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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
管理番号 1331203
異議申立番号 異議2016-700845  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-09 
確定日 2017-07-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5883645号発明「気泡吸着抑制方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5883645号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5-7〕について訂正することを認める。 特許第5883645号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。  
理由 第1 手続の経緯

特許第5883645号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成23年12月28日に特許出願され、平成28年2月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人中辻史郎及び佐藤由子それぞれにより特許異議の申立てがなされ、同年12月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年3月10日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)があり、特許異議申立人中辻史郎及び佐藤由子それぞれに期間を指定して本件訂正請求に対する意見書の提出を求めたが、いずれの特許異議申立人からも意見書が提出されなかったものである。


第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)及び(2)のとおりである(下線は訂正箇所を表す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ポリ(オキシエチレン)ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルから選ばれる1種以上のポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤」とあるのを、「ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルからなるポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に「ポリ(オキシエチレン)ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルから選ばれる1種以上のポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤」とあるのを、「ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルからなるポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)上記訂正事項1は、ポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤に関して、訂正前は「ポリ(オキシエチレン)ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルから選ばれる1種以上」のものと選択的に特定していたものを、選択肢のうち「ポリ(オキシエチレン)ソルビタン脂肪酸エステル」を含むものを削除し、「ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正事項1は、請求項1ないし4を一群の請求項として訂正することを求めるものであるところ、訂正前の請求項2ないし請求項4がそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用していることから、訂正前において請求項1ないし4は一群の請求項に該当し、特許法第120条の5第4項に規定する要件に適合するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。

(2)上記訂正事項2は、ポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤に関して、訂正前は「ポリ(オキシエチレン)ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルから選ばれる1種以上」のものと選択的に特定していたものを、選択肢のうち「ポリ(オキシエチレン)ソルビタン脂肪酸エステル」を含むものを削除し、「ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正事項2は、請求項5ないし7を一群の請求項として訂正することを求めるものであるところ、訂正前の請求項6及び請求項7がそれぞれ請求項5を直接又は間接的に引用していることから、訂正前において請求項5ないし7は一群の請求項に該当し、特許法第120条の5第4項に規定する要件に適合するものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。

3 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5-7〕について訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明

本件訂正により訂正された訂正請求項1ないし7に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)は、平成29年3月10日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】
検体中の被測定物質に対し免疫的に反応する免疫分析試薬を用いて、乾燥プラスチックセル中で抗原抗体反応を行い、得られた反応物を光学的に測定する免疫分析方法において、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルからなるポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤の存在下で反応及び/又は測定を行うことを特徴とする、セル側面への気泡吸着抑制方法。
【請求項2】
反応及び/又は測定系内の界面活性剤の濃度が0.01?0.3%である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
免疫分析方法が免疫凝集法である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
免疫凝集法がラテックス凝集法である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法に使用される免疫分析試薬であって、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルからなるポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤を含むことを特徴とする前記免疫分析試薬。
【請求項6】
免疫凝集試薬を共に含有する請求項5に記載の試薬。
【請求項7】
免疫凝集試薬がラテックス凝集試薬である請求項6に記載の試薬。

2 取消理由及び申立理由の概要

(1)訂正前の請求項1ないし7に係る特許に対して平成28年12月28日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。

ア 取消理由1
請求項5ないし7に係る発明は、「請求項1記載の方法に使用される」なる記載により、物としての「免疫分析試薬」においてどのような構造・特性が特定されるのかが不明であることから明確でない。よって、請求項5ないし7に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 取消理由2
(ア)請求項5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記エの引用文献1ないし3、5若しくは6、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である下記エの引用文献4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(イ)請求項6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記エの引用文献3、5若しくは6、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である下記エの引用文献4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(ウ)請求項7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記エの引用文献3若しくは5、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である下記エの引用文献4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 取消理由3
請求項1ないし4、6及び7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記エの引用文献1に記載された発明、及び、その出願前において周知な事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

エ 引用文献一覧
引用文献1:特開平5-273118号公報(特許異議申立人佐藤由子の甲第1号証)
引用文献2:特開平8-105895号公報(特許異議申立人佐藤由子の甲第2号証)
引用文献3:特開平7-12813号公報(特許異議申立人佐藤由子の甲第7号証)
引用文献4:国際公開第2010/021399号(特許異議申立人佐藤由子の甲第8号証)
引用文献5:特開平5-34344号公報(特許異議申立人中辻史郎の甲第4号証)
引用文献6:特開平11-108929号公報(特許異議申立人中辻史郎の甲第5号証)
引用文献7:特開2010-266462号公報(特許異議申立人佐藤由子の甲第4号証)

(2)特許異議申立人中辻史郎の主張する特許異議申立理由は、要旨次のとおりである。

ア 申立理由1
請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 申立理由2
請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証ないし甲第12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 証拠方法
甲第1号証:特開2009-145357号公報
甲第2号証:国際公開2011/125912号
甲第3号証:特開2003-149244号公報
甲第4号証:特開平5-34344号公報
甲第5号証:特開平11-108929号公報
甲第6号証:“日立自動分析装置メンテナンスの勘どころ セルの話”,インターネット<URL:http://www.hitachi-hightech.com/hfd/products/me/qanda/qanda02.html>
甲第7号証:“Immunoassay Automation A Practical Guide”,1992,p.129-135
甲第8号証:Laboratory Medicine,1986,Vol.17,No.5,1986年5月,p.291-293
甲第9号証:“日立 医用分析装置部品総覧”,p.109,114
甲第10号証:特開2007-205732号公報
甲第11号証:特開平5-34261号公報
甲第12号証:JJCLA,1996,Vol.21,No.3,p.224-228

(3)特許異議申立人佐藤由子の主張する特許異議申立理由は、要旨次のとおりである。

ア 申立理由1
請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 申立理由2
請求項1ないし7に係る発明においては、免疫分析方法の種類及びポリ(オキシエチレン)ソルビタン脂肪酸エステルの種類については特定されておらず、セルへの気泡吸着を抑制して光学的測定方法における測定精度を向上させるという課題を解決することができるか否かは不明である。
そのため、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし7に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、請求項1ないし7に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
よって、請求項1ないし7に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して、また、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 証拠方法

(ア)申立理由1に係る証拠方法
甲第1号証:特開平5-273118号公報
甲第2号証:特開平8-105895号公報
甲第3号証:国際公開2008/090922号
甲第4号証:特開2010-266462号公報
甲第5号証:特開2007-205732号公報
甲第6号証:特開平11-258241号公報
甲第7号証:特開平7-012813号公報
甲第8号証:国際公開2010/021399号

(イ)申立理由2に係る証拠方法
甲第9号証:本件特許についての出願に係る意見書
甲第10号証:特開昭61-25062号公報
甲第11号証:“総合カタログ”,第34版,和光純薬工業株式会社,平成18年2月1日,p.1641-1642

3 特許法第29条に係る取消理由及び申立理由について

(1)各引用文献の記載事項(下線は当審で付加した。)

ア 引用文献1記載の事項
引用文献1には、特に、段落【0001】、【0007】、【0008】、【0009】、【0017】、【0022】、【0024】ないし【0031】の記載から、以下の発明が記載されていると認められる。

「 アクリル樹脂から形成される反応容器(測定容器)内で抗原抗体反応を進行させ、蛍光強度を測定する分析方法において、
標準試料液に界面活性剤としてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート又はポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートを添加することにより、標準試料液の測定容器への吐出時、測定容器内壁に細かい気泡が発生しにくくし、光学的特性値測定の安定性を向上させる方法。」
(以下「引用発明1a」という。)

「 抗原抗体反応を進行させ、蛍光強度を測定する分析方法に用いる標準試料液であって、
界面活性剤としてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート又はポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートを添加した標準試料液。」
(以下「引用発明1b」という。)

イ 引用文献2の記載事項
引用文献2には、特に、段落【0001】、【0006】、【0009】、【0013】、【0015】及び【0025】の記載から、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「 酵素を標識として使用し、光学的な測定を実施する免疫測定に使用するための基質溶液であって、
非イオン性界面活性剤として、被検試料に対して0.01?0.1%(重量/重量)のTween20を含む基質溶液。」

ウ 引用文献3の記載事項
本件特許に係る発明の出願前に頒布された刊行物である引用文献3には、特に、【請求項1】、段落【0010】、【0011】、【0015】、【0019】、【0022】ないし【0025】の記載から、以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「 抗体担持ラテックス懸濁液に、界面活性剤としてTween20を溶解する緩衝液を加えた、ラテックス凝集試薬。」

エ 引用文献4の記載事項
本件特許に係る発明の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である引用文献4には、特に、段落[0028]、[0032]ないし[0035]、[請求項1]ないし[請求項5]の記載から、以下の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。

「 ラテックス凝集法を用いてシスタチンCを測定するためのシスタチンC測定試薬であって、非イオン型界面活性剤としてエマルゲンB-66又はTween80を含有するシスタチンC吸着抑制剤を含有する、シスタチンC測定試薬。」

オ 引用文献5の記載事項
本件特許に係る発明の出願前に頒布された刊行物である引用文献5には、特に、段落【0013】、【0023】及び【0025】の記載から、以下の発明(以下「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。

「 10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に3%ポリエチレングリコール6000と0.5%トウィーン20とを添加した、ラテックス凝集法に用いる第1試薬。」

カ 引用文献6の記載事項
本件特許に係る発明の出願前に頒布された刊行物である引用文献6には、特に、段落【0075】の記載から、以下の発明(以下「引用発明6」という。)が記載されていると認められる。

「 20mMトリス/塩酸(pH7.4)、20mM CaCl2 、300mM NaCl、0.05%ツイーン(登録商標)20、0.2%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.5%ポリエチレングリコール(PEG)及び0.1%NAN3の組成からなる、免疫凝集法に用いる反応緩衝液。」

(2)本件発明1について

本件発明1と引用発明1aとを対比すると、両者は、少なくとも、ポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤として、本件発明1においてはポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルを用いるのに対して、引用発明1aにおいてはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート又はポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートを用いる点(以下「相違点1」という。)において相違する。
そして、セル側面への気泡吸着を抑制するためにポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルを用いることは、いずれの甲号証においても記載も示唆もされていない。
よって、本件発明1は、いずれの甲号証にも記載されたものではなく、また、いずれの甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、当審の取消理由3、特許異議申立人中辻史郎の申立理由1及び2、並びに、特許異議申立人佐藤由子の申立理由1によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。

(3)本件発明2ないし4について

本件発明2ないし4は、請求項1を引用する発明であって、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を備えた発明であるから、上記「(2)本件発明1について」に記したのと同様の理由により、当審の取消理由3、特許異議申立人中辻史郎の申立理由1及び2、並びに、特許異議申立人佐藤由子の申立理由1によっては、本件発明2ないし4に係る特許を取り消すことはできない。

(4)本件発明5について

本件発明5と引用発明1bとを対比すると、両者は、少なくとも、ポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤が、本件発明5においてはポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルであるのに対して、引用発明1bにおいてはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート又はポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートである点(以下「相違点2」という。)において相違する。
そして、免疫分析方法におけるセル側面への気泡吸着抑制方法に使用される免疫分析試薬において、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルを用いることは、いずれの甲号証においても記載も示唆もされていない。
よって、本件発明5は、いずれの甲号証にも記載されたものではなく、また、いずれの甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、当審の取消理由2、特許異議申立人中辻史郎の申立理由1及び2、並びに、特許異議申立人佐藤由子の申立理由1によっては、本件発明5に係る特許を取り消すことはできない。

(5)本件発明6及び7について

本件発明6及び7は、請求項5を引用する発明であって、上記相違点2に係る本件発明5の発明特定事項を備えた発明であるから、上記「(4)本件発明5について」に記したのと同様の理由により、当審の取消理由2、特許異議申立人中辻史郎の申立理由1及び2、並びに、特許異議申立人佐藤由子の申立理由1によっては、本件発明6及び7に係る特許を取り消すことはできない。

4 特許法第36条に係る取消理由及び申立理由について

(1)当審の取消理由1について

特許権者は、平成29年3月10日付け意見書において、請求項5における「請求項1記載の方法に使用される免疫分析試薬であって」とは、当該請求項5のおいて特定される、「ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルからなるポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤を含む免疫分析試薬」の使用目的、すなわち用途を限定するものであって、免疫分析試薬の構造・特性を規定するものではない旨主張する。
当該主張は、請求項5の記載から把握される技術的事項と整合するものである。
よって、本件発明5が明確でないとはいえず、当審の取消理由1によっては、本件発明5ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

(2)特許異議申立人佐藤由子の申立理由2について

本件訂正により、本件発明1ないし7に係るポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルからなるものとなった。
よって、ポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤がポリ(オキシエチレン)ソルビタン脂肪酸エステルを含むものであることに基づく主張は、理由がない。
また、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0031】ないし【0045】において、界面活性剤の有無とセル側面の気泡吸着の有無との関係が確認されていることから、界面活性剤の存在によりセル側面の気泡吸着が抑制されることは、十分予測可能である。
よって、本件発明1ないし7において免疫分析方法の種類や条件が特定されていないことをもって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし7に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえないし、また、請求項1ないし7に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるともいえない。

5 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人中辻史郎及び佐藤由子それぞれの特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の被測定物質に対し免疫的に反応する免疫分析試薬を用いて、乾燥プラスチックセル中で抗原抗体反応を行い、得られた反応物を光学的に測定する免疫分析方法において、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルからなるポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤の存在下で反応及び/又は測定を行うことを特徴とする、セル側面への気泡吸着抑制方法。
【請求項2】
反応及び/又は測定系内の界面活性剤の濃度が0.01?0.3%である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
免疫分析方法が免疫凝集法である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
免疫凝集法がラテックス凝集法である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法に使用される免疫分析試薬であって、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルからなるポリオキシエチレン型非イオン系界面活性剤を含むことを特徴とする前記免疫分析試薬。
【請求項6】
免疫凝集試薬を共に含有する請求項5に記載の試薬。
【請求項7】
免疫凝集試薬がラテックス凝集試薬である請求項6に記載の試薬。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-27 
出願番号 特願2011-289826(P2011-289826)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (G01N)
P 1 651・ 537- YAA (G01N)
P 1 651・ 113- YAA (G01N)
P 1 651・ 121- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加々美 一恵  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 渡戸 正義
福島 浩司
登録日 2016-02-12 
登録番号 特許第5883645号(P5883645)
権利者 デンカ生研株式会社
発明の名称 気泡吸着抑制方法  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 村田 正樹  
代理人 山本 博人  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 村田 正樹  
代理人 山本 博人  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 高野 登志雄  
代理人 高野 登志雄  

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