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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C04B 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 C04B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B |
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管理番号 | 1331200 |
異議申立番号 | 異議2016-701099 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-11-25 |
確定日 | 2017-07-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5924434号発明「クリンカ組成物、セメント組成物及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5924434号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第5924434号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5924434号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年3月5日の出願であり、平成28年4月28日にその特許権の設定登録がされたものであって、登録後の経緯は以下のとおりである。 平成28年11月25日付け:特許異議申立人 浜 俊彦による特許異議の申立て 平成29年 2月13日付け:取消理由の通知 同年 4月17日付け:訂正の請求、意見書の提出 同年 5月22日付け:特許異議申立人による意見書の提出 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 平成29年4月17日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による、一群の請求項1?3に係る訂正の内容は以下のア、イのとおりである。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1における「Mn含有量が0.05質量%未満であり、」を、「Mn含有量が0.05質量%未満、Co含有量が0.002質量%未満であり、」に訂正する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1における「C_(3)Aが5?12質量%」を、「C_(3)Aが6?10質量%」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項 ア 訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されたクリンカ組成物を、「Co含有量が0.002質量%未満」という特定事項で更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記Co含有量の限定は、本件の出願当初明細書の【0021】に記載されていた事項であるから、訂正事項1は、新たな技術的事項を導入するものではない。 また、訂正事項1は、「Co含有量が0.002質量%未満」という特定事項を直列的に付加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するものである。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項1において、「C_(3)Aが5?12質量%」であったところ、その数値範囲を限定し、「C_(3)Aが6?10質量%」とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記C_(3)Aの比率は、本件の出願当初明細書の【0018】に記載されていた事項であるから、訂正事項2は、新たな技術的事項を導入するものではない。 また、訂正事項2は、C_(3)Aの比率の数値範囲を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するものである。 ウ 一群の請求項について 訂正事項1、2に係る訂正前の請求項1を、訂正前の請求項2、3は直接又は間接的に引用していたから、訂正前の請求項1?3は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1、2に係る訂正は、当該一群の請求項ごとに請求をしたものと認められる。 (3)訂正の適否についてのむすび 以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件特許発明 上記のとおり訂正が認められるので、本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?5に係る発明(以下「本件特許発明1?5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。(下線部は訂正箇所である。) 【請求項1】 Ni含有量が20?200ppm、Li含有量が10?100ppm、Mn含有量が0.05質量%未満、Co含有量が0.002質量%未満であり、 前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)が1以上であり、 ボーグ式で算出されるC_(3)Sが55?70質量%、C_(2)Sが5?20質量%、C_(3)Aが6?10質量%、及びC_(4)AFが5?12質量%であるクリンカ組成物。 【請求項2】 請求項1に記載のクリンカ組成物と石膏とを含むセメント組成物。 【請求項3】 SO_(3)が2.5?3.5質量%、ブレーン比表面積が4000?5000cm^(2)/gである請求項2に記載のセメント組成物。 【請求項4】 クリンカ組成物において、Ni含有量が20?200ppm、Li含有量が10?100ppmで、前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)が1以上、かつ、ボーグ式で算出されるC_(3)Sが55?70質量%、C_(2)Sが5?20質量%、C_(3)Aが5?12質量%、及びC_(4)AFが5?12質量%となるように、石灰石、珪石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、汚泥、及び鉄源の少なくともいずれかと、Niを含有する廃棄物及びLiを含有する廃棄物とを配合し、粉砕する原料工程と、粉砕後の原料を焼成してクリンカ組成物を製造する焼成工程と、クリンカ組成物と石膏とを混合し粉砕を行う仕上工程を含み、 前記Niを含有する廃棄物及び前記Liを含有する廃棄物の配合量を調整することによって前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)を1以上とすることを特徴とするセメント組成物の製造方法。 【請求項5】 前記原料工程において、製造される前記クリンカ組成物1トンあたり、石灰石500?1500kg、珪石10?200kg、石炭灰0?300kg、粘土0?100kg、高炉スラグ0?100kg、建設発生土0?200kg、汚泥0?100kg、及び鉄源0?100kgと、前記Niを含有する廃棄物及び前記Liを含有する廃棄物とを配合する請求項4に記載のセメント組成物の製造方法。 (2)取消理由の概要 訂正前の請求項1、2に係る特許に対して、平成29年2月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 甲第1号証:「化学分析用セメント標準物質 211S(普通ポルトランドセメント)証明書」、[online]、2014年8月、一般社団法人セメント協会、[平成28年11月4日検索]、インターネット 甲第2号証:セメント標準物質 化学分析用211Sの化学分析報告書、三菱マテリアル株式会社セメント技術カンパニー セメント研究所、2016年11月22日(作成日) 甲第3号証:「コンクリート技士研修テキスト」、社団法人日本コンクリート工学協会、平成22年6月15日、第5ページ 甲第4号証:千葉淳治、セッコウの微量元素にみられるアソシエーション、「石膏と石灰」、石膏石灰学会、1977年11月1日、第151号、第25?31ページ 甲第1、2号証の記載から、ボーグ式で算出される下記の鉱物組成、及び下記のNi、Li、Mn含有量を有するものと認められる「化学分析用セメント標準物質 211S」(以下、「211S」と略記することがある。)が、2014年8月に公然実施されたものと認められる。 ・C_(3)S 58質量% ・C_(2)S 15質量% ・C_(3)A 11質量% ・C_(4)AF 8質量% ・Ni含有量 48ppm ・Li含有量 22ppm ・Mn含有量 0.031質量% そして、甲第3、4号証の記載から、「少量のセッコウを添加、粉砕して『化学分析用セメント標準物質 211S』となるセメントクリンカー」の、ボーグ式で算出される鉱物組成、及びNi、Li、Mn含有量は、訂正前の請求項1に係る本件特許発明で特定される範囲内であると認められる。 したがって、訂正前の請求項1、2に係る本件特許発明は、本件特許の出願前に公然実施をされた発明であって、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。 (3)当審の判断 ア 通知した取消理由に対する当審の判断 上記「少量のセッコウを添加、粉砕して『化学分析用セメント標準物質 211S』となるセメントクリンカー」(以下、「公然実施発明1」という。)と本件特許発明1とを対比すると、本件特許発明1は、クリンカ組成物の「C_(3)Aが6?10質量%」であるのに対し、公然実施発明1は、セッコウを添加、粉砕して得られる「211S」のC_(3)Aが11質量%であるものとして特定されている。 ここで、セメントクリンカを粉砕してセメントとしても、鉱物組成は一般的に変化しないから、公然実施発明1のC_(3)Aも、「211S」と同じ11質量%であるといえる。 したがって、本件特許発明1と公然実施発明1とはC_(3)Aの含有量で相違するから、本件特許発明1は、公然実施発明1ではない。 また、特許異議申立人は意見書において、新たに甲第3号証の2、甲第8号証を示し、例えば甲第3、6、8号証に化学組成や鉱物組成として記載されるとおり、C_(3)Aが6?10質量%であることは、普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメントの物性として極めてありふれたものであると主張している。 甲第3号証(再掲):「コンクリート技士研修テキスト」、社団法人日本コンクリート工学協会、平成22年6月15日、第5ページ 甲第3号証の2:「コンクリート技士研修テキスト」、社団法人日本コンクリート工学協会、平成22年6月15日、第6?7ページ 甲第6号証:高島三郎ら、「13.高強度セメントの製造に関する一実験」、セメント技術年報、社団法人セメント協会、昭和46年12月25日、第25号、第76?81ページ 甲第8号証:無機マテリアル学会、「セメント・石こう・石灰ハンドブック」、技報堂出版株式会社、1995年11月1日、第398?399ページ しかしながら、「211S」は標準物質、すなわち、その特性値が適切に確定された物質であるから、その構成を変更することには阻害要因がある。 すなわち、「少量のセッコウを添加、粉砕して『化学分析用セメント標準物質 211S』となるセメントクリンカー」である公然実施発明1の構成を変更することにも、阻害要因がある。 したがって、本件特許発明1は、公然実施発明1に基づいて、当業者が容易になし得るものではない。 そして、本件特許発明2は、本件特許発明1のクリンカ組成物に、石膏を含めてセメント組成物としたものであるから、公然実施発明1に石膏を含めてセメント組成物とした「211S」とは異なり、また、公然実施発明1に基づいて、当業者が容易になし得るものでもない。 イ 特許異議申立人の意見書における主張に対する当審の判断 特許異議申立人は意見書において、訂正により新たに特定されたCo含有量について、Co含有量をどの程度まで少なくすれば、フリーライム低減という課題を解決できるのかについて、本件特許明細書の発明の詳細な説明には実質的な開示がないから、サポート要件を満たさないと主張している。 しかしながら、本件特許明細書【0020】には、Coの存在により、フリーライムを低減させるNiの効果が抑えられたと推察されたことが記載されており、同【0021】には、Niによる効果を発揮させやすくするために、Co含有量を0.002質量%未満とすることが好ましいことも記載されている。 してみれば、実施例にCo含有量の具体的な記載がないことのみをもって、Co含有量を0.002質量%未満とする本件特許発明1がサポート要件を満たしていないということはできない。 ウ 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由に対する当審の判断 (ア)特許異議申立人は、特許異議申立書及び意見書において、本件特許発明3と「211S」とを対比すると、SO_(3)の含有量及びブレーン比表面積の点で相違するが、例えば甲第5、6号証の記載に基づいて、セメント組成物のSO_(3)量及びブレーン比表面積を適宜調整することによって、所望の初期強さを発現可能なセメント組成物を得ることは、当業者の常套手段であると主張している。 甲第5号証:Javed I.BHATTY, "Innovations in Portland Cement Manufacturing", Portland Cement Association, 2004, p.1070,1086 甲第6号証(再掲):高島三郎ら、「13.高強度セメントの製造に関する一実験」、セメント技術年報、社団法人セメント協会、昭和46年12月25日、第25号、第76?81ページ しかしながら、上記「ア」でも指摘したとおり、「211S」は標準物質であるから、その構成を変更することには阻害要因がある。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 (イ)本件特許発明4、5について、特許異議申立人は、特許異議申立書において、例えば甲第3号証には、普通ポルトランドセメントを製造するための主原料として、石灰石などの原単位が記載され、また、甲第7号証には、原料の一部としてNiを含有する廃棄物及びLiを含有する廃棄物を使用することが記載されており、本件特許発明4、5は、「211S」に、ありふれた製造方法を規定したものにすぎないと主張している。 甲第3号証(再掲):「コンクリート技士研修テキスト」、社団法人日本コンクリート工学協会、平成22年6月15日、第5ページ 甲第7号証:特開2014-125390号公報 しかしながら、甲第7号証には、Liを含有する原料として廃棄リチウム電池などが好ましいこと、及び、該リチウムイオン電池はLiの他にNiなどの金属を含んでいることが記載されるにとどまり、甲第1?7号証には、本件特許発明4の、「前記Niを含有する廃棄物及び前記Liを含有する廃棄物の配合量を調整することによって前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)を1以上とすること」について、記載も示唆もされていない。 したがって、本件特許発明4、及びそれを引用する本件特許発明5は、甲第1号証に記載された「211S」及び甲第1?7号証に記載された技術事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 Ni含有量が20?200ppm、Li含有量が10?100ppm、Mn含有量が0.05質量%未満、Co含有量が0.002質量%未満であり、 前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)が1以上であり、 ボーグ式で算出されるC_(3)Sが55?70質量%、C_(2)Sが5?20質量%、C_(3)Aが6?10質量%、及びC_(4)AFが5?12質量%であるクリンカ組成物。 【請求項2】 請求項1に記載のクリンカ組成物と石膏とを含むセメント組成物。 【請求項3】 SO_(3)が2.5?3.5質量%、ブレーン比表面積が4000?5000cm^(2)/gである請求項2に記載のセメント組成物。 【請求項4】 クリンカ組成物において、Ni含有量が20?200ppm、Li含有量が10?100ppmで、前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)が1以上、かつ、ボーグ式で算出されるC_(3)Sが55?70質量%、C_(2)Sが5?20質量%、C_(3)Aが5?12質量%、及びC_(4)AFが5?12質量%となるように、石灰石、珪石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、汚泥、及び鉄源の少なくともいずれかと、Niを含有する廃棄物及びLiを含有する廃棄物とを配合し、粉砕する原料工程と、粉砕後の原料を焼成してクリンカ組成物を製造する焼成工程と、クリンカ組成物と石膏とを混合し粉砕を行う仕上工程を含み、 前記Niを含有する廃棄物及び前記Liを含有する廃棄物の配合量を調整することによって前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)を1以上とすることを特徴とするセメント組成物の製造方法。 【請求項5】 前記原料工程において、製造される前記クリンカ組成物1トンあたり、石灰石500?1500kg、珪石10?200kg、石炭灰0?300kg、粘土0?100kg、高炉スラグ0?100kg、建設発生土0?200kg、汚泥0?100kg、及び鉄源0?100kgと、前記Niを含有する廃棄物及び前記Liを含有する廃棄物とを配合する請求項4に記載のセメント組成物の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-06-30 |
出願番号 | 特願2015-43700(P2015-43700) |
審決分類 |
P
1
651・
112-
YAA
(C04B)
P 1 651・ 851- YAA (C04B) P 1 651・ 121- YAA (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小川 武 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
永田 史泰 宮澤 尚之 |
登録日 | 2016-04-28 |
登録番号 | 特許第5924434号(P5924434) |
権利者 | 住友大阪セメント株式会社 |
発明の名称 | クリンカ組成物、セメント組成物及びその製造方法 |
代理人 | 大谷 保 |
代理人 | 大谷 保 |