な一代替は、中でも、例えばナフサ、天然ガス、石炭、再生プラスチック及び熱電力発生設備からの燃焼ガスなどの合成ガス生成のための非天然(化石)由来の他の原料を使用することにあり、但しASTM D6866-06標準による試験法で決定して、最終生成物(オレフィン及びそれらの公知の誘導体、並びにポリエチレン及びそのコポリマー、ポリプロピレン及びそのコポリマー、並びにPVCなどのポリマー)が、再生可能な天然源からの炭素を少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%含む。」 (6)刊行物6に記載された事項 「【0001】 本発明は、少なくとも1つの再生可能な天然原料からのエチレン-ブチレンコポリマーの製造のための統合された方法に関する。より具体的には、本発明はエチレン及びコモノマーとしての1-ブチレンのコポリマーの製造のための重合において使用されるエチレンモノマーがエタノールの脱水反応によって得られる方法に関し、このエタノールは糖類の発酵によって製造され、1-ブチレンは以下の反応の少なくとも1つによって得られる:(i)糖類の発酵段階において直接生成された1-ブタノールの脱水反応、(ii)エタノールから化学的経路を経て得られる1-ブタノールの脱水反応、このエタノールは糖類の発酵によって生成される、(iii)発酵から得られたエタノールの脱水によって生成されたエチレンの二量体化反応に続くここで形成された2-ブチレン異性体の異性化反応。」 2 本件特許発明1について (1) 対比 本件特許発明1と引用発明とを対比すると、後者の「チーグラー触媒を利用した重合法によって得られる密度0.920?0.945、メルトインデックス0.5以上のエチレン重合体またはエチレンを主体をしたエチレンとα-オレフィン類との共重合体類」と前者の「バイオマス由来のエチレンを含むモノマーが重合してなるバイオマス由来のポリオレフィン」とは「エチレンを含むモノマーが重合してなるポリオレフィン」の限りで相当する。 また、後者の「高圧重合法によって得られるエチレン重合体」は前者の「化石燃料由来のエチレンと化石燃料由来のエチレンおよび/またはα-オレフィンとを含むモノマーが重合してなる化石燃料由来のポリオレフィン」に相当し、以下同様に、「混合樹脂」は「樹脂組成物」に、「包装フィルム」は「包装製品用樹脂フィルム」に相当する。 以上の点からみて、本件特許発明1と引用発明とは、 [一致点] 「エチレンを含むモノマーが重合してなるポリオレフィンと、化石燃料由来のエチレンと化石燃料由来のエチレンおよび/またはα-オレフィンとを含むモノマーが重合してなる化石燃料由来のポリオレフィンと、を含んでなる樹脂組成物からなる包装製品用樹脂フィルム。」 である点で一致し、 次の点で相違する。 [相違点] 相違点1 「エチレンを含むモノマーが重合してなるポリオレフィン」において「エチレン」が如何なる原料に由来するか及び当該原料由来の樹脂組成物全体に対する割合に関して、本件特許発明1では、「エチレン」が「バイオマス由来」であり、その割合が「樹脂組成物全体に対して5質量%以上」であるのに対して、引用発明では、エチレンが化石燃料由来である点。 相違点2 樹脂組成物の「密度」に関して、本件特許発明1では、「0.91?0.918」g/cm^(3)であるのに対して、引用発明では、「0.920?0.941」である点。 (2) 判断 ア 相違点1について (ア) 本件特許発明1の「バイオマス由来のエチレンを含むモノマーが重合してなる」は、発明の詳細な説明の「従来の化石燃料から得られるエチレンに代えて、バイオマス由来のエチレンをその原料とした」(段落【0007】)との記載から、化石燃料由来のエチレンを含むモノマーに代えて「バイオマス由来のエチレンを含むモノマー」が重合に供されることと解される。 そして、発明の詳細な説明から、化石燃料由来のエチレンを含むモノマーに代えて「バイオマス由来のエチレンを含むモノマー」が重合に供されることにより、「バイオマス由来のエチレンを用いたカーボンニュートラルなポリオレフィンを含む樹脂組成物からなる樹脂フィルムを提供することであって、従来の化石燃料から得られる原料から製造された樹脂フィルムと機械的特性等の物性面で遜色ないポリオレフィン樹脂フィルムを提供すること」(段落【0008】)との課題が解決され、「従来に比べて化石燃料の使用量を大幅に削減することができ、環境負荷を減らすことができる。また、本発明のポリオレフィン樹脂フィルムは、従来の化石燃料から得られる原料から製造されたポリオレフィン樹脂フィルムと比べて、機械的特性等の物性面で遜色がないため、従来のポリオレフィン樹脂フィルムを代替することができる」(段落【0007】)との効果が奏されると理解できる。 (イ) (ア)を前提に、上記相違点について検討する。 刊行物2ないし6の記載に照らせば、本件特許に係る出願の出願前、地球温暖化、石油資源枯渇等への問題に対処すると共に、コストにも配慮して、「エチレンを含むモノマーが重合してなるポリオレフィン」においてエチレンモノマーの一部をバイオマス由来にすること及びバイオマス由来のエチレンで置き換えること、その際の割合を「樹脂組成物全体に対して5質量%以上」とすることは、当業者に周知の事項であったということができる。 そうすると、地球温暖化、石油資源枯渇等への問題に対処すると共に、コストにも配慮して、引用発明において、「チーグラー触媒を利用した重合法によって得られる密度0.920?0.945、メルトインデックス0.5以上のエチレン重合体またはエチレンを主体としたエチレンとα-オレフィン類との共重合体類」におけるエチレンモノマーの一部をバイオマス由来にし、上記相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に推考できたものというべきである。 そして、刊行物2ないし6の記載に照らせば、本件特許発明1による効果、すなわち「従来に比べて化石燃料の使用量を大幅に削減することができ、環境負荷を減らすことができる」及び「従来の化石燃料から得られる原料から製造されたポリオレフィン樹脂フィルムと比べて、機械的特性等の物性面で遜色がないため、従来のポリオレフィン樹脂フィルムを代替することができる」との効果も、引用発明及び刊行物2ないし6の記載された事項から当業者が予測し得たものである。 イ 相違点2について 引用発明の課題の一つは、「耐熱性を有する包装フィルムを提供すること」(第5の1(1)イ(ア))であって、引用発明は、「混合樹脂の密度が0.919以下になると、本発明の包装フィルムの特徴とする110℃以上の耐熱温度を有するという耐熱性が失われる」(第5の1(1)イ(イ))というのであるから、引用発明において、混合樹脂の密度を0.919以下にすることは、引用発明の課題に反することになる。 そうすると、引用発明は、混合樹脂の密度を0.919以下にすることを排斥していると解するのが相当である。 よって、たとえ混合樹脂の密度を0.919以下にする旨を記載した他の証拠があったとしても、かかる証拠の記載事項を引用発明に適用することはできない。 ウ なお、特許異議の申立ての証拠には、いずれにも、 「エチレンを含むモノマーが重合してなるポリオレフィンと、化石燃料由来のエチレンと化石燃料由来のエチレンおよび/またはα-オレフィンとを含むモノマーが重合してなる化石燃料由来のポリオレフィンと、を含んでなる樹脂組成物からなる包装製品用樹脂フィルムであって、 樹脂組成物が、0.91?0.918g/cm^(3)の密度を有する、包装製品用樹脂フィルム。」(第5の2(1))との発明(以下、「化石燃料由来のエチレンからバイオマス由来のエチレンへの置換の容易想到性を判断する前提となる発明」という。)は記載されていない。 かかる化石燃料由来のエチレンからバイオマス由来のエチレンへの置換の容易想到性を判断する前提となる発明を認定できる甲号証が証拠として提出されていれば格別、そうでない本件においては、上記相違点1の判断のみによっては、本件特許発明1が引用発明及び刊行物2ないし6の記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。 (3) まとめ よって、本件特許発明1は、引用発明及び刊行物2ないし6の記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 3 本件特許発明2ないし11について 本件特許発明2ないし11は、請求項1の発明特定事項を含むから、上記の説示と同じ理由で引用発明及び刊行物2ないし6の記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件訂正請求による訂正後の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことができない。 また、ほかに本件訂正請求による訂正後の請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 バイオマス由来のエチレンを含むモノマーが重合してなるバイオマス由来のポリオレフィンと、化石燃料由来のエチレンと化石燃料由来のエチレンおよび/またはα-オレフィンとを含むモノマーが重合してなる化石燃料由来のポリオレフィンと、を含んでなる樹脂組成物からなる包装製品用樹脂フィルムであって、 前記樹脂組成物が、前記バイオマス由来のエチレンを前記樹脂組成物全体に対して5質量%以上含んでなり、前記樹脂組成物が、0.91?0.918g/cm^(3)の密度を有する、包装製品用樹脂フィルム。 【請求項2】 前記樹脂組成物が、1?30g/10分のメルトフローレートを有する、請求項1に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項3】 前記樹脂組成物が、前記バイオマス由来のエチレンを、前記樹脂組成物全体に対して5?95質量%含んでなる、請求項1または2に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項4】 前記バイオマス由来のエチレンを含むモノマーが、化石燃料由来のエチレンおよび/またはα-オレフィンをさらに含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項5】 前記バイオマス由来のエチレンを含むモノマーが、バイオマス由来のα-オレフィンをさらに含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項6】 前記樹脂組成物が、5?90質量%の前記バイオマス由来のポリオレフィンと、10?95質量%の前記化石燃料由来のポリオレフィンとを含んでなる、請求項1?5のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項7】 前記α-オレフィンが、ブチレン、ヘキセン、またはオクテンである、請求項1?6のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項8】 前記ポリオレフィンが、ポリエチレンである、請求項1?7のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項9】 前記樹脂組成物が押出成形されてなる、請求項1?8のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項10】 前記押出成形が、Tダイ法またはインフレーション法により行われる、請求項9に記載の包装製品用樹脂フィルム。 【請求項11】 請求項1?10のいずれか一項に記載の包装製品用樹脂フィルムを備えた、包装製品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-06-26 |
出願番号 | 特願2011-122064(P2011-122064) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C08J)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 原田 隆興、村松 宏紀 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
守安 智 小柳 健悟 |
登録日 | 2016-01-08 |
登録番号 | 特許第5862055号(P5862055) |
権利者 | 大日本印刷株式会社 |
発明の名称 | ポリオレフィン樹脂フィルム |
代理人 | 柏 延之 |
代理人 | 小島 一真 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 柏 延之 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 浅野 真理 |
代理人 | 浅野 真理 |
代理人 | 特許業務法人浅村特許事務所 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 小島 一真 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 永井 浩之 |